説明

X線放射器の内部でX線放射器の振動を能動的に減衰させる装置及び方法

【課題】本発明の課題は、X線設備の雑音(システム雑音)を低減する別の装置及び別の方法を提供することである。
【解決手段】X線放射器(5)を備えた装置において、前記x線放射器(5)の内部に、前記X線放射器(5)の動作時に発生する振動(8)を低減するための対抗振動発生ユニット(1)が配置されており、該対抗振動発生ユニット(1)は前記X線放射器(5)と作用結合しており、前記振動(8)に対して180°位相シフトした対抗振動(9)を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線放射器の振動をX線放射器に作用する逆振動によって能動的に減衰させる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断層撮影機は診断又は治療目的で患者の検査部位の2次元又は3次元画像を生成する。例えば、コンピュータ断層撮影機は3次元の断層画像を生成する。コンピュータ断層撮影機の構造は固定した支持フレームを有するガントリー(=支持ポータル)を含んでおり、支持フレームの中には回転フレームが軸回りに回転可能に支承されている。回転フレームには、X線放射器とX線放射器に対向して配置された検出器とを含んだ撮影システムが取り付けられている。回転フレームの回転と同時に患者台上に寝かされた患者がシステム軸の方向に連続的に進むことによって、多数の異なる投影装置からの投影が螺旋状に取得される。X線放射器のX線を発生させる際に使用される電気エネルギーの99%までは熱エネルギーに変換されるので、コンピュータ断層撮影機は電子部品の過熱を防ぐために冷却装置を有している。
【0003】
断層撮影機の機械部品及び電気部品が動作すると、患者にもオペレータにも不快に感じられるレベルの雑音が発生する。例えば、回転フレームの回転、X線放射器内部のアノードの回転又は冷却装置の動作によって、煩わしい固体伝播音及び空気伝播音が発生する。X線放射器のケーシングによって、雑音の振幅を増大させる共鳴体が形成される。まさに走査時に患者が通るガントリートンネル内で患者は特に高い雑音レベルに曝される。
【0004】
それゆえ、断層撮影機の設計において重要な点は、断層撮影機の動作時に発生する雑音の最小化である。断層撮影機における煩わしい固体伝播音と空気伝播音の伝搬を阻止又は最小化するには、2つの異なるアプローチが存在する。1つは、雑音の原因となる構成要素を直接最適化することにより、雑音の発生を減らすことである。例えば、雑音の最適化されたピボット軸受を使用することにより、回転フレームの回転時又はアノードの回転時の固体伝播音の伝搬を最小化することが可能である。しかし、このような最適化はコスト高であり、達成される雑音の低減も通常は不十分である。
【0005】
もう1つのアプローチは、雑音減衰マットを使用して雑音の伝搬を阻止することである。例えば、空気伝播音を低減するために、断層撮影機のケーシングの内側に雑音遮断マットが接着される。さらに、部品の取付けのために設けられた接触箇所に相応の受動的な減衰材料を使用することにより、固体伝播音の伝搬も最小化される。しかし、遮断材料が所定の厚さを超えてからでないと、雑音の伝搬の効果的な低減は達成されない。しかし、遮断に使用可能な構造サイズは非常に限られている。したがって通常この措置は雑音を所望のレベルまで低減するには不十分である。
【0006】
それゆえ、特許文献1では、対抗音波装置を備えた断層撮影機と、この断層撮影機の動作時に発生する雑音を低減する方法とが示されている。対抗音波装置は、対抗音波信号を供給する制御ユニットと、この対抗音信号を雑音に対して180°位相シフトした対抗音波に変換する音波発生ユニットとを含んでいる。このようにして、断層撮影機の動作時の雑音を効果的に低減することができる。
【0007】
特許文献2には、支持フレームの振動を求め、この振動に基づいてこの振動を相殺する措置を講じるコンピュータ断層撮影機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】DE 102008047814 A1
【特許文献2】US 2005/0281391 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、X線設備の雑音(システム雑音)を低減する別の装置及び別の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この課題は独立請求項に記載されている装置及び方法によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】X線放射器と対抗振動発生ユニットとを備えたCアームを示す。
【図2】振動及び対抗振動のグラフを示す。
【図3】対抗振動発生ユニットを備えたX線管のブロック回路図を示す。
【図4】X線放射器の振動を能動的に補償する方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の基本思想は、雑音の原因となるX線放射器の振動を対抗する機械的振動によって補償するというものである。振動と対抗振動との干渉又は重ね合わせにより雑音は消える。
【0013】
本発明は、X線放射器と、X線放射器の動作時に発生する振動を低減する、X線放射器の内部に配置された対抗振動発生ユニットとを備えた装置を請求する。対抗振動発生ユニットはX線放射器と、例えば回転アノードと作用結合しており、振動に対して180°位相シフトした対抗振動を発生させる。振動発生器のごく近傍に能動的な対抗発振器を取り付けることにより、X線放射器によって発生した振動を直接発生箇所において低減することができる。その結果、他の設備部位への振動の伝達が低減ないし防止される。
【0014】
1つの実施形態では、対抗振動発生ユニットは少なくとも1つの電気力学変換器、圧電変換器又は電動変換器を含んでいてよい。
【0015】
1つの実施形態では、装置は振動の振幅、周波数及び位相位置を求める振動測定ユニットを含んでいてよい。
【0016】
さらに、振動測定ユニットは加速度センサ又はマイクロフォンを含んでいるか、又はX線放射器の回転アノードの回転数から振動パラメータを求めてもよい。
【0017】
さらに、装置は求めた振幅、周波数及び位相位置から対抗振動信号を求め、それによって対抗振動発生ユニットを制御する制御ユニットを含んでいてもよい。
【0018】
本発明はまた本発明による装置を有する断層撮影設備を請求する。
【0019】
本発明はまたX線放射器の振動を能動的に補償する方法を請求する。この方法では、X線放射器の動作時に発生する振動に対して180°位相シフトした対抗振動がX線放射器の内部で生成され、X線放射器にこの対抗振動が印加される。振動と対抗振動の和は最小化されなければならない。
【0020】
1つの実施形態では、振動の振幅、周波数及び位相位置が求められる。
【0021】
別の1つの実施形態では、求めた振動の振幅、周波数及び位相位置から対抗振動信号が求められ、この対抗振動信号によって対抗振動が制御される。
【0022】
本発明のさらなる特性及び利点は、以下の複数の実施例の概略図と説明から明らかとなる。
【実施例】
【0023】
図1には、CアームX線設備の一部が示されている。Cアーム6の両端には、X線放射器5とX線検出器7とが互いに向かい合って配置されている。X線放射器5は例えば図示されていない回転する回転アノードによって振動させられ、この振動がCアーム6に伝わり、雑音につながる。図2のグラフの曲線8はこのようにして生じた振動の時間経過を示したものである。本発明によれば、X線放射器5と作用結合した振動測定ユニット3、例えば加速度センサによって、関連するすべての方向において妨害振動の振幅、位相及び周波数が求められる。
【0024】
例えば4つの異なる方向に配置された圧電変換器2を含んだ対抗振動発生ユニット1によって、180°位相シフトした同じ周波数で同じ振幅の対抗振動がX線放射器5の内部でX線放射器5に印加される。妨害振動とこのようにして印加された対抗振動との重ね合わせにより、合成振動を最小化、又は理想的なケースでは消滅させることができる。制御回路によって妨害振動の変化を追跡してもよい。妨害振動の振動パラメータは、CアームX線装置が設置されている部屋の中でマイクロフォンを介して求めることができる。
【0025】
図2には、本発明による重ね合わせ原理のグラフが示されている。正規化された振幅Aがミリ秒単位の時間に依存して10msの期間にわたって示されている。曲線8はX線放射器の妨害振動を表している。曲線9はX線放射器と作用結合している対抗振動発生ユニットの同じ周波数の対抗振動を表している。対抗振動9は妨害振動9とほぼ同じ振幅Aを有している。180°の位相シフトにより、重ね合わせの際には、曲線10の合成振動が得られる。合成振動10の振幅Aがほぼゼロであることが見て取れる。この現象は波動論では干渉として知られている。
【0026】
図3には、本発明による装置のブロック回路図が示されている。X線放射器の内部に配置された対抗振動発生ユニット1の4つの変換器2がX線放射器5に接続されている。X線放射器5と作用結合している振動測定ユニット3はX線放射器5の振動を測定し、測定値を制御ユニット4に転送する。制御ユニット4は振動の振幅、周波数及び位相位置を求め、これらから対抗振動発生ユニット1を制御する対抗振動信号11を計算する。対抗振動発生ユニット1の4つの変換器2はそれぞれ異なる方向において対抗振動をX線放射器5に印加する。これにより合成振動は最小化される。
【0027】
図4には、X線放射器の振動を能動的に補償する本発明による方法のフローチャートが示されている。ステップ100では、X線放射器の振動の振幅、周波数及び位相位置が求められる。次のステップ101では、これらから対抗振動信号が求められる。ステップ102では、この対抗振動信号が対抗振動の振幅、周波数及び位相位置を制御する。ステップ103では、対抗振動信号に基づいて対抗振動が発生させられ、ステップ104においてX線放射器に内側から印加される。本方法は変化を考慮する制御ループにおいて実行される。
【符号の説明】
【0028】
1 対抗振動発生ユニット
2 変換器/アクチュエータ
3 振動測定ユニット
4 制御ユニット
5 X線放射器
6 Cアーム
7 X線検出器
8 X線放射器5の振動
9 対抗振動
10 合成振動
11 対抗振動信号
100 振動の振幅、周波数及び位相位置を求めるステップ
101 対抗振動信号を求めるステップ
102 対抗振動を制御するステップ
103 対抗振動を発生させるステップ
104 対抗振動をX線放射器に印加するステップ
A 振幅
t 時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線放射器(5)を備えた装置において、
前記X線放射器(5)の内部に、前記X線放射器の動作時に発生する振動(8)を低減するための対抗振動発生ユニット(1)が配置されており、該対抗振動発生ユニット(1)は前記X線放射器(5)と作用結合しており、前記振動(8)に対して180°位相シフトした対抗振動(9)を発生させる、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記対抗振動発生ユニット(1)は少なくとも1つの電気力学変換器(2)を含んでいる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記対抗振動発生ユニット(1)は少なくとも1つの圧電変換器(2)を含んでいる、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記対抗振動発生ユニット(1)は少なくとも1つの電動変換器(2)を含んでいる、請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記振動(8)の振幅(A)、周波数及び位相位置を求める振動測定ユニット(3)を有している、請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記振動測定ユニット(3)は加速度センサ及び/又はマイクロフォンを含んでいる、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記振動測定ユニット(3)は、前記X線放射器(5)の回転アノードの回転数から、前記振動(8)の振幅(A)、周波数及び位相位置を求める、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
求められた振幅(A)、周波数及び位相位置から対抗振動信号(11)を求め、該対抗振動信号により前記対抗振動発生ユニット(1)を制御する制御ユニット(4)を有している、請求項5から7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の装置を有することを特徴とする断層撮影設備。
【請求項10】
Cアーム又はガントリーを有する、請求項9に記載の断層撮影設備。
【請求項11】
X線放射器(5)の振動を能動的に補償する方法において、
前記X線放射器(5)の内部で、前記X線放射器(5)の動作時に発生する振動(8)に対して180°位相シフトした対抗振動(9)を発生させるステップ(103)と、
前記対抗振動(9)を前記X線放射器(5)に印加するステップ(104)とを有しており、
前記振動(8)と前記対抗振動(9)の和(10)は最小化されている、
ことを特徴とするX線放射器(5)の振動を能動的に補償する方法。
【請求項12】
前記振動(8)の振幅(A)、周波数及び位相位置を求めるステップ(100)を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記振動(8)の振幅(A)、周波数及び位相位置から対抗振動信号(11)を求めるステップ(101)と、
前記対抗振動信号(11)により前記対抗振動(9)を制御するステップ(102)とを有する、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−239902(P2012−239902A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113075(P2012−113075)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】