説明

マイクロデバイス及びバイオアッセイシステム

【課題】マイクロチップを用いた細胞培養において薬液を培養部に通液する際に、気泡や夾雑物の流入を防止し、また急な流量変化を防止することができるマイクロデバイス及びバイオアッセイシステムを提供する。
【解決手段】
培地供給用流路及び試料供給用流路のいずれか一方を培養部につなぐ流路切り替えバルブと、培地供給用流路と連通し培地が内部に充填された際に培地との比重差を用いて培地中の気泡及び夾雑物をトラップするチャンバーとを有するマイクロデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬やバイオテクノロジーの研究に使われ、特に細胞を培養しその機能や応答を評価する際に用いられる、マイクロデバイス及びバイオアッセイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、細胞の機能や応答を評価する場合には、細胞は主に培地を入れたウェルもしくはシャーレ内にて培養され、実験に用いられている。しかし、個別細胞の評価や細胞の応答を経時的に評価する場合には、少ない試料で、かつ灌流系で実験が行えることが望まれていた。
【0003】
このような背景より、近年、微細加工技術を応用した細胞培養用のデバイスの開発が進んでいる。これらはマイクロチップと呼称され、いくつかの研究成果が報告されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0004】
これらのデバイスは、ガラス、シリコンウェハー、PDMSもしくはその他樹脂基板内に作製されたマイクロ流路内で各種実験を行うものである。サンプルや試薬および廃液の微量化が可能であるとともに、反応部の比界面積が大きいため、細胞の応答を効率よく行うことが可能である。また、培養部もしくは流路下部に測定器を設置することにより、リアルタイムでの評価を可能としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ネーチャー(NATURE)第l442巻(2006)pp403-11
【非特許文献2】ジャーナル オブ クロマトグラフィー エー(Journal of Chromatography A), 第1111(2)巻, pp233-237 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロチップに設けられた流路は微細であるため、気泡や夾雑物の除去手段を設けたり、培地や薬液の急な流量変化を防止する手段を設けることは困難であった。そのため、マイクロチップを用いた細胞培養において培地などの薬液を培養部に通液する際に、培養部に気泡や夾雑物が流入したり、溶液交換やデバイスを移動させる時に流量が急に変化することがあった。この場合、細胞のなかでも特に接着性細胞は培養部内に混入する気泡や流速の急激な変化の影響を受け易いため、接着能力の弱い細胞においては、デバイス内に保持することが困難であった。
【0007】
本発明は、マイクロチップを用いた細胞培養において薬液を培養部に通液する際に、気泡や夾雑物の流入を防止し、また急な流量変化を防止することができるマイクロデバイス及びバイオアッセイシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の特徴は、培地供給用流路及び試料・薬液供給用流路のいずれか一方を培養部につなぐ流路切り替えバルブと、培地供給用流路と連通し培地が内部に充填された際に培地との比重差を用いて培地中の気泡及び夾雑物をトラップするチャンバーとを有するマイクロデバイスを要旨とする。
【0009】
本発明の第2の特徴は、マイクロ流路が表面に形成された基板を備える培養部と、培地供給用流路及び試料・薬液供給用流路のいずれか一方を培養部につなぐ流路切り替えバルブと、培地供給用流路と連通し培地が内部に充填された際に密度差により培地中の気泡及び夾雑物をトラップするチャンバーとを有するバイオアッセイシステムを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロチップを用いた細胞培養において薬液を培養部に通液する際に、気泡や夾雑物の流入を防止し、また溶液交換やデバイス移動時に急な流量変化を防止することができるマイクロデバイス及びバイオアッセイシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係るマイクロデバイスを備えるバイオアッセイシステムの概略図である。
【図2】実施形態に係るマイクロデバイスを備えるバイオアッセイシステムの斜視図である。
【図3】実施形態に係る流路切り替えバルブの上面図である。
【図4】実施形態に係る流路切り替えバルブの切り欠き上面図である。
【図5】実施形態に係る流路切り替えバルブの切り欠き上面図である。
【図6】実施形態に係るチャンバーの断面図である。
【図7】実施形態の変形例に係るマイクロデバイスを備えるバイオアッセイシステムの斜視図である。
【図8】実施形態の変形例に係るマイクロデバイスを備えるバイオアッセイシステムの斜視図である。
【図9】実施形態の変形例に係るチャンバーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。但し、図面は模式的なものであるので、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
図1は、実施形態に係るマイクロデバイスを備えるバイオアッセイシステムの概略図である。バイオアッセイシステム1は、マイクロ流路21aが表面に形成された基板(マイクロチップ)21を備える培養部20と、マイクロ流路21aの一端と流路L2を介してつながるマイクロデバイス10Aとを有する。マイクロデバイス10Aは、培地供給用流路L3及び試料供給用流路L1のいずれか一方を培養部20につなぐ流路切り替えバルブ13と、培地供給用流路L3と連通し培地が内部に充填された際に、培地との比重差を用いて培地中の気泡及び夾雑物をトラップするチャンバー15とを有する。ここでは、バルブ13と、チャンバー15とは一体に形成されている。バイオアッセイシステム1は、さらにマイクロ流路の他端と廃液流路L4を介してつながる廃液回収部35と、試料供給用流路L1を介してマイクロデバイスにつながるシリンジ31と、培地供給用流路L3を介してマイクロデバイス10Aにつながるポンプ33とを有する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「基板(マイクロチップ)」とは、平板状でないデバイス並びにミリメートル幅の流路構造を持つデバイスも含めて呼称することとする。
【0014】
図2に示すように、基台60上に配置された培養部20は、基板21と、基板21上に配置されたマイクロ流路21aに対応する箇所に開口部が設けられたフレーム状の固定具23と、固定具23を基台60に取り付ける複数のネジ27a…27dとからなる。固定具23の淵には、マイクロ流路21aにつながる複数の液供給口29a、29b、…29hを供える。なお、マイクロ流路21aの経路パターンは、直線状に制限されることなく用途に応じて種々のパターンを用いることができる。
【0015】
基板21の材質については、細胞培養に悪影響を与えるものでなければ特に制限はされず種々の材料を用いることができる。一般的にはガラス、シリコンウェハー、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、環状オレフィンポリマー、ポリスチレン等の樹脂を用いることができる。マイクロ流路21aの内径は細胞の大きさを考慮すると、直径1mm以下が好ましく、特に100〜500μmが望ましい。
【0016】
図3の上面図に示すように、マイクロデバイス10Aは、本体11と、本体11の略中心部に一端13aがはめ込み式に取り付けられた流路切り替えバルブ13と、培地供給用流路L3上に本体11と一体に形成されたチャンバー15とからなる。マイクロデバイス10Aには、試料供給用流路L1、流路L2および培地供給用流路L3のそれぞれが嵌め込み式に取り付けられている。流路切り替えバルブ13の一端13aの内部にはL字状の流路が設けられている。そのため、図4の切り欠き上面図に示すように、流路切り替えバルブ13(仮想線)の長手方向軸が流路L2の長手方向軸と一致するように配置することで、試料供給用流路L1と流路L2がつながる。シリンジ31から細胞を流し込むと、マイクロデバイス10Aを介して培養部20へと流し込まれる。図5に示すように、一端13aを軸にして仮想線で示すように流路切り替えバルブ13を90度回転させて、流路切り替えバルブ13を流路L2の長手方向に対して垂直に配置することで、培地供給用流路L3と流路L2がつながる。そしてポンプを作動させ、培地を送り込むことで、流路切り替えバルブ13を介して培養部20に培地が送り込まれる。
【0017】
なお、バルブについては、培地供給用流路L3及び試料供給用流路L1のいずれか一方を培養部に切り替えることができるのであれば、上述のバルブに限定されることなく、種々のバルブを用いることができる。内部容積を少なくするため流路内径が0.5mm程度のバルブを使用することが好ましい。
【0018】
図6は、本体11の一部に本体11と一体に形成されたチャンバー15の断面図である。チャンバー15は、直方体形状をしている。使用する溶液量を考慮すると、流路の出入口の内径を0.4〜0.6mmとしたときに一辺が5〜10mmとすることが好ましい。図2のポンプ33を作動させて矢印で示すように培地供給用流路L3からチャンバー15の入口からチャンバー15内に培地を充填すると、培地中の気泡(主に空気)Aは培地よりも比重が軽いので上方に移動し、夾雑物Bは培地よりも比重が重いので下方に沈降する。このようにして、比重の違いを利用することで、培地中の気泡Aや夾雑物Bをチャンバー15中にトラップすることで、培地から夾雑物Bや気泡Aを除去することができる。なお、チャンバー15のサイズ及び形状については、灌流する培地由来および配管時に発生する気泡Aと、夾雑物Bを保持する機能を保てれば特に限定はされない。
【0019】
マイクロデバイス10A(流路切り替えバルブ13、チャンバー15)の材質については、微細加工が可能で培養する細胞に悪影響を与えるものでなければ特に制限なく種々のものを使用することができる。使い捨て(ディスポーサブル)を考慮する場合はポリスチレンなど樹脂類を使用することが好ましく、耐薬品性を考慮する場合はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やフッ素樹脂を使用することが望ましい。
【0020】
本実施形態に使用できる細胞の種類は、マイクロチャネルに接着する性能を持つ細胞であれば特に限定はされない。
【0021】
次に、実施形態に係るマイクロデバイス及びバイオアッセイシステムの使用方法について、PC12細胞およびHT22細胞の培養方法を例に挙げて、具体的に説明する。
【0022】
(イ)まず図2に示すマイクロデバイスを備えるバイオアッセイシステムを用意する。ここでは、流路切り替えバルブとして、耐薬品性能を考慮しフッ素樹脂を用いて製造したものを用いた。図2の基板(マイクロチップ)21として、幅0.3mm、深さ0.1mm、長さ60mmの直線状チャネルを持ち、チャネル内はコラーゲンにて予めコーティングしたものを用いた。
【0023】
(ロ)次に、図4に示すように試料供給用流路L1と流路2が繋がるよう、マイクロデバイス10Aの流路切り替えバルブ13が所定の位置にあることを確認する。その後、図2の試料供給用流路L1より10/mL個程度の濃度の細胞懸濁液をマイクロデバイス10Aを介して基板21に注入する。注入後、細胞を静置する。静置時間は細胞の性能により変化するものであるが、ここでは2時間静置することにより細胞をチャネル壁面に接着させた。
【0024】
(ハ)細胞をチャネル壁面に接着させた後、図5に示すようにマイクロデバイス10Aの流路切り替えバルブ13が所定の位置にあることを確認する。その後、培地供給用流路L3に繋がれているポンプ33に用意されている培地を灌流させる。灌流速度は0.1μL/min程度が好ましい。
【0025】
以上のようにして、PC12細胞およびHT22細胞を培養することができる。なお、薬剤アッセイなどで刺激物を投与する場合、培地供給用流路L3を他のチューブに差し替え、薬剤の入っているシリンジを接続することにより溶液交換を行うことができる。
【0026】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0027】
実施形態においては、基台60上に流路L2につながる1つのマイクロデバイス10Aを配置した。しかし、図7に示すように、複数の流路切り替えバルブ13を並列に配置し、そして一方の液を他方の液と反応させても構わない。また図2の培養部20と流路切り替えバルブ13の間にさらに流路切り替えバルブ13を直列に配置しても構わない。培養部20への通液をより確実に止めることができるからである。また図2の培養部20の廃液流路L4側にもマイクロデバイス10Aを設けても構わない。
【0028】
実施形態においては、チャンバーとバルブが一体に形成されたマイクロデバイス10Aを用いた。しかし、チャンバーは、図8に示すように、バルブから独立して形成しても構わない。この場合のチャンバーの寸法や材質は、バルブ一体型と同様とすることが好ましい。また、図2のチャンバーとバルブが一体に形成された流路切り替えバルブに加えて、図8のチャンバーを設けても構わない。図2のチャンバーと図8のチャンバーを組み合わせて用いても構わない。
【0029】
実施形態においては、チャンバー15の入口と出口を、マイクロデバイス10Aの本体11の厚み方向の略中心にそれぞれ設けたが、それに限定されるものではない。例えば、図9に示すように、チャンバー15の入口は、本体11の厚み方向の略中心より上面側に外すように設け、チャンバー15の出口は、本体11の厚み方向の略中心より下面側に外して配置しても構わない。但し、入口が上面に近すぎると気泡Aがチャンバー15内部で舞うおそれがあるので、略中心と上面の中間程度に配置することが好ましい。出口が下面に近すぎると夾雑物Bが舞うおそれがあるので、略中心と下面の間の中間程度に配置することが好ましい。また夾雑物Bがチャンバー15内で舞うことを防止するため、底面に堰11bを設けても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、マイクロチップを用いた細胞培養において薬液を培養部に通液する際に、気泡や夾雑物の流入を防止し、また急な流量変化を防止することができるマイクロデバイス及びバイオアッセイシステムが提供される。
【符号の説明】
【0031】
1:バイオアッセイシステム
10A:流路切り替えバルブ
13:弁
15:チャンバー
20:培養部
21:基板(マイクロチップ)
21a:マイクロ流路
31:シリンジ
33:ポンプ
35:廃液回収部
L1:試料・薬液供給用流路
L2:流路
L3:培地供給用流路
L4:廃液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地供給用流路及び試料供給用流路のいずれか一方を培養部につなぐ流路切り替えバルブと、
前記培地供給用流路と連通し培地が内部に充填された際に前記培地との比重差を用いて前記培地中の気泡及び夾雑物をトラップするチャンバー
とを有することを特徴とするマイクロデバイス。
【請求項2】
前記チャンバーは、前記流路切り替えバルブと一体に形成されていることを特徴とする請求項1記載のマイクロデバイス。
【請求項3】
前記チャンバーは、流路の出入口の内径が0.4〜0.6mmであって、一辺が5〜10mmの直方体状であることを特徴とする請求項1記載のマイクロデバイス。
【請求項4】
マイクロ流路が表面に形成された基板を備える培養部と、
培地供給用流路及び試料供給用流路のいずれか一方を前記培養部につなぐ流路切り替えバルブと、
前記培地供給用流路と連通し培地が内部に充填された際に密度差により培地中の気泡及び夾雑物をトラップするチャンバー
とを有することを特徴とするバイオアッセイシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−106595(P2013−106595A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256517(P2011−256517)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(502100415)マイクロ化学技研株式会社 (8)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】