説明

X線CT装置及び画像処理装置

【課題】 再構成画像に対する架台振動の影響の程度や、架台振動の発生原因の特定を容易化する。
【解決手段】 一実施形態におけるX線CT装置は、被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を有し、これらX線源及びX線検出器を対向配置して回転させる架台部と、X線検出器により収集されたデータを用いて再構成画像データを生成する再構成部と、被検体として所定のファントムを用いた際にX線検出器によって収集されたデータに基づき再構成部によって生成される再構成画像データに関し、該画像データに含まれるファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、この抽出部による抽出結果、又はこの抽出結果を解析して得られる情報を出力する出力部と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被検体にX線を曝射して断層像の撮影を行うX線CT(Computer Tomography)装置及び該装置によって撮影された画像を処理する画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、X線源を被検体の体軸を中心として回転させるとともに、X線源にX線を被検体に向けて照射させ、被検体を透過したX線をX線検出器で検出して得られる投影データに基づき断層像を再構成するものであり、疾病の診断、治療や手術計画の立案等を始めとする多くの医療行為において重要な役割を果たしている。
【0003】
一般的に、X線CT装置においては、X線焦点の軌道が真円であると仮定して画像を再構成している。そのため、上記X線源やX線検出器が搭載された架台の回転時における振動は、再構成画像の画質、特に空間分解能を劣化させる直接的な要因となる。
【0004】
このような事実に鑑み、従来、回転時の架台振動を測定し、その値が小さくなるように架台の各部や設置状態を調整することで、振動の抑制が図られていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記架台振動の測定方法としては、架台に含まれる各機構の変位を直接的、あるいは間接的に測定する方法が用いられている。代表的な手法としては、実際に架台を回転させ、この状態で架台の各部の変位を測定する方法が挙げられる。
【0006】
しかしながら、このような従来の測定方法には種々の問題が存在している。
【0007】
例えば、測定結果である振動値が非常に小さくてもその周波数が高ければ再構成画像において目立つことがある。逆に、測定結果である振動値が大きくても1回転に亘って低周波な傾向であれば、画質への影響は無視できる程に小さいこともある。このように、架台振動の測定結果とその振動の画質への影響との関係が1対1に対応するとは限らない。
【0008】
また、測定対象部分の各々について種々の方向への振動値を測定しなければならないため、測定に必要な設備が大掛かりになってしまう。
【0009】
このような事情から、再構成画像に対する架台振動の影響の程度や、架台振動の発生原因の特定を容易化するための手段を講じる必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成すべく、一実施形態におけるX線CT装置は、被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を有し、これらX線源及びX線検出器を対向配置して回転させる架台部と、X線検出器により収集されたデータを用いて再構成画像データを生成する再構成部と、被検体として所定のファントムを用いた際にX線検出器によって収集されたデータに基づき再構成部によって生成される再構成画像データに関し、該画像データに含まれるファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、この抽出部による抽出結果、又はこの抽出結果を解析して得られる情報を出力する出力部と、を備えている。
【0011】
また、一実施形態における画像処理装置は、所定のファントムの断層像を含む再構成画像データを記憶する記憶部と、この記憶部に記憶された再構成画像データに含まれるファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、この抽出部による抽出結果、又はこの抽出結果を解析して得られる情報を出力する出力部と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態におけるX線CT装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】架台振動に起因して発生するアーチファクトを説明するための図。
【図3】第1の実施形態における動作を説明するためのフローチャート。
【図4】同実施形態におけるCT値プロファイルを説明するための図。
【図5】同実施形態において作成されるCT値プロファイルの一例を示す図。
【図6】同実施形態において作成される周波数スペクトルの一例を示す図。
【図7】第2の実施形態における画像処理部の構成を示す図。
【図8】同実施形態における動作を説明するためのフローチャート。
【図9】第3の実施形態におけるデータベースの構成を示す図。
【図10】同実施形態における動作を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、いくつかの実施形態につき、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する要素については同一の符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0014】
(第1実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。
[X線CT装置の全体構成]
図1は、本実施形態におけるX線CT装置1の全体構成を示すブロック図である。同図に示すように、X線CT装置1は、架台装置Aと、コンソール装置Bとで構成されている。
【0015】
架台装置Aは、被検体にX線を曝射し当該被検体を透過したX線を検出して投影データ(又は生データ)を取得する。なお、X線CTシステムの撮影系には、X線管球と検出器システムとが一体として被検体の周囲を回転する回転/回転(ROTATE/ROTATE) タイプや、リング状に多数の検出素子がアレイされ、X線管球のみが被検体の周囲を回転する固定/回転(STATIONARY/ROTATE)タイプ等様々なタイプがあり、いずれのタイプでも本発明を適用可能である。ここでは、現在、主流を占めている回転/回転タイプのX線CT装置を例として説明する。
【0016】
図1に示すように、架台装置Aは、固定部10、回転部11、寝台12、X線管球13、検出器システム14、データ収集回路(DAS)15、データ伝送部16、架台寝台駆動部17、給電部18、高電圧発生部19等を有している。
【0017】
X線管球13は、X線を発生する真空管であり、回転部11に設けられている。検出器システム14は、被検体Pを透過したX線を検出する検出器システムであり、X線管球13に対向する向きで回転部11に取り付けられている。
【0018】
回転部11には開口部110が設けられており、この開口部110内に寝台12が配置されている。寝台12のスライド天板には被検体Pが載置される。架台寝台駆動部17は、開口部110に挿入された被検体Pの体軸方向に平行な中心軸のまわりで回転部11を高速回転させつつ、寝台12を上記体軸方向に移動させる。このようにして被検体Pが広範囲にスキャンされる。
【0019】
データ収集回路15は、DASチップが配列された複数のデータ収集素子列を有し、検出器システム14で検出されたM×Nの全チャンネルに関する膨大なデータ(1ビューあたりのM×Nチャンネル分のデータを以下「生データ」という)を入力し、増幅処理、A/D変換処理等の後、一括して光通信を応用したデータ伝送部16を介して固定部10側に伝送する。
【0020】
固定部10には、商用交流電源等の外部電源から動作電力が供給される。固定部10に供給された動作電力は、例えばスリップリングである給電部18を介して回転部11の各部に伝達される。
【0021】
高電圧発生部19は、高電圧変圧器、フィラメント加熱変換器、整流器、高電圧切替器等で構成されており、給電部18から供給される動作電力を高電圧変換してX線管球13に供給する。
【0022】
次に、コンソール装置Bについて説明する。コンソール装置Bは、前処理部20、ホストコントローラ21、再構成部22、記憶部23、入力部24、画像処理部25、表示部26、及びデータ/制御バス30等を備えている。
【0023】
前処理部20は、データ伝送部16を介してデータ収集回路15から生データを受け取り、感度補正やX線強度補正を実行する。なお、当該前処理部20によって前処理が施された生データは、「投影データ」と呼ばれる。
【0024】
ホストコントローラ21は、撮影処理、データ処理、画像処理等の各種処理に関する統括的な制御を行う。
【0025】
再構成部22は、所定の再構成パラメータ(再構成領域サイズ、再構成マトリクスサイズ、関心部位を抽出するための閾値等)に基づいて投影データを再構成処理することで、所定のスライス分の再構成画像データを生成する。
【0026】
記憶部23は、収集した生データ、投影データ、再構成画像データ等の各種データを記憶する。
【0027】
入力部24は、キーボードや各種スイッチ、マウス等を備え、スライス厚やスライス数等の各種スキャン条件の入力等に用いられる。
【0028】
画像処理部25は、再構成部22により生成された再構成画像データに対して、ウィンドウ変換、RGB処理等の表示のための画像処理を行い、表示部26に出力する。また、画像処理部25は、オペレータの指示に基づき、任意断面の断層像、任意方向からの投影像、3次元表面画像等のいわゆる疑似3次元画像の生成を行い、表示部26に出力する。出力された画像データは、表示部26においてX線CT画像として表示される。
【0029】
データ/制御バス30は、各ユニット間を接続し、各種データ、制御信号、アドレス情報等を送受信するための信号線である。
【0030】
なお、画像処理部25は本実施形態における画像処理装置として機能し、所定のメモリに記憶されたコンピュータプログラムをプロセッサにて実行することで、抽出部251、解析部252、及び出力部253としての機能を実現する。これら各部251〜253の動作については図3の説明にて後述する。
【0031】
[架台振動によるアーチファクト]
さて、上記のような構成のX線CT装置1にて被検体がスキャンされ、生成される再構成画像には、回転部11の回転や寝台12の動作に伴う架台装置Aの振動(以下、架台振動)に起因したアーチファクトが発生し得る。このようなアーチファクトにつき、図2を用いて説明する。
【0032】
図示した(A),(B)は、いずれもX線CT装置1のFOV中にインパルス応答を発生するワイヤファントム(例えば0.1mm程度の銅線)を回転部11の回転軸と平行に配置してスキャンし、再構成した画像の一例を示している。各図(A)(B)の中心付近に存在する高輝度部分が上記ワイヤファントムの断層像(以下、ワイヤファントム像W)である。
【0033】
(A)においては、架台振動の影響が無視できる程に小さく、ワイヤファントム像Wの輪郭が略真円形を成している。一方、(B)においては架台振動の影響が許容できない程大きく、ワイヤファントム像Wの輪郭が蛇行して真円形を成していない。このアーチファクトは、例えば架台振動によってFCD(焦点からその回転中心までの距離)や検出器システム14のセンターチャンネル値等が回転中に変化しているにも関わらず、再構成時にそれらを考慮していないために発生したエラー成分であると考えられる。
【0034】
[架台振動評価]
上記のようなアーチファクトの発生原因となる架台振動の程度を評価すべく、本実施形態に係るX線CT装置1は、図3のフローチャートに示す流れの処理を実行する機能を備えている。この処理は、例えばユーザが入力部24を操作してメンテナンスモードを起動し、同処理の実行を指示したことに応じて開始される。
【0035】
なお、この処理を開始するに当り、ユーザは寝台12上に所定のファントムを設置しておく。本実施形態においては、このファントムとして上記ワイヤファントムを用いるものとする。また、上記ワイヤファントムは、回転部11の回転中心から若干外れた位置(例えば50mm程度)において、回転部11の回転軸と平行に設置する。このように回転中心を外してワイヤファントムを設置するのは、回転中心付近にて発生する架台装置Aの振動に因らないアーチファクトの影響を除外して後述の処理を実施するためである。
【0036】
このようにワイヤファントムが設置された状態で処理が開始されると、先ずホストコントローラ21が架台寝台駆動部17を制御して回転部11を回転させるとともに、給電部18及び高電圧発生部19を介してX線管球13に電圧を供給してX線を発生させ、当該ワイヤファントムをスキャンする(ステップS1)。このとき検出器システム14で検出された生データはデータ収集回路15及びデータ伝送部16等を介して前処理部20に送られ、各種補正を経て生成された投影データが記憶部23に記憶される。
【0037】
その後、再構成部22が記憶部23に記憶された投影データを用いて所定の再構成手法により再構成画像データを生成し、生成したデータを記憶部23に記憶する(ステップS2)。
【0038】
続いて、上記抽出部251、解析部252、及び出力部253による処理が開始される。
【0039】
すなわち、先ず抽出部251がステップS2にて記憶部23に記憶された再構成画像データに含まれるワイヤファントム像Wの位置を特定する(ステップS3)。この処理においては、例えば予め画像処理部25内のメモリにワイヤファントム像Wの位置を示す設定情報を記憶しておき、この設定情報を用いて再構成画像データに含まれるワイヤファントム像Wの重心位置を特定する。この場合、ステップS1,S2の処理を行う際に、上記設定情報にて示される位置にワイヤファントムを設置する必要がある。
【0040】
また、ワイヤファントム像Wの位置を特定する他の方法としては、例えば再構成画像データに含まれる各画素のCT値(画素値)を用いて自動的に特定する方法を採用し得る。この方法においては、再構成画像データ中のCT値が最も高い位置をワイヤファントム像Wの重心位置とみなせばよい。
【0041】
ワイヤファントム像Wの位置を特定した後、抽出部251は、再構成画像データに含まれる当該ワイヤファントム像Wを囲う軌跡上に存在する画素のCT値を抽出し、アーチファクトのCT値プロファイルを作成する(ステップS4)。
【0042】
ここで、本実施形態におけるCT値プロファイルについて具体的に説明する。図4は、図2に示した画像(A)(B)に含まれるワイヤファントム像Wの拡大図である。本実施形態においては、ワイヤファントム像Wの周囲を囲う軌跡L上に存在する画素のCT値を再構成画像データから抽出し、それらを軌跡Lの円周方向(ラジアン方向)に沿って並べることでアーチファクトのCT値プロファイルを作成する。なお、軌跡Lは、ステップS3にて特定した重心位置を中心とする真円形である。この軌跡Lの直径(或いは半径)は、例えば予め画像処理部25内のメモリに記憶しておいてもよいし、再構成画像データに含まれる各画素のCT値等を用い、ワイヤファントム像Wを囲うように自動的に設定されてもよい。
【0043】
このような手法で作成されるCT値プロファイルは、例えば図5のような変化を示す。この図は、横軸を角度(0度〜360度)、縦軸をCT値としたグラフ形式にて2パターンのCT値プロファイル(実線Xa及び破線Xb)を示すものである。
【0044】
実線Xaは、全体としてCT値の変化が小さく、かつ、その変化の周期も大きい。このような場合には、図2における画像(A)のように、架台振動の影響が無視できる程に小さいと推定される。
【0045】
一方、破線Xbは、実線Xaに比べてCT値の変化が大きく、その変化の周期も小さい。このような場合には、図2における画像(B)のように、架台振動の影響が許容できない程に大きいと推定される。
【0046】
ステップS4にてCT値プロファイルを作成した後、解析部252が当該プロファイルを用いて種々の解析を行う(ステップS5)。特に本実施形態において、解析部252は、ステップS3にて作成されたCT値プロファイルの周波数スペクトルを作成する。この周波数スペクトルは、例えば回転部11の回転速度(例えば0.35秒程度)を考慮してFFT(高速フーリエ変換)などの周知の手法を用いることで作成すればよい。
【0047】
解析部252によって作成される周波数スペクトルの一例を図6に示す。この図は、横軸を周波数(Frequency)、縦軸を振幅(Amplitude)として周波数スペクトルをグラフ形式にて示すものであり、11Hz付近にて振幅が大幅に増大している。このような周波数スペクトルに基づけば、プロファイルされたアーチファクトが約11Hzの固有周波数を持つと推定される。
【0048】
CT値プロファイルの解析を行った後、出力部253が当該CT値プロファイル及び解析結果である周波数スペクトルを表示部26に表示出力する(ステップS6)。但し、周波数スペクトル以外の解析結果、例えば当該スペクトルから特定されるアーチファクトの固有周波数等も併せて表示部26に表示出力してもよい。また、CT値プロファイル及び解析結果は、図示せぬプリンタによる印刷や、通信ユニットを介して接続された機器へのデータ送信等で出力されてもよい。さらに、CT値プロファイルや解析結果は、図5,図6に示したようなグラフ形式で出力されてもよいし、他のグラフ形式、あるいはCT値プロファイルや解析結果に含まれる数値のまま出力されてもよい。
【0049】
以上で図3のフローチャートに示した一連の処理が終了する。
【0050】
X線CT装置1のメンテナンスを行う者は、このようにして表示部26に表示されるCT値プロファイルを参照することで、再構成画像中のワイヤファントム像Wの周囲に発生したアーチファクトの程度を定量的に把握し、架台振動の再構成画像に対する影響の有無を容易に判定することができる。
【0051】
また、表示されたCT値プロファイルや周波数スペクトルは、架台振動の発生原因を特定するための有効な手がかりとなる。しかも、CT値プロファイルや周波数スペクトルはグラフ形式で表示されるため、アーチファクトの振動の様子や固有周波数を視覚的に把握し易い。
【0052】
メンテナンスを行う者は、例えばCT値プロファイルの振幅がある程度の大きさを持つ場合等には架台振動の画質への影響が無視できないと判断し、周波数スペクトルから特定される固有周波数にて経験的に想定される架台装置Aの不良部位に対し、必要な処置を施せばよい。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0054】
本実施形態は、第1の実施形態にて説明したCT値プロファイルに基づき、X線CT装置1側で自動的に架台振動の画質に及ぼす影響が許容範囲か否かを判定する点で、第1の実施形態と異なる。
【0055】
本実施形態におけるX線CT装置1の構成は、基本的に図1に示したものと同一である。但し図7に示すように、本実施形態における画像処理部25は、抽出部251、解析部252、及び出力部253に加え、異常判定部254を備えている。異常判定部254は、各部251〜253と同様に、所定のメモリに記憶されたコンピュータプログラムをプロセッサにて実行することで実現される。
【0056】
本実施形態におけるメンテナンスモードにおいては、図3のフローチャートに示した流れの処理に代え、図8のフローチャートに示す流れの処理が実行される。すなわち、先ず第1の実施形態と同様にワイヤファントムをスキャンし(ステップS1)、再構成画像データを生成し(ステップS2)、再構成画像データに含まれるワイヤファントム像Wの位置を特定し(ステップS3)、再構成画像データに含まれる当該ワイヤファントム像Wの周囲に存在するアーチファクトのCT値プロファイルを作成し(ステップS4)、当該プロファイルを用いて種々の解析を行い(ステップS5)、CT値プロファイル及び解析結果を表示部26に表示出力する(ステップS6)。
【0057】
その後、上記異常判定部254が架台装置Aにおいて異常振動が発生しているか否かを判定する(ステップS7)。この処理においては、例えばステップS4にて作成されたCT値プロファイルに含まれる各CT値の最大値CTmaxと最小値CTminとの差分ΔCT(=|CTmax−CTmin|)を求め、この差分ΔCTが予め定められた閾値CTx以上である場合(ΔCT≧CTx)には異常振動有りと判定し、閾値CTx未満である場合(ΔCT<CTx)には異常振動無しと判定する。
【0058】
また、異常振動発生の有無は、CT値プロファイルの0度〜360度間における振動の周波数Fに基づいて判定してもよい。すなわち、周波数Fが十分大きい場合や十分小さい場合には再構成画像において当該プロファイルに係るアーチファクトが目立たなくなることに鑑み、周波数Fが下限値Fmin以上かつ上限値Fmax以下である場合(Fmin≦F≦Fmax)に異常振動無しと判定し、下限値Fmin未満あるいは上限値Fmaxを超える場合(F<Fmin,F>Fmax)に異常振動有りと判定する。
【0059】
さらに、これら2通りの判定方法を組み合わせてもよい。すなわち、上記差分ΔCが閾値CTx以上かつ上記周波数Fが下限値Fmin未満である場合(ΔCT≧CTx,F<Fmin)、及び、上記差分ΔCが閾値CTx以上かつ上記周波数Fが上限値Fmaxを超える場合に(ΔCT≧CTx,F>Fmax)、異常振動有りと判定する。
【0060】
なお、上記閾値CTx、下限値Fmin、上限値Fmaxは、これらが再構成画像への影響が許容できる程度と許容できない程度とを隔てる値となるよう、実験的、経験的、あるいは理論的に定めればよい。
【0061】
このような手法による判定の結果、異常振動無しと判定されたとき(ステップS8のNo)、出力部253が異常振動は発生していない旨のメッセージを表示部26に表示する(ステップS9)。一方、ステップS7にて異常振動有りと判定されたとき(ステップS8のYes)、出力部253が異常振動が発生している旨のメッセージを表示部26に表示する(ステップS10)。但し、ステップS9,S10においては、図示せぬプリンタによる印刷や、通信ユニットを介して接続された機器へのデータ送信、あるいは図示せぬスピーカからの音声出力等で判定結果が報知されてもよい。
【0062】
ステップS9あるいはステップS10の後、図8のフローチャートに示した一連の処理が終了する。
【0063】
このように、本実施形態においては架台装置Aで異常振動が発生しているか否かが自動的に判定され、その結果が報知される。そのため、メンテナンスを行う者は自ら異常振動の有無を判定する必要がないので、当該判定に要していた手間が省ける。
【0064】
その他、第1の実施形態と同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0065】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
本実施形態は、第2の実施形態にて説明した異常振動発生の有無の判定の結果、異常振動が発生していると判定されたときに、その発生原因として疑われる事項をX線CT装置1が報知する点で、第2の実施形態と異なる。
【0066】
本実施形態におけるX線CT装置1の構成は、基本的には第2の実施形態にて説明したものと同一である。但し記憶部23には、図9に示すような構成のデータベース231が記憶されている。このデータベース231は、アーチファクトの種々の固有周波数に対し、そのアーチファクトの発生原因として疑われる事項(疑義事項)を対応付けて構成されている。各周波数及びそれに対応する疑義事項は、例えば経験的に得られた結果を当該データベース231に登録したものである。
【0067】
本実施形態におけるメンテナンスモードにおいては、図8のフローチャートに示した流れの処理に代え、図10のフローチャートに示す流れの処理が実行される。すなわち、先ず第1,第2の実施形態と同様にワイヤファントムをスキャンし(ステップS1)、再構成画像データを生成し(ステップS2)、再構成画像データに含まれるワイヤファントム像Wの位置を特定し(ステップS3)、再構成画像データに含まれる当該ワイヤファントム像Wの周囲に存在するアーチファクトのCT値プロファイルを作成し(ステップS4)、当該プロファイルを用いて種々の解析を行い(ステップS5)、CT値プロファイル及び解析結果を表示部26に表示出力する(ステップS6)。その後、異常振動発生の有無を判定し(ステップS7)、異常振動無しと判定されたときには(ステップS8のNo)、異常振動が発生していない旨のメッセージを表示出力する(ステップS9)。
【0068】
一方、異常振動有りと判定されたときには(ステップS8のYes)、異常振動が発生している旨のメッセージを表示出力する(ステップS10)。さらにこの場合、ステップS5にて作成した周波数スペクトルに基づき、解析部252がアーチファクトの固有周波数Fxを特定する(ステップS11)。この処理においては、例えば図6に示したように周囲よりも大幅に振幅が増大する周波数を特定し、その周波数をアーチファクトの固有周波数Fxとみなせばよい。
【0069】
アーチファクトの固有周波数Fxが特定された後、解析部252が当該固有周波数Fxに近似する周波数をデータベース231から検索する(ステップS12)。この処理においては、例えば予め定められた誤差εを固有周波数Fxから減算して得られる下限値と、同誤差εを固有周波数Fxに加算して得られる上限値とで区切られる範囲内に在る周波数を、固有周波数Fxに近似するものとみなせばよい。
【0070】
この検索の結果、データベース231から固有周波数Fxに近似する周波数が発見された場合(ステップS13のYes)、出力部253が当該発見した周波数に対応付けられた疑義事項をデータベース231から読み出し、読み出した疑義事項を固有周波数Fxとともに表示部26に表示する(ステップS14)。
【0071】
ステップS9またはステップS14の後、あるいはステップS12にてデータベース231から固有周波数Fxに近似する周波数が発見されない場合(ステップS13のNo)、図10のフローチャートに示した一連の処理が終了する。
【0072】
このように、本実施形態においては異常振動の発生原因として疑われる事項が自動的に表示部26に表示出力される。このような構成であれば、異常振動の発生原因の特定が極めて容易になるので、異常振動に対処するためのメンテナンス作業が大幅に効率化される。
【0073】
その他、第1,第2の実施形態と同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0074】
(変形例)
なお、上記各実施形態に開示された構成は、実施段階において各構成要素を適宜変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0075】
(1)上記各実施形態では、X線CT装置1内の画像処理部25によって抽出部251、解析部252、出力部253、及び異常判定部254等が実現され、これら各部251〜254によってステップS3〜S14の処理が行われるとした。しかしながら、X線CT装置1とは別途の画像処理装置にてステップS3〜S14の処理を実行するようにしてもよい。この場合、上記画像処理装置としては、パーソナルコンピュータや病院内のネットワークに接続されたサーバ、あるいはステップS3〜S14の処理を実行させるべく構成された専用のコンピュータシステム等の種々の装置を採用し得る。また、このような画像処理装置にて処理するための再構成画像データは、X線CT装置1の記憶部に記憶されたものを読み出すようにしてもよいし、当該画像処理装置に設けられた記憶部に記憶されたもの、あるいはCD−ROMやUSBメモリ等の記憶媒体に記憶されたものを読み出すようにしてもよい。
【0076】
(2)上記各実施形態では、被検体としてワイヤファントムを採用し、図3,図8,図10に示した処理が実行されるとした。しかしながら、ファントムとしてはワイヤ以外のものを採用してもよい。また、断面が円形でないファントムを用いる場合には、軌跡Lをそのファントムの形状に合せて変形させるなど、上記各実施形態にて開示した構成を適宜修正すればよい。
【0077】
(3)上記各実施形態では、プロセッサがメモリに記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより、抽出部251、解析部252、出力部253、及び異常判定部254が実現されるとした。しかしながら、これに限らず上記コンピュータプログラムを所定のネットワークからX線CT装置1や上記(1)にて説明した画像処理装置にダウンロードしてもよいし、同様の機能を記録媒体に記憶させたものをこれらX線CT装置1や上記画像処理装置にインストールしてもよい。記録媒体としては、CD−ROMやUSBメモリ等を利用でき、かつX線CT装置1や上記画像処理装置に接続されたデバイスが読み取り可能な記録媒体であれば、その形態はどのようなものであってもよい。また、このように予めインストールやダウンロードにより得る機能は、X線CT装置1や上記画像処理装置内部のOS(Operating System)等と協働してその機能を実現させるものであってもよい。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
1…X線CT装置、A…架台装置、B…コンソール装置、P…被検体、11…回転部、12…寝台、13…X線管球、14…検出器システム、22…再構成部、25…画像処理部、26…表示部、231…データベース、251…抽出部、252…解析部、253…出力部、254…異常判定部、W…ワイヤファントム像、L…軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を有し、これらX線源及びX線検出器を対向配置して回転させる架台部と、
前記X線検出器により収集されたデータを用いて再構成画像データを生成する再構成部と、
前記被検体として所定のファントムを用いた際に前記X線検出器によって収集されたデータに基づき前記再構成部によって生成される再構成画像データに関し、該画像データに含まれる前記ファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、
この抽出部による抽出結果、又はこの抽出結果を解析して得られる情報を出力する出力部と、
を備えていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
前記軌跡は、前記ファントムの断層像を囲う円形であり、
前記出力部は、前記抽出部によって抽出された各画素値を前記軌跡の円周方向に並べたグラフを出力することを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記抽出部による抽出結果を解析して前記軌跡上に存在するアーチファクトの周波数スペクトルを作成する解析部をさらに備え、
前記出力部は、前記解析部によって作成された周波数スペクトル、又は、この周波数スペクトルから特定される前記アーチファクトの固有周波数を出力することを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項4】
被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を有し、これらX線源及びX線検出器を対向配置して回転させる架台部と、
前記X線検出器により収集されたデータを用いて再構成画像データを生成する再構成部と、
前記被検体として所定のファントムを用いた際に前記X線検出器によって収集されたデータに基づき前記再構成部によって生成される再構成画像データに関し、該画像データに含まれる前記ファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、
この抽出部による抽出結果に基づき、前記架台部において異常振動が発生しているか否かを判定する異常判定部と、
この異常判定部による判定結果を出力する出力部と、
を備えていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項5】
前記異常判定部は、前記抽出部によって抽出された各画素値の最大値と最小値の差分が予め定められた閾値を超える場合に異常振動が発生していると判定し、前記差分が前記閾値を下回る場合に異常振動が発生していないと判定することを特徴とする請求項4に記載のX線CT装置。
【請求項6】
被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を有し、これらX線源及びX線検出器を対向配置して回転させる架台部と、
前記X線検出器により収集されたデータを用いて再構成画像データを生成する再構成部と、
この再構成部によって生成される再構成画像データに表れるアーチファクトの固有周波数に対応付けて、そのアーチファクトの発生原因と推定される事象が登録されたデータベースと、
前記被検体として所定のファントムを用いた際に前記X線検出器によって収集されたデータに基づき前記再構成部によって生成される再構成画像データに関し、該画像データに含まれる前記ファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、
この抽出部による抽出結果を解析して前記軌跡上に存在するアーチファクトの固有周波数を特定する解析部と、
この解析部によって特定された固有周波数に関連付けて前記データベースに登録されたアーチファクトの発生原因を出力する出力部と、
を備えていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項7】
前記抽出部による抽出結果に基づき、前記架台部において異常振動が発生しているか否かを判定する異常判定部をさらに備え、
前記出力部は、前記異常判定部によって異常振動が発生していると判定された場合、前記アーチファクトの発生原因を出力し、前記異常判定部によって異常振動が発生していないと判定された場合、前記アーチファクトの発生原因を出力しないことを特徴とする請求項6に記載のX線CT装置。
【請求項8】
被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を対向配置して回転させる架台部を有するX線CT装置によって生成された、所定のファントムの断層像を含む再構成画像データを記憶する記憶部と、
この記憶部に記憶された再構成画像データに含まれる前記ファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、
この抽出部による抽出結果、又はこの抽出結果を解析して得られる情報を出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする画像処理装置。
【請求項9】
被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を対向配置して回転させる架台部を有するX線CT装置によって生成された、所定のファントムの断層像を含む再構成画像データを記憶する記憶部と、
この記憶部に記憶された再構成画像データに含まれる前記ファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、
この抽出部による抽出結果に基づき、前記再構成画像データの生成に用いられたX線CT装置の前記架台部において異常振動が発生しているか否かを判定する異常判定部と、
この異常判定部による判定結果を出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする画像処理装置。
【請求項10】
被検体にX線を照射するX線源、及び、被検体を透過したX線を検出するX線検出器を対向配置して回転させる架台部を有するX線CT装置によって生成された、所定のファントムの断層像を含む再構成画像データを記憶する記憶部と、
前記再構成画像データに表れるアーチファクトの固有周波数に対応付けて、そのアーチファクトの発生原因と推定される事象が登録されたデータベースと、
前記記憶部に記憶された再構成画像データに含まれる前記ファントムの断層像を囲う軌跡上に存在する画素の画素値を抽出する抽出部と、
この抽出部による抽出結果を解析して前記軌跡上に存在するアーチファクトの固有周波数を特定する解析部と、
この解析部によって特定された固有周波数に関連付けて前記データベースに登録されたアーチファクトの発生原因を出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−273(P2013−273A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133121(P2011−133121)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】