自己免疫疾患誘導剤およびその利用
【課題】 本発明は、自己免疫疾患を治療する技術を確立すること。自己免疫疾患の発症について、客観的かつ正確な診断を可能とするための判定方法および自己免疫疾患の治療法などを確立すること。
【解決手段】 自己免疫疾患誘導剤、および該自己免疫疾患誘導剤を用いた自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法を提供する。さらに、自己免疫疾患の発症の判定方法および自己免疫疾患の治療剤を提供する。
【解決手段】 自己免疫疾患誘導剤、および該自己免疫疾患誘導剤を用いた自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法を提供する。さらに、自己免疫疾患の発症の判定方法および自己免疫疾患の治療剤を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤およびその利用に関するものであり、特に、繰り返し投与によって自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、全身性の疾患であるが、臓器特異性のある疾患と、特異性のない疾患の2つに大別される。臓器特異的自己免疫疾患には、慢性甲状腺炎、原発性粘膜水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群がある。臓器非特異的自己免疫疾患には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病がある。
【0003】
これら自己免疫疾患のうち、例えば、全身性エリテマトーデス(systemic lupus eryhtematosus:SLE)においては、自己抗体、特に抗DNA抗体が過剰に産生されて、抗原であるDNAと結合して免疫複合体を形成する。SLEは、このような免疫複合体の組織沈着に起因する補体系の活性化などを介して惹起される全身性炎症性病変を特徴とする疾患である。
【0004】
自己免疫疾患の症状は非常に多彩であり、その経過は症状の重症度によって全く異なる。また、自己免疫疾患の予後は、症状の重症度によって異なる。例えば、SLEの予後は、5年生存率が95%以上であるが、ループス腎炎、中枢神経ループス、肺高血圧症などの症状が見られる場合の予後は芳しくない。また、SLEは再発率が高く、SLE患者の半数は1回以上の再発を経験する。したがって、自己免疫疾患の患者は身体的にも精神的にも大きな苦痛を背負う。
【0005】
自己免疫疾患の診断には、米国リウマチ学会の診断基準が用いられている(非特許文献1を参照のこと)。また、上述したように、SLEは再発率が高いため、疾患活動性を正しく評価して再発の可能性を判定することが重要である。疾患活動性の評価基準としては、カナダのトロント大学から発表されたSLEDAI(SLE disease activity index)が有用である(非特許文献2を参照のこと)。
【0006】
自己免疫疾患の治療方法としては、免疫異常を是正する副腎皮質ステロイド剤、発熱および/または関節炎などを軽減する非ステロイド系消炎鎮痛剤、あるいは免疫抑制剤などが用いられている。例えば、SLEの治療には、免疫抑制剤として、アザチオプリン、シクロホスファミドなどが用いられている。
【0007】
自己免疫疾患の発症原因はほとんど解明されていないが、例えば、一卵性双生児でのSLEの一致率は25%程度であることから、何らかの遺伝的素因に環境因子(例えば、感染、性ホルモン、紫外線、薬物など)が加わって発症すると推測されている。
【0008】
ところで、実験動物を同一抗原で繰り返して免疫し続けると、免疫応答は極期をむかえ、やがて疲弊する。この間にT細胞アネルギーの破綻、血清中のリウマチ因子(rheumanoid factor:RF)の上昇、およびTh2免疫応答が誘導され、その結果として、SLEなど種々の自己免疫病態が生じることが知られている。
【非特許文献1】ACR委員会、Arthritis Rheum 42: 1785 (1999)
【非特許文献2】Bombardier C et al., Arthritis Rheum 35: 630 (1992)
【非特許文献3】Porcelli S et al., Nature 360: 593 (1992)
【非特許文献4】Yoshimoto T et al., Science 270: 1845 (1995)
【非特許文献5】Meiza MA et al., Journal of Immunology 156: 4035 (1996)
【非特許文献6】Sumida T et al., Journal of Experimental Medicine 182: 1163 (1995)
【非特許文献7】Yanagihara Y et al., Clinical Experimental Immunology 118: 131 (1999)
【非特許文献8】住田孝之他、現代医療 33:1030(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、種々の自己免疫疾患について積極的な研究成果が数多く報告されている。しかしながら、自己免疫疾患の発症メカニズムについて、分子生物学的な知見はほとんど得られていない。
【0010】
実験動物を同一抗原で繰り返して免疫し続けると、該実験動物において自己免疫病態が生起してくることを上述したが、その過程においてどのような細胞が関与しているのかなどについては、具体的には未解明である。自己免疫疾患の発症を客観的にかつ正確に診断する技術、および自己免疫疾患を確実に治療する技術は、未だ確立されておらず、よって、かような技術の確立が強く望まれている。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、自己免疫疾患を治療する技術を確立するために利用可能な自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤、および該自己免疫疾患誘導剤を用いた自己免疫疾患モデル動物の作製方法を提供することにある。さらに、自己免疫疾患の発症について、客観的かつ正確な診断を可能とするための判定方法、ならびに自己免疫疾患の治療剤およびそのスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、実験動物に対する同一抗原の繰り返し投与(すなわち、遷延感作)に起因する自己免疫病態の生起は、その生起過程において、(1)遷延感作の初期段階において、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)にアネルギーを誘導しないこと、または(2)抑制性機序が誘導されないこと、が必須であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤は、ナチュラルキラーT細胞活性化因子を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明に係る自己免疫疾患誘導剤において、上記ナチュラルキラーT細胞活性化因子は、卵白アルブミン(OVA)、Staphylococcal enterotoxin B (SEB)またはα-galactosylceramide (α−GC)であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法は、上記の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含することを特徴としている。
【0016】
本発明に係る自己免疫疾患の判定方法は、被験体サンプル中のアネルギーに陥らない細胞を検出する工程を包含することを特徴としている。
【0017】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる工程、および、該ナチュラルキラーT細胞を候補因子とともにインキュベートする前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含することを特徴としている。本方法によってスクリーニングされる自己免疫疾患の治療剤としては、例えば、拮抗阻害剤が挙げられる。
【0018】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞を候補因子の存在下または非存在下にてインキュベートする工程、および、該ナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含している。
【0019】
本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングするために、上記モデル動物に候補因子を投与する工程、該モデル動物からナチュラルキラーT細胞を採取する工程、および、該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを測定する工程、を包含することを特徴としている。
【0020】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、上記の方法によってスクリーニングされたことを特徴としている。
【0021】
また、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤は、CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子を含むことを特徴としている。
【0022】
本発明に係る自己免疫疾患誘導剤において、上記CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子が卵白アルブミン(OVA)であることが好ましい。
【0023】
本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法は、上記の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含することを特徴としている。
【0024】
本発明に係る自己免疫疾患の判定方法は、被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程を包含することを特徴としている。
【0025】
本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、ナイーブCD8陽性T細胞に対する抗体、ならびにエフェクターCD8陽性T細胞に対する抗体および/またはメモリーCD8陽性T細胞に対する抗体を備えていることを特徴としている。
【0026】
本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングするために、上記モデル動物に候補因子を投与する工程、該モデル動物からCD8陽性T細胞を採取する工程、および、該CD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程、を包含することを特徴としている。
【0027】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、上記の方法によってスクリーニングされたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明を用いれば、遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発する自己免疫疾患誘導剤、または抑制性機序を誘導しない自己免疫疾患誘導剤を用いて、モデル動物を遷延感作することによって、自己免疫疾患を発症させることができるので、自己免疫疾患発症モデル動物を作製することができるという効果を奏する。さらに、上記モデル動物を用いることにより、自己免疫疾患の治療剤ならびにそのスクリーニング方法を提供することができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明を用いれば、NKT細胞の活性化異常またはCD8陽性T細胞の分化異常を検出することによって、自己免疫疾患の発症を判定することができるので、自己免疫疾患を診断することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
上述したように、本発明者らは、同一抗原で実験動物を遷延感作することによる自己免疫疾患の発症は、NKT細胞の活性化異常またはCD8+T細胞の分化異常と関連していることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0031】
すなわち、本発明は、遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発して自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤、または抑制性機序を誘導せずに自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤、および、これらの自己免疫疾患誘導剤を用いた自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法を提供する。また、自己免疫疾患の発症を客観的に判断するために、NKT細胞の活性化異常またはCD8陽性T細胞(CD8+T細胞)の分化異常を検出し、これらの異常を指標として、自己免疫疾患の発症を判定する自己免疫疾患の判定方法を提供する。さらに、これらの異常を引き起こしている因子を是正する物質のスクリーニング方法、および該物質を主成分とする自己免疫疾患の治療剤を提供する。
【0032】
以下、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤、自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法、自己免疫疾患の発症の判定方法および判定キット、ならびに自己免疫疾患の治療剤およびスクリーニング方法について、以下に詳述する。
【0033】
〔1:遷延感作により自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤〕
上述したとおり、同一抗原で実験動物を遷延感作すると、該実験動物がSLEなどの自己免疫疾患を発症することは知られていたが、遷延感作に起因する自己免疫疾患の発症について、その詳細なメカニズム(例えば、どのような細胞が関与しているかなど)は不明であった。
【0034】
そこで、本発明者らは、同一抗原で実験動物を遷延感作することによって誘導される現象(すなわち、T細胞アネルギー破綻および血清中RF上昇)についてその原因を詳細に検討した。
【0035】
その結果、本発明者らは、後述する実施例に示すように、同一抗原で遷延感作することにより発症する自己免疫疾患の指標となるT細胞アネルギー破綻および血清中RF上昇にはNKT細胞の活性化異常が関与すること、これらの現象の誘導には遷延感作(繰り返し刺激)の初期段階(例えば、8回の抗原繰り返し投与における2〜3回目の投与)においてNKT細胞がアネルギーに陥らないことが必須であること、を明らかにした。
【0036】
自己免疫疾患のモデルマウス(例えば、MRL−lpr/lpr、C3H gld/gldなど)、およびヒト強皮症、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの患者において、NKT細胞の量が低下していることが知られている(非特許文献5〜8を参照のこと)。NKT細胞は、そのTCRがStaphylococcal enterotoxin B (SEB)などの抗原によって刺激されると活性化されて、インターロイキン4(IL−4)および/またはインターフェロンγ(IFN−γ)を産生する。また、その産生されたIL−4は、Th2細胞の分化を誘導する(非特許文献3、4を参照のこと)。しかし、NKT細胞がどのようなメカニズムで自己免疫疾患の発症と関連しているのかについて、具体的な知見はこれまで全く得られていなかった。すなわち、NKT細胞を標的として自己免疫疾患の診断および/または治療を行う試みは全くなされていなかった。
【0037】
すなわち、本発明は、遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発して自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患誘導剤は、自己免疫疾患を発症させる抗原を含むことを特徴としており、該抗原は、遷延感作の初期段階にてナチュラルキラーT細胞の活性化異常を誘発する因子であればよく、その生物学的特性および物理化学的特性については特に限定されない。
【0038】
本明細書中で使用される場合、「NKT細胞の活性化」は、NKT細胞が、細胞の内外からのシグナルに応答して、NKT細胞に特有の機能を発現することが意図され、具体的には、NTK細胞によって物質の生産、代謝、分泌または吸収が促進されることが意図される。NKT細胞を活性化する因子として、OVA、SEB、α-galactosylceramide (α−GC)、NKT細胞の受容体の刺激剤などが挙げられる。なお、本明細書中で使用される場合、「NKT細胞を活性化する因子」は、「ナチュラルキラーT細胞の活性化を誘発する因子」と交換可能に使用される。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「自己免疫疾患」は、DNAおよび/または自己成分(例えば、免疫グロブリンなど)に対する抗DNA抗体および/または自己抗体(例えば、RFなど)が検出され、自己免疫が病態に関与している疾患が意図される。自己免疫疾患としては、臓器特異的自己免疫疾患(例えば、慢性甲状腺炎、原発性粘膜水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群など)、および臓器非特異的自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、SLE、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病など)が挙げられる。本発明の適用対象としての自己免疫疾患は、SLEが特に好ましい。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「抗原」は、生体内にて抗体を産生させる物質が意図され、抗原としては、ポリヌクレオチド(DNA、RNAなど)、ポリペプチド(ペプチド、タンパク質)、糖類(オリゴ糖、多糖類、糖鎖誘導体など)、ならびにその他の高分子化合物または低分子化合物などが挙げられる。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「遷延感作の初期段階」は、遷延感作(複数回の抗原投与)にて自己免疫疾患を発症させるために要する感作(抗原投与)の総回数のうち、最初の約1〜3割の回数だけ感作させた段階が意図される。逆に、「遷延感作の最終段階」は、遷延感作にて自己免疫疾患を発症させる際の最後の感作が意図される。SEBを抗原に用いた場合(例えば、1回につき25μgのSEBを、5日に1回、マウスに腹腔内投与したとき、8回の投与で該マウスが自己免疫疾患を発症した場合)、「遷延感作の初期段階」は、SEBを2〜3回投与した段階であり、「遷延感作の最終段階」は、SEBを8回投与した段階である。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「NKT細胞の活性化異常」は、NKT細胞によって生産、代謝、分泌または吸収される物質の量が健常者と比べて異なる状態が意図される。NKT細胞の活性化異常としては、NKT細胞における、(1)アネルギーが誘導されないこと、(2)サイトカイン(例えば、IL−4およびINF−γ)産生の異常、(3)細胞表面抗原の変化の異常などが挙げられる。サイトカイン産生の異常としては、Th1/Th2バランスの異常が挙げられる。
【0043】
一方、本発明者らは、卵白アルブミン(OVA)で遷延感作したマウスにおいて、代表的な自己免疫疾患の1つであるSLEが発症することを見出した。そこで、本発明者らは、OVAで遷延感作したSLE発症マウスを用いて、遷延感作により発症する自己免疫疾患の発症メカニズムを詳細に解析した。
【0044】
その結果、上記SLE発症マウスでは、同一抗原により遷延感作した動物の病理組織上において、SLEに特徴的な病変、および血清中での自己抗体の上昇が観察された。また、上記SLE発症マウスでは、抑制性サイトカインの産生は誘導されなかった。
【0045】
さらに、本発明者らは、上記SLE発症マウスにおいて、全CD8+T細胞に占めるエフェクターCD8+T細胞およびメモリーCD8+T細胞の割合が増加すること、ならびにIFN−γを産生するCD8+T細胞が増加していることを示し、CD8+T細胞の分化異常(分画の変動)およびIFN−γの産生が自己免疫疾患の発症の一因になることを明らかにした。
【0046】
すなわち、本発明は、抑制性機序を誘導せずに自己免疫疾患を発症させる抗原を含む自己免疫疾患誘導剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患誘導剤において、上記抗原は、抑制性機序を誘導せずに自己免疫疾患を発症させる抗原であればよく、その生物学的特性および物理化学的特性については特に限定されない。好ましくは、本発明に係る自己免疫疾患の発症抗原は、OVAであり得る。
【0047】
本明細書中で使用される場合、「抑制性機序」としては、抑制性サイトカイン産生などが挙げられる。なお、「抑制性サイトカイン」は、Th2細胞から産生されるサイトカインであって、Th1細胞の増殖を抑制するサイトカインまたはTh1細胞からのサイトカイン産生を抑制するサイトカインが意図され、抑制性サイトカインとしては、例えば、インターロイキン10(IL−10)が挙げられる。
【0048】
本発明に係る自己免疫疾患の発症抗原は、遷延感作によりCD8+T細胞の分化異常を誘発することが好ましい。本明細書中で使用される場合、「CD8陽性T細胞」は、「CD8+T細胞」と交換可能に使用され、「CD8を有するT細胞」が意図される。
【0049】
本明細書中で使用される場合、「細胞の分化」は、細胞が形態的および/または機能的に特殊化することが意図される。例えば、「T細胞の分化」を説明すると以下の通りである:
(1)T細胞は骨髄に由来するリンパ球系の幹細胞が胸腺に入り、プロT細胞に分化する。次いで、T細胞受容体のα鎖とβ鎖の遺伝子が再構成されて、未熟T細胞に分化し、さらに、成熟T細胞へと分化する。
(2)抗原による刺激を一度も受けていないT細胞(ナイーブT細胞)に対して抗原が感作すると、該ナイーブT細胞はエフェクターT細胞へと分化する。さらに、エフェクターT細胞の一部は、メモリーT細胞へと分化する。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「細胞の分化異常」は、分化した細胞の形態および/または機能が健常者と比べて異なる状態、あるいは特殊化した細胞の数もしくは割合が健常者と比べて異なる状態が意図される。
【0051】
「CD8+T細胞の分化異常」の誘発としては、例えば、ナイーブT細胞からエフェクターT細胞、メモリーT細胞への分化異常の誘発、および/または、IFN−γ産生細胞増加の誘発が挙げられ、これらの細胞の存在比率において異常が誘発されていることを指標としてCD8+T細胞の分化異常を検出することができる。例えば、OVAは、遷延感作(繰り返し投与)により、CD8+T細胞の分化異常(分画の変動)を起こし得る。
【0052】
〔2:自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法〕
本発明に係る自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法は、上述した自己免疫疾患誘導剤でモデル動物を遷延感作する工程を包含していればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については、特に限定されない。
【0053】
すなわち、1つの局面において、本発明は、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する自己免疫疾患モデル動物の作製方法を提供する。本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法において、上記自己免疫疾患誘導剤は、ナチュラルキラーT細胞活性化因子を含むことが好ましく、該ナチュラルキラーT細胞活性化因子がStaphylococcal enterotoxin B (SEB)またはα-galactosylceramide (α−GC)であることがより好ましい。
【0054】
すなわち、他の局面において、本発明は、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する自己免疫疾患モデル動物の作製方法を提供する。本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法において、上記自己免疫疾患誘導剤は、CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子を含むことが好ましく、CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子が卵白アルブミン(OVA)であることがより好ましい。
【0055】
本明細書中で使用される場合、「モデル動物」は、ヒトの疾患に対する予防法または治療法を開発するために用いられる実験動物が意図され、モデル動物としては、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イヌなど)、およびその他の脊椎動物が挙げられる。
【0056】
本発明に係る自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法において、上記自己免疫疾患誘導剤をモデル動物に投与する方法は、特に限定されない。好ましい投与方法としては、例えば、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的な投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
以上のように、本発明に係る自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法によれば、自己免疫疾患(例えば、SLE)を発症したマウスを作製することができる。つまり、本発明は、自己免疫疾患発症モデルマウスを用いたSLEの研究(例えば、自己免疫疾患の治療剤のスクリーニングなど)に利用することができる。
【0058】
〔3:自己免疫疾患の判定方法〕
本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法は、生体から分離された試料(サンプル)におけるNKT細胞の活性化異常またはCD8+T細胞の分化異常を検出する工程を、少なくとも含んでいればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については特に限定されない。
【0059】
すなわち、1つの局面において、本発明は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞の活性化異常を検出する工程を包含する自己免疫疾患の判定方法を提供する。
【0060】
本明細書中で使用される場合、「被験体サンプル」は「生体から分離された試料」と交換可能に使用され、常法により人体より容易に取得され得る。被験体サンプルしては、例えば、毛髪、末梢血、各臓器、末梢リンパ球、滑膜細胞などが挙げられる。また、得られた細胞を培養して増殖させたものを用いてもよい。なお、被験体サンプルには、医師によって、または医師の監督下での専門の知識を有する者によって、生体から分離された試料(サンプル)も包含される。
【0061】
上記NKT細胞の活性化異常を検出する方法は、活性化されたNKT細胞または活性化されていない細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを指標として、上記NKT細胞の活性化異常を検出する方法であれば、特に限定されない。
【0062】
一実施形態において、本発明に係る自己免疫疾患の判定方法は、被験体サンプル中のアネルギーに陥らない細胞を検出する工程を包含することが好ましい。
【0063】
また、本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法において、上記NKT細胞を採取する方法は特に限定されず、当業者は、末梢血、脾臓、リンパ節、肝臓、皮膚、腸粘膜、女性器などの各生体器官または生体組織から公知の方法に従って、NKT細胞を容易に採取し得る。
【0064】
すなわち、他の局面において、本発明は、被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程を包含する自己免疫疾患の判定方法を提供する。
【0065】
本発明において、「CD8+T細胞の分化異常を検出する工程」は、上述した「CD8+T細胞の分化異常」を検出する工程であればよく、特に限定されない。CD8+T細胞の分化異常を検出する工程としては、例えば、CD8+T細胞におけるナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞の存在比率の異常を検出する工程、または、上記T細胞におけるインターフェロンγ産生細胞の存在比率の異常を検出する工程が挙げられる。
【0066】
上記CD8陽性T細胞の分化異常を検出する方法は、分化したそれぞれのCD8+T細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを指標として、上記CD8+T細胞の分化異常を検出する方法であれば、特に限定されない。
【0067】
CD8陽性T細胞の分化異常を検出する方法としては、例えば、後述する実施例に示すように、ナイーブCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、およびメモリーCD8+T細胞の存在比率を測定する方法が挙げられる。この場合、CD44およびCD62Lを識別マーカーとして、これらに対する抗体を用いて被験体サンプル中のCD8+T細胞を上記3種(すなわち、ナイーブCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、およびメモリーCD8+T細胞)に分類し、それぞれの存在比率を算出し、次いで、算出した上記3種のCD8+T細胞の存在比率を、健常者における上記3種のCD8+T細胞の存在比率と比較することによって、CD8+T細胞の分化異常を検出することができる。
【0068】
CD8陽性T細胞の分化異常を検出する他の方法としては、CD8+T細胞におけるIFN−γの産生細胞の存在を検出する方法が挙げられる。この場合、IFN−γを識別マーカーとして、IFN−γを産生するCD8+T細胞の全CD8+T細胞に対する割合を、健常者における上記割合と比較することによって、CD8+T細胞の分化異常を検出することができる。
【0069】
上記識別マーカーは、単独でまたは組み合わせて用いられてもよい。識別マーカーを検出する方法は、それぞれの識別マーカーに応じて、適宜選択可能であり、特に限定されない。識別マーカーを検出する方法としては、例えば、PCR法、遺伝子導入法、サザンブロッティング法、ノザンブロッティング法、ウェスタンブロッティング法、ラジオイムノアッセイ、酵素免疫測定法、形態学的検出法(例えば、組織免疫染色、細胞免疫染色など)、フローサイトメトリー(例えば、蛍光活性化セルソータ(fluorescence-activated cell sorter:FACS)など)、クロマトグラフィー(例えば、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなど)、質量分析法などが挙げられ、これらは単独でまたは組み合わせて用いられ得る。
【0070】
また、本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法において、上記CD8+T細胞を採取する方法は特に限定されず、当業者は、末梢血、脾臓、リンパ節、肝臓、皮膚、腸粘膜、女性器などの各生体器官または生体組織から公知の方法に従って、CD8+T細胞を容易に採取し得る。
【0071】
〔4:自己免疫疾患の判定キット〕
本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定キットは、本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法を実施するための試薬など(例えば、抗体、プライマー、プローブなど)を備えていれば、その他の構成は特に限定されず、その他の試薬が適宜組み合わせられ得る。
【0072】
すなわち、1つの局面において、本発明は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞の活性化異常を検出するための試薬を備えている自己免疫疾患の判定キットを提供する。
【0073】
また、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、NKT細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを検出する試薬を備えていてもよい。
【0074】
また、NKT細胞において、特異的に発現する遺伝子を検出するキットとしては、該細胞で特異的に発現している遺伝子を増幅し得るように設計されたプライマーを備え、該遺伝子を検出し得るように設計されたプローブ、制限酵素、マクサムギルバート法およびサンガー法などの塩基配列決定法に利用される試薬など、上記遺伝子を検出するために必要な試薬をさらに備えたキットが挙げられる。
【0075】
なお、上記試薬は、採用される検出方法に応じて適宜選択され得るが、好ましい試薬としては、例えば、dATP、dUTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素、RNA合成酵素などが挙げられる。さらに、本発明に係るキットには、上記遺伝子を検出することを妨げない適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
【0076】
他の局面において、本発明は、被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出するための試薬を備えている自己免疫疾患の判定キットを提供する。
【0077】
上述したように、CD8+T細胞におけるナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞の存在比率に基づいて自己免疫疾患を判定する場合は、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞を検出するための試薬を備えている。ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞を検出するための試薬としては、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞に対する抗体(例えば、抗CD44抗体および抗CD62L抗体)が挙げられる。
【0078】
また、CD8+T細胞におけるIFN−γの産生細胞の存在比率に基づいて自己免疫疾患を判定する場合は、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、インターフェロンγ産生細胞を検出するための試薬を備えている。インターフェロンγ産生細胞を検出するための試薬としては、インターフェロンγ産生細胞に対する抗体が挙げられる。
【0079】
また、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、特定のCD8+T細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを検出する試薬を備えていてもよい。
【0080】
また、特定のCD8+T細胞において、特異的に発現する遺伝子を検出するキットとしては、該細胞で特異的に発現している遺伝子を増幅し得るように設計されたプライマーを備え、該遺伝子を検出し得るように設計されたプローブ、制限酵素、マクサムギルバート法およびサンガー法などの塩基配列決定法に利用される試薬など、上記遺伝子を検出するために必要な試薬をさらに備えたキットが挙げられる。
【0081】
なお、上記試薬は、採用される検出方法に応じて適宜選択され得るが、好ましい試薬としては、例えば、dATP、dUTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素、RNA合成酵素などが挙げられる。さらに、本発明に係るキットには、上記遺伝子を検出することを妨げない適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
【0082】
本明細書中で使用される場合、「細胞を検出する」は、細胞自体を検出することが意図されるが、細胞を検出した後、その結果に基づいて細胞を分類することもまた含まれる。
【0083】
本明細書中で使用される場合、「発症の判定」は、発症可能性(発症危険性)を判定することが意図され、発症の判定方法は、疾患の診断方法または疾患の予防方法としても利用可能である。
【0084】
〔5:自己免疫疾患の治療剤およびそのスクリーニング方法〕
1つの局面において、本発明は、NKT細胞の活性化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする自己免疫疾患の治療剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、NKT細胞の活性化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする治療剤であればよく、その他の含有成分、製造方法、製造装置など、その他の構成について、特に限定されない。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、NKT細胞の活性化に異常が見られる自己免疫疾患の患者の治療に用いられ得る。なお、本明細書中で使用される場合、「因子を是正する」は、該因子が有する機能が阻害または増進されることが意図される。
【0085】
本明細書中で使用される場合、上記「因子」は、ポリヌクレオチド(DNA、RNA等)、ペプチド(ポリペプチド、タンパク質)、糖類(オリゴ糖、多糖類、糖鎖誘導体等)などの高分子化合物、および低分子化合物が意図される。また、上記因子は、NKT細胞の活性化に直接的に関与しても、他の因子を介して間接的に関与してもよい。また、上記因子は、NKT細胞の活性化を促進するものが意図される。NKT細胞を活性化する因子として、SEB、α-galactosylceramide (α−GC)、OVA、NKT細胞の受容体の刺激剤などが挙げられる。
【0086】
他の局面において、本発明は、CD8+T細胞の分化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする自己免疫疾患の治療剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、CD8+T細胞の分化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする治療剤であればよく、その他の含有成分、製造方法、製造装置など、その他の構成について、特に限定されない。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、CD8+T細胞の分化異常が見られる自己免疫疾患の患者の治療に用いられ得る。
【0087】
上述したように、上記「因子」は、ポリヌクレオチド(DNA、RNA等)、ペプチド(ポリペプチド、タンパク質)、糖類(オリゴ糖、多糖類、糖鎖誘導体等)などの高分子化合物、および低分子化合物が意図されるまた、上記因子は、CD8+T細胞の分化に直接的に関与しても、他の因子を介して間接的に関与してもよい。また、上記因子は、CD8+T細胞の分化異常に関与するものであればよく、CD8+T細胞の分化を促進するのであってもよいし、抑制するものであってもよい。例えば、OVAは、繰り返し投与することにより、CD8+T細胞の分化に異常を起こすことができる。
【0088】
いずれの局面においても、臨床適用のための治療剤の投与条件が、本明細書に記載した自己免疫疾患のモデル動物系を用いて決定され得る。すなわち、上記モデル動物を用いて、投与量、投与間隔、投与ルートなどの投与条件を検討し、適切な予防効果または治療効果を得るための条件が決定され得る。このような治療剤は、自己免疫疾患に対する予防または治療のための医薬となる。
【0089】
また、治療剤は、薬学的に受容可能な任意のキャリアをさらに含む組成物であり得る。キャリアとしては、例えば滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、植物油、乳化剤、懸濁剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、徐放剤、他のタンパク質(BSAなど)、トランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等が挙げられる。さらに、本発明において使用可能なキャリアとしては、グルコース、ラクトース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、マグネシウムトリシリケート、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、ばれいしょデンプン、尿素などが挙げられる。
【0090】
本発明に係る治療剤が製剤化される場合の剤型は、特に制限されず、例えば、溶液(注射剤)、粉体、マイクロカプセル、錠剤などであってもよい。例えば、本発明に係る治療剤を徐放剤と組み合わせるかまたは徐放性容器(例えば、カプセル)中に格納することにより、自己免疫疾患を呈する疾患部位を標的とするドラッグデリバリーを行うことが可能となり、効果的な治療が行われ得る。
【0091】
本発明に係る治療剤の患者への投与経路は、有効成分の性質に応じて適宜選択され、例えば、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的に行われ得るがこれらに限定されない。また、本発明に係る治療剤は全身的または局所的に投与され得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には病変部位への局所投与が好ましい。投与量、投与方法は、治療剤の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者は適宜選択し得る。
【0092】
また、本発明の治療剤は、目的物質を総組成物の0.1〜90重量%含む。本発明の治療剤中に含まれる目的物質の投与量は、非経口投与では、1日当たり体重1kg当たり、0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜300mg、より好ましくは0.01mg〜100mgである。しかし、疾患状態、体重、治療に対する患者の個々反応、治療剤が投与される組成物の種類、投与形態、病気の経過の段階、または投与の間隔に依存して、これら投与頻度は適宜調整され得る。なお、投与は、1回〜数回に分けて行われ得、1日あたり1〜5回投与され得る。
【0093】
治療対象となる個体としては、例えば、ヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サルなど)、ならびにその他の脊椎動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物への適用は、ヒト自己免疫疾患に対する予防法または治療法を開発するためにも有用である。例えば、非ヒト哺乳動物を用いて作製したモデル動物を用いることにより、自己免疫疾患の発症を予防する新たな治療プロトコルを開発することができる。
【0094】
なお、別の局面において、本発明は、自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングするためのスクリーニング方法を提供する。
【0095】
一実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患のモデル動物に候補物質を与える工程、該モデル動物からナチュラルキラーT細胞を採取する工程、および、該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを測定する工程、を包含することを特徴としている。別の実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患のモデル動物に候補物質を与える工程、該モデル動物からCD8陽性T細胞を採取する工程、および、該CD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程、を包含することを特徴としている。
【0096】
さらなる実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる工程、および、該ナチュラルキラーT細胞を候補因子とともにインキュベートする前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含することを特徴としている。なおさらなる実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞を候補因子の存在下または非存在下にてインキュベートする工程、および、該ナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含することを特徴としている。
【0097】
上述した本発明に係るスクリーニング方法を用いることにより、上述した自己免疫疾患の治療剤を得ることができる。
【0098】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0099】
本発明について、実施例および図1〜図11に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0100】
[実施例1:遷延感作によるT細胞アネルギー破綻]
BALB/cマウスに、以下の処理(1)〜(6)のいずれかの処理を施し、これら処理後のマウスを用いて、アネルギー解析を行った。アネルギー解析において、各処理を施したマウスの脾細胞中のSEB応答性T細胞におけるインターロイキン2(IL−2)の産生量、および細胞分裂回数を測定することによる細胞増殖を、アネルギーが破綻したかまたは維持されているかの指標とした。IL−2の産生量を、マウスIL−2 ELISA kit(BIOSOURCE社)を用いるELISA法によって定量した。また細胞分裂回数を、細胞内に取り込まれたCFSE(Molecular Probes社)をフローサイトメーターで検出することによって測定した:
・処理(1):SEBを2回投与(25μg/1回)
・処理(2):SEBを8回投与(25μg/1回)
・処理(3):Staphylococcal enterotoxin A(SEA)を2回投与(25μg/1回)、
・処理(4):SEAを8回投与(25μg/1回)
・処理(5):SEAおよびα-galactosylceramide (α−GC)を同時に8回投与(SEA:25μg/1回、α−GC:5μg/1回)
・処理(6):賦形剤(vehicle)のみを8回投与
なお、5日に1回または15日に1回の腹腔内投与によって投与した。
【0101】
T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を図1に示す。図1における縦軸は、処理(6)を施したマウスの脾細胞におけるIL−2の産生量を100とした場合のそれぞれの処理を施したマウスの脾細胞におけるIL−2の産生量の割合を示す。
【0102】
処理(2)を施したマウスでは、アネルギーを生じて低減していたIL−2の産生量は約60%まで回復しており、アネルギーが破綻したことが確認された。これに対して、処理(4)を施したマウスでは、IL−2の産生量は低く、アネルギーが持続していたことがわかる。しかし、処理(5)を施したマウスでは、IL−2の産生量は約40%まで回復しており、処理(2)を施したマウスと同様にアネルギーが破綻していた。
【0103】
また、細胞増殖(細胞分裂回数)を調べたところ、IL−2の産生量の結果と同様に、処理(4)を施したマウスでは、細胞の増殖は見られなかったが、処理(2)または(5)を施したマウスでは、一旦アネルギーに陥った細胞が再び増殖していた(データは示さず)。
【0104】
なお、投与間隔を5日毎と15日毎とで行ったが、どちらの場合も8回目まで繰り返し免疫をすることによって処理(2)または(5)を施したマウスにおいてアネルギーの破綻が観察された。これにより、アネルギーの破綻に必要なのは投与間隔ではなく、繰り返し投与(すなわち、遷延感作)であることがわかった。
【0105】
[実施例2:遷延感作による血清中RF量の上昇]
実施例1における処理(2)、(4)、(5)、(6)、および以下に示す処理(7)を施したマウスにおいて、各処理の最後の投与から2日目に採血を行い、血清を回収し、活性化IgGのFc部分に対する自己抗体であるRFの産生量を、レビスリウマチ因子IgG型マウスELISA kit(シバヤギ社)を用いたELISA法によって測定した:
・処理(7):α−GCを8回投与(5μg/1回)
なお、投与方法は5日に1回、または15日に1回、腹腔内投与を行った。
【0106】
マウス血清中のRF産生量を測定した結果を図2に示す。処理(6)を施したマウスと比較して、処理(2)を施したマウスでは、RFの産生量が有意に増加していた。一方、処理(4)を施したマウスでは、RFの産生量は処理(6)を施したマウスと有意差はなかった。しかし、SEAおよびα−GCの同時投与(処理(5))を施したマウスでは、処理(6)を施したマウスと比較して、RFの産生量が有意に増加していた。
【0107】
なお、投与間隔を5日毎と15日毎で行ったが、どちらの場合も8回目まで繰り返し投与をすることによって処理(2)または(5)を施したマウスにおいてRFの産生が観察された。これにより、RFの産生に必要なのは投与間隔ではなく、繰り返し投与であることがわかった。
【0108】
[実施例3:遷延感作によるNKT細胞へのアネルギー誘導および破綻]
実施例1における処理(1)、(2)、および以下に示す処理(8)を施したマウスにおいて、NKT細胞におけるアネルギー解析を行った。アネルギー解析において、各処理を施したマウスの脾細胞から採取したNKT細胞におけるインターロイキン2(IL−2)の産生量、および細胞分裂回数を測定することによる細胞増殖を、アネルギーが破綻したかまたは維持されているかの指標とした。IL−2の産生量を、マウスIL−2 ELISA kit(BIOSOURCE社)を用いるELISA法によって定量した。また細胞分裂回数を、細胞内に取り込まれたCFSE(Molecular Probes社)をフローサイトメーターで検出することによって測定した:
・処理(8):PBSを8回投与
なお、投与方法は5日に1回、腹腔内投与を行った。NKT細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を図3に示す。
【0109】
実施例1にて示した通り、通常のT細胞は2度のSEB刺激(処理(1))によってアネルギーに陥いる。アネルギー状態のT細胞からのIL−2産生量はコントロール(処理(8))の1%以下であるが、8回投与後(処理(2))によってIL−2産生量は40〜60%まで回復する。しかし、NKT細胞においては、2回のSEB投与(処理(1))後のNKT細胞からIL−2産生量は、コントロール(処理(8))の約40%、8回投与(処理(2))のマウスではほぼ100%まで回復していた。
【0110】
また、細胞増殖(細胞分裂回数)を調べたところ、IL−2の産生量の結果と同様に、処理(1)を施したマウスで、細胞増殖しているNKT細胞が確認された(データは示さず)。このことから、NKT細胞は通常のT細胞よりアネルギーに陥りにくいことがわかった。
【0111】
[実施例4:α−GCでの遷延感作によるT細胞アネルギー破綻]
BALB/cマウスに、以下の処理(I)〜(IV)のいずれかの処理を施した。最終投与の2日後にマウスから採血して血清を回収した。また最終投与の9日後に屠殺したマウスから脾細胞を単離し、単離した脾細胞をSEBで24時間刺激しながら培養し、培養上清中のインターロイキン2(IL−2)の産生量を、マウスIL−2 ELISA kit(BIOSOURCE社)を用いるELISA法によって定量した:
・処理(I):PBSを2回+vehicleを8回投与
・処理(II):SEBを2回+vehicleを8回投与(SEB;25μg/1回)
・処理(III):SEBを2回+α−GCを2回投与(SEB;25μg/1回、α−GC;5μg/1回)
・処理(IV):SEBを2回+α−GCを8回投与(SEB;25μg/1回、α−GC;5μg/1回)
なお、5日に1回の腹腔内投与によって投与した。
【0112】
SEB応答性T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を図5に示す。I群は、SEB応答性T細胞がアネルギーではない状態の対照群であり、II群は、SEB応答性T細胞がアネルギー状態の対照群である。α−GCを2回投与したIII群では、IL−2の産生量は低かったが、α−GCを8回投与したIV群では、IL−2の産生量がI群の約80%まで回復した。
【0113】
単離した脾細胞にCFSE(Molecular Probes社)を取り込ませ、SEBで72時間刺激しながら細胞を培養し、CD4T細胞におけるCFSEの蛍光強度をフローサイトメーターで検出することによって細胞分裂回数を測定した。
【0114】
結果を図6に示す。IL−2産生量が低かったIII群では細胞の増殖が見られなかったが、IV群ではI群と同数の細胞分裂が観察され、細胞が増殖していることが確認された。
【0115】
以上より、SEBの投与によって生じたT細胞アネルギーは、α−GCでNKT細胞を繰り返し刺激することによって破綻することが示された。
【0116】
[実施例5:α−GCでの遷延感作による血清中RF量の上昇]
実施例4にて回収した血清中のRF量を、レビスリウマチ因子IgG型マウスELISA kit(シバヤギ社)を用いたELISA法によって測定した。
【0117】
結果を図7に示す。SEB応答性T細胞においてアネルギーの破綻が観察されたIV群では、RFを産生する個体が観察された。このことは、T細胞アネルギーの破綻によりRFが産生されることを示す。
【0118】
[実施例6:遷延感作によるSLE発症]
BALB/cマウスに、以下の処理(8)〜(11)のいずれかの処理を施した。最終投与の2日後にマウスから尿を回収し、最終投与の9日後に屠殺したマウスから腎臓を摘出し、SLE様腎炎の発症の有無を調べた。アルブスティックス(バイエル社)を用いたテトラブロムフェノールブルーによる呈色反応によりタンパク尿の検出を行った:
・処理(8):PBSを8回投与
・処理(9):SEBを8回投与(25μg/1回)
・処理(10):PBSを12回投与
・処理(11):OVAを12回投与(500μg/1回)
なお、5日に1回の腹腔内投与によって投与した。
【0119】
結果を図8に示す。処置(8)〜(10)のいずれかを施したマウスではタンパク尿は検出されなかったが、処理(11)を施したマウスではタンパク尿が検出された(図8(a)を参照のこと)。
【0120】
上記処理を施したマウスの腎臓におけるIgG沈着を図8(b)に示す。腎臓の組織切片を蛍光標識した抗マウスIgG抗体で染色し、IgGの沈着を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、処理(8)〜(10)のいずれかを施したマウスではIgGの沈着は見られなかったが、処理(11)を施したマウスでは、全身性エリテマトーデス(SLE)に特徴的な病変であるIgGの沈着が観察された。
【0121】
以上のことから、OVAでの遷延感作によってSLE様腎炎が発症していることがわかった。
【0122】
[実施例7:遷延感作による自己抗体の産生]
実施例6にて示した処理を施したマウスの血清中における自己抗体を測定した。測定した自己抗体は、リウマチ因子(RF)、抗Sm抗体(核内低分子RNAとタンパクの複合体であるsnRNPに対する自己抗体)、抗ssDNA抗体(1本鎖DNAに対する自己抗体)、および抗dsDNA抗体(2本鎖DNAに対する自己抗体)である。
【0123】
図9(a)〜(d)は、それぞれ、RF、抗Sm抗体、抗ssDNA抗体、および抗dsDNA抗体の産生量を、ELISAにより測定した結果を示す。RF産生量の測定にはレビスリウマチ因子IgG型マウスELISA kit(シバヤギ社)を用いた。また、抗Sm抗体、抗ssDNA抗体および抗dsDNA抗体の産生量の測定には、陽性対照として疾患モデルマウスMRL/lprの血清を用いた。
【0124】
図9(a)および(b)に示すように、処理(9)を施したマウスの60%において、RFおよび抗Sm抗体の産生量の増加が見られた。一方、処理(11)を施したマウスでは、全ての個体でRF、抗Sm抗体、抗ssDNA抗体および抗dsDNA抗体の産生量が増加した。
【0125】
[実施例8:CD8+T細胞の分化異常の測定]
実施例6にて示した処理を施したマウスの脾臓CD8+T細胞を、細胞表面上でのCD44およびCD62Lの発現をフローサイトメーターで検出して、ナイーブCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、およびメモリーCD8+T細胞に分類した。
【0126】
結果を図10に示す。なお、図中(a)はCD8+T細胞をナイーブCD8+T細胞(図中、「naive CD8+ T」)、エフェクターCD8+T細胞(図中、「effector CD8+ T」)およびメモリーCD8+T細胞(図中、「memory CD8+ T」)に分類した結果を示し、
(b)は、(a)の結果を棒グラフとして表したものである。
【0127】
図10に示すように、処理(8)〜(10)を施したマウスでは、CD8+T細胞の分画に違いが見られなかったが、処理(11)を施したマウスでは、エフェクターCD8+T細胞およびメモリーCD8+T細胞の割合が有意に増加していた。
【0128】
また、上記処理をしたマウスのCD8+T細胞を細胞内染色し、IFN−γを産生しているCD8+T細胞をフローサイトメーターで検出した。
【0129】
結果を図11に示す。なお、図中(a)は、抗原の繰り返し投与後にIFN−γを産生するCD8+T細胞の割合を計測した結果を示す。また、
(b)は、(a)の結果を棒グラフとして表したものである。
【0130】
図11に示すように、処理(11)を施したマウスにおいて、IFN−γを産生するCD8+T細胞の割合が有意に高かった。
【0131】
以上のことより、OVAで遷延感作したマウスでは、CD8+T細胞の分化異常が自己免疫疾患に寄与することがわかった。
【0132】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
以上のように、本発明では、抑制性機序を誘導しない自己免疫疾患誘導剤または遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発する自己免疫疾患誘導剤で、モデル動物を遷延感作することによって、自己免疫疾患を発症させることで、自己免疫疾患発症モデル動物を作製し得る。したがって、本発明は、自己免疫疾患の診断のための医薬品、自己免疫疾患の予防および/または治療のための医薬品のスクリーニング試験などに好適に用いることができる。また、CD8+T細胞の分化異常またはNKT細胞の活性化異常を検出することにより、自己免疫疾患の発症を判定することができるため、自己免疫疾患の発症の判定方法および判定キットに代表される診断医療の分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおける、SEB応答性T細胞またはSEA応答性T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図2】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるRF産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図3】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるNKT細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図4】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるSEB応答性T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図5】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスから採取したCD4T細胞の細胞分裂回数を測定した結果を示すグラフである。
【図6】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスから回収した血清中のRF量を測定した結果を示すグラフである。
【図7】図7(a)および(b)は、本実施例において、抗原の繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるSLE様腎炎の発症を調べた結果を示す図である。
【図8】図8(a)〜(d)は、本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおける自己抗体の産生を調べた結果を示すグラフである。
【図9】図9(a)および(b)は、本実施例において、抗原の繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるCD8+T細胞の各分画の動態変化を調べた結果を示すグラフである。
【図10】図10(a)および(b)は、本実施例において、抗原の繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるCD8+T細胞におけるIFN−γの産生細胞の変動を調べた結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤およびその利用に関するものであり、特に、繰り返し投与によって自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は、全身性の疾患であるが、臓器特異性のある疾患と、特異性のない疾患の2つに大別される。臓器特異的自己免疫疾患には、慢性甲状腺炎、原発性粘膜水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群がある。臓器非特異的自己免疫疾患には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病がある。
【0003】
これら自己免疫疾患のうち、例えば、全身性エリテマトーデス(systemic lupus eryhtematosus:SLE)においては、自己抗体、特に抗DNA抗体が過剰に産生されて、抗原であるDNAと結合して免疫複合体を形成する。SLEは、このような免疫複合体の組織沈着に起因する補体系の活性化などを介して惹起される全身性炎症性病変を特徴とする疾患である。
【0004】
自己免疫疾患の症状は非常に多彩であり、その経過は症状の重症度によって全く異なる。また、自己免疫疾患の予後は、症状の重症度によって異なる。例えば、SLEの予後は、5年生存率が95%以上であるが、ループス腎炎、中枢神経ループス、肺高血圧症などの症状が見られる場合の予後は芳しくない。また、SLEは再発率が高く、SLE患者の半数は1回以上の再発を経験する。したがって、自己免疫疾患の患者は身体的にも精神的にも大きな苦痛を背負う。
【0005】
自己免疫疾患の診断には、米国リウマチ学会の診断基準が用いられている(非特許文献1を参照のこと)。また、上述したように、SLEは再発率が高いため、疾患活動性を正しく評価して再発の可能性を判定することが重要である。疾患活動性の評価基準としては、カナダのトロント大学から発表されたSLEDAI(SLE disease activity index)が有用である(非特許文献2を参照のこと)。
【0006】
自己免疫疾患の治療方法としては、免疫異常を是正する副腎皮質ステロイド剤、発熱および/または関節炎などを軽減する非ステロイド系消炎鎮痛剤、あるいは免疫抑制剤などが用いられている。例えば、SLEの治療には、免疫抑制剤として、アザチオプリン、シクロホスファミドなどが用いられている。
【0007】
自己免疫疾患の発症原因はほとんど解明されていないが、例えば、一卵性双生児でのSLEの一致率は25%程度であることから、何らかの遺伝的素因に環境因子(例えば、感染、性ホルモン、紫外線、薬物など)が加わって発症すると推測されている。
【0008】
ところで、実験動物を同一抗原で繰り返して免疫し続けると、免疫応答は極期をむかえ、やがて疲弊する。この間にT細胞アネルギーの破綻、血清中のリウマチ因子(rheumanoid factor:RF)の上昇、およびTh2免疫応答が誘導され、その結果として、SLEなど種々の自己免疫病態が生じることが知られている。
【非特許文献1】ACR委員会、Arthritis Rheum 42: 1785 (1999)
【非特許文献2】Bombardier C et al., Arthritis Rheum 35: 630 (1992)
【非特許文献3】Porcelli S et al., Nature 360: 593 (1992)
【非特許文献4】Yoshimoto T et al., Science 270: 1845 (1995)
【非特許文献5】Meiza MA et al., Journal of Immunology 156: 4035 (1996)
【非特許文献6】Sumida T et al., Journal of Experimental Medicine 182: 1163 (1995)
【非特許文献7】Yanagihara Y et al., Clinical Experimental Immunology 118: 131 (1999)
【非特許文献8】住田孝之他、現代医療 33:1030(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、種々の自己免疫疾患について積極的な研究成果が数多く報告されている。しかしながら、自己免疫疾患の発症メカニズムについて、分子生物学的な知見はほとんど得られていない。
【0010】
実験動物を同一抗原で繰り返して免疫し続けると、該実験動物において自己免疫病態が生起してくることを上述したが、その過程においてどのような細胞が関与しているのかなどについては、具体的には未解明である。自己免疫疾患の発症を客観的にかつ正確に診断する技術、および自己免疫疾患を確実に治療する技術は、未だ確立されておらず、よって、かような技術の確立が強く望まれている。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、自己免疫疾患を治療する技術を確立するために利用可能な自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤、および該自己免疫疾患誘導剤を用いた自己免疫疾患モデル動物の作製方法を提供することにある。さらに、自己免疫疾患の発症について、客観的かつ正確な診断を可能とするための判定方法、ならびに自己免疫疾患の治療剤およびそのスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、実験動物に対する同一抗原の繰り返し投与(すなわち、遷延感作)に起因する自己免疫病態の生起は、その生起過程において、(1)遷延感作の初期段階において、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)にアネルギーを誘導しないこと、または(2)抑制性機序が誘導されないこと、が必須であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤は、ナチュラルキラーT細胞活性化因子を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明に係る自己免疫疾患誘導剤において、上記ナチュラルキラーT細胞活性化因子は、卵白アルブミン(OVA)、Staphylococcal enterotoxin B (SEB)またはα-galactosylceramide (α−GC)であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法は、上記の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含することを特徴としている。
【0016】
本発明に係る自己免疫疾患の判定方法は、被験体サンプル中のアネルギーに陥らない細胞を検出する工程を包含することを特徴としている。
【0017】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる工程、および、該ナチュラルキラーT細胞を候補因子とともにインキュベートする前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含することを特徴としている。本方法によってスクリーニングされる自己免疫疾患の治療剤としては、例えば、拮抗阻害剤が挙げられる。
【0018】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞を候補因子の存在下または非存在下にてインキュベートする工程、および、該ナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含している。
【0019】
本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングするために、上記モデル動物に候補因子を投与する工程、該モデル動物からナチュラルキラーT細胞を採取する工程、および、該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを測定する工程、を包含することを特徴としている。
【0020】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、上記の方法によってスクリーニングされたことを特徴としている。
【0021】
また、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤は、CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子を含むことを特徴としている。
【0022】
本発明に係る自己免疫疾患誘導剤において、上記CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子が卵白アルブミン(OVA)であることが好ましい。
【0023】
本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法は、上記の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含することを特徴としている。
【0024】
本発明に係る自己免疫疾患の判定方法は、被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程を包含することを特徴としている。
【0025】
本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、ナイーブCD8陽性T細胞に対する抗体、ならびにエフェクターCD8陽性T細胞に対する抗体および/またはメモリーCD8陽性T細胞に対する抗体を備えていることを特徴としている。
【0026】
本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングするために、上記モデル動物に候補因子を投与する工程、該モデル動物からCD8陽性T細胞を採取する工程、および、該CD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程、を包含することを特徴としている。
【0027】
本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、上記の方法によってスクリーニングされたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明を用いれば、遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発する自己免疫疾患誘導剤、または抑制性機序を誘導しない自己免疫疾患誘導剤を用いて、モデル動物を遷延感作することによって、自己免疫疾患を発症させることができるので、自己免疫疾患発症モデル動物を作製することができるという効果を奏する。さらに、上記モデル動物を用いることにより、自己免疫疾患の治療剤ならびにそのスクリーニング方法を提供することができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明を用いれば、NKT細胞の活性化異常またはCD8陽性T細胞の分化異常を検出することによって、自己免疫疾患の発症を判定することができるので、自己免疫疾患を診断することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
上述したように、本発明者らは、同一抗原で実験動物を遷延感作することによる自己免疫疾患の発症は、NKT細胞の活性化異常またはCD8+T細胞の分化異常と関連していることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0031】
すなわち、本発明は、遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発して自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤、または抑制性機序を誘導せずに自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤、および、これらの自己免疫疾患誘導剤を用いた自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法を提供する。また、自己免疫疾患の発症を客観的に判断するために、NKT細胞の活性化異常またはCD8陽性T細胞(CD8+T細胞)の分化異常を検出し、これらの異常を指標として、自己免疫疾患の発症を判定する自己免疫疾患の判定方法を提供する。さらに、これらの異常を引き起こしている因子を是正する物質のスクリーニング方法、および該物質を主成分とする自己免疫疾患の治療剤を提供する。
【0032】
以下、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤、自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法、自己免疫疾患の発症の判定方法および判定キット、ならびに自己免疫疾患の治療剤およびスクリーニング方法について、以下に詳述する。
【0033】
〔1:遷延感作により自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤〕
上述したとおり、同一抗原で実験動物を遷延感作すると、該実験動物がSLEなどの自己免疫疾患を発症することは知られていたが、遷延感作に起因する自己免疫疾患の発症について、その詳細なメカニズム(例えば、どのような細胞が関与しているかなど)は不明であった。
【0034】
そこで、本発明者らは、同一抗原で実験動物を遷延感作することによって誘導される現象(すなわち、T細胞アネルギー破綻および血清中RF上昇)についてその原因を詳細に検討した。
【0035】
その結果、本発明者らは、後述する実施例に示すように、同一抗原で遷延感作することにより発症する自己免疫疾患の指標となるT細胞アネルギー破綻および血清中RF上昇にはNKT細胞の活性化異常が関与すること、これらの現象の誘導には遷延感作(繰り返し刺激)の初期段階(例えば、8回の抗原繰り返し投与における2〜3回目の投与)においてNKT細胞がアネルギーに陥らないことが必須であること、を明らかにした。
【0036】
自己免疫疾患のモデルマウス(例えば、MRL−lpr/lpr、C3H gld/gldなど)、およびヒト強皮症、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの患者において、NKT細胞の量が低下していることが知られている(非特許文献5〜8を参照のこと)。NKT細胞は、そのTCRがStaphylococcal enterotoxin B (SEB)などの抗原によって刺激されると活性化されて、インターロイキン4(IL−4)および/またはインターフェロンγ(IFN−γ)を産生する。また、その産生されたIL−4は、Th2細胞の分化を誘導する(非特許文献3、4を参照のこと)。しかし、NKT細胞がどのようなメカニズムで自己免疫疾患の発症と関連しているのかについて、具体的な知見はこれまで全く得られていなかった。すなわち、NKT細胞を標的として自己免疫疾患の診断および/または治療を行う試みは全くなされていなかった。
【0037】
すなわち、本発明は、遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発して自己免疫疾患を発症させる自己免疫疾患誘導剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患誘導剤は、自己免疫疾患を発症させる抗原を含むことを特徴としており、該抗原は、遷延感作の初期段階にてナチュラルキラーT細胞の活性化異常を誘発する因子であればよく、その生物学的特性および物理化学的特性については特に限定されない。
【0038】
本明細書中で使用される場合、「NKT細胞の活性化」は、NKT細胞が、細胞の内外からのシグナルに応答して、NKT細胞に特有の機能を発現することが意図され、具体的には、NTK細胞によって物質の生産、代謝、分泌または吸収が促進されることが意図される。NKT細胞を活性化する因子として、OVA、SEB、α-galactosylceramide (α−GC)、NKT細胞の受容体の刺激剤などが挙げられる。なお、本明細書中で使用される場合、「NKT細胞を活性化する因子」は、「ナチュラルキラーT細胞の活性化を誘発する因子」と交換可能に使用される。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「自己免疫疾患」は、DNAおよび/または自己成分(例えば、免疫グロブリンなど)に対する抗DNA抗体および/または自己抗体(例えば、RFなど)が検出され、自己免疫が病態に関与している疾患が意図される。自己免疫疾患としては、臓器特異的自己免疫疾患(例えば、慢性甲状腺炎、原発性粘膜水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、グッドパスチャー症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交感性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群など)、および臓器非特異的自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、SLE、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病など)が挙げられる。本発明の適用対象としての自己免疫疾患は、SLEが特に好ましい。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「抗原」は、生体内にて抗体を産生させる物質が意図され、抗原としては、ポリヌクレオチド(DNA、RNAなど)、ポリペプチド(ペプチド、タンパク質)、糖類(オリゴ糖、多糖類、糖鎖誘導体など)、ならびにその他の高分子化合物または低分子化合物などが挙げられる。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「遷延感作の初期段階」は、遷延感作(複数回の抗原投与)にて自己免疫疾患を発症させるために要する感作(抗原投与)の総回数のうち、最初の約1〜3割の回数だけ感作させた段階が意図される。逆に、「遷延感作の最終段階」は、遷延感作にて自己免疫疾患を発症させる際の最後の感作が意図される。SEBを抗原に用いた場合(例えば、1回につき25μgのSEBを、5日に1回、マウスに腹腔内投与したとき、8回の投与で該マウスが自己免疫疾患を発症した場合)、「遷延感作の初期段階」は、SEBを2〜3回投与した段階であり、「遷延感作の最終段階」は、SEBを8回投与した段階である。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「NKT細胞の活性化異常」は、NKT細胞によって生産、代謝、分泌または吸収される物質の量が健常者と比べて異なる状態が意図される。NKT細胞の活性化異常としては、NKT細胞における、(1)アネルギーが誘導されないこと、(2)サイトカイン(例えば、IL−4およびINF−γ)産生の異常、(3)細胞表面抗原の変化の異常などが挙げられる。サイトカイン産生の異常としては、Th1/Th2バランスの異常が挙げられる。
【0043】
一方、本発明者らは、卵白アルブミン(OVA)で遷延感作したマウスにおいて、代表的な自己免疫疾患の1つであるSLEが発症することを見出した。そこで、本発明者らは、OVAで遷延感作したSLE発症マウスを用いて、遷延感作により発症する自己免疫疾患の発症メカニズムを詳細に解析した。
【0044】
その結果、上記SLE発症マウスでは、同一抗原により遷延感作した動物の病理組織上において、SLEに特徴的な病変、および血清中での自己抗体の上昇が観察された。また、上記SLE発症マウスでは、抑制性サイトカインの産生は誘導されなかった。
【0045】
さらに、本発明者らは、上記SLE発症マウスにおいて、全CD8+T細胞に占めるエフェクターCD8+T細胞およびメモリーCD8+T細胞の割合が増加すること、ならびにIFN−γを産生するCD8+T細胞が増加していることを示し、CD8+T細胞の分化異常(分画の変動)およびIFN−γの産生が自己免疫疾患の発症の一因になることを明らかにした。
【0046】
すなわち、本発明は、抑制性機序を誘導せずに自己免疫疾患を発症させる抗原を含む自己免疫疾患誘導剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患誘導剤において、上記抗原は、抑制性機序を誘導せずに自己免疫疾患を発症させる抗原であればよく、その生物学的特性および物理化学的特性については特に限定されない。好ましくは、本発明に係る自己免疫疾患の発症抗原は、OVAであり得る。
【0047】
本明細書中で使用される場合、「抑制性機序」としては、抑制性サイトカイン産生などが挙げられる。なお、「抑制性サイトカイン」は、Th2細胞から産生されるサイトカインであって、Th1細胞の増殖を抑制するサイトカインまたはTh1細胞からのサイトカイン産生を抑制するサイトカインが意図され、抑制性サイトカインとしては、例えば、インターロイキン10(IL−10)が挙げられる。
【0048】
本発明に係る自己免疫疾患の発症抗原は、遷延感作によりCD8+T細胞の分化異常を誘発することが好ましい。本明細書中で使用される場合、「CD8陽性T細胞」は、「CD8+T細胞」と交換可能に使用され、「CD8を有するT細胞」が意図される。
【0049】
本明細書中で使用される場合、「細胞の分化」は、細胞が形態的および/または機能的に特殊化することが意図される。例えば、「T細胞の分化」を説明すると以下の通りである:
(1)T細胞は骨髄に由来するリンパ球系の幹細胞が胸腺に入り、プロT細胞に分化する。次いで、T細胞受容体のα鎖とβ鎖の遺伝子が再構成されて、未熟T細胞に分化し、さらに、成熟T細胞へと分化する。
(2)抗原による刺激を一度も受けていないT細胞(ナイーブT細胞)に対して抗原が感作すると、該ナイーブT細胞はエフェクターT細胞へと分化する。さらに、エフェクターT細胞の一部は、メモリーT細胞へと分化する。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「細胞の分化異常」は、分化した細胞の形態および/または機能が健常者と比べて異なる状態、あるいは特殊化した細胞の数もしくは割合が健常者と比べて異なる状態が意図される。
【0051】
「CD8+T細胞の分化異常」の誘発としては、例えば、ナイーブT細胞からエフェクターT細胞、メモリーT細胞への分化異常の誘発、および/または、IFN−γ産生細胞増加の誘発が挙げられ、これらの細胞の存在比率において異常が誘発されていることを指標としてCD8+T細胞の分化異常を検出することができる。例えば、OVAは、遷延感作(繰り返し投与)により、CD8+T細胞の分化異常(分画の変動)を起こし得る。
【0052】
〔2:自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法〕
本発明に係る自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法は、上述した自己免疫疾患誘導剤でモデル動物を遷延感作する工程を包含していればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については、特に限定されない。
【0053】
すなわち、1つの局面において、本発明は、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する自己免疫疾患モデル動物の作製方法を提供する。本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法において、上記自己免疫疾患誘導剤は、ナチュラルキラーT細胞活性化因子を含むことが好ましく、該ナチュラルキラーT細胞活性化因子がStaphylococcal enterotoxin B (SEB)またはα-galactosylceramide (α−GC)であることがより好ましい。
【0054】
すなわち、他の局面において、本発明は、本発明に係る自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する自己免疫疾患モデル動物の作製方法を提供する。本発明に係る自己免疫疾患モデル動物の作製方法において、上記自己免疫疾患誘導剤は、CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子を含むことが好ましく、CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子が卵白アルブミン(OVA)であることがより好ましい。
【0055】
本明細書中で使用される場合、「モデル動物」は、ヒトの疾患に対する予防法または治療法を開発するために用いられる実験動物が意図され、モデル動物としては、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イヌなど)、およびその他の脊椎動物が挙げられる。
【0056】
本発明に係る自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法において、上記自己免疫疾患誘導剤をモデル動物に投与する方法は、特に限定されない。好ましい投与方法としては、例えば、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的な投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
以上のように、本発明に係る自己免疫疾患発症モデル動物の作製方法によれば、自己免疫疾患(例えば、SLE)を発症したマウスを作製することができる。つまり、本発明は、自己免疫疾患発症モデルマウスを用いたSLEの研究(例えば、自己免疫疾患の治療剤のスクリーニングなど)に利用することができる。
【0058】
〔3:自己免疫疾患の判定方法〕
本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法は、生体から分離された試料(サンプル)におけるNKT細胞の活性化異常またはCD8+T細胞の分化異常を検出する工程を、少なくとも含んでいればよく、その他の具体的な工程、材料、条件、使用装置、および使用機器等については特に限定されない。
【0059】
すなわち、1つの局面において、本発明は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞の活性化異常を検出する工程を包含する自己免疫疾患の判定方法を提供する。
【0060】
本明細書中で使用される場合、「被験体サンプル」は「生体から分離された試料」と交換可能に使用され、常法により人体より容易に取得され得る。被験体サンプルしては、例えば、毛髪、末梢血、各臓器、末梢リンパ球、滑膜細胞などが挙げられる。また、得られた細胞を培養して増殖させたものを用いてもよい。なお、被験体サンプルには、医師によって、または医師の監督下での専門の知識を有する者によって、生体から分離された試料(サンプル)も包含される。
【0061】
上記NKT細胞の活性化異常を検出する方法は、活性化されたNKT細胞または活性化されていない細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを指標として、上記NKT細胞の活性化異常を検出する方法であれば、特に限定されない。
【0062】
一実施形態において、本発明に係る自己免疫疾患の判定方法は、被験体サンプル中のアネルギーに陥らない細胞を検出する工程を包含することが好ましい。
【0063】
また、本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法において、上記NKT細胞を採取する方法は特に限定されず、当業者は、末梢血、脾臓、リンパ節、肝臓、皮膚、腸粘膜、女性器などの各生体器官または生体組織から公知の方法に従って、NKT細胞を容易に採取し得る。
【0064】
すなわち、他の局面において、本発明は、被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程を包含する自己免疫疾患の判定方法を提供する。
【0065】
本発明において、「CD8+T細胞の分化異常を検出する工程」は、上述した「CD8+T細胞の分化異常」を検出する工程であればよく、特に限定されない。CD8+T細胞の分化異常を検出する工程としては、例えば、CD8+T細胞におけるナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞の存在比率の異常を検出する工程、または、上記T細胞におけるインターフェロンγ産生細胞の存在比率の異常を検出する工程が挙げられる。
【0066】
上記CD8陽性T細胞の分化異常を検出する方法は、分化したそれぞれのCD8+T細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを指標として、上記CD8+T細胞の分化異常を検出する方法であれば、特に限定されない。
【0067】
CD8陽性T細胞の分化異常を検出する方法としては、例えば、後述する実施例に示すように、ナイーブCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、およびメモリーCD8+T細胞の存在比率を測定する方法が挙げられる。この場合、CD44およびCD62Lを識別マーカーとして、これらに対する抗体を用いて被験体サンプル中のCD8+T細胞を上記3種(すなわち、ナイーブCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、およびメモリーCD8+T細胞)に分類し、それぞれの存在比率を算出し、次いで、算出した上記3種のCD8+T細胞の存在比率を、健常者における上記3種のCD8+T細胞の存在比率と比較することによって、CD8+T細胞の分化異常を検出することができる。
【0068】
CD8陽性T細胞の分化異常を検出する他の方法としては、CD8+T細胞におけるIFN−γの産生細胞の存在を検出する方法が挙げられる。この場合、IFN−γを識別マーカーとして、IFN−γを産生するCD8+T細胞の全CD8+T細胞に対する割合を、健常者における上記割合と比較することによって、CD8+T細胞の分化異常を検出することができる。
【0069】
上記識別マーカーは、単独でまたは組み合わせて用いられてもよい。識別マーカーを検出する方法は、それぞれの識別マーカーに応じて、適宜選択可能であり、特に限定されない。識別マーカーを検出する方法としては、例えば、PCR法、遺伝子導入法、サザンブロッティング法、ノザンブロッティング法、ウェスタンブロッティング法、ラジオイムノアッセイ、酵素免疫測定法、形態学的検出法(例えば、組織免疫染色、細胞免疫染色など)、フローサイトメトリー(例えば、蛍光活性化セルソータ(fluorescence-activated cell sorter:FACS)など)、クロマトグラフィー(例えば、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなど)、質量分析法などが挙げられ、これらは単独でまたは組み合わせて用いられ得る。
【0070】
また、本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法において、上記CD8+T細胞を採取する方法は特に限定されず、当業者は、末梢血、脾臓、リンパ節、肝臓、皮膚、腸粘膜、女性器などの各生体器官または生体組織から公知の方法に従って、CD8+T細胞を容易に採取し得る。
【0071】
〔4:自己免疫疾患の判定キット〕
本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定キットは、本発明に係る自己免疫疾患の発症の判定方法を実施するための試薬など(例えば、抗体、プライマー、プローブなど)を備えていれば、その他の構成は特に限定されず、その他の試薬が適宜組み合わせられ得る。
【0072】
すなわち、1つの局面において、本発明は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞の活性化異常を検出するための試薬を備えている自己免疫疾患の判定キットを提供する。
【0073】
また、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、NKT細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを検出する試薬を備えていてもよい。
【0074】
また、NKT細胞において、特異的に発現する遺伝子を検出するキットとしては、該細胞で特異的に発現している遺伝子を増幅し得るように設計されたプライマーを備え、該遺伝子を検出し得るように設計されたプローブ、制限酵素、マクサムギルバート法およびサンガー法などの塩基配列決定法に利用される試薬など、上記遺伝子を検出するために必要な試薬をさらに備えたキットが挙げられる。
【0075】
なお、上記試薬は、採用される検出方法に応じて適宜選択され得るが、好ましい試薬としては、例えば、dATP、dUTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素、RNA合成酵素などが挙げられる。さらに、本発明に係るキットには、上記遺伝子を検出することを妨げない適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
【0076】
他の局面において、本発明は、被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出するための試薬を備えている自己免疫疾患の判定キットを提供する。
【0077】
上述したように、CD8+T細胞におけるナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞の存在比率に基づいて自己免疫疾患を判定する場合は、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞を検出するための試薬を備えている。ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞を検出するための試薬としては、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞、およびメモリーT細胞に対する抗体(例えば、抗CD44抗体および抗CD62L抗体)が挙げられる。
【0078】
また、CD8+T細胞におけるIFN−γの産生細胞の存在比率に基づいて自己免疫疾患を判定する場合は、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、インターフェロンγ産生細胞を検出するための試薬を備えている。インターフェロンγ産生細胞を検出するための試薬としては、インターフェロンγ産生細胞に対する抗体が挙げられる。
【0079】
また、本発明に係る自己免疫疾患の判定キットは、特定のCD8+T細胞に特異的に存在する構成成分(例えば、DNA、RNA、タンパク質などの高分子化合物、および低分子化合物など)、これらの細胞に特徴的な形態(例えば、大きさ、色彩、形状など)および生理活性(例えば、物質生産能、物質分泌能、物質吸収能、物質分解能など)、ならびにこれらの細胞を識別するために用いられる従来公知の識別マーカーを検出する試薬を備えていてもよい。
【0080】
また、特定のCD8+T細胞において、特異的に発現する遺伝子を検出するキットとしては、該細胞で特異的に発現している遺伝子を増幅し得るように設計されたプライマーを備え、該遺伝子を検出し得るように設計されたプローブ、制限酵素、マクサムギルバート法およびサンガー法などの塩基配列決定法に利用される試薬など、上記遺伝子を検出するために必要な試薬をさらに備えたキットが挙げられる。
【0081】
なお、上記試薬は、採用される検出方法に応じて適宜選択され得るが、好ましい試薬としては、例えば、dATP、dUTP、dTTP、dGTP、DNA合成酵素、RNA合成酵素などが挙げられる。さらに、本発明に係るキットには、上記遺伝子を検出することを妨げない適当な緩衝液および洗浄液等が含まれていてもよい。
【0082】
本明細書中で使用される場合、「細胞を検出する」は、細胞自体を検出することが意図されるが、細胞を検出した後、その結果に基づいて細胞を分類することもまた含まれる。
【0083】
本明細書中で使用される場合、「発症の判定」は、発症可能性(発症危険性)を判定することが意図され、発症の判定方法は、疾患の診断方法または疾患の予防方法としても利用可能である。
【0084】
〔5:自己免疫疾患の治療剤およびそのスクリーニング方法〕
1つの局面において、本発明は、NKT細胞の活性化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする自己免疫疾患の治療剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、NKT細胞の活性化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする治療剤であればよく、その他の含有成分、製造方法、製造装置など、その他の構成について、特に限定されない。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、NKT細胞の活性化に異常が見られる自己免疫疾患の患者の治療に用いられ得る。なお、本明細書中で使用される場合、「因子を是正する」は、該因子が有する機能が阻害または増進されることが意図される。
【0085】
本明細書中で使用される場合、上記「因子」は、ポリヌクレオチド(DNA、RNA等)、ペプチド(ポリペプチド、タンパク質)、糖類(オリゴ糖、多糖類、糖鎖誘導体等)などの高分子化合物、および低分子化合物が意図される。また、上記因子は、NKT細胞の活性化に直接的に関与しても、他の因子を介して間接的に関与してもよい。また、上記因子は、NKT細胞の活性化を促進するものが意図される。NKT細胞を活性化する因子として、SEB、α-galactosylceramide (α−GC)、OVA、NKT細胞の受容体の刺激剤などが挙げられる。
【0086】
他の局面において、本発明は、CD8+T細胞の分化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする自己免疫疾患の治療剤を提供する。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、CD8+T細胞の分化異常を引き起こしている因子を是正する物質を主成分とする治療剤であればよく、その他の含有成分、製造方法、製造装置など、その他の構成について、特に限定されない。本発明に係る自己免疫疾患の治療剤は、CD8+T細胞の分化異常が見られる自己免疫疾患の患者の治療に用いられ得る。
【0087】
上述したように、上記「因子」は、ポリヌクレオチド(DNA、RNA等)、ペプチド(ポリペプチド、タンパク質)、糖類(オリゴ糖、多糖類、糖鎖誘導体等)などの高分子化合物、および低分子化合物が意図されるまた、上記因子は、CD8+T細胞の分化に直接的に関与しても、他の因子を介して間接的に関与してもよい。また、上記因子は、CD8+T細胞の分化異常に関与するものであればよく、CD8+T細胞の分化を促進するのであってもよいし、抑制するものであってもよい。例えば、OVAは、繰り返し投与することにより、CD8+T細胞の分化に異常を起こすことができる。
【0088】
いずれの局面においても、臨床適用のための治療剤の投与条件が、本明細書に記載した自己免疫疾患のモデル動物系を用いて決定され得る。すなわち、上記モデル動物を用いて、投与量、投与間隔、投与ルートなどの投与条件を検討し、適切な予防効果または治療効果を得るための条件が決定され得る。このような治療剤は、自己免疫疾患に対する予防または治療のための医薬となる。
【0089】
また、治療剤は、薬学的に受容可能な任意のキャリアをさらに含む組成物であり得る。キャリアとしては、例えば滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、植物油、乳化剤、懸濁剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、徐放剤、他のタンパク質(BSAなど)、トランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等が挙げられる。さらに、本発明において使用可能なキャリアとしては、グルコース、ラクトース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、マグネシウムトリシリケート、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、ばれいしょデンプン、尿素などが挙げられる。
【0090】
本発明に係る治療剤が製剤化される場合の剤型は、特に制限されず、例えば、溶液(注射剤)、粉体、マイクロカプセル、錠剤などであってもよい。例えば、本発明に係る治療剤を徐放剤と組み合わせるかまたは徐放性容器(例えば、カプセル)中に格納することにより、自己免疫疾患を呈する疾患部位を標的とするドラッグデリバリーを行うことが可能となり、効果的な治療が行われ得る。
【0091】
本発明に係る治療剤の患者への投与経路は、有効成分の性質に応じて適宜選択され、例えば、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的に行われ得るがこれらに限定されない。また、本発明に係る治療剤は全身的または局所的に投与され得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には病変部位への局所投与が好ましい。投与量、投与方法は、治療剤の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者は適宜選択し得る。
【0092】
また、本発明の治療剤は、目的物質を総組成物の0.1〜90重量%含む。本発明の治療剤中に含まれる目的物質の投与量は、非経口投与では、1日当たり体重1kg当たり、0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.001mg〜300mg、より好ましくは0.01mg〜100mgである。しかし、疾患状態、体重、治療に対する患者の個々反応、治療剤が投与される組成物の種類、投与形態、病気の経過の段階、または投与の間隔に依存して、これら投与頻度は適宜調整され得る。なお、投与は、1回〜数回に分けて行われ得、1日あたり1〜5回投与され得る。
【0093】
治療対象となる個体としては、例えば、ヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サルなど)、ならびにその他の脊椎動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物への適用は、ヒト自己免疫疾患に対する予防法または治療法を開発するためにも有用である。例えば、非ヒト哺乳動物を用いて作製したモデル動物を用いることにより、自己免疫疾患の発症を予防する新たな治療プロトコルを開発することができる。
【0094】
なお、別の局面において、本発明は、自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングするためのスクリーニング方法を提供する。
【0095】
一実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患のモデル動物に候補物質を与える工程、該モデル動物からナチュラルキラーT細胞を採取する工程、および、該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを測定する工程、を包含することを特徴としている。別の実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、自己免疫疾患のモデル動物に候補物質を与える工程、該モデル動物からCD8陽性T細胞を採取する工程、および、該CD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程、を包含することを特徴としている。
【0096】
さらなる実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる工程、および、該ナチュラルキラーT細胞を候補因子とともにインキュベートする前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含することを特徴としている。なおさらなる実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞を候補因子の存在下または非存在下にてインキュベートする工程、および、該ナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程、を包含することを特徴としている。
【0097】
上述した本発明に係るスクリーニング方法を用いることにより、上述した自己免疫疾患の治療剤を得ることができる。
【0098】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0099】
本発明について、実施例および図1〜図11に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0100】
[実施例1:遷延感作によるT細胞アネルギー破綻]
BALB/cマウスに、以下の処理(1)〜(6)のいずれかの処理を施し、これら処理後のマウスを用いて、アネルギー解析を行った。アネルギー解析において、各処理を施したマウスの脾細胞中のSEB応答性T細胞におけるインターロイキン2(IL−2)の産生量、および細胞分裂回数を測定することによる細胞増殖を、アネルギーが破綻したかまたは維持されているかの指標とした。IL−2の産生量を、マウスIL−2 ELISA kit(BIOSOURCE社)を用いるELISA法によって定量した。また細胞分裂回数を、細胞内に取り込まれたCFSE(Molecular Probes社)をフローサイトメーターで検出することによって測定した:
・処理(1):SEBを2回投与(25μg/1回)
・処理(2):SEBを8回投与(25μg/1回)
・処理(3):Staphylococcal enterotoxin A(SEA)を2回投与(25μg/1回)、
・処理(4):SEAを8回投与(25μg/1回)
・処理(5):SEAおよびα-galactosylceramide (α−GC)を同時に8回投与(SEA:25μg/1回、α−GC:5μg/1回)
・処理(6):賦形剤(vehicle)のみを8回投与
なお、5日に1回または15日に1回の腹腔内投与によって投与した。
【0101】
T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を図1に示す。図1における縦軸は、処理(6)を施したマウスの脾細胞におけるIL−2の産生量を100とした場合のそれぞれの処理を施したマウスの脾細胞におけるIL−2の産生量の割合を示す。
【0102】
処理(2)を施したマウスでは、アネルギーを生じて低減していたIL−2の産生量は約60%まで回復しており、アネルギーが破綻したことが確認された。これに対して、処理(4)を施したマウスでは、IL−2の産生量は低く、アネルギーが持続していたことがわかる。しかし、処理(5)を施したマウスでは、IL−2の産生量は約40%まで回復しており、処理(2)を施したマウスと同様にアネルギーが破綻していた。
【0103】
また、細胞増殖(細胞分裂回数)を調べたところ、IL−2の産生量の結果と同様に、処理(4)を施したマウスでは、細胞の増殖は見られなかったが、処理(2)または(5)を施したマウスでは、一旦アネルギーに陥った細胞が再び増殖していた(データは示さず)。
【0104】
なお、投与間隔を5日毎と15日毎とで行ったが、どちらの場合も8回目まで繰り返し免疫をすることによって処理(2)または(5)を施したマウスにおいてアネルギーの破綻が観察された。これにより、アネルギーの破綻に必要なのは投与間隔ではなく、繰り返し投与(すなわち、遷延感作)であることがわかった。
【0105】
[実施例2:遷延感作による血清中RF量の上昇]
実施例1における処理(2)、(4)、(5)、(6)、および以下に示す処理(7)を施したマウスにおいて、各処理の最後の投与から2日目に採血を行い、血清を回収し、活性化IgGのFc部分に対する自己抗体であるRFの産生量を、レビスリウマチ因子IgG型マウスELISA kit(シバヤギ社)を用いたELISA法によって測定した:
・処理(7):α−GCを8回投与(5μg/1回)
なお、投与方法は5日に1回、または15日に1回、腹腔内投与を行った。
【0106】
マウス血清中のRF産生量を測定した結果を図2に示す。処理(6)を施したマウスと比較して、処理(2)を施したマウスでは、RFの産生量が有意に増加していた。一方、処理(4)を施したマウスでは、RFの産生量は処理(6)を施したマウスと有意差はなかった。しかし、SEAおよびα−GCの同時投与(処理(5))を施したマウスでは、処理(6)を施したマウスと比較して、RFの産生量が有意に増加していた。
【0107】
なお、投与間隔を5日毎と15日毎で行ったが、どちらの場合も8回目まで繰り返し投与をすることによって処理(2)または(5)を施したマウスにおいてRFの産生が観察された。これにより、RFの産生に必要なのは投与間隔ではなく、繰り返し投与であることがわかった。
【0108】
[実施例3:遷延感作によるNKT細胞へのアネルギー誘導および破綻]
実施例1における処理(1)、(2)、および以下に示す処理(8)を施したマウスにおいて、NKT細胞におけるアネルギー解析を行った。アネルギー解析において、各処理を施したマウスの脾細胞から採取したNKT細胞におけるインターロイキン2(IL−2)の産生量、および細胞分裂回数を測定することによる細胞増殖を、アネルギーが破綻したかまたは維持されているかの指標とした。IL−2の産生量を、マウスIL−2 ELISA kit(BIOSOURCE社)を用いるELISA法によって定量した。また細胞分裂回数を、細胞内に取り込まれたCFSE(Molecular Probes社)をフローサイトメーターで検出することによって測定した:
・処理(8):PBSを8回投与
なお、投与方法は5日に1回、腹腔内投与を行った。NKT細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を図3に示す。
【0109】
実施例1にて示した通り、通常のT細胞は2度のSEB刺激(処理(1))によってアネルギーに陥いる。アネルギー状態のT細胞からのIL−2産生量はコントロール(処理(8))の1%以下であるが、8回投与後(処理(2))によってIL−2産生量は40〜60%まで回復する。しかし、NKT細胞においては、2回のSEB投与(処理(1))後のNKT細胞からIL−2産生量は、コントロール(処理(8))の約40%、8回投与(処理(2))のマウスではほぼ100%まで回復していた。
【0110】
また、細胞増殖(細胞分裂回数)を調べたところ、IL−2の産生量の結果と同様に、処理(1)を施したマウスで、細胞増殖しているNKT細胞が確認された(データは示さず)。このことから、NKT細胞は通常のT細胞よりアネルギーに陥りにくいことがわかった。
【0111】
[実施例4:α−GCでの遷延感作によるT細胞アネルギー破綻]
BALB/cマウスに、以下の処理(I)〜(IV)のいずれかの処理を施した。最終投与の2日後にマウスから採血して血清を回収した。また最終投与の9日後に屠殺したマウスから脾細胞を単離し、単離した脾細胞をSEBで24時間刺激しながら培養し、培養上清中のインターロイキン2(IL−2)の産生量を、マウスIL−2 ELISA kit(BIOSOURCE社)を用いるELISA法によって定量した:
・処理(I):PBSを2回+vehicleを8回投与
・処理(II):SEBを2回+vehicleを8回投与(SEB;25μg/1回)
・処理(III):SEBを2回+α−GCを2回投与(SEB;25μg/1回、α−GC;5μg/1回)
・処理(IV):SEBを2回+α−GCを8回投与(SEB;25μg/1回、α−GC;5μg/1回)
なお、5日に1回の腹腔内投与によって投与した。
【0112】
SEB応答性T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を図5に示す。I群は、SEB応答性T細胞がアネルギーではない状態の対照群であり、II群は、SEB応答性T細胞がアネルギー状態の対照群である。α−GCを2回投与したIII群では、IL−2の産生量は低かったが、α−GCを8回投与したIV群では、IL−2の産生量がI群の約80%まで回復した。
【0113】
単離した脾細胞にCFSE(Molecular Probes社)を取り込ませ、SEBで72時間刺激しながら細胞を培養し、CD4T細胞におけるCFSEの蛍光強度をフローサイトメーターで検出することによって細胞分裂回数を測定した。
【0114】
結果を図6に示す。IL−2産生量が低かったIII群では細胞の増殖が見られなかったが、IV群ではI群と同数の細胞分裂が観察され、細胞が増殖していることが確認された。
【0115】
以上より、SEBの投与によって生じたT細胞アネルギーは、α−GCでNKT細胞を繰り返し刺激することによって破綻することが示された。
【0116】
[実施例5:α−GCでの遷延感作による血清中RF量の上昇]
実施例4にて回収した血清中のRF量を、レビスリウマチ因子IgG型マウスELISA kit(シバヤギ社)を用いたELISA法によって測定した。
【0117】
結果を図7に示す。SEB応答性T細胞においてアネルギーの破綻が観察されたIV群では、RFを産生する個体が観察された。このことは、T細胞アネルギーの破綻によりRFが産生されることを示す。
【0118】
[実施例6:遷延感作によるSLE発症]
BALB/cマウスに、以下の処理(8)〜(11)のいずれかの処理を施した。最終投与の2日後にマウスから尿を回収し、最終投与の9日後に屠殺したマウスから腎臓を摘出し、SLE様腎炎の発症の有無を調べた。アルブスティックス(バイエル社)を用いたテトラブロムフェノールブルーによる呈色反応によりタンパク尿の検出を行った:
・処理(8):PBSを8回投与
・処理(9):SEBを8回投与(25μg/1回)
・処理(10):PBSを12回投与
・処理(11):OVAを12回投与(500μg/1回)
なお、5日に1回の腹腔内投与によって投与した。
【0119】
結果を図8に示す。処置(8)〜(10)のいずれかを施したマウスではタンパク尿は検出されなかったが、処理(11)を施したマウスではタンパク尿が検出された(図8(a)を参照のこと)。
【0120】
上記処理を施したマウスの腎臓におけるIgG沈着を図8(b)に示す。腎臓の組織切片を蛍光標識した抗マウスIgG抗体で染色し、IgGの沈着を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、処理(8)〜(10)のいずれかを施したマウスではIgGの沈着は見られなかったが、処理(11)を施したマウスでは、全身性エリテマトーデス(SLE)に特徴的な病変であるIgGの沈着が観察された。
【0121】
以上のことから、OVAでの遷延感作によってSLE様腎炎が発症していることがわかった。
【0122】
[実施例7:遷延感作による自己抗体の産生]
実施例6にて示した処理を施したマウスの血清中における自己抗体を測定した。測定した自己抗体は、リウマチ因子(RF)、抗Sm抗体(核内低分子RNAとタンパクの複合体であるsnRNPに対する自己抗体)、抗ssDNA抗体(1本鎖DNAに対する自己抗体)、および抗dsDNA抗体(2本鎖DNAに対する自己抗体)である。
【0123】
図9(a)〜(d)は、それぞれ、RF、抗Sm抗体、抗ssDNA抗体、および抗dsDNA抗体の産生量を、ELISAにより測定した結果を示す。RF産生量の測定にはレビスリウマチ因子IgG型マウスELISA kit(シバヤギ社)を用いた。また、抗Sm抗体、抗ssDNA抗体および抗dsDNA抗体の産生量の測定には、陽性対照として疾患モデルマウスMRL/lprの血清を用いた。
【0124】
図9(a)および(b)に示すように、処理(9)を施したマウスの60%において、RFおよび抗Sm抗体の産生量の増加が見られた。一方、処理(11)を施したマウスでは、全ての個体でRF、抗Sm抗体、抗ssDNA抗体および抗dsDNA抗体の産生量が増加した。
【0125】
[実施例8:CD8+T細胞の分化異常の測定]
実施例6にて示した処理を施したマウスの脾臓CD8+T細胞を、細胞表面上でのCD44およびCD62Lの発現をフローサイトメーターで検出して、ナイーブCD8+T細胞、エフェクターCD8+T細胞、およびメモリーCD8+T細胞に分類した。
【0126】
結果を図10に示す。なお、図中(a)はCD8+T細胞をナイーブCD8+T細胞(図中、「naive CD8+ T」)、エフェクターCD8+T細胞(図中、「effector CD8+ T」)およびメモリーCD8+T細胞(図中、「memory CD8+ T」)に分類した結果を示し、
(b)は、(a)の結果を棒グラフとして表したものである。
【0127】
図10に示すように、処理(8)〜(10)を施したマウスでは、CD8+T細胞の分画に違いが見られなかったが、処理(11)を施したマウスでは、エフェクターCD8+T細胞およびメモリーCD8+T細胞の割合が有意に増加していた。
【0128】
また、上記処理をしたマウスのCD8+T細胞を細胞内染色し、IFN−γを産生しているCD8+T細胞をフローサイトメーターで検出した。
【0129】
結果を図11に示す。なお、図中(a)は、抗原の繰り返し投与後にIFN−γを産生するCD8+T細胞の割合を計測した結果を示す。また、
(b)は、(a)の結果を棒グラフとして表したものである。
【0130】
図11に示すように、処理(11)を施したマウスにおいて、IFN−γを産生するCD8+T細胞の割合が有意に高かった。
【0131】
以上のことより、OVAで遷延感作したマウスでは、CD8+T細胞の分化異常が自己免疫疾患に寄与することがわかった。
【0132】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
以上のように、本発明では、抑制性機序を誘導しない自己免疫疾患誘導剤または遷延感作の初期段階においてNKT細胞の活性化異常を誘発する自己免疫疾患誘導剤で、モデル動物を遷延感作することによって、自己免疫疾患を発症させることで、自己免疫疾患発症モデル動物を作製し得る。したがって、本発明は、自己免疫疾患の診断のための医薬品、自己免疫疾患の予防および/または治療のための医薬品のスクリーニング試験などに好適に用いることができる。また、CD8+T細胞の分化異常またはNKT細胞の活性化異常を検出することにより、自己免疫疾患の発症を判定することができるため、自己免疫疾患の発症の判定方法および判定キットに代表される診断医療の分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおける、SEB応答性T細胞またはSEA応答性T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図2】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるRF産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図3】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるNKT細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図4】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるSEB応答性T細胞からのIL−2の産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図5】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスから採取したCD4T細胞の細胞分裂回数を測定した結果を示すグラフである。
【図6】本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスから回収した血清中のRF量を測定した結果を示すグラフである。
【図7】図7(a)および(b)は、本実施例において、抗原の繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるSLE様腎炎の発症を調べた結果を示す図である。
【図8】図8(a)〜(d)は、本実施例において、抗原を繰り返し投与したBALB/cマウスにおける自己抗体の産生を調べた結果を示すグラフである。
【図9】図9(a)および(b)は、本実施例において、抗原の繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるCD8+T細胞の各分画の動態変化を調べた結果を示すグラフである。
【図10】図10(a)および(b)は、本実施例において、抗原の繰り返し投与したBALB/cマウスにおけるCD8+T細胞におけるIFN−γの産生細胞の変動を調べた結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナチュラルキラーT細胞活性化因子を含む、自己免疫疾患誘導剤。
【請求項2】
前記ナチュラルキラーT細胞活性化因子が、卵白アルブミン(OVA)、Staphylococcal enterotoxin B (SEB)またはα-galactosylceramide (α−GC)である、請求項1に記載の自己免疫疾患誘導剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する、自己免疫疾患モデル動物の作製方法。
【請求項4】
被験体サンプル中のアネルギーに陥らない細胞を検出する工程を包含する、自己免疫疾患の判定方法。
【請求項5】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる工程、および
該ナチュラルキラーT細胞を候補因子とともにインキュベートする前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程
を包含する、方法。
【請求項6】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞を候補因子の存在下または非存在下にてインキュベートする工程、および
該ナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
請求項3に記載の方法によって作製したモデル動物に候補因子を投与する工程、
該モデル動物からナチュラルキラーT細胞を採取する工程、および
該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを測定する工程
を包含する、方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法によってスクリーニングされた、自己免疫疾患の治療剤。
【請求項9】
CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子を含む、自己免疫疾患誘導剤。
【請求項10】
前記CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子が卵白アルブミン(OVA)である、請求項9に記載の自己免疫疾患誘導剤。
【請求項11】
請求項9または10に記載の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する、自己免疫疾患モデル動物の作製方法。
【請求項12】
被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程を包含する、自己免疫疾患の判定方法。
【請求項13】
抗CD44抗体および抗CD62L抗体を備えている、自己免疫疾患の判定キット。
【請求項14】
抗IFN−γ抗体を備えている、自己免疫疾患の判定キット。
【請求項15】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
請求項11に記載の方法によって作製したモデル動物に候補因子を投与する工程、
該モデル動物からCD8陽性T細胞を採取する工程、および
該CD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法によってスクリーニングされた、自己免疫疾患の治療剤。
【請求項1】
ナチュラルキラーT細胞活性化因子を含む、自己免疫疾患誘導剤。
【請求項2】
前記ナチュラルキラーT細胞活性化因子が、卵白アルブミン(OVA)、Staphylococcal enterotoxin B (SEB)またはα-galactosylceramide (α−GC)である、請求項1に記載の自己免疫疾患誘導剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する、自己免疫疾患モデル動物の作製方法。
【請求項4】
被験体サンプル中のアネルギーに陥らない細胞を検出する工程を包含する、自己免疫疾患の判定方法。
【請求項5】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる工程、および
該ナチュラルキラーT細胞を候補因子とともにインキュベートする前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程
を包含する、方法。
【請求項6】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
被験体サンプル中のナチュラルキラーT細胞を候補因子の存在下または非存在下にてインキュベートする工程、および
該ナチュラルキラーT細胞をナチュラルキラーT細胞活性化因子によって活性化させる前後での該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを比較する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
請求項3に記載の方法によって作製したモデル動物に候補因子を投与する工程、
該モデル動物からナチュラルキラーT細胞を採取する工程、および
該ナチュラルキラーT細胞の活性化レベルを測定する工程
を包含する、方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法によってスクリーニングされた、自己免疫疾患の治療剤。
【請求項9】
CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子を含む、自己免疫疾患誘導剤。
【請求項10】
前記CD8陽性T細胞の分化異常誘発因子が卵白アルブミン(OVA)である、請求項9に記載の自己免疫疾患誘導剤。
【請求項11】
請求項9または10に記載の自己免疫疾患誘導剤で被験体を遷延感作させる工程を包含する、自己免疫疾患モデル動物の作製方法。
【請求項12】
被験体サンプル中のCD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程を包含する、自己免疫疾患の判定方法。
【請求項13】
抗CD44抗体および抗CD62L抗体を備えている、自己免疫疾患の判定キット。
【請求項14】
抗IFN−γ抗体を備えている、自己免疫疾患の判定キット。
【請求項15】
自己免疫疾患の治療剤をスクリーニングする方法であって、
請求項11に記載の方法によって作製したモデル動物に候補因子を投与する工程、
該モデル動物からCD8陽性T細胞を採取する工程、および
該CD8陽性T細胞の分化異常を検出する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法によってスクリーニングされた、自己免疫疾患の治療剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図7】
【公開番号】特開2006−288382(P2006−288382A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328040(P2005−328040)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(504156706)株式会社膠原病研究所 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(504156706)株式会社膠原病研究所 (13)
【Fターム(参考)】
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