説明

o−ニトロベンジル基含有シラザン化合物及び用途

【課題】基体表面に極性官能基を、効率良く、且つ経済的に導入可能な、o−ニトロベンジル基含有シラザン化合物、その製造方法、該シラザン化合物を利用した表面修飾剤、該表面修飾剤を用いた、特定の極性官能基を所望箇所に発現させた表面修飾材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物は、式(1)で表される。
【化1】


(R1、R2:H、OR4(R4:C1〜10のアルキル鎖、フッ化アルキル鎖)、R3:H、−CH3。X:−O−、−COO−、−NHCOO−、−SO3−、−SCOO−。m:3〜20の整数。Y:シラザン基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光分解性のo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物、該化合物を利用した特定の極性官能基を有する基体用の表面修飾剤、該表面修飾剤を用いた表面修飾材料の製造方法、及び該表面修飾材料の特定箇所に極性官能基を発現させる表面修飾材料の製造方法に関する。本発明は、インクジェットプロセスに利用可能な選択的極性変換材料や、生物分野における選択的に生体物質を固定する材料、化学分野においては特定の位置へ極性官能基を導入した材料の製造などに利用でき、特に、低いコストで、急速に表面親水化を必要とする用途に好適な表面修飾剤を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスを始めとする微細加工を必要とする各種電子デバイスの分野では、デバイスの高密度化、高集積化の要求がますます高まってきている。現行の電子デバイス製造工程で微細回路パターンの形成プロセスの主流であるのは、フォトリソグラフィーに代表される基板上に作製した部材を必要な位置だけ削って微細加工を行うトップダウンプロセスである。しかし、微細化が進むフォトリソグラフィーは光源の短波長化に伴い、装置の大型化及びコスト、その波長でのレンズの開発、対応するレジストのコストなど解決すべき課題が数多く浮上してきている。また、デバイスの使われ方も多様化してきており、従来のシリコンウェハだけでなく、プラスチック基板等の柔軟な基材にパターン形成された部品が必要となっている。プラスチックのようなフレキシブルな基板を用いることにより、軽量、かつ自由に曲げられる大画面ディスプレイ、電子ペーパー及び太陽電池など種々の新しいデバイスを実現できる可能性を持っている。
【0003】
一方、リソグラフィー技術に変わる低コストかつ簡便な微細パターン形成方法としてボトムアッププロセスが次世代の半導体新プロセスなどに期待されている。ボトムアッププロセスとは、基板上の必要な位置にだけ分子を集合させることによって、ナノレベルで部材を組み立てる技術である。
ボトムアッププロセスにおいて有用な素材の一つが自己組織化単分子膜であり、下記の先行例のように光照射により極性官能基を発生するシランカップリング剤が使用される。非特許文献1においては、式(3)で示される表面修飾剤のトリメトキシシリル基を有するo−ニトロベンジルエステル誘導体が報告されている。この化合物(3)を用いることによって、基体表面に、極性官能基であるカルボキシル基を容易に導入することができる。例えば、シリカゲルやシリコンウェハ等の基体表面に存在する水酸基と、化合物(3)のトリメトキシシリル基とを反応させることにより、まず、基体表面に化合物(3)の膜を形成することができる。次いで、これに紫外線を照射することにより、化合物(3)におけるo−ニトロベンジル基とのエステル結合が切断され、極性官能基であるカルボキシル基を基板表面に容易に導入することができる。更に特許文献1〜3では、上記カルボキシル基のほかに、水酸基、アミノ基、スルホ基、チオール基を材料表面に発現させる手法が開示されている。
【0004】
【化3】

(式中、Meはメチル基を示し、Rが水素原子のときm=4又は10であり、Rがメチル基のときm=4である。)
【0005】
他にも自己組織化単分子膜を利用した極性変換による選択的パターン形成方法がいくつか提案されている。例えば、次のようなものが挙げられる。
(i)特許文献4では、基板上にフルオロアルキルシランを持つ自己組織化単分子膜を形
成し、プラズマまたは紫外線照射により自己組織化単分子膜を破壊して表面の極性変換を行う方法が開示されている。
(ii)特許文献5では、基板上にベンジルフェニルスルホン基を持つ自己組織化単分子膜
を形成し、紫外線照射により表面の極性変換を行う方法が開示されている。
(iii)特許文献6では、凹凸の有る下地層と撥水性単分子膜の中間に光分解活性層を入れ
、紫外線照射により撥水層を選択的に除去して表面の極性変換を行う方法が開示されている。
【0006】
以上のように、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホ基、チオール基の極性官能基を、シリカゲルやシリコンウェハ等の基体表面に導入するための1つの手段としては、光で容易に分解する保護基で極性官能基を保護した表面修飾剤の使用が知られている。このような表面修飾剤を、マスキングを用いて使用することによって極性官能基の選択的発現が可能となり、生物分野では生体物質を基体上の特定の位置に固定することが可能になり、インクジェット法の微細パターン形成、生体物質の固定、高分子の表面改質等、様々な分野で応用することができる。
しかし、光分解性の保護基としてo−ニトロベンジル基を有し、カップリング基としてトリクロロシラン、ジメチルクロロシラン、アルコキシシラン等を有する光分解性の表面修飾剤は、これを用いた表面修飾材料の製造における生産性や経済性を更に向上させるために、基体表面への修飾速度を改善する余地が残っている。
【0007】
ところで、基板への修飾法としては、ウェット処理或いはドライ処理が一般的に知られている。ドライ処理は、真空装置を用いるため、工程が複雑で、大面積化が困難、コストが高いという問題がある。これに対してウェット処理は、塗布という簡単なプロセスで薄膜を形成でき、大面積化にも適しているため生産性に優れ、大幅なコストダウンが見込まれている。
しかし、このようなウェット処理或いはドライ処理を用いた場合において、上記カップリング剤としてクロロシランを有する光分解性の表面修飾剤では、アウトガスとして腐食性の塩酸が生じるという問題がある。また、上記カップリング剤としてアルコキシシランを有する光分解性の表面修飾剤では、修飾の際に加水分解反応が必要であり、クロロシランと比べ反応性が低いといった問題がある。更に、ウェット処理を用いてプラスチック基体に修飾する場合は、プラスチックが有機溶剤に弱いために、修飾速度が遅いと修飾する前に基板表面が溶解するという問題がある。
【特許文献1】特開2003−292496号公報
【特許文献2】特開2002−80481号公報
【特許文献3】特開2003−321479号公報
【特許文献4】特開2004−6700号公報
【特許文献5】特開2006−70026号公報
【特許文献6】特開2001−129474号公報
【非特許文献1】Chem.Let.,228−229,(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、短時間に基体表面に効率良く、且つ経済的に光分解性のo−ニトロベンジル基を導入可能なo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物、及び該シラザン化合物を利用した表面修飾剤を提供することにある。
本発明の別の課題は、短時間に基体表面に効率良く、且つ経済的に光分解性のo−ニトロベンジル基を導入可能な表面修飾材料の製造方法、並びに特定の極性官能基を所望箇所に発現させることができる表面修飾材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、光分解性保護基であるo−ニトロベンジル基を用いて極性官能基を保護したシラザン化合物が、上記課題を解決する化合物であることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち本発明によれば、式(1)で表されるo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物(以下、化合物(1)ということがある)が提供される。
【化4】

(式中、R1とR2は水素原子又はOR4(R4は炭素数1〜10のアルキル鎖又はフッ化アルキル鎖を表す)を表す。R3は水素原子又はメチル基を表す。Xは−O−、−COO−、−NHCOO−、−SO3−、又は−SCOO−のいずれかを表す。mは3〜20の整数を表す。Yはシラザン基を表す。)
【0010】
また本発明によれば、上記化合物(1)を含む、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を表面に有する基体用の表面修飾剤が提供される。
更に本発明によれば、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を表面に有する基体に、上記表面修飾剤をディッピング法等により反応させる工程(A)を含む表面修飾材料の製造方法が提供される。
更にまた本発明によれば、上記工程(A)と、該工程(A)で表面修飾剤を反応させた表面の少なくとも一部に光を照射し、o−ニトロベンジル基を光分解させて、該光照射面に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を形成する工程(B)とを含む表面修飾材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面修飾剤は、光分解性保護基であるo−ニトロベンジル基を用いて極性官能基を保護した本発明のシラザン基を有する化合物(1)を利用するため、特定の極性官能基を有する基体に、光分解性のo−ニトロベンジル基を短時間に効率良く、且つ経済的に導入することができる。
本発明の表面修飾材料の製造方法は、上記工程(A)、若しくは工程(A)と工程(B)とを含むので、特定の極性官能基を有する基体表面に光分解性のo−ニトロベンジル基を、効率良く、経済的に導入した表面修飾材料を、又は基体表面に特定の極性官能基を所望箇所に有する表面修飾材料を効率よく得ることができる。
【0012】
本発明の表面修飾剤は、特定の極性官能基の選択的発現が可能となり、光ファイバーや粉末製造等の工業部材や複合材料への修飾のみならず、自己組織化単分子膜、メソポーラスシリカ、マイクロアレイ等、多くの分野における極性官能基の導入に有用である。
本発明の表面修飾材料の製造方法では、工程(B)における光照射の方法によって、極性官能基のパターニングが可能となるため、生物分野では、細胞、糖、核酸、タンパク質等の生体物質を、基体上の特定の位置に固定した表面修飾材料を容易に得ることができ、化学分野ではインクジェットプロセスに利用可能な、基体上の特定の位置に特定の極性官能基を発現させた選択的極性変換材料を容易に得ることができる。従って、本発明は、生物分野や化学分野をはじめとする様々な分野で応用が可能である。
更に、従来のクロロシランを有する光分解性の表面修飾剤を用いた場合、アウトガスとして腐食性の塩酸が生じるが、本発明の化合物(1)では、シラザン基を有するので、このような問題が回避できる。また、上記クロロシラン型の表面修飾剤と比較して本発明の化合物(1)を用いた本発明の表面修飾剤は、より短時間で緻密な修飾が可能である。このため、修飾基体としてプラスチック材料を用いた場合であっても、該基体が有機溶剤に溶解する前に効率良く表面を修飾することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の化合物(1)は、上記式(1)で示される、o−ニトロベンジル基含有シラザン化合物である。この化合物(1)は、o−ニトロベンジル基により、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基又はチオール基を保護することができる。
【0014】
式(1)中、R1及びR2は水素原子又はOR4を表す。R1及びR2は、同一又は異なる置換基でよいが、水素原子又は光反応を行う場合に長波長の光で保護基を除去することが可能であることから、OR4が好ましい。ここで、R4は炭素数1〜10のアルキル鎖又はフッ化アルキル鎖を表す。
4で表されるアルキル鎖としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基が挙げられる。また、R4で表されるフッ化アルキル鎖としては、例えば、2−(パーフルオロブチル)エチル基、2−(パーフルオロブチル)プロピル基、2−(パーフルオロブチル)ヘキシル基、2−(パーフルオロヘキシル)エチル基、2−(パーフルオロヘキシル)プロピル基、2−(パーフルオロヘキシル)ヘキシル基、2−(パーフルオロオクチル)エチル基、2−(パーフルオロオクチル)プロピル基、2−(パーフルオロオクチル)ヘキシル基、2−(パーフルオロデシル)エチル基が挙げられる。これらの中でもメチル基、エチル基がより好ましい。
【0015】
式(1)中、R3は水素原子又はメチル基を表し、中でも特にメチル基が好ましい。mは3〜20の整数を表し、出発原料の入手のし易さから、3〜15の整数であることが好ましく、3〜10の整数であることがより好ましい。
式(1)中、Xは−O−、−COO−、−NHCOO−、−SO3−、又は−SCOO−を表す。
【0016】
式(1)中、Yで表されるシラザン基としては、例えば、式(2)で表される基が挙げられる。
【化5】

式(2)中、R5及びR6は同一であっても異なっていてもよい直鎖状または分岐状の炭素数1〜6のアルキル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基が挙げられ、出発原料の入手のし易さからこれらの中でも特にメチル基が好ましい。
【0017】
式(2)中、Zは二級アミノ基であって、直鎖状または分岐状の炭素数1〜4のアルキル基を持つ二級アミノ基、又は5〜6員環の含窒素複素環を表す。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等を持つ二級アミノ基、又はピロリジニル基、ピペリジニル基、モルホリニル基、イミダゾリニル基、ピロリル基、イミダゾイル基、トリアゾイル基等の含窒素複素環が挙げられ、出発原料の入手のし易さからこれらの中でも特にジエチルアミノ基、ピロリジニル基、モルホリニル基が好ましい。
【0018】
式(1)で表されるo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物としては、例えば、5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、
【0019】
3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)プロピル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)プロピル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンチル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ペンチル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ペンチル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ペンチル−(2−ニトロベンジル)エーテル、
【0020】
3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)プロピル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)プロピル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンチル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ペンチル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ペンチル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ペンチル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、
【0021】
3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)プロピル−カルバミン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、
【0022】
4−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステル4−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステル、4−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステル4−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステル、4−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エステル4−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エステル、4−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エステル4−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エステル
【0023】
3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、3−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)プロピル−チオカーボネート1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステルが挙げられる。
【0024】
化合物(1)の製造方法としては、例えば、式(4)で表されるo−ニトロベンジル基含有クロロジメチルシラン化合物(以下、化合物(4)という)と、式(1)中のYに対応する二級アミンとを反応させる方法が挙げられる。
【化6】

式(4)中、R1〜R5、X、Y、mはそれぞれ式(1)、式(2)中の対応する記号と同様である。
【0025】
化合物(4)としては、例えば、合成の容易さから、3−クロロジメチルシリルプロピル−(2−ニトロベンジル)エーテル、3−クロロジメチルシリルプロピル−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エーテル、5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、((3−クロロジメチルシリル)プロピル)カルバミン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、((3−クロロジメチルシリル)プロピル)カルバミン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステル、4−(クロロジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステル、4−(クロロジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル)エステル、((3−クロロジメチルシリル)プロピル)チオカーボネート1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル、((3−クロロジメチルシリル)プロピル)チオカーボネート1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステルが好ましく挙げられる。
【0026】
化合物(4)は、公知の様々な方法により製造可能である。例えば、特開2003−321479号公報、特開2002−80481号公報に記載の合成法等により、末端オレフィン体を合成し、続いて塩化白金(IV)酸六水和物(H2PtCl6・H2O)やシス−ジクロロビス(ジエチルスルフィド)プラチナ(II) (cis-(Et2S)2PtCl2)等の白金触媒存在下、クロロジメチルシラン等とヒドロシリル化を行うことで合成できる。得られた反応物は、蒸留操作により白金触媒の除去・精製を行った後に用いることが好ましい。
【0027】
前記二級アミンとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N−エチルメチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジs−ブチルアミン、ジt−ブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、イミダゾリン、ピロール、イミダゾール、トリアゾールが挙げられ、出発原料の入手のし易さからこれらの中でも特にジエチルアミン、ピロリジン、モルホリンが好ましい。
【0028】
二級アミンの使用量は、化合物(4)に対してモル比で2.0〜10.0倍量が好ましい。化合物(4)から脱離する塩化物イオンは、二級アミンと塩酸塩を生成するため、2.0倍量以下の場合では化合物(4)が残存する可能性がある。10.0倍量以上では二級アミンが過剰となり効率的ではない。
【0029】
上記反応は、無溶媒反応でも何ら問題は無いが、化合物(4)や二級アミンに対して反応性をもたない溶媒であれば溶媒存在下に行うこともできる。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、ヘキサンが好ましく挙げられる。
前記溶媒を用いる場合の使用量は、化合物(4)100質量部に対して通常0.1〜1000質量部程度である。
上記反応は、反応温度0℃〜室温付近で円滑に進行する。反応温度が二級アミンの沸点以上の場合は原料が消失する恐れがある。一方、反応時間は、反応温度、溶媒の有無等の条件により異なるが、通常、30分〜1時間程度であるのが好ましい。
【0030】
本発明の表面修飾剤は、上記化合物(1)を有効成分として含む。本発明の表面修飾剤は、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を表面に有する基体表面を修飾するためのものであって、上記極性官能基と反応させることが可能で、修飾後、光照射により光分解性保護基であるo−ニトロベンジル基を外すことで、容易に親水性や酸性、塩基性等の機能を基体に付与することができる。
上記極性官能基を表面に有する基体材料としては、例えば、シリカゲル、シリコンウェハ、ガラス等の無機材料、金属材料や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)等のプラスチック、これらの複合材料が挙げられ、基体としては、マイクロアレイが挙げられる。
上記基体の形態は特に制限されず、例えば、シート状、ハニカム状、ファイバー状、ビーズ状、発泡状やそれらが集積した形態であっても良い。
【0031】
本発明の表面修飾材料の製造方法は、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を表面に有する基体に、上記本発明の表面修飾剤を反応させる工程(A)を含む。
工程(A)を実施するにあたり、通常、基体に対して前処理工程を行うことができる。
前処理工程は、基体表面にコーティングする化学的処理、及び基体表面を酸化又はエッチングする物理的処理が挙げられる。
化学的処理の溶液としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、過酸化水素のような酸性溶液が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では硫酸及び過酸化水素を等量混合した混合液が特に好ましい。
酸性溶液のコーティングは、基体表面をコーティングできる方法であれば特に制限はなく、例えば、塗布、スプレー、ディッピングにより行うことができる。酸性溶液による処理時間は、1〜48時間が好ましく、3〜24時間がより好ましい。処理時間が1時間より短い場合、表面改質が不十分という可能性が有る。処理時間が48時間以上の場合は材料表面にそれ以上変化がおきないため、生産性の低下となる可能性がある。この前処理工程により、例えばシリコンウェハや石英のような無機材料の基体表面に親水性基(シラノール基)を形成することができる。
物理的処理としては、オゾン、プラズマ、紫外線処理が挙げられる。物理的処理の時間は1〜30分が好ましく、5〜15分がより好ましい。処理時間が1分より短い場合、表面改質が不十分という可能性が有る。この前処理工程により、例えば、プラスチックの基体表面に親水性基(水酸基、カルボキシル基)を形成することができる。
【0032】
工程(A)において、上記本発明の表面修飾剤を基体表面に反応させるには、例えば、塗布、スプレー、ディッピング、真空蒸着法、イオンプレーティング、熱CVDより行うことができる。この中でもディッピングか好ましい。
ディッピングを行う際に用いる溶媒としては、化合物(1)に対して不活性であり、化合物(1)を溶解するものであれば特に制限されない。例えば、アセトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロペンタン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンが挙げられ、この中でもベンゼン、トルエンが好ましく、環境性の面からトルエンがより好ましい。
溶媒中の化合物(1)の濃度は、溶媒に対して、通常1.0×10-4〜10モル%、生産性の面から1.0×10-4〜1.0×10-1モル%が好ましい。
ディッピング溶液の温度は、室温〜100℃が好ましく、生産性の面から室温がより好ましい。ディッピングを行う際の基体の浸漬時間は特に制限されないが、1分〜24時間が好ましく、生産性の面から5分〜1時間がより好ましい。特に、基体がプラスチック材料の場合、溶媒による表面溶解を抑制するために、5分〜30分未満が好ましい。処理時間が1分より短い場合、表面修飾が不十分となるおそれがある。
【0033】
本発明の表面修飾材料の製造方法は、上記工程(A)に加えて、該工程(A)で表面修飾剤を反応させた表面の少なくとも一部に光を照射し、o−ニトロベンジル基を光分解させて、該光照射面に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を形成する工程(B)を含むことができる。
工程(B)において、基体表面の表面修飾材料の全部又は一部に光を照射することにより、光照射部分の光分解性保護基を脱保護して極性官能基の露出した表面修飾材料を調製することができる。この際、特定の箇所のみに光照射することにより、その部分にのみ極性官能基を形成することができる。
【0034】
工程(B)において用いる照射光としては、光分解性保護基を脱保護して極性官能基を露出させることのできる波長であれば特に制限はないが、紫外線(1〜400nm)であることが好ましく、化合物(1)の有する光分解性保護基の光分解能に応じて波長を選択することができる。
光源としては、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、エキシマレーザー、電子線が挙げられる。照射光のエネルギーについては、照射箇所の保護基が脱保護されるエネルギーであれば問題なく、光源にもよるが、一般的には0.01〜5000J/cm2が好ましく、0.01〜1000J/cm2がより好ましい。
【0035】
本発明の表面修飾材料の製造方法において、上記前処理工程、工程(A)及び工程(B)の各工程の作業後には、通常、基体や材料表面を洗浄する。該洗浄に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノールが挙げられ、中でもクロロホルム、メタノールが好ましい。
洗浄方法としては、浸漬−振動、スプレー、超音波が好ましく、スプレー、超音波がより好ましい。
【0036】
本発明の表面修飾材料の製造方法における一例の反応を概略的に示すための概略図を図1に示す。
図1は、基体として、シリカゲル、シリコンウェハ、ガラス等の無機材料を用い、表面修飾剤の有効成分である化合物(1)として、5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを用いた表面修飾材料の製造方法における例である。尚、図1中のMeはメチル基を示す。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
実施例1−1
5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルの合成
アルゴン置換した二口フラスコ内に5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル775mgに、脱水テトラヒドロフラン2.25mlを加え、ジエチルアミン1.17ml(5等量)を氷冷下、撹拌しながら滴下した。その後室温に戻し30分間撹拌した。アルゴン雰囲気下のグローブバッグ内で、反応によって析出したジエチルアミン塩酸塩をガラスフィルターでろ別し、反応容器と塩酸塩を脱水テトラヒドロフラン(THF)2mlを用いて2回洗浄した。溶液を減圧乾燥し、THF及びジエチルアミンを除去した後、クーゲルロール蒸留によって5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを収率41%で得た。得られた化合物の1H−NMRを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3) −0.01ppm,s,Si−C3(6H) 0.46−0.52ppm,m,Si−C2(2H) 0.92−0.96ppm,t,N−CH2−C3(6H) 1.24−1.32ppm,m,Si−CH2−C2(2H) 1.57−1.65ppm,OC−CH2−C2,CH−C3(5H) 2.29−2.34ppm,m,OC−C2(2H) 2.73−2.78ppm,q,N−C2−CH3(4H) 6.30−6.35ppm,q,Ar−C(1H) 7.39−7.44ppm,m,Ar−(1H) 7.59−7.64ppm,m,Ar−(2H) 7.91−7.93ppm,d,Ar−(1H)
【0038】
実施例1−2
5−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルの合成
実施例1−1のジエチルアミンの代わりに2.0MジメチルアミンTHF溶液を用いて同様の操作を行い、5−((N,N−ジメチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを収率20%で得た。得られた化合物の1H−NMRを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3) −0.01ppm,s,Si−C3(6H) 0.47−0.51ppm,m,Si−C2(2H) 1.27−1.34ppm,m,Si−CH2−C2,CH−C3(2H) 1.58−1.65ppm,OC−CH2−C2,CH−C3(5H) 2.27−2.34ppm,m,OC−C2(2H) 2.41ppm,s,N−C3(6H) 6.28−6.33ppm,q,Ar−C(1H) 7.38−7.44ppm,m,Ar−(1H) 7.59−7.65ppm,m,Ar−(2H) 7.89−7.91ppm,d,Ar−(1H)
【0039】
実施例1−3
5−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルの合成
実施例1−1のジエチルアミンの代わりに、ピロリジンを用いて同様の操作を行い、5−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを収率38%で得た。得られた化合物の1H NMRを以下に示す。得られた化合物の1H−NMRを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3) 0.01ppm,s,Si−C3(6H) 0.46−0.51ppm,m,Si−C2(2H) 1.28−1.34ppm,m,Si−CH2−C2(2H) 1.58−1.70ppm,OC−CH2−C2,CH−C3,N−CH2−C2(9H) 2.28−2.34ppm,m,OC−C2(2H) 2.86−2.89ppm,t,N−C2−CH3(4H) 6.30−6.35ppm,q,Ar−C(1H) 7.39−7.44ppm,m,Ar−(1H) 7.61−7.64ppm,m,Ar−(2H) 7.92−7.94ppm,d,Ar−(1H)
【0040】
実施例1−4
5−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルの合成
実施例1−1のジエチルアミンの代わりに、モルホリンを用いて同様の操作を行い、5−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを収率45%で得た。得られた化合物の1H−NMRを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3) 0.00ppm,s,Si−C3(6H) 0.50−0.54ppm,m,Si−C2(2H) 1.26−1.34ppm,m,Si−CH2−C2(2H) 1.58−1.66ppm,OC−CH2−C2,CH−C3(5H) 2.28−2.38ppm,m,OC−C2(2H) 2.80−2.82ppm,t,N−C2(4H) 3.51−3.53ppm,t,N−CH2−C2(4H) 6.30−6.35ppm,q,Ar−C(1H) 7.39−7.45ppm,m,Ar−(1H) 7.59−7.64ppm,m,Ar−(2H) 7.91−7.94ppm,d,Ar−(1H)
【0041】
実施例1−5
5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステルの合成
実施例1−1の5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルの代わりに、5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステルを用いて同様の操作を行い、5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)エチルエステルを収率43%で得た。得られた化合物の1H−NMRを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3) −0.01ppm,s,Si−C3(6H) 0.46−0.52ppm,m,Si−C2(2H) 0.92−0.96ppm,t,N−CH2−C3(6H) 1.24−1.32ppm,m,Si−CH2−C2(2H) 1.57−1.58ppm,d,CH−C3(3H) 1.64−1.68ppm,m,Si−CH2−CH2−C2(2H) 2.30−2.33ppm,m,OC−C2(2H) 2.73−2.78ppm,q,N−C2−CH3(4H) 3.96ppm,s×2,Ar−O−C3(4H) 6.46−6.48ppm,q,Ar−C(1H) 7.00ppm,s,Ar−(1H) 7.56ppm,t,Ar−(1H)
【0042】
実施例1−6
4−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステルの合成
実施例1−1の5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルの代わりに、4−(クロロジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステルを用いて同様の操作を行い、4−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ブタン−スルホン酸1−(2−ニトロベンジル)エステルを収率30%で得た。得られた化合物の1H−NMRを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3) 0.02ppm,s,Si−C3(6H) 0.51−0.55ppm,m,Si−C2(2H) 0.93−1.00ppm,t,N−CH2−C3(6H) 1.45−1.51ppm,m,Si−CH2−C2(2H) 1.89−1.94ppm,m,Si−CH2−CH2−C2(2H) 2.74−2.80ppm,q,N−C2−CH3(4H) 3.19−3.24ppm,m,SO2−C2(2H) 5.65ppm,s,Ar−C2(2H) 7.53−7.55ppm,m,Ar−(1H) 7.72−7.79ppm,m,Ar−(2H) 8.16−8.18ppm,d,Ar−(1H)
【0043】
製造例1
シリコンウェハ及びPET基板の前処理工程
50mlナスフラスコにおいて、濃硫酸14ml及び過酸化水素6mlを混合し、前処理溶液を調製した。この溶液にシリコンウェハ(有限会社エス・エヌ・ケー社製、φ4インチ、厚さ0.4mm)を入れて、1時間静置した。1時間後前処理溶液よりシリコンウェハを取り出して蒸留水で表面を洗い流し、蒸留水中で超音波を10分間当て、メタノールで洗浄した後窒素ガスにより風乾させ、シリコンウェハの前処理基板を得た。この基板の接触角を以下の方法により測定したところ15°であった。
一方、PET基板(有限会社サンプラテック社製、厚さ1mm)を蒸留水中で超音波を10分間当て、イソプロパノールで洗浄した後にUVオゾン処理(セン特殊光源株式会社製、光表面処理装置、PL16−110D)を10分間行い、PET基板の前処理基板を得た。この基板の接触角を以下の方法により測定したところ38°であった。
シリコンウェハ及びPET基板表面の接触角測定法
接触角の測定は、接触角測定装置、協和界面科学株式会社CA−DT・A型を用い、液適法(静的接触角)により測定した。即ち、接触角測定装置により、1μLの液滴を滴下し、10秒後の接触角をθ/2法により解析した。
【0044】
実施例2−1、実施例2−2、及び実施例2−3
ディッピング法によるシリコンウェハのシラザン型表面修飾剤表面修飾工程(サンプル1、サンプル2、及びサンプル3の製造)
50mlナスフラスコに実施例1−1で合成した5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル25mg、実施例1−3で合成した5−((1−ピロリジニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル25mg、又は実施例1−4で合成した5−((4−モルホリニル)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル25mgと、ドライトルエン(活性化したモレキュラーシーブス3Aで脱水操作したもの)20mlを入れて、溶液を調整した。これに製造例1で製造した前処理を行ったシリコンウェハを入れ、室温で表1に記載の一定時間(分)静置した。一定時間経過後、シリコンウェハを取り出し、メタノール、クロロホルムで表面を洗い流し、クロロホルム中で超音波を10分間当てた。その後、表面をクロロホルムで洗い流し、窒素ガスで風乾させて、ディッピング時間の異なる各表面修飾シリコンウェハを得た。(実施例1−1で合成した化合物を用いたものをサンプル1、実施例1−3で合成した化合物を用いたものをサンプル2、実施例1−4で合成した化合物を用いたものをサンプル3とする)。
得られた各シリコンウェハについて上記と同様に接触角を測定した。結果を表1及び図2に示す。
【0045】
比較例1及び2
ディッピング法によるシリコンウェハのクロロシラン型及びトリメトキシシラン型表面修飾剤表面修飾工程(比較サンプル1及び2の製造)
50mlナスフラスコに5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル25mg、又は5−(トリメトキシシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル25mgと、ドライトルエン(活性化したモレキュラーシーブス3Aで脱水操作したもの)20mlを入れて、溶液を調整した。これに製造例1で製造した前処理を行ったシリコンウェハを入れ、室温で表1に記載の一定時間(分)静置した。一定時間経過後、シリコンウェハを取り出し、メタノール、クロロホルムで表面を洗い流し、クロロホルム中で超音波を10分間当てた。その後、表面をクロロホルムで洗い流し、窒素ガスで風乾させて、ディッピング時間の異なる表面修飾シリコンウェハを得た。ここで、5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを用いたものを比較サンプル1、5−(トリメトキシシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを用いたものを比較サンプル2とする。
得られたシリコンウェハについて実施例2−1と同様に接触角を測定した。結果を表1及び図2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1より、各サンプルのシリコンウェハは、ディッピング時間に応じて接触角が上昇し、疎水性が上昇したので、シリコンウェハ表面の親水性基(シラノール基)がシランカップリング剤によって修飾されたことがわかった。
サンプル1〜3では接触角の上昇が飽和するのに10分間程度であった。即ち、反応開始後10分の時点で、反応前の接触角が15度であったものを、サンプル1〜3による修飾では65〜75度にすることができ、急速に表面疎水化を進行させることができることがわかった。
一方、比較サンプル1では、接触角の上昇が飽和せず、3時間後も上昇を続けたことから、表面修飾速度が遅いことが明らかとなった。反応前の接触角が15度であった基材について、反応開始後10分の時点では、52度までしか表面疎水化が進行しなかった。また、比較サンプル2では、接触角の上昇が非常に遅く、反応前の接触角が15度であった基材について、180分後も44度までにしか表面疎水化が進行しなかった。
【0048】
実施例3−1〜3−3及び比較例3
光照射による表面極性官能基を変換した表面修飾材料の製造
実施例2−1〜2−3、及び比較例1で製造したサンプル1〜3及び比較サンプル1の表面修飾シリコンウェハに、紫外線(100mW/cm2、Xe−Hgランプ、λ=300〜400nm)を90J/cm2照射した。紫外線照射後に各シリコンウェハをメタノール及びクロロホルムで表面を洗い流し、クロロホルム中で超音波を10分間当てた。その後、表面をメタノールで洗い流し、窒素ガスで風乾させて、極性変換を行った各シリコンウェハを得た。
得られた極性変換を行ったシリコンウェハであるサンプル1〜3及び比較サンプル1について上記と同様に接触角を測定した。その結果、実施例3−1としてのサンプル1の接触角は63°、実施例3−2としてのサンプル2の接触角は59°実施例3−3としてのサンプル3の接触角は62°、比較例3としての比較サンプル1の接触角は58°であり、実施例2−1〜2−3、及び比較例1で実施した前処理後のシリコンウェハより接触角が低下した。これらの結果より、サンプル1〜3及び比較サンプル1は紫外線照射により光分解性保護基が脱保護し、極性基であるカルボン酸が露出して親水性が上昇したことがわかった。
【0049】
実施例4
ディッピング法によるPET基板のシラザン型表面修飾剤表面修飾工程(サンプル4の製造)
50mlナスフラスコに実施例1−1で合成した5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル25mgとアセトン及びシクロヘキサン(活性化したモレキュラーシーブス3Aで脱水操作したもの)を1:5(体積比)の割合で混合した溶液20mlを入れて、溶液を調整した。これに製造例1で製造した前処理を行ったPET基板を入れ、室温で表2に記載の一定時間(分)静置した。一定時間経過後PET基板を取り出し、イソプロパノールで表面を洗い流し、蒸留水中で超音波を10分間当てた。その後、表面をイソプロパノールで洗い流し、窒素ガスで風乾させて、ディッピング時間の異なる各表面修飾PET基板を得た。
得られた各PET基板について上記と同様に接触角及びヘイズ(日本電色工業株式会社、濁度、曇り度計、NDH2000)を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
比較例4
ディッピング法によるPET基板のクロロシラン型表面修飾剤表面修飾工程(比較サンプル3の製造)
50mlナスフラスコに5−(クロロジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステル25mgとアセトン及びシクロヘキサン(活性化したモレキュラーシーブス3Aで脱水操作したもの)を1:5(体積比)の割合で混合した溶液20mlを入れて、溶液を調整した。これに製造例1で製造した前処理を行ったPET基板を入れ、室温で表2に記載の一定時間(分)静置した。一定時間経過後PET基板を取り出し、イソプロパノールで表面を洗い流し、蒸留水中で超音波を10分間当てた。その後、表面をイソプロパノールで洗い流し、窒素ガスで風乾させて、ディッピング時間の異なる各表面修飾PET基板を得た。
得られた各シリコンウェハについて上記と同様に接触角及びヘイズを測定した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2より、サンプル4では、5分後の基板の疎水性が上昇したので、UVオゾン処理によってPET基板に発生した極性基がシランカップリング剤によって修飾されたことがわかった。この際、ヘイズの上昇もほとんど認められなかった。
一方、比較サンプル3では、接触角が5分後においてサンプル4より12°程度低い値を示していた。そこで、30分後まで測定を継続したが、サンプル4程度の接触角になる前に基板表面がアセトンによって溶解し、白濁したためヘイズが上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の表面修飾剤の有効成分として、5−((N,N−ジエチルアミノ)ジメチルシリル)ペンタン酸1−(2−ニトロフェニル)エチルエステルを用いた、表面修飾材料の製造方法における一例の反応を概略的に示す概略図である。
【図2】表1に示す修飾時間と接触角の関係をプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物。
【化1】

(式中、R1とR2は水素原子又はOR4(R4は炭素数1〜10のアルキル鎖又はフッ化アルキル鎖を表す)を表す。R3は水素原子又はメチル基を表す。Xは−O−、−COO−、−NHCOO−、−SO3−、又は−SCOO−のいずれかを表す。mは3〜20の整数を表す。Yはシラザン基を表す。)
【請求項2】
式(1)において、Yで表されるシラザン基が、式(2)で表されることを特徴とする、請求項1に記載のo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物。
【化2】

(式中、R5とR6は同一であっても異なっていてもよい直鎖状または分岐状の炭素数1〜6のアルキル基を表す。Zは二級アミノ基であって、直鎖状または分岐状の炭素数1〜4のアルキル基を持つ二級アミノ基、もしくは5〜6員環の含窒素複素環を表す。)
【請求項3】
請求項1記載のo−ニトロベンジル基含有シラザン化合物を含む、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を表面に有する基体用の表面修飾剤。
【請求項4】
水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を表面に有する基体に、請求項3記載の表面修飾剤を反応させる工程(A)を含む表面修飾材料の製造方法。
【請求項5】
工程(A)で表面修飾剤を反応させた表面の少なくとも一部に光を照射し、o−ニトロベンジル基を光分解させて、該光照射面に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の極性官能基を形成する工程(B)を更に含む請求項4記載の表面修飾材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−24194(P2010−24194A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188860(P2008−188860)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】