説明

α−リポ酸L−リジン塩結晶およびその製造法

【課題】高純度のα−リポ酸L−リジン塩結晶およびその工業的生産方法を提供する。
【解決手段】液温0〜10℃のα−リポ酸エタノール溶液へ液温0〜10℃のL−リジン含水エタノール溶液を徐々に滴下し、さらに同温度において混合液を攪拌し、析出した結晶を常法によって分離し、40℃以下の温度で減圧乾燥する。得られたα−リポ酸L−リジン塩は融点149〜151℃を示し、X線回折チャートにおいて結晶であることを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−リポ酸L−リジン塩の結晶およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
チオクト酸とも呼ばれるα−リポ酸(化学名1,2−ジチオラン−3−ペンタン酸)は、R(+)型として動物および植物細胞中に存在する天然物質である。このものは体内において糖代謝経路に含まれるケト酸の酸化的脱カルボキシル反応に必須な補酵素であり、また抗酸化作用を有することから、活性酸素の抑制による老化防止が期待されている。近年化学合成されたα−リポ酸が医薬品として、および食品サプリメントとして使用されている。
【0003】
α−リポ酸は水に難溶なため、食品サプリメントには固体のα−リポ酸が使用されている。水溶性のα−リポ酸塩も知られている。これらのうち生理学的に意義がある有機塩基との塩として、FR4680Mにはα−リポ酸のリジン塩が記載されている。またEP318891にはα−リポ酸リジン塩を含む注射剤が記載されている。FR4680Mによると、α−リポ酸リジン塩は苦味のある融点153℃の白色粉末であり、中毒症候群および食欲欠乏障害の処置に有用であることが記載されている。製造方法の記載はないが、リジンもそのα−リポ酸塩も水によく溶けることから、リジンの水溶液へ理論量のα−リポ酸を添加し、生成した両者の塩の水溶液を濃縮乾固するか凍結乾燥して製造したものと推測される。本発明者らのこの方法の追試によって得た生成物が嵩高い無定形の白色粉末であったこともこれを裏付ける。
【0004】
しかしながらα−リポ酸リジン塩を結晶として提供することが望ましい。一般に晶析は均一な組成の高純度の製品を与えるからである。さらに結晶は無定形粉末よりも嵩密度および安息角が小さく、取扱い上便利である。
【0005】
本発明は、結晶性α−リポ酸リジン塩と、晶析法によって結晶性のα−リポ酸リジン塩を製造する方法を提供する。
【0006】
スペイン特許第313056号は、水系で当量のα−リポ酸とDL−リジン塩を反応させ、融点160〜164℃のα−リポ酸DL−リジン塩を得たことを記載している。
【0007】
ところがリジン塩基は水に殆ど自由に溶けるのに対し、α−リポ酸は水に難溶であるから、リジン水溶液へ理論量のα−リポ酸を加えて両者の塩を水溶液として生成させ、これを減圧濃縮するか凍結乾燥して粉末として回収するほかはなかった。
【0008】
しかしながらα−リポ酸リジン塩を反応液から晶析により結晶として分離することが望ましい。一般に晶析は高純度の製品を与え、さらに結晶は無定形粉末よりも嵩密度および安息角が小さく、取扱い上便利であるからである。
【発明の開示】
【0009】
α−リポ酸は水に難溶であるがエタノールには可溶である。反対にL−リジン(塩基)は水に殆ど自由に溶けるがエタノールを含む通常の有機溶媒には難溶である。本発明はこの性質を利用し、それぞれ理論量のα―リポ酸はエタノールに溶解し、L−リジンは一旦水溶液とした後これへエタノールを加えてL−リジンの含水エタノール溶液を生成させ、このように調製したL−リジンの含水エタノール溶液をα―リポ酸のエタノール溶液へ徐々に滴下し、攪拌することによって両者の塩を結晶として析出させる。その後析出した結晶を母液から常法によって分離し、エタノールで洗浄した後、40℃以下の温度で減圧乾燥することによってα−リポ酸L−リジン塩の結晶を製造する。その際すべての液体、すなわちα−リポ酸のエタノール溶液、L−リジンの含水エタノール溶液、結晶がそれから析出する母液、および結晶を洗浄するエタノールの温度は0℃ないし10℃に保つことが重要である。これは晶出時の塩の過飽和溶解度を下げるためと、α−リポ酸が重合した不純物の混入を避けるためである。
【0010】
このようにして得られるα−リポ酸L−リジン塩結晶は融点149〜151℃を示し、これまで報告されたこのものの融点と異なり、不純物の混入が極めて少ないことを示している。さらに結晶はX線回折において明らかに結晶であることを示す。さらにこの方法に使用する溶媒は生理的に無害な水およびエタノールのみであり、このことは食品サプリメントとしての用途において必須である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明によるα−リポ酸L−リジン塩結晶の製造法を工程別に記載すると、
(a)α−リポ酸を所要量のエタノールに溶解する工程;
(b)α−リポ酸に対し理論量のL−リジンを水に溶解し、この水溶液へエタノールを添加してL−リジンの含水エタノールを生成させる工程;
(c)工程(a)で得たα−リポ酸溶液へ工程(b)で得たL−リジン溶液を徐々に滴下し、攪拌して結晶を析出させる工程;
(d)工程(c)で析出した結晶を常法(例えば遠心分離)により母液から分離し、エタノールで洗浄する工程;
(e)分離した結晶を40℃以下の温度で減圧乾燥する工程よりなり、
(f)工程(a)ないし(d)は液温0〜10℃において実施される。
【0012】
この際工程(d)において洗浄に使用するエタノールを除いて、それ以前に使用するエタノールおよび水の量はできるだけ少ない方が効率的であり、かつ結晶の最終収率も高い。しかしながら工程(c)において結晶が析出する母液(含水エタノール)は、生成した塩の大部分が結晶として析出するように塩で過飽和状態にあることが必要である。そのためL−リジンを溶解するための水の量は、リジン水溶液へ添加されるアルコールおよび最初にα−リポ酸を溶解するためのアルコールの合計量に対して容積比で10/90ないし3/97の範囲にあることが好ましい。換言すると、(c)工程において結晶はエタノール濃度90v/v%以上の含水エタノールから析出させるのが好ましい。例えばα−リポ酸を40〜48L/kgのエタノールに溶解し、一方当量のリジン−水和物を1.8〜2.2L/kgの水に溶解した後2〜10L/kgのエタノールを添加し、これをα−リポ酸のアルコール溶液へ滴下する。これによりエタノールおよび全体の液量が少なくてすみ、かつ塩の結晶収率も例えば80〜90%に向上するので工業的生産に適している。
【0013】
原料α−リポ酸は通常ラセミ体であるが、これを光学分割して得られるR(+)型異性体を使用することもできる。L−リジン(遊離塩基)は一水和物として市場で入手することが可能であるからこれを使用するのが便利である。
【0014】
以下に限定を意図しない実施例を挙げて本発明を例証する。
【実施例】
【0015】
予め内部を洗浄、乾燥した反応容器へエタノール800Lを仕込み、内温0〜10℃に冷却し、これにα−リポ酸20.0kg(96.9mol,1当量)を加えて溶解する。予め洗浄、乾燥した同様な反応容器へ精製水(日局)40LとL−リジン−水和物15.9kg(96.9mol,1当量)を仕込み、溶解する。これにエタノール120Lを添加し、内温0〜10℃に冷却する。
【0016】
内温を0〜10℃に保ちながら、α−リポ酸溶液へL−リジン溶液を20〜60分を要して滴下し、さらに同温度で1時間以上攪拌する。内温0〜10℃に保ちながら析出した結晶を含むスラリーを遠心分離機にかけ、分離した結晶を0〜10℃に保ったエタノール40Lで洗浄する。洗浄した湿晶を真空乾燥機に移し、40℃以下(温水設定温度40℃)で乾燥減量が5%以下になるまで乾燥する。α−リポ酸L−リジン塩の結晶27.4〜30.8kgが得られる。収率80〜90%
【0017】
得られた結晶は149〜151℃の融点を示し、図1のX線解析チャートに示すとおり、明確に結晶であることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のα−リポ酸L−リジン塩のX線回折チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液温0〜10℃のα−リポ酸エタノール溶液へ液温0〜10℃のL−リジン含水エタノール溶液を徐々に滴下し、さらに同温度において混合液を攪拌することによって析出した結晶を母液から分離し、40℃以下の温度で減圧乾燥することを特徴とするα−リポ酸L−リジン塩結晶の製造法。
【請求項2】
母液から分離した結晶を減圧乾燥する前に、0〜10℃の冷エタノールで洗浄する工程を含む請求項1の方法。
【請求項3】
(a)α−リポ酸を所要量のエタノールに溶解する工程;
(b)α−リポ酸へ対して理論量のL−リジンを含水エタノールに溶解する工程;
(c)工程(a)で得たα−リポ酸溶液へ工程(b)で得たL−リジン溶液を徐々に滴下し、攪拌して結晶を析出させる工程;
(d)工程(c)で析出させた結晶を常法により母液から分離し、エタノールで洗浄する工程;
(e)分離した結晶を40℃以下の温度で減圧乾燥する工程;よりなり、
(f)工程(a)ないし(d)は液温0〜10℃において実施され;
(g)工程(a)および(b)において使用するアルコールおよび水の量は工程(c)において結晶が析出する母液のエタノール濃度が90v/v%以上となる量である;
ことを特徴とするα−リポ酸L−リジン塩結晶の製造法。
【請求項4】
融点149〜151℃を示すα−リポ酸L−リジン塩結晶。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156281(P2008−156281A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347031(P2006−347031)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省、水溶性のα−リポ酸アミノ酸塩の実用的製造法の開発委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236573)浜理薬品工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】