説明

α−ガラクトシダーゼA欠乏症の治療

【課題】高度に精製されたα−Gal A、およびそれを精製する様々な方法;変更された電荷を有するα−Gal A調製品およびその調製品の製造方法;ほ乳類宿主中で延長された循環半減期を有するα−Gal A調製品、およびその製造方法;α−Gal A調製品を被験者に投与する方法および投与量を提供する。
【解決手段】SDS-PAGEまたは逆相HPLCにより測定された場合、少なくとも99.5%の均質性まで精製されたヒトα−Gal A調製物を含む組成物であって、該調製物は、多様なα−Gal Aグリコフォームを含み、少なくとも3.0×106ユニット/mgタンパク質の比活性を有し、かつ、実質的にレクチンを含まない

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ガラクトシダーゼA欠乏症を治療する方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ファブリー病は、重篤な腎臓障害、角化血管腫、ならびに心室肥大および僧帽弁不全を含む心臓血管異常により特徴付けられるX染色体連鎖遺伝性リソソーム貯蔵症である。ファブリー病はまた、末梢神経系に影響を与え、末端において燃えるような疼痛を発現させる。ファブリー病は、酵素であるα−ガラクトシダーゼA(α−Gal A)の欠乏により生じる。α−Gal Aは、様々な糖コンジュゲート(glycoconjugate)の末端のα−ガラクトシル部位を開裂するリソソームグリコヒドロラーゼ(糖加水分解酵素)である。ファブリー病により、中性スフィンゴ糖脂質であるトリヘキソシルセラミド(CTH)の代謝が阻害され、さらに、このような酵素基質が細胞内および血流中に蓄積する。
【0003】
ファブリー病はX染色体連鎖遺伝パターンを有するため、ほとんどの患者は男性である。重篤な欠陥を有する女性のヘテロ接合体も観察されてはいるが、女性のヘテロ接合体はしばしば無症候性であるかまたは比較的穏やかな症候(角膜の特徴的な混濁のような)を有する。α−Gal A活性がわずかに残っており、かつ非常に穏やかな症候を示すかまたはファブリー病に特徴的な他の症候を明らかにまったく示さないファブリー病の異型変種は、左心室肥大および心臓病と関連を有する(非特許文献1)。α−Gal Aの減少がそのような心臓異常の原因であると考えられる。
【0004】
ヒトα−Gal AをコードしているcDNAおよび遺伝子は、単離され、塩基配列決定がなされている。ヒトα−Gal Aは、429個のアミノ酸から構成されるポリペプチドとして発現され、そのN末端に存在する31個のアミノ酸はシグナルペプチドである。そのヒト酵素は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(デスニック(Desnick)ら、 特許文献1;非特許文献2;および昆虫細胞(カルホウン(Calhoun)ら、特許文献2)中で発現する。
【0005】
しかしながら、現在のα−Gal A調製物の効力は乏しい。比較的高純度のα−Gal Aを調製する方法は、レクチンアフィニティークロマトグラフィー(コンカナバリンA(Con A)セファロース(Sepharose)(登録商標))およびセファロースマトリックスに連結された基質アナログであるN−6−アミノヘキサノイル−α−D−ガラクトシルアミンへのα−Gal Aの結合に基づくアフィニティークロマトグラフィーの組合せを用いた、アフィニティークロマトグラフィーを使用するものである。例えば非特許文献3を参照のこと。タンパク質様レクチンアフィニティー樹脂および基質アナログ樹脂の使用は、一般的に、固体支持体からのアフィニティー試薬の連続的浸出を伴い(非特許文献4)、溶液中に遊離しているかまたは溶出したタンパク質に結合しているアフィニティー試薬により、精製された生成物が汚染されてしまう。そのような汚染により、その生成物は、製剤調製物としての使用に不適である。また、結合した基質アナログおよびレクチンもタンパク質の酵素的、機能的、および構造的特性に実質的に負の影響を及ぼす可能性がある。さらに、従来技術の方法により製造されたα−Gal Aは、肝臓により迅速に排除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,356,804号
【特許文献2】国際公開第90/11353号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ナカノ(Nakano)ら、New Engl.J.Med. 333:288-293 (1995)
【非特許文献2】イアノー(Ioannou)ら、J.Cell Biol. 119:1137 (1992))
【非特許文献3】ビショップ(Bishop)ら、J.Biol.Chem. 256:1307-1316 (1981)
【非特許文献4】マリカー(Marikar)ら、Anal. Biochem. 201: 306-310(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、従来のクロマトグラフィー樹脂を用い、大規なの商業用途に適した供給量および品質を容易に確保することができ、ならびに、アフィニティー試薬を含まないα−Gal A調製物を生成する精製プロトコールが当該技術分野において必要とされている。さらに、循環半減期が延長され、肝臓以外の特定の組織への取込みが増大したα−Gal A調製物が当該技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高度に精製されたα−Gal A調製物、および該α−Gal Aグリコフォーム(glycoform)を精製する様々な方法を提供する。本発明はまた、電荷が変更されたα−Gal A調製物およびそのような調製物の製造方法を提供する。電荷の変更は、α−Gal Aのシアル酸含有量を増加させる、および/またはα−Gal Aのリン酸化(ホスホリル化)の割合を増大させることにより達成される。本発明はさらに、ほ乳類宿主中で循環半減期が延長されたα−Gal A調製物およびその製造方法を提供する。最後に、本発明はさらに、α−Gal A調製物を被験者に投与する方法および投与量を提供する。本発明のα−Gal A調製物は、ファブリー病またはファブリー病の異型変種を患った患者の治療、例えば、心室膨大(例えば、左心室肥大(LVH)、および/もしくは僧帽弁不全など)のような主に心臓血管異常を有するファブリー病患者、または主に腎臓に関わる問題のあるファブリー病患者の特定の集団の治療に有用であろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ヒト繊維芽細胞のcDNAライブラリからα−Gal A cDNAを単離するために用いた210bpのプローブである(配列番号1)。この配列は、α−Gal A遺伝子のエクソン7由来のものである。このプローブは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりヒトゲノムDNAから単離した。図中の下線を引いた領域は、増幅プライマーの配列に対応する。
【図2】図2は、α−Gal A cDNAクローンの5’末端を完了するDNAフラグメントの配列である(配列番号2)。このフラグメントは、PCRによりヒトゲノムDNAから増幅した。下線を引いた領域は、増幅プライマーの配列に対応する。実施例1に記載するようなサブクローニングに用いたNcoIおよびSacII制限エンドヌクレアーゼ部位の位置も示している。
【図3】図3は、シグナルペプチドをコードしている配列を含むα−Gal A cDNAの配列である(配列番号3)。
【図4】図4は、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、エクソン1、および第1イントロン、hGHシグナルペプチドコード配列および第1イントロン、α−Gal AのcDNA(α−Gal Aシグナルペプチド配列を欠如した)ならびにhGH 3’UTSを含むα−Gal A発現構築体であるpXAG-16の地図である。pcDNeoは、プラスミドpcDNeo由来のneo遺伝子の位置を示す。
【図5】図5は、コラーゲンIα2プロモーターおよび第1エクソン、β−アクチンイントロン、hGHシグナルペプチドコード配列および第1イントロン、α−Gal AのcDNA(α−Gal Aシグナルペプチド配列を欠如した)ならびにhGH 3’UTSを含むα−Gal A発現構築体であるpXAG-28の地図である。pcDNeoは、プラスミドpcDNeo由来のneo遺伝子の位置を示す。
【図6】図6は、ヒトα−Gal Aアミノ酸配列である(配列番号4)。
【図7】図7は、ヒトα−Gal A(シグナルペプチドを含まない)をコードしているcDNA配列である(配列番号5)。
【図8】図8は、ブチルセファロース樹脂を用いたα−Gal A精製段階のクロマトグラムである。選択された分画に関する280nmでの吸光度(実線)およびα−Gal A活性(点線)が示されている。
【図9】図9は、pGA213Cの地図である。
【図10】図10は、標的構築体であるpGA213C、および内因性α−ガラクトシダーゼA遺伝子座との相同的組換えを示す図である。pGA213Cは、X染色体−αガラクトシダーゼA遺伝子座上の対応する配列の上に標的配列として一列に示されている。メチオニン開始コドンATGに対する位置は、直線地図上の数により示されている。マウスのdhfr、細菌のneo、およびCMVプロモーター/アルドラーゼイントロン配列を含有する活性化ユニットが位置(-221番)上に示され、DNAクローニングによりその位置中にそれらの配列を挿入した。α−ガラクトシダーゼAコード配列は、濃く塗りつぶされた四角で示している。α−ガラクトシダーゼA非コードゲノム配列は、薄く塗られた四角で示している。大きな矢印は、dhfrおよびneo発現カセットの転写方向を示している。標的化および遺伝子活性化を首尾よく行った後に実施したGA-GAL mRNAのスプライシングは、活性化されたα−ガラクトシダーゼA(GA-GAL)遺伝子座の地図の下の分断された線により示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
導入
本明細書に記載した発明は、ある新規なα−Gal A調製物およびその製造方法、ならびにそれらの調製物を用いてファブリー病またはファブリー病の異型変種を患った患者を治療する方法に関する。考えられる特定の代表的な実施の形態を要約し、以下に詳細に説明している。
【0012】
本発明は、ファブリー病の治療のために任意の細胞(α−Gal A産生細胞)中で産生されたα−Gal Aを使用する。好ましい実施態様においては、本発明は、標準的な遺伝子操作技法(クローン化されたα−Gal A遺伝子またはcDNAを宿主中へ導入することに基づく)、または遺伝子活性化を用いて産生されたヒトα−Gal Aを使用する。
【0013】
本発明は、従来技術において調製されたものよりも高純度のα−Gal Aを含有する調製物、およびその製造方法を提供する。本発明の精製方法を用いることにより、ヒトα−Gal A調製物の組成物は、SDS-PAGEまたは逆相HPLCにより測定された場合、好ましくは、少なくとも98%の均質性、より好ましくは、少なくとも99%の均質性、最も好ましくは、少なくとも99.5%の均質性まで精製される。本発明のα−Gal A調製物の比活性は、好ましくは、少なくとも2.0×106ユニット/mgタンパク質、より好ましくは、少なくとも3.0×106ユニット/mgタンパク質、最も好ましくは、少なくとも3.5×106ユニット/mgタンパク質である。
【0014】
ある実施態様においては、α−Gal A調製物は、疎水性相互作用樹脂上でα−Gal Aの様々なグリコフォームとして他の成分から分離することにより精製されるが、これには、レクチンクロマトグラフィー段階は含まれない。好ましい実施態様においては、この疎水性相互作用樹脂の官能部分にはブチル基を含む。
【0015】
別の実施態様においては、α−Gal A調製物は、平衡緩衝液中、酸性pHにおいて、最初に、α−Gal Aの様々なグリコフォームをカラム内の陽イオン交換樹脂に結合させることにより精製される。次いで、このカラムを前記平衡緩衝液で洗浄して、未結合材料を溶出させ、溶出液として、10-100mMの塩溶液、pH4−5の緩衝溶液、またはそれらの組合せを用いることにより、α−Gal Aの様々なグリコフォームを溶出させる。好ましい実施態様においては、平衡緩衝液のpHは約4.4である。
【0016】
また別の実施態様においては、α−Gal A調製物は、精製方法として、等電点クロマトグラフィー、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー、またはイムノアフィニティークロマトグラフィーの内の少なくとも1つの工程を含む精製方法を用いて、ある試料中のα−Gal Aの様々なグリコフォームをその試料中の他の成分から分離することにより精製される。
【0017】
本発明はさらに、電荷が変更されたα−Gal A調製物およびその製造方法を提供する。該調製物は、α−Gal Aの別異のグリコフォームを含む場合がある。電荷の変更は、α−Gal A調製物のシアル酸含有量を増加させることにより、および/またはα−Gal A調製物のホスホリル化の割合を高めることにより行われる。
【0018】
α−Gal A調製物のシアル酸含有量は、(i)前記精製過程中または後に、より高く荷電されたおよび/またはより分子量の大きいα−Gal Aグリコフォームを分離すること;(ii)遺伝子を改変することにより(従来の遺伝子操作法または遺伝子活性化のいずれかにより)、シアリルトランスフェラーゼ遺伝子またはcDNAを発現するようになった細胞を用いてシアル酸残基を付加すること;または(iii)低アンモニウム環境中において、前記酵素を発現する細胞を発酵または増殖させることによって増加する。
【0019】
α−Gal A調製物のホスホリル化は、(i)遺伝子を改変することにより(従来の遺伝子操作法または遺伝子活性化のいずれかにより)、ホスホリルトランスフェラーゼ遺伝子またはcDNAを発現するようになった細胞を用いてリン酸残基を付加すること;または(ii)培養された細胞にホスファターゼ阻害剤を加えることによって高められる。
【0020】
本発明の方法を用いることにより、オリゴ糖の35%から85%が荷電された、ヒトグリコシル化α−Gal A調製物が得られる。好ましい実施態様においては、少なくとも35%のオリゴ糖が荷電されている。より好ましい実施態様においては、少なくとも50%のオリゴ糖が荷電されている。
【0021】
別の好ましいヒトグリコシル化α−Gal A調製物は、コンプレックスを形成しているグリカンのうち、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも70%が2〜4個のシアル酸残基を有する多様なα−Gal Aグリコフォームを含む。別の好ましい実施態様においては、多様なグリコフォームを含むヒトグリコシル化α−Gal A調製物は、オリゴ糖電荷を有しており、その値をZ数で表すと、100以上、好ましくは150以上、より好ましくは170以上である。また別の好ましい実施態様においては、多様なグリコフォームを含むヒトグリコシル化α−Gal A調製物は、平均して少なくとも16〜50%、好ましくは25〜50%、より好ましくは少なくとも30%のグリコフォームがホスホリル化されている。さらに別の実施態様においては、多様なグリコフォームを有する該調製物は、総グリカンの50〜75%、好ましくは、少なくとも60%がシアリル化されている。
【0022】
本発明のひとつの実施態様においては、オリゴ糖電荷が高められたグリコシル化α−Gal A調製物は、はじめに、GlcNAc トランスフェラーゼIII(GnT-III)をコードしているポリヌクレオチドをα−Gal A産生細胞に導入する、または、内因性のGnT-III遺伝子の発現を制御する制御配列を相同的組換えによって該細胞に導入することにより産生する。次に、α−Gal A産生細胞がα−Gal AおよびGnT-IIIを発現する培養条件下においてこの細胞を培養する。最終段階として、オリゴ糖電荷が高められたα−Gal A調製物を単離する。
【0023】
本発明の別の実施態様においては、オリゴ糖電荷が高められたグリコシル化α−Gal A調製物は、はじめに、シアリルトランスフェラーゼをコードしているポリヌクレオチドをα−Gal A産生細胞に導入する、または内因性のシアリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を制御する制御遺伝子を相同的組換えによって導入することにより産生する。次に、α−Gal A産生細胞がα−Gal Aおよびシアリルトランスフェラーゼを発現する培養条件下においてこの細胞を培養する。最終段階として、オリゴ糖電荷が高められたα−Gal A調製物を単離する。好ましいシアリルトランスフェラーゼとしては、α2,3−シアリルトランスフェラーゼおよびα2,6−シアリルトランスフェラーゼが挙げられる。好ましい実施態様においては、本方法は、調製物の分画または精製により、分子量が大きい、または電荷が高いα−Gal Aグリコフォームを選択する段階を追有する。
【0024】
別の実施態様においては、アンモニウム濃度が10mM以下、好ましくは2mM以下の培養培地にα−Gal A産生細胞を加えることにより、シアリル化の割合が高いグリコシル化α−Gal A調製物を得る。好ましい実施態様においては、低アンモニウム状態は、培養培地にグルタミンシンテターゼを添加することによって調整する。別の好ましい実施態様においては、低アンモニウム状態は、α−Gal A産生細胞を連続的または間歇的に新鮮培地に灌流することによって得られ、アンモニウム濃度を10mM以下、より好ましくは2mM以下に維持する。
【0025】
さらに別の実施態様においては、ホスホリル化の割合が高められたグリコシル化α−Gal A調製物は、はじめに、ホスホリルトランスフェラーゼをコードしているポリヌクレオチドをα−Gal A産生細胞に導入する、または内因性ホスホリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を制御する制御遺伝子を相同的組換えによって導入することにより産生する。次に、α−Gal A産生細胞がα−Gal Aおよびホスホリルトランスフェラーゼを発現する培養条件下においてこの細胞を培養する。さらに、前記ポリヌクレオチドを有しない細胞内で産生されたα−Gal Aと比較して、ホスホリル化の割合が高められているα−Gal A調製物を単離する。好ましい実施態様においては、本発明の方法に従って産生されたα−Gal A調製物は、グリコフォームの16〜50%、好ましくは25〜50%、より好ましくは少なくとも30%がホスホリル化された多様なグリコフォームを含む。好ましい実施態様においては、本方法は、調製物を分画または精製することにより、分子量が大きい、または電荷が高いα−Gal Aグリコフォームを選択する段階を追加する。
【0026】
また別の実施態様においては、ホスホリル化の割合が高められたグリコシル化α−Gal A調製物は、培養細胞にブロモテトラミゾール(bromotetramisole)などのホスファターゼ阻害剤を添加することによって得られる。培養細胞の増殖添加剤として用いられる子牛血清中には低濃度のウシプラズマアルカリホスファターゼが含まれている場合がある。このため、分泌されたα−Gal A上に露出しているMan−6−Pエピトープが血清アルカリホスファターゼの基質となる可能性が高まる。ブロモテトラミゾールは強力なアルカリホスファターゼ阻害剤であることが示されており、そのKi値は2.8mM(メタエ(Metaye)ら、Biochem. Pharmacol., 15: 4263-4268(1988))であり、0.1mMで完全に阻害することができる(ボーガース(Borgers)およびソン(Thone)、Histochemistry 44: 277-280(1975))。故に、ひとつの実施態様においては、ブロモテトラミゾールなどのホスファターゼ阻害剤を培養細胞に添加し、Man−6−Pエステル基の加水分解を阻止することによって培養培地中に存在する高取り込み型のα−Gal A量を最大にする。
【0027】
さらに本発明は、哺乳類宿主内における循環半減期が延長されたα−Gal A調製物およびその製造方法を提供する。循環半減期の延長および細胞への取り込みの増加は、次のようにして達成することができる:(i)α−Gal Aのシアル酸含量を増す(上述に従って実施する);(ii)α−Gal Aのホスホリル化を促進する(上述に従って実施する);(iii)α−Gal AのPEG化(PEGylation)を行う;または(iv)α−Gal Aのオリゴ糖鎖上のシアル酸および末端ガラクトース残基の部分的除去、または末端ガラクトース残基の除去を行う。
【0028】
α−Gal A調製物のシアリル化状態が改良されることにより、外来性α−Gal Aの循環半減期が長くなる。さらに、α−Gal Aのシアリル化状態が改良されることにより、肝細胞のα−Gal Aの取り込みと比較して、肝内皮細胞、肝洞細胞(liver sinusoidal cells)、肺細胞、腎細胞、神経細胞、内皮細胞または心細胞などのような肝細胞以外における取り込みが増加する。好ましくは、シアル酸含量が高められたヒトグリコシル化α−Gal A調製物は、コンプレックスを形成しているグリカンのうちの少なくとも20%が2〜4個のシアル酸残基を有する多様なグリコフォームを含む。別の好ましいヒトグリコシル化α−Gal A調製物は、総グリカンの50〜75%、好ましくは少なくとも60%がシアル化されている多様なグリコフォームを含む。
【0029】
α−Gal A調製物をホスホリル化することにより、細胞に侵入するα−Gal Aの量が増加する。リン酸化は、α−Gal Aを発現する細胞内で起こる。本発明に従うひとつの好ましいヒトグリコシル化α−Gal A調製物は、グリコフォームの少なくとも16〜50%、好ましくは25〜50%、より好ましくは少なくとも30%がホスホリル化された多様なグリコフォームを含む。
【0030】
別の実施態様においては、α−Gal Aをポリエチレングリコールとコンプレックス形成させることにより、ヒトα−Gal A調製物の循環半減期が延長される。好ましい実施態様においては、トレシルモノメトキシPEG(TMPEG)を用いてα−Gal A調製物のコンプレックス形成を行い、PEG化α−Gal Aを得る。次に、PEG化α−Gal Aを精製してPEG化α−Gal A調製物を単離する。α−Gal AをPEG化することにより、循環半減期が延長され、タンパク質のイン・ビボ(in vivo)効果が増強される。
【0031】
シアリル化は、タンパク質の循環半減期および生体分布に影響を与える。シアリル化が最小限または全く行われていないタンパク質は、タンパク質表面に露出しているガラクトース残基により、肝細胞のアシアロ糖タンパク質レセプター(アシュウェル(Ashwell)レセプター)によって容易に取り込まれる。末端にガラクトースを有するα−Gal Aの循環半減期は、以下の操作を行うことにより段階的に延長することができる:(1)α−Gal Aをノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)と接触させることによってシアル酸を除去して末端のガラクトース残基を露出させ、(2)脱シアリル化したα−Gal Aをβ−ガラクトシダーゼと接触させることによって末端のガラクトシド残基を除去する。得られたα−Gal A調製物は、ノイラミニダーゼおよびβ−ガラクトシダーゼと段階的な接触を行っていないα−Gal A調製物と比較すると、オリゴ糖鎖上の末端のシアル酸数、および/または末端のガラクトシド残基数が減少している。別の方法としては、脱シアリル化したα−Gal Aをβ−ガラクトシダーゼと接触させることによって末端のガラクトシド残基を除去する操作を行うだけで、ガラクトース末端を有するα−Gal Aの循環半減期を延長することができる。得られたα−Gal A調製物は、β−ガラクトシダーゼと接触させていないα−Gal A調製物と比較すると、オリゴ糖鎖上の末端のガラクトシド残基数が減少している。好ましい実施態様においては、ノイラミニダーゼおよびβ−ガラクトシダーゼに段階的に接触させた後、次に、得られたα−Gal A調製物をβ−ヘキソサミニダーゼと接触させることにより、オリゴ糖を解裂してトリマンノース(マンノース三量体)コアにする。
【0032】
さらに、シアリル化のレベルは、使用する細胞型によって異なる。故に、別の好ましい実施態様においては、シアリルトランスフェラーゼの活性が比較的高い哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞など)をスクリーニングし、また、そのようなα−Gal A産生細胞を使用することによってα−Gal Aのシアリル化を促進することができる。
【0033】
さらに本発明は、アルブミンなどのような非α−Gal Aタンパク質、宿主細胞によって産生される非α−Gal Aタンパク質、および動物組織もしくは体液から単離されたタンパク質を実質的に含まないα−Gal A調製物を含む製剤を提供する。ひとつの実施態様においては、そのような製剤は賦形剤を含む。好ましい賦形剤としては、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、アミノ酸、脂質、EDTA、EGTA、塩化ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストランまたはこれらの賦形剤のうちの任意のものの組み合わせなどが挙げられる。別の実施態様においては、そのような製剤はさらに非イオン性界面活性剤を含む。好ましい非イオン性界面活性剤としては、ポリソルベート(Polysorbate)20、ポリソルベート(Polysorbate)80、トライトン(Triton)X-100、トライトン(Triton)X-114、ノニデット(Nonidet)P-40、オクチルa−グルコシド(Octyl a-glucoside)、オクチルb−グルコシド(Octyl b-glucoside)、ブリジ(Brij)35、プルロニック(Pluronic)およびツイーン(Tween)20などが挙げられる。好ましい実施態様においては、非イオン性界面活性剤はポリソルベート(Polysorbate)20またはポリソルベート(Polysorbate)80である。好ましい製剤は、さらに、好ましくはpHが6のリン酸緩衝生理食塩水を含有する。
【0034】
さらに本発明は、被験対象にα−Gal A調製物を投与する方法を提供する。好ましい実施態様においては、α−Gal A調製物は、本明細書に記載されているような、電荷が変更された(例えば、オリゴ糖電荷が高められているなど)、および/または循環半減期が延長されたα−Gal A調製物である。α−Gal A調製物の投与量は、体重1kgあたり0.05〜5.0mg、より好ましくは0.1〜0.3mgであり、週1回または2週間に1回投与する。好ましい実施態様においては、投与量は、体重1kgあたり約0.2mgを2週間に1回である。このような方法においては、筋肉内、経口、直腸、皮下、動脈内、腹腔内、脳内、鼻内、皮内、鞘内、経粘膜、経皮または吸入によって投与することができる。ひとつの実施態様においては、被験対象にα−Gal A調製物を投与する方法としては、体重1kgあたり0.01〜10.0mg、好ましくは0.1〜5.0mgの範囲の量のα−Gal A調製物を皮下投与により週1回または2週間に1回投与することを含む。α−Gal A調製物は、ボーラス静注、緩速静注、または連続静注などのような静注によって投与することもできる。上記のいずれの方法においても、ポンプ輸送、カプセル封入細胞輸送、リポソーム輸送、針による注入、針なし注入、ネブライザー、エアロゾル法、エレクトロポレーション、および経皮パッチなどのデリバリーシステムによってα−Gal A調製物を体内に輸送することができる。上述の任意のα−Gal A調製物をこれらの方法によって投与することが可能である。
【0035】
ファブリー病に罹患していると考えられる、または罹患していることがわかっている患者は、上述のα−Gal A調製物を上述の投与法および投与量に従って投与することによって治療することができる。本発明は、一般的なファブリー病に罹患している患者(「ファブリー病患者」)に加えて、主に心血管に異常をきたしている特殊なファブリー病患者(本明細書においては、左心室肥大(LVH)などの心室肥大および/もしくは僧帽弁不全を呈しているファブリー病患者と定義する)、または主に腎不全を併発しているファブリー病患者などのようなファブリー病の異型変種に罹患している患者を治療することを包含する。
【0036】
α−Gal Aは、糖脂質および糖タンパク質から末端のα−ガラクトシル基を加水分解するホモダイマー糖タンパク質である。
【0037】
成熟「α−Gal A」および「GA−GAL」および「配列番号5」(図7参照)とは、シグナルペプチドを有しないα−Gal Aをさす(シグナルペプチドを有するα−Gal Aに関しては、図3および配列番号3を参照)。本明細書において使用している「α−Gal A調製物」とは、「グリコシル化α−Gal A調製物」と相互に入れ換えて使用することができ、グリコシル化された多様なα−Gal Aグリコフォームを含む。
【0038】
「シグナルペプチド」とは、新規に合成されたポリペプチドを指図するペプチド配列であり、シグナルペプチドが小胞体(ER)に結合することにより、さらに翻訳後処理および分布が行われる。
【0039】
α−Gal Aに関して本明細書において用いられている「異種シグナルペプチド」とは、ヒトα−Gal Aシグナルペプチドではなく、一般的には、α−Gal A以外のある種の哺乳類タンパク質のシグナルペプチドをさす。
【0040】
当業者であれば、ヒトα−Gal AのDNA配列(cDNA(配列番号5)またはゲノム性DNA)、またはサイレントなコドンの変化もしくはアミノ酸の保存性置換を生じるようなコドンの変化によってヒトα−Gal AのDNAとは相異している配列を用いることにより、培養ヒト細胞の遺伝子を変化させることができ、それによって細胞が酵素を過剰発現し、分泌する。α−Gal AのDNA配列におけるある種の突然変異は、α−Gal A酵素の活性を保持する、または高めるポリペプチドをコードしている。例えば、生物学的活性にほとんどまたは全く影響を与えないようにアミノ酸を保存性置換しようとする場合には、置換はタンパク質中の総残基数の10%未満である。一般的には、アミノ酸の保存性置換としては、次のような群内における置換などが挙げられる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;フェニルアラニン、チロシン。例えば、米国特許第5,356,804号を参照のこと。この特許の内容を参照として本明細書中に取り入れておく。
【0041】
ファブリー病
ファブリー病は、α−Gal Aの活性不全によって引き起こされる遺伝子疾患である。「α−Gal A欠乏症」とは、患者の体内におけるこの酵素の量的または活性に関する任意の欠乏状態を意味し、血管壁内の組織球における中性糖脂質(例えば、グロボトリアシルセラミドなど)の異常蓄積を起こし、太腿、臀部および生殖器における角化血管腫、発汗減少症、四肢の感覚異常、角膜の輪生、ならびにスポーク様後部水晶嚢下白内障を伴う。この物質が沈着することにより、痛み、重篤な腎および心血管疾患、ならびに卒中を引き起こす。糖脂質が蓄積することにより、ファブリー病を患っている男性において一般的に観察されるような重篤な症状が誘発される場合がある。別の場合には、糖脂質が蓄積することにより、欠損遺伝子をヘテロ接合体として有する女性において時折観察されるような比較的緩和な症状が誘発される場合がある。罹病患者は寿命が非常に縮まり、腎臓、心臓または脳血管の合併症により、ほぼ40才で死に至る。本疾患に対する特異的な治療は存在しない。リソソーム貯留性疾患として分類されるファブリー病は全世界において15,000人以上の患者が存在する。
【0042】
上記のように定義されるファブリー病は、多臓器および多系統におよぶ複雑な臨床症状を示す。角膜ジストロフィー、皮膚損傷(血管角質化)、痛みを伴う末梢血管障害、脳血管疾患、心筋障害および腎不全を複合して呈している患者は「古典的な」表現型を示している患者として分類される。しかしながら、古典的な表現型のすべてではなく一部のみを示す患者が存在する。そのような患者は、「ファブリー病の異型変異種」として分類される。α−ガラクトシダーゼA欠乏症が関連している異型変異種にはいくつかの型が存在する。例えば、α−ガラクトシダーゼAが欠乏している患者の一部は、心疾患(例えば、左心室肥大(LVH)など)のみを示すファブリー病の変種に罹患している。腎疾患のみを示す別の変種表現型も存在する。これらの変種表現型は男性のヘミ接合体として定義されているが、女性のヘミ接合体においてもファブリー病の変種が確認されている。
【0043】
一般的に、心変異型変種を示す患者は、後年、症候性疾患を発症する。心変種表現型を呈する患者の平均発症年齢は約52才であり、古典的表現型においては約29才である(デスニック(Desnick)ら、「遺伝病の代謝的および分子的基礎(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease)第6版」(1996年)より、スクリヴァー(Scriver)ら(編)、マグロウヒル(McGraw-Hill)社、ニューヨーク、pp.2741-2784;マイクル(Meikle)ら、J. Am. Med. Assoc. 281: 249-254(1999)。この症候群を有する患者は、運動性呼吸困難などの把握しがたい心不全の症状を呈することが多い。通常、標準的な超音波心検査分析によって明らかになることは、心変種表現型を有する患者が左心室肥大(LVH)または非対称性心室中隔肥大を示していることである。しかしながら、そのような患者は心筋梗塞または心筋障害をも有している可能性がある(シード(Scheidt)ら、New Engl. J. Med. 324: 395-399(1991);ナカオ(Nakao)ら、New Engl. J. Med. 333: 288-293(1995))。これらの患者については、しばしば心筋生検を行い、変種症候群の病理は、基本的には古典的なファブリー病と同様であり、蓄積している糖脂質が心筋に浸潤している。このような患者に対し、α−ガラクトシダーゼA酵素アッセイを行ったところ、酵素レベルが多岐にわたっていることが明らかになった。例えば、心変種患者においては、α−ガラクトシダーゼA酵素の活性が正常レベルよりも30%亢進していることが報告されており、従って、これまでは、α−GalA置換療法の治療対象ではないと考えられてきた。
【0044】
変異型心変種または変異型腎変種の患者はα−ガラクトシダーゼA酵素活性レベルを有しており、そのレベルは古典的なファブリー病の表現型を呈する患者のそれよりも高いにもかかわらず、これらの患者においてもα−ガラクトシダーゼA酵素療法によって治療効果を上げることができることを図らずも見出した。例えば、患者が、細胞内において反応速度論的に不安定なα−GalA酵素を産生するような突然変異を有する場合があり、さらに、そのような患者においては、本発明に従うα−GalA酵素調製物を投与することによってα−GalA酵素レベルを顕著に増大させることができる。また、変異型心変種表現型を呈する患者の中には、α−ガラクトシダーゼAの215番目のアミノ酸において点突然変異を起こしていることが報告されている。突然変異を起こしていないタンパク質中のこのアミノ酸は、グリコシル化されたアスパラギンである(イング(Eng)ら、Am. J. Hum. Genet. 53: 1186-1197(1993))。従って、本発明に従う正しくグリコシル化されたα−ガラクトシダーゼA調製物を用いてα−GalA酵素置換療法を行うことは、このような患者に対して有効である。さらにまた、変異型腎変種を呈する患者においては、ファブリー病の臨床症状として表れてくる症状が軽微なタンパク尿のみであることが報告されている。しかしながら、腎生検を行うことにより、ファブリー病に典型的な糖脂質の貯留が明らかになり、α−GalA酵素アッセイにより、α−GalAのレベルが正常より低いことが明らかになった。しかし、このような患者から得た尿沈渣中の落屑した腎管状細胞内において、腎内に貯留していたトリヘキソシルセラミドが検出される場合があることから、本発明のα−GalA調製物を投与することにより、これらのレベルを実質的に低下させることができる。α−GalAなどのリソソーム酵素は、マンノース−6−ホスフェート(M6P)レセプターとの相互作用を介して、細胞のリソソーム内に運ばれるが、このとき、M6Pレセプターは、リソソームに取り込まれることが定められている酵素のオリゴ糖部位に存在するM6P残基に結合する。コーンフェルド(Kornfeld)およびメルマン(Mellman)、Ann. Rev. Cell Biol. 5: 485-525(1989)。一次相互作用はゴルジ体で生じ、ここで、ゴルジ体のM6Pレセプターに結合した酵素は、リソソームへの輸送のために切り離される。二次相互作用は、細胞外のα−GalA酵素と細胞表面のM6Pレセプターとの間で生じると考えられている。定められた系から逸脱したα−ガラクトシダーゼA酵素は、構造的な分泌経路を介して細胞によって分泌され、さらに、細胞表面のM6Pレセプターによって再捕獲されることが多く、細胞内経路を介してリソソームに戻される。細胞によって取り込まれた細胞外物質は、細胞内小胞中の細胞質を介して輸送され、このとき、細胞内小胞は一次リソソームと融合し、その内容物をリソソーム内に移す。この過程において、細胞表面のM6Pレセプターも細胞内小胞に取り込まれ、リソソームに輸送される。特に、本発明に従う高度にシアリル化および/またはリン酸化されたα−GalA調製物は、異型変種ファブリー病に罹患している患者の治療に好ましい。例えば、そのような調製物は、肝細胞によって除去される注入α−GalAの量を最小限に抑え、肝以外の細胞(腎細胞、血管細胞、管状細胞、糸球体細胞、心筋および心血管細胞など)によるα−GalAの取り込みレベルを高める。
【0045】
M6P残基を有する細胞外α−GalAは細胞表面のM6Pレセプターに結合することができ、リソソーム内に輸送される。一度リソソーム内に入ると、α−GalAは適切な機能を発揮することができる。リソソーム酵素輸送がこのような側面を有することから、α−ガラクトシダーゼA酵素置換療法はファブリー病患者に対する実行可能な治療法であると考えられる。従って、細胞におけるα−GalAの産生が遺伝的に欠損していても、α−GalAが適切にグリコシル化されており、欠損細胞がM6Pレセプターを有する場合には、細胞は細胞外α−GalAを取り込むことができる。ファブリー病の患者においては、腎臓および心臓の血管内皮細胞は、重篤な組織病原性異常を呈しており、また、本疾病の臨床病理に関与している。M6Pレセプターを有するこれらの細胞は、特に、α−GalAの治療標的である。本発明の目的は、N結合したオリゴ糖内にM6Pが存在するα−GalA調製物を提供することである。
【0046】
α−GalAのN結合オリゴ糖をシアリル化によって変形する割合により、α−GalAの薬物動態および生体分布に実質的な影響が現れる。シアリル化が適切に行われなかった場合には、α−GalAは肝のアシアロ糖タンパク質レセプター(アッシュウェル(Ashwell)レセプター)に結合することによって迅速に循環系から消失し、続いて肝細胞による取り込みおよび分解が行われる。アッシュウェル(Ashwell)およびハーフォード(Harford)、Ann. Rev. Biochem. 51: 531-554(1982)。このことにより、ファブリー病の臨床病理に関与している細胞(例えば、腎臓および心臓の血管内皮細胞など)上のM6Pレセプターに結合するための循環α−GalA量が減少する。遺伝子改変されたヒト細胞によって分泌されたα−GalAはグリコシル化されているという特性を有しており、このことは、リソソーム酵素であるグリコセレブロシダーゼの場合に要求されるようなさらなる酵素の変形を必要とせず、精製分泌タンパク質を従来型の薬剤学的方法で投与することによる、または遺伝子治療によるファブリー病の治療に適しており、一方、精製グリコセレブロシダーゼが臨床的に関連する細胞に取り込まれるためには、ヒト胎盤からの精製に続いて、複雑な酵素の変形が必要である。ブートラー(Beutler)、New Engl. J. Med. 325: 1354-1360(1990)。
【0047】
α−GalAの産生に適した細胞
ファブリー病などのα−GalA欠乏症が疑われる患者は、培養された遺伝子改変細胞(好ましくはヒト細胞)から得た精製ヒトα−GalAを用いて治療することができる。
【0048】
ファブリー病治療を目的として細胞の遺伝子を改変する場合には、従来から行われている遺伝子操作法または遺伝子活性化によって細胞を改変することができる。
【0049】
従来法に従えば、α−GalA cDNAまたはゲノム性DNA配列を含むDNA分子を発現構築体の中に組み込み、標準的な方法によって一次、二次または不動化細胞内にトランスフェクトする。標準的な方法としては、リポソーム−、ポリブレン−もしくはDEAEデキストランを介するトランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降法、マイクロインジェクション、または速度によるマイクロプロジェクティル(verocity driven microprojectile)(「バイオリスティックス(biolistics)」)(例えば、共出願中のUSSN 08/334,797などを参照。参考として本明細書中に取り入れておく)などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。別の方法としては、ウイルスベクターによって遺伝子情報を輸送する系を利用することができる。遺伝子輸送に有用であることが既知となっているウイルスとしては、アデノウイルス類、アデノ関連ウイルス、へルペスウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ポリオウイルス、レトロウイルス類、シンドビスウイルス、およびワクシニアウイルス(カナリアポックスウイルスなど)などが挙げられる。
【0050】
別の方法としては、遺伝子活性化(「GA」)法を用いて細胞を活性化することができ、そのような方法は、米国特許第5,733,761号および5,750,376号に記載されているものなどが挙げられ、これらを参考として本明細書中に取り入れておく。本明細書においては、遺伝子活性化によって調製されたα−GalAをGA−GALと称する。
【0051】
従って、本明細書において使用しているように、細胞に関して「遺伝子改変された」とは、遺伝子産物をコードしているDNA分子および/または遺伝子産物をコードしている配列の発現を制御する制御因子を導入したことにより、特定の遺伝子産物を発現する細胞を包含する。DNA分子は、遺伝子ターゲッティング、または相同的組換え、すなわち、特定の遺伝子位置にDNA分子を導入する、ことによって導入することができる。相同的組換えを行うことにより、欠損遺伝子そのものを置換することができる(ファブリー病患者の欠損α−GalA遺伝子またはその一部について、患者自身の細胞内で全遺伝子またはそれらの一部を置換することができる)。
【0052】
本明細書において使用している「一次細胞」とは、脊椎動物の組織から単離された細胞の懸濁物中に存在する(播種、すなわち、培養皿またはフラスコなどの組織培養基質に付着させる前の)細胞、組織から採取した体外移植用組織内に存在する細胞、最初に播種したそれらの細胞、ならびに播種したそれらの細胞由来の細胞懸濁物を含む。
【0053】
「二次細胞」とは、培養においてすべての継続段階にある細胞をさす。すなわち、播種した一次細胞を培養基質から初めて回収し、再播種(継代)したものを二次細胞と呼び、続いて行う継代におけるすべての細胞も二次細胞と呼ぶ。
【0054】
「細胞株」とは、1回またはそれ以上継代された二次細胞から構成され、それらは、培養における細胞数倍加の平均値が有限数を示し、接触障害特性および足場依存性増殖特性(懸濁培養において増殖させた細胞を除く)を示し、さらに、永久増殖しない。
【0055】
「永久増殖細胞」とは、培養において寿命が明らかに無限である確立された細胞系に由来する細胞を意味する。
【0056】
一次細胞および二次細胞の例としては、繊維芽細胞、乳腺および腸上皮細胞を含む上皮細胞、内皮細胞、リンパ球および骨髄細胞を含む血液構成要素、グリア細胞、肝細胞、角化細胞(ケラチノサイト)、筋肉細胞、神経細胞またはこれらの細胞の前駆細胞が挙げられる。本発明に従う方法において有用なヒト永久増殖細胞系の例としては、ボウズ(Bowes)メラノーマ細胞(ATCCアクセッション番号CRL9607)、ダウディ(Daudi)細胞(ATCCアクセッション番号CCL213)、ヒーラ(HeLa)細胞およびヒーラ(HeLa)細胞の誘導細胞(ATCCアクセッション番号CCL2、CCL2.1およびCCL2.2)、HL-60細胞(ATCCアクセッション番号CCL240)、HT-1080細胞(ATCCアクセッション番号CCL121)、ユルカ(Jurka)細胞(ATCCアクセッション番号TIB152)、KB癌細胞(ATCCアクセッション番号CCL17)、K-562白血病細胞(ATCCアクセッション番号CCL243)、MCF-7乳癌細胞(ATCCアクセッション番号BTH22)、MOLT-4細胞(ATCCアクセッション番号1582)、ナマルヴァ(Namalwa)細胞(ATCCアクセッション番号CRL1432)、ラジ(RaJi)細胞(ATCCアクセッション番号CCL86)、RPMI8226細胞(ATCCアクセッション番号CCL155)、U-937細胞(ATCCアクセッション番号CRL1593)、WI-38VA13サブ系統2R4細胞(ATCCアクセッション番号CLL75.1)、CCRF-CEM細胞(ATCCアクセッション番号CCL119)および2780AD鳥類癌細胞(ヴァン・デル・ブリック(Van der Blick)ら、Cancer Res., 48: 5927-5932, 1988) ならびにヒト細胞とその他の種の細胞との融合によって産生された異種ハイブリドーマ細胞などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0057】
ヒト細胞の遺伝子を改変してα−GalAを分泌する細胞を産生する技術に従うことにより、遺伝的に同一の培養一次ヒト細胞(このとき、該細胞は永久増殖細胞である)の集団から基本的に構成されるクローン細胞系、または、遺伝的に同一の永久増殖ヒト細胞の集団から基本的に構成されるクローン細胞系を調製することができる。ひとつの実施態様においては、クローン細胞株またはクローン細胞系の細胞は繊維芽細胞である。好ましい実施態様においては、細胞はBRS-11細胞などのようなヒトの二次繊維芽細胞である。
【0058】
遺伝子操作を行った後、細胞がα−GalAを分泌するような条件下において細胞を培養する。細胞を増殖させた培地を回収し、および/または細胞を溶解して内容物を放出させ、次に、タンパク質精製技術を用いることによって培養細胞からタンパク質を単離する。
【0059】
安定的に形質転換された細胞のコンディションドメディウムからのα−GalAの精製
本発明の方法に従い、細胞(「α−GalA産生細胞」)を増殖させた培地を回収し、または細胞を溶解して内容物を放出させ、次に、レクチンアフィニティークロマトグラフィーを用いないタンパク精製技術に付すことにより、培養細胞からα−GalAタンパク質を単離した。好ましい精製過程については、以下の実施例2に概説している。
【0060】
ソース・イソ(Source Iso)(ファルマシア( Pharmacia )社)、マクロ−プレップメチルサポート(Macro-Prep(登録商標) Methyl Support)(バイオラド( Bio-Rad )社)、TSKブチルセファロース(トソハース(Tosohaas)社)またはフェニルセファロース(ファルマシア( Pharmacia )社)などのその他の疎水性相互作用樹脂を用いてα−GalAを精製することもできる。カラムは、比較的高塩濃度(例えば、1Mのアンモニウムスルフェートまたは2Mの塩化ナトリウムなど)(pH5.6の緩衝液中))で平衡化することができる。精製すべきサンプルは、平衡緩衝液のpHおよび塩濃度に合わせて調整する。サンプルをカラムに導入し、平衡緩衝液でカラムを洗浄することによって非結合材料を除去する。イオン強度の低い緩衝液、水または水に有機溶媒を加えたもの(例えば、20%のエタノールまたは50%のプロピレングリコールなど)を用いてカラムからα−GalAを溶出させる。別の方法としては、平衡緩衝液およびサンプル中の塩濃度が低い溶液を用いることにより、またはpHの異なる溶液を用いることにより、カラムからα−GalAを溶出させることができる。α−GalAを含むサンプルのうち、カラムに結合しなかったものを精製することにより、他のタンパク質がカラムに結合することがある。精製の第一段階として好ましいのは、ヒドロキシアパタイトカラムを用いることである。
【0061】
別の精製法としては、SPセファロース6・ファストフロー(SP Sepharose6Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社)、ソース30S(Source 30S)(ファルマシア( Pharmacia )社)、CMセファロース・ファストフロー(CM Sepharose Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社)、マクロ−プレップCMサポート(Macro-Prep CM Support)(バイオラド( Bio-Rad )社)またはマクロ−プレップハイSサポート(Macro-Prep High S Support)(バイオラド( Bio-Rad )社)などの陽イオン交換樹脂を用いてα−GalAを精製することができる。「第一段階のクロマトグラフィー」とは、サンプルを初めてクロマトグラフィーカラムに導入することをさす(サンプルの調製に伴うすべての段階を除く)。α−GalAは、pH4.4でカラムに結合することができる。10mMの酢酸ナトリウム(pH4.4)、10mMのクエン酸ナトリウム(pH4.4)などの緩衝液、またはpH約4.4で十分な緩衝能力を有するその他の緩衝液を用いてカラムを平衡化することができる。精製すべきサンプルは、平衡緩衝液のpHおよびイオン強度に合わせて調整する。サンプルをカラムに導入し、その後、カラムを洗浄することによって未結合材料を除去する。塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどの塩を用いてカラムからα−GalAを溶出させることができる。別の方法としては、pHの高い緩衝液、または塩濃度の高さおよびpHの高さを組み合わせた緩衝液を用いることにより、カラムからα−GalAを溶出させることができる。平衡緩衝液およびサンプル中の塩濃度を上昇させる、カラムのpHを上昇させる、または、塩濃度およびpHの上昇を組み合わせることによってカラムからα−GalAを溶出させることもできる。
【0062】
別の精製段階においては、α−GalAの精製用にQセファロース6・ファストフロー(Q Sepharose6Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社)を用いることができる。Qセファロース6・ファストフロー(Q Sepharose6Fast Flow)は比較的強い陽イオン交換樹脂である。DEAEセファロース・ファストフロー(SP Sepharose6Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社)またはマクロ−プレップDEAB(Macro-Prep DEAB)(バイオラド( Bio-Rad )社)などのような弱い陽イオン交換樹脂を用いてα−GalAを精製することもできる。カラムは、pH6の10mMのナトリウムホスフェートなどのような緩衝液で平衡化する。サンプルのpHを6に調整し、サンプルを希釈またはダイアフィルトレーション(diafiltration)することによってイオン強度を下げる。α−GalAがカラムに結合するような条件下において、サンプルをカラムに導入する。平衡緩衝液を用いてカラムを洗浄し、未結合材料を除去する。塩化ナトリウムもしくは塩化カリウムなどの塩を加える、またはpHの低い緩衝液を加える、あるいは塩濃度の上昇とpHの低下とを組み合わせることによってα−GalAを溶出させる。カラムに導入する緩衝液中の塩濃度を徐々に上昇させていく、もしくは低いpHの緩衝液をカラムに流す、または塩濃度の上昇とpHの低下とを組み合わせることによってα−GalAをカラムから溶出させることもできる。
【0063】
別の精製段階においては、α−GalAの精製用にスーパーデックス200(Superdex(登録商標)200)(ファルマシア( Pharmacia )社)分子ふるいクロマトグラフィーを用いることができる。
【0064】
セファクリルS-200 HR(Sephacryl(登録商標)S-200 HR)またはバイオ−ゲルA-1.5m(Bio-Gel(登録商標) A-1.5m)などのようなその他の分子ふるいクロマトグラフィーを用いてα−GalAを精製することもできる。分子ふるいクロマトグラフィーに好ましい緩衝液は、0.15Mの塩化ナトリウムを含む25mMのナトリウムホスフェート(pH6)である。その他の相溶性の緩衝液(例えば、10mMのクエン酸ナトリウムまたはクエン酸カリウムなど)も用いることができる。緩衝液のpHは5〜7であり、塩(例えば、塩化ナトリウムまたは塩化ナトリウムと塩化カリウムの混合物など)を含んでいなければならない。
【0065】
別の精製段階においては、α−GalAの精製用にポリバッファー・イクスチェンジャーPBE94(Polybuffer Exchanger PBE94)(ファルマシア( Pharmacia )社)などのようなクロマトフォーカシング樹脂(chromatofocusing resin)を用いることができる。比較的高いpH(例えば、pH7またはそれ以上)でカラムを平衡化し、被精製サンプルのpHを同じpHに調整し、サンプルをカラムに導入する。pH4に調整してあるポリバッファー74(Polybuffer 74)(ファルマシア( Pharmacia )社などのような緩衝液系を用い、pHを段階的に4程度まで低下させることによってタンパク質を溶出させる。
【0066】
別の方法としては、イムノアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いてα−GalAを精製することができる。α−GalAに対する適切なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体(α−GalAまたは標準的な技術を用いてα−GalA配列から調製されたペプチドを用いて免疫することによって産生したもの)を活性化カップリング樹脂(例えば、NHS-活性化セファロース4・ファストフロー(NHS-activated Sepharose4 Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社またはCNBr-活性化セファロース4・ファストフロー(CNBr-activated Sepharose4 Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社)など)に固定することができる。pHが約6または7の条件下において、被精製サンプルを固定化抗体カラムに導入することができる。カラムを洗浄して未結合材料を除去する。α−GalAは、アフィニティーカラムからの溶出に使用する一般的な試薬である、低pH(例えば、pH3など)、変性剤(例えば、塩酸グアニジンまたはチオシアナートなど)または有機溶媒(例えば、50%のプロピレングリコール(pH6の緩衝液中)など)を用いてカラムから溶出させる。精製過程においてキレーティング・セファロース・ファストフロー(Chelating Sepharose Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社)などの金属キレートアフィニティー樹脂を用いてα−GalAを精製することもできる。カラムにはCu2+、Zn2+、Ca2+、Mg2+またはCd2+などのような金属イオンを予め荷電させておく。適切なpH(6〜7.5)において被精製サンプルをカラムに導入し、カラムを洗浄して未結合タンパク質を除去する。結合タンパク質は、イミダゾールまたはヒスチジンとの競合溶出、クエン酸ナトリウムもしくは酢酸ナトリウムを用いてpHを6以下に下げる、あるいはEDTAもしくはEGTAなどのキレート剤を導入することによって溶出させる。
【0067】
以下のプロトコールに従うことにより、本発明は、従来技術によって調製されたα−GalA調製物よりも純度が高い調製物を提供し、SDS-PAGEまたは逆相HPLCによって測定したその均質性は、少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは99.5%である。本発明に従うα−GalA調製物は、多数のα−GalAグリコフォームを含んでいる可能性がある。従って、本明細書において使用している「均質性(homogeneity)」という語は、α−GalA調製物に関しては、α−GalA以外のタンパク質を実質的に含まない(総タンパク質の2%未満)調製物をさす。α−GalAタンパク質でないタンパク質の例としては、アルブミン、宿主細胞によって産生された非α−GalAタンパク質、動物の組織または体液から単離された非α−GalAタンパク質などが挙げられる。本発明に従うα−GalA調製物の比活性は、好ましくはタンパク質1mgあたり少なくとも2.0×106ユニット、より好ましくはタンパク質1mgあたり少なくとも3.0×106ユニット、最も好ましくはタンパク質1mgあたり少なくとも3.5×106ユニットである。
【0068】
グリカンを再編成してオリゴ糖の電荷を高めることによってα−GalA調製物の循環半減期を延長する
本発明は、肝臓およびマクロファージ以外の特定の組織において治療用酵素の取り込みを増加させるための糖タンパク質変形プログラムを提供する。本発明に従う方法を用いることによってグリコシル化ヒトα−GalA調製物が得られ、このとき、オリゴ糖の35〜85%が電荷を帯びており、好ましくは、少なくともオリゴ糖の50%が電荷を帯びている。
【0069】
タンパク質のN−グリコシル化は、オリゴ糖構造を有するタンパク質内の適切なアスパラギン残基を修飾することによって行い、その特性および生物活性に影響を及ぼす。ククルズィンスカ(Kukuruzinska)およびレノン(Lennon)、Crit. Rev. Oral. Biol. Med., 9: 415-448(1998)。本発明は、単離されたα−GalA調製物を提供し、ここで、該調製物は、基本的には、コンプレックスグリカン上に1〜4個のシアル酸が付加する、もしくはマンノース含有量の高いグリカン上に1〜2個のホスフェート部位が付加する、またはハイブリッドグリカン上に1個のホスフェートと1個のシアル酸とが付加することにより、大部分のオリゴ糖が負の電荷を帯びている。スルフェート化されたコンプレックスグリカンも少量存在する。荷電構造の割合が高いことにより、2つの主要な機能が発揮される。第一の機能は、2,3−または2,6−結合シアル酸によって最後から2番目のガラクトース残基をキャッピングし、肝細胞表面に存在するアシアロ糖タンパク質レセプターによって未熟な状態で循環から排除されることを防ぐことである。このレセプターは末端にガラクトース残基を有する糖タンパク質を認識する。α−GalAの循環半減期が延長されることにより、酵素注入後、心臓および腎臓などのような重要な標的臓器において、プラズマからより多量の酵素を細胞内に取り込む機会が与えられることになる。第二の機能は、マンノース含有量が多いグリカンまたはハイブリッドグリカン上にMan-6−ホスフェートが存在することにより、陽イオンに依存しないレセプター(CI-MPR)によるレセプター介在型取り込みの機会が与えられることである。このレセプター介在型取り込みは、血管内皮細胞を含む多くの細胞表面上において行われるが、血管内皮細胞はファブリー病患者におけるCTHの主要貯蔵部位である。Man-6−ホスフェート残基を2個有する酵素分子は、Man-6−ホスフェートを1個しか有しない酵素よりもCI-MPRに対する親和性が非常に大きい。代表的なグリカン構造を表1に示す。
【表1】

【0070】
N−糖タンパク質の生合成には多数の酵素、グリコトランスフェラーゼ類およびグリコシダーゼ類が関与している。小胞体(ER)およびゴルジ体においては、これらの酵素の大部分は順序通りに非常に調和のとれた様式で機能する。N−グリコシル化の複雑性は、同一ポリペプチド内の異なるアスパラギン残基が異なるオリゴ糖構造によって修飾され得る、および、炭化水素部位の性質によって多様なタンパク質を互いに区別できる、という事実によって議論されている。近年、分子遺伝学が進歩していることにより、N−グリコシル化遺伝子の確認、単離および特性付けが進展している。その結果、N-グリコシル化とその他の細胞性作用との間の関係に基づく情報が明らかになってきた。
【0071】
細胞内におけるN-結合糖タンパク質のプロセシングは、GlERの内腔に存在する発生期のペプチド上のアクセプターアスパラギンにc3Man9GlcNAc2を有するオリゴ糖鎖がひとつのユニットとして結合することによって開始する。Glc3Man9GlcNAc2を含む14個の糖から構成されるオリゴ糖鎖は、非常に長い脂肪族アルコールであるドリコール上に形成される。
【化1】

【0072】
このオリゴ糖は、ERの内腔内に存在する発生期のペプチド鎖上のアクセプターアスパラギン残基に1個のユニットとして転移される。ペプチドと比較してサイズが大きいグリカンは、タンパク質の折りたたみを誘導すると考えられる。3個のグルコース残基は、オリゴ糖の合成が完了し、オリゴ糖トランスフェラーゼ(oligosaccharyl transferase)による転移の準備ができていることのシグナルとして作用する。この酵素はグルコシル化されていないオリゴ糖の転移をも行う酵素であるが、そのようなオリゴ糖は最適基質ではないため、合成が完了しているオリゴ糖鎖と比較すると、非常に遅い速度でしか転移されない。ヒトにおける、ある型の炭化水素欠失型の糖タンパク質症候群は、ドリコール−P−Glc:Man9GlcNAc2−PP−ドリコールグルコシルトランスフェラーゼの欠乏が原因となって生じることが示されており、該酵素は、グルコース添加経路における最初の酵素であり、欠乏により、血清タンパク質のグリコシル化が不十分になる。コーナー(Korner)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 13200-13205(1998)。3個のグルコース残基を除去し、コンホメーションを修正した後、新規に合成された糖タンパク質がゴルジ体に運び出される。タンパク質の折りたたみが行われた後、グリカンがゴルジ体のマンノシダーゼ類に接近する能力に応じて、グリカン鎖は5〜9個のマンノース残基から構成される高マンノース鎖として存在する。別の場合には、グリカン鎖はさらに処理されてトリマンノースコアになり、他のグリコシルトランスフェラーゼのためのアクセプターになるが、このとき、該グリコシルトランスフェラーゼは、さらなるGlcNac残基、続いてGal、NeuAcおよびFucを付加することによってコンプレックス鎖を形成する作用を有する。第三の可能性としては、タンパク質が2個のリジン残基を正確に34Å離れた位置に有しており、高マンノース鎖との正しい空間的関係を保っている場合には、マンノース残基の1個または時には2個において、6番の炭素上にGlcNacα−1−PO4を付加することである。クォッツォ(Cuozzo)ら、J. Biol. Chem. 273: 21069-21076(1998)。特定の酵素を用いてα結合しているGlcNacを除去することにより、末端のM6Pエピトープが形成され、これは、トランスゴルジネットワーク内のM6Pレセプターによって認識され、次に、これらの酵素は、間葉を起源とするの細胞内のリソソームを標的にする。
【0073】
α−GalAができる限り多数の別異の組織を標的にするためには、多数の異なる炭化水素構造(グリコフォーム)が有用である。マツウラ(Matsuura)らは、CHO細胞内において産生されたヒトα−GalA上のグリカン構造は、高マンノースグリカンが41%であり、ホスホリル化レベルは24%であったことを報告している(Glycobiology 8: 329-339(1998))。しかしながら、シアリル化されたコンプレックスグリカンのレベルはわずか11%であった。従って、コンプレックス鎖の2/3はシアリル化されておらず、これにより、α−GalAは肝臓によって迅速に排出される。本発明に従い、ヒト細胞内で産生されたα−GalAは、従来技術に従ってCHO細胞内で産生されたα−GalAよりも荷電オリゴ糖の割合が高い。例えば、本明細書に記載しているHT-1080細胞において合成されたα−GalAは特に好ましいが、これは、HT-1080細胞において合成されたα−GalAは約15%の中性構造(高マンノース型およびハイブリッド型)、約16%のホスホリル化グリカン、および約67%のコンプレックスグリカン(2〜4個のシアル酸残基を有する)を含むからである。従って、CHO細胞内において産生されたα−GalAと比較すると、本発明に従うα−GalAは、基本的にすべてのコンプレックス鎖がシアリル化されている。HT-1080細胞において合成されたα−GalAは、N−結合グリコシル化部位を3個有する。2個については、ゴルジ体においてコンプレックスグリカンになり、3番目の部位は高マンノースグリカンが結合し、そのうちの50%はリソソーム酵素特異的ホスホリル化によって変形され、モノホスホリル化体およびジホスホリル化体になる。
【0074】
N−結合グリカン鎖を含むタンパク質の炭化水素リモデリングに関しては4つの方法がある。第一の方法は、精製過程において、グリコフォームの選択的単離を行うことにより、荷電α−GalAの割合を高めることができる。本発明は、精製過程の途中および/または後に、カラムクロマトグラフィー樹脂を用いてα−GalAを分画することにより、高荷電α−GalAおよび高分子量α−GalAの割合を高めることができる。さらに高い電荷を帯びているα−GalAのグリコフォーム型は、さらに多くのシアル酸および/またはさらに多くのホスフェートを有しており、より分子量が大きいグリコフォーム型は、十分にグリコシル化され、最も分岐が発達し、非常に高い電荷を帯びた型をも含む。α−GalAの中から電荷を帯びた型を選択すること、あるいは、非グリコシル化型、あまりグリコシル化されていない型、またはあまりシアル化されていないおよび/もしくはホスホリル化されていない型を排除することにより、シアル酸および/またはホスフェートがより多いα−GalAグリコフォームの集団が形成されることになり、故に、半減期がより長く、かつ治療効果の高いα−GalA調製物が提供される。
【0075】
この分画過程は、α−GalAを精製または単離する際に使用する適切なクロマトグラフィーカラム用樹脂上において生じるが、この場合に限定されるわけではない。例えば、陽イオン交換樹脂(SP-セファロース(SP-Sepharose)など)、陰イオン交換樹脂(Q-セファロース(Q-Sepharose)など)、アフィニティー樹脂(ヘパリンセファロース(Heparin Sepharose)、レクチンカラムなど)、分子ふるいカラム(スーパーデックス200(Superdex 200)など)および疎水性相互作用カラム(ブチルセファロース(Butyl Sepharose)など)ならびに当該分野において既知のその他のクロマトグラフィーカラム用樹脂上において分画が起こるが、このような場合に限定されるわけではない。
【0076】
α−GalAは、分子量および電荷が異なるグリコフォームの異種混合物として細胞内で産生されるため、クロマトグラフィー樹脂からのα−GalAの溶出は比較的幅広いピークを描く。これらの溶出中においては、使用した樹脂の性質に従い、グリコフォームは特定の順序で分布する。例えば、分子ふるいクロマトグラフィーの場合には、最も大きなグリコフォームが小さなグリコフォームよりも溶出プロファイルの初期に溶出する傾向がある。
【0077】
イオン交換クロマトグラフィーの場合には、負の電荷が最も高いグリコフォームは、負の電荷があまり高くないグリコフォームよりも高いアフィニティーを以て正の電荷を帯びた樹脂(Q-セファロース(Q-Sepharose)など)に結合する傾向を有し、故に、溶出プロファイルの後期に溶出する傾向がある。対照的に、これらの負の電荷が高いグリコフォームは、負の電荷があまり高くないものと比較すると、負の電荷を帯びた樹脂(SP-セファロース(SP-Sepharose)など)に対する結合は弱い、または全く結合しない。
【0078】
クロマトグラフィー用樹脂上におけるグリコフォーム型の分画は、pH、イオン強度、緩衝塩の選択、粘度および/または樹脂タイプの選択などのその他のパラメーターによって影響を受ける。多種類の濃度勾配溶出法(直線勾配系、指数曲線などの曲線勾配系など)の利用、または短時間溶出を連続する方法の利用によってクロマトグラフィーカラムからα−GalAを選択することにより、α−GalAの分画を最大限にすることもできる。これらすべての因子を単独または組み合わせることにより、グリコフォームの効率的な分画を行うことができる。所望するグリコフォーム型の分画および選択に特に適した特定のクロマトグラフィー樹脂を用いることにより、精製過程の終了後に分画を行うこともできる。
【0079】
溶出後のα−GalAグリコフォームの分析を行った後に、分画したα−GalAからグリコフォーム型を選択することもできる。溶出ピークは、SDS-PAGE、等電点電気泳動、キャピラリー電気泳動、分析用イオン交換HPLCおよび/または分析用分子ふるいHPLCなどの多様な技術を用いて分析することができるが、これらの方法に限定されるわけではない。所望する大きさまたは電荷プロファイルに関して、特定のフラクションを選択することができる。クロマトグラフィー過程において所望するグリコフォーム型を段階的に溶出させることにより、すべての段階において選択を行うことができ、または、ある段階における分画の効率が高い場合には、選択はそのような特定の段階に限定して行うことができる。所望するグリコフォーム型の分画および選択に特に適した特定のクロマトグラフィー樹脂を用いることにより、精製過程の終了後に分画を行うこともできる。
【0080】
高荷電および/または高分子量のグリコフォームを有するα−GalAの分画および選択は、任意のα−GalA調製物に関して行うことができ、それらは例えば、従来技術の遺伝子操作法または遺伝子活性化(GA)によって変形された細胞などのような、遺伝子改変細胞に由来するものなどが挙げられる。前記の操作は、最適系で増殖させ、上述したようなシアリル化およびホスホリル化の割合が高いα−GalA、または以下に記載するようなPEG化されたα−GalAを産生する細胞系において行うことができる。
【0081】
例えば、本明細書に記載しているようなα−GalA精製過程においては、α−GalAグリコフォームの分画は、精製過程の様々な段階において起こり得る。疎水性樹脂であるブチルセファロースファスト・フロー(Butyl Sepharose Fast Flow)を用いた場合には、最も電荷が高いα−GalAグリコフォームが最初に溶出し、続いて電荷の低いものが溶出する。ヘパリンセファロース(Heparin Sepharose)を用いた場合にも、最も電荷が高いものが最初に溶出し、その後に電荷の低いものが溶出する。Q-セファロース(Q-Sepharose)を用いた場合には逆の現象が起こり、最も電荷の低いグリコフォームが最初に溶出し、続いて電荷が高いものが溶出する。分子ふるいクロマトグラフィーであるスーパーデックス200(Superdex 200)を用いた場合には、最も分子量が大きいグリコフォームが最初に溶出し、続いて分子量が小さく、あまりグリコシル化されていないα−GalAが溶出する。特定のα−GalAグリコフォーム型を効率的に分画するためには、物理的に異なる方法で分画を行う複数のクロマトグラフィー段階を組み合わせることができる。例えば、最もpIが低い(負の電荷が最も高い)α−GalAグリコフォームを得るためには、初期に溶出したブチルフラクションのみをプールすることにより、電荷の高いα−GalAの含有率が高まる。選択されたこのプールについて、ヘパリンカラムを用いて分画を行い、さらに、より負の電荷が高いα−GalAの初期フラクションのみをプールすることにより、プール内のα−GalAグリコフォーム型の中におけるpIの低いものの比率がさらに増す。SDS-PAGEおよび等電点電気泳動によって溶出プール内の分子量および電荷分布をモニターすることにより、精製過程の様々な段階において、グリコフォーム型をさらに微調節することができる。分子量および電荷による分画の概略については、以下の実施例2.4に概説している。
【0082】
炭化水素リモデリングに関する第二の方法は、精製グリコシルトランスフェラーゼおよび適切なヌクレオチド糖ドナーを用い、さらに末端糖残基を付加することによって精製α−GalAのグリコフォームを変形することである。この方法は、使用するグリコシルトランスフェラーゼに対してアクセプターとして作用し得る適切なフリーの末端糖残基を有するグリコフォームに対してのみ有効である。例えば、α2,6−シアリルトランスフェラーゼは、ヌクレオチド糖ドナーとしてCMP-シアル酸を用いることにより、4GlcNac−Rアクセプターである末端のGa1β1上の2,6−結合内にシアル酸を付加する。市販されている酵素およびそれらの起源となる生物としては次のようなものが挙げられる:フコースα1,3トランスフェラーゼIII、VおよびVI(ヒト)、ガラクトースβ1,4−トランスフェラーゼ(ウシ)、マンノースα1,2トランスフェラーゼ(酵母)、シアル酸α2,3トランスフェラーゼ(ラット)、およびシアル酸α2,6トランスフェラーゼ(ラット)。反応が終了した後、グリコシルトランスフェラーゼ特異的アフィニティーカラムまたは当該分野において既知のその他のクロマトグラフィー法により、反応混合物からグリコシルトランスフェラーゼを除去することができる。グリコシルトランスフェラーゼ特異的アフィニティーカラムとは、ピロホスフェート(GDP、UDP)結合またはホスフェート(CMP)結合により、6位の炭素のスペーサーを介して適切なヌクレオチドがゲルに結合しているカラムである。α−GalAなどようにヒト患者における酵素置換療法に用いられる酵素の変形に対しては、上述したグリコシルトランスフェラーゼの中では、シアリルトランスフェラーゼが特に有用である。ヌクレオチド糖ドナーとしてCMP−5−フルオレセイニル−ノイラミン酸を用いた場合には、いずれのシアリルトランスフェラーゼを使用しても蛍光ラベルされた糖タンパク質が得られ、その取り込みおよび組織分布を容易にモニターすることができる。
【0083】
炭化水素リモデリングに関する第三の方法として好ましいのは、糖操作であり、例えば、細胞のグリコシル化機構に影響を及ぼす遺伝子をα−GalA産生細胞内に導入し、ゴルジ体内での翻訳後プロセシングを変形することなどが挙げられる。 炭化水素リモデリングに関する第四の方法としては、α−GalAを適切なグルコシダーゼで処理し、別異のグリコフォームの数を減少させることが挙げられる。例えば、ノイラミニダーゼ、β−ガラクトシダーゼおよびβ−ヘキソサミニダーゼを用いてコンプレックスグリカン鎖を順に処理し、オリゴ糖を解裂させてトリマンノースコアにする。
【0084】
N−結合グリカンの構造は、タンパク質の折りたたみ後、ゴルジプロセシングマンノシダーゼへのグリカン鎖の結合しやすさ、ならびにゴルジ体内にグリコシルトランスフェラーゼ類および適切なヌクレオチド糖ドナーが存在することによって定まる。多数のグリコシルトランスフェラーゼが競合反応を触媒するが、最初に反応した酵素の性質に応じて、グリカン鎖はいくつかの異方向および同方向に伸長する。このことにより、グリコフォームの微細な異種性が生じ、およびコンプレックス集団が形成される。ある種の構造は特定の組織に特異的であり(例えば、GalNAc−4−SO4の付加によるある種の下垂体ホルモンの変形など)、またはいくつかの臓器に限定的である。
【0085】
後者の例としては、腎臓においてグルタミルトランスペプチダーゼのコンプレックスグリカン上にいわゆる二分岐GlcNAc(バイセクティングGlcNAc)(bisectingGlcNAc)(コアのβ−マンノース残基にβ1,4結合しているGlcNAc)が形成することが挙げられ、肝臓ではこのようなことは起こらない。γ−グルタミルトランスペプチダーゼ上の二分岐ビアンテナ構造は次のように表される。
【化2】

【0086】
哺乳類においては、酵素としての作用を有するGlcNAcトランスフェラーゼIII(GnT-III)が脳および腎臓のある種の細胞内、ならびに肝細胞癌の患者の肝臓のある種の細胞内に見出されている。GnT-IIIは、β1,4結合内のN−アセチルグルコサミンがN−結合糖鎖のトリマンノシルコアのβ−マンノースに付加する反応を触媒し、二分岐GlcNAc残基を形成する。GnT-IIIに対するマウス、ラットおよびヒトの遺伝子がクローニングされている。イハラ(Ihara)ら、J. Biochem.(Tokyo) 113: 692-698(1993)。
【0087】
ヒト細胞が付加性のGlcNAc−T-III活性を有することにより、二分岐、三分岐および四分岐コンプレックスグリカンの代わりにモノホスホリル化ハイブリッドグリカンの産生が多くなる。このことは、プラズマ半減期には影響を与えないが、血管内皮細胞を標的とするものが増える。代表的な構造を以下に示す。
【化3】

【0088】
α−GalAの一部は腎臓によって取り込まれ、貯蔵糖脂質を著しく減少させる。これは、腎臓が二分岐GlcNAc残基からN−グリカンを合成することができるためであり、腎上皮細胞は、このエピトープを有する糖タンパク質を非常に特異的に認識することができる。
【0089】
GnT-IIIの活性レベルが上昇すると、GnT-II、IV、VおよびGalβ1,4−トランスフェラーゼによるさらなる分岐が基質レベルで阻害されることによって、トリマンノシルコア上の分岐状態の不均衡が生じる。最近、組換えGnT-IIIを過剰発現させることにより、糖タンパク質上に二分岐オリゴ糖を産生することができるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系が確立された。スバーラティ(Sburlati)ら、Biotechnol. Progr., 14: 189-192(1998)。モデルとしてインターフェロンβ(INF-β)を選び、GnT-IIIが発現することにより、グリコシル化される分泌異種タンパク質の治療作用を評価した。二分岐オリゴ糖を有するINF-βは、GnT-IIIを操作したCHO細胞によって産生されたが、未操作の親細胞系では産生しなかった。
【0090】
糖タンパク質治療剤の産生にあたっては、グリコシル化の状態がロットごとに一致している必要がある。タンパク質のグリコシル化の状態を表すための簡便かつ効率的なパラメーターとしては、「仮定的N−グリカン電荷Z」が用いられている。Zの決定法については、多数の反復実験において確認されており、非常に正確かつ信頼性が高いことが証明されている。ハーメンティン(Hermentin)ら、Glycobiology 6: 217-230(1996)。与えられた糖タンパク質の仮定的N−グリカン電荷は、高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC)/パルス電流検出(PAD)によって得られたN−グリカンマッピングプロファイルから求められる。HPAECにおいては、N−グリカンはその電荷(例えば、シアル酸残基数など)によってきれいに分離し、電気的に中性である構造、ならびにモノ−、ジ−、トリ−およびテトラシアリル化N−グリカンが区別される。Zは、アシアロ、モノシアロ、ジシアロ、トリシアロ、テトラシアロおよびペンタシアロ領域中の各生成物の占める範囲(A)の和として定義され、それぞれに対応する電荷をかけ算する:
【数1】

【0091】
ここで、iは、アシアロ領域においては0、モノシアロ(MS)領域においては1、ジシアロ(DiS)領域においては2、トリシアロ(TriS)領域においては3、テトラシアロ(TetraS)領域においては4、およびペンタシアロ(pentaS)領域においては5である。
【0092】
従って、主にC4−4構造を有する糖タンパク質においてはZは約400であり、主にC2−2構造を有する糖タンパク質においてはZは約200であり、高マンノース型または切断型構造のみを有する糖タンパク質においてはZはほぼ0である。
【0093】
本発明に従うヒトグリコシル化α−GalA調製物はオリゴ糖電荷を有し、Z数で計算したその値は100以上、好ましくは150以上、より好ましくは170以上である。
【0094】
ホスホリル化によって血清α−GalAの半減期を変える方法
α−GalAをホスホリル化することにより、α−GalAの循環半減期および細胞に侵入するα−GalAのレベルを変更することができる。ホスホリル化はα−GalAを発現する細胞内で行うことが好ましい。特に企図していることは、α−GalA産生細胞内にホスホリルトランスフェラーゼをコードしているDNA配列を最初に導入することにより、または、内在性ホスホリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を制御するような制御遺伝子を相同的組換えによって導入することにより、高度にホスホリル化されたグリコシル化α−GalAを得ることである。次に、α−GalAおよびホスホリルトランスフェラーゼを発現するような培養条件下においてα−GalA産生細胞を培養する。その後、ポリヌクレオチドを有しない細胞において産生されたα−GalAと比較して、より高度にホスホリル化されているα−GalA調製物を単離する。そのようなホスホリルトランスフェラーゼ類は、当該分野において既知である。例えば、米国特許第5,804,413号、および5,789,247号を参照のこと。これらを参考として本明細書中に取り入れておく。
リソソームのプロ酵素上にMan−6−ホスフェート認識マーカーを創出するためには、2個の膜結合ゴルジ酵素が調和のとれた作用を発揮することが必要である。第一の酵素は、UDP−N−アセチルグルコサミン:糖タンパク質N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ(GlcNAc ホスホトランスフェラーゼ)であり、この酵素は、リソソーム酵素上にタンパク質認識決定因子を必要とし、ここで、該リソソーム酵素は、正確に34Å離れて存在し、マンノース高含有鎖と正しい空間的相互作用を保っている2個のリジン残基を有する。第二の酵素は、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホジエステル a−N−アセチルグルコサミニダーゼ(ホスホジエステル a−GlcNAcase)であり、この酵素は、Man−6−ホスフェート認識部位に露出しているα−GlcNAc−ホスフェート結合を加水分解する。
【0095】
本発明の方法に従えば、本発明の方法に基づいて産生されたα−GalA調製物は、グリコフォームの16〜50%がホスホリル化している複数のグリコフォームを含み、ホスホリル化の割合は、好ましくは25〜50%であり、より好ましくは少なくとも30%である。
【0096】
シアリル化の割合を高めることによって血清α−GalAの半減期を変える方法
末端にガラクトース残基を有し、十分にシアリル化されていないグリカンについて、シアリル化の割合を高めることは、シアリルトランスフェラーゼ遺伝子を有する哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞をトランスフェクトすることによって達成することができる。
【0097】
本発明は、オリゴ糖の電荷が高められたグリコシル化α−GalA調製物を提供するが、そのような調製物は、シアリルトランスフェラーゼをコードしているポリヌクレオチドをα−GalA産生細胞に最初に導入する、または、相同的組換えにより、内在性シアリルトランスフェラーゼ遺伝子の発現を制御するような制御配列を導入することによって産生する。次に、α−GalAおよびシアリルトランスフェラーゼを発現するような培養条件下において、α−GalA産生細胞を培養する。次の段階としては、オリゴ糖電荷が高められたα−GalA調製物を単離する。好ましいシアリルトランスフェラーゼとしては、α2,3−シアリルトランスフェラーゼおよびα2,6−シアリルトランスフェラーゼが挙げられる。これらのシアリルトランスフェラーゼは既知である。例えば、米国特許第5,858,751号を参照。この特許を参考として本明細書中に取り入れておく。
【0098】
好ましい実施態様においては、シアリル化の割合を高めるこのような方法には、調製物を分画または精製することにより(以下に記載している)、大きさや電荷が増したα−GalAグリコフォームを選択する段階を追加することができる。
【0099】
別の方法としては、本発明は、低アンモニウム環境下において細胞を維持することにより、シアリル化の割合を高める方法を提供する。特に、アンモニウム濃度が10mM以下、より好ましくは2mM以下の培養培地にα−GalA産生細胞を接触させることにより、シアリル化の割合が高められたグリコシル化α−GalA調製物が得られる。産生細胞を灌流させることにより、アンモニアのような毒性代謝物を定期的に培養培地から除去することによって、シアリル化の割合を高めることができる。好ましい実施態様においては、産生細胞にグルタミンシンテターゼ遺伝子またはcDNAを付加することによって低アンモニウム環境を得ることができる。別の方法としては、α−GalA産生細胞を新鮮培養培地に灌流させ、アンモニウム濃度を10mM以下、より好ましくは2mM以下に保つことによって低アンモニウム環境を得ることができる。産生細胞は、アンモニウム濃度が10mM以下、より好ましくは2mM以下の新鮮な培養培地に連続的に灌流させることができる。別の方法としては、産生細胞を断続的に新鮮培養培地に灌流させる。本明細書において使用している断続的灌流とは、定期的、周期的時間間隔で灌流させること、またはアンモニア濃度を測定した後、目標濃度(すなわち、10mM以下、より好ましくは2mM以下)に到達させること、のいずれをもさす。断続的灌流は、アンモニウム濃度が目標濃度を超えることがないような頻度で行わねばならない。産生細胞の灌流は、シアリル化の割合が総グリカンの50〜70%、好ましくは60%であるα−GalA調製物が得られるまで十分に時間をかけて行う。
【0100】
α−GalAをPEG化することによって血清α−GalAの循環半減期を延ばす方法
本発明に従えば、α−GalAをポリエチレングリコールとコンプレックス形成させることにより、ヒトグリコシル化α−GalA調製物の循環半減期を延ばすことができる。ポリ(エチレングリコール)(PEG)は、水に可溶性の高分子(ポリマー)であり、タンパク質に共有結合している場合には、タンパク質の潜在的用途を広げるような方向に特性を変化させる。ポリエチレングリコール修飾(「PEG化」)は十分に確立された技術であり、タンパク質およびペプチド薬剤に関する多くの問題を解決する、または改善する可能性を有するものである。
【0101】
PEGで修飾していないタンパク質と比較した場合に、PEG−タンパク質の薬理学的作用が向上していることから、治療剤としてのこのような型のコンジュゲートの開発が促進された。天然型の酵素をもちいた治療では十分な結果が得られない(クリアランスが迅速および/または免疫学的反応による)酵素欠乏症は、等価なPEG−酵素を用いて治療することができる。例えば、PEG−アデノシンデアミナーゼは既にFDAの承認を得ている。デルガド(Delgado)ら、Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst., 9: 249-304(1992)。
【0102】
未熟なコーヒーの実から得られたα−ガラクトシダーゼにPEGを共有結合付加させることにより、分子上の特異的決定因子部位がマスキングされ、酵素の触媒特性が変化する。この結果、p−ニトロフェニル基質アナログに対するKm値が大きくなり、Vmax値が減少する。ウィーダー(Wieder)およびデイヴィス(Davis)、J. Appl. Biochem. 5:337-47(1983)。α−ガラクトシダーゼは、ヒトの唾液の血液型物質B由来の末端ガラクトースを解裂することができた。PEG−α−ガラクトシダーゼにおいては、抗体およびレクチン特異的結合は消失していた。天然のα−ガラクトシダーゼから産生した抗体は酵素活性を阻害するが、酵素に対するPEGの量を徐々に高めた酵素調製物に対して試験を行った場合には、この阻害活性は徐々に消失した。対照的に、PEG−α−ガラクトシダーゼを用いて免疫した動物から得られた抗血清は、如何なるα−ガラクトシダーゼまたはPEG−α−ガラクトシダーゼ調製物に関しても酵素活性を阻害しなかった。これらの結果から、PEGは、レクチン特異的炭化水素部位および抗原性決定因子を被覆する作用を有し、また、これらの部位は、PEG−酵素がイン・ビボ(in vivo)プロセシングを受ける間もおそらく隠されたままであることが示唆される。
【0103】
PEGがタンパク質に共有結合するためには、適切な脱離基を有するポリマーのヒドロキシル末端部分が活性化することが必要であり、そのような脱離基は、リジンのε−アミノ末端およびN−末端のα−アミノ基が求核攻撃を受けることによって置換し得る。数種の化学基を利用してPEGの活性化が行われている。それらの各出願においては、別異のカップリング法によって顕著な利点が明らかにされている。PEG化に関する別異の方法により、PEG化されたタンパク質およびペプチドの生物活性の保持、安定性ならびに免疫原性などの因子に驚異的かつ劇的な変化がもたらされた。フランシス(Francis)ら、Int. J. Hematol. 68(1): 1-18(1998)。例えば、リンカーなしでPEG化を行う技術により、PEGのみが標的分子に結合する。さらに特定すると、フランシス(Francis)らが記載しているように(Int. J. Hematol. 68(1): 1-18(1998))、トレシルモノメトキシPEG(TMPEG)を用い、多様なタンパク質に対して生物学的に最適化されたPEG化技術を用いることにより、標的分子の生物学的活性を保持する非常に高い能力が明らかになった。このようなこと、およびタンパク質にPEG(ヒトの治療剤としての使用に関して安全であることが示されている)のみをを付加するという利点から、そのような方法がα−GalAの修飾に理想的であると判断した。
【0104】
タンパク質にPEGを付加させるにあたっては、4ヶ所の部位が考えられ、それらは、(1)アミノ基(N−末端およびリジン);(2)カルボキシル基(アスパラギン酸およびグルタミン酸);(3)スルフヒドリル基(システイン);および(4)炭化水素基(過ヨウ素酸処理後に生成したアルデヒド類)である。タンパク質のカルボキシル基および炭化水素上のアルデヒド基に対して付加を行うためには、求核性アミノ基を含むPEG反応試薬が必要である。負の電荷を帯びたカルボキシル基がPEGの作用によってα−GalAに結合した後、この化学的性質によってα−GalAのpIが変化する。pIがどのように変化しても、α−GalAの生物学的活性に対して影響を及ぼす。さらに、PEGが炭化水素鎖に結合することにより、生物学的活性に重要な役割を果たしているM6Pレセプターによるα−GalAの取り込みが影響を受けることになる。スルフヒドリル基に対する反応も分子の物理的構造に影響を与え、推奨されない。
【0105】
PEG化に際して一般的に使用される方法は、タンパク質のアミノ基とモノメトキシPEG上のメトキシ基との間にアミド結合を形成する方法である。NHS−PEGは市販されており、タンパク質とPEGとの間にアミド結合を形成する。しかしながら、アミド結合の形成によって−NH2基の正電荷が消失することにより、pIが変化する。
【0106】
α−GalAのpIを変化させることなくPEGを付加する方法としては、トレシル−PEGを用いる方法がある。トレシル−PEGは、アミノ基を介して結合し、安定な二級アミンを形成する。二級アミンはアミノ基の正電荷を保持するという利点を有する。トレシル−PEG反応試薬は市販されており、凍結乾燥粉末状で安定である。トレシル−PEGについてはその化学的性質の全容が明らかになっており、反応機構および副生成物についても既知である。故に、好ましい実施態様においては、α−GalA調製物は、トレシルモノメトキシPEG(TMPEG)を用いてコンプレックスを生成させ、PEG化α−GalAを形成させる。次に、PEG化α−GalAを生成することにより、単離されたPEG化α−GalAを得る。
【0107】
反応の様式
CH3(OCH2CH2)rOSO2CH2CF3+H2N−タンパク質
→CH3(OCH2CH2)n−HN−タンパク質−トレシルモノメトキシPEG
α−GalAは、18個のアミノ基、17個のε−アミノ基(リジン)および1個のα−アミノ基(N−末端)を有する。反応を制御することにより、置換が最小限にとどめられているα−GalAを生成することができ、次に、未置換および多置換体から1分子につき1個のPEGを有する分子、または1分子あたりのPEGの平均数が1未満の分子を精製することができる。α−GalAに多数の置換が行われていても生物学的活性には顕著な影響が認められないことから、最終生成物は1〜18個のPEG分子が付加した異種混合物から構成される。置換レベルは、保持されている酵素活性のレベルに応じて決まる。α−GalAの循環半減期の延長および免疫的認識の低下によって増強されていた治療効果は、酵素活性が低下することにより相殺されてしまうことについては注意すべきである。従って、PEG−α−GalA調製物を開発するにあたっては、α−GalAに対するPEGの比率は、酵素活性のみではなく、生物学的活性に基づいて決定すべきである。
【0108】
PEG化反応においては、pH、緩衝液の組成およびタンパク質濃度を制御することが必要である。適切な反応条件は、限外ろ過/ダイアフィルトレーション(diafiltration)段階を経ることによって達成することができ、そのような段階は、現在では工業化過程において用いられている。反応の直前にトレシル−PEGを撹拌しながらすばやく水に溶解する。次に、用意しておいたα−GalAにこの溶液を加え、定められた時間、定められた温度(例えば、250℃で2時間など)で反応させる。最終的な精製過程に先立ってPEG化が生じることから、精製操作を行うための段階を追加する必要性がない。カップリング完了後、PEG−α−GalAについて、残りの段階である精製過程を実施する。Qカラム(陽イオン交換性)処理を行う前に反応を行うことは、反応の副生成物を除去するための2つの精製段階を考慮したものである。PEGは負の電荷を全く含まないため、Qセファロース(Q Sepharose)には保持されず、空溶出液中に溶出する。
【0109】
PEG化の量は既知の技術によって測定することができる。例えば、タンパク質のα−アミノ基およびε−アミノ基に結合している場合には、フルオレスカミンが蛍光を発する。PEG化後における蛍光消失の割合は、α−GalAに結合したPEGの割合と相関している。総タンパク質量測定用のピアス(Pierce Chemicals)社のBCAアッセイを利用することによってタンパク質濃度を決定することができる。メチルウンベリフェリル−α−D−ガラクトピラノシド(4−MUF−α−GalA)活性アッセイを用いることにより、PEG−α−GalA酵素活性の効率を評価する。α−GalAは、リソソーム内への取り込みに必要なM6Pを有している。M6Pレセプター認識に対するPEGからの干渉は、細胞に基づくアッセイを用い、リソソームへのPEG−α−GalAの細胞取り込みをモニターすることによって評価することができる。
【0110】
α−GalA調製物の投与法
本発明に従う組成物(すなわち、多様なα−GalAグリコフォームを含む組成物)は、α−GalA調製物に適した任意の経路で投与することができる。精製したα−GalA調製物は、α−GalAタンパク質を十分に産生できない、もしくは欠損型のα−GalAタンパク質を産生する対象、またはα−GalA治療によって利益を享受する対象に対して投与することができる。本発明に従う治療用調製物は、任意の適切な方法により、直接的に(例えば、局所的に、注射、組織部分への内移植または局所投与として)、または全身的に(例えば、経口または非経口的に)投与することができる。
【0111】
投与の経路としては、経口または非経口(静脈、皮下、動脈内、腹膜内、眼、筋肉内、バッカル、直腸、膣、眼窩内、脳内、皮内、頭蓋内、脊髄内、脳室内、髄膜内、槽内、嚢内、肺内、鼻内、経粘膜、経皮またはインハレーションなど)とすることができる。肺内に送達するための方法、器具および薬物の調製法については、例えば、米国特許第5,785,049号、第5,780,019号および第5,775,320号に記載されており、これらを参考として本明細書中に取り入れておく。皮内輸送に関して好ましい方法は、パッチを介したイオン泳動輸送によるものであり、そのような輸送法のひとつの例は米国特許第5,843,015号に記載されており、該特許を参考として本明細書中に取り入れておく。
【0112】
投与に関して特に有用な経路は、皮下注射である。本発明に従うα−GalA調製物は、1または2mlを用いる単回投与において必要な総投与量を投与することができるように製剤化することができる。投与用量を1または2mlにするためには、1〜2mlの容量中に好ましい投与量が含まれるような濃度に本発明に従うα−GalA調製物を製剤化する、またはα−GalA調製物を凍結乾燥状態に製剤化し、投与前に水もしくは適切な生体適合性の緩衝液に再溶解する。α−GalA調製物を皮下注射することは、患者、特に自己注射をさせる場合に簡便であるという利点があり、また、静脈内注射の場合などと比較すると、プラズマ内での半減期を延長させることができる。プラズマ内半減期が延長されることにより、長時間にわたってプラズマα−GalAの有効レベルが維持され、その結果、投与されたα−GalAと臨床的に影響を受ける組織との接触が増加し、そのような組織内へのα−GalAの取り込みが増加する。このことにより、患者はより有益な効果を享受することができ、および/または投与頻度を減らすことができる。さらに、患者の利便性を考えて設計された多様なデバイス(例えば、再充填可能な注射ペン、針なし注射器など)を本発明に従うα−GalA調製物に使用することができる。
【0113】
投与は、調製物の周期的ボーラス注射によって行うことができ、または、体外(例えば、IVバッグなど)もしくは体内(例えば、生体侵食が可能な埋込み物、生体人工臓器または移植されたα−GalA産生細胞の集団など)のリザーバーから静脈内または腹膜内に投与することができる。例えば、米国特許第4,407,957号および5,798,113号などを参照のこと。これらを参考として本明細書中に取り入れておく。肺内への輸送法および用具については、例えば、米国特許第5,654,007号、第5,780,014号および第5,814,607号に記載されており、これらを参考として本明細書中に取り入れておく。その他の有効な非経口送達系としては、エチレン−酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋込み可能な注入系、ポンプ輸送、カプセル封入された細胞の送達、リポソーム送達、針を用いた注射、針なし注射、ネブライザー、エアロゾライザー、エレクトロポレーションおよび経皮パッチなどが挙げられる。針なし注射については、米国特許第5,879,327号、5,520,639号、5,846,233号および5,704,911号に記載されており、これらの特許を参考として本明細書中に取り入れておく。上述したα−GalA調製物は、いずれもこれらの方法で投与することができる。
【0114】
投与経路および送達されたタンパク質の量は、当業者であれば求めることができる因子に基づいて決定することができる。さらに、当業者であれば、治療投与量レベルが得られるまでは、投与経路および治療性たんぱく質の投与量は患者に応じて異なることに気付くはずである。
【0115】
α−GalAタンパク質の薬剤学的製剤化
さらに本発明は、アルブミンなどの非α−GalAタンパク質、宿主細胞によって産生された非α−GalAタンパク質または動物組織または体液から単離されたタンパク質を実質的に含有していないα−GalA調製物の新規な製剤を提供する。
【0116】
調製物は、水性または生体適合性の液体の懸濁液または溶液から構成されていることが好ましい。キャリヤーまたはビヒクルは、患者に所望する調製物を送達することに加えて、患者の電解質および/または容積バランスに悪影響を及ぼさないようにするため、生体適合性のものを用いる。非経口投与に有用な溶液は、製剤学分野において既知である任意の方法によって調製することができる。例えば、「レミントン 製剤学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」(ゲナーロ(Gennaro), A編)、マック出版社(Mac Pub.)、1990年などを参照のこと。坐剤および経口製剤などのような非経口用以外の製剤も用いることができる。
【0117】
製剤には賦形剤を含むことが好ましい。α−GalAに関して薬剤学的に許容され、製剤中に含まれる賦形剤としては、緩衝液(クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液および重炭酸緩衝液、アミノ酸類、尿素、アルコール類、アスコルビン酸、リン脂質類など)、タンパク質(血清アルブミン、コラーゲンおよびゼラチンなど)、塩類(EDTAもしくはEGTAならびに塩化ナトリウムなど)、リポソーム類、ポリビニルピロリドン、糖類(デキストラン、マンニトール、ソルビトールおよびグリセロールなど)、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール(例えば、PEG−4000、PEG-6000など)、グリセロール、グリシンもしくはその他のアミノ酸類、ならびに脂質が挙げられる。α−GalA調製物と共に使用する緩衝液系としては、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、重炭酸緩衝液およびリン酸緩衝液(すべてシグマ( Sigma )社)から購入可能)が挙げられる。好ましい実施態様においてはリン酸緩衝液を用いる。α−GalA調製物に好ましいpH範囲は4.5〜7.4である。
【0118】
製剤には、非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。好ましい非イオン性界面活性剤としては、ポリソルベート(Polysorbate)20、ポリソルベート(Polysorbate)80、トライトン(Triton)X-100、トライトン(Triton)X-114、ノニデット(Nonidet)P-40、オクチルα−グルコシド、オクチルβ−グルコシド、ブリジ(Brij)35、プルロニック(Pluronic)およびツイーン(Tween)20(すべてシグマ( Sigma )社)から購入可能)が挙げられる。
【0119】
特に好ましい製剤には、非イオン性界面活性剤としてポリソルベート(Polysorbate)20もしくはポリソルベート(Polysorbate)80、ならびにリン酸緩衝生理食塩水を含み、最も好ましいpHは6である。
【0120】
α−GalA調製物を凍結乾燥するためには、タンパク質濃度を0.1〜10mg/mlにする。バルク化剤(bulking agent)(グリシン、マンニトール、アルブミンおよびデキストランなど)を凍結乾燥混合物に添加することができる。さらに、凍結保護剤(ジサッカライド類、アミノ酸類およびPEGなど)を凍結乾燥混合物に添加することができる。上述の緩衝液、賦形剤および界面活性剤のうちの任意のものを添加することもできる。
【0121】
注射用のα−GalA製剤における好ましい濃度は1mg/mlである。
【0122】
投与用製剤には、所望する部位に薬物が保持されることを補助する目的で、グリセロールおよびその他の高粘性組成物を含むことができる。生体適合性のポリマー、好ましくは生体侵食性の生体適合性ポリマー(例えば、ヒアルロン酸、コラーゲン、ポリブチレート、ラクチド、ならびにグリコリドポリマー類およびラクチド/グリコリドコポリマー類など)が有用な賦形剤であり、イン・ビボ(in vivo)における薬物の放出を制御することができる。非経口投与用製剤においては、バッカル投与用にはグリココール酸塩(グリココレート)、直腸投与用にはメトキシサリチル酸塩(メトキシサリチレート)、あるいは膣投与用にはクエン酸を用いることができる。直腸投与用の坐剤は、本発明に従うα−GalA調製物を非刺激性賦形剤(室温では固体であり、体温では液体であるカカオ脂またはその他の組成物など)と混合することによって調製することができる。
【0123】
インハレーション投与用の製剤には、ラクトースもしくはその他の賦形剤を用いることができ、または、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、グリココール酸塩もしくはデオキシコール酸塩を含む水性溶液にすることができる。好ましいインハレーションエアロゾルは、質量密度が小さく、径が大きい粒子を含むことを特徴とする。質量密度が0.4g/cm3未満であり、平均粒子径が5μm以上の粒子は、吸入された治療剤を効率的に全身循環に送達する。そのような粒子は肺の奥深くに送り込まれ、吸入された粒子が該治療剤を送達するまでは、肺の生来のクリアランスメカニズムを免れている。エドワーズ(Edwards)ら、Science, 276: 1868-1872(1997)。本発明に従うα−GalA調製物は、例えば、米国特許第5,654,007号、第5,780,014号および5,814,607号に記載されているような調製法および製剤法を用いることにより、エアロゾルとして投与可能であり、ここで、それらの特許を参考として本明細書中に取り入れておく。経鼻投与用製剤には、鼻用滴下剤または鼻内に塗布するゲルとして投与するための油性溶液を含む場合がある。
【0124】
皮膚表面への局所投与用製剤は、皮膚許容性のキャリヤー(ローション、クリーム、軟膏または石けんなど)にα−GalA調製物を分散させることによって調製することができる。特に有用なものは、皮膚上に皮膜または層を形成し、塗布範囲を限定することができ、除去を妨げることができるキャリヤーである。内部組織表面への局所投与用としては、液状の組織吸着剤、または組織表面への吸着を増強させることが知られているその他の物質にα−GalA調製物を分散させる。例えば、経粘膜薬物送達用としては、米国特許第4,740,365号、第4,764,378号および5,780,045号に数種の粘膜吸着剤およびバッカル錠が記載されており、それらの特許を参考として本明細書中に取り入れておく。ヒドロキシプロピルセルロースまたはフィブリノゲン/トロンビン溶液も含まれる。別の方法としては、ペクチン含有製剤などのような組織被覆溶液を用いることができる。
【0125】
本発明に従う調製物は、滅菌性の保持、適切な輸送および保存中における活性材料の活性保護、ならびに患者への投与に際して、調製物の使用の簡便性および有効性に適した容器に充填して提供することができる。α−GalA調製物の注射用製剤は、針とシリンジを用いた内容物の取出しに適した栓付きバイアルに充填して供給することができる。バイアルは、単回使用または複数回使用のいずれでもよい。調製物は、予め充填済みのシリンジとして供給することもできる。いくつかの例においては、内容物は液体製剤として供給され、また別の例としては、乾燥または凍結乾燥状態で供給され、そのような場合においては、標準的なもしくは添付された希釈剤を用いて液体状態に戻すことが必要である。調製物が静脈投与用の液体として供給される場合には、静脈投与ラインまたはカテーテルへの接続に適した滅菌バッグまたは容器に充填して提供される。好ましい実施態様においては、本発明に従う調製物は、液体または粉末製剤として、予め計量された投与量を簡便に投与できるようなデバイスに充填して供給され、そのようなデバイスの例としては、皮下もしくは筋肉内注射用の針なしインジェクター、ならびにエアロゾル定量送達デバイスなどが挙げられる。別の例としては、調製物は、徐放に適した形態、例えば、経皮投与用に皮膚に貼付するパッチもしくは包帯として、または経粘膜投与用の侵食性デバイスとして供給することができる。調製物が錠剤または丸薬の形態で経口投与される場合には、調製物は、除去可能な覆いのついた瓶に充填して供給することができる。容器には、調製物の種類、製造者または販売者名、適用、推奨服用量、適切な保存に関する指示または服用方法などのような情報を記載したラベルを貼り付ける。
【0126】
α−GalA調製物の投与量
さらに本発明は、ファブリー病の患者、ファブリー病の異型変種の患者、または、α−GalAのレベルが低下している、もしくはα−GalAの突然変異型を有する状態にある患者にα−GalA調製物を投与するための方法を提供する。投与量としては、好ましくは0.05〜5.0mg/kg、より好ましくは0.1〜0.3mg/kgであり、1週間または2週間ごとに投与する。好ましい実施態様においては、約0.2mg/kgを2週間ごとに投与する。患者の生涯にわたって規則的に反復投与することが必要である。皮下注射を行うことにより、より長時間にわたって薬物を全身的に循環させることができる。皮下投与量は0.01〜10.0mg/kgであり、好ましくは0.1〜5.0mg/kgであり、2週間または1週間ごとに投与する。筋肉内注射によって投与されるα−GalA調製物の投与量は、皮下注射の場合と同等または異なっており、好ましい実施態様においては、筋肉内投与の投与量はより少量であり、投与頻度も低い。α−GalA調製物は静脈内に投与することもでき、例えば、ボーラス静注、緩速静注または連続的静注などの方法がある。連続的IV輸液(例えば、2〜6時間など)により、血中の特異的濃度を維持することができる。
【0127】
患者へのα−GalA調製物の投与に関する別の好ましい方法としては、複数年(例えば、最長3年まで)にわたって、好ましい投与量のα−GalA調製物を1週間または2週間ごとに投与する方法が挙げられ、この期間、患者を臨床的にモニターして患者の状態を評価する。腎もしくは心機能または患者の全身状態(例えば、痛みなど)の改善などによって測定された臨床状態の改善、ならびに尿、プラズマもしくは組織中のCTHレベルなどに関して測定された検査値の改善を利用して患者の健康状態を評価することができる。治療およびモニター期間後に臨床状態の改善が観察された場合には、α−GalA調製物の投与頻度を下げることができる。例えば、α−GalA調製物を毎週注射されていた患者は、隔週に変更することができる。また、α−GalA調製物を隔週に注射されていた患者は、1ヶ月ごとに変更することができる。そのような投与頻度の変更後は、さらに複数年(例えば、3年間)にわたって患者をモニターすることが必要であるが、これは、ファブリー病関連の臨床状態および検査値を評価するためである。好ましい実施態様においては、投与頻度の変更を行う場合には、投与量の変更は行わない。このことにより、ある種の薬物動態パラメーター(例えば、最高プラズマ濃度(Cmax)、最高プラズマ濃度に達する時間(tmax)、プラズマ半減期(t1/2)、および血中濃度曲線下面積(AUC)によって測定された接触量など)は、各投与後に比較的一定の値を示すことが保証される。これらの薬物動態学的パラメーターの維持を図ることにより、投与頻度を変更した場合にも、レセプターを介した組織へのα−GalA調製物の取り込みは、比較的一定のレベルになる。
【0128】
ファブリー病の異型変種(例えば、心動脈の異常または腎併発が主症状であるなど)を患っている患者は、同様の投与法、すなわち、0.05mg/kg〜5mg/kgを1週間または2週間ごとに投与する方法で治療する。投与量は必要に応じて調整する。例えば、心異種表現型を示し、α−ガラクトシダーゼA酵素補充療法を受けている患者は、治療に伴って、心臓の構造変化および心機能の改善が観察される。この変化は、標準的な心エコー図検査法を用いて測定することができ、ファブリー病患者における左心室壁の厚さを検出することができる。ゴールドマン(Goldman)ら、J. Am. Coll. Cardiol., 7: 1157-1161(1986)。治療期間中、心エコー図検査法によって左心室壁の厚さを測定することができ、心室壁厚が減少することが治療応答の指標である。α−ガラクトシダーゼA酵素補充療法を受けている患者は、心臓の核磁気共鳴映像法(MRI)によっても追跡することができる。MRIは、与えられた組織の相対的構造を評価することができる。例えば、ファブリー病患者について心臓MRIを行うことにより、対照患者と比較して、心筋層内に脂質が貯留していることが明らかになる。マツイ(Matsui)ら、Am. Heart J., 117: 472-474(1989)。酵素補充療法を受けている患者に対して心MRI評価を連続的に行うことにより、患者の心臓内における脂質の沈着状態の変化が明らかになる。腎変種表現型を呈している患者もα−ガラクトシダーゼA酵素補充療法によって恩恵を受けることができる。治療効果は、腎機能に関する標準的な検査(24時間の尿タンパク質レベル、クレアチニンクリアランスおよび糸球体ろ過速度など)によって測定することができる。
【実施例】
【0129】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施態様をより詳細に説明するためのものである。これらの実施例は上述の請求項によって定義された本発明の範囲を制限するためのものではない。
【0130】
実施例1 α−Gal Aを送達し、発現するように設計された構築体の調製法および使用法
2つの発現プラスミド、pXAG-16およびpXAG-28を構築した。これらのプラスミドは、α−Gal A酵素の398個のアミノ酸(α−Gal Aシグナルペプチドを含まない)をコードしているヒトα−Gal A cDNA;hGH遺伝子の第1のイントロンにより中断された、ヒト成長ホルモン(hGH)シグナルペプチドゲノムDNA配列;およびポリアデニル化のシグナルを含有する、hGH遺伝子の3’非翻訳配列(UTS)を含有する。プラスミドpXAG-16は、ヒトサイトメガロウイルス即時−早期(immediate-early)(CMV IE)プロモータおよび第1のイントロン(非コードエクソン配列に隣接した)を有し、一方で、pXAG-28は、コラーゲンIα2プロモータおよびエクソン1により駆動し、β−アクチン遺伝子の第1のイントロンを含有するβ−アクチン遺伝子の5’UTSも含有する。
【0131】
1.1 完全α−Gal A cDNAのクローニング、およびα−Gal A発現プラスミドpXAG-16の構築
以下のように構築したヒト線維芽細胞cDNAライブラリーからヒトα−GalA cDNAをクローニングした。総RNAからPoly−AmRNAを単離し、製造業者の使用説明書にしたがってlambda ZapII(登録商標)システム(カリフォルニア州、ラ・ホーヤのストラタジーン社(Stratagene Inc.))用の試薬を用いて、cDNA合成を行った。端的に言えば、「第1鎖」cDNAは、内部XhoI制限エンドヌクレアーゼ部位を含有するオリゴ−dTプライマーの存在下で逆転写により産生した。RNase Hによる処理後に、そのcDNAをDNAポリメラーゼIによりニックトランスレーションして、二本鎖cDNAを産生した。T4 DNAポリメラーゼIによりこのcDNAを平滑末端化し、EcoRIアダプタに連結した。この連結産物をT4 DNAキナーゼにより処理し、Xho Iで切断した。cDNAをセファクリル(Sephacryl(登録商標))−400クロマトグラフィーにより分画した。大型および中型分画をプールし、EcoRIおよびXhoIで切断したlambda ZapIIアームにこれらのcDNAを連結した。次いで、この連結産物をパッケージングし、滴定した。この一次ライブラリは、1.2×107pfu/mLの力価および925bpの平均挿入サイズを有していた。
【0132】
ヒトα−Gal A遺伝子のエクソン7由来の210bpプローブ(図1、配列番号1)を用いて、cDNAを単離した。このプローブ自体は、以下のオリゴヌクレオチド:
5’−CTGGGCTGTAGCTATGATAAAC−3’(オリゴ1;配列番号6)および
5’−TCTAGCTGAAGCAAAACAGTG−3’(オリゴ2;配列番号7)
を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりゲノムDNAから単離した。次いで、このPCR産物を用いて、前記線維芽細胞cDNAライブラリーをスクリーニングし、陽性のクローンを単離し、さらに特性付を行った。製造業者の使用説明書にしたがい、1個の陽性クローン、ファージ3AにLambda ZapIIシステム切除プロトコール(カリフォルニア州、ラ・ホーヤのストラタジーン社)を施した。この方法によりプラスミドpBSAG3Aを得た。この産物は、pBluescriptSK(商標)−プラスミド骨格にα−Gal A cDNA配列を含有している。DNA塩基配列決定により、このプラスミドは、前記cDNA配列の完全5’末端を含まないことが分かった。したがって、ヒトゲノムDNAから増幅したPCRフラグメントを用いてこの5’末端を再構築した。このことを行うために、以下のオリゴヌクレオチド:
5’−ATTGGTCCGCCCCTGAGGT−3’(オリゴ3;配列番号8)および
5’−TGATGCAGGAATCTGGCTCT−3’(オリゴ4;配列番号9)
を用いて268bpのゲノムDNAフラグメント(図2、配列番号2)を増幅した。この断片を「TA」クローニングプラスミド(カリフォルニア州、サンディエゴのインビトロゲン社(Invitrogen Corp.))中にサブクローニングして、プラスミドpTAAGEIを産生した。α−Gal A cDNA配列の大部分を含有するプラスミドpBSAG3A、およびα−Gal A cDNAの5’末端を含有するpTAAGEIの各々をSacIIおよびNcoIで切断した。増幅されたDNAフラグメント内の関連するSacIIおよびNcoIの位置は図2に示している。pTAAGEI由来の0.2kbのSacII−NcoIフラグメントを単離し、同等に切断したpBSAG3Aに接合した。このプラスミドpAGALは、前記α−Gal Aシグナルペプチドをコードしている配列を含む完全α−Gal A cDNA配列を含有する。このcDNAを完全に塩基配列決定し(図3に示したように、α−Gal Aシグナルペプチドを含む;配列番号3)、ヒトα−Gal A cDNAについて発表された配列と同一であることが分かった(Genbank配列HUMGALA)。
【0133】
プラスミドpXAG-16は、以下のようにいくつかの中間体を介して構築した。第1に、pAGALをSacIIおよびXhoIで切断し、平滑末端化した。第2に、完全α−Gal A cDNAの末端をXbaIリンカーに接合させ、XbaIで切断したpEF-BOS中にサブクローニングし(ミズシマ(Mizushima)ら、Nucl. Acids. Res. 18:5322, 1990)、pXAG-X1を構築した。この構築体は、ヒト顆粒細胞−コロニー刺激因子(G-CSF)3’UTS、ならびに、α−Gal Aおよびα−Gal AシグナルペプチドをコードしているcDNAに隣接するヒト延長因子−1a(EF-1a)プロモータを含有し、したがって、α−Gal A cDNAの5’末端は、EF-1aプロモータに融合している。CMV IEプロモーターおよび第1イントロンを有する構築体を構成するために、pXAG-1から、2kbのXbaI−BamHIフラグメントとして、α−Gal A cDNAおよびG-CSF3’UTSを除去した。このフラグメントを平滑末端化し、BamHIリンカーに接合し、BamHIで切断したpCMVflpNeo(以下に記載するように構築した)中に挿入した。その方向は、α−Gal A cDNAの5’末端がCMV IEプロモーター領域に融合するような向きであった。
【0134】
pCMVflpNeoは次のようにして作出した。CMVゲノムDNAを鋳型として用い、オリゴヌクレオチド5’−TTTTGGATCCCTCGAGGACATTGATTATTGACTAG−3’(配列番号10)および5’−TTTTGGATCCCGTGTCAAGGACGGTGAC−3’(配列番号11)を用い、PCRによってCMV IEゲノムプロモーターを増幅した。得られた産物(1.6kbフラグメント)をBamHIで切断し、BamHI切断した付着末端を有するCMVプロモーター含有フラグメントを得た。プラスミドpMClneopA(ストラタジーン(Stratagene)社、カリフォルニア州ラ・ホーヤ)から1.1kbのXhoI-BamHIフラグメントとしてneo発現ユニットを単離した。CMVプロモーター含有フラグメントおよびneoフラグメントをBamHI切断、XhoI切断プラスミド(pUC12)に挿入した。特筆すべきことは、pCMVflpNeoは、ヌクレオチド番号546番から始まり、2105番まで続くCMV IEプロモーター領域(ジェンバンク(GenBank)配列HS5MIEP)を有しており、CMV IEプロモーターフラグメントの5’側に隣接した位置に、単純へルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼプロモーターによって稼働するネオマイシン耐性遺伝子(TKneo遺伝子)を有する。neo遺伝子の転写方向は、CMVプロモーターフラグメントのそれと同じである。この中間構築体をpXAG-4と名付けた。
【0135】
hGH 3’UTSを付加するため、GCSF3’UTSは、XbaI−SmaIフラグメントとしてpXAG-4から除去し、pXAG-4を平滑末端化した。hGH 3’UTSは、0.6kbのSmaI-EcoRIフラグメントとしてpXGH5から除去した(セルデン(Selden)ら、Mol. Cell Biol., 6: 3173-3179(1986))。このフラグメントを平滑末端化した後、pXAG-4の平滑末端化XbaI部位のすぐ後ろに接合させた。この中間体をpXAG-7と名付けた。TKneoフラグメントは、HindIII-ClaIフラグメントとしてこのプラスミドから除去し、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメントを用いて「埋め合わせ」することによってこのプラスミドの末端を平滑化した。SV40早期プロモーターによって稼働するネオマイシン耐性遺伝子は、pcDNeoの切断物由来の平滑化ClaI-BsmBIフラグメント内に接合させ(チェン(Chen)ら、Mol. Cell Biol., 7: 2745-2752(1987))、neo転写ユニットがα−GalA転写ユニットと同方向を向くようにした。この中間体をpXAG-13と名付けた。
【0136】
26個のアミノ酸から構成されるhGHシグナルペプチドコード配列およびhGH遺伝子の第一イントロンを有するpXAG-16を完成させるため、はじめに、2.0kbのEcoRI-BamHIフラグメントをpXAG-13から除去した。このフラグメントは、α−GalA cDNAおよびhGH 3’UTSを含む。この大きなフラグメントを3個のフラグメントと置換した。第1のフラグメントは、pXGH5の0.3kbのPCR産物から構成され、ここで、pXGH5は、hGHシグナルペプチドコード配列を有し、さらに、Kozakコンセンサス配列のすぐ上流に位置する合成BamHI部位からhGHシグナルペプチドコード配列の末端に至るhGH第一イントロン配列を有する。次のオリゴヌクレオチド:5’−TTTTGGATCCACCATGGCTA−3’(オリゴHGH101;配列番号12)および5’−TTTTGCCGGCACTGCCCTCTTGAA−3’(オリゴHGH102;配列番号13)を用いてこのフラグメント(フラグメント1)を増幅した。第2のフラグメントは、α−GalA酵素の398個のアミノ酸(すなわち、α−GalAシグナルペプチドを欠く)をコードしているcDNAの始めからNheI部位までに相当する配列を含む0.27kbのPCR産物から構成されている。次のオリゴヌクレオチド:5’−TTTTCAGCTGGACAATGGATTGGC−3’(オリゴAG10;配列番号14)および5’−TTTTGCTAGCTGGCGAATCC−3’(オリゴAG11;配列番号15)を用いてこのフラグメント(フラグメント2)を増幅した。第3のフラグメントは、残りのα−GalA配列およびhGH3'UTSを含むpXAG-7のNheI-EcoRIフラグメントから構成されている(フラグメント3)。
【0137】
フラグメント1(BamHIおよびNaeIで切断)、フラグメント2(PvuIIおよびNheIで切断)およびフラグメント3は、neo遺伝子およびCMV IEプロモーターを有するpXAG-13由来の6.5kbのBamHI−EcoRIフラグメントと混合し、互いに接合させてプラスミドpXAG-16を作出した(図4)。
【0138】
1.2 α−GalA発現プラスミドpXAG-28の構築
α−GalAを発現するpXAG-28の構築に使用するため、以下のようにしてヒトコラーゲンIα2プロモーターを単離した。ヒトコラーゲンIα2プロモーターの一部を含むヒトゲノムDNAの408bpのPCRフラグメントは、次のオリゴヌクレオチド:5’−TTTTGGATCCGTGTCCCATAGTGTTTCCAA−3’(オリゴ72;配列番号16)および5’−TTTTGGATCCGCAGTCGTGGCCAGTACC−3’(オリゴ73;配列番号17)を用いて単離した。
【0139】
このフラグメントを用い、EMBL3(クロンテック( Clontech )社、カリフォルニア州パロ・アルト)内のヒト白血球ライブラリーをスクリーニングした。3.8kbのEcoRIフラグメントを有する1個の陽性クローン(ファージ7H )を単離し、pBSIISK+(ストラタジーン(Stratagene)社、カリフォルニア州ラ・ホーヤ)のEcoRI部位にクローニングした(pBS/7H.2を作出した)。SpeIを用いてpBSIISK+を切断し(SpeIは、pBSIISK+ポリリンカー内を解裂する)、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメントを用いて「充填」し、さらにオリゴヌクレオチド5’−CTAGTCCTAGGA−3’(配列番号18)を挿入することによって、pBSIISK+内にAvrII部位を作出した。このpBSIISK+変異体をBamHIおよびAvrIIで切断し、上述の408bpの本来のコラーゲンIα2プロモーターPCRフラグメント由来の121bpのBamHI-AvrIIフラグメントに接合させ、pBS/121COL.6を作出した。
【0140】
プラスミドpBS/121COL.6をXbaIで切断し(XbaIはpBSIISK+ポリリンカー内を解裂する)、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメントを用いて「充填」し、AvrIIで切断した。pBS/7H.2由来の3.8kbのBamHI-AvrIIフラグメントを単離し、クレノー酵素を用いて処理することにより、BamHI部位を平滑末端化した。次に、このフラグメントをAvrIIで切断し、AvrIIで切断したベクターに接合させることにより、コラーゲンプロモータープラスミドpBS/121bpCOL.7H.18を作出した。
【0141】
次に、ヒトβ−アクチン遺伝子の5’UTSにコラーゲンプロモーターを融合させたが、該ヒトβ−アクチン遺伝子の5UTSは、ヒトβ−アクチン遺伝子の第一イントロンを含んでいる。この配列を単離するため、次のオリゴヌクレオチド:5’−TTTTGAGCACAGAGCCTCGCCT−3’(オリゴBA1;配列番号19)および5’−TTTTGGATCCGGTGAGCTGCGAGAATAGCC−3’(オリゴBA2;配列番号20)を用い、ヒトゲノムDNAから2kbのPCRフラグメントを単離した。
【0142】
このフラグメントをBamHIおよびBsiHKAIで切断し、β−アクチン遺伝子の5’UTSおよびイントロンを含む0.8kbのフラグメントを除去した。次に、以下のようにしてコラーゲンプロモータープラスミドpBS/121bpCOL.7H.18から3.6kbのSalI−SrfIフラグメントを単離した。BamHIを用いてpBS/121bpCOL.7H.18を部分的に切断し(BamHI部位は、コラーゲンIα2プロモーターフラグメントの5’末端に存在している)、クレノーフラグメントで処理することによって平滑末端化し、SalIリンカー(5’−GGTCGACC−3’)に融合させることにより、コラーゲンIα2プロモーターの上流にSalI部位を創出した。次に、SalIおよびSrfIを用いてこのプラスミドを切断し(SrfI部位は、コラーゲンIα2プロモーターCAP部位の110bp上流に存在している)、3.6kbのフラグメントを単離した。0.8kbおよび3.6kbのフラグメントは、SalIおよびBamHIで切断したpBSIISK−(ストラタジーン(Stratagene)社、カリフォルニア州ラ・ホーヤ)、ならびに、互いにアニールした次の4個のオリゴヌクレオチド:5’−GGGCCCCCAGCCCCAGCCCTCCCATTGGTGGAGGCCCTTTTGGAGGCACCCTAGGGCCAGGAAACTTTTGCCGTAT−3’(オリゴCOL-1;配列番号21)、5’−AAATAGGGCAGATCCGGGCTTTATTATTTTAGCACCACGGCCGCCGAGACCGCGTCCGCCCCGCGAGCA−3’(オリゴCOL-2;配列番号22)、5’−TGCCCTATTTATACGGCAAAAGTTTCCTGGCCCTAGGGTGCCTCCAAAAGGCCTCCACCAATGGGAGGGCTGGGGCTGGGGGCCC−3’(オリゴCOL-3;配列番号23)および5’−CGCGGGGCGGACGCGGTCTCGGCGGCCGTGGTGCTAAAATAATAAAGCCCGGATC−3’(オリゴCOL-4;配列番号24)から構成されるフラグメント(平滑末端およびBsiHKAI末端を有する)と組み合わせた。
【0143】
これら4個のオリゴヌクレオチドは、アニールしたときに、コラーゲンプロモーターのSrfI部位から始まり、β−アクチンプロモーターのBsiHKAI部位を通過して続く領域に対応していた。得られたプラスミドをpCOL/β−actinと名付けた。
【0144】
pXAG-28の構築を完了させるため、コラーゲンIα2プロモーターおよびβ−アクチンの5’UTSを含むpCOL/β−actinのSalI-BamHIフラグメントを単離した。このフラグメントをpXAG-16(実施例1.1および図4参照)由来の次の2個のフラグメントと接合させた。(1)6.0kbのBamHIフラグメント(neo遺伝子、プラスミド骨格、α−GalA酵素の398個のアミノ酸をコードしているcDNAおよびhGH3’UTSを含む)、および(2)0.3kbのBamHI−XhoIフラグメント(pcDneo由来のSV40ポリA配列を含む)。pXAG-28は、ヒトコラーゲンIα2プロモーターを有し、ここで、該プロモーターは、ヒトβ−アクチンの5’UTS、hGHシグナルペプチド(hGHの第一イントロンによって遮断されている)、α−GalA酵素をコードしているcDNA、およびhGHの3’UTSに融合している。完成した発現構築体pXAG-28の遺伝子地図は図5に示している。
【0145】
1.3α−GalA発現プラスミドをエレクトロポレーションした繊維芽細胞のトランスフェクションおよび選択
繊維芽細胞内でα−GalAを発現させるため、二次繊維芽細胞を培養し、既報の方法に従ってトランスフェクトした。セルデン(Selden)、WO 93/09222。
【0146】
プラスミドpXAG-13、pXAG-16およびpXAG-28は、エレクトロポレーションによってヒト包皮繊維芽細胞にトランスフェクトすることにより、安定的にトランスフェクトされたクローン細胞系が作出され、α−GalA発現レベルは、実施例1.4の記載に従ってモニターした。正常な包皮繊維芽細胞によるα−GalAの分泌は、24時間あたり2〜10ユニット/106個である。これとは対照的に、トランスフェクトされた繊維芽細胞では、平均発現レベルは表2に示したような値であった。
【表2】

【0147】
これらのデータから、3種類の発現構築体はすべて、α−GalA発現レベルが非トランスフェクト繊維芽細胞の何倍にも増加していることが示された。pXAG-13を安定的にトランスフェクトした繊維芽細胞による発現は、pXAG-16をトランスフェクトした繊維芽細胞による発現よりも実質的に少なかったが、ここで、pXAG-13は、α−GalAシグナルペプチドに結合しているα−GalAをコードしており、pXAG-16は、シグナルペプチドがhGHシグナルペプチドであることのみが相違点であり、該hGHシグナルペプチドのコード配列はhGH遺伝子の第一イントロンによって遮断されている。
【0148】
トランスフェクトした細胞を継代するたびに、分泌されたα−GalAの活性を測定し、細胞数を計測し、細胞密度を計算した。回収された細胞数およびα−GalAを分泌させた時間に基づき、α−GalAの特異的発現速度を求め、24時間あたりの分泌ユニット/106個として表3および4にまとめた。遺伝子治療またはα−GalA精製用の材料の調製に使用するために所望される細胞株は、安定的に増殖し、かつ数代にわたって発現を示すものでなければならない。表3および4に示している細胞株(α−GalA発現構築体pXAG-16を安定的にトランスフェクトしたもの)から得られたデータは、連続的な継代期間中、α−GalA発現レベルが安定的に維持されていたという事実を示すものである。
【表3】

【表4】

【0149】
1.4 α−GalA発現レベルの定量
α−GalA活性は、イアノー(Ioannou)らによって記載(J. Cell Biol., 119: 1137-1150(1992))されたプロトコールを変形し、水溶性基質である4−メチルウンベリフェリル−α−D−ガラクトピラノシド(4−MUF-gal;リサーチ・プロダクツ(Research Products)社)を用いて測定した。基質を基質緩衝液(0.1Mのクエン酸−リン酸緩衝液、pH4.6)に溶解し、濃度を1.69mg/ml(5mM)にした。一般的には、75mlの基質溶液に10mlの培養上清を加えた。試験管にふたをし、37℃の水槽内で60分間インキュベートした。インキュベート時間の終わりに2mlのグリシンーカルボネート緩衝液(130mMのグリシン、83mMの炭酸ナトリウム、pH10.6)を用いて反応を停止した。固定励起波長が365nmであり、460nmの固定発光波長を検出するモデルTK0100フルオロメーター(ホーファー・サイエンティフィック・インストゥルメンツ(Hoefer Scientific Instruments)社)を用いて各サンプルの相対蛍光を測定した。サンプルの読みとり値は、1mMのメチルウンベリフェロン(シグマ( Sigma )社)のストック溶液から調製した標準サンプルと比較し、加水分解された基質の量を計算した。α−GalAの活性はユニットで表し、α−GalA活性の1ユニットは、37℃において1時間に加水分解された1nmolの基質量と等価である。細胞発現データは、24時間に106個の細胞によって分泌されたα−GalA活性のユニットとして表した。このアッセイを用いることにより、細胞溶解物中、および以下に記載するようなα−GalAの精製過程の様々な段階から得られたサンプル中のα−GalA活性量を測定することもできる。
【0150】
1.5 遺伝子活性化されたα−GalA(GA-GAL)の調製
遺伝子活性化されたα−GalA(GA-GAL)の産生は、実質的に米国特許第5,733,761号に記載されているGA技術を用い、ヒトα−GalAコード配列の上流に制御および構造DNA配列を挿入することによって行った。ここで、前記特許を参考として本明細書中に取り入れておく。遺伝子活性化配列の正確な挿入は、トランスフェクトしたDNAフラグメント上に存在するDNAとヒト細胞内のα−GalA遺伝子座の上流に存在するゲノムDNA配列との間において相同的組換えを行うことによって達成することができる。遺伝子活性化配列は、それ自身がシグナルペプチド解裂部位までのα−GalAコード配列を有するが、該解裂部位は含まれていない。活性化されたα−GalA遺伝子座を含む細胞を単離し、薬剤選択を行い、GA-GAL産生が増加している細胞を単離した。
【0151】
適切な遺伝子活性化配列を含む標的DNAフラグメントは、エレクトロポレーションによって宿主ヒト細胞系に導入した。そのようなヒト細胞系のひとつとしてはHT-1080が挙げられるが、これは、ATCC(メリーランド州ロックヴィル)から入手可能な保証された細胞系である。そのようなDNAフラグメントを有する遺伝子活性化プラスミド(標的構築体)pGA213Cを図9に示す。このプラスミドは、宿主細
胞系内の内因性α−GalA遺伝子座の一部を活性化するように設計された配列、およびヒトα−GalA以外のシグナルペプチドをコードしている配列を有する。標的構築体は、バクテリアのneo遺伝子およびマウスのdhfr遺伝子用の発現カセットをも有する。このことにより、安定的に組み込まれた標的フラグメントの選択(neo遺伝子を介して)、およびそれに続いてメトトレキセート(MTX)による段階的選択を用いたdhfr遺伝子の選択を行うことができる。
【0152】
さらに、pGA213Cは、相同的組換えにより、内因性α−GalA遺伝子座の上流に存在する染色体配列を標的とするように設計された配列を有する。内因性α−GalA遺伝子座とpGA213Cの9.6kbのDNAフラグメントとの間の相同的組換えについては図10に示す。
【0153】
pGA213CフラグメントとX染色体のα−GalA遺伝子座との相同的組換えにおいては、α−GalAのメチオニン開始コドンに関して−1183番〜−222番の間に存在する962bpのゲノム配列を削除してpGA213Cを構築した。α−GalA遺伝子座の転写活性化は、α−GalAコード領域の上流に存在する外来性の制御配列を正確に標的にするように行われる。得られたGA-GAL遺伝子座は、CMVプロモーターから転写を開始し、CMVのエクソン1、アルドラーゼイントロン、ならびにα−GalAをコードしている配列の7個のエクソン、および6個のイントロンを通って進行した。大きな前駆体mRNAのスプライシングにより、外来性のCMVエクソン(標的化によって挿入されたもの)とα−GalA転写体の内因性の第一エクソン全体とが結合した。GA-GAL mRNAの翻訳により、31個のアミノ酸から構成されるシグナルペプチドを有するプレGA-GALが得られた。宿主細胞からの分泌に際して、シグナルペプチドは除去される。GA-GAL mRNAの存否に関してポリメラーゼ連鎖反応スクリーニングを行うことにより、正確に標的化された細胞系が初めて同定された。GA-GAL mRNAを産生するクローンは、酵素的に活性なα−GalAを培養培地中に分泌することも見出された。続いて行った標的事象の確認は、ゲノムDNAの制限酵素による切断およびサザンブロットハイブリダイゼーション分析によって行った。
【0154】
メトトレキセート(MTX)による段階的選択を行って細胞を選択した。0.05μMのMTX中で選択を行った後、細胞のクローンを単離し、0.1μMのMTX中での選択を行った。この過程を行ったことにより、0.1μMのMTXに耐性の細胞集団(細胞系RAG001)が単離され、これを拡張培養し、特性付けを行った。
【0155】
実施例2 α−GalAの精製
以下に記載するのは、α−GalAの産生、精製および試験に関する好ましい方法である。精製過程においては、精製過程を通してα−GalAの可溶性、活性、天然由来の型を維持していた。タンパク質は、極端なpH、有機溶媒または界面活性剤にさらされることなく、精製過程中にタンパク質分解を起こすことなく、さらに、凝集体を形成しなかった。精製過程は、α−GalAグリコフォームの分布状態を変化させないように計画した。
【0156】
2.1 α−GalAの精製
実施例2.1は、安定的にトランスフェクトされて酵素を産生している培養ヒト細胞株のコンディションドメディウムからほぼ均質な状態でα−GalAが精製され得ることを示している。α−GalAは、5段階の連続したクロマトグラフィーを用い、α−GalA含有培地から単離した。5つの段階には、酵素の別異の物理学的特性を利用して混在物質からα−GalAを分離するような多様な分離原理を適用した。分離法としては、ブチルセファロース(butyl Sepharose)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトを用いたイオン性相互作用、Qセファロース(Q Sepharose)を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー、およびスーパーデックス200(Superdex200)を用いた分子ふるいクロマトグラフィーが挙げられる。精製過程の最終段階を実施することに加えて、分子ふるいクロマトグラフィーは、精製されたタンパク質を製剤相溶性緩衝液に交換する有効な手段としても作用する。
【0157】
A.α−GalA精製の第一段階としてのブチルセファロース(butyl Sepharose)の使用
冷コンディションドメディウム(1.34l)は、遠心分離およびグラスファイバープレフィルターを用いて0.45μmの酢酸セルロースフィルターを通したろ過により清澄化した。撹拌しながら、1NのHClを滴下することによって、ろ過した冷培地のpHを5.6に調整し、さらに、3.9Mの超純粋硫酸アンモニウムの保存溶液(室温)を滴下し、硫酸アンモニウムの最終濃度を0.66Mにした。培地は4℃でさらに5分間撹拌し、上述したようにろ過し、ブチルセファロース4ファストフロー(butyl Sepharose4 Fast Flow)カラム(カラム容量81ml、2.5×16.5cm、ファルマシア( Pharmacia )社(スウェーデン、ウプサラ)にかけたが、このとき、カラムは0.66Mの硫酸アンモニウムを含む10mMのMES-Tris(pH5.6)(緩衝液A)で平衡化してから使用した。クロマトグラフィーは、4℃においてグラディ−フラクシステム(Gradi-Frac(登録商標) System)(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)を用いて行い、総タンパク質量および塩濃度を測定するためのUV(280nm)および伝導性モニターを並列に配備した。流速10ml/分でサンプルを添加した後、10カラム容量の緩衝液Aを用いてカラムを洗浄した。緩衝液A(硫酸アンモニウムを含む)から10mMのMES-Tris(pH5.6)(硫酸アンモニウムを含まない)まで直線的に濃度を勾配させたところ、14カラム容量目にブチルセファロース(butyl Sepharose)カラムからα−GalAが溶出した。4−MUF−galアッセイを用い、α−GalA活性に関してフラクションのアッセイを行い、明らかな酵素活性を含むフラクションを集めた。図8および精製のまとめ(表5)に示すように、この段階によって混在タンパク質の約99%が除去された(カラム前のサンプル=総タンパク質量8.14g、カラム後のサンプル=総タンパク質量0.0638g)。
【表5】

【0158】
B.α−GalAの精製段階としてのヘパリンセファロース(Heparin Sepharose)クロマトグラフィーの使用
ブチルセファロース(butyl Sepharose)カラムのピークフラクションは、4℃、10mMのMES-Tris(pH5.6)(4l)中で透析した(途中で一度交換した)。透析物の伝導度は、必要に応じてH2OまたはNaClを添加することにより、4℃において1.0mMHOに調整した。その後、サンプルをヘパリンセファロース6ファスト・フロー(Heparin Sepharose6 Fast Flow)(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)カラム(カラム容量29ml、2.5×6cm)にかけたが、このとき、カラムは9mMのNaClを含む10mMのMES-Tris(pH5.6)(緩衝液B)で平衡化してから使用した。この操作は4℃において流速10ml/分で行った。並列に配備したUV(280nm)および伝導性モニターにより、総タンパク質量および塩濃度を測定した。サンプルの添加後、10カラム容量の緩衝液Bでカラムを洗浄し、次に、3カラム容量で8%の緩衝液C(250mMのNaClを含む10mMのMES-Tris(pH5.6))/92%の緩衝液Bまで直線的に濃度を勾配させ、さらに、8%の緩衝液Cを10カラム容量用いてカラムを洗浄した。続いて、1.5カラム容量で29%の緩衝液Cまで直線的に濃度を勾配させ、続いて、10カラム容量で35%の緩衝液Cまで濃度を勾配させることによってα−GalAを溶出させた。フラクションのα−GalA活性をアッセイし、適切な活性を有するフラクションを集めた。
【0159】
C. α−GalAの精製段階としてのハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーの使用
ヘパリンカラムから得られた活性を有するフラクションを集めたものをろ過し、セラミックハイドロキシアパタイトHC(40μm、アメリカン・インターナショナル・ケミカル(American International Chemical)社、マサチューセッツ州ナティック)カラム(カラム容量12ml、1.5×6.8cm)に直接かけたが、このとき、カラムは1mMのリン酸ナトリウム(pH6.0)(緩衝液D)で平衡化してから使用した。クロマトグラフィーは、室温において、UV(280nm)および伝導性モニターを並列に配備したハイブリッドグラディ−フラク/FPLCシステム(Gradi-Frac/FPLC(登録商標) System)(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)を用いて行った。サンプルの添加後(5ml/分)、10カラム容量の緩衝液Dを用いてカラムを洗浄した。7カラム容量で42%の緩衝液E(250mMのリン酸緩衝液(pH6.0))/58%の緩衝液Dまで直線的に濃度を勾配させ、続いて、10カラム容量で52%の緩衝液Eまで濃度を勾配させることによってα−GalAを溶出させた。フラクションのα−GalA活性をアッセイし、適切な活性を有するフラクションを集めた。
【0160】
D. α−GalAの精製段階としてのQセファロース(Q Sepharose)陽イオン交換クロマトグラフィーの使用
ハイドロキシアパタイトカラムから得られた活性を有するフラクションを集めて水で約1.5倍に希釈し、室温における最終伝導度を3.4〜3.6mMHOに調整した。ろ過後、サンプルをQセファロースHP(Q SepharoseHP)(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)カラム(カラム容量5.1ml、1.5×2.9cm)にかけたが、このとき、カラムは10%の緩衝液G(25mMのリン酸ナトリウム(pH6.0)、250mMのNaCl)/90%の緩衝液F(25Mのリン酸ナトリウム(pH6.0))で平衡化してから使用した。クロマトグラフィーは、室温において、ハイブリッドグラディ−フラク/FPLCシステム(Gradi-Frac/FPLC System)(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)を用いて行い、並列に配備したモニターで総タンパク質量および塩濃度をモニターした。サンプルは流速5ml/分で流し、続いて次のような操作を行った。(1)5カラム容量の10%の緩衝液Gを用いて洗浄、(2)7カラム容量の12%の緩衝液Gを用いて洗浄、(3)3カラム容量で50%の緩衝液Gまで直線的に濃度を勾配、(4)10カラム容量で53%の緩衝液Gまで濃度を勾配、(5)3カラム容量で100%の緩衝液Gまで濃度を勾配、さらに、(6)10カラム容量の100%の緩衝液Gでカラムを洗浄。α−GalAは、段階(3)および(4)の間に主に溶出した。適切な活性を有するフラクションを集めた(「Qプール」と名付けた)。
【0161】
E. α−GalAの精製段階としてのスーパーデックス200(Superdex200)ゲルろ過クロマトグラフィーの使用
Qプールは、セントリプレップ−10(centriprep(登録商標)-10)遠心性濃縮器ユニット(アミコン(Amicon)社、マサチューセッツ州ビヴァリー)を用いて約5倍に濃縮し、スーパーデックス200(Superdex200)(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)のカラム(カラム容量189ml、1.6×94cm)にかけた。カラムは、150mMのNaClを含む25mMのリン酸ナトリウム(pH6.0)を用いて平衡化し、溶出させた。クロマトグラフィーは、室温において、UV(280nm)モニターを並行に配備したFPLCシステム(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)上で行い、タンパク質の溶出を追跡した。カラムに添加したサンプルの容量は2ml以下、流速は0.5ml/分、フラクションの容量は2mlとした。複数のカラムを用いて分離を行い、フラクションのα−GalA活性をアッセイし、適切な活性を有するフラクションを集めた。
【0162】
スーパーデックス200(Superdex200)から得たフラクションを集めたものは、セントリプレップ−10(centriprep-10)ユニットを用いて濃縮し、アリコートに分け、急速冷凍し、−80℃で短時間保存した。α−GalAの精製に関する本実施例のまとめを表5に示す。最終的なα−GalAの収率は、出発材料の活性の59%であり、精製された生成物の比活性は、タンパク質1mgあたり2.92×106ユニットであった。還元条件下で4〜15%のSDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて行った電気泳動およびその後の銀染色により、得られた生成物は純度が高いことが示された。
【0163】
まとめ
精製過程を実施することにより、高度に精製されたα−GalAが得られた。精製の大部分は最初の2段階で行われ、最後の3つの段階では、残留している微量混在物質を除去することにより、材料に仕上げを施した。最後の段階であるスーパーデックス200(Superdex200)を用いた分子ふるいカラムクロマトグラフィーもα−GalAを製剤相溶性緩衝液に交換する働きをした。
【0164】
2.2 安定的にトランスフェクトされたヒト細胞を培養することによって産生されたα−GalAの大きさ
精製ヒトα−GalAの構造的および機能的特性について精査した。還元条件下で4〜15%のSDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて行った電気泳動およびその後の銀染色により、得られた生成物は純度が高いことが示された。
【0165】
α−GalAの分子量は、MALDI-TOFマススペクトロメトリーによって概算した。これらの結果から、ダイマー(二量体)の分子量は102,353Da、モノマー(単量体)のそれは51,002Daであることが示された。アミノ酸組成に基づくモノマーの推定分子量は45,400Daであった。故に、酵素の炭化水素含量は、分子量のうちの5,600Da未満であった。
【0166】
2.3 安定的にトランスフェクトされたヒト細胞によって産生されたα−GalAの炭化水素修飾
本発明に従って産生されたα−GalAのグリコシル化パターンについても評価を行った。適切なグリコシル化は、イン・ビボ(in vivo)におけるα−GalAの活性を最適化するために重要であり、グリコシル化が行われない系において発現されたα−GalAは不活性または不安定である。ハンゾポロウス(Hantzopolous)ら、Gene 57: 159(1987)。グリコシル化はα−GalAが所望する標的細胞内に移行する際にも重要であり、イン・ビボ(in vivo)における酵素の循環半減期にも影響を与える。α−GalAの各サブユニット上には、アスパラギン結合炭化水素鎖の付加が可能な部位が4個あり、このうちの3個のみが埋まっている。デスニック(Desnick)ら、「遺伝病の代謝的および分子的基礎(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease)」(マグロウ・ヒル(McGraw Hill)社、ニューヨーク(1995年))、pp. 2741-2780。
【0167】
安定的にトランスフェクトされた細胞によって産生されたα−GalAのサンプルをA. urafaciensから単離したノイラミニダーゼ(ベーリンガー−マンハイム(Boehringer-Mannheim)社、インディアナ州インディアナポリス)を用いて処理し、シアル酸を除去した。この反応は、室温、総容量10mlの酢酸緩衝生理食塩水(ABS、20mMの酢酸ナトリウム、pH5.2、150mMのNaCl)中において、10mUのノイラミニダーゼを用いて5mgのα−GalAを一晩処理することによって行った。
【0168】
安定的にトランスフェクトされた細胞によって産生された精製α−GalAは、アルカリホスファターゼ(仔ウシ腸内のアルカリホスファターゼ、ベーリンガー−マンハイム(Boehringer-Mannheim)社、インディアナ州インディアナポリス)を用いて脱ホスホリル化も行ったが、これは、室温、ABS(1MのTrisを用いてpHを7.5に上げた)中において、15Uのアルカリホスファターゼを用いて5mgのα−GalAを一晩処理することによって行った。
【0169】
サンプルは、SDS-PAGEおよび/または集中電気泳動法を行い、その後、抗α−GalA特異的抗体を用いたウェスタンブロットを行うことによって分析した。使用抗体はウサギポリクローナル抗ペプチド抗体であり、これは、免疫原としてα−GalAのアミノ酸の68〜81番に相当するペプチドを用いて作成した。タンパク質をPVDF(ミリポア( Millipore )社、マサチューセッツ州ベッドフォード)に移した後、2.5%のブロット(20mMのTris−HCl中に脱脂粉乳を添加、pH7.5、0.05%のツイーン(Tween)−20)で1:2000に希釈した抗血清を用いて膜をプローブした。続いて、ホースラディッシュパーオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗ウサギIgG(オルガノ・テクニック/カペラ(Organo Technique/Cappella)社、ノースカロライナ州ドゥルハム、1:5000希釈)およびECL化学発蛍光キット(アマシャム( Amersham )社、インディアナ州アーリントンハイツ)の反応試薬を用いて検出を行った。
【0170】
ノイラミニダーゼを用いてα−GalAを処理し、続いてSDS-PAGE分析を行うことにより、分子量シフトが明らかになり(約1500〜2000Daまたは4〜6個のシアル酸/モノマー)、シアル酸によってα−GalAが大規模に修飾されたことを示唆している。参考までに、α−GalAのプラズマ型はモノマー1個あたり5〜6個のシアル酸を有しており、胎盤型はモノマー1個あたり0.5〜1.0個のシアル酸を有する。ビショップ(Bishop)ら、J. Biol. Chem., 256: 1307(1981)。
【0171】
α−GalAのシアル酸およびM6P修飾を調べるための別の方法としては、集中電気泳動法(IEF)が挙げられ、このとき、サンプルはその等電点(pI)または正味電荷に基づいて分離する。従って、シアル酸またはホスフェートなどの電荷を帯びた残基をα−GalAから除去することにより、IEFシステムにおけるタンパク質の移動度が変化すると考えられる。
【0172】
IEF実験を行うことを目的として、ノイラミニダーゼおよび/またはアルカリホスファターゼを2×ノヴェックス(Novex)サンプル緩衝液(8Mの尿素を添加、pH3.0〜7.0)で1:1混合したものを用い、本発明に従って産生されたα−GalAのサンプルを処理し、次に、ファルマライト(Pharmalyte(登録商標))(ファルマシア( Pharmacia )社、スウェーデン、ウプサラ)(pH3.0〜6.5、各ゲルに対して4〜6.5および2.5〜5.5、0.25ml)を用いて調製した6M尿素IEFゲル(5.5%のポリアクリルアミド)に加えた。等電点標準物質(バイオ−ラド(Bio-Rad)社)も加えた。電気泳動後、ゲルをPVDFに移し、上述したようにウェスタンブロット分析を行った。
【0173】
酵素をノイラミニダーゼ処理することによって3種のイソ型すべてについてpIが上昇したことから、すべての酵素がシアル酸によってある程度修飾されたことを示している。これらのデータから、本明細書の記載に従って産生されたα−GalA調製物は、望ましいプラズマ半減期を有し、従ってこの調製物が薬理学的使用に非常に適していることが示唆された。さらに、ノイラミニダーゼ処理したα−GalAをアルカリホスファターゼで処理することにより、タンパク質の一部のpIが約5.0〜5.1まで上昇し、このことから、酵素が1個またはそれ以上のM6Pを有していることが示唆された。この修飾は、α−GalAが標的細胞によって効率的に取り込まれるために必要である。
【0174】
α−GalAのN−結合炭化水素鎖は、イオン交換HPLC(グリコ−セプC(Glyco-Sep C))を用いて分析し、蛍光化合物である2−アミノベンザミド(AB)を用いて非還元末端をラベルした。3種の別異に調製したα−GalA調製物に関するAB-グリカンの分析結果を表6にまとめている。3種の調製物すべてにおいてZ数は170以上であった。さらに、グリカンの67%以上がシアリル化されており、16%以上がホスホリル化されており、中性であったのは16%以下であった。これらの結果は、これまでに報告されている結果と比較して、非常に好ましいものであった。例えば、デスニック(Desnick)らは、米国特許第5,356,804号において、グリカンの60%以上が中性であり、シアリル化されたのはわずかに11%であったと報告している。
【表6】

【0175】
精製GA-GAL調製物についてのさらに詳細な性質については表7に示す。
【表7】

【0176】
2.4 α−GalA種を分画することによって荷電α−GalAの比率を上げる方法
上述したように、α−GalAのグリコフォームの分画は、本明細書に記載した精製過程の様々な段階において行われる。本実施例においては、分子の大きさと電荷によってα−GalAを分画した。これらの、または上述したようなその他のクロマトグラフィー技術を組み合わせることによってα−GalAを分画することもできる。
【0177】
α−GalAグリコフォームを分子の大きさに従って分画するために、リン酸緩衝生理食塩水(pH6.0)で平衡化したスーパーデックス200(Superdex200)(ファルマシア( Pharmacia )社、1.6×94.1cm)カラムを用いて分子ふるいカラムクロマトグラフィーを行った。α−GalA(2.6mg/ml)をカラムに加え、流速0.35ml/分で溶出させた。溶出プロファイルに従ってフラクションを集め、α−GalAの幅広い溶出ピークを構成しているフラクションについてSDS-PAGEによる分析を行い、銀染色を行って可視化した。ピークの最初の裾に相当するフラクションには、最も分子量の大きいα−GalAが含まれており、ピークを追っていくに連れ、α−GalAの見かけの分子量は徐々に減少した。次に、α−GalAのフラクションを選択して集めることにより、所望する分子量範囲のα−GalA調製物が得られた。
【0178】
α−GalAグリコフォームを電荷によって分画するために、Qセファロース(Q Sepharose)クロマトグラフィーによってα−GalAを分画した。Qセファロース(Q Sepharose)カラム(1.5×9.4cm)を30mMのNaClを含む20mMのリン酸ナトリウム(pH6.0)で平衡化し、流速を5ml/分に維持した。α−GalA(130mg/166ml)をカラムに加え、平衡緩衝液で洗浄し、次に、130mMのNaClを含む20mMのリン酸ナトリウム(pH6.0)で溶出させた。より多くの分画を行うためには、平衡緩衝液から溶出緩衝液に至る(例えば、10カラム容量などでの)濃度勾配溶出を行うことができる。溶出プロファイルに従ってフラクションを集め、α−GalAの溶出ピークを含むフラクションについてSDS-PAGEによる分析を行い、銀染色を行って可視化した。ゲル上で観察されたグリコフォーム型のうち、分子量が最小のものは洗浄溶液中およびピークの最初の裾において溶出し、分子量が最大のものがピークの末端にかけて溶出した。分子量がより小さいものは、負の電荷をあまり帯びていないα−GalAのグリコフォームに相当し、これらは、正の電荷を帯びたQセファロース(Q Sepharose)カラム(四級アミン置換樹脂から構成されている)への結合が弱い。SDS-PAGE分析を行ったところ、負の電荷が最も高いα−GalA種は溶出プロファイルの後半で溶出し、分子量が大きかった。電荷による分画は、溶出フラクションまたは選択的プールについて等電集中法を行うことによって確認した。
【0179】
従って、分子の大きさによる分画および電荷による分画のいずれの方法によっても、高い電荷を帯びたα−GalAグリコフォームを選択することができた。
【0180】
2.5 マンノースまたはマンノース−6−ホスフェート(M6P)を介したα−GalAの内部移行
安定的にトランスフェクトされた細胞によって産生されたα−GalAをα−GalA欠乏症に対する有効な治療剤にするためには、影響を受けるべき細胞によって酵素が取り込まれなければならない。α−GalAは、生体のpHレベル(例えば、血中または腸内液中など)においては、活性が最小限に抑えられている。α−GalAは、リソソームの酸性環境内に取り込まれた場合にのみ、蓄積した脂質基質を最大限に代謝する。この内部移行は、α−GalAがM6Pレセプターに結合することによって媒介され、ここで、M6Pレセプターは、細胞表面に発現しており、エンドサイトーシス経路を介して酵素をリソソームに輸送する。M6Pは普遍的に発現され、ほとんどの体細胞はある程度の量のM6Pを発現している。マンノースレセプターは、糖タンパク質上に露出しているマンノース残基に特異的であり、それほど普遍的に存在しているわけではない。一般的には、マンノースレセプターは、マクロファージおよびマクロファージ様細胞上にのみ見出され、このような種類の細胞内にα−GalAが侵入するための追加の手段を提供する。
【0181】
M6Pの媒介によってα−GalAの取り込みが行われることを示すことを目的として、本発明に従う精製α−GalAの濃度を上昇させながら、ファブリー病患者由来の皮膚繊維芽細胞(NIGMS ヒト遺伝子突然変異細胞貯蔵所(NIGMS Human Genetic Mutant Cell Repository))を一晩培養した。いくつかのサンプルには5mMの可溶性M6Pが含まれており、これは、M6Pレセプターへの結合およびM6Pレセプターによる内部移行を競合阻害する。他のサンプルには30mg/mlのマンナンが含まれており、これは、マンノースレセプターへの結合およびマンノースレセプターによる内部移行を阻害する。インキュベーション後、細胞を洗浄し、細胞溶解緩衝液(10mMのTris(pH7.2)、100mMのNaCl、5mMのEDTA、2mMのペファブロック(Pefablock(登録商標))、ベーリンガー−マンハイム(Boehringer-Mannheim)社、インディアナ州インディアナポリス)および1%のNP-40)中にかき集めることによって回収した。溶解したサンプルについてタンパク質濃度およびα−GalA活性の分析を行った。結果は、細胞タンパク質1mgあたりのα−GalA活性のユニットとして表した。ファブリー細胞は、投与量依存形式でα−GalAを取り込んだ。この取り込みは、M6Pで阻害されたが、マンナンによっては阻害されなかった。故に、ファブリーの繊維芽細胞におけるα−GalAの内部移行は、M6Pレセプターによって媒介されるが、マンノースレセプターによっては媒介されない。
【0182】
α−GalAは、イン・ビトロ(in vitro)において内皮細胞によっても取り込まれるが、この細胞は、ファブリー病の治療に関する重要な標的細胞である。7500ユニットのα−GalAを添加してヒトの臍静脈内皮細胞(HUVECs)を一晩培養し、このうちいくつかのウェルにはM6Pを添加した。インキュベーション期間後、細胞を回収し、上述したようにα−GalAをアッセイした。α−GalAを添加してインキュベートした細胞の酵素レベルは、対照(α−GalAを添加しないでインキュベートした)細胞のそれの約10倍であった。M6Pは、α−GalAが細胞内に蓄積することを阻害したことから、HUVECsによるα−GalAの取り込みはM6Pレセプターを介したものであることが示唆された。故に、本発明のヒトα−GalAは、臨床的に意味のある細胞によって取り込まれる。
【0183】
マンノースレセプターを発現することが知られているヒト培養細胞系はほとんど存在しない。しかしながら、マンノースレセプターを有するが、M6Pレセプターはほとんど有しないマウスマクロファージ様細胞系(J774.E)を用いることにより、本発明に従う精製α−GalAがマンノースレセプターを介して取り込まれるか否かを確認することができる。ディメント(Diment)ら、J. Leukocyte Biol. 42: 485-490(1987)。10,000ユニット/mlのα−GalAを添加してJ774.E細胞を一晩培養した。選択したサンプルには2mMのM6Pも添加し、また、他のサンプルには100mg/mlのマンナンを添加した。細胞を洗浄し、上述したように回収し、各サンプルの総タンパク質量およびα−GalA活性を測定した。M6Pはこれらの細胞によるα−GalAの取り込みを阻害しなかったが、マンナンはα−GalAの蓄積レベルを75%まで低下させた。従って、本発明のα−GalAは、このような特殊な細胞表面レセプターを発現する細胞型においては、マンノースレセプターによって取り込まれる。
【0184】
実施例3 薬剤学的製剤化
緩衝溶液および製剤の調製
α−GalAの精製バルクはα−GalA希釈剤を用いて最終濃度に希釈した。製剤化される精製バルクの容量の基づき、α−GalAの濃度(mg/ml)、ならびに最終製剤中におけるα−GalAの所望濃度、必要なα−GalA希釈剤の容量を決定した。α−GalA希釈剤は、適切な量のWFI、塩化ナトリウムおよび一塩基性リン酸ナトリウムを混合し、ならびに水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを6.0に調整することにより、使用の24時間以内に調製した。α−GalA希釈剤の組成は表8に示す。
【表8】

【0185】
0.2mmの滅菌ナイロンフィルター(ナルジェ・ヌンク・インターナショナル(Nalge Nunc International)社、ニューヨーク州ロチェスター)を用い、吸引ろ過を行うことによって1lまたはそれ以下の量のα−GalA希釈剤をろ過した。より大量をろ過する場合には、蠕動性ポンプおよび0.2mmのスポール(Supor(登録商標))カプセルフィルター(ポール(Pall)社、ニューヨーク州ポートワシントン)を用い、加圧することによってろ過した。すべてのフィルターは、ろ過後の泡立ち点における不変性試験を行った。混合およびろ過段階は、クラス100の層流フード内で行った。α−GalA希釈剤は、混合容器内中でα−GalAの精製バルクに加え、最終的に1mg/mlの溶液とした。次に、適量のポリソルベート20(ツイーン(Tween)20、スペクトラム(Spectrum)社)を加えて最終濃度が0.02%になるようにした。
【0186】
実施例4 脱シアリル化脱ガラクトシル化α−GalA
グリコシル化がα−GalAの生体分布に及ぼす効果を調査することを目的として、α−GalAの精製調製物を順次脱グリコシル化し、各型をマウスに注射した。注射4時間後にマウスの臓器を採取し、組織の免疫組織化学を行い、タンパク質の生体分布における変化がわかるように可視化した。
【0187】
最初に、α−GalAをノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)で処理してシアル酸残基を除去し、ガラクトース部位を露出させた。このシアリダーゼ処理を行ったものの一部をさらにβ−ガラクトシダーゼと反応させ、ガラクトース残基を除去した。このことにより、N-アセチルグルコサミン(GlcNAC)残基が露出した。次に、N-アセチルグルコサミニダーゼによってGlcNACを除去し、タンパク質上にコアマンノース基が残った。未処理のα−GalA(対照)または処理を行ったタンパク質のうちの一種を尾静脈からマウスに注射した。注射4時間後、マウスから肝臓、脾臓、心臓、腎臓および肺を採取、保存し、α−GalA検出のために免疫染色を行った。
【0188】
未処理タンパク質を注射された対照マウスと比較すると、シアリダーゼ処理を行った酵素(ガラクトース残基が露出しているもの)を注射されたマウスでは、肝臓中にα−GalAがより局在しており、調査を行ったその他の臓器中の酵素は少なかった。さらに、肝臓における染色パターンが非常に異なっていた。対照マウスにおいては、α−GalAは最初にクッパー細胞および内皮細胞に局在しており、肝細胞の染色状態は中程度であった。シアリダーゼ処理行ったα−GalAを注射されたマウスにおいては、酵素は肝細胞のみに局在しており、アシアロ糖タンパク質レセプターに関する既知の生体分布と一致していた。脱グリコシル化が生体分布に及ぼすこのような効果は、β−ガラクトシダーゼによってガラクトース残基を除去すると逆転した。ガラクトース部位を有しないタンパク質を注射されたマウスの肝臓において観察された染色パターンは、対照マウスのそれと同様であり、染色の大部分はクッパー細胞および内皮細胞において観察され、肝細胞の染色は最小限であった。N-アセチルグルコサミニダーゼを用いてα−GalAをさらに処理しても、β−ガラクトシダーゼ処理したタンパク質に関して観察された染色パターンからの変化は見られなかった。すなわち、N-アセチルグルコサミン残基を除去することは、α−GalAの生体分布にほとんど影響を与えないと考えられた。
【0189】
実施例5 α−GalAを発現するヒト繊維芽細胞によるファブリー繊維芽細胞の補正
遺伝子治療を行うためには、α−GalAを産生する自己細胞を移植したものが、標的細胞内のα−GalA欠乏状態を「補正する」ように適切に変形された型の酵素を産生しなければならない。ファブリー細胞にトランスフェクトされたヒト繊維芽細胞によるα−GalA産生の効果を評価するため、トランスウェルズ(Transwells(登録商標))(コスター(Costar)社、マサチューセッツ州ケンブリッジ)内において、ファブリー病患者由来の繊維芽細胞(NIGMSヒト遺伝子突然変異細胞貯蔵所(NIGMS Human Genetic Mutant Cell Repository)をα−GalA産生細胞株(BRS-11)と共培養した。ファブリー細胞は、12ウェルの組織培養皿で培養し、そのうちのいくつかには、細胞が増殖可能な表面を有するインサート(inserts)(トランスウェルズ(Transwells)、孔径0.4mm)を入れた。インサートの増殖マトリックスは有孔性であり、巨大分子がマトリックスの上側から下側へ通過することができる。一組のインサートは、最低レベルのα−GalAを分泌する正常ヒト包皮(HF)繊維芽細胞を含んでいたが、別の組は、安定的にトランスフェクトされたヒト繊維芽細胞系BRS-11を含んでおり、これは、大量のα−GalAを分泌した。α−GalA産生細胞と共培養したウェルにおいては、ファブリー細胞が存在している培地中にα−GalAが侵入することができ、ファブリー細胞によって取り込まれると考えられる。
【0190】
表9に示すデータから、ファブリー細胞は分泌されたα−GalAを取り込んだことが示されている。α−GalAの細胞内レベルは3日間モニターした。単独で(インサートなし)、または非トランスフェクト包皮繊維芽細胞の存在下(HFインサート)で培養したこれらの細胞は、細胞内のα−GalA活性レベルが非常に低かった。しかしながら、α−GalA産生(BRS-11インサート)細胞と共に培養したファブリー細胞の酵素レベルは、2日目終了時には、正常細胞のそれらと同様の値を示した(正常繊維芽細胞のα−GalAレベルは、タンパク質1mgあたり25〜80ユニットである)。補正がM6Pレセプターを介して取り込まれたα−GalAによるものであることは、M6Pレセプターによって阻害される(BRS-11インサート+M6P)ことによって示された。
【表9】

【0191】
以上の記述は、本発明を説明することを目的としてのみ示されたものであり、本発明の開示範囲を限定するためのものではなく、本発明の範囲は上記の請求項によって定められる。請求項および明細書においては、特に明言していない限り、ひとつの形式に複数の参考例を含む。本明細書中に引用しているすべての特許および出版物を参考として本明細書中に取り入れておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SDS-PAGEまたは逆相HPLCにより測定した場合、少なくとも99.5%の均質性まで精製されたヒトα−Gal A調製物を含む組成物であって、該調製物は、多様なα−Gal Aグリコフォームを含み、少なくとも3.0×106ユニット/mgタンパク質の比活性を有し、かつ、実質的にレクチンを含まないことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記α−GalAグリコフォームを構成しているオリゴ糖の少なくとも35%が電荷を帯びていることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記α−GalAグリコフォームを構成しているオリゴ糖の電荷をZ数で測定すると150以上であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記α−GalAグリコフォームを構成している総グリカンの少なくとも60%がシアリル化されていることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記調製物の循環半減期が延長されていることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
多様なα−GalAグリコフォームを含む精製α−GalA調製物を産生する方法であって、
(a)平衡緩衝液中、酸性のpHにおいて、陽イオン交換樹脂に該α−GalAグリコフォームを結合させ、
(b)該平衡緩衝液で該樹脂を洗浄することにより、未結合材料を溶出させ;さらに、
(c)10〜100mMの塩溶液、pH4〜5の緩衝溶液、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される溶出液を用いて該α−GalAグリコフォームを溶出させる、工程を含み、
該α−GalAは少なくとも99.5%の均質性まで精製されており、かつ、該調製物はレクチンを実質的に含まないことを特徴とする方法。
【請求項7】
クロマト集束クロマトグラフィー、金属キレートアフィニティークロマトグラフィーおよびイムノアフィニティークロマトグラフィーよりなる群から選択される精製工程をさらに含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項6記載の方法によって産生され、少なくとも99.5%の均質性まで精製された多様なα−GalAグリコフォームを含むα−GalA調製物。
【請求項9】
オリゴ糖の電荷が高められているグリコシル化α−GalA調製物を産生する方法であって、
(a)GlcNAcトランスフェラーゼIII(GnT-III)の発現をコードしているポリヌクレオチドをα−GalA産生細胞内に導入する、または相同的組換えにより、内在性のGnT-III遺伝子の発現を制御する制御配列を導入し、
(b)α−GalAおよびGnT-IIIを発現するような培養条件下において該α−GalA産生細胞を培養し;さらに、
(c)α−GalAを単離する、工程を含み、
該α−GalA調製物は、前記ポリヌクレオチドを有していない細胞から産生されたα−GalAと比較して、オリゴ糖の電荷が高められていることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記α−GalA調製物のオリゴ糖の少なくとも35%が電荷を帯びていることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記α−GalA調製物が複数のグリコフォームを含み、該グリコフォームは2〜4個のシアル酸残基を有する少なくとも20%のコンプレックスグリカンを含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
Z数によって測定した前記α−GalA調製物のオリゴ糖電荷が150以上であることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記調製物が複数のグリコフォームを含み、該グリコフォームは、平均して少なくとも25〜50%がホスホリル化されていることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項14】
請求項9から13いずれか1項記載の方法によって産生され、オリゴ糖電荷が高められていることを特徴とするグリコシル化α−GalA調製物。
【請求項15】
オリゴ糖電荷が高められているグリコシル化α−GalA調製物を産生する方法であって、
(a)シアリルトランスフェラーゼの発現をコードしているポリヌクレオチドをα−GalA産生細胞に導入し、または、相同的組換えにより、内在性シアリルトランスフェラーゼの発現を制御する制御配列を導入し、
(b)α−GalAおよびシアリルトランスフェラーゼを発現するような条件下において該α−GalA産生細胞を培養し;さらに、
(c)前記α−GalAを単離する工程を含み、
該α−GalA調製物は、前記ヌクレオチドを導入していない細胞において産生されたα−GalAと比較して、オリゴ糖電荷が高められていることを特徴とする方法。
【請求項16】
(d)工程(c)の調製物をさらに分画または精製することにより、大きさや電荷が増しているα−GalAグリコフォームを選択する工程をさらに含むことを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項15または16記載の方法に従って産生され、オリゴ糖電荷が高められていることを特徴とするグリコシル化α−GalA調製物。
【請求項18】
シアリル化の割合が高められているグリコシル化α−GalA調製物を産生する方法であって、アンモニウム濃度が10mM未満の培養培地にα−GalA産生細胞を接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
前記接触工程において、アンモニウム濃度を10mM未満に維持するために、前記α−GalA産生細胞を新鮮培養培地に連続的にまたは間歇的に灌流させる操作を含むことを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
ホスホリル化の割合が高められたグリコシル化α−GalA調製物を産生する方法であって、
(a)ホスホリルトランスフェラーゼの発現をコードしているポリヌクレオチドをα−GalA産生細胞に導入し、または、内在性ホスホリルトランスフェラーゼの発現を制御する制御配列を相同的組換えによって導入し、
(b)α−GalAおよびホスホリルトランスフェラーゼを発現するような条件下において該α−GalA産生細胞を培養し;さらに、
(c)α−GalAを単離する工程を含み、
該α−GalA調製物は、前記ポリヌクレオチドを導入していない細胞において産生されたα−GalAと比較して、ホスホリル化の割合が高められていることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法に従って産生され、ホスホリル化の割合が高められたグリコシル化α−GalA調製物。
【請求項22】
オリゴ糖鎖上のシアル酸数および末端ガラクトース残基数が減少しているグリコシル化α−GalA調製物を産生する方法であって、
(a)α−GalAをノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)と接触させることによってシアル酸残基を除去し、末端ガラクトース部位を露出させ;さらに、
(b)工程(a)の脱シアリル化α−GalAをβ−ガラクトシダーゼと接触させることによって末端ガラクトース残基を除去する、工程を含み
工程(b)の生成物である脱シアリル化脱ガラクトシル化α−GalAは、酵素との接触を行っていないα−GalAと比較して、オリゴ糖鎖上の末端のシアル酸数、またはガラクトース残基数が減少していることを特徴とする方法。
【請求項23】
オリゴ糖鎖上の末端ガラクトース残基数が減少しているグリコシル化α−GalAを産生する方法であって、α−GalAをβ−ガラクトシダーゼと接触させることによって末端のガラクトース残基を除去する工程を含み、生成物は、酵素との接触を行っていないα−GalAと比較して、オリゴ糖鎖上の末端ガラクトース残基数が減少していることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項23記載の方法に従って産生された脱ガラクトシル化α−GalA調製物。
【請求項25】
前記α−GalA調製物を0.05mg〜5.0mgの投与量で1週間または2週間ごとに投与するための薬物を製造するためのα−GalA調製物の使用。
【請求項26】
前記薬物が、対象の体重1kgあたり約0.2mgの前記α−GalA調製物を1週間または2週間ごとに投与するためのものである請求項25記載の使用。
【請求項27】
前記投与量を筋肉内、経口、直腸、皮下、動脈内、腹膜内、脳内、鼻内、髄膜内、経粘膜、経皮投与用、または吸入用に製剤化することを特徴とする請求項25または26記載の使用。
【請求項28】
対象の体重1kgあたり約0.01mg〜10mgの前記α−GalA調製物を1週間または2週間ごとに皮下投与するための薬物を製造することを特徴とするα−GalA調製物の使用。
【請求項29】
前記投与量を、ポンプ送達、カプセル封入細胞送達、リポソーム送達、針を用いた注射、針なし注射、ネブライザー、エアロゾライザー、エレクトロポレーションおよび経皮パッチよりなる群から選択される送達系用に製剤化することを特徴とする請求項27または28記載の使用。
【請求項30】
ファブリー病治療用の薬物の製造におけるα−GalA調製物の使用であって、該薬物は、対象の体重1kgあたり約0.01mg〜10mgの前記α−GalA調製物を1週間または2週間ごとに投与するためのものであることを特徴とするα−GalA調製物の使用。
【請求項31】
前記薬物が皮下投与用に製剤化されることを特徴とする請求項30記載の使用。
【請求項32】
ファブリー病の異型変種を治療する薬物の製造におけるα−GalA調製物の使用であって、該薬物は、対象の体重1kgあたり約0.05mg〜5mgの前記α−GalA調製物を1週間または2週間ごとに投与するためのものであることを特徴とするα−GalAの使用。
【請求項33】
対象が心臓血管異常を患っていることを特徴とする請求項32記載の使用。
【請求項34】
前記心臓血管異常が左心室肥大(LVH)であることを特徴とする請求項33記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−37867(P2011−37867A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215000(P2010−215000)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【分割の表示】特願2000−603353(P2000−603353)の分割
【原出願日】平成12年3月9日(2000.3.9)
【出願人】(501358172)トランスカーヨティック セラピーズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】