説明

X線骨密度測定装置

【課題】高エネルギーX線と低エネルギーX線とを交互に照射する骨密度測定装置において、エネルギー切替に係る移行期間における被検体の不要な被曝を防止又は軽減する。
【解決手段】ゲート信号(A)における期間t1が測定期間であり、期間t2が非測定期間である。(B)に示すように、期間t2においてはX線発生器の印加電圧が変化する。(D)に示す本実施形態の方式では、その期間t2においてX線ビーム経路上に遮蔽部材が挿入され、これによって被検体の被曝の低減が図られる。そのためのフィルタユニットとしては、回転するフィルタプレートあるいは回転するフィルタドラムを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線骨密度測定装置に関し、特に被曝低減技術に関する。
【背景技術】
【0002】
DXA法(Dual X-ray Absorptiometry:二重X線吸収法)を用いた骨密度測定装置においては、生体に対するX線ビームのスキャンに伴って、高エネルギーX線と低エネルギーX線とが一定周期で交互に照射される。X線のエネルギーは、X線発生器の電圧を切り換えることによって可変できる(管電圧切換方式)。各X線ごとにそのスペクトラムや強度を調整するためにフィルタユニットが利用される。具体的には、高エネルギーX線の照射時と低エネルギーX線の照射時に、X線ビームの経路上に1又は複数のフィルタ部材が挿入される。
【0003】
上記の管電圧切換方式において、電圧の遷移期間はX線エネルギーが不安定となるため、一般にその期間は測定から除外される。つまり、例えば、ゲート信号がHIの期間(各エネルギーのX線が安定して照射できる期間)だけ、X線検出が行われ、検出ゲート信号がLOWの期間においてはX線の照射は行われているが、実際にはX線の検出は行われていない。
【0004】
下記特許文献1には、X線ビームをジグザグスキャンする場合において、定常走査速度以外の加速期間や減速期間などの非測定期間において、X線ビーム経路上にシャッタを挿入して、生体における不要な被曝を防止する装置が記載されている。特許文献2及び特許文献3にはドラム状のフィルタ機構を有する骨密度測定装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−113408号公報
【特許文献2】特開平10−85208号公報
【特許文献3】特開平9−108206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のX線骨密度測定装置において、高エネルギーX線と低エネルギーX線とを一定の短周期で交互に照射する場合に、X線エネルギーの切換期間(不安定な遷移期間)においてもX線の照射が行われている。そこで、不要な被曝をできる限り低減することが望まれる。上記特許文献1には、加速減速期間などの非測定期間においてシャッタを用いて不要照射を回避するものが記載されているが、その文献には、X線エネルギーの高低切換時の被曝低減については記載されていない。
【0007】
本発明の目的は、X線エネルギーを周期的に切り換える場合においてX線エネルギー移行時における不要な被曝を低減することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、簡便にフィルタの切り換えを行えるコンパクトなフィルタ機構を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、高エネルギーX線及び低エネルギーX線を交互に繰り返し発生するX線発生器と、前記X線発生器からのX線ビームが照射される位置に設けられたX線検出器と、前記X線ビームの経路上に被検体を位置決めする載置台と、複数のフィルタ部材と、前記X線ビームの経路上に挿入するフィルタ部材を選択するフィルタ選択機構と、を有するフィルタユニットと、を含み、前記複数のフィルタ部材には、前記高エネルギーX線の照射期間と前記低エネルギーX線の照射期間の間の各移行期間において、前記X線ビームの経路上に挿入される遮蔽用フィルタ部材が含まれることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、高エネルギーX線から低エネルギーX線への移行期間及び低エネルギーX線から高エネルギーX線への移行期間の内で、少なくとも一方あるいは特に望ましくは両方において、X線ビームの経路上に遮蔽用フィルタ部材が一時的に挿入される。つまり、測定期間以外の期間において、被検体への不要なX線照射を防止又は軽減できる。移行期間は一般に短時間であり、その単位での遮蔽効果は小さいかもしれないが、それが繰り返し行われるために、測定全体として、顕著な被曝低減効果を得られる。また、不安定な移行期間における散乱X線の発生を防止又は軽減できる。遮蔽用フィルタ部材としては、鉛、タングステンなどのようなX線遮蔽能力の高い部材を用いるのが望ましいが、X線遮蔽能力の低い部材であってもその厚みを増加させて同様の作用を得ることが可能である。
【0011】
上記のフィルタユニットは、望ましくは、X線ビームの経路上に選択的に挿入される1又は複数のフィルタ部材(選択挿入型フィルタ部材)を有し、更に必要に応じて、X線ビームの経路上に固定的に挿入される1又は複数のフィルタ部材(固定挿入型フィルタ部材)を有する。それらのフィルタ部材は、X線発生器と被検体との間に設けられる。更に、その経路に、測定開始前及び測定開始後に閉動作するX線シャッタを設けるようにしてもよいし、上記の測定エリア外における加速減速期間で閉動作するX線シャッタを設けるようにしてもよい。そのようなX線シャッタと上記の遮蔽用フィルタ部材とは別々に設けるのが望ましいが、一体化することも可能である。後者についてはフィルタ選択機構の制御により実現できる。X線エネルギーの切換は望ましくはX線発生管の印加電圧の切り換えにより実現できるが、それ以外の方式においても上記同様の問題が生じるならば上記構成を適用することが可能である。
【0012】
望ましくは、前記X線発生器においては、当該X線発生器が有するX線発生管への印加電圧の切り換えにより前記高エネルギーX線及び低エネルギーX線が交互に発生し、前記各移行期間は、前記印加電圧が高低に遷移する期間に相当し、その期間においては前記X線ビームの経路上に前記遮蔽用フィルタ部材が挿入されて前記被検体へのX線照射が間欠的に制限される。
【0013】
望ましくは、前記高エネルギーX線及び前記低エネルギーX線の各照射期間と、前記各移行期間と、を特定するゲート信号を発生するゲート信号発生手段と、前記ゲート信号に同期して、前記X線発生管の印加電圧を周期的に切り換え、且つ、前記フィルタ選択機構によって前記X線ビームの経路上に挿入されるフィルタ部材を周期的に切り換える制御手段と、が含まれる。この構成によれば、フィルタ部材の切り換えと印加電圧の切り換えとが適切なタイミングで相互に同期して行われる。
【0014】
望ましくは、前記複数のフィルタ部材には調整用フィルタ部材と前記遮蔽用フィルタ部材とが含まれ、前記フィルタユニットは、回転中心からシフトした位置に前記X線ビームが通過するように設けられた回転するプレートであって、前記調整用フィルタ部材及び前記遮蔽用フィルタ部材が円周方向に並べられたフィルタプレートを有し、前記フィルタ選択機構は前記フィルタプレートを回転する機構である。望ましくは、前記複数のフィルタ部材には、第1の調整用フィルタ部材と、第2の調整用フィルタ部材と、前記遮蔽用フィルタ部材と、が含まれ、前記第1の調整用フィルタ部材は前記X線ビームの経路上に固定的に配置され、前記フィルタユニットは、回転中心からシフトした位置に前記X線ビームが通過するように設けられた回転するプレートであって、前記第2の調整用フィルタ部材と、開口部と、それらの間に設けられた前記遮蔽用フィルタ部材と、が円周方向に並べられたフィルタプレートを有し、前記フィルタ選択機構は前記フィルタプレートを回転する機構である。この構成によれば、第2の調整用フィルタ部材から開口部への移行部分及び開口部から第2の調整用フィルタ部分の移行部分の内の少なくとも一方又は特に望ましくは両方に遮蔽用フィルタ部材が設けられる。フィルタプレートを回転させるだけでフィルタ部材等を選択できるのでその構成を簡易にもでき及びその制御が簡便である。上記の調整用フィルタ部材としては、X線のエネルギースペクトルを調整する部材、X線のエネルギーレベルを調整する部材などを用いることができる。フィルタプレート上における調整用フィルタ部材(及び開口部)の個数は、回転速度及び印加電圧切換周期に応じて、任意に設定することができる。
【0015】
望ましくは、前記複数のフィルタ部材には調整用フィルタ部材と前記遮蔽用フィルタ部材とが含まれ、前記フィルタユニットは、回転中心軸が前記X線ビームと交差するように設けられた回転するドラムであって、前記調整用フィルタ部材及び前記遮蔽用フィルタ部材が円周方向に並べられたフィルタドラムを有し、前記フィルタ選択機構は前記フィルタドラムを回転する機構である。望ましくは、前記複数のフィルタ部材には、第1の調整用フィルタ部材と、第2の調整用フィルタ部材と、前記遮蔽用フィルタ部材と、が含まれ、前記第1の調整用フィルタ部材は前記X線ビームの経路上に固定的に配置され、前記フィルタユニットは、回転中心軸が前記X線ビームと交差するように設けられた回転するドラムであって、前記第2の調整用フィルタ部材と、開口部と、それらの間に設けられた前記遮蔽用フィルタ部材と、が円周方向に並べられたフィルタドラムを有し、前記フィルタ選択機構は前記フィルタドラムを回転する機構である。この構成によれば、第2の調整用フィルタ部材から開口部への移行部分及び開口部から第2の調整用フィルタ部分の移行部分の内の少なくとも一方又は特に望ましくは両方に遮蔽用フィルタ部材が設けられる。フィルタドラムを回転させるだけでフィルタ部材等を選択できるのでその構成を簡易にでき及びその制御が簡便である。更に、円板型でないので設置規模を小さくできる。フィルタドラムは中空ドラムであって中心に軸部材が存在しないものとして構成するのが望ましく、そのような構成の場合にはフィルタ部材の両端部が軸支される。フィルタ部材としては、一重円筒型を利用するのが望ましいが、二重円筒型を利用することも可能である。
【0016】
望ましくは、前記X線ビームは扇状に広がるファンビーム形状を有し、前記フィルタドラムの回転中心軸と前記X線ビームの広がり方向とが一致する。この構成によれば、X線ビームが横方向に広がっていても、その広がりの各位置で、フィルタ部材への通過経路をほぼ一定にできる。X線検出器におけるX線センサごとに電気的に補正を行うことも可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、X線エネルギーを周期的に切り換える場合においてX線エネルギー移行時における不要な被曝を低減できる。あるいは、本発明によれば、簡便にフィルタの切り換えを行えるコンパクトなフィルタ機構を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1には、本発明に係る骨密度測定装置の好適な実施形態が示されており、図1はその斜視図である。図1に示す骨密度測定装置は、人体における特に前腕部の骨密度を測定する装置であるが、本発明は他の部位を測定する場合においても適用することができる。
【0020】
載置台10上には被検者の前腕部が載置される。棒状部材12が握られた状態において前腕部が載置台10上に位置決めされ、その状態でX線ビーム20が走査される。X線ビーム20は図1に示す例においてペンシルビームであるが、いわゆる扇状に広がるファンビームであってもよい。あるいはそれ以外のビーム形態を有していてもよい。
【0021】
測定ユニット14は、X線発生器16とX線検出器18とによって構成され、その測定ユニット14は搬送機構によって搬送される。ファンビーム形状をもったX線ビーム20が用いられる場合、測定ユニット14は被検体の長手方向に一次元走査され、一方、ペンシルビーム形状をもったX線ビーム20が用いられる場合、測定ユニット14はジグザグスキャンされる。いずれにおいても、二次元の測定領域にわたって骨密度の測定が行われる。
【0022】
図1に示す例では、X線発生器16は、装置本体内に設けられており、一方、X線検出器18は載置台10の上方に設けられる測定ヘッド17内に収容されている。具体的には、搬送フレーム24の下端部にX線発生器16が搭載されており、搬送フレーム24の上端部に測定ヘッド17が設けられている。上記のように、測定ヘッド17内にX線検出器18が収容されている。搬送フレーム24は上述したようにX線ビーム20を走査するために機械的に搬送される。そのための機構については図示省略されている。なお、載置台10の上方にX線発生器を設け、一方、載置台10の下方にX線検出器を設けるようにしてもよい。
【0023】
X線発生器16と載置台10との間にはフィルタユニット22が設けられている。このフィルタユニット22の構造については後に図2などを用いて詳述するが、フィルタユニット22は図1に示す例において回転するフィルタプレートを有している。なお、後に示す図6乃至図8に記載された別の実施形態においては、フィルタユニットとして、回転するフィルタプレートに代えて回転するフィルタドラムが用いられる。いずれにしても、X線ビームの経路上に適切なフィルタ部材を選択的に挿入することにより、適切な骨密度測定を行い得る。その場合において、フィルタユニットにより不要な被曝を効果的に低減し、また散乱X線などを効果的に低減することが可能となる。
【0024】
図2には、図1に示した骨密度測定装置の全体構成がブロック図として示されている。被検体30を間に挟んでその下方にはX線発生器16が設けられ、被検体30の上方にはX線検出器18が設けられている。被検体30は図1に示した例では前腕部であるが、被検体30は胴部あるいは脚部などであってもよい。
【0025】
X線発生器16に対して、電源32が接続されており、電源32による印加電圧は制御部34によって制御される。すなわち、X線発生器16は高エネルギーX線を発生する機能と低エネルギーX線を発生する機能とを有しており、エネルギーの切替えはX線発生器16内に設けられたX線発生管への印加電圧の切替えにより行われている。つまり、電源32による印加電圧を高低切り替えることによりX線のエネルギーを高低切り替えることができる。
【0026】
X線検出器18は単一のX線センサあるいは複数のX線センサなどによって構成される。X線の検出信号は信号処理部46に入力され、その信号処理部46において骨密度を演算するための信号処理が実行される。ちなみに、骨密度の演算を信号処理部46で行わせるようにしてもよいし、制御部34において行わせるようにしてもよい。本実施形態においては、上述したDXA法にしたがって骨密度の演算が行われている。その演算結果は表示部50に表示される。制御部34には入力部48が接続されており、その入力部48を利用してユーザーは動作条件の設定などを行うことができる。制御部34は図2に示される各構成の動作制御を行っており、特に後に図5を用いて説明するゲート信号を発生する機能を有し、そのゲート信号に同期して各構成の動作を制御している。搬送機構36は制御部34によってその動作が制御されるものであり、搬送機構36は図1に示した測定ユニットの搬送を行う。
【0027】
フィルタユニット22は、図2に示す構成例において、フィルタプレート41と、フィルタ駆動部44と、第1フィルタ部材45とを有している。ここで、第1フィルタ部材45は、例えばアルミニウムなどによって構成され、X線ビームの経路上に固定的に設けられ、常にその作用が発揮されるものである。すなわち、第1フィルタ部材45は、高エネルギーX線及び低エネルギーX線の両方に対するエネルギースペクトルの調整あるいはエネルギーレベルの調整のために設けられている。
【0028】
フィルタプレート41は、後に図4を用いて説明するように、回転する円板として構成され、その円周方向に沿って交互配列された複数の第2フィルタ部材64と、複数の開口部とを有している。各第2フィルタ部材64と各開口部との間の隙間は第3のフィルタ部材として遮蔽部材が設けられている。フィルタプレート41それ全体は上記の第2フィルタ部材64及び開口部を除いて遮蔽部材62によって構成されている。ここで、第2フィルタ部材64は低エネルギーX線に対応したフィルタとして機能し、例えば銅部材によって構成される。また、遮蔽部材は、例えば鉛及び銅などの部材によって構成される。遮蔽部材はX線の減弱度合いが大きい部材で構成されるのが望ましく、上記のような鉛の他、タングステンなどの部材を用いることもできるし、X線の減弱度合いが弱い部材を厚く構成することにより、結果として遮蔽作用を得るようにしてもよい。
【0029】
フィルタ駆動部44は、フィルタプレート41における回転軸を駆動し、フィルタプレート41を一定速度で回転させるものである。その動作は制御部34によって制御される。フィルタプレート41における中心からシフトした位置にX線ビームが透過することになる。
【0030】
符号38はシャッタとしての遮蔽部材を示しており、そのシャッタ38は鉛やタングステンなどの部材によって構成される。シャッタ駆動部46はシャッタ38を進退駆動するものであり、骨密度測定の開始前又は開始後においてはシャッタ38がX線ビームの経路上に挿入される。また、骨密度測定にあたって例えばジグザグスキャンが行われる場合における加速期間及び減速期間などの期間においてシャッタ38がX線ビームの経路上に挿入される。これによって、被検体30における不要な被曝を防止することができる。更に、本実施形態においては、X線エネルギーの切替えを行う移行期間においても不要な被曝を低減するために遮蔽部材の挿入が行われており、これについては後に図4及び図5を用いて説明する。
【0031】
図3には、従来例としてのフィルタプレート52が示されている。回転軸58には水平方向に広がって一対のセクタ板54が設けられており、そのセクタ板54はそれぞれ銅などのエネルギースペクトル調整用の部材として構成される。2つのセクタ板54の隙間56は開口部とされている。
【0032】
高エネルギーX線の照射時においては開口部56がX線ビームの経路上に挿入され、一方、低エネルギーX線の照射時においてはセクタ板54がX線のビーム経路上に挿入される。なお、セクタ板54の外縁に設けられた突起部54Aは回転角度などを検出するためのマーカーである。
【0033】
図4には、本実施形態に係るフィルタプレート41が示されている。フィルタプレート41はその本体が円形の遮蔽板62として構成され、遮蔽板62は上記のように鉛やタングステンなどの部材を有する。更に銅などの部材を有していてもよい。遮蔽板62には円周方向に沿って2つの開口部66が形成されている。各開口部66は図4に示す例において円形である。また、遮蔽板62には円周方向に沿って2つの第2フィルタ部材64が設けられている。遮蔽板62において、第2フィルタ部材64が設けられている部位は開口部である。したがって、フィルタプレート41において円周方向に沿って観察すると、開口部66、第2フィルタ部材64、開口部66、第2フィルタ部材64といった具合に開口部66と第2フィルタ部材64とが交互に配列されている。ただし、それらの間には遮蔽板62を構成する遮蔽部材が設けられている。具体的には、開口部66と第2フィルタ部材64との間に生じている4つの隙間62Aには鉛やタングステンなどの部材が設けられている。その部分が第3フィルタ部材として機能し、すなわち高エネルギーX線と低エネルギーX線の照射間隔における移行期においてX線を遮蔽する機能を発揮する。なお、突起62Bはフィルタプレート41の回転角度を例えば光学的に検出するためのマーカーである。
【0034】
図5には、上述した骨密度測定装置の動作例が示されている。(A)には図2に示した制御部34によって発生されるゲート信号が示されている。ここで期間t1はX線照射期間(高エネルギーX線照射期間及び低エネルギーX線照射期間)を示しており、t2はそれらの間に間欠的に存在する非測定期間を示している。例えば、t1は3.3msであり、t2は1.7msである。(B)にはX線発生器に印加される電圧の波形が示されている。ここで、LOは低電圧を示し、HIは高電圧を示している。期間t2においては電圧が遷移しており、すなわち低電圧から高電圧に移行し、あるいは高電圧から低電圧に移行している。それらの期間においては電圧が不安定である。
【0035】
図3に示したような従来方式によると、(C)に示すような動作となる。f1を開口部によるフィルタ作用とし、f2を上記のセクタ状のフィルタ部材によるフィルタ作用として定義すると、f1とf2とが交互に切り替わることになるが、符号68で示す部分に示されるように、電圧の移行期間においてフィルタ作用の切り替わりが行われることになり、その期間においても照射がされ続け、被検体に対して不要な被曝が生じることを指摘できる。また、その移行期間においてフィルタ作用が突然切り替わることになるため、散乱X線などの発生が懸念される。
【0036】
(D)には本実施形態の方式が示されている。ここで、f1は図4に示した開口部66に相当するフィルタ作用を示しており、f2は図4に示した第2フィルタ部材64に相当するフィルタ作用を示しており、f3は遮蔽板62を構成する遮蔽部材つまり第3フィルタ部材による遮蔽作用を示している。例えば、f1はアルミニウムによる遮蔽作用であり、f2は銅とアルミニウムによる遮蔽作用であり、f3は鉛と銅とアルミニウムによる遮蔽作用である。つまり、図1及び図2に示した構成例では第1フィルタ部材が常時挿入されており、アルミニウムについては常時その作用が働いている。
【0037】
(D)に示す方式によれば、移行期間t2においてはf3で示されるように遮蔽部材がX線ビームの経路上に挿入され、その期間内においてのX線照射が遮断されることになり、上述のように不要な被曝を防止でき、あるいは散乱X線などの問題を防止できるという利点がある。期間t2は短時間ではあるが、それが繰り返し周期的に発生することになるため、そこにおいて僅かな被曝が全体として積算してみると一定の被曝量になることが見込まれる。そのような被曝量を解消できるという点で、本実施形態に係る構成は極めて実用的価値の高いものと認められる。なお、上述した各部材の具体例はいずれも一例であって、上記同様の作用が得られる限りにおいて各種の部材を用いることができる。その場合においては、単一の部材のみならず、複数の部材を結合させて所望のフィルタ部材を構成するようにしてもよい。
【0038】
したがって、本実施形態によれば、図2に示したシャッタの利用と相俟って、骨密度測定の一連の工程における被曝量を極力低減できるという利点がある。なお、図4に示した構成例において、開口部66及び第2フィルタ部材64の形状はX線ビームの形状などに応じて適宜定めることができる。例えばそれらの形状が円弧状などであってもよい。また、遮蔽板62において実質的に機能しない部分については除外するようにして、その重量を削減することも可能である。つまり、少なくともX線ビームが通過する領域において、所望のフィルタ作用を発揮する部材が設けられるように構成すればよい。
【0039】
次に、図6乃至図8を用いてフィルタユニットの他の構成例について説明する。図6に示すフィルタユニット70においては、フィルタドラム80が設けられている。符号72はX線発生器を示しており、X線発生器72はX線発生管、コリメータなどを有している。またその出射端には第1フィルタ部材としてのアルミニウム板などが設けられている。
【0040】
フィルタドラム80はフレーム74によって回転自在に支持されている。具体的には、フレーム74の一方端74Aはフィルタドラム80の軸78の一方端を軸支し、その一方、フレーム74の他方端には駆動部76が取付けられ、その駆動部76によって軸部材78の他方端が軸支されている。駆動部76の駆動により軸部材78が回転し、これに伴ってフィルタドラム80が回転する。フィルタドラム80は、その円周方向に沿って、3つの開口部88、1つの第2フィルタ部材86及び4つの遮蔽部材84を有している。図6に示す例では、X線ビーム82がファンビーム形状を有し、そのX線ビーム82が、下方に位置決めされた開口部を介して第2の調整用フィルタ部材86を通過している。一方、図7に示す例では、下方に位置決めされた開口部と上方に位置決めされた開口部をそのままX線ビーム82が通過している。その動作について図8を用いて詳述する。
【0041】
図8には、回転するフィルタドラム80の模式的な断面図が示されている。(A)〜(C)に示されるように、フィルタドラム80は円周方向に沿って3つの開口部88−1,88−2,88−3、1つの第2フィルタ部材86、及び、4つの遮蔽部材84−1,84−2,84−3,84−4を有している。各部材は上述した材料によって構成される。
【0042】
(A)に示されるように、高エネルギーX線の照射時には、開口部88−3から入射したX線ビームが開口部88−1を通過して被検体に照射される。次に、(B)に示されるように、低エネルギーX線の照射時においては、下方に位置決めされた開口部82−2からX線ビームが進入し、そのX線ビームが上方に位置決めされた第2フィルタ部材86を通過して被検体に照射される。更に、(C)に示されるように、上述した管電圧の切替期間すなわち移行期間においては、下方に位置決めされる遮蔽部材84−2と上方に配置される遮蔽部材84−4の両者相俟ってX線の減弱作用が発揮される。この場合、X線ビーム経路上に2つの遮蔽部材84−2,84−4が配置されることになるので、遮蔽効果を高めることができる。しかしながら、一方のみによって十分な遮蔽効果が得られるのであれば、それらの一方にのみ遮蔽部材を設けるように構成すればよい。
【0043】
いずれにしても、回転ドラム80が一定速度で回転するのに従って、上述したような各フィルタ作用が順次得られることになり、特に移行期間においてX線の十分な遮蔽を行うことが可能であるので、被検体に対する被曝を効果的に低減することが可能となる。図6乃至図8に示す実施形態によれば、回転ドラム80を利用するためフィルタユニットの設置ボリュームを小さくすることができるという利点がある。
【0044】
図6及び図7に示したように、ファンビーム形状をもったX線ビーム82が用いられる場合、その広がり方向とフィルタドラム80の中心軸とが一致される。これより、フィルタドラム80の回転によってもファンビームの横方向の各位置におけるフィルタ作用はほぼ同一となるため、フィルタ作用の位置的な不安定性を解消できるという利点がある。ちなみに、フィルタドラム80はその内部が中空とされており、その端部においてのみ軸が存在している。フィルタドラムを二重円筒型の構造とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る骨密度測定装置の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した骨密度測定装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】従来例におけるフィルタプレートの一例を示す図である。
【図4】図1に示した実施形態におけるフィルタプレートの一例を示す図である。
【図5】図1及び図2に示した装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】他の実施形態に係るフィルタユニットの構成例を示す図である。
【図7】他の実施形態に係るフィルタユニットの構成例を示す図である。
【図8】他の実施形態に係るフィルタドラムの作用を説明するための図である。
【符号の説明】
【0046】
10 載置台、14 測定ユニット、16 X線発生器、18 X線検出器、20 X線ビーム、22 フィルタユニット、41 フィルタプレート、80 フィルタドラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エネルギーX線及び低エネルギーX線を交互に繰り返し発生するX線発生器と、
前記X線発生器からのX線ビームが照射される位置に設けられたX線検出器と、
前記X線ビームの経路上に被検体を位置決めする載置台と、
複数のフィルタ部材と、前記X線ビームの経路上に挿入するフィルタ部材を選択するフィルタ選択機構と、を有するフィルタユニットと、
を含み、
前記複数のフィルタ部材には、前記高エネルギーX線の照射期間と前記低エネルギーX線の照射期間の間の各移行期間において、前記X線ビームの経路上に挿入される遮蔽用フィルタ部材が含まれることを特徴とするX線骨密度測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記X線発生器においては、当該X線発生器が有するX線発生管への印加電圧の切り換えにより前記高エネルギーX線及び低エネルギーX線が交互に発生し、
前記各移行期間は、前記印加電圧が高低に遷移する期間に相当し、その期間においては前記X線ビームの経路上に前記遮蔽用フィルタ部材が挿入されて前記被検体へのX線照射が間欠的に制限される、
ことを特徴とするX線骨密度測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記高エネルギーX線及び前記低エネルギーX線の各照射期間と、前記各移行期間と、を特定するゲート信号を発生するゲート信号発生手段と、
前記ゲート信号に同期して、前記X線発生管の印加電圧を周期的に切り換え、且つ、前記フィルタ選択機構によって前記X線ビームの経路上に挿入されるフィルタ部材を周期的に切り換える制御手段と、
を含むことを特徴とするX線骨密度測定装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記複数のフィルタ部材には調整用フィルタ部材と前記遮蔽用フィルタ部材とが含まれ、
前記フィルタユニットは、回転中心からシフトした位置に前記X線ビームが通過するように設けられた回転するプレートであって、前記調整用フィルタ部材及び前記遮蔽用フィルタ部材が円周方向に並べられたフィルタプレートを有し、
前記フィルタ選択機構は前記フィルタプレートを回転する機構である、
ことを特徴とするX線骨密度測定装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、
前記複数のフィルタ部材には、第1の調整用フィルタ部材と、第2の調整用フィルタ部材と、前記遮蔽用フィルタ部材と、が含まれ、
前記第1の調整用フィルタ部材は前記X線ビームの経路上に固定的に配置され、
前記フィルタユニットは、回転中心からシフトした位置に前記X線ビームが通過するように設けられた回転するプレートであって、前記第2の調整用フィルタ部材と、開口部と、それらの間に設けられた前記遮蔽用フィルタ部材と、が円周方向に並べられたフィルタプレートを有し、
前記フィルタ選択機構は前記フィルタプレートを回転する機構である、
ことを特徴とするX線骨密度測定装置。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、
前記複数のフィルタ部材には調整用フィルタ部材と前記遮蔽用フィルタ部材とが含まれ、
前記フィルタユニットは、回転中心軸が前記X線ビームと交差するように設けられた回転するドラムであって、前記調整用フィルタ部材及び前記遮蔽用フィルタ部材が円周方向に並べられたフィルタドラムを有し、
前記フィルタ選択機構は前記フィルタドラムを回転する機構である、
ことを特徴とするX線骨密度測定装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、
前記複数のフィルタ部材には、第1の調整用フィルタ部材と、第2の調整用フィルタ部材と、前記遮蔽用フィルタ部材と、が含まれ、
前記第1の調整用フィルタ部材は前記X線ビームの経路上に固定的に配置され、
前記フィルタユニットは、回転中心軸が前記X線ビームと交差するように設けられた回転するドラムであって、前記第2の調整用フィルタ部材と、開口部と、それらの間に設けられた前記遮蔽用フィルタ部材と、が円周方向に並べられたフィルタドラムを有し、
前記フィルタ選択機構は前記フィルタドラムを回転する機構である、
ことを特徴とするX線骨密度測定装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の装置において、
前記X線ビームは扇状に広がるファンビーム形状を有し、
前記フィルタドラムの回転中心軸と前記X線ビームの広がり方向とが一致する、
ことを特徴とするX線骨密度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−271437(P2006−271437A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90827(P2005−90827)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】