説明

棚段塔

【課題】運転条件が変更されてガスの供給量が増えたときにも、設計通りのガス吸収性が得られように安定して運転を行うことのできる、棚段塔を提供する。
【解決手段】棚板3と液供給部4と気体供給部とを備え、棚板3上で気液接触させる棚段塔である。液供給部4は棚板3の一方の側に液を供給し、棚板3には他方の側に液を流出させる流出部6が設けられている。棚板3上には流出部6より一方の側に堰7が設けられ、堰7より一方の側には気体供給部からの気体を棚板3上に案内する案内部10が設けられている。棚板3上には案内部10に連通する気体の流路9を形成し、流路9から気体を上方に流出させる多孔板8が設けられている。多孔板8には最も堰7側に位置する案内部10Aから堰7側に延出する堰側延出部13が設けられている。堰側延出部13にはその位置より堰7側から気体が流出するのを遮る、気体遮断部14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液接触を行わせるための棚段塔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸収塔や蒸溜塔、精留塔などとして、複数の棚段を有した棚段塔が知られている。このような棚段塔において吸収塔では、例えば排気ガスを液中に吸収させ、排気ガス中の成分を回収してその有効利用(再利用)を図るといったことがなされている。
また、このような棚段塔では、棚板として多数の細孔を有する多孔膜(多孔板)を用いたものも知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
さらに、棚板上に多孔板を配置し、この多孔板の細孔を介して棚板の下方から取り入れた気体を多孔板の上方に流出させるようにした、棚段塔も知られている。この棚段塔では、棚板に形成した筒部とこれを覆う泡鐘体とを介して、棚板の下方から流入させた気体を棚板と多孔板との間に形成した流路に取り入れ、さらにこの流路から気体を多孔板の上方に流出させるようにしている。
【0004】
また、この棚段塔では、棚板の一方の側に液を供給し、棚板の他方の側に形成した堰をオーバーフローさせて、液の流出部から液を下方に流出させるようにしている。これにより、棚板の一方の側に供給された液は、堰をオーバーフローするまでの間に多孔板上を流れるようになっている。したがって、多孔板の細孔から流出した気体は、多孔板上を流れる液中に流入し、通過することにより、気液接触するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−5521号公報
【特許文献2】特開2002−102601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記したような多孔板を備えた棚段塔では、棚板と多孔板との間に十分な広さの流路を確保するため、多孔板として、棚板に形成された筒部及び泡鐘体の外方にまで延出した大きさのものを用いている。したがって、この多孔板は堰側においても、特に泡鐘体のうち最も堰側に位置する泡鐘体からさらに堰側に延出して、堰側延出部が形成されている。
【0007】
ところが、このような堰側延出部が形成されていることにより、従来では、この堰側延出部から流出した気体の一部が気泡となって泡鐘体のうち最も堰側に位置する泡鐘体と堰との間に滞留し、これに起因して棚板上を流れる液中を通過するガスの圧力損失が低下し、気液接触時間が短くなることで液中へのガスの吸収性が低下するおそれがあった。
【0008】
本発明者はこのような現象が起こる原因について調べたところ、主に運転条件が変更されて設定した条件よりガスの供給量が増えたときに、前記現象が起こることが判明した。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、運転条件が変更されてガスの供給量が増えたときにも、液中へのガスの吸収性を低下させるおそれなく、設計通りのガス吸収性が得られように安定して運転を行うことのできる、棚段塔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の棚段塔は、棚板と、該棚板上に液を供給する液供給部と、前記棚板の底面側から上面側に向けて気体を通気させる気体供給部とを備え、前記棚板上で前記液と前記気体とを接触させる棚段塔であって、
前記液供給部は、前記棚板の一方の側に液を供給するように構成され、
前記棚板には、その他方の側に該棚板上の液を下方に流出させる流出部が設けられ、
前記棚板上には、前記流出部より前記棚板の一方の側に堰が設けられ、
前記棚板の前記堰より前記棚板の一方の側には、前記気体供給部から通気された気体を前記棚板上に案内する案内部が設けられ、
前記棚板上には、該棚板との間に前記案内部に連通する気体の流路を形成し、該流路から気体を前記棚板の上方に流出させる多孔板が設けられ、
前記多孔板には、前記案内部のうち最も堰側に位置する案内部から前記堰側に延出する堰側延出部が設けられ、
前記堰側延出部には、その位置より前記堰側から前記気体が前記棚板の上方に流出するのを遮る、気体遮断部が設けられていることを特徴としている。
【0010】
この棚段塔によれば、堰側延出部の、案内部のうち最も堰側に位置する案内部と該堰側延出部における堰側の側端部との間に、その位置より堰側から気体が棚板の上方に流出するのを遮る、気体遮断部が設けられているので、この気体遮断部より堰側から気体が流出することがなく、したがって案内部のうち最も堰側に位置する案内部と堰との間に気泡が滞留するのが防止される。よって、このように気泡が滞留することで棚板上を流れる液中を通過するガスの圧力損失が低下し、気液接触時間が短くなることによって液中へのガスの吸収性が低下するおそれを抑制できる。
【0011】
また、前記棚段塔において、前記気体遮断部は、前記案内部のうち最も堰側に位置する案内部より前記堰側から、前記気体が前記棚板の上方に流出するのを遮るように設けられているのが好ましい。
このようにすれば、案内部のうち最も堰側に位置する案内部と堰との間に気泡が滞留するのが、より確実に防止される。
【0012】
本発明の別の棚段塔は、棚板と、該棚板上に液を供給する液供給部と、前記棚板の底面側から上面側に向けて気体を通気させる気体供給部とを備え、前記棚板上で前記液と前記気体とを接触させる棚段塔であって、
前記液供給部は、前記棚板の一方の側に液を供給するように構成され、
前記棚板には、その他方の側に該棚板上の液を下方に流出させる流出部が設けられ、
前記棚板上には、前記流出部より前記棚板の一方の側に堰が設けられ、
前記棚板の前記堰より前記棚板の一方の側には、前記気体供給部から通気された気体を前記棚板上に案内する案内部が設けられ、
前記棚板上には、該棚板との間に前記案内部に連通する気体の流路を形成し、該流路から気体を前記棚板の上方に流出させる多孔板が設けられ、
前記多孔板は、前記堰側の側端部が、前記案内部のうち最も堰側に位置する案内部から前記堰側に延出することなく、前記棚板上に配設されていることを特徴としている。
【0013】
この棚段塔によれば、多孔板は、堰側の側端部が、案内部のうち最も堰側に位置する案内部から堰側に延出することなく、棚板上に配設されているので、案内部のうち最も堰側に位置する案内部より堰側からは、気体が流出することがなく、したがって案内部のうち最も堰側に位置する案内部と堰との間に気泡が滞留するのが確実に防止される。よって、このように気泡が滞留することで棚板上を流れる液中を通過するガスの圧力損失が低下し、気液接触時間が短くなることによって液中へのガスの吸収性が低下するおそれを抑制できる。
【0014】
前記棚段塔において、前記案内部は、前記棚板に形成された開口と、該開口に連通して前記棚板上に延び、前記多孔板を貫通する筒部と、前記筒部の上方に配置されて該筒部の上部開口を閉塞することなく覆い、該上部開口に連通するとともに前記流路に連通する案内路を形成する有蓋筒状の泡鐘体と、を有してなっていてもよい。
このような開口と筒部と泡鐘体とを有して案内部が構成されているので、気体供給部によって棚板の下方から通気され供給された気体を、棚板と多孔板との間の流路に良好に案内することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の棚段塔によれば、案内部のうち最も堰側に位置する案内部と堰との間に気泡が滞留するのを防止し、液中へのガスの吸収性が低下するおそれを抑制したので、例えば運転条件が変更されてガスの供給量が増えたときにも、液中へのガスの吸収性を低下させるおそれなく、設計通りのガス吸収性を得ることができる。よって、運転条件に影響されることなく、設計通りに安定して運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る棚段塔の第1実施形態の、内部の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る棚段塔の第1実施形態の要部側断面を示す模式図である。
【図3】従来の棚段塔の要部側断面を示す模式図である。
【図4】従来の棚段塔の要部側断面を示す模式図である。
【図5】(a)は、本発明に係る棚段塔の第2実施形態の要部側断面を示す模式図、(b)は多孔板の斜視図である。
【図6】本発明に係る棚段塔の第3実施形態の要部側断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の棚段塔を詳しく説明する。
図1は、本発明に係る棚段塔の第1実施形態を説明するための図であって、棚段塔内部の概略構成を示す模式図である。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1中符号1は棚段塔であり、この棚段塔1は、底板2a及び蓋板2bを有した円筒状の塔本体2と、塔本体2内に設けられた複数の棚板(棚段)3とを有したものである。
【0018】
最上段の棚板3aの上方には、該棚板3a上に液を供給する液供給管(液供給部)4が配設され、最下段の棚板3cの下方には、該棚板3cの底面側から上面側に向けてガス(気体)を通気させるガス供給管(気体供給部)5が配設されている。また、塔本体2の蓋板2bには、ガスを排出するための排気管2cが設けられている。
【0019】
液供給管4は、塔本体2の側壁を貫通してその先端側が塔本体2内に位置させられたもので、図示しない液供給源からポンプ等によって液が圧送され、供給されるようになっている。なお、本実施形態では、液供給管4は複数(2本)設けられており、これら複数の液供給管4によって本発明の液供給部が形成されている。
【0020】
また、ガス供給管5も、塔本体2の側壁を貫通してその先端側が塔本体2内に位置させられたもので、図示しないガス供給源からガスが圧送され、供給されるようになっている。なお、液供給管4から棚板3上に供給される液としては、例えば水が用いられる。また、ガス供給管5から塔本体2内に通気されるガス(気体)としては、例えば窒素酸化物(NOx)が用いられる。
【0021】
このような構成のもとに棚段塔1は、液供給管4から供給した液(水)と、ガス供給管5から供給したガス(NOx)とを棚板3上で接触させ、液中にガスを吸収させることにより、例えば硝酸を製造するようになっている。
【0022】
液供給管4は、最上段の棚板3aの一方の側に液を供給するように、その先端の液供給口(図示せず)が該棚板3aの一方の側(図1中の左側)に位置させられている。また、この棚板3aには、その他方の側(図1中の右側)に、該棚板3a上の液を下方に流出させる流出部6が設けられている。流出部6は、棚板3aに形成された貫通孔(図示せず)に設けられた複数の流出管6aからなるもので、該棚板3aの一つ下の棚段3b上に、棚板3a上から流出した液を供給するようになっている。
【0023】
したがって、複数の流出管6aからなる流出部6は、これが設けられた棚板3においては、該棚板3上の液を下方に流出させる流出部6として機能するものの、該棚板3の一つ下の棚板3に対しては、液を供給する液供給管(液供給部)4として機能するようになっている。
【0024】
なお、このように最上段の棚板3aの一つ下の棚板3bに対しては、液供給管4として機能する流出部6が、図1中の右側に配置されるので、この棚板3bにおいては、この流出部6からなる液供給管4が配置された側が一方の側となり、その反対の側(図1中の左側)が他方の側となる。したがって、この棚板3bにおいては、流出部6からなる液供給管4が配置された側と反対の側に、棚板3aにおける流出部6と同じ構成からなる流出部6、すなわち複数の流出管6aからなる流出部6が設けられている。
【0025】
この棚板3bにおける流出部6も、その一つ下の棚板3cに対しては液供給管(液供給部)4として機能するようになっており、以下、同様の構成が繰り返される。ただし、最下段の棚板3に設けられた流出部6は、その下には棚板3が無く底板2aとなっているため、底板2a上に液を流出させるだけの機能となっている。なお、この底板2a上に流出させられた液は、図示しない排出管から棚段塔1の外に排出されるようになっている。また、図1では、棚板3の段数を省略して3段しか記載していないが、実際にはこれ以上の段数があってもよく、また少なくてもよい。
【0026】
各棚板3上には、それぞれ流出部6が形成された側に、板状の堰7が配設されている。堰7は、流出部6が形成された位置より僅かに液供給管4側、すなわち棚板3の一方の側に配置されたもので、予め設計された所定高さに形成されたものである。この堰7は、棚板3の一方の側に配置された液供給管4から供給された液を、その高さに対応した量堰き止め、過剰な分をオーバーフローさせるものである。
【0027】
これにより、堰7をオーバーフローした液は、流出部6から下段の棚板3上に流出するようになっている。また、液供給管4によって棚板3の一方の側に供給された液は、棚板3の他方の側に配置された堰7をオーバーフローするまでの間、棚板3上を流れるようになっている。
【0028】
棚板3上には多孔板8が載置されている。多孔板8は、棚段塔1の要部を示す図2に示すように、高さが低い筒状の側壁部8aと、この側壁部8aの上部開口を覆う多孔板本体8bとからなるもので、側壁部8aには孔を形成することなく、多孔板本体8bにのみ細孔8cを多数形成したものである。また、多孔板本体8bには、後述する案内部の筒部を挿通させる開口(図示せず)が形成されている。このような構成のもとに多孔板8は、多孔板本体8bと棚板3との間に、ガス(気体)の流路9を形成している。なお、多孔板本体8bは、例えば内径が2mm〜4mm程度の細孔8cを有するパンチングメタルなどによって形成されている。
【0029】
また、棚板3には、堰7より液供給管4側(棚板3の一方の側)に、前記ガス供給管(気体供給部)5から通気されたガスを棚板3上に案内するための、案内部10が複数設けられている。これら案内部10は、棚板3に形成された開口(図示せず)と、該開口に連通して棚板3上に延びる筒部11と、筒部11の上部側に配置された有蓋筒状の泡鐘体12と、を有して構成されたものである。
【0030】
筒部11は、液供給管4が配置された側(一方の側)と流出部6が設けられた側(他方の側)とを結ぶ直線と直交する方向を長辺側とする、長細い四角(長方形)筒状のもので、その上部側が前記多孔板本体8bの開口(図示せず)を貫通して、該開口(図示せず)上に位置させられたものである。
【0031】
泡鐘体12は、筒部11より一回り大きい四角(長方形)筒状の側壁部12aと、該側壁部12aの上部開口を覆う蓋部12bとを有したもので、筒部11の上部開口を閉塞することなく覆うとともに、側壁部12aが筒部11との間に所定の幅の隙間を開けて、筒部11上に配置されたものである。また、この泡鐘体12は、前記多孔板8の多孔板本体8b上に載置され、溶接や螺子止め等によって固定されており、これによって筒部11に対する相対的位置が固定されている。
【0032】
そして、このような構成によって案内部10は、前記ガス供給管(気体供給部)5から棚板3の底面側に供給されたガスを、筒部11を介して棚板3上に案内し、さらに筒部11と泡鐘体12との間の隙間を経由させ、棚板3と多孔板本体8bとの間の流路9内に流入させるようになっている。すなわち、筒部11内、及び筒部11と泡鐘体12との間の隙間により、流路9に連通する案内路(図示せず)を形成したものとなっている。このようにして流路9内に流入したガスは、多孔板本体8の細孔8cを通過し、多孔板8上に流出するようになっている。
【0033】
ここで、多孔板8は、複数の案内部10が形成された領域に対し、これら領域を十分にカバーして棚板3と多孔板8との間に十分な広さの流路9を確保するため、該領域より十分に広い大きさに形成されている。したがって、この多孔板8には、堰7側において、案内部10のうち最も堰7側に位置する案内部10Aから堰7側に延出する、堰側延出部13が形成されている。
【0034】
また、棚板3上には、前述したように液供給管4によって供給された液が、堰7をオーバーフローするまでの間流れるようになっている。しかし、棚板3と多孔板本体8bとの間には流路9が形成され、この流路9内にはガスが流れているため、液供給管4から供給された液は、前記ガスの圧によって流路9内に流入することがほとんどなく、多孔板8(多孔板本体8b)上、及び泡鐘体12上を流れるようになっている。
【0035】
したがって、流路9を経て多孔板本体8b上に流出したガスは、多孔板本体8b上や泡鐘体12上を流れる液中に流入し、通過することにより、気液接触するようになっている。すなわち、多孔板本体8b上に流出したガスは、気泡Bとなって液中を通過し、その一部が液中に溶け込むことにより、液中に吸収されるようになっている。なお、残部は液を通過し、上昇するようになっている。
【0036】
ここで、気泡Bは、液の流れにはほとんど影響されることなく、液中をほぼ直上に上昇する。よって、ガスの流速が一定の場合に、多孔板8(多孔板本体8b)上を流れる液の液層の高さ(厚さ)が高い(厚い)ほど、気泡Bは液との接触時間が長くなり、液に吸収される比率が高くなる。なお、図2では、見やすくするため泡鐘体12や筒部11の幅を広く記載しているが、実際には、隣り合う泡鐘体12、12間の間隔の方が、泡鐘体12の幅より十分に広くなっている。
【0037】
多孔板8(多孔板本体8b)上を流れる液の液層の高さ(厚さ)は、基本的には堰7の高さによって決まる。すなわち、設計上の堰7側での液層の高さ(厚さ)H1は、堰7の高さより、堰7をオーバーフローする高さ分高い高さ(厚さ)となる。一方、多孔板本体8b上での液層の見掛け上の高さH2は、気泡Bが多く含まれているため、設計上は、図2に示すように堰7の高さに対応する前記高さ(厚さ)H1より高く(厚く)なっている。
【0038】
これは、設計上の通常運転では、ガス供給管5から供給されたガスの流量が設定通りになっており、その流速も設定通りの比較的遅い流速になっているため、従来の構造を示す図3に示すように、前記堰側延出部13からはほとんど気泡Bが流出することがないためである。すなわち、ガスの流速が設定通りの遅さであると、案内部10のうち最も堰7側に位置する案内部10Aから流路9に案内されたガスは、前記堰側延出部13の端部側(堰7側)にまで流れることなく、その前に上昇して多孔板本体8bの細孔8cから流出するためである。
【0039】
このように堰7側では液中に気泡Bがほとんど存在していないため、この堰7側の液層は液のみからなる真の液層となり、したがって図2、図3中に示した堰7の高さに対応する液層の高さ(厚さ)H1は、真の液層の高さとなる。
これに対して、泡鐘体12、12間などに対応する位置での液層の高さH2は、液中に多くの気泡Bが存在しているため、図2、図3に示したように真の液層の高さH1より気泡Bの体積分高くなっている。これは、堰7より液供給管4側では、液層全体で液圧(水圧)が一定であり、この液圧は堰7側での液層の液圧によって決まっているからである。つまり、泡鐘体12、12間などに対応する位置での液層の高さH2は、実質的な液圧を決める、液のみからなる真の液層の高さに対して、気泡Bの体積分が加えられるため、真の液層の高さH1より見掛け上高くなっている。
【0040】
しかしながら、液層の高さがH2となっている領域においても、真の液層はH1であり、液圧もこの真の液層H1に対応する圧となるため、ここを通過するガスの圧力損失は設計通りとなり、液に対する接触時間も、堰7の高さによって設定された通りの時間となる。したがって、設計通りの接触効率となることで、液中へのガスの吸収性も、設定通りになっている。
【0041】
ところが、何らかの外部要因などによって運転条件が変更され、ガスの供給量が増えると、従来では、図4に示すように堰側延出部13から流出したガスの一部が気泡Bとなって泡鐘体12のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12Aと堰7との間を流れ、したがって一時的にこの領域の液中に滞留する。これは、ガス供給管5から供給されたガスの流量が設定通りであれば、前述したように堰側延出部13からほとんどガス(気泡B)が流出することがなかったのに対し、ガス供給管5から供給されたガスの流量が設定より増えたため、ガスの流速も速くなり、堰側延出部13の端部側(堰7側)にまで流れてそこの細孔8cからガス(気泡B)が流出するようになったためである。
【0042】
このようにして泡鐘体12Aと堰7との間に気泡Bが滞留しても、この領域での液層の高さは前述したように堰7の高さによって決まるため、図2、図3に示したH1となる。ところが、図2、図3に示した場合と異なり、この図4に示した場合では、泡鐘体12Aと堰7との間の領域での液層は多くの気泡Bを含んでいるため、液のみからなる真の液層の高さはH1より格段に低い高さとなる。すなわち、図4に示した状態において堰7側の液層の高さは、気泡Bを多く含んだ見掛け上の液層の高さになっている。したがって、その液圧も図3に示した設計通りの液圧に比べ、格段に小さくなっている。
【0043】
すると、前述したように液層全体では液圧が一定となり、この液圧は、堰7側での真の液層の高さに対応して決まるため、図4に示した場合では、泡鐘体12、12間などに対応する位置での液層の液圧が、図3に示した泡鐘体12Aと堰7との間の領域での液圧より格段に低くなる。すなわち、泡鐘体12、12間などに対応する位置での液層の高さは、図2、図3に示した設計通りの高さH2より格段に低い高さとなる。
【0044】
したがって、従来では、運転条件が変更されてガスの供給量が増えると、泡鐘体12、12間などに対応する位置での液層の高さが設定された高さより格段に低くなり、この位置での液層の液圧も、設定された液圧よりより格段に低くなる。すると、棚板3上を流れる液中を通過するガスの圧力損失が低下し、気液接触時間が短くなることにより、液中へのガスの吸収性が低下するおそれがあった。
【0045】
そこで、本実施形態では、図2に示すように前記堰側延出部13に、泡鐘体12(案内部10)のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12A(案内部10A)と堰側延出部13における堰7側の側端部(側壁部8a)との間に、その位置より堰7側からガスが流出するのを遮る、ガス遮断部(気体遮断部)14を設けている。
【0046】
すなわち、本実施形態では、堰側延出部13における堰7側の一部において、多孔板本体8bの細孔8cを塞いでおり、これによってこれら塞いだ細孔8cからのガスの流出を遮るようにしている。また、泡鐘体12(案内部10)のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12A(案内部10A)より、堰7側から、ガスが流出するのを遮るように、堰側延出部13の全域にガス遮断部(気体遮断部)14を設けるのが好ましい。(図2では、堰側延出部13の全域にガス遮断部14を設けた状態を示している。)
【0047】
具体的には、本実施形態では細孔8cを例えば板で覆ったり、細孔8c内に充填物を入れることにより、細孔8cを塞いでいる。したがって、これら板や充填物により、本実施形態のガス遮断部14が形成される。このようなガス遮断部14は、前述したように堰側延出部13における堰7側の一部に設けるだけでもよいが、泡鐘体12(案内部10)のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12A(案内部10A)より堰7側となる全域に、設けるのが好ましい。
【0048】
このようにガス遮断部14を設けているので、本実施形態の棚段塔1にあっては、例えば運転条件が変更されてガスの供給量が増えても、堰側延出部13においてはガス遮断部14より堰7側からガスが流出することがなくなる。したがって、泡鐘体12(案内部10)のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12A(案内部10A)と堰7との間の液中に気泡Bが滞留するのを抑制し、あるいは確実に防止することができる。
【0049】
よって、このように気泡Bが滞留することで、棚板3上を流れる液中を通過するガスの圧力損失が低下し、気液接触時間が短くなることによって液中へのガスの吸収性が低下するおそれを抑制することができる。
したがって、本実施形態の棚段塔1によれば、運転条件が変更されてガスの供給量が増えたときにも、液中へのガスの吸収性を低下させるおそれなく、設計通りのガス吸収性を得ることができる。よって、運転条件に影響されることなく、設計通りに安定して運転を行うことができる。
【0050】
次に、本発明の棚段塔の第2実施形態を説明する。
図5(a)は、本発明の棚段塔の第2実施形態を示す図であって、堰側延出部13の要部を示す図である。第2実施形態の棚段塔が図2に示した第1実施形態の棚段塔と異なるところは、ガス遮断部の構成にある。すなわち、図2に示したガス遮断部14は、細孔8cを覆う板や細孔8c内に充填される充填物によって構成されているのに対し、本実施形態のガス遮断部(気体遮断部)15は、図5(b)に示すように多孔板本体8bの底面側に設けられた、板状または柱状の部材によって形成されている。
【0051】
この板状または柱状の部材からなるガス遮断部15は、図5(a)中の実線で示すように、堰側延出部13における泡鐘体12A(案内部10A)と堰7側の側端部(側壁部8a)との間に配置される。また、図5(a)中の二点鎖線で示すように、泡鐘体12A(案内部10A)の位置、すなわち泡鐘体12Aの堰7側の側壁部12aと同じ位置に配置されるのが好ましい。
【0052】
このように泡鐘体12A(案内部10A)と堰7側の側端部との間にガス遮断部15を配置するので、本実施形態の棚段塔にあっても、例えば運転条件が変更されてガスの供給量が増えた場合に、堰側延出部13においてはガス遮断部15より堰7側からガスが流出することがなくなる。したがって、泡鐘体12(案内部10)のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12A(案内部10A)と堰7との間の液中に、気泡Bが滞留するのを防止することができる。
【0053】
よって、このように気泡Bが滞留することで、棚板3上を流れる液中を通過するガスの圧力損失が低下し、気液接触時間が短くなることによって液中へのガスの吸収性が低下するおそれを抑制することができる。
したがって、本実施形態の棚段塔によれば、運転条件が変更されてガスの供給量が増えたときにも、液中へのガスの吸収性を低下させるおそれなく、設計通りのガス吸収性を得ることができる。よって、運転条件に影響されることなく、設計通りに安定して運転を行うことができる。
【0054】
次に、本発明の棚段塔の第3実施形態を説明する。
図6は、本発明の棚段塔の第3実施形態を示す図であって、棚段塔の要部を示す図である。第3実施形態の棚段塔が図2に示した第1実施形態の棚段塔と異なるところは、多孔板の構成にある。すなわち、図2に示した多孔板8には、堰7側において、案内部10のうち最も堰7側に位置する案内部10Aからさらに堰7側に延出する、堰側延出部13が形成されているのに対し、本実施形態の多孔板16には、図6に示すように堰側延出部が形成されていない。
【0055】
したがって、本実施形態の多孔板16では、その堰7側の側壁部(側端部)16aが、泡鐘体12(案内部10)のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12A(案内部10A)の堰7側の側壁部12aと、同じ位置に配置されており、必要に応じてこれらの間が溶接等によって封止されている。つまり、この堰7側の側壁部12aと同じ位置に配置された多孔板16の側壁部16aは、図5(a)中に二点鎖線で示したガス遮断部15と同様に機能し、堰側延出部13の有無に関係なく、該側壁部16aより堰7側からガスを流出させないようにしている。
【0056】
したがって、本実施形態の棚段塔にあっては、例えば運転条件が変更されてガスの供給量が増えた場合に、多孔板16の堰側の側壁部(側端部)16aが、泡鐘体12(案内部10)のうち最も堰7側に位置する泡鐘体12A(案内部10A)から堰7側に延出していないので、この泡鐘体12A(案内部10A)より堰7側からガスが流出するのを確実に防止することができる。
【0057】
よって、この泡鐘体12A(案内部10A)と堰7との間に気泡Bが滞留するのを確実に防止することができるため、気泡Bが滞留することで棚板3上を流れる液中を通過するガスの圧力損失が低下し、気液接触時間が短くなることによって液中へのガスの吸収性が低下するおそれを抑制することができる。
したがって、本実施形態の棚段塔によれば、運転条件が変更されてガスの供給量が増えたときにも、液中へのガスの吸収性を低下させるおそれなく、設計通りのガス吸収性を得ることができる。よって、運転条件に影響されることなく、設計通りに安定して運転を行うことができる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、棚板の段数については前記したように任意であり、また、同一棚板上に配設する案内部の数についても任意である。
また、案内部の構成についても、気体供給部(ガス供給管5)通気された気体(ガス)を棚板上に案内することができ、かつ、案内した気体(ガス)を棚板と多孔板との間に形成された流路に案内できる構成であれば、前記実施形態の案内部10の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
1…棚段塔、2…塔本体、3(3a、3b、3c)…棚板、4…液供給管(液供給部)、5…ガス供給管(気体供給部)、6…流出部、7…堰、8…多孔板、8a…側壁部、8b…多孔板本体、8c…細孔、9…流路、10、10A…案内部、11…筒部、12…泡鐘体、13…堰側延出部、14…ガス遮断部(気体遮断部)、15…ガス遮断部(気体遮断部)、16…多孔板、16a…側壁部、16b…多孔板本体、16c…細孔、B…気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棚板と、該棚板上に液を供給する液供給部と、前記棚板の底面側から上面側に向けて気体を通気させる気体供給部とを備え、前記棚板上で前記液と前記気体とを接触させる棚段塔であって、
前記液供給部は、前記棚板の一方の側に液を供給するように構成され、
前記棚板には、その他方の側に該棚板上の液を下方に流出させる流出部が設けられ、
前記棚板上には、前記流出部より前記棚板の一方の側に堰が設けられ、
前記棚板の前記堰より前記棚板の一方の側には、前記気体供給部から通気された気体を前記棚板上に案内する案内部が設けられ、
前記棚板上には、該棚板との間に前記案内部に連通する気体の流路を形成し、該流路から気体を前記棚板の上方に流出させる多孔板が設けられ、
前記多孔板には、前記案内部のうち最も堰側に位置する案内部から前記堰側に延出する堰側延出部が設けられ、
前記堰側延出部には、その位置より前記堰側から前記気体が前記棚板の上方に流出するのを遮る、気体遮断部が設けられていることを特徴とする棚段塔。
【請求項2】
前記気体遮断部は、前記案内部のうち最も堰側に位置する案内部より前記堰側から、前記気体が前記棚板の上方に流出するのを遮るように設けられていることを特徴とする請求項1記載の棚段塔。
【請求項3】
棚板と、該棚板上に液を供給する液供給部と、前記棚板の底面側から上面側に向けて気体を通気させる気体供給部とを備え、前記棚板上で前記液と前記気体とを接触させる棚段塔であって、
前記液供給部は、前記棚板の一方の側に液を供給するように構成され、
前記棚板には、その他方の側に該棚板上の液を下方に流出させる流出部が設けられ、
前記棚板上には、前記流出部より前記棚板の一方の側に堰が設けられ、
前記棚板の前記堰より前記棚板の一方の側には、前記気体供給部から通気された気体を前記棚板上に案内する案内部が設けられ、
前記棚板上には、該棚板との間に前記案内部に連通する気体の流路を形成し、該流路から気体を前記棚板の上方に流出させる多孔板が設けられ、
前記多孔板は、前記堰側の側端部が、前記案内部のうち最も堰側に位置する案内部から前記堰側に延出することなく、前記棚板上に配設されていることを特徴とする棚段塔。
【請求項4】
前記案内部は、前記棚板に形成された開口と、該開口に連通して前記棚板上に延び、前記多孔板を貫通する筒部と、前記筒部の上方に配置されて該筒部の上部開口を閉塞することなく覆い、該上部開口に連通するとともに前記流路に連通する案内路を形成する有蓋筒状の泡鐘体と、を有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の棚段塔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−16678(P2012−16678A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156681(P2010−156681)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】