説明

X線管装置

【課題】 製造コストを低減でき、製造歩留まりの高いX線管装置を提供する。
【解決手段】 X線管装置は、陽極35、陽極に照射する電子を放出する陰極36、並びに陽極及び陰極を収納した真空外囲器31を有したX線管30と、X線管を収納したハウジング20と、X線管及びハウジング間を満たす冷却液7とを備えている。ハウジング7は、X線不透過材を含む固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管装置は、医療診断機器等に用いられている。X線管装置は、ハウジングと、ハウジングに収容されたX線管と、X線管及びハウジング内面の間に満たされた絶縁油とを備えている。X線管から放射されたX線は、ハウジングに設けられたX線放射口から外部に取り出されて利用される。
【0003】
X線管から放射されるX線のうち、この放射口以外の方向に放射されたX線が、もし遮蔽されなければ、ハウジング外部に利用されないX線として放射されてしまい、人体が不要に被曝する危険が生じる。このため、放射口以外の方向に放射されたX線をハウジングの内部で遮蔽する必要がある。一般的に、ハウジングの内面に1mm乃至3mm厚の鉛板を貼り付けることによってX線遮蔽を実現している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、鉛代替のX線遮蔽材を用いた技術も開示されている(例えば、特許文献2乃至4参照)。さらに、鉛の板に防食保護を施した技術も開示されている(例えば、特許文献5及び6参照)。さらにまた、鉛板の両面をエポキシ樹脂塗料やシリコーン樹脂塗料でコーティングする技術が開示されている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7006602号明細書
【特許文献2】米国特許第6494618号明細書
【特許文献3】特開2008−73539号公報
【特許文献4】特開2007−212304号公報
【特許文献5】米国特許第6062731号明細書
【特許文献6】米国特許第6257762号明細書
【特許文献7】米国特許第7391852号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハウジング内面は多くの曲面から構成されている。ハウジング内面に鉛板を隙間なく貼り付けてゆく作業は非常に熟練を要するものである。このため、製造コストを下げてより安価にX線管装置を提供する上で、上記貼り付け作業は最大のネックである。
【0007】
近年、鉛が環境へ与えるリスクを回避するため、鉛代替のX線遮蔽材が普及しつつある。X線遮蔽材は、成型加工を目的とするブラスチック材料にX線不透過材料を混合した材料である。
【0008】
しかし、鉛板の替わりに上記X線遮蔽材を使って型成型することは非常に困難である。なぜならば、1mm乃至3mmの厚みで鉛板と同等のX線遮蔽能を得るためには、X線遮蔽材の80体積%近くをX線不透過材で形成する必要があるためである。この場合、型成型中のX線遮蔽材の流動性が極端に悪化し、さらに、成型されたX線遮蔽材の構造強度が低下してしまう。このため、鉛代替のX線遮蔽材は、比較的小さな部品やシート材料の製造に適用されるに止まっている。
【0009】
また、ハウジング内面に鉛板を貼り付けた場合、X線管装置の使用中、徐々に鉛が絶縁油に溶解する。絶縁油の耐電圧特性が悪化するため、放電の不具合が発生するリスクが高まる。鉛板を貼り付けた後、鉛板表面の保護のために、有機塗料で鉛板をコーティングすることも行われる。しかしながら、この場合、製造コストが更に高騰してしまう。
【0010】
さらに、鉛板をハウジングに貼り付ける前に、鉛板の両面に錫、銀、銅、ニッケルなどの金属メッキを形成することにより、上記のように鉛の防食保護をする技術も知られているが、やはり、この場合も製造コストが更に高騰してしまう。
【0011】
さらにまた、絶縁油の代わりに絶縁油より冷却性能に優れる水系冷却液を使用することは、X線管の冷却を向上させるために好適な選択肢である。しかし、水系冷却液への鉛の溶解性は、絶縁油へのそれに比べて桁違いに高い。このため、鉛板の防食保護はより困難な課題となる。上記のように、鉛板の両面にエポキシ樹脂塗料やシリコーン樹脂塗料でコーティングする技術も知られているが、やはり、この場合も製造コストが更に高騰してしまう。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、製造コストを低減でき、製造歩留まりの高いX線管装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の態様に係るX線管装置は、
陽極ターゲット、前記陽極ターゲットに照射する電子を放出する陰極、並びに前記陽極ターゲット及び陰極を収納した真空外囲器を有したX線管と、
前記X線管を収納したハウジングと、
前記X線管及びハウジング間を満たす冷却液と、を備え、
前記ハウジングは、X線不透過材を含む固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、製造コストを低減でき、製造歩留まりの高いX線管装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るX線管装置を示す縦断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るX線管装置を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係るX線管装置を示す縦断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るX線管装置の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の第1の実施の形態に係るX線管装置10について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るX線管装置10を示す縦断面図である。
【0016】
図1に示すように、X線管装置10は、有底筒状であるハウジング20と、ハウジング20内に収納されたX線管30と、ハウジング20の内部に充填され、X線管30及びハウジング20間を満たす冷却液7とを備えている。ハウジング20には、ゴムベローズ21が設けられ、冷却液7の圧力調整が行われている。ハウジング20は、X線をハウジング20外部に放射する放射窓24を有している。
【0017】
X線管30は、真空外囲器31を備えている。真空外囲器31は、金属材製の金属容器32と、高電圧絶縁部材50とを備えている。高電圧絶縁部材50には、陰極36が間接的に取り付けられ、金属容器32には、陽極35が取り付けられている。陰極36は、陽極35に照射する電子を放出するものである。真空外囲器31の中央部には陽極35と同電位とされた反跳電子トラップ37が配置されている。
【0018】
金属容器32には放射窓32aが設けられ、反跳電子トラップ37には放射窓37aが設けられている。陽極35と陰極36との間に高電圧を印加すると、陰極36から放出された電子が陽極ターゲット35aに衝突する。電子ビームの衝突で陽極ターゲット35aがX線を放射し、放射窓37a、32aからX線が出力される。なお、陽極ターゲット35aに衝突した電子ビームの一部はほとんどエネルギを失うことなく反射する。この反射した電子(反跳電子)は反跳電子トラップ37に捉えられるため、陽極ターゲット35aや、高電圧絶縁部材50や、真空外囲器31の表面に衝突することがなくなる。これにより、X線管30の焦点がぼやけることや、高電圧絶縁部材50のチャージアップを防止することができる。
【0019】
陽極35は、陽極ターゲット35aと、支持体35bとを有している。支持体35bは、真空外囲器31の内部に位置し、陽極ターゲット35aを支持するものである。陽極35は、真空外囲器31に接合され、真空外囲器31及びハウジング20の外部に露出している。陽極35は、金属で形成されている。陽極ターゲット35a及び陰極36は、真空外囲器31に収納されている。
【0020】
高電圧絶縁部材50は、真空外囲器31の一部を形成している。高電圧絶縁部材50は、筒部56と、筒部56の一端側を閉塞した底部57と、環部58とで形成されている。
【0021】
高電圧絶縁部材50は、ハウジング20の外部に露出した外部端面51と、冷却液7に接した冷却面53と、真空外囲器31の内部に位置し陰極36が間接的に取り付けられる取り付け面52と、を有している。この実施の形態において、外部端面51は平面である。
【0022】
高電圧絶縁部材50の内部には、陰極36に接続され、外部端面51側へ導出する電圧供給端子54が設けられている。この実施の形態において、電圧供給端子54は高電圧供給端子である。電圧供給端子54は、外部端面51を貫通して設けられ、高電圧絶縁部材50に取り付けられた陰極36に高電圧を供給するものである。電圧供給端子54は低膨張合金であるKOV部材55で支持されている。KOV部材55及び陰極36間、並びにKOV部材55及び高電圧絶縁部材50間は、ろう付けされている。
【0023】
高電圧絶縁部材50は、熱伝導率の大きい窒化アルミニウムやベリリア等のセラミクスを用いて形成した方が好ましい。また、セラミクスとして、アルミナや窒化珪素等を用いても良い。
【0024】
真空外囲器31及びハウジング20の外部に位置した陽極35に、空冷式のラジエータ500が接続されている。ラジエータ500は、陽極35から伝わる熱を外部に放散するものである。ラジエータ500は、導電性を有している。ラジエータ500に、ケーブル102が接続されている。このためケーブル102及びラジエータ500を介して陽極35の陽極ターゲット35aが接地される。
【0025】
高電圧コネクタ200は、有底筒状のハウジング201と、ハウジング201内にその先端が挿入されたケーブル202と、ハウジング201内に充填され、ケーブル202の端子202aをハウジング201の開口部側に向けて固定するエポキシ樹脂材製の固定部203と、この固定部203と高電圧絶縁部材50の外部端面51との間に挿入されたシリコーン樹脂材製のシリコーンプレート204とを備えている。この実施の形態において、ケーブル202は高電圧ケーブルである。固定部203は、電気絶縁材である。
【0026】
この実施の形態において、高電圧コネクタ200の電気絶縁材としての固定部203は、高電圧絶縁部材50の外部端面51に間接的に密着されている。なお、固定部203は、外部端面51に直接密着されていても良い。高電圧コネクタ200は、電圧供給端子54に高電圧を与えるものである。
【0027】
このように構成されたX線管装置では、次のように用いられる。高電圧コネクタ200をハウジング20に取り付ける際に、シリコーンプレート204が、それぞれ固定部203と、高電圧絶縁部材50の外部端面51とに密着するように押圧する。
【0028】
X線遮蔽部としてのX線遮蔽キャップ400は、高電圧コネクタ200を覆うようにハウジング20に着脱可能に取り付けられている。X線遮蔽キャップ400は、X線不透過材を含む材料で形成されている。
冷却液7としては、絶縁油又は水系冷却液を用いることができる。この実施の形態において、冷却液7として水系冷却液を用いている。
【0029】
ここで、上記ハウジング20について説明する。
ハウジング20は、固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。固体の電気的絶縁材は、X線不透過材を含んでいる。
【0030】
X線不透過材は、少なくとも、タングステン、タンタル、モリブデン、バリウム、ビスマス、希土類金属及び鉛の何れか1つからなる金属微粒子、又はこれらの少なくとも2つからなる化合物微粒子を主材料として含有している。
【0031】
固体の電気的絶縁材は、補強繊維をさらに含んでいる。補強繊維は、少なくとも、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維及びアラミド繊維の何れか1つである。
【0032】
固体の電気的絶縁材は、少なくとも、熱硬化性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、芳香族ナイロン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマー、及びメチルペンテンポリマー樹脂の何れか1つを含んでいる。
【0033】
ハウジング20の厚みは、3乃至10mmである。この実施の形態において、ハウジング20の厚みは、5mmである。ハウジング20の内面に、鉛板は貼り付けられていない。ハウジング20の内面は、冷却液7に接している。
【0034】
上記X線管装置を用いてX線を放射する場合ケーブル102及びケーブル202に所定の高電圧を印加すると、陰極36から陽極35表面の陽極ターゲット35aに電子ビームが放射され、陽極ターゲット35aからX線が放射され、X線は放射窓37a、32a、24を透過して外部へ放射される。
【0035】
上記のように構成されたX線管装置によれは、X線管装置は、陽極35、陰極36及び真空外囲器31を有したX線管30と、X線管30を収納したハウジング20と、X線管30及びハウジング20間を満たす冷却液7とを備えている。ハウジング20は、X線不透過材を含む固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。
【0036】
ハウジング20は、放射窓24以外の方向へのX線を遮蔽することができるため、例えば、X線管装置を医療診断機器に搭載した場合、人体への不要な放射(被曝)を防止することができる。また、高電圧コネクタ200を覆うようにX線遮蔽キャップ400が設けられている。高電圧コネクタ200を透過したX線をX線遮蔽キャップ400で遮蔽することができるため、一層、人体への不要な放射(被曝)を防止することができる。
【0037】
ハウジング20の内面に鉛板を貼り付けたり、鉛板を鉛代替のX線遮蔽材に置き換えるのではなく、ハウジング20を形成する材料を鉛代替のX線不透過材を含む材料に置き換えている。ハウジング20に鉛板を貼り付ける必要はないため、製造コストを低減することができる。また、ハウジング20に鉛板を設けないため、鉛板の分、ハウジング20を厚く形成することができる。
【0038】
これにより、ハウジング20を形成する材料へのX線不透過材の混合率を、ハウジング20を形成する材料の40体積%以下に抑えることが可能となる。このため、ハウジング20を射出成形する際、ハウジング20を形成する材料(樹脂)の優れた流動性を得ることができる。また、ハウジング20の構造強度の低下を防止することができる。
【0039】
冷却液7として、熱伝達率が最も高い、水を主成分とする水系冷却液を用いることができる。このため、冷却液7は、高電圧絶縁部材50に伝わる熱を最も有効に奪うことができる。また、水系冷却液は、絶縁油に比べて、比熱が大きい(絶縁油の約2倍)ため、X線管30の放熱による冷却液の温度上昇が低く抑えられる。
【0040】
また、高電圧絶縁部材50は冷却液7に接するため、陰極36からの熱を効果的に冷却液7に放散でき、高電圧絶縁部材50に接続された高電圧コネクタ200の温度を低くでき、長期にわたって高電圧コネクタ200の絶縁性を確保することができる。
上記したことから、製造コストを低減でき、製造歩留まりの高いX線管装置を得ることができる。さらには、熱の放出特性を向上させることができ、しかも、長期にわたって信頼性の高いX線管装置を得ることができる。
【0041】
ここで、冷却液7として、水系冷却液を用いた場合の利点について説明する。
図示しないが、一般的に、ハウジング20の外表面には温度センサーが取り付けられている。温度センサーの計測値が75℃を超えると、操作者の安全のため、それ以上X線管装置の温度が上がらないようにX線曝射を禁止するインターロックが働くものである。温度センサーは、ハウジング20の外表面の中で最も温度が高くなる個所に取り付けられる。使用中にこのインターロックが頻繁に働くと診断上の妨げとなり好ましくない。
【0042】
冷却液7を水系冷却液とした場合は、冷却液7が絶縁油である場合に比べてX線管装置をより長時間使用しないとインターロックが働かないため、診断上より好ましい。また、冷却液7を水系冷却液とした場合は、熱伝達率が高いため冷却液全体がより均一な温度となることも好ましい結果を生む一つの要因である。
【0043】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るX線管装置10について説明する。
図2は、本発明の第2の実施の形態に係るX線管装置10を示す縦断面図である。
図2に示すように、X線管装置10は、有底筒状であるハウジング20と、ハウジング20内に収納されたX線管30と、ハウジング20の内部に充填され、X線管30及びハウジング20間を満たす冷却液7とを備えている。ハウジング20には、ゴムベローズ21及び放射窓24が設けられている。
【0044】
X線管30は、真空外囲器31を備えている。真空外囲器31は、金属材製の金属容器32と、高電圧絶縁部材40とを備えている。高電圧絶縁部材40には陽極35が取り付けられ、金属容器32には陰極36が間接的に取り付けられている。真空外囲器31の中央部には陽極35と同電位とされた反跳電子トラップ37が配置されている。
【0045】
金属容器32には放射窓32aが設けられ、反跳電子トラップ37には放射窓37aが設けられている。陽極35と陰極36との間に高電圧を印加すると、陰極36から放出された電子が陽極ターゲット35aに衝突する。電子ビームの衝突で陽極ターゲット35aがX線を放射し、放射窓37a、32aからX線が出力される。なお、陽極ターゲット35aに衝突した電子ビームの一部はほとんどエネルギを失うことなく反射する。この反射した電子(反跳電子)は反跳電子トラップ37に捉えられるため、陽極ターゲット35aや、高電圧絶縁部材40や、真空外囲器31の表面に衝突することがなくなる。これにより、X線管30の焦点がぼやけることや、高電圧絶縁部材40のチャージアップを防止することができる。
【0046】
高電圧絶縁部材40は、真空外囲器31の一部を形成している。高電圧絶縁部材40は、筒部46と、筒部46の一端側を閉塞した底部47とで形成されている。高電圧絶縁部材40は、ハウジング20の外部に露出した外部端面41と、冷却液7に接した冷却面43と、真空外囲器31の内部に位置し陽極35が直接取り付けられる取り付け面42と、を有している。この実施の形態において、外部端面41は平面である。
【0047】
高電圧絶縁部材40の内部には、陽極35に接続され、外部端面41側へ導出する電圧供給端子44が設けられている。この実施の形態において、電圧供給端子44は高電圧供給端子である。電圧供給端子44は、外部端面41を貫通して設けられ、高電圧絶縁部材40に取り付けられた陽極35に高電圧を供給するものである。
【0048】
高電圧絶縁部材40は、熱伝導率の大きい窒化アルミニウムやベリリア等のセラミクスを用いて形成した方が好ましい。また、セラミクスとして、アルミナや窒化珪素等を用いても良い。
【0049】
陽極35は、陽極ターゲット35aと、支持体35bとを有している。支持体35bは、底部47に間隔を置いて位置している。支持体35bは、真空外囲器31の内部に位置し、陽極ターゲット35aを支持するものである。支持体35bは、筒部46の内面に接合されている。陽極35は、真空外囲器31に接合され、真空外囲器31及びハウジング20の外部に露出している。陽極35は、金属で形成されている。陽極ターゲット35a及び陰極36は、真空外囲器31に収納されている。
【0050】
陰極36には電圧供給端子54が接続されている。電圧供給端子54は、陰極36を接地電位に保つとともに陰極36のフィラメント(図示せず)に電流を供給するものである。電圧供給端子54は、低膨張合金であるKOV部材55で支持されている。電圧供給端子54及びKOV部材55は、真空外囲器31及びハウジング20を貫通して設けられている。KOV部材55は、真空外囲器31及びハウジング20に密着している。
【0051】
高電圧コネクタ100は、有底筒状のハウジング101と、ハウジング101内にその先端が挿入されたケーブル102と、ハウジング101内に充填され、ケーブル102の端子102aをハウジング101の開口部側に向けて固定するエポキシ樹脂材製の固定部103と、この固定部103と底部47の外部端面41との間に挿入されたシリコーン樹脂材製のシリコーンプレート104とを備えている。この実施の形態において、ケーブル102は、高電圧ケーブルである。固定部103は、電気絶縁材である。
【0052】
この実施の形態において、高電圧コネクタ100の電気絶縁材としての固定部103は、底部47の外部端面41に間接的に密着されている。なお、固定部103は、外部端面41に直接密着されていても良い。高電圧コネクタ100は、電圧供給端子44に高電圧を与えるものである。
【0053】
このように構成されたX線管装置では、次のように用いられる。高電圧コネクタ100をハウジング20に取り付ける際に、シリコーンプレート104が、それぞれ固定部103と、高電圧絶縁部材40の外部端面41とに密着するように押圧する。
【0054】
X線遮蔽部としてのX線遮蔽キャップ300は、高電圧コネクタ100を覆うようにハウジング20に着脱可能に取り付けられている。X線遮蔽キャップ400は、X線不透過材を含む材料で形成されている。
【0055】
ハウジング20の外部において、ケーブル202が電圧供給端子54に接続されている。
X線遮蔽部としてのX線遮蔽キャップ400は、電圧供給端子54及びKOV部材55が貫通したハウジング20の開口部を覆うようにハウジング20に着脱可能に取り付けられている。X線遮蔽キャップ400は、X線不透過材を含む材料で形成されている。
この実施の形態において、冷却液7として絶縁油を用いている。
【0056】
また、ハウジング20に、冷却器すなわちクーラーユニット22が接続されている。クーラーユニット22は、循環ポンプ22a及び熱交換器22bを有している。このため、冷却液7は熱交換器22bにより冷却される。循環ポンプ22aは、冷却液7を循環させ、冷却液7の流れを作り出すものである。これにより、X線管装置10において発生する熱が、冷却液7を媒介として、ハウジング20の外部へ放出される。
【0057】
なお、ハウジング20は、上述したように、固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。固体の電気的絶縁材は、X線不透過材を含んでいる。ハウジング20の厚みは、3乃至10mmである。この実施の形態において、ハウジング20の厚みは、5mmである。ハウジング20の内面に、鉛板は貼り付けられていない。ハウジング20の内面は、冷却液7に接している。
【0058】
上記X線管装置を用いてX線を放射する場合、ケーブル102及びケーブル202に所定の電圧を印加すると、陰極36から陽極35表面の陽極ターゲット35aに電子ビームが放射され、陽極ターゲット35aからX線が放射され、X線は放射窓37a、32a、24を透過して外部へ放射される。
【0059】
上記のように構成されたX線管装置によれは、X線管装置は、陽極35、陰極36及び真空外囲器31を有したX線管30と、X線管30を収納したハウジング20と、X線管30及びハウジング20間を満たす冷却液7とを備えている。ハウジング20は、X線不透過材を含む固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。
【0060】
ハウジング20は、放射窓24以外の方向へのX線を遮蔽することができるため、例えば、X線管装置を医療診断機器に搭載した場合、人体への不要な放射(被曝)を防止することができる。また、X線管装置は、X線遮蔽キャップ300、400を有しているため、一層、人体への不要な放射(被曝)を防止することができる。
【0061】
ハウジング20の内面に鉛板を貼り付けたり、鉛板を鉛代替のX線遮蔽材に置き換えるのではなく、ハウジング20を形成する材料を鉛代替のX線不透過材を含む材料に置き換えている。ハウジング20に鉛板を貼り付ける必要はないため、製造コストを低減することができる。また、ハウジング20に鉛板を設けないため、鉛板の分、ハウジング20を厚く形成することができる。
【0062】
これにより、ハウジング20を形成する材料へのX線不透過材の混合率を、ハウジング20を形成する材料の40体積%以下に抑えることが可能となる。このため、ハウジング20を射出成形する際、ハウジング20を形成する材料(樹脂)の優れた流動性を得ることができる。また、ハウジング20の構造強度の低下を防止することができる。
【0063】
冷却液7として絶縁油を用いることができる。ハウジング20に鉛板を貼り付け、冷却液7として絶縁油を用いた場合、鉛が絶縁油に溶解し、絶縁油の耐電圧特性が劣化するが、この実施の形態において、ハウジング20に鉛板を貼り付ける必要はない。このため、冷却液7として絶縁油を用いた場合であっても、絶縁油の耐電圧特性の劣化を防止することができる。上記のことは、絶縁性の冷却液7を必要とする場合に有効である。
【0064】
また、高電圧絶縁部材40は冷却液7に接するため、陽極35からの熱を効果的に冷却液7に放散でき、高電圧絶縁部材40に接続された高電圧コネクタ100の温度を低くでき、長期にわたって高電圧コネクタ100の絶縁性を確保することができる。
上記したことから、製造コストを低減でき、製造歩留まりの高いX線管装置を得ることができる。さらには、熱の放出特性を向上させることができ、しかも、長期にわたって信頼性の高いX線管装置を得ることができる。
【0065】
次に、本発明の第3の実施の形態に係るX線管装置10について説明する。
図3は、本発明の第3の実施の形態に係るX線管装置10を示す縦断面図である。この実施の形態において、上記第1及び第2の実施の形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0066】
図3に示すように、X線管装置10は、ステータコイル910、ロータ920、軸受け930、固定体1及び回転体2を備えている。固定体1は円柱状に形成され、底部47に固定されている。回転体2は筒状に形成され、固定体1と同軸的に設けられている。回転体2の外面にロータ920が取り付けられている。
【0067】
高電圧は、高電圧コネクタ100から、電圧供給端子44、固定体1、軸受け930及び回転体2を介して陽極35の陽極ターゲット35aに供給される。この実施の形態において、電圧供給端子44は高電圧供給端子である。金属容器32及び高電圧絶縁部材40、50は、真空外囲器31を形成している。
冷却液7としては、絶縁油又は水系冷却液を用いることができる。この実施の形態において、冷却液7として水系冷却液を用いている。
【0068】
このように構成されたX線管装置10では、ステータコイル910に所定の電流を印加することでロータ920が回転し、陽極ターゲット35a(陽極35)が回転する。次に、高電圧コネクタ100、200に所定の高電圧を印加すると、陰極36から陽極ターゲット35aの表面に電子ビームが放射され、陽極ターゲット35aからX線が放射窓32a、24から外部へ照射される。
【0069】
なお、ハウジング20は、上述したように、固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。固体の電気的絶縁材は、X線不透過材を含んでいる。ハウジング20の厚みは、3乃至10mmである。この実施の形態において、ハウジング20の厚みは、8mmである。ハウジング20の内面に、鉛板は貼り付けられていない。ハウジング20の内面は、冷却液7に接している。
【0070】
上記のように構成されたX線管装置によれは、X線管装置は、陽極35、陰極36及び真空外囲器31を有したX線管30と、X線管30を収納したハウジング20と、X線管30及びハウジング20間を満たす冷却液7とを備えている。ハウジング20は、X線不透過材を含む固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されている。
【0071】
ハウジング20は、放射窓24以外の方向へのX線を遮蔽することができるため、例えば、X線管装置を医療診断機器に搭載した場合、人体への不要な放射(被曝)を防止することができる。また、X線管装置は、X線遮蔽キャップ300、400を有しているため、一層、人体への不要な放射(被曝)を防止することができる。
【0072】
ハウジング20の内面に鉛板を貼り付けたり、鉛板を鉛代替のX線遮蔽材に置き換えるのではなく、ハウジング20を形成する材料を鉛代替のX線不透過材を含む材料に置き換えている。ハウジング20に鉛板を貼り付ける必要はないため、製造コストを低減することができる。また、ハウジング20に鉛板を設けないため、鉛板の分、ハウジング20を厚く形成することができる。
【0073】
これにより、ハウジング20を形成する材料へのX線不透過材の混合率を、ハウジング20を形成する材料の40体積%以下に抑えることが可能となる。このため、ハウジング20を射出成形する際、ハウジング20を形成する材料(樹脂)の優れた流動性を得ることができる。また、ハウジング20の構造強度の低下を防止することができる。
【0074】
冷却液7として、熱伝達率が最も高い、水を主成分とする水系冷却液を用いることができる。このため、冷却液7は、高電圧絶縁部材40、50に伝わる熱を最も有効に奪うことができる。また、水系冷却液は、絶縁油に比べて、比熱が大きい(絶縁油の約2倍)ため、X線管30の放熱による冷却液の温度上昇が低く抑えられる。
【0075】
また、高電圧絶縁部材40、50は冷却液7に接するため、陽極35及び陰極36からの熱を効果的に冷却液7に放散でき、高電圧絶縁部材40、50に接続された高電圧コネクタ100、200の温度を低くでき、長期にわたって高電圧コネクタ100、200の絶縁性を確保することができる。
上記したことから、製造コストを低減でき、製造歩留まりの高いX線管装置を得ることができる。さらには、熱の放出特性を向上させることができ、しかも、長期にわたって信頼性の高いX線管装置を得ることができる。
【0076】
ここで、図4に示すように、X線管装置10は、ハウジング20の内表面又は外表面の少なくとも一部に設けられ、電磁気を遮蔽する遮蔽層20aをさらに備えていても良い。この実施の形態において、遮蔽層20aは、ハウジング20の外表面に設けられている。遮蔽層20aは、金属からなるシェルである。これにより、電磁気による周辺機器の誤動作を防止することができる。
【0077】
また、X線管装置10は、X線遮蔽キャップ300、400の内表面又は外表面の少なくとも一部に設けられ、電磁気を遮蔽する遮蔽層300a、400aをさらに備えていても良い。この実施の形態において、遮蔽層300aはX線遮蔽キャップ300の外表面に設けられている。遮蔽層400aはX線遮蔽キャップ400の外表面に設けられている。これにより、電磁気による周辺機器の誤動作を一層防止することができる。
【0078】
なお、遮蔽層20a、300a、400aをハウジング20の内表面に設ける場合、遮蔽層が冷却液により腐食する恐れがあるため、これら遮蔽層は、ハウジング20の外表面に設けるのが好ましい。
また、遮蔽層20a、300a、400aは、メッキ処理等のコーティング処理にて形成されていても良い。
【0079】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0080】
ハウジング20中の冷却液7を水系冷却液とするために必要な周辺技術は下記の特許文献に開示されている。
米国特許第7203280号明細書
米国特許第7206380号明細書
本願発明の技術を適用する上でこれらの特許文献に開示されている技術を併用することも有効である。
【0081】
図3及び図4において、陽極35をモリブデンやモリブデン合金で形成した場合、陽極35はX線を遮蔽することができる。この場合、X線管装置10にX線遮蔽キャップ400を設ける必要はあるが、X線遮蔽キャップ300は設けなくとも良い。
この発明は、上記X線管装置に限らず、各種X線管装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
7…冷却液、20…ハウジング、20a…遮蔽層、30…X線管、31…真空外囲器、32…金属容器、35…陽極、35a…陽極ターゲット、35b…支持体、36…陰極、40…高電圧絶縁部材、41…外部端面、42…取り付け面、43…冷却面、44…電圧供給端子、50…高電圧絶縁部材、51…外部端面、52…取り付け面、53…冷却面、54…電圧供給端子、100…高電圧コネクタ、103…固定部、200…高電圧コネクタ、203…固定部、300…X線遮蔽キャップ、300a…遮蔽層、400…X線遮蔽キャップ、400a…遮蔽層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、前記陽極に照射する電子を放出する陰極、並びに前記陽極及び陰極を収納した真空外囲器を有したX線管と、
前記X線管を収納したハウジングと、
前記X線管及びハウジング間を満たす冷却液と、を備え、
前記ハウジングは、X線不透過材を含む固体の電気的絶縁材を主成分とする材料で形成されているX線管装置。
【請求項2】
前記X線不透過材は、タングステン、タンタル、モリブデン、バリウム、ビスマス、希土類金属及び鉛の何れか1つからなる金属微粒子、又はこれらの少なくとも2つからなる化合物微粒子を主材料として含有している請求項1に記載のX線管装置。
【請求項3】
前記固体の電気的絶縁材は、補強繊維をさらに含んでいる請求項1に記載のX線管装置。
【請求項4】
前記補強繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維及びアラミド繊維の何れか1つである請求項3に記載のX線管装置。
【請求項5】
前記固体の電気的絶縁材は、熱硬化性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、芳香族ナイロン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマー、及びメチルペンテンポリマー樹脂の何れか1つを含んでいる請求項1に記載のX線管装置。
【請求項6】
前記ハウジングの内表面又は外表面の少なくとも一部に設けられ、電磁気を遮蔽する遮蔽層をさらに備えている請求項1に記載のX線管装置。
【請求項7】
前記遮蔽層は、金属からなるシェルである請求項6に記載のX線管装置。
【請求項8】
前記冷却液は、絶縁油又は水系冷却液である請求項1に記載のX線管装置。
【請求項9】
前記真空外囲器の一部を形成し、前記ハウジングの外部に露出した外部端面と、前記冷却液に接した冷却面と、前記陽極又は陰極が直接又は間接的に取り付けられる取り付け面と、を有した高電圧絶縁部材と、
前記外部端面を貫通して設けられ、前記高電圧絶縁部材に取り付けられた前記陽極又は陰極に電気的に接続された電圧供給端子と、
前記外部端面に直接又は間接的に密着される電気絶縁材を有し、前記電圧供給端子に電気的に接続された高電圧コネクタと、をさらに備えている請求項1に記載のX線管装置。
【請求項10】
前記外部端面は、平面である請求項9に記載のX線管装置。
【請求項11】
前記高電圧コネクタを覆うように前記高電圧コネクタに着脱可能に取り付けられ、X線不透過材を含む材料で形成されたX線遮蔽部をさらに備えている請求項9に記載のX線管装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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