説明

X線スペクトル表示処理装置

【課題】複数の分光結晶を用いた波長分散型X線分析装置において表示されるX線スペクトルの視認性を上げると共に、エネルギー分散型X線分析装置で得られるXスペクトルとの比較評価を容易にする。
【解決手段】各分光結晶(LiF, PET等)に対応したX線スペクトルに対し、分光範囲がオーバーラップする波長範囲内に適宜の切替波長を設定し、その前後でそれぞれスペクトルデータを選択する。これにより、同一波長に対するスペクトルは一意に決まる。また、分光結晶の分光範囲の波長幅や波長分解能に応じて、各測定波長範囲の波長目盛り間隔を適宜に設定する。波長分解能が低い長波長側では波長軸が圧縮される。これにより、グラフ上、各分光結晶に対応した測定波長範囲の表示幅が略同一になり、目盛り間隔も極端に変化しないので、分析者にとって違和感が少ない視認性の高いX線スペクトルとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線微小部分析装置、走査電子顕微鏡、蛍光X線分析装置等、電子線やX線などを励起線として試料から特性X線を放出させ、これを分光結晶により波長分散して特定波長のX線を検出する波長分散型のX線分析装置に関し、特に、そうしたX線分析装置で取得されるX線スペクトルを表示するための表示処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線微小部分析装置(以下、「EPMA」と称す)による元素分析では、加速した電子線を励起線として試料表面に照射し、それによって試料の含有元素の内殻電子の遷移が生じる際に外部に放出される特性X線を波長分散型のX線分光器で検出する。このX線分光器を波長走査することで得られた特性X線スペクトルのピーク波長やX線強度から試料の含有元素の種類を特定する分析方法が定性分析である。
【0003】
EPMAは、一般的に、ベリリウムBe(原子番号4)〜ウランU(原子番号92)に亘る幅広い範囲の元素を分析可能である。しかしながら、X線分光器の構造上の制約等から、上記のような元素の全てを1つのX線分光器を用いて分析することはできない。そこで、EPMAには通常、複数のX線分光器が搭載され、各X線分光器には互いに異なる種類(分光波長範囲及び波長分解能)の分光結晶が装備されている(特許文献1など参照)。これら複数のX線分光器を適宜組み合わせて用いることにより、上記元素の全て又は殆どを対象とした定性分析を可能としている。
【0004】
上述のようなEPMAでは、X線分光器毎にそれぞれ異なる波長範囲のX線スペクトルが得られるから、様々な元素に対する定性分析を行う際に、分析者は、波長範囲や波長分解能の相違する複数のX線スペクトルを評価する必要がある。そのため、従来のこの種の装置では、複数のX線分光器に対応して得られた複数のX線スペクトルを並べて同一画面上に表示できるようになっている。図5はこうした表示の一例であり、上から順に、分光結晶が、LiF、PET(Penta erythritol)、RAP(Rubidium Acid Phthalate)、PbST(ステアリン酸鉛)、であるX線分光器に対応するX線スペクトルである。
【0005】
図5に示したような並列表示の場合、1つのX線スペクトルの縦軸範囲が狭く、X線強度の数値が読み取りにくい。これに対し、従来の別の表示例として、図6に示すように、複数の波長軸−強度軸を1つのグラフに持たせ、4つのX線スペクトルを重ねて(実際には各スペクトルの表示色を異なるものとして)描画するものもある。
【0006】
ところで、波長分散型X線分析装置とは異なる他の種類の分析装置では、1つの検出器によって殆ど全ての元素に対する分析を行えることが多く、その場合には、分析結果として、1つのスペクトルに全ての分析元素の情報が反映される。例えばエネルギー分散型X線分析装置を利用した分析装置(例えばエネルギー分散型X線分析装置)では、全ての分析元素をカバーするエネルギー範囲のX線スペクトルを測定することができる。図7はこうしたX線スペクトルの一例である。この種の分析装置はエネルギー分解能は低いものの、全元素のピークが1つのX線スペクトルに現れるため、様々な元素の定性分析の際の評価が容易である。
【0007】
これに対し、図5や図6に示した表示結果では、上述したように、測定波長範囲や波長分解能が相違する複数のX線スペクトルを分析者自らが総合的に評価する必要があり、見にくく作業にも手間が掛かる。また、同一の試料に対するEPMAの分析結果とエネルギー分散型X線分析装置の分析結果とをクロスチェックするような場合に、図5や図6に示したEPMAの表示結果では比較作業がたいへんに面倒で、見落としや見間違いも起こり易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−26251号公報(図1、段落[0018]〜[0021])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、EPMAなどの波長分散型X線分析装置で得られるX線スペクトルの視認性を向上するとともに、エネルギー分散型X線分析装置などの他の分析装置で得られるスペクトルとの比較を容易に行うことができる表示を可能としたX線スペクトル表示処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、分光特性が互いに相違する複数の分光結晶を装備した1乃至複数のX線分光器を用い、1つの試料に対して測定波長範囲及び波長分解能が相違する複数のX線スペクトルを取得するX線分析装置にあって、それら複数のX線スペクトルを処理して表示するためのX線スペクトル表示処理装置において、
a)前記複数のX線スペクトルに対し、オーバーラップする測定波長範囲内で、X線スペクトルを繋ぐ切替波長を設定し、該切替波長に応じてオーバーラップするX線スペクトルの一方を選択するオーバーラップ範囲処理手段と、
b)分光結晶に対応するX線スペクトルの波長範囲毎に、測定波長範囲及び/又は波長分解能に応じた波長軸の波長目盛り間隔を設定する波長軸設定手段と、
c)前記波長軸設定手段により波長目盛り間隔が設定された波長軸を有するグラフ上に、前記オーバーラップ範囲処理手段によりオーバーラップ範囲のデータが処理された複数のX線スペクトルを描画するグラフ形成手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
上記X線分析装置は、1つのX線分光器に1つの分光結晶が搭載されており、分光結晶の種類数と同数のX線分光器を備えるものでもよいが、1つのX線分光器に機械的に交換自在に2つ以上の分光結晶が搭載されているものでもよい。いずれにしても、分光特性が互いに相違する分光結晶と同数のX線スペクトルを取得することができる。
【0012】
一般的に、隣接する測定波長範囲をカバーする2つの分光結晶に対応するX線スペクトルの一部(測定波長範囲の端部)ではスペクトルがオーバーラップする。そこで、オーバーラップ範囲処理手段は、オーバーラップ波長範囲内で切替波長を設定し、切替波長を境にしてその前後の波長範囲でそれぞれ一方のスペクトルを選択する。例えば、オーバーラップする2つのスペクトルのうちの感度が高いほうを選択するように切替波長を決めることができる。EPMAで用いられる化合物結晶の場合には、構成上原理的に、短波長側のほうが高い感度が得られる。このオーバーラップ範囲処理手段による処理の実行により、同一波長に対して複数存在するデータのいずれか一方が排除される。
【0013】
波長軸設定手段は、分光結晶に対応するX線スペクトルの波長範囲毎に、測定波長範囲又は波長分解能の少なくとも一方に応じた波長目盛り間隔を設定する。例えば、各分光結晶の格子間隔で決まる波長分解能の比に基づいて、波長分解能が低いほど波長目盛り間隔当たりの波長幅を大きく設定するようにする。通常、長波長側で波長分解能は低くなるから、長波長側になるほど同一波長目盛り間隔に対する波長幅が大きく(つまり粗く)なる。また、グラフ上に表示される各分光結晶に対する測定波長範囲の幅が略同じ程度になるようにそれぞれの波長目盛り間隔を設定してもよい。
【0014】
グラフ形成手段が、上記のように波長目盛り間隔が設定された波長軸を有するグラフ上に複数のX線スペクトルを描画することにより、例えば分析可能な元素をほぼ網羅するような広い波長範囲に亘る見易いX線スペクトルを作成することができる。
【0015】
本発明の一態様として次のような構成とすることができる。即ち、分光結晶には様々なものが用いられているが、各分光結晶の分光範囲や波長分解能は既知であるから、様々な分光結晶の組み合わせに対して、それらの分光範囲や波長分解能を考慮して、適切な切替波長や波長目盛り間隔を予め決めてデータベース化しておく。そして、オーバーラップ範囲処理手段及び波長軸設定手段は、そのデータベースを利用して、分析に使用された分光結晶の組み合わせから切替波長及び波長目盛り間隔を導出し、これを利用すればよい。これにより、複雑な判断を伴わない簡単な処理により、見易いX線スペクトルを表示することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るX線スペクトル表示処理装置によれば、波長分散型X線分析装置で同一試料に対して得られた複数のX線スペクトルを集約して、例えばエネルギー分散型X線分析装置で得られるような、分析可能なほぼ全ての元素を網羅する広い波長範囲に亘る1つのX線スペクトルを画面上に表示させることができる。またその際に、波長軸はリニアでなく、各分光結晶の特性等に応じて適宜に縮小又は拡大されるので、X線スペクトル全体を一目で確認しつつ、ピークの波長間隔が狭く込み入った短波長の範囲でも各ピークを明確に表示することができる。これにより、X線スペクトルを利用した定性分析の作業効率が改善され、特に、波長分散型X線分析装置の分析結果とエネルギー分散型X線分析装置の分析結果とをクロスチェックするような場合に、X線スペクトルの比較対照が容易になり、評価や判断のミスの発生も減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例である表示処理装置を用いたEPMAの要部の構成図。
【図2】本実施例の表示処理装置における処理フローチャート。
【図3】分光結晶の分光範囲及び波長分解能の例を示す図。
【図4】本実施例による複数のX線スペクトルの表示例を示す図。
【図5】従来のEPMAにおける複数のX線スペクトルの表示例を示す図。
【図6】従来のEPMAにおける複数のX線スペクトルの別の表示例を示す図。
【図7】エネルギー分散型X線分析装置におけるX線スペクトル表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るX線スペクトル表示処理装置の一実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は本実施例によるX線スペクトル表示処理装置を用いたEPMAの要部の構成図である。
【0019】
図1において、電子銃1から出射された励起線としての電子線Eは、偏向コイル2により形成される磁場を通り対物レンズ3で微小径に収束され、試料ステージ4上に載置された試料Sに照射される。これにより、試料Sの表面から特性X線が周囲に放出される。試料Sの上方には、複数のX線分光器が互いに干渉しないように配設されている。この図では2つのX線分光器6a、6bのみを描いているが、試料Sを取り囲むように全部で4つのX線分光器(図示しないX線分光器の符号を6c、6dとする)が配設されている。
【0020】
各X線分光器6a〜6dはそれぞれ、分光結晶61a(61b〜61d)と、X線検出器63a(63b〜63d)と、スリット64a(64b〜64d)とを備え、試料Sから放出された特性X線は分光結晶61a〜61dで波長分散され、特定の波長の回折X線がスリット64a〜64dを通過してX線検出器63a〜63dで検出される。例えばX線分光器6aにおいて、試料S上の電子線照射位置と分光結晶61aとX線検出器63aとは常に図示しないローランド円上に位置しており、図示しない駆動機構により分光結晶61aは結晶移動直線62a上を移動しつつ傾斜され、この移動に連動してX線検出器63aは図示するように回動される。これにより、ブラックの回折条件を満たすように、つまり分光結晶61a、61bに対する特性X線の入射角と回折X線の出射角とが等しい状態が維持されつつ分析対象のX線の波長走査が達成される。なお、X線分光器の構成はこれに限るものではなく、従来知られている各種の構成を採ることができる。
【0021】
各X線検出器63a〜63dによるX線強度の検出信号は並行してデータ処理部8に入力され、データ処理部8は、波長走査に応じたX線スペクトルを作成する。試料ステージ4は試料ステージ駆動部5により水平面内で移動可能となっており、これにより試料S上で電子線Eの照射位置は走査可能である。また、偏向コイル2により形成される磁場は偏向コイル制御部7から供給される駆動電流により変化し、それにより電子線Eは曲げられて試料S上での照射位置がずれる。このように、試料ステージ4の駆動、偏向コイル2の駆動のいずれでも試料S上における電子線照射位置(つまりは微小分析位置)は2次元的に走査可能である。
【0022】
分析制御部9は試料Sに対する分析を実行するために、試料ステージ駆動部5、X線分光器6a〜6d、偏向コイル制御部7、データ処理部8などの動作を制御する。中央制御部10には分析者が指示を与える操作部12や分析者に情報を提供する表示部13が接続され、分析条件の設定などを行うとともに分析結果などを出力する機能を有する。通常、中央制御部10、データ処理部8、及び、分析制御部9の全て又は一部は、パーソナルコンピュータ(PC)により構成され、PCにインストールされた専用の制御/処理ソフトウエアを実行することでそれぞれの機能が達成されるようにすることができる。
【0023】
中央制御部10は本発明に係る表示処理装置に相当する機能を表示処理部11として含む。この表示処理部11の動作も、上記制御/処理ソフトウエアに含まれるプログラムの実行により達成することができる。以下、この表示処理部11を中心とする特徴的な処理動作を図2〜図4を参照して説明する。
【0024】
上記EPMAにおいて使用される4つの分光結晶61a〜61dの種類と、分光範囲(測定波長範囲)、波長分解能、などを、図3に示す。分光結晶61a〜61dは、前述した、LiF、PET、RAP、PbSTの4種類であり、これにより、ほぼ全ての分析元素をカバーしている。即ち、これら分光結晶61a〜61dを装備したX線分光器6a〜6dでそれぞれ分光範囲に亘り波長走査を実行しつつ試料S上の所定位置に対するX線分析を行うことにより、データ処理部8では、例えば、図5に示した4つの異なる測定波長範囲に対するX線スペクトルを構成するスペクトルデータを取得することができる。
【0025】
表示処理部11は上記のように複数の測定波長範囲毎に得られたスペクトルデータを集約して、例えば図7に示したエネルギー分散型X線分析装置で得られるような全波長(エネルギー)範囲に亘る1本のX線スペクトルを作成して描画する処理を行う。
【0026】
図3に示したように、各分光結晶の分光範囲にはオーバーラップしている部分がある。例えばLiFとPETとでは、0.26〜0.38nmの波長範囲がオーバーラップしており、図5で明らかなように、このオーバーラップ範囲では異なる2つのX線スペクトルのいずれにもスペクトルデータが存在する。同一波長位置に対する2つのスペクトルデータの強度値は多くの場合、同一ではないから、単純に各分光結晶のX線スペクトルを同一グラフ上に表示しようとすると、オーバーラップ範囲で2本のX線スペクトルが表示されてしまい、分析者にとってはかなり見にくく使いにくいグラフとなる。
【0027】
一方、図3に示したように、各分光結晶の波長分解能は、最も波長分解能が高いLiFを基準として、長波長(低エネルギー)側になるに従って低くなる(粗くなる)ことも分かる。波長分解能の差異は最大で約25倍にもなる。また、各分光結晶の分光範囲の波長広さも大きく相違する。そのため、全ての分光範囲をカバーするような波長範囲(例えば0.1〜10nm)のリニアな波長軸を用いて各X線スペクトルを同一グラフに表示しようとすると、各分光結晶に対応するX線スペクトルの表示幅が分光範囲の波長広さに比例して大きく相違し、結果的に、非常に見にくいグラフとなる。具体的には、表示する際に横スクロール機能などを用いる必要があるような横幅が非常に大きなグラフとなるか、或いは、短波長側で複数のピークが判別できないほど込み入ったグラフとなってしまう。
【0028】
そこで、表示処理部11は図2に示すフローチャートに従ったデータ処理を実行することで、最終的に、分析者にとって見易く使い易いグラフを作成するようにしている。
【0029】
まず、表示処理部11は、データ処理部8から各分光結晶61a〜61dに対応したスペクトルデータを取得する(ステップS1)。このスペクトルデータは新たな分析により取得されたデータである場合もあるし、過去に分析が実施され、データ処理部8内部又はその外部の記憶装置に保存されていたデータである場合もある。いずれにしても、1つの試料に対する分析により取得された、各分光結晶61a〜61dに対応するスペクトルデータが得られる。
【0030】
上述したように、LiFとPET、PETとRAP、では、スペクトルデータが重なるオーバーラップ範囲が存在する。そこで、このオーバーラップ範囲内で適宜の波長位置を切替波長とし、その切替波長を境に2つのスペクトルデータの選択を切り替える処理を実行する(ステップS2)。
【0031】
好ましくは、異なる分光結晶に対応した2つのスペクトルデータのうち、感度が良好であるほうのデータを選択するとよい。一般的に、EPMAにおいて分光範囲が重なるオーバーラップ範囲では、短波長側となる分光結晶のほうが感度が良好である。また、スペクトル上のピーク出現位置の近傍に切替波長を設定することはあまり好ましくない。そこで、例えばLiFとPETとのオーバーラップ範囲では、0.3nmを切替波長とし、この波長以下の範囲ではLiFに対応したスペクトルデータを採用し、それよりも長い波長範囲でPETに対応したスペクトルデータを採用するようにしている。また、PETとRAPのオーバーラップ部では、0.8nmを切替波長とし、この波長以下の範囲ではPETに対応したスペクトルデータを採用し、それよりも長い波長範囲ではRAPに対応したスペクトルデータを採用するようにしている。これにより、オーバーラップ範囲においても、1つの波長位置に対するスペクトルデータは1つになる。
【0032】
次に、表示処理部11は上記切替波長を境に定められた各分光結晶61a〜61dに対応したスペクトルの表示波長範囲毎に、波長目盛り間隔を決定する(ステップS3)。即ち、上述したように、分光結晶61a〜61dの波長分解能や分光範囲の波長広さの差異によるグラフの見にくさを軽減するために、基本的に、波長分解能が低くなるほど1つの波長目盛り間隔に対する波長幅が大きくなるように波長目盛り間隔を決めている。この例では、上記の4種の分光結晶の組み合わせの場合に、各分光結晶の分解能や分光範囲を考慮して、予め、次のように、波長目盛り間隔を決めておくものとする。
・LiF : 0.01nm
・PET : 0.02nm
・RAP : 0.1nm
・PbST : 0.5nm
【0033】
波長目盛り間隔が決まったならば、波長軸がその波長目盛り間隔に設定された1つのグラフ枠に対し、ステップS2でデータ選択されたあとの各X線スペクトルのスペクトルデータに基づくスペクトルを描画する処理を行う(ステップS4)。このとき、分光結晶毎にX線スペクトルの表示色を変えるようにしている。これにより、図4に示すようなグラフが作成され、これが表示部13の画面上に表示される。
【0034】
図4を見れば明らかなように、4種の分光結晶に対応した波長範囲はグラフ上でほぼ同じ程度の横幅になっている。また、波長軸の目盛りの間隔も極端に狭い箇所や広い箇所がなく、見易くなっている。また、図5に示したように、もともと長波長側(例えばでPbST)では波長分解能が低いためにピークの幅が広いが、図4の表示では長波長側で波長軸が圧縮された状態になるので、みかけ上、ピークの幅が狭い線状のピークとして表される。このため、分析者にとって違和感が少ないX線スペクトルが得られるという付随的な効果もある。
【0035】
なお、図4に示したグラフは、各分光結晶に対応するスペクトルデータをそのままグラフ表示したものであるため、切替波長(例えば0.3nm)でスペクトルが不連続になっているが、バックグラウンド除去処理を施すことにより各スペクトルのベースラインをほぼゼロにすれば、切替波長の前後でもほぼ連続するスペクトルとすることができる。また、RAPとPbSTとの間にスペクトルデータの存在しない空白波長範囲(2.45〜2.8nm)があるが、この範囲でもみかけ上スペクトルが連続することになる。
【0036】
上記説明で挙げた切替波長や波長表示目盛り間隔の数値は一例である。例えば、上記の波長表示目盛り間隔は波長分解能の差異よりも分光範囲の広さの差異を重視して決められたものであるが、波長分解能の差異を重視して、次のように決めてもよい。
・LiF : 0.025nm
・PET : 0.05nm
・RAP : 0.15nm
・PbST : 0.75nm
これは、LiFにおける1波長表示目盛り間隔を基準として、PET、RAP、PbSTにおける1波長表示目盛り間隔をそれぞれ、2倍、6倍、30倍に設定したものである。
【0037】
また、上記実施例では、LiF、PET、RAP、PbST、の4種の分光結晶を用いていたが、それ以外にも、Ge、TAP(Thallium Acid Phthate)、EDDT(エチレンジアミン四酢酸)、など、様々なものが用いられる。そうした場合でも、分光結晶の分光範囲や波長分解能は既知であるから、様々な分光結晶の組み合わせに対し、予め切替波長と波長表示目盛り間隔とを定めてデータベース化しておき、上記ステップS2及びS3において、使用された分光結晶の組み合わせからデータベースを参照して切替波長と波長目盛り間隔とを求めるのが実用的である。
【0038】
図4に示した例では、縦軸を各分光結晶に共通のX線強度軸(絶対的な計数値)としていたが、これは相対強度でもよい。また、分光結晶によって感度が大きく相違する場合には、強度軸を各分光結晶に共通とせずに、複数の強度目盛りを用いてもよい。
【0039】
また上記実施例はEPMAを例に挙げて説明したが、本発明に係るX線スペクトル表示処理装置は、複数の分光結晶を装備したX線分光器を用いた波長走査型X線分析装置を利用した、他の分析装置に適用できることも明らかである。
【符号の説明】
【0040】
1…電子銃
10…中央制御部
11…表示処理部
12…操作部
13…表示部
2…偏向コイル
3…対物レンズ
4…試料ステージ
5…試料ステージ駆動部
6a〜6d…X線分光器
61a〜61d…分光結晶
62a〜62d…結晶移動直線
63a〜63d…X線検出器
64a〜64d…スリット
7…偏向コイル制御部
8…データ処理部
9…分析制御部
E…電子線
S…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光特性が互いに相違する複数の分光結晶を装備した1乃至複数のX線分光器を用い、1つの試料に対して測定波長範囲及び波長分解能が相違する複数のX線スペクトルを取得するX線分析装置にあって、それら複数のX線スペクトルを処理して表示するためのX線スペクトル表示処理装置において、
a)前記複数のX線スペクトルに対し、オーバーラップする測定波長範囲内で、X線スペクトルを繋ぐ切替波長を設定し、該切替波長に応じてオーバーラップするX線スペクトルの一方を選択するオーバーラップ範囲処理手段と、
b)分光結晶に対応するX線スペクトルの波長範囲毎に、測定波長範囲及び/又は波長分解能に応じた波長軸の波長目盛り間隔を設定する波長軸設定手段と、
c)前記波長軸設定手段により波長目盛り間隔が設定された波長軸を有するグラフ上に、前記オーバーラップ範囲処理手段によりオーバーラップ範囲のデータが処理された複数のX線スペクトルを描画するグラフ形成手段と、
を備えることを特徴とするX線スペクトル表示処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線スペクトル表示処理装置であって、
利用され得る様々な分光結晶の組み合わせに対し、その組み合わせ毎に予め決められた切替波長及び波長目盛り間隔を記憶しておくデータベース、を備え、
前記オーバーラップ範囲処理手段及び前記波長軸設定手段は、前記データベースを利用して、分析に使用された分光結晶の組み合わせから切替波長及び波長目盛り間隔を導出することを特徴とするX線スペクトル表示処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−43402(P2011−43402A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191643(P2009−191643)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】