説明

V型エンジン

【課題】エンジンハンガのハンガ取付部への負担を軽減でき、エンジンハンガの脱着を容易に行うことができるようなV型エンジンを提供する。
【解決手段】V型エンジンEの両バンク2L,2Rにそれぞれ備えられたシリンダヘッド3L,3Rに、エンジンハンガ8が上向き姿勢で取り外し可能に取り付けられるハンガ取付部9L,9Rとしての雌ねじ孔91L,91Rが1つずつ設けられている。雌ねじ孔91L,91Rは、シリンダヘッド3L,3Rの吸気マニホールド装着部45L,45Rの装着面46L,46Rから下方に向けて延びている。雌ねじ孔91L,91Rには、エンジンハンガ8をシリンダヘッド3L,3Rに装着するためのボルト10が締め付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、V型エンジンに関し、詳細には、両バンクにそれぞれ備えられたシリンダヘッドにエンジンハンガが取り外し可能に取り付けられるハンガ取付部が設けられたV型エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、V型エンジンを吊り上げる際に用いるエンジンハンガをV型エンジンの各バンクに備えられたシリンダヘッドに取り付けるエンジンハンガ取付構造として、例えば、特許文献1に記載の技術が公開されている。具体的には、第1エンジンハンガが、V型エンジンのシリンダブロックから上方に突設された台部の上面と一方のシリンダヘッドの上方に備えられた補機としての発電機の取り付けボス部の側面とにボルト締めによって取り付けられ、第2エンジンハンガが他方のシリンダヘッドの側面にボルト締めによって取り付けられたことが示されている。また、第1エンジンハンガが発電機の取付用ブラケットとしても用いられることが示されている。
【特許文献1】実開平01−96487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、エンジンハンガをV型エンジンのシリンダヘッド等の側面にボルト締めによって取り付けると、V型エンジンを吊り上げた際にエンジンハンガの取付部にかかる荷重の方向と、ボルトの締付方向とが直交するため、エンジンハンガの取付部への負担が増大し、ボルトが緩む可能性がある。そして、V型エンジンのシリンダブロックの上方に設けられた台部とシリンダヘッドの上方に設けられた補機との間に亘る大きさのエンジンハンガが必要になり、エンジンハンガの大型化を招き、エンジンハンガの脱着も難しくなる。また、そのエンジンハンガの形状を補機の位置や種類に対応させたものにする必要があり、補機の位置や種類が異なれば同じ形状のエンジンハンガを用いることができないといった問題点がある。
【0004】
本発明は、そのような問題点を鑑みてなされたものであり、エンジンハンガのハンガ取付部への負担を軽減でき、エンジンハンガの脱着を容易に行うことができるようなV型エンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、V型エンジンであって、両バンクにそれぞれ備えられたシリンダヘッドに、エンジンハンガが上向き姿勢で取り外し可能に取り付けられるハンガ取付部が少なくとも1つずつ設けられており、前記各バンクのハンガ取付部は、当該ハンガ取付部にエンジンハンガを取り付けてV型エンジンを吊り上げた状態で、当該V型エンジンをほぼ水平姿勢に保つ位置に設けられていることを特徴としている。なお、V型エンジンは、シリンダブロックの各バンクにそれぞれシリンダヘッドを取り付けた状態を最小単位とするもので、吸気装置を設置していない段階まで組み立てた状態を最大単位とするものである。そして、エンジンハンガは、例えば、最小単位のV型エンジンを適宜の製造ラインに搬送する場合や、最大単位のV型エンジンを車両に搭載したり、車両から最大単位のV型エンジンを取り外したり、V型エンジンの分解、組立を行ったりする場合等に、各シリンダヘッドのハンガ取付部に装着される。
【0006】
上記構成によれば、エンジンハンガをハンガ取付部に取り付け、エンジンハンガにリフトワイヤ等の懸架部材を引っ掛けて、V型エンジンを吊り上げると、V型エンジンの姿勢が安定するので、吊り上げた状態のV型エンジンを搬送したり、車両に搭載したり、V型エンジンの分解、組立を行ったりする作業を容易に行うことができるようになる。また、シリンダヘッドに設けられたハンガ取付部にエンジンハンガを上向き姿勢で取り付けるため、エンジンハンガのハンガ取付部への脱着が容易になる。そして、エンジンハンガの取付方向とV型エンジンの吊り上げ時にハンガ取付部にかかる荷重の方向とがほぼ平行になるので、ハンガ取付部への負担を軽減できる。また、シリンダヘッドに設けられたハンガ取付部にエンジンハンガを直接取り付けるため、V型エンジンに備えられる補機の位置や種類に関係なく、同じ形状のエンジンハンガを使用できるようになり、エンジンハンガの小型化も図れる。
【0007】
具体的には、前記シリンダヘッドには、吸気ポートの上流側に接続される吸気マニホールドが装着されるほぼ水平な装着面を有する吸気マニホールド装着部が形成されており、前記ハンガ取付部は、前記シリンダヘッドの吸気マニホールド装着部に設けられている。
【0008】
これにより、ハンガ取付部がシリンダヘッドに形成された既存の吸気マニホールド装着部に設けられているので、ハンガ取付部の専用の設置場所を確保する必要がなくなり、シリンダヘッドの設計変更を行う必要がなくなり、製造コストの増大を抑制できる。
【0009】
より具体的には、前記ハンガ取付部は、前記吸気マニホールド装着部の装着面から下方に向けて延びる雌ねじ孔となっており、前記エンジンハンガを前記シリンダヘッドに装着するためのボルトが締め付けられる。こうすると、エンジンハンガをシリンダヘッドに装着するためのボルトの締付方向と、V型エンジンの吊り上げ時にハンガ取付部にかかる荷重の方向とがほぼ平行になるので、V型エンジンの吊り上げ荷重をボルトの締付軸力で支えることができ、ハンガ取付部への負担を軽減でき、また、ボルトの緩みも防止できる。そして、ハンガ取付部としての雌ねじ孔が吸気マニホールド装着部の装着面に対し直交する方向に設けられるので、雌ねじ孔を形成する際の穿孔作業やねじ切り作業を容易に行うことができるようになり、その加工コストを低減できる。
【0010】
ここで、ハンガ取付部としての雌ねじ孔を、シリンダヘッドの隣り合う吸気ポート間に設けることが好ましい。こうすると、雌ねじ孔の深さを確保するのに有利となる。これにより、ボルトの締付軸力を増大させることができ、ハンガ取付部への負担を軽減できる。
【0011】
またここで、V型エンジンの吊り上げ時にV型エンジンの水平姿勢を保つことを容易にするには、ハンガ取付部を、V型エンジンの重心に関し、平面視で互いに点対称な位置に設けることが好ましい。
【0012】
さらに、ハンガ取付部を、気筒配列方向の互いにオフセットされた位置に設けることが好ましい。こうすると、V型エンジンの気筒配列方向の一方側が他方側に対し傾くことが抑制できる。これにより、V型エンジンの吊り上げ時、V型エンジンの揺れを抑制でき、V型エンジンへの各種作業を容易に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、V型エンジンにおいて、エンジンハンガのハンガ取付部への負担を軽減でき、エンジンハンガの脱着を容易に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0015】
以下では、本発明のエンジンハンガ取付構造を車両用V型8気筒エンジン(内燃機関)に適用した場合について説明する。
【0016】
まず、V型エンジン(以下、エンジンとも言う)の概略構成について説明する。図1は、クランク軸Cの軸心に沿った方向(気筒配列方向)から見たV型エンジンEの概略構成を示す図であって、エンジンハンガを取り外した状態のV型エンジンEを示している。
【0017】
エンジンEは、シリンダブロック1の上部にV型に突出した一対のバンク(気筒群)2L,2Rを有している。各バンク2L,2Rは、シリンダブロック1の上端部に設置されたシリンダヘッド3L,3Rと、その上端に取り付けられたヘッドカバー4L,4Rとをそれぞれ備えている。シリンダブロック1には、複数のシリンダ(気筒)5L,5R,・・・(例えば、各バンク2L,2Rに4つずつ)が所定の挟み角(例えば、90°)をもって配設されている。これらシリンダ5L,5R,・・・の内部には、ピストン51L,51R,・・・が往復移動可能に収容されている。各ピストン51L,51R,・・・は、コネクティングロッド52L,52R,・・・を介してクランク軸Cに動力伝達可能に連結されている。シリンダブロック1の下側には、クランクケース6が取り付けられている。シリンダブロック1内の下部からクランクケース6の内部に亘る空間がクランク室61となっている。また、クランクケース6のさらに下側にはオイル溜まり部となるオイルパン62が配設されている。
【0018】
この例では、シリンダヘッド3L,3Rは分割構造となっている。詳しくは、シリンダブロック1の上面に取り付けられるシリンダヘッド本体37L,37Rと、このシリンダヘッド本体37L,37Rの上側に組み付けられるカムシャフトハウジング38L,38Rとによりシリンダヘッド3L,3Rが構成されている。
【0019】
シリンダヘッド3L,3Rのシリンダヘッド本体37L,37Rには、各燃焼室76L,76Rに連通する吸気ポート31L,31Rと排気ポート33L,33Rとが形成されている。吸気ポート31L,31Rは、各シリンダ5L,5Rごとに一対ずつ形成されている。また、排気ポート33L,33Rは、各シリンダ5L,5Rごとに一対ずつ形成されている。各燃焼室76L,76Rの頂部には、点火プラグ(図示略)がそれぞれ配設されている。
【0020】
シリンダヘッド本体37L,37Rには、吸気ポート31L,31Rを開閉するための吸気バルブ32L,32R、および、排気ポート33L,33Rを開閉するための排気バルブ34L,34Rがそれぞれ組み付けられている。そして、シリンダヘッド3L,3Rのカムシャフトハウジング38L,38Rとヘッドカバー4L,4Rとの間に形成されたカム室41L,41Rに配置されたカムシャフト35L,35R,36L,36Rの回転によって、各バルブ32L,32R,34L,34Rの開閉動作が行われるようになっている。
【0021】
シリンダヘッド本体37L,37Rの各バンク2L,2Rの内側(バンク間側)の上部には、各バンク2L,2Rに対応する吸気マニホールド7L,7Rがそれぞれ装着されており、各吸気ポート31L,31Rに吸気マニホールド7L,7Rの下流端が連通している。一方、シリンダヘッド本体37L,37Rの各バンク2L,2Rの外側には、各バンク2L,2Rに対応する排気マニホールド(図示略)がそれぞれ取り付けられており、各排気ポート33L,33Rに排気マニホールドの上流端が連通している。
【0022】
シリンダヘッド本体37L,37Rの吸気ポート31L,31Rには、ポート噴射インジェクタ(ポート噴射燃料噴射弁)75L,75Rがそれぞれ設けられている。ポート噴射インジェクタ75Lは、シリンダ5Lごとの一対の吸気ポート31Lに対しそれぞれ1つずつ設けられている。ポート噴射インジェクタ75Rについても同様である。ポート噴射インジェクタ75L,75Rからの燃料噴射時にあっては、このポート噴射インジェクタ75L,75Rから噴射された燃料が吸気マニホールド7L,7R内に導入された空気と混合されて混合気となり、その混合気が吸気バルブ32L,32Rの開弁にともなって燃焼室76L,76Rに導入されることになる。また、この例では、シリンダヘッド本体37L,37Rに筒内直噴インジェクタ(筒内直噴燃料噴射弁)78L,78Rがそれぞれ設けられている。筒内直噴インジェクタ78L,78Rからの燃料噴射時にあっては、燃焼室76L,76Rへ燃料が直接噴射されるようになっている。
【0023】
なお、ポート噴射インジェクタ75L,75Rおよび筒内直噴インジェクタ78L,78Rの燃料噴射形態の一例として、エンジンEの低中負荷時には、両インジェクタ75L,75R,78L,78Rからの燃料噴射を行って均質な混合気を生成し、燃費の改善及び低エミッション化を図るようにする。また、エンジンEの高負荷時には、筒内直噴インジェクタ78L,78Rのみからの燃料噴射を行って吸気冷却効果による充填効率の向上およびノッキングの抑制を図るようにしている。ただし、これらインジェクタ75L,75R,78L,78Rの燃料噴射形態としてはこれに限るものではない。
【0024】
次に、上述の構成のエンジンEにおけるエンジンハンガの取付構造について説明する。エンジンハンガ8は、エンジンEを吊り上げる際、ボルト10の締め付けによってシリンダヘッド(この例では、シリンダヘッド本体37L,37R)に1つずつ上向き姿勢で取り付けられる。エンジンハンガ8は、図3に示すように、その上側にリフトワイヤ等の懸架部材を引っ掛けるためのフック部81と、その下側に縦長の円筒状の取付部82とを有する棒状の部材である。取付部82には、エンジンハンガ8をシリンダヘッドに固定するためのボルト10が挿通される。
【0025】
ここでまず、エンジンハンガ8が装着されるシリンダヘッド本体37L,37Rについて、図1、図2を用いて説明する。図2は、シリンダヘッドカバー4L,4R、カムシャフトハウジング38L,38R、ポート噴射インジェクタ75L,75R、筒内直噴インジェクタ78L,78R等を取り付けていない状態のエンジンEを上方から見た図である。各シリンダヘッド本体37L,37Rの構成はほぼ同様であるので、ここでは一方のバンク2Lのシリンダヘッド本体37Lについて代表して説明することとし、他方のバンク2Rのシリンダヘッド本体37Rについては異なる点だけ説明する。
【0026】
シリンダヘッド本体37Lには、吸気バルブ32Lの開閉作動をガイドする吸気バルブガイド42Lと、排気バルブ34Lの開閉作動をガイドする排気バルブガイド(図示略)とが設けられている。吸気バルブガイド42L内および排気バルブガイド内には、吸気バルブ32Lのバルブステムおよび排気バルブ34Lのバルブステムがそれぞれ摺動可能な状態で挿入される。また、シリンダヘッド本体37Lには、ポート噴射インジェクタ75Lが差し込まれる支持部43Lと筒内直噴インジェクタ78Lが差し込まれる支持部44Lがそれぞれ形成されている。
【0027】
さらに、シリンダヘッド本体37Lには、上述したように、シリンダ5Lごとに一対の吸気ポート31Lと一対の排気ポート33Lが設けられている。シリンダ5Lごとの一対の吸気ポート31Lは、二股形状に形成されている。具体的には、一対の吸気ポート31Lの上流側(吸気マニホールド7L側)の部分は共通の通路になっているが、途中で分岐されており、下流側(燃焼室76L側)の部分は別々の通路になっている。シリンダ5Lごとの一対の排気ポート33Lも同様に二股形状になっている。吸気ポート31Lは、各バンク2L,2Rの内側の上部に設けられる吸気マニホールド7Lに連通するように、ほぼ上方に向けて延びている。各吸気ポート31Lの上流側の部分が、各バンク2L,2Rの内側に向けて張り出すように形成された張り出し部となっている。そして、この張り出し部が、吸気ポート31Lの上流側に接続される吸気マニホールド7Lが装着される吸気マニホールド装着部45Lとなっている。一方、排気ポート33Lは、各バンク2L,2Rの外側に設けられる排気マニホールドに連通するように、斜め下方に向けて延びている。
【0028】
シリンダヘッド本体37Lの吸気マニホールド装着部45Lの上面は、吸気マニホールド7Lの装着面46Lとなっており、装着面46Lは、ほぼ水平に形成されている。装着面46Lは、各吸気ポート31Rに共通して設けられている。装着面46Lは、カムシャフトハウジング38Rが装着される装着面47Lに対し135度の角度で交差するように設けられている。装着面46Lには、各吸気ポート31Rの上流端が開口している。
【0029】
シリンダヘッド本体37Lには、エンジンハンガ8が上向き姿勢で取り外し可能に取り付けられるハンガ取付部9Lが設けられている。この例では、ハンガ取付部9Lがシリンダヘッド本体37Lの吸気マニホールド装着部45Lに1つ設けられている。そして、ハンガ取付部9Lは、吸気マニホールド装着部45Lの装着面46Lに開口する雌ねじ孔91Lとなっている。雌ねじ孔91Lは、装着面46Lからほぼ下方、つまり、装着面46Lに対し直交する方向に延びるように形成されている。この雌ねじ孔91Lにボルト10がねじ込まれて、エンジンハンガ8がハンガ取付部9Lに装着されるようになっている。
【0030】
雌ねじ孔91Lは、シリンダヘッド本体37Lの気筒配列方向に隣り合う吸気ポート31L間に設けられている。この例では、上述したように、吸気ポート31Lがシリンダ5Lごとに一対ずつ設けられるため、雌ねじ孔91Lは、隣り合うシリンダ5Lの吸気ポート31L間に設けられている。そして、雌ねじ孔91Lは、エンジンEの前端側(気筒配列方向の一端側で、タイミングチェーンまたはタイミングベルトが設置される側)に設けられている。具体的には、エンジンEの前端側から1番目のシリンダ5Lの吸気ポート31Lと、2番目のシリンダ5Lの吸気ポート31Lとの中間位置に雌ねじ孔91Lが設けられている。
【0031】
これに対し、シリンダヘッド本体37Rでは、雌ねじ孔91Rの位置がシリンダヘッド本体37Lの雌ねじ孔91Lの位置とは異なっている。雌ねじ孔91Rは、エンジンEの後端側(気筒配列方向の他端側)に設けられている。具体的には、エンジンEの前端側から3番目のシリンダ5Rの吸気ポート31Rと、4番目のシリンダ5Rの吸気ポート31Rとの中間位置に設けられている。
【0032】
エンジンEにおいて、雌ねじ孔91L,91Rは次のような位置関係にある。雌ねじ孔91L,91Rは、気筒配列方向の互いにオフセットされた位置に設けられている。また、エンジンEにおいて、雌ねじ孔91L,91Rは、エンジンEの重心Gに関し、平面視で互いに点対称な位置に設けられている。つまり、平面視で、雌ねじ孔91L,91R間を結ぶ直線上の中間位置にエンジンEの重心Gが位置している。この場合、エンジンEの重心Gは、エンジンEの気筒配列方向のほぼ中央位置、かつ、左右の各バンク2L,2R間のほぼ中央位置となっている。ここでは、エンジンEを次のような意味で用いている。エンジンEは、シリンダブロック1の各バンク2L,2Rにそれぞれシリンダヘッド3L,3R(この場合、シリンダヘッド本体37L,37R)を取り付けた組立体を最小単位とし(図4)、吸気マニホールド7L,7R等の吸気装置を設置していない段階まで組み立てた組立体を最大単位としている(図5)。
【0033】
そして、エンジンハンガ8は、例えば、図4に示す最小単位の組立体からなるエンジンEを適宜の製造ラインに搬送する場合や、図5に示す最大単位の組立体からなるエンジンEを車両に搭載したり、車両からエンジンEを取り外したり、エンジンEの分解、組立作業を行ったりする場合等に、シリンダヘッド3L,3Rに装着される。この際、エンジンハンガ8の取付部82にボルト10を挿通し、そのボルト10をシリンダヘッド本体37L,37Rの雌ねじ孔91L,91Rに締め付けて、エンジンハンガ8をエンジンEに固定する。このとき、ボルト10は、その頭部がエンジンハンガ8の取付部82の上面に突き当たるまで締め付けられる。そして、フック部81が互いに逆向きになるように、エンジンハンガ8がシリンダヘッド本体37L,37Rにそれぞれ取り付けられる。図4、図5では、シリンダヘッド本体37Lに取り付けられたエンジンハンガ8のフック部81が手前側に向いており、シリンダヘッド本体37Rに取り付けられたエンジンハンガ8のフック部81がその反対側を向いている。
【0034】
エンジンハンガ8の取付後、エンジンハンガ8のフック部81にリフトワイヤW等の懸架部材を引っ掛けて、エンジンEを吊り上げる。例えば、ディーラー等において、エンジンEの分解、組立作業を行う場合、エンジンEにエンジンハンガ8を取り付け、エンジンEを吊り上げた状態で、ヘッドカバー4L,4R、カムシャフトハウジング38L,38R、エンジンEの動弁機構や、クランクケース6、オイルパン62等を組み外したり、再度組み付けたりする分解、組立作業を行う。
【0035】
上述のようなエンジンEにおけるエンジンハンガの取付構造によれば、次のような作用効果が得られる。
【0036】
エンジンハンガ8をハンガ取付部9L,9Rに取り付け、エンジンハンガ8のフック部81にリフトワイヤW等を引っ掛けて、エンジンEを吊り上げると、エンジンEの姿勢が安定するので、吊り上げた状態のエンジンEを搬送したり、車両に搭載したり、分解、組立を行ったりする作業を容易に行うことができるようになる。そして、エンジンハンガ8をエンジンEに上向き姿勢(ほぼ鉛直方向に沿った起立姿勢)で装着できるので、エンジンハンガ8のハンガ取付部9L,9Rへの脱着が容易になり、エンジンハンガ8のフック部81にリフトワイヤW等を引っ掛ける作業も容易に行うことができるようになる。また、シリンダヘッド本体37L,37Rに設けられたハンガ取付部9L,9Rにエンジンハンガ8を直接取り付けるため、エンジンEに備えられる補機の位置や種類に関係なく、同じ形状のエンジンハンガ8を使用できるようになり、エンジンハンガ8の小型化も図れ、その分コストを低減できる。
【0037】
ハンガ取付部9L,9Rがシリンダヘッド本体37L,37Rに形成された既存の吸気マニホールド装着部45L,45Rに設けられているので、ハンガ取付部9L,9Rの専用の設置場所を確保する必要がなくなり、シリンダヘッド本体37L,37Rの設計変更を行う必要がなくなり、製造コストの増大を抑制できる。
【0038】
エンジンハンガ8をシリンダヘッド本体37L,37Rに装着するためのボルト10の締付方向と、エンジンEの吊り上げ時にハンガ取付部9L,9Rにかかる荷重の方向とがほぼ平行になるので、エンジンEの吊り上げ荷重をボルト10の締付軸力で支えることができ、ハンガ取付部9L,9Rへの負担を軽減でき、また、ボルト10の緩みも防止できる。そして、雌ねじ孔91L,91Rが吸気マニホールド装着部45L,45Rの装着面46L,46Rに対し直交する方向に設けられるので、雌ねじ孔91L,91Rを形成する際の穿孔作業やねじ切り作業を容易に行うことができるようになり、その加工コストを低減できる。
【0039】
雌ねじ孔91L,91Rが、シリンダヘッド本体37L,37Rにおいて隣り合う吸気ポート間に設けられているので、雌ねじ孔91L,91Rの深さを確保するのに有利となる。しかも、吸気ポートがほぼ上方に向けて延びており、その形状が縦長形状となるため、雌ねじ孔91L,91Rの深さを確保するのに一層有利となる。これにより、ボルト10の締付軸力を増大させることができ、ハンガ取付部9L,9Rへの負担を軽減できる。
【0040】
雌ねじ孔91L,91Rが、エンジンEの重心Gに関し、平面視で互いに点対称な位置に設けられているので、エンジンEを水平姿勢の状態でバランスよく吊り上げることができる。しかも、雌ねじ孔91L,91Rが、気筒配列方向の互いにオフセットされた位置に設けられているので、エンジンEの前端側および後端側のうち一方が他方に対し傾くことが抑制できる。これにより、エンジンEの吊り上げ時、エンジンEの揺れを抑制でき、エンジンEへの各種作業を容易に行うことができるようになる。
【0041】
以上では、エンジンEの前端側に雌ねじ孔91Lが設けられ、エンジンEの後端側に雌ねじ孔91Rが設けられている場合について説明したが、雌ねじ孔91L,91Rの位置が逆であってもよい。つまり、エンジンEの前端側に雌ねじ孔91Rを設け、エンジンEの後端側に雌ねじ孔91Lを設ける構成としてもよい。
【0042】
また、エンジンEの各バンク2L,2Rのシリンダヘッド本体37L,37Rに雌ねじ孔91L,91Rが1ずつ設けられた場合について説明したが、雌ねじ孔91L,91Rは同数ずつであればよく、例えば、雌ねじ孔91L,91Rを2つずつ設ける構成としてもよい。
【0043】
また、シリンダヘッド本体37L,37Rにポート噴射インジェクタ75L,75Rおよび筒内直噴インジェクタ78L,78Rが設けられた場合について説明したが、いずれか一方のインジェクタだけをシリンダヘッド本体37L,37Rに設ける構成としてもよい。
【0044】
また、シリンダヘッド3L,3Rがシリンダヘッド本体37L,37Rとカムシャフトハウジング38L,38Rとの分割構造となっている場合について説明したが、シリンダヘッドを分割構造とせずに、カムシャフトハウジングを備えない構造としてもよい。
【0045】
また、エンジンEがV8エンジンである場合について説明したが、V型エンジンの気筒数は特に限定されず、例えば、V6エンジンであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係るV型エンジンEをクランク軸Cの軸心に沿った方向から見た図である。
【図2】シリンダヘッドカバー、カムシャフトハウジング等を取り付けていない状態のV型エンジンEを上方から見た図である。
【図3】エンジンハンガおよびボルトを示す図である。
【図4】最小単位の組立体となるV型エンジンEを示す図である。
【図5】最大単位の組立体となるV型エンジンEを示す図である。
【符号の説明】
【0047】
E V型エンジン
1 シリンダブロック
2L,2R バンク
3L,3R シリンダヘッド
10 ボルト
31L,31R 吸気ポート
37L,37R シリンダヘッド本体
45L,45R 吸気マニホールド装着部
46L,46R 装着面
8 エンジンハンガ
81 フック部
82 取付部
9L,9R ハンガ取付部
91L,91R 雌ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両バンクにそれぞれ備えられたシリンダヘッドに、エンジンハンガが上向き姿勢で取り外し可能に取り付けられるハンガ取付部が少なくとも1つずつ設けられており、
前記各バンクのハンガ取付部は、当該ハンガ取付部にエンジンハンガを取り付けてV型エンジンを吊り上げた状態で、当該V型エンジンをほぼ水平姿勢に保つ位置に設けられていることを特徴とするV型エンジン。
【請求項2】
前記シリンダヘッドには、吸気ポートの上流側に接続される吸気マニホールドが装着されるほぼ水平な装着面を有する吸気マニホールド装着部が形成されており、
前記ハンガ取付部は、前記シリンダヘッドの吸気マニホールド装着部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のV型エンジン。
【請求項3】
前記ハンガ取付部は、前記吸気マニホールド装着部の装着面から下方に向けて延びる雌ねじ孔となっており、
前記雌ねじ孔には、前記エンジンハンガを前記シリンダヘッドに装着するためのボルトが締め付けられることを特徴とする請求項2に記載のV型エンジン。
【請求項4】
前記雌ねじ孔が、シリンダヘッドの隣り合う吸気ポート間に設けられていることを特徴とする請求項3に記載のV型エンジン。
【請求項5】
前記ハンガ取付部は、当該V型エンジンの重心に関し、平面視で互いに点対称な位置に設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のV型エンジン。
【請求項6】
前記ハンガ取付部は、気筒配列方向の互いにオフセットされた位置に設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のV型エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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