説明

毛胞摘出方法及びこれを用いた器具

【課題】
【解決手段】患者の受皮部からの毛胞単位の摘出のための方法および器具。この方法は鋭いパンチを用いて外側の皮膚の層に切れ目を入れ、周囲の組織および脂肪層から毛胞を分離するために先の丸いパンチを切れ目に挿入することを含む。この方法および器具は著しく毛胞の切断量を減少させ摘出される毛胞単位の割合を増加させるであろう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は、患者の恵皮部からの毛髪の移植片の摘出とそれに続く受皮部への移植に関する方法及びこれを用いた器具に関し、より詳細には、毛胞の切断率を減少させ、移植可能な毛胞の回収率を改善させた毛胞単位の摘出方法及びこれを用いた器具に関する。
【0002】
2.関連技術の説明
毛髪の移植の基本的なプロセスは、患者の側頭部や後頭部(恵皮部)から毛髪を抜き、それを禿げた部分(受皮部)に移すものである。従来は、直径4mmの移植片が恵皮部の移植片として利用されてきたが、その後「mini-grafts」(より小さな移植片)が用いられ、そして近年では毛胞単位の移植片(FUG’s)が用いられている。FUG’sとは自然に発生する3から5個の密に配置された毛胞の凝集体である。FUG’sは頭皮の表面全体にランダムに分布している。
【0003】
従来のプロセスでは、頭皮の直線的な部分が手術用メス用いた切開により恵皮部から切り取られる。このような切開のプロセスの途中でいくつかの毛胞が常に切断され、毛胞が壊れる。毛胞の破壊に加え、恵皮部の頭皮の除去はいつも傷跡を残している。このような傷跡のほか、通常切開処置の後数日間の中程度の痛みがあったり、6から8週間、窮屈な感覚がある。切開処置が重なると複数の傷跡が残ったり、傷跡の上下が薄毛になる。頭皮の柔軟性や弛緩性の計算を間違えて広すぎる移植片が切除された場合、傷口を塞ぐのに要する張力により、大きくて見苦しい傷跡を作る可能性がある。このような傷口は隠したり誤魔化したりするのが難しく、著しい美容上の奇形の原因となることもある。
【0004】
FUG’sは顕微鏡の操作を用いた様々な技術によりドナー片から切開される。最も優れた技術者は多くの場合1時間当たりほぼ250から300の移植片を作り出すことができ、平均的な技術者は1時間当たり200程度の移植片を作り出す。FUG’sはFUGに含まれる毛髪の数に基づくグループに分類される。最も優れた技術者は約2%から5%の切断率を有している。
【0005】
近年、Dr. William Rassman および Dr. Robert Bernstein が毛胞単位摘出(FUE)と称される技術を公表した。その技術においては、毛胞単位がメスを用いた線状の切開を行うことなしに恵皮部から摘出されていた。これは、表皮層や真皮層に切り込みを入れるために鋭い1mmの径のパンチを用い、そして鉗子を用いて毛胞単位を周囲の皮膚から取り除くことによってなされていた。彼らの研究結果は、いくつかの毛胞は容易に取り除かれるが、その他の毛胞は取り除く過程で切断される深刻な傾向があることを示唆していた。彼らの研究により、移植手術の良好な候補者は切断率が20%以下であるとして定義されているが、彼らの切断テストによれば患者の約25%のみが移植手術の良好な候補者であると見なされた。この試験はFOX(FOllicular eXtraction)試験と呼ばれている。
【0006】
侵入深さおよび侵入角度を制御するのが困難なために前述の手法は技術的に難しい。鋭いパンチが深く侵入し過ぎたり誤った角度に侵入したりすると、毛胞単位を切断する可能性がある。このような方法は切断の問題、移植片の除去の困難性、移植片を作るのに要する時間および、移植候補者の低い割合のために広くは採用されていない。
【0007】
FUE のエキスパートであるDr. John Cole, は、鋭いパンチの深さを起毛筋(おそらくFUGのより深い組織への結合および摘出の際の切断の原因に関与すると思われる)の付着物の直下に制限し、生育可能な作られた移植片の数を増加させる器具を発明した。彼は、この試験を FIT, すなわち Follicular Isolation Technique と呼んだ。彼は、1日に最大1200の移植片を作り移植したことをウェブサイトで報告している。このようなことを達成するのに要した時間がより正確に報告されていることは信用されていない。
【0008】
アフリカ系アメリカ人や白髪の比率の高い人々の頭皮からの移植片の切断は特に問題を有している。アフリカ系アメリカ人の毛胞は概して高い確率で巻き毛からなり、切開を難しくして切断率を高くする傾向にある。白髪の毛胞もまた、顕微鏡下でさえもほとんど見えにくく、切断率を高くする傾向にある。
【0009】
毛胞の切断の総量を減らし毛胞の摘出率を増加させる毛胞摘出方法及びこれに関連した器具の必要性が残る。
【0010】
発明の概要
標準的な毛胞単位の作成および現在の FUE 技術に関連した問題を解決するために、本発明は、現在の技術の欠陥を減少させ除去する方法及び器具を提供する。この方法および器具は、訓練された者と同じように一定の成功を伴って初心者にも使用できる。
【0011】
本発明に係る方法は、まず皮膚に約0.3mmから約1.5mmの制限された深さの
切れ目を入れる(切開する)ための鋭いパンチの使用を含んでいる。ここにおいては、鋭いという用語は、薄くて鋭い刃により比較的容易に皮膚の表面を切り切開する機能を有するものとして定義されている。切れ目を入れるパンチは、例えば、約1mmの径(内径)を有する。そして、切れ目を入れるパンチは除去される。このような制限された深さへの切開は、毛胞の形状および挿入深さの制限のために毛胞を切断する危険を劇的に減少させる。切れ目を入れる段階の後に、「切開用」パンチとここで言及されている先の丸いパンチの切れ目を入れるパンチによって作られた切れ込みへの配置が続く。ここにおいて用いられているように、「blunt」とは鈍くて丸まっている刃を有し、先の丸い刃により容易に切断し切開できるとして定義されている。切開用のパンチは約1mmの内径を有し、約4mmから約6mmの長さを有する。
【0012】
切開用のパンチは、わずかに回転して皮膚の中に押し込められることが可能である。一般的に手術者は、切開用のパンチの先端がより密集した組織を通過する際に弾けるような感覚を覚える。そして、前述の段階で形成された移植片(毛胞単位)は例えば鉗子を用いて皮膚から除去される。切開用のパンチの先の丸い形状は、毛胞を切断することなしにパンチの管腔の中に毛胞群を導くことによって、毛胞の切断を好ましくは10%以下に有利に減少させる。
【0013】
器具はまた、本発明によれば前述の方法の実施を容易にするために供される。ある実施例では、器具は少なくとも2つの基本的な部品を有している。第1の部品は、好ましくは内径約0.7mmから1.0mmを有し、挿入深さを例えば0.3mmから約1.5mmに制限する器具の中に収容されている切れ目を入れる鋭いパンチである。一旦切れ込みができると、切開用の先の丸いパンチが摺動の機構により動作し、切れ目を入れるパンチが進むことなしに、切れ目の中に入り皮膚の残りの部分を通すようにして挿入される。切開用の先の丸いパンチは切れ目を入れるパンチの外径よりもわずかに大きい内径を有していてもよい。
【0014】
ある形状によれば、この器具は器具全体を回転させることなしに切れ目を入れ切開するパンチを回転させる機構を有している。もう一つの形状によれば、皮膚層を通して切開用のパンチを素早く動作させる機構を有している。さらにもう一つの形状によれば、切開用のパンチがその機能を実行した後に、移植片を皮膚から除去する部品が器具に含まれている。
【0015】
ある形状によれば、器具は、交流もしくは直流の中から選択される電源、空気(圧縮空気)、吸引もしくは機械的な動力を用いた動力器具である。このような動力器具は切れ目を入れる機能および切開する機能を有利することができ、それにより手術者に対するストレスを緩和する。
【0016】
もう一つの実施例によれば、器具は、両端に配置されて切開用のパンチおよび切れ目を入れるパンチを持つ細長いハンドルを有する。
【0017】
本発明に係る方法及び器具によれば、患者および手術者のいずれにも価値を与えることが可能である。効果のいくつかは以下の通りである。
【0018】
患者側の効果
・毛胞の切断の減少、その結果として移植するために摘出する毛髪の増加
・ドナーとしての機能の50%から80%への増加(もはや頭皮の弛緩に限定されない)
・手術前の痛みの軽減
・速やかな回復
・目に見える傷跡がない
・より早く移植片が成長できる可能性
・アフリカ系アメリカ人および白髪の患者が毛胞のより少ないダメージのために著しい利益を得る
【0019】
手術者側の効果
・毛胞の切断の減少
・必要とする移植片の数をより正確に計画することができる
・FUG’sを選択可能であること(すなわち、密にするために2つの毛髪のFUG’sよりも4以上の毛髪のFUG’sを選択したり、目立つ生え際のためにさらに1つのFUG’sを選択すること)
・スタッフの人数の減少(FUG’sは手術者ひとり、もしくは限られた訓練の後に最小限の能力のあるスタッフによって得られる)
・アフリカ系アメリカ人もしくは白髪のある患者からの移植片を確信を持って最小限の切断で得ることができること
・諸経費および技術的な装置(例えば、移植片の切開のための顕微鏡)の必要の減少する可能性
・移植片当たりの価格の減少および潜在的な市場の拡大の可能性
・進歩した技術および器具からの成果を優れた患者に提供する手術者に対する販売市場の有利性
【0020】
本発明に係るこれらのもしくはその他の利点は、本発明に係る以下の説明を考慮すれば通常の当業者にとって明らかになるであろう。
【0021】
本発明の記述
図1に William Rassman 博士および Robert Bernstein 博士によって開発された先行技術に係る毛胞の摘出技術を図式的に示す。例えば、 Rassman et al., Dermatologic Surgery 2002; 28:720-728 を参照。図1を参照して、患者の皮膚は脂肪層102、真皮層104および表皮層106を有している。恵皮部内では、2個の毛胞110および112からなる毛胞単位108が真皮層104および表皮層106を通して延びており、脂肪層102に固定されている。毛胞単位が多かれ少なかれ2個程度の毛胞を有することは、当然のことながら当業者によって認識されている。
【0022】
このような毛胞の摘出技法を行う間、手術者は突き出ている毛髪に対してほぼ平行に鋭いパンチ114を一列に並べる。そして、パンチ114は充分な力で頭皮に押し込まれ、パンチ114の鋭い刃が表皮層106と真皮層104を通して下方に延びる(図1(b))。しかしながら、図1(c)に示すように、毛胞110および毛胞112が各層を通して実質上平行でないならば、これらはパンチ114によって切断される。そして、手術者は鉗子109もしくはそれに似たような器具を使って毛胞単位116を摘出する(図1(d)、図1(e)および図1(f))。しかしながら、摘出された毛胞単位116は切断され、移植のために役立たない(図1(f))。
【0023】
図2に本発明に係る毛胞の摘出の方法を図示する。一般的に、本発明に係る方法は、毛胞単位の摘出の準備のために2段階の技術を有している。最初の段階では毛胞単位の周囲の皮膚に切れ目を入れ、2番目の段階では毛胞を毛胞単位を周囲の組織や脂肪からせん断しないで毛胞単位片の形状で切り離す。
【0024】
図2(a)を参照して、患者の皮膚は、脂肪層202、真皮層204、表皮層206、そして毛胞単位208を有している。毛胞単位は真皮層および表皮層を通して延びている2個の毛胞210、212から成り、脂肪層202に固定されている。
【0025】
本発明に係る方法は、切れ目を入れるための鋭いパンチ214の使用を含むものである(図2(b))。切れ目を入れるための鋭いパンチ214は好ましくは断面円形状の刃先を有し、また少なくとも内径約0.1mm以上で約1.1mmよりも大きくないのが望ましい。1つの実施例によれば、切れ目を入れるパンチ214の刃先は内径約0.7mmから約1.0mmまでの間である。切れ目を入れるためのパンチの刃先は、当業者に知られているように、比較的簡単に表皮層206、真皮層204および脂肪質202を切り開くだけの充分な鋭さを持っている。例として、Miltex, Inc., Bethpage, N.Y.から入手可能な内径1mmのDermal Biopsy Punchが挙げられる。
【0026】
手術者は、切れ目を入れるための鋭いパンチ214を、表皮部206から突き出ている毛髪210および毛髪212にほぼ平行に、切れ目を入れるためのパンチ214の管腔に突き出ている毛髪が入れられた状態で一列に並べる。そして手術者は一定限度の量の力を切れ目を入れるためのパンチ214に加え、これにより、切れ目を入れるためのパンチが表皮層206を切り開き、真皮層204の上部に切れ目を入れる(部分的に切り開く)。このとき、トータルの深さは約1.5mmよりも大きくないのが望ましく、例えば、約0.3mmから約1.5mmの間が望ましい。切れ目を入れるための鋭いパンチ214は、皮膚および真皮層の上部に切れ目を入れるのに充分な深さに挿入されるべきであるが、毛胞の切断のおそれがあるくらいに深く挿入されるべきではない。その後、切れ目を入れるための鋭いパンチ214は取り除かれる。
【0027】
そして、図2(c)に示すように、切れ目を入れるパンチよりも鋭くない切開用の先の丸いパンチ215が、切れ目を入れるためのパンチ214によって作られた切れ目に挿入される。切開用の先の丸いパンチ215は、切れ目を入れるパンチ214の外径よりもその内径がわずかに大きい。これにより、切開用のパンチ215は切れ目を入れるパンチ214によって形成された切れ込みを通して容易に進むことができる。切開用の先の丸いパンチ215は切れ目を入れるパンチ214よりも鋭くなく、切開用のパンチ215の先端はそれゆえに毛胞(例えば毛胞210)をせん断する可能性が低くなっている。しかしながら、切開用のパンチ215は、手術者による過度の力を加えることなしに、より柔軟な真皮層204や脂肪層202を通して進むことが可能である。
【0028】
切開用のパンチ215は、毛胞単位208を実質上傷つけることなしに、毛胞単位片(すなわち、毛胞単位およびその近傍の組織)の形状からなる毛胞単位208の続いて行われる除去が可能なくらい充分な深さにまで真皮層204およびを脂肪層202を通して進む。従って、切開用のパンチ215は切れ目を入れるためのパンチ214の挿入深さよりも深い深さにまで貫通し、真皮層204を通して脂肪層202に中に完全に挿入されることが可能である。ある実施例によれば、切開用のパンチ215は、トータルの深さで少なくとも約1.5mm以上で8mm以下の深さ、例えば約4mmから約7mmまで挿入される(図2(c))。ある実施例では、切開用のパンチ215は5mm以上の深さに挿入されない。これは、はっきり言えば毛胞単位208の周囲の繊維質の付着物が、毛胞単位208の基部203のみに付いた状態で分離することである。(図2(d))。そして、手術者は鉗子209やこれと同じような器具を使って毛胞単位208を皮膚から除去する。毛胞単位208は無傷のまま除去され受皮部への移植のために用意される。
【0029】
切れ目を入れるパンチ214や切開用のパンチ215は、剛体材料や半剛体材料あるいはこれらと同等の材料、特に金属のような通常上記のような目的で使用される材料で製造可能であることは、通常の当業者にとって当然のことである。切れ目を入れるパンチおよび切開用のパンチのそれぞれの断面は、様々な皮膚層の中へあるいはこれらを通した移動を容易にするために手術者がパンチを捻る(回転させる)ことが可能であるといったことを含む様々な理由により、円形状であるのが好ましい。しかしながら、 Yeh らにより米国特許No. 5,183,053 に公表された公報にそのまま記載された楕円形の生体検査用のパンチのような円形状以外の断面であっても有用であろう。
【0030】
本発明に係る方法は、当然のことながら、切れ目を入れる段階および切開する段階に応じた2つあるいはそれ以上の別々の器具を利用することにより実施される。すなわち、鋭いパンチを具えた最初の器具および先の丸いパンチを具えた2番目の器具が、毛胞単位を切開および摘出するのに使用することができる。
【0031】
しかしながら、望ましい実施例では、本発明に係る方法は切れ目を入れる鋭いパンチおよび切開用の先の丸いパンチの双方を具えた単一の器具を使用して実施される。例えば、その器具は、硬いハンドルの一端に設けられた鋭いパンチおよび当該ハンドルの他端に設けられた切開用の先の丸いパンチを有している。
【0032】
図3に、本発明の1実施例に係るこのような器具を示す。この器具は、上述のような、皮膚層に切れ目を入れるための鋭いパンチ314を有している。切れ目を入れる鋭いパンチ314は、図2について記述されているような外径を有しており、1つの実施例として外径約1mmを有する。
【0033】
図3に示す実施例では、切れ目を入れる鋭いパンチ314は、外側の切開用の先の丸いパンチ315の管腔内に配置されている。手術者はその器具を、具体的には切れ目を入れる鋭いパンチ314を表皮から突き出ている毛髪310および312とほぼ平行に一列に並べる。これにより、突き出ている毛髪310および312は切れ目を入れる鋭いパンチ314の管腔に配置される。切れ目を入れる鋭いパンチ314が延びたこの器具は表皮層306を鋭く切り開き、好ましくはトータルの深さが約1.5mm以下よりも深くない深さに、例えば約0.3mmから約1.5mmの深さに、上部の真皮層304に切れ目を入れる。このとき、切れ込みの深さは器具によって制限されるのが好ましい(図3(a))。図3に示すように、切れ目を入れる鋭いパンチ314の挿入深さは切開用のパンチ315の端部によって制限されている。そして、切れ目を入れる鋭いパンチ314は切開用のパンチ315の管腔に引っ込められ、切開用のパンチ315は切れ目を入れるパンチによって形成された切れ込みの中に向けて、真皮層304を通すようにさらに脂肪層302の中に入るようにして進む。このとき、図2に関する上述の議論の深さ、例えば約4mmから約7mmが好ましい(図3(b))。切開用のパンチの挿入深さはまた、本器具についてここに公表された望ましい深さに制限されるのが好ましい。図3(b)に示すように、切開用のパンチの挿入深さは、切れ目を入れるパンチ314および切開用のパンチ315をいずれも包むハウジングの端部に制限される。図5の実施例に示すように、ハウジングは手術者によって握られる器具のハンドルとして供されることも可能である。
【0034】
切開用のパンチ315の作用により毛胞単位308を取り囲んでいる繊維質の付着物がはっきりと切り離され、毛胞単位308はその基底部303のみで付いている状態になる(図3(c))。そして、手術者は、鉗子309もしくはこれに相当する、例えば引張器具や吸引器具といった器具を用いて毛胞単位308を皮膚から除去する(図3(d)および図3(e))。そして、毛胞単位は受皮部における植毛用として用意される。
【0035】
図4に、切開用のパンチが複数のスプラインを具えた「鋸歯状」チップ401を利用した、本発明の好ましい実施例を示す。このような改良は、切開用のパンチがより容易に真皮の付着物から毛胞単位を切り離すことを可能にし、手動回転もしくは自動回転のいずれかの回転を用いることにより、よりたやすく組織を通して前進することを可能にする。どのような数のスプライン402でも利用することができ、一つの実施例では、切開用のパンチの先端は2から5個のスプラインを有している。スプラインの一端は、図4(b),図4(c),図4(d),図4(e)および図4(f)に示すように、切開用のパンチの主軸404に対してある角度を有していてもよく、あるいは図4(g)に示すように主軸404に対して真っ直ぐ(切開用のパンチの主軸404に対して実質上平行)であってもよい。図4(d)は切開用のパンチの外観を表し、図4(e)および図4(f)は、延びた状態および引っ込んだ状態の切れ目を入れるパンチ408をそれぞれ示した、当該改良された切開用のパンチの先端の断面を表す。
【0036】
注目すべきは、ある実施例によれば切れ目を入れるパンチおよび切開用のパンチを一体に設けることが可能であるということである。すなわち、一つのパンチが、鋭い前縁を具えて一方に回転した場合に皮膚に切れ目を入れることが可能であり、当該パンチが逆方向に回転した場合に毛胞を切断せずに切り裂くことが可能な鈍い後縁を具えた多くのスプラインを有することが可能である。
【0037】
ある実施例によれば、器具の管腔内の吸引プローブもしくは機械式の鉗子が、毛胞単位を除去するために毛胞単位に牽引力を与える。さらに、その器具は、患者の皮膚に押し込められる切れ目を入れる鋭いパンチおよび/または切開用のパンチを回転させる機構を含めることができる。もう一つの実施例は、ナイフや鋭い匙あるいは切開用のワイヤが切開用のパンチの先端に組み込まれている機構を有しており、このような機構が動作した場合には、移植片の周囲の皮膚からの除去の容易性を高めるために、毛胞単位の底部にある脂肪質の付着物を切断する。このような改良は、例えば冷凍保持用の溶液に毛胞単位を移すといったことなどの、毛胞単位に対して機械式の把持や吸引器具を用いた器具の管腔を通して毛胞単位をそっくりそのまま除去する方法を含んでも含んでいなくてもよい。
【0038】
図5は本発明に係るもう一つの実施例による毛胞の摘出器具を示す。この器具は、取り扱いの容易性を高めるために切れ目の入った表面を有した、好ましくは医療グレードのプラスチックもしくはその他の適切な材料からなる硬いハンドル516を具える。この器具は、その一端には断面で示すように皮膚層に切り込みを入れるための上述のようなパンチ514を有している。切れ目を入れる鋭いパンチ514は図2に関して記述された外径を有しており、ある実施例においては約1mmの外径を有している。切開用の先の丸いパンチ509は、断面図に示すように器具の他端に設けられていて、好ましくは約0.8mmから約1.0mmの内径を有している。切開用の先の丸いパンチ509の先端は、切れ目を入れるパンチ514よりも鋭くないため毛胞の剪断の可能性は極めて低い。
【0039】
使用者はその器具、具体的には切れ目を入れるパンチ514を、表皮層から突き出ている毛髪510,512に対してほぼ平行に一列に並べる。これにより、突き出ている毛髪が切れ目を入れる鋭いパンチ514の管腔に配置される。指によって保持されているこの器具はハンドルの軸周りに回転し、表皮層506を鋭く切り開き、上部真皮層504に好ましくはトータルの深さが約0.3mmから約1.5mmの切れ目を入れる。この挿入深さは器具によって制限されるのが好ましい。図5に示す実施例では、この深さはハンドル516の下面517によって制限されている。そして、この器具は手術者の指の間で回転し、切開用の先の丸いパンチ509が突き出ている毛髪510や切れ込んだ表皮層506および真皮層504の上方に位置する。そして切開用のパンチは真皮層504および脂肪層502を通して、好ましくは図2に関する上述の約4mmから約7mmの深さにまで進む。この深さはこの器具によって制限されるのが好ましい。このような行為により毛胞単位508の周囲の繊維質の付着物がはっきりと分離し、毛胞単位はその基部503に付着しているのみとなる。切開用のパンチの先端はまた、上述し図4(f)および図4(g)に示すように、鋸歯状であってもよい。
【0040】
そして手術者は、鉗子509もしくはこれと同様な器具を用いて皮膚から毛胞単位508を除去できる。そして毛胞単位は受皮部における植毛用として用意される。このようなプロセスは適切な数の毛胞単位の摘出のために多数回繰り返すことができる。
【0041】
本発明のある好ましい実施例によれば、切開用のパンチは、切れ目を入れた皮膚にパンチを挿入し易くするために先細状(例えば、勾配を有する)である。このような切開用のパンチの断面が図6に示されている。このパンチ600は先の丸い切開用の端部602およびパンチの侵入の深さを制限するのに適合した肩部604を有する。このパンチはパンチの挿入を容易にし周囲の皮膚組織からの毛胞単位の分離をし易くするために先細部606を有している。当然のことながらテーパは鋸歯状のパンチと同様に非鋸歯状のパンチにも適用することができる。ある実施例によれば、テーパ部(a)の長さは少なくとも約0.3mmで約0.7mmよりも大きくない。より好ましい実施例によれば、テーパ部は少なくとも約0.4mmの長さを有し、例えば約0.5mmのように0.6mmよりも大きくない。効果的な切開のために、テーパ部606は好ましくは、例えば約20%のように、少なくとも約10%以上で約30%よりも小さく、径が減少しているものである。例えば、ある実施例ではパンチ600は約1.52mmの主要径(b)を有し、約1.24mmの先端径(c)を有する。そして、切開用のパンチのトータルの長さ(例えば、肩部604までの)は約5mmで内径は約1mmである。
【0042】
図7は、本発明に係る他の実施例による毛胞の摘出器具700の外観を示す。この器具700は使用者が握るのに適合した凹型の中央部704を具えた細長いハンドル702を有する。このハンドル702の一端側は、患者の表皮層や真皮層に切れ目を入れるのに適合した切れ目を入れる鋭いパンチ706を具える。そしてこの器具は手術者の手の中でひっくり返すことが可能で、ハンドル702の他端に設けられている切開用の先の丸いパンチ708は周囲の皮膚組織から毛胞単位を切開するのに使用することができる。
【0043】
図8は図7に示された切開用の先の丸いパンチの外観を示す。切開用の先の丸いパンチ808はテーパ部を有し、周囲の皮膚組織からの毛胞単位の除去に適合させるために鋸歯状に形成されている。図8に示すように、切開用の先の丸いパンチは4つのスプライン810を有している。
【0044】
上記図面は、本発明に係る方法を実施するのに適合したいくつかの器具を表している。しかしながら、この方法が他の器具を用いて実施できることは当業者にとって当然のことである。
【0045】
実施例
本発明に係る方法は、多くの患者における毛胞の摘出のために実施される。試験は難しい髪質の者、アフリカ系アメリカ人、白髪の者を含み、試験結果は限られた数のサンプルに関して実質的に無効なデータはない。本発明に係る方法を用いたタイムトライアルによる推定は、1時間当たり300から400の移植片を摘出する能力を示している。移植片を作るこの速さは、1日に最大2000の移植片を移植する能力を伝える可能性がある。複数の部品を組み合わせた器具は、このような移植片を作る速さを2倍にし、1日に最大3000の移植片を移植するケースを可能にする潜在能力を有する。
【0046】
本発明による鋸歯状の切開用のパンチは、切開用のパンチが毛胞単位を皮膚の組織の中に押し込む現象である、埋没した毛胞単位の頻度を減らすことができる。他の例では、3人の患者がトータルで422の移植片を受ける毛胞の摘出処置に参加している。本発明に係る方法は、鋸歯状の切開用の先の丸いパンチ(図8に図示されているのと同様な)の深さ5mmへの挿入に続く、1mmのパンチ(Miltex, Inc., Bethpage, NY)を用いた約1.3mmの深さへの表皮層の鋭い切開に用いられる。そして、毛胞単位はフェルスター鉗子により除去される。毛胞のトランザクション速度および埋没した毛胞単位の事例は記録されている。
【0047】
移植片は48の切断された毛胞を含むトータルで1207の毛胞の可能性を示している。これは4パーセントの毛胞の切断率である。422の摘出された移植片の組では、3つが回収される4つの埋没した移植片がある。これは0.9%の移植片の埋没率および0.2%の未回収率を示している。鋸歯状の端部は、切開のプロセスの能力を高める、より迅速で滑らかな挿入のプロセスの効果がある。
【0048】
本発明に係る様々な実施例は詳細に記述されているが、これらの実施例の改良や適合を当業者が思いつくのは明白である。しかしながら、このような改良や適合が本発明の思想の範囲内であることは明らかに理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来技術による毛胞の摘出方法を示す図である。
【図2】本発明の1実施例による毛胞の摘出方法を示す図である。
【図3】本発明の1実施例による毛胞の摘出器具および方法を示す図である。
【図4】本発明の1実施例による毛胞の摘出器具および方法を示す図である。
【図5】本発明の1実施例による毛胞の摘出器具および方法を示す図である。
【図6】本発明の1実施例による毛胞の摘出器具に係る切開用のパンチを示す図である。
【図7】本発明の1実施例による毛胞の摘出器具の外観を示す斜視図である。
【図8】本発明の1実施例による切開用のパンチの外観を示す拡大斜視図である。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】

【図1(d)】

【図1(e)】

【図1(f)】

【図2(a)】

【図2(b)】

【図2(c)】

【図2(d)】

【図2(e)】

【図2(f)】

【図3(a)】

【図3(b)】

【図3(c)】

【図3(d)】

【図3(e)】

【図4(a)】

【図4(b)】

【図4(c)】

【図4(d)】

【図4(e)】

【図4(f)】

【図4(g)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の深さを有する切れ目を形成するために恵皮部の予め選択された部分に切れ目を入れるステップと、
(b)切開用のパンチを当該切れ目に前記第1の深さよりも深い第2の深さにまで挿入して1つの毛胞単位を具える1つの毛胞単位片を形成するステップと、
(c)前記毛胞単位片を前記恵皮部から除去するステップと、
を具えることを特徴とする恵皮部からの毛胞摘出方法。
【請求項2】
前記切開用のパンチが切開用の先の丸いパンチからなることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項3】
前記切れ目が実質的に円形であることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項4】
前記切れ目が約0.1mmから約1.1mmの径を有することを特徴とする請求項3に記載の毛胞摘出方法。
【請求項5】
前記切れ目が約0.7mmから約1mmの径を有することを特徴とする請求項3に記載の毛胞摘出方法。
【請求項6】
前記第1の深さが約1.5mmよりも大きくないことを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項7】
前記第1の深さが約0.3mmから約1.5mmまでの間であることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項8】
前記第2の深さが約1.5mmから約8mmまでの間であることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項9】
前記第2の深さが約4mmから約7mmまでの間であることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項10】
前記切開用のパンチが、前記毛胞単位片の除去のステップの前に前記恵皮部から除去されることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項11】
前記毛胞単位片の前記除去のステップが、鉗子を用いた毛胞単位の除去を具えることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項12】
前記毛胞単位片の前記除去のステップが、吸引を用いていることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項13】
前記除去のステップの前に前記毛胞単位片の底部の脂肪層からの分離のステップをさらに具えることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項14】
切開用のパンチを挿入する前記ステップが、前記切開用のパンチを前記切開用のパンチの主軸周りを回転させるステップを具えることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項15】
前記毛胞単位を移植するステップをさらに具えることを特徴とする請求項1に記載の毛胞摘出方法。
【請求項16】
請求項1に記載の前記摘出方法を実施するための毛胞摘出器具。
【請求項17】
(a)約1.5mmよりも大きくない第1の深さを有する切れ目を形成するために恵皮部の予め選択された部分に切れ目を入れるステップと、
(b)切開用の先の丸いパンチを前記切れ目に少なくとも約4mmよりも大きい第2の深さにまで挿入して1つの毛胞単位を具える1つの毛胞単位片を形成するステップと、
(c)前記毛胞単位片を恵皮部から除去するステップと、
(d)前記毛胞単位片を受皮部に移植するステップと、
を具えることを特徴とする恵皮部からの毛胞単位片の摘出方法。
【請求項18】
(a)切れ目を入れる鋭いパンチと、
(b)切開用の先の丸いパンチと、
を具えることを特徴とする毛胞単位の恵皮部からの摘出のための毛胞摘出器具。
【請求項19】
前記切れ目を入れるパンチがほぼ円形の刃先を具えることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項20】
前記刃先が内径約0.1mmから約1.1mmを有することを特徴とする請求項19に記載の毛胞摘出器具。
【請求項21】
前記刃先が内径約0.7mmから約1mmを有することを特徴とする請求項19に記載の毛胞摘出器具。
【請求項22】
前記切れ目を入れるパンチの挿入深さを制限する手段を具えることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項23】
前記切れ目を入れるパンチを挿入するための前記手段が前記切れ目を入れるパンチの挿入深さが約1.5mmよりも大きくならないように制限するための手段を具えることを特徴とする請求項22に記載の毛胞摘出器具。
【請求項24】
前記切れ目を入れる鋭いパンチが前記切開用の先の丸いパンチの管腔に配置されていることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項25】
前記切開用のパンチを回転させる手段を具えることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項26】
前記切開用のパンチが鋸歯状の切開刃を具えることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項27】
前記切開用のパンチが前記毛胞単位片の底部を脂肪層から分離させる手段を具えることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項28】
前記切開用のパンチが先細状であることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項29】
前記切開用のパンチが鋸歯状であることを特徴とする請求項28に記載の毛胞摘出器具。
【請求項30】
前記切れ目を入れる鋭いパンチおよび前記切開用の先の丸いパンチが細長いハンドルの両端に配設されていることを特徴とする請求項18に記載の毛胞摘出器具。
【請求項31】
(a)手術者による把持に適合し第1および第2の端部を有するハンドルと、
(b)前記ハンドルの前記第1の端部に設けられた切れ目を入れる鋭いパンチと、
(c)前記ハンドルの前記第2の端部に設けられた切開用のパンチと、
を具えることを特徴とする恵皮部からの毛胞単位の摘出を行うための毛胞摘出器具。
【請求項32】
前記ハンドルが前記切れ目を入れるパンチの挿入深さを制限するのに適合していることを特徴とする請求項31に記載の毛胞摘出器具。
【請求項33】
前記切れ目を入れるパンチが内径約0.1mmから約1.1mmを有することを特徴とする請求項31に記載の毛胞摘出器具。
【請求項34】
前記切れ目を入れるパンチが約0.7mmから1mmの径を有することを特徴とする請求項31に記載の毛胞摘出器具。
【請求項35】
前記切開用のパンチが鋸歯状であることを特徴とする請求項31に記載の毛胞摘出器具。
【請求項36】
前記切開用のパンチが先細状あることを特徴とする請求項31に記載の毛胞摘出器具。
【請求項37】
前記ハンドルが前記切開用のパンチの挿入深さを制限するのに適合していることを特徴とする請求項31に記載の毛胞摘出器具。
【請求項38】
(a)手術者による把持に適合したハンドルと、
(b)前記ハンドルの一端に設けられた2重機能を有したパンチであって、前記2重機能を有したパンチがスプラインを有した円形の鋸歯状の先端部を具え、前記スプラインの前縁側が鋭く前記スプラインの後縁側が鈍いパンチと、
を具えることを特徴とする恵皮部からの毛胞単位の摘出を行うための毛胞摘出器具。
【請求項39】
前記パンチの軸の周りの2つの回転方向に前記2重機能を有したパンチを回転させる手段を具えることを特徴とする請求項38に記載の毛胞摘出器具。
【請求項40】
管腔および一端に形成された複数の鈍い鋸歯を具えた先の丸いパンチで構成され、切れ目を入れた毛胞単位の周囲の組織および脂肪層からの分離に適合した毛胞摘出器具。
【請求項41】
前記先の丸いパンチが先細状であることを特徴とする請求項40に記載の毛胞摘出器具。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−532201(P2007−532201A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507527(P2007−507527)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/011923
【国際公開番号】WO2005/109799
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(506338401)エイチエスシー デベロップメント エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】