説明

siRNA発現システム

本発明者は、siRNAの哺乳類細胞における正確で、安定で且つ効率的な発現のための発現システムであり、a) U1 RNA遺伝子に由来するポリメラーゼII RNA依存性プロモーター配列;この配列から下流に、b) pre-siRNAを転写する配列をクローニングするための適切な制限部位;これらの部位から下流に、c) pre-siRNAの3’の正確な形成に必要且つ十分な、U1 snRNA遺伝子の3’の配列に由来する配列を含む発現システムを記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、U1 snRNA遺伝子の調節領域に基づくリコンビナントsiRNAベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉は、進化の過程で高度に保存された、配列特異的な転写後の遺伝子サイレンシングの工程である。配列特異的メッセンジャーRNA分解のメディエーターは、より長いdsRNAからリボヌクレアーゼIIIによる切断によって生じる21-23ヌクレオチドのsmall interfering RNA (siRNA)である。このような工程は、最初はC. elegans (Fire et al. 1998)によって報告され、その後に、昆虫、植物および真菌類で報告され、最近は、短い二重鎖RNAの使用によって哺乳類細胞においても報告されている (21-23 base pairs; Elbashir et al., 2001)。このような分子は非常に有効であるので、siRNA二本鎖は、ヒトおよびヒト以外の細胞における標的遺伝子の不活性化に有用であり、ウィルスまたは遺伝的疾患に対する治療薬の開発を導くことができるであろう。
【特許文献1】WO03/0006477
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近、幾つかのグループが、オリゴヌクレオチドのトランスフェクションを介して、哺乳類細胞にsiRNAを導入することを企図したシステムが報告されている (Elbashir et al., 2001; McManus and Sharp, 2002)。人工的なsiRNAの使用は、定期的な投与が必要であるという重要な欠点を有するので、長期的な効果を得ることができるためのsiRNAをコードするプラスミドを産生することは、明らかに必要である。
【0004】
今までのところ、全てのsiRNAベクターは、pol III依存性プロモーターを利用している。例えば、U6 snRNA (Lee et al., 2002; Paul et al., 2002)またはH1-RNA (Brummelkamp et al., 2002)遺伝子、そして、より最近ではtRNA発現カセット (Kawasaki and Taira, 2003)、WO03/0006477。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、U1 snRNA遺伝子のpol II依存性調節領域に基づく新規のプラスミドベクターを開発した。U1プロモーターは、全ての細胞タイプで活性であり、高いレベルの転写産物の蓄積を誘導することができる。加えて、U1 snRNAの正確な3’末端の形成を担う3’エレメントの存在により、効率よく正確な転写産物の3’末端形成を誘導することができる。
【0006】
本発明のコンストラクトは、以下の利点を有する:
i) 5’および3’末端の形成に必要な配列を有さない、または非常に少ない配列しか有さない、
ii) pre-siRNAは、細胞質に迅速に運ばれ、そこで、効率的に成熟形態に変換される、
iii) ds-オリゴヌクレオチドの使用によって迅速にクローニングすることができるので、異常な生成物を非常に頻度高く産生することとなるPCR増幅工程を避けることができる、
iv) U1 snRNA遺伝子は、安定的な細胞クローンでサイレンシングを起こさない強力なpol IIプロモーターを有している。
更にその上、本発明者は、干渉応答メディエーターとして、1つの一本鎖siRNAのセレクションを可能とする特異的なエレメントを同定した。
【0007】
ラミンA/C mRNAに対するヘアピン配列を、これらの調節領域の間に挿入し、in vivoで
正確なサイズの二重鎖siRNAの効率的な蓄積をもたらした。siRNA発現プラスミドでトランスフェクトしたHeLa細胞から抽出したタンパク質のウェスタンブロット分析によって、本発明の対象であるこれらのベクターがラミンA/Cタンパク質の発現を非常に効率的に抑制することが示された。二本鎖siRNAの一方の不均衡な遊離を決定する配列も同定した。
【0008】
それゆえ、本発明の対象は、哺乳類細胞において、siRNAまたはmiRNAの正確、安定且つ効率的な発現のためのリコンビナントベクターであり、このベクターは、5’から3’の方向に;
a) U1 snRNA遺伝子に由来するポリメラーゼII RNA依存性プロモーター配列;
b) pre-siRNAまたはpre-miRNAを転写する配列をクローニングするための適切な制限部位;
c) +1位でのAまたはG残基;サイレンシングさせる遺伝子によって転写されるmRNAのセンス領域に対応する21から23ヌクレオチドの配列であって、pre-siRNAのステムの第一の断片を構成する配列;pre-siRNAのループ領域からなるpre-miRNA配列から選択される配列;サイレンシングさせる遺伝子によって転写されるmRNAのアンチセンス領域に対応する21から23ヌクレオチドの配列であって、pre-siRNAのステムの第二の断片を構成する配列;以下の構造:
【0009】
【化1】

【0010】
が得られるように突出させた2つの最後の残基UU;
を含むpre-siRNAを転写する配列、または、その代わりとしてのpre-miRNAを転写する配列、
d) pre-siRNAまたはpre-miRNAそれぞれの3’末端の正確な形成に必要且つ十分な、U1 snRNA遺伝子の3’末端配列に由来する終結配列;
を含む。
【0011】
好ましくは、pre-siRNAを転写する配列の5’のクローニング部位はBglIIである。
【0012】
好ましくは、pre-siRNAを転写する配列は、更に、5’および3’末端に、転写pre-siRNAが以下の構造を有する配列を含む。
【0013】
【化2】

【0014】
より好ましくは、pre-siRNAを転写する配列は、更に、5’および3’末端に、転写pre-siRNAが以下の構造を有する配列を含む。
【0015】
【化3】

【0016】
本発明のベクターは、pol IIIに基づくベクターよりも低いレベルのsiRNAしか産生しないが、有利に利用される。実際のところ、このレベルは、高い転写レベルによって引き起こされる非特異的な標的を原因とする副作用をもたらさないRNA干渉応答をもたらすのに十分である。このようなより低いsiRNAのレベルで同じ応答を得る場合は、治療的応用はより安全である。
【0017】
U1 snRNA遺伝子プロモーターは、転写エンハンサーとして働くDistal Sequence Element (DSE)および転写開始部位に位置するProximal Sequence Element (PSE)からなる。PSEと+1ヌクレオチドの距離は、厳密に保存されているが、その一次配列は保存されていない。このプロモーター機構は、有利には、誘導性プロモーターへと変更および改変できる。
【0018】
最近1、2年で、ヒト遺伝子の1%もが、植物および動物種で遺伝子発現の調節に重要な役割を担う20-25ヌクレオチド長の非コードmicroRNA (miRNA)の群をコードすると推定されている (Bartel, 2004)。その構造および生合成は、より長い前駆体として転写されているが、siRNAの構造および生合成とほとんど同じである。本発明のベクターは、有利には、microRNAの産生での使用にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(ヒト遺伝子治療に応用するsiRNA発現システム)
siRNAのin vivo発現のためのベクターの使用は、選択した病気モデルに対するRNAi応答をもたらす治療ツールとして、非常に有力なアプリケーションであることが判明している。
【0020】
RNAi方法は、遺伝子発現をノックダウンし、
1) 有害遺伝子の発現をダウンレギュレーションすること、
2) 細胞防御を再活性化すること、そして、
3) ウィルス遺伝子発現を阻害すること
に使用することができる。このことによって、ガンおよび他の遺伝的機能障害だけでなく重篤な感染症を含む多くの急性および持続性疾患に対する治療をもたらすことができる。
【0021】
選択した標的RNAに対して産生するコンストラクトの有効性は、
1) トランスフェクト細胞または構築した株化細胞で分析することができる。
2) 患者から構築した初代培養細胞および/または特定の遺伝子疾患のモデル動物において分析することができる。
【0022】
モデル動物は、ヒトでの臨床試験を開始する前における、最適な特異性、効力、安定性および伝達性に関するsiRNAベクターの妥当性確認に貢献する。
【0023】
本発明を、以下に示す図を参照に、記載する実施例を用いて以下に示す。
【実施例】
【0024】
(材料と方法)
(psiUxベクターの構築)
U1 snRNA遺伝子に基づくベクターは、その完全なヒト遺伝子を含むプラスミドpHU1-IDに由来した (De Angelis et al., 2002);このプラスミドは、SP6プロモーターの反対方向に、pSP65ベクター(Promega)のBamHI部位に挿入されたヒトU1 snRNA遺伝子の転写単位を含む600bpのBamH1断片を有する。プラスミドpsiUxは、BglIIおよびNheIを用いた二本鎖切断、ならびに、5’-BglII、kpnI、XhoI、NheI、BamHIおよびNheI-3’部位を含むポリリンカーの存在下で再ライゲーションすることによって、後者に由来した。BglII部位は、U1 snRNA遺伝子内の転写開始部位から-6位に位置するが、NheI部位は、ベクター中でSP6プロモーターから300ヌクレオチド上流に位置する。リンカーは、以下の2つのヌクレオチドをアニーリングすることによって調製した。
【0025】
【化4】

【0026】
(ラミンA/Cタンパク質のsiRNAを発現するpsi-U誘導体の構築)
ラミンA/C上の選択した標的配列は、Sui et al. (2002)に由来し、NCBIデーターベースのX03444のヌクレオチド1602-1622をカバーする。以下のオリゴをアニールさせ、psiUxのBglIIおよびXhoI部位に挿入し、プラスミドpsiUa-lamを調製した。
【0027】
【化5】

【0028】
プラスミドpsiUb-lamおよびpsiUc-lamは、psiUxのBglIIおよびXhoI部位に、以下のオリゴをクローニングすることによって得た。
【0029】
【化6】

【0030】
プラスミドpsiUcmut-lamは、以下のオリゴをクローニングすることによって得た。
【0031】
【化7】

【0032】
(細胞培養およびトランスフェクション)
サブコンフルエント状態のHeLa細胞を、Lipofectamine 2000 (Life Technologies, Gibco BRL)を使用することによって、製造元の指示に従って60mmプレート内でトランスフェクトした。6μgのpsiUxプラスミド誘導体を、トランスフェクションの内部コントロールとしての2μgのプラスミドU7-3’ (DeAngelis et al., 2002)と一緒にトランスフェクトした。
【0033】
(Xenopus laevisの卵母細胞のマイクロインジェクション)
9.2nlのプラスミドDNA(300ng/μl)を、Caffarelli et al. (1987)に従って、ステージIVのXenopus laevisの卵母細胞の核にインジェクトした。12時間19℃でインキュベーションしてから、核および細胞質を手で解剖し、RNAを記載したように抽出した (Caffarelli et al., 1987)。
【0034】
(ノーザンブロッティング)
一過的にトランスフェクトしたHeLa細胞に由来する総RNAを、Ultraspec RNA isolation system (Biotech Laboratories, Houston)を用いて、製造元の指示に従って単離した。siRNAを検出するために、15μgの総RNAを10%ポリアクリルアミド-8M尿素ゲルで電気泳動し、Hybond-N+メンブレン (Amersham Pharmacia Biotech.)上にエレクトロブロッティングすることによって転写した。ハイブリダイゼーションは、37℃で、5×SSPE、5×Denhardt’s solution、0.5%SDS、25μg/mlサケ精子DNA (Invitrogen)中で行った。洗浄は、37℃で、6×SSPEおよび2×SSPEおよび0.2×SSPE中で行った。プローブは、末端を32Pで放射線標識した以下のDNAオリゴを使用した。
【0035】
【化8】

【0036】
U7-3’転写産物は、プローブU7a (DeAngelis et al., 2002)で検出した。
【0037】
(イムノブロッティング)
タンパク質抽出物(20μg)を、10%ポリアクリルアミド-SDSゲルで分離し、ニトロセルロース (ProTran, Schleicher and Schuell)に転写した。メンブレンを、3%のスキムミルクを溶かしたTBSでブロッキングした。TBS/3%スキムミルクで1:200に希釈したマウスモノクローナル抗-ラミンA/C抗体 (sc-7292, Santa Cruz Biotechnology)を、一次抗体として使用した。免疫染色は、ECL Western blotting detection system (Amersham UK)を用いて行った。
【0038】
(結果)
本システムは、ヒトU1 snRNA遺伝子、ならびに、そのプロモーターおよびターミネーター領域の特徴を利用する (Hernandez, 1985, Hernandez and Weiner, 1986)。U1プロモーターは、RNAポリメラーゼIIによる転写を調節し、一様に活性であり、高レベルの発現を確実なものとする。一次転写産物は、モノメチル化キャップを有し、そのRNAは効率的に細胞質に輸送される。Dicer酵素は細胞質に局在することが示されているので、このことはpre-siRNAの効率的なプロセシングに極めて重要である (Billy et al., 2001)。加えて、U1 snRNAの正確な3’末端形成は、特異的なU1プロモーター配列と関連してのみ機能するU1 snRNAコード領域から10ヌクレオチド下流に位置するbox element (GTTTCAAAAGTAGAC-3’ box)によって導かれる (Hernandez and Weiner 1986; de Vegvar et al., 1986)。類似の配列が、U2 snRNAの正確な3’末端形成をも導くことが見出されている (Hernandez, 1985)。この点において、これらのsnRNAは、mRNA合成とは異なる特定の転写機構によって転写されることが示唆されている。Medlin et al. (2003)による最近の研究により、pol IIのCTDが欠失している場合には終結が適切に起こらないことが見出された。これは、転写の非常に早期の段階で、3’末端形成に必要な因子が必要であることを示している。
【0039】
開始点から-400位のBamHI部位から-6位のBglII部位に広がるU1 snRNA遺伝子プロモーターを含む領域は、合成ポリリンカーの使用を介して、pSP65プラスミドのBamHI/NheI部位へクローニングされた(図1)。得られたコンストラクト (psiUx)は、非常に強力なプロモーターであるが、転写開始部位およびターミネーターが欠失している。我々のデザインに従えば、これらの配列は、siRNA標的配列とともに挿入した合成二重鎖断片によって供給されるべきである。開始配列は、5’-GATCTC’A-3’であり、最後の残基はU1 snRNAの+1ヌクレオチドに対応する(Gもこの位置に可能である)。ターミネーターエレメントは:
【0040】
【化9】

【0041】
であり、下線を引いた配列は、転写産物の3’末端から10ヌクレオチド下流に位置する、いわゆる3’ boxである。CCCCTG配列は、効率的で部位特異的な3’末端形成に貢献することが示されているU1 snRNAの最後の6つの転写ヌクレオチドに対応する (Hernandez, 1985)。siRNA前駆体配列のpsiUxへのクローニングは、プラスミドの選択部位に適合した末端を有する増幅断片またはアニールした合成オリゴヌクレオチドを挿入することによって、非常に容易に行うことができる。開始部位を再構築するのに必要であることから、5’BglII末端が必須であるのに対して、ポリリンカーに含まれる任意の部位(KpnI、XhoI、NheIおよびBamHI)は、3’末端に利用することができる(図1)。
【0042】
我々のベクターの効率を試験するための標的配列として、siRNAに対して弱いことが実証されている (Sui et al. 2002)ラミンA/C mRNAの部位を選択した。効率的なsiRNA発現に最も適切なものを同定するために、ヘアピン(ラミンA/C mRNAに由来する21ヌクレオチドのセンスおよびアンチセンス配列)を、異なるコンテクストにクローニングした(psiU-lamコンストラクト)。得られたコンストラクトは、挿入したループ配列のタイプだけでなく、転写領域の5’および3’末端も異なる。異なる挿入断片の配列は図2Aを示し、一次転写産物の構造を図2Bに示す。psiUa-lam、psiUb-lamおよびpsiUc-lamで利用したループは、micro pre-RNAから推定されるものであるが (Zeng et al., 2002 and Castanotto et al., 2002)、psiUd-lamに存在するループは、酵母Rnt1pエンドヌクレアーゼ、RNaseIII様酵素の基準基質から推定される (Chanfreau et al., 1998)。加えて、コンストラクトpsiUa-lamおよびpsiUb-lamは、U1転写産物の5’および3’末端の保存されたヌクレオチドに対応する3ヌクレオチドのステムを含む末端領域を含む。Dicerがこの領域を切断するのを防ぐために、二つのミスマッチの塩基を挿入した。これらの伸張は、psiUc-lamおよびpsiUd-lamには存在しない。これらのコンストラクトにおいて、ラミン標的配列とマッチさせるために、転写産物の5’はGを含み、保存された3’領域は、CCCCTGからCCCTTへと変換した。
【0043】
コントロールコンストラクトは、psiUc-lamに由来するラミンmRNAペア領域の中央部分に2つのヌクレオチドのミスマッチを有する (psiUcmut-lam)。このコンストラクトによって産生するsiRNAは、干渉応答をもたらすことはできないはずである。
【0044】
これらのベクターシステムの活性と、他の以前に利用されていたベクターの活性を比較するために、U6ベクター(プラスミドU6-lam)中の抗-ラミンA/Cヘアピン配列を、Sui et al. (2002)によって記載されているように、クローニングした。異なるコンストラクトを、HeLa細胞へのトランスフェクションによって、発現および活性を試験した。内部コントロールとして、修飾したU7 snRNA遺伝子を同時にトランスフェクトした (DeAngelis et al., 2002)。48時間で、RNAを抽出し、ノーザンブロットによって分析した。
【0045】
図3AのパネルAおよびA’は、センス アンチセンス鎖についての特異的プローブ(プローブa)を用いたハイブリダイゼーションを示す。全てのU1由来コンストラクトが、21から23ヌクレオチドの範囲のアンチセンス鎖を蓄積した。これらのRNAは、in vivoで長時間にわたって蓄積するので、安定な複合体で存在していると論ずることができる。類似の知見は、他の場合には、干渉可能複合体と関連した診断薬として解釈された。21-23ヌクレオチドの範囲の同じタイプの分子は、U6由来コンストラクトの場合は、長期にわたって蓄積した(レーンU6)。同時にトランスフェクトしたU7 snRNAのハイブリダイゼーションシグナルで標準化した後に(パネルA’’)、U6由来siRNAとU1由来siRNAのレベルの間を比較することにより、psiU-lamコンストラクトの転写レベルが、U6-lamよりもわずかに低いことが示された。それにもかかわらず、図3Cに示すように、同じレベルのRNA干渉応答を媒介した。psiUcmut-lamに由来するsiRNAは、変異に完全に相補するamutプローブでのみバンドが見えた(図3AのパネルA’)。
【0046】
アンチセンスプローブ(プローブα、図3B)を用いて行ったハイブリダイゼーションによって、興味深い特性が明らかになった:ゲルを長期間曝した場合でも、psiUa-lamおよびpsiUb-lamコンストラクトは、センス鎖(図2Bの上側の鎖)が蓄積しなかった。対照的に、他の全てのコンストラクトは、そのレベルがアンチセンス鎖よりも低いものであっても、センス鎖の産生が示された(図3AのパネルAおよび図3BのパネルBの成熟RNAのハイブリダイゼーションシグナルと比較した前駆体RNA)。これらの結果は、psiUa-lamおよびpsiUb-lamコンストラクトの、間のループではなく末端領域(図2B)が、干渉複合体に参加する鎖に不均衡なセレクションをもたらす要素であることを示唆する。psiUおよび独立して産生される他のコンストラクトの発現分析(図3A)によって、U1 snRNAの3’末端の保存されたヌクレオチドの大部分を取り除いても、効率の良い終結およびプロセシングを得ることができることが示された。それゆえ、psiUxベクターへのクローニングは、+1位にAまたはGが存在することを除き、如何なる配列の制約も受けない。
【0047】
polIIIおよびpolII siRNAベクターの間の興味深い差異は、U1によってもたらされた転写産物の場合においては、少ない量の前駆体(pre-siRNAで表される)しか検出することができなかったことである。対照的に、U6ベクターの場合は、この前駆体が非常に豊富であった(図3A)。
【0048】
この差異の可能性のある説明としては、U6によってもたらされた転写産物は効率的には細胞質に輸送されないということがある。この仮説を証明するために、U6-lam、psiUa-lamおよびpsiUb-lamプラスミドを、X. laevisの卵母細胞の核へとマイクロインジェクトし、12時間インキュベーションしてから、RNAを核および細胞質区画から抽出した。図4は、U6によってもたらされた転写産物の大部分が核に留まるのに対して、U1によってもたらされた転写産物の痕跡は、核には全く見られなかったことを示す。両方の場合において、前駆体分子の予測されるサイズを有するRNA転写産物(pre-siRNA)のみが、切断がループ領域内部の任意の場所で生じた場合に予測されるサイズを有するより短いRNAとともに、見出された。Xenopus系においては、極僅かな量の21-23ヌクレオチド長のRNAのみが、長時間曝した後で可視化された。このことは、Dicer様活性が、存在するならば、非常に少ない量であることを示している。これらのデータによって、U1プロモーターによって産生されたpre-siRNAは、効率的に細胞質へと輸送されることを示している。
【0049】
siRNA産生について分析した同じ細胞を、RNAi活性についても試験した。U1およびU6由来のコンストラクトで一過的にトランスフェクトした細胞からの20μgの総タンパク質抽出物を、抗ラミンA/C抗体を用いたウェスタンブロットによって分析した。図3Bに示すように、全てのsiRNAベクターは、トランスフェクション効率が80-85%のオーダーであると考えた場合(示さず)、良好なレベルの干渉をもたらした。ラミン減少のレベルは、全てのU1コンストラクトの間で類似しており、U6に由来する発現カセットのレベルと似ていた。
【0050】
干渉応答の特異性について、21ヌクレオチド長のペア領域の中央部分での2つのミスマッチを含むコンストラクト(psiUcmut-lam)を、HeLa細胞へとトランスフェクトすることによって試験した。このコンストラクトからのsiRNAの蓄積レベルは、元のコンストラクトから得られるレベルと似ていたが(図3AのパネルA’)、ラミン蓄積のレベルによって示されるように、コントロール(レーンNT)と同じように干渉をもたらさなかった(図3C、レーンmut)。
【0051】
結果として、これらのデータによって、他のsiRNAベクターと比較して、U1に基づくベクターは、以下の複数の興味深い特性を有することが示された:
i) U1に基づくベクターは、転写産物の5’および3’末端に必要な配列が非常に少ない、
ii) U1に基づくベクターは、polIIIベクターの場合と異なり、転写領域にU配列を有することが可能である、
iii) クローニングが大変容易であり、異なるクローニング部位の間でのセレクションが可能である、
iv) 一次転写産物が、効率的に細胞質へと輸送され、成熟形態へと転換される。
加えて、特異的な配列を、5’および3’末端に挿入し、これにより干渉複合体へ導入される一本鎖siRNAのセレクションが可能となる。このことは、望まない標的化をもたらし得るセンス鎖の蓄積を除外する点で、siRNAベクターにとって重要な特性である。
【0052】
(誘導性のU1に基づく発現ベクター)
U1 snRNA遺伝子プロモーターは、転写のエンハンサーとして機能するDistal Sequence Element (DSE)と、転写開始部位に位置するProximal Sequence Element (PSE)からなる。PSEと+1ヌクレオチドの距離は、厳密に保存されているが、その一次配列は保存されていない。このプロモーター機構は、有利には、誘導性プロモーターへと変更および改変できる。
【0053】
Cre-loxP方法によって1つの例が示されている (Hoess, R.H., A. Wierzbicki, and K. Abremski, 1986; Sauer, B. and N. Henderson, 1988)。バクテオリオファージP1の2つのloxP部位が隣接した、より長いstuffer DNA(選択マーカーの情報、すなわち、プロマイシン、ネオマイシンまたはその他を含む)を、PSEと+1位の間に挿入することができる。このような挿入によって、siRNAの転写が妨げられる。Cre recombinaseを加えることにより、2つのLoxP部位が再び組み合わされ、stuffer DNAが欠失し、1つのloxP部位が得られる。PSEと+1ヌクレオチドの距離が維持されるならば、1つのloxP部位の存在により、プロモーター活性が妨害されず、pre-siRNAの転写が生じる。
【0054】
(microRNAの発現)
miRNAの機能は、ハエにおける細胞増殖、細胞死、および脂肪代謝の制御、線虫における神経パターン形成、哺乳動物における造血幹細胞系の分化の調節、ならびに植物における葉および花の制御などの複合的な細胞回路と相互に関連している。最近、腫瘍遺伝子のmicroRNAの役割が提案されている。主に、寄生虫およびハエの研究から、microRNAがRNAi経路を介して細胞内でプロセシングを受け、機能化すること、および、mRNAの3’非翻訳領域の塩基ペアを介して、mRNAの発現を著しく減少させることが示されている。
【0055】
本明細書に記載のU1に基づくベクターは、高レベルのmiRNAの産生にも利用することができる。miRNAの発現を最適化するための2つの異なる方法を以下に示す。
1) pri-miRNA配列(この配列は、明確に定義された二次構造を有する約80-110ヌクレオチドの領域を含み、遺伝子データから推定することができる (Griffiths-Jones et al., 2003))を、psiUxベクターのプロモーターと終結領域の間にクローニングする。
2) miRNA配列を、アンチセンスsiRNA配列として、psiUにクローニングする。
【0056】
結果として、これらのデータによって、他のsiRNAベクターと比較して、U1に基づくベクターは、以下の複数の興味深い特性を有することが示された:
i) U1に基づくベクターは、転写産物の5’および3’末端に必要な配列が非常に少ない、
ii) U1に基づくベクターは、polIIIベクターの場合と異なり、転写領域にU配列を有することが可能である、
iii) クローニングが大変容易であり、異なるクローニング部位の間でのセレクションが可能である、
iv) 一次転写産物が、効率的に細胞質へと輸送され、成熟形態へと転換される、
v) 特異的な配列を、5’および3’末端に挿入し、干渉複合体へ導入される一本鎖siRNAのセレクションが可能となる。このことは、望まない標的化をもたらし得るセンス鎖の蓄積を除外する点で、siRNAベクターにとって重要な特性である。このことは、この発現システムを人の臨床的プロトコールで使用しなければならない場合、高いレベルの安全性を保障するのに非常に重要である。
[参考文献]

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】psiUXベクターの略図を示す;U1 snRNAプロモーターの下流のポリリンカーに存在する部位を示す。開始点の-393位から-6位に広がるU1プロモーター領域の配列を下に示す。
【図2A】異なるpsiUx誘導体および関連するオリゴの配列を示す。転写産物の5’末端および3’末端を示す。センスおよびアンチセンス配列をラミンA/C mRNAから推定し、矢印で示す。psiUcmut-lamコンストラクトに導入した変異を配列の上に示す。U1遺伝子の3’ターミネーター配列を「3’ box」として示す。間のループおよびpsiUb-lamおよびpsiUd-lamコンストラクトに存在するバリアント配列を灰色で示す。
【図2B】4つの試験した抗-ラミン一次転写産物の予測される構造を示す。矢印は、Dicer酵素によってプロセシングを受ける推定部位を示す。siRNA配列は太字の斜体で示す。下線を引いたヌクレオチドは、U1 snRNAの5’および3’領域に由来する配列である。星印は、モノメチルキャップを表す。
【図3A】psiUx-lamコンストラクトによって転写したsiRNAの発現および活性の分析を示す。HeLa細胞を、6μgの異なるpsiU-lamコンストラクト(レーンpsiU)または6μgのU6-lam(レーンU6)でトランスフェクトした。2μgのコントロールU7コンストラクトを、全ての場合において同時にトランスフェクトした。48時間後、全てのRNAを抽出し、15μgを10%ポリアクリルアミド-尿素ゲルを用いてノーザンブロットによって分析した。パネルAおよびA’):アンチセンス鎖(左向きの矢印)を認識するaおよびamutプローブを用いたハイブリダイゼーション。パネルA’’):U7 snRNAに特異的なプローブを用いたハイブリダイゼーション。括弧は、前駆体の位置を示す。pBR322/Mspl分子サイズマーカーの移動を左側に示す。レーンNTは、トランスフェクトしなかった細胞から抽出したRNAを含む。
【図3B】パネルB):センス鎖(右向きの矢印)を認識するαプローブを用いたハイブリダイゼーション。
【図3C】パネルC):前記の実験と同じ細胞に由来し、トランスフェクトしてから70時間後に抽出した20μgの総細胞タンパク質を、抗-ラミンモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングよって分析した。矢印は、ラミンの2つのアイソフォーム(AおよびB)を示す。パネルの下に、フィルターのPonceau staining(ポンソー染色)結果を示す。
【図4】Xenopus laevisの卵母細胞におけるpsiUa-lam、psiUb-lamおよびU6-lam転写産物の発現分析を示す。2.76ngのプラスミドDNAをXenopus laevisの卵母細胞の核へ、マイクロインジェクトした。12時間のインキュベーション後、RNAを核(N)および細胞質(C)から抽出し、10%ポリアクリルアミド-尿素ゲルを用いてノーザンブロットによって分析した。矢印は一次転写産物を示す。括弧は、ループ内部の切断による生成物を示す(横の略図を参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞において、正確、安定且つ効率的なsiRNAまたはmiRNAの発現のためのリコンビナントベクターであり、5’から3’の方向に:
a) U1 snRNA遺伝子に由来するRNAポリメラーゼII依存性プロモーター配列;
b) pre-siRNAまたはpre-miRNAを転写する配列をクローニングするための適切な制限部位;
c) +1位でのAまたはG残基;サイレンシングさせる遺伝子によって転写されるmRNAのセンス領域に対応する21から23ヌクレオチドの配列であって、pre-siRNAのステムの第一の断片を構成する配列;pre-siRNAのループ領域を構成するpre-miRNA配列から選択される配列;サイレンシングさせる遺伝子によって転写されるmRNAのアンチセンス領域に対応する21から23ヌクレオチドの配列であって、pre-siRNAのステムの第二の断片を構成する配列;以下の構造:
【化1】

が得られるように突出させた2つの最後の残基UU;
を含むpre-siRNAを転写する配列、または、その代わりとしてのpre-miRNAを転写する配列、
d) pre-siRNAまたはpre-miRNAの3’の正確な形成に必要且つ十分な、U1 snRNA遺伝子の3’の配列に由来する終結配列;
を含む、ベクター。
【請求項2】
pre-siRNAを転写する配列の5’のクローニング部位がBglIIである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
pre-siRNAを転写する配列が、更に、5’および3’末端に、転写されたpre-siRNAが以下の構造を有する配列を含む、請求項1に記載のベクター。
【化2】

(式中、Nは、A、U、GまたはCであり、N’は、その相補的なヌクレオチドである)
【請求項4】
pre-siRNAを転写する配列が、5’および3’末端に、転写されたpre-siRNAが以下の構造を有する配列を含む、請求項3に記載のベクター。
【化3】

【請求項5】
U1 snRNA遺伝子の3’の配列に由来する終結配列が、CCCCTG/ACTTTCTGGAGTTTCAAAAGTAGACである、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
RNA pol IIプロモーターを誘導性とする適切な配列を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のベクターを含む、遺伝子治療用の組成物。
【請求項8】
治療的応用のための、請求項1から6のいずれか一項に記載のベクターの使用。

【図1】
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【図2】
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【図2】
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【図3】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−518393(P2007−518393A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518501(P2006−518501)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/IT2004/000381
【国際公開番号】WO2005/005634
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(506009028)ウニヴェルシタ・デグリ・ストゥディ・ディ・ローマ・ラ・サピエンツァ (2)
【Fターム(参考)】