説明

pH安定性のエンベロープ付きウィルスの生産方法

本発明は、pH安定性のエンベロープ付きウィルス粒子の生産方法であって、前記ウィルスが低pH条件下の宿主細胞の感染のために、及び、低pH条件下の細胞培養細胞でのインキュベーションのために使用される方法、また同様に、細胞培養において高速成長、増加したpH及び温度安定性を示し、かつ、ヒトレセプター特異性を有する、この方法により得られたインフルエンザウィルスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH安定性のエンベロープ付きウィルスの生産方法であって、前記ウィルスが、低pHの条件下で細胞培養細胞を用いてインキュベーションされる方法を提供する。このようなウィルスは、細胞培養中で高速成長、増加したpH及び温度安定性を示し、かつ、ヒトレセプター特異性を有する、新規インフルエンザウィルスを含む。
【0002】
背景技術:
ウィルス感染の年間のエピデミックにより引き起こされる疾病の予防には、ワクチン接種が最も重要な公衆衛生手段である。ワクチンの効率的供給は、大量のワクチン材料(例えばウィルス)を迅速に生産することができることに依存している。ワクチンの迅速な開発及びその豊富な入手性は、多くのヒト及び動物疾病を撲滅するのに決定的である。ワクチン生産の遅延及びその量の不足は、疾病の大発生に取り組むにあたり問題を生じることがある。
【0003】
胚含有(embryonated)ニワトリ卵におけるウィルス、特にインフルエンザウィルスの成長は、インフルエンザウィルス粒子の効率的な生産を生じることが示されてきており、これは、不活化したか又は弱毒化生インフルエンザウィルスワクチン株のいずれかの生産のために使用されることができる。にもかかわらず、過去数年の間に集中的な努力が、細胞培養を使用するウィルス生産システムの確立において為されてきており、というのも、卵を基礎とする方法は、パンデミックの場合に問題となることがある、特異的な病原体−不含卵の安定した供給を必要とするからである。この細胞を基礎とする技術は、卵供給者とは独立した代替的生産方法であり、かつ、種ウィルスが入手可能であるとすぐさま開始されることができる。このことの他に、哺乳類細胞において成長したウィルスから調製された不活化したインフルエンザワクチンは、より多くの交差反応性血清抗体を誘導することが示されており、かつ、卵成長ワクチンよりも良好な保護を明らかにする(Alymova et al., 1998, J Virol 72, 4472-7)。さらに、以前の結果によれば、ヒト単離物のレセプター特異性及び抗原特性は、胚含有ニワトリ卵においてウィルスの成長後に変更される(Mochalova et al., 2003, Virology 313, 473-80, Romanova et al., 2003, Virology 307, 90-7)。
【0004】
他方では、組織培養におけるウィルスの多重増殖(multiple propagation)は、融合の高められたpHを有するHA突然変異体をしばしば生じ(Lin et al., 1997, Virology 233, 402-10)、これは、ウィルスの熱変性に対する減少した安定性と相関している(Ruigrok et al., 1986)。任意のタンパク質の構造及びその安定性は、非共有相互作用、例えば疎水力、ファンデルワールス相互作用、水素結合、及びイオン相互作用を基礎とする。ウィルスの細胞培養への適応の際に生じる突然変異は、HA分子中の変化したイオン相互作用及び塩架橋のために、減少したタンパク質安定性により誘導される融合のpHの閾値を高めることが知られている(Rachakonda et al., 2007, Faseb J 21 , 995-1002)。界面HA1−HA2又はHA2−HA2領域での又はHA2のN末端中のいずれかで通常見出される脱安定化突然変異は、次に、細胞表面レセプターに対する減少した結合を生じることができ(Korte et al., 2007, Rachakonda et al., 2007, Faseb J 21 , 995-1002, Shental-Bechor et al., 2002, Biochim Biophys Acta 1565, 81 -9)、これは、生ウィルス調製物の減少したウィルス感染性及び引き続き減少した免疫原性を生じる。
【0005】
Massaab (Massaab H. F., Journal of Immunology. 1969, 102, pp. 728-732)は、初代ニワトリ腎臓組織培養及び胚含有卵における成長に対する適応前及び後に異なる遺伝子マーカーを使用して低温適応したインフルエンザウィルスの生物学的及び免疫学的な特性を試験した。これら株が、当初の「野生型」株に比較して低pHに対してより感受性であり、かつ、感染性及び赤血球凝集収量における顕著な減少を示したことが言及されている。
【0006】
Fiszman et al (Journal of Virology, 1974, 13, pp. 801 -808)は、水疱性口内炎ウィルス(VSV)に対する低pH(pH6.6)の作用を検証し、かつ、ウィルス粒子又はヌクレオキャプシドが検出されなかったことを示した。Ackermann W and Massaab H. F. (Journal of Experimental Medicine FEB 1954, 99, pp 105-117)は、インフルエンザウィルスの成長サイクルの際のウィルス阻害剤、アルファ−アミノ−p−メトキシ−フェニルメタンスルホン酸の作用を開示する。
【0007】
いかなる安全性及び供給問題をも回避するために、高い安定性及び免疫原性である細胞培養からワクチンウィルス調製物を大量に獲得することの困難性のために、本発明の課題は、効果的かつ安定なウィルスを生じる入手可能な方法を作成することである。この課題は、本願の実施態様の提供により達成される。
【0008】
本発明は、ウィルス懸濁物の希釈及び宿主細胞感染の間の低下したpH条件を採用することによる、組織培養中でのpH安定性のエンベロープ付きウィルスの生産方法に関する。本発明の方法は、現在使用される方法に由来するウィルス粒子に比較して、増加した安定性及び免疫原性のウィルスも提供する。
【0009】
図面:
図1:用量6.0 log TCID50/動物で単一鼻腔内免疫化後のフェレットにおいて比較したWisc.ΔNS1及びWisc. ΔNS1_HA2_G75Rの免疫原性、
図2
A)マウスモデル中での血清抗体の誘導
B)免疫化したマウスの肺及び鼻甲介(nasal turbinate)中の攻撃ウィルスの生殖(Reproduction)、
図3
A.当初及び突然変異体ウィルスのHA分子の配列比較。部位指向的突然変異生成による2つのヌクレオチド(aa)から(tt)への置換は、HA2サブユニットの部位58位でKからIのアミノ酸変更を生じた。
B.ヒト赤血球を用いたVN1203及びVN1203 K58Iウィルスの融合活性。
C.VN1203及びVN1203 K58Iウィルスでの免疫化後のマウス鼻洗浄におけるIgA抗体力価。
D.VN1203及びVN1203 K58Iウィルスでの免疫化後のマウス血清におけるHAI抗体力価。
E.マウスについてのVN1203及びVN1203 K58Iウィルスの感染性、
図4:低pHに向けたウィーン/28及びウィーン/28_HA2_G75Rウィルスの感受性。
【0010】
発明の詳細な説明:
本発明は、以下の工程:
a)pH5.2〜5.9、好ましくは5.4〜5.8、最も好ましくは約5.6を有する溶液中でウィルスを希釈する工程、
b)宿主細胞を少なくとも1の感染性ウィルス粒子で感染させる工程、その際:
i)前記ウィルス粒子を前記細胞に添加する;及び
ii)前記細胞及びウィルス粒子を、ウィルス/細胞複合体を提供するために、pH5.2〜5.9、好ましくは5.4〜5.8、最も好ましくは約5.6でインキュベーションする、
c)この感染した宿主細胞をウィルスを増殖させるために培養する工程、
d)前記ウィルスを回収する工程、及び場合により;
e)前記ウィルスを精製及び/又は特性決定する工程
を含むこと特徴とするエンベロープ付きウィルスの生産方法に関する。
【0011】
前記方法により得られたウィルスは、実験規模量のウィルス生産、また同様にワクチンウィルスの大規模生産のために使用されることができる。
【0012】
「大規模生産」は、少なくとも200l、好ましくは少なくとも500l、好ましくは約1000lの最小培養体積における生産を意味する。
【0013】
エンベロープ付きウィルスを含有するワクチン調製物は、十分なワクチン接種を提供するために免疫原性でなくてはならない。特に、不活化したパンデミックインフルエンザウィルスワクチン、例えば、トリインフルエンザに対するワクチンは免疫原性が乏しく、かつ、ヒトにおいて保護的抗体応答を誘発するために高用量を必要とすることがある。保護的抗体応答は、ウィルス感染に対する決定的な免疫性を提供する。ヘマグルチニン(HA)タンパク質はインフルエンザウィルスでのウィルス感染により、及び不活化及び生弱毒化流感ワクチン(flu vaccine)の両方でのワクチン接種により誘導される保護的抗体応答の主要な標的である。HA抗原の構造的統合性(structure integrity)は、保護的抗体応答を誘発するために決定的である。
【0014】
本発明者らは、本発明の方法が、pH安定性及び増加した免疫原性を包含するウィルスを提供することを示した。このようにして生産されたウィルス粒子のHAタンパク質は、好ましくは低pHで増加した安定性を示す。有利には、このウィルスは、より高温で、具体的には60℃までの温度で増加した安定性も示すことができる。これらウィルスは、高められた温度、例えば60℃で数分間から数時間貯蔵された場合ですら、HAの赤血球凝集活性を顕著に失わない。「顕著でない(Not significant)」とは、供給源ウィルスに比較して赤血球凝集活性が4倍より少なく減少したことを意味する。高められた温度への曝露の後でさえ、前記ウィルスは、数週間から数ヶ月0℃〜12℃、好ましくは4℃の温度で貯蔵される場合に安定性を維持する。したがって、本発明により生産されたウィルスは、安定なHA分子を含むので、ワクチン調製物のために極めて有利である。
【0015】
前記方法は、具体的には、インフルエンザ、はしか、ムンプス、狂犬病、RSウィルス、エボラ及びハンタウィルスを含むいくつかの重要なヒトの病原体を包含する動物ウィルスの一群であるマイナス鎖RNAウィルスのために使用されることができる。
【0016】
これらRNAウィルスのゲノムは、単分子であるか又は分節化していてよく、(−)極性の単鎖であることができる。2つの本質的な要求が、これらウィルス間で共有されている:そのゲノムRNAsはウィルスRNA中へと効率的にコピー導入されなくてはならず、この形態は、子孫ウィルス粒子中への組み込みのために使用され、かつ、ウィルスタンパク質へと翻訳されるmRNAへと転写されることができる。真核性宿主細胞は典型的には、RNAテンプレートの複製のための又はマイナス鎖のRNAテンプレートからのポリペプチドの翻訳のための機構を含まない。したがって、マイナス鎖のRNAウィルスは、子孫へのアセンブリーのために新規ゲノムRNAの、及び、ウィルスタンパク質への翻訳のためにmRNAsの、合成を触媒作用するために、RNA−依存性RNAポリメラーゼをコードしかつ所有する。
【0017】
ゲノムウィルスRNAは、ウィルスが伝達されるように、ウィルス粒子中へとパッケージされなくてはならない。子孫ウィルス粒子がアセンブリー化されるプロセス及びアセンブリーの間に生じるタンパク質/タンパク質相互作用は、RNAウィルス間で類似している。ウィルス粒子の形成は、RNAゲノムを1の宿主細胞から別の宿主細胞へと単一の宿主内で又は異なる宿主生物間で効率的に伝達することを保証する。
【0018】
ネガティブ−センスゲノムの、エンベロープ付きの、単鎖RNAを含むウィルス科は、分節化してないゲノムを有する群(パラミクソウィルス科(Paramyxoviridae)、ラブドウィルス科(Rhabdoviridae)、フィロウィルス科(Filoviridae)及びボルナ病ウィルス(Borna Disease Virus)、トガウィルス科(Togaviridae))、又は、分節化ゲノムを有する群(オルトミクソウィルス科(Orthomyxoviridae)、ブンヤウィルス科(Bunyaviridae)及びアレナウィルス科(Arenavihdae))に分類される。オルトミクソウィルス科は、インフルエンザ、タイプA、B及びCウィルス、また同様にトゴト(Thogoto)及びドリウィルス(Dhori viruse)及び感染性サケ貧血ウィルスのウィルスを含む。
【0019】
好ましい態様は、インフルエンザウィルス、RSウィルス(RSV)、ニューキャッスル疾病ウィルス(NVD)、水疱性口内炎ウィルス(VSV)及びパラインフルエンザウィルス(PIV)を含むが、これに限定されるものでない。
【0020】
インフルエンザビリオンは、単鎖RNAゲノムを含む内側リボ核タンパク質コア(ヘリックス状ヌクレオキャプシド)及びマトリックスタンパク質(M1)により内部で裏打ちされている外側リポタンパク質エンベロープからなる。インフルエンザAウィルスの分節化したゲノムは、8つの分子の、線状の、負の極性の、単鎖のRNAsからなり、このRNAsは次のものを含めた11つのポリペプチドをコードする(いくつかのインフルエンザA株においては10つ):RNA依存性RNAポリメラーゼタンパク質(PB2、PB1及びPA)及び核タンパク質(NP)、これはヌクレオキャプシドを形成する;マトリックス膜タンパク質(M1、M2);2の表面糖タンパク質、これは脂質含有エンベロープから放出される:ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA);非構造タンパク質(NS1)及び核輸送タンパク質(NEP)。大抵のインフルエンザA株は、アポトーシス促進特性を有すると思われている第11番目のタンパク質(PB1−F2)をもコードする。
【0021】
ゲノムの転写及び複製は、核中で生じ、アセンブリーは形質膜上での出芽を介して生じる。ウィルスは、混合した感染の間に遺伝子を再配列(reassort)することができる。インフルエンザウィルスは、HAを介して、細胞膜糖タンパク質及び糖脂質中のシアリルオリゴ糖に吸着する。ビリオンのエンドサイトーシスに続き、HA分子中のコンフォメーション変化が細胞エンドソーム内で生じ、これは、膜融合を容易にし、このようにして脱外被を引き起こす。ヌクレオキャプシドは、ウィルスRNAが転写される核へと移動する。ウィルスmRNAは、ウィルスエンドヌクレアーゼが細胞の非相同mRNAs(heterologous mRNAs)からキャップ化5′末端を切断する独特の機構により転写され、このmRNAsは次いで、ウィルストランスクリプターゼによるウィルスRNAテンプレートの転写のためのプライマーとして機能する。転写産物は、そのテンプレート末端から15〜22塩基の部位で終結し、ここではオリゴ(U)配列がポリ(A)領域(poly(A) tract)の付加のためのシグナルとして機能する。このように生産される8つのウィルスRNA分子のうち、6つがモノシストトニックメッセージであり、これはHA、NA、NPを示すタンパク質、及びウィルスポリメラーゼタンパク質PB2、PB1及びPA中に直接的に翻訳される。他の2つの転写物はスプライスングを受け、それぞれ2つのmRNAsを生じ、これは、M1、M2、NS1及びNEPを生産するための異なるリーディングフレームに翻訳される。言い換えると、8つのウィルスRNA分節は、11つのタンパク質をコードする:9つの構造的タンパク質及び2つの非構造的タンパク質(NS1及び最近発見されたPB1−F2)である。
【0022】
このウィルスは、天然に発生する株、変異体又は突然変異体から選択されてよい;突然変異作成したウィルス(例えば、突然変異原への曝露、繰り返された継代及び/又は非許容性宿主中への継代により作製される);再配列物(分節化したウィルスゲノムの場合);及び/又は遺伝子改変されたウィルス(例えば、「逆遺伝子」技術を使用して)、これは所望のフェノタイプを有する。
【0023】
「継代させた(passaged)」との用語は、定義されたウィルス粒子数で宿主細胞を接種させ、前記ウィルスを定義された日数、典型的には2〜3日後に回収すること、と定義される。前記ウィルスは、1日につき約2〜4の複製ラウンドを有するはずである。
【0024】
この分野においては、エピデミックインフルエンザに対する年間(annual)のワクチン接種のためのワクチン株の調製において使用される野生型ウィルスが、世界保健機構(WHO)により毎年勧告されることが良く知られている。これら株は次に、再配列ワクチン株の生産のために使用されてよく、これは一般的には、野生型ウィルスのNA及び/又はHA遺伝子を、ドナーウィルス(しばしば、マスタードナーウィルス又はMDVとも呼ばれる)由来のこの残りの遺伝子分節と組み合わせ、これは特定の所望される特徴を有するものである。例えば、MVD株は低温適応された(cold-adapted)温度感受性の、弱毒化した、かつ/又は高い成長速度を有してよい。
【0025】
具体的な一実施態様によれば、インフルエンザウィルスは弱毒化したインフルエンザウィルスである。具体的には、インフルエンザウィルスは、宿主細胞の生得免疫応答を阻害する病原性因子内での欠失又は改変を含む。弱毒は例示的に、低温適応されたウィルス株由来であるか又はNS1遺伝子内の欠失又は改変(ΔNS1ウィルス)のためであってよく、これはWO99/64571及びWO99/64068に説明されるとおりであり、これは参照により全体が本願に組み込まれる。これらウィルスは複製不全であり、というのもこれらは動物の気道において不稔複製を経るからである。代替的に、ウィルスは、PB1−F2遺伝子の欠失又は改変を含むことができる。
【0026】
本発明によれば、前記ウィルスは更に、HA分子の安定性を増加させることができるHA遺伝子内の改変を更に含んでよい。例えば、Steinhauer et al. (1991 , PNAS. 88: 11525-1152)は、インフルエンザロストックウィルス(H7N1)のHA2中のK58I突然変異が、非突然変異ウィルスに比較して膜融合の減少したpH値の原因であることを同定した。このことは、野生型ウィルスに比較した0.7より低いpHでのHAの突然変異した形態において酸性pHにより誘導されたHAのコンフォメーション変化が生じることを示唆している。X−31インフルエンザウィルス(H3サブタイプ)に対する突然変異の導入により、同じ作用が示されている。
【0027】
「再配列物」との用語は、ウィルスに関する場合には、このウィルスが、1より多い親ウィルス株又は供給源由来の遺伝的及び/又はポリペプチド成分を含むことを示す。例えば、7:1再配列物は、第1の親ウィルス由来の、7つのウィルスのゲノム分節(又は遺伝子分節)と、第2の親ウィルス由来の、単独の相補ウィルスゲノム分節(これは例えば、ヘマグルチニン又はノイラミニダーゼをコードする)を含む。6:2再配列物は、6つのゲノム分節、最も一般的には6つの内部遺伝子を第1の親ウィルス由来で、そして、2つの相補分節、例えばヘマグルチニン及びノイラミニダーゼを異なる親ウィルス由来で、含む。
【0028】
具体的には、前記インフルエンザウィルスワクチンは、インターパンデミック又はパンデミックウィルス株、例えばH1、H3又はB株のもの由来である。これら株は、本発明による方法により生産される場合に高度に増加した免疫原性を示すことが示されている。
【0029】
ウィルスの培養のために本発明による方法において使用されることができる細胞は、培養されることができ、かつ、エンベロープ付きウィルス、具体的にはインフルエンザウィルスで感染されることができる任意の所望のタイプの細胞であることができる。具体的には、これは、BSC−1細胞、LLC−MKウィルス、CV−1細胞、CHO細胞、COS細胞、マウス細胞、ヒト細胞、HeLa細胞、293細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CEK(トリ胚腎臓)、CEF(トリ胚繊維芽細胞)、MDOK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、TCMK細胞、LLC−PK細胞、PK15細胞、WI−38細胞、MRC−5細胞、T−FLY細胞、BHK細胞、SP2/0細胞、NSO、PerC6(ヒト網膜細胞)であることができる。
【0030】
前記ウィルスの希釈のためには、pH値の範囲、具体的にはpH5.2〜5.9、具体的には5.4〜5.8を提供でき、かつ、細胞にとって生理学的である任意の緩衝液が使用されることができる。例えば、これは、MES(2−(N−モルホリノ−エタンスルホン酸)緩衝液、クエン酸緩衝液又は酢酸緩衝液であることができ、具体的にはPBSを基礎とする緩衝液を使用する。さらに、この希釈溶液に成分が添加されることもでき、例えばこれは、塩、例えば塩化ナトリウム、ジ−ナトリウムヒドロキシ−ホスファート又はカリウムジヒドロキシ−ホスファートその他である。
【0031】
希釈との用語は、ウィルス懸濁物が、細胞の生産的感染に十分であるウィルス粒子の含量に希釈されることを意味する。
【0032】
本発明による方法によれば、適した細胞が少なくとも1のウィルス粒子で感染される。十分な感染のために必要なウィルス粒子の数は、当業者により容易に決定されることができる。前記ウィルスを使用した細胞の感染は具体的には、m.o.i(感染多重度)約0.0001〜10、好ましくは0.001〜0.5で実施されることができる。
【0033】
場合により、マクロライドポリエン抗生物質又は誘導体が、この希釈工程の間に希釈溶液中に及び/又は感染及び/又は培養の間に存在することができる。具体的には、前記抗生物質はアムホテリシンB又はその誘導体である。具体的には、前記マクロライドポリエン抗生物質は、感染前に、例えば、感染60〜30分前に、より有利には30分前に添加されることができる。ウィルスインキュベーション又は培養のために使用される抗生物質の最適濃度は、0.20〜0.50μg/ml、具体的には0.25μg/mlである。
【0034】
細胞への、特に細胞レセプターへの結合のためのウィルスのインキュベーションのための温度は20℃〜38℃であることができる。インキュベーションのためのpHは好ましくは5.4〜5.8である。細胞中へのウィルスの取り込みのために十分な時間の決定のためには、ウィルスは、標準的手順により、例えば染料でのラベル化又は電子顕微鏡により、モニターされることができる。具体的には、この期間は少なくとも5分間〜60分間、好ましくは20〜60分間室温である。
【0035】
ヘマグルチニンの前駆体タンパク質を切断するプロテアーゼが添加されることができ、かつ、細胞へのウィルスの取り込みは本発明により、インフルエンザウィルスでの細胞の感染の直前、同時又は直後に実施されることができる。この添加が感染と同時に実施される場合には、前記プロテアーゼは、感染すべき細胞培地に直接的に添加されるか、又は、濃縮物としてウィルス接種物と一緒に添加されることができる。前記プロテアーゼは好ましくはセリンプロテアーゼ、特に好ましくはトリプシンである。トリプシンが使用される場合には、この培養培地に添加される終濃度は、好ましくは1〜200μg/ml、好ましくは5〜50μg/ml、より好ましくは5〜30μg/mlである。
【0036】
感染後に、この感染した細胞培養物をさらにウィルスを複製させるために培養し、特に、最大の細胞変性作用又は最大量のウィルス抗原が検出されることができるまでである。この回収は、代わりに培養の間の任意の時間点であることができる。
【0037】
宿主細胞の培養のためのpHは、例えば、6.5〜7.5であることができる。培養のためのpHは、培養のために使用される宿主細胞のpH安定性に依存する。これは、異なるpH条件下での宿主細胞の生存性の試験により決定されることができる。
【0038】
培養及び増殖との用語は、本発明によれば同じ意味合いを有する。
【0039】
培養のためには、細胞の培養のために使用可能な任意の培地が適当である。具体的には、この培地は、SFM opti-pro(商標)培地であることができ、腎臓上皮及び関連細胞を発現するウィルスの培養のための低タンパク質培地である。細胞は、20〜40℃、具体的には30〜40℃の温度で培養されることができる。
【0040】
ウィルスは宿主細胞中で少なくとも1代(one passage)にわたり継代されることができるが、通常は幾つかの代が必要であり、例えば少なくとも3代である。
【0041】
この方法の具体的実施態様によれば、この複製したインフルエンザウィルスの回収及び単離は、感染後2〜10日、好ましくは3〜7日で実施される。細胞又は細胞残留物は、当業者により知られている方法を利用して、培養培地から分離され、回収されることができ、これは例えばセパレーター又はフィルターによる。この濃縮に引き続き、この培養培地中に存在するインフルエンザウィルスは当業者に知られている方法により実施され、これは例えば、勾配遠心分離、濾過、沈殿及びその他である。
【0042】
本発明者により成功して、エンベロープ付きウィルスの希釈及び低pH条件下での細胞の感染が、低pHで安定性及び増加した免疫原性を示すエンベロープ付きウィルスを生じることが見出された。これらウィルスは、高められた温度及び/又は高速成長を細胞培養及び/又はヒトレセプター特異性において示すこともできる。これは意外であり、というのも、Scholtissek(1985, Archives Virol., 85, 1-11)は、低pH値ではインフルエンザウィルスの感染性が不可逆的に失われることを示しているからである。pH及び熱安定性の間には相関が存在しないことも言及された。
【0043】
本発明の更なる一実施態様として、例えば、ワクチン接種目的のための種ウィルス又はウィルスとして有用であるインフルエンザウィルスも提供される。前記インフルエンザウィルスは、高められた温度で検出可能な赤血球凝集活性を保持し、pH範囲5.4〜5.8で安定な感染性を保持し、細胞培養中で高速成長し、かつ、ヒトレセプター特異性を有する。「種ウィルス」は、細胞培養を接種するために使用されるウィルスとして定義される。
【0044】
本発明の実施態様により検出可能な赤血球凝集活性は、使用される供給源ウィルスに比較して赤血球凝集活性の4倍より多くない減少として定義される。前記供給源ウィルスは、例えば、鼻スワブ(nasal swab)から直接的に単離されたウィルスであることができる。
【0045】
更なる一実施態様によれば、ワクチンウィルスとして有用であるウィルスが提供されることができる。前記ウィルス粒子は低pHで安定であり、かつ、既知の細胞培養手順により、例えば、Vero細胞、MDCK又はMDBK細胞から得られるウィルスに比較して同様の又は増加した免疫原性を示す。具体的には、前記ウィルスは、細胞培養において、本発明による方法に曝露されていないウィルスに比較して増加した成長速度を示す。さらに、前記ウィルスは、温度安定性であり、かつ、ヒトレセプター特異性を有する。
【0046】
本発明による温度安定性は、赤血球凝集活性が60℃までの温度で15分間までの期間で顕著に減少しないことを意味する。pH安定性は、pH5.6、好ましくは5.4〜5.8、好ましくは5.2〜5.9でのウィルスの安定性として定義される。高速成長は、6log TCID 50/mlまで、好ましくは7log TCID 50/ml超の成長速度を意味する。
【0047】
前記ウィルスは、本出願において説明されているとおりの方法により得られることができる。前記ウィルスは特に、ワクチン処方物又は治療用処方物のために有用である。これら処方物中に含有されるインフルエンザウィルスは、弱毒したウィルス又は不活化したウィルスのいずれかであることができる。不活化は、この分野で知られている任意の方法により実施されることができ、例えば、ホルマリン又は死滅したウィルスワクチンの作出において使用される他の剤を用いた処置又は非イオン界面活性剤又はUV光に対する曝露を用いた処置により実施されることができる。インフルエンザウィルス含有調製物は、任意の経路により、例えば、皮下、鼻腔内又は筋肉内に投与されることができる。
【0048】
代替的に、前記インフルエンザウィルスを含有する調製物は更に、製薬学的に許容可能なキャリアー又はアジュバントであってこの投与された調製物の免疫原性を促進すると知られているものを含むことができる。
【0049】
好ましくは、前記調製物は、粘膜を介して、具体的には鼻腔内適用により投与され、というのも、これらウィルスは、上で列記した特性、すなわち、pH安定性、温度安定性、高成長率及びヒトレセプター特異性の結果として、高免疫原性であるからである。
【0050】
これら特性を含むインフルエンザウィルスは以前に説明も示唆もされない。
【0051】
上述の説明は、以下の実施例を参照してより完全に理解されるものである。しかし、このような実施例は、本発明の実施態様の1又は複数を実施する方法を単に代表するものであり、本発明の範囲を限定するものと理解してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、用量6.0 log TCID50/動物で単一鼻腔内免疫化後のフェレットにおいて比較したWisc.ΔNS1及びWisc. ΔNS1_HA2_G75Rの免疫原性を示す図である。
【図2A】図2Aは、マウスモデル中での血清抗体の誘導を示す図である。
【図2B】図2Bは、免疫化したマウスの肺及び鼻甲介中の攻撃ウィルスの生殖を示す図である。
【図3A】図3Aは、当初及び突然変異体ウィルスのHA分子の配列比較を示す図である。
【図3B】図3Bは、ヒト赤血球を用いたVN1203及びVN1203 K58Iウィルスの融合活性を示す図である。
【図3C】図3Cは、VN1203及びVN1203 K58Iウィルスでの免疫化後のマウス鼻洗浄におけるIgA抗体力価を示す図である。
【図3D】図3Dは、VN1203及びVN1203 K58Iウィルスでの免疫化後のマウス血清におけるHAI抗体力価を示す図である。
【図3E】図3Eは、マウスについてのVN1203及びVN1203 K58Iウィルスの感染性を示す図である。
【図4】図4は、低pHに向けたウィーン/28及びウィーン/28_HA2_G75Rウィルスの感受性を示す図である。
【0053】
実施例:
実施例1:
エピデミック株由来の表面糖タンパク質を有する2つのインフルエンザ株
A/ウィスコンシン/67/05(H3N2)及びWHOワクチン株IVR−116(A/ニューカレドニア/20/99及びA/プエルトリコ/8/34の再配列物)由来の他の全ての遺伝子を、NS1オープンリーディングフレームを欠失するNS遺伝子(ΔNS1)と組み合わせて、逆遺伝子学により構築した。得られたウィルスは、HA分子の配列中の1のアミノ酸置換により異なっており、これは、Vero細胞上の異なる継代条件のためである。第1のウィルス、Wisc.ΔNS1と名付けたものは、低pH緩衝液を用いたウィルス接種材料の予備処理でもってVeros細胞上で常に継代された、すなわち:
このウィルスをMES感染緩衝液(0.1M MES、150mM NaCl、0.9mM CaCl2、0.5mM MgCl2;pH=5.6)中で希釈し、これは、適したmoiにまで0.25μg/mlのアムホテリシンBで補給されていた。Vero細胞を感染緩衝液で洗浄し、このウィルス接種材料をこの細胞に適用し、30分間インキュベーションした。次いで、この接種材料を除去し、細胞を血清不含のOpti−pro培地(0.25μg/mlのアムホテリシンB及び5μg/mlのトリプシンで補給されている)中でインキュベーションした。
【0054】
この方法は、臨床的スワブ中に見出される当初ウィルスHA配列の保存を生じた。第2のウィルスは、中性条件で標準的手段により増殖され、かつ、HA2サブユニット中の1の置換を獲得し、すなわち、G75Rである(第1表)。第1表は、スワブ中に存在するウィルスに比較したHA分子の配列比較を示す。
【0055】
異なる条件で培養された2のウィルスのHAヌクレオチド配列が比較された。ウィルスWisc.ΔNSは、HA分子中のいかなる突然変異も獲得しなかったが、その一方で、HA2サブユニット中に局在する1の突然変異G75RがウィルスWisc.ΔNS_HA2_G75R中で同定された。
【0056】
第1表:
【表1】

【0057】
次に、両方のウィルスを、次の方法により、低pHに向けたその安定性において比較した。前記ウィルスを、pH範囲5.6〜7.5を有する感染MES緩衝液中で、定義されたmoiを獲得するために希釈し、かつ、このウィルスで細胞を感染させるために、30分間の引き続くインキュベーションとともに前記Vero細胞に適用した。その後で、この接種材料を除去し、細胞を4〜9hにわたり37℃でインキュベーションし(前記株に依存する)、次いで、固定し、このインフルエンザNPタンパク質を免疫蛍光法により検出した。
【0058】
この試験は、ウィルスWisc.ΔNS1が、中性条件と同様の同じ効力でもってpH5.6の細胞感染で安定であるように見え、その一方で、突然変異体ウィルスWisc.ΔNS1_HA2_G75RはpH5.6の細胞感染で細胞を感染させる能力を完全に失いpH5.8でだけ中性条件と同様の同じ効力を有することを明らかにした(結果示さず)。
【0059】
用量6.0 log TCID 50/動物で単一鼻腔内免疫化後のフェレットにおいてWisc.ΔNS1及びWisc.ΔNS1_HA2_G75Rウィルスの免疫原性が比較された。この得られた結果は、HA Wisc.ΔNS1の完全配列を有するウィルスが、ウィルスWisc.ΔNS1_HA2_G75R(GMT27.9)に比較して、顕著により高い血清抗体力価を誘導したことを実証し、これは、HAI試験(GMT202.9)により測定された。
【0060】
実施例2:
エピデミック株A/ブリズベン/59/07(H1N1)からの表面糖タンパク質を有する2つのH1N1インフルエンザ株及びWHO株IVR−116からの他の全ての遺伝子が、NS1オープンリーディングフレームを欠失するNS遺伝子(ΔNS1)と組み合わせて、逆遺伝子学により構築された。得られたウィルスは、HA分子の配列中の1のアミノ酸置換により異なっており、これは、Vero細胞上の異なる継代条件のためであるように見える。第1のウィルス、ブリズベンΔNS1と名付けられたものを、アムホテリシンBの存在下で低pH条件で継代させた。この手順は、HA配列の保存を生じ、これは、臨床試料からのMDCK細胞において単離されたウィルスのものと類似しているように見えた(継代1)。
【0061】
第2のウィルス、ブリズベンΔNS1_HA2_N16Iと名付けたもの、を標準的方法により継代し、HA2サブユニット中の1の置換を獲得し、すなわち、N16Iである(第2表)。第2表は、初期単離物に比較したHA分子の配列比較を示す。
【0062】
第2表:
【表2】

【0063】
異なる条件で培養された2のウィルスのHAヌクレオチド配列が比較された。ウィルス ブリズベンΔNSは、HA分子中のいかなる突然変異も獲得しなかったが、その一方で、HA2サブユニット中に局在する1の突然変異N16Iがウィルス ブリズベンΔNS_HA2_N16I中で同定された。
【0064】
低pHに向けたウィルス安定性の比較は、ウィルス ブリズベンΔNS1が安定であるように見えることを明らかにした。免疫蛍光アッセイにおいて、同じ量の染色されたVero細胞を5.6と低いpH及びpH7.5で観察した。突然変異体ウィルス ブリズベンΔNS1_HA2_N16Iは、たったpH5.8であまり安定に細胞を感染せず、pH5.6では全く感染しなかった。免疫蛍光シグナルは、緩衝液pH5.6と組み合わせたウィルスで感染させた細胞で可視可能でなかった(結果示さず)。
【0065】
両方のウィルスの免疫原性を、ウィルス用量5.6 log TCID 50/動物を用いてマウスの単一鼻腔内免疫化後に比較した。この得られた結果は次のことを明らかにした:、ウィルス ブリズベンΔNS1が、ブリズベンΔNS1_HA2_N16Iに比較してより免疫原性であり、より高レベルの血清抗体(HA1試験により測定)及び動物のより良好な保護を誘導し、これはマウスの肺及び鼻甲介中の攻撃ウィルス(challenge virus)の減少した複製により示唆された(図2A、B)。図2Bは、具体的に、免疫化したマウスの肺及び鼻甲介中の攻撃ウィルスの生殖を開示する。
【0066】
実施例3:
標準条件でのVero細胞上のインフルエンザB株の培養もまた、HA分子中の界面HA1−HA2又はHA2−HA2領域のいずれかの脱安定突然変異の様子も生じ、これは、動物モデル中の突然変異ウィルスの減少した安定性及び次には減少した免疫原性に関連している(データ示さず)。
【0067】
実施例4:
以前に、過去数十年の間に循環した、H5N1高度病原性トリウィルスが、pH5.6を有するヒト鼻洗浄(nasal washings)を用いた処置に耐えないことが見出された。これらは、Vero細胞の接種の間に同じpH5.6を有する酸性緩衝液での処置にも耐えなかった。この不安定性の理由が、細胞膜で融合を実施するために、HA分子がこのコンフォメーションを変更する高pHにあり、これは、H5N1ウィルスにとってはpH5.6の値を有するが、一方でヒトウィルスにとってはこれは5.2〜5.4の範囲内にあることが見出された。
【0068】
Steinhauer et al.は、HA2中の1の置換、すなわち、H7N7ウィルスのK58Iが、0.7単位だけ融合のpHを顕著に減少できたことを実証している。H3N2ウィルス中のこの突然変異の導入は、同様の作用を有した。
【0069】
この変更は、A/VN1203/04ΔNS1(H5N1)ウィルス(再配列物、HA、NA及びM遺伝子をA/VN/1203/04から、かつ、IVR−116ワクチン株から残りの遺伝子を受け継ぎ、ΔNS1遺伝子と組み合わせて)のHAタンパク質に対する部位指向した突然変異作成により導入され、レスキューされたウィルスVN1203 HA K58Iと名付けられた(図3A)。図3Aは、当初及び突然変異体ウィルスのHA分子の配列比較を示す。
【0070】
両方のウィルスのHAを、トリプシン依存性の様式で改変した。突然変異したウィルスVN1203 HA K58Iのための融合のpHは、ヒト赤血球を用いた溶血実験において0.3単位で減少した(データ示さず)。
【0071】
さらに、ウィルスVN 1203 HA K58Iは、pH5.6での感染性の減少した損失を示した。免疫蛍光アッセイにおいて、ほとんど同じ量の染色細胞がpH5.6及び7.5でウィルスVN 1203 HA K56Iを用いて為された感染後に観察され、その一方で、染色細胞は、感染がpH5.6でVN 1203ウィルスを用いて実施された場合に可視可能でなかった(データ示さず)。
【0072】
マウスの鼻腔内免疫化後の免疫応答を誘導するための両方のウィルスの能力が比較された。後免疫化4週間後に、マウス血清及び鼻洗浄物(nasal washings)を獲得し、かつ、HAI及びIgA抗体を測定した。図3Bに示されるとおり、VN1203 HA K58Iウィルスは、当初HA配列を有するウィルスVN1203に比較して、4倍より高い力価のIgA抗体を誘導した。
【0073】
図3Bは、VN 1203及びVN 1203 K58Iウィルスを用いた免疫化後のマウス鼻洗浄物におけるIgA抗体力価を示す。
【0074】
図3Cは、VN 1203及びVN 1203 K58Iウィルスを用いた免疫化後のマウス血清中のHAI抗体力価を示す。
【0075】
低pHに向けた増加したHA安定性が、哺乳類のためのより良好なウィルス感染性を生じることを証明するために、2つの類似する(analogous)再配列物VN 1203R及びVN 1203R HA K58I(コンピテントNS遺伝子を含有する)が構築された。コンピテントNS遺伝子の存在は、免疫コンピテント生物の気道における効率的なウィルス成長のために必要であった。異なる用量で利用されたそれぞれのこれらウィルスを用いた鼻腔内接種後の上方気道中の両方のウィルスのウィルス成長を比較した。突然変異したHA VN1203R HA K58Iを有するウィルスが、非改変VN 1203Rウィルスの4.5log MID50に比較してMID50値(マウス感染用量−マウスの50%を感染させる用量)2.5logで上方気道中で成長するマウスにとって100倍超の感染性であることが見出された(図3E)。
【0076】
図3Eは、異なる用量での鼻腔内感染後のマウスの上方気道中のウィルスの生殖を示す。
【0077】
実施例5:熱安定性
酸性接種を用いたウィルスの増殖は、熱不活性化に対するウィルス安定性も保存した。熱安定性は、高められた温度で15分間でのウィルスのインキュベーション後のウィルス赤血球凝集力価の滴定(titration)により確認された。低pH接種で培養されたウィルス(ブリズベンΔNS1 H1N1、ウィスコンシンΔNS1 H3N2、ブリズベンΔNS1 H3N3)は、60℃への曝露後にさえも赤血球凝集活性を保持したことが見出された。標準条件で培養され、HA中の脱安定突然変異を獲得したウィルス(ニューカレドニアΔNS1_HA2_113、ウィスコンシンΔNS1_HA_218_225_75_81H3N2)は、60℃での処置に耐えることができず、15分間後に赤血球凝集活性を完全に失った(第1表)。トリインフルエンザウィルスに関しては、多塩基性切断部位(トリプシン依存性の様式で)の改変だけを有するHAを含有する株が55℃での処置にさえ耐えなかった(香港156ΔNS1 H5N1、VN1203(6:2)(H5N1)、VN1203 H5N1)ことが見出され、処置の15分間の間に赤血球を凝集させる能力を完全に失った。これらウィルスの閾値は50℃であった。HA外部ドメイン(ectodomain)中のHA2サブユニット中の突然変異K58Iの導入は、55℃までウィルス安定性を増加させた。
【0078】
第3表:
【表3】

【0079】
ヒトインフルエンザウィルス ブリズベンΔNS1 H1N1、ウィスコンシンΔNS1 H3N2、ブリズベンΔNS1 H3N2、ニューカレドニアΔNS1_HA2_113、ウィスコンシンΔNS1_HA1_218_225_75_81 H3N2を、相応するエピデミックウィルスからの表面抗原HA及びNA及びIVR−116株由来の他の全ての遺伝子を有する6:2再配列物として獲得した。IVR−116− A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)ウィルス由来の表面糖タンパク質を含有する不活化したワクチンの生産のためにWHOにより推奨されている株。全てのウィルスのNS遺伝子は、NS1オープンリーディングフレームを欠失していた。
【0080】
トリウィルスを、5;3(VN1203 H5N1及びVN 1203/04 HA K58I H5N1)又は6:2(VN1203(6:2)H5N1)再配列物として獲得し、これは、トリウィルスA/ベトナム/1203/04又はA/香港/156/97のHA、NA及びM(5:3の場合)遺伝子及びIVR−116株からの他の全ての遺伝子を受け継ぐ。高度病原性トリ株のHA切断部位は、低病原性トリウィルスのものへと置換した。この研究における全てのトリウィルスは、NS1オープンリーディングフレームを欠失するNS遺伝子を含有した。
【0081】
実施例6:
エピデミックウィルスA/ウィーン/28/06(H3N2)からのHA及びNA遺伝子を、そして、WHO株IVR−116からの他の全ての遺伝子を、NS1オープンリーディングフレームを欠失するNS遺伝子(ΔNS1)と組み合わせて含有する2つのインフルエンザ6:2再配列物を、逆遺伝子学により構築した。得られたウィルスは、HA分子のHA2サブユニットの配列中の1のアミノ酸置換により異なっており、これは、Vero細胞上の異なる継代条件のためであるように見える。第1のウィルス、ウィーン/28と名付けられたものを、pH6.5を有する培地の存在下で培養し、その一方で、第2のウィルス(ウィーン28_HA2_G75R)を標準条件で培養した。ウィルス ウィーン/28_HA2_G75Rは、HA2サブユニット中のG75Rの位置でウィーン/28に比較してHAの配列中で異なっており、これは、当初野生型ウィルス中には存在しない。この置換は、ウィーン/28ウィルスに比較して、低pHでウィーン/28_HA2_G75Rウィルスの減少した感染性を生じ、これは、酸性緩衝液中のウィルスの予備インキュベーション(30分間)と引き続く感染力価の滴定により測定された(図4)。
【0082】
実施例7:
ウィルスA/ブリズベン/10/2007(卵由来、NIBSC、UKから取得)を、MDCK及びVero細胞に対して並行して5回継代させた。5回の継代の後に、両方の生じる変異体は、当初ウィルスに対し、その感染性について異なる値のpHで免疫蛍光アッセイにおいて比較された。この得られたデータは、pH5.6及び中性pH7.5で同じ効率でもって当初ウィルスA/ブリズベン/10/2007が細胞を感染させることを明らかに実証した。しかし、相応する細胞株に対する5回の継代後に両方のウィルスは、pH5.6で細胞感染させる能力を失った。この細胞のポジティブ染色はpH5.8でだけ観察されたが、しかし、pH5.6を有する緩衝液が使用された場合に染色した細胞は可視可能でなかった(結果示さず)。HA遺伝子の配列決定は、HA分子中で位置160でD→Eの同じ突然変異を両方の変異体が獲得したことを明らかにした。
【0083】
実施例8:
ウィルスA/ソロモン諸島/3/06(卵由来、NIBSC、UKから取得)を、異なる2つの経路によって為された連続的継代(consecutive passage)によりVero細胞に適応させた:標準(中性)条件で又は酸性で(pH5.6での感染)。中性pHで継代した結果物ウィルスは、4.7log TCID50/mlから6.7log TCID50/mlへとVero細胞での成長能を改善したが、しかし、免疫蛍光アッセイにおいてpH5.6で細胞を感染させる能力を失った。染色されていない細胞が、緩衝液pH5.6と組み合わせたウィルスを用いた細胞の感染後に観察され、その一方で、中性感染では全体的な単層(monolayer)が染色された。酸性条件での感染を用いたVero細胞上での成長に適応させたウィルスA/ソロモン諸島/3/60は、力価7.6log TCID50/mlに達し、かつ、同時に、低pH条件で感染性を保存した。免疫蛍光アッセイにおいて、pH5.6及び7.5での感染後に染色した細胞の同様の分布が観察された。
【0084】
実施例9:
新規H1N1サブタイプのウィルスA/カリフォルニア/7/09(卵由来、CDCから取得)を、酸性条件で為された幾つかの連続的継代によりVero細胞に適応させた(pH5.6での細胞の感染)。結果物ウィルスをA/カリフォルニア/7/09−酸と名付けた。当初の及び適応させたウィルスを、引き続く精製を伴う、バイオリアクター中の少規模(10L)生産のために使用した。赤血球凝集力価(HA)により測定したA/カリフォルニア/7/09−酸ウィルスの収量は、各生産工程後にA/カリフォルニア/7/09ウィルスよりも2〜8倍より高かった。結果は第4表に示される。
【0085】
第4表:A/カリフォルニア/7/09及びA/カリフォルニア/7/09−酸ウィルスの収量
【表4】

【0086】
両方のウィルスを回収し、不活化ワクチンの精製のために使用される標準的手順に応じて精製し、かつ比較した。この得られた結果は、全ての測定したパラメーターにおいて、ウィルスA/カリフォルニア/7/09−酸が、A/カリフォルニア/7/09に比較してより良好であったことを明らかにした(第5表)。
【0087】
第5表:A/カリフォルニア/7/09及びA/カリフォルニア/7/09−酸ウィルスの精製した調製物の比較
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a)pH5.2〜5.9、好ましくは5.5〜5.8、最も好ましくは約5.6を有する溶液中にウィルスを希釈する工程、
b)宿主細胞を少なくとも1の感染性ウィルス粒子で感染させる工程、その際:
i)このウィルス粒子を前記細胞に添加する;及び
ii)前記細胞及び前記ウィルス粒子を、ウィルス/細胞複合体を提供するために、pH5.2〜5.9、好ましくは5.5〜5.8、最も好ましくは約5.6でインキュベーションする、
c)この感染した宿主細胞を、ウィルスを増殖させるために培養する工程、
d)このウィルスを回収する工程;及び
e)場合により、このウィルスを精製及び/又は特性決定する工程
を含むこと特徴とするインフルエンザウィルスの生産方法。
【請求項2】
マクロライドポリエン抗生物質又は誘導体が添加され、好ましくはアムホテリシンBであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が組織培養細胞であり、好ましくはBSC−1細胞、LLC−MK細胞、CV−1細胞、CHO細胞、COS細胞、マウス細胞、ヒト細胞、HeLa細胞、293細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MDOK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、TCMK細胞、LLC−PK細胞、PK15細胞、WI−38細胞、MRC−5細胞、T−FLY細胞、BHK細胞、SP2/0細胞、NS0、PerC6からなる群から選択されていることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ウィルスがインフルエンザA、B又はCであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
インフルエンザウィルスが弱毒化したインフルエンザウィルスであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
インフルエンザウィルスが、NS1遺伝子内での欠失又は改変を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
インフルエンザウィルスが低温適応したウィルスであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ウィルスが、pH値の範囲を提供することができ、かつ、細胞にとって生理学的である緩衝液中で希釈され、好ましくはこれが、MES緩衝液、クエン酸緩衝液及び酢酸緩衝液からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
培養培地が、細胞を培養するために使用され、かつ、この培養培地が好ましくはSFM opti-pro(商標)培地であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ウィルスが、少なくとも1代にわたり宿主細胞中で継代されることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ウィルスが赤血球凝集活性を高められた温度で保持し、5.5〜5.8のpH範囲で感染性を保持し、細胞培養において高速成長であり、好ましくはヒトレセプター特異性を有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の方法により得られるインフルエンザウィルス。
【請求項12】
種ウィルスとしての、請求項11記載のインフルエンザウィルスを含有するエンベロープ付きウィルス粒子の使用。
【請求項13】
ワクチンウィルスの大規模生産のための、請求項11又は12記載のインフルエンザウィルスを含有するエンベロープ付きウィルス粒子の使用。
【請求項14】
請求項11記載のインフルエンザウィルス及び製薬学的に許容可能なキャリアー又はアジュバントを含有する、ワクチン接種又はウィルス疾病の治療に有用な組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−509684(P2012−509684A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537962(P2011−537962)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065812
【国際公開番号】WO2010/060921
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(510173030)アヴィール グリーン ヒルズ バイオテクノロジー リサーチ ディベロプメント トレード アクチエンゲゼルシャフト (3)
【氏名又は名称原語表記】AVIR Green Hills Biotechnology Research Development Trade AG
【住所又は居所原語表記】Forsthausgasse 11, A−1200 Wien, Austria
【Fターム(参考)】