説明

Yb系α−サイアロン蛍光体

【課題】青色LEDまたは近紫外LEDを励起光として、Eu含有α−サイアロンよりも波長の短い緑色光を高輝度発光するα−サイアロン蛍光体を提供する。
【解決手段】一般式Cax(Si,Al)12(O,N)16で表されるα−サイアロンの単一相の格子間にYbや金属(M)(M:Li,Mg,Y,Laを除くランタニド金属)を侵入させた,一般式(YbX、,CaY)(Si,Al)12(O,N)16、あるいは、一般式(Ybx,Mz)(Si,Al)12(O,N)16で表される、Eu系材料より低波長で高輝度発光するα−サイアロン蛍光体。(ただし、固溶量x、y、zは、0.001≦x≦0.1、0.2≦y≦2.0、0.2≦z≦2.0の範囲)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Yb2+イオンで光学的に活性化させた、青色ないし近紫外LEDを励起源として緑色発光する、α−サイアロン蛍光体に関する。さらに詳しくは、本発明は、上記緑色発光するYb2+イオンで光学的に活性化させたα−サイアロン蛍光体に、本発明者らが先に開発したEu含有α−サイアロン蛍光体を混合し、この混合物に青色LEDまたは近紫外LEDを励起光として照射することによって、演色性に優れた白色光を得、さらには、様々な色調の光を自由に提供することができるYb2+イオンで活性化させたα−サイアロン系蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、青色LEDを励起光とする白色LEDが携帯電話や各種表示装置に用いられている。本発明者らにおいては、すでにEu含有α−サイアロン蛍光体がその目的に適った物質であることを見出し、この知見による成果を先に特許出願した(特許文献1、2)。これまでは、多くの蛍光体は、紫外線や電子線のようなエネルギーの高い励起光を照射して可視光を発光させているが、蛍光体の多くは酸化物である。本発明のα−サイアロンは、窒素含有率が高く、化学組成からみると窒化物に近い。この化学結合の特徴のため、酸化物に比べ励起する波長や発光波長が長波長側にシフトする。このことにより、可視光(青色)で励起され、その補色である黄色を発光するEu含有α−サイアロン蛍光体を開発するのに成功した。しかしながら、このようにして開発された白色LEDは暖色系であり、それ以外の色調の広い範囲で演色性に優れた白色光は得られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2002−363554号公報
【特許文献2】特願2003−336059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、Eu-α−サイアロン蛍光体と同じ波長で励起され、かつそれより短波長の緑色発光する新規な蛍光体材料を開発するにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため、本発明者らにおいて鋭意研究した結果、組成の異なるα−サイアロン蛍光体について、化学組成と発光特性について詳細な研究を行った結果、Yb2+を発光イオンとする材料が530−580nmの範囲の波長の光を発光すること、先の特許出願に係るEu系蛍光体が発光する波長550−600nmよりも短波長の光を発光することを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、その構成は、(1)〜(3)に記載の通りである。
(1) 一般式(YbX、,CaY)(Si,Al)12(O,N)16で示されるα―サイアロンで、 固溶体量が0.001≦x≦0.1、0.2≦y≦2.0の範囲であり、540−555nmの発光を示すYb含有α―サイアロン蛍光体。
(2) 一般式(Ybx,Mz)(Si,Al)12(O,N)16で示されるα―サイアロンで金属MはLi、Mg、Y、およびLaを除くランタニド金属、 0.001≦x≦0.1、0.2≦z≦2.0の範囲であるα―サイアロンで、530−580nmの発光を示すYb含有α―サイアロン蛍光体。
(3) 青色または 近紫外LEDを励起光とし、Eu含有黄色α―サイアロン蛍光体と共に添加して白色LEDを作製する請求項1または2のYb含有α―サイアロン蛍光体。
【0006】
ここに、α−サイアロンはα型窒化ケイ素のSiの一部をAlで、Nの一部をOで置換したもので、化学量論比を満たすため格子間の位置に金属イオンが侵入した金属イオン侵入型固溶体である。基本構造であるサイアロンは(Si,Al)(N,O)4四面体で構成され、窒化ケイ素と同様共有結合している。格子間の空間は半径約0.1nmと大きく、このためLi,Mg,Ca,Y.ランタニド金属(Laを除く)等の広い範囲の金属のイオンが固溶し、本来不安定であるα型を安定化する。この結晶構造の特徴のため、格子間位置に光学的に活性な金属イオンを固溶させることにより、新規なα−サイアロン蛍光体が開発できる。
【0007】
α−サイアロンは、たとえばSi34とCaO・3AlNの混合粉末を成形し、1700−1900℃の窒素雰囲気中で加熱すると合成される。加熱中に添加された元素がすべて窒化ケイ素格子に固溶し、一般式Cax(Si,Al)12(O,N)16で示されるα−サイアロンの単一相となる。原料にYb23や金属(M)の酸化物(M:Li,Mg,Y,ランタニド金属(ただし、Laを除く)を同時添加してそれらの金属を格子間に侵入させ、侵入型固溶体を形成させれば、Eu系材料より低波長に発光する材料となることを見出した。また、原料組成から見る通りα−サイアロンは窒素含有率が高く、したがって励起波長と発光波長が長波長となり、Eu-α−サイアロンと同様青色や近紫外LEDで励起できる。このためYb系α−サイアロンとEu系α−サイアロンとを適当な割合で混合して発光体とすることにより、広範囲で演色性に優れた白色光が得られるものである。
【0008】
ここに、Yb、Ca、金属Mの固溶体量x、y、zを、0.001≦x≦0.1、0.2≦y≦2.0、1、0.2≦z≦2.0、としたのは、以下の理由による。発光を示すYbまたはYbが0.01未満であれば発光強度が弱く、0.1を越えると発光原子間の相互作用で発光強度は弱くなってしまう(濃度消光といわれる)。Caはα―サイアロンの母結晶となるもので、この構造を安定化するのに必要となる。この値(y)が0.2未満であると安定化効果が十分でなく未反応の窒化ケイ素が残り、2.0を越えると固溶限界以上となりたの酸窒化物が混在する。蛍光性を示すα―サイアロンを高い含有率で合成するには、yの値は上記範囲内に制御する必要がある。Li,Mg,YおよびLaを除くランタニド金属はCaと同様、格子を安定化する作用とYb周辺の結晶場を変化させて発光波長を変化させる目的で使用する。そのため制御する範囲はCaと同じとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のYb系α−サイアロン蛍光体は窒素含有率が高いので酸化物蛍光体に比べ、励起スペクトルおよび発光スペクトル共長波長にシフトする。励起光は430−450nmと近紫外または青色の光で励起でき、最近発展しつつある高効率LEDを利用できる。また、発光スペクトルも430−580nmの範囲で、Eu系α−サイアロンと励起光源が同じでかつ発光が短波長である。このため青色LEDを励起光とし、Eu系α−サイアロンを発光源とする白色LEDは短波長成分が少ないため、暖色系白色LEDしか得られない欠点がある。本発明のYb系α−サイアロン蛍光体を混合した発光体であれば、演色性に優れた白色光が得られる。したがって、この2種類の蛍光体を種々の割合で混合して発光体とすると広い色調範囲で演色性に優れた白色光を得ることができる格別の効果が発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を、図面および実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、これらの図面、実施例は本発明を容易に理解しうるようにするために具体的に説明するためのものであって、本発明はこれによって限定されない。
図1〜図5は、実施例中、実施例2、3、5、7、8で示したYb系α―サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルである。
【0011】
実施例1−6;
一般式(YbX,CaY)(Si,Al)12(O,N)16に相当するSi34−CaO−Yb23−AlN系原料粉末を約5g秤量し、直径15mmの金型で150kg/cm2に加圧して円板状成形体とした。
この成形体を10気圧の窒素中で1800℃に1時間保持した。焼結体を粉砕後、粉末X線回折を測定しα−サイアロンが生成していることを確かめた。この粉末を発光分光測定器で発光スペクトルを測定した。その結果、Ybの濃度と発光波長および発光の相対強度は表1に示す結果が得られた。実施例2と3の励起スペクトルと発光スペクトルはそれぞれ図1、図2に示す結果が得られた。また、Yb濃度を一定(x=0.005)とし、Ca濃度(x)を変化させた場合の値を表2に示す。実施例5の励起スペクトルと発光スペクトルは図3であった。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
実施例7、8;
一般式(Ybx,Mz)(Si,Al)12(O,N)16(MはLi,Mg,Y,ランタニド金属(Laを除く)に相当するSi34−CaO−AlN−金属酸化物系原料粉末を約5g秤量し、直径15mmの金型で150kg/cm2に加圧して円板状成形体とした。この成形体を10気圧の窒素中で1800℃に1時間保持した。焼結体を粉砕後、粉末X線回折を測定しα−サイアロンが生成していることを確かめた。この粉末を発光分光測定器で発光スペクトルを測定した。x=0.005、z=0.995の組成における金属の種類と発光特性の関係を表3に示す。
【0015】
【表3】

【0016】
以上記載したように本発明は、α−サイアロンにYbと、Ca、Li、Mg、YまたはLaを除くランタニド金属の何れか一種とをドープすることによって、高輝度発光する新規なα−サイアロン蛍光体を開発するのに成功したものである。青色LEDと先行技術で開発した黄色発光蛍光体との組む合わせによって、白色LEDの開発が期待されたが、この組み合わせでは中間のスペクトルが不足し、演色性に優れた白は得られなかった。本発明は、この点を解決することができ、黄色蛍光体とほぼ同じ光で励起されて、緑色光を発するα−サイアロン蛍光体を提供することができ、これを先に開発したEu-α−サイアロンと組み合わせることによって、青色LEDによって励起されて、白色LEDとすることができ、様々な色調が自由に制御できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、α−サイアロンにYbと、Ca、Li、Mg、YまたはLaを除くランタニド金属の何れか一種とをドープすることによって、高輝度発光する蛍光体を提供したもので、この蛍光体を他の蛍光体と混合し、混合比を調節することによって高輝度発光し、白色を始め演色性に優れた多様な色調の光を得ることができ、今後、照明器具は言うに及ばず、各種表示装置に大いに利用されるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例2で示したYb系α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトル。
【図2】実施例3で示したYb系α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトル。
【図3】実施例5で示したYb系α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトル
【図4】実施例7で示したYb系α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトル
【図5】実施例8で示したYb系α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(YbX,CaY)(Si,Al)12(O,N)16で示されるα―サイアロンで、固溶体量が0.001≦x≦0.1、0.2≦y≦2.0の範囲であり、540−555nmの発光を示すYb含有α―サイアロン蛍光体。
【請求項2】
一般式(Ybx,Mz)(Si,Al)12(O,N)16で示されるα―サイアロンで金属MはLi,Mg,Y,およびLaを除くランタニド金属、0.001≦x≦0.1、0.2≦z≦2.0の範囲であるα―サイアロンで、530−580nmの発光を示すYb含有α―サイアロン蛍光体。
【請求項3】
青色または 近紫外LEDを励起光とし、Eu含有黄色α―サイアロン蛍光体
と共に添加して白色LEDを作製する請求項1または2のYb含有α―サイアロン蛍光体。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−257326(P2006−257326A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78789(P2005−78789)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】