説明

X線管およびX線管の動作方法

【課題】回転管球型X線放射器の特にビーム品質を改善する。
【解決手段】回転可能な真空容器(2)を備え、この容器(2)の内部に、電子ビームを放出する陰極(5)とこの陰極と協働する陽極(4)とが配置され、さらに、その容器(2)の外側に配置され電子ビームに影響を及ぼすために設けられた第1の4極子磁石系(8)を備えているX線管において、このX線管が、第1の4極子磁石系(8)から電子ビームのビーム方向に隔てられた第2の4極子磁石系(9)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転可能な真空容器を備え、この容器の内部に、電子ビームを放出するように構成された陰極とその陰極と協働する陽極とが配置され、その容器の外側に、電子ビームに影響を及ぼすために4極子磁石系が配置されているX線管に関する。更に本発明は、このようなX線管の動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような回転管球型X線管は、例えば特許文献1から公知である。この場合には4極子磁石系の個々のコイル要素が1つの共通な支持体上に配置されている。
【0003】
4極子磁石系を有する他のX線管が特許文献2から公知である。この場合には4極子磁石系に加えて、これに空間的に後置接続されたコイルが設けられており、このコイルによりX線管の陽極上の集束点に影響を及ぼすことができる。
【0004】
一般に電子源では、特にX線管における電子源では、電子の相互干渉が発生し、これは特に放出電子流が大きい場合に電子ビームの質を、場合によってはそれにより発生させられるX線の質も、著しく低下させる。
【0005】
放出された電子間の反発によるX線管内での電子ビームの集束の重大な障害は、例えば400mAを上回る大きな管電流で、特に同時に80kVを下回る比較的低い管電圧において観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第19631899号明細書
【特許文献2】独国特許第19810346号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、回転管球型X線放射器を、上記従来技術に比べて、特にビーム品質に関して更に発展させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を有するX線管によって解決される。回転管球型X線放射器として構成されたX線管は回転可能な真空容器を有し、その容器の内部に、電子ビームを放出するように構成された陰極とこの陰極と協働する陽極とが配置されている。容器の回転軸線がビーム方向に一致し、この方向に電子が陰極から放出される。電子ビームに影響を及ぼすために、陰極と陽極との間に好ましくは容器の外側に、2つの4極子磁石系が回転軸線を基準として軸線方向に前後して配置されている。
【0009】
二重の4極子装置によって、例えば70kVの低い管電圧で同時に550mAを上回る大きな管電流の場合でさえも、電子ビームの良好な集束を達成することができる。特に医療技術用のX線装置の場合には電子ビームの質が画質に決定的な影響を及ぼす。
【0010】
二重4極子装置、即ち互いに隔てられた2つの同軸の4極子磁石系からなる装置による電子ビームの集束に基づいて、電子源のグリッド電圧は省略可能であり、又は精密最適化のためだけに使用される。グリッド電圧を全くなくすか又はほぼなくすことによって、従来のX線管に比べて幅広の電子ビームが生じ、このことが電子の相互干渉を比較的少なくする。従って、大きな電子流、即ち大きな管電流の場合でさえ僅かな空間電荷しか生じない。電子は、幅広のビームにて、容器の回転軸線に対して平行に、従って4極子磁石系の磁石軸線に対して平行に飛行し、これは4極子磁石系による効果的な集束のための最適条件である。従って、最終的に電子は陽極上の明確に規定された集束点に当たり、これによりそこで発生されるX線の高い幾何学的品質が生じる。
【0011】
2つの4極子磁石系は容器の回転軸線に関して互いにねじられて(回転移動した位置に)配置されているとよい。即ち2つの4極子磁石系のコイルが互いにねじられて配置されているか、もしくは2つの4極子磁石系の同じ回転角のもとに配置されたコイルの極性が逆にされているとよい。それにより2つの4極子磁石系によって異なる方向に電子ビームを制御することが的確に可能になる。
【0012】
特に90°ねじられた配置が用いられる。直列接続して互いに離間した2つの4極子磁石系を容器の回転軸線に関して互いに90°相対的にねじって(回転移動した位置に)配置することによって、的確に電子ビームの幅および高さに影響を及ぼすことができる。電子ビームの用語「幅」および「高さ」は、X線管の空間的配置に関係せず、容器の回転軸線に対して直角でありかつ互いに直角である2つの幾何学的な軸線に関係する。
【0013】
好ましい実施形態によれば、両4極子磁石系が同一寸法を有する。しかし、両4極子磁石系が異なる寸法を有する実施形態も、例えば陽極の近くに配置された4極子磁石系が陰極の近くに配置された4極子磁石系よりも大きい実施形態も実現可能である。
【0014】
有利な発展形態によれば、少なくとも一方の4極子磁石系が4つの4極子コイルに加えて2つの双極子コイルを有する。従って、付加的な双極子コイルを有する磁石系は、陽極の近くに配置される4極子磁石系であっても、陰極の近くに配置される4極子磁石系であってもよい。同様に両磁石系が、常に存在する4極子コイルに加えてそれぞれ2つの双極子コイルを有するのもよい。
【0015】
4極子コイルは好ましくは正方形の継鉄の各角(コーナ)に配置されていると有利である。場合によっては、付加的な双極子コイルが、それぞれ2つの4極子コイル間において、継鉄の対向位置する側面(側部)に配置されている。
【0016】
陰極の電子放出源として熱電子エミッタが設けられていると有利である。従って、電子は加熱電圧による陰極の加熱によって放出される。この場合に放出された電子流は加熱電圧にもエミッタ面積にも関係する。集束特性を有する両4極子磁石系の配置によって、従来装置に比べてエミッタを大きく、即ちエミッタ面積を大きく選ぶことができるという利点が得られる。エミッタの円形表面の半径が4mm以上であるとよい。通常の半径は3mmであり、円形エミッタの場合にこれはほぼ2倍のエミッタ面積拡張をもたらす。それによって動作中に、同じ大きさの放出電子流の場合には加熱電力を減らすことができ、それによってエミッタの寿命を明白に延ばすことができる。逆に、同時に同等の又は通常よりも低い加熱温度で高い放出電子流を達成することもできる。
【0017】
二重4極子装置による集束の更に別の格別な利点は、電子ビームの集束を専らこの二重4極子装置を介して行なうことができ、好ましくはこの二重4極子装置を介しても行なうことができることにある。従って、陰極には、いわゆるグリッド電圧又はゲート電圧を印加しなければならない付加的な集束電極が設けられていない。今日使用されているX線管の場合、このグリッド電圧は動作状態に応じて(陰極電位を基準として)1000Vまでの範囲にある。これは、相応に費用をかけて構成した電子制御装置を設けなければならないことを意味する。しかし、この比較的高いグリッド電圧の場合にはいつもアーチファクト又はフラッシュオーバが発生し、これは発生されるX線の質およびそれにともなう医用画像作成の質に不利な影響を及ぼす。従って、この種の集束電極が省略されると有利である。それによって更に、二重4極子装置へ入る電子ビームをできるだけ平行にすることができるという利点が得られる。高い平行性によって、4極子系により非常に効果的な集束および偏向が保証されている。
【0018】
エミッタの縁領域から、平行なビーム方向から強くはずれた電子が出射する。従って、精密最適化の意図で、有利な構成にて精密集束だけが行われる。このために、エミッタに直接に付設されたいわゆる焦点ヘッドに、陰極電位を基準としてとりわけ50Vだけの僅かの電圧が印加される。この電圧は比較的簡単な手段にて発生可能であるので、全体として制御電子装置が簡単に構成されている。
【0019】
更に、前記課題は請求項9記載のX線管の動作方法によって解決される。この方法の好ましい実施形態は従属請求項に記載されている。全体として、従来技術に比べて拡張された熱電子エミッタと共にここに記載されている構成、特に両4極子磁石系の組合せによって、例えば約70kVという比較的僅かな管電圧でしかも同時に例えば1500mAという大きな管電流においてX線管の動作が達成される。この方法を実施すべく全体として制御装置が適切に構成されている。
【0020】
以下において本発明の実施例を図面に基づいて更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は回転管球型X線放射器の概略側面図を示す。
【図2】図2は図1によるX線放射器の1つの4極子磁石系の第1の実施例の断面図を示す。
【図3】図3は図1によるX線放射器の1つの4極子磁石系の第2の実施例の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
全体として参照符号1にて示す回転管球型X線放射器(略してX線管とも称する)は、回転管球とも称する真空容器2を有する。このX線管1の原理動作については冒頭に引用した従来技術(特許文献1および特許文献2)に示されている。
【0023】
容器2内には一方側に電子源3が、他方側に円盤状の陽極4が配置されている。電子源3はエミッタとしての陰極5と、焦点ヘッド6とを有する。陰極5から出発する電子ビームの方向は、最初は容器2の回転軸線の位置と一致している。容器2を回転させる駆動装置は図1に示されていない。
【0024】
容器2の回転軸線を基準として電子源3に比べて著しく大きい半径方向の広がりを持つ陽極4に向かって、容器2は漏斗状の拡張部7を有する。電子源3と拡張部7との間の領域において、容器2は第1の4極子磁石系8と第2の4極子磁石系9とによって取り囲まれている。各4極子磁石系8,9の対称軸線は容器2の回転軸線と一致している。容器2と違って4極子磁石系8,9は回転しない。
【0025】
第1の4極子磁石系8は電子ビームに対して例えば主として水平方向に影響を及ぼすのに対して、第2の4極子磁石系9はこの例によれば電子ビームに対して主として垂直方向に影響を及ぼすために使用されている。エミッタ5から出発して陽極4に当たる電子ビームが図1に矢印で示されている。
【0026】
両4極子磁石系8,9は同一に構成されかつ設計されており、また同軸であるが互いに90°ねじられて配置されている。両4極子磁石系8,9間の間隔は、各両4極子磁石系8,9の軸線方向に、即ち容器2の回転軸線の方向に測った厚さに少なくとも相当する。4極子磁石系8,9からなる装置の全長、即ち軸線方向に測った広がりは、4極子磁石系8,9の半径方向の最大の広がりよりも少ない。
【0027】
4極子磁石系8,9の可能な実施形態を図2および図3に示す。各実施形態は、陰極5に近い側に配置された第1の磁石系8としても、陽極4に近い側に配置された第2の磁石系としても使用することができる。
【0028】
図2において、この実施例では各角にそれぞれ対角線方向に内側に向けられた継鉄突出部11を有する正方形の枠体状の継鉄10が認識できる。これらの継鉄突出部11のそれぞれの上には4極子コイル12、13があり、図示の極性は模範例とみなすべきである。例えば第1の4極子磁石系8が図2による極性を有するのに対して、第2の4極子磁石系9ではその極性が逆にされていて、これは上述の両4極子磁石系8,9の互いの90°のねじりと同じことを意味する。
【0029】
図3による配置では、4極子コイル12,13に加えて、2つの双極子コイル14,15が継鉄10上に、即ち枠体状継鉄10の4つの側面部16のうちの1つにそれぞれ配置されている。図示の実施例の代わりに側面部16が湾曲状に構成されていてもよい。側面部16によって形成された枠体の内部に4極子コイル12,13を配置し、この枠体の上に双極子コイル14,15を配置することによって、容器2の回転軸線からの隔たりに関して、4極子コイル12,13の方が双極子コイル14,15の方よりも少ない。
【0030】
X線管の動作は、図1に概略的に示された制御装置18により制御される。4極子磁石系8,9により動作するX線管1は、例えば70kVの低い管電圧、即ち陰極5と陽極4との間の電圧で、例えば1500mAの非常に大きな管電流用に設計されている。従って、このX線管1は患者に対して低い線量負担を有する医療技術用途に用いられる。同時に、二重にされた4極子磁石系8,9により陽極4上の集束点の鮮明さによって非常に高い画質を達成することができる。電子源3の耐久性にとって格別に有利な点は、X線管1を動作させるのに、電子源3におけるいわゆるグリッド電圧が集束目的のために必要とされず、用いられてもいないことにある。特に陰極の電子放出面が比較的大きく設計されている。従って、従来のX線管に比べて比較的大きな横断面積を有する電子ビームが放出される一方で、電子が焦点ヘッド6から出射した後にはじめて、直列接続されて互いに調整された4極子磁石系8,9により、格別に精密な電子集束が行なわれ、しかも4極子磁石系8,9は、単純な4極系を有する従来のX線管に比べて、付加的な占有スペースを必要とすることなく、容器2の円筒状部分17を取り囲んでいる。
【符号の説明】
【0031】
1 X線管(回転管球型放射器)
2 容器
3 電子源
4 陽極
5 陰極
6 焦点ヘッド
7 拡張部
8 第1の4極子磁石系
9 第1の4極子磁石系
10 継鉄
11 継鉄突出部
12 4極子コイル
13 4極子コイル
14 双極子コイル
15 双極子コイル
16 側面部
17 円筒状部分
18 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な真空容器(2)を備え、この容器(2)の内部に、電子ビームを放出する陰極(5)とこの陰極と協働する陽極(4)とが配置され、さらに、その容器(2)の外側に配置され電子ビームに影響を及ぼすために設けられた第1の4極子磁石系(8)を備えているX線管において、第1の4極子磁石系(8)から電子ビームのビーム方向に隔てられた第2の4極子磁石系(9)を有することを特徴とするX線管。
【請求項2】
第1の4極子磁石系(8)に対して第2の4極子磁石系(9)がねじられていることを特徴とする請求項1記載のX線管。
【請求項3】
第1の4極子磁石系(8)に対して第2の4極子磁石系(9)が90°ねじられていることを特徴とする請求項2記載のX線管。
【請求項4】
両4極子磁石系(8,9)が同一の寸法を有することを特徴とする請求項3記載のX線管。
【請求項5】
少なくとも1つの4極子磁石系(8,9)が、4つの4極子コイル(12,13)に加えて2つの双極子コイル(14,15)を有することを特徴とする請求項1乃至4の1つに記載のX線管。
【請求項6】
4極子コイル(12,13)が継鉄(10)の各角にそれぞれ配置され、双極子コイル(14,15)がその継鉄(10)の対向位置する側部に配置されていることを特徴とする請求項5記載のX線管。
【請求項7】
陰極(5)が電子放出源として熱電子エミッタを有することを特徴とする請求項1乃至6の1つに記載のX線管。
【請求項8】
陰極(5)における集束電極が省略されていること、および/または陰極(5)には、最大100V、特に最大50Vの微調整電位が印加可能である焦点ヘッド(6)が付設されていることを特徴とする請求項7記載のX線管。
【請求項9】
発生された電子ビームが両4極子磁石系(8)により集束させられることを特徴とする請求項1乃至8の1つに記載のX線管の動作方法。
【請求項10】
陰極(5)における電子ビームを集束電極により予集束することが省略されていることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
陰極(5)として好ましくは8mm以上の直径を有する熱電子エミッタにより電子が放出され、陰極(5)と陽極(4)との間の約70kVの管電圧で1500mA範囲の管電流が発生されることを特徴とする請求項9又は10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−234810(P2012−234810A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97765(P2012−97765)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany