説明

UEP可視化方法及び装置

【課題】船舶模型から発生するUEPを可視化することができるUEP可視化方法及び装置を提供する。
【解決手段】水槽13にBTB液等のpH指示薬12が満たされていて、船舶模型11をpH指示薬12に浮かべてある。船舶模型11は、実物の船舶と同材質で作られている。水中電界(UEP)の流れ20で示すように、船舶模型11のアノード(陽極)21からカソード(陰極)22に向かって水中電界が流れている。その結果、アノード(陽極)21付近では、反応が進んだ指示薬(酸性)30が検出され、カソード(陰極)22付近では、反応が進んだ指示薬(アルカリ性)31が検出される。以上の結果より、水中電界(UEP)が可視化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶模型から発生するUEP(Underwater Electric Potential)を可視化するUEP可視化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解溶液中にイオン化傾向の異なる2つの金属が存在すると、当該2つの金属間に電位差が生じ、水中電界が発生する。これを船舶について見ると、船体(例えば鋼)とプロペラ(例えば銅)とが海水中(すなわち電解溶液中)に存在するため、船体とプロペラとの間に電位差が生じ、水中電界が発生する。この電位差又は水中電界を一般にUEPという。
【0003】
イオン化傾向の大きい船体の金属は陽イオンとなって海水中に溶け出すため、船体の金属は腐食する。この腐食を防止するための対策として、流電陽極方式又は外部電源方式といったカソード(陰極)防食が従来から知られている。流電陽極方式は、船体の金属(例えば鋼)よりも卑となる金属(イオン化傾向の大きな金属、例えば亜鉛)を犠牲陽極として船体に装着することにより、船体の腐食を防止する方式である。外部電源方式は、船底に取り付けた不溶性陽極(例えば白金陽極)から強制的に電流を流し、船体電位を一定に保つことにより、船体の腐食を防止する方式である。いずれの方式でも、海水中に腐食電流又は防食電流が流れ、UEPが発生する。
【0004】
下記特許文献1は、UEPの低減を目的とし、「複数の犠牲陽極のうちの少なくとも1つの犠牲陽極に対して少なくとも1つの陰極を近接して配置してなる」UEPの低減法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−76495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
船舶から発生するUEPを低減するにあたっては、船舶付近にUEPがどのように発生しているかを把握することが重要である。しかし、目に見えないUEPを把握するのは困難である。UEPセンサによる計測は、局所的なUEPを知るには適するが、船舶付近のUEPを全体的に把握するには不向きである。そこで、本発明者は、船舶模型を用いて、その付近のUEPを全体的に把握することを目指して研究を重ねた。
【0007】
本発明はこうした背景の下でなされたものであり、その目的は、船舶模型から発生するUEPを可視化することができるUEP可視化方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、UEP可視化方法である。この方法は、pH指示薬を含む液体に船舶模型を浮かべる又は潜らせることで、前記船舶模型周辺のUEPを可視化することを特徴としている。
【0009】
第1の態様の方法において、前記pH指示薬がBTB液であるとよい。
【0010】
本発明の第2の態様は、UEP可視化装置である。この装置は、
pH指示薬を含む液体に浮かべた又は潜らせた船舶模型及びその周辺の画像を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影画像における前記pH指示薬を含む液体の色の変化から、前記船舶模型周辺のUEPを推定計算するデータ処理部と、
前記データ処理部での推定計算結果を基に前記船舶模型周辺のUEPを表示する表示部とを備える。
【0011】
第2の態様の装置において、前記pH指示薬がBTB液であるとよい。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現をシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、pH指示薬を含む液体に船舶模型を浮かべる又は潜らせるという新たな技術的思想により、船舶模型から発生するUEPを可視化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るUEP可視化方法の模式的説明図。
【図2】本発明の実施形態に係るUEP可視化装置の構成例を示す模式図。
【図3】BTB液の色とpHとの関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
まず、本実施の形態の前提となる関係式について説明する。下記式1は、中性溶液に存在するイオンを示す。下記式2は、アノード(陽極)21の金属の一例である亜鉛が溶けだす反応を示す。下記式3は、アノード(陽極)21付近での反応を示す。下記式4は、カソード(陰極)22の反応を示す。
(中性溶液) H2O → H++OH- …式1
(アノード) Zn → Zn2++2e- …式2
(アノード付近) Zn2++2OH- → Zn(OH)2 …式3
(カソード) (1/2)O2+H2O+2e- → 2OH- …式4
【0017】
溶液に含まれる水は、式1のように電離していることが知られている。溶液中に金属が存在すると式2のような化学反応が起きるため、アノード(陽極)21が溶けだし金属イオンとなる。そして、その金属イオンが中性溶液中の水酸化物イオンと結びつき、アノード(陽極)21付近では、式3のような化学反応が起きる。その結果、アノード(陽極)21付近での水酸化イオンが減少し、水素イオン濃度が高くなるために、アノード(陽極)21付近の溶液は酸性となる。
【0018】
一方、カソード(陰極)22は、金属内で電子を受け取り、式4のような化学反応が起きる。その結果、水酸化物イオンが発生し、付近の溶液の水酸化物イオン濃度が高くなるために、カソード(陰極)22付近の溶液はアルカリ性となる。すなわち、水素イオン濃度が高いと酸性溶液となり、水酸化物イオン濃度が高いとアルカリ性溶液となる。pH指示薬は溶液中のpHにより色が変化するものであり、一例としてBTB液を挙げると、図3に示すように、中性で緑5、酸性で黄6、アルカリ性で青7と色が変化する。なお、pH指示薬としては、BTB液のような、酸性及びアルカリ性の双方(pH7の前後)を変色域に含むものが好ましい。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るUEP可視化方法の模式的説明図である。本実施形態では、透明な水槽13にBTB液等のpH指示薬12が満たされていて、船舶模型11をpH指示薬12に浮かべてある。なお、船舶模型11は、実物の船舶と同材質で作られている。また、船舶模型11は、pH指示薬12に潜らせてあってもよい(潜水艦の場合)。また、図中に示すアノード(陽極)21及びカソード(陰極)22は、複数点在するうちの一つであり、実際には船舶模型11のいろいろな位置にアノード(陽極)及びカソード(陰極)が存在する。図1に水中電界(UEP)の流れ20で示すように、船舶模型11のアノード(陽極)21からカソード(陰極)22に向かって水中電界が流れている。
【0020】
その結果、アノード(陽極)21付近では、反応が進んだ指示薬(酸性)30が検出され、カソード(陰極)22付近では、反応が進んだ指示薬(アルカリ性)31が検出される。以上の結果より、水中電界(UEP)が可視化される。pHが7(中性)から離れる方向の変化が速いほど、その位置のUEPは大きいといえる。また、pHの極大点又は極小点は、アノード(陽極)又はカソード(陰極)の位置と推定することができる。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係るUEP可視化装置の構成例を示す模式図である。船舶模型11から水中電界が水中電界の流れ20のように発生しているものとする。結果、水中電界の発生要因であるアノード(陽極)21及びカソード(陰極)22付近で、pH指示薬12の色が変化し始める。そして、水槽内に設置されたカメラ41(動画撮影が可能なカメラで、例えば高速度カメラ)によりリアルタイムで得られた色彩データが信号線42を介してデータ処理部40に転送される。データ処理部40では、アノード(陽極)21及びカソード(陰極)22付近のUEPが撮影画像におけるpH指示薬の経時的な色の変化から数値化される(推定計算される)。そしてUEPは表示画面43のように表示される。その結果、UEPが3次元的に可視化可能になり船舶模型11の異種金属により点在するアノード(陽極)21及びカソード(陰極)22を検出することが出来る。
【0022】
さらに、その色彩データにより得られた水中電界(UEP)データから電流源を検出(推定計算)し、アノード(陽極)21及びカソード(陰極)22から発生している電流値を求め、電気映像法等の手法を用いて水中電界を外挿し、水中電界分布を表示する。
【0023】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0024】
11 船舶模型
12 pH指示薬
13 水槽
20 水中電界(UEP)の流れ
21 アノード(陽極)
22 カソード(陰極)
30 反応が進んだ指示薬(酸性)
31 反応が進んだ指示薬(アルカリ性)
40 データ処理部
42 信号線
43 表示画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH指示薬を含む液体に船舶模型を浮かべる又は潜らせることで、前記船舶模型周辺のUEPを可視化することを特徴とする、UEP可視化方法。
【請求項2】
前記pH指示薬がBTB液である請求項1記載のUEP可視化方法。
【請求項3】
pH指示薬を含む液体に浮かべた又は潜らせた船舶模型及びその周辺の画像を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影画像における前記pH指示薬を含む液体の色の変化から、前記船舶模型周辺のUEPを推定計算するデータ処理部と、
前記データ処理部での推定計算結果を基に前記船舶模型周辺のUEPを表示する表示部とを備える、UEP可視化装置。
【請求項4】
前記pH指示薬がBTB液である請求項3記載のUEP可視化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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