X線回折装置
【課題】試料に対するX線の入射角度θが変更されたとき、入射X線の幅の変化に合わせて試料のX線入射面とX線遮蔽部材との間の隙間を調整できるようにする。
【解決手段】試料SのX線入射面Soと対向する位置にX線遮蔽部材20を設け、当該X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に、X線源1から放射され試料SのX線入射面Soに照射される入射X線が通過できる隙間を形成する。さらに、X線遮蔽部材20を移動させる隙間調整機構21を設け、ゴニオメータによる試料SへのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材20を移動させ、当該X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面との間に形成される隙間の広さを調整できるようにした。
【解決手段】試料SのX線入射面Soと対向する位置にX線遮蔽部材20を設け、当該X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に、X線源1から放射され試料SのX線入射面Soに照射される入射X線が通過できる隙間を形成する。さらに、X線遮蔽部材20を移動させる隙間調整機構21を設け、ゴニオメータによる試料SへのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材20を移動させ、当該X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面との間に形成される隙間の広さを調整できるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料にX線を照射したときに、その試料から回折してくる回折X線をX線検出器によって検出するX線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般のX線回折装置では、X線源から放射されるX線の発散を発散制限スリット(ダイバージェンススリットともいう)によって所定角度範囲に制限した状態でそのX線を試料へ照射する。そして、試料へ照射されたX線と試料の結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されるときその試料でX線の回折が生じる。そして、発生したその回折X線がX線検出器によって検出される。
【0003】
通常のX線回折装置では、例えば、X線源から放射されたX線が発散制限スリットに当たるときに散乱X線が発生する。この散乱X線は、測定対象である試料からの回折X線から見ればバックグラウンドノイズ成分となるものであり、したがって、その散乱X線はできるだけX線検出器に取り込まれないようにしなければならない。
なお、散乱X線が発生する原因としては、発散制限スリットに限られず、X線源と試料との間のX線光路上に何等かの部材が存在するときには、その部材からも散乱X線が発生することがある。
【0004】
さて、X線検出器として、シンチレーションカウンタ等の狭い範囲内で回折X線を検出する構成のものを用いる場合には、そのX線検出器の前に受光スリットおよび散乱線防止スリットを設置するのが通常である。発散制限スリットで発生した散乱X線は、それらの受光スリットや散乱線防止スリットによってかなりの程度で進行が阻止される。
【0005】
しかし、X線検出器として、フォトセンサーアレーやPSPCなど位置敏感型検出器といった一次元X線検出器をスキャン方向に並べて用いる場合や、平面状に広い範囲で回折X線を検出するCCD又はピクセル検出器等の二次元X線検出器を用いる場合は、X線検出器の前に受光スリットや散乱線防止スリット(スキャッタリングスリットともいう)等を取り付けることができないので、発散制限スリットで発生した散乱X線がそのままX線検出器に入射し検出されてしまう。その結果、測定データのバックグラウンドが上昇して、測定精度が低下したり、あるいは散乱X線が誤ってピーク値として検出されてしまう等の問題が発生するおそれがあった。
【0006】
このような散乱X線によるバックグラウンド上昇の問題を解消するために、特許文献1に開示されたX線回折装置では、入射X線を通過させるための隙間(間隔)をおいて試料に対向してX線遮蔽部材を配設してある。このX線回折装置によれば、X線源と試料との間のX線光路上に何等かの部材、例えば、発散制限スリットが配設されていて、その部材から散乱X線等が発生したとしても、試料に対向して配設したX線遮蔽部材の働きによって、その散乱X線等の進行が阻止されてX線検出器に取り込まれることを防止できる。
【0007】
また、特許文献2に開示されたX線回折装置では、散乱X線を遮蔽する遮蔽体を備えることに加えて、その遮蔽体を指定位置に移動させる遮蔽体移動機構をも備えている。遮蔽体移動機構は、ゴニオメーターとは独立して定盤の上に固定されたZステージと、その上に設置されたXY並進ステージで構成されており、遮蔽体の位置調整後は、試料の移動、回転とは無関係に一定の位置を保つようになっている。具体的には、遮蔽体移動機構のZステージにより遮蔽体を鉛直方向に移動させることが可能で、その中心が一次X線ビーム(入射X線)の高さと一致するように調整される。さらに、XY並進ステージにより遮蔽体を水平面内で移動させることが可能となっている。
【0008】
しかしながら、各特許文献に開示された従来のX線回折装置では、いずれもX線回折測定を実施している間は、試料に対してX線遮蔽部材や遮蔽体が一定の相対位置を保つように固定されており、よって入射X線を通過させるための隙間は一定に保持される構成となっている。
本来、X線遮蔽部材や遮蔽体によって試料との間に形成される隙間は、X線源から放射され、発散制限スリットによって発散角が所定角度範囲に制限された入射X線の幅に合わせて調整し、当該入射X線をすべて通過させるとともに、その周囲に現れる散乱X線のみを阻止する広さにすることが好ましい。
ところが、X線回折測定において行われるいわゆるθ−2θ走査により、試料に対するX線の入射角度θが変更されたとき、X線遮蔽部材や遮蔽体が設置された試料の対向位置では、入射X線の幅が入射角度θの変更に伴い変化する。そのため、試料とX線遮蔽部材や遮蔽体との間に形成された隙間が一定に保持された従来のX線回折装置では、当該隙間が入射X線の幅よりも狭くなって、入射X線の進行をX線遮蔽部材や遮蔽体が阻止してしまったり、その逆に当該隙間が入射X線の幅よりも広くなって、散乱X線の一部も通過させてしまうおそれがあった。
【0009】
回折X線のピーク値は、主として試料に対してX線が低角度で入射してくる低角度領域において多く現れる。そこで、従来は、かかる低角度領域にて入射X線の幅に合わせて試料とX線遮蔽部材や遮蔽体との間の隙間を調整し、高角度領域ではX線遮蔽部材や遮蔽体は十分に機能しなくてもよいとされていた。
しかし、高角度領域においても回折X線のピーク値があらわれる物質もあり、低角度領域から高角度領域にわたって広くX線遮蔽部材を効果的に機能させるようにすることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−48398号公報
【特許文献2】特開平2001−83105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたもので、試料に対するX線の入射角度θが変更されたとき、入射X線の幅の変化に合わせて試料のX線入射面とX線遮蔽部材との間の隙間を調整できるようにしたX線回折装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、X線源から放射されたX線の発散角を発散角制限手段で制限し、試料台に保持された試料のX線入射面に向かって照射するとともに、当該試料から回折してきた回折X線をX線検出器で検出する構成と、
X線源と、試料台に保持された試料のX線入射面と、X線検出器との間の相対角度に関する位置関係をゴニオメータにより変更させることで、試料に対するX線の入射角度を変更するとともに、試料から回折してくる回折X線の方向にX線検出器を配置する構成と、
且つ、試料のX線入射面と対向する位置にX線遮蔽部材を設け、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に、X線源から放射され試料のX線入射面に照射される入射X線が通過できる隙間を形成する構成と、
を備えたX線回折装置において、
ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材を移動させ、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整する隙間調整手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
このX線回折装置によれば、X線回折測定を実施している間も、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応してX線遮蔽部材が移動し、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さが、入射X線又は回折X線の幅に合った適正な広さに調整される。その結果、入射X線の進行を阻止することなく試料に入射させるとともに、入射X線の周囲に現れる散乱X線の進行は効果的に阻止することが可能となる。
【0014】
ここで、隙間調整手段は、試料台に固定され、X線遮蔽部材を支持して、試料のX線入射面と直交する方向に当該X線遮蔽部材を移動案内する案内支持機構と、
案内支持機構に沿ってX線遮蔽部材を移動させるカム機構と、を備えた構成とすることができる。
例えば、ゴニオメータが、試料台を回転して、当該試料台に保持された試料のX線入射面とX線源との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料に対するX線の入射角度を変更するX線入射角度調整機構と、X線検出器を搭載し試料のX線入射面の周囲を旋回して、試料台に保持された試料のX線入射面とX線検出器との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料から回折してくる回折X線の方向にX線検出器を配置させる検出器旋回アームと、を備えている場合に、
カム機構は、検出器旋回アームに固定されたカムと、X線遮蔽部材に装着され、上記カムのカム面と当接するカムフォロアと、を含む構成とすることができる。
この構成において、上記カムのカム面は、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材を移動させる形状とすることが好ましい。
【0015】
また、隙間調整手段は、試料台に固定され、X線遮蔽部材を試料のX線入射面に対して接近又は離間する方向へ直線移動自在に案内する案内支持機構と、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材を駆動する駆動モータと、を含む構成とすることもできる。
【0016】
なお、隙間調整手段は、これらの構成に限定されるものではなく、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材を移動させることができ、その移動によりX線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さが調整できれば、いかなる構成であってもよい。
【0017】
また、X線遮蔽部材は、例えば、X線を透過させない材料により先端が尖った板状に形成されたナイフエッジスリットで構成することができる。
【0018】
上述したように本発明によれば、X線回折測定の実施に伴い、X線源と、試料台に保持された試料のX線入射面と、X線検出器との間の相対角度に関する位置関係が変更されたとき、入射X線の幅の変化に合わせて試料のX線入射面とX線遮蔽部材との間の隙間を調整することができる。
【発明の効果】
【0019】
上述したように本発明によれば、X線回折測定の実施に伴い、X線源と、試料台に保持された試料のX線入射面と、X線検出器との間の相対角度位置関係が変更されたとき、入射X線の幅の変化に合わせて試料のX線入射面とX線遮蔽部材との間の隙間を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかるX線回折装置の概要を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるX線回折装置の具体的な外観構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るX線回折装置に組み込まれたゴニオメータの構成を示す正面図である。
【図4】同じく背面図である。
【図5】同じく平面図である。
【図6】照射幅固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図7】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【図8】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示すグラフである。
【図9】X線遮蔽部材により回折X線における広角側の外縁が遮られる現象を説明するための図である。
【図10】照射幅固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図11】発散角固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図12】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【図13】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示すグラフである。
【図14】発散角固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図15】本発明の他の実施形態に係るX線回折装置を説明するための正面図である。
【図16】照射幅固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の更に他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図17】図16に示す照射幅固定法での隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【図18】発散角固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の更に他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図19】図18に示す発散角固定法での隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係るX線回折装置の概要を示す模式図で、図2は同X線回折装置の具体的な外観構成を示す斜視図である。
これらの図に示すように、本実施形態のX線回折装置は、X線を放射するX線源1と、X線の発散角を制限する発散角制限スリット2(発散角制限手段)と、試料Sを保持する試料台3と、回折X線を検出するX線検出器4とを備えている。
【0022】
X線源1から放射されたX線は、発散角制限スリット2で発散角が制限される。後述するように、スリット幅を変更することによって試料SのX線入射面に入射するX線の照射幅Lを固定してX線回折測定を実施する場合(照射幅固定法)と、スリット幅を固定することにより一定の発散角に制限してX線回折測定を実施する場合(発散角固定法)とがある。
【0023】
X線源1から放射され発散角制限スリット2で発散角が制限されたX線は、試料SのX線入射面Soに照射される。周知のとおり、試料SのX線入射面Soに対しθの角度でX線を照射すると、入射X線に対して2θの角度方向に試料Sから回折X線が現れる。この回折X線の現れる角度2θは、試料Sを構成する物質により決まっているため、回折X線が現れた角度2θと、その強度を検出することで、試料Sを構成する物質を分析することができる。
【0024】
X線回折装置は、X線源1と、試料台3に保持された試料SのX線入射面Soと、X線検出器4との間の相対角度に関する位置関係を変更しながらX線回折を実施するために、ゴニオメータ10を備えている(図2参照)。このゴニオメータ10の構成については、後に詳細に説明するが、ゴニオメータ10により試料SのX線入射面Soに対するX線源1からのX線の入射角度θが調整されるとともに、入射X線に対して角度2θの方向(すなわち、試料Sから回折してくる回折X線の現れる方向)にX線検出器4が旋回して配置される。
【0025】
さらに、X線回折装置には、試料SのX線入射面Soと対向する位置にX線遮蔽部材20が設けてある。X線遮蔽部材20は、X線を透過させない材料でありさえすれば、特定の材料に限定されない。例えば、真鍮、鋼材、鉛等によって形成できる。また、X線遮蔽部材20の形状も特定の形状に限定されないが、それを板状部材によって形成することにすれば、ことさら大きな設置スペースを必要としなくなるので、有利である。一般には、X線遮蔽部材20はナイフエッジスリットとも称されており、板材の先端を尖った楔形状に加工したものが多い。
このX線遮蔽部材20は、試料SのX線入射面Soとの間に、X線源1から放射され試料SのX線入射面Soに照射される入射X線が通過できる隙間を形成する。
【0026】
加えて、X線回折装置には、X線回折測定の実行中にゴニオメータ10による試料SへのX線入射角度θの変更に対応して、試料SのX線入射面Soと直交する方向にX線遮蔽部材20を移動させて、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間の広さを調整する隙間調整機構21(隙間調整手段)が組み込まれている(図2参照)。
【0027】
既述したように、試料Sに対するX線の入射角度θが変更されたとき、X線遮蔽部材20が配設された試料Sの対向位置では、入射X線の幅が入射角度θの変更に伴い変化する。隙間調整機構21は、かかる入射角度θの変更に伴う入射X線の幅の変化に対応して、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間の広さを調整する機能を有している。
この隙間調整機構21の作動によって、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間が、そこを通過する入射X線の幅に合わせて調整される。
【0028】
次に、図2〜図5を参照して、ゴニオメータ10に組み込まれた隙間調整機構21について説明する。
ゴニオメータ10は、X線入射角度調整機構としてのθ回転盤11と、検出器旋回アームとしての2θ旋回アーム12と備えている。これらθ回転盤11と2θ旋回アーム12は、同一の回転軸を中心にしてθ回転盤11が角度θだけ回転したとき、これに連動して2θ旋回アーム12が角度2θだけ旋回する構成となっている。
θ回転盤11には、試料台3が搭載してあり、この試料台3に試料Sが保持される。このθ回転盤11の回転とともに試料台3が回転して、試料台3に保持された試料SのX線入射面SoとX線源1との間の相対角度に関する位置関係を変更する。これにより、試料Sに対するX線の入射角度が変更される。
2θ旋回アーム12には、X線検出器4が搭載してある。X線検出器4は、2θ回転アームとともに試料SのX線入射面Soの周囲を旋回する。これにより、試料台3に保持された試料SのX線入射面SoとX線検出器4との間の相対角度に関する位置関係が変更され、試料Sから回折してくる回折X線を検出する位置までX線検出器4が移動する。
【0029】
本実施形態では、カム機構によってこの隙間調整機構21を構成してある。すなわち、隙間調整機構21は、案内支持機構22と、カム23と、カムフォロア24とを含んでいる。案内支持機構22は、試料台3に固定された支持盤22aにスライダ22bが摺動自在に組み込まれた構成をしており、このスライダ22bにX線遮蔽部材20が装着されている。スライダ22bの移動方向は、試料SのX線入射面Soと直交する方向に設定されている。X線遮蔽部材20は、スライダ22bとともに試料SのX線入射面Soと直交する方向へ往復移動する。
【0030】
カム23は2θ旋回アーム12に固定されており、同旋回アームの旋回動作とともに作動する(図4参照)。一方、カムフォロア24は、スライダ22bの裏面に装着されている(図4、図5参照)。このカムフォロア24は、カム23に形成したカム面に当接している。したがって、2θ旋回アーム12とともにカム23が作動したとき、カム面の形状に基づいてカムフォロア24がスライダ22bとともに直線移動する。スライダ22bには、X線遮蔽部材20が装着されているため、カムフォロア24の移動はそのままX線遮蔽部材20の移動となる。
カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する入射X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してある。
【0031】
次に、カム23に形成したカム面の構成例について、図6〜図11を主に参照して説明する。
本実施形態では、試料SのX線入射面Soに入射するX線の照射幅Lを固定したいわゆる「照射幅固定法」によりX線回折測定を実施する場合に適したカム面の構成例と、X線源1から放射されX線入射面Soに入射するX線の発散角を一定にしたいわゆる「発散角固定法」によりX線回折測定を実施する場合に適したカム面の構成例とに分けて説明する。
【0032】
〔照射幅固定法でのカム面の構成例〕
照射幅固定法では、図6に示すように、試料SのX線入射面Soに入射するX線の照射幅Lが一定となるように、発散角制限スリット2のスリット幅を、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの変更に対応して変更している。このような発散角制限スリット2の作動を試料Sの回転と連動させて行う機構は、例えば特開平8−262196号公報に開示されている。
なお、照射幅固定法では、試料SのX線入射面Soに照射幅Lで照射されるX線(入射X線)の中央(L/2の位置)とX線源1の中心とを結ぶ軸を基準軸Oとして、X線源1とゴニオメータ10の回転中心とのなす角を入射角θと規定している。ゴニオメータ10は、この入射X線の照射幅Lの中央を回転中心に配置して、試料SとX線検出器4を回転させる。
ここで、X線遮蔽部材20は、試料SのX線入射面Soにおける照射幅Lの中央に対向する位置で、試料SのX線入射面Soに対して直交する方向に接近又は離間するように設定されているものとする。このX線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に入射X線を通過させる隙間Hが形成される。
【0033】
さて、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθxとすると、この角度θxと上記隙間Hとの間には、
tan(θx)=H/(L/2)
H=tan(θx)×(L/2) …(1)
という関係が成立している。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成する。
【0034】
なお、角度θxは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、入射角θから算出できる。例えば、X線源1から試料SにおけるX線の入射中央位置(L/2)までの基準軸Oの軌道と、試料SのX線入射面Soを含む仮想平面と、X線源1からこの仮想平面に引いた垂線とによって形成される直角三角形を利用して幾何学的に求めることができる。この直角三角形の各辺の長さa,b,cのうち、aは一定であり、b,cは入射角度θに対応して変化し、θの三角関数をもって算出できる。
そして、角度(θx)は、次の関係式から求めることができる。
tan(θx)=b/{c+(L/2)} …(2)
【0035】
図7は、X線源1から、入射X線の基準軸Oが試料Sへ入射する位置(L/2の位置)までの距離aを150mmに、試料SのX線入射面SoへのX線の照射幅Lを20mmにそれぞれ設定した場合の、入射角度θの変化に対する上記各値の算出結果を示している。
図8は、図7に示す算出結果に基づく入射角度θと隙間Hとの関係を示している。この関係に基づいて、入射角度θの変化に対して隙間Hは変わるように、隙間調整機構21におけるカム23のカム面を設計すればよい。
これらの設計は、図1に示すように、試料Sからの回折X線がX線検出器4上の一点に集光するX線光学系に対して特に有効である。
しかし、一次元の角度分解能をもったX線検出器を用いるX線光学系の場合などにおいては、上記算出した隙間Hでは、図9に示すように、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが、X線遮蔽部材20により遮蔽されてしまう可能性がある。そこで、カム面の製作に際しては、上記算出した隙間Hに基づき、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが遮蔽されないように、微調整する(オフセットさせる)ことが好ましい。
【0036】
また、図10に示すように、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間Hの広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整することもできる。
すなわち、カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してもよい。
【0037】
試料Sから回折してくる回折X線が、X線源1と試料Sの外縁とのなす角度θpと同一角度で出射している場合についての関係を以下に示す。
【0038】
この場合は、試料Sから回折してくる回折X線の外縁Xpと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθpとすると、この角度θpと上記隙間Hとの間には、
tan(θp)=H/(L/2)
H=tan(θp)×(L/2) …(3)
という関係が成立する。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成すればよい。
【0039】
ここで、角度θpは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、入射角θから算出できる。例えば、X線源1から試料SにおけるX線の入射中央位置(L/2)までの基準軸Oの軌道と、試料SのX線入射面Soを含む仮想平面と、X線源1からこの仮想平面に引いた垂線とによって形成される直角三角形を利用して幾何学的に求めることができる。この直角三角形の各辺の長さa,b,cのうち、aは一定であり、b,cは入射角度θに対応して変化し、θの三角関数をもって算出できる。
そして、角度(θp)は、次の関係式から求めることができる。
tan(θp)=b/{c−(L/2)} …(4)
【0040】
また、試料Sから回折してくる回折X線が、X線源1と試料Sの外縁とのなす角度θpと同一角度で出射しない場合にあっては、次のような関係となる。
すなわち、X線検出器4におけるX線入射窓の有効幅をWとし、当該X線入射窓の中央位置をDP0、回折角の高角度側における端部位置をDP1とすると、DP0とDP1の間の距離はW/2となる。
ここで、試料SにおけるX線入射端の位置XP1(図1の左端位置)、X線遮蔽部材20の先端位置XP2、及び試料SにおけるX線の入射中央位置ORG0をそれぞれ頂点とする直角三角形と、この三角形と相似である上記XP1及び上記DP1をそれぞれ頂点とする直角三角形とを考え、これら三角形の相似関係から上記隙間Hを計算することができる。
すなわち、上記ORG0からDP0までの距離をRとすると、上記DP1の位置は、上記ORG0からのY座標(図の縦座標)の距離をd、同じくX座標(図の横座標)の距離をeとして、次式(5)から求めることができる。
d=R×sinθ+(W/2)×cosθ
e=R×cosθ−(W/2)×sinθ …(5)
【0041】
ここで、上記ORG0から上記DP0までの距離Rは、図16に示すように、X線源1から上記ORG0までの距離aと等しいとすると、上記隙間Hは次式(6)から求めることができる。
【0042】
【数1】
【0043】
図17は、W/2=6.4mmとして、(6)式より隙間Hを計算した結果を示している。
【0044】
〔発散角固定法でのカム面の構成例〕
発散角固定法では、図11に示すように、X線源1から放射されX線入射面Soに入射するX線の発散角βが一定となるように、発散角制限スリット2のスリット幅が固定されている。したがって、試料SのX線入射面Soにおいては、X線の照射幅Lが入射角度θの変更に対応して変化する。
なお、発散角固定法では、発散角の中央(β/2)を進行するX線の軌道を基準軸Oとして、この基準軸Oがゴニオメータ10の回転中心(X線入射面Soの中心)と交わる角度をもって入射角θを規定している。
【0045】
X線遮蔽部材20は、照射幅固定法のときと同様、試料SのX線入射面Soにおける照射幅Lの中央に対向する位置で、試料SのX線入射面Soに対して直交する方向に接近又は離間するように設定されているものとする。このX線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に入射X線を通過させる隙間Hが形成される。
【0046】
さて、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθxとすると、この角度θxと上記隙間Hとの間には、照射幅固定法のときと同様に、
tan(θx)=H/(L/2)
H=tan(θx)×(L/2) ・・・(7)
という関係が成立している。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成する。
【0047】
ここで、角度θxは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、入射角θから算出できる。例えば、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと、基準軸Oと、試料SのX線入射面Soとで形成される三角形の内角の総和から、
(β/2)+(θx)+(180−θ)=180
(β/2)+(θx)−θ=0 ・・・(8)
の関係がわかる。この関係式からθxは算出できる。
【0048】
図12は、X線源1から、入射X線の基準軸Oが試料Sへ入射する位置までの距離aを150mmに、入射X線の発散角βを1゜にそれぞれ設定した場合の、入射角度θの変化に対する上記各値の算出結果を示している。
図13は、図12に示す算出結果に基づく入射角度θと隙間Hとの関係を示している。この関係に基づいて、入射角度θの変化に対して隙間Hは変わるように、隙間調整機構21におけるカム23のカム面を設計すればよい。
【0049】
なお、発散角固定法においても、上記算出した隙間Hでは、図9に示すように、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが、X線遮蔽部材20により遮蔽されてしまう可能性がある。そこで、カム面の製作に際しては、上記算出した隙間Hに基づき、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが遮蔽されないように、微調整することが好ましい。
【0050】
また、図14に示すように、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間Hの広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整することもできる。
すなわち、カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してもよい。
【0051】
試料Sから回折してくる回折X線が、X線源1と試料Sの外縁とのなす角度θpと同一角度で出射している場合についての関係を以下に示す。
【0052】
この場合は、試料Sから回折してくる回折X線の外縁Xpと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθpとすると、この角度θpと上記隙間Hとの間には、照射幅固定法のときと同様に、
tan(θp)=H/(L/2)
H=tan(θp)×(L/2) …(9)
という関係が成立する。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成すればよい。
【0053】
ここで、角度θpは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、次の関係式から算出できる。
(β/2)+θ+(180−θp)=180
(β/2)+θ−θp=0 …(10)
【0054】
また、他の構成例として、図18に示すように、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間Hの広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整することもできる。
すなわち、カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してもよい。
【0055】
この場合は、試料Sから回折してくる回折X線の外縁Xpと上記隙間Hとの間には、照射幅固定法のときと同様に、
【数2】
という関係が成立する。
【0056】
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成すればよい。
ここで、試料Sに試料の中央位置からβ/2の発散角でX線を照射したときの試料S上の照射幅は、X線源1に近い側では、次式で表される(図18参照)。
L/2=a×cosθ−[(a×sinθ)/tan{θ+(β/2)}] …(12)
【0057】
また、上記照射幅は、X線源1から遠い側では、次式で表される(図11参照)。
L/2=[(a×sinθ)/tan{θ−(β/2)}]−a×cosθ …(13)
【0058】
図18に示したように、本構成例では、上記(12)式を用いればよい。
図19は、W/2=6.4mmとして、(11)及び(12)式より隙間Hを計算した結果を示している。
【0059】
図15は、本発明の他の実施形態に係るX線回折装置の構成を示す図である。
同図に示す実施形態では、駆動モータ30を利用してX線遮蔽部材20を移動させるように隙間調整手段を構成している。
すなわち、隙間調整手段は、案内支持機構22と、駆動モータ30とを含んでいる。案内支持機構22は、先の実施形態と同様、試料台3に固定された支持盤22aにスライダ22bが摺動自在に組み込まれた構成をしており、このスライダ22bにX線遮蔽部材20が装着されている。スライダ22bの移動方向は、試料SのX線入射面Soと直交する方向に設定されている。X線遮蔽部材20は、スライダ22bとともに試料SのX線入射面Soと直交する方向へ往復移動する。
さらに、支持盤22aには駆動モータ30が搭載してあり、この駆動モータ30の駆動力が図示しない動力伝達機構を介してスライダ22bに伝えられ、スライダ22bが移動する構成となっている。動力伝達機構としては、ボールねじ機構や歯車機構等、公知の各種機構が適用できる。
【0060】
駆動モータ30は、図示しない制御装置によって駆動制御される。その駆動制御は、上述したとおり、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度θxと、X線遮蔽部材20が試料Sとの間に形成する隙間Hと、の間の上記関係式(1)又は(7)に基づいて実行される。
【0061】
また、駆動モータ30は、上述したとおり、試料Sから回折してくる回折X線における広角側の外縁Xpと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度θpと、X線遮蔽部材20が試料Sとの間に形成する隙間Hと、の間の上記関係式(3)又は(9)に基づいて実行することもできる。
【0062】
また、別のX線光学系では、駆動モータ30は、上述したとおり、試料Sから回折してくる回折X線における広角側の外縁Xpと、X線遮蔽部材20が試料Sとの間に形成する隙間Hと、の間の関係を、X線検出器4におけるX線入射窓の有効幅の半値であるW/2を考慮して求めた上記関係式(11)に基づいて実行することもできる。
すなわち、駆動モータ30の制御プログラムは、これらの関係式に基づいて隙間Hが形成されるようにX線遮蔽部材20を移動させる内容とすればよい。
【0063】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、ゴニオメータ10は、図2〜図5に示した構成のものに限定されるものではなく、各種構成をしたゴニオメータ10を搭載したX線回折装置に、本発明は適用することができる。
【0064】
また、上述した実施形態では、X線遮蔽部材を試料のX線入射面に鉛直な方向のみに移動させていたが、さらに、X線遮蔽部材を試料のX線入射面と平行な方向に移動させてもよい。さらにまた、試料に入射する入射X線の外縁と、試料から回折してくる回折X線の外縁とが交叉する位置(いわゆるクロスポイント)に合わせて、X線遮蔽部材を移動させることもできる。
【0065】
また、本発明のX線回折装置は、X線検出器として時間遅延積分方式のCCD(TDI−CCD)を用いる場合や、平面状に広い範囲で回折X線を検出するCCD等の二次元X線検出器を用いる場合など、X線検出器の前に受光スリットや散乱線防止スリット等を取り付けることができない場合に特に有効である。しかし、X線検出器の前にこれらの受光スリットや散乱線防止スリットが装着できる場合であっても、いっそう確実に散乱X線の進行を阻止するために適用が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
S:試料、So:X線入射面、O:基準軸、Xo:入射X線の外縁、Xp:回折X線の外縁、
1:X線源、2:発散角制限スリット、3:試料台、4:X線検出器、
10:ゴニオメータ、11:θ回転盤、12:2θ旋回アーム、
20:X線遮蔽部材、21:隙間調整機構、22:案内支持機構、22a:支持盤、22b:スライダ、23:カム、24:カムフォロア、30:駆動モータ、
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料にX線を照射したときに、その試料から回折してくる回折X線をX線検出器によって検出するX線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般のX線回折装置では、X線源から放射されるX線の発散を発散制限スリット(ダイバージェンススリットともいう)によって所定角度範囲に制限した状態でそのX線を試料へ照射する。そして、試料へ照射されたX線と試料の結晶格子面との間でブラッグの回折条件が満足されるときその試料でX線の回折が生じる。そして、発生したその回折X線がX線検出器によって検出される。
【0003】
通常のX線回折装置では、例えば、X線源から放射されたX線が発散制限スリットに当たるときに散乱X線が発生する。この散乱X線は、測定対象である試料からの回折X線から見ればバックグラウンドノイズ成分となるものであり、したがって、その散乱X線はできるだけX線検出器に取り込まれないようにしなければならない。
なお、散乱X線が発生する原因としては、発散制限スリットに限られず、X線源と試料との間のX線光路上に何等かの部材が存在するときには、その部材からも散乱X線が発生することがある。
【0004】
さて、X線検出器として、シンチレーションカウンタ等の狭い範囲内で回折X線を検出する構成のものを用いる場合には、そのX線検出器の前に受光スリットおよび散乱線防止スリットを設置するのが通常である。発散制限スリットで発生した散乱X線は、それらの受光スリットや散乱線防止スリットによってかなりの程度で進行が阻止される。
【0005】
しかし、X線検出器として、フォトセンサーアレーやPSPCなど位置敏感型検出器といった一次元X線検出器をスキャン方向に並べて用いる場合や、平面状に広い範囲で回折X線を検出するCCD又はピクセル検出器等の二次元X線検出器を用いる場合は、X線検出器の前に受光スリットや散乱線防止スリット(スキャッタリングスリットともいう)等を取り付けることができないので、発散制限スリットで発生した散乱X線がそのままX線検出器に入射し検出されてしまう。その結果、測定データのバックグラウンドが上昇して、測定精度が低下したり、あるいは散乱X線が誤ってピーク値として検出されてしまう等の問題が発生するおそれがあった。
【0006】
このような散乱X線によるバックグラウンド上昇の問題を解消するために、特許文献1に開示されたX線回折装置では、入射X線を通過させるための隙間(間隔)をおいて試料に対向してX線遮蔽部材を配設してある。このX線回折装置によれば、X線源と試料との間のX線光路上に何等かの部材、例えば、発散制限スリットが配設されていて、その部材から散乱X線等が発生したとしても、試料に対向して配設したX線遮蔽部材の働きによって、その散乱X線等の進行が阻止されてX線検出器に取り込まれることを防止できる。
【0007】
また、特許文献2に開示されたX線回折装置では、散乱X線を遮蔽する遮蔽体を備えることに加えて、その遮蔽体を指定位置に移動させる遮蔽体移動機構をも備えている。遮蔽体移動機構は、ゴニオメーターとは独立して定盤の上に固定されたZステージと、その上に設置されたXY並進ステージで構成されており、遮蔽体の位置調整後は、試料の移動、回転とは無関係に一定の位置を保つようになっている。具体的には、遮蔽体移動機構のZステージにより遮蔽体を鉛直方向に移動させることが可能で、その中心が一次X線ビーム(入射X線)の高さと一致するように調整される。さらに、XY並進ステージにより遮蔽体を水平面内で移動させることが可能となっている。
【0008】
しかしながら、各特許文献に開示された従来のX線回折装置では、いずれもX線回折測定を実施している間は、試料に対してX線遮蔽部材や遮蔽体が一定の相対位置を保つように固定されており、よって入射X線を通過させるための隙間は一定に保持される構成となっている。
本来、X線遮蔽部材や遮蔽体によって試料との間に形成される隙間は、X線源から放射され、発散制限スリットによって発散角が所定角度範囲に制限された入射X線の幅に合わせて調整し、当該入射X線をすべて通過させるとともに、その周囲に現れる散乱X線のみを阻止する広さにすることが好ましい。
ところが、X線回折測定において行われるいわゆるθ−2θ走査により、試料に対するX線の入射角度θが変更されたとき、X線遮蔽部材や遮蔽体が設置された試料の対向位置では、入射X線の幅が入射角度θの変更に伴い変化する。そのため、試料とX線遮蔽部材や遮蔽体との間に形成された隙間が一定に保持された従来のX線回折装置では、当該隙間が入射X線の幅よりも狭くなって、入射X線の進行をX線遮蔽部材や遮蔽体が阻止してしまったり、その逆に当該隙間が入射X線の幅よりも広くなって、散乱X線の一部も通過させてしまうおそれがあった。
【0009】
回折X線のピーク値は、主として試料に対してX線が低角度で入射してくる低角度領域において多く現れる。そこで、従来は、かかる低角度領域にて入射X線の幅に合わせて試料とX線遮蔽部材や遮蔽体との間の隙間を調整し、高角度領域ではX線遮蔽部材や遮蔽体は十分に機能しなくてもよいとされていた。
しかし、高角度領域においても回折X線のピーク値があらわれる物質もあり、低角度領域から高角度領域にわたって広くX線遮蔽部材を効果的に機能させるようにすることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−48398号公報
【特許文献2】特開平2001−83105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたもので、試料に対するX線の入射角度θが変更されたとき、入射X線の幅の変化に合わせて試料のX線入射面とX線遮蔽部材との間の隙間を調整できるようにしたX線回折装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、X線源から放射されたX線の発散角を発散角制限手段で制限し、試料台に保持された試料のX線入射面に向かって照射するとともに、当該試料から回折してきた回折X線をX線検出器で検出する構成と、
X線源と、試料台に保持された試料のX線入射面と、X線検出器との間の相対角度に関する位置関係をゴニオメータにより変更させることで、試料に対するX線の入射角度を変更するとともに、試料から回折してくる回折X線の方向にX線検出器を配置する構成と、
且つ、試料のX線入射面と対向する位置にX線遮蔽部材を設け、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に、X線源から放射され試料のX線入射面に照射される入射X線が通過できる隙間を形成する構成と、
を備えたX線回折装置において、
ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材を移動させ、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整する隙間調整手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
このX線回折装置によれば、X線回折測定を実施している間も、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応してX線遮蔽部材が移動し、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さが、入射X線又は回折X線の幅に合った適正な広さに調整される。その結果、入射X線の進行を阻止することなく試料に入射させるとともに、入射X線の周囲に現れる散乱X線の進行は効果的に阻止することが可能となる。
【0014】
ここで、隙間調整手段は、試料台に固定され、X線遮蔽部材を支持して、試料のX線入射面と直交する方向に当該X線遮蔽部材を移動案内する案内支持機構と、
案内支持機構に沿ってX線遮蔽部材を移動させるカム機構と、を備えた構成とすることができる。
例えば、ゴニオメータが、試料台を回転して、当該試料台に保持された試料のX線入射面とX線源との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料に対するX線の入射角度を変更するX線入射角度調整機構と、X線検出器を搭載し試料のX線入射面の周囲を旋回して、試料台に保持された試料のX線入射面とX線検出器との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料から回折してくる回折X線の方向にX線検出器を配置させる検出器旋回アームと、を備えている場合に、
カム機構は、検出器旋回アームに固定されたカムと、X線遮蔽部材に装着され、上記カムのカム面と当接するカムフォロアと、を含む構成とすることができる。
この構成において、上記カムのカム面は、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材を移動させる形状とすることが好ましい。
【0015】
また、隙間調整手段は、試料台に固定され、X線遮蔽部材を試料のX線入射面に対して接近又は離間する方向へ直線移動自在に案内する案内支持機構と、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材を駆動する駆動モータと、を含む構成とすることもできる。
【0016】
なお、隙間調整手段は、これらの構成に限定されるものではなく、ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、X線遮蔽部材を移動させることができ、その移動によりX線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さが調整できれば、いかなる構成であってもよい。
【0017】
また、X線遮蔽部材は、例えば、X線を透過させない材料により先端が尖った板状に形成されたナイフエッジスリットで構成することができる。
【0018】
上述したように本発明によれば、X線回折測定の実施に伴い、X線源と、試料台に保持された試料のX線入射面と、X線検出器との間の相対角度に関する位置関係が変更されたとき、入射X線の幅の変化に合わせて試料のX線入射面とX線遮蔽部材との間の隙間を調整することができる。
【発明の効果】
【0019】
上述したように本発明によれば、X線回折測定の実施に伴い、X線源と、試料台に保持された試料のX線入射面と、X線検出器との間の相対角度位置関係が変更されたとき、入射X線の幅の変化に合わせて試料のX線入射面とX線遮蔽部材との間の隙間を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかるX線回折装置の概要を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるX線回折装置の具体的な外観構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るX線回折装置に組み込まれたゴニオメータの構成を示す正面図である。
【図4】同じく背面図である。
【図5】同じく平面図である。
【図6】照射幅固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図7】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【図8】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示すグラフである。
【図9】X線遮蔽部材により回折X線における広角側の外縁が遮られる現象を説明するための図である。
【図10】照射幅固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図11】発散角固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図12】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【図13】同じく隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示すグラフである。
【図14】発散角固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図15】本発明の他の実施形態に係るX線回折装置を説明するための正面図である。
【図16】照射幅固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の更に他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図17】図16に示す照射幅固定法での隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【図18】発散角固定法でのX線回折測定を実施する際の隙間調整機構によるX線遮蔽部材の更に他の移動制御(カム機構による移動制御)について説明するための図である。
【図19】図18に示す発散角固定法での隙間調整機構によるX線遮蔽部材の移動制御(カム機構による移動制御)に関する具体的データを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係るX線回折装置の概要を示す模式図で、図2は同X線回折装置の具体的な外観構成を示す斜視図である。
これらの図に示すように、本実施形態のX線回折装置は、X線を放射するX線源1と、X線の発散角を制限する発散角制限スリット2(発散角制限手段)と、試料Sを保持する試料台3と、回折X線を検出するX線検出器4とを備えている。
【0022】
X線源1から放射されたX線は、発散角制限スリット2で発散角が制限される。後述するように、スリット幅を変更することによって試料SのX線入射面に入射するX線の照射幅Lを固定してX線回折測定を実施する場合(照射幅固定法)と、スリット幅を固定することにより一定の発散角に制限してX線回折測定を実施する場合(発散角固定法)とがある。
【0023】
X線源1から放射され発散角制限スリット2で発散角が制限されたX線は、試料SのX線入射面Soに照射される。周知のとおり、試料SのX線入射面Soに対しθの角度でX線を照射すると、入射X線に対して2θの角度方向に試料Sから回折X線が現れる。この回折X線の現れる角度2θは、試料Sを構成する物質により決まっているため、回折X線が現れた角度2θと、その強度を検出することで、試料Sを構成する物質を分析することができる。
【0024】
X線回折装置は、X線源1と、試料台3に保持された試料SのX線入射面Soと、X線検出器4との間の相対角度に関する位置関係を変更しながらX線回折を実施するために、ゴニオメータ10を備えている(図2参照)。このゴニオメータ10の構成については、後に詳細に説明するが、ゴニオメータ10により試料SのX線入射面Soに対するX線源1からのX線の入射角度θが調整されるとともに、入射X線に対して角度2θの方向(すなわち、試料Sから回折してくる回折X線の現れる方向)にX線検出器4が旋回して配置される。
【0025】
さらに、X線回折装置には、試料SのX線入射面Soと対向する位置にX線遮蔽部材20が設けてある。X線遮蔽部材20は、X線を透過させない材料でありさえすれば、特定の材料に限定されない。例えば、真鍮、鋼材、鉛等によって形成できる。また、X線遮蔽部材20の形状も特定の形状に限定されないが、それを板状部材によって形成することにすれば、ことさら大きな設置スペースを必要としなくなるので、有利である。一般には、X線遮蔽部材20はナイフエッジスリットとも称されており、板材の先端を尖った楔形状に加工したものが多い。
このX線遮蔽部材20は、試料SのX線入射面Soとの間に、X線源1から放射され試料SのX線入射面Soに照射される入射X線が通過できる隙間を形成する。
【0026】
加えて、X線回折装置には、X線回折測定の実行中にゴニオメータ10による試料SへのX線入射角度θの変更に対応して、試料SのX線入射面Soと直交する方向にX線遮蔽部材20を移動させて、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間の広さを調整する隙間調整機構21(隙間調整手段)が組み込まれている(図2参照)。
【0027】
既述したように、試料Sに対するX線の入射角度θが変更されたとき、X線遮蔽部材20が配設された試料Sの対向位置では、入射X線の幅が入射角度θの変更に伴い変化する。隙間調整機構21は、かかる入射角度θの変更に伴う入射X線の幅の変化に対応して、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間の広さを調整する機能を有している。
この隙間調整機構21の作動によって、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間が、そこを通過する入射X線の幅に合わせて調整される。
【0028】
次に、図2〜図5を参照して、ゴニオメータ10に組み込まれた隙間調整機構21について説明する。
ゴニオメータ10は、X線入射角度調整機構としてのθ回転盤11と、検出器旋回アームとしての2θ旋回アーム12と備えている。これらθ回転盤11と2θ旋回アーム12は、同一の回転軸を中心にしてθ回転盤11が角度θだけ回転したとき、これに連動して2θ旋回アーム12が角度2θだけ旋回する構成となっている。
θ回転盤11には、試料台3が搭載してあり、この試料台3に試料Sが保持される。このθ回転盤11の回転とともに試料台3が回転して、試料台3に保持された試料SのX線入射面SoとX線源1との間の相対角度に関する位置関係を変更する。これにより、試料Sに対するX線の入射角度が変更される。
2θ旋回アーム12には、X線検出器4が搭載してある。X線検出器4は、2θ回転アームとともに試料SのX線入射面Soの周囲を旋回する。これにより、試料台3に保持された試料SのX線入射面SoとX線検出器4との間の相対角度に関する位置関係が変更され、試料Sから回折してくる回折X線を検出する位置までX線検出器4が移動する。
【0029】
本実施形態では、カム機構によってこの隙間調整機構21を構成してある。すなわち、隙間調整機構21は、案内支持機構22と、カム23と、カムフォロア24とを含んでいる。案内支持機構22は、試料台3に固定された支持盤22aにスライダ22bが摺動自在に組み込まれた構成をしており、このスライダ22bにX線遮蔽部材20が装着されている。スライダ22bの移動方向は、試料SのX線入射面Soと直交する方向に設定されている。X線遮蔽部材20は、スライダ22bとともに試料SのX線入射面Soと直交する方向へ往復移動する。
【0030】
カム23は2θ旋回アーム12に固定されており、同旋回アームの旋回動作とともに作動する(図4参照)。一方、カムフォロア24は、スライダ22bの裏面に装着されている(図4、図5参照)。このカムフォロア24は、カム23に形成したカム面に当接している。したがって、2θ旋回アーム12とともにカム23が作動したとき、カム面の形状に基づいてカムフォロア24がスライダ22bとともに直線移動する。スライダ22bには、X線遮蔽部材20が装着されているため、カムフォロア24の移動はそのままX線遮蔽部材20の移動となる。
カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する入射X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してある。
【0031】
次に、カム23に形成したカム面の構成例について、図6〜図11を主に参照して説明する。
本実施形態では、試料SのX線入射面Soに入射するX線の照射幅Lを固定したいわゆる「照射幅固定法」によりX線回折測定を実施する場合に適したカム面の構成例と、X線源1から放射されX線入射面Soに入射するX線の発散角を一定にしたいわゆる「発散角固定法」によりX線回折測定を実施する場合に適したカム面の構成例とに分けて説明する。
【0032】
〔照射幅固定法でのカム面の構成例〕
照射幅固定法では、図6に示すように、試料SのX線入射面Soに入射するX線の照射幅Lが一定となるように、発散角制限スリット2のスリット幅を、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの変更に対応して変更している。このような発散角制限スリット2の作動を試料Sの回転と連動させて行う機構は、例えば特開平8−262196号公報に開示されている。
なお、照射幅固定法では、試料SのX線入射面Soに照射幅Lで照射されるX線(入射X線)の中央(L/2の位置)とX線源1の中心とを結ぶ軸を基準軸Oとして、X線源1とゴニオメータ10の回転中心とのなす角を入射角θと規定している。ゴニオメータ10は、この入射X線の照射幅Lの中央を回転中心に配置して、試料SとX線検出器4を回転させる。
ここで、X線遮蔽部材20は、試料SのX線入射面Soにおける照射幅Lの中央に対向する位置で、試料SのX線入射面Soに対して直交する方向に接近又は離間するように設定されているものとする。このX線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に入射X線を通過させる隙間Hが形成される。
【0033】
さて、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθxとすると、この角度θxと上記隙間Hとの間には、
tan(θx)=H/(L/2)
H=tan(θx)×(L/2) …(1)
という関係が成立している。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成する。
【0034】
なお、角度θxは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、入射角θから算出できる。例えば、X線源1から試料SにおけるX線の入射中央位置(L/2)までの基準軸Oの軌道と、試料SのX線入射面Soを含む仮想平面と、X線源1からこの仮想平面に引いた垂線とによって形成される直角三角形を利用して幾何学的に求めることができる。この直角三角形の各辺の長さa,b,cのうち、aは一定であり、b,cは入射角度θに対応して変化し、θの三角関数をもって算出できる。
そして、角度(θx)は、次の関係式から求めることができる。
tan(θx)=b/{c+(L/2)} …(2)
【0035】
図7は、X線源1から、入射X線の基準軸Oが試料Sへ入射する位置(L/2の位置)までの距離aを150mmに、試料SのX線入射面SoへのX線の照射幅Lを20mmにそれぞれ設定した場合の、入射角度θの変化に対する上記各値の算出結果を示している。
図8は、図7に示す算出結果に基づく入射角度θと隙間Hとの関係を示している。この関係に基づいて、入射角度θの変化に対して隙間Hは変わるように、隙間調整機構21におけるカム23のカム面を設計すればよい。
これらの設計は、図1に示すように、試料Sからの回折X線がX線検出器4上の一点に集光するX線光学系に対して特に有効である。
しかし、一次元の角度分解能をもったX線検出器を用いるX線光学系の場合などにおいては、上記算出した隙間Hでは、図9に示すように、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが、X線遮蔽部材20により遮蔽されてしまう可能性がある。そこで、カム面の製作に際しては、上記算出した隙間Hに基づき、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが遮蔽されないように、微調整する(オフセットさせる)ことが好ましい。
【0036】
また、図10に示すように、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間Hの広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整することもできる。
すなわち、カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してもよい。
【0037】
試料Sから回折してくる回折X線が、X線源1と試料Sの外縁とのなす角度θpと同一角度で出射している場合についての関係を以下に示す。
【0038】
この場合は、試料Sから回折してくる回折X線の外縁Xpと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθpとすると、この角度θpと上記隙間Hとの間には、
tan(θp)=H/(L/2)
H=tan(θp)×(L/2) …(3)
という関係が成立する。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成すればよい。
【0039】
ここで、角度θpは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、入射角θから算出できる。例えば、X線源1から試料SにおけるX線の入射中央位置(L/2)までの基準軸Oの軌道と、試料SのX線入射面Soを含む仮想平面と、X線源1からこの仮想平面に引いた垂線とによって形成される直角三角形を利用して幾何学的に求めることができる。この直角三角形の各辺の長さa,b,cのうち、aは一定であり、b,cは入射角度θに対応して変化し、θの三角関数をもって算出できる。
そして、角度(θp)は、次の関係式から求めることができる。
tan(θp)=b/{c−(L/2)} …(4)
【0040】
また、試料Sから回折してくる回折X線が、X線源1と試料Sの外縁とのなす角度θpと同一角度で出射しない場合にあっては、次のような関係となる。
すなわち、X線検出器4におけるX線入射窓の有効幅をWとし、当該X線入射窓の中央位置をDP0、回折角の高角度側における端部位置をDP1とすると、DP0とDP1の間の距離はW/2となる。
ここで、試料SにおけるX線入射端の位置XP1(図1の左端位置)、X線遮蔽部材20の先端位置XP2、及び試料SにおけるX線の入射中央位置ORG0をそれぞれ頂点とする直角三角形と、この三角形と相似である上記XP1及び上記DP1をそれぞれ頂点とする直角三角形とを考え、これら三角形の相似関係から上記隙間Hを計算することができる。
すなわち、上記ORG0からDP0までの距離をRとすると、上記DP1の位置は、上記ORG0からのY座標(図の縦座標)の距離をd、同じくX座標(図の横座標)の距離をeとして、次式(5)から求めることができる。
d=R×sinθ+(W/2)×cosθ
e=R×cosθ−(W/2)×sinθ …(5)
【0041】
ここで、上記ORG0から上記DP0までの距離Rは、図16に示すように、X線源1から上記ORG0までの距離aと等しいとすると、上記隙間Hは次式(6)から求めることができる。
【0042】
【数1】
【0043】
図17は、W/2=6.4mmとして、(6)式より隙間Hを計算した結果を示している。
【0044】
〔発散角固定法でのカム面の構成例〕
発散角固定法では、図11に示すように、X線源1から放射されX線入射面Soに入射するX線の発散角βが一定となるように、発散角制限スリット2のスリット幅が固定されている。したがって、試料SのX線入射面Soにおいては、X線の照射幅Lが入射角度θの変更に対応して変化する。
なお、発散角固定法では、発散角の中央(β/2)を進行するX線の軌道を基準軸Oとして、この基準軸Oがゴニオメータ10の回転中心(X線入射面Soの中心)と交わる角度をもって入射角θを規定している。
【0045】
X線遮蔽部材20は、照射幅固定法のときと同様、試料SのX線入射面Soにおける照射幅Lの中央に対向する位置で、試料SのX線入射面Soに対して直交する方向に接近又は離間するように設定されているものとする。このX線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に入射X線を通過させる隙間Hが形成される。
【0046】
さて、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθxとすると、この角度θxと上記隙間Hとの間には、照射幅固定法のときと同様に、
tan(θx)=H/(L/2)
H=tan(θx)×(L/2) ・・・(7)
という関係が成立している。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成する。
【0047】
ここで、角度θxは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、入射角θから算出できる。例えば、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと、基準軸Oと、試料SのX線入射面Soとで形成される三角形の内角の総和から、
(β/2)+(θx)+(180−θ)=180
(β/2)+(θx)−θ=0 ・・・(8)
の関係がわかる。この関係式からθxは算出できる。
【0048】
図12は、X線源1から、入射X線の基準軸Oが試料Sへ入射する位置までの距離aを150mmに、入射X線の発散角βを1゜にそれぞれ設定した場合の、入射角度θの変化に対する上記各値の算出結果を示している。
図13は、図12に示す算出結果に基づく入射角度θと隙間Hとの関係を示している。この関係に基づいて、入射角度θの変化に対して隙間Hは変わるように、隙間調整機構21におけるカム23のカム面を設計すればよい。
【0049】
なお、発散角固定法においても、上記算出した隙間Hでは、図9に示すように、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが、X線遮蔽部材20により遮蔽されてしまう可能性がある。そこで、カム面の製作に際しては、上記算出した隙間Hに基づき、試料Sから回折してくる回折X線の広角側における外縁Xpが遮蔽されないように、微調整することが好ましい。
【0050】
また、図14に示すように、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間Hの広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整することもできる。
すなわち、カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してもよい。
【0051】
試料Sから回折してくる回折X線が、X線源1と試料Sの外縁とのなす角度θpと同一角度で出射している場合についての関係を以下に示す。
【0052】
この場合は、試料Sから回折してくる回折X線の外縁Xpと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度をθpとすると、この角度θpと上記隙間Hとの間には、照射幅固定法のときと同様に、
tan(θp)=H/(L/2)
H=tan(θp)×(L/2) …(9)
という関係が成立する。
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成すればよい。
【0053】
ここで、角度θpは、試料SのX線入射面Soに対するX線の入射角θの関数であり、次の関係式から算出できる。
(β/2)+θ+(180−θp)=180
(β/2)+θ−θp=0 …(10)
【0054】
また、他の構成例として、図18に示すように、X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間Hの広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整することもできる。
すなわち、カム23のカム面は、X線遮蔽部材20と試料SのX線入射面Soとの間に形成される隙間を、そこを通過する回折X線の幅に合わせるように、X線遮蔽部材20を駆動する形状に加工してもよい。
【0055】
この場合は、試料Sから回折してくる回折X線の外縁Xpと上記隙間Hとの間には、照射幅固定法のときと同様に、
【数2】
という関係が成立する。
【0056】
隙間調整機構21におけるカム23のカム面は、この関係式に基づいて隙間Hが形成されるように、X線遮蔽部材20を移動させる形状に構成すればよい。
ここで、試料Sに試料の中央位置からβ/2の発散角でX線を照射したときの試料S上の照射幅は、X線源1に近い側では、次式で表される(図18参照)。
L/2=a×cosθ−[(a×sinθ)/tan{θ+(β/2)}] …(12)
【0057】
また、上記照射幅は、X線源1から遠い側では、次式で表される(図11参照)。
L/2=[(a×sinθ)/tan{θ−(β/2)}]−a×cosθ …(13)
【0058】
図18に示したように、本構成例では、上記(12)式を用いればよい。
図19は、W/2=6.4mmとして、(11)及び(12)式より隙間Hを計算した結果を示している。
【0059】
図15は、本発明の他の実施形態に係るX線回折装置の構成を示す図である。
同図に示す実施形態では、駆動モータ30を利用してX線遮蔽部材20を移動させるように隙間調整手段を構成している。
すなわち、隙間調整手段は、案内支持機構22と、駆動モータ30とを含んでいる。案内支持機構22は、先の実施形態と同様、試料台3に固定された支持盤22aにスライダ22bが摺動自在に組み込まれた構成をしており、このスライダ22bにX線遮蔽部材20が装着されている。スライダ22bの移動方向は、試料SのX線入射面Soと直交する方向に設定されている。X線遮蔽部材20は、スライダ22bとともに試料SのX線入射面Soと直交する方向へ往復移動する。
さらに、支持盤22aには駆動モータ30が搭載してあり、この駆動モータ30の駆動力が図示しない動力伝達機構を介してスライダ22bに伝えられ、スライダ22bが移動する構成となっている。動力伝達機構としては、ボールねじ機構や歯車機構等、公知の各種機構が適用できる。
【0060】
駆動モータ30は、図示しない制御装置によって駆動制御される。その駆動制御は、上述したとおり、試料SのX線入射面SoにおけるX線源1から遠い地点に入射する入射X線の外縁Xoと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度θxと、X線遮蔽部材20が試料Sとの間に形成する隙間Hと、の間の上記関係式(1)又は(7)に基づいて実行される。
【0061】
また、駆動モータ30は、上述したとおり、試料Sから回折してくる回折X線における広角側の外縁Xpと当該試料SのX線入射面Soとのなす角度θpと、X線遮蔽部材20が試料Sとの間に形成する隙間Hと、の間の上記関係式(3)又は(9)に基づいて実行することもできる。
【0062】
また、別のX線光学系では、駆動モータ30は、上述したとおり、試料Sから回折してくる回折X線における広角側の外縁Xpと、X線遮蔽部材20が試料Sとの間に形成する隙間Hと、の間の関係を、X線検出器4におけるX線入射窓の有効幅の半値であるW/2を考慮して求めた上記関係式(11)に基づいて実行することもできる。
すなわち、駆動モータ30の制御プログラムは、これらの関係式に基づいて隙間Hが形成されるようにX線遮蔽部材20を移動させる内容とすればよい。
【0063】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、ゴニオメータ10は、図2〜図5に示した構成のものに限定されるものではなく、各種構成をしたゴニオメータ10を搭載したX線回折装置に、本発明は適用することができる。
【0064】
また、上述した実施形態では、X線遮蔽部材を試料のX線入射面に鉛直な方向のみに移動させていたが、さらに、X線遮蔽部材を試料のX線入射面と平行な方向に移動させてもよい。さらにまた、試料に入射する入射X線の外縁と、試料から回折してくる回折X線の外縁とが交叉する位置(いわゆるクロスポイント)に合わせて、X線遮蔽部材を移動させることもできる。
【0065】
また、本発明のX線回折装置は、X線検出器として時間遅延積分方式のCCD(TDI−CCD)を用いる場合や、平面状に広い範囲で回折X線を検出するCCD等の二次元X線検出器を用いる場合など、X線検出器の前に受光スリットや散乱線防止スリット等を取り付けることができない場合に特に有効である。しかし、X線検出器の前にこれらの受光スリットや散乱線防止スリットが装着できる場合であっても、いっそう確実に散乱X線の進行を阻止するために適用が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
S:試料、So:X線入射面、O:基準軸、Xo:入射X線の外縁、Xp:回折X線の外縁、
1:X線源、2:発散角制限スリット、3:試料台、4:X線検出器、
10:ゴニオメータ、11:θ回転盤、12:2θ旋回アーム、
20:X線遮蔽部材、21:隙間調整機構、22:案内支持機構、22a:支持盤、22b:スライダ、23:カム、24:カムフォロア、30:駆動モータ、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源から放射されたX線の発散角を発散角制限手段で制限し、試料台に保持された試料のX線入射面に向かって照射するとともに、当該試料から回折してきた回折X線をX線検出器で検出する構成と、
前記X線源と、前記試料台に保持された試料のX線入射面と、前記X線検出器との間の相対角度に関する位置関係をゴニオメータにより変更させることで、試料に対するX線の入射角度を変更するとともに、試料から回折してくる回折X線の方向に前記X線検出器を配置する構成と、
試料のX線入射面と対向する位置にX線遮蔽部材を設け、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に、前記X線源から放射され試料のX線入射面に照射される入射X線が通過できる隙間を形成する構成と、
を備えたX線回折装置において、
前記ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、前記X線遮蔽部材を移動させ、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整する隙間調整手段を備えたことを特徴とするX線回折装置。
【請求項2】
前記隙間調整手段は、
前記試料台に固定され、前記X線遮蔽部材を支持して、前記試料のX線入射面と直交する方向に当該X線遮蔽部材を移動案内する案内支持機構と、
前記案内支持機構に沿って前記X線遮蔽部材を移動させるカム機構と、を備えていることを特徴とする請求項1のX線回折装置。
【請求項3】
前記ゴニオメータは、
前記試料台を回転して、当該試料台に保持された試料のX線入射面と前記X線源との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料に対するX線の入射角度を変更するX線入射角度調整機構と、前記X線検出器を搭載し前記試料のX線入射面の周囲を旋回して、前記試料台に保持された試料のX線入射面と前記X線検出器との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料から回折してくる回折X線の方向に前記X線検出器を配置させる検出器旋回アームと、を備えており、
前記カム機構は、
前記検出器旋回アームに固定されたカムと、前記X線遮蔽部材に装着され、前記カムのカム面と当接するカムフォロアと、を含む構成であり、
前記カムのカム面は、前記ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、前記X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、前記X線遮蔽部材を移動させる形状であることを特徴とする請求項2のX線回折装置。
【請求項4】
前記隙間調整手段は、
前記試料台に固定され、前記X線遮蔽部材を前記試料のX線入射面に対して接近又は離間する方向へ直線移動自在に案内する案内支持機構と、
前記ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、前記X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、前記X線遮蔽部材を駆動する駆動モータと、を含む構成であることを特徴とする請求項1のX線回折装置。
【請求項5】
前記X線遮蔽部材は、X線を透過させない材料により先端が尖った板状に形成されたナイフエッジスリットであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のX線回折装置。
【請求項1】
X線源から放射されたX線の発散角を発散角制限手段で制限し、試料台に保持された試料のX線入射面に向かって照射するとともに、当該試料から回折してきた回折X線をX線検出器で検出する構成と、
前記X線源と、前記試料台に保持された試料のX線入射面と、前記X線検出器との間の相対角度に関する位置関係をゴニオメータにより変更させることで、試料に対するX線の入射角度を変更するとともに、試料から回折してくる回折X線の方向に前記X線検出器を配置する構成と、
試料のX線入射面と対向する位置にX線遮蔽部材を設け、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に、前記X線源から放射され試料のX線入射面に照射される入射X線が通過できる隙間を形成する構成と、
を備えたX線回折装置において、
前記ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、前記X線遮蔽部材を移動させ、当該X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせて調整する隙間調整手段を備えたことを特徴とするX線回折装置。
【請求項2】
前記隙間調整手段は、
前記試料台に固定され、前記X線遮蔽部材を支持して、前記試料のX線入射面と直交する方向に当該X線遮蔽部材を移動案内する案内支持機構と、
前記案内支持機構に沿って前記X線遮蔽部材を移動させるカム機構と、を備えていることを特徴とする請求項1のX線回折装置。
【請求項3】
前記ゴニオメータは、
前記試料台を回転して、当該試料台に保持された試料のX線入射面と前記X線源との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料に対するX線の入射角度を変更するX線入射角度調整機構と、前記X線検出器を搭載し前記試料のX線入射面の周囲を旋回して、前記試料台に保持された試料のX線入射面と前記X線検出器との間の相対角度に関する位置関係を変更することで試料から回折してくる回折X線の方向に前記X線検出器を配置させる検出器旋回アームと、を備えており、
前記カム機構は、
前記検出器旋回アームに固定されたカムと、前記X線遮蔽部材に装着され、前記カムのカム面と当接するカムフォロアと、を含む構成であり、
前記カムのカム面は、前記ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、前記X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、前記X線遮蔽部材を移動させる形状であることを特徴とする請求項2のX線回折装置。
【請求項4】
前記隙間調整手段は、
前記試料台に固定され、前記X線遮蔽部材を前記試料のX線入射面に対して接近又は離間する方向へ直線移動自在に案内する案内支持機構と、
前記ゴニオメータによる試料へのX線入射角度の変更に対応して、前記X線遮蔽部材と試料のX線入射面との間に形成される隙間の広さを、試料に入射する入射X線又は試料から回折してくる回折X線の幅に合わせるように、前記X線遮蔽部材を駆動する駆動モータと、を含む構成であることを特徴とする請求項1のX線回折装置。
【請求項5】
前記X線遮蔽部材は、X線を透過させない材料により先端が尖った板状に形成されたナイフエッジスリットであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のX線回折装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−177688(P2012−177688A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−18618(P2012−18618)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]