説明

Δ133p53βを用いた転移癌を有する素因があると思われる被験体の検査方法

本発明は、転移癌を有する素因があると思われる被験体を検査する方法に関し、その方法はi)Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の存在を検出するために被験体由来の生体サンプルを分析する工程を含んでなり、該p53イソ型の存在が転移癌の指標となる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、転移性の癌、好ましくは、乳癌または結腸癌を有する素因があると思われる被験体を検査する方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
癌患者の治療および管理を向上させる努力ににもかかわらず、癌患者の生存率は、多くの癌種で過去20年間、向上を見ていない。腫瘍形成中の臨界事象は、原発性、限局性腫瘍の浸潤性転移への転換である。転移を有する患者のほとんどは、そのために死に至る。新たに検出される患者のうち転移を呈さないのは35%に過ぎない。
【0003】
浸潤過程は、上皮結合の崩壊による接着性の喪失に始まる細胞の形態学的改質の結果である。そして、細胞は、小型のGTPアーゼのRhoファミリーを伴うアクチン細胞骨格のリモデリングによって遊走能を獲得する。腫瘍細胞は、インテグリンを媒介とする接着力学と細胞外マトリックス(ECM)を分解するための表面プロテアーゼを必要とする間葉系遊走、またはより効果的で、ECM消化もしくはインテグリンを媒介とする接着を必要としないが、Rho A/ROCK経路を伴うアメーバー状遊走の、2つの遊走様式を用いることができる。腫瘍抑制因子p53は、Rho GTPアーゼを媒介とする細胞運動を調節することによって、癌の浸潤性への進行を防ぐ。
【0004】
最適な治療は診断と予後診断の情報の組合せに基づく。生存率に関する具体的な情報を提供する予後評価を得るには、正確かつ再現性のある診断検査が必要とされる。
【0005】
乳癌において、一次外科処置の生存率を推定するために一般に用いられる臨床および生物学的変数は、所属リンパ節浸潤、組織学的異型度およびホルモン受容体の発現である。これらのパラメーターは総て、よく認識されている予後および推定因子である。
【0006】
しかしながら、これらの変数も、具体的かつ完全な生存予後を確立することができない。実際のところ、同じタイプの乳癌を患う患者の間でも重大なヘテロ性が存在する。
【0007】
従って、乳癌患者の生存率の推定を強化するさらなるバイオマーカーを提供する必要がある。
【0008】
バイオマーカーは、生物学において、正常な医学的状態と病的状態を区別するために、または病状の進行を評価するために有用である。バイオマーカーによる癌の早期検出を可能とする技術は、癌調査および臨床医療に極めて有益であるはずである。
【0009】
腫瘍マーカーの着目点は、ヒト腫瘍の分子分類を確立し、評価し、確定することであり、従って、この診断から、
・臨床下の癌の転移能をより良く評価することができ、従って、低リスクを呈する患者の過剰な治療を避け、進行性の高リスクを呈する患者を分離することができ;
・グループ評価から個人評価へと切り換えることができ、従って、個別化療法を可能にすることができ;
・進行性の高リスクを呈し、かつ、従来の治療に感受性が全くないかほとんどない患者を治療革新へ向かわせることができ;かつ
・別の治療分子の有効性を評価することができる。
【0010】
乳癌は1年に約100万倍に影響を及ぼし、女性では最も多い癌形態に当たり、西洋世界において生涯のいくつかの段階でおよそ10%の女性を侵している。男性でも乳癌を発症することがあるが、そのリスクは1000分の1未満である。
【0011】
世界保健機構は、2010までに癌は心血管疾患をしのいで世界の死因第一位になると見込んでいた。仏国での最新の罹患率および死亡率データも、同様の伸びを示している(Communication 2008 of Francim, the Institut de Veille Sanitaire, the Hospice Civils of Lyon and the Institut National du Cancer)。
【0012】
乳癌では、腫瘍の生病理学的属性に応じて患者を治療することが不可欠である。従って、その目標は、化学感受性患者に対してのみ標的化学療法を選択するため、また、腫瘍の特定のバイオマーカーに応じた特定の薬剤を選択するために信頼できる予測因子を提供することである。従って、化学療法の有効性は、細胞の特徴およびホルモン受容体などの感受性バイオマーカーの存在、UPA、PAI1、Her2およびトポイソメラーゼIIαの発現に依存する。腫瘍抑制因子p53は、ヒト腫瘍において最も突然変異の多い遺伝子である。しかしながら、p53遺伝子に影響を及ぼすこれらの突然変異は、特に、その予測値が乳癌のタイプによって異なることから、慎重に解釈すべきである。
【発明の開示】
【0013】
本発明者らは、今般、異常なスプライシングによる腫瘍抑制因子p53イソ型の発現パターンが予後の悪さに関連していることを見出した。
【0014】
言い換えれば、本発明者らは、転移癌の特に関連するマーカーを同定した。結果として、これらのp53イソ型は、非転移癌から転移癌を分化させる。
【0015】
本発明は、癌を有する素因があると思われる被験体を検査する方法であって、i)Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の存在を検出するために被験体由来の生体サンプルを分析する工程を含み、該イソ型の存在が癌、好ましくは転移癌の指標となる方法に関する。
【0016】
好ましくは、該方法は、転移癌を有する素因があると思われる被験体を検査する方法である。
【0017】
特定の実施態様では、p53イソ型の存在は、p53イソ型の発現レベルの決定に相当する。
【0018】
p53イソ型の存在は、p53イソ型ポリペプチドもしくはその断片を検出すること、またはp53イソ型mRNAもしくはその断片を検出することによって評価することができる。
【0019】
さらに、該方法は、検出されたp53イソ型の発現レベルを閾値と比較するさらなる工程を含み得る。該閾値は、陽性対照または陰性対照に相当し得る。
【0020】
例えば、陰性対照は、非転移癌を有する被験体のp53イソ型発現レベル、または健康な被験体のp53イソ型発現レベルであり得る。
【0021】
好ましくは、陰性対照よりも高い発現レベルは転移癌の指標となる。
【0022】
例えば、陽性対照は、転移癌を有する被験体のp53イソ型発現レベルであり得る。
【0023】
好ましくは、本発明による方法は、in vitro法である。
【0024】
好ましくは、該癌は転移癌である。
【0025】
別の態様において、本発明は、被験体における癌の急速進行性を測定する方法であって、i)被験体由来の生体サンプルにおいてΔ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の存在を決定する工程を含んでなり、該イソ型の存在が急速進行性癌の指標となり、好ましくは、該イソ型が転移癌の指標となる方法に関する。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、癌に関連する状態に対して療法を受けているか、または受けていた被験体の、抗癌療法に対する応答を決定するための方法であって、
i)被験体由来の生体サンプルにおいてΔ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の発現レベルを決定する工程、および
ii)それを閾値と比較する工程
を含んでなる方法に関する。
【0027】
該閾値は、上記で定義された陽性対照もしくは陰性対照、または該被験体が療法を受ける前の被験体に由来するサンプルにおいて測定された発現レベルに相当し得る。
【0028】
好ましくは、この方法は、被験体が療法に応答するかどうかを決定するさらなる工程を含む。
【0029】
例えば、該イソ型の存在は、該p53イソ型の発現レベルが、該被験体が療法を受ける前の被験体に由来するサンプルにおいて測定された発現レベルよりも低い場合には、被験体がその療法に応答する指標となる。あるいは、該p53イソ型の存在は、該p53イソ型の発現レベルが、癌を持たない被験体に由来するサンプルにおいて測定された発現レベルと同等またはそれより低い場合には、被験体がその療法に応答する指標となる。
【0030】
本発明の上記の方法は、癌診断または予後診断の他の方法と併用することができる。
【0031】
本明細書において「p53イソ型」とは、スプライシングの不履行のために、それぞれ配列番号7の配列のp53ポリペプチドと異なる、または配列番号8のcDNA配列を有するp53 mRNAと異なる、ポリペプチドまたはmRNAを意味する。本発明のp53イソ型はΔ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択される。
【0032】
好ましくは、該p53イソ型はΔ133p53βである。
【0033】
好ましくは、Δ133p53βポリペプチドは配列番号1の配列で表され、Δ133p53βのmRNAは配列番号2のcDNA配列を有する。
【0034】
好ましくは、Δ133p53ポリペプチドは配列番号3の配列で表され、Δ133p53のmRNAは配列番号4のcDNA配列を有する。
【0035】
好ましくは、Δ133p53γポリペプチドは配列番号5の配列で表され、Δ133p53γのmRNAは配列番号6のcDNA配列を有する。
【0036】
「癌」は、調節を欠いたまたは制御を欠いた細胞増殖を特徴とする悪性新生物を含む。「癌」は、原発性悪性腫瘍(例えば、その細胞が原腫瘍の部位以外の被験体の身体の部位に遊走していないもの)および二次性悪性腫瘍(例えば、転移、すなわち、原腫瘍の部位とは異なる二次的な部位への腫瘍細胞の遊走から生じたもの)を含む。
【0037】
本発明の方法において、このような癌は、好ましくは、乳癌、卵巣癌、消化器系癌および咽喉癌、特に、ヒト被験体のものからなる群から選択され、より好ましくは乳癌または結腸癌、いっそうより好ましくは乳癌である。
【0038】
スプライシングプロセスは、メッセンジャーRNA前駆体のイントロンを削除して、細胞の翻訳機構によって使用可能な成熟したメッセンジャーRNAを生成することからなる(SHARP, Cell, vol. 77, p. 805-815, 1994)。選択的スプライシングの場合、同じ前駆体が、異なる機能を有するタンパク質をコードするメッセンジャーRNAの供給源となり得る(BLACK, Annu. Rev. Biochem. vol. 72, p. 291-336, 2003)。
【0039】
「スプライシング不履行」とは、異常なイソ型の形成をもたらし得る異常なスプライシングプロセスを意味する。
【0040】
本明細書において、癌に関して「急速進行性」(または「浸潤性」)とは、隣接する組織へその境界を越えて広がる腫瘍の傾向、または転移に関する腫瘍の特徴を意味する。浸潤性癌は、器官限局癌とは対照的なものと言え、例えば、皮膚の基底細胞癌は非浸潤性または最小浸潤性の腫瘍であり、原発腫瘍の部位に限局し、大きさを拡大するが、転移性はない。これに対し、黒色腫は隣接細胞および遠位組織への浸潤性が高い。腫瘍の浸潤性には、莢膜の境界を越えて、また、腫瘍が存在する特定の組織の境界を越えて腫瘍を拡大可能とするためにマトリックス材料および基底膜材料を分解するコラゲナーゼなどのタンパク質分解酵素の合成が伴う場合が多い。
【0041】
本明細書において「転移」または「転移性」とは、元の器官から患者のその他の遠位部位へ癌が拡散する状態を意味する。腫瘍転移のプロセスは、局所浸潤、および細胞間マトリックスの破壊、血管内、リンパ管または他の輸送チャネルへの侵入、循環中での生存、二次的部位における血管からの管外遊出、および新しい場所での増殖を含む多段階事象である。
【0042】
「被験体」とは、哺乳類、例えば、ヒト、イヌ、ウシ、ウマ、カンガルー、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット、およびトランスジェニック非ヒト動物、好ましくはヒト被験体、より好ましくは女性を含む。
【0043】
「生体サンプル」とは、固体および体液サンプルを含む。本発明の生体サンプルは、細胞、タンパク質、血液、または骨髄、腹水もしくは脳液(例えば、脳脊髄液)などの体液を含み得る。固体生体サンプルの例としては、糞便、直腸、中枢神経系、骨、乳房組織、腎組織、子宮頸、子宮内膜、頭/頸部、胆嚢、耳下腺組織、前立腺、脳、下垂体、腎臓組織、筋肉、食道、胃、小腸、結腸、肝臓、脾臓、膵臓、甲状腺組織、心臓組織、肺組織、膀胱、脂肪組織、リンパ節組織、子宮、卵巣組織、副腎組織、精巣組織、扁桃、および胸腺から採取されるサンプルが挙げられる。「体液サンプル」の例としては、血液、血清、精液、前立腺液、精液、尿、唾液、痰、粘液、骨髄、リンパ液および涙から採取されるサンプルが挙げられる。本発明のアッセイにおいて使用するためのサンプルは、静脈穿刺および外科術生検を含む標準的方法によって得ることができる。一つの実施態様では、生体サンプルは、針生検によって得られる乳房組サンプルである。
【0044】
好ましい実施態様では、本発明の方法で用いられる生体サンプルは、骨髄、血清、血漿、血液、リンパ液、または癌性組織もしくは疑いのある癌性組織もしくはその隣接組織由来の細胞からなる群から選択され、好ましくは骨髄サンプルである。
【0045】
「発現レベル」または「レベル」とは、サンプルにおける発現産物、例えば、ポリペプチドまたはmRNAの濃度を意味する。
【0046】
以下により詳細に記載するように、本発明の検出方法は、in vitroで生体サンプルにおいて本発明のp53イソ型のmRNA、本発明のp53イソ型のポリペプチドまたはその特異的断片を検出ために使用することができる。例えば、該p53イソ型のmRNAの検出のためのin vitro技術には、ノーザンハイブリダイゼーションおよびin situハイブリダイゼーションが含まれる。p53イソ型、より具体的には、Δ133p53βポリペプチドの検出のためのin vitro技術には、免疫組織化学、定量的PCR、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ウエスタンブロット法、免疫沈降法および免疫蛍光法が含まれる。
【0047】
好ましい実施態様では、本発明は、p53イソ型がΔ133p53βである本発明のよる方法に関する。
【0048】
本発明による方法がp53イソ型mRNAの検出または定量に基づく場合、該mRNAの存在の決定が、該p53イソ型のmRNAまたはcDNA、その相補的配列、または該p53イソ型に特異的な少なくとも10ヌクレオチド長を有するその断片を増幅するさらなる工程を含んでなることも好ましい。
【0049】
本明細書において「mRNA」とは、成熟したmRNA、すなわち、スプライシング事象をすでに受けているmRNAを意味する。
【0050】
本明細書において「cDNA」とは、mRNAのDNAコピーを意味するものとする。
【0051】
また、Δ133p53β mRNAまたはcDNAを増幅する工程がPCRまたはRT−PCR反応によって行われることも好ましい。
【0052】
この検出は、サンプルからmRNAを単離することによって行うことができる。mRNA検出を用いる場合、この方法は、単離されたmRNAを標準的方法に従ってcDNAに変換すること;変換されたcDNAを容器内で、核酸プライマーの適当な混合物とともに増幅反応試薬(cDNA PCR反応試薬など)で処理すること;この容器の内容物を反応させて増幅産物を生成すること;およびその増幅産物を分析して、その生体サンプルにおいて本発明のp53イソ型の特定の核酸の存在を検出することによって行うことができる。
【0053】
好ましくは、該プライマーは、配列番号9および配列番号10の配列を有する。
【0054】
本明細書において「プライマー」とは、天然に存在するもの(精製された制限消化物の場合)であれ、合成により生産されたものであれ、適当な条件下、すなわち、ヌクレオチド、およびDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下、好適な温度およびpHに置かれた場合に、核酸と相補的な鎖の合成を誘導することができるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは一本鎖であっても二本鎖であってもよく、誘導剤の存在下で所望の伸長産物の合成をプライムするに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの配列および/または相同性ならびに使用する方法を含む多くの因子に依存する。例えば診断適用では、オリゴヌクレオチドプライマーは一般に、標的配列の複雑性に応じて10〜25またはそれを超えるヌクレオチドを含むが、それより少ないヌクレオチドを含む場合もある。
【0055】
本明細書においてプライマーは、特定の標的DNA配列と「実質的に」相補的となるように選択される。このことは、これらのプライマーが、それらの個々の鎖とハイブリダイズするに十分相補的でなければならないことを意味する。従って、プライマー配列は、鋳型の正確な配列を反映する必要はない。例えば、非相補的ヌクレオチド断片(すなわち、制限部位を含む)をプライマーの5’末端に結合させてもよく、これにより、プライマー配列の残りの部分はその鎖と相補的となる。あるいは、プライマー配列がその配列とハイブリダイズするのに十分な相補性を有し、かつ、伸長産物の合成のための鋳型を形成する限り、プライマーに非相補的塩基またはより長い配列が散在してもよい。
【0056】
「増幅する」とは、特定の核酸分子の濃度にその初期濃度を超える増加をもたらす、または検出可能なシグナルの濃度に増加をもたらす、鋳型依存的プロセスで、ベクターを媒介とする増幅を意味する。本明細書において、鋳型依存的プロセスとは、鋳型依存的なプライマー分子の伸長を含むプロセスを意味する。
【0057】
鋳型依存的プロセスとは、新たに合成される核酸鎖の配列が周知の相補的塩基対合の規則によって指示されるRNAまたはDNA分子の核酸合成を意味する(例えば、Watson, J. D. et al., In: Molecular Biology of the Gene, 4th Ed., W. A. Benjamin, Inc., Menlo Park, Calif. (1987)参照)。一般に、ベクターを媒介とする方法論は、核酸断片のDNAまたはRNAベクターへの導入、ベクターのクローン増幅および増幅された核酸断片の回収を含む。このような方法論の例は、Maniatis T. et al., Molecular Cloning (A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory, 1982に示されている。
【0058】
サンプル中に存在する着目する標的配列を増幅するには、いくつかの鋳型依存的プロセスが利用可能である。最もよく知られている増幅方法の1つがポリメラーゼ連鎖反応(PCR)であり、Mullis et al., 米国特許第4,683,195号, Mullis et al., 米国特許第4,683,202号,およびMullis et al., 米国特許第4,800,159号およびInnis et al., PCR Protocols, Academic Press, Inc., San Diego Calif, 1990に詳細に記載されている。要するに、PCRにおいて、標的配列の反対の相補鎖上の領域に相補的な2つのプライマー配列を作製する。過剰量のデオキシヌクレオシド三リン酸をDNAポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ)とともに反応混合物に加える。この標的配列がサンプル中に存在すれば、これらのプライマーは標的に結合し、ポリメラーゼがプライマーを、ヌクレオチド上に付加することによって、標的配列に沿って伸長させる。反応混合物の温度を上下させることにより、伸長されたプライマーは標的から解離して反応産物を形成し、過剰なプライマーは標的に、そして反応産物に結合し、このプロセスが繰り返される。好ましくは、増幅されたmRNAの量を定量するために逆転写酵素PCR増幅法を行うことができる。ポリメラーゼ連鎖反応の方法論は当技術分野で周知である。
【0059】
GB出願第2,202,328号およびPCT出願第PCT/US89/01025号に記載されているさらに他の増幅方法も本発明に従って使用可能である。前者の出願では、改変された」プライマーがPCR様の、鋳型および酵素依存的合成に用いられる。これらのプライマーは、捕捉部分(例えば、ビオチン)および/または検出部分(例えば、酵素)で標識することによって改変すればよい。後者の適用では、過剰な標識プローブがサンプルに加えられる。標的配列の存在下で、このプローブは結合し、触媒により切断される。切断後、標的配列は、過剰なプローブが結合するのに完全な状態で遊離される。標識プローブの切断は、標的配列の存在のシグナルを生じる。
【0060】
増幅の後、増幅産物の存在を検出することができる。この増幅産物は当技術分野で公知のいずれの方法によって配列決定してもよい。
【0061】
別の実施態様では、本発明は、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の存在の決定が、該p53イソ型のmRNA、その相補的配列、または該p53イソ型に特異的な少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50またはそれを超えるヌクレオチド長を有するその断片と特異的にハイブリダイズすることができる、好ましくは、ヒトΔ133p53βのmRNAとハイブリダイズすることができる、いっそうより好ましくは、配列番号2の配列を有するΔ133p53βのmRNAとハイブリダイズすることができるプローブによって行われる、本発明による方法に関する。
【0062】
有利には、プローブは、配列番号9、配列番号10または配列番号11の配列からなる群から選択され、好ましくは、配列番号11の配列である。
【0063】
特定の実施態様では、本発明は、p53イソ型のmRNA、より詳しくは、Δ133p53βのmRNAの存在の決定が以下の方法によって行われる本発明による方法に関し、その方法は、
(a)Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型に特異的な核酸プローブと、
・腫瘍細胞の含有が疑われるヒト被験体の生体サンプルから単離されたRNA分子、または
・単離された前記RNA分子からcDNAとして合成された核酸分子
のいずれかを含む生体試験サンプルを、ハイブリダイズ条件下で接触させる工程
(ここで、該核酸プローブは、前記p53イソ型の配列の少なくとも15ヌクレオチド長の断片、またはその断片、またはそれらの相補物のいずれかを含んでなるヌクレオチド配列を有する)、および
(b)核酸プローブと試験サンプルのハイブリッドの形成を検出する工程
(ここで、ハイブリッドの存在は、ヒト被験体から得られた組織における腫瘍細胞の存在を示す)
を含む。
【0064】
本発明の核酸分子の配列に基づくプローブは、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型のmRNAに相当する転写物を検出するために使用することができる。核酸プローブは、例えば、全長cDNA、またはその断片、例えば、ストリンジェント条件下で本発明のp53イソ型のmRNAを特異的にハイブリダイズするに十分な長さを有するオリゴヌクレオチドであり得る。mRNAとプローブのハイブリダイゼーションは、着目するマーカーが発現されることを指標とする。一つの実施態様では、プローブは、例えば、放射性同位元素、蛍光化合物、酵素または酵素補因子など、それに結合されている標識基を含む。
【0065】
一形式では、mRNAを固相表面に固定化し、例えば、単離されたmRNAを寒天ゲル上に流すことによってプローブと接触させ、mRNAをこのゲルからニトロセルロースなどの膜に転写する。別の形式では、プローブを固相表面に固定化し、例えば、Affymetrix遺伝子チップアレイにてmRNAをプローブと接触させる。当業者ならば、本発明のマーカーによってコードされているmRNAの発現レベルを検出する際に使用するために既知のmRNA検出法を容易に適合させることができる。
【0066】
本発明による方法がp53イソ型ポリペプチドの検出または発現レベルの定量に基づく場合、該p53イソ型の存在の決定が該p53イソ型を特異的に認識することができる抗体を用いた免疫組織化学法またはイムノアッセイ法によるものであることも好ましい。
【0067】
一つの実施態様では、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の存在の決定は、生体サンプルと、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型またはその断片に特異的な抗体を接触させること、およびその抗体と生体サンプルとの結合を決定することによって行われる。
【0068】
「抗体」とは、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な決定基、すなわち、抗原と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位(エピトープ)を含む分子を含む。大きく、多様な抗体セットにおける結合の特異性は、H鎖およびL鎖の可変(V)決定基に見られる。抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、完全な免疫グロブリン、および免疫グロブリンの抗原結合断片が含まれる。
【0069】
抗体を含んでなるタンパク質の結合部位、すなわち、抗体の抗原結合機能は、天然に存在する抗体の断片の分析によって位置決定される。従って、抗原結合断片は「抗体」という用語で呼ばれることも意図される。抗体という用語に包含される結合断片の例としては、VL、VH、CLおよびCmドメインからなるFab断片;VHおよびCHIドメインからなるFd断片;抗体のシングルアームのVLおよびVHドメインからなるFv断片;単離された相補性決定領域(CDR);およびヒンジ領域においてジルフィド架橋によって連結された2つのFab’を含んでなる二価の断片であるF(ab’)2断片が含まれる。これらの抗体断片は、当業者に周知の従来技術を用いて得られ、これらの断片も完全な抗体と同様の方法で有用性に関してスクリーニングされる。「抗体」には、抗体分子に由来する少なくとも1つの抗原結合決定基を有する二重特異性およびキメラ分子もさらに含むものとする。
【0070】
本発明の診断および予後診断アッセイでは、抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体が好ましい。
【0071】
好ましくは、該抗体は標識されている。
【0072】
ポリクローナル抗体は、免疫原(抗原)および要すればアジュバントを複数回皮下注射または腹腔内注射することによって動物、通常には哺乳類を免疫することにより作製される。例示的実施態様としては、動物は一般に、免疫応答を惹起することができるタンパク質約1μg〜1mgをフロイントの完全アジュバントなどの増強担体製剤、またはミョウバンなどの凝集剤と合わせ、その組成物を皮内の複数の部位に注射することによってタンパク質、ペプチドまたは誘導体に対して免疫を行う。その後、動物に、フロイントの不完全アジュバント(または他の好適なアジュバント)中、最初の量の免疫原の1/5〜1/10という低量を少なくとも1回、複数部位に皮下注射することによって投与することで追加免疫を行った。その後、動物を採血し、血清をアッセイして特定の抗体力価を測定し、動物に再び追加免疫を行い、抗体の力価がそれ以上増加しなくなるまで(すなわち、プラトーまで)アッセイした。
【0073】
このような抗体分子の集団は、それぞれがその免疫原に見られる多くの異なるエピトープの1つに特異的であり、かつ、それぞれがそのエピトープに対する特異的親和性によって特徴付けられる、大きな抗体セットを含んでなることから、「ポリクローナル」と呼ばれる。エピトープは抗原性の最小の決定基であり、あるタンパク質のエピトープは6〜8残基長のペプチドを含んでなり得る(Berzofsky J. and 1. Berkower (1993) in Paul, W., Ed., Fundamental Immunology, Raven Press, N. Y., p. 246)。親和性は、低(例えば、10−6M)から高(例えば、10−11)の範囲にわたる。
【0074】
哺乳類血清から回収されたポリクローナル抗体画分は、周知の技術、例えば、IgG画分を得るためのプロテインAなどの、免疫グロブリン分子と選択的に結合する親和性マトリックスを用いたクロマトグラフィーによって単離する。抗体の純度および特異性を高めるためには、特異的抗体を、固相に固定された免疫原を用いるイムノアフィニティークロマトグラフィーによってさらに精製すればよい。抗体は固相に固定された免疫原と、免疫原が抗体分子と免疫反応して固相に固定された免疫複合体を形成するに十分な時間、接触させる。結合した抗体は、pHを引き下げた、またはイオン強度を引き上げたバッファーを使用するなどの標準技術によって固相から溶出させ、溶出した画分をアッセイし、特異的抗体を含有するものを合わせる。
【0075】
本明細書において「モノクローナル抗体」とは、単一の分子組成の抗体分子の調製物を意味する。モノクローナル抗体組成物は、ある特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を示す。モノクローナル抗体は、培養における細胞の連続的増殖により抗体分子の生産を提供する技術を用いて調製することができる。これらには、限定されるものではないが、Kohler and Milstein (1975, Nature, 256: 495-497; Brown et al, 1981, J. Immunol, 127:539-46; Brown et al, 1980, J. Biol. Chem., 255:4980-83; Yeh et al., 1976, PNAS 76:2927-31;およびYeh et al., 1982, Int. J. Cancer, 29:269-75も参照)によって最初に記載されたハイブリドーマ技術およびより最近の、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., 1983, Immunol. Today 4:72)、EBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al., 1985, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)、およびトリオーマ技術が含まれる。ハイブリドーマを作製する技術は周知である(一般に、Current Protocols in Immunology, Coligan et al. ed., John Wiley & Sons, New York, 1994参照)。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば、標準的ELISAアッセイを用い、ハイブリドーマ培養上清において着目するポリペプチドと結合する抗体をスクリーニングすることによって検出される。
【0076】
モノクローナル抗体は、以下の工程によって生産することができる。総ての手法において、ポリクローナル抗体の調製に関して上記したように動物をタンパク質(またはそのペプチド)などの抗原で免疫する。免疫は一般に、免疫原を免疫学的に適格な哺乳類に免疫学的に有効な量、すなわち、免疫応答を生じるのに十分な量で投与することによって行われる。好ましくは、哺乳類はウサギ、ラットまたはマウスなどの齧歯類である。次に、哺乳類を、記載されているように、その哺乳類に高親和性抗体分子を生成するのに十分な時間、追加免疫計画で維持する。高親和性抗体を生じるのに十分な時間の後、動物(例えば、マウス)を犠牲にし、抗体産生リンパ球をリンパ節、脾臓および末梢血のうち1以上から得る。脾臓細胞が好ましく、当業者に周知の方法を用いて、生理学的媒体中で個々の細胞へ機械的に分離することができる。抗体産生細胞は、マウス骨髄腫系統の細胞と融合させることによって不死化される。
【0077】
マウスリンパ球は、マウス同種骨髄腫と高いパーセンテージの安定な融合をもたらすが、ラット、ウサギおよびカエル体細胞も使用することができる。所望の抗体産生動物の脾臓細胞は、一般にポリエチレングリコールなどの融合剤の存在下で骨髄腫細胞と融合させることによって不死化される。例えば、American Type Culture Collection (ATCC), Rockville, MDから入手可能なP3−NS1/1−Ag4−1、P3−x63−Ag8.653またはSp2/O−Ag14骨髄腫系統などの、融合相手として好適ないくつかの骨髄腫細胞系統のいずれかを標準的な技術とともに使用することができる。
【0078】
所望のハイブリドーマを含む融合産物としての細胞を、融合されていない親骨髄腫またはリンパ球または脾臓細胞を排除するように設計された、HAT培地などの選択培地で培養する。ハイブリドーマ細胞を選択し、制限希釈条件下で増殖させて単離されたクローンを得る。各クローンハイブリドーマの上清を、例えばイムノアッセイ技術によって、所望の特異性および親和性の抗体の産生に関してスクリーニングし、免疫に用いるものなどの所望の抗原を決定する。モノクローナル抗体は、硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換クロマトグラフィーおよびアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の方法によって産生細胞の培養物から単離する(Zola et al, Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques And Applications, Hurell (ed.), pp. 51-52, CRC Press, 1982)。
【0079】
これらの方法に従って産生されたハイブリドーマは、当業者に周知の技術を用いて、in vitro培養でまたはin vivo(腹水中)で増殖させることができる。
【0080】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを作製する代わりに、本発明のポリペプチドに対するモノクローナル抗体を、目的のポリペプチドを有する組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレーライブラリー)をスクリーニングすることによって同定および単離することもできる。ファージディスプレーライブラリーを作製およびスクリーニングするためのキットが市販されている(例えば、the Pharmacia Recombinant Phage Antibody System, カタログ番号27-9400-01; the Stratagene SutfZ4P Phage Display Kit, カタログ番号240612)。さらに、抗体ディスプレーライブラリーの作製およびスクリーニングに特に用いやすい方法および試薬は、例えば、米国特許第5,223,409号;PCT公開第WO92/18619号;PCT公開第WO91/17271号;PCT公開第WO92/20791号;PCT公開第WO92/15679号;PCT公開第WO93/01288号;PCT公開第WO92/01047号;PCT公開第WO92/09690号;PCT公開第WO90/02809号;Fuchs et al. (1991) Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al. (1992) Hum. Antibod. Hybridomas, 3:81-85; Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281; Griffiths et al. (1993) EMBO J., 12: 725-734に見出すことができる。
【0081】
さらに、標準的な組換えDNA技術を用いて作製することができる、ヒト部分と非ヒト部分の双方を含んでなるキメラおよびヒト化モノクローナル抗体などの組換え抗体も本発明の範囲内にある。このようなキメラおよびヒト化モノクローナル抗体は、例えば、PCT出願第WO87/02671号;欧州特許出願第0184187号;欧州特許出願第0171496号;欧州特許出願第0173494号;PCT公開第WO86/01533号;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第0125023号;Better et al. (1988)に記載されている方法を用いるなど、当技術分野で公知の組換えDNA技術によって作製することができる。本明細書において「標識抗体」には、検出可能な手段によって標識された抗体が含まれ、当業者に公知の多くの異なる方法のいずれかによる酵素標識抗体、放射性標識工程、蛍光標識抗体、化学標識抗体および/または生物発光標識抗体が含まれる。
【0082】
抗体を検出可能なように標識できる方法の1つは、抗体を酵素と結合させることによるものである。そして、この酵素は、後にその基質に曝された際に、例えば、分光光度測定、蛍光測定または視覚的手段よって検出可能な化学部分を生成するような様式で、その基質と反応する。p53イソ型特異的抗体を検出可能なように標識するために使用可能な酵素としては、限定されるものではないが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、Δ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−VI−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。
【0083】
検出は、多様なイムノアッセイのいずれを用いて行ってもよい。例えば、抗体を放射性標識することによって、ラジオイムノアッセイの使用によって抗体を検出することが可能である。ラジオイムノアッセイ(RIA)の記載は、Laboratory Techniques and Biochemistry in Molecular Biology, Work T. S. et al., North Holland Publishing Company, NY (1978)(Chard Tによる "An Introduction to Radioimmune Assay and Related Techniques"と題された章を特に参照)に見出せる。放射性同位体はガンマカウンターまたはシンチレーションカウンターまたはオーディオラジオグラフィーの使用などの手段によって検出することができる。本発明の目的に特に有用な同位体は、H、1311、35S、14C、好ましくは125Iである。
【0084】
また、蛍光化合物で抗体を標識することもできる。蛍光標識抗体が適当な波長の光に曝されると、その存在が蛍光によって検出できる。最もよく用いられている蛍光標識化合物としては、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルデヒドおよびフルオレスカミンがある。
【0085】
抗体は、152Euまたはランタニド系の他のものなどの蛍光放出金属を用いて検出可能なように標識することができる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を用いて抗体と結合させることができる。
【0086】
抗体はまた、それを化学発光化合物とカップリングすることによって検出可能なように標識することもできる。そして、化学発光タグの付いた抗体を、化学反応の過程で生じる発光の存在を検出することによって同定することができる。特に有用な化学発光標識化合物の例が、ルミノール、ルシフェリン、イソルミノール、セロマティックアクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。
【0087】
同様に、生物発光化合物を用いて本発明の抗体を標識することもできる。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の有効性を高める生物系に見られる一種の化学発光である。生物発光タンパク質の存在は、発光の存在を検出することによって決定される。標識の目的で重要な生物発光化合物はルシフェリン、ルシフェラーゼおよびエクオリンである。
【0088】
本発明の検出アッセイでは、生体サンプルへの抗体の結合量は、標識抗体によって放出されたシグナルの強度および/または標識抗体に結合した生体サンプル中の細胞数によって決定することができる。
【0089】
生体サンプルにおける、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の検出または発現レベルは、ラジオイムノアッセイ、免疫放射線測定法、および/または酵素イムノアッセイによって決定することができる。
【0090】
「ラジオイムノアッセイ」は、標識(すなわち、放射性標識)された形態の抗原(すなわち、Δ133p53βポリペプチド)を用いて抗原を検出し、その濃度を測定するための技術である。抗原の放射性標識の例としては、H、14Cおよび125Iが挙げられる。生体サンプルにおけるp53イソ型の濃度は、標識された(すなわち、放射性による)抗原を抗体に対する結合に関して抗原と競合させることによって測定される。標識抗原と非標識抗原の間の競合的結合を確保するためには、標識抗原は抗体の結合部位を飽和させるのに十分な濃度で存在することである。サンプル中の抗原濃度が高くなるほど、抗体と結合する標識抗原の濃度は低くなる。
【0091】
ラジオイムノアッセイでは、抗体に結合した標識抗原の濃度を決定するために、抗原−抗体複合体を遊離抗原から分離しなければならない。抗原−抗体複合体を遊離抗原から分離する1つの方法として、抗原−抗体複合体を抗イソ型抗血清で沈殿させることによるものがある。抗原−抗体複合体を遊離抗原から分離する別法としては、抗原−抗体複合体をホルマリンで死滅させた黄色ブドウ球菌(S. aureus)で沈殿させる。抗原−抗体複合体を遊離抗原から分離するさらに別の方法としては、抗体がセファロースビーズ、ポリスチレンウェル、ポリ塩化ビニルウェル、またはマイクロタイターウェルに結合(すなわち、共有結合された)「固相ラジオイムノアッセイ」を行うことによるものがある。抗体に結合した標識抗原の濃度を既知濃度の抗原を有するサンプルに基づく標準曲線と比較することにより、生体サンプル中の抗原の濃度を決定することができる。
【0092】
「免疫放射線測定法」(IRMA)は、抗体試薬が放射活性標識されるイムノアッセイである。IRMAは、例えば、ウサギ血清アルブミン(RSA)など、タンパク質とのコンジュゲーションなどの技術による多価抗原コンジュゲートの作製を必要とする。多価抗原コンジュゲートは1分子当たり少なくとも2個の抗原残基を持たなければならず、この抗原残基は、少なくとも2つの抗体と抗原による結合を可能とするのに十分な間隔でなければならない。例えば、IRMAでは、多価抗原コンジュゲートは、プラスチック球体などの固相表面に結合させることができる。
【0093】
非標識「サンプル」抗原および放射性標識された抗原に対する抗体を、多価抗原コンジュゲートコーティング球体を含有する試験管に加える。サンプル中の抗原は抗原抗体結合部位をめぐって多価抗原コンジュゲートと競合する。適当なインキュベーション期間の後、非結合反応物を洗浄によって除去し、固相上の放射能の量を決定する。結合した放射性抗体の量は、サンプル中の抗原の濃度と反比例する。
【0094】
最も一般的な酵素イムノアッセイは、「酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)」である。「酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)」は、標識された(すなわち、酵素結合された)形態の抗体を検出し、その濃度を測定するための技術である。
【0095】
「サンドイッチELISA」において、抗体(すなわち、抗Δ133p53βペプチド)は固相(すなわち、マイクロタイタープレート)に結合させ、抗原(すなわち、Δ133p53βペプチド)を含有する生体サンプルに曝す。次に、この固相を洗浄して、結合していない抗原を除去する。次に、この結合抗原(存在する場合)に標識された(すなわち、酵素結合された)抗原を結合させて、抗体−抗原−抗体サンドイッチを形成させる。抗体に結合させることができる酵素の例としては、アルカリ性ホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、ウレアーゼおよび3−ガラクトシダーゼがある。この酵素結合抗体は基質と反応して、アッセイ可能な有色反応産物を生成する。
【0096】
「競合的ELISA法」では、抗体は、抗原(すなわち、p53イソ型ペプチド)を含有するサンプルとともにインキュベートする。次に、抗原−抗体混合物を、抗原をコーティングした固相(すなわち、マイクロタイタープレート)と接触させる。サンプル中に存在する抗原が多いほど、固相と結合可能となる遊離抗体が少ない。次に、標識された(すなわち、酵素結合された)二次抗体を固相に加えて、固相と結合した一次抗体の量を決定する。
【0097】
「免疫組織化学アッセイ」では、組織切片の特異的タンパク質を、アッセイされるタンパク質に特異的な抗体にその組織を曝すことによって検査する。次に、これらの抗体を、タンパク質の存在およびタンパク質の存在量を決定するためのいくつかの方法のいずれかを用いて可視化する。抗体を可視化するために用いる方法の例は、当業者に公知の多くの異なる方法のいずれかによる、例えば、抗体(例えば、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、またはP−ガラクトシダーゼ)に結合された酵素を介するもの、または化学法(例えば、DAB/基質クロマゲン)、または金、蛍光もしくは標識抗体がある。
【0098】
別の態様において、本発明は、潜在的抗癌化合物、好ましくは、抗転移化合物をスクリーニングする方法に関し、この方法は、
a)所望により、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型を発現することが知られる細胞において、該p53イソ型の発現レベルを測定する工程;
b)供試化合物を前記細胞と接触させる工程;
c)前記p53イソ型の発現レベルを、上記のように前記p53イソ型を検出する方法によって決定する工程;および
d)前記p53イソ型が細胞において発現されないか、または工程a)の前よりも低い発現レベルを有する場合に、その化合物を潜在的抗癌化合物として選択する工程
を含んでなる。所望により、前記スクリーニング法は、工程d)で選択された化合物を細胞で、好ましくは転移性細胞で試験して、その選択された化合物の抗癌特性、好ましくは抗転移性癌特性を確認する追加工程e)を含むことができる。
【0099】
例えば、前記工程e)は、国際特許出願WO2006/134305に開示されている方法、すなわち、それらの細胞膜でE−カドヘリンを発現しない腫瘍細胞を選択された化合物と接触させる工程、および細胞表面のE−カドヘリンの存在を決定する工程を含んでなり、この存在が抗転移性活性の指標となる方法に相当し得る。
【0100】
前記工程c)はまた、Smith HW, Marra P, Marshall CJ.J Cell Biol. 2008 Aug 25;182(4):777-90に開示されている方法、すなわち、選択された化合物の存在下で腫瘍細胞の三次元コラーゲンマトリックスへの浸潤を試験する方法にも相当する。
【0101】
好ましくは、供試化合物はアンチセンスRNAまたは介在RNA(iRNA)である。
【0102】
別の態様において、本発明は、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型ポリペプチドを特異的に認識するポリクローナル抗体を製造する方法を対象とし、このような方法は、
a)哺乳動物を、免疫学的に有効な量の、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型ポリペプチドで、または該ポリペプチドの少なくとも9アミノ酸長の特異的エピトープ断片に対して、所望により増強担体調製物を用いて、免疫する工程;
b)所望により、in vitroにおいて、該動物の血清または血漿中の特異的抗体の存在を決定する工程;および
c)その動物の血清または血漿から、特異的抗Δ133p53、抗Δ133p53γまたは抗Δ133p53βポリペプチドを精製または単離する工程
を含んでなる。
【0103】
また、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型を特異的に認識するモノクローナル抗体を分泌することができるハイブリドーマ細胞の製造のための方法も本発明の一部をなし、このような方法は、
a)哺乳動物を、免疫学的に有効な量の、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型で、または該ポリペプチドの少なくとも9アミノ酸長のエピトープ断片に対して、所望により増強担体調製物を用いて、免疫する工程;
b)その哺乳動物の脾臓、リンパ節または末梢血から、抗体抗p53イソ型ペプチドを産生するリンパ球を単離する工程;および
c)抗体抗Δ133p53、抗Δ133p53γまたは抗Δ133p53βポリペプチドを産生するリンパ球を、該リンパ球と、同種の哺乳動物の骨髄腫系統の細胞とを融合させることによって不死化する工程
を含んでなる。
【0104】
また、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型を特異的に認識するモノクローナル抗体の製造のための方法も本発明の一部をなし、このような方法は、
a)本発明の上記の方法に従い、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型を特異的に認識するモノクローナル抗体を分泌することができるハイブリドーマ細胞を製造する工程;
b)該ハイブリドーマ細胞を適切な培養培地および培養条件で培養する工程;
c)この培養培地から、分泌されるモノクローナル抗体を精製または単離する工程
を含んでなる。
【0105】
もう1つの部分において、本発明は、本発明に従うポリクローナルまたはモノクローナル抗体の製造のための方法によって得ることのできるポリクローナルまたはモノクローナル抗体を含んでなり、このような抗体は、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型を特異的に認識する。
【0106】
別の態様において、本発明は、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βのmRNAまたはポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型の検出または定量のためのキットに関し、このようなキットは、
a)本発明のポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体;または
b)配列番号2、配列番号4もしくは配列番号6の配列、または少なくとも10ヌクレオチド長を有するその断片を増幅することができるプライマー対からなる群から選択されるプライマー対;または
c)Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の配列の少なくとも10ヌクレオチド長の断片を含んでなるヌクレオチド配列を有するプローブ、またはそれらの相補物
を含んでなる。
【0107】
抗体に基づくキットに関して、そのキットは、例えば、(1)本発明によるp53イソ型ポリペプチドと結合する第一の抗体(例えば、溶液中または固相支持体に結合されたもの);および所望により、(2)例えば、p53イソ型ポリペプチドまたは第一の抗体のいずれかと結合する検出可能な標識とコンジュゲートされた第二の異なる抗体を含んでなり得る。
【0108】
オリゴヌクレオチドに基づくキットに関して、そのキットは、例えば、(1)p53イソ型核酸配列(mRNAまたはcDNA、またはその特異的断片)とハイブリダイズする、オリゴヌクレオチド、例えば、検出可能なように標識されたオリゴヌクレオチド、または(2)本発明のp53イソ型の核酸分子を増幅するのに有用なプライマー対を含んでなり得る。該キットはまた、例えば、緩衝剤、保存剤、またはタンパク質分解防止剤も含んでなり得る。該キットは、検出可能な標識(例えば、酵素または基質)を検出するために必要な成分をさらに含んでなり得る。該キットはまた、アッセイ可能であって、生体サンプルと比較可能な対照サンプルまたは一連の対照サンプルを含み得る。該キットの各成分は個々の容器に封入することができ、これらの種々の容器は総て、キットを用いて実施されたアッセイの結果を説明するための説明書とともに単一のパッケージ内にある。
【0109】
本発明はまた、上記の方法、または上記で定義されたペプチドの検出のための免疫組織化学アッセイもしくはイムノアッセイなどの当業者に周知の方法による、哺乳類の生体サンプルにおいて、Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の検出または定量によって、または任意のタイプ(例えば、乳房、結腸、膵臓、頭頸部など)の癌において、上記で定義されたヌクレオチド配列を検出する任意の方法(例えば、RT−PCR、定量的RT−PCR、FISHなど)によって形態的診断を補うための方法に関する。
【0110】
以下の実施例および図面は、本発明の様々な実施態様を説明するために記載されているものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0111】
実施例1:材料および方法
DNA構築物、試薬および抗体:
ヒトp53イソ型構築物は、J. C. Bourdonより厚意により提供されたものである。それらをpEGFPC1(Clonetech)のEcoRIおよびBamHI部位にサブクローニングしてGFPタグの付いたタンパク質を得るか、またはpLPCmycのBamHIおよびEcoRI部位にサブクローニングしてmycタグの付いたタンパク質を得た。構築物を、製造業者の説明書に従ってNucleobond PC 500キット(Macherey-Nagel)を用いて増幅した。
【0112】
Y27632はcalbiochemから購入し、総ての実施例で10μMで用いた。
【0113】
マウス抗E−カドヘリン(クローン36)、マウス抗−β1−インテグリン、マウス抗ROCK Iおよびマウス抗ROCK II抗体は、BD-transduction laboratoriesから購入し、それぞれ1/400、1/2500、1/250および1/250希釈した。マウス抗RhoAおよびウサギ抗ECT2抗体は、Santa Cruz(それぞれ26C4およびC−20)から購入し、それぞれ1/500および1/200希釈した。マウス抗GEF−H1抗体はK. Matterより厚意により提供されたものであり、1/50希釈した。ウサギ抗p53抗体(CM1)はJ. C. Bourdonより厚意により提供されたものであり、1/1000希釈した。
【0114】
セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗IgG抗体はGE-Healthcareから購入し、1/5000希釈した。
【0115】
Western Lightning Chemiluminescence(ECL)試薬はPerkinElmerから購入した。
【0116】
細胞培養およびトランスフェクション:
Hct116細胞はB. Vogelsteinより厚意により提供されたものであり、37℃、5%CO2の存在下、10%ウシ胎仔血清(FCS)を添加したMcCOY’5A培地(Sigma)中で培養した。
【0117】
イソ型の一時的トランスフェクションは、JetPeiキット(Qbiogen)を用い、製造業者の説明書に従って行った:9μgのDNAを用いて、100mmディッシュの70%密集細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後、細胞を1/2希釈し、総ての実験をトランスフェクション48時間後に行った。50nMでのsiRNAの一時的トランスフェクションは、インターフェリン(Polyplus)を用い、製造業者の説明書に従って行った。
【0118】
経時的画像法:
経時的ノマルスキー顕微鏡観察を、自動シャッターおよびGFPフィルターセット、63倍油浸対物レンズ(HC x PL APO 1.32-0.6 oil CS)、サンプルヒーター(37℃)および所内製作したCO2インキュベーションチャンバーを備えたライカDMIRE2倒立顕微鏡で行った。画像はmicromax CCDカメラ(1300Y/HS)イメージングソフトウエアを用いて取り込み、TIFFファイルに変換し、メタモルフで編集およびコンパイルした。露出時間はGFPの場合は500ms、光の場合は300msとした。3秒ごとに5分間または4分ごとに12時間画像を取り込んだ。
【0119】
FACS:
GFPタグの付いたp53のイソ型でトランスフェクトされた細胞で、浸潤アッセイに用いなかったものを1200rpmで5分間回転させ、−20℃で70%EtOH 1mLを添加することにより固定した。ヨウ化プロピジウム染色を行い、細胞総数に対するGFP発現細胞の数を、CellQuestソフトウエアを用い、FACSにより定量した。
【0120】
細胞抽出物、ウエスタンブロット法:
ブレブ細胞を含む培地を1200rpmで5分間回転させ、ブレブ形成浸潤性細胞からなるペレットを溶解した。残存している接着細胞を溶解バッファーで穏やかにこすり落とした。これら2つの細胞集団を各条件についてそれぞれ分析した(図の凡例を参照)。各抽出物中の総タンパク質量を、BCAキット(promega)を用いて定量した。E−カドヘリン、β1−インテグリン、ROCK1、ROCK2、ECT2およびGEF−H1の検出には8%SDS−PAGEゲルを用い、RhoAの検出には12%SDS−PAGEゲルを用いた。等量(30μg)のタンパク質を各レーンに添加した。次に、タンパク質を電気泳動的にニトロセルロース膜(p53、E−カドヘリン、β1−インテグリン、ROCK1、ROCK2、ECT2およびGEF−H1の場合)またはPVDF(GTP−RhoAの場合)膜に転写した。膜を、3%ミルクを含有する0.1%Tween 20中TBSで1時間ブロッキングした後、3%ミルクを含有する0.1%Tween 20中TBSで希釈した一次抗体とともに一晩インキュベートした。TBS/Tweenで数回洗浄した後、膜を、HRPと結合された抗ウサギまたは抗マウスIg抗体とともにインキュベートした。膜を、ECLを用い、製造業者の説明書に従って現像した。
【0121】
スキャンしたオートラジオグラフを、AIDA/2Dデンシトメトリーソフトウエアを用いて定量した。
【0122】
RhoA活性アッセイ:
RhoA活性アッセイのため、細胞を50mM Tris、pH7.2、1%Triton X−100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、500mM NaCl、10mM MgCl2、1mM PMSFおよびカクテルプロテアーゼ阻害剤中に溶解した。清澄化したライゼートを、RhotekinのRhoA結合ドメインを含有する市販のGST融合タンパク質ビーズ(GST−RBD、cytoskeleton)25μgとともに4℃で30分間インキュベートした。沈殿した複合体を、1%Triton X−100、150mM NaCl、10mM MgCl2、0.1mM PMSFを含有するTrisバッファーで4回洗浄し、SDSサンプルバッファーで溶出し、免疫ブロットし、Rho Aに特異的な抗体を用いて分析した。沈殿形成に用いた総ライゼートの一部も横に一緒に泳動させ、細胞ライゼート中に存在する総Rho Aを定量した。スキャンしたオートラジオグラフを、Aida/2Dデンシトメトリーソフトウエアを用いて定量し、RhoAタンパク質の発現の関数としてノーマライズした。
【0123】
浸潤アッセイ:
細胞浸潤の定量は、蛍光遮断ポリカーボネート多孔質膜インサート(Fluoroblock;#351152;BD Biosciences;孔径8μm)を含むTranswell細胞培養容器中で行った。100μlの2mg/mLマトリゲル(増殖因子を低減したもの)(エンゲルス・ホルム・スワム(Englebreth-Holm-Swarm)腫瘍由来の再構成BMの市販品、#354230; BD Biosciences)をTranswell内に調製した。細胞をトランスフェクトし、Y27632単層で処理し、または処理を行わずに、その後、トリプシン処理を行い、Transwellの上のチャンバー内に含まれているマトリゲルの厚い層(500μm前後)の上の、2%FCS含有培地中に播種した(10.10)。対照は未処理とした。次に、上と下のチャンバーをそれぞれ2%FCS含有培地および10%FCS含有培地で満たし、このようにしてマトリゲルへの細胞浸潤を可能とする化学誘引物質の可溶性勾を確立した。37℃、5%CO下で細胞をゲルへ浸潤させた後、3.7%ホルムアルデヒドで15分間固定した。マトリゲルへ浸潤した細胞はGFP蛍光によりフィルターの下側で検出され、細胞数を計数した。フィルターの全表面を計数し、アッセイは、各条件3反復として2回行った。
【0124】
乳癌患者
診断および完全な臨床・病理データに必要な量以上に十分な腫瘍組織を有する171人の白色人種の女性(24〜89歳の範囲;中央年齢64歳)の、未処置で手術可能な原発乳癌を分析した。専門の乳癌病理医が腫瘍組織を肉眼切除し、液体窒素で急速冷凍した後、−80℃で保存した。正常な乳房組織は、その人または家族にも乳癌病歴のない乳房縮小術を受けた患者から得た。Tayside Tissue Bankによる委任権限の下、施設内研究倫理委員会の認可に従い、サンプルを調べた。
【0125】
RT−PCR分析
およそ10mgの腫瘍組織(腫瘍細胞>40%)を750μlのQIAzol溶解試薬(Qiagen Ltd, Crawley, West Sussex, UK)中でホモジナイズし、RT−PCRに先立ち、抽出されたRNA品質を、BioAnalyzer 2100(商標)(Agilent Technologies, Palo Alto, CA, USA)を用いて確認したところ、28S/18S>1.5であり、2つの鋭いピークが確認された。
【0126】
p53イソ型cDNAは、RT−qPCRによって具体的に定量するには長すぎたので、本発明者らは高品質全RNA28S/18S比>1.5を必要とする半定量的RT−PCR法を用いた。ランダムプライマーを用いて500ngの全RNAを逆転写した後、アクチンcDNAをPCRにより増幅し、逆転写の有効性を確認した。各腫瘍サンプルから0.5μgの全RNAを逆転写し(AMV RT、45C、ランダムプライマー)、cDNA品質を、30サイクルのPCRによってアクチンを増幅することにより確認した。p53イソ型cDNAを、従前に記載されているように(Bourdon et al., 2005a)、各イソ型に特異的なプライマーを用いる30サイクルの2ネスティッドPCRによって増幅した。腫瘍は、対応するPCR断片の配列決定の後に、各p53イソ型を発現することを確認した。
【0127】
p53突然変異分析AmpliChip p53試験
AmpliChip p53試験は、Roche Molecular Systems, Inc (Pleasanton, California, USA)において現在開発中の製品である。この試験には、ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織の10ミクロン切片または新鮮な冷凍腫瘍からの精製ゲノムDNA100ngが必要とされる。本試験では、2つの反応(AおよびB)においてp53遺伝子のコード領域を包含する産物を増幅するために、ホモジナイズ冷凍組織から抽出されたゲノムDNA100ngを用いた。反応Aでは、エキソン2、5、8、10、エキソン4上流配列を内部対照とともに増幅し、反応Bでは、エキソン3、6、7、9、11、エキソン4下流配列を同じ内部対照とともに増幅する。AおよびBの反応から生じたPCR産物を合わせ、DNアーゼI切断を行い、平均サイズ50〜100ヌクレオチドの小DNA断片を生成した。断片化されたDNAアンプリコンを次に、ターミナルトランスフェラーゼによりビオチンで標識した。ビオチン標識されたp53標的DNA断片をハイブリダイゼーションバッファーに加えた。Affymetrix GeneChip Fluidics Station 450DxおよびAmpliChip p53特異的プロトコールを用い、この混合物を、AmpliChip p53マイクロアレイ上に置いたオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたAmpliChip p53マイクロアレイを洗浄し、ストレプトアビジンコンジュゲート蛍光色素(フィコエリトリン)で染色した。染色後、AmpliChip p53マイクロアレイをAffymetrix GeneChip Scanner 3000Dxにより、ハイブリダイズしたp53標的DNA断片に結合された蛍光標識を励起させるレーザーを用いてスキャンした。発光量は、プローブマイクロアレイ上の各位置における、結合した標的DNAに比例する。
【0128】
チップ設計およびマイクロアレイシグナルのデータ分析
Roche Molecular Systemにより設計されたAmpliChip p53マイクロアレイは、エキソン2〜11のコード領域の合計1268のヌクレオチド位置に設置された220,000を超える個々のオリゴヌクレオチドの33,000を超えるプローブセットからなる。問合せ塩基位置の1つのプローブセットは、野生型とハイブリダイズする1つのプローブと、存在し得る3つの一塩基対突然変異を検出するための3つのプローブと、一欠失を検出するための1つのプローブ、の5つのプローブを含む。各ヌクレオチド位置には、センスおよびアンチセンスプローブ配列を含め、少なくとも24のプローブセットが存在する。AmpliChip p53マイクロアレイは、Affymetrixにより、フォトリソグラフィー方法とコンビナトリアル化学を合わせた技術を用いて製造されたものである。p53突然変異の状態は、Roche Molecular Systemにより開発された、野生型p53DNAプローブ強度のバックグラウンドにおいてサンプルの一塩基対置換および一塩基対欠失を検出するように設計されたp53突然変異検出アルゴリズムで決定された。
【0129】
統計分析
カイ二乗検定、フィッシャーの両側正確確率検定およびカプラン・マイヤー分析に関して、SPSS統計ソフトウエア(参照を必要とする)を用いて統計分析を行った。これらの結果は、95%を超える信頼水準(P≦0.05)で有意であると判断された。
【0130】
実施例2:乳癌患者におけるΔ133p53β発現の分析
診断および完全な臨床・病理データに必要な量以上に十分な腫瘍組織を有する171人の白色人種の女性(24〜89歳の範囲;中央年齢64歳)の、未処置で手術可能な原発乳癌を分析した。
【0131】
結果
171の乳癌では、50/171(29%)でΔ133p53の発現が、20/171(11%)でΔ133p53βの発現が、そして、27/171(16%)でΔ133p53γの発現が確認され、正常な乳房組織ではこの3つの形態はいずれも検出できなかった。
【0132】
Δ133p53β発現は、腋下リンパ節転移(マン・ホイットニー分析、直接確率片側検定、p<0.036)に関連し、これに一致して、Δ133p53βを発現する腫瘍を有する患者は、有意に悪い無病生存率(ログランク、コックス・マンテル、p<0.025)(図1a)および全体の生存率(ログランク、コックス・マンテル、p<0.025)(図1b)を有していた。
【0133】
Δ133p53βは、特に、最も多い乳癌の組織学的タイプである浸潤性乳管癌(142/171症例)に関して、低いER発現(それぞれχ=4.1、x d.f、p<0.043)と有意に関連していた(対応のあるt検定、p<0.015)。
【0134】
図2aは、Δ133p53βを発現するER陽性患者が、Δ133p53β発現の無いER陽性患者よりも有意に悪い無病生存率を有してしたことを示す(ログランク、コックス・マンテル、p<0.0002、ペアワイズ比較Δ133p53β+ER+vs Δ133p53β−ER+、p<0.003)。さらに、図2bは、Δ133p53βを発現するER陽性患者が、予期できないことに、ER陰性患者に匹敵する低い生存率を有していたことを示す(生存率:ログランク、コックス・マンテル、p<0.0003、Δ133p53β+ER+とER−のペアワイズ比較、p<0.658)。
【0135】
従って、Δ133p53βは、原発乳癌において、予後が悪いという特徴(腋下リンパ節転移、ER陰性)、短い無病生存率および悪い予後と関連していた。
【0136】
実施例3:浸潤プロセスにおけるA133p53βイソ型の主要な役割
まず、上皮の特徴を保持し、wt p53を発現する結腸癌細胞および乳癌細胞(結腸直腸癌ではhct116、乳癌ではMCF7)の浸潤に対するGFPタグの付いたΔ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βイソ型の発現の影響を、浸潤アッセイ(方法を参照)を用いて検討した。
【0137】
GFP単独でトランスフェクトされた細胞を陰性対照として用いた。生理学的基底膜を再現するマトリゲルの厚い層の上に細胞を播種した。このin vitroアッセイは、基底膜に浸透する腫瘍細胞の進行を模倣することをねらいとする。
【0138】
図3aは、浸潤性がΔ133p53βイソ型の発現によって有意に上昇したことを示す。同様の結果がMCF7で得られた(データは示されていない)。このことは、異所性Δ133p53βイソ型の過剰発現が内因性p53の抗遊走活性に打ち勝ち得ることを示唆する。
【0139】
p53イソ型を発現する細胞がマトリゲルへ浸潤するのにどの遊走様式を用いていたかを決定するため、GFPタグの付いたイソ型を発現するHCT116細胞のフィルムを作製した。ガラスに接着する粘着性上皮細胞と上の焦点に、粘着性細胞の上にある球形化細胞の2つの細胞集団が見られた。GFPタグの付いたΔ133p53βイソ型でトランスフェクトされた細胞は、それらの表面上に動的なブレブ様構造を形成した。ビデオ映像では、いくつかの球形化細胞が運動し、いくつかの粘着性接着細胞が上皮から徐々に解離し、球形となった(データは示されていない)。接着構造の欠如およびそれと同時の球形化ブレブ形成運動の獲得は、上皮−アメーバー様移行(EAT)と極めてよく似ている。これらのブレブ形成運動がアポトーシスによるものではないFACSによる対照を設けた(データは示されていない)。
【0140】
表現型の浸透度を定量するため、球形化細胞を粘着性細胞から分離し、この2集団においてGFP陽性細胞をFACSにより計数したところ、Δ133p53およびΔ133p53γでは、ブレブ形成細胞の数は接着細胞の数よりもそれぞれ2.5倍および2.25倍上昇し、Δ133p53βでは、ブレブ形成細胞の数は接着細胞の数よりも4倍上昇していた(図4a)。結論として言えば、この表現型は有意な浸透性があり、すなわち、GFPタグの付いたΔ133p53βイソ型を発現する細胞は、大部分が球形化の形態と上皮からの細胞の解離を採っている。
【0141】
EATの際には、まず密着結合が解離し、次に接着結合が消失する。E−カドヘリンは接着結合の主成分であり、これらの結合が完全であることの特異的マーカーとして広く用いられている。p53発現細胞では、接着粘着性細胞ではE−カドヘリンが高いレベルで発現されていたが、ブレブ形成細胞ではE−カドヘリンの発現は消失しており(図4b)、ブレブ形成細胞が重要な上皮的特徴を消失したことが確認された。
【0142】
EAT下にある腫瘍細胞は低レベルのβ1−インテグリンを発現し、従って、インテグリン接着プロセスに依存しないアメーバー様遊走を採用している。Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βイソ型を発現するhct116細胞におけるβ1−インテグリンの発現を評価した。E−カドヘリンの場合と同様に、ブレブ形成細胞はβ1−インテグリンを発現しなかった(図4c)。同じ結果がmycタグまたはGFPタグの付いたイソ型を用いた場合にも得られた。mycタグの付いたイソ型の発現は、抗myc抗体を用いたウエスタンブロットによって制御された(データは示されていない)。
【0143】
これらの結果は、N末端が欠失したp53イソ型の発現がhct116細胞において上皮−アメーバー様移行を促進し、その結果、球形化ブレブ形成運動へと移行することを示す。この遊走様式は間葉遊走よりも有効であり、このことは腫瘍におけるこれらのΔ133p53β変異体の発現が患者の予後の悪さと関連している可能性があることを示唆する。このことは、p53イソ型発現の適切な調節ができないことが、腫瘍の進行および転移に劇的な結果を持ち得るという概念を強める。
【0144】
球形化ブレブ形成に関連する運動様式はROCK(Rhoキナーゼ)シグナル伝達に依存することから、ROCK阻害剤Y27632の存在下で浸潤アッセイを行った。プロトコールは上記の通りであった。
【0145】
これらの結果は、Y27632による処理がトランスフェクト細胞の浸潤性を著しく低下させることを示し、このことはΔ133p53イソ型発現によって提供される浸潤性にはROCK活性が必要とされることを示唆する。
【0146】
最近、この2つの相同なROCKが機能的に等価ではない可能性があることが報告された。両ROCKイソ型がp53イソ型に依存する球形化ブレブ形成関連運動に対して同じ効果を持つかどうかを調べるために、トランスフェクト細胞におけるROCK IおよびROCK IIの発現を検討した。これらの結果は、ROCK Iの発現が接着細胞で(対照細胞Tに比べて)増強されたが、重要なことには、ブレブ形成細胞は減少したということを示す。逆に、ROCK IIはあらゆる状況で高レベルに発現し、特にブレブ形成細胞に維持されていた。このことは、ブレブ形成運動にはROCK IIが優先的に必要とされるが、ROCK Iは上皮−アメーバー様移行の第一段階に関与する可能性がある。それらの高い配列相同性(全体の同一性65%、キナーゼドメインの同一性92%)にもかかわらず、ROCK IとROCK IIは重複する様式では働かず、ノックアウトマウスではROCK IIの欠損をROCK Iによって補償することはできず、これらの2つのイソ型はミオシンIIの活性の異なる側面を調節する。よって、アメーバー様遊走および結果としての浸潤性におけるこれら2つのROCKイソ型の異なる関与が初めて示された。
【0147】
球状化合ブレブ形成運動の際のROCKにより駆動されるアクチンの再構成は、Rho GTPアーゼファミリータンパク質RhoAに依存するところが大きい。
【0148】
p53イソ型がROCKシグナル伝達に対してそれらの効果を発揮する機構を調べるために、p53の3つのΔ133イソ型を発現する接着細胞またはブレブ形成細胞におけるRhoA発現を調べた。
【0149】
細胞がp53Δ133イソ型を発現する場合でもしない場合でもRhoAの総レベルは等しかった(データは示されていない)。この発現はブレブ形成細胞で維持されていた。しかしながらやはり、タンパク質の発現レベルはキナーゼ活性を反映していない。Δ133p53イソ型を発現する、または発現しない接着細胞とブレブ形成細胞におけるRhoA活性を、活性なGTP結合型のRhoAだけを捕捉するプルダウンアッセイを用いて比較した。まず、本発明者らは、接着上皮細胞におけるRhoAの基礎活性を観察した。しかしながら、この活性はブレブ形成細胞で極めて高かった。興味深いことに、Δ133β−p53で得られた増加は他のイソ型Δ133−p53およびΔ133γ−p53で得られたものよりも2.5〜3倍高く、Δ133β−p53発現細胞の重要な表面接着消失能と相関していた。
【0150】
Δ133−p53イソ型発現細胞におけるこのRhoAの活性化が、グアニン交換活性化因子(GEF)の過剰発現によるものであったのかという疑問が生じる。本研究は、双方ともRhoAのp53依存性調節の媒介に関連づけられているRhoAの2つのGEF、すなわち、突然変異型p53によって活性化されることが分かっていて、癌細胞においてその発現がp53の状態と強く相関しているGEF−H1と、p53の転写標的であることが知られ、上皮結合の調節に関与しているECT2に焦点を当てた。
【0151】
GEF−H1はp53の3つのイソ型を発現するブレブ形成細胞において過剰発現されることが分かった。これに対し、ECT2の発現は、ブレブ形成細胞では接着細胞に比べて低かった。ブレブ形成細胞におけるこのECT2のダウンレギュレーションは、上皮接のレギュレーターとしてのその既知の機能と矛盾はないが、GEF−H1のアップレギュレーションに依存すると思われるRhoAの活性化は考慮に入っていない。このことは、上皮−アメーバー様移行時にGEF−H1とECT2の役割が異なることを示唆する。これらの結果は、マウス繊維芽細胞にトランスフェクトされた際のGEF−H1の形質転換能およびGEF−H1でトランスフェクトされた細胞をヌードマウスに注射した際の腫瘍誘導と一致する。接着結合の調節には、RhoAの下流にある2つの対立する経路、すなわち、上皮結合の崩壊に関与するROCK依存性経路とカドヘリン−カテニン複合体の形成および結合の安定性を促進するDia依存性経路が働いている。1つの可能性は、これら2つの経路がRhoAの2つの異なるGEFによって活性化されるということであり、すなわち、ECT2は、このGEFが上皮の極性を調節することから、RhoA−Dia経路を活性化して接着結合を促進することができ、GEF−H1は、RhoA−ROCK経路を活性化して細胞−細胞結合を崩壊させ、上皮−アメーバー様移行を促進することができる。p53はこれら2つの経路の上流メディエーターであり、p53のΔ133イソ型発現は腫瘍形成の際にこの2つの経路間のバランスの調節を解除する。
【0152】
これらのデータは、Δ133p53イソ型(N末端ドメインが欠損したイソ型)の調節を欠いた発現が、癌細胞に運動性および浸潤性の増大を付与することを示す。このことは、p53イソ型の比率の変化が腫瘍の急速進行性の増対および癌細胞の転移能の増強に有利となることを示唆し、癌の進行におけるスプライシング事象の重要性を強調する。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、Δ133p53βを発現する患者または発現しない患者における、時間に対する無病生存率(図1a)および生存率の関数(fonctions)(図1b)を示す。
【図2】図2は、Δ133p53βおよびERの発現に依存する患者における、時間に対する無病生存率(図2a)および生存率の関数(図2b)を示す。
【図3a】図3は、Δ133p53βの発現に依存する浸潤率%(図3a)および遊走率%(図3b)を示す。
【図3b】図3は、Δ133p53βの発現に依存する浸潤率%(図3a)および遊走率%(図3b)を示す。
【図3c】図3cは、p53およびΔ133p53βイソ型の模式図である(NLS:核局在シグナル)。
【図4a】図4aは、GFP陽性細胞におけるブレブ形成(blebbing)細胞と接着細胞の定量分析を示す。
【図4b】図4bおよびcは、E−カドヘリンおよびβ1−インテグリンウエスタンブロット法に用いられる細胞におけるmycタグ付き構築物の発現のウエスタンブロット解析を示す。Adh:支持体に接着したままの細胞;bleb:ブレブ運動を示す細胞および支持体から離れた細胞。ノーマライゼーションは抗GAPDH抗体を用いて行った。
【図4c】図4bおよびcは、E−カドヘリンおよびβ1−インテグリンウエスタンブロット法に用いられる細胞におけるmycタグ付き構築物の発現のウエスタンブロット解析を示す。Adh:支持体に接着したままの細胞;bleb:ブレブ運動を示す細胞および支持体から離れた細胞。ノーマライゼーションは抗GAPDH抗体を用いて行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移癌を有する素因があると思われる被験体を検査する方法であって、
i)Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型の存在を検出するために被験体由来の生体サンプルを分析する工程
を含んでなり、該イソ型の存在が転移癌の指標となる、方法。
【請求項2】
p53イソ型の存在がp53イソ型の発現レベルの決定に相当し、該方法が、検出されたp53イソ型の発現レベルと閾値を比較するさらなる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験体における癌の急速進行性を測定する方法であって、
i)被験体由来の生体サンプルにおいてΔ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型の存在を決定する工程
を含んでなり、該イソ型の存在が急速進行性癌の指標となり、好ましくは、該イソ型が転移癌の指標となる、方法。
【請求項4】
癌に関連する状態に対して療法を受けているか、または受けていた被験体の、抗癌療法に対する応答を決定するための方法であって、
i)被験体由来の生体サンプルにおいてΔ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型の発現レベルを決定する工程、および
ii)それを閾値と比較する工程
を含んでなる、方法。
【請求項5】
p53イソ型がΔ133p53βである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型の存在を検出する工程が、p53イソ型ポリペプチドもしくはその断片を検出すること、またはp53イソ型mRNAもしくはその断片を検出することによって評価される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記p53イソ型のmRNAまたはcDNA、その相補的配列、または該p53イソ型に特異的な少なくとも10ヌクレオチド長を有するその断片を増幅するさらなる工程を含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型の存在の決定が、該p53イソ型のmRNA、その相補的配列、または該p53イソ型に特異的な少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50またはそれを超えるヌクレオチド長を有するその断片と特異的にハイブリダイズすることができる、好ましくは、配列番号2の配列を有するΔ133p53β mRNAとハイブリダイズすることができるプローブによって行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型のmRNAの存在の決定が、以下の工程:
(a)該p53イソ型に特異的な核酸プローブと、
・腫瘍細胞の含有が疑われるヒト被験体の生体サンプルから単離されたRNA分子、または
・単離された前記RNA分子からcDNAとして合成された核酸分子
のいずれかを含む生体試験サンプルを、ハイブリダイズ条件下で接触させる工程
(ここで、該核酸プローブは、前記p53イソ型の配列の少なくとも15ヌクレオチド長の断片、またはその断片、またはそれらの相補物のいずれかを含んでなるヌクレオチド配列を有する)、および
(b)核酸プローブと試験サンプルのハイブリッドの形成を検出する工程
(ここで、ハイブリッドの存在は、ヒト被験体から得られた組織における転移細胞の存在を示す)
を含む方法によって行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型の存在の決定が、該生体サンプルと、該p53イソ型のポリペプチドまたはその断片に特異的な抗体を接触させること、および該抗体と該生体サンプルの結合を決定することによって行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
潜在的抗転移化合物をスクリーニングする方法であって、
a)所望により、Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型を発現することが知られる細胞において、該p53イソ型の発現レベルを測定する工程;
b)供試化合物を前記細胞と接触させる工程;
c)前記p53イソ型の発現レベルを、請求項1〜10のいずれか一項に記載の前記p53イソ型の検出方法によって決定する工程;および
d)前記p53イソ型が細胞において発現されないか、または工程a)の前よりも低い発現レベルを有する場合に、その化合物を潜在的抗転移化合物として選択する工程
を含んでなる、方法。
【請求項12】
癌が乳癌または結腸癌である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型ポリペプチドを特異的に認識するポリクローナル抗体を製造する方法であって、
a)哺乳動物を、免疫学的に有効な量の、Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型ポリペプチドで、または該ポリペプチドの少なくとも9アミノ酸長の特異的エピトープ断片に対して、所望により増強担体調製物を用いて、免疫する工程;
b)所望により、in vitroにおいて、該動物の血清または血漿中の特異的抗体の存在を決定する工程;および
c)その動物の血清または血漿から、特異的抗Δ133p53β、抗Δ133p53または抗Δ133p53γポリペプチドを精製または単離する工程
を含んでなる、方法。
【請求項14】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型を特異的に認識するモノクローナル抗体を分泌することができるハイブリドーマ細胞の製造のための方法であって、
a)哺乳動物を、免疫学的に有効な量の、Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γからなる群から選択されるp53イソ型ポリペプチドで、または該ポリペプチドの少なくとも9アミノ酸長のエピトープ断片に対して、所望により増強担体調製物を用いて、免疫する工程;
b)その哺乳動物の脾臓、リンパ節または末梢血から、抗体抗p53イソ型ペプチドを産生するリンパ球を単離する工程;および
c)抗体抗Δ133p53β、抗Δ133p53または抗Δ133p53γポリペプチドを産生するリンパ球を、該リンパ球と、同種の哺乳動物の骨髄腫系統の細胞とを融合させることによって不死化する工程
を含んでなる、方法。
【請求項15】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型を特異的に認識するモノクローナル抗体の製造のための方法であって、
a)請求項15に記載の方法に従って、Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型を特異的に認識するモノクローナル抗体を分泌することができるハイブリドーマ細胞を製造する工程;
b)該ハイブリドーマ細胞を適切な培養培地および培養条件で培養する工程;
c)この培養培地から、分泌されるモノクローナル抗体を精製または単離する工程
を含んでなる、方法。
【請求項16】
Δ133p53β、Δ133p53およびΔ133p53γのmRNAまたはポリペプチドからなる群から選択されるp53イソ型の検出または定量のためのキットであって、
a)該p53イソ型を特異的に認識するポリクローナルもしくはモノクローナル抗体;または
b)配列番号2、配列番号4もしくは配列番号6の配列、または少なくとも10ヌクレオチド長を有するその断片を増幅することができるプライマー対からなる群から選択されるプライマー対;または
c)Δ133p53、Δ133p53γおよびΔ133p53βからなる群から選択されるp53イソ型の配列の少なくとも10ヌクレオチド長の断片、またはそれらの相補物のいずれかを含んでなるヌクレオチド配列を有するプローブ
を含んでなる、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公表番号】特表2012−531606(P2012−531606A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518089(P2012−518089)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059321
【国際公開番号】WO2011/000891
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【Fターム(参考)】