説明

p型熱電材料及びその製造方法

【課題】熱電材料を構成する元素のいずれもが地球上に存在する割合の多い元素であり、軽量、無毒な従来のp型熱電材料より高性能のp型熱電材料を提供する。
【解決手段】p型熱電材料は、CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であり、Mgが残りの量を含有する。但し、0≦x≦2である。Ca、Mg及びSiはいずれもが地球上に存在する割合の多い元素である。p型熱電材料は、Ca、Mg及びSiの割合が原子%で表した組成割合となるように、Ca原料、Mg原料及びSi原料の粉末を所定の割合で混合し、メカニカルアロイング処理を施した後、焼結することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型熱電材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱エネルギーと電気エネルギーとの相互変換が可能な熱電変換素子が知られている。この熱電変換素子は、p型及びn型の二種類の熱電材料(熱電変換材料)を用いて構成されており、この二種類の熱電材料を電気的に直列に接続し、熱的に並列に配置した構成とされている。この熱電変換素子は、両端子間に電圧を印加すれば、正孔の移動及び電子の移動が起こり、両面間に温度差が発生する(ペルチェ効果)。また、この熱電変換素子は、両面間に温度差を与えれば、やはり正孔の移動及び電子の移動が起こり、両端子間に起電力が発生する(ゼーベック効果)。このため、熱電変換素子をパーソナルコンピュータのCPU、冷蔵庫、カーエアコン等の冷却用の素子として用いたり、ごみ焼却炉等から生ずる廃熱を利用した発電装置用の素子として用いたりすることが検討されている。また、自動車のエンジンの廃熱量は無視できないほど多量であるため、エンジンの廃熱を利用して発電することも考えられている。
【0003】
従来、熱電変換素子を構成する熱電材料として、BiTeやPbTe等が実用化されている。また、Bi−Te系の材料でn型の熱電材料を形成する際には一般にSeが添加される。これらの熱電材料を構成する元素のBi、Te、Pb及びSeは毒性が強いため、環境汚染のおそれがある。そのため、環境負荷の少ない、即ち毒性を有しない熱電材料が望まれている。また、自動車の廃熱回収に使用するには軽量で資源的に豊富な材料が望まれている。そして、近年、レアメタルを原料とする材料は原料が高価となるばかりでなく、生産国の輸出制限でより入手し難くなっている。Bi、Te、Seはレアメタルであるため、そのような原料を使用しない熱電材料が望まれている。
【0004】
熱電材料を構成する元素のいずれもが地球上に存在する割合の多い元素であり、無毒で高性能の中高温用熱電材料としてMgSi(比重は約2)が知られている。MgSiはn型熱電材料である。また、熱電材料を構成する元素のいずれもが地球上に存在する割合の多い元素で、安価で軽量、無毒なp型熱電材料が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−147261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、CaMgSiとn型熱電材料であるMgSiとの混合物がp型熱電材料になっているので、CaMgSi単相の熱電材料とすれば、より高性能のp型熱電材料が得られると考えられるとの記載はある。しかし、CaMgSi単相の熱電材料をどのようにして製造するのかに関しては何ら記載がない。また、CaMgSi単相の熱電材料がどのような熱電性能を有するかに関しても記載はない。
【0007】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は熱電材料を構成する元素のいずれもが地球上に存在する割合の多い元素であり、軽量、無毒な従来のp型熱電材料より高性能のp型熱電材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のp型熱電材料は、CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であり、Mgが残りの量であり、かつ0≦x≦2である。ここで、Ca、Mg、Siの組成の割合を原子%で示している値は小数点以下2桁目を四捨五入しており、xが0(ゼロ)のときはCa、Mg、Siの組成の割合を示す値は同じで、合計値が100%になる。
【0009】
この発明では、熱電材料を構成する元素のいずれもが、地球上に存在する割合の多い元素であり、資源的に豊富な材料から製造できるため安価に得ることができる。また、各構成元素は無毒で軽量であり、熱電材料も無毒で軽量である。そして、熱電材料の微小単位時間あたりのある温度差における熱電変換による発電量であるパワーファクターPの値と温度との関係を示すグラフにおいて、パワーファクターPのピークにおける温度の値が、xの値により変化する。そのため、単相でCaMgSiの結晶構造を構成するCa原子の一部をMg原子と置換するか、Mg原子の一部をCa原子と置換することで、熱電材料の使用温度、即ち熱電変換素子の使用温度が、Ca:Mg:Si=1:1:1の場合に比べて、より高温(850K以上)まで使用可能なp型熱電材料を得ることができる。xの値を2以下にすることにより、p型熱電材料が壊れ易くなることを抑制し、取り扱い易くなる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、0.5≦xである。xの値を0.5以上としたp型熱電材料は、560K以上でCa:Mg:Si=1:1:1のp型熱電材料よりパワーファクターPの値が大きくなる。したがって、この発明のp型熱電材料は高温状態での使用に適する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であり、Mgが残りの量であり、かつ0≦x≦2であるp型熱電材料の製造方法である。そして、Ca、Mg及びSiの割合が原子%で表した組成割合となるように、Ca原料、Mg原料及びSi原料の粉末を混合し、メカニカルアロイング処理を施した後、焼結する。ここで、「Ca原料、Mg原料及びSi原料の粉末」とは、単にCa、Mg及びSiの粉末を意味するのではなく、原料粉末を混合することにより、メカニカルアロイング処理を施した状態の混合物あるいはメカニカルアロイング処理を施した後、放電プラズマ焼結された焼結体において、Ca、Mg、Siの割合が目的の化学組成となる原料粉末も含む。
【0012】
この発明では、原料粉末の混合物にメカニカルアロイング処理を施すことにより原料粉末が、焼結時にCaMgSiの生成する反応が進行するのに適した微細な状態に粉砕されるとともに均一に混合されて、目的の化学組成のp型熱電材料が製造される。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記Ca原料はCaH粉末、前記Mg原料はMg粉末、前記Si原料はSi粉末である。Ca原料としてCa粉末が得られれば使用可能であるが、Caは常温で酸素と反応し易く取り扱いが難しい。しかし、この発明では、Ca原料としてCaH粉末を使用するため、Ca粉末を使用する場合に比べてCa原料の粉末の取り扱いが容易になり、CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、目的の化学組成のp型熱電材料を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱電材料を構成する元素のいずれもが地球上に存在する割合の多い元素であり、軽量、無毒な従来のp型熱電材料より高性能のp型熱電材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】熱電材料のX線回折パターンを示す線図。
【図2】熱電材料のゼーベック係数の温度依存性を示すグラフ。
【図3】熱電材料の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフ。
【図4】熱電材料のパワーファクターの温度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4を参照して説明する。
p型熱電材料は、CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であり、Mgが残りの量であり、かつ0≦x≦2である。
【0017】
p型熱電材料は、Ca、Mg、Siの化学組成が原子%でそれぞれ33.3%(小数点以下2桁目を四捨五入)と同じ場合には、微小単位時間あたりのある温度差における熱電変換による発電量を表す電気的な出力因子であるパワーファクターPは、その温度依存性を示すグラフのピークが440K付近となった。
【0018】
p型熱電材料は、Siの割合を原子%で33.3%と一定にし、Caの割合を原子%で33.3%より多くし、その分Mgの割合を少なくするか、Caの割合を原子%で33.3%より少なくし、その分Mgの割合を多くすることにより、パワーファクターPのピークを高温側へ移動させることが可能になる。即ち、Siの割合を原子%で33.3%と一定にし、CaとMgの割合を変更することにより、使用温度に適したp型熱電材料を得ることができる。
【0019】
p型熱電材料の製造方法として、Ca、Mg及びSiの割合が原子%で表した組成割合となるように、Ca原料、Mg原料及びSi原料の粉末を所定の割合で混合し、メカニカルアロイング処理を施した後、放電プラズマ焼結する方法を採用した。また、Ca原料にはCaH粉末を、Mg原料にはMg粉末を、Si原料にはSi粉末をそれぞれ使用した。
【0020】
メカニカルアロイング処理は、原料粉末の大きさを放電プラズマ焼結に適した微細な大きさにするとともに、粉末を均一に混合させるために行う。メカニカルアロイング処理は、不活性ガス雰囲気でCa原料、Mg原料及びSi原料の粉末を所定の割合で混合した後、遊星ボールミルにより不活性ガス雰囲気でメカニカルアロイングを行う。
【0021】
以下、実施例によりさらに詳細に説明する。但し、それらは例示であって、本発明を限定するものではない。
<p型熱電材料の作製>
【実施例1】
【0022】
市販のCaH粉末(平均粒径200μm以下)、Mg粉末(平均粒径150μm以下)及びSi粉末(平均粒径5μm以下)をAr(アルゴン)ガス雰囲気のグローブボックス内で、1:1:1のモル比で混合した後、遊星ボールミルによりArガス雰囲気で、150rpm、20時間、メカニカルアロイング処理を行った。発熱により高温となるのを抑制するため、20時間連続ではなく、所定時間ごとに停止時間(例えば、10分間)を設けた。得られた混合粉末に対して、放電プラズマ焼結装置(SPS装置)を用いて放電プラズマ焼結を行ってp型熱電材料を得た。
【0023】
SPSの焼結温度はMgの沸点(1363K)より低い1273Kに設定した。焼結条件は、600秒で室温から1273K迄昇温し、1273Kに1200秒保持した後、900秒かけて773K迄降温し、加熱を停止する。そして、Arガス中で加圧無しで室温まで自然冷却した。次に、真空中において600秒で室温から1273K迄昇温し、1273Kに1200秒保持した後、加圧無しで室温まで自然冷却を行ってp型熱電材料を作製した。なお、1回目の放電プラズマ焼結は、Ar雰囲気(−0.05MP)で、加圧は50MPaで行い、2回目の放電プラズマ焼結は、真空中で、加圧は50MPaで行った。なお、Mgの融点は923K、CaHの融点は1089K、Caの融点は1115Kであり、いずれも焼結温度の1273Kより低い。
【実施例2】
【0024】
この実施例ではCaの割合を原子%で33.3%より多くし、その分Mgの割合を少なくしたp型熱電材料、即ちCaリッチのp型熱電材料を作製した。Ca33.3+xMg33.3−xSi33.3で表される組成式において、xの値が1.0に成るように市販のCaH粉末、Mg粉末及びSi粉末をArガス雰囲気のグローブボックス内で秤量して混合した後、遊星ボールミルによるメカニカルアロイング処理と、SPS装置による放電プラズマ焼結を実施例1と同じ条件で行ってp型熱電材料を得た。
【実施例3】
【0025】
この実施例のp型熱電材料もCaリッチのp型熱電材料である。Ca33.3+xMg33.3−xSi33.3で表される組成式において、xの値が0.5に成るように市販のCaH粉末、Mg粉末及びSi粉末をArガス雰囲気のグローブボックス内で秤量して混合した後、遊星ボールミルによるメカニカルアロイング処理と、SPS装置による放電プラズマ焼結を実施例1と同じ条件で行ってp型熱電材料を得た。
【実施例4】
【0026】
この実施例ではCaの割合を原子%で33.3%より少なくし、その分Mgの割合を多くしたp型熱電材料、即ちMgリッチのp型熱電材料を作製した。Ca33.3−xMg33.3+xSi33.3で表される組成式において、xの値が0.5に成るように市販のCaH粉末、Mg粉末及びSi粉末をArガス雰囲気のグローブボックス内で秤量して混合した後、遊星ボールミルによるメカニカルアロイング処理と、SPS装置による放電プラズマ焼結を実施例1と同じ条件で行ってp型熱電材料を得た。
【0027】
なお、上記の実施例1〜実施例4の熱電材料の原子%は仕込組成であり、焼結後のそれぞれの熱電材料の組成を元素分析装置(EDX)にて測定した結果、必ずしも仕込組成と一致せず、仕込組成の比率と比較して、最大で8%、平均で2%程度のずれがあった。
【0028】
<X線回折>
実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4で作製した試料の同定をX線回折法(XRD)で行った。図1に実施例1及び実施例2で作製した試料の測定結果をJCPDSデータと共に示す。図1において、JCPDSデータが下段に、実施例1で得られた試料のデータが中段に、実施例2で得られた試料のデータが上段にそれぞれ図示されている。
【0029】
図1において、実施例1及び実施例2で作製した試料のX線回折データと、JCPDSデータとを比較すると、実施例1及び実施例2で得られた試料のピークはJCPDSデータのCaMgSiに基づくピークと同じで、単相でCaMgSiの結晶構造を有することが確認された。また、図示しないが、実施例3及び実施例4で得られた試料のX線回折パターンを示す線図もJCPDSデータのCaMgSiに基づくピークとの比較で、単相でCaMgSiの結晶構造を有することが確認された。
【0030】
<電気的性質の測定>
試料の電気的特性をULVAC理工(株)製の熱電能測定装置ZEM−2により測定した。この装置は、試料全体を加熱する加熱炉、計測機器、パソコン及び真空排気装置から構成されており、熱起電力E及び電気抵抗率ρを測定することができる。
【0031】
測定用試料は、4×4×18mm程度のサンプルに切り出した。サンプルの各面を研磨して測定試料とした。この試料を高温端、低温端電極間に固定し、プローブを接触させた。一組のプローブで高温端温度T、低温端温度T及びプローブ間電圧を測定した。
【0032】
ゼーベック係数αは次式(1)から求められる。
α=E/ΔT…(1)
但し、Eはプローブ間の熱起電力、ΔTはプローブ間の温度差(T−T)である。
【0033】
電気抵抗率ρは典型的な測定方法である四端子法により測定した。すなわち、定常電流(例えば、10mA)により生じた電圧降下を電圧端子間、この場合プローブ間で測定した。試料の断面積Aを使い、次式(2)で電気抵抗率ρを求めた。
【0034】
ρ=(R・A)/L…(2)
但し、Lはプローブ間距離、Rは試料の抵抗値であり、R=V1/(V2/R1)で与えられる。但し、V1はプローブ間電圧、V2は基準抵抗器電圧、R1は基準抵抗値である。
【0035】
実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4で得られた試料に関するゼーベック係数αの温度依存性の測定結果を図2に示す。また、実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4で得られた試料に関する電気抵抗率ρの温度依存性の測定結果を図3に示す。また、ゼーベック係数α及び電気抵抗率ρから計算したパワーファクターP(=α/ρ)の温度依存性を図4に示す。
【0036】
図2から、実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4の試料はいずれもゼーベック係数αの値が正となり、p型熱電材料であることが確認された。実施例1の試料であるCaMgSiではゼーベック係数αの値は540K付近が最大となり、440K〜540Kの範囲ではほぼ同じ値を有し、その範囲より低温側及び高温側ともほぼ同じような状態で減少していた。一方、実施例2、実施例3及び実施例4の試料では、680K〜700K近まではほぼ同様な状態で単調増加し、それ以上の温度では、実施例2及び実施例4の試料では、緩やかに減少する傾向にあり、実施例3の試料ではほぼ一定となった。
【0037】
実施例1のCa33.3Mg33.3Si33.3ではゼーベック係数αの最大値が約169μV・K−1であるのに対して、実施例2のCa34.3Mg32.3Si33.3ではゼーベック係数αの最大値が約111μV・K−1となり、実施例3のCa33.8Mg32.8Si33.3では約111μV・K−1となった。また、実施例4の試料であるCa32.8Mg33.8Si33.3ではゼーベック係数αの最大値が約126μV・K−1となった。
【0038】
実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4の試料の電気抵抗率ρを比較すると、図3に示すように、実施例1のCa33.3Mg33.3Si33.3の電気抵抗率ρの値が0.055〜0.07mΩ・mで、かつ540K付近にピーク値を有し、ピークより低温側及び高温側ともほぼ同じような状態で減少していた。一方、実施例2、実施例3及び実施例4の試料では、電気抵抗率ρの値が単調増加した後、ほぼ一定になった。また、実施例2、実施例3及び実施例4の試料では、電気抵抗率ρの値が最大でも実施例1の試料の最大値の1/2以下であった。
【0039】
実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4の試料のパワーファクターPの値を比較すると、図4に示すように、パワーファクターPの値は、Ca33.3Mg33.3Si33.3では443K付近で最大の0.44mW・m−1−2となり、320K〜600Kの温度範囲で0.36mW・m−1−2以上となる。また、実施例2のCa34.3Mg32.3Si33.3では660K付近で最大の0.41mW・m−1−2となり、約570K以上の温度範囲では0.38mW・m−1−2以上でCa33.3Mg33.3Si33.3のパワーファクターPの値より大きくなった。
【0040】
実施例3の試料であるCa33.8Mg32.8Si33.3では実施例2及び実施例4の試料と異なり明確なピークが見られず、約570K以上の温度範囲では0.38mW・m−1−2以上でCa33.3Mg33.3Si33.3のパワーファクターPの値より大きくなった。また、800K以上でもパワーファクターPの値は0.44mW・m−1−2以上となった。
【0041】
実施例4の試料であるCa32.8Mg33.8Si33.3では690K付近で最大の0.43mW・m−1−2となり、約560K以上の温度範囲では0.38mW・m−1−2以上でCa33.3Mg33.3Si33.3のパワーファクターPの値より大きくなった。
【0042】
<第一原理計算による解析>
Ca、Mg、Siの組成が1:1:1のCaMgSi基準モデルと、Siの組成は基準モデルと同じで、Caの組成が基準モデルより1原子%多く、かつMgの組成が1原子%少ないCaリッチのモデルと、Siの組成は基準モデルと同じで、Caの組成が基準モデルより1原子%少なく、かつMgの組成が1原子%多いMgリッチのモデルとについて状態密度(Density Of State:DOS)を第一原理計算により計算した。
【0043】
CaMgSi基準モデルでは、フェルミ準位E(エネルギー0)におけるDOSの傾きがゼロとなり、第一原理計算の結果だけではp型熱電材料と断定できる結果にはならなかった。一方、Caリッチのモデル及びMgリッチのモデルでは、フェルミ準位E(エネルギー0)におけるDOSの傾きが負になり、いずれの場合もp型熱電材料となる結果が得られた。
【0044】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)p型熱電材料は、CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であり、Mgが残りの量であり、かつ0≦x≦2である。熱電材料を構成する元素のいずれもが、地球上に存在する割合の多い元素であり、資源的に豊富な材料から製造できるため安価に得ることができる。また、各構成元素は無毒で軽量であり、熱電材料も無毒で軽量である。そして、熱電材料の微小単位時間あたりのある温度差における熱電変換による発電量であるパワーファクターPの値と温度との関係を示すグラフにおいて、パワーファクターPのピークにおける温度の値が、xの値により変化する。したがって、単相でCaMgSiの結晶構造を構成するCa原子の一部をMg原子と置換するか、Mg原子の一部をCa原子と置換することで、熱電材料の使用温度、即ち熱電変換素子の使用温度が、Ca:Mg:Si=1:1:1の場合に比べて、より高温(850K以上)まで使用可能なp型熱電材料を得ることができる。xの値を2以下にすることにより、p型熱電材料が壊れ易くなることを抑制し、取り扱い易くなる。
【0045】
(2)CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であるp型熱電材料において、0.5≦x≦2としたp型熱電材料は、約570K以上でCa:Mg:Si=1:1:1のp型熱電材料よりパワーファクターPの値が大きくなる。したがって、この発明のp型熱電材料は高温状態での使用に適する。
【0046】
(3)p型熱電材料の製造方法は、Ca、Mg及びSiの割合が原子%で表した組成割合となるように、Ca原料、Mg原料及びSi原料の粉末を混合し、メカニカルアロイング処理を施した後、放電プラズマ焼結する。原料粉末の混合物にメカニカルアロイング処理を施すことにより原料粉末が、放電プラズマ焼結時にCaMgSiの生成する反応が進行するのに適した微細な状態に粉砕されるとともに均一に混合されて、目的の化学組成のp型熱電材料が製造される。
【0047】
(4)p型熱電材料の製造方法において、Ca原料はCaH粉末、Mg原料はMg粉末、Si原料はSi粉末を使用する。Ca原料としてCa粉末が得られれば使用可能であるが、Caは常温で酸素と反応し易く取り扱いが難しい。しかし、Ca原料としてCaH粉末を使用するため、Ca粉末を使用する場合に比べてCa原料の粉末の取り扱いが容易になり、CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、目的の化学組成のp型熱電材料を容易に製造することができる。
【0048】
(5)p型熱電材料の製造方法において、粉末状態で混合されたCa原料、Mg原料、Si原料を放電プラズマ焼結で焼結する場合、焼結温度で所定時間保持した後における冷却の際、加圧なしで冷却を行う。加圧状態で冷却を行うと、試料の熱収縮が均一に進行せずに破砕する場合がある。しかし、加圧なしで冷却することにより、破砕が生じ難くなる。
【0049】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
○ Ca原料、Mg原料及びSi原料の粉末は、CaH粉末、Mg粉末及びSi粉末の組み合わせに限らない。例えば、Ca粉末が入手できれば、CaH粉末に代えてCa粉末を使用することも可能であるが、Ca粉末は常温で酸素と反応し易く、取り扱いが難しいため、CaH粉末の方が好ましい。
【0050】
○ メカニカルアロイングに使用するボールミルは遊星ボールミルに限らない。また、回転速度や処理時間も150rpm、20時間に限らず、適宜変更してもよい。
○ 原料粉末として放電プラズマ焼結時にCaMgSiの生成する反応が進行するのに適した微細な状態の粉末が入手でき、原料を均一に混合することができればメカニカルアロイング処理は必ずしも必要ではない。また、メカニカルアロイング処理以外の混合方法で原料粉末を混合してもよい。
【0051】
○ 原料粉末はCa原料、Mg原料及びSi原料として、Ca、Mg、Siがそれぞれ単独で存在する3種類の粉末を混合する方法に限らない。例えば、CaとMgの合金粉末とSi粉末の2種類を混合したり、CaSiの粉末と、Mg粉末及びSi粉末の3種類を混合したりしてもよい。
【0052】
○ 原料粉末としてCaMg合金粉末が入手できれば、CaMg合金粉末及びSi粉末を所定の割合で混合し、メカニカルアロイング処理を施すことにより、放電プラズマ焼結を行わなくても目的のp型熱電材料を得ることも可能である。この場合、放電プラズマ焼結が不要となり、製造が簡単になる。
【0053】
○ 焼結は、放電プラズマ焼結に限られず、通常の焼結方法やホットプレスなどの方法によって行うこともできる。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態又は実施例から把握できる。
【0054】
(1)CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であり、Mgが残りの量であり、かつ0≦x≦2であるp型熱電材料の製造方法であって、Ca、Mg及びSiの割合が原子%で表した組成となるように、CaMg合金粉末及びSi粉末を混合し、メカニカルアロイング処理を施すことを特徴とするp型熱電材料の製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaMgSiの結晶構造を有し、かつ単相であり、化学組成は原子%でSiが33.3%で一定、Caが33.3±x%であり、Mgが残りの量であり、かつ0≦x≦2であるp型熱電材料。
【請求項2】
0.5≦xである請求項1に記載のp型熱電材料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のp型熱電材料の製造方法であって、Ca、Mg及びSiの割合が原子%で表した組成割合となるように、Ca原料、Mg原料及びSi原料の粉末を混合し、メカニカルアロイング処理を施した後、焼結することを特徴とするp型熱電材料の製造方法。
【請求項4】
前記Ca原料はCaH粉末、前記Mg原料はMg粉末、前記Si原料はSi粉末である請求項3に記載のp型熱電材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204515(P2012−204515A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66389(P2011−66389)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】