説明

VSB変調装置及びVSB変調波生成方法

【課題】アナログフィルタを使用せずにベースバンド信号のVSB変調が可能であり、回路の縮小、低価格化が可能なVSB変調装置及びVSB変調波生成方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るVSB変調装置は、周波数軸上にシンボル速度fsのシンボルデータを乗せたベースバンド信号を、デジタル処理部10でI軸データ信号及びQ軸データ信号に変換する。そして、通常のナイキストフィルタの周波数特性をfs/4だけ周波数シフトし、かつ、その通過帯域幅をfs/2とした周波数特性を有する帯域制限フィルタ20に、このI軸データ信号及びQ軸データ信号を通過させることでVSB変調波相当の信号を生成し、直交変調部30で直交変調することでVSB変調波を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばデジタルテレビジョン放送等に用いられ、VSB(Vestigial Side Band:残留側波帯)波形を生成するVSB変調装置及びVSB変調波生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のVSB変調装置は、入力されたベースバンド信号を、デジタル処理部でI軸データ信号及びQ軸データ信号に変換して処理を施し、帯域制限フィルタで、I軸データ信号及びQ軸データ信号それぞれの周波数帯域の帯域制限を行う。そして、この帯域制限フィルタから出力されるI軸データ信号及びQ軸データ信号を、直交変調部でIF(Intermediated Frequency:中間周波数)帯の搬送波を用いて直交変調して両側波帯変調波とし、UHF(Ultra High Frequency:極超短波)帯アップコンバータでIF帯からUHF帯に周波数変換した後、アナログフィルタでその変調波の一部を削除することでVSB変調波に整形している。
【0003】
ところで、上記VSB変調装置では、回路規模の縮小及び低価格化が強く望まれている。しかし、正確なVSB変調波を整形するに当たり、アナログフィルタへの要求性能が厳しいため、VSB変調装置におけるアナログフィルタの搭載は、回路規模の縮小及び低価格化を図る上での大きな制約となっていた。また、複数チャンネルのベースバンド信号を送信する場合、チャンネル毎に専用のアナログフィルタを用意する必要があった。
【0004】
なお、2進デジタル信号をベースバンド整形フィルタに提供し、ベースバンド整形フィルタにおいてその信号をサンプリングして演算を行い、2進デジタル信号を実部と虚部とを持つベースバンド信号に変換することにより、アナログフィルタの使用を回避してデジタル信号をVSB変調する例もある(例えば、特許文献1参照)。また、入力される映像信号を振幅変調信号及び位相変調信号に変換し、位相変調信号に応じて搬送波を位相変調し、振幅変調信号に応じて位相変調された搬送波を振幅変調することで、アナログフィルタを用いることなく、VSB変調波を得るようにする例もある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−270945号公報
【特許文献2】特開平6−217210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記各例では、アナログフィルタを不要にすることで回路規模の縮小及び低価格化が可能になるが、VSB変調波を生成するために、処理が複雑となる。この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、複雑な処理とならず精度良くVSB変調波を生成することが可能であり、しかも回路規模の縮小及び低価格化が可能なVSB変調装置及びVSB変調波生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、I軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分から成り、シンボル速度fsのシンボルデータを乗せたベースバンド信号をVSB(Vestigial Side Band)変調して出力するVSB変調装置において、スペクトラムをその中心から前記シンボル速度fsより小さい周波数分だけシフトさせ、かつ、当該スペクトラムの通過帯域を前記シンボル速度fsより小さい周波数で帯域制限した帯域通過特性を備え、前記ベースバンド信号を前記特性で通過させることで、当該ベースバンド信号のI軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分それぞれに対応するVSB変調波相当の信号を得る帯域制限フィルタと、この帯域制限フィルタで得られた、前記I軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号と前記Q軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号とを直交変調する直交変調部とを具備する。
【0007】
上記構成によるVSB変調装置では、帯域制限フィルタに、周波数応答のスペクトラムをその中心からシンボル速度fsより小さい周波数分だけシフトし、かつ、スペクトラムの通過帯域をシンボル速度fsより小さい周波数で帯域制限した帯域通過特性を持たせるようにし、この帯域通過特性によりベースバンド信号からI軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号を生成することで、既知のアナログフィルタの機能の少なくとも一部を実現するようにしている。以後、直交変調部では、I軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号を直交変調するだけでよい。これにより、VSB変調波の生成にアナログフィルタを使用する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0008】
以上詳述したように本発明によれば、アナログフィルタが不要となる分、VSB変調装置の小型化、低価格化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るVSB変調装置の機能構成を示すブロック図である。図1において、周波数軸上にシンボル速度fsのシンボルデータを乗せたベースバンド信号は、デジタル処理部10でI軸データ信号及びQ軸データ信号に変換され、帯域制限フィルタ20で帯域制限される。このとき、この帯域制限フィルタ20の周波数応答のスペクトラムは、その中心からfs/4だけシフトし、通過帯域幅をfs/2に狭めたものとなる。I軸データ信号及びQ軸データ信号は、この帯域制限フィルタ20を通過することで、I軸データ信号及びQ軸データ信号それぞれに対応するVSB変調波相当の信号となり、直交変調部30でそれぞれがUHF帯の搬送波で直交変調されることで、UHF帯のVSB変調波となり出力される。
【0011】
また、帯域制限フィルタ20は、複素フィルタ21を備え、この複素フィルタ21の通過帯域幅をfs/2相当の帯域幅に狭めるようにしている。
【0012】
次に、本実施形態におけるVSB変調装置の帯域制限フィルタ20の周波数応答及びインパルス応答について、ATSC(ATSC:Advanced Television Systems Committee)方式を例に詳細に説明する。図2は、通常のナイキストフィルタの周波数特性を示す概念図である。また、図3は、本発明に係るVSB変調装置の帯域制限フィルタ20の周波数特性を示す概念図である。
【0013】
まず、通常のナイキストフィルタの周波数応答N(f)は次式で表される。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、fは周波数、fsはシンボル速度、αはロールオフ率である。このナイキストフィルタの周波数特性は図2に示される。
【0016】
この周波数特性を複素フィルタにより、fs/2だけ周波数シフトさせたものがATSC方式の帯域制限フィルタ20の周波数特性となる。このとき、この複素フィルタの帯域幅はfsである。したがって、ATSC方式の帯域制限フィルタ20の周波数応答G(f)は次式で表せる。
【0017】
【数2】

【0018】
一方、ルートナイキストフィルタの場合、帯域制限フィルタ20の周波数応答は次式の通りとなる。
【0019】
【数3】

【0020】
したがって、帯域制限フィルタ20の周波数応答は次式で表せる。
【0021】
【数4】

【0022】
これを逆フーリエ変換したものが帯域制限フィルタ20のインパルス応答であり、次式で表される。
【0023】
【数5】

【0024】
ただし、ATSC方式で用いられるシンボル速度fs´は、ここで用いられているシンボル速度fsの半分となるため(fs´=fs/2)、次式に定義しなおす。
【0025】
【数6】

【0026】
これにより、本実施形態におけるATSC方式の帯域制限フィルタ20の周波数特性は図3に示されるように得られる。
【0027】
次に、従来のVSB変調装置の信号処理の一例と、本実施形態におけるVSB変調装置の信号処理との相違を示す。図4は従来のVSB変調装置の信号処理の一例を示し、図5は本発明の一実施形態に係るVSB変調装置の信号処理を示す。
【0028】
図4において、ベースバンド信号は、デジタル処理部10でI軸データ信号とQ軸データ信号とに変換される。I軸データ信号及びQ軸データ信号それぞれは、通常のナイキストフィルタと同様の周波数特性を有する帯域制限フィルタ40で帯域制限される。帯域制限されたI軸データ信号及びQ軸データ信号は、直交変調部30でIF帯の搬送波で直交変調され、両側波帯変調波としてUHF帯アップコンバータ50に出力される。両側波帯変調波は、UHF帯アップコンバータ50でIF帯からUHF帯に周波数変換され、アナログフィルタ60で、その一部を削除されることでVSB変調波に整形されて出力される。
【0029】
一方、図5では、ベースバンド信号は、デジタル処理部10でI軸データ信号とQ軸データ信号とに変換される。I軸データ信号及びQ軸データ信号それぞれは、帯域制限フィルタ20で、通常のナイキストフィルタの周波数応答スペクトラムをfs/4だけ周波数シフトし、かつ、通過帯域幅をfs/2相当の帯域幅に狭めた周波数特性により帯域制限される。帯域制限されたI軸データ信号及びQ軸データ信号は、直交変調部30でUHF帯の搬送波で直交変調され、UHF帯のVSB変調波として出力される。
【0030】
以上のように、上記一実施形態において、帯域制限フィルタ20は、通常のナイキストフィルタの周波数特性をfs/4だけ周波数シフトし、かつ、その通過帯域幅をfs/2とした周波数特性を有している。VSB変調装置は、デジタル処理部10でI軸データ信号及びQ軸データ信号に変換されたベースバンド信号を、上記周波数特性を有する帯域制限フィルタ20に通過させることでI軸データ信号及びQ軸データ信号に対応するVSB変調波相当の信号を生成する。そして、直交変調部30で直交変調することでVSB変調波を生成する。このとき、帯域制限フィルタ20の周波数特性により、I軸データ信号及びQ軸データ信号に対応するVSB変調波相当の信号を生成することができるため、従来、回路規模、装置価格の面で大きな制約となっていたアナログフィルタを使用しなくてもVSB変調波を生成することが可能となる。また、帯域制限フィルタ20における周波数特性の周波数シフト量及び、帯域幅を変化させることで、VSB変調波を生成することが可能であるため、複雑な処理は必要ない。
【0031】
したがって、VSB変調装置におけるアナログフィルタが不要になるため、VSB変調装置の小型化、低価格化が可能となる。また、複数チャンネルのベースバンド信号を送信する場合に、チャンネル毎に専用のアナログフィルタを用意する必要がなくなるため、より低価格となることが望まれる。
【0032】
なお、上記実施形態では、ベースバンド信号を、デジタル処理部10でI軸データ信号とQ軸データ信号とに分割する例について説明したが、帯域制限フィルタ20内でベースバンド信号からI軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分をそれぞれ抽出し、これらI軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分から上記VSB変調波相当の信号を得る場合でも同様に実施可能である。
【0033】
また、上記実施形態では、帯域制限フィルタ20において、スペクトラムをその中心からfs/4だけ高域側にシフトする例について説明したが、このスペクトラムのシフトは、高域側へのfs/4のシフトに限らず、スペクトラムを中心からシンボル速度fsより小さい周波数で高域側又は低域側に周波数シフトする場合でも同様に実施可能である。
【0034】
また、上記実施形態では、帯域制限フィルタ20において、通過帯域幅をfs/2に狭める例について説明したが、帯域幅はfs/2に限らず、シンボル速度fsより小さい帯域幅でも同様に実施可能である。
【0035】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、デジタルテレビジョン放送システム以外の他の通信系のシステムであっても同様に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るVSB変調装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】通常のナイキストフィルタの周波数特性を示す概念図。
【図3】上記一実施形態の帯域制限フィルタの周波数特性を示す概念図。
【図4】従来のVSB変調装置の各構成による信号処理の一例を示す概念図。
【図5】上記一実施形態のVSB変調装置の各構成による信号処理を示す概念図。
【符号の説明】
【0037】
10…デジタル処理部、20,40…帯域制限フィルタ、21…複素フィルタ、30…直交変調部、50…UHF帯アップコンバータ、60…アナログフィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
I軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分から成り、シンボル速度fsのシンボルデータを乗せたベースバンド信号をVSB(Vestigial Side Band)変調して出力するVSB変調装置において、
ベースバンド信号のI軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分それぞれを前記シンボル速度fsより小さい周波数分だけシフトさせ、かつ、通過帯域が前記シンボル速度fsより小さい周波数で帯域制限した帯域制限フィルタを通過させて直交変調部でVSB変調することを特徴とするVSB変調装置。
【請求項2】
前記直交変調部は、前記帯域制限フィルタで得られた信号それぞれに対し周波数変換処理を実行することを特徴とする請求項1記載のVSB変調装置。
【請求項3】
前記直交変調部は、前記帯域制限フィルタで得られた信号それぞれを無線周波数帯に直接変調することを特徴とする請求項2記載のVSB変調装置。
【請求項4】
前記帯域制限フィルタは、周波数応答のスペクトラムをその中心からfs/4シフトさせ、かつ、当該スペクトラムの通過帯域幅をfs/2に帯域制限した帯域通過特性を備えることを特徴とする請求項1に記載のVSB変調装置。
【請求項5】
I軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分から成り、シンボル速度fsのシンボルデータを乗せたベースバンド信号をVSB(Vestigial Side Band)変調して出力するVSB変調装置に用いられるVSB変調波生成方法おいて、
周波数応答のスペクトラムをその中心から前記シンボル速度fsより小さい周波数分だけシフトさせ、かつ、当該スペクトラムの通過帯域を前記シンボル速度fsより小さい周波数で帯域制限した帯域通過特性で前記ベースバンド信号を通過させることで、当該ベースバンド信号のI軸データ信号成分及びQ軸データ信号成分それぞれに対応するVSB変調波相当の信号を生成し、
前記I軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号と前記Q軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号とを直交変調することを特徴とするVSB変調波生成方法。
【請求項6】
前記直交変調は、前記I軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号と前記Q軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号それぞれに対し周波数変換処理を実行することを特徴とする請求項5に記載のVSB変調波生成方法。
【請求項7】
前記直交変調は、前記I軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号と前記Q軸データ信号成分に対応するVSB変調波相当の信号それぞれを無線周波数帯に直接変調することを特徴とする請求項6記載のVSB変調波生成方法。
【請求項8】
前記帯域通過特性は、周波数応答のスペクトラムをその中心からfs/4シフトさせ、かつ、当該スペクトラムの通過帯域幅をfs/2に帯域制限することを特徴とする請求項5に記載のVSB変調波生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−294658(P2008−294658A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136887(P2007−136887)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】