説明

X線画像診断装置、画像処理装置及びプログラム

【課題】長尺撮影画像を構成する複数枚の撮影画像において、隣り合う画像間の接合部を精度良く、かつ高速に求め、更に、長尺撮影画像の濃度むらを十分にかつ適切に抑えることを目的とする。
【解決手段】X線照射部10と、X線検出器20と、隣り合う複数のデジタル画像データの重複位置をずらしながら、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値の差異を用いた指標値のばらつきを求め、その指標値のばらつきが最小となる重複位置を、接合箇所として求める接合箇所検出部32と、指標値のばらつきが最小となるときの指標値の代表値を用いて、隣り合うデジタル画像データの接合箇所における濃度の連続性を確保するように、少なくとも一方のデジタル画像データを濃度補正する濃度補正部33と、濃度補正後のデジタル画像データを接合箇所において接合して長尺撮影画像を作成する長尺画像撮影部34と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線画像診断装置、画像処理装置及びプログラムに係り、特に、被検体(観察したい部位)が1回の撮影ではX線検出器に収まりきれない場合において、X線管球およびX線検出器の位置を変更しながら2回以上の撮影を連続的に実施して、その時にX線検出器より得られた2枚以上のデジタル画像データを基に長尺撮影画像を取得可能なX線画像診断装置、また、2枚以上のデジタル画像データを補正・連結させて長尺撮影画像を作成する画像処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
長尺撮影画像を作成・取得可能なX線画像診断装置は、被検体へX線を照射するX線管球と、被検体を透過したX線を検出し、X線強度分布のデジタル画像データを出力する2次元X線平面検出器(以下、FPD:Flat Panel Detector)を備え、それらを被検体の長軸方向に移動させながら、長尺撮影画像を構成する2枚以上のデジタル画像データを取得する。
【0003】
長尺撮影画像を作成するに当たり、要求される技術的な要素としては、1)隣り合うデジタル画像データの位置合わせ方法(隣り合うデジタル画像データの接合部を検出する方法)、2)長尺撮影画像を構成する2枚以上のデジタル画像データの濃度を一定に補正する方法(長尺撮影画像の濃度むらを抑える方法)、の2点が主として挙げられる。
【0004】
前者に関しては、2枚のデジタル画像データを取得後、X線検出器、及びX線管球の位置情報から両画像で重複している領域を算出し、その領域内の画素値の微分情報から画素値のパターンを求め、画素値のパターンが同じになるよう、一方の画像を移動させて長尺撮影画像を作成することを特徴とするX線診断装置、が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、後者に関しては、複数枚のスロット状X線画像を取得後、各スロット状X線画像の直流成分を検出し、全スロット状X線画像の直流成分が同等となるよう補正を加え、それらを連結して長尺撮影画像を取得することを特徴とするX線撮影装置、が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-136421号公報
【特許文献2】特開2007-275228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記2つの技術は、上記要求される技術的な要素を独立して解決しており、単独では要求される技術的な要素2つを満たすことができない。
【0008】
また、特許文献1に関しては、ノイズの影響を受けやすく、微分情報のみでは重複領域における画素値のパターンを十分に抽出することができない場合もありうる。
【0009】
特許文献2に関しては、全スロット状X線画像の直流成分を揃えることでスロット状X線画像間の濃度むらを低減することは可能であるが、直流成分を同等にすることと接合部における濃度の連続性を確保することは等価ではないため、接合部における濃度の連続性を完全に満たせるとは限らない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、長尺撮影画像を構成する複数枚の撮影画像において、隣り合う画像間の接合部を精度良く、かつ高速に求め、更に、長尺撮影画像の濃度むらを十分にかつ適切に抑えることができるX線画像診断装置、画像処理装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るX線画像診断装置は、X線発生手段と、被検体を透過したX線を検出してデジタル画像データを出力するX線検出器と、を備え、前記被検体の同一部位を重複させて撮像した複数のデジタル画像データを、前記同一部位が撮像された領域を重複させて接合した長尺撮影画像を作成するX線画像診断装置において、隣り合う前記複数のデジタル画像データの重複位置をずらしながら、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値の差異を用いた指標値のばらつきを求め、その指標値のばらつきが最小となる重複位置を、接合箇所として求める接合箇所検出手段と、前記指標値のばらつきが最小となるときの指標値の代表値を用いて、前記隣り合うデジタル画像データの前記接合箇所における濃度の連続性を確保するように、少なくとも一方の前記デジタル画像データを濃度補正する濃度補正手段と、前記濃度補正後のデジタル画像データを前記接合箇所において接合して長尺撮影画像を作成する長尺画像撮影手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る画像処理装置は、被検体の同一部位を重複させて撮像した複数のデジタル画像データを、前記同一部位が撮像された領域を重複させて接合した長尺撮影画像を作成する画像処理装置において、隣り合う前記複数のデジタル画像データの重複位置をずらしながら、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値の差異を用いた指標値のばらつきを求め、その指標値のばらつきが最小となる重複位置を、接合箇所として求める接合箇所検出手段と、前記指標値のばらつきが最小となるときの指標値の代表値を用いて、前記隣り合うデジタル画像データの前記接合箇所における濃度の連続性を確保するように、少なくとも一方の前記デジタル画像データを濃度補正する濃度補正手段と、前記濃度補正後のデジタル画像データを前記接合箇所において接合した長尺撮影画像を作成する長尺画像作成手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る画像処理プログラムは、被検体の同一部位を重複させて撮像した複数のデジタル画像データを、前記同一部位が撮像された領域を重複させて接合した長尺撮影画像を作成する画像処理プログラムにおいて、隣り合う前記複数のデジタル画像データの重複位置をずらしながら、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値の差異を用いた指標値のばらつきを求め、その指標値のばらつきが最小となる重複位置を、接合箇所として求めるステップと、前記指標値のばらつきが最小となるときの指標値の代表値を用いて、前記隣り合うデジタル画像データの前記接合箇所における濃度の連続性を確保するように、少なくとも一方の前記デジタル画像データを濃度補正するステップと、前記濃度補正後のデジタル画像データを前記接合箇所において接合するステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記2つの要求される技術的な要素(接合部の検出、及び濃度補正)を一連の流れに基づいて実行し、かつ、2つのデジタル画像データの重複領域におけるデジタル値の差異を用いた指標値の代表値を利用して位置合わせ及び濃度補正を行なうため、計算量、及び演算の負荷も少なく、高速性が期待できる。
【0015】
また、上記2つの要求される技術的な要素を両方解決できるため、臨床において良質な長尺撮影画像を提供することが可能となり、診断能を向上させることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るX線画像診断装置の構成を示す概略図。
【図2】本実施形態に係るX線画像診断装置の動作の流れを示すフローチャート。
【図3】X線画像診断装置における長尺撮影時の機構系動作の一例を示す模式図。
【図4】長尺撮影画像の作成の一例を示す説明図。
【図5】本実施形態に係る接合領域・濃度補正値検出処理の流れを示すフローチャート。
【図6】X線画像診断装置における撮影時のジオメトリを示す模式図。
【図7】接合領域・濃度補正値検出処理を示す模式図。
【図8】本発明における濃度補正の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るX線画像診断装置の構成を示す概略図である。
【0018】
本実施形態に係るX線画像診断装置1は、図1に示すように、被検体2にX線を照射するX線照射部10と、X線照射部10と対向に配置され、被検体2を透過した後のX線強度分布をデジタル画像データとして出力するX線検出部20と、X線検出部20から出力されたデジタル画像データに各種補正、及び処理を行ない、長尺撮影画像を作成する画像処理部30と、長尺撮影の撮影枚数と、画像処理部30における位置合わせ、及び濃度補正の際、基準となる撮影画像を設定する第1撮影パラメータ設定部40と、画像処理部30において作成された長尺撮影画像に対して、ダイナミックレンジ圧縮(以下、DRC:Dynamic Range Compression)処理、鮮鋭化フィルタ処理、表示階調処理、等の画像処理を行ないViewerに合わせて画質を最適化する際の各種パラメータを設定する第2撮影パラメータ設定部50と、画像処理部30から出力される画像データをデジタルアナログ変換するD/A変換器60と、CRTやLCDの電子デバイスにより構成され、アナログ変換された画像を表示する画像表示部70と、を有している。
【0019】
X線照射部10は、フィラメントより放出された電子をターゲットに衝突させX線を発生させるX線管球11と、X線管球11で発生したX線が照射される領域を、X線吸収率の高い金属の開閉にてコントロールするX線絞り12と、により構成される。
【0020】
画像処理部30は、X線検出部20から出力されたデジタル画像データに対して対数変換を施す対数変換部31と、対数変換部31において対数変換を施されたデジタル画像データを基に、隣り合うデジタル画像データ間の接合部を探索・検出する接合箇所検出部32と、接合箇所検出部32において検出された接合箇所の濃度情報に基づき、隣り合うデジタル画像データ間のX線量の差を求め、その差を利用して、隣り合うデジタル画像データ間の接合部における濃度の連続性を確保するよう、対数変換部31において対数変換を施されたデジタル画像データを補正する濃度補正部33と、濃度補正部33で補正されたデジタル画像データを、接合箇所検出部32において検出された接合部の情報に基づき、連結させて長尺撮影画像を作成する長尺撮影画像作成部34と、長尺撮影画像作成部34において作成された長尺撮影画像に対して、DRC処理、鮮鋭化フィルタ処理、表示階調処理、等の画像処理を行ないViewerに合わせて画質を最適化する表示画像最適化部35と、より構成される。対数変換部31、接合箇所検出部32、濃度補正部33、長尺撮影画像作成部34、表示画像最適化部35は、上記機能を実現するための画像処理プログラムと、演算・制御装置(例えばCPU)、記憶装置(例えばメモリ、HDD)、及び入出力装置からなるコンピュータと、により構成され、画像処理プログラムとコンピュータとが協働することにより上記機能が実現される。
【0021】
次に、本発明に係るX線画像診断装置の動作・原理を図2乃至図8に基づいて説明する。図2は、本実施形態に係るX線画像診断装置の動作の流れを示すフローチャートである。図3は、X線画像診断装置における長尺撮影時の機構系動作の一例を示す模式図である。図4は、長尺撮影画像の作成の一例を示す説明図である。図5は、本実施形態に係る接合領域・濃度補正値検出処理の流れを示すフローチャートである。図6は、X線画像診断装置における撮影時のジオメトリを示す模式図である。図7は、接合領域・濃度補正値検出処理を示す模式図である。図8は、本発明における濃度補正の一例を示す説明図である。以下、図2のステップに沿って説明する。
【0022】
(ステップS1)
長尺撮影を実施する検査に先立ち、長尺撮影画像の作成に必要なパラメータを設定する(S1)。より具体的には、第1撮影パラメータ設定部40に、1)長尺撮影の撮影枚数と、2)画像処理部30における位置合わせ、及び濃度補正の際、基準となる撮影画像、を設定する。ここで、基準となる撮影画像とは、例えば、長尺撮影画像の元となる撮影画像を3枚取得した場合、3枚の撮影画像のうち、基準となる画像である。他の撮影画像は基準となる撮影画像に合わせて濃度補正が行なわれる。更に、撮影画像を連結させて長尺撮影画像を作成する際、基準となる撮影画像に他の撮影画像の接合部が合うようにシフトさせて連結する。
【0023】
併せて、第2撮影パラメータ設定部50に、画像処理部30内の表示画像最適化部35において施されるDRC処理、鮮鋭化フィルタ処理、表示階調処理、等の画像処理パラメータを設定する。
【0024】
(ステップS2)
X線撮像が行なわれる(S2)。図3を用いて、撮影画像4枚にて長尺撮影画像を構成する際のX線画像診断装置1の機構系動作を説明する。本実施形態に係るX線画像診断装置1は、長尺撮影画像の元となる撮影画像を取得する際、隣り合う撮影画像にて重複領域を有するように、かつ、隣り合う撮影画像中の重複領域におけるX線入射角が極力等しくなるように撮影可能な機構、及び制御方法を採る。理由は次の通りである。ある撮影対象物をX線入射角が異なる状態で撮影すると、撮影対象物のX線検出器20への投影角が異なり、画像中に異なる対象物として表れる可能性が高いからである。但し、撮影対象物が球の形状をしている場合にのみ、上記可能性から完全に回避される。
【0025】
更に、本実施形態に係るX線画像診断装置1は、長尺撮影画像の元となる撮影画像を取得する際、どの撮影位置においてもX線管球11の焦点位置からX線検出器20のX線入射面の位置(以下、「X線検出位置」という)間の距離(以下、SID:Source Image Distance)が一定となるような機構、及び制御方法を採る。理由は次の通りである。同図に示す通り、X線検出位置と天板(ひいては被検体)との距離は常に一定であるため、撮影位置が同図の撮影位置(1)、撮影位置(2)、撮影位置(3)、撮影位置(4)と変化するに従ってSIDも変化する場合、撮影対象物がX線検出器20へ投影される拡大率が異なり、同一対象物であっても、大きさが異なる対象物として画像中に表れるからである。
【0026】
上記の機構、及び制御方法は、隣り合う撮影画像間の接合部における連続性を確保する観点において重要である。
【0027】
X線照射部10から照射されたX線は、各位置において被検体2を透過後、X線検出部20よりデジタル画像データとして出力され、画像処理部30へ送られる。
【0028】
(ステップS3)
画像処理部30において、接合領域・濃度補正値検出処理が行なわれる(S3)。図4の撮影画像1、撮影画像2、撮影画像3、撮影画像4は、図3の撮影位置(1)、撮影位置(2)、撮影位置(3)、撮影位置(4)の各撮影位置で撮影された撮影画像に対応する。これら4枚の各撮影画像は、隣り合う撮影画像と重複させて接合するための重複領域(図4中、重複領域A〜C)を有している。長尺撮影画像を作成する際は、重複領域の情報を基に、接合箇所(接合領域ともいう)を探索・検出して、それらがマッチングするよう隣り合う撮影画像を接合し、長尺撮影画像を作成する。すなわち、撮影画像1が長尺撮影画像中の領域1に、撮影画像2が領域2に、撮影画像3が領域3に、撮影画像4が領域4に対応する。
【0029】
X線検出部20は、撮影位置(1)、撮影位置(2)、撮影位置(3)、撮影位置(4)の各撮影位置において、撮影画像1、撮影画像2、撮影画像3、撮影画像4となるデジタル画像データを出力し、画像処理部30にこれらのデジタル画像データを送信する。画像処理部30は、接合領域・濃度補正値検出処理(S3)、濃度補正処理(S4)、接合処理(S5)、画質最適化処理(S6)を行って長尺撮影画像を作成し、その後、D/A変換・表示処理(S7)を行い表示する。以下、図5のステップに沿って接合領域・濃度補正値検出処理の詳細を説明し、これに続いて上述の濃度補正処理(S4)、接合処理(S5)、画質最適化処理(S6)、D/A変換・表示処理(S7)を説明する。
【0030】
(ステップS301)
まず、画像処理部30内の対数変換部31において、デジタル画像データに対して対数変換処理が行なわれる(S301)。一般的に、被検体への入射X線量と被検体を透過してX線検出器へ入射するX線量との間には一定の関係が成り立つ。すなわち、図6に示すように、被検体2への入射X線量をI、X線検出部20への入射X線量をIとすれば、次式が成り立つ。
【0031】
[数1]
I=I×exp(-μx)・・・(1)
但し、μを被検体2の組織吸収係数、xを被検体2の厚み、exp( )を指数関数とする。
【0032】
(ステップS302)
接合箇所検出部32は、隣り合う撮影画像間の接合領域を求めるために、暫定的な位置(例えば、図7における重複位置1)に隣り合う撮影画像を重複させる(S302)。
【0033】
(ステップS303)
接合箇所検出部32は、隣り合う撮影画像を重複させたときに対応(一致)する各撮影画像の画素位置の画素値(濃度情報)の差異を示す指標値を、重複領域内の各画素位置について求める。そして、その重複位置における指標値のばらつきを求める(S303)。図7の分布(1)は、重複位置1における各画素位置から求めた指標値の分布を示す。図7において、重複位置1、重複位置2、重複位置nのそれぞれに対応する分布(1)、分布(2)、分布(n)の形状が異なるように、指標値の分布は、重複位置によって異なる。そこで、接合箇所検出部32は、指標値の分布のばらつきの程度を示す値として、分散や標準偏差を用い、指標値のばらつきの程度を示す。また、指標値のばらつきの尺度として、{(各分布における指標値の最大値)−(各分布における指標値の最小値)}を用いてもよい。例えば、図7の分布(1)において、図中の指標値の最大値から指標値の最小値までの横軸(指標値)の幅が、上述の{(各分布における指標値の最大値)−(各分布における指標値の最小値)}に相当する。この値が小さいほど、指標値の分布の広がりが狭く、指標値のばらつきが少ないことと等価と考えられる。なお、本実施形態では、重複領域内の画素位置の全てにおいて指標値を求めることとしたため、図7中の各分布の度数の積分値は、各重複位置における重複領域(図7のグレー部分)の画素数と一致するが、所定の間引き数の画素位置で指標値を求めるとすると、分布の度数の積分値は、間引き後の画素位置の数と一致する。
【0034】
この画素値の差異は、各撮影画像を撮影したときのX線撮影条件の差異、特にX線量の差異に起因するものであり、上記指標値は、X線撮影条件の差異を示すものを用いる。
【0035】
以下、対数変換処理後のデジタル画像データの画素値の差異の求め方について説明する。同一被検体を異なるX線条件で撮影した場合について考察する。今、異なるX線条件で撮影した時に被検体へ入射するX線量をそれぞれI、I’(I>I’)、X線検出器20への入射X線量をそれぞれI、I’として、次式が成り立つと仮定する。
【0036】
[数2]
I=k×I’ ・・・(2)
但し、上記でIを高線量、I’を低線量と仮定しているため、k>1である。高線量時のX線検出器20への入射X線量を対数変換すると、次のようになる。
【0037】
[数3]
Log[I]
=Log[I×exp(-μx)]
=Log[I]+Log[exp (-μx)]
=Log[I]+(-μx)
=Log[k×I’]+(-μx)
=Log[k]+Log[I’]+(-μx) ・・・(3)
一方、低線量時のX線検出器への入射X線量を対数変換すると、次のようになる。
【0038】
[数4]
Log[I’]
=Log[I’×exp(-μx)]
=Log[I’]+Log[exp(-μx)]
=Log[I’]+(-μx)・・・(4)
式(3)及び式(4)より、次式が成り立つ。
【0039】
[数5]
Log[I]=Log[k]+Log[I’]・・・(5)
X線検出器20への入射X線量とX線検出器20から出力されるデジタル値(画素値)との関係はリニアであるため、式(3)〜式(5)はX線検出器20から出力されるデジタル値にそのまま適用可能である。従って、同一被検体を異なるX線条件で撮影した場合、得られた画像のうち、補正を加える一方の画像に対して式(5)の右辺第一項分だけ加算(または減算)すれば、同一濃度を有する画像となる、すなわち、長尺撮影画像を構成する隣り合う撮影画像の重複領域から上記Log [k]に相当する値を求め、補正を加える一方の画像に対して加算/減算することで、隣り合う撮影画像間の濃度むらを抑えることが可能である。
【0040】
また、X線検出器20の位置によって吸収差が異なる被検体を異なるX線条件で撮影した場合、位置ずれが無いとすれば、両画像を対数変換後、高線量撮影画像から低線量撮影画像を減算すると、上記Log[k]に相当する画素値を有するフラットな画像が得られる。位置ずれが在る場合、フラットな画像とはならない。
【0041】
この性質は、長尺撮影画像を複数枚の撮影画像から作成する場合にも応用することが可能であり、重複領域を有する隣り合う撮影画像における接合領域を検出する際に利用できる。例えば、重複領域を有する2枚の撮影画像から長尺撮影画像を作成する場合を考えると、一方の画像中の重複領域内で基準領域を定め、前記基準領域をもう一方の画像中の重複領域内において上下左右にシフトさせながら、基準領域内で画像間の差分値を算出していくと、画像間で画素値分布のパターンがマッチングしているところでは、基準領域内での画像間の差分値がある値(上記Log[k]に相当)で一定になる。すなわち、基準領域内での画像間の差分値がある値で一定となるような位置を求め、その位置で接合することで、長尺撮影画像を構成する隣り合う撮影画像間の位置ずれを抑えることが可能である。
【0042】
(ステップS304)
全ての重複位置について指標値のばらつきを求めたか否かが判断され、否定であれば、ステップS305へ進み、肯定、すなわち全ての重複位置での指標値の分布を求めると、ステップS306へ進む。
【0043】
(ステップS305)
接合箇所検出部32は、隣り合う撮影画像の重複位置をずらして、新たな重複位置(例えば図7の重複位置2)を設定する(S305)。そしてステップS303へ戻り、処理を繰り返す。
【0044】
(ステップS306)
接合箇所検出部32は、全ての指標値の分布を用いて指標値のばらつきが最小となる重複位置を接合箇所として検出する(S306)。指標値のばらつきが最小となる場合の理想的な状態では、図7の重複位置nにおける分布(n)のように、指標値がある値、例えばLog[k]に集約する。この状態は、重複したときに一致する全画素位置において、画素値の差異が等しくなることを意味する。
【0045】
(ステップS307)
接合箇所検出部32は、指標値のばらつきが最も少ない重複位置での指標値の代表値を求める(S307)。指標値は、度数の最頻値、中央値、平均値などを用いてもよいが、本実施形態では最頻値のLog[k]を指標値の代表値として求める。この代表値が、ステップS4で用いる濃度補正値となる。
【0046】
(ステップS4)
そこで、濃度補正部33は、補正対象となる撮影画像の画素値に、接合箇所検出部32で接合領域を求めた際の基準領域内での画像間の差分値(濃度補正値に相当)、Log[k]を加算/減算することで濃度補正を行なう(S4)。
【0047】
(ステップS5)
長尺撮影画像作成部34では、接合領域検出部32で検出された接合領域の情報に基づいて、濃度補正部33で濃度補正された画像を連結させることで1枚の長尺撮影画像を作成する(S5)。
【0048】
(ステップS6)
表示画像最適化部35は、ステップS1において第2撮影パラメータ設定部50により設定されたパラメータに基づいて、長尺撮影画像作成部34において作成された長尺撮影画像に対して、DRC処理、鮮鋭化フィルタ処理、表示階調処理、等の画像処理を行ないViewerに合わせて画質を最適化する(S6)。
【0049】
(ステップS7)
D/A変換器60は、画像処理部30にて各種画像処理が施されたデジタル画像データをアナログ信号へ変換し、画像表示部70にて処理された画像が表示される(S7)。
【0050】
本実施形態に係るX線画像診断装置1を用いて4枚の撮影画像を接合して長尺撮影画像を作成する場合における濃度補正から接合までの処理を、図8を基に説明する。本例では、第1撮影パラメータ設定部40に、撮影枚数4枚、基準画像2枚目(同図中、撮影画像2)、と事前設定されたものとする。
【0051】
まず、撮影画像1と撮影画像2間で接合領域を検出、その後、撮影画像1の濃度補正を行ない、濃度補正後の撮影画像1を撮影画像1’とする。それと並行して、残りの2枚(同図中、撮影画像3、及び撮影画像4)においても接合領域を検出、一方の濃度補正を行なう。その際、濃度補正を加える画像はどちらでも構わない。本例では、撮影画像3に濃度補正を加えることとし、濃度補正後の撮影画像3を撮影画像3’とする(第1段階の濃度補正)。
【0052】
次に、撮影画像2と撮影画像3’間で接合領域を検出、その後、撮影画像3’、及び撮影画像4の濃度補正を行なう。尚、第1段階の濃度補正にて、撮影画像3’は、撮影画像4と同一濃度となる補正を行なっているため、ここでは、撮影画像2と撮影画像3’の重複領域を用いた接合領域の検出、及び濃度補正であるが、撮影画像3’に加えられる濃度補正値をそのまま撮影画像4へ適用することができる。濃度補正後の撮影画像3’、撮影画像4を、それぞれ撮影画像3”、撮影画像4’とする(第2段階の濃度補正)。第2段階の濃度補正が終わった時点で、撮影画像1’、撮影画像2、撮影画像3”、撮影画像4’は、基準画像である撮影画像2の濃度値に合わせた濃度補正が施されている。
【0053】
その後、接合領域の情報に基づいて、撮影画像1’、撮影画像2、撮影画像3”、撮影画像4’を連結させ1枚の長尺撮影画像を作成する。
【0054】
本実施形態によれば、接合領域を検出するための指標値の代表値を用いて、濃度値補正を行うため、接合領域の検出と同時に濃度補正値も決まる。そのため、X線撮影から長尺撮影画像の作成までの処理をより高速に行うことができる。さらに、濃度補正値を用いて、補正対象となる撮影画像全体について濃度補正を行うため、接合領域との濃度の連続性を確保した長尺撮影画像を作成することができる。
【0055】
上記実施形態では、X線検出器から出力されたデジタル画像データに対数変換処理を施し、対数変換された画素値の差分値のばらつきを用いて接合箇所を検出したが、X線検出器から出力されたデジタル画像データの画素値を対数変換することなく用いてもよい。この場合、隣り合う撮影画像の重複させたときに対応する画素の画素値のうちの、一方の撮影画像(補正対象となる画像)画素値を、他方の撮影画像(基準画像)の画素値で除算した商(例えばk)のばらつきを、前述の指標値として用いることもできる。そして、ばらつきが最も少ない重複領域を接合領域とし、このときの商(例えばk)を濃度補正値とし、他方の撮影画像の画素値にkを乗算又は除算する濃度補正を行う。これにより、対数変換部を有することなく、上記実施形態と同様の接合領域検出及び濃度補正を行うことができる。また、対数変換後の差分、対数変換前のデジタル値の商に限らず、本実施形態と同様の作用効果を奏する値を指標値であれば、いかなる指標値を用いてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、隣り合う原画像を重ね合わせる位置(図7の重複位置に相当)をずらしながら、指標値のばらつきを求めたが、一方の原画像における他方の原画像に近い側の端部から所定の範囲、好ましくは、接合領域よりも若干広い範囲に重複領域を設定し、他方の原画像における上述の一方の原画像に近い側に基準領域を設定し、この基準領域を重複領域内で移動させながら指標値のばらつきを求めてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1:X線画像診断装置、2:被検体、10:X線照射部、11:X線管球、12:X線絞り、20:X線検出部、30:画像処理部、31:対数変換部、32:接合箇所検出部、33:濃度補正部、34:長尺撮影画像作成部、35:表示画像最適化部、40:第1撮影パラメータ設定部、50:第2撮影パラメータ設定部、60:D/A変換器、70:画像表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線発生手段と、被検体を透過したX線を検出してデジタル画像データを出力するX線検出器と、を備え、前記被検体の同一部位を重複させて撮像した複数のデジタル画像データを、前記同一部位が撮像された領域を重複させて接合した長尺撮影画像を作成するX線画像診断装置において、
隣り合う前記複数のデジタル画像データの重複位置をずらしながら、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値の差異を用いた指標値のばらつきを求め、その指標値のばらつきが最小となる重複位置を、接合箇所として求める接合箇所検出手段と、
前記指標値のばらつきが最小となるときの指標値の代表値を用いて、前記隣り合うデジタル画像データの前記接合箇所における濃度の連続性を確保するように、少なくとも一方の前記デジタル画像データを濃度補正する濃度補正手段と、
前記濃度補正後のデジタル画像データを前記接合箇所において接合した長尺撮影画像を作成する長尺画像撮影手段と、
を備えることを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項2】
前記デジタル画像データに対して対数変換を施す対数変換部を更に備え、
前記接合箇所検出手段は、前記指標値として、各重複位置において一致する画素位置の対数変換後のデジタル値間の差分を求め、
前記濃度補正手段は、前記差分のばらつきが最小となるときの差分の代表値を、少なくとも一方の前記デジタル画像データのデジタル値に加算又は減算する濃度補正を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線画像診断装置。
【請求項3】
前記接合箇所検出手段は、前記指標値として、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値間を除算した商を求め、
前記濃度補正手段は、前記商のばらつきが最小となるときの商の代表値を、少なくとも一方の前記デジタル画像データのデジタル値に乗算又は除算する濃度補正を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線画像診断装置。
【請求項4】
前記接合箇所検出手段は、一方の前記デジタル画像データに重複領域を設定し、他方の前記デジタル画像データに、前記重複領域よりも小さい領域からなる基準領域を設定し、その基準領域を前記重複領域内で移動させながら、前記指標値のばらつきを求める、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のX線画像診断装置。
【請求項5】
前記接合箇所検出手段は、前記複数のデジタル画像データのうちの一のデジタル画像データを基準画像データとし、残りのデジタル画像データを、前記基準画像データの位置に合わせるように前記接合箇所を求め、
前記濃度補正手段は、前記残りのデジタル画像データを、前記基準画像データの濃度に合わせるように濃度補正を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のX線画像診断装置。
【請求項6】
被検体の同一部位を重複させて撮像した複数のデジタル画像データを、前記同一部位が撮像された領域を重複させて接合した長尺撮影画像を作成する画像処理装置において、
隣り合う前記複数のデジタル画像データの重複位置をずらしながら、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値の差異を用いた指標値のばらつきを求め、その指標値のばらつきが最小となる重複位置を、接合箇所として求める接合箇所検出手段と、
前記指標値のばらつきが最小となるときの指標値の代表値を用いて、前記隣り合うデジタル画像データの前記接合箇所における濃度の連続性を確保するように、少なくとも一方の前記デジタル画像データを濃度補正する濃度補正手段と、
前記濃度補正後のデジタル画像データを前記接合箇所において接合した長尺撮影画像を作成する長尺画像作成手段と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
被検体の同一部位を重複させて撮像した複数のデジタル画像データを、前記同一部位が撮像された領域を重複させて接合した長尺撮影画像を作成する画像処理プログラムにおいて、
隣り合う前記複数のデジタル画像データの重複位置をずらしながら、各重複位置において一致する画素位置のデジタル値の差異を用いた指標値のばらつきを求め、その指標値のばらつきが最小となる重複位置を、接合箇所として求めるステップと、
前記指標値のばらつきが最小となるときの指標値の代表値を用いて、前記隣り合うデジタル画像データの前記接合箇所における濃度の連続性を確保するように、少なくとも一方の前記デジタル画像データを濃度補正するステップと、
前記濃度補正後のデジタル画像データを前記接合箇所において接合するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−224170(P2011−224170A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97188(P2010−97188)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】