説明

潤滑油添加剤および潤滑油組成物

潤滑油基油に、(A)3位及び5位に炭素数1〜40の炭化水素基を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及びその(過)塩基性塩と(B)サリシレート系清浄剤以外の金属系清浄剤を配合してなる潤滑油添加剤および潤滑油組成物とすることで、サリシレート系清浄剤と他の金属系清浄剤を併用しても沈殿を発生せず、貯蔵安定性に優れる潤滑油添加剤および潤滑油組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、潤滑油添加剤および潤滑油組成物に関し、詳しくは、2種以上の金属系清浄剤を配合してなる、貯蔵安定性に優れた潤滑油添加剤および潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
潤滑油にはその用途に応じて各種の性能が要求されているが、特にエンジン油には、高度な熱安定性、高温清浄性、酸化安定性、摩耗防止性等が要求され、摩耗防止剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、酸化防止剤等の潤滑油添加剤が配合され製造されている。金属系清浄剤には、サリシレート、フェネート、スルホネート等があり、潤滑油の高温清浄性等を改善するために、これらを単独で、あるいは併用して用いられている。
このような技術分野に関して、例えば、特許文献1(特開平8−176583号公報)や、特許文献2(特開平10−53784号公報)には、塩基価の異なる金属系清浄剤を組合わせて配合したディーゼルエンジン油組成物が開示されている。
しかしながら、これまでに一般的に市販され、使用されてきたモノアルキルサリシレートとサリシレート以外の金属系清浄剤(例えばスルホネート等)を併用すると、貯蔵中に金属系清浄剤に分散させてある炭酸カルシウム等が沈殿し、潤滑油添加剤又は潤滑油の製造ラインフィルター、出荷ラインフィルター、エンジンフィルターなどの目詰まりや潤滑油添加剤製品又は潤滑油製品としての塩基価低下等の品質低下、実使用時に異常摩耗が発生する等の問題を引き起こすことがあることがわかってきた。特に炭酸カルシウムやホウ酸カルシウム等で(過)塩基化されたモノアルキルサリシレートと中性又は(過)塩基性のスルホネート系清浄剤、特に中性スルホネートを併用した場合には沈殿が早期に発生し、事実上潤滑油添加剤又は潤滑油製品に使用できない状況であり、その改善が求められていた。
【発明の開示】
本発明は上記のような事情に鑑み、サリシレート系清浄剤とそれ以外の金属系清浄剤を併用する潤滑油添加剤および潤滑油組成物において、沈殿物が発生せずに貯蔵安定性に優れる潤滑油添加剤および潤滑油組成物を提供することを課題とする。なお、特許文献2(0010)段落には、[高塩基性カルシウムサリチレート/マグネシウムサリチレート]の例として、シェル化学製SAP001、SAP005、SAP007、オスカ化学製OSCA435B、OSCA463が具体的に記載され、その(0012)段落には、[低塩基性カルシウムサリチレート]として、シェル化学製SAP002、オスカ化学製OSCA431Bが具体的に記載されているが、これら市販品は全てモノアルキルタイプのサリシレートを主体(サリシレート構造におけるモノアルキルサリシレートの構成比は90mol%を超える)とするものであり、しかも、特許文献1及び2のいずれにも、上記のような問題については認識すらされていない。
本発明者は、金属系清浄剤として、サリシレートの構造に着目し、鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するサリシレートを、サリシレート以外の金属系清浄剤と併用した場合に、潤滑油添加剤及び潤滑油組成物として沈殿物が発生せず貯蔵安定性に極めて優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、潤滑油基油に、(A)サリシレート系清浄剤と(B)サリシレート系清浄剤以外の金属系清浄剤を配合してなる潤滑油添加剤および潤滑油組成物であって、当該(A)サリシレート系清浄剤が、一般式(1)で表わされるアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩であることを特徴とする潤滑油添加剤および潤滑油組成物である。

(一般式(1)において、R、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜40の炭化水素基を示し、当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有していても良く、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、nは金属の価数により1又は2を示す。)
前記一般式(1)におけるR及びRのいずれか一方が10〜40の炭化水素基、残りの一方が炭素数10未満の炭化水素基(当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有してもよい。)、あるいは、R及びRが炭素数10〜40の炭化水素基であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物は、前記(A)成分の金属比が1.1以上である場合に特に有用である。
前記(B)サリシレート系清浄剤以外の金属系清浄剤が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート及びこれらの(過)塩基性塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物は、さらに(C)摩耗防止剤、(D)無灰分散剤、(E)酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の潤滑油添加剤を含有することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物における潤滑油基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油、合成系基油を使用することができる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
本発明においては、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
潤滑油基油の芳香族含有量は、特に制限はないが、%Cで10以下であることが好ましく、3以下であることがさらに好ましく、2以下であることが特に好ましい。基油の芳香族含有量を上記のようにすることで酸化安定性により優れる組成物を得ることができる。なお、%Cとは、ASTM D 3238に規定される環分析により求められる、全炭素数に対する芳香族炭素数の百分率を表わす。
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、低温粘度特性を良好に保つという観点から20mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは10mm/s以下である。一方、その動粘度は、潤滑箇所で十分な油膜を形成して潤滑性を保ち、また潤滑油基油の蒸発損失を低く抑えるという観点から、1mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは2mm/s以上である。
潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量を20質量%以下に保つことにより、潤滑油の蒸発損失を低く抑えることができるのみならず、内燃機関用潤滑油として使用する場合は、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積することを防止して、排ガス浄化性能への悪影響を未然に防ぐことができる。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、CEC L−40−T−87に準拠し、測定したものである。
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は、80以上であることが好ましく、更に好ましくは100以上であり、更に好ましくは120以上である。
本発明における(A)成分は、一般式(1)で表わされるアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩である。

一般式(1)におけるR、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜40の炭化水素基を示し、これらは酸素、窒素を含有していても良い。また、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等、好ましくはカルシウム、マグネシウム、特にカルシウムが望ましく、nは金属の価数により1又は2を示す。
上記炭素数1〜40の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ペプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等の炭素数1〜40のアルキル基(これらは直鎖状であっても分枝状であっても良い)、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜10のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基等の炭素数7〜10のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の炭素数7〜10のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
また、上記R、Rの組み合わせとしては、特に制限はないが、好ましいものとしては、以下に示す▲1▼又は▲2▼の組み合わせが挙げられる。
▲1▼ R及びRの一方が炭素数10〜40、好ましくは炭素数10〜20未満又は20〜30の炭化水素基、残りの一方が炭素数10未満、好ましくは5未満、特に好ましくは1の炭化水素基
▲2▼ R及びRがそれぞれ炭素数10〜40、好ましくは10〜20未満又は20〜30の炭化水素基であり、これらは同一であることが好ましい。
なお、炭素数10〜40の炭化水素基としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等の重合体又は共重合体等から誘導される、下記一般式(2)で表わされる第2級アルキル基が好ましい。

ここでx、yは0〜37、かつx+yは7〜37、好ましくはx、yは0〜27、かつx+yは7〜27、さらに好ましくはx、yは0〜16、かつx+yは7〜16、又は、x、yは0〜23、かつx+yは17〜23、特に好ましくはx、yは0〜15、かつx+yは11〜15の整数を示す。
また、炭素数10未満の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜10未満のアルキル基が挙げられ、これらは酸素又は窒素を含有していても良く、例えば−COOH基が挙げられる。これらの中ではt−ブチル基、メチル基が好ましく、メチル基が最も好ましい。
(A)成分の製造方法としては、特に制限はなく、特公昭48−35325号公報、特公昭50−3082号公報等に開示される公知の方法を用いることができるが、例えば、R、Rの一方が炭素数10〜20未満又は炭素数20〜30のアルキル基で、残りの一方がメチル基の場合、オルトクレゾール又はパラクレゾールを出発原料として、パラ位又はオルト位に炭素数10〜20未満又は炭素数20〜30のオレフィンを用いてアルキレーション、次いでカルボキシレーションし、さらにアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。また、フェノールを出発原料とする場合、フェノール1molに対し、1.5〜4mol、好ましくは2〜3molの炭素数10〜20未満又は炭素数20〜30のオレフィンを用いてアルキレーション、次いでカルボキシレーションする工程(あるいはその逆の工程)で製造すれば良い。
本発明における(A)成分において、一般式(1)で表わされるサリシレート以外のサリシレート、すなわち、炭素数1〜40のアルキル基を有する3−アルキルサリシレート、4−アルキルサリシレート及び5−アルキルサリシレート等のモノアルキルサリシレートは、一般式(1)で表わされるサリシレートの製造過程における不純物に起因して、あるいは任意成分として含有されても良いが、その構成比は50mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましく、10mol%以下であることがさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。モノアルキルサリシレートの含有量を上記のように制限することで、スルホネート等と併用した場合に沈殿物の発生が抑制された組成物を得ることができる。また、例えば、上記のようにオルトクレゾール又はパラクレゾールを出発原料として得られる3−アルキル−5−メチルサリシレートあるいは3−メチル−5−アルキルサリシレート等の場合、モノアルキルサリシレートを実質的に含有せず、上記フェノールを出発原料として得られるジアルキルサリシレートの場合、フェノール1molに対し2mol以上のオレフィンを用いてアルキレーションするか、得られたモノ及びジアルキルサリシレート混合物からモノアルキルサリシレートを分離除去すれば、モノアルキルサリシレートの含有量を低減することが可能である。
本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物における(B)成分は、サリシレート系清浄剤以外の金属系清浄剤、すなわち、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート系、フェネート系、カルボキシレート系、ナフテネート系のアルカリ金属又はアルカリ土類金属系清浄剤等が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属系清浄剤を使用することができ、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ土類金属フェネート系清浄剤、特にアルカリ土類金属スルホネート系清浄剤を好ましく使用することができる。
アルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩であり、カルシウム塩が好ましく用いられる。
上記アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
上記石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、炭素数2〜12のオレフィン(エチレン、プロピレン等)のオリゴマーをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
アルカリ土類金属フェネートとしては、例えば、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。具体的には、下記一般式(3)、(4)及び(5)で表されるものを挙げることができる。

上記一般式(3)、(4)、及び(5)において、R21、R22、R23、R、R25及びR26はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、M、M及びMは、それぞれアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム又はマグネシウムを示し、xは1または2を示す。
上記R21、R22、R23、R24、R25及びR26で表されるアルキル基としては、具体的には、それぞれ個別に、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等が挙げられる。これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
なお、本発明の(A)成分及び(B)成分としては、上記のようにして得られた中性塩だけでなく、さらにこれら中性塩と過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものが得られる。
本発明において(A)成分、(B)成分としては、その金属比に特に制限はなく、金属比が1〜40、好ましくは1〜20の(A)成分及び(B)成分を使用することができるが、沈殿物を発生させる可能性のあるサリシレートが、炭酸カルシウム等で(過)塩基化されたモノアルキルサリシレートであることから、(A)成分の金属比としては、1.1以上、好ましくは1.5以上、特に好ましくは2.3以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは6以下であって、このような範囲の金属比となる(A)成分は極めて有用である。また、前記金属比1.1以上のモノアルキルサリシレート、例えば2.7のモノアルキルサリシレートと、(B)成分としてスルホネート系清浄剤を併用した場合には、当該スルホネート系清浄剤の金属比が1であっても10であっても沈殿を発生してしまうが、当該スルホネート系清浄剤の金属比が小さいほど(例えば5以下、あるいは2以下、特に1の場合)早期に沈殿が発生しまうため、このような金属比の小さい(B)成分と前記のような金属比の(A)成分とを併用することは極めて有用である。また、(A)成分及び(B)成分の金属比がそれぞれ1の場合、炭酸カルシウム等に起因する沈殿は発生しえないため、この場合も好ましい。
なお、ここでいう金属比とは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレートあるいはアルカル金属又はアルカリ土類金属スルホネート等における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはアルキルサリチル酸基、アルキルスルホン酸基等を意味する。
本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物において、(A)成分及び(B)成分の含有量は、特に制限はなく、潤滑油添加剤として、あるいは潤滑油製品として必要に応じて決定されるが、好ましくは、それぞれ、組成物全量基準で、その下限値は、0.01質量%、好ましくは0.1質量%であり、その上限値は、40質量%、好ましくは20質量%、特に好ましくは10質量%以下である。また、内燃機関用潤滑油組成物として使用する場合、(A)成分及び(B)成分の好ましい含有量の例としては、潤滑油組成物全量基準で、アルカリ金属又はアルカリ土類金属元素換算量で、(A)成分を5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下とし、(B)成分を5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下、最も好ましくは0.15質量%以下とし、金属比が2以下の(B)成分(特にスルホネート)の場合、相対的にせっけん基(スルホン酸等)の含有量が高まるため、好ましくは0.08質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下となるように含有させることが望ましい。
本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物は、潤滑油基油に、上記(A)成分と(B)成分とを配合してなる潤滑油添加剤および潤滑油組成物であるが、貯蔵安定性に優れるだけでなく、高温清浄性、塩基価維持性、酸化安定性等にも優れるものであり、その性能をさらに向上させる目的で、あるいは、その他の必要な性能を向上させる目的で、(C)摩耗防止剤、(D)無灰分散剤、(E)酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤、あるいは、さらに公知の添加剤、例えば、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等から選ばれる1種以上の添加剤を任意に配合することができ、これらを配合した添加剤パッケージとして、あるいは潤滑油製品として供することができる。
(C)摩耗防止剤としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、チオリン酸エステル類、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等の硫黄含有化合物、(亜)リン酸モノエステル又はジエステル類及びその金属(亜鉛等)塩又はアミン塩、(亜)リン酸トリエステル等が挙げられる。これらは通常、0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜10質量%の範囲で含有させることができる。なお、本発明における(A)成分は、モノアルキルタイプのサリシレートを使用した場合に比べ、これら(C)摩耗防止剤の作用を阻害しにくいため、本発明の潤滑油組成物において(C)成分を使用する場合、その含有量を低減することが可能となる。例えば、硫黄を含有する摩耗防止剤であれば、潤滑油組成物全量基準で、硫黄元素換算量で0.2質量%以下、好ましくは0.15質量%以下とすることができ、リンを含有する摩耗防止剤であれば、潤滑油組成物全量基準リン元素換算量で0.08質量%以下、さらには、0.05質量%以下とすること可能となり、内燃機関用潤滑油組成物として使用する場合に、排ガス浄化触媒への悪影響をより低減することができ、有用である。
(D)無灰分散剤としては、コハク酸イミド系無灰分散剤、ベンジルアミン系無灰分散剤、ポリブテニルアミン系無灰分散剤及びこれらのホウ素化合物、含酸素有機化合物、リン化合物、硫黄化合物等による変性化合物等が挙げられる。これらは通常0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の範囲で含有させることができる。
(E)酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤やフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、モリブデン系や銅系の金属系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。これら通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で含有させることができる。
摩擦調整剤としては、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、脂肪酸エステル、脂肪族アミン、脂肪酸アミド、脂肪族エーテル等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。
またこれらの粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油添加剤および潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらの添加剤を本発明の潤滑油添加剤に含有させる場合には、その潤滑油添加剤を使用する潤滑油組成物の使用目的に応じてこれらの添加剤を適宜加えて、いわゆる添加剤パッケージを構成することができる。また、これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、摩擦調整剤では0.1〜5質量%、粘度指数向上剤では0.1〜20質量%、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
【実施例】
以下に本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
実施例1〜8、比較例1〜8
表1及び表2に示されるように本発明の潤滑油組成物(実施例1〜8)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜8)をそれぞれ調製した。


得られた組成物について以下の貯蔵安定性試験を行った。
(1)貯蔵安定性試験
得られた潤滑油組成物100mlを遠心分離用目盛試験管(例えばJIS K 2601参照)に入れ、0℃×1週間→60℃×1週間→0℃×1週間→60℃×1週間のサイクル試験を行い、沈殿物の有無を目視評価した。
【実施例1〜8】
実施例1〜8の本発明にかかる潤滑油組成物は、潤滑油基油に、(A)成分として金属比が2.7の炭酸カルシウム過塩基性カルシウム(3−アルキル−5−メチル)サリシレート又はカルシウム(3,5−ジアルキル)サリシレート、(B)成分として、金属比1又は10の炭酸カルシウム過塩基性カルシウムスルホネートを用い、(C)ジチオリン酸亜鉛、(D)コハク酸イミド及び(E)フェノール系及びアミン系酸化防止剤、粘度指数向上剤、抗乳化剤を配合したものであり、上記サイクル試験において4週間経過しても沈殿物は発生せず、良好な貯蔵安定性を示した。なお、(B)成分として金属比1のカルシウムフェネートを使用したが、同様に沈殿物は発生せず、良好な貯蔵安定性を示した。
比較例1〜8
一方、実施例1〜8における(A)成分に代え、金属比2.7の炭酸カルシウム過塩基性カルシウム(モノアルキル)サリシレート(サリシレート構造において、モノアルキルサリシレートの構成比は、Infineum社製C9371(旧シェル化学製SAP001に相当)が96mol%、オスカ化学社製OSCA463が95mol%)と金属比1のカルシウムスルホネートを使用した場合(比較例1、2、5、6)は1週間以内で、金属比2.7のカルシウム(モノアルキル)サリシレートと金属比10の過塩基性カルシウムスルホネートを併用した場合(比較例3、4、7、8)、2週間以内で、それぞれ炭酸カルシウムと思われる白色の沈殿物が明らかに発生し、貯蔵安定性に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物は、沈殿物が発生せず、貯蔵安定性に優れるものであり、特に沈殿発生のためにこれまで製品として流通しえなかった、あるいは流通したとしてもトラブルの原因となっていた(過)塩基性サリシレートと(中性)スルホネート等の金属系清浄剤とを併用した潤滑油添加剤製品あるいは潤滑油製品を供給することが可能となった。また、サリシレート含有潤滑油とその他の金属系清浄剤含有潤滑油とが混合されたり、貯蔵タンクの油種切り替え時等にこれらが混入してしまう局面においても、トラブルの発生を未然に防ぐことが可能となった。また、本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物は、高温清浄性や酸化安定性にも優れ、ロングドレイン化が可能となることを確認しており、また、各種添加剤の配合により所望の性能を付与することが可能となる。従って、本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物は、潤滑油添加剤として、あるいは潤滑油組成物として有用であり、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油添加剤および潤滑油組成物、特にロングドレイン性能をより高めることができることから、低硫黄の燃料(例えば、硫黄分50質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下のガソリン、軽油、天然ガス、LPG、あるいは実質的に硫黄を含有しない水素、ジメチルエーテル(DME)、ガストゥリキッド(GTL)燃料(軽油留分、ガソリン留分)、アルコール燃料等)を使用する内燃機関用潤滑油添加剤および潤滑油組成物として好ましく使用することができる。
また、本発明の潤滑油添加剤および潤滑油組成物は、上記のような貯蔵安定性や高温清浄性、酸化安定性の向上が要求される潤滑油、例えば、自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油およびそれに使用される添加剤としても好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(A)サリシレート系清浄剤と(B)サリシレート系清浄剤以外の金属系清浄剤を配合してなる潤滑油添加剤であって、当該(A)サリシレート系清浄剤が、一般式(1)で表わされるアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩であることを特徴とする潤滑油添加剤。

(一般式(1)において、R、Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜40の炭化水素基を示し、当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有していても良く、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、nは金属の価数により1又は2を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR及びRのいずれか一方が10〜40の炭化水素基、残りの一方が炭素数10未満の炭化水素基(当該炭化水素基は酸素又は窒素を含有してもよい。)であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるR及びRが炭素数10〜40の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項4】
前記(A)成分が、金属比が1.1以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の潤滑油添加剤。
【請求項5】
前記(B)サリシレート系清浄剤以外の金属系清浄剤が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート及びその(過)塩基性塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の潤滑油添加剤。
【請求項6】
さらに(C)摩耗防止剤、(D)無灰分散剤、(E)酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の潤滑油添加剤。
【請求項7】
潤滑油基油に請求項1乃至6のいずれかに記載の潤滑油添加剤を配合してなる潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の潤滑油添加剤を使用することを特徴とする、サリシレート系清浄剤及びその他の金属系清浄剤を含有する潤滑油組成物の貯蔵安定性向上方法。

【国際公開番号】WO2004/055140
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【発行日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560595(P2004−560595)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009953
【国際出願日】平成15年8月5日(2003.8.5)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】