説明

水質分析用酸化装置

【課題】 酸化効率を向上させることにより小型化を可能としつつ、長期にわたって性能を発揮することが可能な水質分析用の酸化装置を提供する。
【解決手段】 有機物、窒素化合物またはリン化合物を有する試料液中のTOC、全窒素、および全リンの含有量を分析するための水質分析用酸化装置であり、前記試料液が一方向に流動する反応容器内に、185nm及び254nmの波長の紫外線を発する紫外線ランプと、光触媒機能を有する繊維からなる不織布の成形体とを有し、前記試料水が前記光源からの光の照射下、前記成形体を通過するように構成されており、前記有機物、窒素化合物またはリン化合物が酸化される機能を有する水質分析用酸化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質分析装置に組み込まれ、光触媒と紫外線照射手段とを有し、水中の全有機炭素含量(TOC)、全窒素および全リンの分析に好適な試料液を酸化するための水質分析用酸化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
純度の極めて高い超純水は電子産業分野で利用され、その要求水質も年々厳しくなるとともに、使用量も増加しており、一定基準水質の超純水を安定的に供給することが重要になっている。一方、環境保全の観点から、排水中の汚濁物質に関する基準も非常に厳しくなっている。
【0003】
純水、超純水の清浄度を表す指標として、水中に含まれる有機物中の炭素量で汚染度を表す全有機炭素(TOC)がある。一般的にTOC測定には、紫外線(UV)酸化方式のTOC計が利用されている。この方式では、試料液を紫外線照射部へ導入し、ここで試料液に紫外線を照射して試料液中の有機炭素を有機酸や二酸化炭素に分解させ、これによる試料液の導電率変化により試料液のTOC値を求めている。
【0004】
排水中の主な汚濁物質の指標として、全窒素及び全リンがあげられる。これらの測定は、JIS K0102環境庁告示140号によって公的に規格化されている。水中の窒素化合物は硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニウムイオン又は有機態窒素として存在している。これらの水中窒素を全て測定する全窒素分析方法では、全ての窒素化合物を硝酸イオンに変えて測定するが、アンモニウムイオンや有機態窒素は硝酸イオンへと酸化されにくいため、試料液にアルカリ性ペルオキソ二硫酸カリウム溶液を加えて加熱し、全ての窒素化合物を硝酸イオンに酸化させた後に、紫外線吸光度法で測定を行っている。また、水中のリン化合物はリン酸イオン、加水分解性リン又は有機態リンとして存在しており、全リン測定ではペルオキソ二硫酸カリウムを酸化剤として添加し、加熱によって全てのリン化合物をリン酸イオンに酸化させ、発色剤を添加した後に、吸光度法で測定を行っている。
【0005】
これらの分析方法は、いずれも試料液の酸化処理を必要とするものである。分析装置の小型化、分析方法の簡便さの観点から、試料液を酸化させるための酸化装置が非常に重要となり、光照射を利用した酸化装置も提案されている。例えば特許文献1に、光照射を利用した酸化装置において、反射鏡、光触媒の利用によって光酸化効率を向上させた酸化装置が開示されている。
【0006】
特許文献1の酸化装置は、線状の酸化光源と、反射鏡と、酸化光源からの光を実質的に透過する材質からなり試料液が導入される反応管とを備え、反射鏡は2つの線状の焦点を有し、焦点の一方に酸化光源が配置されるとともに、焦点の他方に反応管が配置されたものである。この反応管に試料液の酸化を促進するための光触媒が内在されている。これにより、2つの焦点を有する反射鏡が、一方の焦点から発せられる光を他方の焦点に収束し、一方の焦点に配置された酸化光源からの光を、他方の焦点に配置された反応管に集め、さらに反応管に内在された光触媒が試料液の酸化を効率的に進めるため、効率的かつ小型の酸化装置を提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−53178号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、楕円筒状の反射鏡を用いて、焦点を酸化光源と反応管に精密に設定する必要があり、楕円筒状の反射鏡が、試料液により徐々に汚染され、反応管への光強度が極端に小さくなるために、長期にわたって十分な性能を発揮することができない。また、反応管に内在される光触媒は、充填物に光触媒をコーティングしたものが用いられ、試料液と光触媒との接触面積を増加させる工夫がなされているものの、このようなコーティング材料では表面にコーティングされた光触媒と基材となる充填物との界面が弱く、試料液流通の際に充填物の揺れが生じ、これによって充填物同士が接触し、表面の光触媒が剥がれるという問題があり、長期にわたって十分な性能を発揮することができない。以上のように、現在の技術では、長期にわたって性能を発揮する酸化装置が実現できていない。
【0009】
そこで本発明は、酸化効率を向上させることにより小型化を可能としつつ、長期にわたって性能を発揮することが可能な水質分析用の酸化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、図1の線状の酸化光源と、酸化光源の周囲に円錐状あるいは円錐台形状に加工された光触媒不織布からなる光触媒カートリッジとを備えた酸化装置を開発し、本酸化装置を水質分析用酸化装置とすることで、小型かつ、長期にわたって安定な酸化性能を発揮することを見出した。
【0011】
酸化光源は、185nmおよび254nmの両波長のUVを放射するものが用いられる。本発明において、185nm波長のUVは、試料液中にオゾンを生成し、これによって試料液中の化学物質を酸化することに消費される。一方、254nm波長のUVは、光触媒の励起に消費され、励起された光触媒がOHラジカルを生成し、これが試料液中の化学物質を酸化する。OHラジカルの寿命は、一般に10−6秒と極めて短いとされている。したがって、OHラジカルが存在する領域はUVが照射されている光触媒の表面のみであり、上記のように試料液中の化学物質を効果的に酸化するためには、光触媒にUVを効率的に照射することと、光触媒と試料液との接触を良くすることが重要である。本発明では、酸化光源の周囲に円錐状あるいは円錐台形状に加工された光触媒不織布からなる光触媒カートリッジを配置することにより、酸化光源から放射されたUVを漏れなく光触媒に照射される構造にしている。また、光触媒不織布は直径の細い繊維から構成されており、試料液との接触面積も非常に大きくなっている。
【0012】
本発明は、有機物、窒素化合物またはリン化合物を有する試料液中のTOC、全窒素、または全リンの含有量を分析するための水質分析用酸化装置であり、前記試料液が一方向に流動する反応容器内に、185nm及び254nm波長の紫外線を発する紫外線ランプと、光触媒機能を有する繊維からなる不織布の成形物とを有し、前記試料水が前記光源からの光の照射下、前記成形物を通過するように構成されており、前記有機物、窒素化合物またはリン化合物が酸化される機能を有する水質分析用酸化装置を提供する。また、本発明は、前記成形物が円錐状又は中空円錐台状のいずれかである上記の水質分析用酸化装置を提供する。
【0013】
本発明は、前記成形物が連結棒に複数段直列状に設置され、前記反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジとして使用される前記の水質分析用酸化装置を提供する。
【0014】
本発明は、前記紫外線ランプが、水の流動方向に対して平行方向に反応容器内に設けられていることを特徴とする前記水質分析用酸化装置を提供する。
【0015】
本発明は、前記光触媒繊維がシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であり、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、繊維全体に対する前記第1相の存在割合が98〜40質量%、前記第2相の存在割合が2〜60質量%である前記の水質分析用酸化装置を提供する。
【0016】
本発明は、前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合の傾斜が、繊維表面から5〜500nmの深さで存在する前記の水質分析用酸化装置を提供する。
【0017】
本発明は、前記第2相の金属酸化物がチタニアであり、その結晶粒径が15nm以下である前記の水質分析用酸化装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、酸化効率を向上させることにより小型化を可能としつつ、長期にわたって性能を発揮することが可能な水質分析用の酸化装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の水質分析用酸化装置の概念図である。
【図2】本発明の水質分析用酸化装置に係る光触媒カートリッジの拡大図である。
【図3】比較例1で用いた従来の酸化装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水質分析用酸化装置の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、不織布の成形物が中空円錐台状である本発明の水質分析用酸化装置の概念図である。本実施の形態に係る水質分析用酸化装置は、反応容器1、酸化光源2、光触媒カートリッジ3、試料液導入部4、試料液排出部5、第一導電率センサー6、第二導電率センサー7、第一測温体8、第二測温体9によって構成される。
【0021】
反応容器1は通常円筒形であり、底部に試料液導入部4、天井部に試料液排出部5を備え、該反応器1の中央部に保護管10内に配置された酸化光源2が設置されている。酸化光源2としては、185nm及び254nmの波長の紫外線を発する紫外線ランプが使用される。また、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物3が、反応容器内に複数段配置されており、酸化光源から放射されたUVの照射下に、成形物と試料液が接触するように構成されている。試料液導入部4から供給された試料液は、反応容器1内で、酸化光源2から放射される185nm波長のUVの照射を受け、試料液中の化学物質が酸化される。さらに試料液は、成形物を形成する繊維一本一本の隙間を通過する過程で、酸化光源2から放射された254nm波長のUVによって励起された成形物表面に生成するOHラジカルによりさらに酸化が促進され、試料液排出部5から排出される。
【0022】
第一導電率センサー6は、試料液導入部4に設けられ、導入試料液の導電率を測定する。また、第二導電率センサー7は、試料液排出部5に設けられ、酸化装置出口での試料液の導電率を測定する。第一導電率センサー6及び第二導電率センサー7の近傍にはそれぞれ第一測温体8、第二測温体9が備えられており、試料液の温度測定によって導電率の補正を行う。
【0023】
試料液中の全有機炭素量(TOC)は、第一導電率センサー6と第二導電率センサー7によって得られた導電率変化に基づいて求めることが可能である。このとき特許文献1記載の装置では、試料液が光触媒と十分接触しないため、振動等を加えることにより試料液の拡散混合を図ることが好ましいとされているが、本発明の場合、試料液は成形物を形成する繊維一本一本の隙間を通過するため接触が十分であり、このような拡散混合手段を講じる必要はない。
【0024】
全窒素を測定する場合は、試料液排出部5から排出された試料液を紫外線吸光度法で測定を行う。また、全リン測定では、試料液排出部5から排出された試料液に発色剤を添加した後に、吸光度法で測定を行う。
【0025】
不織布21は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している光触媒繊維からなる。
【0026】
光触媒繊維の表面は、必要に応じて白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうちの1以上が担持されていてもよい。担持方法は、特に限定されないが、前記担持される金属イオンが含まれる液と光触媒繊維とを接触させながら、第2相を構成する金属酸化物のバンドギャップに相当するエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することによって、担持させることができる。
【0027】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0028】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98質量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95質量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0029】
一方、第2相は、チタンを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、チタンが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよいが、チタニアであることが好ましい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60質量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50質量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0030】
第2相に含まれる金属酸化物のチタンの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の質量%を示している。
【0031】
本発明の酸化装置において、不織布上の平均紫外線強度(254nm)は、0.5〜10mW/cmであることが好ましく、さらに1〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。不織布表面での紫外線強度が0.5〜10mW/cmであると、化学物質の酸化を高効率に行うことができる。このような範囲にするには、酸化光源と不織布との距離等を適当な範囲になるようにすればよい。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の酸化光源から最も近い箇所と最も遠い箇所の紫外線強度を測定し、それらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0032】
次に、傾斜構造を有する光触媒繊維の製造方法について説明する。
(溶融紡糸法)
光触媒繊維は、主として一般式
【0033】
【化1】

【0034】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと有機金属化合物との混合物を得る第A工程、溶融紡糸する第B工程、不融化処理する第C工程、及び空気中又は酸素中で焼成する第D工程により製造することができる。
【0035】
第A工程は、シリカ基複合酸化物繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。
【0036】
変性ポリカルボシランは、主として上記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR’)nあるいは、MR”m(Mは金属元素、R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基又はフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0037】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、前記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で、不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、有機金属化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0038】
なお、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、1官能しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0039】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物あるいは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に出発原料として使用できる。
【0040】
第B工程においては、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下、前駆体という場合がある。)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けてもよい。なお、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0041】
前記紡糸の他に、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他該変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により巻き取り速度を制御しながら紡糸してもよい。
【0042】
これらの紡糸工程において、必要ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、あるいは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、又は有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0043】
第C工程においては、第B工程で得られた紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力又は無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。第C工程は、第D工程の焼成の際に、繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に限定されないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えてもよい。
【0044】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。なお、第C工程並びに第B工程の際に、原料中に含まれる低分子量物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えられる。
【0045】
第D工程においては、第C工程により不融化された繊維を、張力又は無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が傾斜的に増大する光触媒繊維を得る。第D工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障をきたさない場合はそのまま使用されるが、支障をきたす場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成及び結晶構造に問題が生じない温度、及び処理時間が選択される。
【0046】
なお、光触媒繊維を不織布とするには、上記製法により得られた光触媒機能を有する光触媒繊維を短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより不織布とするとすることができる。
【0047】
(メルトブロー法)
平板状不織布は、メルトブロー法を用いて、第A工程で得られた前駆体を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出するとともに、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することもできる。
【0048】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、第A工程で得られた前記前駆体を紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより安定して紡糸を行うことができる。
【0049】
紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら紡糸することが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0050】
得られた不織布は、上記溶融紡糸法の場合と同様の不融化処理及び焼成(第C工程及び第D工程)を行うことにより、光触媒繊維からなる不織布が得られる。メルトブロー法により製造される光触媒繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸法で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される平板状不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50mm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルター等に加工する際に十分なプリーツ加工性を有する。
【0051】
次いで、上記により得られた不織布を所望の形状に成形し、得られた成形物を例えば連結棒22のような枠体により間隔を設けて直列状に連結することにより、反応器内に着脱可能な光触媒カートリッジが得られる。成形方法については、特に制限はないが、例えばステンレス製の金属棒を支持部材として特定形状物に成形することができる。不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが、通常目付けが50〜500g/m、厚みは0.5〜20mmであることが好ましい。厚みは、必要に応じて不織布を積層することにより調整できる。厚みは、0.5mmよりも薄い場合には、光触媒量そのものが少なすぎて細菌の分解効果が十分に得られない。20mmよりも厚い場合は不織布が抵抗となり、圧力損失が増大し、水処理が難しくなる。
【0052】
本発明では、成形物の形状を円錐状又は中空円錐台状として反応容器内に設置され、紫外線ランプが反応容器内に水の流動方向に対して平行方向に設置されている。こうした配置にすることにより、紫外線ランプから放射される紫外線が成形物に効率良く照射され、酸化能力を高めることができる。また、成形物を連結棒によって複数段直列状にすることにより、反応容器内への脱着が容易となり、さらに複数段にすることにより酸化能力を高めることが可能である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0054】
(製造例1)
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0055】
前記ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0056】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、製造例1に係るチタニア/シリカ繊維(光触媒繊維)を得た。
【0057】
(実施例1)
製造例1により得られた光触媒繊維を厚さ2mmの不織布とし、これをステンレス製の金網(線径1mm、3メッシュ)を支持部材として直径約45mm、高さ50mmで中央部に直径20mmの穴を開けた中空円錐台状成形物として図2のような光触媒カートリッジを作製した。これを図1に示すように内径45mmの反応容器1に2段で配置した。酸化光源として出力8Wの低圧水銀ランプを1本取り付けた。酸化光源の波長は185nmと254nmの両方を放射するものである。酸化光源と光触媒カートリッジの距離は最も近い箇所で2mm、最も遠い箇所で12mmとし、光触媒カートリッジ表面の平均紫外線強度(254nm)は5mW/cmであった。試料液導入部4に第一導電率センサー6および第一測温体8を、試料液排出部5に第二導電率センサー7および第二測温体9をそれぞれ取り付け、酸化装置20を製作した。
【0058】
TOCが1ppb未満の超純水に、イソプロピルアルコール、硝酸、アンモニア、リン酸を定量ポンプを用いて極微量添加しながら、酸化装置20に導入した。このようにして作られた試料液は、TOC:10ppb、全窒素:20ppm、全リン:20ppmであった。処理流量は、300ml/minとし、3ヶ月間にわたって酸化装置への導入を継続した。この期間中、TOC、全窒素、全リンの測定を1ヶ月毎に行った。結果を表1に示す。表1から、3ヶ月にわたって正常な測定値が得られており、長期にわたって安定的な試料液の酸化処理が可能であることが確認された。
【0059】
(比較例1)
特許文献1を参考に図3に示す酸化装置40を作製した。酸化光源41として出力8Wの低圧水銀ランプを1本使用した。この低圧水銀ランプは185nm及び254nmの両波長を放射するものである。光触媒42は直径2mmのガラスビーズに酸化チタンをコーティングしたものを使用した。
【0060】
実施例1の場合と同様に、TOCが1ppb未満の超純水に、イソプロピルアルコール、硝酸、アンモニア、リン酸を定量ポンプを用いて極微量添加しながら、酸化装置20に導入した。このようにして作られた試料液は、TOC:10ppb、全窒素:20ppm、全リン:20ppmであった。処理流量は、300ml/minとし、3ヶ月間にわたって酸化装置への導入を継続した。この期間中、TOC、全窒素、全リンの測定を1ヶ月毎に行った。結果を表1に示す。表1から、2ヶ月目ではTOC、全窒素、全リンともに異常な測定値が得られており、長期にわたる安定的な試料液の酸化処理が不可能であることが確認された。3ヶ月の試験後に酸化装置を分解し、内部を確認したところ、鏡への汚れの付着と光触媒コーティング層の剥がれが確認された。
【0061】
【表1】

【符号の説明】
【0062】
1 反応器
2 酸化光源
3 光触媒カートリッジ
4 試料液導入部
5 試料液排出部
6 第一導電率センサー
7 第二導電率センサー
8 第一測温体
9 第二測温体
10 保護管
20 酸化装置
21 不織布
22 連結棒
40 酸化装置
41 酸化光源
42 光触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物、窒素化合物またはリン化合物を有する試料液中のTOC、全窒素、または全リンの含有量を分析するための水質分析用酸化装置であり、前記試料液が一方向に流動する反応容器内に、185nm及び254nmの波長の紫外線を発する紫外線ランプと、光触媒機能を有する繊維からなる不織布の成形物とを有し、前記試料水が前記光源からの光の照射下、前記成形物を通過するように構成されており、前記有機物、窒素化合物またはリン化合物が酸化される機能を有する水質分析用酸化装置。
【請求項2】
前記成形物が円錐状又は中空円錐台状のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の水質分析用酸化装置。
【請求項3】
前記成形物が連結棒に複数段直列状に設置され、反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジを構成していることを特徴とする請求項1または2記載の水質分析用酸化装置。
【請求項4】
前記紫外線ランプが、水の流動方向に対して平行方向に反応容器内に設けられていることを特徴とする請求項1記載の水質分析用酸化装置。
【請求項5】
前記光触媒繊維がシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であり、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、繊維全体に対する前記第1相の存在割合が98〜40質量%、前記第2相の存在割合が2〜60質量%である請求項1記載の水質分析用酸化装置。
【請求項6】
前記第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合の傾斜が、繊維表面から5〜500nmの深さで存在することを特徴とする請求項1記載の水質分析用酸化装置。
【請求項7】
前記第2相の金属酸化物がチタニアであり、その結晶粒径が15nm以下であることを特徴とする請求項1記載の水質分析用酸化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−202816(P2012−202816A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67541(P2011−67541)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】