説明

X線遮蔽材およびX線検査装置

【課題】十分なX線遮蔽能力と共に柔軟性を備えたX線遮蔽材であって、鉛やタングステン等のX線遮蔽金属の粉体の脱落が防止されたX線遮蔽材の提供。
【解決手段】X線遮蔽性金属によって構成された柔軟性構造体からなることを特徴とする、X線遮蔽材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線遮蔽材に関する。さらに詳細には、本発明は、X線遮蔽能力が高くかつ柔軟なX線遮蔽材およびこのX線遮蔽材を具備するX線検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線遮蔽材、例えばX線検査装置のX線漏洩防止用の遮蔽材、特に検査品の搬入口や搬出口に設置されるX線遮蔽材には、十分なX線遮蔽能力に加えて、例えばベルトコンベヤ上に置かれて移動する検査品に接触して押し分けられるように、ある程度の柔軟性が要求されている。そのような柔軟なX線遮蔽材としては、粉末状の鉛をゴム中に分散させた鉛ゴムのれんが広く用いられている(特許文献1)。通常、鉛ゴムのれんは、ゴムが主成分であるために柔軟な構造となっていることから、X線検査装置に被検査物がベルトコンベア等で搬送される際、被検査物を堰き止めることがない。
【0003】
しかし、このような鉛ゴムのれんは、使用に際し破損あるいは劣化した場合、粉末状の鉛が脱落し、それが被検査物に混入あるいは付着する可能性があった。なお、鉛は線吸収係数や密度が高く、X線の遮蔽能力が高いが、同時に有害な金属で、骨に沈着した鉛が血液中に染み出し有毒性を示す。そのため環境面で欧州でのRoHS指令の有害6物質に該当し、わが国でも労働安全衛生法、PRTR法などに該当している。このため、有毒性があるために、取り扱い時に注意すると共にPRTR法などにより計量管理も必要とされており、環境および衛生上の見地から鉛使用が制限されつつあることは周知である。
【0004】
従来、遮蔽のれんとの被検査物の接触を防止するため機能をもった検査装置(特許文献2)も考案されているが、しかし、装置自体の構造自体に変更を加えることは通常の装置より割高になることは避けられない。
【0005】
そして、実質的に鉛を含まない遮蔽材料(特許文献3)も開発されているが、この遮蔽材料も金属を粉末状で埋め込んでいるために、劣化等によって金属粉が剥離、脱落し、被検査物中へ混入、付着する問題は解決されていない。
【特許文献1】特開2005−308413号公報
【特許文献2】特開2005−241396号公報
【特許文献3】特開平08−201579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、十分なX線遮蔽能力と共に柔軟性を備えたX線遮蔽材であって、鉛やタングステン等のX線遮蔽金属の粉体の脱落が防止されたX線遮蔽材およびこのX線遮蔽材を具備するX線検査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるX線遮蔽材は、X線遮蔽性金属によって構成された柔軟性構造体からなることを特徴とするものである。
【0008】
このような本発明によるX線遮蔽材は、前記X線遮蔽性金属が、モリブデン、スズ、タンタル、タングステンおよびレニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種であるものを好ましい態様として包含する。
【0009】
このような本発明によるX線遮蔽材は、前記の柔軟性構造体が、前記X線遮蔽性金属を含む金属線もしくは金属リボンを編み込んだ構造体あるいは溶接した構造体であるものを好ましい態様として包含する。
【0010】
このような本発明によるX線遮蔽材は、前記の柔軟性構造体が、その表面がレニウムによって被覆されたものを好ましい態様として包含する。
【0011】
このような本発明によるX線遮蔽材は、のれん状ないしカーテン状で使用されているものを好ましい態様として包含する。
【0012】
また、本発明によるX線検査装置は、前記のX線遮蔽材を具備することを特徴とするもの、である。
【0013】
このような本発明によるX線検査装置は、食品検査用であるものを好ましい態様として包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、十分なX線遮蔽能力と共に柔軟性を備えたX線遮蔽材であって、鉛やタングステン等のX線遮蔽金属の粉体の脱落が防止されたX線遮蔽材である。
【0015】
このような本発明によるX線遮蔽材は、その優れた特性を活かして、具体的用途や目的等に特に適した形状ないし形態のX線遮蔽材として利用可能なものである。
【0016】
本発明によるX線遮蔽材の特に適した利用形態としては、のれん状ないしカーテン状の柔軟なX線遮蔽材、特に食品用のX線検査装置における上記X線遮蔽材、を挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明によるX線遮蔽材は、X線遮蔽性金属によって構成された柔軟性構造体からなることを特徴とするものである。
【0018】
このような本発明によるX線遮蔽材は、従来のようにX線遮蔽性金属を粉体状で用いるものではなく、柔軟性構造体として使用するものであることから、X線遮蔽性金属粉体の脱落が防止されたものである。
【0019】
X線遮蔽性金属としては、各種のものを用いることができ、例えば、モリブデン、スズ、タンタル、タングステン、レニウム、鉛、ニッケル、銅を用いることができる。X線遮蔽性は、上記X線遮蔽性金属のなかでは鉛が最も良好であるが、環境または衛生上の見地からその使用が制限されるときは鉛以外のX線遮蔽性金属、即ち、モリブデン、スズ、タンタル、タングステンおよびレニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0020】
ここで、上記金属群から選ばれた2種以上のX線遮蔽性金属を用いる場合には、上記X線遮蔽性金属を合金成分として用いる場合、および上記X線遮蔽性金属を前記柔軟性構造体の同一または異なる構成部材として用いる場合、例えば柔軟性構造体の主構成である中心材および(または)その被覆材として用いる場合、等が含まれる。
【0021】
例えば、前記の柔軟性構造体が、その表面がレニウムによって被覆されたものは本発明の特に好ましい一具体例である。このように、外部と接触する部分にレニウムを被覆することで、検査対象、例えば食品と接触した際の安全性を向上させることがができる。
【0022】
上記のX線遮蔽性金属によって構成された本発明の柔軟性構造体は、具体的用途や目的、利用形態等に適した柔軟性が得られるならば、任意の形状のものを用いることができる。好ましくは、のれん状ないしカーテン状のものを挙げることができる。なお、本発明によるX線遮蔽材は、その上方部分を固定しその下方部分を吊すようなのれん状ないしカーテン状での使用に限定されることはない。例えば、X線遮蔽材の片方の側方部分が固定され、他方の側方部分が柔軟に移動するような扉状で使用することも可能である。
【0023】
本発明において好ましい柔軟性構造体としては、柔軟性構造体が前記X線遮蔽性金属を含む金属線もしくは金属リボンを編み込んだ構造体あるいは溶接した構造体を挙げることができる。
【0024】
図1〜図3は、本発明において特に好ましい柔軟性構造体を示すものである。
図1は、前記X線遮蔽性金属を含む金属線が実質的に平行に複数本配置されると共に、これに直交して前記X線遮蔽性金属を含む金属線が実質的に平行に複数本配置されてなる、メッシュ状の柔軟性構造体を示すものである。金属線の直径および配置間隔は、例えばX線遮蔽能力および柔軟性等を考慮して適宜定めることができる。金属線の直径は、0.001mm以上0.081mm以下が好ましく、0.018mm以上0.040mm以下が特に好ましい。
【0025】
各金属線は、必要な柔軟性が得られかつ使用に際して容易に分離されないように保持される。例えば、一方向に平行に配置された金属線群と他方向に平行に配置された金属線群とを織物状に編み込んだり、各金属線を溶接あるいは接着剤等によって接合することができる。
【0026】
なお、必ずしも金属線の全てが前記X線遮蔽性金属を含む金属線である必要はない。また、必要に応じて、金属以外の材料、例えば樹脂材料からなる線材あるいは表面被覆材を用いることができる。
【0027】
図2は、前記X線遮蔽性金属を含む金属リボンが実質的に平行に複数本配置されと共に、これに直交して前記X線遮蔽性金属を含む金属リボンが実質的に平行に複数本配置されててなる、メッシュ状の柔軟性構造体を示すものである。金属リボンの幅、厚さ、差配置間隔等は、例えばX線遮蔽能力および柔軟性等を考慮して適宜定めることができる。金属リボンの幅は、0.040mm以上5mm以下が好ましく、0.4mm以上2mm以下が特に好ましい。金属リボンの厚さは、0.010mm以上0.050mm以下が好ましく、0.015mm以上0.030mm以下が特に好ましい。
【0028】
各金属リボンは、必要な柔軟性が得られかつ使用に際して容易に分離されないように保持される。例えば、一方向に平行に配置された各リボンと他方向に平行に配置された各リボンとを織物状に編み込んだり、各リボンを溶接あるいは接着剤等によって接合することができる。
【0029】
なお、必ずしも各リボンの全てが前記X線遮蔽性金属を含む必要はない。また、必要に応じて、金属以外の材料、例えば樹脂材料からなる線材、リボン材あるいは表面被覆材を用いることができる。
【0030】
図3は、前記X線遮蔽性金属を含む金属線が実質的に平行に複数本配置される(図3では縦方向)と共に、これに直交して前記X線遮蔽性金属を含む金属リボンが実質的に平行に複数本配置(図3では横方向)されてなる、メッシュ状の柔軟性構造体を示すものである。
【0031】
金属線および金属リボンの直径や幅、差配置間隔等は、上記と同様に、X線遮蔽能力および柔軟性等を考慮して適宜定めることができる。また、上記と同様に、各金属線および金属リボンは、必要な柔軟性が得られかつ使用に際して容易に分離されないように保持される。例えば、金属線と金属リボンとを織物状に編み込んだり、各金属線および金属リボンを溶接あるいは接着剤等によって接合することができる。また、必要に応じて、金属以外の材料、例えば樹脂材料からなる線材やリボンあるいは表面被覆材を用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示す。
【0033】
<実施例および比較例>
図3に示される構造の本発明によるX線遮蔽材を下記方法によって作製した。
具体的には、厚さ0.020mm、幅1mm、長さ100mmの26%レニウム・タングステンに、PVD蒸着(Physical Vapor Deposition)によって0.008mmのレニウムを皮膜したリボンを用意し、一方、線径0.5mm長さ150mmの26%レニウム・タングステンにPVD蒸着によって0.008mmのレニウムを皮膜した線材を用意し、前記リボンを100本敷き詰め、レニウム線4本をリボンの左端5mm空けた部分と、そこから30mm間隔で並べ、リボンと線材とが交差する部分をレーザー溶接によって接合して、リボンの左右端にあたる線の上部につるし穴をもった本発明の金属製遮蔽のれんを作製した。
【0034】
のれんの柔軟性を確認するために、この金属製遮蔽のれん(実施例)、および幅100mm、高さ100mm、厚さ1mmの鉛ゴム遮蔽のれん(比較例)を、ベルトコンベア上に1mmの隙間をあけて設置し、30m/minの速度で40mm×40mm×40mmのアクリルケース内に重し(0g〜300g)を置き、アクリルケースがのれんに邪魔されずに通過できるかどうかを、それぞれ100回繰り返し確認した。
【0035】
その結果は、表1に示される通りである。
【表1】

【0036】
表1から、本発明の金属製遮蔽のれん(実施例)は、鉛ゴム遮蔽のれん(比較例)と同等の柔軟性を有していることが判明した。
【0037】
さらに、本発明の金属製遮蔽のれん(実施例)および鉛ゴム遮蔽のれん(比較例)、それぞれのテストで使用したアクリルケースを取り出し、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で表面付着物を確認した。金属類の検出は、金属製遮蔽のれん(実施例)のアクリルケースからは未付着で、鉛ゴム遮蔽のれん(比較例)のアクリルケースからは鉛が検出された。
【0038】
のれんの遮蔽能力を確認するために、マイクロフォーカスX線検査装置に金属製遮蔽のれん(実施例)ならび鉛ゴム遮蔽のれん(比較例)を目視で隙間が出来ないように2枚重ねて並べ、X線管電圧50kV、電流80μA、撮影倍率100倍で撮影し、両者を比較した。図4Aは金属製遮蔽のれん(実施例)について、図4Bは鉛ゴム遮蔽のれん(比較例))について、示すものである。
【0039】
その結果、鉛ゴム遮蔽のれんは、均一な灰色に、金属製遮蔽のれんは均一な黒色で観察された。以上から、金属製遮蔽のれんは、鉛ゴム遮蔽のれん以上の遮蔽能力をもつことが確認できた。
【0040】
以上から、本発明によるX線遮蔽材は、鉛ゴム遮蔽のれんと同等の柔軟性を持ち、かつX線遮蔽能力が高く、有害な物質が混入することのないX線遮蔽材であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明によるX線遮蔽材の特に好ましい一具体例を示す図
【図2】本発明によるX線遮蔽材の特に好ましい一具体例を示す図
【図3】本発明によるX線遮蔽材の特に好ましい一具体例を示す図
【図4】実施例および比較例のX線遮蔽材のX線撮影結果を示す模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線遮蔽性金属によって構成された柔軟性構造体からなることを特徴とする、X線遮蔽材。
【請求項2】
前記の柔軟性構造体が、モリブデン、スズ、タンタル、タングステンおよびレニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種のX線遮蔽性金属によって構成された、請求項1に記載のX線遮蔽材。
【請求項3】
前記の柔軟性構造体が、前記X線遮蔽性金属を含む金属線もしくは金属リボンを編み込んだ構造体あるいは溶接した構造体である、請求項1または2に記載のX線遮蔽材。
【請求項4】
前記の柔軟性構造体が、その表面がレニウムによって被覆されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のX線遮蔽材。
【請求項5】
のれん状ないしカーテン状で使用される、請求項1〜4いずれか1項記載のX線遮蔽材。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載のX線遮蔽材を具備することを特徴とする、X線検査装置。
【請求項7】
食品検査用である、請求項6記載のX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−82766(P2008−82766A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260909(P2006−260909)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】