説明

p型透明導電性薄膜の物理的蒸着法のためのターゲットの製造に用いる材料

本発明は、p型の透明導電性薄膜のためのターゲットの製造に用いる粉末状酸化物材料(MM’)Cu2+a2+bであって、式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2であり、且つ− M’はSrであり、MはBa及び二価のCuのいずれか1つ又はその両方であり、ここでx>0、y>0及びx+y=1±0.2であるか;又は− Mは二価のCuであり、x=1±0.2、及びy=0である、のいずれかである、前記粉末状酸化物材料を記載している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型透明導電性薄膜の物理蒸着技術において、いわゆるターゲットとして使用されるべき、材料組成物、これらの材料の製造方法及びセラミック素地の製造方法に関する。
【0002】
過去10年間に、透明導電性酸化物の開発は著しく進歩した。ITO、インジウムスズ酸化物は、n型透明導電性酸化物についてこれまでに得られた最も低い抵抗率を有し、10−4Ωcmまでの抵抗率と、可視NIRスペクトル範囲にわたり80〜90%までの透明度とを兼備している。アルミニウムでドープされた亜鉛酸化物、ZnO:Alが示唆されており、これはITOの代替物として多くの出願で使用されているが、その性能はITOの性能(抵抗率>10−4Ωcm)よりも未だ幾分劣る。全ての透明導電性酸化物は、このオーダーの抵抗率を示すが、n型の導電性酸化物である。
【0003】
従って、それらの優れた特性にもかかわらず、それらの出願は、発光装置、フラットパネルディスプレイ、光起電力デバイス、スマートウィンドウなどの透明な導電性電極が必要とされる出願に制限されているに過ぎない。新規な型の電気光学装置の構造を可能にするために、p型の透明導電性酸化物もまた必要とされている。高品質のp型の透明導電性酸化物を利用することで、p−n接合の形成によって及び透明なトランジスタの製造を可能にすることによって、これらの材料と、透明な能動デバイス中に存在するn型材料とを組み合わせることができる。これによってUV発光ダイオードの形成が可能になる(その結果、例えば、螢光体、透明な電子回路、センサなどと組み合わせた場合に、新規なディスプレイ型が得られる)。この観測は、過去に多くの研究者及び発明者によってなされ、透明導電性p型材料の開発に向けてかなりの量の研究がもたらされた。
【0004】
しかしながら、現在までに確認されているp型の透明導電性酸化物は、それらのn型の対応部品よりも少なくとも1桁分高いオーダーの抵抗率を有し、典型的には薄膜の形成のために高温を必要としている。例は、H. Kawazoeら, P-type electrical conduction in transparent thin films of CuAlO2, Nature, 389, 939-942 (1997); 及びH. Mizoguchiら, Appl. Phys. Lett., 80, 1207-1209 (2002), H. Ohtaら, Solid-State Electronics, 47, 2261-2267 (2003) に見出すことができ、両文献ともにAMO構成材料を扱っており、その際、Aはカチオンであり、Mは陽イオン、例えば、CuAlOである。
【0005】
これまでに公知のこれらのp型の透明導電性酸化物の劣った性能にもかかわらず、透明なp−n接合の形成に関する多くの研究、例えば、K. Tonookaら, Thin Solid Films, 445, 327, (2003) におけるp−nホモ接合(CuInO)に基づく透明ダイオード;及びH. Hosonoら, Vacuum, 66, 419 (2002) におけるpーnヘテロ接合(p−SrCu/n−ZnO)を用いる光電子デバイスが既に報告されている。他の材料は、p−ZnRh/n−ZnO UV−LED、p−NiO/n−ZnO UV検出器、透明酸化物の半導体、例えば、p−NiO/n−ZnO、及びp−CuAlO/n−ZnO光電池及び透明な電子部材から構成されるpn−ヘテロ接合ダイオードに基づくUV検出器である。
【0006】
しかしながら、これらのダイオードの性能は、不良な材料品質、最適ではない抵抗率及びp型の透明導電性酸化物のキャリア濃度又はヘテロ接合の段階のない接合点のために不良であり、従って、1.5以下の理想係数、V<□4Vに対して10〜80の間の順電流対逆電流の比、8ボルト未満の破壊電圧、増大した直列抵抗及び材料のバンドギャップに常に対応していないターンオン電圧を招いた。これらのデバイスの透明度は40%〜80%の間であった。
【0007】
Kawazoe及びHosonoのグループによる研究(例えば、H. Yanagiら, J. Electroceram., 4, 407 (2000))は、Cu(I)を有する酸化物をベースとした多くのp型の透明導電性酸化物に関する記載をもたらした。P−SrCu及びn−ZnOから構成されるp−nヘテロ接合に基づくUV発光ダイオードは、H. Ohtaら, Electron. Lett., 36, 984 (2000) に報告された通り、ヘテロエピタキシャル薄膜成長によって首尾良く組み立てられた。
【0008】
これらのp−TCO材料の中で、SrCu(SCOとも呼ばれる)は、オプトエレクトロニクスデバイスで使用するための最も有望な候補の1つであるが、これは主にエピタキシャル膜が比較的低い温度で得られて接合領域における相間反応を防ぐためである。ドープされていない及びKがドープされたSrCu薄膜の合成は、例えば、US6,294,274B1号に報告されているが、SrCuの光電子特性へのドーパントの効果は、未だ完全に理解されておらず、SrCu膜の伝導はこれまで他のp型のTCOの伝導よりも小さかった。KがドープされたSCOは、小さいイオン半径要素をこの構造に組み込むことの欠点を有し、これは、その高移動性のために、n型の材料と組み合わせた電子工業用途(ダイオード、トランジスタ、光電子部品など)において適切ではない。
【0009】
Nieら(Physical Review B, 第65巻 (2002), 075111で)は、少量のCaをSrCuに添加することによって、バンドギャップを増大させてSrCuの正孔有効質量を減少させ、従って透明度と導電率を高めることができることを予測した。NieはまたBaCuの電子的性質のアブイニシオ計算を与えている。しかしながら、実地試験では、この材料で作られたターゲットが、時間をかけたBa酸化物及びCu酸化物の形成(空気湿度によって開始される得る)によって、粉末に分解することが示された。この現象は、超伝導体用途のためのスパッタリングターゲット("YBCO"ターゲット)の製造でも見られた。さらにNieは、MgCu及びCaCuの両方が有望な材料であることを予想しているが、これらは未だ合成されていない。実際に、純粋なMgCu又はCaCuを提供することは、不可能であるとは言わないが、難しいと思われる。US7,087,526号では、CaOがドープされたSCO薄膜が開示されている。Semicond. Sci. Technol. 21 (2006) 586-590では、Shengらが、パルスレーザー蒸着技術によって、石英ガラス基板上に堆積された、p型の透明導電性のCaがドープされたSrCu薄膜の製造方法を開示している。US6,294,274号では、KがドープされたSrCu薄膜が開示されている。
【0010】
本発明の目的は、過去に報告されたものよりも遥かに低い抵抗率を有し、且つ耐久性のあるターゲット及び薄膜に形成することができる、p型の透明導電性酸化物を提案することである。
【0011】
この課題は、p型の透明導電性薄膜のためのターゲットの製造に用いる粉末状の酸化物材料(MM’)Cu2+a2+b(式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2であり、且つ
− M’はSrであり、MはBa及び二価のCuのいずれか1つ又はその両方であり、ここでx>0、y>0及びx+y=1±0.2であるか;又は
− Mは二価のCuであり、x=1±0.2、及びy=0である
のいずれかである)の提供によって解決される。
【0012】
有利にはM’=Sr及びM=Baである。また、有利には0<x<0.20であり、更に0.02≦x≦0.06である。
【0013】
この粉末状酸化物材料(MM’)Cu2+a2+bは、p型の透明導電性薄膜のためのターゲットの製造に用いることができる。
【0014】
この革新的な材料は、銅(一価の状態で)及び酸素及び1つ以上の二価の追加元素、上述の通り、M及びM’を含有する。この材料の組成は、優先的に元素組成範囲内である((M+M’):Cu:O=1.0±0.2:2.0±0.2:2.0±0.2)。有利には、該組成は、材料の少なくとも95%を含有する。
【0015】
本発明は、以下の図面によって例示される:
図1:ドープされたSCOのX線回折パターン
図2:ピークシフト対濃度を示すドープされたSCOのX線回折パターンの詳細
図3:ドープされたSCOターゲットからのPLDによって堆積された薄膜の正規化した導電率
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はドープされたSCOのX線回折パターンである。
【図2】図2ピークシフト対濃度を示すドープされたSCOのX線回折パターンの詳細である。
【図3】図3はドープされたSCOターゲットからのPLDによって堆積された薄膜の正規化した導電率である。
【0017】
銅酸化物粉末は、公知の方法を用いて製造され、その1つは本発明による(BaSr)Cu組成物について以下に詳述されている:基本手順はCuO(99.5%以上の純度)及びSr(OH)及びBa(OH)から始まる。混合物は、xモルのBa、yモルのSr及び2モルのCuの比で物質を含有する、結晶水及び原料組成を考慮して作られる(以下の表1を参照のこと)。
【0018】
良く混合された混合物は、均質化処理のためにRetsch ZM100遠心ミルに通される。得られた粉末は950℃で窒素流れの下で40時間加熱処理される。
【0019】
この方法は、表1の異なる組成について、図1のX線回析パターン(カウント数対2θ)から明らかになる通り、相分離しないでストロンチウム原子の置換をもたらし、その際、組成N°1(Baのない参照材料)は底のパターンによって表され、その結果、組成N°2〜7は図の下から上までによって表される。
【0020】
以下の表は、この種の合成材料(BaSr)Cuに関してなされた観測をまとめる。物質(x=0)は、参照のためだけに含まれる(最新技術の参照材料)。
【表1】

【0021】
全ての組成は、図2に示されたX線ディフラクトグラム(2θに対するカウント数を示す)の詳細に観測される通り、大部分がSrCuのような相を示し、その際、ピークシフトはバリウムによるストロンチウムの置換量に関連する。図2では、左から右へ、表1の組成N°1〜7について曲線が示されている。Baによる材料の有効なドーピングを示す、特定のバリウム化合物の分離の徴候はない。銅はその最初の酸化状態Cu(I)で存在する。
【0022】
本発明による材料から、ターゲットが公知の方法によって作られる。有利な方法はホットプレスである。他の方法は、未焼成体の形成(スリップ注型法、冷間等静圧圧縮成形、冷間一軸加圧成形及び他の公知技術による)後に、焼結及び/又は熱間等静圧圧縮成形及び又は放電焼結などを行うことである。
【0023】
一例では、22.0グラムの材料を、30mm直径の黒鉛鋳型で圧縮する。粉末は20kNで冷間(予備)圧縮され、4kNの最小負荷で50℃/分で加熱される(640℃未満では温度の記録はできない、全出力の加熱が用いられる)。900℃の温度で、負荷が4kNから10kNに増大し、975℃で負荷は10kNから20kNに増大する。この負荷は975℃で30分間一定に維持され、その後、試料の自然冷却がなされる。
【0024】
熱間圧縮された試料は、圧密過程の間に形成された境界層を除去するために磨かれる。合成された材料は高水準の相純度を有し、その結果、単一相(又は準単一相)ターゲットが得られ、これはPVD用途にとって有利であると考えられる。
【0025】
ターゲットの製造方法は次のように要約できる:
CuO、Sr(OH)・8HO及びBa(OH)・8HOを計量する→
成分を混合する→
成分を真空下で80〜90℃で4日間乾燥させる→
混合してRetsch ZM100遠心ミルで80μmまで微粉砕する→
炉において窒素下で950℃で40時間反応させる→
混合してRetsch ZM100遠心ミルで250μmまで微粉砕する→
混合してRetsch ZM100遠心ミルで80μmまで微粉砕する→
容器に入れて密封する→
圧縮をかけて、冷間圧縮する→
加熱して975℃で維持する→
冷却する→
磨砕して磨く。
【0026】
BaCuターゲットの場合とは異なり、上述のように、BaSCOターゲットは個々の酸化物の形成によって分解しない。これらのターゲットで作られた薄膜もまた、それらの低い厚さのためにより壊れやすくても、時間とともに劣化しない。導電性薄膜の製造のために、スパッタリング及び/又はアブレーション(例えば、パルスレーザー蒸着、PIAD、蒸発及び最新技術における他の公知技術が挙げられるがこれらに限定されず、そして粉末又は薄膜の堆積のための基板に依存する)などの、複数の方法を使用することができ、その際、基板は平面の、管状の又は棒状の形状であってよく又は特殊な堆積ツール及び用途にとって適した形であってよい。本発明による組成物で作られた薄膜は、p型の透明導電性酸化物として挙動する。
【0027】
一連の実験は、同一の堆積及びアニーリング条件下で、上述のように製造されたターゲットを使用して、異なるドーピング水準を有する材料の完全な電気的特性によって実施される。以下の表では、薄膜試料TF171、172及び176は、本発明によるものであるが、TF173は先行技術の純粋なSrCuで作られた膜である。全ての膜はパルスレーザー蒸着によって得られた。膜の抵抗率は、ファンデルポー法を用いて測定し、このキャリア型及びキャリア移動度は、室温でホール測定(接触金属:金)によって測定し、この結果を表2に示す。膜の透明度は優れていた。
【表2】

【0028】
この表はわずかにBaがドープされたSCOの優れた特性を示す。図3において、純粋なSCO(=1)に正規化された導電性は、最適な適合ラインで、Baの含有率(%)に対して得られる。最良の結果は(BaSr)Cuについて0.02≦x≦0.06で得られると結論付けることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型の透明導電性薄膜のためのターゲットの製造に用いる粉末状酸化物材料(MM’)Cu2+a2+bであって、式中、−0.2≦a≦0.2、−0.2≦b≦0.2であり、且つ
− M’はSrであり、MはBa及び二価のCuのいずれか1つ又はその両方であり、ここでx>0、y>0及びx+y=1±0.2であるか;又は
− Mは二価のCuであり、x=1±0.2、及びy=0である
のいずれかである、前記粉末状酸化物材料。
【請求項2】
y>0であり、M’=Sr及びM=Baであることを特徴とする、請求項1記載の粉末状酸化物材料。
【請求項3】
0<x<0.20であることを特徴とする、請求項2記載の粉末状酸化物材料。
【請求項4】
0.02≦x≦0.06であることを特徴とする、請求項3記載の粉末状酸化物材料。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の粉末状酸化物材料(MM’)Cu2+a2+bの、p型の透明導電性薄膜のためのターゲットの製造に用いる使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−511107(P2012−511107A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539926(P2011−539926)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008508
【国際公開番号】WO2010/066358
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(509126003)ユミコア ソシエテ アノニム (23)
【氏名又は名称原語表記】Umicore S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Marais 31, B−1000 Brussels, Belgium
【Fターム(参考)】