説明

X線管装置

【課題】 X線の放射を長期に亘って継続できるX線管装置を提供する。
【解決手段】 X線管装置は、フィラメント16a及び電子集束部を含んだ陰極16と、陽極11と、真空外囲器15とを有したX線管1と、X線管収納容器2と、絶縁油3と、フィラメントに並列に接続されたNTC特性を示すサーミスタ10と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線管装置として、回転陽極型X線管装置が使用されている。回転陽極型X線管装置は、X線を放射する回転陽極型のX線管と、ステータコイルと、これらX線管及びステータコイルを収容したX線管収納容器と、を備えている。X線管は、すべり軸受ユニットと、陽極と、陰極と、真空外囲器と、を備えている。すべり軸受ユニットは、回転軸を中心に回転可能な筒状の回転体と、この回転体の内部に嵌合され、回転体を回転可能に支持する円柱状の固定体と、回転体及び固定体の隙間に充填された金属潤滑剤と、を有している。陽極は、回転体に固定されている。陰極は、陽極に対向配置されている。真空外囲器は、すべり軸受ユニット、陽極及び陰極を収容している。
【0003】
上記回転陽極型X線管装置の動作状態において、ステータコイルは回転体に与える磁界を発生するため、回転体及び陽極は回転する。また、陽極には、陰極から電子ビームが入射される。これにより、陽極は、電子と衝突するときにX線を放射する。X線は、X線管収納容器のX線放射口から外部に放射される。
【0004】
また、一般的に、安全上X線管装置の表面の温度は制限される。このため、X線管装置は、温度スイッチ又は温度センサと、X線管装置が制限温度まで上昇した場合にX線管装置への入力を中断又は停止する機構とを備えている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−87499号公報
【特許文献2】特開2004−220955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、X線管装置への入力を中断又は停止した場合、X線の放射を中断しなければならない。X線管装置をX線画像診断装置に搭載した場合診断を中断しなければならず、また、X線管装置を非破壊検査装置に搭載した場合検査を中断しなければならない。上記のことから、X線管装置が制限温度付近まで上昇してもX線の放射を継続できるX線管装置が求められている。
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、X線の放射を長期に亘って継続できるX線管装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の態様に係るX線管装置は、
電子を放出するフィラメント及び前記フィラメントから放出された電子を集束する電子集束部を含んだ陰極と、前記陰極に対向配置され前記陰極により集束された電子からなる電子ビームが入射されることによりX線を放出する陽極と、前記陰極及び陽極を収容し前記陰極及び陽極に絶縁された真空外囲器と、を有したX線管と、
前記X線管を収納したX線管収納容器と、
前記X線管収納容器の内部に充填された絶縁油と、
前記フィラメントに並列に接続されたNTC特性を示すサーミスタと、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、X線の放射を長期に亘って継続できるX線管装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態に係る回転陽極型X線管装置を示す概略構成図である。
【図2】上記回転陽極型X線管装置のX線管、電源部及びサーミスタの接続関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながらこの発明に係るX線管装置を回転陽極型X線管装置に適用した実施の形態について詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、回転陽極型X線管装置は、回転陽極型のX線管1と、回転駆動機構として磁界を発生させるステータコイル(電磁コイル)6と、X線管及びステータコイルを収容したX線管収納容器2と、X線管収納容器内に充填された絶縁油3と、電源部7と、サーミスタ10とを備えている。
【0011】
X線管1は、回転体12と、固定体13と、陽極11と、陰極16と、真空外囲器15とを備え、すべり軸受を使っている。
回転体12は、筒状に形成され、一端部が閉塞されている。回転体12は、この回転体の回転動作の中心軸となる回転軸に沿って延出している。回転体12は、回転軸を中心に回転可能である。回転体12は、Fe(鉄)やMo(モリブデン)等の材料で形成されている。
【0012】
固定体13は柱状に形成されている。固定体13の直径は回転体12の内径より小さい。固定体13は、回転体12と同軸的に設けられ、上記回転軸に沿って延出している。固定体13は、FeやMo等の材料で形成されている。固定体13の一端部は回転体12の閉塞された一端部側に位置し、固定体13の他端部は回転体12の外側に突出し露出されている。固定体13は、回転体12を回転可能に支持している。なお、図示しないが、回転体12及び固定体13間の隙間には、潤滑剤として例えば金属潤滑剤が充填されている。
【0013】
陰極16は、陰極構体17に取付けられている。陰極16は、電子を放出するフィラメント16a及びフィラメントから放出された電子を集束する電子集束部としてのグリッド16bを含んでいる。グリッド16bは、フィラメント16aから陽極11に向かう電子の軌道を取り囲んで設けられている。
【0014】
陽極11は、上記回転軸に沿った方向に、固定体13の一端部に対向配置されている。陽極11は、この陽極の外面に位置したターゲット層11aを有している。ターゲット層11aは、陰極16に間隔を置いて対向配置されている。陽極11は、回転体12の閉塞された一端部にナット14で固定されている。
【0015】
陽極11は、形状が円環状であり、例えば重金属で形成されている。陽極11は、回転体12及び固定体13と同軸的に設けられている。陽極11は、上記回転軸を中心に回転可能である。陽極11は、陰極16により集束された電子からなる電子ビームが入射されることによりX線を放出するものである。
【0016】
真空外囲器15は、円筒状に形成されている。真空外囲器15は金属及びガラスで形成されている。真空外囲器15は、真空外囲器15の気密状態を維持するよう、固定体13の他端部及び陰極構体17と接合されている。真空外囲器15は、陰極16と対向したターゲット層11a付近にX線を外部に放射させるX線放射口15aを有している。真空外囲器15は、密閉され、回転体12、固定体13、陽極11及び陰極16等を収容している。真空外囲器15の内部は真空状態に維持されている。
【0017】
ステータコイル6は、回転体12の側面に対向して真空外囲器15の外側を囲むように設けられている。ステータコイル6は回転体12を回転させるものである。ステータコイル6に所定の電流が供給されることで回転体12が所定の速度で回転され、陽極11が所定の速度で回転される。
【0018】
X線管収納容器2は、陰極16と対向したターゲット層11a付近にX線を外部に放射させるX線放射口2aを有している。X線管収納容器2の内部には、X線管1及びステータコイル6が収容されている他、絶縁油3が充填されている。なお、陽極コネクタ21はX線管収納容器2に気密に取付けられている。陰極コネクタ20は、陽極コネクタ21とは独立してX線管収納容器2に気密に取付けられている。
【0019】
サーミスタ10は、フィラメント16aに並列に接続されている。より詳しくは、フィラメント16aにフィラメント通電導入端子19が接続されている。サーミスタ10は、フィラメント通電導入端子19を介してフィラメント16aに接続されている。
【0020】
サーミスタ10は、NTC(Negative Temperature Coefficient)特性を示すものである。このため、サーミスタ10は、温度上昇につれ電気抵抗が連続的に減少するものである。サーミスタ10は、絶縁油3中に位置し、絶縁油3に接している。サーミスタ10は、X線管収納容器2、ステータコイル6等の回転陽極型X線管装置の構成部品に絶縁されている。
【0021】
電源部7は、X線管収納容器2の外側に設けられている。電源部7は、高電圧電源8及びフィラメント電源9を有している。
フィラメント電源9は、陰極コネクタ20を介してフィラメント16aに直列に接続されている。フィラメント電源9は、サーミスタ10に並列に接続されている。フィラメント電源9は、定電流の出力電流Ioを出力するものであり、これにより、フィラメント16aに定電流のフィラメント電流Ifが加えられる。また、出力電流Ioは、サーミスタ10の電気抵抗値に応じてサーミスタ10にも分流され、この場合、サーミスタ10にサーミスタ電流Itが加えられる。なお、フィラメント16aにフィラメント電流Ifが加えられることにより、フィラメント16aは加熱され、電子(熱電子)を放出する。
【0022】
高電圧電源8は、陰極コネクタ20等を介して陰極16に接続され、陽極コネクタ21等を介して陽極11に接続されている。高電圧電源8は、陽極11及び陰極16(フィラメント16a及びグリッド16b)に高電圧を供給するためのものである。この実施の形態において、高電圧電源8は、陽極11側に70kVの電圧を供給し、陰極16側に−70kVの電圧を供給している。高電圧電源8は、2つの電源部8aを備えている。電界強度を一定にするため、電源部8a間の導線は接地されている。
【0023】
上記のように、陽極11には相対的に正の電圧が供給され、陰極16には相対的に負の電圧が供給される。フィラメント16aには、フィラメント電流Ifが与えられる。X線管1には管電圧及び管電流Ipが加えられる。管電圧は、陽極11及び陰極16間に加えられる電位差である。管電流Ipは、陽極11に入射する電子ビームの電流である。
上記したように、回転陽極型X線管装置が構成されている。
【0024】
次に、サーミスタ10について詳しく説明する。
X線管1及びステータコイル6で発生する熱は、絶縁油3を介してサーミスタ10に伝導する。サーミスタ10はフィラメント16aと並列して配線されているのでフィラメント電源9から供給される出力電流Ioはフィラメント16a(フィラメント電流If)及びサーミスタ10(サーミスタ電流It)に分流される。
【0025】
サーミスタ10が低温の場合、サーミスタ10の電気抵抗が大きいため、出力電流Ioは、ほとんどフィラメント電流Ifとして流れる。サーミスタ10が高温の場合、サーミスタ10の電気抵抗が所定の値になるように設定し、フィラメント電流Ifの数%程度のサーミスタ電流Itをサーミスタ10に流す。
【0026】
上記のことから、サーミスタ10の温度が高温(例えば80℃)の時、サーミスタ10は、外部からの制御無しに、X線管1の管電流Ipを低下させることができるものである。なお、サーミスタ10の温度が80℃の時、X線管1は高温である。管電流Ipを低下させる際、X線の線量が減少しすぎないように管電流Ipを低下させるのが好ましい。
【0027】
このため、実際は、サーミスタ10の温度が高温(例えば80℃)の時、管電流Ipの低下率が5乃至10%となるように、サーミスタ10の特性を設定することが望ましい。これにより、X線画像診断装置においては診断に、非破壊検査装置においては検査に、悪影響をそれほど与えることなく、診断又は検査を継続することができる。
【0028】
サーミスタ10の常温時の電気抵抗は、できれば無限大が好ましいが、概ね1000Ω以上あれば良い。サーミスタ10の温度が80℃の時、サーミスタ10の電気抵抗値が100乃至200Ωとなれば良い。フィラメント16aとサーミスタ10との電気抵抗の比は、1:5乃至1:10であれば良い。これにより、サーミスタ10の温度が80℃の時、管電流Ipを5乃至10%低下させることができる。
【0029】
以上のように構成された回転陽極型X線管装置によれば、回転陽極型X線管装置は、X線管1と、X線管収納容器2と、絶縁油3と、NTC特性を示すサーミスタ10とを備えている。X線管1は、フィラメント16a及びグリッド16bを含んだ陰極16と、陽極11と、真空外囲器15と、を有している。サーミスタ10は、フィラメント16aに並列に接続されている。サーミスタ10は、温度上昇につれ電気抵抗が連続的に減少する。
【0030】
このため、X線管1等の温度が上昇し、X線管1等からの熱が絶縁油3を介してX線管収納容器2に伝導し、X線管収納容器2の表面の温度が制限温度(例えば、85℃)に接近しても、サーミスタ10は、温度に対応して管電流Ipを低下させるため、X線管収納容器2の表面等の温度上昇を緩やかにすることができる。これにより、X線の放射を長期に亘って継続できるため、X線の放射の中断を遅らせることができる。
【0031】
X線管収納容器2や絶縁油3等の温度が低下すれば、サーミスタ10の温度も低下するため、サーミスタ10は、外部からの制御無しに、X線管1の管電流Ipを元の状態に戻すことができる。
【0032】
回転陽極型X線管装置は、従来種々の温度センサと制御装置を有し細かく計算して実施していた温度制御機能を持たなくても良い。回転陽極型X線管装置は、サーミスタ10を備えているため、上記温度制御機能と類似の温度制御をすることができる。
【0033】
陽極11、X線管収納容器2等の温度が上昇している場合、サーミスタ10は、過入力となる電子ビームを温度上昇につれ減少させることができる。これにより、陽極11、特に、ターゲット層11aへのダメージを抑制することができる。さらに、上記ダメージに起因した異常放電の発生を抑制することができ、製品信頼性を向上させることができる。
【0034】
サーミスタ10は、フィラメント16aに並列に接続されている。サーミスタ10は、フィラメント16aに直列に接続されていないため、サーミスタ10に断線等が生じてサーミスタ10が破損しても、フィラメント16aにフィラメント電流If(出力電流Io)を加えることができ、X線の放射を維持することができる。
上記のことがら、X線の放射を長期に亘って継続できる回転陽極型X線管装置を得ることができる。
【0035】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0036】
例えば、回転陽極型X線管装置は、フィラメント16aに並列に接続され、NTC特性を示す他のサーミスタをさらに備えていても良い。他のサーミスタは、サーミスタ10に並列又は直列に接続されていれば良い。この場合、サーミスタ10及び他のサーミスタの温度が80℃の時、管電流Ipを5乃至10%低下させることができれば上述した効果を得ることができる。
【0037】
サーミスタ10及び他のサーミスタは、互いに異なるNTC特性を示すものであっても良い。これにより、バリエーションに富んだ管電流Ipの制御を行うことができる。
回転陽極型X線管装置は、サーミスタを3つ以上備えていても良い。
【0038】
上記管電圧を得るため、陽極11側を接地し、陰極16側に負の高電圧を供給しても良い。
サーミスタの回転陽極型X線管装置の構成部品に対する絶縁状態を維持するため、絶縁部材によりサーミスタの位置を固定しても良い。
この発明は、回転陽極型X線管装置に限らず、各種X線管装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…X線管、2…X線管収納容器、2a…X線放射口、3…絶縁油、6…ステータコイル、7…電源部、8…高電圧電源、8a…電源部、9…フィラメント電源、10…サーミスタ、11…陽極、11a…ターゲット層、12…回転体、13…固定体、15…真空外囲器、16…陰極、16a…フィラメント、16b…グリッド、Io…出力電流、If…フィラメント電流、It…サーミスタ電流、Ip…管電流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出するフィラメント及び前記フィラメントから放出された電子を集束する電子集束部を含んだ陰極と、前記陰極に対向配置され前記陰極により集束された電子からなる電子ビームが入射されることによりX線を放出する陽極と、前記陰極及び陽極を収容し前記陰極及び陽極に絶縁された真空外囲器と、を有したX線管と、
前記X線管を収納したX線管収納容器と、
前記X線管収納容器の内部に充填された絶縁油と、
前記フィラメントに並列に接続されたNTC特性を示すサーミスタと、を備えているX線管装置。
【請求項2】
前記サーミスタは、前記絶縁油中に位置し、X線管収納容器に絶縁されている請求項1に記載のX線管装置。
【請求項3】
前記フィラメントに直列に接続され、前記サーミスタに並列に接続され、定電流の出力電流を出力し、前記フィラメントに定電流のフィラメント電流を加えるフィラメント電源をさらに備えている請求項1に記載のX線管装置。
【請求項4】
前記サーミスタは、温度が80℃の時に、前記陽極に入射する電子ビームの電流を5乃至10%低下させる請求項1に記載のX線管装置。
【請求項5】
前記フィラメントに並列に接続され、NTC特性を示す他のサーミスタを備えている請求項1に記載のX線管装置。
【請求項6】
前記サーミスタ及び他のサーミスタは、互いに異なるNTC特性を示す請求項5に記載のX線管装置。

【図1】
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【図2】
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