説明

UOE鋼管の製造方法

【課題】UOE鋼管の搬送時におけるタブ板の落下を確実に防ぎながら、鋼板への溶接金属の溶け込み量を減少させてUOE鋼管の歩留りを向上する。
【解決手段】素材である鋼板と略同一の材質からなるとともにルート面13の厚さが鋼管の厚さの40%以上50%以下であるタブ板11を用いて、UOE鋼管を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UOE鋼管の製造方法に関する。具体的には、本発明は、UOE鋼管を製造する際に溶接されるタブ板の歩留りを向上することができるUOE鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、UOE鋼管は、素材である鋼板にCプレス、Uプレス及びOプレスを行ってオープンパイプとし、このオープンパイプの突き合わせ部に通常はサブマージドアーク溶接を行うことにより、製造される。この際、UOE鋼管の長手方向の両端部において溶接欠陥が残存することを防止するため、いわゆるタブ板が用いられる。
【0003】
図4(a)〜図4(f)は、タブ板を用いたUOE鋼管の製造工程を模式的に示す説明図である。図4(a)に示すように、母材である鋼板1の長手方向の二つの端面の両端部にはそれぞれ、タブ板2がアーク溶接により取付けられる。そして、図4(a)におけるb−b線断面拡大図である図4(b)に示すように、この鋼板1の端部を図示しないエッジプレーナにより切削することにより、鋼板1の両面の両エッジに開先3を形成する。
【0004】
そして、プレス機4により鋼板1の両エッジの近傍を塑性変形させて鋼板1をC形状に成形するCプレス(図4(c)参照)と、鋼板1をさらに深く塑性変形させてU形状に成形するUプレス(図4(d)参照)と、鋼板1をさらに塑性変形させてO形状に成形するOプレス(図4(e)参照)とを行うことにより、図4(f)に示すオープンパイプ5とする。
【0005】
図4(f)に示すように、オープンパイプ5の長手方向の両端面に形成された開先3、3同士を突き合わせてV型開先(正しくはX型開先)を形成し、外側のV型開先を仮付け溶接した後に、オープンパイプ5の長手方向の一方の端面から他方の端面へ向けて内面及び外面から本溶接(サブマージドアーク溶接)を行う。そして、本溶接後にタブ板2を全て切断し、非破壊検査、拡管、水圧試験、非破壊試験及び面取りを行うことにより、最終製品であるUOE鋼管を製造する。
【0006】
タブ板2を装着せずに本溶接を行ってしまうと、溶接が不安定となり易い本溶接の開始部及び終了部、すなわちUOE鋼管の長手方向の両端部において溶接欠陥が生じ易いため、安定してUOE鋼管を製造することが困難になる。このため、本溶接を行う前にタブ板2を予め鋼板1の長手方向の二つの端面の両端部に装着しておくことにより、本溶接を確実に行うようにしている。
【0007】
このため、これまでにも、適正な溶接部を形成してUOE鋼管の歩留りの低下を抑制するために、タブ板を適正に取り付けるための発明が多数開示されている。
例えば、特許文献1には、タブ板を鋼板の下面方向に所定の範囲で傾斜させて取り付け、プレス成形後の本溶接時にタブ板を適正な姿勢で配置させることにより、溶接金属の流れ落ちを防止する発明が開示されている。
【0008】
特許文献2には、鋼板にタブ板を溶接する溶接線の方向の両端に、タブ板とは溶着しない材料からなる固形材を配置することにより、溶接金属の流れ落ちを防止する発明が開示されている。
【0009】
特許文献3には、タブ板を鋼板と溶接するための開先部におけるルート面の長さを、1mm以上であってタブ板の板厚の40%以下の長さとすることによって、プレス時の落下の防止及びプレス後におけるタブ板の開きを防止する発明が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献4には、オープンパイプの所定の位置にタブ板を両面から溶接により取り付ける発明が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−225898号公報
【特許文献2】特開昭59−225899号公報
【特許文献3】特開平8−332518号公報
【特許文献4】特開昭55−126397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来のいずれの発明によっても、タブ板を溶接された鋼板、オープンパイプ又はUOE鋼管は、例えば搬送ローラからなる搬送装置によって搬送される。このため、搬送方向の先端又は後端に設けられるタブ板は、搬送時に搬送ローラ等と衝突して脱落することがある。このような搬送時におけるタブ板の落下を防ぐためには、タブ板の鋼板への溶接部における溶接金属の溶け込み量を増加して接合強度を高めなければならない。
【0012】
しかし、鋼板の溶接部における溶接金属の溶け込み量を増加すると、タブ板とともに切断する鋼板の端部長さが増加するため、UOE鋼管の歩留りの低下は避けられない。特に板厚が25.4mm以上の鋼板に装着するタブ板の重量は大きく、タブ板がより落下し易いため、板厚が25.4mm以上のUOE鋼管の歩留りは特に低下し易い。
【0013】
図5は、タブ板を装着された鋼管の歩留りが低下する理由を模式的に示す説明図であり、図5(a)は本溶接時を示し、図5(b)はタブ板の切断時を示し、さらに図5(c)は面取り時を示す。
【0014】
図5におけるタブ板2は上述したように溶接欠陥が生じることを防ぐために形成されるものであって、タブ板2及びタブ板溶接部6はいずれもUOE鋼管としては不要な部分であるため、完全に除去する必要がある。しかし、このタブ板2を、溶接金属の溶け込み量であるδを含む、図5(b)に示す切断位置8で切断除去すると、図5(c)に示すようにこの切断位置8を含む切断量δで面取りを行うことになるため、この切断量δ分だけ、UOE鋼管の歩留りが悪化する。
【0015】
また、タブ板2を母材である鋼板1とは異なる材質により構成すると、本溶接により形成される溶接金属の内部にタブ板2の成分が希釈されて混入し、その一部はUOE鋼管の管端付近にも影響を及ぼす。このため、UOE鋼管の管端の本溶接に用いる溶接金属の成分は、当初の狙いとするものとは異なり性能が劣化する可能性があるため、管端を切断量δで除去する必要がある。このため、結果として母材2である鋼板1の歩留りが低下する。
【0016】
ここで、所望の長さのUOE鋼管を製造するためには、このような歩留りを考慮して、事前に余長が長い鋼板を素材として用いればよいが、これではUOE鋼管の製造コストが嵩んでしまう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、鋼板の長手方向の二つの端面の両端部にそれぞれタブ板を溶接し、次いでこの鋼板にプレスを行ってオープンパイプとし、その後に、このオープンパイプの一方の端面から他方の端面の方向へ向けて溶接を行うことによるUOE鋼管の製造方法において、タブ板が、鋼板と略同一の材質からなるとともにルート面の厚さが鋼管の厚さの40%以上50%以下であることを特徴とするUOE鋼管の製造方法である
この本発明に係るUOE鋼管の製造方法では、鋼板の厚さが25.4mm以上である場合には、一方の端面に溶接されるタブ板が両面に開先を有するとともに、他方の端面に溶接されるタブ板が片面にのみ開先を有することが望ましい。
【0018】
本発明において「略同一の材質」とは、化学組成が一致する材質のみならず、溶接時におけるタブ板からの希釈成分の混入による管端部の溶接金属の成分変化を防止して溶接品質の劣化を防止できる程度に、化学成分が類似する材質をも含むことを意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、UOE鋼管の搬送時におけるタブ板の落下を確実に防ぎながら、従来のUOE鋼管の製造工程に比較して、母材である鋼板への溶接金属の溶け込み量を減少させてUOE鋼管の歩留りを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るUOE鋼管の製造方法を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1、2は、いずれも本実施の形態で使用するタブ板11、12の開先形状を模式的に示す説明図である。
【0021】
図1に示すタブ板11は、肉厚が25.4mm以上の鋼板の、溶接方向の後端側、若しくは、肉厚が25.4mm未満又は25.4mm以上の鋼板の、溶接方向の後端側に用いるものであり、上下のどちらか片面に開先を設けたものである。すなわち、タブ板11は、片面溶接用の開先であって、厚みX1のルート面13と、角度θ1の開先角度とを有する。
【0022】
一方、タブ板12は、肉厚が25.4mm以上の鋼板の、溶接方向の前端側に用いるものであり、上下両面に開先を設けたものである。すなわち、タブ板12は、両面溶接用の開先であって、厚みX2のルート面14及びθ1の上面開先角度に加え、距離Yの下面開先深さ及びθ2の下面開先角度を有する。
【0023】
本実施の形態では、タブ板11のルート面13の厚さX1、タブ板12のルート面14の厚さX2は、いずれも、母材である鋼板の肉厚の40%以上とする。これにより、鋼管本体への溶接金属の溶け込み量を少なく抑制しながら、タブ板11、12が落下することが少ない高い接合強度の溶接を行うことができる。一方、ルート面13、14の厚さが50%を超えると、鋼管本体への溶接溶け込み量が増えるとともに溶接強度が低下する。よって、ルート面13、14の厚さは、鋼板の厚さの50%以下とする。
【0024】
また、本実施の形態では、タブ板11、12は、母材である鋼板と略同一の材質を用いる。これにより、希釈成分の混入による管端部の溶接金属の成分変化を防止でき、溶接品質の劣化を防止できるとともに、タブ板11の先端からタブ板12の後端までの範囲の溶接条件(アーク発生状況等)を一定に揃えることができるために、この範囲に含まれるオープンパイプの先端から後端までの全域の溶接品質をより一定に保つことができる。
【0025】
このように、本実施の形態では、母材である鋼板の厚さには関係なく、この鋼板と同一の材質からなるとともにルート面の厚さが鋼管の厚さの40%以上50%以下であるタブ板11を用いることにより、鋼管本体への溶接溶け込み量を少なく、かつタブ板11の落下が少ない溶接を実現できる。
【0026】
また、本実施の形態では、鋼板の厚さが25.4mm以上である場合には、この鋼板と同一の材質からなるとともにルート面の厚さが鋼管の厚さの40%以上50%以下であって、さらに、鋼板の長手方向の一方の端面に溶接されるタブ板12が両面に開先を有するとともに、他方の端面に溶接されるタブ板11が片面にのみ開先を有することが望ましい。これにより、鋼板の厚さが25.4mm以上である場合にも、鋼管本体への溶け込み量を少なく、かつタブ板11の落下が少ない低入熱の溶接を実現できる。
【0027】
この場合に、鋼板の搬送方向側の端面に装着するタブ板12のみ両面溶接を行うが、この理由は、タブ板12単体の重量が母材の板厚が25.4mm未満の場合と比較すると増加し、鋼板の搬送の進行方向の前側に位置するタブ板12は、搬送ロール等との衝突により落下する可能性が高いからである。
【0028】
次に、タブ板11、12を、母材である鋼板の長手方向の両端面に溶接する状況を示す図3を参照しながら、タブ板溶接の周辺のフローを説明する。
まず、この工程を流れる全ての鋼板を対象として、4台の溶接機15a、15b、16a、16bにより、鋼板17の前後端4ヵ所においてタブ板11、11、12、12の上面の開先の溶接を行う。鋼板17の肉厚が25.4mm以上である場合には、下流に設置された溶接機15a、15bによりタブ板12、12の下面開先の溶接も行う。
【0029】
本例では、はじめに上面開先の溶接を行った後に下流で下面開先の溶接を行うが、下面開先の溶接を先に行うようにしてもよいし、上面開先の溶接と同時に行うようにしてもよい。また、タブ板11、12の上下を逆にし、鋼板17の前後端4ヵ所において下面開先を溶接した後に鋼板17の前端のみ上面開先の溶接を行うようにしてもよい。
【0030】
そして、タブ板11、12を溶接された鋼板17は、その後に、Cプレス、Uプレス及びOプレスを行われてオープンパイプとされ、このオープンパイプの突き合わせ部にサブマージドアーク溶接を行われることにより、UOE鋼管の搬送時におけるタブ板の落下を確実に防ぎながら、従来のUOE鋼管の製造工程に比較して、母材である鋼板への溶接金属の溶け込み量を減少させて、UOE鋼管を高い歩留りで製造することができる。
【実施例】
【0031】
本発明を、実施例を参照しながら、さらに具体的に説明する。
図1及び図2に示すタブ板11、12を母材である鋼板の所定の位置に溶接し、ルート面厚みX1、X2及び鋼板前端面における両面溶接の有無が、鋼板への溶け込み量と搬送時のタブ板落下率とに及ぼす影響について調べた。
【0032】
この際、比較例10(表1には記載せず)を除く全ての例ではタブ板11、12の材質は鋼板の材質(C:0.06%(組成に関する「%」は「質量%」を意味する)、Si:0.10%、Mn:1.60%、P:0.010%、S:0.001%、炭素当量Ceq:0.39%)と同じとし、比較例10ではタブ板11、12の材質を(C:0.13%、Si:0.20%、Mn:0.80%、P:0.010%、S:0.003%、炭素当量Ceq:0.29%)とするとともに鋼板の材質を(C:0.06%、Si:0.10%、Mn:1.60%、P:0.010%、S:0.001%、炭素当量Ceq:0.39%)とすることによりタブ板11、12の材質を鋼板の材質と異ならせた。比較例10のタブ板開先形状および溶接条件は実施例6と同じとした。
【0033】
表1に結果をまとめて示す。なお、その他の溶接条件である溶接電流値及び溶接パス数は、所定の開先を溶着金属で充満させることができる条件を選定して、決定した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から理解されるように、実施例では25.4mm未満の同じ肉厚で比較した場合、ルート面の厚みを母材肉厚の40%以上50%以下に増加することにより、明らかに母材への溶け込み量が減少して歩留りの向上が期待される。また、搬送時のタブ板の落下も無く良好な結果である。
【0036】
一方、25.4mm以上では、比較例では25.4mm未満の場合と同様ルート面の厚みを増加することにより鋼板への溶け込み量を減少させることは出来るものの、片面のみの溶接のためタブ板落下率が低下する。これに対し、実施例では、鋼板1の前端のみ両面溶接を行うことによりタブ板の落下を防ぎながら鋼板への溶け込み量を減少させて歩留り向上が期待できることがわかった。
【0037】
さらに、本発明例ではタブ板の材質が鋼板の材質と同一であるため、UOE鋼管の先端から後端までの全域の溶接品質を一定に保てたのに対し、比較例10では、試験結果は実施例6と同じであったものの、タブ板の材質が鋼板の材質と異なるため、UOE鋼管の長手方向の両端部の溶接品質と、この両端部を除く内部の溶接品質とに差が生じ、両端部における溶接欠陥が懸念される状況にあった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施の形態で使用するタブ板の開先形状を模式的に示す説明図である。
【図2】実施の形態で使用するタブ板の開先形状を模式的に示す説明図である。
【図3】タブ板を、鋼板の長手方向の両端面に溶接する状況を示す説明図である。
【図4】図4(a)〜図4(f)は、タブ板を用いたUOE鋼管の製造工程を模式的に示す説明図である。
【図5】タブ板を装着された鋼管の歩留りが低下する理由を模式的に示す説明図であり、図5(a)は本溶接時を示し、図5(b)はタブ板の切断時を示し、さらに図5(c)は面取り時を示す。
【符号の説明】
【0039】
11、12 タブ板
13、14 ルート面
15a、15b、16a、16b 溶接機
17 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の長手方向の二つの端面の両端部にそれぞれタブ板を溶接し、次いで該鋼板にプレスを行ってオープンパイプとし、その後に、該オープンパイプの一方の端面から他方の端面の方向へ向けて溶接を行うことによるUOE鋼管の製造方法において、前記タブ板は、前記鋼板と略同一の材質からなるとともにルート面の厚さが前記鋼管の厚さの40%以上50%以下であることを特徴とするUOE鋼管の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板の厚さは25.4mm以上であって、前記一方の端面に溶接されるタブ板は両面に開先を有するとともに、前記他方の端面に溶接されるタブ板は片面にのみ開先を有する請求項1記載のUOE鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−281253(P2006−281253A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102766(P2005−102766)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】