説明

insituハイブリダイゼーションのための内部対照

本発明は、内部対照としてミトコンドリアDNAプローブを用いて、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測する方法を提供する。本発明はまた、組織サンプルまたは細胞サンプル中の、標的核DNAおよび標的ミトコンドリアDNAのin situハイブリダイゼーション検出のための試薬を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、内部対照としてミトコンドリアDNAプローブを用いて、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測するための方法に関する。また、本発明は、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAおよび標的ミトコンドリアDNAのin situハイブリダイゼーションを検出するための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景
核酸ハイブリダイゼーションは、二本鎖核酸ハイブリッドを形成するために、十分に相補的な配列を有する2つの一本鎖核酸分子を好適な反応条件下で相互作用させる方法である。ハイブリダイゼーション技術は、以下の3つの群のうちの1つに分類できる:(1)相補的な一本鎖核酸分子間のハイブリダイゼーション反応が溶液中で実施される、溶液ハイブリダイゼーション法;(2)一本鎖核酸分子の一本を、相補的一本鎖核酸分子とのハイブリダイゼーションの前に固体マトリックスに結合させる、フィルターまたはブロットハイブリダイゼーション法;(3)一本鎖核酸分子の一本を、好適に調製された細胞または組織切片から単離し、それによって、組織または細胞の構造体の内(例えば、細胞の核内)の特定の核酸配列の検出または位置確認を可能にするin situハイブリダイゼーション(ISH)。したがって、ISHは、調べている細胞サンプルまたは組織サンプルにおける生化学的および形態学的特徴の同時判定を可能にするという追加の利益を有する。
【0003】
ISHアッセイの1つのタイプは、クロモゲンを用いて相補的な一本鎖核酸分子間のハイブリダイゼーション反応が検出される、クロモゲンin situハイブリダイゼーション(CISH)である。例えば、細胞の標的核酸に対する標識核酸プローブのハイブリダイゼーションは、標識プローブに特異的な一次抗体、該一次抗体に特異的な二次抗体−酵素結合体、および該二次抗体−酵素結合体との反応の際に不溶性の着色沈殿へと変換されるクロモゲン基質を用いて検出することができる。CISHは他のISHアッセイとは対照的に、従来の光学顕微鏡下での分子マーカーの直接的な視覚化を可能にする。
【0004】
ISHアッセイは、子宮頚部癌の診断に使用するために開発された。このようなアッセイの1つにおいて、子宮頚部癌に関連したヒト乳頭腫ウィルス(HPV)遺伝型が、ニックトランスレーション法によって作製され、およそ200〜600長の塩基対プローブからなるウィルスプローブカクテルを用いて検出される。
【0005】
ISHは、細胞サンプルまたは組織サンプルの破壊を必要とするサザンブロットハイブリダイゼーションまたはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの分子診断法より多くの利点を提供する。他のタイプの核酸ハイブリダイゼーションとは対照的に、ISHは、細胞溶解およびそれに引き続いて、試験前に、細胞サンプルまたは臨床サンプルから核酸分子を単離することを必要としない。替わりに、細胞サンプルまたは臨床サンプルを直接スライドに置いてから、標識プローブによってハイブリダイズすることができる。
【0006】
しかし、いずれの分子診断法でもそうであるように、ISHの結果の確認および解釈は、好適な対照の使用に依存する。例えば、標的および陽性対照プローブは、同様な方法によって調製する必要があり、標的および陽性対照プローブは、アンマスキング標的に対するプロテイナーゼ消化、核酸ハイブリダイゼーション、免疫学的検出、およびクロモゲン視覚化などの全体的なアッセイ性能の観測を可能にするために、同様な条件、好ましくは同じスライド上で、細胞サンプルまたは組織サンプルにハイブリダイズし、検出する必要がある。検体採集および固定などのスライド調製、ならびに年齢およびサンプルの貯蔵法もまた、ISHアッセイの信頼性に影響を及ぼし得る。
【0007】
好適なISH対照の1つは、ヒトAluエレメントに特異的に結合することのできるプローブである。Alu配列は、典型的には、300ヌクレオチド長の短い散在エレメントである。ヒトゲノムは、140万以上のAluエレメントを含有し、それは、該ゲノムのおよそ10%を占めている(International Human Genome Sequencing Consortium、2001年)。Aluプローブは、検体採集、サンプルの処理および送付、ならびにISHアッセイ時の標的DNAの完全性評価のために使用できる。例えば、細胞サンプルまたは組織サンプルの不適切な保存により、標的DNAの分解がもたらされて、偽陰性の診断結果に至り得る。また、欠陥のあるISH検出試薬を使用することによっても信頼できない結果を得る可能性がある。一般に、Alu対照プローブによって不適切な染色結果が得られる場合は、ある特定の標的プローブに関して得られた陰性ISH結果はいずれも信頼できないと考えるべきである。
【0008】
しかし、ISH対照としてAluプローブを使用することにはいくつかの不利な点もある。第1に、ヒト細胞におけるAluエレメントのコピー数はいずれも約140万であるが、ISHアッセイにおける大抵の診断標的のコピー数は、数千倍から100万倍少ない。したがって、Aluエレメントは、ISHアッセイに関しては低感度の対照配列として考えることができる。第2に、AluエレメントはGCの多い反復領域を含む短い散在配列であるため、Aluプローブは、異なったプローブ調製法および異なったハイブリダイゼーション条件を必要とする。例えば、Aluプローブは、オリゴヌクレオチド合成機上で化学的合成によって容易に調製できるが、HPVゲノムプローブは、酵素的方法(例えば、ニックトランスレーション)または直接的修飾を用いて調製しなければならない。さらに、それらの異なるプローブ長および組成のため、AluおよびHPVゲノムプローブは、特定のプローブハイブリダイゼーション条件および洗浄ストリンジェンシーを必要とする。最後に、AluおよびHPVゲノムプローブは、核に対する制御シグナルと標的シグナル双方の共局在化により、ISHアッセイにおいて、さらに検出上の困難を示す。したがって、実際、Alu制御プローブを用いたISHアッセイは、別個のスライド上で実施しなければならないため、2つのスライド間の検体の調製、取り扱い、またはハイブリダイゼーション操作上の偏差を十分に制御することができない。
【0009】
ミトコンドリアは、エネルギー産生および細胞呼吸を担っている小型の細胞内細胞小器官である。もっぱら細胞質内に位置しているこれらの細胞小器官は、およそ16.5kb長の二本鎖環状ゲノムを有する(Andersonら、1981年、Nature 290: 457〜465頁)。個々の細胞は、ミトコンドリアゲノムの複数コピーを有し、例えば、1個のヒト筋肉細胞は、1.6×10から8.5×10の間のコピーを有する(Heら、2002年、Nucleic Acids Res. 30: e68)。組織サンプルおよび細胞サンプル間でのミトコンドリアのDNAコピー数は変動するが、同一の組織サンプルまたは細胞サンプルの個々の細胞におけるコピー数は比較的安定しており、変動は2倍以下である(Veltriら、1990年、J.CELL.PHYSIOL. 143: 160〜164頁およびSmithら、2002年、Reprod.Biomed.Online 4: 248〜255頁)。
【0010】
最初に記載されて以来、ISHは方法論および適用において、連続的な発展を経てきた。現在、ISHは細胞生物学、臨床診断、発生生物学、遺伝学、およびウィルス学などの生物医療および臨床研究の多くの分野で直接適用されている。しかし、ISH技術には、代替のISH対照を開発する必要性が存在している。ミトコンドリアの生物学的性質により、ミトコンドリアDNAは、ISHアッセイにおける、より具体的には、子宮頚部異常のHPV標的検出における使用に好適な内部対照となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(発明の概要)
本発明は、内部対照としてミトコンドリアDNAプローブを用いて、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一方法において、組織サンプルまたは細胞サンプル中に存在する染色体DNAおよび染色体外DNAを相補的配列に対するハイブリダイゼーションに利用できるようにするために、組織サンプルまたは細胞サンプルを処理すること;該組織サンプルまたは細胞サンプルを、第1の検出可能な標識に結合した標的核DNAに実質的に相補的な核DNAプローブと、第2の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的なミトコンドリアDNAプローブとを含むプローブ組成物と、ハイブリダイズする条件下で接触させること;標的に特異的にハイブリダイズするプローブを、該組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄すること;核DNAプローブと標的核DNAとの間のハイブリダイゼーションの程度およびミトコンドリアDNAプローブとミトコンドリアDNA標的との間のハイブリダイゼーションの程度を同時に評価すること;ミトコンドリアDNAプローブとミトコンドリアDNA標的との間に見られるハイブリダイゼーションの程度を、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間の予想されたハイブリダイゼーションの程度と比較し、核DNA標的のin situハイブリダイゼーション分析の質を判定することによって、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーションの質を観測する。
【0013】
本発明の他の方法において、組織サンプルまたは細胞サンプル中に存在する染色体DNAおよび染色体外DNAを相補的配列に対するハイブリダイゼーションに利用できるようにするために、組織サンプルまたは細胞サンプルを処理すること;該組織サンプルまたは細胞サンプルを、第1の検出可能な標識に結合した標的核DNAに実質的に相補的な核DNAプローブと、第2の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的なミトコンドリアDNAプローブとを含むプローブ組成物と、ハイブリダイズする条件下で接触させること;標的に特異的にハイブリダイズするプローブを、該組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄すること;核DNAプローブと標的核DNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間に見られるハイブリダイゼーションの程度を、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの予想される程度と比較して、標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を判定することによって、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーションの質を観測する。
【0014】
本発明の他の方法において、組織サンプルまたは細胞サンプル中に存在する染色体DNAおよび染色体外DNAを相補的配列に対するハイブリダイゼーションに利用できるようにするために、組織サンプルまたは細胞サンプルを処理すること;該組織サンプルまたは細胞サンプルを、第1の検出可能な標識に結合した標的核DNAに実質的に相補的な核DNAプローブと、第2の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的なミトコンドリアDNAプローブとを含むプローブ組成物と、ハイブリダイズする条件下で接触させること;標的に特異的にハイブリダイズするプローブを、該組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;核DNAプローブと標的核DNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間に見られるハイブリダイゼーションの程度を、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間の予想されたハイブリダイゼーションの程度と比較し、標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を判定することによって、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーションの質を観測する。
【0015】
本発明の他の方法において、組織サンプルまたは細胞サンプル中に存在する染色体DNAおよび染色体外DNAを相補的配列に対するハイブリダイゼーションに利用できるようにするために、組織サンプルまたは細胞サンプルを処理すること;該組織サンプルまたは細胞サンプルを、第1の検出可能な標識に結合した標的核DNAに実質的に相補的な核DNAプローブに接触させること;標的核DNAに特異的にハイブリダイズする核DNAプローブを、該組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄すること;核DNAプローブと標的核DNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;該組織サンプルまたは細胞サンプルを、第2の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的なミトコンドリアDNAプローブに接触させること;標的ミトコンドリアDNAに特異的にハイブリダイズするミトコンドリアDNAプローブを、該組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの予想される程度と比較して、標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を判定することによって、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーションの質を観測する。
【0016】
本発明の他の方法において、組織サンプルまたは細胞サンプル中に存在する染色体DNAおよび染色体外DNAを相補的配列に対するハイブリダイゼーションに利用できるようにするために、組織サンプルまたは細胞サンプルを処理すること;該組織サンプルまたは細胞サンプルを、第1の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的なミトコンドリアDNAプローブに接触させること;標的ミトコンドリアDNAに特異的にハイブリダイズするミトコンドリアDNAプローブを、該組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;該組織サンプルまたは細胞サンプルを、第2の検出可能な標識に結合した標的核DNAに実質的に相補的な核DNAプローブに接触させること;標的核DNAに特異的にハイブリダイズする核DNAプローブを、該組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄すること;核DNAプローブと標的核DNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を評価すること;ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間に見られるハイブリダイゼーションの程度を、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間の予想されたハイブリダイゼーションの程度と比較して、標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を判定することによって、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーションの質を観測する。
【0017】
本発明はまた、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAおよびミトコンドリアDNAのin situハイブリダイゼーション検出のための試薬を提供する。
【0018】
本発明の試薬の1つは、第1の検出可能な標識に結合した標的核DNAに実質的に相補的な核DNAプローブと、第2の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的なミトコンドリアDNAプローブとを組み合わせることによって調製される。
【0019】
本発明の特定の好ましい実施形態は、以下の一定の好ましい実施形態のより詳細な説明および請求項から明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
本発明は、内部対照としてミトコンドリアDNAプローブを用いて、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測するための方法を提供する。また、本発明は、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAおよび標的ミトコンドリアDNAのin situハイブリダイゼーションを検出するための試薬を提供する。
【0021】
細胞の核およびミトコンドリアは細胞質の別々の領域を占める異なる細胞小器官を構成しているという事実を利用して、内部対照としてミトコンドリアDNAプローブを用いることにより、標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測することができる。ISHアッセイの質を観測するために、組織サンプルまたは細胞サンプルの染色体外DNAと、好適なミトコンドリアDNAプローブ(実施例2に記載されたミトコンドリアDNAプローブなど)との間のハイブリダイゼーションの程度を評価し(例えば、目視検査により)、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間に見られたハイブリダイゼーションの程度を、その組織サンプルまたは細胞サンプルに関するミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの予想される程度と比較する。ハイブリダイゼーションの見られた程度と、ハイブリダイゼーションの予想された程度とが有意に異なっていない場合、該標的核DNAに関するISHアッセイの結果は信頼できると考えることができる。
【0022】
同じ組織サンプルまたは細胞サンプルの個々の細胞内のミトコンドリアDNAコピーは比較的一定であるため、組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測するために、ミトコンドリアDNAプローブを内部対照として用いることができる。例えば、Veltriら、1990年、J.CELL.PHYSIOL. 143: 160〜164頁は、マウスの肝臓、腎臓、心臓および脳におけるミトコンドリアDNAのコピー数は臓器特異的であることを教示している。他の多数の組織タイプおよび細胞タイプに関する、および種々の発生段階における組織タイプまたは細胞タイプのミトコンドリアDNAのコピー数が文献に公表されている。例えば、Steuerwaldら、2000年、Zygote 8: 209〜215頁は、マウスおよびヒトの卵母細胞は、それぞれ、平均、1.59×10と3.14×10のミトコンドリアゲノムを含有していることを教示している。
【0023】
本明細書に用いられる用語の「ハイブリダイゼーションの程度」とは、好適なハイブリダイゼーション条件下で、特定の標的に特異的な標識プローブと、該標的との間に生じるハイブリダイゼーションの程度を言う。標識プローブ(例えば、ミトコンドリアDNAプローブ)と標的(例えば、ミトコンドリアDNA)との間のハイブリダイゼーションの程度は、組織サンプルまたは細胞サンプルをすすいで、ハイブリダイズしなかったプローブを除去した後に、組織サンプルまたは細胞サンプル上に残留している標識プローブの相対的な強度または量を測定することによって評価できることを、当業者は理解されるであろう。また、本発明の方法の実践において、ハイブリダイゼーションの程度は、定性的にも定量的にも評価できることを、当業者は理解されるであろう。例えば、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度は、ハイブリダイゼーション後に、組織サンプルまたは細胞サンプルの簡単な目視検査によって定性的に評価できる。ハイブリダイゼーションの程度の定性的評価において、当業者は、ハイブリダイゼーションの程度を、例えば、強(+++)、中(++)、弱(+)、または無検出(−)として等級付けできる。
【0024】
あるいは、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を、標的ミトコンドリアDNAにハイブリダイズする標識ミトコンドリアDNAプローブの量を測定することによって、定量的に評価することができる。自動組織染色法によりタンパク質を定量するための代表的な方法および装置は、参照としてその全体が本明細書に組み込まれている、2001年12月6日に公表され、標題が「画像解析によるタンパク質の定量法」である米国特許出願公開第2001/0049114号に教示されている。他の市販のスライド画像化システムは、ARIOL SL−50として、Applied Imaging Corporation(カリフォルニア州、Santa Clara)により販売されている。また、ミトコンドリアDNAを定量するための多くの方法が開発されているため、ミトコンドリアDNAプローブと標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの予想される程度を判定するために、任意の組織サンプルまたは細胞サンプルに関するミトコンドリアDNAのコピー数を容易に算出することができる。例えば、Veltriら、1990年、J.CELL.PHYSIOL. 143: 160〜164頁は、放射標識ミトコンドリアDNAプローブを用いて、細胞中のミトコンドリアDNAのコピー数を求める方法を教示している。また、Steuerwaldら、2000年、Zygote 8: 209〜215頁は、個々の細胞中に存在するミトコンドリアゲノムの数を求めるための蛍光高速サイクルDNA増幅法を教示している。さらに、Chabiら、2003年、Clin.Chem. 49: 1309〜1317頁は、個々の細胞中のミトコンドリアDNAのコピー数を求めるための定量的PCRアッセイを教示している。Chabiらの方法において、各々がミトコンドリアゲノムの異なる領域に位置する4つの異なるミトコンドリア遺伝子に特異的なクローン化ミトコンドリアDNAプローブの連続希釈液から、検量線が作成される。種々の細胞型のミトコンドリアDNA含量は、これらの、および他の好適な方法を、28の異なるヒト組織を含有するHuman Body Tour Tissue Array(City of Hope;カリフォルニア州、Duarte;米国特許第5,002,377号)などの組織アレイと一緒に用いて判定できると考えられる。
【0025】
該方法に使用するためのミトコンドリアDNAプローブおよび本発明の試薬は、当業者に知られた多数の方法によって調製できる。好適なミトコンドリアDNAプローブは、選択されたプローブがミトコンドリアDNAに特異的にハイブリダイズするという条件で、試験される組織または細胞のミトコンドリアゲノムの任意の部分を認識できる。本発明の方法および試薬の好ましい実施形態において、ミトコンドリアDNAプローブは、アンプライマー(amplimer)、5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応によって調製される。他の好ましい実施形態において、ミトコンドリアDNAプローブは、アンプライマー、5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−GGG−GAA−GCG−AGG−TTG−ACC−TG−3’(配列番号6);アンプライマー、5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8);またはアンプライマー、5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−GGC−AGG−AGT−AAT−CAG−AGG−TG−3’(配列番号5)を用いて調製される。さらに他の好ましい実施形態において、アンプライマーは、5’−AAC−ATA−CCC−ATG−GCC−AAC−CT−3’(配列番号1)および5’−CTA−GGG−TAG−AAT−CCG−AGT−ATG−TTG−3’(配列番号7)である。
【0026】
本発明の方法および試薬に使用するための核DNAプローブは、当業者に知られた多数の方法によって調製できる。好適な核DNAプローブは任意の標的核DNAを認識できる。本発明の方法および試薬の好ましい実施形態において、標的核DNAは、ヒト乳頭腫ウィルス(HPV)DNAである。
【0027】
本発明の方法および試薬に使用するための、ミトコンドリアおよび核のDNAプローブは、当業者に知られた多数の方法および標識を用いて標識化できる。好適な標識としては、例えば、酵素、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ジゴキシゲニン、発光剤、放射標識、色素、およびハプテンが挙げられる。励起エネルギー源に依存する発光剤は、放射線発光、化学発光、生物発光、および光発光(蛍光およびリン光など)に分類できる。
【0028】
本発明の一方法において、該標識は、適当な反応物と組み合わせた場合に認識できる変化を生じさせる化学的試剤である。好適な化学的試剤の一例は、適切な酵素基質および補因子と混合した場合に、検出可能な有色の沈殿物を生じる酵素である。種々の酵素基質を用い、種々多様な有色反応産物が一般に利用できる。アルカリホスファターゼは、組織の標識化に従来用いられてきた酵素の一例である。本発明の方法の実践に使用できる他の酵素としては、例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼおよびガラクトシダーゼが挙げられる。本発明の方法の実践に使用できる酵素の各々は、特定の基質、補因子、および結果として生じる色素発生反応産物の、それ自体の独特な色素産生系を有している。
【0029】
本発明の他の方法において、ミトコンドリアおよび核のDNAプローブは、適切な波長の光に曝露されると高エネルギー状態へと励起して蛍光を発する蛍光色素によって標識される。有意な量の蛍光を放出する物質である蛍光色素は、一般に、大きく2つのクラス、内因性蛍光物質および外因性蛍光物質に分けることができる。内因性蛍光物質は、励起光を吸収し、より長い波長の光を放出する示された能力が、それらの内部構造および化学的形成に直接基づいている天然の生物学的分子からなる。典型的な内因性蛍光体としては、例えば、トリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンを含有するタンパク質およびポリペプチドが挙げられる。さらに、NADH、FMN、FAD、およびリボフラビンなどの酵素補因子は、高蛍光性である。外因性蛍光体は大部分、天然には生じず、タンパク質、免疫グロブリン、脂質、および核酸を標識するために、色素としての使用を目的に開発された。この広範な群には、例えば、フルオレセイン、ローダミン、ならびにそれらのイソシアネートおよびイソチオシアネート誘導体;塩化ダンシル;ナフタルアミンスルホン酸およびそれらの誘導体;アクリジンオレンジ;プロフラビン;臭化エチジウム;および塩化キナクリンが含まれる。これらすべてが本発明の範囲内の使用に好適であると考えられる。
【0030】
本発明の方法および試薬の好ましい実施形態において、ミトコンドリアおよび核のDNAプローブは、フルオレセイン、ジニトロフェニル、ビオチン、またはジゴキシゲニンによって標識される。これらの標識は、例えば、フルオレセイン標識ヌクレオチド類似体(フルオレセイン−dCTP)(図3)、ジニトロフェニル(DNP)−標識ヌクレオチド類似体(DNP−dCTP)(図1)、またはビオチン化ヌクレオチド類似体(ビオチン−dCTP)(図2)のいずれかを用いて、ミトコンドリアおよび核のDNAプローブ内に、該プローブの調製時に組み込まれる。
【0031】
内部対照としてミトコンドリアDNAプローブを用いて、標的核DNAの色素産生ISH分析を観測する場合、標的の核およびミトコンドリアDNAに対するプローブのハイブリダイゼーションの程度は、同一のハプテンと検出系、異なるハプテンと同一の検出系、または異なるハプテンと検出系を用いて判定できる。
【0032】
細胞の核およびミトコンドリアは、細胞質の別個の領域を占める異なる細胞小器官を構成しているため、本発明の方法および試薬に用いられるミトコンドリアおよび核DNAのプローブは、検出可能な同じ標識を用いて標識化できる。あるいは、ミトコンドリアおよび核DNAのプローブは、検出可能な異なる標識を用いて標識化できる。
【実施例】
【0033】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態、およびそれらの種々の使用法を例示するものである。それらは、単に、例示を目的として記載されており、本発明を限定するものとして考えるべきではない。
【0034】
(実施例1)
クロモゲンin situハイブリダイゼーション分析用組織サンプルおよび細胞サンプルの調製
2つのヒト乳頭腫ウィルス(HPV)陽性細胞系のCaSki(HPV16の200〜600コピーを含有)およびHeLa(HPV18の10〜50コピーを含有)、ならびに1つのHPV陰性細胞系(T24)を用いて、クロモゲンin situハイブリダイゼーション(CISH)分析を実施した。細胞サンプルは、10%の中性緩衝化ホルマリン中に固定し、パラフィンに埋め込み、4〜8ミクロンに切片化した。固定した細胞サンプルを、CISH分析の前に、Superfrost(登録商標)Plusガラススライド(VWR Scientific;ペンシルベニア州、West Chester)上に置いた。
【0035】
また、組織生検の子宮頚部病巣細胞およびCytyc Corp.(マサチューセッツ州、Boxborough)およびTriPath Imaging Inc.(ノースカロライナ州、Burlington)の市販の液体ベースプレップ(LBP)システムを用いて調製した子宮頚部スメアサンプルについて、CISH分析を実施した。
【0036】
(実施例2)
クロモゲンin situハイブリダイゼーション分析用プローブの調製
クロモゲンin situハイブリダイゼーション(CISH)分析用HPV DNAプローブは、遺伝子型の16、18、31、33、35、および51のHPV DNAを、国際出願PCT00/24760号に記載されているとおり、プラスミドベクター内にクローニングすることによって調製した。
【0037】
CISH分析用のミトコンドリアDNAプローブは、Expand Long Template PCR System(Roche Molecular Biochemicals;インディアナ州、Indianapolis)および表1に示されたプライマーを用いてPCR増幅によって調製した。500μMのdNTP、5単位のTaqポリメラーゼ、0.3μMの各プライマー、50mMのKCl、2.75mMのMgCl、10mMのトリスHCl、pH8.5、およびヒト細胞系のDNAテンプレート、C33Aを含有する増幅反応を、94℃で2分間を1サイクル、94℃で10分間、55℃で30分間、および68℃で15分間を35サイクル実施した。増幅産物は、0.6%寒天ゲル上で分離し、α−イメージャーを用いて分析した。5種のプライマー対(表II)の各々を用いて予想したサイズを有する産物を得た。各産物を配列決定し、該配列がヒトミトコンドリアDNA由来であることを確認した。
【表1】

【表2】

【0038】
HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブは、QIAGENカラム(Qiagen Inc.;カリフォルニア州、Valencia)上でカラム精製してから、デオキシシトシン三リン酸類似体(図1〜3;TriLink BioTechnologies, Inc.;カリフォルニア州、San Diego)を用いたニックトランスレーションによって標識化した。DNアーゼIを用いてプローブをニックし、100〜600bpの平均サイズを有するニック断片を生成させた。DNAポリメラーゼIのクレノウ断片を用いて、ハプテン標識dCTPをニック断片に組み込んだ。次いで、非組み込み遊離ヌクレオチドを、エタノール沈殿またはQIAGENカラム上でのカラム精製によって、反応混合物から除去した。CISH分析の前に、精製、標識化したプローブを、ホルムアミドベースのハイブリダイゼーション溶液に溶解させた。
【0039】
(実施例3)
同一のハプテンと検出系を用いたクロモゲンin situハイブリダイゼーションによる核およびミトコンドリアの標的DNAの分析
同一のハプテンと検出系を用いた核およびミトコンドリアの標的DNAのCISH分析を、以下のとおり実施した。実施例1に記載されたとおり、CaSkiおよび組織生検の子宮頚部病巣細胞を調製した。サンプルは、ホルマリン固定/パラフィン埋め込み組織、ホルマリン固定/パラフィン埋め込み組織培養細胞ペレット、Cytospin調製スライド、およびThinPrep Pap Test検体採集システム(Cytyc Corp.)を用いて調製した固定子宮頚部細胞を含んだ。HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブを調製し、実施例2に記載されているとおり、ニックトランスレーションにより、ビオチン−dCTPを用いて標識化した。
【0040】
CISHは、BenchMark(登録商標)自動スライド染色機(Ventana Medical Systems Inc.)上で実施した。HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションの程度は、2つの検出方式の1つを用いて判定した。第1の検出方式において、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションの程度は、HRP/DAB検出キットを用いて判定した。このキットは、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジンを含むが、これは、ビオチン標識プローブと複合体化し、クロモゲン、3,3’−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)と反応して、褐色の沈殿を形成する。第2の検出方式において、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションの程度は、アルカリホスファターゼ(AP)−ストレプトアビジンを用いて判定したが、これは、ビオチン標識プローブと複合体化し、基質、ブロモクロロインドリル(BCIP)を脱リン酸化し、これが次に、クロモゲン、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)と反応して、青色沈殿を形成するか、またはクロモゲン、アゾイックジアゾ成分(Azoic Diazo Component)と反応して、赤色沈殿を形成する。核およびミトコンドリアの標的DNAのCISH分析は、同じサンプルから調製された別個のスライド上で、または単一のスライド上で実施し、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションを、同時に、または連続的に検出した。
【0041】
(実施例4)
異なるハプテンおよび同一の検出系を用いたクロモゲンin situハイブリダイゼーションによる核およびミトコンドリアの標的の分析
異なるハプテンおよび同一の検出系を用いた核およびミトコンドリアの標的DNAのCISH分析を、以下のとおり実施した。実施例1に記載されたとおり、CaSkiおよび組織生検の子宮頚部病巣細胞を調製した。サンプルは、ホルマリン固定/パラフィン埋め込み組織、ホルマリン固定/パラフィン埋め込み組織培養細胞ペレット、Cytospin調製スライド上の固定組織培養細胞、およびThinPrep Pap Test検体採集システム(Cytyc Corp.)を用いて調製した固定子宮頚部細胞を含んだ。HPVプローブを調製し、フルオレセイン−dCTPまたはDNP−dCTPを用いて標識化し、また、ミトコンドリアDNAプローブを調製し、実施例2に記載されているとおり、ニックトランスレーションにより、ビオチン−dCTPを用いて標識化した。
【0042】
CISHは、BenchMark(登録商標)自動スライド染色機上で実施した。HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションの程度は、2つの検出方式の1つを用いて判定した。第1の検出方式において、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションの程度は、Ventana Medical Systems, Inc.のiVIEW(商標)BlueまたはV−Red検出キットを用いて判定した。HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブのハイブリダイゼーションは、まず、ハイブリダイゼーション複合体を、ハプテン標識プローブに特異的に結合できる一次抗体に曝露し、次いで、該複合体を、一次抗体に特異的に結合できるビオチン化抗体に曝露することによって検出した。次いで、ビオチン化2次抗体と複合体化するAP−ストレプトアビジンを該反応混合物に加えた。AP−ストレプトアビジンは、基質、BCIPを脱リン酸化し、次にこれが、クロモゲン、NTPと反応して、青色沈殿を形成するか、またはクロモゲン、アゾイックジアゾ成分と反応して、赤色沈殿を形成する。第2の検出方式において、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションの程度は、上記のとおり、HRP/DAB検出キットを用いて判定した。区別できるクロモゲン検出系によって、核およびミトコンドリアの標的DNAのCISH分析を、単一のスライド上で実施することができ、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブとそれらそれぞれの標的との間のハイブリダイゼーションは、同時にまたは連続的に検出される。
【0043】
(実施例5)
異なるハプテンおよび検出系を用いたクロモゲンin situハイブリダイゼーションによる核およびミトコンドリアの標的DNAの分析
異なるハプテンおよび検出系を用いた核およびミトコンドリアの標的DNAのCISH分析を、以下のとおり実施した。実施例1に記載されたとおり、CaSkiおよび組織生検の子宮頚部病巣細胞を調製した。サンプルは、ホルマリン固定/パラフィン埋め込み組織、ホルマリン固定/パラフィン埋め込み組織培養細胞ペレット、およびCytospin調製スライド上の固定組織培養細胞を含んだ。HPVプローブを調製し、フルオレセイン−dCTPまたはDNP−dCTPを用いて標識化し、また、ミトコンドリアDNAプローブを調製し、実施例2に記載されているとおり、ニックトランスレーションにより、ビオチン−dCTPを用いて標識化した。
【0044】
CISHは、BenchMark(登録商標)自動スライド染色機上で実施した。HPVプローブと核DNAとの間のハイブリダイゼーションの程度は、実施例4に記載されたAP/NBT/BCIP検出キットを用いて判定した。ミトコンドリアDNAプローブとミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度は、実施例3に記載されたHRP/DAB検出キットを用いて判定した。核およびミトコンドリアの標的DNAのCISH分析を、単一のスライド上で実施し、ミトコンドリアDNAプローブのハイブリダイゼーションの検出に続いて、HPVプローブのハイブリダイゼーションの検出をおこなった。
【0045】
(実施例6)
内部対照としてミトコンドリアDNAを用いたクロモゲンin situハイブリダイゼーションによる標的核DNAの分析
CaSki、HeLa、およびT24細胞系を含有するHPV High Risk Tissue System Control Slides(Ventana Medical Systems, Inc.)、または臨床サンプルのいずれかを用いてCISH分析を実施した。細胞サンプルおよび組織サンプルに対するHPVおよびミトコンドリアのDNAプローブのハイブリダイゼーションを検出するために、3つの異なる色素産生検出系を用いた。AP/アゾイックジアゾ成分検出系を用いたCISH分析の結果は、図4A〜4B、4E〜4F、および5Dに;HRP/DAB検出系を用いたCISH分析の結果は、図4C〜4Dおよび5A〜5Bに;AP/BCIP/NBT検出系を用いたCISH分析の結果は、図5Cおよび5Eに示されている。
【0046】
細胞サンプルにおいて、HPV染色は、CaSki細胞(図4H)とHeLa細胞(図4I)の双方に検出されたが、T24細胞(図4J)においては検出されなかった。ミトコンドリアDNAとHPV双方の染色に関して分析された細胞系において、CaSki細胞(図4A、4C、および4E)とT24細胞(図4Bおよび4D)の双方に、同等のミトコンドリアDNA染色が見られ、HPV染色は、CaSki細胞(図4F)のみに見られた。
【0047】
試験されたすべての臨床サンプル(図5A、5B、および5D)に、同等のミトコンドリアDNA染色が見られたが、HPV染色は、子宮頚部病巣サンプル(図5E)のみに見られた。子宮頚部病巣サンプル(図5B)と子宮頚部スメアサンプル(図5D)の双方に、同等のミトコンドリアDNA染色が見られたため、これらのサンプル(図5Cおよび5E)において見られたHPV染色の結果は信頼できる。したがって、CISH分析後に、ミトコンドリアDNA染色を生じるが、HPV染色を生じない組織サンプルまたは細胞サンプルは真のHPV陰性であると考えることができ、ミトコンドリアDNA染色を生じない組織サンプルまたは細胞サンプルは、HPV染色が陽性、陰性に関わりなく、信頼できないものとして廃棄することができる。
【0048】
先の開示は、本発明の特定の実施形態を強調するものであり、それと等価なすべての変更または代替は、添付の請求項に記載された本発明の精神および範囲内にあることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】クロモゲンin situハイブリダイゼーションに使用するプローブ標識化に好適なジニトロフェニル(DNP)標識化ヌクレオチド類似体(DNP−dCTP)を示す図である。
【図2】クロモゲンin situハイブリダイゼーションに使用するプローブ標識化に好適なビオチン化ヌクレオチド類似体(ビオチン−dCTP)を示す図である。
【図3】クロモゲンin situハイブリダイゼーションに使用するプローブ標識化に好適なフルオレセイン標識化ヌクレオチド類似体(フルオレセイン−dCTP)を示す図である。
【図4】内部対照として、ミトコンドリアDNAを用いた、細胞系におけるヒト乳頭腫ウィルス(HPV)に関するクロモゲンin situハイブリダイゼーションの結果を示す図であり;A枠およびB枠では、CaSki細胞(A枠)またはT24細胞(B枠)をCytoSpinによって調製し、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブのハイブリダイゼーションを、アルカリホスファターゼ(AP)およびアゾイックジアゾ成分を用いて検出し;C枠およびD枠では、CaSki細胞(C枠)およびT24細胞(D枠)を寒天に埋め込み、4μmの厚さに切断し、HPVおよびミトコンドリアのDNAプローブのハイブリダイゼーションを、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)および3,3−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)を用いて検出し;E枠およびF枠では、ミトコンドリアDNAプローブ(E枠)およびHPVプローブ(F枠)の寒天中のCaSki細胞におけるハイブリダイゼーションを、APおよびアゾイックジアゾ成分を用いて検出し;H枠〜J枠では、CaSki細胞(H枠)、HeLa細胞(I枠)、またはT24細胞(J枠)におけるHPVプローブのハイブリダイゼーションを、HPV High Risk Tissue System Control Slide(Ventana Medical Systems, Inc.)を用いて検出した図である。
【図5】内部対照として、ミトコンドリアDNAを用いた、臨床サンプルにおけるヒト乳頭腫ウィルス(HPV)に関するクロモゲンin situハイブリダイゼーションの結果を示す図であり;A枠では、腎臓組織におけるミトコンドリアDNAのハイブリダイゼーションを、HRPおよびDABを用いて検出し;B枠では、子宮頚部組織におけるミトコンドリアDNAプローブのハイブリダイゼーションを、HRPおよびDABを用いて検出し;C枠では、子宮頚部病巣におけるHPVプローブのハイブリダイゼーションを、AP、ブロモクロロインドリル(BCIP)、およびニトロブルーテトラゾリウム(NBT)を用いて検出し;D枠では、子宮頚部スメア液ベース調製物におけるミトコンドリアDNAプローブのハイブリダイゼーションを、APおよびアゾイックジアゾ成分を用いて検出し;E枠では、子宮頚部スメア液ベース調製物におけるHPVプローブのハイブリダイゼーションを、AP、BCIP、およびNBTを用いて検出した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測する方法であって、
(a)前記組織サンプルまたは細胞サンプルに存在する染色体DNAおよび染色体外DNAを、相補的配列へのハイブリダイゼーションに利用できるようにするために組織サンプルまたは細胞サンプルを処理する工程と、
(b)ハイブリダイズする条件下で前記組織サンプルまたは細胞サンプルを、
(i)第1の検出可能な標識に結合した標的核DNAに実質的に相補的である核DNAプローブと、
(ii)第2の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的であるミトコンドリアDNAプローブ
を含むプローブ組成物に接触させる工程と、
(c)その標的に特異的にハイブリダイズするプローブを、前記組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄する工程と、
(d)以下のDNA間のハイブリダイゼーション:
(i)前記核DNAプローブと前記標的核DNAとの間、および
(ii)前記ミトコンドリアDNAプローブと前記標的ミトコンドリアDNAとの間
の程度を評価する工程であって、前記プローブとそれらの対応する標的との間
のハイブリダイゼーションの程度を、同時にまたは連続的に評価する工程と、
(e)前記標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の性質を判定するために、前記ミトコンドリアDNAプローブと前記標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を、前記ミトコンドリアDNAプローブと前記標的ミトコンドリアDNAとの間の予想されたハイブリダイゼーションの程度と比較する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記核DNAプローブが、ヒト乳頭腫ウィルスDNAに実質的に相補的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミトコンドリアDNAプローブが、以下のアンプライマー(amplimer):
(a)5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8);
(b)5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−GGG−GAA−GCG−AGG−TTG−ACC−TG−3’(配列番号6);
(c)5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8);
(d)5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−GGC−AGG−AGT−AAT−CAG−AGG−TG−3’(配列番号5);または
(e)5’−AAC−ATA−CCC−ATG−GCC−AAC−CT−3’(配列番号1)および5’−CTA−GGG−TAG−AAT−CCG−AGT−ATG−TTG−3’(配列番号7)
を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の検出可能な標識および/または前記第2の検出可能な標識が、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ジゴキシゲニン、発光剤、放射標識、色素、酵素、またはハプテンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の検出可能な標識および/または前記第2の検出可能な標識が、フルオロセイン(fluoroscein)、ジニトロフェニル、ビオチン、またはジゴキシゲニンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の検出可能な標識と、前記第2の検出可能な標識が同一である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の検出可能な標識と、前記第2の検出可能な標識が異なっている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を観測する方法であって、
(a)前記組織サンプルまたは細胞サンプルに存在する染色体DNAおよび染色体外DNAを、相補的配列へのハイブリダイゼーションに利用できるようにするために、組織サンプルまたは細胞サンプルを処理する工程と、
(b)前記組織サンプルまたは細胞サンプルを、
(i)第1の検出可能な標識に結合した標的核DNAに、実質的に相補的である核DNAプローブと、
(ii)第1の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに、実質的に相補的であるミトコンドリアDNAプローブ
のいずれかと接触させる工程と、
(c)工程(b)においてその標的に特異的にハイブリダイズするプローブを、前記組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄する工程と、
(d)工程(b)において用いられたプローブとその標的との間のハイブリダイゼーションの程度を評価する工程と、
(e)前記組織サンプルまたは細胞サンプルを、下記のいずれかに接触させる工程:
(i)第2の検出可能な標識に結合した前記標的核DNAに、実質的に相補的な核DNAプローブと。ただしこの時、組織サンプルまたは細胞サンプルは、工程(b)のミトコンドリアDNAプローブに接触している、
(ii)第2の検出可能な標識に結合した標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的なミトコンドリアDNAプローブと。ただしこの時、組織サンプルまたは細胞サンプルは、工程(b)の核DNAプローブに接触している、
(f)工程(e)においてその標的に特異的にハイブリダイズするプローブを、組織サンプルまたは細胞サンプルから洗浄する工程と、および
(g)工程(e)において用いられたプローブとその標的との間のハイブリダイゼーションの程度を評価する工程と、
(h)前記標的核DNAのin situハイブリダイゼーション分析の質を判定するために、前記ミトコンドリアDNAプローブと前記標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度を、予想された前記ミトコンドリアDNAプローブと前記標的ミトコンドリアDNAとの間のハイブリダイゼーションの程度と比較する工程と
を含む方法。
【請求項9】
前記核DNAプローブが、ヒト乳頭腫ウィルスDNAに実質的に相補的である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ミトコンドリアDNAプローブが、以下のアンプライマー:
(a)5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8);
(b)5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−GGG−GAA−GCG−AGG−TTG−ACC−TG−3’(配列番号6);
(c)5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8);
(d)5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−GGC−AGG−AGT−AAT−CAG−AGG−TG−3’(配列番号5);または
(e)5’−AAC−ATA−CCC−ATG−GCC−AAC−CT−3’(配列番号1)および5’−CTA−GGG−TAG−AAT−CCG−AGT−ATG−TTG−3’(配列番号7)
を用いてポリメラーゼ連鎖反応により調製される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の検出可能な標識および/または前記第2の検出可能な標識が、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ジゴキシゲニン、発光剤、放射標識、色素、酵素、またはハプテンである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の検出可能な標識および/または前記第2の検出可能な標識が、フルオレセイン、ジニトロフェニル、ビオチン、またはジゴキシゲニンである、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の検出可能な標識と、前記第2の検出可能な標識が同一である、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の検出可能な標識と、前記第2の検出可能な標識が異なっている、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
組織サンプルまたは細胞サンプル中の標的核DNAおよび標的ミトコンドリアDNAのin situハイブリダイゼーション検出用試薬であって、
(a)第1の検出可能な標識に結合した前記標的核DNAに実質的に相補的である核DNAプローブ;および
(b)第2の検出可能な標識に結合した前記標的ミトコンドリアDNAに実質的に相補的であるミトコンドリアDNAプローブ
を含む試薬。
【請求項16】
前記核DNAプローブが、ヒト乳頭腫ウィルスDNAに実質的に相補的である、請求項15に記載の試薬。
【請求項17】
前記ミトコンドリアDNAプローブが、以下のアンプライマー:
(a)5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8);
(b)5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−GGG−GAA−GCG−AGG−TTG−ACC−TG−3’(配列番号6);
(c)5’−CAA−CAT−ACT−CGG−ATT−CTA−CCC−TAG−3’(配列番号4)および5’−TGA−CCG−TAG−TAT−ACC−CCC−GG−3’(配列番号8);
(d)5’−CTC−TAG−AGC−CCA−CTG−TAA−AG−3’(配列番号3)および5’−GGC−AGG−AGT−AAT−CAG−AGG−TG−3’(配列番号5);または
(e)5’−AAC−ATA−CCC−ATG−GCC−AAC−CT−3’(配列番号1)および5’−CTA−GGG−TAG−AAT−CCG−AGT−ATG−TTG−3’(配列番号7)
を用いてポリメラーゼ連鎖反応により調製される、請求項15に記載の試薬。
【請求項18】
前記第1の検出可能な標識および/または前記第2の検出可能な標識が、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ジゴキシゲニン、発光剤、放射標識、色素、酵素、またはハプテンである、請求項15に記載の試薬。
【請求項19】
前記第1の検出可能な標識および/または前記第2の検出可能な標識が、フルオレセイン、ジニトロフェニル、ビオチン、またはジゴキシゲニンである、請求項15に記載の試薬。
【請求項20】
前記第1の検出可能な標識と、前記第2の検出可能な標識が同一である、請求項15に記載の試薬。
【請求項21】
前記第1の検出可能な標識と、前記第2の検出可能な標識が異なっている、請求項15に記載の試薬。
【請求項22】
前記核DNAプローブが第1の容器で提供され、前記ミトコンドリアDNAプローブが第2の容器で提供されるキットを含む、請求項15に記載の試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−535944(P2007−535944A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511713(P2007−511713)
【出願日】平成17年5月4日(2005.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/016218
【国際公開番号】WO2005/107430
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(500555848)ヴェンタナ メディカル システムズ インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】