説明

環境改善資材

【課題】悪臭源となる家畜糞尿、堆肥その他の被処理材の発酵・腐熟環境下において生物学的な消臭効果とともに硝化・脱窒効果を顕現する環境改善資材を提供する。
【解決手段】環境改善資材は、植物性有機質基材のなかから選ばれた1又は複数の第1群原料と、微生物栄養助材のなかから選ばれた1又は複数の第2群原料と、炭化処理材及び微生物固定化助材のなかから選ばれた1又は複数の第3群原料からなり、第1群原料と第2群原料を配合調製して中間資材とし、該中間資材に第3群原料を配合調製して最終資材を得るものである。第1群原料として腐植土20〜40重量部、バーク堆肥20〜40重量部、ヤシ殻繊維10〜20重量部、及び第2群原料として米ぬか20〜30重量部、糖密1〜10重量部を配合調製して中間資材100重量部とし、中間資材70〜90重量部と、第3群原料10〜30重量部を配合調製して最終資材100重量部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも消臭性微生物群を担持して悪臭源となる家畜糞尿、堆肥その他の被処理物に対して施用される環境改善資材に係り、詳しくは、被処理物の発酵・腐熟環境下において消臭効果とともに硝化・脱窒効果を顕現する環境改善資材に関する。なお、以下の記述において「消臭」と「脱臭」は互換的に使用する。
【0002】
本発明の環境改善資材は組成物であり、後述する消臭性微生物を特定した微生物製剤や細菌製剤とは区別して扱う。
【0003】
もちろん、両者とも悪臭源となる被処理物に対して施用され、発酵・腐熟環境下で消臭性微生物が関与することにより消臭効果を奏する点では共通する。
【0004】
しかしながら、発酵・腐熟環境下で発現(増殖)する微生物の種類は多岐にわたり、しかも発酵・腐熟段階で著しい消長がみられるので、種々の悪臭源に対して有効な消臭性微生物群を一意的に特定するには困難性がある。
【0005】
こうしたなかで、有効な消臭性微生物群が増殖可能な資材組成を特定し、かつ、その消臭効果を遺伝子解析(微生物の発現と消長の追跡等)を含む分子生物学的手法により実証することは有意義である。
【0006】
ところで、本発明の名称に関し、本発明資材が消臭効果とともに硝化・脱窒効果を兼有することから環境改善資材と指称している。
【0007】
なお、無機態窒素に着目した硝化・脱窒作用の機序は、アンモニア態窒素〔NH4 −N〕→酸化態窒素〔亜硝酸態窒素(NO2 −N)→硝酸態窒素(NO3 −N)〕→窒素ガス〔N2 〕によるものと解される。
【0008】
脱窒の効果は、NH4 NO3 から分解生成する一酸化二窒素(N2 O)が抑制される点に及ぶ。一般に、一酸化二窒素(N2 O)は、二酸化炭素(CO2 )の約300倍(100年間指標)の温暖化効果ガスとして排出規制がかけられており、この低減による環境保全効果への寄与は重要であるといえる。本発明資材の施用が、被処理物に対する環境改善に留まらず自然環境の改善にも寄与することをもって「環境改善」と指称する所以である。
【背景技術】
【0009】
従来より、消臭性微生物を特定した微生物製剤や細菌製剤の提案が知られている(例えば、特許文献1〜3を参照)。いずれも、個々に有効性を確認したとしている。
【0010】
また、消臭性微生物群が関与する消臭資材の提案が知られている(例えば、特許文献4〜7を参照)。ここでは、消臭性微生物群については菌学的性質による大まかな特定に留まり、それらの培地となる処理材を提案している。
【0011】
さらに、微生物を利用して硝酸態窒素の生成や蓄積を抑制する生物学的硝化・脱窒法の提案も知られている(例えば、特許文献8〜10を参照)。なお、硝化・脱窒に関与する微生物が、硝化菌(アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌)や脱窒菌と称されることは公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−289735号公報
【特許文献2】特開平8−141058号公報
【特許文献3】特開平7−241169号公報
【特許文献4】特開2007−15881号公報
【特許文献5】特開2001−187126号公報
【特許文献6】特開平8−290988号公報
【特許文献7】特開平5−309385号公報
【特許文献8】特開2005−34783号公報
【特許文献9】特開2004−267096号公報
【特許文献10】特開2000−253868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、悪臭源となる被処理材の発酵・腐熟環境下において生物学的な消臭効果とともに硝化・脱窒効果を顕現する環境改善資材を開発する点にある。
【0014】
ここで、消臭効果については、遺伝子解析(微生物の発現と消長の追跡等)により確証を得ることを要請する。また、硝酸態窒素の低減効果については肥料分析法により明らかにすることを要請する。この種の資材は、出発原料や中間資材の野外管理を含み大容量を集塊処理して生産した後、種々の配合肥料と同様の形態で分包出荷されるのが通常であり、流通に置かれた個々の資材の効能の評価は、その配合組成に基づく反復効果(効果の再現性)にあるからである。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、上記課題を解消し、悪臭源となる被処理物の発酵・腐熟環境下において、実証的事実に基づく消臭効果とともに硝化・脱窒効果を顕現する環境改善資材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
課題を解決するために本発明は、少なくとも消臭性微生物群を担持して悪臭源となる家畜糞尿、堆肥その他の被処理物に対して施用される環境改善資材において、
被処理物の発酵・腐熟環境下において消臭作用とともに硝化・脱窒作用を顕現する環境改善資材であって、
少なくとも腐植土、バーク堆肥、ヤシ殻繊維を含む植物性有機質基材のなかから選ばれた1又は複数の第1群原料と、
少なくとも米ぬか及び糖密を含む微生物栄養助材のなかから選ばれた1又は複数の第2群原料と、
少なくとも竹炭、木炭、くん炭その他の炭化処理材及び焼成珪藻土、ゼオライト、パーライトその他の多孔性鉱物を含む微生物固定化助材のなかから選ばれた1又は複数の第3群原料からなり、
前記第1群原料と前記第2群原料を配合調製して中間資材とし、該中間資材に前記第3群原料を配合調製して最終資材を得るものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、悪臭源である被処理物の発酵・腐熟環境下において消臭効果とともに硝化・脱窒効果を顕現する。すなわち、本発明資材を施用することにより、アンモニア態窒素及び酸化態窒素(亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素)が低減される。しかも、脱窒効果は一酸化二窒素(N2 O)の生成の抑制効果に及ぶので、全体として環境改善に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】トリメチルアミンの脱臭効果試験結果を示すデータプロットである。
【図2】アセトアルデヒドの脱臭効果試験結果を示すデータプロットである。
【図3】アンモニアの脱臭効果試験結果を示すデータプロットである。
【図4】硫化水素の脱臭効果試験結果を示すデータプロットである。
【図5】細菌を標的としたPCR増幅産物の電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。
【図6】カビ・酵母を標的としたPCR増幅産物の電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。
【図7】細菌を標的としたPCR−DGGE法による電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。
【図8】カビ・酵母を標的としたPCR−DGGE法による電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態は、上記発明構成において、第1群原料と第3群原料は、それぞれ篩下粉粒体として原料化したものである。
【0020】
まず、中間資材100重量部に対して、腐植土20〜40重量部、バーク堆肥20〜40重量部、ヤシ殻繊維10〜20重量部、米ぬか20〜30重量部、及び糖密1〜10重量部を配合調製するものである。
【0021】
ここで、中間資材は、配合調製後に好気性雰囲気又は嫌気性雰囲気の下で所定期間にわたり微生物の増殖促進処理を施し、その菌学的状態が少なくともバチルス属細菌群、放線菌群及び酵母菌群のそれぞれについて、乾燥重量1gあたりの平均コロニー数で108 オーダー以上を確保するものである。
【0022】
つぎに、最終資材100重量部に対して、前記中間資材70〜90重量部と、第3群原料10〜30重量部を配合調製するものである。
【0023】
そして、水分調整と温度調整を施した被処理物に対して撒布施用するものである。
【実施例】
【0024】
本発明の一実施例(以下、実施例資材)を添付図面を参照して以下説明する。
【0025】
実施例資材の第1群原料は、植物性有機質基材のなかから、腐植土、バーク堆肥及びヤシ殻繊維を選択している。
【0026】
至適な原料選択は、中国山地で産出する腐植土、木材加工で副生したバークを堆肥化したもの(自家製)、スリランカ産の良質なヤシ殻繊維であり、好ましくは、20mmメッシュ以下の篩下粉粒体としてそれぞれ原料化したものである。
【0027】
第2群原料は、微生物栄養助材のなから、米ぬか及び糖密を選択している。
【0028】
第3群原料は、微生物固定化助材のなから、炭化処理材(好適には、くん炭)及び多孔性鉱物(好適には、焼成珪藻土、ゼオライト及びパーライト)を選択している。好ましくは、いずれも10mmメッシュ以下の篩下粉粒体として原料化したものである。なお、炭化処理材の形態としては活性炭を含む。
【0029】
第1群原料と第2群原料を配合調製して中間資材とし、中間資材100重量部に対して、腐植土20〜40重量部、バーク堆肥20〜40重量部、ヤシ殻繊維10〜20重量部、米ぬか20〜30重量部、及び糖密1〜10重量部を配合調製する。
より好適には、中間資材100重量部に対して、腐植土25〜35重量部、バーク堆肥25〜35重量部、ヤシ殻繊維10〜14重量部、米ぬか23〜27重量部、及び糖密1〜3重量部を配合調製することを推奨する。
【0030】
ここで、中間資材は、配合調製後に好気性雰囲気又は嫌気性雰囲気の下で所定期間にわたり微生物の増殖促進処理を施し、その菌学的状態が少なくともバチルス属細菌群、放線菌群及び酵母菌群のそれぞれについて、乾燥重量1gあたりの平均コロニー数で108 オーダー以上を確保するものである。
【0031】
菌群の同定と計数については、希釈平板法により、それぞれの菌群に対する使用培地を選択して培養し、計数(CFU値)をおこなった。使用培地と計数結果〔平均コロニー数/1g乾燥重量〕は以下のとおりである。
細菌群:細菌用標準寒天培地 /2.8×109
バチルス属細菌群:ポスト・デキストロース寒天[PDA]培地 /8.4×109
放線菌群:グルコース・デンプン・アスパラギン寒天培地 /9.5×109
糸状菌群:ポスト・デキストロース寒天[PDA]培地 /3.2×108 (推定)
酵母群:(イ)ポスト・デキストロース寒天[PDA]培地 /2.9×108
酵母群:(ロ)麦芽エキス・酵母抽出物[MY]培地 /1.9×108
【0032】
ついで、中間資材に第3群原料を配合調製して最終資材を得る。好適には、最終資材100重量部に対して、中間資材70〜90重量部と、第3群原料10〜30重量部を配合調製する。なお、第3群原料の内訳は炭化処理材が4〜10重量部、及び多孔性鉱物が6〜20重量部となるように量比を配分するのが好ましい。至適な配合割合としては、中間資材80重量部と第3群原料20重量部を配合調製する8:2配合を推奨する。
最終資材のpHは7.0±0.5である(土壌標準分析・測定法委員会編「土壌標準分析・測定法」に記載のガラス電極法に準拠)。
【0033】
好適な施用方法は、被処理物の全容量に対して0.3〜10%を目安に撒布施用するものである。なお、被処理物は、初期において含水率60%前後に水分調整され、必要に応じて切り返し(撹拌)等をおこない、発熱発酵に好適な30〜70℃範囲に温度調整・維持されるのが好ましい。
【0034】
そこで、実験的事実に基づく消臭(脱臭)効果について以下説明する。
【0035】
〔実験例1〕
実施例資材を検体とし、ガス検知管によりトリメチルアミン及びアセトアルデヒドの脱臭効果試験をおこなったものである。
【0036】
<試験方法>
検体をそれぞれにおい袋に入れ、ヒートシールを施した後、空気9Lを封入し、設定したガス濃度(初期ガス濃度)となるように試験対象ガスを添加した。これを静置し、経過時間ごとに袋内のガス濃度をガス検知管を用いて測定した。また、検体を入れずに同様の操作をしたものを空試験とした。試験条件を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
<試験結果及び考察>
トリメチルアミンの脱臭効果試験結果を表2及び図1に示す。表2及び図1から理解されるように、検体のトリメチルアミンのガス濃度は3時間経過後には検出限界に達しており、実施例資材の脱臭効果に疑いがないことが認められた。
【0039】
【表2】

【0040】
アセトアルデヒドの脱臭効果試験結果を表3及び図2に示す。表3及び図2から理解されるように、検体のアセトアルデヒドのガス濃度は24時間経過後には検出限界に達しており、実施例資材の脱臭効果に疑いがないことが認められた。
【0041】
【表3】

【0042】
〔実験例2〕
実施例資材を検体とし、ガス検知管によりアンモニア及び硫化水素の脱臭効果試験をおこなったものである。
【0043】
<試験方法>
検体をそれぞれにおい袋に入れ、ヒートシールを施した後、空気9Lを封入し、設定したガス濃度(初期ガス濃度)となるように試験対象ガスを添加した。これを静置し、経過時間ごとに袋内のガス濃度をガス検知管を用いて測定した。また、検体を入れずに同様の操作をしたものを空試験とした。試験条件を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
<試験結果及び考察>
アンモニアの脱臭効果試験結果を表5及び図3に示す。表5及び図3から理解されるように、検体のアンモニアのガス濃度は3時間経過後には検出限界に達しており、実施例資材の脱臭効果に疑いがないことが認められた。
【0046】
【表5】

【0047】
硫化水素の脱臭効果試験結果を表3及び図2に示す。表6及び図4から理解されるように、検体の硫化水素のガス濃度は24時間経過後には検出限界に達しており、実施例資材の脱臭効果に疑いがないことが認められた。
【0048】
【表6】

【0049】
〔実験例3〕
豚舎の豚糞便に実施例資材を添加したところ、明らかな消臭(脱臭)効果が認められた。
【0050】
そこで、豚糞便微生物叢の変遷を解析し、該微生物叢の構成メンバーを調査するとともに、それら微生物が消臭(脱臭)に及ぼす影響について解析した。
【0051】
<試験方法(試験系の構築)>
1.豚糞便と実施例資材を混合した試験試料の採取
滅菌シャーレに豚舎の豚糞便25gを入れ、実施例資材を5g添加して少量の滅菌水を振りかけ、保湿養生して37℃下で放置した後、混合開始日から1、2、5、7、10、20及び60日目に無菌的に試料採取した。採取の際、臭気を判定する。
【0052】
2.試験試料からのDNAの抽出
豚糞便、実施例資材及び各試験試料からそれぞれDNAを抽出する。
【0053】
3.PCR−DGGE法による細菌を標的とした微生物叢の解析
各試験試料から抽出したDNAを用いて、16SrDNA V3領域を増幅したPCR増幅産物をDGGE*)解析することにより標的とした微生物叢の変遷を確認する。
*)Denaturing gradient Gel Electrophoresis(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法) はDNA断片中の1塩基の違いを検出するための手法である。
【0054】
4.PCR−DGGE法によるカビ・酵母を標的とした微生物叢の解析
各試験試料から抽出したDNAを用いて、26SrDNA D1/D2 領域を増幅したPCR増幅産物をDGGE解析することにより標的とした微生物叢の変遷を確認する。
【0055】
5.切り出しバンドの配列解析
時系列に伴って変化している微生物叢から、特徴的なバンドを切り出し、シーケンシングによって塩基配列を解読して、既知種の中から相同性の高い菌種を推定する。
【0056】
<試験結果及び考察>
(1)臭気判定
新鮮な豚糞便試料に実施例資材試料を振りかけた直後は、豚糞便特有の臭気を発していた。混合開始後1日目は未だ臭気は残っていたが、2日目には完全に臭気は無くなっていた。対照試料として豚糞便試料のみを同様の条件下において比較したが、対照試料は2日目以降も臭気は消えなかった。このことにより、少なくとも実施例資材が何らかの作用により消臭(脱臭)効果をもたらしたことが示唆された。
【0057】
(2)PCR増幅産物の確認
上記試験方法(試験系の構築)2.により抽出したDNAを用いてレーン**) 毎にPCR反応を行なった。図5は細菌を標的としたPCR増幅産物の電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。図5から看て取れるように、目的の位置にバンドが形成され、非特異的なバンドは形成されなかった。
【0058】
また、図6にカビ・酵母を標的としたPCR増幅産物の電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。図6から看て取れるように、豚糞便試料からはカビ・酵母に該当するPCR増幅産物は得られなかった。
【0059】
**)レーン記号は以下のとおり
M:マーカー(塩基数100bp 毎のバンドが増幅産物の目安となる)
O:実施例資材試料
F:豚糞便試料
S0:混合開始0日後(混合直後)に採取した試験試料
S1:混合開始1日後に採取した試験試料
S2:混合開始2日後に採取した試験試料
S5:混合開始5日後に採取した試験試料
S7:混合開始7日後に採取した試験試料
S10:混合開始10日後に採取した試験試料
S20:混合開始20日後に採取した試験試料
S60:混合開始60日後に採取した試験試料
【0060】
(3)PCR−DGGE法と解析するバンドの切り出し
(3−1)図7は細菌を標的としたPCR−DGGE法による電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。
【0061】
ここで、実施例資材に特有なバンドと混合後2日目に臭気が消えたことの結果を踏まえて、解析するバンドを以下のとおり選択した(記号B1〜B11は図7中に矢印とともに示した記号に対応する)。
実施例資材に特徴的なバンド:B1、B2
豚糞便にありながら消えたバンド:B3、B4、B5
豚糞便と共通するバンド:B6、B7、B8
時系列に伴い変化しているバンド:B9、B10、B11
【0062】
(3−2)図8はカビ・酵母を標的としたPCR−DGGE法による電気泳動結果(紫外線蛍光下でのバンド撮影)を示す図面代用写真である。上記(2)PCR増幅産物の確認において既述したように、豚糞便試料からはカビ・酵母に該当するPCR増幅産物は得られなかった。当然のことながら、PCR−DGGE法による電気泳動結果(図4のFレーン)においてもバンドの形成は認められなかった。
【0063】
一方、混合開始日(S0レーン)には無かったバンドが1日後にははっきりと現れてきていた(S1レーンのF4:F5)。また、2日後にはそれらのバンドも激減し、明らかに微生物叢が変化している様子が見られた。5日目以降は微生物叢も安定しており、実施例資材と似通ったバンドパターンを示していた。
【0064】
これらの結果を基に、切り出すバンドを以下のとおり選択した(記号F1〜F8は図8中に矢印とともに示した記号に対応する)。
実施例資材に特徴的なバンド:F1、F2、F3
時系列に伴い変化しているバンド:F4、F5、F6、F7、F8
【0065】
(4)切り出したバンドの塩基配列の決定と菌種の推定
切り出したバンドの塩基配列を解析し、BLAST検索による近縁種を推定した。
【0066】
表7に、細菌を標的としたPCR−DGGE法により切り出したバンド(B1〜B11)を解析して得られた近縁種の推定結果を一覧に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
表8に、カビ・酵母を標的としたPCR−DGGE法により切り出したバンド(F1〜F8)を解析して得られた近縁種の推定結果を一覧に示す。
【0069】
【表8】

【0070】
(5)まとめ
本発明の持つ消臭(脱臭)効果は、実験的脱臭効果試験結果、豚糞便消臭(脱臭)試験結果とともに、微生物の発現と消長についての遺伝子解析の結果からも確証を得ることができた。すなわち、豚糞便特有の臭気の消失にともない、豚糞便に存在した微生物〔臭い産生の原因微生物〕由来のDNAバンド〔図7(表7)のB3,B4,B5〕の消失と、豚糞便中には存在せず、本発明資材の添加により新たな微生物〔消臭(脱臭)に寄与する微生物〕由来のDNAバンド〔図7(表7)のB9,B10,B11、図8(表8)のF4,F5,F6,F7,F8〕の出現が確認できた。
【0071】
一方、実験的事実に基づく硝化・脱窒効果について以下説明する。
【0072】
〔実験例4〕
実施例資材を施用(添加)した鶏糞堆肥中の硝酸態窒素が明らかに低減することが認められた。
【0073】
<試験方法>
肥料分析法(1992)4.1.3に準拠して鶏糞(堆肥化する前)の硝酸態窒素を測定し、鶏糞堆肥と実施例資材入り鶏糞堆肥のそれぞれの硝酸態窒素を測定して低減の度合いを比較する。
【0074】
<試験結果及び考察>
鶏糞(堆肥化する前)の硝酸態窒素の分析結果を表9に、鶏糞堆肥と実施例資材入り鶏糞堆肥のそれぞれの硝酸態窒素の分析結果を表10及び表11に示す。
【0075】
【表9】

【0076】
【表10】

【0077】
【表11】

【0078】
分析結果をみると、堆肥化により硝酸態窒素の含有量は堆肥化前より1桁低下している。また、鶏糞堆肥と実施例資材入り鶏糞堆肥のそれぞれの硝酸態窒素の含有量を比較すると、実施例資材入り鶏糞堆肥の低減の度合いが有意に低いといえる。この有意差をもって実施例資材の硝化・脱窒効果が認められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、配合組成を特定することにより生産を標準化でき、悪臭源となる被処理物に対して撒布施用して消臭効果と硝化・脱窒効果を顕現することについては実証的事実により確証を得ており、種々の配合肥料と同様の形態で分包出荷して流通に置かれるので斯界において有用であり、産業上の利用可能性は高いものである。
【0080】
さらに、本発明の利用先は、家畜糞尿等の悪臭源となる被処理物に対する撒布施用に留まらず、酪農における敷料やペット動物の敷料(ネコ砂等)の消臭目的使用、油汚染水田等の除染目的使用、野菜や樹木に対する活性化目的使用その他の生物学的な消臭(脱臭)、除染、植物活性化に関する多目的、かつ、多用途での使用(汎用性)が期待できる点で多方面にわたり、その効果の及ぶ範囲は広いものである。
【符号の説明】
【0081】
B1;B2 実施例資材に特徴的なバンド(細菌を標的としたPCR−DGGE法)
B3;B4;B5 豚糞便にありながら消えたバンド(同上)
B6;B7;B8 豚糞便と共通するバンド(同上)
B9;B10;B11 時系列に伴い変化しているバンド(同上)

F1;F2;F3 実施例資材に特徴的なバンド(カビ・酵母を標的としたPCR−DGGE法)
F4;F5;F6;F7;F8 時系列に伴い変化しているバンド(同上)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも消臭性微生物群を担持して悪臭源となる家畜糞尿、堆肥その他の被処理物に対して施用される環境改善資材において、
被処理物の発酵・腐熟環境下において消臭作用とともに硝化・脱窒作用を顕現する環境改善資材であって、
少なくとも腐植土、バーク堆肥、ヤシ殻繊維を含む植物性有機質基材のなかから選ばれた1又は複数の第1群原料と、
少なくとも米ぬか及び糖密を含む微生物栄養助材のなかから選ばれた1又は複数の第2群原料と、
少なくとも竹炭、木炭、くん炭その他の炭化処理材及び焼成珪藻土、ゼオライト、パーライトその他の多孔性鉱物を含む微生物固定化助材のなかから選ばれた1又は複数の第3群原料からなり、
前記第1群原料と前記第2群原料を配合調製して中間資材とし、該中間資材に前記第3群原料を配合調製して最終資材を得るものであることを特徴とする環境改善資材。
【請求項2】
第1群原料と第3群原料が、それぞれ篩下粉粒体として原料化したものであり、
中間資材100重量部に対して、腐植土20〜40重量部、バーク堆肥20〜40重量部、ヤシ殻繊維10〜20重量部、米ぬか20〜30重量部、及び糖密1〜10重量部を配合調製するものであり、
最終資材100重量部に対して、前記中間資材70〜90重量部と、第3群原料10〜30重量部を配合調製するものである請求項1記載の環境改善資材。
【請求項3】
中間資材が、配合調製後に好気性雰囲気又は嫌気性雰囲気の下で所定期間にわたり微生物の増殖促進処理を施し、その菌学的状態が少なくともバチルス属細菌群、放線菌群及び酵母菌群のそれぞれについて、乾燥重量1gあたりの平均コロニー数で108 オーダー以上を確保するものであり、
最終資材が、水分調整と温度調整を施した被処理物に対して撒布施用するものである請求項1又は2記載の環境改善資材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−22293(P2013−22293A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160738(P2011−160738)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(399074592)東洋林産化成株式会社 (2)
【出願人】(511178670)
【Fターム(参考)】