海洋深層水を原料とする外用剤
【課題】天然物質である安全安心な海洋深層水を原料とし、創傷ケア製品等に応用が可能な外用剤の提供を目的とする。
【解決手段】海洋深層水と、当該海洋深層水を電気透析により淡水化処理した淡水化処理水とを混合して所定の浸透圧に調整してあることを特徴とする。
【解決手段】海洋深層水と、当該海洋深層水を電気透析により淡水化処理した淡水化処理水とを混合して所定の浸透圧に調整してあることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海洋深層水を原料として用いた外用剤に関し、特に創傷ケア製品、日焼け等の軽度皮膚障害ケア製品、皮膚の清拭製品、糖尿病患者のフットケア製品、アンチエンジング化粧品等に展開するのに効果的である。
【背景技術】
【0002】
これまでに海洋深層水を外用剤として用いた技術として特許文献1が公開されている。
しかし、同公報に開示する技術はナノフィルターで処理した透過水を14〜50倍に濃縮したものであり、濃縮工程に費用がかかり、成分量が不安定になりやすいのみならず、用途も限定されたものになる。
また、海洋深層水の外用剤としての効用が充分に立証されたものが見当たらない。
【0003】
【特許文献1】特開2007−217356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、天然物質で、安全安心な海洋深層水を原料とし、創傷ケア製品等に応用が可能な外用剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る外用剤は、海洋深層水と、当該海洋深層水を電気透析により淡水化処理した淡水化処理水とを混合して所定の浸透圧に調整してあることを特徴とする。
【0006】
海洋深層水とは、海面下200メートル以上の深海から取水したもので、無機栄養塩類に富み、有機物や細菌類が少なく清浄性があるものを言い、特に、富山湾の沖合いの深度約320mより採取される海洋深層水を日本海固有冷水と言う。
この日本海固有冷水は、深層水の3大要素である「低温性」と「清浄性」と「富栄養性」とを全て満足させ、特に「低温性」にあっては年間を通じて2℃以下の低温で水温変化がほとんどなく、現在日本で採取されている他地域の深層水温度の8〜10℃に比較して、とても低く、しかも年間を通じて温度が一定である特徴を有している。
【0007】
本発明では、海洋深層水の浸透圧を調整する稀釈水として、この海洋深層水を淡水化処理して得られた淡水化処理水を用いた点に特徴がある。
また、海水の淡水化処理方法としては、多く方法が提案されているが本発明では、電気透析法を用いた点に特徴がある。
電気透析法は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に配置して電気分解をし、イオン性の成分を減した処理水をいう。
本発明において所定の浸透圧に調整するとは、外用剤の用途に合せて調整することを意味し、概ね200〜400mOsm/kgH2Oの範囲をいい、好ましくは生理的食塩水の浸透圧レベルに調整するのがよい。
本発明に係る外用剤は多くのエビデンスを後述するように創傷治癒促進作用を有している。
なお、海洋深層水の浸透圧を調整するのに蒸留水を用いることも可能であるが、海洋深層水の効能をより出現させるには、海洋深層水を淡水化処理した処理水を希釈用に用いるのが好ましい。
本発明に係る海洋深層水を原水にした浸透圧調整液を医薬品として使用する場合には、特に限定されないが外用薬が好ましい。その剤形は特に限定されないが、噴霧剤、塗布剤などの外用液剤、クリーム剤、ゲル剤などの軟膏剤、パック、テープなどの貼付剤が挙げられる。
また、化粧品として使用する場合には、海洋深層水を原水にした浸透圧調整液自体を液体洗浄料として、さらに、ローション、クリーム等の化粧品の原料とすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、海洋深層水と、この海洋深層水を淡水化処理した淡水化処理水との混合にて等張液を製造したことにより、天然物質を原料とした安心安全な外用剤となる。
また、後述するように生理的食塩水と比較して、優れた皮膚構成細胞の機能活性、皮膚損傷治癒促進効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施例として、海洋深層水と電気透析により淡水化処理した淡水化処理水の成分分析例を図1の表に示す。
なお、濃度の単位はmg/Lである。
図1に示した海洋深層水は富山湾の沖合水深320mで採取した日本海固有冷水である。
また、淡水化処理水は、イオン交換膜を用いて電気透析して得られたものである。
従って、淡水化処理水にも各イオンが極く少量ずつ含まれている。
今回の評価では、海洋深層水と淡水化処理水とを30:70の比率で混合した等張液を用いた。
その結果を図2の表に示す。
図2の表中、浸透圧は氷点降下法にて測定し、主なイオン成分は原子吸光法で分析した。
また、pHの値はガラス電極にて測定した。
【0010】
(評価例1)
皮膚組織は、1.表皮角化細胞、2.皮膚繊維芽細胞、3.血管内皮細胞および4.リンパ管内皮細胞などから構成されている。
皮膚の創傷を治癒するには、これらの皮膚構成細胞の適度な活性化が必須である。
海洋深層水由来の等張液による皮膚構成細胞の機能活性化への影響を調査した。
【0011】
(1)生存能力亢進試験
上記4種類の細胞を0、1、2%のFCSを添加した海洋深層水由来の等張液および生理食塩水により培養した。
その後、24、48、および72時間後にWST−1 assayにより細胞生存の亢進を評価した。
その結果、生理食塩水培養群では、FCSのすべての濃度で細胞の生存が確認できないのに対して、海洋深層水由来の等張液では生存が確認できた。
(図3のグラフにて黒の棒グラフが海洋深層水由来の等張液、白の棒グラフが生理的食塩水を示す。)
【0012】
(2)繊維芽細胞増殖因子FGF−2に対する刺激応答亢進
これまでに、本分離水は皮膚組織構成細胞の生存能力を亢進することが明らかとなった。
次に、既に皮膚創傷治癒効果を有することが明らかとなっているサイトカインFGF−2を皮膚創傷治癒における重要な役割を担う繊維芽細胞が入った細胞培養ディッシュに0〜2%のFCSと海洋深層水由来の等張液または生理食塩水を加え、24時間後にFGF−2(10ng/ml)、Heparin−Na(20ug/ml)で刺激し、Lysatesを抽出した。
その後、細胞生存を制御する分子であるAktのリン酸化を刺激応答の指標としてウェスタンブロティング法で評価した。
その結果、図4に示すように生理食塩水培養群では、FCSのすべの濃度でAktのリン酸化が確認できないのに対して、分離水ではAktのリン酸化が確認できた。
【0013】
(3)in vitro創傷治癒能力亢進試験
項目(2)でFGF−2による繊維芽細胞の生存機能亢進が明らかとなった。
この結果をふまえて、最後に、皮膚創傷の自然治癒力をin vitroで評価するwound healing試験を行った。
皮膚創傷治癒における重要な役割を担う繊維芽細胞繊維芽細胞が全面に培養されているディッシュに0〜2%のFCSと海洋深層水由来の等張液または生理食塩水を加え、12時間後に、本培養ディッシュの中央部に存在する繊維芽細胞をピペットチップにより剥離した。
その状態を図5(a)に示す。
12時間後に、繊維芽細胞が自立的に剥離部を覆うことで修復された長さを計測した。
その結果、図5(b)に示すように0および1%FCS添加した生理食塩水培養群では、修復は確認できなかったのに対して、FCSのすべの濃度で海洋深層水由来の等張液においては修復が確認できた。
さらに、同じ濃度のFCS添加群においては、海洋深層水由来の等張液の方が生理食塩水と比較して、有意にin vitroにおける創傷治癒能力亢進が確認できた。
【0014】
今回、皮膚組織構成細胞レベルにおいて、海洋深層水由来の等張液は、生存能力を亢進することが示された。
さらに、in vitroにおいて、皮膚創傷治癒能力を亢進させることも明らかとなった。
【0015】
(評価例2)
皮膚の損傷治癒は、損傷を受けた局所での炎症反応や、これに連続する組織の再構築(リモデリング)、すなわち表皮細胞の増殖及び細胞外マトリックスの産生・蓄積並びに血管新生という増殖反応を主体とした生体反応である。
しかしながら、糖尿病患者や高齢者においては、皮膚損傷の治癒反応が一般に遅延することが知られている。
臨床医学の現場では「褥創」や「難治性皮膚潰瘍」として知られている。
そこで、糖尿病合併マウスの皮膚損傷治癒における、海洋深層水由来の等張液の効果について、病理学的および分子生物学的に検討する。
【0016】
(方法)
図6に示すように遺伝的糖尿病マウス(db/dbマウス)の皮膚に直径約4ミリの打ち抜き損傷を作り、損傷部局所に200 μlの海洋深層水由来の等張液を1日3回、0から10日目に亘って皮下注射する。
対照群として等量の滅菌生理食塩水を投与する。
その後、以下の点について検討を加える。
a)海洋深層水由来の等張液投与群と対照群で皮膚損傷治癒が肉眼的にどのように違うかを観察し、画像解析装置を用いて比較検討する。
すなわち、海洋深層水由来の等張液の損傷治癒への影響を検討する。
b)皮膚損傷の治癒過程での肉芽組織形成について、損傷部におけるhydroxyproline含有量を定量することによって、コラーゲンの蓄積量を検討し、海洋深層水由来の等張液投与群と対照群を比較する。
【0017】
(結果)
肉眼的観察において、図7に示すように海洋深層水由来の等張液投与群では損傷治癒が促進していることが認められた。
損傷部の閉鎖についても、海洋深層水由来の等張液投与群で生理食塩水投与群と比べて、有為に促進していた。
【0018】
損傷部におけるhydroxyproline含有量を定量したところ、図8に示すように海洋深層水由来の等張液投与群で著明に増加していた。
【0019】
以上の結果より、db/dbマウスにおける損傷治癒の遅延は、海洋深層水由来の等張液投与により、コラーゲン蓄積の増強を伴って促進することが明らかとなった。
【0020】
(評価例3)
ハブやマムシなど出血毒による毒蛇咬傷の場合は、咬傷直後は強い血管収縮が起こり、この状態が10分間程度持続することで、特に咬傷部位周辺は組織の血流が著しく減少・消失し、虚血・低酸素状態になって組織の壊死が起る。
このように、ハブ毒により壊死に至る過程は、褥瘡と類似しているため、実験動物にハブ毒を外因性壊死誘発物質として投与して壊死を実験的に誘発させることで褥瘡のモデルとした。
今回は、移植臓器の保存効果が認められている海洋深層水由来の等張液に、壊死の緩和作用がどの程度あるかを定量的に調べるのが目的で、ATP量を調べた。
【0021】
(材料と方法)
実験動物にハブ毒を外因性壊死誘発物質として投与して、壊死を実験的に誘発させることで褥瘡モデル動物(マウス)とした。
これに海洋深層水由来の等張液を連日投与し、筋壊死局所の改善効果を肉眼観察するとともに、これを安楽死させ、採取した組織の生化学的検査により筋組織の状態を調べた。
【0022】
(動物および飼育条件)
動物は九動のヘアレスマウス(Hr/Kud)を用いた。
飼育条件は、室温20〜26℃、湿度40〜70%、換気回数10回/hr、照明時間12時間(7時点灯、19時消灯)とした。
飼料は固形飼料(CE−2、オリエンタル酵母製)を自由摂取させ、飲料水も自由摂取させた。
【0023】
(筋壊死の誘発法)
動物は九動の雌性10週齢Hr/Kudマウス30匹を2週間の予備飼育後3群(1群8匹)に分かち、ペントバルビタール麻酔下でハブ素毒5mg/kgを右足肢大腿部へ投与し、3日後から1群は右足肢には等張液を、左足肢には生理食塩水を、2群には左右の足肢に生理食塩水をそれぞれ0.05ml/10gB.W.当て投与した。
3群には何も投与しなかった。
マウスはハブ毒投与から8日目に安楽死させ、足肢筋を摘出した。
なお、6匹は投与量等を決定するための予備実験に用いた。
【0024】
(生化学的検査)
採取した組織は、アト―の二次元電気泳動装置で組織蛋白質を分析した。
また、BioVisionのApoSENSORを用いたルシフェラーゼ法でATPを調べることで、壊死の程度を定量化した。
【0025】
へアレス・マウスの足肢の状態は、外観的にはハブ毒投与後日が経つにつれて悪化した。
ハブ毒投与局所の蛋白質は、正常組織では多くの蛋白質スポットが認められたが(図9(a))、ハブ毒投与局所では蛋白質スポットは消失し、ハブ毒投与30分後という極めて短時間で蛋白質が分解されたことが確認された(図9(b))。
【0026】
図10に示すようにハブ毒投与後、海洋深層水由来の等張液を投与した1群(A2)は2群(B2)及び3群(D2)に比べ高いATP値を示した。
【0027】
(考察)
ハブ咬傷時には48時間以内に全身作用(死亡)が起こるが、それを免れても咬傷局所を中心に壊死が起こる。
この壊死の過程は褥瘡と類似しているため、マウスにハブ毒を外因性壊死誘発物質として投与して壊死を実験的に誘発させた。
ハブ毒投与局所では、二次元蛋白質電気泳動によると、投与5分後はまだ普通に多数の蛋白質が認められるが、投与30分後には蛋白質スポットは消失し、ハブ毒中の蛋白質分解酵素によりかなり早い時点で蛋白分解が進んでいることが確認された。
また、生理活性物質であるATPに関しては、ハブ毒を投与していない部位(A1,B1,D1)ではいずれも高値を示したのに対し、ハブ毒投与部位ではいずれも著しく低下したが、ハブ毒投与後海洋深層水由来の等張液を投与した群は他群に比し高いATP値を示した。
これは、海洋深層水由来の等張液を投与した群では、壊死の進行が抑制されたか、もしくは、組織の再生が起こったからではないかと推測される。
従って、海洋深層水由来の等張液には、褥瘡の緩和作用があるのではないかと動物実験の結果から類推される。
【0028】
(まとめ)
1.ハブ毒投与局所の蛋白質は、投与30分後という際めて短時間で分解された。
2.ハブ毒投与後、海洋深層水由来の等張液を投与された群は、他群に比べ高いATP値を示した。
3.海洋深層水由来の等張液を投与した群では、壊死の進行が抑制されたか、もしくは、組織の再生が起こったからではないかと推測される。
4.動物実験の結果から、海洋深層水由来の等張液には褥瘡の緩和作用があるのではないかと推察される。
【0029】
(評価例4)
褥瘡形成患者に対する洗浄液としての海洋深層水由来の等張液の有効性を評価した。
【0030】
(試験対象および方法)
福祉村病院に入院中の臨床的スキンケアを必要とする褥瘡形成患者様を対象とし、海洋深層水由来の等張液を用いて洗浄を行う。
褥瘡処置前の洗浄液として海洋深層水由来の等張液を用いる。
滅菌アルミパウチの一部を切除し放水口を作り、そこから海洋深層水由来の等張液を徒手的に圧力をかけて放水し清拭・洗浄を行う。
【0031】
(目標症例数)
20箇所(褥瘡形成患者×傷瘡部位合計)
【0032】
(清拭・洗浄期間)
8週間
【0033】
(評価方法)
ID化を行った後に、カルテ番号、性別、生年月日(年齢)、身長、体重。
褥瘡の罹患期間、既往歴、合併症、使用中の褥瘡治療薬、使用中のその他の薬剤、治療における問題点を記載。
本院で行っている栄養評価SGA を開始前、開始2,4,8週目に行う。
褥瘡の評価に関しては
1.褥瘡経過評価(DESIGN)事項
合計点数の変化により評価する。
2.自覚症状
殆どが問診が不可能な状況であったため、自覚症状の情報は不十分である。ただ、処置時の表情等から推測できる場合には記録表に記載を行った。
3.その他の他覚所見
診断所見ならびに写真撮像を行った。
調査項目の概要を図11に示す。
【0034】
(結果)
男性5名、女性4名の合計9名、15箇所の褥瘡で評価を行った。
経過中に1名、呼吸不全で死亡したが本治験との因果関係は全く考えられない(ID4,7は欠番)。
図12に93歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
慢性肺気種に多血小板血症を合併し脳梗塞を併発した患者である。
中心静脈栄養管理であり栄養状態も悪く下肢は閉塞性動脈硬化、感染を併発して褥瘡形成をきたして来た。
この症例に対する海洋深層水の治癒効果は下肢、仙骨部に関しては認められなかったが、左前腕に対して形成されたビランに関しては全身状態が悪いにもかかわらず明らかな治療効果を認めた。
図13に71歳男性の症例を示す。
正常圧水頭症(脳室―腹腔シャント)、内頚動脈瘤手術後、糖尿病にて中心静脈栄養管理中で両腸骨部に褥瘡を形成し他院より転院した。
ポケット形成を認め、外科的な切除も要した。
糖尿病もあり、中心静脈栄養管理中で栄養状態も良くなく、本症例の褥瘡治癒に関しては海洋深層水の効果は認められなかった。
図14に86歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
誤嚥性肺炎、慢性関節リューマチで管理中の患者。
TPN管理中で発熱を繰り返した。
結果的に2月17日に非ケトン性高浸透圧性昏睡に陥り19日に死亡された(海洋深層水使用との因果関係はない)。
海洋深層水を使用開始とともに4週間目までは軽快傾向を示したが、その後は全身状態の影響もあり横ばい状態であった。
図15に90歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
AD、右大腿骨骨折、類天ホウ瘡で管理中の患者。
ステロイドの内服、外用を併用していたが、類天ホウ瘡の水疱破綻後にビラン形成が頻繁であった。
新たに出来た水疱破綻後にビラン形成に対して海洋深層水を用いて洗浄後、従来の処置を行ったところ、8週でビランは消失した。
図16に84歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
脊髄損傷、アルツハイマー病、尿路感染症、高血圧、化膿性肩関節炎にて褥瘡保持の状態で本院に転院してきた患者。
転院前より褥瘡形成は長期にわたり、本院でも一進一退であったが、海洋深層水の使用4週間で著明な軽快を見た。
しかし、その後はポケット形成、不良肉芽の増生を認め少々悪化した。
8週以降も治癒傾向にはある。
図17に73歳男性の褥瘡の評価結果を示す。
くも膜下出血、脊椎梗塞、前立腺癌にて褥瘡保持の状態で本院に転院してきた患者。
転院前より褥瘡形成は長期にわたり、巨大化しており市民病院形成外科にも一度受診している。
しかし、フィブラストスプレー使用の指示のみで本院でも一進一退であった。
海洋深層水の使用によりDESIGN pointは著明に改善傾向を認め治癒方向に向いているものと判断できる。
図18に70歳男性の褥瘡の評価結果を示す。
アルコール性コルサコフ脳症、ヘルペス脳炎後の患者。
中心静脈栄養管理を行っていたが経管栄養へ移行途中であった。
右拇指根と鼠径部にビランを形成したため海洋深層水を洗浄に用い、ネグミンシュガーの外用を併用した。
いずれも1ヶ月で完治した。残念ながら1月3日に誤嚥性肺炎にて死亡された。
図19に68歳男性(ID10)、71歳男性(ID11)の褥瘡の評価結果を示す。
ID10: 陳旧性心筋梗塞、慢性心不全、慢性腎不全、弁膜症、大腸弛緩症
ID11:レビー小体病、マクログロブリン血症、出血性胃炎歳
いずれも仙骨部に皮向け程度からビラン形成、褥瘡形成となった症例であるが海洋深層水を洗浄に用い、ネグミンシュガーの外用を併用したところ、いずれも約1ヶ月で完治した。
【0035】
(まとめ)
図20に15箇所の褥瘡で評価をグラフにまとめた。
全体的な印象として、感染を併発し全身状態の良くない症例やポケットのある症例にたいする効果は認められなかった。
しかし、褥瘡形成初期、比較的浅いビランに関しては著明な治癒効果、治癒促進を認めた。
コントロールをとり比較する事はできないが、治癒までの期間も短縮されている印象であった。
さらに深いDESIGN 10点を超える重度の褥瘡においても使用開始1ヶ月くらいまでは軽快傾向を見せた。
その後は全身状態、基礎疾患等の影響により横ばいとなったが、ここにおいても海洋深層水の有効性が認められたものと考えられる。
【0036】
(評価例5)
リンパ球生存能における海洋深層水由来の等張液の有用性を検討した。
【0037】
(方法)
ヒトリンパ球培養
1)外来で血液20ml−30ml採血
2)リンフォセパールでリンパ球分離
3)分離したリンパ球を以下のフラスコに分けて培養
4)それぞれの日付に到達したら以下の作業
細胞の写真を撮影(倒立顕微鏡の接眼レンズにデジカメをあてがう)
培地回収 → −30℃保存
細胞回収(PBS×2回洗浄) → −30℃保存
【0038】
(結果)
0日目
(1)採血:ヘパリン入り真空採血管にて採血 → 7ml×4本で計28ml
(2)リンパ球分離:(リンホセパールI 免疫生物研究所 #23010)
14mlずつ2本に分けPBS(−)20mlずつと混合(50ml tube)
リンホセパール15ml×4本準備(50ml tube)
血液17mlずつを上記リンホセパール液に上層する。
1800rpm r.t. 30min Cfg.
上層の血清層を取り除く。
リンパ球層を15ml tubeに回収。(2本に分けて)
1800rpm r.t. 30min Cfg.
Sup.を捨てPBS10mlを加える(×2回)
1800rpm r.t. 30min Cfg.
PBS 6ml加えてCell Count(ビュルケルチュルク:5マス)
(3)培養開始:(フラスコ:Sumilon 25cm 50ml #MS−2105R)
(培地:Gibco RPMI−1640 #11875)
上記6mlの培地を3本の15ml tubeに分け、PBS 8ml加える。
1800rpm r.t. 30min Cfg.
Sup.を捨て、それぞれの培地を5ml加える。
各培地に対して0日、2日、4日、6日、8日のフラスコを準備
培地を9mlずつフラスコに入れておく。
細胞溶液を1mlずつそれぞれのフラスコに分注
1フラスコ当たりの細胞数 = 6.5×105cells
37℃ 5%CO2インキュベーション
【0039】
(観察)
0日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
2日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
4日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
6日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
8日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
【0040】
(まとめ)
肉眼的:
FCS:細胞の形は当初から保たれている感じがする。
フラスコ底面への定着が多い。
生食 :細胞の形はFCSと比べていびつになっていった感じがする。
海洋深層水由来の等張液との差は特に分からなかった。
フラスコ底面への定着はほぼ無し。
海洋深層水由来の等張液
細胞の形はFCSと比べていびつになっていった感じがする。
生食との差は特に分からなかった。
フラスコ底面への定着はほぼ無し。
細胞数は図21に示す(単位は×105cellsで固定表記)。
生存細胞数を見ると生理食塩水よりわずかに、海洋深層水由来の等張液の方が生存性が良い印象であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る外用剤は各種用途に展開できるが、特に次のような用途に期待される。
1.浅い傷の治癒を促進させる外用剤として
すでに傷にスプレーするタイプの薬剤がいくつか市販されているが、殆どは消毒が主眼のものである。
海洋深層水は安全安心な天然物質であり、細胞増殖の促進ではなく、細胞障害を抑制することにより効果を発揮することから、有効性の高い外用剤が作製されると期待される。
2.寝たきり患者など、介護分野での身体洗浄用、或いは清拭用として
患者の清浄性を保つ目的で行われている入浴やシャワー、或いは清拭に海洋深層水等張液を用いることで、清浄性の保持に加えて、患部の障害を受けた細胞のダメージを抑え、褥瘡等の進展を防止する効果を付加する効果が期待される。
3.糖尿病患者のフットケア用として
糖尿病患者のフットケアとして、海洋深層水等張液による清拭、足浴を行うことで病変の進行を抑制できると期待される。
4.コスメティック産業への応用:『アンチエイジング化粧品』として
海洋深層水を配合する化粧品によって、紫外線や加齢等からくる皮膚へのストレスを軽減し、細胞のfreshさを維持できれば、アンチエイジング化粧品として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】海洋深層水と淡水化処理水の成分分析例を示す。
【図2】海洋深層水:淡水化処理水を30:70の割合で混合した等張液の測定及び分析結果を示す。
【図3】皮膚構成細胞の細胞生存能力評価例を示す。
【図4】Aktのリン酸化試験結果を示す。
【図5】創傷治癒能力亢進試験結果を示す。
【図6】db/dbマウスを用いた評価方法例を示す。
【図7】マウスの肉眼的観察結果を示す。
【図8】損傷部のHydroxyprolineの測定結果を示す。
【図9】組織蛋白質の分析結果を示す。
【図10】ATP値の測定結果を示す。
【図11】褥瘡形成患者に対する洗浄液として使用した場合の評価項目を示す。
【図12】ID1の治癒観察結果を示す。
【図13】ID2の治癒観察結果を示す。
【図14】ID3の治癒観察結果を示す。
【図15】ID5の治癒観察結果を示す。
【図16】ID6の治癒観察結果を示す。
【図17】ID8の治癒観察結果を示す。
【図18】ID9の治癒観察結果を示す。
【図19】ID10,ID11の治癒観察結果を示す。
【図20】全経過をまとめたグラフを示す。
【図21】細胞数の測定結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は海洋深層水を原料として用いた外用剤に関し、特に創傷ケア製品、日焼け等の軽度皮膚障害ケア製品、皮膚の清拭製品、糖尿病患者のフットケア製品、アンチエンジング化粧品等に展開するのに効果的である。
【背景技術】
【0002】
これまでに海洋深層水を外用剤として用いた技術として特許文献1が公開されている。
しかし、同公報に開示する技術はナノフィルターで処理した透過水を14〜50倍に濃縮したものであり、濃縮工程に費用がかかり、成分量が不安定になりやすいのみならず、用途も限定されたものになる。
また、海洋深層水の外用剤としての効用が充分に立証されたものが見当たらない。
【0003】
【特許文献1】特開2007−217356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、天然物質で、安全安心な海洋深層水を原料とし、創傷ケア製品等に応用が可能な外用剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る外用剤は、海洋深層水と、当該海洋深層水を電気透析により淡水化処理した淡水化処理水とを混合して所定の浸透圧に調整してあることを特徴とする。
【0006】
海洋深層水とは、海面下200メートル以上の深海から取水したもので、無機栄養塩類に富み、有機物や細菌類が少なく清浄性があるものを言い、特に、富山湾の沖合いの深度約320mより採取される海洋深層水を日本海固有冷水と言う。
この日本海固有冷水は、深層水の3大要素である「低温性」と「清浄性」と「富栄養性」とを全て満足させ、特に「低温性」にあっては年間を通じて2℃以下の低温で水温変化がほとんどなく、現在日本で採取されている他地域の深層水温度の8〜10℃に比較して、とても低く、しかも年間を通じて温度が一定である特徴を有している。
【0007】
本発明では、海洋深層水の浸透圧を調整する稀釈水として、この海洋深層水を淡水化処理して得られた淡水化処理水を用いた点に特徴がある。
また、海水の淡水化処理方法としては、多く方法が提案されているが本発明では、電気透析法を用いた点に特徴がある。
電気透析法は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に配置して電気分解をし、イオン性の成分を減した処理水をいう。
本発明において所定の浸透圧に調整するとは、外用剤の用途に合せて調整することを意味し、概ね200〜400mOsm/kgH2Oの範囲をいい、好ましくは生理的食塩水の浸透圧レベルに調整するのがよい。
本発明に係る外用剤は多くのエビデンスを後述するように創傷治癒促進作用を有している。
なお、海洋深層水の浸透圧を調整するのに蒸留水を用いることも可能であるが、海洋深層水の効能をより出現させるには、海洋深層水を淡水化処理した処理水を希釈用に用いるのが好ましい。
本発明に係る海洋深層水を原水にした浸透圧調整液を医薬品として使用する場合には、特に限定されないが外用薬が好ましい。その剤形は特に限定されないが、噴霧剤、塗布剤などの外用液剤、クリーム剤、ゲル剤などの軟膏剤、パック、テープなどの貼付剤が挙げられる。
また、化粧品として使用する場合には、海洋深層水を原水にした浸透圧調整液自体を液体洗浄料として、さらに、ローション、クリーム等の化粧品の原料とすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、海洋深層水と、この海洋深層水を淡水化処理した淡水化処理水との混合にて等張液を製造したことにより、天然物質を原料とした安心安全な外用剤となる。
また、後述するように生理的食塩水と比較して、優れた皮膚構成細胞の機能活性、皮膚損傷治癒促進効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施例として、海洋深層水と電気透析により淡水化処理した淡水化処理水の成分分析例を図1の表に示す。
なお、濃度の単位はmg/Lである。
図1に示した海洋深層水は富山湾の沖合水深320mで採取した日本海固有冷水である。
また、淡水化処理水は、イオン交換膜を用いて電気透析して得られたものである。
従って、淡水化処理水にも各イオンが極く少量ずつ含まれている。
今回の評価では、海洋深層水と淡水化処理水とを30:70の比率で混合した等張液を用いた。
その結果を図2の表に示す。
図2の表中、浸透圧は氷点降下法にて測定し、主なイオン成分は原子吸光法で分析した。
また、pHの値はガラス電極にて測定した。
【0010】
(評価例1)
皮膚組織は、1.表皮角化細胞、2.皮膚繊維芽細胞、3.血管内皮細胞および4.リンパ管内皮細胞などから構成されている。
皮膚の創傷を治癒するには、これらの皮膚構成細胞の適度な活性化が必須である。
海洋深層水由来の等張液による皮膚構成細胞の機能活性化への影響を調査した。
【0011】
(1)生存能力亢進試験
上記4種類の細胞を0、1、2%のFCSを添加した海洋深層水由来の等張液および生理食塩水により培養した。
その後、24、48、および72時間後にWST−1 assayにより細胞生存の亢進を評価した。
その結果、生理食塩水培養群では、FCSのすべての濃度で細胞の生存が確認できないのに対して、海洋深層水由来の等張液では生存が確認できた。
(図3のグラフにて黒の棒グラフが海洋深層水由来の等張液、白の棒グラフが生理的食塩水を示す。)
【0012】
(2)繊維芽細胞増殖因子FGF−2に対する刺激応答亢進
これまでに、本分離水は皮膚組織構成細胞の生存能力を亢進することが明らかとなった。
次に、既に皮膚創傷治癒効果を有することが明らかとなっているサイトカインFGF−2を皮膚創傷治癒における重要な役割を担う繊維芽細胞が入った細胞培養ディッシュに0〜2%のFCSと海洋深層水由来の等張液または生理食塩水を加え、24時間後にFGF−2(10ng/ml)、Heparin−Na(20ug/ml)で刺激し、Lysatesを抽出した。
その後、細胞生存を制御する分子であるAktのリン酸化を刺激応答の指標としてウェスタンブロティング法で評価した。
その結果、図4に示すように生理食塩水培養群では、FCSのすべの濃度でAktのリン酸化が確認できないのに対して、分離水ではAktのリン酸化が確認できた。
【0013】
(3)in vitro創傷治癒能力亢進試験
項目(2)でFGF−2による繊維芽細胞の生存機能亢進が明らかとなった。
この結果をふまえて、最後に、皮膚創傷の自然治癒力をin vitroで評価するwound healing試験を行った。
皮膚創傷治癒における重要な役割を担う繊維芽細胞繊維芽細胞が全面に培養されているディッシュに0〜2%のFCSと海洋深層水由来の等張液または生理食塩水を加え、12時間後に、本培養ディッシュの中央部に存在する繊維芽細胞をピペットチップにより剥離した。
その状態を図5(a)に示す。
12時間後に、繊維芽細胞が自立的に剥離部を覆うことで修復された長さを計測した。
その結果、図5(b)に示すように0および1%FCS添加した生理食塩水培養群では、修復は確認できなかったのに対して、FCSのすべの濃度で海洋深層水由来の等張液においては修復が確認できた。
さらに、同じ濃度のFCS添加群においては、海洋深層水由来の等張液の方が生理食塩水と比較して、有意にin vitroにおける創傷治癒能力亢進が確認できた。
【0014】
今回、皮膚組織構成細胞レベルにおいて、海洋深層水由来の等張液は、生存能力を亢進することが示された。
さらに、in vitroにおいて、皮膚創傷治癒能力を亢進させることも明らかとなった。
【0015】
(評価例2)
皮膚の損傷治癒は、損傷を受けた局所での炎症反応や、これに連続する組織の再構築(リモデリング)、すなわち表皮細胞の増殖及び細胞外マトリックスの産生・蓄積並びに血管新生という増殖反応を主体とした生体反応である。
しかしながら、糖尿病患者や高齢者においては、皮膚損傷の治癒反応が一般に遅延することが知られている。
臨床医学の現場では「褥創」や「難治性皮膚潰瘍」として知られている。
そこで、糖尿病合併マウスの皮膚損傷治癒における、海洋深層水由来の等張液の効果について、病理学的および分子生物学的に検討する。
【0016】
(方法)
図6に示すように遺伝的糖尿病マウス(db/dbマウス)の皮膚に直径約4ミリの打ち抜き損傷を作り、損傷部局所に200 μlの海洋深層水由来の等張液を1日3回、0から10日目に亘って皮下注射する。
対照群として等量の滅菌生理食塩水を投与する。
その後、以下の点について検討を加える。
a)海洋深層水由来の等張液投与群と対照群で皮膚損傷治癒が肉眼的にどのように違うかを観察し、画像解析装置を用いて比較検討する。
すなわち、海洋深層水由来の等張液の損傷治癒への影響を検討する。
b)皮膚損傷の治癒過程での肉芽組織形成について、損傷部におけるhydroxyproline含有量を定量することによって、コラーゲンの蓄積量を検討し、海洋深層水由来の等張液投与群と対照群を比較する。
【0017】
(結果)
肉眼的観察において、図7に示すように海洋深層水由来の等張液投与群では損傷治癒が促進していることが認められた。
損傷部の閉鎖についても、海洋深層水由来の等張液投与群で生理食塩水投与群と比べて、有為に促進していた。
【0018】
損傷部におけるhydroxyproline含有量を定量したところ、図8に示すように海洋深層水由来の等張液投与群で著明に増加していた。
【0019】
以上の結果より、db/dbマウスにおける損傷治癒の遅延は、海洋深層水由来の等張液投与により、コラーゲン蓄積の増強を伴って促進することが明らかとなった。
【0020】
(評価例3)
ハブやマムシなど出血毒による毒蛇咬傷の場合は、咬傷直後は強い血管収縮が起こり、この状態が10分間程度持続することで、特に咬傷部位周辺は組織の血流が著しく減少・消失し、虚血・低酸素状態になって組織の壊死が起る。
このように、ハブ毒により壊死に至る過程は、褥瘡と類似しているため、実験動物にハブ毒を外因性壊死誘発物質として投与して壊死を実験的に誘発させることで褥瘡のモデルとした。
今回は、移植臓器の保存効果が認められている海洋深層水由来の等張液に、壊死の緩和作用がどの程度あるかを定量的に調べるのが目的で、ATP量を調べた。
【0021】
(材料と方法)
実験動物にハブ毒を外因性壊死誘発物質として投与して、壊死を実験的に誘発させることで褥瘡モデル動物(マウス)とした。
これに海洋深層水由来の等張液を連日投与し、筋壊死局所の改善効果を肉眼観察するとともに、これを安楽死させ、採取した組織の生化学的検査により筋組織の状態を調べた。
【0022】
(動物および飼育条件)
動物は九動のヘアレスマウス(Hr/Kud)を用いた。
飼育条件は、室温20〜26℃、湿度40〜70%、換気回数10回/hr、照明時間12時間(7時点灯、19時消灯)とした。
飼料は固形飼料(CE−2、オリエンタル酵母製)を自由摂取させ、飲料水も自由摂取させた。
【0023】
(筋壊死の誘発法)
動物は九動の雌性10週齢Hr/Kudマウス30匹を2週間の予備飼育後3群(1群8匹)に分かち、ペントバルビタール麻酔下でハブ素毒5mg/kgを右足肢大腿部へ投与し、3日後から1群は右足肢には等張液を、左足肢には生理食塩水を、2群には左右の足肢に生理食塩水をそれぞれ0.05ml/10gB.W.当て投与した。
3群には何も投与しなかった。
マウスはハブ毒投与から8日目に安楽死させ、足肢筋を摘出した。
なお、6匹は投与量等を決定するための予備実験に用いた。
【0024】
(生化学的検査)
採取した組織は、アト―の二次元電気泳動装置で組織蛋白質を分析した。
また、BioVisionのApoSENSORを用いたルシフェラーゼ法でATPを調べることで、壊死の程度を定量化した。
【0025】
へアレス・マウスの足肢の状態は、外観的にはハブ毒投与後日が経つにつれて悪化した。
ハブ毒投与局所の蛋白質は、正常組織では多くの蛋白質スポットが認められたが(図9(a))、ハブ毒投与局所では蛋白質スポットは消失し、ハブ毒投与30分後という極めて短時間で蛋白質が分解されたことが確認された(図9(b))。
【0026】
図10に示すようにハブ毒投与後、海洋深層水由来の等張液を投与した1群(A2)は2群(B2)及び3群(D2)に比べ高いATP値を示した。
【0027】
(考察)
ハブ咬傷時には48時間以内に全身作用(死亡)が起こるが、それを免れても咬傷局所を中心に壊死が起こる。
この壊死の過程は褥瘡と類似しているため、マウスにハブ毒を外因性壊死誘発物質として投与して壊死を実験的に誘発させた。
ハブ毒投与局所では、二次元蛋白質電気泳動によると、投与5分後はまだ普通に多数の蛋白質が認められるが、投与30分後には蛋白質スポットは消失し、ハブ毒中の蛋白質分解酵素によりかなり早い時点で蛋白分解が進んでいることが確認された。
また、生理活性物質であるATPに関しては、ハブ毒を投与していない部位(A1,B1,D1)ではいずれも高値を示したのに対し、ハブ毒投与部位ではいずれも著しく低下したが、ハブ毒投与後海洋深層水由来の等張液を投与した群は他群に比し高いATP値を示した。
これは、海洋深層水由来の等張液を投与した群では、壊死の進行が抑制されたか、もしくは、組織の再生が起こったからではないかと推測される。
従って、海洋深層水由来の等張液には、褥瘡の緩和作用があるのではないかと動物実験の結果から類推される。
【0028】
(まとめ)
1.ハブ毒投与局所の蛋白質は、投与30分後という際めて短時間で分解された。
2.ハブ毒投与後、海洋深層水由来の等張液を投与された群は、他群に比べ高いATP値を示した。
3.海洋深層水由来の等張液を投与した群では、壊死の進行が抑制されたか、もしくは、組織の再生が起こったからではないかと推測される。
4.動物実験の結果から、海洋深層水由来の等張液には褥瘡の緩和作用があるのではないかと推察される。
【0029】
(評価例4)
褥瘡形成患者に対する洗浄液としての海洋深層水由来の等張液の有効性を評価した。
【0030】
(試験対象および方法)
福祉村病院に入院中の臨床的スキンケアを必要とする褥瘡形成患者様を対象とし、海洋深層水由来の等張液を用いて洗浄を行う。
褥瘡処置前の洗浄液として海洋深層水由来の等張液を用いる。
滅菌アルミパウチの一部を切除し放水口を作り、そこから海洋深層水由来の等張液を徒手的に圧力をかけて放水し清拭・洗浄を行う。
【0031】
(目標症例数)
20箇所(褥瘡形成患者×傷瘡部位合計)
【0032】
(清拭・洗浄期間)
8週間
【0033】
(評価方法)
ID化を行った後に、カルテ番号、性別、生年月日(年齢)、身長、体重。
褥瘡の罹患期間、既往歴、合併症、使用中の褥瘡治療薬、使用中のその他の薬剤、治療における問題点を記載。
本院で行っている栄養評価SGA を開始前、開始2,4,8週目に行う。
褥瘡の評価に関しては
1.褥瘡経過評価(DESIGN)事項
合計点数の変化により評価する。
2.自覚症状
殆どが問診が不可能な状況であったため、自覚症状の情報は不十分である。ただ、処置時の表情等から推測できる場合には記録表に記載を行った。
3.その他の他覚所見
診断所見ならびに写真撮像を行った。
調査項目の概要を図11に示す。
【0034】
(結果)
男性5名、女性4名の合計9名、15箇所の褥瘡で評価を行った。
経過中に1名、呼吸不全で死亡したが本治験との因果関係は全く考えられない(ID4,7は欠番)。
図12に93歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
慢性肺気種に多血小板血症を合併し脳梗塞を併発した患者である。
中心静脈栄養管理であり栄養状態も悪く下肢は閉塞性動脈硬化、感染を併発して褥瘡形成をきたして来た。
この症例に対する海洋深層水の治癒効果は下肢、仙骨部に関しては認められなかったが、左前腕に対して形成されたビランに関しては全身状態が悪いにもかかわらず明らかな治療効果を認めた。
図13に71歳男性の症例を示す。
正常圧水頭症(脳室―腹腔シャント)、内頚動脈瘤手術後、糖尿病にて中心静脈栄養管理中で両腸骨部に褥瘡を形成し他院より転院した。
ポケット形成を認め、外科的な切除も要した。
糖尿病もあり、中心静脈栄養管理中で栄養状態も良くなく、本症例の褥瘡治癒に関しては海洋深層水の効果は認められなかった。
図14に86歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
誤嚥性肺炎、慢性関節リューマチで管理中の患者。
TPN管理中で発熱を繰り返した。
結果的に2月17日に非ケトン性高浸透圧性昏睡に陥り19日に死亡された(海洋深層水使用との因果関係はない)。
海洋深層水を使用開始とともに4週間目までは軽快傾向を示したが、その後は全身状態の影響もあり横ばい状態であった。
図15に90歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
AD、右大腿骨骨折、類天ホウ瘡で管理中の患者。
ステロイドの内服、外用を併用していたが、類天ホウ瘡の水疱破綻後にビラン形成が頻繁であった。
新たに出来た水疱破綻後にビラン形成に対して海洋深層水を用いて洗浄後、従来の処置を行ったところ、8週でビランは消失した。
図16に84歳女性の褥瘡の評価結果を示す。
脊髄損傷、アルツハイマー病、尿路感染症、高血圧、化膿性肩関節炎にて褥瘡保持の状態で本院に転院してきた患者。
転院前より褥瘡形成は長期にわたり、本院でも一進一退であったが、海洋深層水の使用4週間で著明な軽快を見た。
しかし、その後はポケット形成、不良肉芽の増生を認め少々悪化した。
8週以降も治癒傾向にはある。
図17に73歳男性の褥瘡の評価結果を示す。
くも膜下出血、脊椎梗塞、前立腺癌にて褥瘡保持の状態で本院に転院してきた患者。
転院前より褥瘡形成は長期にわたり、巨大化しており市民病院形成外科にも一度受診している。
しかし、フィブラストスプレー使用の指示のみで本院でも一進一退であった。
海洋深層水の使用によりDESIGN pointは著明に改善傾向を認め治癒方向に向いているものと判断できる。
図18に70歳男性の褥瘡の評価結果を示す。
アルコール性コルサコフ脳症、ヘルペス脳炎後の患者。
中心静脈栄養管理を行っていたが経管栄養へ移行途中であった。
右拇指根と鼠径部にビランを形成したため海洋深層水を洗浄に用い、ネグミンシュガーの外用を併用した。
いずれも1ヶ月で完治した。残念ながら1月3日に誤嚥性肺炎にて死亡された。
図19に68歳男性(ID10)、71歳男性(ID11)の褥瘡の評価結果を示す。
ID10: 陳旧性心筋梗塞、慢性心不全、慢性腎不全、弁膜症、大腸弛緩症
ID11:レビー小体病、マクログロブリン血症、出血性胃炎歳
いずれも仙骨部に皮向け程度からビラン形成、褥瘡形成となった症例であるが海洋深層水を洗浄に用い、ネグミンシュガーの外用を併用したところ、いずれも約1ヶ月で完治した。
【0035】
(まとめ)
図20に15箇所の褥瘡で評価をグラフにまとめた。
全体的な印象として、感染を併発し全身状態の良くない症例やポケットのある症例にたいする効果は認められなかった。
しかし、褥瘡形成初期、比較的浅いビランに関しては著明な治癒効果、治癒促進を認めた。
コントロールをとり比較する事はできないが、治癒までの期間も短縮されている印象であった。
さらに深いDESIGN 10点を超える重度の褥瘡においても使用開始1ヶ月くらいまでは軽快傾向を見せた。
その後は全身状態、基礎疾患等の影響により横ばいとなったが、ここにおいても海洋深層水の有効性が認められたものと考えられる。
【0036】
(評価例5)
リンパ球生存能における海洋深層水由来の等張液の有用性を検討した。
【0037】
(方法)
ヒトリンパ球培養
1)外来で血液20ml−30ml採血
2)リンフォセパールでリンパ球分離
3)分離したリンパ球を以下のフラスコに分けて培養
4)それぞれの日付に到達したら以下の作業
細胞の写真を撮影(倒立顕微鏡の接眼レンズにデジカメをあてがう)
培地回収 → −30℃保存
細胞回収(PBS×2回洗浄) → −30℃保存
【0038】
(結果)
0日目
(1)採血:ヘパリン入り真空採血管にて採血 → 7ml×4本で計28ml
(2)リンパ球分離:(リンホセパールI 免疫生物研究所 #23010)
14mlずつ2本に分けPBS(−)20mlずつと混合(50ml tube)
リンホセパール15ml×4本準備(50ml tube)
血液17mlずつを上記リンホセパール液に上層する。
1800rpm r.t. 30min Cfg.
上層の血清層を取り除く。
リンパ球層を15ml tubeに回収。(2本に分けて)
1800rpm r.t. 30min Cfg.
Sup.を捨てPBS10mlを加える(×2回)
1800rpm r.t. 30min Cfg.
PBS 6ml加えてCell Count(ビュルケルチュルク:5マス)
(3)培養開始:(フラスコ:Sumilon 25cm 50ml #MS−2105R)
(培地:Gibco RPMI−1640 #11875)
上記6mlの培地を3本の15ml tubeに分け、PBS 8ml加える。
1800rpm r.t. 30min Cfg.
Sup.を捨て、それぞれの培地を5ml加える。
各培地に対して0日、2日、4日、6日、8日のフラスコを準備
培地を9mlずつフラスコに入れておく。
細胞溶液を1mlずつそれぞれのフラスコに分注
1フラスコ当たりの細胞数 = 6.5×105cells
37℃ 5%CO2インキュベーション
【0039】
(観察)
0日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
2日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
4日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
6日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
8日目
倒立顕微鏡にて観察、写真撮影は接眼レンズにデジカメをあてがい撮影
培地回収 :1,8krpm
細胞回収 :10krpm
【0040】
(まとめ)
肉眼的:
FCS:細胞の形は当初から保たれている感じがする。
フラスコ底面への定着が多い。
生食 :細胞の形はFCSと比べていびつになっていった感じがする。
海洋深層水由来の等張液との差は特に分からなかった。
フラスコ底面への定着はほぼ無し。
海洋深層水由来の等張液
細胞の形はFCSと比べていびつになっていった感じがする。
生食との差は特に分からなかった。
フラスコ底面への定着はほぼ無し。
細胞数は図21に示す(単位は×105cellsで固定表記)。
生存細胞数を見ると生理食塩水よりわずかに、海洋深層水由来の等張液の方が生存性が良い印象であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る外用剤は各種用途に展開できるが、特に次のような用途に期待される。
1.浅い傷の治癒を促進させる外用剤として
すでに傷にスプレーするタイプの薬剤がいくつか市販されているが、殆どは消毒が主眼のものである。
海洋深層水は安全安心な天然物質であり、細胞増殖の促進ではなく、細胞障害を抑制することにより効果を発揮することから、有効性の高い外用剤が作製されると期待される。
2.寝たきり患者など、介護分野での身体洗浄用、或いは清拭用として
患者の清浄性を保つ目的で行われている入浴やシャワー、或いは清拭に海洋深層水等張液を用いることで、清浄性の保持に加えて、患部の障害を受けた細胞のダメージを抑え、褥瘡等の進展を防止する効果を付加する効果が期待される。
3.糖尿病患者のフットケア用として
糖尿病患者のフットケアとして、海洋深層水等張液による清拭、足浴を行うことで病変の進行を抑制できると期待される。
4.コスメティック産業への応用:『アンチエイジング化粧品』として
海洋深層水を配合する化粧品によって、紫外線や加齢等からくる皮膚へのストレスを軽減し、細胞のfreshさを維持できれば、アンチエイジング化粧品として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】海洋深層水と淡水化処理水の成分分析例を示す。
【図2】海洋深層水:淡水化処理水を30:70の割合で混合した等張液の測定及び分析結果を示す。
【図3】皮膚構成細胞の細胞生存能力評価例を示す。
【図4】Aktのリン酸化試験結果を示す。
【図5】創傷治癒能力亢進試験結果を示す。
【図6】db/dbマウスを用いた評価方法例を示す。
【図7】マウスの肉眼的観察結果を示す。
【図8】損傷部のHydroxyprolineの測定結果を示す。
【図9】組織蛋白質の分析結果を示す。
【図10】ATP値の測定結果を示す。
【図11】褥瘡形成患者に対する洗浄液として使用した場合の評価項目を示す。
【図12】ID1の治癒観察結果を示す。
【図13】ID2の治癒観察結果を示す。
【図14】ID3の治癒観察結果を示す。
【図15】ID5の治癒観察結果を示す。
【図16】ID6の治癒観察結果を示す。
【図17】ID8の治癒観察結果を示す。
【図18】ID9の治癒観察結果を示す。
【図19】ID10,ID11の治癒観察結果を示す。
【図20】全経過をまとめたグラフを示す。
【図21】細胞数の測定結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋深層水と、当該海洋深層水を電気透析により淡水化処理した淡水化処理水とを混合して所定の浸透圧に調整してあることを特徴とする外用剤。
【請求項2】
浸透圧を、生理的食塩水の浸透圧レベルに調整した等張液であることを特徴とする請求項1記載の外用剤。
【請求項3】
海洋深層水は、富山湾の沖合い300m以深より採取された日本海固有冷水であることを特徴とする請求項1又は2記載の外用剤。
【請求項4】
創傷治癒促進性に優れていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の外用剤。
【請求項1】
海洋深層水と、当該海洋深層水を電気透析により淡水化処理した淡水化処理水とを混合して所定の浸透圧に調整してあることを特徴とする外用剤。
【請求項2】
浸透圧を、生理的食塩水の浸透圧レベルに調整した等張液であることを特徴とする請求項1記載の外用剤。
【請求項3】
海洋深層水は、富山湾の沖合い300m以深より採取された日本海固有冷水であることを特徴とする請求項1又は2記載の外用剤。
【請求項4】
創傷治癒促進性に優れていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の外用剤。
【図1】
【図2】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図2】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−37275(P2010−37275A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202451(P2008−202451)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592008756)五洲薬品株式会社 (19)
【出願人】(308038613)公立大学法人和歌山県立医科大学 (4)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(598025670)
【出願人】(599133347)医療法人さわらび会 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592008756)五洲薬品株式会社 (19)
【出願人】(308038613)公立大学法人和歌山県立医科大学 (4)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(598025670)
【出願人】(599133347)医療法人さわらび会 (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]