説明

TiおよびTi合金層を有する金属積層膜一括エッチング液組成物

【課題】 本発明の課題は、ガラス浸食性、面内不均一性、残渣、長い処理時間などの問題点を解決した、TiまたはTi合金層を有する金属積層膜の一括エッチング液を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、少なくとも1層のTiまたはTi合金層と少なくとも1層の他の金属層からなる金属積層膜を一括にエッチングするためのエッチング液であって、フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物と、フッ素が配位可能なイオンとを含有する、前記エッチング液、該エッチング液の製造方法、ならびに、該エッチング液を用いたエッチング方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FPD(フラットパネルディスプレイ)の表示装置や太陽電池、タッチパネルの電極などに使用されるTiまたはTi合金層を有する多層膜、例えば、SiOもしくはSi基板上に存在するTiまたはTi合金層を有する多層膜の一括エッチング液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイの電極および配線材料にはAlが使用されてきたが、基板サイズの大型化に伴い、薄膜トランジスタと接続するゲート線およびデータ線が長くなるため、信号伝達遅延が問題となる。そこで、より低抵抗なCu配線の開発および実用化が近年盛んとなっており、3D液晶テレビへの応用も期待されている。
【0003】
Cuを電極および配線として使用する場合、Cuを単層で用いるのではなく、ガラス基板との密着性向上やCuの拡散をバリアすることを目的として、Ti、Mo、MoTiなどの金属を密着層、バリア層として使用する必要がある。その場合、一般にはCu/Ti、Ti/Cu/Ti、Mo/Cu/Mo、Cu/Mo、MoTi/Cu/MoTi、Cu/MoTiなどの積層膜として電極に使用することが試みられている。
【0004】
上記の電極配線にCuを用いた金属積層膜に限らず、TiまたはTi合金層を有する金属積層膜は、ELD(エレクトロルミネッセンスディスプレイ)などのFPD、太陽電池、タッチパネルなどにも用いられている。こうした金属積層膜を効率的に微細加工するための方法が、種々検討されてきた。
【0005】
従来のCu/Ti積層膜のエッチング方法としては、Cu層はドライエッチングしにくいことから、Cu/Tiの一括ウェットエッチングが主流である。Cu/Ti一括エッチング液には、Cu溶解のための酸化剤として過酸化水素やペルオキソ硫酸(過硫酸)などの過酸化物、Ti溶解のためにフッ化物を含んでいるものが既に実用化されている(特許文献1)。
【0006】
CuとTiを別々にエッチング(Cuはウェット、Tiはウェットまたはドライ)する方法もあるが、工程が2段階となり複雑になるため、一括エッチングの方が望ましい。
【0007】
しかしながら、上記のCu/Ti一括エッチング液では、液中に溶解したCuイオンが過酸化水素、過硫酸の分解を促進し、酸素を発生させることがわかっている。このため、使用時には、パネルの処理枚数に対応した消費量よりも多くの酸化剤が消費されるため、多量の補給を必要とする問題がある。また、酸素発生によりエッチング液を収納している容器中の圧力が増大するため、爆発の危険性を伴う問題もある。以上の理由により、過酸化水素、過硫酸に代わる酸化剤を用いたCu/Ti一括エッチング液が要望されている。
【0008】
過酸化物以外の酸化剤として、Cuイオン共存下でも安定なHNOが有効である。HNOを酸化剤としたエッチング液は混酸系(HPO+HNO+AcOH、HSO+HNO+AcOH)が知られており、主にAlのエッチング液などに使用されている。Cuのエッチングにおいても、HNO濃度とその他の酸の濃度を調整することで、Cuの溶解速度を最適な範囲に制御することが可能である。これにフッ化物を添加することでCu/Tiの一括エッチングが可能となる。
【0009】
無機酸化剤(Fe、Cu、Al等の多価イオン)を用いたエッチング液もあるが、Cu溶解速度が制御しにくい、S.E.(サイドエッチ)が大きく、パターンエッジ形状がシャープでなく凹凸形状になるなどの問題がある。S.E.が大きいと、金属配線の線幅が小さくなり、電気抵抗の増大につながるため問題である。また、パターンエッジ形状が悪いと、断線やショートの問題が起き、次工程の薄膜成膜におけるステップ・カバレッジが悪くなる。よって、この組成をベースとして、良好なCu/Ti一括エッチング液を見出すことは、混酸系よりも困難であると考えられる。
【0010】
このため、過酸化物以外の酸化剤を用いたCu/Ti一括エッチング液は、フッ化物と混酸系を組み合わせた混酸系ベースのものが最適と考えられる。ただし、混酸系ベースでCu/Tiを一括エッチングすると、S.E.およびパターンエッジの形状に関しては問題ないが、下地ガラスの浸食性、低い面内均一性、長い処理時間、初期液でCu層が溶解しないなどの問題があった。
【0011】
特に、エッチング液のガラス浸食性が高いことは歩留りを下げる原因となるので、これを改善することは優先されるべき課題である。ガラス浸食性を抑制するためにはフッ化物濃度を下げることが有効であるが、Tiもフッ化物によって溶解されているため、Tiの溶解速度も下がってしまう。このため、十分なTi溶解速度の維持とガラス浸食性の抑制の両立は困難であった。
【0012】
以下、主な先行技術について、本発明との相違について簡単に紹介する。
特開2005−097715号公報(特許文献2)は、Ti含有層エッチング液として、主成分にケイフッ化水素酸を含むことを特徴とし、さらに酸化剤(硝酸又は過酸化水素水)を含む組成を示している。また、Ti含有層の上にTi以外の金属(Pt、Au、Ag、Cu、Pd)によるパターンが形成されているTi含有層のエッチング方法としている。しかしながら、同文献においては、Ti含有層上部のCuなどの金属は別のエッチング液でエッチングしており、Ti含有層は、上部金属をマスクパターンとして前記エッチング液によりエッチング可能という記載にとどまっている。すなわち、Cuその他の金属をエッチングせず、Tiを選択的にエッチングする液であり、用途が異なっている。
【0013】
特開2010−114415号公報(特許文献3)は、CuまたはCu合金で構成された単一膜、および二重膜以上の積層膜のエッチング液である。Cu溶解のための酸化剤としてHNOが含まれているが、フッ化物は含んでいないので、Cu/Ti積層膜をエッチングした場合、Ti層はエッチングできないと考えられる。
米国特許第5298117号明細書(特許文献4)は、フッ素+塩化銅+塩化物でCu/Tiをエッチングするプロセスを提示している。アンダーカットやエッチング断面の形状について記載しているが、具体的なエッチング速度については触れられていない。
【0014】
韓国特許第10−0419071号公報(特許文献5)は、組成物として、過酸化水素を含まず、酸化剤として、無機塩(CuCl、Al(NO、FeCl)、無機酸、フッ素源、さらにピリジンなどを含んでいる。無機塩(金属塩)を、エッチングを行うための酸化剤として使用しているのに対し、本願のエッチング液では遊離フッ素イオンを配位させて、ガラス浸食性を抑えるために添加しており、目的が異なる。また、テーパー形状の制御とガラスへのアタックを抑制するために、ピリジンその他の含窒素有機溶剤を添加しているが、廃液処理に問題がある。
【0015】
韓国特許第10−0596468号公報(特許文献6)は、エッチング液組成としてHFとHNO+CHCOOHの混合物を示している。しかし、エッチング対象がTi/Cu/ガラスと異なり、さらに前述の特許文献5中の引用で、「テーパープロファイルが不良で、ガラス基板とシリコン層へのアタックを発生させるので、実際の工場での使用に適していない。」とされている。
このように、Cu/TiまたはCu/Ti合金層である金属積層膜の一括エッチングするに際して、十分に満足できるエッチング液は未だ開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第7008548号明細書
【特許文献2】特開2005−097715号公報
【特許文献3】特開2010−114415号公報
【特許文献4】米国特許第5298117号明細書
【特許文献5】韓国特許第10−0419071号公報
【特許文献6】韓国特許第10−0596468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の課題は、ガラス浸食性、面内不均一性、残渣、長い処理時間、初期液でのCu層の溶解性の悪さなどの従来の問題点を解決した、TiまたはTi合金層を有する金属積層膜の一括エッチング液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねる中で、上記課題を解決するのに、フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物とフッ素が配位可能なイオンとを含有するエッチング液が極めて有用であることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、以下のエッチング液、該エッチング液の製造方法および該エッチング液を用いたエッチング方法に関する。
[1] 少なくとも1層のTiまたはTi合金層と少なくとも1層の他の金属層からなる金属積層膜を一括にエッチングするためのエッチング液であって、
フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物と、
フッ素が配位可能なイオンとを含有する、前記エッチング液。
[2] 少なくとも1層の他の金属層が、Cu層またはCu合金層からなる金属積層膜である、[1]に記載のエッチング液。
[3] 金属積層膜がCu/TiまたはCu/Ti合金である[2]に記載のエッチング液。
[4] フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物が、HF、NHF、HBF、HSiF、NaF、KFからなる群から選択される1種または2種以上である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のエッチング液。
[5] フッ素が配位可能なイオンが、Al、Ti、B、Si、Zr、Fe、Mn、Sn、Moからなる群から選択される元素を含むイオンである、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のエッチング液。
[6] さらに、CuまたはCu合金をエッチングするための酸化剤を含む、[1]〜[5]のいずれか一項に記載のエッチング液。
【0020】
[7] 酸化剤が硝酸である、[6]に記載のエッチング液。
[8] さらに、HPO、HSO、AcOH、HClO、HCl、MeSOHからなる群から選択される1種または2種以上の酸を含む、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のエッチング液。
[9] さらに、ケイフッ化物イオンを含む化合物およびケイ素を含む水溶性ケイ素化合物からなる群から選択される1または2種以上の化合物を含有する、請求項[1]〜[8]のいずれか一項に記載のエッチング液。
[10] フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物とフッ素が配位可能なイオンとを混合することにより、[1]〜[9]のいずれか一項に記載のエッチング液を製造する方法。
[11] [1]〜[9]のいずれか一項に記載のエッチング液によって、TiまたはTi合金層と他の金属層からなる金属積層膜を一括にエッチングする方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、十分なTi溶解速度の維持と、ガラス浸食性抑制の両立が可能な、TiおよびTi合金層を有する金属積層膜の一括エッチング液が提供される。
【0022】
本発明のエッチング液により、ガラス基板上に形成されたCu/Ti積層膜を、ガラスを浸食することなく一括エッチングすることが可能である。また、S.E.とパターンエッジの形状も良好であり、その他の上記従来の問題点(面内均一性、残渣、長い処理時間、Cu層の溶解性)の改善も可能となる。
具体的には、エッチング液組成にAl、Ti、B、Si、Zr、Fe、Mn、Sn、Mo(好ましくはAl、Zr、Fe、B)などの金属を新たに加え、金属イオンとフッ化物イオン(F)を配位させて液中のフッ素濃度を制御することで、ガラス浸食性の抑制が可能である。さらに、組成最適化による物性制御により、面内均一性の向上、処理時間の短縮、初期液でのCu層の溶解性向上が可能となる。
【0023】
なお、本発明にかかるエッチングの作用メカニズムは、必ずしも明らかとは言えないが、フッ素を含む酸のフッ化物イオンが、フッ素が配位可能なイオンに配位することにより、エッチング液中のフッ化物イオン濃度がTiまたはTi合金をエッチングするために適度な濃度であって、ガラスまたはシリコンを浸食しない濃度となり、TiまたはTi合金が選択的にエッチングされるのものと考えられる。さらに、フッ素を含む酸またはエッチング液中の酸化剤により、銅などの積層膜を形成する層の金属も酸化され、TiおよびTi合金層を有する金属積層膜の一括エッチングがより一層進行するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例3の液によって、18秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【図2】図2は、実施例4の液によって、47秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【図3】図3は、実施例5の液によって、72秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【図4】図4は、実施例6の液によって、90秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【図5】図5は、比較例3の液によって、36秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【図6】図6は、比較例4の液によって、47秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【図7】図7は、比較例5の液によって、38秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【図8】図8は、比較例6の液によって、27秒エッチング処理したCu/Ti基板の断面観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のエッチング液がエッチングする積層膜は、ガラスまたはシリコン基板上に成膜された、TiまたはTi合金層を有する積層膜であり、例えば、ガラス基板上にスパッタリング法にて、TiまたはTi合金層をバリアメタルとして成膜し、さらにその上にCuまたはその他の金属を成膜した積層膜であり、積層膜の組成はCu/Ti、Cu/TiMo、Cu/TiFe及びCu/TiZrなどが挙げられる。
本発明のTi合金は、Tiを主成分とし、Tiおよび任意の他の金属を含んでなる合金であり、例えば、Tiを80wt%以上含み、好ましくは、Tiを90wt%以上含み、さらに好ましくは、Tiを95wt%以上含む。
また、本発明において、Cu/Tiとは、2層膜であって、表層から、Cu、Tiの順に積層されていることを表している。また、Cu/Ti合金は、2層膜であって、表層から、Cu、Ti合金の順に積層されていることを表している。
【0026】
本発明のエッチング液は混酸系をベースとしたものが望ましいが、金属溶解のための酸化剤はHNOに限らず、Cu溶解可能なら特に限定されるものではない。よって、過酸化物以外の酸化剤を用いた組成が、Cu/Ti一括エッチング液として使用可能であることを確認した。
【0027】
本発明のエッチング液に含有されるCuをエッチングするための酸化剤としては、HNO、H、Na、(NH、K、ペルオキソ一硫酸カリウム、オキソン、LD−100(Dupont社製)、金属塩(CuCl、FeCl、Cu(NO)などが挙げられる。H、Na、(NH、K、ペルオキソ一硫酸カリウムなどの過酸化物は、金属イオン共存下で分解する問題がある。また、オキソン、LD−100は同じ過酸化物でもH、Naなどよりは安定性は優れているが、アルカリ性条件下では分解しやすいため、酸化剤としては、HNOが好ましい。
HNO濃度が小さすぎるとCu溶解能が低くなり、処理可能なパネル枚数が減少する問題がある。また、HNO濃度が大きすぎるとエッチング挙動が制御しにくく、面内均一性が低下してCu残渣が発生する問題がある。このため、HNO濃度は0.174〜4.75mol/lが好ましい。
また、Cuのエッチング速度を調整するため酸として、例えば、酢酸を3.00〜7.39mol/lを含む場合には、HNO濃度は、2.75〜4.75mol/lが好ましく、酢酸3.00〜7.39mol/lに加えて、過塩素酸、硫酸、りん酸などを3.00〜4.00mol/lを含む場合には、0.174〜1.00mol/lであることが好ましく、0.3〜0.5mol/lであることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のエッチング液に含有されるフッ素を含む酸としては、HF、NHF、HBF、HSiFなどが挙げられるが、ケイ酸イオンを含むことにより、ガラス浸食の抑制により有効であるとの観点から、HSiFが好ましい。また、HSiFは、Cu溶解速度を上昇させる効果があるため、HPO、HSO、AcOH(酢酸)、HClOなどのその他の酸と同じように、初期液でCu層が溶解しない問題を改善することに有効であることからも好ましい。
フッ素を含む酸の濃度、例えばHSiF濃度に関しては、濃度が小さすぎるとTi溶解能が低くなる問題がある。濃度が大きすぎると、下記に記すようにHSiF濃度に対応して金属イオンも多量に必要となり、金属イオンの溶解度が上限を超える懸念がある。これらの理由により、HSiF濃度は0.12〜0.35mol/lが好ましく、より好ましくは0.12〜0.175mol/lである。
【0029】
本発明のエッチング液に含有される金属イオンとしては、Al、Ti、B、Si、Zr、Fe、Mn、Sn、Moなどが挙げられるが、フッ化物と配位しやすくガラス浸食性抑制に有効であるとの観点から、Al、Zr、Fe、Bが好ましく、さらに、良好なテーパープロファイルを得ることが可能であるとの観点から、Al、Zr、Bが好ましい。さらには、水溶液中における溶解性の観点から、Alが好ましい。また、Alの金属塩としては、組成中にもとから含まれるアニオンを含んだ金属塩の方が都合が良いのでAl(NOが好ましい。ここで、良好なテーパープロファイルとは、エッチングムラのないエッチングであり、エッチングされた金属の線幅のエッチング精度が高いこと、パターンエッジ形状がシャープな形状であること、また、パターンの形状がテーパーであること等を指す。パターンエッジ形状がシャープでなく凹凸形状になると、断線やショートの問題が起き、パターン形状のテーパー形状が得られないと、次工程の薄膜成膜におけるステップ・ガバレッジが悪くなる。
金属イオン濃度は、大きすぎると、液中のフッ素イオンが金属イオンとの錯形成により消費され少なくなるため、Tiが溶解できなくなる。また、小さすぎると、液中のフッ素イオンはほぼ消費されず多量に存在することになるため、ガラスが大きく浸食される。このため、金属イオン濃度は、フッ素を含む酸、例えばHSiFに対して適量が存在する。上記に記した最適なHSiF濃度、金属イオンの溶解度を考慮すると、0.058〜0.116mol/lが好ましい。
【0030】
本発明のエッチング液は、フッ素を含む酸以外に、さらにCuエッチング挙動を制御するための酸を含有してもよい。Cuエッチング挙動を制御するための酸を含有させると、水分量、粘性、pHなどを調整することによってCuエッチング速度や面内均一性などのCuエッチング挙動をさらに制御することが可能となる。このようなCuエッチング挙動を制御するための酸としては、HPO、HSO、AcOH、HClO、HCl、MeSOH(メタンスルホン酸)などが挙げられ、Tiエッチングを阻害しないとの観点から、AcOH、HClO、HClが好ましい。さらには、Cuのエッチング速度、Cuエッチング時の面内均一性を向上させるとの観点から、AcOH、HClOがより好ましい。
【0031】
金属積層膜は、半導体または絶縁体からなる基板もしくは薄膜の上に形成されているが、該基板は、ガラスもしくはシリコン、SiO基板もしくはSi基板またはSiOもしくはSiからなる薄膜、ガラスエポキシなどの樹脂を含浸させた元素としてのSiを含む基板などであれば、Tiをエッチングしつつ、かつ、Siを含む層を浸食しないという本発明の効果を得ることができる。
【0032】
本発明のエッチング液におけるフッ素を含む酸は、HF、NHF、HBFおよびHSiFが挙げられ、また、NaF、KFなど、加えることによりHFなどの酸を生じるものでもよい。
【実施例】
【0033】
<実施例1〜2、比較例1〜2>
フッ素イオンによるガラスの浸食を抑制する実施例を説明する。Ti溶解のためにHF、Cu溶解のための酸化剤としてHNO、Hを、HNOが酸化剤の場合はその他の酸としてHClO、AcOHを含んだ液、及び前記の液にフッ素イオンと錯体を形成させるための金属イオンとしてAlClを添加した液で、ガラスのE.R.(エッチレート)測定を行った。試験に使用したガラスは、ホウケイ酸ガラス(松浪硝子製)である。試験方法は、液温40℃、撹拌速度700r.p.mの条件で、10分間浸漬したガラスの浸漬前後の重量差からE.R.を算出した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果より、Cuの酸化剤の種類に限らず、フッ素イオンと錯体を形成し得るイオンの添加によって、ガラスの浸食を抑制することが確認できる。
【0036】
<実施例3〜6>
本発明によるエッチング工程の実施例を説明する。ガラス基板上に350Åの膜厚のTi、4000Åの膜厚のCuを成膜した後、レジストパターンを形成し、表2のエッチング液に液温40℃、撹拌速度700r.p.mの条件で、ジャストエッチング時間の1.5倍の時間で浸漬した。その後、水洗、乾燥後の基板について顕微鏡観察を行い、エッチング後のS.E.(サイドエッチング量)、テーパー形状、残渣について評価した。処理時間、S.E.を表2に示す。また、実施例1〜2と同様の方法で測定したガラスE.R.を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例3〜6のエッチング結果を示す写真を図1〜4に示す(実施例3:図1、実施例4:図2、実施例5:図3、実施例6:図4)。いずれの写真においてもテーパー形状は比較的良好で、ガラス浸食性の少ないエッチングパターンが確認できる。
【0039】
<比較例3〜6>
ガラス基板上に350Åの膜厚のTi、4000Åの膜厚のCuを成膜した後、レジストパターンを形成し、表3のエッチング液に液温40℃、撹拌速度700r.p.mの条件で、ジャストエッチング時間の1.5〜4.7倍の時間で浸漬した。その後、水洗、乾燥後の基板について顕微鏡観察を行い、エッチング後のS.E.(サイドエッチング量)、テーパー形状、残渣について評価した。処理時間、S.E.を表3に示す。また、実施例1〜2と同様にガラスE.R.を測定した結果も表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
比較例3〜6のエッチング結果を図5〜8に示す(比較例3:図5、比較例4:図6、比較例5:図7、比較例6:図8)。金属イオン無添加の組成であると、下地ガラスがかなり浸食されていることがわかる。比較例3〜6は、実施例3〜6から金属イオンのみを除外した組成であり、金属イオン除外によってガラス浸食性が大幅に増大していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のエッチング液は、液晶ディスプレイならびに半導体装置等の電子装置の製造工程において、配線または電極等を構成する際の金属積層膜のエッチング液として使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のTiまたはTi合金層と少なくとも1層の他の金属層からなる金属積層膜を一括にエッチングするためのエッチング液であって、
フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物と、
フッ素が配位可能なイオンとを含有する、前記エッチング液。
【請求項2】
少なくとも1層の他の金属層が、Cu層またはCu合金層からなる金属積層膜である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
金属積層膜がCu/TiまたはCu/Ti合金である請求項2に記載のエッチング液。
【請求項4】
フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物が、HF、NHF、HBF、HSiF、NaF、KFからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエッチング液。
【請求項5】
フッ素が配位可能なイオンが、Al、Ti、B、Si、Zr、Fe、Mn、Sn、Moからなる群から選択される元素を含むイオンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエッチング液。
【請求項6】
さらに、CuまたはCu合金をエッチングするための酸化剤を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエッチング液。
【請求項7】
酸化剤が硝酸である、請求項6に記載のエッチング液。
【請求項8】
さらに、HPO、HSO、AcOH、HClO、HCl、MeSOHからなる群から選択される1種または2種以上の酸を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のエッチング液。
【請求項9】
さらに、ケイフッ化物イオンを含む化合物およびケイ素を含む水溶性ケイ素化合物からなる群から選択される1または2種以上の化合物を含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載のエッチング液。
【請求項10】
フッ素を含む酸または該酸を生じさせるフッ素化合物とフッ素が配位可能なイオンとを混合することにより、請求項1〜9のいずれか一項に記載のエッチング液を製造する方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のエッチング液によって、TiまたはTi合金層と他の金属層からなる金属積層膜を一括にエッチングする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−112882(P2013−112882A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262682(P2011−262682)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】