XCR1陽性細胞への送達のためのシステムおよびその使用
本発明は、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している送達システム、それをコードする一つまたは複数の核酸、核酸を含むベクター、送達システムまたは一つもしくは複数の核酸を含む医薬、およびXCL1またはその機能活性断片を含むアジュバントに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している送達システム、それをコードする一つまたは複数の核酸、核酸を含むベクター、送達システムまたは一つもしくは複数の核酸を含む医薬、およびXCL1またはその機能活性断片を含むアジュバントに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、多様な機序により、病原体および腫瘍細胞から身体を保護する。適切に機能するために、それは「自己」と「外来」(病原体/腫瘍)とを識別しなければならない。それは、細菌、ウイルス、寄生虫、真菌、および毒素を含む多様な病原体を検出し、それらと戦う。ヒトのような脊椎動物の免疫系は、動的ネットワークにおいて相互作用する多くの型のタンパク質、細胞、組織、および器官からなる。この複雑な免疫応答の一部として、脊椎動物の免疫系は、特定の病原体をより効率的に認識するため次第に順応する。順応過程は、免疫学的記憶を作出し、これらの病原体と将来遭遇した際のより効率的な保護を可能にする。予防接種は、この獲得免疫の過程に基づく。
【0003】
免疫系の障害は、疾患を引き起こす場合がある。免疫系の活性が正常未満である場合には、免疫不全症が起こり、再発性の生命に関わる感染をもたらす。対照的に、自己免疫疾患は、正常組織をあたかも外来生物であるかのように攻撃する機能亢進性の免疫系に起因する。一般的な自己免疫疾患には、慢性関節リウマチ、1型糖尿病、多発性硬化症、およびエリテマトーデスが含まれる。
【0004】
樹状細胞(DC)は、免疫系の一部を形成する。それらの主要な機能は、抗原材料をプロセシングし、表面上で免疫系の他の細胞にそれを提示し、従って、抗原提示細胞として機能することである。
【0005】
Tヘルパー細胞(エフェクターT細胞またはTh細胞としても公知)も、免疫系の能力の確立および最大化において基本的な役割を果たすという点で、免疫系の重要なメンバーである。Th細胞は、他の免疫細胞の活性化および指図に関与し、免疫系において特に重要である。それらは、B細胞抗体クラススイッチの決定、細胞障害性T細胞の活性化および増殖、ならびにマクロファージのような食細胞の殺菌活性の最大化において不可欠である。Tヘルパー細胞がそのように名付けられているのは、この機能の多様性、および他の細胞への影響における役割のためである。エフェクターT細胞へと発達する増殖性ヘルパーT細胞は、Th1細胞およびTh2細胞(それぞれ1型および2型ヘルパーT細胞としても公知)として公知の二つの主要な細胞のサブタイプへと分化し、Th2細胞は、主として、体液性免疫系(B細胞の増殖への刺激、B細胞抗体クラススイッチの誘導、および抗体産生の増加)を促進し、Th1細胞は、主として、細胞性免疫系(マクロファージの死滅効力の最大化および細胞障害性CD8+ T細胞の増殖)を促進する。侵入する病原体の性質に依って、免疫系はTh1またはTh2の免疫応答を発達させる。Th1免疫応答の場合には、CD8+ T細胞が、細胞障害性T細胞への分化の強い傾向を示す。同時に、Th1免疫応答のCD8+およびCD4+ヘルパーT細胞は、いずれも、大量のIFN-γ(およびその他のTh1サイトカイン/ケモカイン)を分泌し、マウスにおいては主にIgG2aおよびIgG2bアイソタイプの、ヒトにおいては主にIgGアイソタイプの抗体の生成を誘発する。Th1免疫応答は、ウイルスおよび(細胞内)細菌から身体を防御するために特に効率的である。Th2免疫応答の場合には、ヘルパーT細胞がもう一つのパターンのサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13、およびその他)を生成する。このサイトカインのパターンは、とりわけ、マウスにおいてはB細胞および形質細胞によるIgG1/IgE応答、ヒトにおいてはIgE応答を促進する。この型の応答は、寄生虫感染に対して特に効率的である。
【0006】
生の、弱毒化された、または不活化された病原体成分に向けられた現在入手可能なワクチンおよびアジュバント系は、主として、抗体免疫応答を誘発し、効率的なTh1細胞障害性応答は誘発しない(Steinman et al.,2007,Nature 449,419-26(非特許文献1))。誘導された抗体は、病原体の成分に結合することにより、それを生物学的に不活化する(「中和抗体」)。しかしながら、中和抗体が疾患の保護または疾患の管理のためには十分でなく、現在のワクチン技術が有効でない疾患が、多数存在する。これらは、感染の封じ込めおよび/または根絶のために効率的なTh1免疫応答を必要とするかもしれない疾患である。例は、結核、マラリア、リーシュマニア、プリオン病、オルソミクソウイルス、特にインフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびその他のレンチウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、特にC型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、パラミクソウイルス、多様な呼吸器ウイルス、ならびに封じ込めおよび根絶のために効率的なTh1免疫応答、特にTh1細胞障害性応答を必要とするその他のウイルスである。従って、そのような効率的なTh1応答を誘導する予防接種方法論の開発は、大いに望ましい。さらに、Th1優位へのTh1/Th2不均衡は、多発性硬化症または慢性関節リウマチのような自己免疫疾患の発症において有意な役割を果たすと考えられている。従って、Th1応答の調節は、自己免疫疾患の防止および処置における有望な標的である。さらに、樹状細胞は最も高い頻度で感染の過程で直接感染されないため、Th1応答、および「交差提示」(下記参照)の機序を標的とすることは、ウイルス性、細菌性、寄生虫性、および真菌性の病原体に対するTh1免疫応答の誘導のために最も重要である。Th1免疫応答の発達なしには、多くのウイルス、細菌、寄生虫、または真菌の感染は、ヒト身体において封じ込めまたは根絶され得ない。さらに、臓器移植においても、宿主のTh1免疫系による移植された組織の破壊を妨害し、レシピエントの免疫系をドナーの細胞成分(抗原)に対して寛容にする必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Steinman et al.,2007,Nature 449,419-26
【発明の概要】
【0008】
驚くべきことに、Th1応答において主要な役割を果たす細胞を、選択的に標的とすることができることが見出された。ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)が、プロフェショナル抗原提示細胞、特に、樹状細胞(DC)の表面上に存在し、それが、これらの細胞へ選択的に物質を送達するために使用され得ることが見出された。XCR1保持DCへの物質のターゲティングされた送達は、初めて、哺乳動物/ヒトにおける強力なTh1免疫反応の誘導を可能にするものである。現在のワクチンは、主として、Th2抗原提示経路に向けられており、主としてTh2型の(中和)抗体および免疫反応の生成をもたらす。特に、XCR1保持DCへのターゲティングを通して、Th1型の体液性および細胞性(細胞障害性)の免疫反応を、所定の免疫原に対して誘発することができる。NK細胞、CD8+ T細胞、およびTh1CD4+ T細胞が、この反応に関与すると予想され得るが、その他のCD4+ T細胞も、この型の反応に寄与するかもしれない。単独の、または免疫原もしくは何らかの薬学的化合物と組み合わせられたアジュバントが、XCR1保持抗原提示細胞(APC)へと選択的にターゲティングされ得るのは、初めてである。
【0009】
上に詳述されたように、発達中の免疫系は、「自己」と「外来」とを識別しなければならず、これは、樹状細胞(DC)が自己抗原を発達中の胸腺細胞に提示することにより「中枢性寛容」を誘導する、胸腺において主として起こる。そのような自己抗原は、DCにより発現される内因性タンパク質、および胸腺上皮細胞により異所的に発現される組織特異抗原である。胸腺DCは、外因性抗原をMHCクラスII分子に提示し、MHCクラスI分子に「交差提示」(下記参照)することができるため、胸腺DCは、CD4+胸腺細胞およびCD8+胸腺細胞の両方の負の選択を媒介することが可能である。この課題は、末梢組織から胸腺に入ってくるDCにより支援されるかもしれない。この胸腺選択の過程にも関わらず、自己反応性T細胞が、胸腺選択を回避し、末梢に入ることがあり、これらは、脾臓およびその他のリンパ組織において主としてDCにより誘発される末梢性寛容の機序によって抑制されなければならない。
【0010】
末梢において、免疫系は、一方の無害の外来抗原または自己抗原と、他方の危険な(ウイルス性、細菌性、真菌性、寄生虫性、毒素様)抗原とを識別しなければならない。抗原はDCにより取り込まれ、ペプチドへと分解(「プロセシング」)される。その結果生じたペプチドは、MHCクラスIまたはMHCクラスIIの環境でTリンパ球(T細胞)に「提示」される。T細胞のCD4+サブセットは、MHCクラスIIの環境で抗原を認識し、T細胞のCD8+サブセットは、MHCクラスIの環境で抗原を認識する。抗原の取り込みと同時に、DCは、「デンジャーシグナル」認識受容体(例えば、toll様受容体、NOD様受容体)の大きいセットを通して、抗原が危険な性質のものであるか、または無害であるかを感知することができる。「デンジャーシグナル」認識受容体(「パターン認識受容体」とも呼ばれる)により認識されるパターンは、通常、微生物に特有の分子構造である。これらは、微生物の場合、細胞壁成分(例えば、リポ多糖類、ペプチドグリカン)または核酸修飾(例えば、非メチル化CpGモチーフ)、またはウイルスDNAもしくはウイルスRNAに特有の構造的な特色および修飾(例えば、二本鎖RNA)であり得る。体内のアポトーシスにより死滅しつつある細胞も、「デンジャーシグナル」認識受容体を誘発することができる分子(例えば、高移動度タンパク質(High Mobility Group Protein)B1、熱ショックタンパク質)を放出する。
【0011】
無害な(自己)抗原の場合には、DCは「成熟」せず、代わりに「未熟」状態のまま留まる。抗原が「未熟APC」により、CD4+およびCD8+ T細胞に提示された場合には、T細胞が活性化され、広範囲に増殖するが、プログラムされた限られた寿命のため、数日以内に死滅する。無害な(自己)抗原を認識するその他のT細胞は、多様な機序(例えば、TGF-β、CTLA-4、IL-10)を使用して、同一抗原への反復的な曝露により、免疫応答を抑制することができる「調節性T細胞」へと分化する。T細胞の死滅および/またはT調節性応答の結果として、免疫系は、所定の無害な(自己)抗原に対する「末梢性寛容」(非応答性)を発達させる。寛容を誘導する抗原は「寛容原性」である。
【0012】
危険な抗原の場合には、DCは、異なる応答プログラムを活性化する(「成熟」)。抗原がCD4+およびCD8+ T細胞に提示され、それらは、同時に、抗原の危険な性質を示す付加的なシグナルをDCから受容する。その結果として、両方のT細胞サブセットが、活性化され、延長された寿命により広範囲に拡大し、「エフェクターT細胞」へと発達する。これらは、その他のDCまたはB細胞または免疫系のその他の細胞に「ヘルプ」を提供するCD4+ T細胞であり得、またはCD4+細胞障害性細胞である場合すらある。CD8+ T細胞サブセット内でも、やはりTヘルパー細胞が発達するが、CD8+ T細胞の大部分は、IFN-γおよびその他の可溶性因子の分泌を通して、または感染した体細胞の死滅を通して、侵入してくる病原体を排除することができるエフェクター細胞になる。T細胞のB細胞へのヘルプの結果として、抗原特異的B細胞は、抗原(病原体)に対する抗体を分泌する形質細胞へと分化する。これらの抗体は、多数の機序(例えば、中和、改善された抗原取り込み、オプソニン作用、補体結合)を通して、病原体との戦いを助ける。
【0013】
ある程度の数のエフェクターCD4+およびCD8+ T細胞は、病原体に対する免疫応答の急性期を生き延び、長命の「記憶T細胞」になる。記憶T細胞および長命形質細胞は、同一病原体(抗原)への再曝露の際に、極めて迅速な免疫応答を編成し、免疫系が病原体(抗原)を極めて効率的に排除することを可能にする。同一病原体への再曝露の際のT細胞およびB細胞の免疫応答のこの増強された能力は、「免疫」と呼ばれ、免疫を誘導する抗原は「免疫原性」である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
プロフェショナル抗原提示細胞、特に、樹状細胞の表面上のケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)の存在、および免疫系におけるそれらの役割に関する上記の所見に従い、本発明の第一の局面は、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している送達システムに関する。この送達システムは、
(i)ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)に結合する分子、および
(ii)該分子と結合した、送達される物質
を含む。
【0015】
送達システムは、免疫系においてTh1応答に影響を及ぼし、任意で、Th2応答にも影響を及ぼすために特に適している。
【0016】
XCR1は、ケモカイン受容体であり、現在のところ、ケモカイン受容体の「C」サブファミリーの唯一のメンバーである。それはGPR5またはCCXCR1としても公知である。オーファンGタンパク質共役型受容体として以前にクローニングされたGPR5は、最初にヒトにおいて、次いでマウスにおいて、XCL1(下記参照)の単一特異的受容体として認識され、従って、XCR1と呼ばれた。一次組織におけるXCR1の発現は、多様な方法により、胸腺、脾臓、胎盤、肺、リンパ節、扁桃腺、クローン病における固有層、およびヒトメラノサイト性病変において報告されたが、XCR1を発現する細胞型に関する情報は提供されていない。より特異的な分析は、脾臓のCD8+細胞およびNK1.1+CD3-細胞、NKおよびT細胞系、CD3+T細胞、T細胞、B細胞、および好中球、T細胞系ジャーカット(Jurkat)、ヒト繊維芽細胞系、初代繊維芽細胞様滑膜細胞、炎症関節における滑膜細胞および単核細胞、マウスCD8+ T細胞、およびヒト好中球、B細胞、T細胞、NK細胞、および単球におけるXCR1の発現を主張した。XCR1の細胞型特異的な発現に関する後者の報告は、全て、全RNAのPCR分析を利用しており、使用されたプライマーは、XCR1エキソン2のみに特異的であり、従って、エキソン-イントロン境界に及ばなかった。いずれの戦略も、方法論的なエラーを起こしやすい(下記参照)。
【0017】
XCR1の天然のリガンドは、ATAC、リンホタクチン、またはSCM-1としても公知であるXCL1である。それは、ケモカインのCファミリーの唯一のメンバーである。活性化により誘導されT細胞に由来しケモカインに関連するサイトカイン(Activation-induced,T cell-derived,and chemokine-related cytokine/ATAC)は、ヒトにおいてクローニングされ(Muller et al.,1995,Eur.J.Immunol.25,1744-48)、独立に、マウスにおいてリンホタクチン(Kelner et al.,1994,Science 266,1395-99)、ヒトにおいてSCM-1(Yoshida et al.,1995,FEBS Lett.360,155-9)としてクローニングされた。ケモカインの命名法により、ATAC/リンホタクチン/SCM-1は、現在、「XCL1」と名付けられている。XCL1は、主として、活性化されたCD8+ T細胞、Th1 CD4+ T細胞、およびNK細胞により分泌される。ヒトにおいて、全長タンパク質の28位および29位のアミノ酸アスパラギン酸およびリジンが、それぞれヒスチジンおよびアルギニンに交換された、XCL2と名付けられたXCL1のバリアントが、記載されており(Yoshida et al.,1996,FEBS Lett.395,82-8)、それも、本発明のために使用され得る。生物活性型のXCL1を作製するための例示的な方法は、実施例8に記載される。その他の生物活性型のXCL1、例えば、他の種のものを作製するためにも、類似した方法が使用され得る。
【0018】
最初、XCL1/リンホタクチン/ATACは、多様な不明確な胸腺および脾臓の集団において、(せいぜい)弱い走化性を誘導することが報告されたが(Kelner et al.,1994,Science 266,1395-99)、これらの観察は、他の者により再現され得なかった(Muller et al.,1995,Eur.J.Immunol.25,1744-8;Bleul et al.,1996,J.Exp.Med.184,1101-9)。その後、T細胞に対するXCL1の走化効果に関するより具体的な報告(Kennedy et al.1995,J.Immunol.155,203-9)も、他の者により再現され得なかった(Muller et al.,1995,Eur.J.Immunol.25,1744-8、Dorner et al.,1997,J.Biol.Chem.272,8817-23)。NK細胞、NKT細胞、B細胞、好中球、および単球に対するXCL1により誘導される走化性は、せいぜい、議論の余地があるままであった。ヒト単球由来DC(Sozzani et al.,1997,J.Immunol.159,1993-2000、Lin et al.,1998,Eur.J.Immunol.28,4114-4122)およびマウスDC細胞系(Foti et al.,1999,Intern.Immunol.11,979-86)に対する走化性は、特に、除外された。
【0019】
過去に、マウスにおけるATACの詳細な発現分析に基づき、XCL1(ATAC)が、T細胞およびNK細胞において、IFN-γ、MIP-1α、MIP-1β、およびRANTESと同時分泌されることが証明され得た。この観察とは別に、免疫系におけるXCL1-XCR1ケモカイン-ケモカイン受容体系の生物学的機能は、不明で、議論の余地があるままであった。
【0020】
本発明において、マウスにおいて、CD8+陽性DCが、リンパ系における唯一のXCR1発現抗原提示細胞集団であるらしいことが見出された(実施例1を参照のこと)。XCR1のmRNAを発現する集団を同定するため、本発明者らは、まず、脾細胞集団全体から全RNAを単離し、RNAのcDNAへの逆転写の後に定量的PCR(qPCR)を実施した。次の工程において、本発明者らは、B細胞、T細胞、NK細胞、または顆粒球、マクロファージを単離し、全RNAを入手し、定量的PCRを実施した。全ての場合において、本発明者らは、有意なシグナルを入手した。しかしながら、本発明者らは、全RNAをqPCRへ供する前にcDNAへ逆転写しない場合にも、定量的に類似したシグナルを入手した。その時点では、マウスXCR1遺伝子の第2エキソンが唯一の存在するエキソンと見なされており、従って、本発明者らのPCR系は、(文献中のXCR1発現に関する全ての公開されたPCR結果と同様に)この一つのエキソンにのみかかるプライマーを利用した。本発明者らの実験結果の徹底的な分析は、全RNAを用いて入手されたPCRシグナルが、典型的に全RNA調製物に混入するゲノムDNAに起因する偽陽性シグナルであるかもしれないことを示唆した。そのような実験エラーの可能性を排除するため、本発明者らは、代りに、下記のように、脾臓集団全体から、そしてB細胞、T細胞、NK細胞、または顆粒球から、全RNAではなくmRNAを単離した。全RNAで入手された結果とは全く対照的に、本発明者らは、全脾細胞によりXCR1メッセージの(低い)qPCRシグナルを入手したが、単離されたB細胞、T細胞、NK細胞、顆粒球、またはマクロファージではシグナルを入手しなかった(図1および表1)。qPCRシグナルがCD11c+脾細胞に関連していることをその後の実験が示した後、本発明者らは、フローサイトメトリーにより脾臓のCD11c+CD8- DCおよびCD11c+CD8+ DCを高度に精製し(純度>95%)、これらの集団からmRNAを入手し、このmRNAをqPCRに供した。この実験において入手されたデータは、XCR1 mRNAのほぼ全シグナルがCD11c+CD8+ DC集団にあり(図1)、CD11c+CD8- DCには(CD11c+CD8+ DCの混入に起因する可能性が最も高い)小さなシグナルのみがあることを、明白に証明した。同時に、CD11c+細胞を全脾細胞から枯渇させた時、qPCRシグナルは、CD11c+細胞の枯渇の程度に対して直線的に消失した。
【0021】
総合すると、T細胞、B細胞、NK細胞、好中球、および単球(上記参照)におけるXCR1の発現に関する文献の報告は、(少量のゲノムDNAを含有している)全RNAに対して実施された単一エキソンPCRにより入手されたため、誤っていることを、本発明者らの結果は明白に証明した。さらに、本発明者らのデータは、XCR1 mRNAがCD11c+CD8+ DCに存在することを明白に証明した。従って、本発明者らは、特異的かつ排他的にXCR1 mRNAを発現する免疫系内の細胞集団CD11c+CD8+ DCを初めて同定することができた。哺乳動物/ヒトの身体のその他の器官にも、XCR1受容体を発現するその他のAPC集団が存在し得ると想定することができる。これらのAPCは、CD8細胞表面マーカーを発現しないかもしれない。これらのAPCは、多様な細胞表面マーカーに基づき、高純度に細胞を分取し、それらを哺乳動物/ヒトXCR1についてのqPCRに供することにより、容易に同定され得る。
【0022】
機能的レベルでは、本発明者らは、XCL1が、CD8- DCではなくCD8+ DCを選択的に活性化することを見出した。CD8+ DCおよびCD8- DCを高純度(>95%)にフローソートした。次いで、それらを100nMの合成マウスXCL1に曝し、DC細胞の活性化を細胞内Ca2+レベルの増加として測定した。入手された結果(実施例2を参照のこと)は、CD8+ DCのみがカルシウムシグナルおよび活性化を持ってマウスXCL1に応答し(図2A)、CD8- DCは応答しない(図2B)ことを証明した。これらの結果は、CD8+ DCの表面上の機能性XCR1受容体の存在を示す。さらに、データは、CD8+ DCまたは任意のXCR1陽性細胞が、XCL1への曝露を通して活性化され得ることを証明している。従って、これらの結果は、XCL1が、活性化状態およびNK細胞またはT細胞への抗原提示能力を改善することにより、XCR1保持哺乳動物/ヒトAPCのためのアジュバントとして使用され得ることを示す。結果は、XCR1との特異的な結合を通して、抗原、アジュバント、またはその他の任意の化合物を、排他的にXCR1発現DCに送達するため、XCL1が使用され得ることをさらに暗示している。
【0023】
さらに、本発明者らは、XCL1が、CD8+ DCにおいて走化性を誘導し、CD8- DC、B細胞、T細胞、またはNK細胞においては誘導しないことを示すことができた(実施例3を参照のこと)。CD11c+細胞を、磁気分離によりマウス脾細胞集団から高度に濃縮した。そのような集団をトランスウェル遊走チャンバー系の上室へ適用した時、DC集団は、マウス脾臓におけるこれらDCの天然相対頻度を反映して、約25%のCD8+ DCおよび70%のCD8- DCからなっていた。ケモカインを添加しない場合には、2時間以内にDCの極めて低い非特異的なバックグラウンド遊走のみが観察され得た(図3)。下室にマウスXCL1(1、100、または1000ng/ml)を添加すると、上室から下室への細胞遊走が用量依存的に観察され得、100ng/mlのXCL1で、入力CD8+ DCの30%超が下室へ遊走した。XCL1へと遊走した細胞はCD8+ DCのみであり、CD8- DCは、ケモカインがない場合と同一の非特異的なバックグラウンド遊走のみを示した。陽性対照として使用されたケモカインCCL21の下室への添加は、予想通り、CD8+ DCおよびCD8- DCの両方に対する走化効果を示した。トランスウェル系の上室および下室の両方へのXCL1の添加は、移動を誘発せず、このことから、XCL1がケモキネシス誘導剤であるのみならず、真の化学誘引物質であることが証明された。末梢リンパ節から高度に濃縮されたCD11c+細胞で実施された類似の実験は、XCL1がCD8+ DCに対してのみ走化性であり、CD8- DCに対しては走化性でないことを再び証明した(図4)。高度に濃縮されたB細胞、T細胞、またはNK細胞で実施された類似の実験は、XCL1への特異的な走化性を証明し得なかった(図5)。これらの実験は、XCL1が、XCR1発現CD8+ DCに特異的に作用し、その他のDC集団には作用しないケモカインであることを初めて証明した。これらの結果から、XCL1が、哺乳動物/ヒトXCR1発現APCに対するケモカインとして作用することが予想され得る。結果は、XCL1が、その化学誘引作用を通してXCR1発現APCのためのアジュバントとして使用され得ることを証明している。さらに、XCL1(ATAC)が、CD8+ T細胞の細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することを示すことができた(実施例9を参照のこと)。結果は、XCL1が、XCR1との特異的な結合を通して、抗原、アジュバント、またはその他の任意の化合物を、XCR1発現DCへ排他的に送達するために使用され得ることをさらに暗示している。
【0024】
さらに、XCL1は、CD8+ DC樹状細胞への細胞取り込みを容易にする(実施例4を参照のこと)。マウスプレB細胞系300-19を、マウスATACをコードするベクターによりトランスフェクトし、ATAC発現トランスフェクタント「muATAC/300-19」を得た。ATAC KOマウスに、10×106個のフルオレセイン標識野生型「wt/300-19」細胞を注射すると、12時間後に、脾臓CD8+ DCのおよそ10%に蛍光シグナルが検出され得たが、CD8- DCにはシグナルは観察されなかった。同数のフルオレセイン標識muATAC/300-19細胞を注射した場合、12時間後に回収されたシグナルは、wt/300-19の注射と比較して、CD8+ DCにおいて一定に有意に高かった(図7および8)。この場合にも、CD8- DCにはシグナルは観察されなかった。これらの結果は、CD8+ DCが、同種異系細胞を優先的に取り込むことを示している。さらに、結果は、XCL1が、XCR1保持APCへの同種異系細胞の取り込みを実質的に改善することを証明している。これらの結果から、XCL1は、XCL1で装飾された(即ち、外表面にXCL1分子を保持している)哺乳動物/ヒト同一遺伝子細胞(生または死)の、XCR1発現哺乳動物/ヒトAPCへの特異的な取り込みも容易にすることが予想され得る。これらの結果から、XCL1が、任意の生材料もしくは死材料をXCR1保持APCへ特異的にターゲティングし得るか、または少なくともXCR1保持APCへの取り込みを改善し得ことも予想され得る。
【0025】
本発明の概念を、インビボの寛容または免疫の誘導の際のXCL1利用を示すことにより、確認することができた(実施例5を参照のこと)。XCL1-XCR1系が免疫または寛容の誘導の際にインビボで利用されるか否かを決定するため、本発明者らは、トランスジェニックDO11.10 CD4+ T細胞を同一遺伝子BALB/cマウスへ移入する、よく確立されている養子移入系を使用した。これらのトランスジェニックT細胞は、ニワトリオボアルブミン(OVA)由来のペプチドを抗原として認識する。レシピエントマウスを、100μg OVAの足蹠への注射(寛容原性刺激)、100μg OVA+10μg LPSの足蹠への注射(強力な免疫原性刺激、LPSが「デンジャーシグナル」を提供するため)、または2mg OVAの静脈内注射(強力な寛容原性刺激)によりチャレンジした。この系において、DO11.10トランスジェニックT細胞は、抗原を認識し、活性化され、拡大する。寛容原性条件下では、トランスジェニックT細胞は限られた寿命を有し、死滅するが、免疫原性条件下では、トランスジェニックT細胞は有意な程度に記憶T細胞へと発達する。注射されたトランスジェニックT細胞を、14時間後、24時間後、および48時間後に、レシピエントマウスの流入領域リンパ組織から回収し、マウスXCL1 mRNAの発現分析に供したところ、全ての状況において、XCL1の発現が、OVA注射により極めて強力に同様に(およそ30倍)アップレギュレートされたことが明白になった(表2)。これらのデータは、XCL1がCD4+ T細胞において高度に発現され得ることを証明した。それらは、さらに、XCL1-XCR1機能軸が、強力な免疫原性条件および強力な寛容原性条件の両方で利用されることを示した。これらのデータは、XCL1によるXCR1保持APCへの抗原のターゲティングが、哺乳動物/ヒト宿主において、強い免疫(抗原をアジュバント/「デンジャーシグナル」と共にターゲティングした場合)を誘導するか、または強い寛容(アジュバントなしに抗原をターゲティングした場合)を誘導するための合理的な方法であることを暗示している。
【0026】
さらなる実験において、本発明者らは、インビボのCD8+ DCと相互作用するCD8+ T細胞による、XCL1により媒介された改善された抗原認識を示すことができた(実施例6を参照のこと)。XCL1のアジュバント効果をインビボで試験するため、本発明者らは、C57BL/6 ATAC-KOマウスをOT-Iトランスジェニックマウスに戻し交配し、OT-I ATAC-KOマウスを得た。OT-IトランスジェニックCD8+ T細胞は、OVAペプチドSIINFEKL(SEQ ID NO:15)を抗原として認識する。OT-IまたはOT-I ATAC-KOのトランスジェニックT細胞を、同一遺伝子のATAC-KO CD57BL/6動物へ養子移入した。24時間後、全てのレシピエントマウスを、抗DEC-205抗体とカップリングしたOVA(「DEC-205-OVA」)の静脈注射により免疫感作した。選ばれた条件の下で、抗原は、脾臓においてCD8+ DCにより優先的に取り込まれ、CD8+ T細胞に優先的に交差提示される。いくつかのマウスは、DEC-205-OVAと共に、DCに「デンジャーシグナル」を提供する抗CD40抗体の注射を受容した。抗原注射後3日目、トランスジェニックT細胞の頻度を脾臓において決定した(図9)。寛容原性条件下(「デンジャーシグナル」なしのDEC-205-OVAによる免疫感作)でも、免疫原性条件下(CD40により媒介される「デンジャーシグナル」を伴うDEC-205-OVAによる免疫感作)でも、XLC1/ATACを分泌するOT-I T細胞の能力は、抗原曝露後3日目、トランスジェニックT細胞の数を極めて有意に増加させた(図9)。さらに、XLC1/ATACを分泌するOT-I T細胞の能力は、サイトカインIFN-γを生成するOT-I T細胞の能力を、極めて有意に増加させた(図10)。XCL1の存在下での細胞数の増加およびIFN-γ産生の増加は、いずれも、抗原認識の際のCD8+ DCのCD8+ T細胞との相互作用を改善するXCL1の能力の証拠として解釈され得る。これらのデータは、XCL1/XCR1軸が、寛容の誘導のため、または免疫の誘導のために免疫系により利用されていることを証明している。さらに、これらのデータは、XCL1によるXCR1保持APCへの抗原のターゲティングが、哺乳動物/ヒト宿主において、強い免疫(アジュバント/「デンジャーシグナル」と共に抗原をターゲティングした場合)を誘導するか、または強い寛容(アジュバントなしに抗原をターゲティングした場合)を誘導するための合理的な方法であることを暗示する。そのような治療的条件の下で、抗原は、抗原または抗原+「デンジャーシグナル」をXCR1保持哺乳動物/ヒトAPCへ直接送達するため、XCL1または類似のベクター系を使用して送達されるであろう。
【0027】
さらに、本発明者らは、ヒトXCR1受容体に特異的なモノクローナル抗体を作成することができた(実施例7を参照のこと)。このため、BALB/cマウスを、hXCR1(hATACR)の最初の31個のN末端アミノ酸を表すペプチドで免疫感作し、脾細胞を骨髄腫系P3X63Ag8.653と融合させた。入手されたハイブリドーマを、ELISAアッセイにおいて、免疫感作ペプチドを特異的に認識する抗体の分泌についてスクリーニングした。ELISAにおいて特異反応パターンを与えたそのような一つの抗体6F8を、さらなる研究のために選んだ。抗体の特異性を、ヒトXCR1の全コーディング領域によりトランスフェクトされた三つの独立した細胞系からのXCR1の免疫沈降により試験した。モノクローナル抗体6F8は、三つ全てのトランスフェクタントからネイティブヒトXCR1受容体を免疫沈降させたが、それぞれの野生型系とは反応しなかった(図11)。これらの実験は、本発明者らが、ヒトXCR1に特異的なモノクローナル抗体を作成したことを決定した。
【0028】
最後に、本発明者らは、ATACが、CD8+ T細胞の細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することを示すことができた(実施例9を参照のこと)。
【0029】
本発明によると、送達される物質(物質(ii))は任意の適当な物質であり得る。例えば、物質は、タンパク質、(ポリ)ペプチド、または低分子であり得る。それは、天然に存在する物質もしくはその一部分であってもよいし、または合成化合物であってもよい。特に好ましいのは、免疫系に対する効果を有する物質である。
【0030】
一つの別法において、交差提示するXCR1発現APCの機能を修飾することが望ましいかもしれない。この修飾は、XCR1保持APCの代謝の活性化、抑制、またはその他の修飾(例えば、APCの成熟、または成熟の防止)をもたらし得る。これは、外来シグナルまたは自己免疫シグナルに対する防御を必要とする全ての条件、およびアルツハイマー病のようなその他の条件において望ましいかもしれない。そのような場合、修飾物質(ii)は、ターゲティング剤を使用して、XCR1保持APCへターゲティングされるであろう。ターゲティングされる薬学的化合物は、化学的化合物、薬物、タンパク質またはペプチド、脂質、炭水化物、天然のまたは修飾された(安定化された)DNAまたはRNA、siRNA、アンチセンス核酸、二重鎖DNA、一本鎖DNA、三重鎖、二重鎖、または一本鎖のRNAを含む任意の形態のRNA、アンチセンスRNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、単一ヌクレオチドまたはその誘導体であり得る(下記も参照のこと)。ターゲティングされる化合物は、上記のようなモジュレーティング特性を有するタンパク質またはペプチドをコードする発現ベクター系または操作されたウイルスであり得る。XCR1保持APCにおける特異的な発現を確実にするため、コードされたタンパク質またはペプチドは、XCR1プロモーターの制御の下で特異的に発現されることが望ましいかもしれない。
【0031】
もう一つの別法において、XCR1を発現するAPCを特異的に欠失させることが望ましいかもしれない。これは、直接または間接的にXCR1保持APCにおいて細胞死を誘導する化合物を、XCR1保持APCへターゲティングすることにより達成され得る。これは、アレルギー、自己免疫、および移植を含む全ての条件において望ましいかもしれない。そのような化合物の例は、細胞障害剤(例えば、メトトレキサート)、毒素(ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素)、アポトーシス誘導剤(例えば、カスパーゼ)、リボソーム不活化剤(例えば、リシン、サポニン、志賀毒素)、DNAまたはRNAの阻害剤(RNAまたはDNAを切断する薬剤)、またはタンパク質合成の阻害剤(アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA)、およびその他の細胞代謝の阻害剤である(下記も参照のこと)。タンパク質性細胞誘導剤は、所望のタンパク質の発現を制御するため、XCR1保持APCへ直接送達されてもよいし、または核酸に基づく発現ベクター系もしくは操作されたウイルスによって(いずれも、好ましくは、XCR1プロモーターを利用して)送達されてもよい。
【0032】
さらにもう一つの別法において、XCR1保持APCと相互作用する細胞の機能を修飾することが望ましいかもしれない。これは、分泌されるペプチドもしくはタンパク質(例えば、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、もしくはホルモン)の発現を通して、またはXCR1保持APCの表面上の受容体もしくはリガンド(例えば、CD95L、ICOS-L、CD86、もしくは他)の発現を通して達成され得る。この目的のためには、そのようなペプチドもしくはタンパク質をコードするDNAもしくはRNAもしくは発現ベクター系、またはそのようなペプチドもしくはタンパク質を発現するよう操作されたウイルスが、XCR1保持APCへターゲティングされるであろう。好ましくは、XCR1保持APCにおける特異的な発現を確実にするため、選ばれた発現系は、XCR1プロモーターにより駆動されるであろう。ペプチドまたはタンパク質は、XCR1保持APCへの核酸またはウイルスの内部移行の後、可溶型または膜貫通型のタンパク質として発現されることを可能にするため、シグナルペプチドを含有しているであろう。コードされた可溶型のタンパク質もしくはペプチド、または細胞表面の受容体もしくはリガンドは、CD4+ Th1細胞、CD8+ T細胞、NK細胞、またはその他のような、XCR1保持APCと相互作用する免疫細胞の表面上のパートナー分子と相互作用するよう設計されるであろう。このようにして、これらの相互作用細胞を活性化するか、それらの活性化を抑制するか、または(例えば、アポトーシスの誘導を通して)排除することすらできる。
【0033】
さらに、診断目的のため、XCR1保持APCを検出するために送達システムが使用されてもよい。このため、物質は、例えば、発色団、放射性リガンド等を含むマーカーのような任意の検出可能な化合物であり得る。
【0034】
さらに、例えば、インビトロでのさらなる医学的分析または操作(例えば、薬学的化合物の負荷)のため、XCR1保持APCの単離を可能にするため、物質を修飾することもできる。このため、物質は(蛍光)標識を包含するかもしれない。そのような標識には、磁気粒子による分離、フローソーティング等を可能にする、タグ(His、FLAG、STREP、もしくはc-myc)またはビオチン-アビジン系もしくはジゴキシゲニン-抗ジゴキシゲニン系の成分が含まれる。
【0035】
本発明の好ましい態様において、物質(ii)は、免疫原、アジュバント、薬物、または毒性薬剤である。
【0036】
免疫原とは、免疫応答を刺激する抗原である。抗原は、免疫系内で、T細胞上(T細胞受容体)およびB細胞上(B細胞受容体)の特異的な受容体により認識される物質であり、通常、タンパク質または多糖である。これには、細菌、ウイルス、およびその他の微生物の一部分(被膜、莢膜、細胞壁、鞭毛、線毛、および毒素)が含まれる。一般に、脂質および核酸は、タンパク質および多糖と組み合わせられた場合にのみ、抗原性である。非微生物性の外因性(非自己)抗原には、花粉、卵白、ならびに移植された組織および器官に由来する、または輸血された血球の表面上のタンパク質が含まれ得る。
【0037】
抗原は、内因性または外因性に分類され得る。内因性抗原とは、抗原提示細胞(APC)自体により合成されるタンパク質(「自己タンパク質」)であるか、またはAPCに感染/侵入したウイルス性、細菌性、真菌性、もしくは寄生虫性の病原体の成分であり得る。内因性抗原は、MHCクラスIおよびIIの環境で提示される。外因性抗原は、飲作用、食作用、または受容体により媒介されるエンドサイトーシスにより取り込まれる。このようにして、内部移行した抗原は、エンドソームのプロテアーゼに容易にアクセス可能となり、従って、MHCクラスII分子により提示され得る。
【0038】
さらに、いくつかの細胞は、MHCクラスI分子を介して外因性抗原を提示することができ、この過程は「交差提示」として公知である。DCは、インビボで抗原を交差提示することができる主要な細胞集団であり、このため、寛容誘導、ならびに抗ウイルス性、抗菌性、抗真菌性、および抗寄生虫性の免疫において中心的な役割を果たすことができるため、この経路は、DCに特に関連している。マウスリンパDCのうち、CD8+ DCは、死細胞の食作用において、従って、外因性細胞性抗原のMHCクラスII提示およびMHCクラスI交差提示において最も効率的なDCである。CD8+マウスDCは、外因性可溶性抗原、またはC型レクチン受容体により捕獲された抗原のための最も効率的な交差提示DCサブセットでもある。CD8分子の発現は交差提示の必要条件ではないことに注意すべきである。マウスおよびヒト両方の系に、CD8マーカーを保持しない、効率的に交差提示するXCR1保持DCが存在することが予想され得る。
【0039】
細胞外空間からDCにより取り込まれた大部分の可溶性抗原は、MHCクラスIIの環境で提示され、従って、CD4/Th2パターンの免疫応答(Th2 CD4 T細胞ヘルプの生成、Th2サイトカインの分泌、Th2パターン抗体の生成、細胞障害性応答はほとんどなし)を誘導する。(DCに感染した細菌、真菌、ウイルス、および寄生虫の成分を含む)細胞内抗原は、プロセシングされた後、MHCクラスIおよびMHCクラスIIの環境で提示され、従って、混合Th1/Th2応答を誘発する。交差提示された抗原は、MHCクラスIの環境で提示され、主にTh1応答(Th1 CD4 T細胞ヘルプの生成、Th1パターン抗体の産生、IFN-γおよびその他のTh1サイトカインの分泌、T細胞細胞障害性の発達)を誘発する。
【0040】
抗原は、抗原の取り込み、プロセシング、および提示に高度に専門化された細胞であるDCにより提示される。多数のDCのサブタイプが存在する。マウスにおける主要な集団は、形質細胞様DC、CD11c+CD8- DC(略して「CD8- DC」、CD4+ DCとも呼ばれる)、CD11c+CD8+ DC(略して「CD8+ DC」)、ランゲルハンス細胞、二重陰性(DN)DC、および間質DCである。抗原提示およびT細胞プライミングにおける形質細胞様DCの役割は不明であり、実際、DCとしてのその分類も不明である。リンパ器官に存在するDC(CD8- DC、CD8+ DC、およびDN DC)と、遊走性のDC(間質DCおよびランゲルハンス細胞)とが存在する(Villandagos et al.,2007,Nat.Rev.Immunol.7,543-55)。これらのDCは、全て、CD11c細胞表面分子を発現する。CD11c+CD8- DCは、全有核脾細胞の約1.6%を占め、CD11c+CD8+ DCは0.4%を占める。
【0041】
抗原の交差提示も、体内の腫瘍の根絶のために中心的に重要である。抗腫瘍免疫応答を誘発するためには、腫瘍細胞および腫瘍抗原がDCにより取り込まれ、プロセシングされ、提示されなければならない。大部分の腫瘍の排除は、効率的な細胞障害性Th1 T細胞応答を必要とするため、腫瘍抗原の交差提示は不可欠である。従って、交差提示DCは、効率的な抗腫瘍応答のため、顕著な役割を果たす。
【0042】
外来の細胞または器官がヒトレシピエントへ移植される場合、いくつかの細胞または細胞成分は、宿主のDCにより取り込まれ、プロセシングされ、宿主の免疫系へと提示される。これらの外来抗原の提示は、交差提示経路を通して起こると予想され得、外来組織に対する強いTh1免疫応答を誘発することが公知である。治療的な介入がなければ、宿主のTh1免疫系が、移植された組織を破壊するであろう(「移植片対宿主」(HVG)反応)。HVG反応を管理するための多数の治療計画が存在するが、それらはいずれも完全に有効ではなく、いずれもドナー組織成分に対する寛容を効率的に誘導しない。従って、レシピエントの免疫系を、ドナーの細胞成分(抗原)に対して寛容にする必要が存在する。
【0043】
アジュバントとは、他の薬剤の効果を修飾するが、単独で与えられた場合には直接の効果を有していたとしてもほとんど有していない薬剤である。薬理学において、アジュバントとは、単独では薬理学的効果をほとんどまたは全く有しないが、同時に与えられた場合に他の薬物の有効性または効力を増加させる薬物である。免疫学において、アジュバントとは、それ自体は特別な抗原効果を有しないが、免疫系を刺激し、ワクチンに対する応答を増加させる薬剤である。アルミニウム塩であるリン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムは、ヒトワクチンにおける二つの最も一般的なアジュバントである。スクアレンもいくつかのヒトワクチンで使用されており、さらなるスクアレンアジュバントおよびリン酸アジュバントを含むワクチンが、ヒトで試験されている。油アジュバントは動物ワクチンにおいて使用される。もう一つの市場に認可されたアジュバントおよび担体系は、ビロソームである。ここ20年の間に、広く使用されているが望ましくないアルミニウム塩に基づくアジュバントを改善するため、多様な技術が調査された。これらの塩は、局所的な炎症を誘導することにより効果を発揮するが、それが、このアジュバントの広い副作用パターンの基礎でもある。対照的に、ビロソームのアジュバント能力は、炎症反応に依存しない。ビロソームは、融合活性を増幅し、従って、抗原提示細胞(APC)への取り込みを容易にし、天然の抗原プロセシング経路を誘導する、インフルエンザウイルス由来の膜結合型の赤血球凝集素およびノイラミニダーゼを含有している。ビロソームによる抗原の免疫系への送達は、ほぼ天然の方式で行われ、これが、ビロソームに基づくワクチンが、優れた安全性プロファイルのため際だっている主要な理由であるかもしれない。
【0044】
薬物とは、細胞または生物の機能に対する特異的な効果を有する物質、一般に、外因性の物質である。しばしば、薬物は、疾患の処置、治療、防止、もしくは診断において使用され、または他の場合に肉体的もしくは精神的な健康を増強するために使用される。薬物治療または薬は、疾病もしくは医学的状態を治療し、かつ/もしくはそれらの症状を寛解させるために摂取される薬物であり、または、将来的な利益を有するが、存在もしくは先在している疾患もしくは症状を処置するものではない予防薬として使用されてもよい。薬物は、通常、生物の体外から導入されるという点で、内因性の生化学物質と区別される。
【0045】
毒性薬剤または毒素とは、生存している細胞または生物にとって有毒の物質または組成物である。毒素は、しばしば、体組織との接触または吸収の際に、酵素または細胞受容体のような他のタンパク質と相互作用することにより、疾患を引き起こすことができるタンパク質である。毒素の重度は極めて多様であり、通常の(ハチ刺傷のような)軽微で急性のものから、(ボツリヌス毒素のような)ほぼ即死となるものまである。生体毒素は、目的および機序に関して極めて多様であり、高度に複雑であるかもしれないし(イモガイの毒は、多数の小さなタンパク質を含有しており、各々が特異的な神経チャンネルまたは受容体を標的とする)、または比較的小さなタンパク質であるかもしれない。
【0046】
本発明のより好ましい態様において、免疫原は、病原体、病原体由来抗原、アレルゲン、腫瘍抗原、または寛容原である。
【0047】
病原体または感染因子とは、宿主の疾患または疾病を引き起こす生物学的因子、特に、生存している微生物である。病原体とは、本発明によると、好ましくは、ウイルス、細菌、および/または真核生物性寄生虫を意味する。病原体由来抗原とは、病原体に由来する抗原である。
【0048】
アレルゲンとは、過敏またはアレルギー反応を生ずることができる物質である。通常、それは、個体における過敏反応を刺激することができる非病原体由来抗原を含む。従って、免疫系による外来物質に対する誤った反応が引き起こされる。アレルギー反応は、これらの外来物質が通常無害であるという点で誤っている。アレルゲンの例には、花粉、チリダニ、カビ、フケ、およびある種の食物が含まれる。
【0049】
腫瘍抗原とは、宿主において免疫応答を誘発する、腫瘍細胞において産生される物質である。腫瘍抗原は、腫瘍細胞の同定において有用であり、癌治療において使用するための可能性のある候補である。体内の正常なタンパク質は、自己寛容のために抗原性でない。しかしながら、変異のために異常な構造を有する腫瘍細胞において産生されたタンパク質は、腫瘍抗原として作用し得る。特に、異常なタンパク質産生をもたらす癌原遺伝子および腫瘍抑制遺伝子の変異は、腫瘍の原因であり、従って、そのような異常タンパク質は腫瘍特異抗原と呼ばれる。腫瘍特異抗原の例には、ras遺伝子およびp53遺伝子の異常産物が含まれる。対照的に、腫瘍形成と無関係な他の遺伝子の変異は、腫瘍関連抗原と呼ばれる異常タンパク質の合成をもたらし得る。通常は少量産生されるが、腫瘍細胞においては産生が劇的に増加するタンパク質は、免疫応答を誘発する。そのようなタンパク質の一例は、メラニン産生に必要とされる酵素チロシナーゼである。通常、チロシナーゼは、微量に産生されるが、そのレベルは黒色腫細胞において極めて高く上昇する。腫瘍胎児性抗原は、腫瘍抗原のもう一つの重要なクラスである。例は、アルファフェトプロテイン(AFP)および癌胎児性抗原である(CEA)。これらのタンパク質は、通常、胚発生の初期段階において産生され、免疫系が完全に発達するまでに消失する。従って、これらの抗原に対して自己寛容は発達しない。腫瘍ウイルス、例えば、EBVおよびHPVに感染した細胞によっても異常タンパク質が産生される。これらのウイルスに感染した細胞は、転写される潜在ウイルスDNAを含有しており、その結果生じたタンパク質は免疫応答を生ずる。タンパク質に加え、細胞表面の糖脂質および糖タンパク質のようなその他の物質も、腫瘍細胞において異常な構造を有することがあり、従って、免疫系の標的となり得る。
【0050】
寛容原とは、免疫応答を刺激するが、炎症性の免疫防御反応を惹起しない免疫原である。それは、その成分に対する寛容を免疫系において誘導するために使用され得る。寛容は、中枢性寛容または末梢性寛容によって起こり得る。中枢性寛容は、対応する抗原が胸腺においてT細胞に曝され、特異的なT細胞が排除される寛容原に関する。末梢性寛容は、抗原が、適切な付加的な「デンジャーシグナル」なしにT細胞に提示された場合に起こる。
【0051】
本発明のさらに好ましい態様において、送達システムの毒性薬剤は、細胞毒、アポトーシス誘導剤、リボソーム不活化剤、DNAもしくはRNAを切断する薬剤、またはタンパク質合成の阻害剤である。
【0052】
細胞毒とは、身体のある種の細胞(通常、特定の器官のもの)に対して、直接、毒性のまたは破壊的な効果を有する物質である。具体例には、腎臓毒および神経毒が含まれる。
【0053】
多くの癌処置が、活発に急速に分裂する癌細胞を死滅させるために毒素または細胞毒を使用する。この化学療法の残念な副作用は、毛包および骨髄のような体内のある種の健康かつ正常な細胞も活発に分裂しており、細胞毒性薬剤により攻撃される点であり、このことは、投与の頻度を制限する。多くの化学療法薬が、速く分裂する細胞を効率的に標的として、有糸分裂を損なうことにより作用する。一般的な化学療法薬の例は、(シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサリプラチンのような)アルキル化剤、代謝拮抗薬(例えば、プリン(アザチオプリン、メルカプトプリン)またはピリミジンを装うもの)、アントラサイクリン、(ビンカアルカロイドおよびタキサンのような)植物アルカロイド、ならびに細胞分裂またはDNA合成に影響を与える(イリノテカン、トポテカン、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、およびテニポシドのような)トポイソメラーゼ阻害剤である。異なる様式で作用するさらなる化学療法薬には、モノクローナル抗体((トラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin))、セツキシマブおよびリツキシマブのような)腫瘍特異抗原を標的とするもの、または(ベバシズマブ(アバスチン(Avastin))のような)新しい腫瘍血管の形成を阻止するもの)、およびある型の癌(慢性骨髄性白血病、胃腸間質腫瘍)における分子的異常を直接標的とする、新しいチロシンキナーゼ阻害剤、例えば、イマチニブメシル酸塩(グリーベック(Gleevec)(登録商標)またはグリベック(Glivec)(登録商標))が含まれる。
【0054】
機能的には、毒素は、アポトーシス誘導剤(ゲムシタビン、TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、またはアダマンチル基含有レチノイド関連化合物のような細胞のプログラム細胞死を誘導する薬剤)、リボソーム不活化剤(リシン、アビスクミン(aviscumine)、または志賀様リボソーム不活化タンパク質のような、植物界に広く分布し、例えば、真核生物リボソームの60Sサブユニットを酵素的に攻撃し、大きいリボソームRNA(rRNA)を不可逆的に修飾することによりリボソームを不活化する毒性タンパク質の大きい群)、DNAまたはRNAを切断する薬剤(即ち、1,2,4-ベンゾトリアジン1,4-ジオキシド、リスベラトロール、シスプラチン、またはハンマーヘッド型リボザイムのような、DNA/RNAに結合し、それを切断するDNA/RNA相互作用化合物)、またはタンパク質合成の阻害剤(抗生物質(例えば、アニソマイシン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、ネオマイシン、またはエリスロマイシン)、フシジン酸、ジフテリア毒素、リシン、またはシクロヘキシミドのような、例えば、ペプチド鎖伸長の中断、リボソームの部位のブロッキング、遺伝暗号の誤読、または糖タンパク質へのオリゴ糖側鎖の付着の防止により、タンパク質の合成を阻害する化合物)でもあり得る。
【0055】
送達される物質(物質(ii))に加え、送達システムは、ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)と結合する分子(分子(i))を含む。その分子は、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞を選択的に標的とし、送達される物質のこの細胞への導入をもたらすよう機能する。その後、物質(ii)は、物質(ii)の性質に依って、意図された様式で作用し得る。化学的には、分子(i)は、任意の適当な化合物であってよく;例えば、分子は、タンパク質、(ポリ)ペプチド、抗体もしくはその断片、または低分子であり得る。機能的には、分子は、アゴニストまたはアンタゴニストあり得るが;完全または部分的なアゴニストが好ましい。理論によって拘束はされないが、分子、特にアゴニストの、XCR1との結合により、リガンドとXCR1との複合体が細胞へ内部移行することが想定される。Gタンパク質共役型受容体ファミリーの他のメンバーから、アゴニストはアンタゴニストより高いレベルの受容体の内部移行を誘導する傾向があることが公知であり、従って、アゴニストが好ましい。さらに、リガンドが、送達される物質の細胞への取り込みを媒介することができる受容体のドメインに結合するよう意図されることが理解されるべきである。受容体の外部ドメインは、物質(ii)の内部移行を媒介するために特に適しているドメインであると想定される。従って、この/これらのドメインに結合するリガンドは、本発明の送達システムに特に適していると想定される。
【0056】
ヒトXCR1のアミノ酸配列は、既に公知である(NCBI;アクセッションNP_001019815):
【0057】
しかしながら、XCR1またはその他のケモカイン受容体の正確な三次元構造は、未だ公知でない。一次アミノ酸配列の分析に基づき、XCR1の最も密接な相同ケモカイン受容体は、321残基のストレッチにおいてアミノ酸レベルで36%の同一性および56%の類似性を有するCCR5である。いくつかの研究は、CCR5のドメイン構造およびリガンド結合部位の詳細な分析を提示しており、CCR5とXCR1との有意な相同性のため、これらの研究の結果をXCR1の構造的特徴を予測するために使用することができる。ある研究は、いくつかのケモカインの保存された領域を分析し、CCR5の細胞内ドメイン、細胞外ドメイン、および膜貫通ドメインの位置に関する正確な予測を導き出した(Raport et al.,1996,J.Biol.Chem.271,17161-66)。これらの領域の過半数は、XCR1にも保存されているため、CCR5のドメイン予測を採用し、それにより、下記表に詳述されるように、マウスおよびヒトのXCR1についてのドメイン構造を提唱することは合理的である。リガンド結合にとって重要なCCR5の残基が、もう一つの研究において詳細に研究され(Zhou et al,2000,Eur.J.Immunol.30,164-73)、全ての細胞外ドメインがリガンド結合に関与しているかもしれないが、N末端および第二細胞外ループ(ECL2)が主に寄与することが提唱された。これらの実験に基づき、ヒトXCR1のアミノ酸1-34および166-191が、XCL1の主要な結合部位であり、アミノ酸89-103および251-271がそれよりも小さく寄与するということが導出され得る。従って、これらのドメインに結合する分子は、適当なXCR1リガンドである可能性が高く、この原理は、例えば、分子的モデリングにより、適当なXCR1リガンドを探求し、かつ/または設計するために使用されるかもしれない。
【0058】
XCR1との結合とは別に、分子(i)は、(例えば、受容体内部移行またはエンドサイトーシスまたは食作用により)物質(ii)の細胞への取り込みを媒介することができるべきであることが理解されるべきである。XCR1に結合し、物質の取り込みを媒介する分子(i)の能力は、標準的な方法により、例えば、分子(i)を標識し、その運命(XCR1保持細胞への取り込み)を追跡することにより、または分子(i)をXCR1と結合させ、インキュベーション時間を置いた後、APC表面上のXCR1のレベルを決定することにより、調査され得る。XCR1の内部移行は、XCR1を保持している初代APCにおいて試験されてもよいし、またはXCR1トランスフェクタントにおいて試験されてもよい(実施例7を比較すること)。試験される分子(i)を、(例えば、放射性化合物または蛍光色素または毒素またはXCR1保持細胞の代謝に影響を及ぼす薬物を使用して)標識し、最適の時間(典型的には、5分超)、ケモカイン受容体の内部移行が起こる温度(典型的には、7℃超)で、XCR1保持細胞と反応させることができる(Neel et al.,2005,Cyt.Growth Factor Rev.16,637-58)。十分なインキュベーション時間の後、XCR1内部移行の速度を、光学的方法(フルオロフォアマーカーの場合)により、または取り込まれた放射能の測定により([125I]-XCL1のような放射性マーカーの場合)、または細胞死の査定により(毒素の場合)、または使用されたマーカーに適したその他の検出法により、内部移行した分子(i)の量を測定することにより決定することができる。または、XCR1内部移行の速度は、フローサイトメトリー、または細胞表面上のXCR1のレベルを決定することができるその他のアッセイ(例えば、細胞ELISA)を使用して、分子(i)のXCR1との結合の前後にXCR1細胞表面発現のレベルを比較することにより、間接的に決定されてもよい。または、受容体の運命/内部移行を、例えば、光学的方法により、直接査定することができるよう、(例えば、フルオロフォアにより、またはXCR1の蛍光性融合タンパク質バリアントをトランスフェクションに使用することにより)トランスフェクトされたXCR1受容体を標識することもできる。全ての記載されたアプローチは、ハイスループットスクリーニング系に適応可能である。記載された方法は、当業者に周知である(例えば、Colvin et al.,2004,J.Biol.Chem.279,30219-27;Sauty et al.2001,J.Immunol.167,7084-93;Rose 2004,J.Biol.Chem.279,24372-86;Signoret et al.,2000,J.Cell.Biol.151,1281-94;およびNeel et al.,2005,Cyt.Growth Factor Rev.16,637-58の表2にリストされた刊行物)。または、分子(i)の結合は、Ca2+、またはXCR1により誘導される細胞活性化のその他の適当な代謝物の細胞内濃度を測定することにより、実施例2に詳述されるような活性化試験を使用して研究されてもよい。または、分子(i)の取り込みは、実施例4に詳述される原理に従って測定されてもよい。
【0059】
本発明の好ましい態様において、分子(i)は、ケモカイン(Cモチーフ)リガンド1(XCL1)またはその機能活性バリアントである。上に詳述されたように、XCL1は、XCR1の天然に存在するリガンドである。その天然に存在するバリアントは、XCL2であり(上記参照)、それも使用され得る。組換えヒトXCL1の三次元構造は、NMR分光法により決定された。XCL1は、無秩序なN末端、三本鎖逆平行βシート、およびC末端αヘリックスを特徴とする、本質的に全ての他のケモカインの間で高度に保存されている折り畳み(「古典的」ケモカイン折り畳み)を採っていることが見出された。他のケモカインと同様に、N末端が、XCL1機能に必要とされるようである。従って、XCL1の受容体XCR1への結合は、他のケモカインの受容体結合に極めて類似しており、二段階モデルにより記載され得ると想定できる:第一段階において、ケモカインの主要部分が、受容体を特異的に認識し、それに結合し、それが、ケモカインのコンフォメーション変化およびフレキシブルなN末端の再編成を誘導する。第二段階において、ケモカインN末端が受容体と相互作用し、その活性化を誘導し、典型的にはカルシウムの流入を誘発する。一般的な類似性とは別に、XCL1に独特の三つの構造的特徴が同定された;これらは、ジスルフィド結合の数、C末端の長さ、およびN末端ドメインの特定の編成を含む。ケモカインの大多数は2個のジスルフィド結合を示すが、それらのうちの1個がXCL1には欠失している。ほぼ生理的な条件において、二つのコンフォメーション状態(保存されたケモカイン折り畳みおよび非ケモカインコンフォメーション)が検出され得るため、これがXCL1構造を不安定化していることが提唱された。この構造的不均一性の生物学的意義は不明であるが、非ケモカインコンフォメーションは受容体と結合しないことが提唱されている。ATACの第二の構造的特徴は、大きいC末端伸長(残基73-93)の存在である。この独特のC末端の役割は未だ明らかでなく、その欠失の機能的結果は論争中である。8個の可能性のあるグリコシル化部位が、延長されたC末端に見出されているが、XCL1の構造または機能に対するグリコシル化の影響は検出されなかった。最後に、第二のジスルフィド結合の欠如は、受容体相互作用にとって重要な、いわゆる30'sループの異なる方向をもたらしている。さらに、このループは、2アミノ酸だけ短縮されており、N末端から分離している。この特定の編成の機能的意義は明らかでない。
【0060】
(ヒト:SEQ ID NO:1、GenBankアクセッションP47992;マウス:SEQ ID NO:2、GenBankアクセッションP47993;およびラットSEQ ID NO:3、GenBankアクセッションP51672を含む)いくつかの種のXCL1(ATAC)のアミノ酸配列が公知であり、SEQ ID NO:1〜3として示される(下記参照)。さらに、ウイルスケモカイン様タンパク質であるK4.1 HHV8(SEQ ID NO:4、GenBankアクセッションAAB62672.1)(下記参照)と呼ばれる特異的なXCLR1アゴニストも公知である。これらの天然に存在するXCR1リガンドまたはその他の天然に存在するXCR1リガンドのうちの任意のものが使用され得る。
【0061】
または、天然に存在するXCL1の機能活性バリアントが使用されてもよい。バリアントという用語には、断片、一つまたは複数のアミノ酸の付加、欠失、および/または置換に由来するバリアント、ならびに、融合タンパク質のような、天然に存在するXCL1またはその一部分を含む分子、特に、タンパク質が包含される。融合タンパク質のXCL1部分には、C末端にアミノ酸残基が隣接していてもよいし、N末端に隣接していてもよいし、またはC末端およびN末端に隣接していてもよい。
【0062】
機能活性断片は、一つまたは複数のアミノ酸欠失により、天然に存在するXCR1リガンド、特にXCL1、特にSEQ ID NO:1〜4のものに由来することを特徴とする。欠失は、C末端、N末端、および/または内部にあり得る。好ましくは、断片は、高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、または60個、より好ましくは高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、または30個、さらに好ましくは高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個、さらに好ましくは高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個、最も好ましくは1、2、3、4、または5個のアミノ酸欠失により入手される。本発明の機能活性断片は、物質(ii)のXCR1と結合し、内部移行を媒介する能力を含む、それが由来するリガンドにより示されるものに類似している生物学的活性を有することを特徴とする。天然に存在するXCR1リガンド、特にXCL1、特にSEQ ID NO:1〜4のものの断片は、断片の活性(結合および内部移行)が、配列改変のないXCL1の活性の少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%となる場合、本発明の状況において機能的に活性である。これらの断片は、約18〜50アミノ酸長のような短い長さを含む、任意の所望の長さで設計され入手され得る。
【0063】
天然に存在するXCR1リガンド、特にXCL1、特にSEQ ID NO:1〜4のものの機能活性断片は、その他の構造的特色も特徴とするかもしれない。従って、本発明の一つの好ましい態様において、機能活性断片は、SEQ ID NO:1〜4のいずれかのXCR1リガンドのアミノ酸の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは99%からなる。上に定義されたような機能活性断片は、一つまたは複数のアミノ酸欠失によりペプチドに由来するかもしれない。欠失は、C末端、N末端、および/または内部にあり得る。SEQ ID NO:1〜4の上記の配列アラインメントは、保存されていると考えられる天然に存在するリガンドのドメインを示している。本発明の好ましい態様において、これらのドメインは断片において維持されるべきである。
【0064】
保存されたドメインには、1〜2位(V/S G)、13〜27位(S/N L X T/S Q/A R L P V/P X K/R I/L K/I X T/G X Y(X = 任意のアミノ酸または存在しない;SEQ ID NO:5)、35〜51位(R/K A V I F I/V T K/H R/S G L/R K/R I/V C A/G D/S P;SEQ ID NO:6)のプロセシングされたN末端(プロセシングされたN末端は、配列番号:1〜3についてはプロセシングされていないN末端のアミノ酸22から開始し、配列番号:4についてはアミノ酸27から開始する)のアミノ酸、ならびに11位および48位のシステイン残基の間のジスルフィド架橋が含まれる(上記アラインメントも参照のこと)。配列番号:1〜4の配列のコンセンサス配列は、同一アミノ酸のみを考慮した場合には、
であり、同一アミノ酸および多数派アミノ酸(即ち、配列四つのうち三つに存在する配列、別のアミノ酸はスラッシュの後にリストされる)を考慮した場合には、
である。配列番号:1〜3の配列のコンセンサス配列は、同一アミノ酸のみを考慮した場合には、
であり、同一アミノ酸および多数派アミノ酸(即ち、配列三つのうち二つに存在する配列、別のアミノ酸はスラッシュの後にリストされる)を考慮した場合には、
である。従って、本発明の好ましい送達システムにおいて、XCL1の機能活性バリアント、好ましくは機能活性断片は、配列番号:7〜10のいずれか、好ましくは配列番号:8〜10のいずれか、より好ましくは配列番号:9または10のいずれか、特に配列番号:10の配列を含むか、またはこれらからなる。
【0065】
本発明のもう一つの好ましい態様は、XCR1リガンドが、SEQ ID NO:1〜4のいずれかのXCR1リガンドの機能活性バリアントであり、バリアントが、SEQ ID NO:1〜4のいずれかのXCR1リガンドとの少なくとも50%の配列同一性を有する、上に定義されたようなXCL1バリアントに関する。より好ましい態様において、機能活性バリアントは、SEQ ID NO:1〜4のいずれかの抗原との少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは99%の配列同一性を有する。
【0066】
配列同一性の割合は、例えば、配列アラインメントにより決定され得る。比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野において周知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、例えば、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.2:482,1981またはPearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444-2448,1988に記載されている。
【0067】
NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410,1990)は、配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxに関連した使用のため、National Center for Biotechnology Information(NCBI,Bethesda,MD)を含むいくつかの供給元から、そしてインターネット上で入手可能である。SEQ ID NO:1〜4の配列のいずれかの抗原のバリアントは、典型的には、デフォルトパラメーターに設定されたNCBI Blast 2.0、gapped blastpを使用して特徴決定される。少なくとも35アミノ酸のアミノ酸配列の比較のためには、Blast 2 sequences機能が、デフォルトパラメーター(11のgap existence costおよび1のper residue gap cost)に設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックスを使用して利用される。短いペプチド(約35アミノ酸未満)を整列化する場合には、アラインメントは、デフォルトパラメーター(open gap 9、extension gap 1 penalties)に設定されたPAM30マトリックスを利用して、Blast 2 sequences機能を使用して実施される。15アミノ酸以下のような、そのような短いウィンドウで配列同一性を決定する方法は、National Center for Biotechnology Information(Bethesda,Maryland)により維持されているウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)に記載されている。
【0068】
または、複数の配列のアラインメントは、ClustalVアラインメントアルゴリズム(Higgins et al.,1992,Comput.Appl.Biosci.8,189-91)を利用して、DNAStar(Madison,WI,USA)のMegAlign Sofwareを使用して実施され得る。上記のアラインメントにおいては、このソフトウェアが使用され、以下のデフォルトパラメーターに設定された:gap penalty 10、gap length penalty 10。極めて低い相同性のため、アラインメントにSEQ ID NO:4を含めるのには、手動の調整が必要であった。
【0069】
機能活性バリアントは、天然に存在するXCR1リガンドの配列改変により入手され、ここで、配列改変を有するXCR1リガンドは、未改変のXCR1リガンドの機能を保持しており、例えば、XCR1と結合し、物質(ii)の内部移行を媒介する能力を含む、天然に存在するXCR1リガンドにより示されるものに類似している生物学的活性を有する。そのような配列改変には、保存的置換、欠失、変異、および挿入が含まれ得るが、これらに限定はされない。機能活性バリアントのこれらの特徴は、例えば、上に詳述されたようにして査定され得る。
【0070】
本発明のさらに好ましい態様において、機能活性バリアントは、保存的置換により、SEQ ID NO:1〜4の配列のいずれかの天然に存在するXCR1リガンドに由来する。保存的置換とは、側鎖および化学的特性が関連しているアミノ酸ファミリーの内部で起こるものである。そのようなファミリーの例は、塩基性側鎖を含むアミノ酸、酸性側鎖を有するアミノ酸、無極性脂肪族側鎖を有するアミノ酸、無極性芳香族側鎖を有するアミノ酸、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸、小さな側鎖を有するアミノ酸、大きい側鎖を有するアミノ酸等である。一つの態様において、1個の保存的置換がペプチドに含まれる。もう一つの態様において、2個以下の保存的置換がペプチドに含まれる。さらなる態様において、3個以下の保存的置換がペプチドに含まれる。
【0071】
保存的アミノ酸置換の例には、以下にリストされたものが含まれるが、これらに限定はされない:
【0072】
本発明のもう一つの好ましい態様において、分子(i)は、XCR1に特異的に結合することができる抗XCR1抗体またはその機能活性断片である。抗体の機能活性断片は、XCL1の機能活性断片(上記参照)と同様に定義され、即ち、機能活性断片は、(a)C末端欠失、N末端欠失、および/または内部欠失のような一つまたは複数のアミノ酸欠失により抗XCR1抗体に由来することを特徴とし、かつ(b)XCL1との結合能を含む、それが由来する抗XCR1抗体により示されるものに類似している生物学的活性を有することを特徴とする。天然に存在する抗体は、外来物質を同定し中和するために免疫系により使用されるタンパク質である。天然に存在する抗体は、各々、二つの大きい重鎖および二つの小さな軽鎖を有し、異なる抗原に結合することができる。本発明には、例えば、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、およびヒト化抗体が含まれ、Fab断片、Fab、Fab'、F(ab')2'、Fv、またはFab発現ライブラリーの産物も含まれる。抗体または抗体成分は、その生物学的半減期を延長するためにさらに修飾されてもよいし、またはそれらをターゲティングにより適したものにするためその他の方式で修飾されてもよい。XCR1に対して作成された抗体は、XCR1またはその断片を動物に直接注射することにより、またはXCR1またはその断片を動物、好ましくは非ヒトに投与することにより入手され得る。このようにして入手された抗体は、次いで、XCR1に結合するであろう。モノクローナル抗体の調製のためには、連続細胞系培養物、例えば、ハイブリドーマ細胞系により産生された抗体を提供する、当技術分野において公知の任意の技術が使用され得る。適当なモノクローナル抗体の作製は、実施例7にも詳述される。単鎖抗体の作製のための記載されている技術(米国特許第4,946,778号)は、XCR1に対する単鎖抗体を作製するために適合し得る。また、トランスジェニックのマウスまたはその他の哺乳動物のようなその他の生物が、XCR1に対するヒト化抗体を発現させるために使用されてもよい。
【0073】
本発明のもう一つの好ましい態様において、分子(i)は(ポリ)ペプチドである。ペプチドまたはポリペプチドは、α-アミノ酸の、定義された順序での連結から形成された重合体である。一つのアミノ酸残基と次のアミノ酸との間の結合は、アミド結合またはペプチド結合として公知である。タンパク質は、ポリペプチド分子である(または複数のポリペプチドサブユニットからなる)。区別は、ペプチドが短く、ポリペプチド/タンパク質が長いことである。しかしながら、本発明の状況において、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質という用語は、交換可能に使用される。(ポリ)ペプチドは、好ましくは、XCL1およびそれらのバリアントに関して上に詳述されたような、本発明における分子(i)として使用される。または、XCR1保持APCを活性化することができ、好ましくはXCR1保持APCにおいてエンドサイトーシスを誘発することができるXCR1に結合することができる(ポリ)ペプチドを同定するため、(ポリ)ペプチドライブラリーを使用することもできる。エンドサイトーシスを誘導する(ポリ)ペプチドを同定するためのアッセイ系は、上に記載され、実施例2および4に記載される。
【0074】
本発明のもう一つの好ましい態様において、分子(i)は、小さな有機分子、即ち、通常、約2,000g/モル未満、好ましくは約1500g/モル未満、さらに好ましくは1000g/モル未満の分子量を有する炭素含有化合物である。有機分子は、例えば、アルコール、アルデヒド、アルカン、アルケン、アミン、または芳香族化合物であり得る。XCR1保持APCを活性化することができ、好ましくは、XCR1保持APCにおいてエンドサイトーシスを誘発することができるXCR1に結合することができる分子を同定するため、有機低分子のライブラリーまたは天然生成物のライブラリーを使用することもできる。エンドサイトーシスを誘導する有機低分子を同定するためのアッセイ系は、上に記載され、実施例2および4に記載される。
【0075】
上に詳述されたように、本発明の送達システムは、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している。XCR1陽性とは、プロフェショナル抗原提示細胞がその表面上に受容体XCR1を保持していることを意味する。抗原提示細胞(APC)は、表面上にMHCと複合体化した外来抗原を呈示する細胞である。T細胞は、T細胞受容体(TCR)を使用して、この複合体を認識することができる。APCは、プロフェショナルまたは非プロフェショナルという二つのカテゴリーに分けられる。体内のほぼ全ての細胞が、技術的にはAPCである(MHCクラスI分子を介してCD8+ T細胞に抗原を提示することができるため)ため、「プロフェショナル抗原提示細胞」という用語は、未感作T細胞を初回刺激し得る(即ち、以前に抗原に曝されたことがないT細胞を活性化する)APCに限定される。プロフェショナルAPCは、MHCクラスII分子のみならずMHCクラスI分子も発現し、CD4+(「ヘルパー」)細胞のみならずCD8+(「細胞障害性」)T細胞も刺激することができる。これらのプロフェショナルAPCは、例えば、食作用または(受容体により媒介される)エンドサイトーシスのいずれかによる、抗原取り込みにおいて極めて効率的であり、次いで、クラスIまたはクラスII MHC分子と結合した抗原の断片を膜上に呈示する。T細胞は、APCの膜上の抗原とクラスIまたはII MHC分子との複合体を認識し、それらと相互作用する。次いで、付加的な同時刺激シグナルが抗原提示細胞により産生され、T細胞が活性化される。マクロファージおよびB細胞は効率的に抗原を提示することができるが、現在のところ、唯一の周知のプロフェショナルAPCは、樹状細胞(DC)、とりわけ、CD8+樹状細胞である。より好ましくは、送達システムは、特に、組織適合性複合体(MHC)クラスI分子による、対象におけるXCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞による、物質またはその断片の抗原としての提示(「交差提示」)を媒介することができる。
【0076】
本発明によると、送達システムは、本明細書中に詳述されたような成分(分子(i)および物質(ii))を含む、任意の適当なシステムであり得る。
【0077】
例えば、(例えば、免疫原、アレルゲン、寛容原、アジュバント、薬物、化学物質、DNA、RNA、発現ベクター系、操作されたウイルス、毒素、酵素等を含む)送達システムの物質(ii)は、例えば、イオン強度力、接着、凝集、およびその他により、非共有結合的に、分子(i)(即ち、ターゲティング剤)に付着させられ得る。または、好ましくは、物質(ii)は、化学的カップリングにより、またはペプチドリンカーのようなリンカーを利用して、またはタンパク質性成分の場合には融合タンパク質として、直接、分子(i)に連結され得る。
【0078】
または、送達される物質(例えば、免疫原、アレルゲン、寛容原、アジュバント、薬物、化学物質、DNA、RNA、発現ベクター系、操作されたウイルス、毒素、酵素等)は、XCR1保持APCにターゲティングされる物質の完全性および有効性を維持する「媒体」へパッケージング/封入されてもよい。そのような媒体は、生細胞、死細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、ナノ粒子、脂質に基づく系(例えば、リポソーム)、エキソソーム、アポトーシス小体、コロイド性分散系、重合体、炭水化物、マイクロスフェア、またはその他の適当な媒体であり得る。この媒体は、媒体のXCR1保持APCへの特異的結合と、必要であれば、その後の内部移行とを可能にするため、媒体の(外)表面上のターゲティング剤、即ち、分子(i)(上記参照)の存在により、XCR1保持APCへターゲティングされるであろう。
【0079】
特に好ましい媒体は、ウイルスの構造タンパク質、またはカプソメア、ウイルス様粒子、もしくはウイルスのような、その多量体構造である。多量体構造は、少なくとも約5、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約30、最も好ましくは少なくとも約60の構造タンパク質の凝集物であり得、多量体構造内に送達される物質を含有することができる。パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス2型)のようなウイルスの構造タンパク質は、表面上に特定のタンパク質を提示するよう修飾され得ることが公知である。従って、上に定義されたような、天然に存在するXCR1リガンドまたはそのバリアントのようなXCR1に結合するタンパク質性分子を、媒体の表面上に提示するよう、構造タンパク質を修飾することができる。次いで、媒体はXCR1を介してDCに結合し、DCに取り込まれることができる。適当な挿入部位は、例えば、米国特許第6,719,978号に開示されている。
【0080】
本発明のさらなる態様において、本発明の送達システムは、(iii)アジュバント、特に、「デンジャーシグナル」をさらに含む。
【0081】
アジュバントとは、改善された抗原取り込み、抗原の延長された生物学的半減期、デポジット様(deposit-like)効果、「デンジャーシグナル」の提供による自然免疫応答の活性化、サイトカインの誘導、DCの活性化および/または成熟、T細胞同時刺激分子のリガンドの誘導、ならびにその他を含む、多数の機序のうちの少なくとも一つにより、投与された抗原に対する免疫応答を改善することができる化合物である。NK細胞またはT細胞のDCとの特異的相互作用を改善する化合物も、アジュバントとして作用するであろう。アジュバントは二つのカテゴリーへ分類され得る。一つの型のアジュバントは、例えば、プロフェショナルAPCへの抗原取り込みを改善することにより、またはT細胞もしくはNK細胞のプロフェショナルAPCとの相互作用を最適化することにより、免疫系による抗原の認識を改善する。この型のアジュバントは、炎症も誘導しないし、「デンジャーシグナル」も提供せず、従って、寛容原に対する免疫系におけるアネルギーまたは寛容を誘導する試みにおいて、寛容原の効果を改善するために使用され得る。他方の型のアジュバントは、例えば、「デンジャーシグナル」(上記参照)を提供することにより、免疫系において炎症を誘導する。「デンジャーシグナル」型アジュバントの例は、免疫賦活性複合体(ISCOM)、ウイルス様粒子(VLP)、LPS、BCG、非メチル化CpGモチーフ、二本鎖RNA、およびその他である。タンパク質性「デンジャーシグナル」型アジュバントの例は、熱ショックタンパク質または高移動度タンパク質B1である。
【0082】
本発明の一つの態様において、分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)は、一つまたは複数の(ポリ)ペプチドである(ポリペプチドとは上に定義された通りである)。分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)は、一つの(ポリ)ペプチド(即ち、融合タンパク質)内にあってもよいし、二つ以上の(ポリ)ペプチドであってもよい。
【0083】
本発明のさらなる態様において、分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)は、共有結合的に、かつ/または非共有結合的に、相互に結合している。上に詳述されたように、成分は一つの融合タンパク質内にあってもよい。または、成分は、適当なリンカーにより相互に連結されていてもよい。融合タンパク質の場合、リンカーは、一つまたは複数のアミノ酸残基から構成される。または、成分は、イオン結合、水素結合、および/またはファンデルワールス結合等により、非共有結合的に相互に結合していてもよい。成分は、共有結合性または非共有結合性の形成を提供する適当なドメインを包含していてもよい。共有結合性の結合の場合、これは、成分の相互のカップリングを可能にするペプチドリンカーまたはカップリング基を含む。非共有結合性の結合の場合、結合を与えるドメインの例には、ビオチン-アビジン系、抗体もしくはその断片およびその抗原、または酵素もしくはその一部分およびその基質が含まれる。
【0084】
さらなる局面において、分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)が、一つまたは複数の(ポリ)ペプチドである場合、本発明は、本発明の送達システムの(ポリ)ペプチドをコードする一つまたは複数の核酸に関する。本発明の核酸分子は、例えば、クローニングにより入手された、または化学合成技術により、もしくはそれらの組み合わせにより作製された、mRNAまたはcRNAのようなRNAの形態であってもよいし、または例えばcDNAおよびゲノムDNAを含むDNAの形態であってもよい。DNAは、三本鎖、二本鎖、または一本鎖であり得る。一本鎖DNAはセンス鎖として公知のコーディング鎖であってもよいし、またはアンチセンス鎖とも呼ばれる非コーディング鎖であってもよい。核酸分子とは、本明細書において使用されるように、とりわけ、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖RNAと二本鎖RNAとの混合物であるDNA、および一本鎖領域と二本鎖領域との混合物であるRNA、一本鎖であってもよいし、またはより典型的に二本鎖もしくは三本鎖、または一本鎖領域と二本鎖領域との混合物であってもよい、DNAとRNAとを含むハイブリッド分子もさす。さらに、核酸分子とは、本明細書において使用されるように、RNA、またはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域をさす。
【0085】
さらに、本発明の送達システムをコードする核酸分子は、プロモーターもしくはエンハンサーもしくはリーダー配列のような所望の調節配列、または融合タンパク質を作出するための異種コーディング配列に、標準的なクローニング技術のような標準的な技術を使用して、機能的に連結され得る。
【0086】
さらなる局面において、本発明は、本発明の一つまたは複数の核酸を含むベクターに関する。ベクターは、複製起点、一つまたは複数の治療用遺伝子、および/または選択可能マーカー遺伝子、ならびに、コードされたタンパク質の転写、翻訳、および/または分泌を指図する調節要素のような、当技術分野において公知のその他の遺伝子要素のような、宿主細胞においてそれが複製することを可能にする核酸配列をさらに含んでいてもよい。ベクターは、細胞を形質導入、形質転換、または感染するために使用され得、それにより、その細胞にネイティブのもの以外の核酸および/またはタンパク質を、細胞に発現させる。ベクターは、ウイルス粒子、リポソーム、タンパク質コーティング等のような、核酸の細胞への侵入が達成されるのを支援するための材料を任意で含む。標準的な分子生物学技術によるタンパク質発現のための多数の型の適切な発現ベクターが、当技術分野において公知である。そのようなベクターは、昆虫、例えば、バキュロウイルス発現、または酵母、真菌、細菌、もしくはウイルスによる発現系を含む、従来のベクター型の中から選択される。その他の適切な発現ベクター(多数の型が当技術分野において公知である)も、この目的のために使用され得る。そのような発現ベクターを入手するための方法は周知である(例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning.A Laboratory Manual,2nd edition,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1989)を参照のこと)。一つの態様において、ベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターには、レトロウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターが含まれるが、これらに限定はされない。
【0087】
この方法によるトランスフェクションのための適当な宿主細胞または細胞系には、細菌細胞が含まれる。例えば、大腸菌の様々な株が、バイオテクノロジーの領域において宿主細胞として周知である。B.ズブチリス(subtilis)、シュードモナス(Pseudomonas)、ストレプトミセス(Streptomyces)、およびその他の桿菌等の様々な株も、この方法において利用され得る。当業者に公知の酵母細胞の多くの株も、本発明のペプチドの発現のための宿主細胞として利用可能である。その他の真菌細胞またはスポドプテラ・フルギペデラ(Spodoptera frugipedera)(Sf9)細胞のような昆虫細胞も、発現系として利用され得る。または、ヒト293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、サルCOS-1細胞系、またはSwissマウス、BALB/cマウス、またはNIHマウスに由来するマウス3T3細胞のような哺乳動物細胞も使用され得る。さらにその他の適当な宿主細胞、ならびにトランスフェクション、培養、増幅、スクリーニング、産生、および精製のための方法は、当技術分野において公知である。
【0088】
本発明の(ポリ)ペプチドは、適当な宿主細胞における本発明の核酸の発現により作製され得る。宿主細胞を、転写調節配列の制御下で本発明の核酸を含有している少なくとも一つの発現ベクターにより、例えば、電気穿孔のような従来の手段により、トランスフェクトすることができる。次いで、トランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞を、タンパク質の発現を可能にする条件の下で培養する。発現されたタンパク質を、当業者に公知の適切な手段により、細胞から(または、細胞外に発現された場合には、培養培地から)回収し、単離し、任意で精製する。例えば、タンパク質は、細胞溶解後に可溶型で単離されるか、または公知の技術を使用して、例えば、グアニジンクロリドで抽出される。所望により、本発明の(ポリ)ペプチドは、融合タンパク質として作製される。そのような融合タンパク質は上記のようなものである。または、例えば、選択された宿主細胞におけるタンパク質の発現を増強するかまたは精製を改善する融合タンパク質を作製することが望ましいかもしれない。本発明の成分を含む分子は、HPLC、FPLC等を使用した順相または逆相の液体クロマトグラフィ;(無機リガンドまたはモノクローナル抗体を用いたもののような)アフィニティクロマトグラフィ;サイズ排除クロマトグラフィ;固定化金属キレートクロマトグラフィ;ゲル電気泳動等を含むが、これらに限定はされない、多様な従来の方法を使用して、さらに精製されてもよい。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、最も適切な単離および精製の技術を選択することができる。そのような精製は、微生物のその他のタンパク質性および非タンパク質性の材料を実質的に含まない形態で抗原を提供する。
【0089】
さらなる局面において、本発明は、本発明の送達システム、または本発明の一つもしくは複数の核酸を含む医薬に関する。
【0090】
本明細書に記載された、免疫原性または寛容原性の予防接種の全ての場合を含む、本発明の医薬に関して、物質(ii)、特に、XCR1保持APCにターゲティングされる免疫原(病原体由来抗原、アレルゲン、腫瘍抗原、寛容原、外来組織抗原、自己免疫性抗原等を含む)は、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質として適用され得る。または、物質(ii)は、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質をコードする、天然の、または修飾された(安定化された)DNAまたはRNAとして適用されてもよい。または、それは、XCR1保持APCへ取り込まれた後、免疫原性タンパク質/ペプチドを発現することができる、核酸に基づくプロモーターにより駆動される発現ベクター(例えば、プラスミドまたは直鎖化されたRNAもしくはDNA)として適用されてもよい。好ましくは、そのようなベクター系は、コードされた(ポリ)ペプチド/タンパク質が、XCR1保持哺乳動物/ヒトAPCにおいて選択的に発現されるよう、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質の発現を駆動するためにXCR1プロモーターを利用するであろう。または、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質は、組換え技術によってウイルスへと操作されることができる。そのウイルスは、XCR1保持APCへ選択的にターゲティングされた後、内部移行し、(ポリ)ペプチド/タンパク質を発現し始めるであろう。再び、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質の発現は、XCR1プロモーターにより駆動されることが好ましいであろう。核酸に基づく発現ベクター系またはウイルス系の両方の場合において、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質は、XCR1保持APCにおいて発現され、プロセシングされ、APCの細胞表面上に提示される。状況(炎症/「デンジャーシグナル」対「デンジャーシグナル」の欠如)に依って、発現されたペプチドは、免疫反応または寛容のいずれかを誘導するであろう。(ポリ)ペプチドまたはタンパク質は、単独で、またはアジュバント、もしくはXCR1保持APCの機能を修飾する薬学的化合物と共に、XCR1保持細胞へターゲティングされ得る。
【0091】
本発明の医薬は、その必要のある対象、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトに投与され得る。可能性のある投与モードには、皮内(皮下)、筋肉内、非経口、胃腸、静脈内、動脈内、関節内、大槽内、眼内、脳室内、くも膜下腔内、気管内、腹腔内、胸腺内、板状筋内、粘膜、または局所または経口、およびそれらの組み合わせが含まれるが、最も好ましくは、筋肉内または皮下または静脈内への注射である。筋肉内投与のための用量の容量は、好ましくは最大約5mL、例えば、0.3mL〜3mL、1mL〜3mL、約0.5〜1mL、または約2mLである。各用量中の活性成分の量は、処置または防止を提供するために十分なものでなければならない。異なる態様において、送達される物質の単位用量は、体重1kg当たり最大約5μg物質、約0.2〜3μg、約0.3〜1.5μg、約0.4〜0.8μg、または約0.6μgであるべきである。別の態様において、単位用量は、体重1kg当たり最大約6μg物質、約0.05〜5μg、または約0.1〜4μgであってもよい。異なる態様において、用量は、例えば、1〜3週間の間隔で、1〜3回投与される。1用量当たりのタンパク質の代表的な量は、およそ1μg〜およそ1mg、より好ましくはおよそ5μg〜およそ500μg、さらに好ましくはおよそ10μg〜およそ250μg、最も好ましくはおよそ25μg〜およそ100μgである。
【0092】
処置は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに、有効量の物質(ii)を投与することを含む。従って、本発明のさらなる局面は、有効量の物質(ii)が本発明の送達システムを使用して対象に投与される、(本明細書に明示されるような)疾患を防止または処置する方法に関する。防止および処置は、さらに、本明細書に記載されるように特定され得る。
【0093】
「医薬」または物質(ii)の有効量は、インビボ効果を示すことができる、例えば、本明細書において特定された疾患のいずれかの兆候または症状を防止するかまたは寛解させることができる量として計算され得る。そのような量は、当業者により決定され得る。好ましくは、そのような医薬は、非経口的に、好ましくは、筋肉内または皮下に投与される。しかしながら、それは、経口または局所を含む、その他の適当な経路により投与されるよう製剤化されてもよい。そのような治療用組成物の送達および投薬の経路の選択は、当技術分野の技術の範囲内である。
【0094】
本発明の状況において、処置とは、標的とされた病理学的状態または障害を防止するかまたは減速(軽減)させることを目的とする、治療的処置および予防的または防止的な措置の両方をさす。処置を必要とする者には、既に障害を有する者のみならず、障害を有する傾向を有する者、または障害が防止されるべき者が含まれる。
【0095】
医薬は、一般に、少なくとも一つの適当な薬学的に許容される担体または補助物質を含むことができる。そのような物質の例は、脱塩水、等張生理食塩水、リンゲル液、緩衝液、有機または無機の酸および塩基ならびにそれらの塩、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウムまたは第二リン酸カルシウム、プロピレングリコールのようなグリコール、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルのようなエステル、グルコース、ショ糖、および乳糖のような糖、コーンスターチおよびジャガイモデンプンのようなデンプン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミドのような可溶化剤および乳化剤、落花生油、綿実油、トウモロコシ油、大豆油、ヒマシ油のような油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルのような合成脂肪酸エステル、ゼラチン、デキストラン、セルロースおよびその誘導体のような重合体性佐剤、アルブミン、有機溶媒、クエン酸および尿素のような錯化剤、プロテアーゼまたはヌクレアーゼの阻害剤、好ましくは、アプロチニン、ε-アミノカプロン酸、またはペプスタチンAのような安定剤、ベンジルアルコールのような保存剤、亜硫酸ナトリウムのような酸化防止剤、ロウ、ならびにEDTAのような安定剤である。着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、風味剤および芳香剤、保存剤、および抗酸化剤も、組成物中に存在し得る。生理的緩衝溶液は、好ましくは、およそ6.0〜8.0のpH、特におよそ6.8〜7.8のpH、特におよそ7.4のpHを有し、かつ/またはおよそ200〜400ミリオスモル/リットル、好ましくはおよそ290〜310ミリオスモル/リットルの浸透圧を有する。医薬のpHは、一般に、適当な有機または無機の緩衝液を使用して、例えば、好ましくは、リン酸緩衝液、トリス緩衝液(トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)、またはMOPS緩衝液(3-モルホリノ-1-プロパンスルホン酸)を使用して、調整される。それぞれの緩衝液の選択は、一般に、所望の緩衝液モル濃度に依る。リン酸緩衝液は、例えば、注射溶液および点滴溶液のために適当である。医薬を製剤化する方法も、適当な薬学的に許容される担体または補助物質も、当業者に周知である。薬学的に許容される担体および補助物質は、とりわけ、優勢な剤形および化合物によって選ばれる。
【0096】
送達システムは、要件または条件に依って、XCR1保持APCにターゲティングされ得る。XCR1保持APCは、脾臓、リンパ節、および流入領域リンパ組織のみならず、胸腺、肝臓、肺、脳内、および粘膜表面下(例えば、消化管内)のような哺乳動物/ヒトの身体の全ての他の器官にも存在すると予想され得る。従って、薬学的化合物のターゲティングは、それぞれの組織への注射/適用によって達成され得る。
【0097】
本発明の好ましい態様において、医薬は、ワクチンおよび/またはアジュバントである。上に詳述されたように、ワクチンは、哺乳動物またはヒトの身体へ投与される細胞成分、ウイルス成分、細菌成分、真菌成分、寄生虫成分、または毒素成分、またはその他の抗原性成分からなる。または、ワクチンは、細胞成分、ウイルス成分、細菌成分、真菌成分、寄生虫成分、または毒素成分をコードするDNAまたはRNAとして投与されてもよく;体内に入った後、核酸はコードされたタンパク質へと体細胞により翻訳され、次いで、それが抗原として作用する。ワクチンは、しばしば、改善された抗原取り込み、抗原の延長された生物学的半減期、デポジット様効果、「デンジャーシグナル」の提供による自然免疫応答の活性化、サイトカインの誘導、DCの活性化および/または成熟、T細胞同時刺激分子のリガンドの誘導、およびその他を含む、多数の機序により、投与された抗原に対する免疫応答を有意に改善することができる化合物「アジュバント」と共に投与される。NK細胞またはT細胞のDCとの特異的な相互作用を改善する化合物も、アジュバントとして作用するであろう。多くの場合において、アジュバントは、免疫系に「デンジャーシグナル」(上記参照)を提供する病原体の成分を含有している。
【0098】
APC、特に交差提示APCにターゲティングされたワクチンは、健康な個体を感染から保護するため、健康な個体を免疫感作するために使用され得る(「保護的ワクチン」)。または、そのようなワクチンは、治療目的のために使用されてもよい。病原体に対する十分なTh1免疫応答を開始し得ないかもしれない感染個体は、強力かつ特異的なTh1応答、特に細胞障害性応答を誘発するよう設計されたワクチンにより予防接種され得、従って、感染を封じ込めまたは根絶することができるであろう(「治療的ワクチン」)。例は、マラリア、結核、リーシュマニア、プリオン病、オルソミクソウイルス、特にインフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、C型慢性肝炎、HIVおよびその他のレンチウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、特にC型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、パラミクソウイルス、多様な呼吸器ウイルスおよびその他のウイルス、または本明細書において特定されたその他の感染である。
【0099】
ワクチンは、公知の抗原性成分を有する腫瘍(例えば、黒色腫、前立腺癌)の発生から健康な個体を保護するためにも使用され得る(「腫瘍保護的ワクチン」)。または、強力なTh1免疫応答、特にTh1細胞障害性応答を誘発するそのようなワクチンは、既に腫瘍を発症した患者を治療するために使用され得る。そのような腫瘍の例は、ヒトウイルスにより誘導された腫瘍、特に、パピローマウイルスにより誘導された腫瘍、HCVにより誘導された腫瘍、B型肝炎ウイルスにより誘導された腫瘍、およびその他の慢性感染時に腫瘍を誘導するウイルスであろう。さらに、Th1免疫、特に、細胞障害性免疫のスーパーインダクション(superinduction)は、自然発生性の固形腫瘍(例えば、黒色腫、前立腺癌、乳癌、消化管の腺癌、肺癌)、および白血病のために望ましいであろう。そのような場合、患者は、腫瘍特異抗原に対する強力な細胞障害性Th1免疫応答を誘発するような様式でAPCへターゲティングされた公知の腫瘍抗原または自己の(切除された)腫瘍材料により処置されるであろう。
【0100】
いくつかのワクチンは、アレルギー個体の脱感作のために使用される。アレルギー個体は、環境的抗原に対するTh2過剰反応を発症しがちである。その結果として、鼻炎、結膜炎、食物アレルギー、毒液に対するアレルギー、およびアレルギー性喘息のような様々なアレルギー応答を発症する。それぞれのアレルゲンに対する、よりTh1傾向のある免疫応答に免疫バランスを傾けることを目標とした現在入手可能な脱感作スキームおよび処置は、完全には有効ではない。従って、それぞれのアレルゲンに対する、よりTh1指向の免疫を誘導する新しいアプローチは、高度に望ましい。これは、アレルゲンに対する効率的なTh1応答を誘発することができるAPC、特にDCへ、それぞれのアレルゲンをターゲティングすることを通して達成され得、Th1免疫系に同時ターゲティングされたアジュバントの使用を含み得る(「治療的脱感作」)。バランスをTh1免疫応答に傾ける前に、まず、APC集団へ特異的に毒素をターゲティングすることにより、この集団を削除することが有用であるかもしれない。アレルギー反応を発症する素因を有するが、未だアレルギー症状を発症していない個体にも、脱感作ワクチンを適用することができる(「防止的脱感作」)。
【0101】
同一の脱感作の原理が、自己抗原に対する免疫反応、特に、Th1に偏向した抗体または細胞性免疫反応により引き起こされる自己免疫疾患、例えば、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎、および自己抗原に対するTh1過剰反応に基づくその他の自己免疫疾患に適用され得る。そのような脱感作ワクチンは、免疫系およびAPCに「デンジャーシグナル」を提供しない製剤で適用されるであろう。または、脱感作ワクチンは、それぞれの自己免疫原を提示するDCの成熟を防止するか、または標的とされたDCの「未熟な」状態を誘導すらするような様式および製剤でターゲティングされてもよい。これを達成する一つの方式は、APC集団へ特異的に毒素をターゲティングすることによる、APC集団の一時的な削除を含み得る。これらの計画全体は、これらのDCと相互作用する抗原特異的T細胞に寛容原性シグナルを提供するような様式で、樹状細胞の状態を修飾することを目標とするであろう。そのような方式で、それぞれの(自己)抗原に対する免疫寛容が誘発されることが予想され得る。
【0102】
本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明の医薬は、ペプチドに対する記憶免疫応答、特にTh1応答、特にTh1細胞障害性応答を誘導するためのものである。
【0103】
免疫原性予防接種が望まれる条件においては、免疫原は、「デンジャーシグナル」(上記参照)の環境でXCR1保持哺乳動物/ヒトAPCへターゲティングされなければならない。ターゲティングされた免疫原は、ワクチン製剤で適用され得、この場合、ターゲティングされた免疫原およびデンジャーシグナル型アジュバントが製剤(例えば、乳剤)中で混合され、次いで適用される。または、好ましくは、デンジャーシグナル型アジュバントは、ターゲティングされた免疫原に直接カップリングされ、従って、記載されたようなターゲティング剤を使用して、XCR1保持APCへ同時ターゲティングされる。
【0104】
免疫原性予防接種に関する本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明の医薬は、腫瘍および/または感染を防止または処置するためのものである。
【0105】
免疫原性ワクチンは、特に、哺乳動物/ヒトにおいて、腫瘍の防止または処置のために使用され得る。ターゲティングされる免疫原は、腫瘍抗原である。これは、公知の腫瘍抗原であり得;公知の腫瘍抗原の例は、黒色腫抗原、前立腺抗原、および腺癌抗原である(上記も参照のこと)。その場合、腫瘍抗原は、腫瘍に対する免疫反応を誘導することができるタンパク質またはペプチドのモエティとして適用され得る。公知の腫瘍抗原を有しない既に確立されている腫瘍の場合には、切除された腫瘍材料からの患者特異的な組織調製物が、腫瘍抗原調製物として使用され得る。ターゲティングされる免疫原は、慢性感染時に腫瘍を誘導するウイルス、マイコプラズマ、または細菌であってもよい。そのような感染因子の例は、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、両方の誘導する肝臓癌、および子宮頚部癌を誘導するHPV、およびその他である。免疫原性ワクチンの場合には、「デンジャーシグナル」型アジュバントの同時適用が必要である。このアプローチは、二つの異なる設定において使用され得る。第一に、それは、腫瘍発症の傾向のある個体において、公知の腫瘍抗原を用いて、防止的な様式で、腫瘍または腫瘍誘導病原体に対して哺乳動物/ヒトに予防注射をするために使用され得る。そのような場合、腫瘍成分または腫瘍誘導に対して発達したTh1免疫が、腫瘍の発達を防止するであろう。第二の設定において、既に腫瘍を発症した患者は、腫瘍を根絶することを目標として、腫瘍および/または腫瘍誘導病原体に対する効率的な免疫応答、特に、Th1(細胞障害性)免疫応答を開始させるため、治療的な様式で予防接種される。この型のアプローチは、多様な腫瘍型、とりわけ、黒色腫、前立腺癌、乳癌、消化管の癌、肺癌、肉腫、白血病、リンパ腫、神経膠腫、骨髄腫、肉腫、サルコイドーシス、ミクログリオーマ(microglioma)、髄膜腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、ホジキン病に適用され得る。
【0106】
免疫原性ワクチンは、特に、哺乳動物/ヒトにおいて、感染の防止または処置のために使用され得る。ターゲティングされる免疫原は、生きているか、弱毒化されているか、または死んでいる病原体、即ち、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、マイコプラズマ、不活化された毒素、またはその免疫原性成分である。免疫原は、病原体に対する免疫を誘導するタンパク質またはペプチドのモエティとしても適用され得る。免疫原性ワクチンの場合には、病原体またはその成分が必要な「デンジャーシグナル」を既に提供していない限り、「デンジャーシグナル」型アジュバントの同時適用が一般に必要である。そのような「デンジャーシグナル」は、多様な成分により提供され得、例は、LPS、非メチル化CpG、高移動度タンパク質B1、熱ショックタンパク質、およびその他である(上記参照)。このアプローチは、多様な病原体に適用され得る。例は、結核、ヘリコバクター、マラリア、リーシュマニア、プリオン病、オルソミクソウイルス、特にインフルエンザ、コロナウイルス、特にSARSウイルス、ウエストナイルウイルス、B型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびその他のレンチウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、特に、C型肝炎ウイルス、パラミクソウイルス、多様な呼吸器ウイルス、ならびに封じ込めおよび根絶のために効率的なTh1免疫応答、特に、Th1細胞障害性応答を必要とするその他のウイルスである。
【0107】
免疫原性ワクチンは、特に、哺乳動物/ヒトにおいて、アレルギー性疾患の防止または処置(脱感作)のために使用され得る。ターゲティングされる免疫原はアレルゲンである。アレルゲンの例は、チリダニアレルゲン、花粉アレルゲン、草アレルゲン、毒液アレルゲン、食物アレルゲン、およびその他である。アレルゲンは、アレルゲンの免疫原性成分、またはアレルゲンに対する免疫反応を誘導することができるタンパク質もしくはペプチドのモエティとして適用されてもよい。免疫原性ワクチンの場合には、「デンジャーシグナル」型アジュバントの同時適用が必要である。目標は、多様な条件において、アレルゲンに対する個体の免疫応答を、Th2免疫パターンからTh1免疫パターンへと変化させることである。例は、アレルギー性喘息、その他のアレルギー性肺疾患、食物アレルギー、アレルギー性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、ポリープ症、およびその他のアレルギー条件である。このアプローチは、治療的予防接種として、既に確立されているアレルギーの条件において使用され得る(脱感作)。または、アレルギー反応の傾向のある個体が、アレルゲンに対する有害なTh2免疫反応パターンを発症しないよう、防止的な様式で、公知のアレルゲンに対して予防接種され得る。
【0108】
本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明の医薬は、(ポリ)ペプチドに対する寛容を誘導するためのものである。
【0109】
所定の免疫原に対する、免疫ではなく寛容の発達が望まれる条件は、多数存在する。哺乳動物/ヒトの身体における免疫寛容の確立および維持において顕著な役割を果たすXCR1保持APCへ免疫原(即ち、寛容原)を特異的にターゲティングすることが初めて可能となったため、このことが可能となった。寛容の誘導は、臓器移植、自己免疫疾患、およびアレルギー条件において望ましい。これらの条件の下では、「デンジャーシグナル」は医薬中に存在するべきでない。
【0110】
好ましくは、医薬は、移植片拒絶、アレルギー、および/または自己免疫疾患を阻害するためのものである。
【0111】
寛容原性予防接種は、臓器移植において使用され得る。器官または組織のヒトレシピエントは、移植前に、デンジャーシグナルアジュバントの非存在下で、免疫原をXCR1保持APCへターゲティングすることにより、外来組織抗原に対して寛容化され得る。そのような場合の免疫原は、ドナーの細胞、ドナー細胞の成分、ペプチド、またはタンパク質であり得る。これらの条件の下で、宿主のTh1免疫系は、外来組織抗原に対して寛容になり、移植片を容認するであろう。このアプローチは、臓器移植(例えば、肝臓移植、心臓移植、肺移植、皮膚移植、腎臓移植)、骨髄移植、またはインスリン細胞移植、またはその他の外来組織移植において適用され得る。胸腺または骨髄への外来組織抗原の適用を通して、中枢性寛容が誘導されるであろう。末梢への免疫原の適用を通して、末梢性寛容が誘導されるであろう。
【0112】
寛容原性予防接種は、アレルギーの処置および/または防止のために使用され得る。アレルギー個体またはアレルギー反応の傾向のある個体は、デンジャーシグナルアジュバントの非存在下で、アレルゲンをXCR1保持APCへターゲティングすることにより、アレルゲンに対して寛容にされ得る。これは、アレルギー傾向のある個体、または既に確立されているアレルギーにおいて防止的な様式で行われ得る。ターゲティングされる免疫原は、アレルゲンまたはアレルゲンの一部分である。目標は、個体の免疫系を所定のアレルゲンに対して寛容にすることである。このアプローチは、重金属(ニッケル、クロム、その他)による感作のような、Th1免疫系によりアレルギー応答が駆動されるアレルギー条件のために適用され得る。このアプローチは、アレルギー性喘息、その他のアレルギー性肺疾患、食物アレルギー、アレルギー性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、ポリープ症、およびその他のアレルギー条件のような、アレルゲンまたは感作剤に対して、Th2免疫系およびTh1免疫系の両方を寛容化することが望まれる個体にも適用され得る。
【0113】
寛容原性予防接種は、自己免疫条件の処置および/または防止のために使用され得る。多くのヒト自己免疫疾患が、Th1自己免疫過程により駆動される。自己免疫個体または自己免疫反応の傾向がある個体を、自己免疫抗原に対して寛容にすることは望ましいであろう。これらの自己免疫抗原は、公知のものであるか(重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病の場合のように)、または予見可能な将来に決定されるものであってもよい。個体は、アジュバントの非存在下で、自己抗原をXCR1保持APCへターゲティングすることにより、自己抗原に対して寛容にされるであろう。このアプローチは、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎)、SLE、強直性脊椎炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎、およびその他のTh1により駆動される自己免疫条件において適用され得る。
【0114】
多くのアジュバントの欠点は、非指向的な様式で投与された時、体内で多数の細胞型に対してそれらが発揮する広範囲かつ非特異的な効果である。従って、例えば、アジュバントを免疫原とカップリングすることにより、アジュバントの効果をより特異的にするための試みがなされた。しかしながら、現在、有害な効果を最小化し、かつ最も効率的な抗原提示DC集団を選択的に標的とするため、アジュバントをDC、より具体的には交差提示DCへ選択的にターゲティングすることを可能にするであろう方法は利用可能でない。従って、アジュバントのそのようなターゲティングを開発する必要性がある。上に詳述されたように、XCR1リガンドを使用して、DCを特異的に標的とすることが可能になった。さらに、XCL1(ATAC)がCD8+ T細胞細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することが示された。
【0115】
従って、本発明のもう一つの局面は、特に、XCR1陽性抗原提示細胞の機能をモジュレートすることにより、対象において免疫応答を増強するための、XCL1または(上に定義されたような)その機能活性断片を含むアジュバントに関する。
【0116】
XCR1保持APCを誘引し、活性化し、かつその抗原提示能力を改善するXCL1の能力のため、XCL1は、デンジャーシグナル特性のない理想的なワクチンアジュバントである。ワクチンまたは薬学的製剤へのXCL1の添加は、哺乳動物/ヒト体内の適用部位へXCR1保持APCを誘引すると予想され得る。適用された免疫原の場合には、これは、XCR1保持APCにおける抗原の取り込みおよび提示、特に交差提示を改善し、T細胞およびB細胞の免疫応答を改善するであろう。適用の状況に依って、この免疫応答は、適用された免疫原に対するより高い程度の寛容をもたらすかもしれないし(非炎症条件、「デンジャーシグナル」なし)、または炎症条件で投与された場合には、適用された抗原に対する改善された免疫をもたらすことができる(「デンジャーシグナル」)。XCL1の薬学的化合物との同時投与は、この化合物のXCR1保持APCへの増加した取り込みをもたらすと予想され得る。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】10000個の細胞における発現へと規準化された、多様なマウス脾細胞集団のpolyA-mRNAの定量的PCRの後に観察されたXCR1コピー数を示す。CD11c+CD8+ DCのみが、有意な量のXCR1 mRNAを発現する。
【図2】XCL1によるXCR1保持DCの活性化を示す。CD8+CD11c+樹状細胞(DC)(A)またはCD8-CD11c+ DC(B)を、ポリL-リジンによりコーティングされたカバーガラス上に固定化し、fura-2/AM(2μM)を負荷した。細胞を、モノクロメータ支援ディジタルビデオ画像システムで画像化し、60秒目に100nM ATACによりチャレンジした。データは、三つの独立の実験で測定された27〜33個の単細胞(細線)における細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を表す。太線:測定された全ての細胞で平均化された平均[Ca2+]iシグナル。XCL1は、CD8+CD11c+樹状細胞において[Ca2+]iシグナルを誘導し(A)、CD8-CD11c+樹状細胞においては誘導しない(B)。
【図3】1〜1000ng/ml XCL1および500ng/ml CCL21の存在下での、インビトロトランスウェル走化性アッセイにおける、遊走した脾臓のCD8+ DCおよびCD8- DCの割合を示す。CD8+ DCのみがXCL1に応答して遊走する。
【図4】100ng/ml XCL1および500ng/ml CCL21の存在下での、インビトロトランスウェル走化性アッセイにおける、遊走したリンパ節のCD8+ DCおよびCD8- DCの割合を示す。CD8+ DCのみがXCL1に応答して遊走する。
【図5】それぞれ、1〜1000ng/ml XCL1、または200ng/ml CXCL12、100ng/ml CCL21、もしくは200ng/ml CXCL9の存在下での、インビトロトランスウェル走化性アッセイにおける、脾臓のB細胞、T細胞、およびNK細胞の遊走挙動を示す。いずれの細胞集団もXCL1に応答して遊走しない。
【図6】三つのエキソン(番号が付けられた黒ボックス)を含有している内因性ATAC遺伝子座(上)、ターゲティングベクターATACmut/pTV-0(中)、および標的とされた遺伝子座の予想される構造(下)の地図を示す。制限部位:X、XbaI;Sc、SacI;E1、EcoRI。選択マーカー:neo、ネオマイシン耐性;tk、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼ。内因性ATAC遺伝子座および標的とされたATAC遺伝子座の予想されるXbaI制限断片のサイズが示される(それぞれ16kbおよび22.5kb)。
【図7】フローサイトメトリーによる脾臓CD11c+CD8+ DCの分析のためのゲーティング戦略を示す。染色された細胞表面マーカーが軸上に示される。CD11c+MHC-II+細胞は、死細胞(DAPI+、7D)およびCD19+細胞(7E)がゲートアウトされた後、脾臓有核細胞のおよそ4%を占めていた。これらのCD11c+MHC-II+細胞は、CD11b+およびCD8+(樹状)細胞へとさらに細分された(7G)。CD11c+CD8+(7H)およびCD11c+CD11b+(7I)(樹状)細胞についての蛍光シグナル(CFSE)が示される。
【図8】CSFEで標識された細胞系の注射後の脾臓CSFE+ DCの割合を示す。CD8+ DCで入手されたデータはAに示され、CD8- DCで入手されたデータはBに示される。XCL1は、CD8+ DCへの細胞(抗原)取り込みを有意に改善する。
【図9】PBS、DEC-205-OVA、またはDEC-205-OVA/α-CD40の注射後3日目のレシピエントマウスの脾臓におけるOT-I細胞の割合を示す。野生型マウス(黒丸)においては、ATAC-KOマウス(白丸)と比較して、より高い割合が見られる。
【図10】3日目にレシピエントマウスの脾臓から単離され、インビトロで再刺激されたIFN-γ発現OT-I細胞の割合を示す。IFNγ分泌OT-I細胞のより高い割合が、ATAC-KOマウス(白丸)と比較して、野生型マウス(黒丸)において見られ、このことは、T細胞の分化に対するXCL1のアジュバント効果を示している。
【図11】mAb 6F8によるヒトXCR1タンパク質の免疫沈降物(i.p.)のウェスタンブロットを示す。レーン1:マーカーレーン2:トランスフェクタント「5'c-myc/hATACR/P3X」由来のmAb 6F8によるi.p.レーン3:P3X野生型系由来のmAb 6F8によるi.p.レーン4:トランスフェクタント「3'c-myc/hATACR/P3X」由来のmAb 6F8によるi.p.レーン5:トランスフェクタント「hATACR/300-19」由来のmAb 6F8によるi.p.レーン6:300-19野生型系由来のmAb 6F8によるi.p.
【図12】組換えマウスXCL1の異なる調製物が負荷されたクーマシー染色SDS-PAGEを示す。レーン1:マーカーレーン2:金属アフィニティ精製されたXCL1-SUMO融合タンパク質レーン3:SUMOプロテアーゼによる消化後のXCL1-SUMO融合タンパク質レーン4:精製されたXCL1
【図13】それぞれC57BL/6またはATAC-KOマウスへの養子移入後のOT-I T細胞およびATAC-KO OT-I T細胞のOVA特異的細胞障害性を示す。移入後1日目に免疫感作のためOVA/300-19細胞が使用され、インビボ細胞障害性アッセイが6日目に実施された。
【図14】脾臓DCにおけるXCR1の発現を示す。
【0118】
実施例
実施例1:CD8+ DCにおけるXCR1 mRNAの排他的な検出
C57BL/6マウス由来の脾臓を、37℃で、振とう水浴中で、25分間、2%(v/v)FBS(低内毒素;PAA,Pasching,Austria)、500μg/mlコラゲナーゼD、および20μg/ml DNaseI(いずれも、Roche Diagnostics GmbH,Penzberg,Germany)を含有しているRPMI1640において消化した。懸濁物を10mM EDTAに調整し、さらに5分間インキュベートした。細胞を70μmメッシュ(BD Biosciences,San Jose,CA,USA)に通し、MACS-PBS(PBS、2mM EDTA、0.5%(w/v)BSA(低内毒素))で濯いだ。4℃での380×gによる沈殿の後、細胞をMACS-PBSに懸濁させた。
【0119】
B細胞、T細胞、NK細胞、顆粒球、またはマクロファージの磁気単離のため、抗CD11cミクロビーズ(Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,Germany)を用いたネガティブ選択により、消化された脾臓の細胞からDC(樹状細胞)を枯渇させた。全て製造業者の指示(Miltenyi Biotec(前記))に従い、B細胞を抗CD19ミクロビーズによるポジティブ選択により精製し、全T細胞を抗CD90ミクロビーズにより、NK細胞を抗DX5ミクロビーズにより、顆粒球を抗Ly6Gミクロビーズにより、マクロファージをビオチンコンジュゲートmAb F4/80(ATCC,Manassas,VA,USA)および抗ビオチンミクロビーズ(Miltenyi Biotec(前記))により精製した。DCの単離のため、消化された脾臓の細胞を、1.069g/ml Nycodenz溶液(Axis-Shield,Oslo,Norway)に重層し、4℃で800×gで20分間遠心分離した。低密度細胞を中間層から採集し、MACS-PBSで1回洗浄した。製造業者の指示(Miltenyi Biotec(前記))に従い、抗CD11cミクロビーズによる磁気細胞ソーティングにより全DCを精製した。簡単に説明すると、非特異的な結合を防止するため、細胞を、200μg/ml抗FcRII/III(mAb 2.4G2;ATCC(前記))および500μg/ml精製ラットIgG(Nordic,Tilburg,The Netherlands)を含有しているMACS-PBSと共に4℃で5分間プレインキュベートした。CD11cミクロビーズをさらに15分間添加し、MACS-PBSで2回洗浄した。細胞を、MidiMACS Seperator磁石(Miltenyi Biotec(前記))に取り付けられたLSカラム(Miltenyi Biotec(前記))に負荷し、3回洗浄した;CD11c陽性細胞は、カラム上に保持され、磁界からカラムを除去した後、5mlのMACS-PBSを添加することにより溶出した。CD11c+脾細胞を、4℃で20分間、200μg/ml抗FcRII/III(mAb 2.4G2)、500μg/ml精製ラットIgG(いずれも、ブロッキング試薬)を含有しているFACS-PBS(PBS、2.5%(v/v)FBS、0.1%(w/v)NaN3)中で、抗CD8(mAb 53-6.72;ATCC(前記))、抗CD11b(mAb 5C6;ATCC(前記))、抗CD11c(mAb N418;ATCC(前記))、および抗MHCクラスII(mAb M5/114.15.2;ATCC(前記))により染色した。洗浄後、細胞を、Aria Cell Sorter(BD Bioscience)上で、>95%の純度でCD11c+CD8- DCおよびCD11c+CD8+ DC亜集団へとソートした。
【0120】
プロトコルに従い、High Pure RNA Isolation Kit(Roche Diagnostics GmbH(前記))を使用して、全RNAを調製した。簡単に説明すると、細胞(105〜107)を遠心分離により収集し、200μl PBSに懸濁させ、400μlの溶解/結合緩衝液と混合した。溶解物をフィルターチューブへ適用し、8000×gで15秒間遠心分離した。フィルターを、500μlの洗浄緩衝液Iで1回洗浄し、残存DNAを除去するためにDNaseIと共に15分間インキュベートした。500μlの洗浄緩衝液Iで洗浄し、洗浄緩衝液IIで2回洗浄した後、RNAを、50μlの溶出緩衝液により2回溶出させた。合わせた溶出液のRNA濃度および純度を、Agilent 2100バイオアナライザー(Agilent Technologies,Waldbronn,Germany)で、そして測光読み取りにより決定した。
【0121】
μMACS mRNA Isolationキット(Miltenyi Biotec(前記))を用いて、105〜107個の細胞から小規模mRNAを単離した。細胞沈殿物を、1mlの溶解/結合緩衝液に溶解させ、3分間13000×gで遠心分離した。50μlのオリゴ-(dT)ミクロビーズの添加後、溶解物を、μMACS分離磁石に取り付けられたμMACSカラムに負荷した。カラムを、200μlの溶解/結合緩衝液で2回、洗浄緩衝液で4回濯いだ。微量の残存DNAを、1分間、5U DNaseI(Promega,Madison,WI,USA)により消化することにより除去した。消化されたDNAおよびDNaseを除去するため、洗浄工程を繰り返した。予熱された溶出緩衝液(120μl、70℃)を、精製されたmRNAを溶出させるために使用した。上記のようにして、品質管理を実施した。
【0122】
製造業者の指示(Promega,Madison,WI,USA)に従い、Reverse Transcription Systemにより、全RNAまたはmRNAをcDNAへ逆転写した。簡単に説明すると、0.1〜1μgの全RNAまたは1〜10ngのポリ(A)+mRNAを、70℃で10分間変性させ、その後、直ちに冷却した。RTで15分間オリゴ(dT)15プライマーおよびAMV逆転写酵素を用いて逆転写を実施し、その後、42℃でインキュベートした。95℃で5分間の加熱工程、それに続く5分間4℃でのインキュベーションにより反応を中止した。次いで、XCR1コピー上の含有量について定量的PCRによりcDNAを分析し、β2ミクログロブリンを内部標準として使用した。マウスXCR1の増幅のため、400nM順方向プライマー
200nM逆方向プライマー
および150nMハイブリダイゼーションプローブ
を使用した。マウスβ2ミクログロブリンを、300nM順方向プライマー
300nM逆方向プライマー、
および150nMハイブリダイゼーションプローブ
を使用して増幅した。mRNA/cDNAコピー定量化のための標準物を作成するため、特異的XCR1遺伝子断片を増幅し、Zero Backgroundクローニングキット(Invitrogen,Groningen,The Netherlands)を使用してpZErOベクターへクローニングした。qPCRのため、20μl PCR反応において、プライマーを、ROXを含む10μlのABsolute QPCR Mix(ABgene,Epsom,UK)および10分の1のcDNAと混合した。ABI Prism 7000または7700 Sequence Detection Systems(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)で、95℃における15分間の初期酵素活性化、それに続く50サイクル(95℃15秒;60℃1分)により、PCRを実施し定量化した。定量化のため、標準曲線を作成するため、100〜108コピーの範囲のクローニングされた遺伝子断片のいくつかの希釈物をパラレルに実行した。結果は以下の表1に示される。
【0123】
(表1)mRNAコピー数の定量化
【0124】
実施例2:XCL1によるCD8+ DCの選択的活性化
実施例1に記載されたようなフローソーティングにより、>95%の純度で新鮮にソートされたCD8+ DCおよびCD8- DCに、2μM fura-2/AM(Molecular Probes,Brattleboro)を補足し、加湿雰囲気において、30分間、37℃および5%CO2で、ポリL-リジンコーティングされたカバーガラス上に沈着させた。付着細胞を、128mM NaCl、6mM KCl、1mM MgCl2、1mM CaCl2、5.5mMグルコース、10mM HEPES、0.2%(w/v)BSAを含有しているHEPES緩衝溶液で灌流し、倒立顕微鏡(Axiovert 100,Zeiss,Jena,Germany)のステージへマウントした。XCL1(100nM合成マウスXCL1(Dictagene,Lausanne,Switzerland))の適用の間、fura-2を、340nm、358nm、380nm、および480nmの単色光により連続的に励起し、蛍光放出を、冷却CCDカメラ(TILL-Photonics,Grafelfing,Germany)により512nmロングパスフィルターを通して検出した。CD8+ DCと結合したFITC標識抗体の弱い干渉シグナルを排除し、スペクトルアンミキシング(Lenz J.Cell Biol.2002,179:291-301)の後に[Ca2+]iを計算した。データは、三つの独立の実験において測定された45〜56個の単細胞(黒線)における細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を表す。太黒線:測定された全細胞で平均化された平均[Ca2+]iシグナル。結果は、XCL1が、CD8+ DCにおいて強いCa2+シグナルを誘導するが(図2A)、CD8- DCにおいては誘導しない(図2B)ことを証明している。従って、結果は、CD8+ DCを特異的に活性化するXCL1の能力を証明しており、従って、XCL1は、XCR1保持APCのためのアジュバントとして作用する。
【0125】
実施例3:XCL1は、CD8+ DCの走化性を誘導するが、CD8- DC、B細胞、T細胞、またはNK細胞の走化性は誘導しない
製造業者のプロトコル(Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,Germany)に従って、CD11cミクロビーズを使用して、磁気分離により、C57BL/6脾細胞から、CD11c+細胞を高度に濃縮した。CD11c+細胞(0.5〜1×106)を100μlの培地に懸濁させ、5μm孔ポリカーボネート膜を含有している6.5mmのTranswell Permeable Support(Corning Costar Co.,Acton,MA,USA)に移した。Transwell Permeable Supportを、化学合成XCL1/ATAC(Dictagene,Lausanne,Switzerland)の段階希釈物または500ng/ml CCL21(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21;R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)(後者は陽性対照として使用された)のいずれかを含有している600μlの培地が充填された24穴プレート(Corning Costar Co.(前記))に挿入し;全ての実験をデュプリケートで実施した。細胞を、細胞インキュベーター内で37℃で120〜150分間インキュベートした。膜の下側を軽く濯ぎ、下室内の細胞を、CD8(53-6.72-FITC;ATCC(前記))、CD11b(5C6-PE;ATCC(前記))、およびCD11c(N418-Cy5;ATCC(前記))の発現についてフローサイトメトリーにより分析した。各ウェルからの細胞懸濁物を明確な時間(5分)分析し、生細胞(DAPI陰性)の絶対数を決定した。下室内の細胞数を入力細胞数で割ることにより、遊走した細胞の割合[遊走細胞数/入力細胞数×100]を計算した。代表的な実験が図3に示される。XCL1に応答して、CD8+ DCは、特徴的な走化遊走の鐘形曲線を示し、1ng/mlの濃度では遊走せず、100ng/mlで最大遊走となり、1000ng/mlで減退応答が見られた。CD8- DCはXCL1に応答しなかったが、CCL21の存在下では遊走した。
【0126】
末梢リンパ節由来のDCを、組織のコラゲナーゼ消化により単離し、続いて、上記のようなCD11cミクロビーズによるポジティブ磁気ソーティングを行った。100ng/mlの濃度のXCL1および500ng/mlの濃度のCCL21を使用して、上記のように、Costar Transwell Chamberで、走化性アッセイを実施した。細胞をフローサイトメトリーにより分析し、遊走した細胞の割合を上記のように計算した。再び、CD8+ DCのみがXCL1に応答して遊走し、CD8- DCはCCL21にのみ応答した(図4)。
【0127】
その他の脾細胞集団の走化応答を調査するため、製造業者の指示に従い(実施例1も参照のこと)、C57BL/6脾細胞から、抗CD90コンジュゲートビーズを用いたポジティブ磁気選択によりT細胞を単離し、抗49bコンジュゲートビーズによりNK細胞を単離し、ビオチン化抗CD19抗体(クローン1D3)および抗ビオチンコンジュゲートビーズの組み合わせによりB細胞を単離した。XCL1/ATACの段階希釈物を使用して、上記のように、走化性アッセイを実施した。B細胞についての陽性対照は、200ng/mlのCXCL12(ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド12)、T細胞については100ng/mlのCCL21(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21)、NK細胞については200ng/mlのCXCL9(ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド9)(全て、R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)であった。B細胞、T細胞、またはNK細胞は、走化性を持ってXCL1/ATACに応答しなかったが、それぞれの陽性対照は、これらの細胞集団において、有意な細胞遊走を誘導した(図5)。これらの実験は、XCL1が、CD8+ DCにおいて走化性を誘導するが、CD8- DC、T細胞、B細胞、またはNK細胞においては誘導しないことを証明した。従って、これらの実験から、XCL1がXCR1保持APCのための特異的なアジュバントとして作用することが証明された。
【0128】
実施例4:XCL1により容易にされたCD8+樹状細胞への細胞/抗原取り込み
ATAC遺伝子のエキソン2および3を、逆方向ネオマイシン遺伝子と交換する、ターゲティングベクターを使用した相同組み換えによる、胚性幹細胞におけるマウスATAC遺伝子の破壊により、XCL1欠損マウス(「ATAC-KO」)を作成した(図6)。サザンブロッティングにより同定されたように、正確にターゲティングされた胚性幹細胞を、キメラマウスの作成のために使用した。変異対立遺伝子の生殖系列への伝達およびヘテロ接合性ATAC欠損マウスの同種間交配の後、ホモ接合性ATAC欠損マウスが、F2世代において予想されるメンデルの法則の頻度で誕生し、それらを10世代にわたりC57BL/6バックグラウンドへ戻し交配した。標準的な方法によりマウスXCL1(GenBank Acc.No.:NM_008510)の完全コーディング領域がクローニングされたBCMGSneoベクター(Karasuyama et al.,1989,J Exp Med 169,13-25)により、電気穿孔により、マウスプレB細胞系300-19(Alt et al.,1981,Cell 27,381-90)をトランスフェクトした。G418含有選択培地中でのサブクローニングの後、細胞内フローサイトメトリー(Dorner et al.,2002,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6181-86)により決定されるような、マウスXCL1/ATACを安定的に分泌する細胞系(muATAC/300-19と呼ばれる)が入手された。野生型300-19(「wt/300-19」)細胞およびmuATAC/300-19細胞を、37℃で10分間、10μM 5,6-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE,Molecular Probe)と共にインキュベートすることにより蛍光標識し、洗浄し、雌XCL1欠損C57BL/6(「ATAC-KO」)マウスに静脈内注射した(各10×106細胞);対照マウスにはPBSのみを注射した。12時間後、マウスを屠殺し、脾臓を摘出し、標準的な方法に従って脾細胞を単離した。脾細胞を、標準的な方法により、CD3、CD4、CD8、CD11b、CD11c、CD19、MHC II、およびNK1.1について染色し、データの評価のため、FlowJo(Tree Star Inc.,Ashland,OR,USA)を使用して、LSR II(BD Biosciences)フローサイトメーターでの分析(結果は図7に示される)により、CSFEシグナルを細胞表面マーカーと相関させた。結果は、既に、300-19野生型細胞が脾臓においてCD8+ DCにより取り込まれていることを証明した(図8A)。しかしながら、XCL1トランスフェクト300-19細胞(「muATAC/300-19」)は、明白に、より高度に取り込まれた(およそ50%の増加)(図8A)。これらの結果は、XCL1が、CD11c+CD8+ DCによる抗原取り込みを容易にすることを証明した。脾臓CD11c+CD8- DCによる細胞取り込みは観察されなかった(図8B)。
【0129】
実施例5:インビボの寛容または免疫の誘導の際のCD4+ T細胞によるATACの発現
5〜7×106個のKJ1-26+トランスジェニックDO11.10 CD4+ T細胞(Murphy et al.,1990,Science 250,1720-3)を含有している脾細胞を、同一遺伝子のBALB/cマウスに養子移入した 。これらのトランスジェニックDO11.10 CD4+ T細胞は、ニワトリオボアルブミン(OVA)ペプチド323-339
に特異的である。足蹠への100μg OVAまたは100μg OVA+アジュバントLPS(10μg)により、レシピエントマウスを免疫感作した。または、静脈内注射された2mg OVAにより、レシピエントマウスを免疫感作した。OVA特異的KJ1-26+CD4+ T細胞を、フローサイトメトリー細胞ソーティングにより、流入領域膝窩リンパ節(足蹠OVA注射の場合)または全末梢リンパ節(静脈内OVA注射の場合)から、14時間後、24時間後、または48時間後にレシピエントから回収した(純度>97%)。回収されたトランスジェニックT細胞から全RNAを単離し、カスタムTaqMan Low Density Array(Applied Biosystems)を使用した遺伝子発現分析に供した。入手されたデータは、表2にリストされる。
【0130】
14時間、24時間、および48時間の全ての実験セットアップにおいて、Ct値(定量的PCRを使用した場合に入手されるパラメーター)は、0時点対照と比較しておよそ5の値だけ増加した。この増加は、全ての実験条件における、トランスジェニックT細胞のインビボ活性化の際のXCL1 mRNA発現のおよそ30倍の増加を表す。これらのデータは、XCL1が、免疫原性条件下でも、寛容原性条件下でも、免疫系により発現され利用されることを示す。従って、これらのデータは、XCL1が、(「デンジャーシグナル」の存在下で)免疫/記憶を達成するためにも、または(「デンジャーシグナル」の非存在下で)寛容を達成するためにも、物質の送達のために使用され得ることを示す。
【0131】
(表2)
【0132】
実施例6:インビボのCD8+ DCと相互作用するCD8+ T細胞による、XCL1により媒介され改善された抗原認識
ATAC-KOマウス(実施例4を参照のこと)を、C57BL/6バックグラウンドへ10回戻し交配し、次いで、OT-Iトランスジェニックマウスへ戻し交配した(「OT-I ATAC-KO」)。OT-Iトランスジェニックマウスは、ニワトリオボアルブミン(OVA)(Hogquist et al.,1994,Cell 76,17-27)に由来するSIINFEKLペプチド(SEQ ID NO: 15)(オボアルブミンの8アミノ酸エピトープ)に特異的なトランスジェニックT細胞受容体を発現する。2×106個のOT-I T細胞を含有している全脾細胞を、静脈内(i.v.)注射により同一遺伝子C57BL/6レシピエントマウスへ養子移入した。平行して、2×106個のOT-I ATAC-KO T細胞を含有している全脾細胞を、同一遺伝子C57BL/6 ATAC-KOレシピエントマウスへ養子移入した。全ての場合に、雌のドナーマウスおよびレシピエントマウスを使用した。細胞移入の24時間後、以前に記載されたようにして(Bonifaz et al.,2002,J.Exp.Med.196,1627-38)、CD8+ DCへの抗原の優先的な送達を達成するため、抗DEC205抗体とコンジュゲートした100ngのOVA(「DEC-205-OVA」)により、レシピエントマウスをチャレンジした。
【0133】
製造業者のプロトコル(Pierce Chemical Co.)に従い、1mg 抗DEC-205 mAb NLDC-145(Georg Kraal,Amsterdamより入手された)を、2mg SMCCにより活性化されたOVAと共にインキュベートすることにより、DEC-205-OVAを作成した。コンジュゲートしていないOVAを除去するため、試薬のプロテインG沈殿を実施し、抗体1mg当たりのコンジュゲートしていないOVAの量を、クーマシー染色非還元SDSゲルを分析することにより慎重に決定した。DEC-205-OVAを200μlの容量でi.v.適用した;対照マウスはPBSを受容した。いくつかのマウスには、「デンジャーシグナル」の非存在下で寛容原性効果(Bonifaz et al.,2002,J.Exp.Med.196,1627-38)を有するDEC-205-OVA単独を注射した。他のマウスには、6μgの抗CD40抗体FGK(Ton Rolink,Baselより入手された)と組み合わせられたDEC-205-OVAを注射した(抗CD40 mAbがDCに「デンジャーシグナル」を提供する)(Bonifaz et al.,2002,J.Exp.Med.196,1627-38)。DEC-205-OVA注射の3日後、マウスを屠殺し、脾細胞を標準的な方法により、CD3、CD8、CD90.1、およびMHC II発現について染色し、OT-I CD8+ T細胞の存在を決定するため、FlowJoソフトウェアを使用して、LSR IIフローサイトメーターで分析した。さらに、屠殺されたマウスからの脾細胞を、5時間、5μg/mlブレフェルジンAの存在下で、50ng/mlのペプチドSIINFEKLと共にインビトロでインキュベートした。この期間の後、OT-I T細胞およびOT-I ATAC-KO T細胞を、標準的な方法に従い、細胞内フローサイトメトリーにより、IFN-γの分泌について分析した。結果は、XCL1の非存在下では、CD8+OT-I T細胞のCD8+ DCとの相互作用が、寛容原性条件下(抗CD40 mAbなし)または免疫原性条件下(抗CD40 mAbの添加)で、T細胞の活性化および拡大の低下をもたらすことを証明した(図9)。同時に、XCL1の欠如は、寛容原性条件下でも、免疫原性条件下でも、CD8+ T細胞のIFN-γ分泌エフェクターT細胞への分化の低下をもたらす(図10)。両結果は、CD8+ T細胞と相互作用するCD8+ DCに対するXCL1の活性化効果およびアジュバント効果を証明している。
【0134】
実施例7:ヒトXCR1(hXCR1)に対するモノクローナル抗体の作成
雌BALB/cマウスを、hXCR1の最初の31個のN末端アミノ酸を表すペプチド
により免疫感作した。ペプチドのN末端を、グルタルアルデヒドを使用して、キーホールリンペットヘモシアニンとカップリングさせた(31-N-hXCR1-KLH;P.Henklein,Charite,Berlinによる合成)。初回免疫感作を、完全フロイントアジュバント中の31-N-hXCR1-KLH(30μgの腹腔内適用および30μgの皮下適用)により実施した。3〜4週間の間隔の後、2回、不完全フロイントアジュバント中の50μg 31-N-hXCR1-KLHの腹腔内適用によりマウスを追加刺激した。2回目の追加刺激の6週間後、生理食塩水中のウシ血清アルブミン(31-N-hXCR1-BSA)と結合した31-N-hXCR1ペプチド(50μg)をマウスに静脈内注射した。3日後、モノクローナル抗体作成のための標準的なプロトコルに従い、マウスを屠殺し、脾細胞を骨髄腫系P3X63Ag8.653と融合させた。ハイブリドーマ上清のスクリーニングを、標準的なELISAアッセイにおいて、96穴プレートに吸着したカップリングしていない31-N-hXCR1ペプチドを使用して実施した。一つのハイブリドーマ(6F8)が、ELISAアッセイにおいて、強く一貫したシグナルを与え;従って、そのハイブリドーマをサブクローニングし、6F6抗体をhXCR1のさらなる特徴決定のために使用した。この目的のため、3'末または5'末のいずれかでc-mycエピトープEQKLISEEDL(SEQ ID NO:19)によりタグ化されるような様式で、hXCR1/hATACR(GenBank Acc.No.:L36149)の全コーディング領域をベクターBCMGSneo(前記)にクローニングすることにより、いくつかのhXCR1トランスフェクタントを作成した。続いて、マウス骨髄腫系P3X63Ag8.653を、いずれかのバージョンのベクターにより電気穿孔によりトランスフェクトし、二つのトランスフェクトされた細胞系「5'c-myc/hATACR/P3X」および「3'c-myc/hATACR/P3X」を、G418含有選択培地にサブクローニングした後、確立した。Dr.Bernhard Moser(Bern,Switzerland)より入手されたhXCR1によりトランスフェクトされたマウス細胞系(「hATACR/300-19」)も、研究に含まれた。mAb 6F8の上清を、様々な細胞系からhXCR1タンパク質を免疫沈降させるために使用した(図11)。この目的のため、トランスフェクタント「5'c-myc/hATACR/P3X」、「3'c-myc/hATACR/P3X」、および「hATACR/300-19」、ならびにそれぞれの野生型系からの溶解物を、標準的な方法に従って、各々5〜10×106個の細胞から作成した(溶解緩衝液:50mMトリス/HCl(pH 8)、150mM NaCl、1mM EDTA、+1%(v/v)Nonident P-40、lmM PMSF、10μMロイペプチンA、lμMペプスタチン、10μg/mlアプロチニン)。これらの溶解物を、予備浄化の後、標準的な方法に従い、mAb 6F8上清(5〜10ml)と共にインキュベートし、プロテインGビーズにより免疫沈降させた。標準的な方法に従い、免疫沈降物をSDS緩衝液中で変性させ、還元12%SDSゲル上で分離し、Immobilon P膜(Millipore)にエレクトロブロットした。ブロットを、ブロッキング緩衝液で2500倍希釈されたポリクローナルウサギ抗hXCR1血清(標準的なプロトコルを使用して、hXCR1のN末端を表すペプチド
に対して作成された)により染色し、ビオチンとカップリングしたヤギ抗ウサギIgG(ブロッキング緩衝液で5000倍)、アビジン-アルカリホスファターゼ、およびWestern Light/CDP-Star検出系(Tropix)を使用して現像した。光シグナルの検出は、XOMatARフィルム(Kodak)により行った。ウサギ抗hXCR1血清は、11週間にわたり、完全フロイントアジュバント中の250μgの31-N-hXCR1ペプチドにより、3回、ウサギを免疫感作することにより作成された。
【0135】
実施例8:生物活性型の組換えマウスXCL1の作成
インビボで、ネイティブマウスXCL1は、N末端バリンを有するタンパク質をもたらす、シグナルペプチドのタンパク質分解除去により作成される(Dorner et al.,1997,J.Biol.Chem.272,8817-23)。N末端バリンから開始する対応する組換えマウスXCL1を作成するため、全長マウスATACのアミノ酸22〜114を、標準的なDNA組換え技術および発現ベクターpET SUMO(Invitrogen,Groningen,Netherlands)を使用して、ヒスチジンタグ化SUMOタンパク質のC末端と融合させた。融合タンパク質を、標準的なプロトコルを使用して大腸菌において発現させ、製造業者のプロトコルに従い、固定化金属アフィニティクロマトグラフィ(Ni-NTA Superflow,Qiagen,Hilden,Germany)により精製した。融合タンパク質の部位特異的な切断を、37℃で3時間、SUMOプロテアーゼ(Invitrogen)と共にインキュベートすることにより達成した。ヒスチジンタグ化SUMO融合部分を除去するため、2回目の固定化金属アフィニティクロマトグラフィ工程を実施した。このプロトコルを使用して、生物活性型の組換えマウスXCL1タンパク質が、高い収率および純度で作成された(図12)。
【0136】
実施例9:ATAC-KO OT-Iと比較して増強されたWT OT-Iによる細胞障害性
CD4、CD11b、CD11c、NK1.1、およびB220に対する抗体を使用した他の脾細胞集団の磁気枯渇により、OT-IマウスまたはATAC-KO OT-Iマウスの脾細胞から、OVAペプチドに特異的なトランスジェニックCD8+ T細胞を精製した。OT-I T細胞またはOT-I ATAC-KO T細胞(3×105個)を、それぞれ、同一遺伝子のC57BL/6またはATAC-KOマウスへ養子移入した。両方のマウス群を、OVAによりトランスフェクトされた3×106個の300-19細胞(「OVA/300-19」)により24時間後に免疫感作した。OVA/300-19細胞は、標準的な方法により、OVAの短縮されたコーディング領域(アミノ酸138-386に相当;GenBank Acc.No.:NM_205152)がクローニングされたBCMGSneoベクター(Karasuyama et al.,1989,J Exp Med 169,13-25)による野生型300-19細胞の電気穿孔により作成された。OVA/300-19細胞による免疫感作後6日目、以前に記載されたようにして(Romano et al.,2004,J.Immunol.172,6913-6921)、インビボ細胞障害性アッセイを実施した。簡単に説明すると、C57BL/6マウスの脾細胞を単離し、培地単独で、または10μMの特異的OVAペプチドSIINFEKLの存在下で、37℃で1時間、インキュベートした。洗浄後、ペプチドによりパルス処理された細胞を、10μM 5,6-カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CSFE,Molecular Probes,Oregon,USA)により標識し、パルス処理されていない細胞を1μM CSFEにより標識した。等量のCSFE-low脾細胞およびCSFE-high/SIINFEKL脾細胞(各10×106細胞)をOVA/300-19により免疫感作されたマウスに注射し、18時間後に、生存しているCSFE-low非細胞およびCSFE-high/SIINFEKL脾細胞の相対存在量を、フローサイトメトリーにより決定した。OVA特異的細胞障害性を、記載されたようにして(Hernandez et al.,2007,J.Immunol.178,2844-2852)、計算した。OVA/300-19細胞の注射は、OT-I T細胞の存在下で32±4%のOVA特異的細胞障害性を誘導したが、ATAC-KO OT-I T細胞の存在下では14±10%の細胞障害性しか誘導しなかった(図13)。野生型300-19細胞によるマウスの対照免疫感作は、移入されたOT-I T細胞による細胞障害性を誘導しなかった。この実験は、ATACがCD8+ T細胞細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することを証明している。
【0137】
実施例10:インビボのXCR1発現はDCの亜集団に限定されている
ATAC遺伝子がlacZレポーター遺伝子と交換された(「ノックイン」)B6.129P2-Xcr1tm1Dgen/Jマウス(Jackson Laboratory,Maine,USA)からの器官組織を、インサイチューβ-ガラクトシダーゼ活性について分析した。この目的のため、器官の切片を、4℃で4時間、PBS中の0.1%グルタルアルデヒドおよび4%パラホルムアルデヒドに浸漬し、4℃で一夜、10%ショ糖/PBS中でインキュベートし、急速凍結させた。組織の凍結切片を、RTで10分間、PBS中の0.1%グルタルアルデヒドおよび4%パラホルムアルデヒドで再固定し、冷PBS(pH 7.4)により5分間3回洗浄し、37℃で一夜、X-Gal染色溶液(Sanes et al.,1986,EMBO J.5,3133-3142)と共にインキュベートし、PBSで3回洗浄し、ニュートラルレッドにより対比染色した。
【0138】
lacZ(従って、XCR1遺伝子)の発現は、脾臓、胸腺、リンパ節、肺、肝臓、精巣、卵巣、胎盤、パイエル板、小腸、および大腸に観察された。脾臓において、入手されたシグナルは、CD8+ DCの分布パターンに相当した。その他の器官において、シグナルの(通常低い)量、形態学、および組織分布は、DCの亜集団に限定されたXCR1発現の概念と完全に適合性であった。
【0139】
実施例11:フローサイトメトリーにより分析されたマウス脾細胞におけるXCR1の発現
B6.129P2-Xcr1tm1Dgen/Jマウスからの脾細胞を、標準的な方法により単離し、CD3、CD4、CD8、CD19、CD11c、MHC II、およびNK.1.1について染色した。製造業者のプロトコルに従い、フルオレセインジ-β-D-ガラクトピラノシド(FDG,Invitrogen)によりアッセイされたlacZレポーター遺伝子の発現は、CD4-CD8- DCの7%〜10%、CD8+ DCの75%〜90%で検出されたが、CD4+ DCにおいては検出されなかった(図14)。他の全ての脾臓集団は陰性であった。これらの結果は、XCR1が、免疫系内で、脾臓においては主としてCD8細胞表面マーカーを保持しているDCの亜集団においてのみ発現されることを証明している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している送達システム、それをコードする一つまたは複数の核酸、核酸を含むベクター、送達システムまたは一つもしくは複数の核酸を含む医薬、およびXCL1またはその機能活性断片を含むアジュバントに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、多様な機序により、病原体および腫瘍細胞から身体を保護する。適切に機能するために、それは「自己」と「外来」(病原体/腫瘍)とを識別しなければならない。それは、細菌、ウイルス、寄生虫、真菌、および毒素を含む多様な病原体を検出し、それらと戦う。ヒトのような脊椎動物の免疫系は、動的ネットワークにおいて相互作用する多くの型のタンパク質、細胞、組織、および器官からなる。この複雑な免疫応答の一部として、脊椎動物の免疫系は、特定の病原体をより効率的に認識するため次第に順応する。順応過程は、免疫学的記憶を作出し、これらの病原体と将来遭遇した際のより効率的な保護を可能にする。予防接種は、この獲得免疫の過程に基づく。
【0003】
免疫系の障害は、疾患を引き起こす場合がある。免疫系の活性が正常未満である場合には、免疫不全症が起こり、再発性の生命に関わる感染をもたらす。対照的に、自己免疫疾患は、正常組織をあたかも外来生物であるかのように攻撃する機能亢進性の免疫系に起因する。一般的な自己免疫疾患には、慢性関節リウマチ、1型糖尿病、多発性硬化症、およびエリテマトーデスが含まれる。
【0004】
樹状細胞(DC)は、免疫系の一部を形成する。それらの主要な機能は、抗原材料をプロセシングし、表面上で免疫系の他の細胞にそれを提示し、従って、抗原提示細胞として機能することである。
【0005】
Tヘルパー細胞(エフェクターT細胞またはTh細胞としても公知)も、免疫系の能力の確立および最大化において基本的な役割を果たすという点で、免疫系の重要なメンバーである。Th細胞は、他の免疫細胞の活性化および指図に関与し、免疫系において特に重要である。それらは、B細胞抗体クラススイッチの決定、細胞障害性T細胞の活性化および増殖、ならびにマクロファージのような食細胞の殺菌活性の最大化において不可欠である。Tヘルパー細胞がそのように名付けられているのは、この機能の多様性、および他の細胞への影響における役割のためである。エフェクターT細胞へと発達する増殖性ヘルパーT細胞は、Th1細胞およびTh2細胞(それぞれ1型および2型ヘルパーT細胞としても公知)として公知の二つの主要な細胞のサブタイプへと分化し、Th2細胞は、主として、体液性免疫系(B細胞の増殖への刺激、B細胞抗体クラススイッチの誘導、および抗体産生の増加)を促進し、Th1細胞は、主として、細胞性免疫系(マクロファージの死滅効力の最大化および細胞障害性CD8+ T細胞の増殖)を促進する。侵入する病原体の性質に依って、免疫系はTh1またはTh2の免疫応答を発達させる。Th1免疫応答の場合には、CD8+ T細胞が、細胞障害性T細胞への分化の強い傾向を示す。同時に、Th1免疫応答のCD8+およびCD4+ヘルパーT細胞は、いずれも、大量のIFN-γ(およびその他のTh1サイトカイン/ケモカイン)を分泌し、マウスにおいては主にIgG2aおよびIgG2bアイソタイプの、ヒトにおいては主にIgGアイソタイプの抗体の生成を誘発する。Th1免疫応答は、ウイルスおよび(細胞内)細菌から身体を防御するために特に効率的である。Th2免疫応答の場合には、ヘルパーT細胞がもう一つのパターンのサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13、およびその他)を生成する。このサイトカインのパターンは、とりわけ、マウスにおいてはB細胞および形質細胞によるIgG1/IgE応答、ヒトにおいてはIgE応答を促進する。この型の応答は、寄生虫感染に対して特に効率的である。
【0006】
生の、弱毒化された、または不活化された病原体成分に向けられた現在入手可能なワクチンおよびアジュバント系は、主として、抗体免疫応答を誘発し、効率的なTh1細胞障害性応答は誘発しない(Steinman et al.,2007,Nature 449,419-26(非特許文献1))。誘導された抗体は、病原体の成分に結合することにより、それを生物学的に不活化する(「中和抗体」)。しかしながら、中和抗体が疾患の保護または疾患の管理のためには十分でなく、現在のワクチン技術が有効でない疾患が、多数存在する。これらは、感染の封じ込めおよび/または根絶のために効率的なTh1免疫応答を必要とするかもしれない疾患である。例は、結核、マラリア、リーシュマニア、プリオン病、オルソミクソウイルス、特にインフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびその他のレンチウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、特にC型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、パラミクソウイルス、多様な呼吸器ウイルス、ならびに封じ込めおよび根絶のために効率的なTh1免疫応答、特にTh1細胞障害性応答を必要とするその他のウイルスである。従って、そのような効率的なTh1応答を誘導する予防接種方法論の開発は、大いに望ましい。さらに、Th1優位へのTh1/Th2不均衡は、多発性硬化症または慢性関節リウマチのような自己免疫疾患の発症において有意な役割を果たすと考えられている。従って、Th1応答の調節は、自己免疫疾患の防止および処置における有望な標的である。さらに、樹状細胞は最も高い頻度で感染の過程で直接感染されないため、Th1応答、および「交差提示」(下記参照)の機序を標的とすることは、ウイルス性、細菌性、寄生虫性、および真菌性の病原体に対するTh1免疫応答の誘導のために最も重要である。Th1免疫応答の発達なしには、多くのウイルス、細菌、寄生虫、または真菌の感染は、ヒト身体において封じ込めまたは根絶され得ない。さらに、臓器移植においても、宿主のTh1免疫系による移植された組織の破壊を妨害し、レシピエントの免疫系をドナーの細胞成分(抗原)に対して寛容にする必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Steinman et al.,2007,Nature 449,419-26
【発明の概要】
【0008】
驚くべきことに、Th1応答において主要な役割を果たす細胞を、選択的に標的とすることができることが見出された。ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)が、プロフェショナル抗原提示細胞、特に、樹状細胞(DC)の表面上に存在し、それが、これらの細胞へ選択的に物質を送達するために使用され得ることが見出された。XCR1保持DCへの物質のターゲティングされた送達は、初めて、哺乳動物/ヒトにおける強力なTh1免疫反応の誘導を可能にするものである。現在のワクチンは、主として、Th2抗原提示経路に向けられており、主としてTh2型の(中和)抗体および免疫反応の生成をもたらす。特に、XCR1保持DCへのターゲティングを通して、Th1型の体液性および細胞性(細胞障害性)の免疫反応を、所定の免疫原に対して誘発することができる。NK細胞、CD8+ T細胞、およびTh1CD4+ T細胞が、この反応に関与すると予想され得るが、その他のCD4+ T細胞も、この型の反応に寄与するかもしれない。単独の、または免疫原もしくは何らかの薬学的化合物と組み合わせられたアジュバントが、XCR1保持抗原提示細胞(APC)へと選択的にターゲティングされ得るのは、初めてである。
【0009】
上に詳述されたように、発達中の免疫系は、「自己」と「外来」とを識別しなければならず、これは、樹状細胞(DC)が自己抗原を発達中の胸腺細胞に提示することにより「中枢性寛容」を誘導する、胸腺において主として起こる。そのような自己抗原は、DCにより発現される内因性タンパク質、および胸腺上皮細胞により異所的に発現される組織特異抗原である。胸腺DCは、外因性抗原をMHCクラスII分子に提示し、MHCクラスI分子に「交差提示」(下記参照)することができるため、胸腺DCは、CD4+胸腺細胞およびCD8+胸腺細胞の両方の負の選択を媒介することが可能である。この課題は、末梢組織から胸腺に入ってくるDCにより支援されるかもしれない。この胸腺選択の過程にも関わらず、自己反応性T細胞が、胸腺選択を回避し、末梢に入ることがあり、これらは、脾臓およびその他のリンパ組織において主としてDCにより誘発される末梢性寛容の機序によって抑制されなければならない。
【0010】
末梢において、免疫系は、一方の無害の外来抗原または自己抗原と、他方の危険な(ウイルス性、細菌性、真菌性、寄生虫性、毒素様)抗原とを識別しなければならない。抗原はDCにより取り込まれ、ペプチドへと分解(「プロセシング」)される。その結果生じたペプチドは、MHCクラスIまたはMHCクラスIIの環境でTリンパ球(T細胞)に「提示」される。T細胞のCD4+サブセットは、MHCクラスIIの環境で抗原を認識し、T細胞のCD8+サブセットは、MHCクラスIの環境で抗原を認識する。抗原の取り込みと同時に、DCは、「デンジャーシグナル」認識受容体(例えば、toll様受容体、NOD様受容体)の大きいセットを通して、抗原が危険な性質のものであるか、または無害であるかを感知することができる。「デンジャーシグナル」認識受容体(「パターン認識受容体」とも呼ばれる)により認識されるパターンは、通常、微生物に特有の分子構造である。これらは、微生物の場合、細胞壁成分(例えば、リポ多糖類、ペプチドグリカン)または核酸修飾(例えば、非メチル化CpGモチーフ)、またはウイルスDNAもしくはウイルスRNAに特有の構造的な特色および修飾(例えば、二本鎖RNA)であり得る。体内のアポトーシスにより死滅しつつある細胞も、「デンジャーシグナル」認識受容体を誘発することができる分子(例えば、高移動度タンパク質(High Mobility Group Protein)B1、熱ショックタンパク質)を放出する。
【0011】
無害な(自己)抗原の場合には、DCは「成熟」せず、代わりに「未熟」状態のまま留まる。抗原が「未熟APC」により、CD4+およびCD8+ T細胞に提示された場合には、T細胞が活性化され、広範囲に増殖するが、プログラムされた限られた寿命のため、数日以内に死滅する。無害な(自己)抗原を認識するその他のT細胞は、多様な機序(例えば、TGF-β、CTLA-4、IL-10)を使用して、同一抗原への反復的な曝露により、免疫応答を抑制することができる「調節性T細胞」へと分化する。T細胞の死滅および/またはT調節性応答の結果として、免疫系は、所定の無害な(自己)抗原に対する「末梢性寛容」(非応答性)を発達させる。寛容を誘導する抗原は「寛容原性」である。
【0012】
危険な抗原の場合には、DCは、異なる応答プログラムを活性化する(「成熟」)。抗原がCD4+およびCD8+ T細胞に提示され、それらは、同時に、抗原の危険な性質を示す付加的なシグナルをDCから受容する。その結果として、両方のT細胞サブセットが、活性化され、延長された寿命により広範囲に拡大し、「エフェクターT細胞」へと発達する。これらは、その他のDCまたはB細胞または免疫系のその他の細胞に「ヘルプ」を提供するCD4+ T細胞であり得、またはCD4+細胞障害性細胞である場合すらある。CD8+ T細胞サブセット内でも、やはりTヘルパー細胞が発達するが、CD8+ T細胞の大部分は、IFN-γおよびその他の可溶性因子の分泌を通して、または感染した体細胞の死滅を通して、侵入してくる病原体を排除することができるエフェクター細胞になる。T細胞のB細胞へのヘルプの結果として、抗原特異的B細胞は、抗原(病原体)に対する抗体を分泌する形質細胞へと分化する。これらの抗体は、多数の機序(例えば、中和、改善された抗原取り込み、オプソニン作用、補体結合)を通して、病原体との戦いを助ける。
【0013】
ある程度の数のエフェクターCD4+およびCD8+ T細胞は、病原体に対する免疫応答の急性期を生き延び、長命の「記憶T細胞」になる。記憶T細胞および長命形質細胞は、同一病原体(抗原)への再曝露の際に、極めて迅速な免疫応答を編成し、免疫系が病原体(抗原)を極めて効率的に排除することを可能にする。同一病原体への再曝露の際のT細胞およびB細胞の免疫応答のこの増強された能力は、「免疫」と呼ばれ、免疫を誘導する抗原は「免疫原性」である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
プロフェショナル抗原提示細胞、特に、樹状細胞の表面上のケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)の存在、および免疫系におけるそれらの役割に関する上記の所見に従い、本発明の第一の局面は、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している送達システムに関する。この送達システムは、
(i)ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)に結合する分子、および
(ii)該分子と結合した、送達される物質
を含む。
【0015】
送達システムは、免疫系においてTh1応答に影響を及ぼし、任意で、Th2応答にも影響を及ぼすために特に適している。
【0016】
XCR1は、ケモカイン受容体であり、現在のところ、ケモカイン受容体の「C」サブファミリーの唯一のメンバーである。それはGPR5またはCCXCR1としても公知である。オーファンGタンパク質共役型受容体として以前にクローニングされたGPR5は、最初にヒトにおいて、次いでマウスにおいて、XCL1(下記参照)の単一特異的受容体として認識され、従って、XCR1と呼ばれた。一次組織におけるXCR1の発現は、多様な方法により、胸腺、脾臓、胎盤、肺、リンパ節、扁桃腺、クローン病における固有層、およびヒトメラノサイト性病変において報告されたが、XCR1を発現する細胞型に関する情報は提供されていない。より特異的な分析は、脾臓のCD8+細胞およびNK1.1+CD3-細胞、NKおよびT細胞系、CD3+T細胞、T細胞、B細胞、および好中球、T細胞系ジャーカット(Jurkat)、ヒト繊維芽細胞系、初代繊維芽細胞様滑膜細胞、炎症関節における滑膜細胞および単核細胞、マウスCD8+ T細胞、およびヒト好中球、B細胞、T細胞、NK細胞、および単球におけるXCR1の発現を主張した。XCR1の細胞型特異的な発現に関する後者の報告は、全て、全RNAのPCR分析を利用しており、使用されたプライマーは、XCR1エキソン2のみに特異的であり、従って、エキソン-イントロン境界に及ばなかった。いずれの戦略も、方法論的なエラーを起こしやすい(下記参照)。
【0017】
XCR1の天然のリガンドは、ATAC、リンホタクチン、またはSCM-1としても公知であるXCL1である。それは、ケモカインのCファミリーの唯一のメンバーである。活性化により誘導されT細胞に由来しケモカインに関連するサイトカイン(Activation-induced,T cell-derived,and chemokine-related cytokine/ATAC)は、ヒトにおいてクローニングされ(Muller et al.,1995,Eur.J.Immunol.25,1744-48)、独立に、マウスにおいてリンホタクチン(Kelner et al.,1994,Science 266,1395-99)、ヒトにおいてSCM-1(Yoshida et al.,1995,FEBS Lett.360,155-9)としてクローニングされた。ケモカインの命名法により、ATAC/リンホタクチン/SCM-1は、現在、「XCL1」と名付けられている。XCL1は、主として、活性化されたCD8+ T細胞、Th1 CD4+ T細胞、およびNK細胞により分泌される。ヒトにおいて、全長タンパク質の28位および29位のアミノ酸アスパラギン酸およびリジンが、それぞれヒスチジンおよびアルギニンに交換された、XCL2と名付けられたXCL1のバリアントが、記載されており(Yoshida et al.,1996,FEBS Lett.395,82-8)、それも、本発明のために使用され得る。生物活性型のXCL1を作製するための例示的な方法は、実施例8に記載される。その他の生物活性型のXCL1、例えば、他の種のものを作製するためにも、類似した方法が使用され得る。
【0018】
最初、XCL1/リンホタクチン/ATACは、多様な不明確な胸腺および脾臓の集団において、(せいぜい)弱い走化性を誘導することが報告されたが(Kelner et al.,1994,Science 266,1395-99)、これらの観察は、他の者により再現され得なかった(Muller et al.,1995,Eur.J.Immunol.25,1744-8;Bleul et al.,1996,J.Exp.Med.184,1101-9)。その後、T細胞に対するXCL1の走化効果に関するより具体的な報告(Kennedy et al.1995,J.Immunol.155,203-9)も、他の者により再現され得なかった(Muller et al.,1995,Eur.J.Immunol.25,1744-8、Dorner et al.,1997,J.Biol.Chem.272,8817-23)。NK細胞、NKT細胞、B細胞、好中球、および単球に対するXCL1により誘導される走化性は、せいぜい、議論の余地があるままであった。ヒト単球由来DC(Sozzani et al.,1997,J.Immunol.159,1993-2000、Lin et al.,1998,Eur.J.Immunol.28,4114-4122)およびマウスDC細胞系(Foti et al.,1999,Intern.Immunol.11,979-86)に対する走化性は、特に、除外された。
【0019】
過去に、マウスにおけるATACの詳細な発現分析に基づき、XCL1(ATAC)が、T細胞およびNK細胞において、IFN-γ、MIP-1α、MIP-1β、およびRANTESと同時分泌されることが証明され得た。この観察とは別に、免疫系におけるXCL1-XCR1ケモカイン-ケモカイン受容体系の生物学的機能は、不明で、議論の余地があるままであった。
【0020】
本発明において、マウスにおいて、CD8+陽性DCが、リンパ系における唯一のXCR1発現抗原提示細胞集団であるらしいことが見出された(実施例1を参照のこと)。XCR1のmRNAを発現する集団を同定するため、本発明者らは、まず、脾細胞集団全体から全RNAを単離し、RNAのcDNAへの逆転写の後に定量的PCR(qPCR)を実施した。次の工程において、本発明者らは、B細胞、T細胞、NK細胞、または顆粒球、マクロファージを単離し、全RNAを入手し、定量的PCRを実施した。全ての場合において、本発明者らは、有意なシグナルを入手した。しかしながら、本発明者らは、全RNAをqPCRへ供する前にcDNAへ逆転写しない場合にも、定量的に類似したシグナルを入手した。その時点では、マウスXCR1遺伝子の第2エキソンが唯一の存在するエキソンと見なされており、従って、本発明者らのPCR系は、(文献中のXCR1発現に関する全ての公開されたPCR結果と同様に)この一つのエキソンにのみかかるプライマーを利用した。本発明者らの実験結果の徹底的な分析は、全RNAを用いて入手されたPCRシグナルが、典型的に全RNA調製物に混入するゲノムDNAに起因する偽陽性シグナルであるかもしれないことを示唆した。そのような実験エラーの可能性を排除するため、本発明者らは、代りに、下記のように、脾臓集団全体から、そしてB細胞、T細胞、NK細胞、または顆粒球から、全RNAではなくmRNAを単離した。全RNAで入手された結果とは全く対照的に、本発明者らは、全脾細胞によりXCR1メッセージの(低い)qPCRシグナルを入手したが、単離されたB細胞、T細胞、NK細胞、顆粒球、またはマクロファージではシグナルを入手しなかった(図1および表1)。qPCRシグナルがCD11c+脾細胞に関連していることをその後の実験が示した後、本発明者らは、フローサイトメトリーにより脾臓のCD11c+CD8- DCおよびCD11c+CD8+ DCを高度に精製し(純度>95%)、これらの集団からmRNAを入手し、このmRNAをqPCRに供した。この実験において入手されたデータは、XCR1 mRNAのほぼ全シグナルがCD11c+CD8+ DC集団にあり(図1)、CD11c+CD8- DCには(CD11c+CD8+ DCの混入に起因する可能性が最も高い)小さなシグナルのみがあることを、明白に証明した。同時に、CD11c+細胞を全脾細胞から枯渇させた時、qPCRシグナルは、CD11c+細胞の枯渇の程度に対して直線的に消失した。
【0021】
総合すると、T細胞、B細胞、NK細胞、好中球、および単球(上記参照)におけるXCR1の発現に関する文献の報告は、(少量のゲノムDNAを含有している)全RNAに対して実施された単一エキソンPCRにより入手されたため、誤っていることを、本発明者らの結果は明白に証明した。さらに、本発明者らのデータは、XCR1 mRNAがCD11c+CD8+ DCに存在することを明白に証明した。従って、本発明者らは、特異的かつ排他的にXCR1 mRNAを発現する免疫系内の細胞集団CD11c+CD8+ DCを初めて同定することができた。哺乳動物/ヒトの身体のその他の器官にも、XCR1受容体を発現するその他のAPC集団が存在し得ると想定することができる。これらのAPCは、CD8細胞表面マーカーを発現しないかもしれない。これらのAPCは、多様な細胞表面マーカーに基づき、高純度に細胞を分取し、それらを哺乳動物/ヒトXCR1についてのqPCRに供することにより、容易に同定され得る。
【0022】
機能的レベルでは、本発明者らは、XCL1が、CD8- DCではなくCD8+ DCを選択的に活性化することを見出した。CD8+ DCおよびCD8- DCを高純度(>95%)にフローソートした。次いで、それらを100nMの合成マウスXCL1に曝し、DC細胞の活性化を細胞内Ca2+レベルの増加として測定した。入手された結果(実施例2を参照のこと)は、CD8+ DCのみがカルシウムシグナルおよび活性化を持ってマウスXCL1に応答し(図2A)、CD8- DCは応答しない(図2B)ことを証明した。これらの結果は、CD8+ DCの表面上の機能性XCR1受容体の存在を示す。さらに、データは、CD8+ DCまたは任意のXCR1陽性細胞が、XCL1への曝露を通して活性化され得ることを証明している。従って、これらの結果は、XCL1が、活性化状態およびNK細胞またはT細胞への抗原提示能力を改善することにより、XCR1保持哺乳動物/ヒトAPCのためのアジュバントとして使用され得ることを示す。結果は、XCR1との特異的な結合を通して、抗原、アジュバント、またはその他の任意の化合物を、排他的にXCR1発現DCに送達するため、XCL1が使用され得ることをさらに暗示している。
【0023】
さらに、本発明者らは、XCL1が、CD8+ DCにおいて走化性を誘導し、CD8- DC、B細胞、T細胞、またはNK細胞においては誘導しないことを示すことができた(実施例3を参照のこと)。CD11c+細胞を、磁気分離によりマウス脾細胞集団から高度に濃縮した。そのような集団をトランスウェル遊走チャンバー系の上室へ適用した時、DC集団は、マウス脾臓におけるこれらDCの天然相対頻度を反映して、約25%のCD8+ DCおよび70%のCD8- DCからなっていた。ケモカインを添加しない場合には、2時間以内にDCの極めて低い非特異的なバックグラウンド遊走のみが観察され得た(図3)。下室にマウスXCL1(1、100、または1000ng/ml)を添加すると、上室から下室への細胞遊走が用量依存的に観察され得、100ng/mlのXCL1で、入力CD8+ DCの30%超が下室へ遊走した。XCL1へと遊走した細胞はCD8+ DCのみであり、CD8- DCは、ケモカインがない場合と同一の非特異的なバックグラウンド遊走のみを示した。陽性対照として使用されたケモカインCCL21の下室への添加は、予想通り、CD8+ DCおよびCD8- DCの両方に対する走化効果を示した。トランスウェル系の上室および下室の両方へのXCL1の添加は、移動を誘発せず、このことから、XCL1がケモキネシス誘導剤であるのみならず、真の化学誘引物質であることが証明された。末梢リンパ節から高度に濃縮されたCD11c+細胞で実施された類似の実験は、XCL1がCD8+ DCに対してのみ走化性であり、CD8- DCに対しては走化性でないことを再び証明した(図4)。高度に濃縮されたB細胞、T細胞、またはNK細胞で実施された類似の実験は、XCL1への特異的な走化性を証明し得なかった(図5)。これらの実験は、XCL1が、XCR1発現CD8+ DCに特異的に作用し、その他のDC集団には作用しないケモカインであることを初めて証明した。これらの結果から、XCL1が、哺乳動物/ヒトXCR1発現APCに対するケモカインとして作用することが予想され得る。結果は、XCL1が、その化学誘引作用を通してXCR1発現APCのためのアジュバントとして使用され得ることを証明している。さらに、XCL1(ATAC)が、CD8+ T細胞の細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することを示すことができた(実施例9を参照のこと)。結果は、XCL1が、XCR1との特異的な結合を通して、抗原、アジュバント、またはその他の任意の化合物を、XCR1発現DCへ排他的に送達するために使用され得ることをさらに暗示している。
【0024】
さらに、XCL1は、CD8+ DC樹状細胞への細胞取り込みを容易にする(実施例4を参照のこと)。マウスプレB細胞系300-19を、マウスATACをコードするベクターによりトランスフェクトし、ATAC発現トランスフェクタント「muATAC/300-19」を得た。ATAC KOマウスに、10×106個のフルオレセイン標識野生型「wt/300-19」細胞を注射すると、12時間後に、脾臓CD8+ DCのおよそ10%に蛍光シグナルが検出され得たが、CD8- DCにはシグナルは観察されなかった。同数のフルオレセイン標識muATAC/300-19細胞を注射した場合、12時間後に回収されたシグナルは、wt/300-19の注射と比較して、CD8+ DCにおいて一定に有意に高かった(図7および8)。この場合にも、CD8- DCにはシグナルは観察されなかった。これらの結果は、CD8+ DCが、同種異系細胞を優先的に取り込むことを示している。さらに、結果は、XCL1が、XCR1保持APCへの同種異系細胞の取り込みを実質的に改善することを証明している。これらの結果から、XCL1は、XCL1で装飾された(即ち、外表面にXCL1分子を保持している)哺乳動物/ヒト同一遺伝子細胞(生または死)の、XCR1発現哺乳動物/ヒトAPCへの特異的な取り込みも容易にすることが予想され得る。これらの結果から、XCL1が、任意の生材料もしくは死材料をXCR1保持APCへ特異的にターゲティングし得るか、または少なくともXCR1保持APCへの取り込みを改善し得ことも予想され得る。
【0025】
本発明の概念を、インビボの寛容または免疫の誘導の際のXCL1利用を示すことにより、確認することができた(実施例5を参照のこと)。XCL1-XCR1系が免疫または寛容の誘導の際にインビボで利用されるか否かを決定するため、本発明者らは、トランスジェニックDO11.10 CD4+ T細胞を同一遺伝子BALB/cマウスへ移入する、よく確立されている養子移入系を使用した。これらのトランスジェニックT細胞は、ニワトリオボアルブミン(OVA)由来のペプチドを抗原として認識する。レシピエントマウスを、100μg OVAの足蹠への注射(寛容原性刺激)、100μg OVA+10μg LPSの足蹠への注射(強力な免疫原性刺激、LPSが「デンジャーシグナル」を提供するため)、または2mg OVAの静脈内注射(強力な寛容原性刺激)によりチャレンジした。この系において、DO11.10トランスジェニックT細胞は、抗原を認識し、活性化され、拡大する。寛容原性条件下では、トランスジェニックT細胞は限られた寿命を有し、死滅するが、免疫原性条件下では、トランスジェニックT細胞は有意な程度に記憶T細胞へと発達する。注射されたトランスジェニックT細胞を、14時間後、24時間後、および48時間後に、レシピエントマウスの流入領域リンパ組織から回収し、マウスXCL1 mRNAの発現分析に供したところ、全ての状況において、XCL1の発現が、OVA注射により極めて強力に同様に(およそ30倍)アップレギュレートされたことが明白になった(表2)。これらのデータは、XCL1がCD4+ T細胞において高度に発現され得ることを証明した。それらは、さらに、XCL1-XCR1機能軸が、強力な免疫原性条件および強力な寛容原性条件の両方で利用されることを示した。これらのデータは、XCL1によるXCR1保持APCへの抗原のターゲティングが、哺乳動物/ヒト宿主において、強い免疫(抗原をアジュバント/「デンジャーシグナル」と共にターゲティングした場合)を誘導するか、または強い寛容(アジュバントなしに抗原をターゲティングした場合)を誘導するための合理的な方法であることを暗示している。
【0026】
さらなる実験において、本発明者らは、インビボのCD8+ DCと相互作用するCD8+ T細胞による、XCL1により媒介された改善された抗原認識を示すことができた(実施例6を参照のこと)。XCL1のアジュバント効果をインビボで試験するため、本発明者らは、C57BL/6 ATAC-KOマウスをOT-Iトランスジェニックマウスに戻し交配し、OT-I ATAC-KOマウスを得た。OT-IトランスジェニックCD8+ T細胞は、OVAペプチドSIINFEKL(SEQ ID NO:15)を抗原として認識する。OT-IまたはOT-I ATAC-KOのトランスジェニックT細胞を、同一遺伝子のATAC-KO CD57BL/6動物へ養子移入した。24時間後、全てのレシピエントマウスを、抗DEC-205抗体とカップリングしたOVA(「DEC-205-OVA」)の静脈注射により免疫感作した。選ばれた条件の下で、抗原は、脾臓においてCD8+ DCにより優先的に取り込まれ、CD8+ T細胞に優先的に交差提示される。いくつかのマウスは、DEC-205-OVAと共に、DCに「デンジャーシグナル」を提供する抗CD40抗体の注射を受容した。抗原注射後3日目、トランスジェニックT細胞の頻度を脾臓において決定した(図9)。寛容原性条件下(「デンジャーシグナル」なしのDEC-205-OVAによる免疫感作)でも、免疫原性条件下(CD40により媒介される「デンジャーシグナル」を伴うDEC-205-OVAによる免疫感作)でも、XLC1/ATACを分泌するOT-I T細胞の能力は、抗原曝露後3日目、トランスジェニックT細胞の数を極めて有意に増加させた(図9)。さらに、XLC1/ATACを分泌するOT-I T細胞の能力は、サイトカインIFN-γを生成するOT-I T細胞の能力を、極めて有意に増加させた(図10)。XCL1の存在下での細胞数の増加およびIFN-γ産生の増加は、いずれも、抗原認識の際のCD8+ DCのCD8+ T細胞との相互作用を改善するXCL1の能力の証拠として解釈され得る。これらのデータは、XCL1/XCR1軸が、寛容の誘導のため、または免疫の誘導のために免疫系により利用されていることを証明している。さらに、これらのデータは、XCL1によるXCR1保持APCへの抗原のターゲティングが、哺乳動物/ヒト宿主において、強い免疫(アジュバント/「デンジャーシグナル」と共に抗原をターゲティングした場合)を誘導するか、または強い寛容(アジュバントなしに抗原をターゲティングした場合)を誘導するための合理的な方法であることを暗示する。そのような治療的条件の下で、抗原は、抗原または抗原+「デンジャーシグナル」をXCR1保持哺乳動物/ヒトAPCへ直接送達するため、XCL1または類似のベクター系を使用して送達されるであろう。
【0027】
さらに、本発明者らは、ヒトXCR1受容体に特異的なモノクローナル抗体を作成することができた(実施例7を参照のこと)。このため、BALB/cマウスを、hXCR1(hATACR)の最初の31個のN末端アミノ酸を表すペプチドで免疫感作し、脾細胞を骨髄腫系P3X63Ag8.653と融合させた。入手されたハイブリドーマを、ELISAアッセイにおいて、免疫感作ペプチドを特異的に認識する抗体の分泌についてスクリーニングした。ELISAにおいて特異反応パターンを与えたそのような一つの抗体6F8を、さらなる研究のために選んだ。抗体の特異性を、ヒトXCR1の全コーディング領域によりトランスフェクトされた三つの独立した細胞系からのXCR1の免疫沈降により試験した。モノクローナル抗体6F8は、三つ全てのトランスフェクタントからネイティブヒトXCR1受容体を免疫沈降させたが、それぞれの野生型系とは反応しなかった(図11)。これらの実験は、本発明者らが、ヒトXCR1に特異的なモノクローナル抗体を作成したことを決定した。
【0028】
最後に、本発明者らは、ATACが、CD8+ T細胞の細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することを示すことができた(実施例9を参照のこと)。
【0029】
本発明によると、送達される物質(物質(ii))は任意の適当な物質であり得る。例えば、物質は、タンパク質、(ポリ)ペプチド、または低分子であり得る。それは、天然に存在する物質もしくはその一部分であってもよいし、または合成化合物であってもよい。特に好ましいのは、免疫系に対する効果を有する物質である。
【0030】
一つの別法において、交差提示するXCR1発現APCの機能を修飾することが望ましいかもしれない。この修飾は、XCR1保持APCの代謝の活性化、抑制、またはその他の修飾(例えば、APCの成熟、または成熟の防止)をもたらし得る。これは、外来シグナルまたは自己免疫シグナルに対する防御を必要とする全ての条件、およびアルツハイマー病のようなその他の条件において望ましいかもしれない。そのような場合、修飾物質(ii)は、ターゲティング剤を使用して、XCR1保持APCへターゲティングされるであろう。ターゲティングされる薬学的化合物は、化学的化合物、薬物、タンパク質またはペプチド、脂質、炭水化物、天然のまたは修飾された(安定化された)DNAまたはRNA、siRNA、アンチセンス核酸、二重鎖DNA、一本鎖DNA、三重鎖、二重鎖、または一本鎖のRNAを含む任意の形態のRNA、アンチセンスRNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、単一ヌクレオチドまたはその誘導体であり得る(下記も参照のこと)。ターゲティングされる化合物は、上記のようなモジュレーティング特性を有するタンパク質またはペプチドをコードする発現ベクター系または操作されたウイルスであり得る。XCR1保持APCにおける特異的な発現を確実にするため、コードされたタンパク質またはペプチドは、XCR1プロモーターの制御の下で特異的に発現されることが望ましいかもしれない。
【0031】
もう一つの別法において、XCR1を発現するAPCを特異的に欠失させることが望ましいかもしれない。これは、直接または間接的にXCR1保持APCにおいて細胞死を誘導する化合物を、XCR1保持APCへターゲティングすることにより達成され得る。これは、アレルギー、自己免疫、および移植を含む全ての条件において望ましいかもしれない。そのような化合物の例は、細胞障害剤(例えば、メトトレキサート)、毒素(ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素)、アポトーシス誘導剤(例えば、カスパーゼ)、リボソーム不活化剤(例えば、リシン、サポニン、志賀毒素)、DNAまたはRNAの阻害剤(RNAまたはDNAを切断する薬剤)、またはタンパク質合成の阻害剤(アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA)、およびその他の細胞代謝の阻害剤である(下記も参照のこと)。タンパク質性細胞誘導剤は、所望のタンパク質の発現を制御するため、XCR1保持APCへ直接送達されてもよいし、または核酸に基づく発現ベクター系もしくは操作されたウイルスによって(いずれも、好ましくは、XCR1プロモーターを利用して)送達されてもよい。
【0032】
さらにもう一つの別法において、XCR1保持APCと相互作用する細胞の機能を修飾することが望ましいかもしれない。これは、分泌されるペプチドもしくはタンパク質(例えば、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、もしくはホルモン)の発現を通して、またはXCR1保持APCの表面上の受容体もしくはリガンド(例えば、CD95L、ICOS-L、CD86、もしくは他)の発現を通して達成され得る。この目的のためには、そのようなペプチドもしくはタンパク質をコードするDNAもしくはRNAもしくは発現ベクター系、またはそのようなペプチドもしくはタンパク質を発現するよう操作されたウイルスが、XCR1保持APCへターゲティングされるであろう。好ましくは、XCR1保持APCにおける特異的な発現を確実にするため、選ばれた発現系は、XCR1プロモーターにより駆動されるであろう。ペプチドまたはタンパク質は、XCR1保持APCへの核酸またはウイルスの内部移行の後、可溶型または膜貫通型のタンパク質として発現されることを可能にするため、シグナルペプチドを含有しているであろう。コードされた可溶型のタンパク質もしくはペプチド、または細胞表面の受容体もしくはリガンドは、CD4+ Th1細胞、CD8+ T細胞、NK細胞、またはその他のような、XCR1保持APCと相互作用する免疫細胞の表面上のパートナー分子と相互作用するよう設計されるであろう。このようにして、これらの相互作用細胞を活性化するか、それらの活性化を抑制するか、または(例えば、アポトーシスの誘導を通して)排除することすらできる。
【0033】
さらに、診断目的のため、XCR1保持APCを検出するために送達システムが使用されてもよい。このため、物質は、例えば、発色団、放射性リガンド等を含むマーカーのような任意の検出可能な化合物であり得る。
【0034】
さらに、例えば、インビトロでのさらなる医学的分析または操作(例えば、薬学的化合物の負荷)のため、XCR1保持APCの単離を可能にするため、物質を修飾することもできる。このため、物質は(蛍光)標識を包含するかもしれない。そのような標識には、磁気粒子による分離、フローソーティング等を可能にする、タグ(His、FLAG、STREP、もしくはc-myc)またはビオチン-アビジン系もしくはジゴキシゲニン-抗ジゴキシゲニン系の成分が含まれる。
【0035】
本発明の好ましい態様において、物質(ii)は、免疫原、アジュバント、薬物、または毒性薬剤である。
【0036】
免疫原とは、免疫応答を刺激する抗原である。抗原は、免疫系内で、T細胞上(T細胞受容体)およびB細胞上(B細胞受容体)の特異的な受容体により認識される物質であり、通常、タンパク質または多糖である。これには、細菌、ウイルス、およびその他の微生物の一部分(被膜、莢膜、細胞壁、鞭毛、線毛、および毒素)が含まれる。一般に、脂質および核酸は、タンパク質および多糖と組み合わせられた場合にのみ、抗原性である。非微生物性の外因性(非自己)抗原には、花粉、卵白、ならびに移植された組織および器官に由来する、または輸血された血球の表面上のタンパク質が含まれ得る。
【0037】
抗原は、内因性または外因性に分類され得る。内因性抗原とは、抗原提示細胞(APC)自体により合成されるタンパク質(「自己タンパク質」)であるか、またはAPCに感染/侵入したウイルス性、細菌性、真菌性、もしくは寄生虫性の病原体の成分であり得る。内因性抗原は、MHCクラスIおよびIIの環境で提示される。外因性抗原は、飲作用、食作用、または受容体により媒介されるエンドサイトーシスにより取り込まれる。このようにして、内部移行した抗原は、エンドソームのプロテアーゼに容易にアクセス可能となり、従って、MHCクラスII分子により提示され得る。
【0038】
さらに、いくつかの細胞は、MHCクラスI分子を介して外因性抗原を提示することができ、この過程は「交差提示」として公知である。DCは、インビボで抗原を交差提示することができる主要な細胞集団であり、このため、寛容誘導、ならびに抗ウイルス性、抗菌性、抗真菌性、および抗寄生虫性の免疫において中心的な役割を果たすことができるため、この経路は、DCに特に関連している。マウスリンパDCのうち、CD8+ DCは、死細胞の食作用において、従って、外因性細胞性抗原のMHCクラスII提示およびMHCクラスI交差提示において最も効率的なDCである。CD8+マウスDCは、外因性可溶性抗原、またはC型レクチン受容体により捕獲された抗原のための最も効率的な交差提示DCサブセットでもある。CD8分子の発現は交差提示の必要条件ではないことに注意すべきである。マウスおよびヒト両方の系に、CD8マーカーを保持しない、効率的に交差提示するXCR1保持DCが存在することが予想され得る。
【0039】
細胞外空間からDCにより取り込まれた大部分の可溶性抗原は、MHCクラスIIの環境で提示され、従って、CD4/Th2パターンの免疫応答(Th2 CD4 T細胞ヘルプの生成、Th2サイトカインの分泌、Th2パターン抗体の生成、細胞障害性応答はほとんどなし)を誘導する。(DCに感染した細菌、真菌、ウイルス、および寄生虫の成分を含む)細胞内抗原は、プロセシングされた後、MHCクラスIおよびMHCクラスIIの環境で提示され、従って、混合Th1/Th2応答を誘発する。交差提示された抗原は、MHCクラスIの環境で提示され、主にTh1応答(Th1 CD4 T細胞ヘルプの生成、Th1パターン抗体の産生、IFN-γおよびその他のTh1サイトカインの分泌、T細胞細胞障害性の発達)を誘発する。
【0040】
抗原は、抗原の取り込み、プロセシング、および提示に高度に専門化された細胞であるDCにより提示される。多数のDCのサブタイプが存在する。マウスにおける主要な集団は、形質細胞様DC、CD11c+CD8- DC(略して「CD8- DC」、CD4+ DCとも呼ばれる)、CD11c+CD8+ DC(略して「CD8+ DC」)、ランゲルハンス細胞、二重陰性(DN)DC、および間質DCである。抗原提示およびT細胞プライミングにおける形質細胞様DCの役割は不明であり、実際、DCとしてのその分類も不明である。リンパ器官に存在するDC(CD8- DC、CD8+ DC、およびDN DC)と、遊走性のDC(間質DCおよびランゲルハンス細胞)とが存在する(Villandagos et al.,2007,Nat.Rev.Immunol.7,543-55)。これらのDCは、全て、CD11c細胞表面分子を発現する。CD11c+CD8- DCは、全有核脾細胞の約1.6%を占め、CD11c+CD8+ DCは0.4%を占める。
【0041】
抗原の交差提示も、体内の腫瘍の根絶のために中心的に重要である。抗腫瘍免疫応答を誘発するためには、腫瘍細胞および腫瘍抗原がDCにより取り込まれ、プロセシングされ、提示されなければならない。大部分の腫瘍の排除は、効率的な細胞障害性Th1 T細胞応答を必要とするため、腫瘍抗原の交差提示は不可欠である。従って、交差提示DCは、効率的な抗腫瘍応答のため、顕著な役割を果たす。
【0042】
外来の細胞または器官がヒトレシピエントへ移植される場合、いくつかの細胞または細胞成分は、宿主のDCにより取り込まれ、プロセシングされ、宿主の免疫系へと提示される。これらの外来抗原の提示は、交差提示経路を通して起こると予想され得、外来組織に対する強いTh1免疫応答を誘発することが公知である。治療的な介入がなければ、宿主のTh1免疫系が、移植された組織を破壊するであろう(「移植片対宿主」(HVG)反応)。HVG反応を管理するための多数の治療計画が存在するが、それらはいずれも完全に有効ではなく、いずれもドナー組織成分に対する寛容を効率的に誘導しない。従って、レシピエントの免疫系を、ドナーの細胞成分(抗原)に対して寛容にする必要が存在する。
【0043】
アジュバントとは、他の薬剤の効果を修飾するが、単独で与えられた場合には直接の効果を有していたとしてもほとんど有していない薬剤である。薬理学において、アジュバントとは、単独では薬理学的効果をほとんどまたは全く有しないが、同時に与えられた場合に他の薬物の有効性または効力を増加させる薬物である。免疫学において、アジュバントとは、それ自体は特別な抗原効果を有しないが、免疫系を刺激し、ワクチンに対する応答を増加させる薬剤である。アルミニウム塩であるリン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムは、ヒトワクチンにおける二つの最も一般的なアジュバントである。スクアレンもいくつかのヒトワクチンで使用されており、さらなるスクアレンアジュバントおよびリン酸アジュバントを含むワクチンが、ヒトで試験されている。油アジュバントは動物ワクチンにおいて使用される。もう一つの市場に認可されたアジュバントおよび担体系は、ビロソームである。ここ20年の間に、広く使用されているが望ましくないアルミニウム塩に基づくアジュバントを改善するため、多様な技術が調査された。これらの塩は、局所的な炎症を誘導することにより効果を発揮するが、それが、このアジュバントの広い副作用パターンの基礎でもある。対照的に、ビロソームのアジュバント能力は、炎症反応に依存しない。ビロソームは、融合活性を増幅し、従って、抗原提示細胞(APC)への取り込みを容易にし、天然の抗原プロセシング経路を誘導する、インフルエンザウイルス由来の膜結合型の赤血球凝集素およびノイラミニダーゼを含有している。ビロソームによる抗原の免疫系への送達は、ほぼ天然の方式で行われ、これが、ビロソームに基づくワクチンが、優れた安全性プロファイルのため際だっている主要な理由であるかもしれない。
【0044】
薬物とは、細胞または生物の機能に対する特異的な効果を有する物質、一般に、外因性の物質である。しばしば、薬物は、疾患の処置、治療、防止、もしくは診断において使用され、または他の場合に肉体的もしくは精神的な健康を増強するために使用される。薬物治療または薬は、疾病もしくは医学的状態を治療し、かつ/もしくはそれらの症状を寛解させるために摂取される薬物であり、または、将来的な利益を有するが、存在もしくは先在している疾患もしくは症状を処置するものではない予防薬として使用されてもよい。薬物は、通常、生物の体外から導入されるという点で、内因性の生化学物質と区別される。
【0045】
毒性薬剤または毒素とは、生存している細胞または生物にとって有毒の物質または組成物である。毒素は、しばしば、体組織との接触または吸収の際に、酵素または細胞受容体のような他のタンパク質と相互作用することにより、疾患を引き起こすことができるタンパク質である。毒素の重度は極めて多様であり、通常の(ハチ刺傷のような)軽微で急性のものから、(ボツリヌス毒素のような)ほぼ即死となるものまである。生体毒素は、目的および機序に関して極めて多様であり、高度に複雑であるかもしれないし(イモガイの毒は、多数の小さなタンパク質を含有しており、各々が特異的な神経チャンネルまたは受容体を標的とする)、または比較的小さなタンパク質であるかもしれない。
【0046】
本発明のより好ましい態様において、免疫原は、病原体、病原体由来抗原、アレルゲン、腫瘍抗原、または寛容原である。
【0047】
病原体または感染因子とは、宿主の疾患または疾病を引き起こす生物学的因子、特に、生存している微生物である。病原体とは、本発明によると、好ましくは、ウイルス、細菌、および/または真核生物性寄生虫を意味する。病原体由来抗原とは、病原体に由来する抗原である。
【0048】
アレルゲンとは、過敏またはアレルギー反応を生ずることができる物質である。通常、それは、個体における過敏反応を刺激することができる非病原体由来抗原を含む。従って、免疫系による外来物質に対する誤った反応が引き起こされる。アレルギー反応は、これらの外来物質が通常無害であるという点で誤っている。アレルゲンの例には、花粉、チリダニ、カビ、フケ、およびある種の食物が含まれる。
【0049】
腫瘍抗原とは、宿主において免疫応答を誘発する、腫瘍細胞において産生される物質である。腫瘍抗原は、腫瘍細胞の同定において有用であり、癌治療において使用するための可能性のある候補である。体内の正常なタンパク質は、自己寛容のために抗原性でない。しかしながら、変異のために異常な構造を有する腫瘍細胞において産生されたタンパク質は、腫瘍抗原として作用し得る。特に、異常なタンパク質産生をもたらす癌原遺伝子および腫瘍抑制遺伝子の変異は、腫瘍の原因であり、従って、そのような異常タンパク質は腫瘍特異抗原と呼ばれる。腫瘍特異抗原の例には、ras遺伝子およびp53遺伝子の異常産物が含まれる。対照的に、腫瘍形成と無関係な他の遺伝子の変異は、腫瘍関連抗原と呼ばれる異常タンパク質の合成をもたらし得る。通常は少量産生されるが、腫瘍細胞においては産生が劇的に増加するタンパク質は、免疫応答を誘発する。そのようなタンパク質の一例は、メラニン産生に必要とされる酵素チロシナーゼである。通常、チロシナーゼは、微量に産生されるが、そのレベルは黒色腫細胞において極めて高く上昇する。腫瘍胎児性抗原は、腫瘍抗原のもう一つの重要なクラスである。例は、アルファフェトプロテイン(AFP)および癌胎児性抗原である(CEA)。これらのタンパク質は、通常、胚発生の初期段階において産生され、免疫系が完全に発達するまでに消失する。従って、これらの抗原に対して自己寛容は発達しない。腫瘍ウイルス、例えば、EBVおよびHPVに感染した細胞によっても異常タンパク質が産生される。これらのウイルスに感染した細胞は、転写される潜在ウイルスDNAを含有しており、その結果生じたタンパク質は免疫応答を生ずる。タンパク質に加え、細胞表面の糖脂質および糖タンパク質のようなその他の物質も、腫瘍細胞において異常な構造を有することがあり、従って、免疫系の標的となり得る。
【0050】
寛容原とは、免疫応答を刺激するが、炎症性の免疫防御反応を惹起しない免疫原である。それは、その成分に対する寛容を免疫系において誘導するために使用され得る。寛容は、中枢性寛容または末梢性寛容によって起こり得る。中枢性寛容は、対応する抗原が胸腺においてT細胞に曝され、特異的なT細胞が排除される寛容原に関する。末梢性寛容は、抗原が、適切な付加的な「デンジャーシグナル」なしにT細胞に提示された場合に起こる。
【0051】
本発明のさらに好ましい態様において、送達システムの毒性薬剤は、細胞毒、アポトーシス誘導剤、リボソーム不活化剤、DNAもしくはRNAを切断する薬剤、またはタンパク質合成の阻害剤である。
【0052】
細胞毒とは、身体のある種の細胞(通常、特定の器官のもの)に対して、直接、毒性のまたは破壊的な効果を有する物質である。具体例には、腎臓毒および神経毒が含まれる。
【0053】
多くの癌処置が、活発に急速に分裂する癌細胞を死滅させるために毒素または細胞毒を使用する。この化学療法の残念な副作用は、毛包および骨髄のような体内のある種の健康かつ正常な細胞も活発に分裂しており、細胞毒性薬剤により攻撃される点であり、このことは、投与の頻度を制限する。多くの化学療法薬が、速く分裂する細胞を効率的に標的として、有糸分裂を損なうことにより作用する。一般的な化学療法薬の例は、(シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサリプラチンのような)アルキル化剤、代謝拮抗薬(例えば、プリン(アザチオプリン、メルカプトプリン)またはピリミジンを装うもの)、アントラサイクリン、(ビンカアルカロイドおよびタキサンのような)植物アルカロイド、ならびに細胞分裂またはDNA合成に影響を与える(イリノテカン、トポテカン、アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシド、およびテニポシドのような)トポイソメラーゼ阻害剤である。異なる様式で作用するさらなる化学療法薬には、モノクローナル抗体((トラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin))、セツキシマブおよびリツキシマブのような)腫瘍特異抗原を標的とするもの、または(ベバシズマブ(アバスチン(Avastin))のような)新しい腫瘍血管の形成を阻止するもの)、およびある型の癌(慢性骨髄性白血病、胃腸間質腫瘍)における分子的異常を直接標的とする、新しいチロシンキナーゼ阻害剤、例えば、イマチニブメシル酸塩(グリーベック(Gleevec)(登録商標)またはグリベック(Glivec)(登録商標))が含まれる。
【0054】
機能的には、毒素は、アポトーシス誘導剤(ゲムシタビン、TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、またはアダマンチル基含有レチノイド関連化合物のような細胞のプログラム細胞死を誘導する薬剤)、リボソーム不活化剤(リシン、アビスクミン(aviscumine)、または志賀様リボソーム不活化タンパク質のような、植物界に広く分布し、例えば、真核生物リボソームの60Sサブユニットを酵素的に攻撃し、大きいリボソームRNA(rRNA)を不可逆的に修飾することによりリボソームを不活化する毒性タンパク質の大きい群)、DNAまたはRNAを切断する薬剤(即ち、1,2,4-ベンゾトリアジン1,4-ジオキシド、リスベラトロール、シスプラチン、またはハンマーヘッド型リボザイムのような、DNA/RNAに結合し、それを切断するDNA/RNA相互作用化合物)、またはタンパク質合成の阻害剤(抗生物質(例えば、アニソマイシン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、ネオマイシン、またはエリスロマイシン)、フシジン酸、ジフテリア毒素、リシン、またはシクロヘキシミドのような、例えば、ペプチド鎖伸長の中断、リボソームの部位のブロッキング、遺伝暗号の誤読、または糖タンパク質へのオリゴ糖側鎖の付着の防止により、タンパク質の合成を阻害する化合物)でもあり得る。
【0055】
送達される物質(物質(ii))に加え、送達システムは、ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)と結合する分子(分子(i))を含む。その分子は、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞を選択的に標的とし、送達される物質のこの細胞への導入をもたらすよう機能する。その後、物質(ii)は、物質(ii)の性質に依って、意図された様式で作用し得る。化学的には、分子(i)は、任意の適当な化合物であってよく;例えば、分子は、タンパク質、(ポリ)ペプチド、抗体もしくはその断片、または低分子であり得る。機能的には、分子は、アゴニストまたはアンタゴニストあり得るが;完全または部分的なアゴニストが好ましい。理論によって拘束はされないが、分子、特にアゴニストの、XCR1との結合により、リガンドとXCR1との複合体が細胞へ内部移行することが想定される。Gタンパク質共役型受容体ファミリーの他のメンバーから、アゴニストはアンタゴニストより高いレベルの受容体の内部移行を誘導する傾向があることが公知であり、従って、アゴニストが好ましい。さらに、リガンドが、送達される物質の細胞への取り込みを媒介することができる受容体のドメインに結合するよう意図されることが理解されるべきである。受容体の外部ドメインは、物質(ii)の内部移行を媒介するために特に適しているドメインであると想定される。従って、この/これらのドメインに結合するリガンドは、本発明の送達システムに特に適していると想定される。
【0056】
ヒトXCR1のアミノ酸配列は、既に公知である(NCBI;アクセッションNP_001019815):
【0057】
しかしながら、XCR1またはその他のケモカイン受容体の正確な三次元構造は、未だ公知でない。一次アミノ酸配列の分析に基づき、XCR1の最も密接な相同ケモカイン受容体は、321残基のストレッチにおいてアミノ酸レベルで36%の同一性および56%の類似性を有するCCR5である。いくつかの研究は、CCR5のドメイン構造およびリガンド結合部位の詳細な分析を提示しており、CCR5とXCR1との有意な相同性のため、これらの研究の結果をXCR1の構造的特徴を予測するために使用することができる。ある研究は、いくつかのケモカインの保存された領域を分析し、CCR5の細胞内ドメイン、細胞外ドメイン、および膜貫通ドメインの位置に関する正確な予測を導き出した(Raport et al.,1996,J.Biol.Chem.271,17161-66)。これらの領域の過半数は、XCR1にも保存されているため、CCR5のドメイン予測を採用し、それにより、下記表に詳述されるように、マウスおよびヒトのXCR1についてのドメイン構造を提唱することは合理的である。リガンド結合にとって重要なCCR5の残基が、もう一つの研究において詳細に研究され(Zhou et al,2000,Eur.J.Immunol.30,164-73)、全ての細胞外ドメインがリガンド結合に関与しているかもしれないが、N末端および第二細胞外ループ(ECL2)が主に寄与することが提唱された。これらの実験に基づき、ヒトXCR1のアミノ酸1-34および166-191が、XCL1の主要な結合部位であり、アミノ酸89-103および251-271がそれよりも小さく寄与するということが導出され得る。従って、これらのドメインに結合する分子は、適当なXCR1リガンドである可能性が高く、この原理は、例えば、分子的モデリングにより、適当なXCR1リガンドを探求し、かつ/または設計するために使用されるかもしれない。
【0058】
XCR1との結合とは別に、分子(i)は、(例えば、受容体内部移行またはエンドサイトーシスまたは食作用により)物質(ii)の細胞への取り込みを媒介することができるべきであることが理解されるべきである。XCR1に結合し、物質の取り込みを媒介する分子(i)の能力は、標準的な方法により、例えば、分子(i)を標識し、その運命(XCR1保持細胞への取り込み)を追跡することにより、または分子(i)をXCR1と結合させ、インキュベーション時間を置いた後、APC表面上のXCR1のレベルを決定することにより、調査され得る。XCR1の内部移行は、XCR1を保持している初代APCにおいて試験されてもよいし、またはXCR1トランスフェクタントにおいて試験されてもよい(実施例7を比較すること)。試験される分子(i)を、(例えば、放射性化合物または蛍光色素または毒素またはXCR1保持細胞の代謝に影響を及ぼす薬物を使用して)標識し、最適の時間(典型的には、5分超)、ケモカイン受容体の内部移行が起こる温度(典型的には、7℃超)で、XCR1保持細胞と反応させることができる(Neel et al.,2005,Cyt.Growth Factor Rev.16,637-58)。十分なインキュベーション時間の後、XCR1内部移行の速度を、光学的方法(フルオロフォアマーカーの場合)により、または取り込まれた放射能の測定により([125I]-XCL1のような放射性マーカーの場合)、または細胞死の査定により(毒素の場合)、または使用されたマーカーに適したその他の検出法により、内部移行した分子(i)の量を測定することにより決定することができる。または、XCR1内部移行の速度は、フローサイトメトリー、または細胞表面上のXCR1のレベルを決定することができるその他のアッセイ(例えば、細胞ELISA)を使用して、分子(i)のXCR1との結合の前後にXCR1細胞表面発現のレベルを比較することにより、間接的に決定されてもよい。または、受容体の運命/内部移行を、例えば、光学的方法により、直接査定することができるよう、(例えば、フルオロフォアにより、またはXCR1の蛍光性融合タンパク質バリアントをトランスフェクションに使用することにより)トランスフェクトされたXCR1受容体を標識することもできる。全ての記載されたアプローチは、ハイスループットスクリーニング系に適応可能である。記載された方法は、当業者に周知である(例えば、Colvin et al.,2004,J.Biol.Chem.279,30219-27;Sauty et al.2001,J.Immunol.167,7084-93;Rose 2004,J.Biol.Chem.279,24372-86;Signoret et al.,2000,J.Cell.Biol.151,1281-94;およびNeel et al.,2005,Cyt.Growth Factor Rev.16,637-58の表2にリストされた刊行物)。または、分子(i)の結合は、Ca2+、またはXCR1により誘導される細胞活性化のその他の適当な代謝物の細胞内濃度を測定することにより、実施例2に詳述されるような活性化試験を使用して研究されてもよい。または、分子(i)の取り込みは、実施例4に詳述される原理に従って測定されてもよい。
【0059】
本発明の好ましい態様において、分子(i)は、ケモカイン(Cモチーフ)リガンド1(XCL1)またはその機能活性バリアントである。上に詳述されたように、XCL1は、XCR1の天然に存在するリガンドである。その天然に存在するバリアントは、XCL2であり(上記参照)、それも使用され得る。組換えヒトXCL1の三次元構造は、NMR分光法により決定された。XCL1は、無秩序なN末端、三本鎖逆平行βシート、およびC末端αヘリックスを特徴とする、本質的に全ての他のケモカインの間で高度に保存されている折り畳み(「古典的」ケモカイン折り畳み)を採っていることが見出された。他のケモカインと同様に、N末端が、XCL1機能に必要とされるようである。従って、XCL1の受容体XCR1への結合は、他のケモカインの受容体結合に極めて類似しており、二段階モデルにより記載され得ると想定できる:第一段階において、ケモカインの主要部分が、受容体を特異的に認識し、それに結合し、それが、ケモカインのコンフォメーション変化およびフレキシブルなN末端の再編成を誘導する。第二段階において、ケモカインN末端が受容体と相互作用し、その活性化を誘導し、典型的にはカルシウムの流入を誘発する。一般的な類似性とは別に、XCL1に独特の三つの構造的特徴が同定された;これらは、ジスルフィド結合の数、C末端の長さ、およびN末端ドメインの特定の編成を含む。ケモカインの大多数は2個のジスルフィド結合を示すが、それらのうちの1個がXCL1には欠失している。ほぼ生理的な条件において、二つのコンフォメーション状態(保存されたケモカイン折り畳みおよび非ケモカインコンフォメーション)が検出され得るため、これがXCL1構造を不安定化していることが提唱された。この構造的不均一性の生物学的意義は不明であるが、非ケモカインコンフォメーションは受容体と結合しないことが提唱されている。ATACの第二の構造的特徴は、大きいC末端伸長(残基73-93)の存在である。この独特のC末端の役割は未だ明らかでなく、その欠失の機能的結果は論争中である。8個の可能性のあるグリコシル化部位が、延長されたC末端に見出されているが、XCL1の構造または機能に対するグリコシル化の影響は検出されなかった。最後に、第二のジスルフィド結合の欠如は、受容体相互作用にとって重要な、いわゆる30'sループの異なる方向をもたらしている。さらに、このループは、2アミノ酸だけ短縮されており、N末端から分離している。この特定の編成の機能的意義は明らかでない。
【0060】
(ヒト:SEQ ID NO:1、GenBankアクセッションP47992;マウス:SEQ ID NO:2、GenBankアクセッションP47993;およびラットSEQ ID NO:3、GenBankアクセッションP51672を含む)いくつかの種のXCL1(ATAC)のアミノ酸配列が公知であり、SEQ ID NO:1〜3として示される(下記参照)。さらに、ウイルスケモカイン様タンパク質であるK4.1 HHV8(SEQ ID NO:4、GenBankアクセッションAAB62672.1)(下記参照)と呼ばれる特異的なXCLR1アゴニストも公知である。これらの天然に存在するXCR1リガンドまたはその他の天然に存在するXCR1リガンドのうちの任意のものが使用され得る。
【0061】
または、天然に存在するXCL1の機能活性バリアントが使用されてもよい。バリアントという用語には、断片、一つまたは複数のアミノ酸の付加、欠失、および/または置換に由来するバリアント、ならびに、融合タンパク質のような、天然に存在するXCL1またはその一部分を含む分子、特に、タンパク質が包含される。融合タンパク質のXCL1部分には、C末端にアミノ酸残基が隣接していてもよいし、N末端に隣接していてもよいし、またはC末端およびN末端に隣接していてもよい。
【0062】
機能活性断片は、一つまたは複数のアミノ酸欠失により、天然に存在するXCR1リガンド、特にXCL1、特にSEQ ID NO:1〜4のものに由来することを特徴とする。欠失は、C末端、N末端、および/または内部にあり得る。好ましくは、断片は、高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、または60個、より好ましくは高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、または30個、さらに好ましくは高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個、さらに好ましくは高々1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個、最も好ましくは1、2、3、4、または5個のアミノ酸欠失により入手される。本発明の機能活性断片は、物質(ii)のXCR1と結合し、内部移行を媒介する能力を含む、それが由来するリガンドにより示されるものに類似している生物学的活性を有することを特徴とする。天然に存在するXCR1リガンド、特にXCL1、特にSEQ ID NO:1〜4のものの断片は、断片の活性(結合および内部移行)が、配列改変のないXCL1の活性の少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%となる場合、本発明の状況において機能的に活性である。これらの断片は、約18〜50アミノ酸長のような短い長さを含む、任意の所望の長さで設計され入手され得る。
【0063】
天然に存在するXCR1リガンド、特にXCL1、特にSEQ ID NO:1〜4のものの機能活性断片は、その他の構造的特色も特徴とするかもしれない。従って、本発明の一つの好ましい態様において、機能活性断片は、SEQ ID NO:1〜4のいずれかのXCR1リガンドのアミノ酸の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは99%からなる。上に定義されたような機能活性断片は、一つまたは複数のアミノ酸欠失によりペプチドに由来するかもしれない。欠失は、C末端、N末端、および/または内部にあり得る。SEQ ID NO:1〜4の上記の配列アラインメントは、保存されていると考えられる天然に存在するリガンドのドメインを示している。本発明の好ましい態様において、これらのドメインは断片において維持されるべきである。
【0064】
保存されたドメインには、1〜2位(V/S G)、13〜27位(S/N L X T/S Q/A R L P V/P X K/R I/L K/I X T/G X Y(X = 任意のアミノ酸または存在しない;SEQ ID NO:5)、35〜51位(R/K A V I F I/V T K/H R/S G L/R K/R I/V C A/G D/S P;SEQ ID NO:6)のプロセシングされたN末端(プロセシングされたN末端は、配列番号:1〜3についてはプロセシングされていないN末端のアミノ酸22から開始し、配列番号:4についてはアミノ酸27から開始する)のアミノ酸、ならびに11位および48位のシステイン残基の間のジスルフィド架橋が含まれる(上記アラインメントも参照のこと)。配列番号:1〜4の配列のコンセンサス配列は、同一アミノ酸のみを考慮した場合には、
であり、同一アミノ酸および多数派アミノ酸(即ち、配列四つのうち三つに存在する配列、別のアミノ酸はスラッシュの後にリストされる)を考慮した場合には、
である。配列番号:1〜3の配列のコンセンサス配列は、同一アミノ酸のみを考慮した場合には、
であり、同一アミノ酸および多数派アミノ酸(即ち、配列三つのうち二つに存在する配列、別のアミノ酸はスラッシュの後にリストされる)を考慮した場合には、
である。従って、本発明の好ましい送達システムにおいて、XCL1の機能活性バリアント、好ましくは機能活性断片は、配列番号:7〜10のいずれか、好ましくは配列番号:8〜10のいずれか、より好ましくは配列番号:9または10のいずれか、特に配列番号:10の配列を含むか、またはこれらからなる。
【0065】
本発明のもう一つの好ましい態様は、XCR1リガンドが、SEQ ID NO:1〜4のいずれかのXCR1リガンドの機能活性バリアントであり、バリアントが、SEQ ID NO:1〜4のいずれかのXCR1リガンドとの少なくとも50%の配列同一性を有する、上に定義されたようなXCL1バリアントに関する。より好ましい態様において、機能活性バリアントは、SEQ ID NO:1〜4のいずれかの抗原との少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは99%の配列同一性を有する。
【0066】
配列同一性の割合は、例えば、配列アラインメントにより決定され得る。比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野において周知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、例えば、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.2:482,1981またはPearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444-2448,1988に記載されている。
【0067】
NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410,1990)は、配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxに関連した使用のため、National Center for Biotechnology Information(NCBI,Bethesda,MD)を含むいくつかの供給元から、そしてインターネット上で入手可能である。SEQ ID NO:1〜4の配列のいずれかの抗原のバリアントは、典型的には、デフォルトパラメーターに設定されたNCBI Blast 2.0、gapped blastpを使用して特徴決定される。少なくとも35アミノ酸のアミノ酸配列の比較のためには、Blast 2 sequences機能が、デフォルトパラメーター(11のgap existence costおよび1のper residue gap cost)に設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックスを使用して利用される。短いペプチド(約35アミノ酸未満)を整列化する場合には、アラインメントは、デフォルトパラメーター(open gap 9、extension gap 1 penalties)に設定されたPAM30マトリックスを利用して、Blast 2 sequences機能を使用して実施される。15アミノ酸以下のような、そのような短いウィンドウで配列同一性を決定する方法は、National Center for Biotechnology Information(Bethesda,Maryland)により維持されているウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)に記載されている。
【0068】
または、複数の配列のアラインメントは、ClustalVアラインメントアルゴリズム(Higgins et al.,1992,Comput.Appl.Biosci.8,189-91)を利用して、DNAStar(Madison,WI,USA)のMegAlign Sofwareを使用して実施され得る。上記のアラインメントにおいては、このソフトウェアが使用され、以下のデフォルトパラメーターに設定された:gap penalty 10、gap length penalty 10。極めて低い相同性のため、アラインメントにSEQ ID NO:4を含めるのには、手動の調整が必要であった。
【0069】
機能活性バリアントは、天然に存在するXCR1リガンドの配列改変により入手され、ここで、配列改変を有するXCR1リガンドは、未改変のXCR1リガンドの機能を保持しており、例えば、XCR1と結合し、物質(ii)の内部移行を媒介する能力を含む、天然に存在するXCR1リガンドにより示されるものに類似している生物学的活性を有する。そのような配列改変には、保存的置換、欠失、変異、および挿入が含まれ得るが、これらに限定はされない。機能活性バリアントのこれらの特徴は、例えば、上に詳述されたようにして査定され得る。
【0070】
本発明のさらに好ましい態様において、機能活性バリアントは、保存的置換により、SEQ ID NO:1〜4の配列のいずれかの天然に存在するXCR1リガンドに由来する。保存的置換とは、側鎖および化学的特性が関連しているアミノ酸ファミリーの内部で起こるものである。そのようなファミリーの例は、塩基性側鎖を含むアミノ酸、酸性側鎖を有するアミノ酸、無極性脂肪族側鎖を有するアミノ酸、無極性芳香族側鎖を有するアミノ酸、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸、小さな側鎖を有するアミノ酸、大きい側鎖を有するアミノ酸等である。一つの態様において、1個の保存的置換がペプチドに含まれる。もう一つの態様において、2個以下の保存的置換がペプチドに含まれる。さらなる態様において、3個以下の保存的置換がペプチドに含まれる。
【0071】
保存的アミノ酸置換の例には、以下にリストされたものが含まれるが、これらに限定はされない:
【0072】
本発明のもう一つの好ましい態様において、分子(i)は、XCR1に特異的に結合することができる抗XCR1抗体またはその機能活性断片である。抗体の機能活性断片は、XCL1の機能活性断片(上記参照)と同様に定義され、即ち、機能活性断片は、(a)C末端欠失、N末端欠失、および/または内部欠失のような一つまたは複数のアミノ酸欠失により抗XCR1抗体に由来することを特徴とし、かつ(b)XCL1との結合能を含む、それが由来する抗XCR1抗体により示されるものに類似している生物学的活性を有することを特徴とする。天然に存在する抗体は、外来物質を同定し中和するために免疫系により使用されるタンパク質である。天然に存在する抗体は、各々、二つの大きい重鎖および二つの小さな軽鎖を有し、異なる抗原に結合することができる。本発明には、例えば、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、およびヒト化抗体が含まれ、Fab断片、Fab、Fab'、F(ab')2'、Fv、またはFab発現ライブラリーの産物も含まれる。抗体または抗体成分は、その生物学的半減期を延長するためにさらに修飾されてもよいし、またはそれらをターゲティングにより適したものにするためその他の方式で修飾されてもよい。XCR1に対して作成された抗体は、XCR1またはその断片を動物に直接注射することにより、またはXCR1またはその断片を動物、好ましくは非ヒトに投与することにより入手され得る。このようにして入手された抗体は、次いで、XCR1に結合するであろう。モノクローナル抗体の調製のためには、連続細胞系培養物、例えば、ハイブリドーマ細胞系により産生された抗体を提供する、当技術分野において公知の任意の技術が使用され得る。適当なモノクローナル抗体の作製は、実施例7にも詳述される。単鎖抗体の作製のための記載されている技術(米国特許第4,946,778号)は、XCR1に対する単鎖抗体を作製するために適合し得る。また、トランスジェニックのマウスまたはその他の哺乳動物のようなその他の生物が、XCR1に対するヒト化抗体を発現させるために使用されてもよい。
【0073】
本発明のもう一つの好ましい態様において、分子(i)は(ポリ)ペプチドである。ペプチドまたはポリペプチドは、α-アミノ酸の、定義された順序での連結から形成された重合体である。一つのアミノ酸残基と次のアミノ酸との間の結合は、アミド結合またはペプチド結合として公知である。タンパク質は、ポリペプチド分子である(または複数のポリペプチドサブユニットからなる)。区別は、ペプチドが短く、ポリペプチド/タンパク質が長いことである。しかしながら、本発明の状況において、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質という用語は、交換可能に使用される。(ポリ)ペプチドは、好ましくは、XCL1およびそれらのバリアントに関して上に詳述されたような、本発明における分子(i)として使用される。または、XCR1保持APCを活性化することができ、好ましくはXCR1保持APCにおいてエンドサイトーシスを誘発することができるXCR1に結合することができる(ポリ)ペプチドを同定するため、(ポリ)ペプチドライブラリーを使用することもできる。エンドサイトーシスを誘導する(ポリ)ペプチドを同定するためのアッセイ系は、上に記載され、実施例2および4に記載される。
【0074】
本発明のもう一つの好ましい態様において、分子(i)は、小さな有機分子、即ち、通常、約2,000g/モル未満、好ましくは約1500g/モル未満、さらに好ましくは1000g/モル未満の分子量を有する炭素含有化合物である。有機分子は、例えば、アルコール、アルデヒド、アルカン、アルケン、アミン、または芳香族化合物であり得る。XCR1保持APCを活性化することができ、好ましくは、XCR1保持APCにおいてエンドサイトーシスを誘発することができるXCR1に結合することができる分子を同定するため、有機低分子のライブラリーまたは天然生成物のライブラリーを使用することもできる。エンドサイトーシスを誘導する有機低分子を同定するためのアッセイ系は、上に記載され、実施例2および4に記載される。
【0075】
上に詳述されたように、本発明の送達システムは、XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している。XCR1陽性とは、プロフェショナル抗原提示細胞がその表面上に受容体XCR1を保持していることを意味する。抗原提示細胞(APC)は、表面上にMHCと複合体化した外来抗原を呈示する細胞である。T細胞は、T細胞受容体(TCR)を使用して、この複合体を認識することができる。APCは、プロフェショナルまたは非プロフェショナルという二つのカテゴリーに分けられる。体内のほぼ全ての細胞が、技術的にはAPCである(MHCクラスI分子を介してCD8+ T細胞に抗原を提示することができるため)ため、「プロフェショナル抗原提示細胞」という用語は、未感作T細胞を初回刺激し得る(即ち、以前に抗原に曝されたことがないT細胞を活性化する)APCに限定される。プロフェショナルAPCは、MHCクラスII分子のみならずMHCクラスI分子も発現し、CD4+(「ヘルパー」)細胞のみならずCD8+(「細胞障害性」)T細胞も刺激することができる。これらのプロフェショナルAPCは、例えば、食作用または(受容体により媒介される)エンドサイトーシスのいずれかによる、抗原取り込みにおいて極めて効率的であり、次いで、クラスIまたはクラスII MHC分子と結合した抗原の断片を膜上に呈示する。T細胞は、APCの膜上の抗原とクラスIまたはII MHC分子との複合体を認識し、それらと相互作用する。次いで、付加的な同時刺激シグナルが抗原提示細胞により産生され、T細胞が活性化される。マクロファージおよびB細胞は効率的に抗原を提示することができるが、現在のところ、唯一の周知のプロフェショナルAPCは、樹状細胞(DC)、とりわけ、CD8+樹状細胞である。より好ましくは、送達システムは、特に、組織適合性複合体(MHC)クラスI分子による、対象におけるXCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞による、物質またはその断片の抗原としての提示(「交差提示」)を媒介することができる。
【0076】
本発明によると、送達システムは、本明細書中に詳述されたような成分(分子(i)および物質(ii))を含む、任意の適当なシステムであり得る。
【0077】
例えば、(例えば、免疫原、アレルゲン、寛容原、アジュバント、薬物、化学物質、DNA、RNA、発現ベクター系、操作されたウイルス、毒素、酵素等を含む)送達システムの物質(ii)は、例えば、イオン強度力、接着、凝集、およびその他により、非共有結合的に、分子(i)(即ち、ターゲティング剤)に付着させられ得る。または、好ましくは、物質(ii)は、化学的カップリングにより、またはペプチドリンカーのようなリンカーを利用して、またはタンパク質性成分の場合には融合タンパク質として、直接、分子(i)に連結され得る。
【0078】
または、送達される物質(例えば、免疫原、アレルゲン、寛容原、アジュバント、薬物、化学物質、DNA、RNA、発現ベクター系、操作されたウイルス、毒素、酵素等)は、XCR1保持APCにターゲティングされる物質の完全性および有効性を維持する「媒体」へパッケージング/封入されてもよい。そのような媒体は、生細胞、死細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、ナノ粒子、脂質に基づく系(例えば、リポソーム)、エキソソーム、アポトーシス小体、コロイド性分散系、重合体、炭水化物、マイクロスフェア、またはその他の適当な媒体であり得る。この媒体は、媒体のXCR1保持APCへの特異的結合と、必要であれば、その後の内部移行とを可能にするため、媒体の(外)表面上のターゲティング剤、即ち、分子(i)(上記参照)の存在により、XCR1保持APCへターゲティングされるであろう。
【0079】
特に好ましい媒体は、ウイルスの構造タンパク質、またはカプソメア、ウイルス様粒子、もしくはウイルスのような、その多量体構造である。多量体構造は、少なくとも約5、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約30、最も好ましくは少なくとも約60の構造タンパク質の凝集物であり得、多量体構造内に送達される物質を含有することができる。パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス2型)のようなウイルスの構造タンパク質は、表面上に特定のタンパク質を提示するよう修飾され得ることが公知である。従って、上に定義されたような、天然に存在するXCR1リガンドまたはそのバリアントのようなXCR1に結合するタンパク質性分子を、媒体の表面上に提示するよう、構造タンパク質を修飾することができる。次いで、媒体はXCR1を介してDCに結合し、DCに取り込まれることができる。適当な挿入部位は、例えば、米国特許第6,719,978号に開示されている。
【0080】
本発明のさらなる態様において、本発明の送達システムは、(iii)アジュバント、特に、「デンジャーシグナル」をさらに含む。
【0081】
アジュバントとは、改善された抗原取り込み、抗原の延長された生物学的半減期、デポジット様(deposit-like)効果、「デンジャーシグナル」の提供による自然免疫応答の活性化、サイトカインの誘導、DCの活性化および/または成熟、T細胞同時刺激分子のリガンドの誘導、ならびにその他を含む、多数の機序のうちの少なくとも一つにより、投与された抗原に対する免疫応答を改善することができる化合物である。NK細胞またはT細胞のDCとの特異的相互作用を改善する化合物も、アジュバントとして作用するであろう。アジュバントは二つのカテゴリーへ分類され得る。一つの型のアジュバントは、例えば、プロフェショナルAPCへの抗原取り込みを改善することにより、またはT細胞もしくはNK細胞のプロフェショナルAPCとの相互作用を最適化することにより、免疫系による抗原の認識を改善する。この型のアジュバントは、炎症も誘導しないし、「デンジャーシグナル」も提供せず、従って、寛容原に対する免疫系におけるアネルギーまたは寛容を誘導する試みにおいて、寛容原の効果を改善するために使用され得る。他方の型のアジュバントは、例えば、「デンジャーシグナル」(上記参照)を提供することにより、免疫系において炎症を誘導する。「デンジャーシグナル」型アジュバントの例は、免疫賦活性複合体(ISCOM)、ウイルス様粒子(VLP)、LPS、BCG、非メチル化CpGモチーフ、二本鎖RNA、およびその他である。タンパク質性「デンジャーシグナル」型アジュバントの例は、熱ショックタンパク質または高移動度タンパク質B1である。
【0082】
本発明の一つの態様において、分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)は、一つまたは複数の(ポリ)ペプチドである(ポリペプチドとは上に定義された通りである)。分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)は、一つの(ポリ)ペプチド(即ち、融合タンパク質)内にあってもよいし、二つ以上の(ポリ)ペプチドであってもよい。
【0083】
本発明のさらなる態様において、分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)は、共有結合的に、かつ/または非共有結合的に、相互に結合している。上に詳述されたように、成分は一つの融合タンパク質内にあってもよい。または、成分は、適当なリンカーにより相互に連結されていてもよい。融合タンパク質の場合、リンカーは、一つまたは複数のアミノ酸残基から構成される。または、成分は、イオン結合、水素結合、および/またはファンデルワールス結合等により、非共有結合的に相互に結合していてもよい。成分は、共有結合性または非共有結合性の形成を提供する適当なドメインを包含していてもよい。共有結合性の結合の場合、これは、成分の相互のカップリングを可能にするペプチドリンカーまたはカップリング基を含む。非共有結合性の結合の場合、結合を与えるドメインの例には、ビオチン-アビジン系、抗体もしくはその断片およびその抗原、または酵素もしくはその一部分およびその基質が含まれる。
【0084】
さらなる局面において、分子(i)、物質(ii)、および、任意で、アジュバント(iii)が、一つまたは複数の(ポリ)ペプチドである場合、本発明は、本発明の送達システムの(ポリ)ペプチドをコードする一つまたは複数の核酸に関する。本発明の核酸分子は、例えば、クローニングにより入手された、または化学合成技術により、もしくはそれらの組み合わせにより作製された、mRNAまたはcRNAのようなRNAの形態であってもよいし、または例えばcDNAおよびゲノムDNAを含むDNAの形態であってもよい。DNAは、三本鎖、二本鎖、または一本鎖であり得る。一本鎖DNAはセンス鎖として公知のコーディング鎖であってもよいし、またはアンチセンス鎖とも呼ばれる非コーディング鎖であってもよい。核酸分子とは、本明細書において使用されるように、とりわけ、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖RNAと二本鎖RNAとの混合物であるDNA、および一本鎖領域と二本鎖領域との混合物であるRNA、一本鎖であってもよいし、またはより典型的に二本鎖もしくは三本鎖、または一本鎖領域と二本鎖領域との混合物であってもよい、DNAとRNAとを含むハイブリッド分子もさす。さらに、核酸分子とは、本明細書において使用されるように、RNA、またはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域をさす。
【0085】
さらに、本発明の送達システムをコードする核酸分子は、プロモーターもしくはエンハンサーもしくはリーダー配列のような所望の調節配列、または融合タンパク質を作出するための異種コーディング配列に、標準的なクローニング技術のような標準的な技術を使用して、機能的に連結され得る。
【0086】
さらなる局面において、本発明は、本発明の一つまたは複数の核酸を含むベクターに関する。ベクターは、複製起点、一つまたは複数の治療用遺伝子、および/または選択可能マーカー遺伝子、ならびに、コードされたタンパク質の転写、翻訳、および/または分泌を指図する調節要素のような、当技術分野において公知のその他の遺伝子要素のような、宿主細胞においてそれが複製することを可能にする核酸配列をさらに含んでいてもよい。ベクターは、細胞を形質導入、形質転換、または感染するために使用され得、それにより、その細胞にネイティブのもの以外の核酸および/またはタンパク質を、細胞に発現させる。ベクターは、ウイルス粒子、リポソーム、タンパク質コーティング等のような、核酸の細胞への侵入が達成されるのを支援するための材料を任意で含む。標準的な分子生物学技術によるタンパク質発現のための多数の型の適切な発現ベクターが、当技術分野において公知である。そのようなベクターは、昆虫、例えば、バキュロウイルス発現、または酵母、真菌、細菌、もしくはウイルスによる発現系を含む、従来のベクター型の中から選択される。その他の適切な発現ベクター(多数の型が当技術分野において公知である)も、この目的のために使用され得る。そのような発現ベクターを入手するための方法は周知である(例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning.A Laboratory Manual,2nd edition,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1989)を参照のこと)。一つの態様において、ベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターには、レトロウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターが含まれるが、これらに限定はされない。
【0087】
この方法によるトランスフェクションのための適当な宿主細胞または細胞系には、細菌細胞が含まれる。例えば、大腸菌の様々な株が、バイオテクノロジーの領域において宿主細胞として周知である。B.ズブチリス(subtilis)、シュードモナス(Pseudomonas)、ストレプトミセス(Streptomyces)、およびその他の桿菌等の様々な株も、この方法において利用され得る。当業者に公知の酵母細胞の多くの株も、本発明のペプチドの発現のための宿主細胞として利用可能である。その他の真菌細胞またはスポドプテラ・フルギペデラ(Spodoptera frugipedera)(Sf9)細胞のような昆虫細胞も、発現系として利用され得る。または、ヒト293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、サルCOS-1細胞系、またはSwissマウス、BALB/cマウス、またはNIHマウスに由来するマウス3T3細胞のような哺乳動物細胞も使用され得る。さらにその他の適当な宿主細胞、ならびにトランスフェクション、培養、増幅、スクリーニング、産生、および精製のための方法は、当技術分野において公知である。
【0088】
本発明の(ポリ)ペプチドは、適当な宿主細胞における本発明の核酸の発現により作製され得る。宿主細胞を、転写調節配列の制御下で本発明の核酸を含有している少なくとも一つの発現ベクターにより、例えば、電気穿孔のような従来の手段により、トランスフェクトすることができる。次いで、トランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞を、タンパク質の発現を可能にする条件の下で培養する。発現されたタンパク質を、当業者に公知の適切な手段により、細胞から(または、細胞外に発現された場合には、培養培地から)回収し、単離し、任意で精製する。例えば、タンパク質は、細胞溶解後に可溶型で単離されるか、または公知の技術を使用して、例えば、グアニジンクロリドで抽出される。所望により、本発明の(ポリ)ペプチドは、融合タンパク質として作製される。そのような融合タンパク質は上記のようなものである。または、例えば、選択された宿主細胞におけるタンパク質の発現を増強するかまたは精製を改善する融合タンパク質を作製することが望ましいかもしれない。本発明の成分を含む分子は、HPLC、FPLC等を使用した順相または逆相の液体クロマトグラフィ;(無機リガンドまたはモノクローナル抗体を用いたもののような)アフィニティクロマトグラフィ;サイズ排除クロマトグラフィ;固定化金属キレートクロマトグラフィ;ゲル電気泳動等を含むが、これらに限定はされない、多様な従来の方法を使用して、さらに精製されてもよい。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、最も適切な単離および精製の技術を選択することができる。そのような精製は、微生物のその他のタンパク質性および非タンパク質性の材料を実質的に含まない形態で抗原を提供する。
【0089】
さらなる局面において、本発明は、本発明の送達システム、または本発明の一つもしくは複数の核酸を含む医薬に関する。
【0090】
本明細書に記載された、免疫原性または寛容原性の予防接種の全ての場合を含む、本発明の医薬に関して、物質(ii)、特に、XCR1保持APCにターゲティングされる免疫原(病原体由来抗原、アレルゲン、腫瘍抗原、寛容原、外来組織抗原、自己免疫性抗原等を含む)は、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質として適用され得る。または、物質(ii)は、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質をコードする、天然の、または修飾された(安定化された)DNAまたはRNAとして適用されてもよい。または、それは、XCR1保持APCへ取り込まれた後、免疫原性タンパク質/ペプチドを発現することができる、核酸に基づくプロモーターにより駆動される発現ベクター(例えば、プラスミドまたは直鎖化されたRNAもしくはDNA)として適用されてもよい。好ましくは、そのようなベクター系は、コードされた(ポリ)ペプチド/タンパク質が、XCR1保持哺乳動物/ヒトAPCにおいて選択的に発現されるよう、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質の発現を駆動するためにXCR1プロモーターを利用するであろう。または、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質は、組換え技術によってウイルスへと操作されることができる。そのウイルスは、XCR1保持APCへ選択的にターゲティングされた後、内部移行し、(ポリ)ペプチド/タンパク質を発現し始めるであろう。再び、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質の発現は、XCR1プロモーターにより駆動されることが好ましいであろう。核酸に基づく発現ベクター系またはウイルス系の両方の場合において、(ポリ)ペプチドまたはタンパク質は、XCR1保持APCにおいて発現され、プロセシングされ、APCの細胞表面上に提示される。状況(炎症/「デンジャーシグナル」対「デンジャーシグナル」の欠如)に依って、発現されたペプチドは、免疫反応または寛容のいずれかを誘導するであろう。(ポリ)ペプチドまたはタンパク質は、単独で、またはアジュバント、もしくはXCR1保持APCの機能を修飾する薬学的化合物と共に、XCR1保持細胞へターゲティングされ得る。
【0091】
本発明の医薬は、その必要のある対象、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトに投与され得る。可能性のある投与モードには、皮内(皮下)、筋肉内、非経口、胃腸、静脈内、動脈内、関節内、大槽内、眼内、脳室内、くも膜下腔内、気管内、腹腔内、胸腺内、板状筋内、粘膜、または局所または経口、およびそれらの組み合わせが含まれるが、最も好ましくは、筋肉内または皮下または静脈内への注射である。筋肉内投与のための用量の容量は、好ましくは最大約5mL、例えば、0.3mL〜3mL、1mL〜3mL、約0.5〜1mL、または約2mLである。各用量中の活性成分の量は、処置または防止を提供するために十分なものでなければならない。異なる態様において、送達される物質の単位用量は、体重1kg当たり最大約5μg物質、約0.2〜3μg、約0.3〜1.5μg、約0.4〜0.8μg、または約0.6μgであるべきである。別の態様において、単位用量は、体重1kg当たり最大約6μg物質、約0.05〜5μg、または約0.1〜4μgであってもよい。異なる態様において、用量は、例えば、1〜3週間の間隔で、1〜3回投与される。1用量当たりのタンパク質の代表的な量は、およそ1μg〜およそ1mg、より好ましくはおよそ5μg〜およそ500μg、さらに好ましくはおよそ10μg〜およそ250μg、最も好ましくはおよそ25μg〜およそ100μgである。
【0092】
処置は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに、有効量の物質(ii)を投与することを含む。従って、本発明のさらなる局面は、有効量の物質(ii)が本発明の送達システムを使用して対象に投与される、(本明細書に明示されるような)疾患を防止または処置する方法に関する。防止および処置は、さらに、本明細書に記載されるように特定され得る。
【0093】
「医薬」または物質(ii)の有効量は、インビボ効果を示すことができる、例えば、本明細書において特定された疾患のいずれかの兆候または症状を防止するかまたは寛解させることができる量として計算され得る。そのような量は、当業者により決定され得る。好ましくは、そのような医薬は、非経口的に、好ましくは、筋肉内または皮下に投与される。しかしながら、それは、経口または局所を含む、その他の適当な経路により投与されるよう製剤化されてもよい。そのような治療用組成物の送達および投薬の経路の選択は、当技術分野の技術の範囲内である。
【0094】
本発明の状況において、処置とは、標的とされた病理学的状態または障害を防止するかまたは減速(軽減)させることを目的とする、治療的処置および予防的または防止的な措置の両方をさす。処置を必要とする者には、既に障害を有する者のみならず、障害を有する傾向を有する者、または障害が防止されるべき者が含まれる。
【0095】
医薬は、一般に、少なくとも一つの適当な薬学的に許容される担体または補助物質を含むことができる。そのような物質の例は、脱塩水、等張生理食塩水、リンゲル液、緩衝液、有機または無機の酸および塩基ならびにそれらの塩、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウムまたは第二リン酸カルシウム、プロピレングリコールのようなグリコール、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルのようなエステル、グルコース、ショ糖、および乳糖のような糖、コーンスターチおよびジャガイモデンプンのようなデンプン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミドのような可溶化剤および乳化剤、落花生油、綿実油、トウモロコシ油、大豆油、ヒマシ油のような油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルのような合成脂肪酸エステル、ゼラチン、デキストラン、セルロースおよびその誘導体のような重合体性佐剤、アルブミン、有機溶媒、クエン酸および尿素のような錯化剤、プロテアーゼまたはヌクレアーゼの阻害剤、好ましくは、アプロチニン、ε-アミノカプロン酸、またはペプスタチンAのような安定剤、ベンジルアルコールのような保存剤、亜硫酸ナトリウムのような酸化防止剤、ロウ、ならびにEDTAのような安定剤である。着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、風味剤および芳香剤、保存剤、および抗酸化剤も、組成物中に存在し得る。生理的緩衝溶液は、好ましくは、およそ6.0〜8.0のpH、特におよそ6.8〜7.8のpH、特におよそ7.4のpHを有し、かつ/またはおよそ200〜400ミリオスモル/リットル、好ましくはおよそ290〜310ミリオスモル/リットルの浸透圧を有する。医薬のpHは、一般に、適当な有機または無機の緩衝液を使用して、例えば、好ましくは、リン酸緩衝液、トリス緩衝液(トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン)、HEPES緩衝液([4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)、またはMOPS緩衝液(3-モルホリノ-1-プロパンスルホン酸)を使用して、調整される。それぞれの緩衝液の選択は、一般に、所望の緩衝液モル濃度に依る。リン酸緩衝液は、例えば、注射溶液および点滴溶液のために適当である。医薬を製剤化する方法も、適当な薬学的に許容される担体または補助物質も、当業者に周知である。薬学的に許容される担体および補助物質は、とりわけ、優勢な剤形および化合物によって選ばれる。
【0096】
送達システムは、要件または条件に依って、XCR1保持APCにターゲティングされ得る。XCR1保持APCは、脾臓、リンパ節、および流入領域リンパ組織のみならず、胸腺、肝臓、肺、脳内、および粘膜表面下(例えば、消化管内)のような哺乳動物/ヒトの身体の全ての他の器官にも存在すると予想され得る。従って、薬学的化合物のターゲティングは、それぞれの組織への注射/適用によって達成され得る。
【0097】
本発明の好ましい態様において、医薬は、ワクチンおよび/またはアジュバントである。上に詳述されたように、ワクチンは、哺乳動物またはヒトの身体へ投与される細胞成分、ウイルス成分、細菌成分、真菌成分、寄生虫成分、または毒素成分、またはその他の抗原性成分からなる。または、ワクチンは、細胞成分、ウイルス成分、細菌成分、真菌成分、寄生虫成分、または毒素成分をコードするDNAまたはRNAとして投与されてもよく;体内に入った後、核酸はコードされたタンパク質へと体細胞により翻訳され、次いで、それが抗原として作用する。ワクチンは、しばしば、改善された抗原取り込み、抗原の延長された生物学的半減期、デポジット様効果、「デンジャーシグナル」の提供による自然免疫応答の活性化、サイトカインの誘導、DCの活性化および/または成熟、T細胞同時刺激分子のリガンドの誘導、およびその他を含む、多数の機序により、投与された抗原に対する免疫応答を有意に改善することができる化合物「アジュバント」と共に投与される。NK細胞またはT細胞のDCとの特異的な相互作用を改善する化合物も、アジュバントとして作用するであろう。多くの場合において、アジュバントは、免疫系に「デンジャーシグナル」(上記参照)を提供する病原体の成分を含有している。
【0098】
APC、特に交差提示APCにターゲティングされたワクチンは、健康な個体を感染から保護するため、健康な個体を免疫感作するために使用され得る(「保護的ワクチン」)。または、そのようなワクチンは、治療目的のために使用されてもよい。病原体に対する十分なTh1免疫応答を開始し得ないかもしれない感染個体は、強力かつ特異的なTh1応答、特に細胞障害性応答を誘発するよう設計されたワクチンにより予防接種され得、従って、感染を封じ込めまたは根絶することができるであろう(「治療的ワクチン」)。例は、マラリア、結核、リーシュマニア、プリオン病、オルソミクソウイルス、特にインフルエンザ、A型肝炎、B型肝炎、C型慢性肝炎、HIVおよびその他のレンチウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、特にC型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、パラミクソウイルス、多様な呼吸器ウイルスおよびその他のウイルス、または本明細書において特定されたその他の感染である。
【0099】
ワクチンは、公知の抗原性成分を有する腫瘍(例えば、黒色腫、前立腺癌)の発生から健康な個体を保護するためにも使用され得る(「腫瘍保護的ワクチン」)。または、強力なTh1免疫応答、特にTh1細胞障害性応答を誘発するそのようなワクチンは、既に腫瘍を発症した患者を治療するために使用され得る。そのような腫瘍の例は、ヒトウイルスにより誘導された腫瘍、特に、パピローマウイルスにより誘導された腫瘍、HCVにより誘導された腫瘍、B型肝炎ウイルスにより誘導された腫瘍、およびその他の慢性感染時に腫瘍を誘導するウイルスであろう。さらに、Th1免疫、特に、細胞障害性免疫のスーパーインダクション(superinduction)は、自然発生性の固形腫瘍(例えば、黒色腫、前立腺癌、乳癌、消化管の腺癌、肺癌)、および白血病のために望ましいであろう。そのような場合、患者は、腫瘍特異抗原に対する強力な細胞障害性Th1免疫応答を誘発するような様式でAPCへターゲティングされた公知の腫瘍抗原または自己の(切除された)腫瘍材料により処置されるであろう。
【0100】
いくつかのワクチンは、アレルギー個体の脱感作のために使用される。アレルギー個体は、環境的抗原に対するTh2過剰反応を発症しがちである。その結果として、鼻炎、結膜炎、食物アレルギー、毒液に対するアレルギー、およびアレルギー性喘息のような様々なアレルギー応答を発症する。それぞれのアレルゲンに対する、よりTh1傾向のある免疫応答に免疫バランスを傾けることを目標とした現在入手可能な脱感作スキームおよび処置は、完全には有効ではない。従って、それぞれのアレルゲンに対する、よりTh1指向の免疫を誘導する新しいアプローチは、高度に望ましい。これは、アレルゲンに対する効率的なTh1応答を誘発することができるAPC、特にDCへ、それぞれのアレルゲンをターゲティングすることを通して達成され得、Th1免疫系に同時ターゲティングされたアジュバントの使用を含み得る(「治療的脱感作」)。バランスをTh1免疫応答に傾ける前に、まず、APC集団へ特異的に毒素をターゲティングすることにより、この集団を削除することが有用であるかもしれない。アレルギー反応を発症する素因を有するが、未だアレルギー症状を発症していない個体にも、脱感作ワクチンを適用することができる(「防止的脱感作」)。
【0101】
同一の脱感作の原理が、自己抗原に対する免疫反応、特に、Th1に偏向した抗体または細胞性免疫反応により引き起こされる自己免疫疾患、例えば、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎、および自己抗原に対するTh1過剰反応に基づくその他の自己免疫疾患に適用され得る。そのような脱感作ワクチンは、免疫系およびAPCに「デンジャーシグナル」を提供しない製剤で適用されるであろう。または、脱感作ワクチンは、それぞれの自己免疫原を提示するDCの成熟を防止するか、または標的とされたDCの「未熟な」状態を誘導すらするような様式および製剤でターゲティングされてもよい。これを達成する一つの方式は、APC集団へ特異的に毒素をターゲティングすることによる、APC集団の一時的な削除を含み得る。これらの計画全体は、これらのDCと相互作用する抗原特異的T細胞に寛容原性シグナルを提供するような様式で、樹状細胞の状態を修飾することを目標とするであろう。そのような方式で、それぞれの(自己)抗原に対する免疫寛容が誘発されることが予想され得る。
【0102】
本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明の医薬は、ペプチドに対する記憶免疫応答、特にTh1応答、特にTh1細胞障害性応答を誘導するためのものである。
【0103】
免疫原性予防接種が望まれる条件においては、免疫原は、「デンジャーシグナル」(上記参照)の環境でXCR1保持哺乳動物/ヒトAPCへターゲティングされなければならない。ターゲティングされた免疫原は、ワクチン製剤で適用され得、この場合、ターゲティングされた免疫原およびデンジャーシグナル型アジュバントが製剤(例えば、乳剤)中で混合され、次いで適用される。または、好ましくは、デンジャーシグナル型アジュバントは、ターゲティングされた免疫原に直接カップリングされ、従って、記載されたようなターゲティング剤を使用して、XCR1保持APCへ同時ターゲティングされる。
【0104】
免疫原性予防接種に関する本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明の医薬は、腫瘍および/または感染を防止または処置するためのものである。
【0105】
免疫原性ワクチンは、特に、哺乳動物/ヒトにおいて、腫瘍の防止または処置のために使用され得る。ターゲティングされる免疫原は、腫瘍抗原である。これは、公知の腫瘍抗原であり得;公知の腫瘍抗原の例は、黒色腫抗原、前立腺抗原、および腺癌抗原である(上記も参照のこと)。その場合、腫瘍抗原は、腫瘍に対する免疫反応を誘導することができるタンパク質またはペプチドのモエティとして適用され得る。公知の腫瘍抗原を有しない既に確立されている腫瘍の場合には、切除された腫瘍材料からの患者特異的な組織調製物が、腫瘍抗原調製物として使用され得る。ターゲティングされる免疫原は、慢性感染時に腫瘍を誘導するウイルス、マイコプラズマ、または細菌であってもよい。そのような感染因子の例は、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、両方の誘導する肝臓癌、および子宮頚部癌を誘導するHPV、およびその他である。免疫原性ワクチンの場合には、「デンジャーシグナル」型アジュバントの同時適用が必要である。このアプローチは、二つの異なる設定において使用され得る。第一に、それは、腫瘍発症の傾向のある個体において、公知の腫瘍抗原を用いて、防止的な様式で、腫瘍または腫瘍誘導病原体に対して哺乳動物/ヒトに予防注射をするために使用され得る。そのような場合、腫瘍成分または腫瘍誘導に対して発達したTh1免疫が、腫瘍の発達を防止するであろう。第二の設定において、既に腫瘍を発症した患者は、腫瘍を根絶することを目標として、腫瘍および/または腫瘍誘導病原体に対する効率的な免疫応答、特に、Th1(細胞障害性)免疫応答を開始させるため、治療的な様式で予防接種される。この型のアプローチは、多様な腫瘍型、とりわけ、黒色腫、前立腺癌、乳癌、消化管の癌、肺癌、肉腫、白血病、リンパ腫、神経膠腫、骨髄腫、肉腫、サルコイドーシス、ミクログリオーマ(microglioma)、髄膜腫、星状細胞腫、乏突起細胞腫、ホジキン病に適用され得る。
【0106】
免疫原性ワクチンは、特に、哺乳動物/ヒトにおいて、感染の防止または処置のために使用され得る。ターゲティングされる免疫原は、生きているか、弱毒化されているか、または死んでいる病原体、即ち、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、マイコプラズマ、不活化された毒素、またはその免疫原性成分である。免疫原は、病原体に対する免疫を誘導するタンパク質またはペプチドのモエティとしても適用され得る。免疫原性ワクチンの場合には、病原体またはその成分が必要な「デンジャーシグナル」を既に提供していない限り、「デンジャーシグナル」型アジュバントの同時適用が一般に必要である。そのような「デンジャーシグナル」は、多様な成分により提供され得、例は、LPS、非メチル化CpG、高移動度タンパク質B1、熱ショックタンパク質、およびその他である(上記参照)。このアプローチは、多様な病原体に適用され得る。例は、結核、ヘリコバクター、マラリア、リーシュマニア、プリオン病、オルソミクソウイルス、特にインフルエンザ、コロナウイルス、特にSARSウイルス、ウエストナイルウイルス、B型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびその他のレンチウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、ブニヤウイルス、カリシウイルス、フィロウイルス、フラビウイルス、特に、C型肝炎ウイルス、パラミクソウイルス、多様な呼吸器ウイルス、ならびに封じ込めおよび根絶のために効率的なTh1免疫応答、特に、Th1細胞障害性応答を必要とするその他のウイルスである。
【0107】
免疫原性ワクチンは、特に、哺乳動物/ヒトにおいて、アレルギー性疾患の防止または処置(脱感作)のために使用され得る。ターゲティングされる免疫原はアレルゲンである。アレルゲンの例は、チリダニアレルゲン、花粉アレルゲン、草アレルゲン、毒液アレルゲン、食物アレルゲン、およびその他である。アレルゲンは、アレルゲンの免疫原性成分、またはアレルゲンに対する免疫反応を誘導することができるタンパク質もしくはペプチドのモエティとして適用されてもよい。免疫原性ワクチンの場合には、「デンジャーシグナル」型アジュバントの同時適用が必要である。目標は、多様な条件において、アレルゲンに対する個体の免疫応答を、Th2免疫パターンからTh1免疫パターンへと変化させることである。例は、アレルギー性喘息、その他のアレルギー性肺疾患、食物アレルギー、アレルギー性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、ポリープ症、およびその他のアレルギー条件である。このアプローチは、治療的予防接種として、既に確立されているアレルギーの条件において使用され得る(脱感作)。または、アレルギー反応の傾向のある個体が、アレルゲンに対する有害なTh2免疫反応パターンを発症しないよう、防止的な様式で、公知のアレルゲンに対して予防接種され得る。
【0108】
本発明のもう一つの好ましい態様において、本発明の医薬は、(ポリ)ペプチドに対する寛容を誘導するためのものである。
【0109】
所定の免疫原に対する、免疫ではなく寛容の発達が望まれる条件は、多数存在する。哺乳動物/ヒトの身体における免疫寛容の確立および維持において顕著な役割を果たすXCR1保持APCへ免疫原(即ち、寛容原)を特異的にターゲティングすることが初めて可能となったため、このことが可能となった。寛容の誘導は、臓器移植、自己免疫疾患、およびアレルギー条件において望ましい。これらの条件の下では、「デンジャーシグナル」は医薬中に存在するべきでない。
【0110】
好ましくは、医薬は、移植片拒絶、アレルギー、および/または自己免疫疾患を阻害するためのものである。
【0111】
寛容原性予防接種は、臓器移植において使用され得る。器官または組織のヒトレシピエントは、移植前に、デンジャーシグナルアジュバントの非存在下で、免疫原をXCR1保持APCへターゲティングすることにより、外来組織抗原に対して寛容化され得る。そのような場合の免疫原は、ドナーの細胞、ドナー細胞の成分、ペプチド、またはタンパク質であり得る。これらの条件の下で、宿主のTh1免疫系は、外来組織抗原に対して寛容になり、移植片を容認するであろう。このアプローチは、臓器移植(例えば、肝臓移植、心臓移植、肺移植、皮膚移植、腎臓移植)、骨髄移植、またはインスリン細胞移植、またはその他の外来組織移植において適用され得る。胸腺または骨髄への外来組織抗原の適用を通して、中枢性寛容が誘導されるであろう。末梢への免疫原の適用を通して、末梢性寛容が誘導されるであろう。
【0112】
寛容原性予防接種は、アレルギーの処置および/または防止のために使用され得る。アレルギー個体またはアレルギー反応の傾向のある個体は、デンジャーシグナルアジュバントの非存在下で、アレルゲンをXCR1保持APCへターゲティングすることにより、アレルゲンに対して寛容にされ得る。これは、アレルギー傾向のある個体、または既に確立されているアレルギーにおいて防止的な様式で行われ得る。ターゲティングされる免疫原は、アレルゲンまたはアレルゲンの一部分である。目標は、個体の免疫系を所定のアレルゲンに対して寛容にすることである。このアプローチは、重金属(ニッケル、クロム、その他)による感作のような、Th1免疫系によりアレルギー応答が駆動されるアレルギー条件のために適用され得る。このアプローチは、アレルギー性喘息、その他のアレルギー性肺疾患、食物アレルギー、アレルギー性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、ポリープ症、およびその他のアレルギー条件のような、アレルゲンまたは感作剤に対して、Th2免疫系およびTh1免疫系の両方を寛容化することが望まれる個体にも適用され得る。
【0113】
寛容原性予防接種は、自己免疫条件の処置および/または防止のために使用され得る。多くのヒト自己免疫疾患が、Th1自己免疫過程により駆動される。自己免疫個体または自己免疫反応の傾向がある個体を、自己免疫抗原に対して寛容にすることは望ましいであろう。これらの自己免疫抗原は、公知のものであるか(重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症、自己免疫性糖尿病の場合のように)、または予見可能な将来に決定されるものであってもよい。個体は、アジュバントの非存在下で、自己抗原をXCR1保持APCへターゲティングすることにより、自己抗原に対して寛容にされるであろう。このアプローチは、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎)、SLE、強直性脊椎炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎、およびその他のTh1により駆動される自己免疫条件において適用され得る。
【0114】
多くのアジュバントの欠点は、非指向的な様式で投与された時、体内で多数の細胞型に対してそれらが発揮する広範囲かつ非特異的な効果である。従って、例えば、アジュバントを免疫原とカップリングすることにより、アジュバントの効果をより特異的にするための試みがなされた。しかしながら、現在、有害な効果を最小化し、かつ最も効率的な抗原提示DC集団を選択的に標的とするため、アジュバントをDC、より具体的には交差提示DCへ選択的にターゲティングすることを可能にするであろう方法は利用可能でない。従って、アジュバントのそのようなターゲティングを開発する必要性がある。上に詳述されたように、XCR1リガンドを使用して、DCを特異的に標的とすることが可能になった。さらに、XCL1(ATAC)がCD8+ T細胞細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することが示された。
【0115】
従って、本発明のもう一つの局面は、特に、XCR1陽性抗原提示細胞の機能をモジュレートすることにより、対象において免疫応答を増強するための、XCL1または(上に定義されたような)その機能活性断片を含むアジュバントに関する。
【0116】
XCR1保持APCを誘引し、活性化し、かつその抗原提示能力を改善するXCL1の能力のため、XCL1は、デンジャーシグナル特性のない理想的なワクチンアジュバントである。ワクチンまたは薬学的製剤へのXCL1の添加は、哺乳動物/ヒト体内の適用部位へXCR1保持APCを誘引すると予想され得る。適用された免疫原の場合には、これは、XCR1保持APCにおける抗原の取り込みおよび提示、特に交差提示を改善し、T細胞およびB細胞の免疫応答を改善するであろう。適用の状況に依って、この免疫応答は、適用された免疫原に対するより高い程度の寛容をもたらすかもしれないし(非炎症条件、「デンジャーシグナル」なし)、または炎症条件で投与された場合には、適用された抗原に対する改善された免疫をもたらすことができる(「デンジャーシグナル」)。XCL1の薬学的化合物との同時投与は、この化合物のXCR1保持APCへの増加した取り込みをもたらすと予想され得る。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】10000個の細胞における発現へと規準化された、多様なマウス脾細胞集団のpolyA-mRNAの定量的PCRの後に観察されたXCR1コピー数を示す。CD11c+CD8+ DCのみが、有意な量のXCR1 mRNAを発現する。
【図2】XCL1によるXCR1保持DCの活性化を示す。CD8+CD11c+樹状細胞(DC)(A)またはCD8-CD11c+ DC(B)を、ポリL-リジンによりコーティングされたカバーガラス上に固定化し、fura-2/AM(2μM)を負荷した。細胞を、モノクロメータ支援ディジタルビデオ画像システムで画像化し、60秒目に100nM ATACによりチャレンジした。データは、三つの独立の実験で測定された27〜33個の単細胞(細線)における細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を表す。太線:測定された全ての細胞で平均化された平均[Ca2+]iシグナル。XCL1は、CD8+CD11c+樹状細胞において[Ca2+]iシグナルを誘導し(A)、CD8-CD11c+樹状細胞においては誘導しない(B)。
【図3】1〜1000ng/ml XCL1および500ng/ml CCL21の存在下での、インビトロトランスウェル走化性アッセイにおける、遊走した脾臓のCD8+ DCおよびCD8- DCの割合を示す。CD8+ DCのみがXCL1に応答して遊走する。
【図4】100ng/ml XCL1および500ng/ml CCL21の存在下での、インビトロトランスウェル走化性アッセイにおける、遊走したリンパ節のCD8+ DCおよびCD8- DCの割合を示す。CD8+ DCのみがXCL1に応答して遊走する。
【図5】それぞれ、1〜1000ng/ml XCL1、または200ng/ml CXCL12、100ng/ml CCL21、もしくは200ng/ml CXCL9の存在下での、インビトロトランスウェル走化性アッセイにおける、脾臓のB細胞、T細胞、およびNK細胞の遊走挙動を示す。いずれの細胞集団もXCL1に応答して遊走しない。
【図6】三つのエキソン(番号が付けられた黒ボックス)を含有している内因性ATAC遺伝子座(上)、ターゲティングベクターATACmut/pTV-0(中)、および標的とされた遺伝子座の予想される構造(下)の地図を示す。制限部位:X、XbaI;Sc、SacI;E1、EcoRI。選択マーカー:neo、ネオマイシン耐性;tk、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼ。内因性ATAC遺伝子座および標的とされたATAC遺伝子座の予想されるXbaI制限断片のサイズが示される(それぞれ16kbおよび22.5kb)。
【図7】フローサイトメトリーによる脾臓CD11c+CD8+ DCの分析のためのゲーティング戦略を示す。染色された細胞表面マーカーが軸上に示される。CD11c+MHC-II+細胞は、死細胞(DAPI+、7D)およびCD19+細胞(7E)がゲートアウトされた後、脾臓有核細胞のおよそ4%を占めていた。これらのCD11c+MHC-II+細胞は、CD11b+およびCD8+(樹状)細胞へとさらに細分された(7G)。CD11c+CD8+(7H)およびCD11c+CD11b+(7I)(樹状)細胞についての蛍光シグナル(CFSE)が示される。
【図8】CSFEで標識された細胞系の注射後の脾臓CSFE+ DCの割合を示す。CD8+ DCで入手されたデータはAに示され、CD8- DCで入手されたデータはBに示される。XCL1は、CD8+ DCへの細胞(抗原)取り込みを有意に改善する。
【図9】PBS、DEC-205-OVA、またはDEC-205-OVA/α-CD40の注射後3日目のレシピエントマウスの脾臓におけるOT-I細胞の割合を示す。野生型マウス(黒丸)においては、ATAC-KOマウス(白丸)と比較して、より高い割合が見られる。
【図10】3日目にレシピエントマウスの脾臓から単離され、インビトロで再刺激されたIFN-γ発現OT-I細胞の割合を示す。IFNγ分泌OT-I細胞のより高い割合が、ATAC-KOマウス(白丸)と比較して、野生型マウス(黒丸)において見られ、このことは、T細胞の分化に対するXCL1のアジュバント効果を示している。
【図11】mAb 6F8によるヒトXCR1タンパク質の免疫沈降物(i.p.)のウェスタンブロットを示す。レーン1:マーカーレーン2:トランスフェクタント「5'c-myc/hATACR/P3X」由来のmAb 6F8によるi.p.レーン3:P3X野生型系由来のmAb 6F8によるi.p.レーン4:トランスフェクタント「3'c-myc/hATACR/P3X」由来のmAb 6F8によるi.p.レーン5:トランスフェクタント「hATACR/300-19」由来のmAb 6F8によるi.p.レーン6:300-19野生型系由来のmAb 6F8によるi.p.
【図12】組換えマウスXCL1の異なる調製物が負荷されたクーマシー染色SDS-PAGEを示す。レーン1:マーカーレーン2:金属アフィニティ精製されたXCL1-SUMO融合タンパク質レーン3:SUMOプロテアーゼによる消化後のXCL1-SUMO融合タンパク質レーン4:精製されたXCL1
【図13】それぞれC57BL/6またはATAC-KOマウスへの養子移入後のOT-I T細胞およびATAC-KO OT-I T細胞のOVA特異的細胞障害性を示す。移入後1日目に免疫感作のためOVA/300-19細胞が使用され、インビボ細胞障害性アッセイが6日目に実施された。
【図14】脾臓DCにおけるXCR1の発現を示す。
【0118】
実施例
実施例1:CD8+ DCにおけるXCR1 mRNAの排他的な検出
C57BL/6マウス由来の脾臓を、37℃で、振とう水浴中で、25分間、2%(v/v)FBS(低内毒素;PAA,Pasching,Austria)、500μg/mlコラゲナーゼD、および20μg/ml DNaseI(いずれも、Roche Diagnostics GmbH,Penzberg,Germany)を含有しているRPMI1640において消化した。懸濁物を10mM EDTAに調整し、さらに5分間インキュベートした。細胞を70μmメッシュ(BD Biosciences,San Jose,CA,USA)に通し、MACS-PBS(PBS、2mM EDTA、0.5%(w/v)BSA(低内毒素))で濯いだ。4℃での380×gによる沈殿の後、細胞をMACS-PBSに懸濁させた。
【0119】
B細胞、T細胞、NK細胞、顆粒球、またはマクロファージの磁気単離のため、抗CD11cミクロビーズ(Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,Germany)を用いたネガティブ選択により、消化された脾臓の細胞からDC(樹状細胞)を枯渇させた。全て製造業者の指示(Miltenyi Biotec(前記))に従い、B細胞を抗CD19ミクロビーズによるポジティブ選択により精製し、全T細胞を抗CD90ミクロビーズにより、NK細胞を抗DX5ミクロビーズにより、顆粒球を抗Ly6Gミクロビーズにより、マクロファージをビオチンコンジュゲートmAb F4/80(ATCC,Manassas,VA,USA)および抗ビオチンミクロビーズ(Miltenyi Biotec(前記))により精製した。DCの単離のため、消化された脾臓の細胞を、1.069g/ml Nycodenz溶液(Axis-Shield,Oslo,Norway)に重層し、4℃で800×gで20分間遠心分離した。低密度細胞を中間層から採集し、MACS-PBSで1回洗浄した。製造業者の指示(Miltenyi Biotec(前記))に従い、抗CD11cミクロビーズによる磁気細胞ソーティングにより全DCを精製した。簡単に説明すると、非特異的な結合を防止するため、細胞を、200μg/ml抗FcRII/III(mAb 2.4G2;ATCC(前記))および500μg/ml精製ラットIgG(Nordic,Tilburg,The Netherlands)を含有しているMACS-PBSと共に4℃で5分間プレインキュベートした。CD11cミクロビーズをさらに15分間添加し、MACS-PBSで2回洗浄した。細胞を、MidiMACS Seperator磁石(Miltenyi Biotec(前記))に取り付けられたLSカラム(Miltenyi Biotec(前記))に負荷し、3回洗浄した;CD11c陽性細胞は、カラム上に保持され、磁界からカラムを除去した後、5mlのMACS-PBSを添加することにより溶出した。CD11c+脾細胞を、4℃で20分間、200μg/ml抗FcRII/III(mAb 2.4G2)、500μg/ml精製ラットIgG(いずれも、ブロッキング試薬)を含有しているFACS-PBS(PBS、2.5%(v/v)FBS、0.1%(w/v)NaN3)中で、抗CD8(mAb 53-6.72;ATCC(前記))、抗CD11b(mAb 5C6;ATCC(前記))、抗CD11c(mAb N418;ATCC(前記))、および抗MHCクラスII(mAb M5/114.15.2;ATCC(前記))により染色した。洗浄後、細胞を、Aria Cell Sorter(BD Bioscience)上で、>95%の純度でCD11c+CD8- DCおよびCD11c+CD8+ DC亜集団へとソートした。
【0120】
プロトコルに従い、High Pure RNA Isolation Kit(Roche Diagnostics GmbH(前記))を使用して、全RNAを調製した。簡単に説明すると、細胞(105〜107)を遠心分離により収集し、200μl PBSに懸濁させ、400μlの溶解/結合緩衝液と混合した。溶解物をフィルターチューブへ適用し、8000×gで15秒間遠心分離した。フィルターを、500μlの洗浄緩衝液Iで1回洗浄し、残存DNAを除去するためにDNaseIと共に15分間インキュベートした。500μlの洗浄緩衝液Iで洗浄し、洗浄緩衝液IIで2回洗浄した後、RNAを、50μlの溶出緩衝液により2回溶出させた。合わせた溶出液のRNA濃度および純度を、Agilent 2100バイオアナライザー(Agilent Technologies,Waldbronn,Germany)で、そして測光読み取りにより決定した。
【0121】
μMACS mRNA Isolationキット(Miltenyi Biotec(前記))を用いて、105〜107個の細胞から小規模mRNAを単離した。細胞沈殿物を、1mlの溶解/結合緩衝液に溶解させ、3分間13000×gで遠心分離した。50μlのオリゴ-(dT)ミクロビーズの添加後、溶解物を、μMACS分離磁石に取り付けられたμMACSカラムに負荷した。カラムを、200μlの溶解/結合緩衝液で2回、洗浄緩衝液で4回濯いだ。微量の残存DNAを、1分間、5U DNaseI(Promega,Madison,WI,USA)により消化することにより除去した。消化されたDNAおよびDNaseを除去するため、洗浄工程を繰り返した。予熱された溶出緩衝液(120μl、70℃)を、精製されたmRNAを溶出させるために使用した。上記のようにして、品質管理を実施した。
【0122】
製造業者の指示(Promega,Madison,WI,USA)に従い、Reverse Transcription Systemにより、全RNAまたはmRNAをcDNAへ逆転写した。簡単に説明すると、0.1〜1μgの全RNAまたは1〜10ngのポリ(A)+mRNAを、70℃で10分間変性させ、その後、直ちに冷却した。RTで15分間オリゴ(dT)15プライマーおよびAMV逆転写酵素を用いて逆転写を実施し、その後、42℃でインキュベートした。95℃で5分間の加熱工程、それに続く5分間4℃でのインキュベーションにより反応を中止した。次いで、XCR1コピー上の含有量について定量的PCRによりcDNAを分析し、β2ミクログロブリンを内部標準として使用した。マウスXCR1の増幅のため、400nM順方向プライマー
200nM逆方向プライマー
および150nMハイブリダイゼーションプローブ
を使用した。マウスβ2ミクログロブリンを、300nM順方向プライマー
300nM逆方向プライマー、
および150nMハイブリダイゼーションプローブ
を使用して増幅した。mRNA/cDNAコピー定量化のための標準物を作成するため、特異的XCR1遺伝子断片を増幅し、Zero Backgroundクローニングキット(Invitrogen,Groningen,The Netherlands)を使用してpZErOベクターへクローニングした。qPCRのため、20μl PCR反応において、プライマーを、ROXを含む10μlのABsolute QPCR Mix(ABgene,Epsom,UK)および10分の1のcDNAと混合した。ABI Prism 7000または7700 Sequence Detection Systems(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)で、95℃における15分間の初期酵素活性化、それに続く50サイクル(95℃15秒;60℃1分)により、PCRを実施し定量化した。定量化のため、標準曲線を作成するため、100〜108コピーの範囲のクローニングされた遺伝子断片のいくつかの希釈物をパラレルに実行した。結果は以下の表1に示される。
【0123】
(表1)mRNAコピー数の定量化
【0124】
実施例2:XCL1によるCD8+ DCの選択的活性化
実施例1に記載されたようなフローソーティングにより、>95%の純度で新鮮にソートされたCD8+ DCおよびCD8- DCに、2μM fura-2/AM(Molecular Probes,Brattleboro)を補足し、加湿雰囲気において、30分間、37℃および5%CO2で、ポリL-リジンコーティングされたカバーガラス上に沈着させた。付着細胞を、128mM NaCl、6mM KCl、1mM MgCl2、1mM CaCl2、5.5mMグルコース、10mM HEPES、0.2%(w/v)BSAを含有しているHEPES緩衝溶液で灌流し、倒立顕微鏡(Axiovert 100,Zeiss,Jena,Germany)のステージへマウントした。XCL1(100nM合成マウスXCL1(Dictagene,Lausanne,Switzerland))の適用の間、fura-2を、340nm、358nm、380nm、および480nmの単色光により連続的に励起し、蛍光放出を、冷却CCDカメラ(TILL-Photonics,Grafelfing,Germany)により512nmロングパスフィルターを通して検出した。CD8+ DCと結合したFITC標識抗体の弱い干渉シグナルを排除し、スペクトルアンミキシング(Lenz J.Cell Biol.2002,179:291-301)の後に[Ca2+]iを計算した。データは、三つの独立の実験において測定された45〜56個の単細胞(黒線)における細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を表す。太黒線:測定された全細胞で平均化された平均[Ca2+]iシグナル。結果は、XCL1が、CD8+ DCにおいて強いCa2+シグナルを誘導するが(図2A)、CD8- DCにおいては誘導しない(図2B)ことを証明している。従って、結果は、CD8+ DCを特異的に活性化するXCL1の能力を証明しており、従って、XCL1は、XCR1保持APCのためのアジュバントとして作用する。
【0125】
実施例3:XCL1は、CD8+ DCの走化性を誘導するが、CD8- DC、B細胞、T細胞、またはNK細胞の走化性は誘導しない
製造業者のプロトコル(Miltenyi Biotec,Bergisch Gladbach,Germany)に従って、CD11cミクロビーズを使用して、磁気分離により、C57BL/6脾細胞から、CD11c+細胞を高度に濃縮した。CD11c+細胞(0.5〜1×106)を100μlの培地に懸濁させ、5μm孔ポリカーボネート膜を含有している6.5mmのTranswell Permeable Support(Corning Costar Co.,Acton,MA,USA)に移した。Transwell Permeable Supportを、化学合成XCL1/ATAC(Dictagene,Lausanne,Switzerland)の段階希釈物または500ng/ml CCL21(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21;R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)(後者は陽性対照として使用された)のいずれかを含有している600μlの培地が充填された24穴プレート(Corning Costar Co.(前記))に挿入し;全ての実験をデュプリケートで実施した。細胞を、細胞インキュベーター内で37℃で120〜150分間インキュベートした。膜の下側を軽く濯ぎ、下室内の細胞を、CD8(53-6.72-FITC;ATCC(前記))、CD11b(5C6-PE;ATCC(前記))、およびCD11c(N418-Cy5;ATCC(前記))の発現についてフローサイトメトリーにより分析した。各ウェルからの細胞懸濁物を明確な時間(5分)分析し、生細胞(DAPI陰性)の絶対数を決定した。下室内の細胞数を入力細胞数で割ることにより、遊走した細胞の割合[遊走細胞数/入力細胞数×100]を計算した。代表的な実験が図3に示される。XCL1に応答して、CD8+ DCは、特徴的な走化遊走の鐘形曲線を示し、1ng/mlの濃度では遊走せず、100ng/mlで最大遊走となり、1000ng/mlで減退応答が見られた。CD8- DCはXCL1に応答しなかったが、CCL21の存在下では遊走した。
【0126】
末梢リンパ節由来のDCを、組織のコラゲナーゼ消化により単離し、続いて、上記のようなCD11cミクロビーズによるポジティブ磁気ソーティングを行った。100ng/mlの濃度のXCL1および500ng/mlの濃度のCCL21を使用して、上記のように、Costar Transwell Chamberで、走化性アッセイを実施した。細胞をフローサイトメトリーにより分析し、遊走した細胞の割合を上記のように計算した。再び、CD8+ DCのみがXCL1に応答して遊走し、CD8- DCはCCL21にのみ応答した(図4)。
【0127】
その他の脾細胞集団の走化応答を調査するため、製造業者の指示に従い(実施例1も参照のこと)、C57BL/6脾細胞から、抗CD90コンジュゲートビーズを用いたポジティブ磁気選択によりT細胞を単離し、抗49bコンジュゲートビーズによりNK細胞を単離し、ビオチン化抗CD19抗体(クローン1D3)および抗ビオチンコンジュゲートビーズの組み合わせによりB細胞を単離した。XCL1/ATACの段階希釈物を使用して、上記のように、走化性アッセイを実施した。B細胞についての陽性対照は、200ng/mlのCXCL12(ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド12)、T細胞については100ng/mlのCCL21(ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21)、NK細胞については200ng/mlのCXCL9(ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド9)(全て、R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)であった。B細胞、T細胞、またはNK細胞は、走化性を持ってXCL1/ATACに応答しなかったが、それぞれの陽性対照は、これらの細胞集団において、有意な細胞遊走を誘導した(図5)。これらの実験は、XCL1が、CD8+ DCにおいて走化性を誘導するが、CD8- DC、T細胞、B細胞、またはNK細胞においては誘導しないことを証明した。従って、これらの実験から、XCL1がXCR1保持APCのための特異的なアジュバントとして作用することが証明された。
【0128】
実施例4:XCL1により容易にされたCD8+樹状細胞への細胞/抗原取り込み
ATAC遺伝子のエキソン2および3を、逆方向ネオマイシン遺伝子と交換する、ターゲティングベクターを使用した相同組み換えによる、胚性幹細胞におけるマウスATAC遺伝子の破壊により、XCL1欠損マウス(「ATAC-KO」)を作成した(図6)。サザンブロッティングにより同定されたように、正確にターゲティングされた胚性幹細胞を、キメラマウスの作成のために使用した。変異対立遺伝子の生殖系列への伝達およびヘテロ接合性ATAC欠損マウスの同種間交配の後、ホモ接合性ATAC欠損マウスが、F2世代において予想されるメンデルの法則の頻度で誕生し、それらを10世代にわたりC57BL/6バックグラウンドへ戻し交配した。標準的な方法によりマウスXCL1(GenBank Acc.No.:NM_008510)の完全コーディング領域がクローニングされたBCMGSneoベクター(Karasuyama et al.,1989,J Exp Med 169,13-25)により、電気穿孔により、マウスプレB細胞系300-19(Alt et al.,1981,Cell 27,381-90)をトランスフェクトした。G418含有選択培地中でのサブクローニングの後、細胞内フローサイトメトリー(Dorner et al.,2002,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,6181-86)により決定されるような、マウスXCL1/ATACを安定的に分泌する細胞系(muATAC/300-19と呼ばれる)が入手された。野生型300-19(「wt/300-19」)細胞およびmuATAC/300-19細胞を、37℃で10分間、10μM 5,6-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE,Molecular Probe)と共にインキュベートすることにより蛍光標識し、洗浄し、雌XCL1欠損C57BL/6(「ATAC-KO」)マウスに静脈内注射した(各10×106細胞);対照マウスにはPBSのみを注射した。12時間後、マウスを屠殺し、脾臓を摘出し、標準的な方法に従って脾細胞を単離した。脾細胞を、標準的な方法により、CD3、CD4、CD8、CD11b、CD11c、CD19、MHC II、およびNK1.1について染色し、データの評価のため、FlowJo(Tree Star Inc.,Ashland,OR,USA)を使用して、LSR II(BD Biosciences)フローサイトメーターでの分析(結果は図7に示される)により、CSFEシグナルを細胞表面マーカーと相関させた。結果は、既に、300-19野生型細胞が脾臓においてCD8+ DCにより取り込まれていることを証明した(図8A)。しかしながら、XCL1トランスフェクト300-19細胞(「muATAC/300-19」)は、明白に、より高度に取り込まれた(およそ50%の増加)(図8A)。これらの結果は、XCL1が、CD11c+CD8+ DCによる抗原取り込みを容易にすることを証明した。脾臓CD11c+CD8- DCによる細胞取り込みは観察されなかった(図8B)。
【0129】
実施例5:インビボの寛容または免疫の誘導の際のCD4+ T細胞によるATACの発現
5〜7×106個のKJ1-26+トランスジェニックDO11.10 CD4+ T細胞(Murphy et al.,1990,Science 250,1720-3)を含有している脾細胞を、同一遺伝子のBALB/cマウスに養子移入した 。これらのトランスジェニックDO11.10 CD4+ T細胞は、ニワトリオボアルブミン(OVA)ペプチド323-339
に特異的である。足蹠への100μg OVAまたは100μg OVA+アジュバントLPS(10μg)により、レシピエントマウスを免疫感作した。または、静脈内注射された2mg OVAにより、レシピエントマウスを免疫感作した。OVA特異的KJ1-26+CD4+ T細胞を、フローサイトメトリー細胞ソーティングにより、流入領域膝窩リンパ節(足蹠OVA注射の場合)または全末梢リンパ節(静脈内OVA注射の場合)から、14時間後、24時間後、または48時間後にレシピエントから回収した(純度>97%)。回収されたトランスジェニックT細胞から全RNAを単離し、カスタムTaqMan Low Density Array(Applied Biosystems)を使用した遺伝子発現分析に供した。入手されたデータは、表2にリストされる。
【0130】
14時間、24時間、および48時間の全ての実験セットアップにおいて、Ct値(定量的PCRを使用した場合に入手されるパラメーター)は、0時点対照と比較しておよそ5の値だけ増加した。この増加は、全ての実験条件における、トランスジェニックT細胞のインビボ活性化の際のXCL1 mRNA発現のおよそ30倍の増加を表す。これらのデータは、XCL1が、免疫原性条件下でも、寛容原性条件下でも、免疫系により発現され利用されることを示す。従って、これらのデータは、XCL1が、(「デンジャーシグナル」の存在下で)免疫/記憶を達成するためにも、または(「デンジャーシグナル」の非存在下で)寛容を達成するためにも、物質の送達のために使用され得ることを示す。
【0131】
(表2)
【0132】
実施例6:インビボのCD8+ DCと相互作用するCD8+ T細胞による、XCL1により媒介され改善された抗原認識
ATAC-KOマウス(実施例4を参照のこと)を、C57BL/6バックグラウンドへ10回戻し交配し、次いで、OT-Iトランスジェニックマウスへ戻し交配した(「OT-I ATAC-KO」)。OT-Iトランスジェニックマウスは、ニワトリオボアルブミン(OVA)(Hogquist et al.,1994,Cell 76,17-27)に由来するSIINFEKLペプチド(SEQ ID NO: 15)(オボアルブミンの8アミノ酸エピトープ)に特異的なトランスジェニックT細胞受容体を発現する。2×106個のOT-I T細胞を含有している全脾細胞を、静脈内(i.v.)注射により同一遺伝子C57BL/6レシピエントマウスへ養子移入した。平行して、2×106個のOT-I ATAC-KO T細胞を含有している全脾細胞を、同一遺伝子C57BL/6 ATAC-KOレシピエントマウスへ養子移入した。全ての場合に、雌のドナーマウスおよびレシピエントマウスを使用した。細胞移入の24時間後、以前に記載されたようにして(Bonifaz et al.,2002,J.Exp.Med.196,1627-38)、CD8+ DCへの抗原の優先的な送達を達成するため、抗DEC205抗体とコンジュゲートした100ngのOVA(「DEC-205-OVA」)により、レシピエントマウスをチャレンジした。
【0133】
製造業者のプロトコル(Pierce Chemical Co.)に従い、1mg 抗DEC-205 mAb NLDC-145(Georg Kraal,Amsterdamより入手された)を、2mg SMCCにより活性化されたOVAと共にインキュベートすることにより、DEC-205-OVAを作成した。コンジュゲートしていないOVAを除去するため、試薬のプロテインG沈殿を実施し、抗体1mg当たりのコンジュゲートしていないOVAの量を、クーマシー染色非還元SDSゲルを分析することにより慎重に決定した。DEC-205-OVAを200μlの容量でi.v.適用した;対照マウスはPBSを受容した。いくつかのマウスには、「デンジャーシグナル」の非存在下で寛容原性効果(Bonifaz et al.,2002,J.Exp.Med.196,1627-38)を有するDEC-205-OVA単独を注射した。他のマウスには、6μgの抗CD40抗体FGK(Ton Rolink,Baselより入手された)と組み合わせられたDEC-205-OVAを注射した(抗CD40 mAbがDCに「デンジャーシグナル」を提供する)(Bonifaz et al.,2002,J.Exp.Med.196,1627-38)。DEC-205-OVA注射の3日後、マウスを屠殺し、脾細胞を標準的な方法により、CD3、CD8、CD90.1、およびMHC II発現について染色し、OT-I CD8+ T細胞の存在を決定するため、FlowJoソフトウェアを使用して、LSR IIフローサイトメーターで分析した。さらに、屠殺されたマウスからの脾細胞を、5時間、5μg/mlブレフェルジンAの存在下で、50ng/mlのペプチドSIINFEKLと共にインビトロでインキュベートした。この期間の後、OT-I T細胞およびOT-I ATAC-KO T細胞を、標準的な方法に従い、細胞内フローサイトメトリーにより、IFN-γの分泌について分析した。結果は、XCL1の非存在下では、CD8+OT-I T細胞のCD8+ DCとの相互作用が、寛容原性条件下(抗CD40 mAbなし)または免疫原性条件下(抗CD40 mAbの添加)で、T細胞の活性化および拡大の低下をもたらすことを証明した(図9)。同時に、XCL1の欠如は、寛容原性条件下でも、免疫原性条件下でも、CD8+ T細胞のIFN-γ分泌エフェクターT細胞への分化の低下をもたらす(図10)。両結果は、CD8+ T細胞と相互作用するCD8+ DCに対するXCL1の活性化効果およびアジュバント効果を証明している。
【0134】
実施例7:ヒトXCR1(hXCR1)に対するモノクローナル抗体の作成
雌BALB/cマウスを、hXCR1の最初の31個のN末端アミノ酸を表すペプチド
により免疫感作した。ペプチドのN末端を、グルタルアルデヒドを使用して、キーホールリンペットヘモシアニンとカップリングさせた(31-N-hXCR1-KLH;P.Henklein,Charite,Berlinによる合成)。初回免疫感作を、完全フロイントアジュバント中の31-N-hXCR1-KLH(30μgの腹腔内適用および30μgの皮下適用)により実施した。3〜4週間の間隔の後、2回、不完全フロイントアジュバント中の50μg 31-N-hXCR1-KLHの腹腔内適用によりマウスを追加刺激した。2回目の追加刺激の6週間後、生理食塩水中のウシ血清アルブミン(31-N-hXCR1-BSA)と結合した31-N-hXCR1ペプチド(50μg)をマウスに静脈内注射した。3日後、モノクローナル抗体作成のための標準的なプロトコルに従い、マウスを屠殺し、脾細胞を骨髄腫系P3X63Ag8.653と融合させた。ハイブリドーマ上清のスクリーニングを、標準的なELISAアッセイにおいて、96穴プレートに吸着したカップリングしていない31-N-hXCR1ペプチドを使用して実施した。一つのハイブリドーマ(6F8)が、ELISAアッセイにおいて、強く一貫したシグナルを与え;従って、そのハイブリドーマをサブクローニングし、6F6抗体をhXCR1のさらなる特徴決定のために使用した。この目的のため、3'末または5'末のいずれかでc-mycエピトープEQKLISEEDL(SEQ ID NO:19)によりタグ化されるような様式で、hXCR1/hATACR(GenBank Acc.No.:L36149)の全コーディング領域をベクターBCMGSneo(前記)にクローニングすることにより、いくつかのhXCR1トランスフェクタントを作成した。続いて、マウス骨髄腫系P3X63Ag8.653を、いずれかのバージョンのベクターにより電気穿孔によりトランスフェクトし、二つのトランスフェクトされた細胞系「5'c-myc/hATACR/P3X」および「3'c-myc/hATACR/P3X」を、G418含有選択培地にサブクローニングした後、確立した。Dr.Bernhard Moser(Bern,Switzerland)より入手されたhXCR1によりトランスフェクトされたマウス細胞系(「hATACR/300-19」)も、研究に含まれた。mAb 6F8の上清を、様々な細胞系からhXCR1タンパク質を免疫沈降させるために使用した(図11)。この目的のため、トランスフェクタント「5'c-myc/hATACR/P3X」、「3'c-myc/hATACR/P3X」、および「hATACR/300-19」、ならびにそれぞれの野生型系からの溶解物を、標準的な方法に従って、各々5〜10×106個の細胞から作成した(溶解緩衝液:50mMトリス/HCl(pH 8)、150mM NaCl、1mM EDTA、+1%(v/v)Nonident P-40、lmM PMSF、10μMロイペプチンA、lμMペプスタチン、10μg/mlアプロチニン)。これらの溶解物を、予備浄化の後、標準的な方法に従い、mAb 6F8上清(5〜10ml)と共にインキュベートし、プロテインGビーズにより免疫沈降させた。標準的な方法に従い、免疫沈降物をSDS緩衝液中で変性させ、還元12%SDSゲル上で分離し、Immobilon P膜(Millipore)にエレクトロブロットした。ブロットを、ブロッキング緩衝液で2500倍希釈されたポリクローナルウサギ抗hXCR1血清(標準的なプロトコルを使用して、hXCR1のN末端を表すペプチド
に対して作成された)により染色し、ビオチンとカップリングしたヤギ抗ウサギIgG(ブロッキング緩衝液で5000倍)、アビジン-アルカリホスファターゼ、およびWestern Light/CDP-Star検出系(Tropix)を使用して現像した。光シグナルの検出は、XOMatARフィルム(Kodak)により行った。ウサギ抗hXCR1血清は、11週間にわたり、完全フロイントアジュバント中の250μgの31-N-hXCR1ペプチドにより、3回、ウサギを免疫感作することにより作成された。
【0135】
実施例8:生物活性型の組換えマウスXCL1の作成
インビボで、ネイティブマウスXCL1は、N末端バリンを有するタンパク質をもたらす、シグナルペプチドのタンパク質分解除去により作成される(Dorner et al.,1997,J.Biol.Chem.272,8817-23)。N末端バリンから開始する対応する組換えマウスXCL1を作成するため、全長マウスATACのアミノ酸22〜114を、標準的なDNA組換え技術および発現ベクターpET SUMO(Invitrogen,Groningen,Netherlands)を使用して、ヒスチジンタグ化SUMOタンパク質のC末端と融合させた。融合タンパク質を、標準的なプロトコルを使用して大腸菌において発現させ、製造業者のプロトコルに従い、固定化金属アフィニティクロマトグラフィ(Ni-NTA Superflow,Qiagen,Hilden,Germany)により精製した。融合タンパク質の部位特異的な切断を、37℃で3時間、SUMOプロテアーゼ(Invitrogen)と共にインキュベートすることにより達成した。ヒスチジンタグ化SUMO融合部分を除去するため、2回目の固定化金属アフィニティクロマトグラフィ工程を実施した。このプロトコルを使用して、生物活性型の組換えマウスXCL1タンパク質が、高い収率および純度で作成された(図12)。
【0136】
実施例9:ATAC-KO OT-Iと比較して増強されたWT OT-Iによる細胞障害性
CD4、CD11b、CD11c、NK1.1、およびB220に対する抗体を使用した他の脾細胞集団の磁気枯渇により、OT-IマウスまたはATAC-KO OT-Iマウスの脾細胞から、OVAペプチドに特異的なトランスジェニックCD8+ T細胞を精製した。OT-I T細胞またはOT-I ATAC-KO T細胞(3×105個)を、それぞれ、同一遺伝子のC57BL/6またはATAC-KOマウスへ養子移入した。両方のマウス群を、OVAによりトランスフェクトされた3×106個の300-19細胞(「OVA/300-19」)により24時間後に免疫感作した。OVA/300-19細胞は、標準的な方法により、OVAの短縮されたコーディング領域(アミノ酸138-386に相当;GenBank Acc.No.:NM_205152)がクローニングされたBCMGSneoベクター(Karasuyama et al.,1989,J Exp Med 169,13-25)による野生型300-19細胞の電気穿孔により作成された。OVA/300-19細胞による免疫感作後6日目、以前に記載されたようにして(Romano et al.,2004,J.Immunol.172,6913-6921)、インビボ細胞障害性アッセイを実施した。簡単に説明すると、C57BL/6マウスの脾細胞を単離し、培地単独で、または10μMの特異的OVAペプチドSIINFEKLの存在下で、37℃で1時間、インキュベートした。洗浄後、ペプチドによりパルス処理された細胞を、10μM 5,6-カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CSFE,Molecular Probes,Oregon,USA)により標識し、パルス処理されていない細胞を1μM CSFEにより標識した。等量のCSFE-low脾細胞およびCSFE-high/SIINFEKL脾細胞(各10×106細胞)をOVA/300-19により免疫感作されたマウスに注射し、18時間後に、生存しているCSFE-low非細胞およびCSFE-high/SIINFEKL脾細胞の相対存在量を、フローサイトメトリーにより決定した。OVA特異的細胞障害性を、記載されたようにして(Hernandez et al.,2007,J.Immunol.178,2844-2852)、計算した。OVA/300-19細胞の注射は、OT-I T細胞の存在下で32±4%のOVA特異的細胞障害性を誘導したが、ATAC-KO OT-I T細胞の存在下では14±10%の細胞障害性しか誘導しなかった(図13)。野生型300-19細胞によるマウスの対照免疫感作は、移入されたOT-I T細胞による細胞障害性を誘導しなかった。この実験は、ATACがCD8+ T細胞細胞障害性の誘導においてアジュバントとして作用することを証明している。
【0137】
実施例10:インビボのXCR1発現はDCの亜集団に限定されている
ATAC遺伝子がlacZレポーター遺伝子と交換された(「ノックイン」)B6.129P2-Xcr1tm1Dgen/Jマウス(Jackson Laboratory,Maine,USA)からの器官組織を、インサイチューβ-ガラクトシダーゼ活性について分析した。この目的のため、器官の切片を、4℃で4時間、PBS中の0.1%グルタルアルデヒドおよび4%パラホルムアルデヒドに浸漬し、4℃で一夜、10%ショ糖/PBS中でインキュベートし、急速凍結させた。組織の凍結切片を、RTで10分間、PBS中の0.1%グルタルアルデヒドおよび4%パラホルムアルデヒドで再固定し、冷PBS(pH 7.4)により5分間3回洗浄し、37℃で一夜、X-Gal染色溶液(Sanes et al.,1986,EMBO J.5,3133-3142)と共にインキュベートし、PBSで3回洗浄し、ニュートラルレッドにより対比染色した。
【0138】
lacZ(従って、XCR1遺伝子)の発現は、脾臓、胸腺、リンパ節、肺、肝臓、精巣、卵巣、胎盤、パイエル板、小腸、および大腸に観察された。脾臓において、入手されたシグナルは、CD8+ DCの分布パターンに相当した。その他の器官において、シグナルの(通常低い)量、形態学、および組織分布は、DCの亜集団に限定されたXCR1発現の概念と完全に適合性であった。
【0139】
実施例11:フローサイトメトリーにより分析されたマウス脾細胞におけるXCR1の発現
B6.129P2-Xcr1tm1Dgen/Jマウスからの脾細胞を、標準的な方法により単離し、CD3、CD4、CD8、CD19、CD11c、MHC II、およびNK.1.1について染色した。製造業者のプロトコルに従い、フルオレセインジ-β-D-ガラクトピラノシド(FDG,Invitrogen)によりアッセイされたlacZレポーター遺伝子の発現は、CD4-CD8- DCの7%〜10%、CD8+ DCの75%〜90%で検出されたが、CD4+ DCにおいては検出されなかった(図14)。他の全ての脾臓集団は陰性であった。これらの結果は、XCR1が、免疫系内で、脾臓においては主としてCD8細胞表面マーカーを保持しているDCの亜集団においてのみ発現されることを証明している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している送達システムであって、
(i)ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)に結合する分子、および
(ii)該分子と結合した、送達される物質
を含む送達システム。
【請求項2】
物質(ii)が、免疫原、アジュバント、薬物、または毒性薬剤である、請求項1記載の送達システム。
【請求項3】
免疫原が、病原体、病原体由来抗原、アレルゲン、腫瘍抗原、または寛容原である、請求項2記載の送達システム。
【請求項4】
毒性薬剤が、細胞毒、アポトーシス誘導剤、リボソーム不活化剤、DNA切断剤、RNA切断剤、またはタンパク質合成の阻害剤である、請求項2記載の送達システム。
【請求項5】
分子(i)が、ケモカイン(Cモチーフ)リガンド1(XCL1)またはその機能活性バリアントである、請求項1〜4のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項6】
XCL1の機能活性バリアント、好ましくは、機能活性断片が、SEQ ID NO:7〜10のいずれか、好ましくはSEQ ID NO:8〜10のいずれか、より好ましくはSEQ ID NO:9もしくは10のいずれか、特にSEQ ID NO:10の配列を含むか、またはこれらからなる、請求項5記載の送達システム。
【請求項7】
分子(i)が抗XCR1抗体またはその断片である、請求項1〜6のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項8】
分子(i)が(ポリ)ペプチドである、請求項1〜6のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項9】
分子(i)が、約2,000g/モル未満の分子量を有する小さな有機分子である、請求項1〜6のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項10】
(iii)アジュバント、特に、「デンジャーシグナル」をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項11】
分子(i)、物質(ii)、および任意でアジュバント(iii)が、一つまたは複数の(ポリ)ペプチドである、請求項1〜8および10のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項12】
分子(i)、物質(ii)、および任意でアジュバント(iii)が、共有結合的に、かつ/または非共有結合的に相互に結合している、請求項1〜11のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項13】
細胞が樹状細胞である、請求項1〜12のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項14】
特に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子による、対象におけるXCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞による、物質またはその断片の、抗原としての提示を媒介することができる、請求項8および10〜13のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一項記載の送達システムの(ポリ)ペプチドをコードする一つまたは複数の核酸。
【請求項16】
請求項15記載の一つまたは複数の核酸を含むベクター。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか一項記載の送達システムまたは請求項15記載の一つまたは複数の核酸を含む医薬。
【請求項18】
ワクチンおよび/またはアジュバントである、請求項17記載の医薬。
【請求項19】
特に、Th1応答、特に、Th1細胞障害性応答である、ペプチドに対する記憶免疫応答を誘導するための、請求項17記載の医薬。
【請求項20】
腫瘍および/または感染を防止または処置するための、請求項19記載の医薬。
【請求項21】
(ポリ)ペプチドに対する寛容を誘導するための、請求項17記載の医薬。
【請求項22】
移植片拒絶、アレルギー、および/または自己免疫疾患を阻害するための、請求項21記載の医薬。
【請求項23】
XCL1またはその機能活性断片を含むアジュバント。
【請求項24】
XCR1陽性抗原提示細胞の機能をモジュレートすることにより、対象における免疫応答を増強するための、請求項23記載のアジュバント。
【請求項1】
XCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞へ物質を送達するために適している送達システムであって、
(i)ケモカイン(Cモチーフ)受容体1(XCR1)に結合する分子、および
(ii)該分子と結合した、送達される物質
を含む送達システム。
【請求項2】
物質(ii)が、免疫原、アジュバント、薬物、または毒性薬剤である、請求項1記載の送達システム。
【請求項3】
免疫原が、病原体、病原体由来抗原、アレルゲン、腫瘍抗原、または寛容原である、請求項2記載の送達システム。
【請求項4】
毒性薬剤が、細胞毒、アポトーシス誘導剤、リボソーム不活化剤、DNA切断剤、RNA切断剤、またはタンパク質合成の阻害剤である、請求項2記載の送達システム。
【請求項5】
分子(i)が、ケモカイン(Cモチーフ)リガンド1(XCL1)またはその機能活性バリアントである、請求項1〜4のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項6】
XCL1の機能活性バリアント、好ましくは、機能活性断片が、SEQ ID NO:7〜10のいずれか、好ましくはSEQ ID NO:8〜10のいずれか、より好ましくはSEQ ID NO:9もしくは10のいずれか、特にSEQ ID NO:10の配列を含むか、またはこれらからなる、請求項5記載の送達システム。
【請求項7】
分子(i)が抗XCR1抗体またはその断片である、請求項1〜6のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項8】
分子(i)が(ポリ)ペプチドである、請求項1〜6のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項9】
分子(i)が、約2,000g/モル未満の分子量を有する小さな有機分子である、請求項1〜6のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項10】
(iii)アジュバント、特に、「デンジャーシグナル」をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項11】
分子(i)、物質(ii)、および任意でアジュバント(iii)が、一つまたは複数の(ポリ)ペプチドである、請求項1〜8および10のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項12】
分子(i)、物質(ii)、および任意でアジュバント(iii)が、共有結合的に、かつ/または非共有結合的に相互に結合している、請求項1〜11のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項13】
細胞が樹状細胞である、請求項1〜12のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項14】
特に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子による、対象におけるXCR1陽性プロフェショナル抗原提示細胞による、物質またはその断片の、抗原としての提示を媒介することができる、請求項8および10〜13のいずれか一項記載の送達システム。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか一項記載の送達システムの(ポリ)ペプチドをコードする一つまたは複数の核酸。
【請求項16】
請求項15記載の一つまたは複数の核酸を含むベクター。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか一項記載の送達システムまたは請求項15記載の一つまたは複数の核酸を含む医薬。
【請求項18】
ワクチンおよび/またはアジュバントである、請求項17記載の医薬。
【請求項19】
特に、Th1応答、特に、Th1細胞障害性応答である、ペプチドに対する記憶免疫応答を誘導するための、請求項17記載の医薬。
【請求項20】
腫瘍および/または感染を防止または処置するための、請求項19記載の医薬。
【請求項21】
(ポリ)ペプチドに対する寛容を誘導するための、請求項17記載の医薬。
【請求項22】
移植片拒絶、アレルギー、および/または自己免疫疾患を阻害するための、請求項21記載の医薬。
【請求項23】
XCL1またはその機能活性断片を含むアジュバント。
【請求項24】
XCR1陽性抗原提示細胞の機能をモジュレートすることにより、対象における免疫応答を増強するための、請求項23記載のアジュバント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−503219(P2011−503219A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534403(P2010−534403)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009758
【国際公開番号】WO2009/065561
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510138811)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009758
【国際公開番号】WO2009/065561
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510138811)
【Fターム(参考)】
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