説明

X線CT装置用X線検出器のコリメータ

【課題】コリメータ板を保持しそれとともに湾曲の発生を抑えること。
【解決手段】X線CT装置用X線検出器のコリメータ1は、配列される略長方形形状を有する複数のコリメータ板2と、コリメータ板を長手方向への張力により支持するテンション部材4と、テンション部材を支持するコリメータベース3とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置用X線検出器に入射するX線の方向を制限するためのX線検出器に実装されるコリメータに関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置用X線検出器は、シンチレータアレイとフォトダイオードアレイを主構成部品として備える。さらにX線検出器は、X線管から被検体を透過してきた直接線を検出し、散乱線を除去するために、シンチレータアレイのX線入射窓側にコリメータを実装している。
【0003】
コリメータは、典型的にはモリブデン製の非常に薄い数百枚のコリメータ板と、コリメータ板を両端で支持する一対のコリメータベースとを有する。各コリメータベースには複数の溝が等間隔で形成されている。複数の溝に複数のコリメータ板がそれぞれ挿入される。複数のコリメータ板はコリメータベースに接着剤で固定される。
【0004】
数百枚のコリメータ板のうち1枚にでも反り、湾曲という不具合が生じた場合、画像にアーチファクトが発生する。従って1枚にでも不具合が生じたコリメータは一式が廃棄処分される。コリメータ板が湾曲する主な原因としては、コリメータを構成している各部材の線膨張係数の違いやコリメータ製造時に使用している接着剤の硬化条件、使用時の温度設定条件などが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コリメータ板を保持しそれとともに湾曲の発生を抑えることの可能なX線CT装置用X線検出器のコリメータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面は、配列される略長方形形状を有する複数のコリメータ板と、前記コリメータ板を長手方向への張力により支持するテンション部材と、前記テンション部材を支持するコリメータベースとを具備することを特徴とするX線CT装置用X線検出器のコリメータを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コリメータ板を保持しそれとともに湾曲の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係るX線CT装置用X線検出器のコリメータ板配列を示す斜視図である。
【図2】図1のコリメータ板を示す側面図である。
【図3】図1のコリメータ板配列をコリメータベース及びテンション部材とともにX線管側から見た図である。
【図4】図3のコリメータベース及びテンション部材の断面構造を示す図である。
【図5】図4の構造を含むX線検出器の断面を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るX線CT装置用X線検出器のコリメータ板をテンション部材とともに示す側面図である。
【図7】図6のコリメータ板をコリメータベース及びテンション部材とともに示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係るコリメータは、X線CT装置のスキャン本体にX線管とともに装備されるX線検出器の重要な構成要素である。X線CT装置は、被検体に関して複数の方向から収集した投影データに基づいて断層画像又は3次元画像のデータを再構成するX線コンピュータトモグラフィ装置である。X線CT装置は、投影データを収集するスキャン本体を有する。スキャン本体は、回転リングを有し、この回転リングにX線管とX線検出器とが対向して取付られている。X線管は、高電圧発生器から高電圧(管電圧)の印加を受けて、X線を発生する。X線検出器は、典型的には、X線を光に変換するシンチレータ素子と光を電荷に変換するフォトダイオード素子とからなる複数の検出素子を有する。複数の検出素子は、X線管のX線焦点を中心として略円弧状に配列される。通常、単一のX線検出素子が、信号読み出し処理上で単一のチャンネルを構成する。X線検出素子が配列される円弧方向を“チャンネル方向”と称し、回転リングの回転軸をスライス方向と称する。なお説明の便宜上、回転リングの回転軸(図1のR)をZ軸と規定し、Z軸を中心としてX線管の回転とともに回転する回転座標系を定義して、X線管のX線焦点とX線検出器の検出素子配列中心とを結ぶ軸をX軸、Z軸とX軸とに直交する軸をY軸と規定する。
【0010】
X線検出器には、一般的にDAS(data acquisition system) と呼ばれているデータ収集システムが接続される。データ収集システムには、X線検出器の各チャンネルの電流信号を電圧に変換するI−V変換器と、この電圧信号をX線の曝射周期に同期して周期的に積分する積分器と、この積分器の出力信号を増幅するアンプと、このプリアンプの出力信号をディジタル信号に変換するアナログ・ディジタル・コンバータとが、チャンネルごとに設けられている。前処理部では、データ収集システムで検出された投影データに対して、チャンネル間の感度不均一を補正したり、またX線強吸収体、主に金属部による極端な信号強度の低下又は信号脱落を補正する等の前処理を実行する。再構成プロセッサは、前処理を受けた投影データに基づいて断層像を再構成する。
【0011】
(第1実施形態)
図1、図5に示すように、本実施形態に係るコリメータ1は、X線検出器10の検出器容器11の内部に実装され、X線入射窓12から入射するX線のうち散乱線を除去し、X線焦点Fからの直接線を検出素子13まで通過させる。検出素子13はシンチレータ素子とフォトダイオード素子とからなる。複数の検出素子13はチャンネル方向に沿って一列に配列される。マルチスライス型であれば、複数の検出素子13はチャンネル方向とスライス方向との2方向に関してマトリクス状に配列される。
【0012】
コリメータ1は、典型的にはモリブデン製の薄板状の複数、例えば900枚といった数百枚のコリメータ板2を有する。複数のコリメータ板2は、略長方形形状を有し、その長手方向がスライス方向(Z軸)と平行になるように配置される。また複数のコリメータ板2は、その板面がX線管20のX線焦点Fに向かう方向に向けられ、X線焦点Fを中心とした円弧方向(チャンネル方向)に沿って配列される。
【0013】
図2に示すように、コリメータ板2は、その長手方向(Z軸方向)の両端それぞれに一対の突起部2−2を有する。一対の突起部2−2は、コリメータ板2の本体部分2−1から短手方向(X軸方向)の上下にそれぞれ突起する。突起部2−2は、本体部分2−1とともに、例えば0.2mmのモリブデン薄板から一体に切り出される。
【0014】
図3、図4には本実施形態のコリメータ1の平面図、断面図をそれぞれ示している。コリメータベース3は、チャンネル方向に沿って緩やかな円弧形状を有する弓なり様の一対の部材である。一対のコリメータベース3それぞれには、一定の間隔で複数の溝6が形成されている。各溝6には1枚ずつコリメータ板2が挿入される。コリメータ板2は、長手方向(Z軸方向)の張力によりコリメータベース3の溝6に保持される。張力は、テンション部材4により発揮される。テンション部材4は、突起部2−1に引っ掛ける鉤形又はL字形の断面形状を有する。テンション部材4の鉤部分にはネジ孔が切られている。このネジ孔に、コリメータベース3を貫通する細いテンションネジ5が挿入される。コリメータベース3にテンション部材4が支持される。
【0015】
テンションネジ5の適当な締め量は、コリメータ板2を破壊せず、しかも安定的に保持するのに必要十分な張力を発揮する。典型的には、1つのテンション部材4は、数十枚程度のコリメータ板2を保持するのに必要な大きさを有していて、複数の対のテンション部材4で数百枚のコリメータ板2を保持する。もちろんテンション部材4を分化せずに、一対のテンション部材4で全てのコリメータ板2を保持するようにしてもよい。複数のテンション部材4でコリメータ板2を保持する場合、コリメータ板2の交換などのメンテナンスの作業性が向上する効果がある。
【0016】
張力によりコリメータ板2をコリメータベース3に保持することで、コリメータ板2の湾曲の発生を抑え、コリメータ板2の湾曲に起因するアーチファクトの発生を抑制することができる。また、従来のように接着剤を用いてコリメータ板2をコリメータベース3に保持する必要がないので、コリメータ板2に不具合が生じたときであっても、テンション部材4を外して、当該不具合が生じたコリメータ板2だけを交換することができ、従来のように数百枚のコリメータ板2のうち1枚に不具合が生じたときであってもコリメータ一式を廃棄する必要が無くなる。さらに従来のように接着剤を用いてコリメータ板2をコリメータベース3に保持する場合よりも、薄いコリメータ板2を採用することができ、検出器1自体の幾何効率を向上させることができる。幾何効率の向上は画像のSN比の向上に繋がり、特に低線量撮影条件時や大被写体撮影条件時に効果的である。
【0017】
(第2実施形態)
本実施形態では第1実施形態と張力発生構造が相違し、他の構成は第1実施形態と同一である。図6には本実施形態に係るコリメータのコリメート板7と、テンション部材として機能する矯正板8とを示している。第1実施形態ではテンション部材4により張力を発生していたが、本実施形態では、コリメート板7を上下から矯正板8で挟むことで張力を発生させる。コリメート板7のスライス方向の両端それぞれには、一対の突起部7−2が設けられる。一対の突起部7−2は、コリメータ板7の本体部分7−1から短手方向(X軸方向)の上下にそれぞれ突起する。矯正板8は、チャンネル方向に沿って緩やかな円弧形状を有する弓なり部材であり、台形形状の断面を有する。
【0018】
矯正板8は、X線透過性の高い例えばカーボンで形成される。突起部7−2はその内側の縁がX軸に対して外側に向かって傾斜するテーパー形状を有し、それにより突起部7−2は、矯正板8の台形形状に係合する。コリメート板7の突起部7−2の間に矯正板8を挟み、コリメート板7の中心に向かって矯正板8を押し込むことでコリメート板7にその長手方向に張力が発生される。
【0019】
図7に示すように、矯正板8はコリメータベース9に支持板20を介してテンションネジ21で支持される。このテンションネジ21の適当な締め量は、コリメータ板7を破壊せず、しかも安定的に保持するのに必要十分な張力を発揮する。
本実施形態でも第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0020】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、X線CT装置用X線検出器に入射するX線の方向を制限するためのX線検出器に実装されるコリメータの分野に利用可能性がある。
【符号の説明】
【0022】
1…コリメータ、2…コリメータ板、3…コリメータベース、4…テンション部材、5…テンションネジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列される略長方形形状を有する複数のコリメータ板と、
前記コリメータ板を長手方向への張力により支持するテンション部材と、
前記テンション部材を支持するコリメータベースとを具備することを特徴とするX線CT装置用X線検出器のコリメータ。
【請求項2】
前記コリメータ板は、短手方向に突起した突起部を長手方向両端に有することを特徴とする請求項1記載のX線CT装置用X線検出器のコリメータ。
【請求項3】
前記テンション部材は、前記突起部にひっかける鉤形形状を有することを特徴とする請求項2記載のX線CT装置用X線検出器のコリメータ。
【請求項4】
前記テンション部材は、台形形状の断面を有し、
前記突起部は、前記テンション部材の台形形状に係合するテーパー形状を有することを特徴とする請求項2記載のX線CT装置用X線検出器のコリメータ。
【請求項5】
前記テンション部材は、前記コリメータベースに対して着脱自在であることを特徴とする請求項1記載のX線CT装置用X線検出器のコリメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−135934(P2011−135934A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296235(P2009−296235)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】