説明

sRAGEミメティボディ、組成物、方法および使用

哺乳動物のsRAGEミメティボディポリペプチドおよび核酸が開示される。RAGEおよびそのリガンドの結合を低下または抑制するため、ならびにRAGEが関係する疾病を処置するためのポリペプチドの利用方法がまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物sRAGEミメティボディ(mimetibody)およびそれらの治療剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
進行したグリコシル化最終産物に対する受容体(Receptor for Advanced Glycated Endoproduct)(RAGE)は、細胞表面分子の免疫グロブリンスーパーファミリーの一員である。それは、グルコース(アルドース糖)で修飾されたタンパク質または進行したグリコシル化最終産物(AGE)に対する細胞受容体として最初に同定され、そして特性決定された(非特許文献1:非特許文献2)。AGEは、糖尿病および老化に関連する種々の障害に関係している(非特許文献3において総説されている)。RAGEに対するAGEの結合は、血管壁において炎症応答を誘導し、これがマクロまたはミクロの血管障害の発病を惹起または悪化させる。
【0003】
またRAGEは、アンホテリン(amphoterin)、発達する脳に由来する培養皮質性ニューロンの成長を促進する基質に関連したポリペプチド、を含む他のリガンドと相互作用することが報告された(非特許文献4)。また高速移動群B1(HMGB1)として文献において知られているアンホテリンは、がん、炎症症状および敗血症を含む種々の疾病状態に寄与することが分かっている。非特許文献5、非特許文献6および非特許文献7参照。RAGEの発現は、発達する軸索の先導末端において顕著に増進され、そしてアンホテリンの発現と一緒に局在化され、これが、細胞の移動ならびに腫瘍浸潤のような病理において潜在的寄与を示す。抗RAGE F(ab’)または可溶性RAGEのいずれもアンホテリンでコートされた基質において軸索の成長を抑制することが報告された(非特許文献8)。可溶性RAGE(sRAGE)は受容体の細胞外ドメインである。さらに、RAGE−アンホテリン結合の遮断は、感受性マウス、Idにおいて移植腫瘍と自然発生腫瘍の両者の成長と転移を減少させた。
【0004】
RAGEはまた、β−アミロイド、アルツハイマー病においてニューロンの毒性および死滅の発病に結び付けられるポリペプチド、に対するニューロンおよび小膠細胞における受容体として同定された(非特許文献9)。RAGEの発現は、β−アミロイドペプチドの沈着物および神経細繊維濃縮体に接近したニューロンにおいて特に増強される。マウスでは、RAGEは、血液脳関門を通過するヒトβ−アミロイドー40および−42の輸送を仲介する(非特許文献10)。いずれも血液脳関門を通って輸送されない抗RAGE IgGまたは可溶性RAGEの、いずれかによるRAGE−リガンド相互作用の抑制は、アルツハイマー病のマウスモデル、Idにおいて脳実質中のβ−アミロイドの蓄積を抑制した。
【0005】
またRAGEは、S100A2およびS100/カルグラヌリン(calgranulin)スーパーファミリーの関連メンバーに対する中枢細胞の表面受容体である(非特許文献11)。内皮、単核食細胞およびリンパ球におけるS100A2と細胞RAGEの相互作用は、重要な前炎症メディエーターの細胞活性化および生成を惹起する。マウスモデルにおいて、S100A2/RAGEの遮断は、中枢シグナル伝達経路の活性化および炎症性遺伝子メディエーター、Idの発現によって遅延型過感作および炎症性大腸炎を消した。
【0006】
また研究では、リガンドによるRAGEの結合が、重要な細胞のシグナル伝達経路、例えばp21(ras)、MAPキナーゼ、NF−κbおよびcdc42/racの活性化
を惹起し、それによって細胞の性質を再計画させることが示された。例えば、リガンド結合では、RAGEは、核へのNF−κbの移動、ならびに付着分子、プロコアギュラント(procoagulant)分子および炎症性タンパク質の発現の増大をもたらすシグナル伝達カスケードを始動する(非特許文献12)。
【0007】
研究は、RAGEが、ホメオスタシス、発生、炎症、およびある種の疾病、例えば2型糖尿病およびアルツハイマー病に係わる種々の分子と相互作用することを示した。したがって、疾病状態に関連する場合に、これらの相互作用を遮断または抑制して、関連する病気を処置または予防することが一般に望まれるであろう。
【0008】
sRAGEは、動脈硬化症、腫瘍の増殖と転移、大腸炎、遅延型過感作、実験的アレルギー性脳脊髄炎およびアルツハイマー病に関する動物疾病モデルにおいて有効であることが示され(非特許文献13;非特許文献8;非特許文献11;非特許文献9)、そして精製されるか、または組み換え技術により発現することができる。sRAGEは全長RAGEのトランスメンブランおよび細胞外ドメインを欠如し、そして3個の免疫グロブリン様領域:免疫グロブリン可変ドメイン(Vドメイン)にもっとも類似するN末端領域とそれに続く免疫グロブリン定常部(Cドメイン)に類似する2個の領域を有する。
【0009】
sRAGEは、RAGE−リガンド相互作用を研究するためにインビトロとインビボで広範に使用された。しかしながら、ラットにおけるsRAGEの半減期は24時間であり、そのためにsRAGE自体は疾病のための治療剤としては実用的ではない。さらに、抗RAGE IgGは、肺のような組織において正常に発現される大量のRAGEに結合し、かつそれを抑制し、そして正常な細胞の死を誘導するであろう。かくして、RAGEのAGE結合機能を保持しつつ、短い半減期を克服できる改変されたsRAGEに対する要望が存在する。
【非特許文献1】Schmidt et al.,J.Biol.Chem.267:14987−14997,(1992)
【非特許文献2】Neeper et al.,J.Biol.Chem.267:14998−15004,(1992)
【非特許文献3】Schmidt et al.,Nature Med.1:1002−1004,(1995)
【非特許文献4】Hori et al.,J.Biol.Chem.270:25752−25761,(1995)
【非特許文献5】Lotze and Demarco,Curr.Opin.Investig.Drugs 4:1405−1409(2003)
【非特許文献6】Scaffidi et al.,Nature 418:191−195(2002)
【非特許文献7】Wang et al.,Science 285:248−251(1999)
【非特許文献8】Taguti et al.,Nature 405:354−360(2000)
【非特許文献9】Yan et al.,Nature 382:685−691(1996)
【非特許文献10】Deane et al.,Nature Med.9:907−913(2003)
【非特許文献11】Hofmann et al.,Cell 97:889−901(1999)
【非特許文献12】Kislinger et al.,J.Biol.Chem.274:31740−31749(1999)
【発明の開示】
【0010】
本発明の1つの態様は、一般式(II):
(Rg−Lk−V2−Hg−C2−C3)(t) (II)
[式中、Rgは哺乳動物sRAGE配列であり、Lkはポリペプチドまたは化学結合であり、V2は免疫グロブリン可変部のC末端の一部分であり、Hgは免疫グロブリン可変ヒンジ部の少なくとも一部分であり、C2は免疫グロブリン重鎖C2定常部であり、そしてC3は免疫グロブリン重鎖C3定常部であり、そしてtは独立して整数1〜10である]
で表されるポリペプチドである。
【0011】
本発明のその他の態様は、配列番号:3、5、7、9、11または13において示される配列を有するポリペプチドを含んでなるポリペプチドである。
【0012】
本発明のその他の態様は、配列番号:4、6、8、10、12または14において示される配列、または相補的配列を有するポリヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドである。
【0013】
本発明のその他の態様は、配列番号:3、5、7、9、11または13において示されるアミノ酸配列をコードしているポリヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドである。
【0014】
本発明のその他の態様は、哺乳動物にsRAGEミメティボディ組成物を投与することを含んでなる、哺乳動物におけるRAGEの生物学的活性を改変する方法である。
【0015】
本発明のその他の態様は、sRAGEミメティボディ組成物を、それを必要とする患者に投与することを含んでなる、少なくとも1種のRAGEに関連する症状または障害の症候を軽減するか、あるいは処置する方法である。
【0016】
本明細書において引用される、限定されるものではないが特許および特許出願を含む全ての公表物は、完全な記述により引用によって本明細書に組み入れられている。単一文字のアミノ酸コードは、当業者によって理解されるように本明細書では使用される。免疫グロブリン定常部におけるアミノ酸残基の番号づけは、野生型IgG1またはIgG4 FcドメインにおけるN末端アミノ酸である残基アミノ酸に基づく。
【0017】
本発明は、哺乳動物sRAGEの性質および活性を有するポリペプチドを提供し、この場合、ポリペプチドはまた、種々のタイプの免疫グロブリン分子、例えばIgA,IgD,IgE,IgGまたはIgM,およびそれらのいずれかのサブクラス、例えばIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4、またはそれらの組み合わせ物を模倣していて、これ以降「sRAGEミメティボディ」と言及される。また本発明は、sRAGEミメティボディをコードしている核酸、これらの核酸を含有するベクター、宿主細胞、組成物およびsRAGEミメティボディを作成および使用する方法を提供する。
【0018】
ミメティボディポリペプチドおよび組成物
本発明は、一般に、一般式(I):
(Pep−Lk−V2−Hg−C2−C3)(t) (I)
[式中、Pepは所望の生物学的性質を有するポリペプチドであり、Lkはポリペプチドまたは化学結合であり、V2は免疫グロブリン可変部のC末端の一部分であり、Hgは免疫グロブリンヒンジ部の少なくとも一部分であり、C2は免疫グロブリン重鎖C2定常部であり、そしてC3は免疫グロブリン重鎖C3定常部であり、そしてtは独立し
て整数1〜10である]
で表されるミメティボディポリペプチドに関する。
【0019】
より具体的には、本発明は、RAGEと、そのそれぞれのリガンド、例えばAGE、アンホテリン、S100/カルグラヌリンおよびβ−アミロイドとの間の相互作用を遮断または低下することができるsRAGEミメティボディポリペプチドに関する。ポリペプチドは、一般式(II):
(Rg−Lk−V2−Hg−C2−C3)(t) (II)
[式中、Rgは哺乳動物sRAGE配列であり、Lkはポリペプチドまたは化学結合であり、V2は免疫グロブリン可変部のC末端の一部分であり、Hgは免疫グロブリンヒンジ部の少なくとも一部分であり、C2は免疫グロブリン重鎖C2定常部であり、そしてC3は免疫グロブリン重鎖C3定常部であり、そしてtは独立して整数1〜10である]
で表される。
【0020】
本明細書で使用されるところの、「可溶性RAGE」または「sRAGE」は、全長RAGEに関してトランスメンブランおよび細胞内領域を欠如しているRAGE由来のポリペプチドを包含する。代表的な哺乳動物sRAGEポリペプチドは、配列番号:1において示されるアミノ酸配列を有するヒトsRAGEの細胞外ドメインである。sRAGEポリペプチドが、配列番号:1の生物学的に活性なフラグメント、配列番号:1に実質的に相同であるアミノ酸配列ならびにsRAGEの結合活性を模倣できるポリペプチドもまた含んでもよいことは、当業者によって容易に理解することができる。また、本発明において有用な哺乳動物sRAGEポリペプチドが、それらの生産細胞系から本発明のポリペプチドの排出を促進するために、ネイティブのN末端リーダー配列(配列番号:1のアミノ酸1〜30)または他のリーダー配列を含んでもよいことは、当業者によって理解できる。
【0021】
本明細書で使用される用語「生物学的に活性なフラグメント」は、sRAGEリガンドに特異的に結合できるsRAGEポリペプチドの部分を指す。sRAGEの生物学的に活性なフラグメントの例は、限定されるものではないが、1種以上のIg様ドメイン、例えば単一のVドメイン(配列番号:1のアミノ酸11〜106)、VドメインおよびCドメイン(配列番号:1のアミノ酸31〜215)またはVドメインおよび両Cドメイン(配列番号:1のアミノ酸31〜308)を含む。
【0022】
ポリペプチドに関連する用語「実質的に相同な」は、場合によっては整列された場合、少なくとも約80%相同または少なくとも約85%相同または少なくとも約90%相同または少なくとも約95%相同である2個のアミノ酸配列を指す。アミノ酸相同性パーセントを決定するための整列は、当業者には周知である種々の方法において、例えば、Vector NTI Suite 8.0のAlignXコンポーネントのためのデフォルトセッティング(default setting)(Informax,Frederick,MD)またはBLASTのように公に利用可能なコンピューターソフトウェアを使用することによって達成できる(Altschul et al.,J.Biol.Chem.215:403−410(1990))。配列番号:1に実質的に相同なポリペプチド配列は、少なくとも1個のアミノ酸置換、欠失または挿入を有する。
【0023】
本発明のポリペプチドにおいて、リンカー部分(Lk)は、ミメティボディに代替する方向および結合特性をもたせることによって構造的な柔軟性を提供する。代表的なリンカーは、非ペプチド化学結合またはペプチド結合によって連結された1〜20個のアミノ酸を含み、この場合、アミノ酸は20個の天然に存在するアミノ酸から選ばれる。リンカー部分は、グリシン、アラニンおよびセリンのように立体的に障害がない多数のアミノ酸を含み、そしてGS,ポリGS,GGGS(配列番号:32)、GGGSおよびGSGGGS(配列番号:33)の多量体またはそれらのいずれかの組み合わせ物を含む。本発明の範囲内の他の代表的なリンカーは、20残基以上長くてもよく、そしてグリシン、アラニンおよびセリン以外の残基を含んでもよい。
【0024】
本発明のポリペプチドにおいて、V2は、重鎖可変部のような免疫グロブリン可変部のC末端ドメインの一部分である。代表的なV2アミノ酸配列はGTLVTVSS(配列番号:16)である。
【0025】
本発明のポリペプチドにおいて、Hgは、重鎖可変部のような免疫グロブリン可変部のヒンジドメインの一部分である。代表的なHアミノ酸配列は、EPKSCDKTHTCPPCP(配列番号:17)、EPKSADKTHTCPPCP(配列番号:18)、ESKYGPPCPSCP(配列番号:19)、ESKYGPPCPPCP(配列番号:20)およびCPPCP(配列番号:21)を含む。
【0026】
本発明のポリペプチドにおいて、C2は免疫グロブリン重鎖C2定常部である。代表的なC2アミノ酸配列は、
【0027】
【化1】

を含む。
【0028】
本発明のポリペプチドにおいて、C3は免疫グロブリン重鎖C3定常部である。代表的なC3アミノ酸配列は、
【0029】
【化2】

を含む。本発明のポリペプチドのC3領域が、ある種の組み換え系において発現される場合には切除されるそのC末端アミノ酸を有してもよいことは、当業者によって認識できる。
【0030】
本発明のポリペプチドにおいて、免疫グロブリン分子のFcRnスカベンジャー受容体結合部位は、C2およびC3領域の結合において保存されている。FcRnの結合は飲作用で取り込まれた免疫グロブリンの細胞外空間への後戻りを可能にするので、sRAGEミメティボディの半減期がsRAGEに較べて有意に延長できることが期待される。
【0031】
本発明のポリペプチドは、場合によっては、それらのN末端において、式IIIにおいて示されるようにV1と命名される免疫グロブリン可変部のN末端の一部分を含有してもよい。代表的なV1アミノ酸配列はQIQまたはQVQを含む。
【0032】
(V1−Rg−Lk−V2−Hg−C2−C3)(t) (III)
本発明のポリペプチドの1つの実施態様では、単量体構造(Rg−Lk−V2−Hg−C2−C3)は、非共有結合的に、または共有結合、例えば限定されるものではないがCys−Cysジスルフィド結合によって、他の単量体に連結されてもよい。この構造は、sRAGEの安定な二量体化を可能にし、そしてRAGEリガンドに対するその親和力を増大できると考えられる。
【0033】
本発明のその他の実施態様は、RgがRAGEの全長細胞外ドメイン(配列番号:1)の単一コピーであり、V2が天然に存在するIgGのJ領域(配列番号:16)であり、Hgが、Cys220Ala(C220A)置換をもつ完全なIgG1ヒンジ部(配列番号:18)であり、そしてC2とC3が、Leu234AlaとLeu235Ala置換(L234A/L235A)をもつIgG1イソタイプサブクラス(配列番号:28
)である、式(II)にしたがうポリペプチドを含んでなるポリペプチドである。この実施態様の完全なポリペプチド配列は配列番号:3において示される。
【0034】
本発明のその他の実施態様は、RgがRAGE全長細胞外ドメインのVドメイン(配列番号:1の残基31〜106)の単一コピーであり、V2が天然に存在するIgGのJ領域(配列番号:16)であり、Hgが、C220A置換をもつ完全なIgG1ヒンジ部(配列番号:18)であり、そしてC2とC3が、L234A/L235A置換をもつIgG1イソタイプサブクラス(配列番号:28)である、式(II)にしたがうポリペプチドを含んでなるポリペプチドである。この実施態様の完全なポリペプチド配列は配列番号:5において示される。
【0035】
本発明のその他の実施態様は、RgがRAGE全長細胞外ドメイン(配列番号:1)の単一コピーであり、V2が天然に存在するIgGのJ領域(配列番号:16)であり、Hgが完全なIgG4ヒンジ部(配列番号:19)であり、そしてC2とC3がIgG4イソタイプサブクラス(配列番号:29)である、式(II)にしたがうポリペプチドを含んでなるポリペプチドである。この実施態様の完全なポリペプチド配列は配列番号:7において示される。
【0036】
IgG1とIgG4はヒンジ部におけるシステインの数で異なる。IgG1サブクラスのように、重鎖間のジスルフィド結合に関与するIgG4ヒンジには2個のシステインが存在する。しかしながら、軽鎖へのジスルフィド結合に普通に必要とされるIgG1ヒンジにおけるシステインはIgG4ヒンジでは不在である。したがって、IgG4ヒンジはIgG1ヒンジよりも柔軟性が低い。
【0037】
さらに、2種のイソタイプは、補体依存性細胞毒性(CDC)と抗体依存性細胞の細胞毒性(ADCC)を媒介するそれらの能力において異なる。CDCは補体の存在下の標的の溶解(lysing)である。補体活性化経路は、同族抗原と複合された分子に対する補体系の第1成分(C1q)の結合によって開始される。IgG1は補体カスケードと、それに続くCDC活性の強力な誘発物質であるが、一方、IgG4はほとんど補体誘導性活性を有しない。
【0038】
ADCCは細胞媒介反応であり、この反応ではFc受容体(FcR)を発現する非特異的な細胞毒性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球およびマクロファージ)は、標的細胞上の結合された抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を惹起する。IgG1サブクラスはFc受容体への高い親和力により結合し、そしてADCCに貢献するが、一方IgG4は弱くしか結合しない。エフェクター機能を活性化するIgG4の相対的無能力は、細胞を殺傷することなく細胞へのミメティボディの送達が可能であるので、望ましいことである。
【0039】
さらにまた、FcRnスカベンジャー受容体に対する結合部位はIgG4およびIgG1イソタイプに存在し、そして両者は類似する結合特性を有する。したがって、本発明のIgG1およびIgG4ミメティボディの薬動学は類似することが期待される。
【0040】
免疫グロブリン領域のヒンジ−C2−C3部分(Hg−C2−C3)は、また、本発明にしたがって変異体(variant)を作成するために広く改変することができる。例えば、ミメティボディ分子によって必要とされない構造的特徴または機能的活性を提供する1種以上のネイティブな部位は除去することができるであろう。これらの部位は、例えば、残基を置換または欠失するか、部位中へ残基を挿入するか、またはこの部位を含有する部分を切り取ることによって除去されてもよい。代表的なHg−C2−C3変異体が以下に検討される。
【0041】
1.ジスルフィド結合形成に必要とされる部位は、本発明のミメティボディにおいて欠失または他のアミノ酸による置換によって除去することができる。典型的には、これらのモチーフに存在するシステイン残基が除去または置換される。これらの部位の除去は、ミメティボディ産生宿主細胞に存在する他のシステイン含有タンパク質によるか、またはIgG4に基づく構築物中の重鎖内ジスルフィド結合によるジスルフィド結合を回避してもよいが、一方、非共有的に一緒になる二量体CH3−CH2−ヒンジドメインについてはなお可能である。
【0042】
ほとんどのIgG型抗体、例えばIgG1は、2個の同一の重い(H)鎖および2個の同一の軽い(L)鎖から作成されるホモ二量体であり、典型的にはHと略記される。かくして、これらの分子は抗原結合に関して一般に二価である、すなわち、IgG分子の両抗原結合(Fab)アームは同一な結合特異性を有する。
【0043】
IgG4イソタイプ重鎖は、いずれか重鎖間または重鎖内ジスルフィド結合を形成することができるそれらのヒンジ部中にCPSC(配列番号:15)モチーフを含有する、すなわち、CPSCモチーフ中の2個のCys残基は他のH鎖中の対応するCys残基とジスルフィド結合されてもよく(重鎖間)、または与えられたCPSCモチーフ内の2個のCys残基が互いにジスルフィド結合されてもよい(重鎖内)。インビボのイソメラーゼ酵素が、IgG4分子の重鎖間結合を重鎖内結合に変換することができ、その反対も可能である(Aalberse and Schuurman,Immunology 105,9−19(2002))。したがって、ヒンジ部中に重鎖内結合をもつそれらのIgG4分子におけるHLペアは、互いに共有的には結び付けられないので、それらはHL単量体に解離され、次いで他のIgG4分子に由来するHL単量体と再び結び付いて、二重特異性のヘテロ二量体IgG4分子を形成してもよい。二重特異性IgG抗体では、抗体分子の2個のFabは、それらが結合する抗原決定基において異なる。IgG4のヒンジ部におけるSer228をProにより置換することは、「IgG1様の挙動」をもたらす、すなわち、分子は重鎖間に安定なジスルフィド結合を形成し、その結果、他のIgG4分子とのHL交換を受けなくなる。
【0044】
2.H−C2−C3は、選択された宿主細胞と一層適合する本発明のミメティボディを作成するように改変されてもよい。例えば、本発明のミメティボディがE.coliのような細菌細胞において組み換え技術により発現される場合、ヒンジ中のPro−Ala配列は、E.coliの酵素プロリンイミノペプチダーゼによる消化を防ぐために除去されてもよい。
【0045】
3.ヒンジ部の一部分は、選択された宿主細胞中で発現される生産物における異質性を防ぐために、本発明のミメティボディにおいて欠失されるか、または他のアミノ酸と置換されてもよい。
【0046】
4.1個以上のグリコシル化部位は、本発明のミメティボディにおいて除去されてもよい。典型的にグリコシル化される残基(例えば、Asn)は、ミメティボディに対してFc−依存性、細胞媒介性細胞溶解活性を与えることができる。そのような残基は欠失されても、またAlaのようなグリコシル化されない残基により置換されてもよい。
【0047】
5.補体との相互作用に必要とされる部位、例えばC1q結合部位は、本発明のミメティボディにおいて除去される。
【0048】
6.本発明のミメティボディにおいてFcRnスカベンジャー受容体以外のFc受容体
に対する結合に影響する部位は除去されてもよい。例えば、ADCC活性に必要であるFc受容体は本発明のミメティボディにおいて除去されてもよい。例えば、IgG1のヒンジ部中のLeu234/Leu235のL234A/L235Aへの変異、またはIgG4のヒンジ部中のPhe234/Leu235のP234A/L235Aへの変異は、FcR結合を最小化し、そして補体依存性細胞毒性およびADCCを媒介する免疫グロブリンの能力を低下させる。
【0049】
本発明の1つの実施態様は、Hg−C2−C3が、IgG4サブクラス(配列番号:30)由来であり、そしてSer228Pro(S228P)置換およびP234A/L235A変異(配列番号:31)を含有する、式(II)にしたがうsRAGEミメティボディである。これらの変異とsRAGEの(V−C−C)、(V−C)および(V)ドメインとを有する代表的なsRAGEミメティボディポリペプチドの完全なポリペプチド配列は、それぞれ配列番号:9、11および13に示される。これらのミメティボディ構築物は、FcR媒介のエフェクター機能を惹起しない均質かつ安定な集団であることが期待される。ここに示される置換および変異は代表的なものであり;本発明の範囲内のHg−C2−C3ドメインは、他の置換、突然変異および/または欠失を含んでもよい。
【0050】
前記のように、本発明のミメティボディの特定の例のアミノ酸配列は、配列番号:3、5、7、9、11および13において示される。これらの構築物の特徴は表1に示される(n.a.=応用不能)。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明は、RAGEと少なくとも1種のそのリガンドとの間の相互作用を遮断または低下することができるsRAGEミメティボディを含む。本発明の実施態様は、AGE、アンホテリン、S100/カルグラヌリンまたはβ−アミロイドまたはそれらのいずれかの組み合わせ物に対して特異的に結合するsRAGEミメティボディを含む。本発明のミメティボディは広範な親和力によりRAGEリガンドを結合することができる。代表的なsRAGEミメティボディは、高い親和力により少なくとも1種のRAGEリガンドを結合する。例えば、sRAGEミメティボディは、約10−7M,10−8,10−9.10−10,10−11または10−12Mに等しいか、それ未満のKdによりAGE、アンホテリン、S100/カルグラヌリンまたはβ−アミロイドまたはそれらのいずれかの組み合わせ物の少なくとも1種を結合することができる。
【0053】
特異的なRAGEリガンドに対するsRAGEミメティボディの親和力は、いずれかの適当な方法、例えば、BiacoreまたはKinExA装置、ELIZAおよび競合結合アッセイを使用する方法を用いて実験的に決定することができる。特異的なリガンド結合能力を有するsRAGEミメティボディは、当業者には既知の技術によってsRAGE
変異体またはsRAGEフラグメントのライブラリーから選ばれてもよい。
【0054】
本発明のミメティボディは、少なくとも1種のリガンドの結合によって惹起されるRAGEの異常な受容体活性化の結果である疾患または症候の処置において有用である。前述のように、RAGEおよびそのリガンドの会合は、多くの病理学的症状、例えば限定されるものではないが、1および2型糖尿病およびアルツハイマー病に深く関わっている。
したがって、本発明のその他の態様は、少なくとも1種のsRAGEミメティボディおよび当業者には既知の製薬学的に許容できる担体または希釈剤を含んでなる製薬学的組成物である。担体または希釈剤は、溶液、懸濁液、乳濁液、コロイドまたは粉末であってもよい。
【0055】
本発明のsRAGEミメティボディは、治療学的または予防学的に有効な量において製薬学的組成物として調合される。用語「有効な量」は、一般に、有効な治療のために、すなわち、処置が捜し求められている症候または疾患の部分的または完全な緩和のために必要なミメティボディの量を指す。有効な治療の定義の中には、上記症候または疾患の開始の見込みを低下することを意図する予防的処置が含まれる。
【0056】
本組成物は、場合によっては、以下に議論される疾病症状を処置するために有用な少なくとも1種のさらなる化合物、タンパク質または組成物を含有してもよい。例えば、インシュリン、メトホルミン、スルホニル尿素またはPPAR−γアゴニストとの組み合わせ物が2型糖尿病の処置において考えられる。さらに、炎症疾患を処置するための抗炎症剤との組み合わせ物およびがんを処置するための化学療法剤との組み合わせ物もまた考えられる。
【0057】
核酸、ベクターおよび細胞系
本発明のその他の態様は、少なくとも1種のsRAGEミメティボディをコードしているポリヌクレオチドと相補的か、またはそれと有意な同一性を有する単離された核酸分子である。本発明の他の態様は、核酸分子をコードしている少なくとも1種の単離されたsRAGEミメティボディを含んでなる組み換えベクターならびにこの核酸分子を発現することができる細胞系および生物体を含む。核酸、発現ベクターおよび細胞系は、一般に、本発明のミメティボディを生産するために使用できる。
【0058】
1つの実施態様では、本発明の核酸組成物は、配列番号:3、5、7、9、11または13のいずれか1種に同一か、または実質的に相同なアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしている。配列番号:3、5、7、9、11および13に示されるポリペプチド配列をコードしている代表的な核酸配列は、それぞれ配列番号:4、6、8、10、12および14において示される。また、上記核酸の実質的に類似の核酸配列および対立遺伝子変異物が提供される。
【0059】
核酸の文脈における用語「実質的に類似の」は、適当に整列された場合、適当なヌクレオチドの挿入または欠失をもつセグメントまたはそれらの相補的鎖が、ヌクレオチドの少なくとも約60%または少なくとも約70%または少なくとも約80%または少なくとも約90%または少なくとも約95〜98%において同一であることを意味する。%同一性についての値は、Vector NTI Suite 8.0のAlignXコンポーネントのためのデフォルトセッティング(default setting)(Informax,Frederick,MD)を使用して、生成されたヌクレオチド配列の整列から得ることができる。
【0060】
典型的には、本発明の核酸は、本発明のsRAGEミメティボディポリペプチドの調製のための発現ベクターにおいて使用される。本発明の範囲内のベクターは、ウイルスプロ
モーター駆動のベクター、例えばCMVプロモーター駆動のベクター、例えば、pcDNA3.1、pCEP4およびそれらの誘導体、バクロウイルス発現ベクター、ショウジョウバエ発現ベクターおよび哺乳動物遺伝子プロモーター、例えばヒトIg遺伝子プロモーターによって駆動される発現ベクターを含む、真核生物発現のための必須要素を提供する。他の例は、原核生物発現ベクター、例えばT7プロモーター駆動のベクター、例えば、pET41、ラクトースプロモーター駆動のベクターおよびアラビノース遺伝子プロモーター駆動のベクターを含む。
【0061】
また、本発明はsRAGEミメティボディを発現する細胞系に関する。宿主細胞は原核または真核細胞であってもよい。代表的な真核細胞は、哺乳動物細胞、例えば限定されるものではないが、COS−1、COS−7、HEK293、BHK21、CHO、BSC−1、HepG2、653、SP2/0、NS0、293、HeLa、骨髄腫、リンパ腫細胞、またはいずれかそれらの誘導体である。もっとも好ましくは、宿主細胞はHEK293、NS0、SP2/0またはCHO細胞である。本発明の細胞系は、少なくとも1種のsRAGEミメティボディを安定して発現できる。細胞系は、当該技術分野において周知である安定または一過性トランスフェクション手法によって生成されてもよい。
【0062】
さらに、本発明は、sRAGEミメティボディが検出可能または回収可能な量において発現される条件下で細胞系を培養することを含んでなる、少なくとも1種のsRAGEミメティボディを発現する方法を提供する。また、本発明は、sRAGEミメティボディが検出可能または回収可能な量において発現されるような、インビトロまたはインサイチューの条件下で、sRAGEミメティボディコーディング核酸を翻訳することを含んでなる、少なくとも1種のsRAGEミメティボディを生成する方法を提供する。また、本発明は前記方法のよって生産されるsRAGEミメティボディを包含する。
【0063】
sRAGEミメティボディは、限定されるものではないが、プロテインA精製、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含む、周知の方法によって回収および精製することができる。
【0064】
使用の方法
sRAGEミメティボディは、なかんずく研究試薬および治療剤として有用である。1つの態様では、本発明は、少なくとも1種のsRAGEミメティボディを、それを必要とする哺乳動物に提供することを含んでなる、RAGEの生物学的活性を改変する方法に関する。sRAGEミメティボディは、RAGEで活性化される細胞シグナル伝達カスケード、例えば限定されるものではないが、NF−κb経路を減退または抑制することができる。かくして、本発明のsRAGEミメティボディは、RAGEで開始される核へのNF−κbの移動により、付着(adhesion)分子、プロコアギュラント(procoagulant)分子および炎症性タンパク質の増強された発現を減少させることができる。特に、sRAGEミメティボディは、RAGEのアンタゴニストとして機能することができる。用語「アンタゴニスト」は、広い意味において使用され、そしてRAGEの1種以上の生物学的活性を直接または間接的に、部分的または完全に、打ち消し、低下し、または抑制することができる分子を含む。RAGEのそのような生物学的活性の例は、AGE、アンホテリン、S100/カルグラヌリンまたは□−アミロイドへのその結合、NF−□b、p21(ras)、MAPキナーゼまたはcdc42/racの活性化、ならびに当業者には既知の他の活性を含む。
【0065】
さらに、本発明は、少なくとも1種のsRAGEミメティボディの製薬学的組成物の治
療学的に有効な量を、それを必要とする患者に投与することを含んでなる、少なくとも1種のRAGEに関係する症状または疾病の症候を軽減するか、またはその症状または疾病を処置するための方法を提供する。前記のように、そのような組成物は、少なくとも1種のsRAGEミメティボディの有効な量および製薬学的に許容できる担体または希釈剤を含有する。治療的でもまた予防的でも、与えられた療法のための有効な量は、一般に、投与の手段、標的部位および投与される他の薬剤を含む種々のファクターに依存するであろう。かくして、処置用量は、安全性と有効性を最適化するように滴定されることが必要であろう。
【0066】
本発明の方法を用いる処置のために適当な症状および疾病は、限定されるものではないが、免疫疾患、心血管障害、代謝疾患、悪性疾患および神経障害を含む。これらの症状または疾患の非限定例は、1および2型糖尿病、アルツハイマー病、動脈硬化症、腫瘍の増殖および転移、炎症、大腸炎、遅延型過敏症、多発性硬化症および老化に関係する障害、例えばオキシダントストレスである。これらの方法は、場合によってはさらに、上記疾病を処置するために使用されるいずれかの標準的療法との同時投与または組み合わせ療法を含んでもよい。
【0067】
投与の様式は、本発明のsRAGEミメティボディの製薬学的に有効な量を宿主に送達するためのいかなる適当な経路であってもよい。例えば、sRAGEミメティボディは、非経口的投与、例えば皮下、筋肉内、皮内、静脈内または鼻内投与、または当該技術分野において既知のいかなる他の手段を介して送達されてもよい。
【0068】
本発明は次に示す実施例を参考にさらに記述される。これらの実施例は、本発明の態様を具体的に説明するためにだけあり、本発明を限定することを意図していない。
【実施例1】
【0069】
哺乳動物細胞におけるsRAGEミメティボディのクローニング、発現および精製
ヒトsRAGEをコードしているcDNAは、ヒト胎児肺5’−STRETCH Plus cDNA Library(Clontech,Palo Alto,CA)からPCR増幅された。第1ラウンドの増幅は、正プライマー5’−GTCCCTGGAAGGAAGCAGG−3’(配列番号:34)および逆プライマー5’−TTTGGTACCCCTCAAGGCCCTCCAG−3’(配列番号;35)を用いて実施された。
【0070】
第2ラウンドのネステッド(nested)増幅は、十分量のsRAGEcDNAを得ることが必要であった。ネステッド正プライマーはNcoI制限酵素認識部位を含み、そしてネステッド逆プライマーはKpnI部位を含んだ。具体的には、V領域は、正プライマー5’−TTTCCATGGCAGCCGGAACAGCAG−3’(配列番号:36)および逆プライマー5’−TTTGGTACCTCCATTCCTGTTCATTGCCTGG−3’(配列番号:37)を用いて増幅され;そしてV−C−C領域は、正プライマー5’−TTTCCATGGCAGCCGGAACAGCAG−3’(配列番号:36)および逆プライマー5’−TTTGGTACCGTGGCTGGAATGGGTGGCC−3’(配列番号:38)を用いて増幅された。
【0071】
増幅されたPCR生産物(sRAGEのV領域またはV−C−C領域)は、標準クローニング手法を用いて中間ベクターのNcoI/KpnI部位中にクローン化された。プロモーター要素、エンハンサーおよびsRAGEコーディング配列を含有する集合された中間プラスミドのEcoRIフラグメントは、マウスIg遺伝子プロモーター駆動のヒトIgG1 △CH1 Ala/Ala発現ベクター中にクローン化された。sRAGEミメティボディを含有するV領域およびsRAGEミメティボディを含有するV−C−C領域
を発現するプラスミドが生成された。
【0072】
sRAGE IgG1ミメティボディは、マウス骨髄腫細胞SP2/0において安定して発現され、そして標準手法にしたがうプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて順化培地から精製された。
【0073】
sRAGEミメティボディはまた、IgG4 Ser〜Pro,Ala/Alaスカホールド中にクローン化された。V−CおよびV−C−CsRAGEミメティボディをコードしているフラグメントを増幅するために、V−C−C含有プラスミドが鋳型として使用された。正プライマーはNheI部位を含み、そして逆プライマーはBamHI部位を含んだ。具体的には、V−C領域は、正プライマー5’−TTTGCTAGCGCCACCATGGCAGCCGGAACAGCAGTT−3’(配列番号:39)および逆プライマー5’−TTTGGATCCGGGAAGGCCTGGGCTGAAGCTACA−3’(配列番号:40)を用いて増幅され;そしてV−C−C領域は、正プライマー5’−TTTGCTAGCGCCACCATGGCAGCCGGAACAGCAGTT−3’(配列番号:39)および逆プライマー5’−TTTGGATCCGTGGCTGGAATGGGTGGCCACACA−3’(配列番号:41)を用いて増幅された。PCR生産物はNheIおよびBamHIを用いて消化された。RAGEのV様ドメイン中の内部BamHI部位のために、PCR生産物はNheI/BamHIを用いて2個のフラグメント;配列番号:2のヌクレオチド1〜275をもつフラグメント、ヌクレオチド276〜645(V−C生産物)または276〜924(V−C−C生産物)をもつ他のフラグメントに切断された。IgG4発現ベクター中へのsRAGEミメティボディのクローニングは2段階を必要とした。先ず、1〜275フラグメントがヒトIgG4 △CH1、Ser〜Pro、Ala/Ala発現ベクターのNheI/BamHI部位中にクローン化されて中間プラスミドを生成した。276〜645または276〜924フラグメントは、続いて、中間プラスミドのBamHI中にクローン化されて、それぞれV−CまたはV−C−CsRAGEミメティボディを発現するプラスミドを生成した。
【0074】
IgG4 Ser〜Pro、Ala/Alaスカホールド中にVのみの領域をクローン化するためには、PCRは、正プライマー5’−TTTGCTAGCGCCACCATGGCAGCCGGAACAGCAGTT−3’(配列番号:39)および逆プライマー5’−TTTGGATCCTCCATTCCTGTTCATTGCCTGGCACCGGAAAATCCCCTCATCCTGAATCCCGACAGCCGGAAGGAA−3’(配列番号:42)を用いて実施された。NheI/BamHI消化PCR生産物は、ヒトIgG4 △CH1、Ser〜Pro、Ala/Ala発現ベクターのNheI/BamHI部位中に1段階でクローン化された。
【0075】
IgG4ミメティボディは、HEK293E細胞において一過性に発現され、そして標準手法にしたがってプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて順化培地から精製された。
【実施例2】
【0076】
sRAGEミメティボディに対するAGEの結合
AGEを調製するために、ウシ血清アルブミン(BSA,フラクションV)(Sigma,St.Louis,MO)が、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを含まないリン酸バッファー生理食塩水(PBS)(pH7.4)中50mMグリコアルデヒドとともに非還元条件下37℃で3日間インキュベートされた。反応を終了するために、AGEを10倍容量のPBS(pH7.4)で透析した。最終タンパク質濃度は、Bicinchoninic Acidに基づくタンパク質アッセイ(Piece,Rockford,IL)を用いて決定された。サンプルは、カブトガニのアメーバ様細胞溶解物(LAL)
試験を用いてタンパク質1mg当たり1未満のエンドトキシン単位(EU)を含有するように決定された。
【0077】
固相ELISAを使用してAGEへのミメティボディ結合を調査した。簡単に言えば、96穴プレートが、0.1M炭酸塩バッファー、pH9.5中、30μg/mlのAGEにより37℃で一夜コートされた。0.02%(w/v)Tween−20を含有する0.15M食塩水バッファーにおいて洗浄後、ウェルを、PBS中1%(w/v)BSA、0.05%Tween−20により37℃で2時間ブロックした。洗浄後、プレートはPBSにおいて希釈された種々の濃度のsRAGEミメティボディとともに37℃で45分間インキュベートされた。プレートを洗浄し、そして1%BSA/PBS中1:1000希釈したHRP−標識ヤギ抗ヒトFc(Jackson ImmunoReseach,West Groove,PA)を用いて37℃で20分間プローブした。さらなる洗浄後、プレートを、Sigma 104 Phosphate Substrate(Sigma)の100μl/ウェルとともに室温で15分間インキュベートした。基質発色を硫酸(4N)25μl/ウェルの添加によって停止し、そして吸光度を自動プレート分光光度計により490nmにおいて測定した。図1において示されるように、試験されたミメティボディは全てAGEに対する結合を例証した。結合親和力(KD)を表2に示す。
【0078】
【表2】

【実施例3】
【0079】
sRAGEミメティボディはRAGEに対するAGEの結合を低下させる
RAGEに対するAGEの結合を測定するために、125−I結合アッセイが実施された。RAGEを発現する細胞(U937細胞)が、10%FBSおよび1%L−グルタミン、ピルビン酸Naおよび非必須アミノ酸を含有するDMEM培地中で37℃、5%COにおいて、1.5x10の集密が達成されるまで培養された。細胞は、150,000細胞/ウェルにおいて96穴フィルタープレートにプレートされ、そして30μg/mlのFc対照(sRAGEコーディング配列を含まないIgG4ミメティボディ骨格)とともに37℃で30分間インキュベートされてFc受容体をブロックした。AGEは125−Iで標識され、そして125−I−AGEが200μg/mlから0.1μg/mlまで2倍希釈で細胞に添加された。最大結合を可能とするために室温で2時間インキュベートした後、プレートを濾過し、そしてPBSで洗浄して、未結合タンパク質を通過させながら細胞をニトロセルロース膜上に保持した。膜上の放射能をガンマカウンターを用いて測定した。非特異的結合は、無標識AGEの100+−倍過剰量とともに同時インキュベートすることによって測定された。非特異的結合から得られるカウントを総結合データから差し引きして、特異的結合を決定した。U937細胞に対するAGE結合の親和力(KD)は11μg/mlであると算出された。
【0080】
U937細胞に対するAGE結合を低下させるsRAGE MMBの能力は競合アッセイによって決定された。簡単に言えば、125−I−AGE(11μg/ml)をsRAGEミメティボディとともに2時間インキュベートした。使用されたミメティボディは2
00μg/mlから0.1μg/mlまで2倍希釈された。125−I−AGEとsRAGEミメティボディの混合物をU937に添加し、そしてU937に対するAGEの結合を前記結合アッセイを用いて測定した。図2に示すように、試験されたミメティボディは、U937細胞に対するAGE結合の低下を例証した。試験されたミメティボディのIC50は約90nMにおいて算出された。
【実施例4】
【0081】
sRAGEミメティボディはAGE誘導の遺伝子発現を低下する
ある種の遺伝子の発現のAGE刺激を示すために、ヒト臍内皮細胞(HUVEC)を30μg/mlAGE,600μg/mlAGEとともに1、4、8または12時間インキュベートした。ポジティブ対照として、細胞を13μg/mlリポ多糖(LPS)、炎症促進剤とともにインキュベートした。ネガティブ対照としては、細胞を600μg/mlBSAとともにインキュベートした。細胞を収穫し、そして総RNAをRNeasy(Qiagen,Valencia,CA)を用いて単離した。RNAはAgilent Bioanalyzerにより定量された。定量的PCRはAssay−on−Demandプライマー(Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いて、E−Selectin(HS00174057)、RAGE(HS00153957)、VEGF(HS00173626)、IL−6(HS00174131)、GAPDH(HS99999905)およびTissue Factor(HS00175225)について実施された、RT−PCR産物は18sRNAに比較して定量された。図3に示すように、AGEは試験された各々の遺伝子のmRNAレベルを増大したが、対照BSAは増大しなかった。
【0082】
AGEに刺激されるmRNAレベルを抑制するsRAGEミメティボディの能力を例証するために、HUVEC細胞が、600μg/mlAGEに加えて3.3μg/mlsRAGEミメティボディまたは600μg/mlAGEに加えて13.2μg/mlsRAGEミメティボディとともにインキュベートされた。RNA精製および定量的PCRは前記のように実施された。図3に示すように、sRAGEミメティボディは、(3A)Tissue Factor、(3B)VEGF、(3C)E−Selectin、(3D)RAGEおよび(3E)IL−6をコードしている転写物のAGE−誘導を抑制した。
【0083】
ここに完全に記述されている本発明は、それについて多数の変更および修飾が、付随される請求項の精神または範囲を逸脱することなくなされることは当業者にとって明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1A−1E】図1〜1Eは、AGEに対するsRAGEミメティボディの結合を示す。試験されたミメティボディは、1A:C220AおよびL234A/L235A変異をもつIgG1におけるV(V−G1)(配列番号:5);1B:C220AおよびL234A/L235A変異をもつIgG1におけるV−C−C(VCC−G1)(配列番号:3);1C:S228PおよびP234A,L235A変異をもつIgG4におけるV(V−G4)(配列番号:13);1D:S228PおよびP234A/L235A変異をもつIgG4におけるV−C(VC−G4)(配列番号:11);および1E:S228PおよびP234A/L235A変異をもつIgG4におけるV−C−C(VCC−G4)(配列番号:9)を含む。
【図2】図2は、sRAGEミメティボディによるU937細胞に対するAGE結合の低下を示す。
【図3A−3E】図3A〜3Eは、組織因子(図3A);VEGP(図3B);E−セレクチン(selectin)(図3C);RAGE(図3D);およびIL−6(図3E)に対するAGE誘導mRNA発現のsRAGEミメティボディ抑制を示す。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
(Rg−Lk−V2−Hg−C2−C3)(t) (II)
[式中、Rgは哺乳動物sRAGE配列であり、Lkはポリペプチドまたは化学結合であり、V2は免疫グロブリン可変部のC末端の一部分であり、Hgは免疫グロブリン可変ヒンジ部の少なくとも一部分であり、C2は免疫グロブリン重鎖C2定常部であり、そしてC3は免疫グロブリン重鎖C3定常部であり、そしてtは独立して整数1〜10である]
で表されるポリペプチド。
【請求項2】
Rgが、配列番号:1の生物学的に活性なフラグメントまたは配列番号:1に実質的に相同なポリペプチドである、請求項1のポリペプチド。
【請求項3】
Rgが、配列番号:1の残基31〜106、31〜215または31〜308において示されるアミノ酸配列を有する、請求項1のポリペプチド。
【請求項4】
Hg、C2およびC3がIgG1サブクラスのものである、請求項1のポリペプチド。
【請求項5】
HgのCys220がAlaにより置換され、そしてC2−C3のLeu234およびLeu235がAla234およびAla235に変異されている、請求項4のポリペプチド。
【請求項6】
HgがIgG4サブクラスのものであり、そしてC2およびC3がIgG1サブクラスのものである、請求項1のポリペプチド。
【請求項7】
Hg、C2およびC3がIgG4サブクラスのものである、請求項1のsRAGEミメティボディポリペプチド。
【請求項8】
HgのSer228がProにより置換され、そしてC2−C3のPhe234およびLeu235がAla234およびAla235に変異されている、請求項1のポリペプチド。
【請求項9】
ポリペプチドが少なくとも1種のRAGEリガンドに結合する、請求項1のポリペプチド。
【請求項10】
リガンドが、進行したグリコシル化最終産物(AGE)、アンホテリン、S100/カルグラヌリンおよびβ−アミロイドの少なくとも1種である、請求項9のポリペプチド。
【請求項11】
配列番号:3、5、7、9、11または13において示される配列を有するポリペプチドを含んでなるポリペプチド。
【請求項12】
請求項1によるポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド。
【請求項13】
配列番号:4、6、8、10、12または14において示される配列、または相補的配列を有するポリヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチド。
【請求項14】
配列番号:3、5、7、9、11または13において示されるアミノ酸配列をコードしているポリヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項13または14のポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
【請求項16】
請求項1によるポリペプチドを発現する細胞系。
【請求項17】
請求項15のベクターを含有する細胞系。
【請求項18】
細胞系がHEK293、NS0、SP2/0またはCHO細胞である、請求項17の細胞系。
【請求項19】
請求項1による少なくとも1種のポリペプチドの有効な量および製薬学的に許容できる担体または希釈剤を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項20】
請求項19の製薬学的組成物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物におけるRAGEの生物学的活性を改変する方法。
【請求項21】
請求項19の製薬学的組成物を、それを必要とする患者に投与することを含んでなる、少なくとも1種のRAGEに関係する症状または疾患の症候を軽減するか、または症状または疾患を処置する方法。
【請求項22】
RAGEに関係する症状および疾患が、免疫疾患、心血管障害、代謝疾患、悪性疾患または神経障害である、請求項21の方法。
【請求項23】
RAGEに関係する症状または疾患が、糖尿病、アルツハイマー病、動脈硬化症、腫瘍の増殖および転移、大腸炎、遅延型過敏症、多発性硬化症またはオキシダントストレスである、請求項21の方法。
【請求項24】
請求項16の細胞系を培養し、そして発現されたポリペプチドを精製する段階を含んでなる、ポリペプチドを生産する方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【公表番号】特表2008−537874(P2008−537874A)
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533727(P2007−533727)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/034502
【国際公開番号】WO2006/036922
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(503054122)セントカー・インコーポレーテツド (74)
【Fターム(参考)】