説明

VOCガス分解・無害化装置

【課題】大気圧プラズマ法と光触媒法とを併用するVOCガス分解・無害化装置において、接ガス部表面に担持させた酸化チタン光触媒の効力を長時間持続させることにより内部汚染の問題を解決し、当該装置の長期にわたるメンテナンスフリー運転を可能にすること。
【解決手段】プラズマ発生用電極の表面をチタン合金(純チタンを含む)により形成し、該チタン合金を酸化して酸化チタンを生成させる。その結果、電極部材の表面から内部に向かって傾斜組成的にTiO2の分布が生じるので、容易に剥落・損耗することがなくなり、表面損傷の可能性が極めて低くなる。かくして大気圧プラズマ法によるVOCガス分解・無害化装置における内部汚染の問題が解決され、長期にわたるメンテナンスフリーの運転が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds; 以下、VOCと略記。)に属するガスを分解し、無害化する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ホルムアルデヒド等の常温で揮発し易いVOCガスが多くの産業、医療等の現場で用いられている。これらは有用で便利な物質である反面、毒性があり人が吸い込むと深刻な精神・健康上の被害をもたらす。したがってこれらのガスを適切に処理して人体への暴露を回避すること、及び外部環境へ放出することのないよう確実に回収し、無害化することが要求される。
【0003】
従来、VOCガスを始めとする廃ガス処理のため、触媒、オゾン、オゾン+紫外線、電子線又はプラズマを用いて分解・無害化する方法・装置が多数開発されてきた。また、直接燃焼法、活性炭吸着法、液体への溶解、吸収法等も行われ、これらに関連する特許出願や学会発表等も多数行われている。
【特許文献1】特開2000−325734号公報
【特許文献2】特開2000−210374号公報
【特許文献3】特開2003−340242号公報
【非特許文献1】林 佑二 応用物理 72.4 (2003) p448
【0004】
これらの手法のうち、大気圧下でのプラズマを利用したVOCガスの分解無害化処理は効率の良さと高価な真空装置を必要としない経済性とが相俟って、多く用いられてきた。上記特許文献1はプラズマの単独利用例、文献2は光触媒の単独利用例、また文献3はプラズマと光触媒の併用例である。
【0005】
図1に、プラズマを利用するVOCガス分解無害化処理装置の公知のプロセスフローの一例を掲げる。
このプロセスフローに示す処理装置は、前部フィルタ、ガス捕集部、放電プラズマ室、オゾン分解室、後処理室からなる。先ずガス捕集部を問題とするガス源に接近させ、被処理ガスを吸引・捕集する。捕集されたガスは前部フィルタを通り、随伴する塵埃粒子が分離され、次いで、ガスはプラズマ室に流入する。
【0006】
プラズマ室内にはガスの流れを遮る位置に正負の棒状電極が配設されている。そのプラス電極の表面は、アーク/グロー放電の発生を防止するため、耐熱ガラス等の誘電体で覆われている。マイナス電極はプラス電極を挟むように配置され、周囲のガスに直接接触する。電極間には数千ボルトの高周波電圧が印加され、電極間容量の充放電効果により、電極間に微細な放電柱を短いパルス状に繰返し発生する。これにより、電極周囲に存在するガスが大気圧下で持続的にプラズマ化される。
【0007】
プラズマは、電離によって生じた正イオンと電子を含む電気的に中性な高温の混合気体である。温度が上昇すると物質は固体から液体に,液体から気体になり、気体の温度がさらに上昇すると気体の分子は解離して原子になり,さらに温度が上昇すると原子核のまわりの電子が原子から離れて正イオンと電子に分かれる。この現象は電離と呼ばれ、電離によって生じた荷電粒子を含む気体がプラズマである。プラズマ化されたガスは極めて高いエネルギーレベルにあって発光を伴う。ガス含まれる有機成分は分解・無害化され、同時に無臭化される。
【0008】
プラズマ室から出たガスは後処理室へ入り、ガス中にわずかに残存する有機成分が活性炭によって吸着・トラップされる。また、プラズマ室で発生したオゾンは、オゾン分解室内で専用の触媒により分解、無害化、無臭化され、外部へ放出される。
【0009】
大気圧プラズマ法は、真空グロー放電法に較べて処理速度が大きく、放電空間中のガスを約100倍の速度で分解することが可能である。しかも真空グロー放電法で必要とされる気密構造が不要であるから、装置コストを安く抑えられるという利点がある。
【0010】
しかしながら大気圧プラズマ法には、ガス流路や処理室の内壁に蒸気圧の低い反応副生成物等が付着して性能が低下するという問題点がある。真空グロー放電法に比較してガス流量が格段に多いこともあって、このような内部汚染が深刻である。
【0011】
内部汚染が生じると、(1) これが新たな汚染源となってガス中に再放出される、(2) 活性炭の吸着能力が著しく低下する、(3) 放電電極の表面の性質と電極空間インピーダンスが変化して放電の安定性が損なわれ、甚だしい場合は放電不能に陥る。したがって、このような不具合を防止するためには、内部解放・洗浄、部品の取外し・交換といったメンテナンスが不可欠であるが、そのために装置の長期連続運転が不可能になり、稼働率低下を余儀なくされる。
【0012】
上記の問題点を解決するために、従来から、予め装置内部の接ガス部表面に酸化チタンを担持させ、酸化チタンの光触媒作用により汚染物質を分解除去して、接ガス部表面を清浄に維持するという手段が講じられてきた。
【0013】
しかしながら上記の清浄化手段には、接ガス部表面に担持させた酸化チタンの剥落・損耗により、その効力が時間と共に低下するという更なる問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、大気圧プラズマ法と光触媒法とを併用するVOCガス分解・無害化装置において、接ガス部表面に担持させた酸化チタン光触媒の効力を長時間持続させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題は、プラズマ発生用電極の表面をチタン合金(純チタンを含む)により形成し、該チタン合金を酸化して酸化チタンを生成させ、その剥落・損耗を防止することにより解決される(請求項1)。
【0016】
プラズマ発生用電極のうちプラス電極は周囲を耐熱ガラスで覆われるので、その表面に酸化チタンを生成させることはできない。そこで、被処理ガスに対して露出しているマイナス電極の表面を、本発明に従って処理することにする。
【発明の効果】
【0017】
すなわち、マイナス電極の表面をチタン合金で形成し、該表面を酸化処理することにより、部材表層をTiO2化するのである。その結果、電極部材の表面から内部に向かって傾斜組成的にTiO2の分布が生じるので、容易に剥落・損耗することがなく、表面損傷の可能性が極めて低くなる。かくして大気圧プラズマ法によるVOCガス分解・無害化装置における内部汚染の問題が解決され、長期にわたるメンテナンスフリーの運転が可能になる。
【実施例】
【0018】
以下に、添付図面を用いて本発明に係るVOCガス分解・無害化装置の一実施例について説明する。図2は本実施例に係る装置の構成を示す概念図である。
【0019】
図の上部に位置する前部フィルター11と吸引ファン12がガス捕集部1を構成し、捕集されたガスはプラズマ室2へ送られる。ガス捕集部1内部の接ガス部表面に酸化チタン光触媒を含む液体を散布・加熱・乾燥して焼付けると共に、近くに紫外線発光ダイオードを配置して所要の光照射を確保する。
【0020】
プラズマ室2にはプラズマ発生電極21、23があり、数kVの高周波電圧が印加される。このうちのプラス電極21の周囲は絶縁体22で覆われる(図3(A)、(B)参照)。絶縁体22で覆う理由は、絶縁体の充放電効果を利用して、アーク/グロー放電を回避しつつ、マイナス電極23との間で微細な放電柱を短いパルス状に繰返し発生させるためである。この放電により周囲のVOCガスがプラズマ化され、同時にプラズマ光が発生する。このプラズマ光により、プラズマ室2内部の酸化チタン光触媒が活性化される。
【0021】
プラス電極21の材質には黄銅等が、マイナス電極23の材質にはチタン又はチタン合金が用いられる。マイナス電極23の材質としてチタン又はチタン合金を用いる理由は、その表面を酸化させて酸化チタンを生成するためである。
【0022】
プラズマ室2においてVOCガスは無害な炭酸ガスや水に転換され、拡散板を通ってオゾン分解室3へ入り、オゾン触媒層31へ導かれる。オゾン触媒層31では、プラズマ室2で発生したオゾンやラジカルが専用触媒で分解され、無臭・無害な空気に還元される。
【0023】
オゾン触媒層31は、高さ約1mm、ピッチ約2mmのアルミニウム製の波板を多数積層したハニカム状積層体からなり(図4参照)、本例のものは縦×横が共に240mm、厚さ20mmである(東洋紡績(株)製、商品名:CBOフィルター)。アルミニウム波板の表面には、二酸化マンガンと活性炭を練り合わせたオゾン分解触媒が担持されている。被処理ガスは波板の波の間を通って触媒と接触し、含まれるオゾン等が分解され、無臭・無害化される。
【0024】
最後に、後処理室4においてガス中にわずかに残存する有機成分が光触媒を担持させた活性炭41によって吸着・トラップされ、かつ分解される。図5は後処理室4の構造の一例を示す概念図である。後処理室4はパンチングメタルで円筒状に形成され、内部に光触媒をまぶした活性炭(光活性炭)の粒が詰められている。光活性炭の活性化のため外部からUVランプ42で紫外線を照射する。
【0025】
本実施例に係る装置では、プラズマ室2以外の接ガス部の汚染物質を分解除去するために、上記のように所要箇所に光触媒を付着させ、これに紫外線を照射して活性化する。この点は請求項2に記す通りである。
【0026】
図6は、チタン製プラズマ電極(酸化チタン改質)と、黄銅製プラズマ電極を対比した、本実施例による装置の累積運転時間とVOCガス分解率の推移を示すグラフである。被処理ガスは20vol%のトルエンを含む空気、流量は500slm(標準状態の毎分リッター流量)である。
【0027】
図6において、黄銅製プラズマ電極による分解率は当初60%付近であるが、累積運転時間が40時間を過ぎる頃から低下して、100時間に近づくと10〜15%になるのに対して、チタン製プラズマ電極(酸化チタン改質)は100時間近くになっても、終始55%程度の安定した分解率を示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本装置のプロセス・フロー例である。
【図2】本装置の全体像を示す概念図である。
【図3】プラズマ発生電極の構造を示す平面図(A)と断面図(B)である。
【図4】後処理室の構造を示す概念図である。
【図5】オゾン分解室の構造を示す概念図である。
【図6】本装置の累積運転時間とVOCガス分解率の推移を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 ガス捕集部
11 前部フィルター
12 吸引ファン
2 プラズマ室
21 プラス電極
22 絶縁体
23 マイナス電極
3 オゾン分解室
31 オゾン触媒層
4 後処理室
41 活性炭層
42 UVランプ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧プラズマと酸化チタン光触媒を利用してVOCガスを分解・無害化処理する装置であって、プラズマ発生用電極の表面をチタン合金により形成し、該チタン合金を酸化することによりプラズマ発生用電極の表面を酸化チタンで覆うことを特徴とする前記装置。
【請求項2】
前記装置内部のプラズマ発生用電極以外の接ガス部表面に酸化チタンを付着・担持させると共に、装置内部の必要箇所に該酸化チタンに光を照射する光源を配置することを特徴とする請求項1に記載の装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−86944(P2008−86944A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272620(P2006−272620)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(506335363)
【Fターム(参考)】