説明

αコハク酸トコフェリル、そのアナログおよび塩の安定な注射用組成物

本発明は、α-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩を含む組成物、ならびにこのような組成物を調製および使用するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、αコハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩の組成物の分野に関する。特に、本発明は、安定、安全、かつ有効である、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩のコロイド分散物組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
関連技術分野の説明
抗癌治療における最大の難関は、治療剤の選択性にある;有効な抗癌薬物は、正常細胞に対して有害な作用がないのと同時に、悪性細胞に対して高度に選択性でなくてはならない。不運にも、現在までのところ、とりわけ、化学療法剤のファミリーにおける大部分の抗癌薬物は、患者において望ましくない副作用を生じる高い毒性を有することが知られており、悲しむべきことに、このような副作用はしばしばあまりにも苛酷であり、これらは患者によって耐えられるものではなく、患者の一般的な健常状態の悪化を引き起こすか、または患者の生活の質に否定的な影響を与えるかのいずれかである。より選択的かつ非毒性の治療剤の開発は、新たな抗癌治療の追求における新たな流れになってきている。
【0003】
大きな希望が、抗癌剤としての微量栄養素に与えられている。なぜなら、これらは、正常細胞および組織のために有益な効果を有する天然の化合物を提示するからである。これらの1つはα-コハク酸トコフェリル(TS)である。ビタミンEコハク酸としてもまた知られているα-コハク酸トコフェリルは、半合成ビタミンEアナログであり、強力な抗癌活性を有することが報告されている。従来の化学療法剤と比較して、α-コハク酸トコフェリルは非毒性であると見なされており(Zondlo Fiume, Int J Toxicol. 2002; 21 Suppl 3:51-116(非特許文献1))、ビタミンEに代謝され、それによって第2の有益な活性を有する化合物を産生する。従って、α-コハク酸トコフェリルは、未来の抗癌薬物として実質的な展望を保持する新規な化合物の群の典型である。
【0004】
α-コハク酸トコフェリルは、独特な構造およびインビボでの薬物動態を有する強力な抗癌剤である。α-コハク酸トコフェリルは、悪性細胞に対して高度に選択的であり、大部分はミトコンドリア経路を介してそれらをアポトーシス性の死に誘導する(Neuzil, Br J Cancer. 2003 Nov 17; 89(10): 1822-6(非特許文献2))。
【0005】
多くの研究者が、インビボまたはインビトロでの研究に基づいて、種々の腫瘍に対するα-コハク酸トコフェリルの抗癌活性を報告している。Malafaらは、α-コハク酸トコフェリルがマウスにおいて黒色腫の増殖を阻害したことを報告した(Surgery. 2002 Jan; 131(1):85-91(非特許文献3))。Barnettは、結腸癌の肝転移を阻害する際にα-コハク酸トコフェリルの活性を実証した(J Surg Res. 2002 Aug; 106(2):292-8(非特許文献4))。免疫無防備状態のマウスにおいて、Tomassettiは、α-コハク酸トコフェリルが悪性中皮腫を抑制したことを示した(Int J Cancer. 2004 May 1 ; 109(5):641-2(非特許文献5))。 Liuらは、α-コハク酸トコフェリルがヒトの胃癌の細胞増殖を阻害することを報告した(Wei Sheng Yan Jiu. 2000 May 30; 29(3): 172-4(非特許文献6))。これらのすべての研究者は、α-コハク酸トコフェリルが、高い選択性を有する、種々の癌細胞に対する強力な抗癌剤であることを指摘しているようである。
【0006】
α-コハク酸トコフェリルの抗癌機序もまた、十分に研究されてきた。多くの研究者は、α-コハク酸トコフェリルが、癌細胞においてアポトーシスを誘導することを示唆している。Neuzilらは、α-コハク酸トコフェリルのアポトーシス機序の研究に関するいくつかの論文を公表した(FASEB J. 15 (2): 403-15, 2001(非特許文献7) ; Redox Rep. 2001 ; 6(3): 143-51 (非特許文献8); Biochem J. 2002 Mar 15; 362(Pt 3):709-15(非特許文献9))。
【0007】
α-コハク酸トコフェリルの、構造およびアポトーシス発生活性の関連性もまた十分に研究されてきた。α-コハク酸トコフェリルのアポトーシス発生活性は、α-コハク酸トコフェリルの構造に対して独特であることが見い出され、ビタミンEとは関連性がない。Kogureらは、末端のジカルボキシル部分がα-コハク酸トコフェリルのアポトーシス活性のために必要であることを報告した(Biochim Biophys Acta. 2004 May 3; 1672(2):93-9(非特許文献10))。試験されたアナログの中では、ジカルボン酸を有するα-トコフェロールのエステル、例えば、α-シュウ酸トコフェリル、α-マロン酸トコフェリルが、α-コハク酸トコフェリルとともに、マウス癌系統(C1271)中でアポトーシスを誘導することが見い出されたのに対して、α-ピメリン酸トコフェリル、α-コハク酸トコフェリルエチルエステル、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、α-ニコチン酸トコフェリルおよびα-酢酸トコフェリルを含む試験された他のトコフェロリルアナログまたはエステルは、アポトーシス発生性ではなかった。α-シュウ酸トコフェリルは、試験された最も強力なα-トコフェリル誘導体であった。
【0008】
Birringerら(Br J Cancer. 2003 Jun 16; 88(12): 1948-55(非特許文献11))は、α-コハク酸トコフェリルアナログの中で、アポトーシス発生活性の有意な違いを報告した。芳香族環上により少ない数のメチル置換を有するα-コハク酸トコフェリルのアナログは、α-コハク酸トコフェリルよりも活性が低かった。マレイル基でのスクシニル基の置換は、活性を非常に増強したのに対して、グルタリル基でのスクシニル基の置換は、活性を減少させた。α-コハク酸トコフェリルおよびδ-コハク酸トコフェリル上の遊離のスクシニルカルボキシル基のメチル化は、親の化合物のアポトーシス発生活性を完全に除去した。α-トコトリエノール(α-T3 H)はアポトーシスを誘導することに失敗したのに対して、γ-T3 Hはアポトーシス発生性であり、スクシニル化された場合にはよりアポトーシス発生性であった。γ-T3の脂肪族側鎖を1つのイソプレニル単位だけ短くすることで、その活性を増加した。フィチルコハク酸またはオレイルコハク酸のいずれもアポトーシスを引き起こさなかった。
【0009】
α-コハク酸トコフェリルの他の興味深い生物学的な知見には、放射線によって誘導されるヒト癌細胞中の染色体損傷のレベルを増強するが、正常細胞における損傷レベルを減少する、α-コハク酸トコフェリルの能力(Kumar et al., J Am Coll Nutr. 2002 Aug; 21(4):339-43(非特許文献12))、および未成熟樹状細胞を用いるワクチン接種に対して樹立された腫瘍を感作する能力(Ramanathapuram et al., Cancer Immunol Immunother. 2004; 53(7):580-8(非特許文献13))が含まれる。α-コハク酸トコフェリルの安全性評価もまた、十分に文書化されている(Zondlo Fiume, Int J Toxicol. 2002; 21 Suppl 3:51-116(非特許文献14))。
【0010】
大部分の研究において、α-コハク酸トコフェリルのインビボ抗癌活性は、DMSOに溶解しているα-コハク酸トコフェリルの腹腔内注射(i.p.)によって実証された。DMSOに溶解している治療剤の腹腔内(i.p.)投与は、ヒトのために一般的に受け入れられている手順ではない。α-コハク酸トコフェリルは、それが経口的に与えられるならば、その抗癌活性を喪失する。なぜなら、コハク酸エステルが胃腸管の中で切断され、アポトーシス発生活性を欠く親のα-トコフェロールが産生されるからである。
【0011】
それゆえに、ヒトの治療目的のためには、α-コハク酸トコフェリルの静脈内注射用製剤(i.v.)が望ましい。現在まで、2つのみのα-コハク酸トコフェリルの静脈内製剤が存在するようである。Kogureらは、マウスに静脈内投与された小胞化α-コハク酸トコフェリル製剤を報告した(Cancer Lett. 2003 Mar 20; 192(1): 19-24(非特許文献15))。この小胞化α-コハク酸トコフェリル製剤は、水酸化ナトリウムでpHが中性に調整されたリン酸緩衝化生理食塩水中のα-コハク酸トコフェリルを含む。小胞化α-コハク酸トコフェリル製剤は、超音波処理によって調製され、350nmの平均直径を有する懸濁液として特徴付けられた。
【0012】
α-コハク酸トコフェリルの別の静脈内注射用製剤(Jizomoto et al., Biochim Biophys Acta. 1994 Aug 4; 1213(3):343-8(非特許文献16))は、ホスファチジルエタノールアミンおよびコレステロールを含むリポソーム製剤である。この製剤は、中性のpHで薬物を組み込むことができ、酸性環境(すなわち、細胞質)で薬物を放出することができるpH感受性薬物送達媒体として設計された。
【0013】
α-コハク酸トコフェリルの小胞化製剤およびリポソーム製剤の両方が、本発明者によって不安定であることが見い出された。新鮮に調製した場合、製剤は白色かつ乳状であった。密封したガラスバイアル中での5℃にて暗所での2週間の保存の間、これらのpHは中性であり、無菌的に調製した製剤が黄緑色に変色し、検知できるカード様沈殿が形成した。このような製剤のマウスへのi.v.注射は即座に死を引き起こした。α-コハク酸トコフェリルの広範な分解(酸化)ならびに小胞およびリポソームの凝集が存在したと考えられている。保存の間のこれらの製剤中のα-コハク酸トコフェリルの加水分解もまた、起こった可能性がある。
【0014】
それゆえに、ヒトへの使用のための治療的に実行可能なα-コハク酸トコフェリル製品を開発するために、DMSOのような任意の有害な成分を含まない、α-コハク酸トコフェリルのための安定かつ静脈内注射用製剤を有することが所望される。さらに、このような臨床的に実行可能な製剤の欠如は、抗癌剤としてのα-コハク酸トコフェリルの臨床的開発を妨げる可能性がある。本発明は上記の必要性を満たし、さらなる関連する利点を提供する。
【0015】
【非特許文献1】Zondlo Fiume, Int J Toxicol. 2002; 21 Suppl 3:51-116
【非特許文献2】Neuzil, Br J Cancer. 2003 Nov 17; 89(10): 1822-6
【非特許文献3】Surgery. 2002 Jan; 131(1):85-91
【非特許文献4】J Surg Res. 2002 Aug; 106(2):292-8
【非特許文献5】Int J Cancer. 2004 May 1 ; 109(5):641-2
【非特許文献6】Wei Sheng Yan Jiu. 2000 May 30; 29(3): 172-4
【非特許文献7】FASEB J. 15 (2): 403-15, 2001
【非特許文献8】Redox Rep. 2001 ; 6(3): 143-51
【非特許文献9】Biochem J. 2002 Mar 15; 362(Pt 3):709-15
【非特許文献10】Biochim Biophys Acta. 2004 May 3; 1672(2):93-9
【非特許文献11】Br J Cancer. 2003 Jun 16; 88(12): 1948-55
【非特許文献12】Kumar et al., J Am Coll Nutr. 2002 Aug; 21(4):339-43
【非特許文献13】Ramanathapuram et al., Cancer Immunol Immunother. 2004; 53(7):580-8
【非特許文献14】Zondlo Fiume, Int J Toxicol. 2002; 21 Suppl 3:51-116
【非特許文献15】Cancer Lett. 2003 Mar 20; 192(1): 19-24
【非特許文献16】Jizomoto et al., Biochim Biophys Acta. 1994 Aug 4; 1213(3):343-8
【発明の開示】
【0016】
発明の概要
本発明は、1つの局面において、安定かつ注射のために適切であるα-コハク酸トコフェリルの新規な組成物を提供する。特に、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩;油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分;ならびに水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である組成物に向けられる。
【0017】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、油成分、および水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である薬学的組成物を提供する。
【0018】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、リン脂質、および水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である薬学的組成物を提供する。
【0019】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、抗酸化剤、および水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である薬学的組成物を提供する。
【0020】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、油成分、リン脂質、および水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である薬学的組成物を提供する。
【0021】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、油成分、抗酸化剤、および水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である薬学的組成物を提供する。
【0022】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、リン脂質、抗酸化剤、および水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である薬学的組成物を提供する。
【0023】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、油成分、リン脂質、抗酸化剤、および水を含み、直径が約1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物であり、このα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定である薬学的組成物を提供する。
【0024】
別の局面において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩;油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分;ならびに凍結防止剤を含む薬学的組成物を提供し;この組成物は乾燥固体であり、この組成物中のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩は、室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定であり、ならびにこの乾燥固体は、水の添加に際して、直径が1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する。
【0025】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、油成分、および凍結防止剤を含む薬学的組成物を提供し;この組成物は乾燥固体であり、この組成物中のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩は、室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定であり、ならびにこの乾燥固体は、水の添加に際して、直径が1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する。
【0026】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、リン脂質、および凍結防止剤を含む薬学的組成物を提供し;この組成物は乾燥固体であり、この組成物中のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩は、室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定であり、ならびにこの乾燥固体は、水の添加に際して、直径が1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する。
【0027】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、抗酸化剤、および凍結防止剤を含む薬学的組成物を提供し;この組成物は乾燥固体であり、この組成物中のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩は、室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定であり、ならびにこの乾燥固体は、水の添加に際して、直径が1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する。
【0028】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、油成分、リン脂質、および凍結防止剤を含む薬学的組成物を提供し;この組成物は乾燥固体であり、この組成物中のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩は、室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定であり、ならびにこの乾燥固体は、水の添加に際して、直径が1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する。
【0029】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、リン脂質、抗酸化剤、および凍結防止剤を含む薬学的組成物を提供し;この組成物は乾燥固体であり、この組成物中のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩は、室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定であり、ならびにこの乾燥固体は、水の添加に際して、直径が1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する。
【0030】
特定の態様において、本発明は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、油成分、リン脂質、抗酸化剤、および凍結防止剤を含む薬学的組成物を提供し;この組成物は乾燥固体であり、この組成物中のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩は、室温で少なくとも1ヶ月(例えば、少なくとも6ヶ月)の間安定であり、ならびにこの乾燥固体は、水の添加に際して、直径が1000nm未満(例えば、200nm未満)の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する。
【0031】
特定の態様において、薬学的組成物は、安定剤の添加および/または水の除去によって化学的に安定化される。例えば、安定剤は抗酸化剤であってもよく、水の除去は、凍結乾燥、真空乾燥、または噴霧乾燥によって達成されてもよい。
【0032】
特定の態様において、本発明のコロイド分散物は、油成分、リン脂質および任意に凍結防止剤の添加によって物理的に安定化され、ここで、このコロイド分散物は、サブミクロンサイズの懸濁液、または水中油エマルジョンである。
【0033】
特定の態様において、本発明の薬学的組成物は、室温で少なくとも1、2、3、4、5、または6ヶ月の間、化学的に安定であり、ここで、無傷のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の損失は、少なくとも1、2、3、4、5、または6ヶ月までに、約15%を超えない。特定の態様において、無傷のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の損失は、約10%、7.5%、または5%を超えない。
【0034】
特定の態様において、本発明の薬学的組成物は、室温で少なくとも1、2、3、4、5、または6ヶ月の間、物理的に安定であり、ここで、粒子の平均サイズは、少なくとも1、2、3、4、5、または6ヶ月までに、約100%よりも多く増加しない。特定の態様において、粒子の平均サイズは、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%よりも多く増加しない。
【0035】
特定の態様において、本発明のコロイド分散物の平均粒度は、約500nm、400nm、300nm、250nm、200nm、150nm、または100nm未満である。
【0036】
本発明はまた、種々の型の癌を治療する(例えば、注射を通して)ための薬学的組成物を使用する方法に関し、ここで活性抗癌成分は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログもしくは塩、またはα-コハク酸トコフェリル、そのアナログもしくは塩の組み合わせ、およびタキソイドアナログ(例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル)を含む1つもしくは複数の他の抗癌剤である。
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、安定なα-コハク酸トコフェリルのコロイド分散物、またはコロイド分散物に再水和されてもよい乾燥固体を提供する。α-コハク酸トコフェリルコロイド分散物は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、および任意の別の抗癌剤との組み合わせ;油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分;ならびに水を含んでもよい。α-コハク酸トコフェリル乾燥固体は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩、または任意の別の抗癌剤との組み合わせ;ならびに油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分;ならびに凍結防止剤を含んでもよい。
【0038】
1つの局面において、本発明は、水中油エマルジョン中での抗癌治療剤としてのα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の使用に向けられ、ここで、α-コハク酸トコフェリルは、エマルジョンの油相を主として構成する。α-コハク酸トコフェリルは、典型的な脂質油ではない:これは、大部分の脂質油、特にトリグリセリドよりも高い極性を有し、鹸化性ではない。α-コハク酸トコフェリルの親水性は、高度にpH依存性である。低pH、一般的にpH 5より下において、α-コハク酸トコフェリルのコハク酸の末端のカルボン酸基がプロトン化され、α-コハク酸トコフェリルは高度に疎水性固体のままであり、そして水中ではよく分散しない。5よりも上のpHにおいては、α-コハク酸トコフェリルは、コハク酸の末端カルボン酸基が脱プロトン化されるので、より親水性である。脱プロトン化されたα-コハク酸トコフェリルは水に溶けないが、水中で低いHLB(親水性-親油性バランス)値の界面活性剤のように挙動する。従って、攪拌の際には、脱プロトン化されたα-コハク酸トコフェリルは、油相が主としてα-コハク酸トコフェリルである水中油エマルジョンを形成する。しかし、α-コハク酸トコフェリル単独によって形成されたエマルジョン(Cancer Lett. 192: 19-24, 2003において記載されているように)は、α-コハク酸トコフェリルの化学分解および油滴の凝集に起因して、十分な安定性を有さないようである。本発明は、油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分の添加によって増強された安定性を有するα-コハク酸トコフェリルの新規なエマルジョンを提供し、ここで、α-コハク酸トコフェリルは、脱プロトン化型またはプロトン化型、またはその混合型のいずれかであってもよい。
【0039】
別の局面において、本発明は、水中固体油懸濁液の抗癌治療剤としてのα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の使用に向けられ、ここで、α-コハク酸トコフェリルは、主として、懸濁液の固相を構成する。プロトン化型においては、α-コハク酸トコフェリルは固体型のままであり、安定な懸濁液を形成しない。本発明は、油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分の添加によって増強した安定性を有する新規なα-コハク酸トコフェリル懸濁液を提供する。
【0040】
別の局面において、本発明は、油滴中にα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)を含む固体中油のコロイド分散物を含み、ここで、固体連続相は、主として凍結防止剤であり、実質的に水を含まない。特定の態様において、固体中油のコロイド分散物の水含量は、およそ、総重量の約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%未満である。水または水性媒体の添加の際に、固体中油コロイド分散物は、約5ミクロン未満、特定の態様において、約500nm、400nm、300nm、250nm、200nm、150nm、もしくは100nm、または約500nm、400nm、300nm、250nm、200nm、150nm、もしくは100nm未満の平均油滴サイズを有する水中油エマルジョンを形成する。
【0041】
別の局面において、本発明は、固体粒子中のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)を含む固体中固体のコロイド分散物を提供し、ここで、固体連続相は、主として凍結防止剤であり、実質的に水を含まない。特定の態様において、固体中固体のコロイド分散物の水含量は、総重量の約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%未満である。水または水性媒体の添加の際に、固体中固体コロイド分散は、5ミクロン未満、特定の態様において、約500nm、400nm、300nm、250nm、200nm、150nm、または100nm未満の平均粒度を有する水中固体エマルジョンを形成する。特定の態様において、固体中固体のコロイド分散物中のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の濃度は、約1重量%〜約30重量%、約2重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%であってもよい。特定の態様において、固体中固体のコロイド分散物中の分散した固体成分の濃度は、約1重量%〜約20重量%、約2重量%〜約15重量%、または約3重量%〜約5重量%であってもよい。
【0042】
「重量による濃度」は、本明細書中で使用される場合、他に注記されない限りは、組成物の総重量に対する、組成物(例えば、コロイド懸濁液)の成分(例えば、α-コハク酸トコフェリル)の重量の比率(パーセンテージで)をいう。
【0043】
静脈内注射のための本発明のコロイド分散物は、約10〜約1000nmの平均粒度を有する。特定の態様において、平均粒度は、約10〜約500nm、約10nm〜約200nm、または約50〜約150nmである。特定の態様において、平均粒度は、約50nm、75nm、100nm、125nm、150nm、175nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、もしくは1000nm、または約50nm、75nm、100nm、125nm、150nm、175nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、もしくは1000nm未満である。
【0044】
α-トコフェロールは、(±)-(2RS,4'RS,8'RS)-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4',8',12'-トリメチルトリデシル)-6-クロマノールである。その一般名には、英国薬局方によるαトコフェロール(Alpha Tocopherol)、PhEurによるα-トコフェロラム(Tocopherolum)、および米国薬局方によるビタミンE(Vitamin E)が含まれる。そのCAS登録番号は10191-41-0である。その実験式はC29H50O2であり、分子量は430.69である。αトコフェロールおよびそのホモログの構造を以下に示す:

R1、R2、およびR3はHまたはCH3であってもよい。

【0045】
天然に存在する型は、d-αトコフェロールまたは単にαトコフェロールとして知られている。αトコフェロールは3つのキラル中心を有し、8つの異性体を生じる。d-異性体型は、(2R,4'R,8'R)-α-トコフェロールまたは時折、RRR-α-トコフェロールを表す。
【0046】
「α-コハク酸トコフェリル」とは、d-α-トコフェリル酸コハク酸(C33H54O5、MW 530.8、CAS番号4345-03-3)のような、αトコフェロールを有するコハク酸のヘミエステルをいう。α-コハク酸トコフェリルおよびそのアナログの化学構造を以下に示す。

R1,R2,R3=HまたはCH3
R=-OOC-(CH2)n-COOH

【0047】
「α-コハク酸トコフェリル」は、特定の態様において、dl-α-トコフェリル酸コハク酸(CAS番号17407-37-3)のような異性体を含んでもよい。これは、特定の態様において、βトコフェリル酸コハク酸、δトコフェリル酸コハク酸、γトコフェリル酸コハク酸、またはその異性体を含んでもよい。
【0048】
本発明において使用される「α-コハク酸トコフェリルアナログ」という用語は、α-トコフェロールとの短鎖ジカルボン酸のヘミエステルをいい、ここでジカルボン酸は以下の一般式を有する:
HOOC-(CH2)n-COOH。
【0049】
短鎖カルボン酸には、シュウ酸(n=0)、マロン酸(n=1)、コハク酸(n=2)、グルタル酸(n=3)、アジピン酸(n=4)、ピメリン酸(n=5)、スベリン酸(n=6)、およびアゼライン酸(n=7)が含まれる。
【0050】
本発明において有用であるα-コハク酸トコフェリルアナログは、一般的に抗癌活性(すなわち、癌の増殖を阻害するか、または癌細胞の死を引き起こす能力)を有する。特定の態様において、α-コハク酸トコフェリルアナログの抗癌活性は、α-コハク酸トコフェリルのそれよりも統計学的に高い。
【0051】
本発明の「α-コハク酸トコフェリル塩」という用語は、薬学的に許容される無機対イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウム)および有機対イオン(例えば、アミン、リジン、およびアルギニン)のイオン性のイオンの塩をいう。本発明において有用であるα-コハク酸トコフェリル塩は、一般的に、抗癌活性を有する。
【0052】
α-トコフェロールのヘミエステルである、α-コハク酸トコフェリルは、他の3つの一般的な型のビタミンE誘導体:トコフェロール、トコフェロールモノエステル(例えば、酢酸)、およびトコフェロールポリエチレングリコールコハク酸(トコフェロールPEGエステルまたはビタミンE TPGSとも呼ばれる)とは、構造的および機能的に異なる。ヘミエステルは、開いた(エステル化されていない)カルボン酸基を含み、イオン化可能であるのに対して、他のすべてはイオン化可能ではない。従って、製剤中に成分として含まれる場合、ヘミエステルは、モノエステルまたは親のトコフェロールとは非常に異なって機能する。モノエステルまたは親のトコフェロールは親油性でありかつ油溶性であるが、ヘミエステルは水または油のいずれにも溶解性ではなく、親水性薬物または疎水性薬物のいずれにとっても良好な溶媒または可溶化剤ではない。ヘミエステル上の開いた(エステル化されていない)カルボン酸基が約7またはそれより上のpHでイオン化される場合、ヘミエステルは、低いHLB値の界面活性剤(すなわち、水不溶性型)のように挙動し、さらにこれらは、ビタミンE TPGSのような良好な界面活性剤ではない。例えば、ビタミンE TPGSとは異なり、コハク酸トコフェロールは、水中でミセルを形成することによって親油性薬物を可溶化することは不可能であり、または水中で植物油を乳化して、安定な水中油エマルジョンを形成することが不可能である。外見上、コハク酸トコフェロールは結晶性固体であるのに対して、トコフェロールおよび酢酸トコフェロールは油状液体、およびビタミンE TPGSは水溶性ワックス様物質である。
【0053】
特定の態様において、本発明の製剤は、α-トコフェロールおよびビタミンE TPGSの両方、またはこれらのいずれかを含まない。
【0054】
特定の態様において、本発明のコロイド懸濁液中のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の濃度は、約1重量%〜20重量%である。特定の態様において、この濃度は、約2重量%〜15重量%、または5重量%〜10重量%である。特定の態様において、この濃度は、約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、16重量%、17重量%、18重量%、19重量%、または20重量%である。
【0055】
「油」という用語は、体温、例えば、37℃において液体であり、かつ注射用製剤中で薬学的に許容される、炭化水素誘導体、炭水化物誘導体、または類似の有機化合物を同定するために一般的な意味で本明細書で使用される。これは、グリセリドまたは非グリセリドを含む。
【0056】
「油成分」という用語は、コロイド分散物、またはコロイド分散物に再水和されてもよい乾燥固体中の油、または複数の油の組み合わせをいう。この用語は、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログ、またはα-コハク酸トコフェリルもしくはそのアナログの塩を含まない。
【0057】
特定の態様において、本発明のコロイド分散物または乾燥固体の油成分は、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、またはその混合物を含む。特定の態様において、油成分は、1種または複数の脂肪酸と、グリセロール以外のアルコールの間に形成されたエステルを含む。
【0058】
「植物油」とは、植物の種子またはナッツから誘導される油をいう。例示的な植物油には、アーモンド油、ルリヂサ油、クロフサスグリ種油、トウモロコシ油、ベニバナ油、ダイズ油、ゴマ油、綿実油、ラッカセイ油、オリーブ油、ナタネ油、ヤシ油、パーム油、カノーラ油などが含まれるがこれらに限定されない。
【0059】
植物油は、典型的には、3つの脂肪酸(油の供給源に依存して、通常は約14〜約22個の炭素の長さ、様々な数および位置に不飽和結合を有する)が、グリセロール上の3つのヒドロキシル基とエステル結合を形成する場合に形成される、「長鎖トリグリセリド」である。特定の態様において、高精製グレードの植物油(「超精製品」とも呼ばれる)は、水中油エマルジョンの安全性および安定性を保証するために一般的に使用される。特定の態様において、植物油の制御された水素化によって産生される、水素化植物油が、本発明において使用されてもよい。
【0060】
「中鎖トリグリセリド(MCT)」は、天然由来または合成のいずれかであり得るトリグリセリド油の別のクラスである。MCTは、通常長さが約8〜約12個の炭素である脂肪酸から作られる。植物油と同様に、MCTは、非経口的な栄養を必要とする患者のために、カロリー源として注射のために設計されたエマルジョン中で広範に使用されてきた。このような油は、SASOL GmbH, GermanyからのMiglyol 812、Croda Inc. of Parsippany, New JerseyからのCRODAMOL GTCC-PN、またはPVO International, Inc., of Boonton, New JerseyからのNeobees M-5油として市販されている。他の低融解中鎖油もまた、本発明において使用されてもよい。
【0061】
「動物性脂肪」とは、動物供給源から誘導された油をいう。これはまた、トリグリセリドを含むが、3つの脂肪酸の鎖の長さおよびその中の不飽和結合が、植物油と比較して変動する。室温で固体である供給源からの動物脂肪(例えば、獣脂、ラードなど)は、所望される場合、液体になるように処理することができる。室温で元来液体である動物性脂肪の他の型には、種々の魚油などが含まれる。
【0062】
特定の態様において、植物油およびMCT油の組み合わせが、本発明において使用される。このような組み合わせは、一般的には、注射用エマルジョン中での組み合わせの安全な使用の長い経歴を有し、本発明のコロイド分散物または乾燥固体のための優れた安定性を提供する。使用される特定の型の植物油(すなわち、ダイズ油、トウモロコシ油、またはベニバナ油など)は、それが安全であり、十分に耐容性であり、薬学的に許容され、および化学的に安定であり、ならびに所望のサイズ範囲を有する分散滴を提供する限りは、決定的ではない。
【0063】
本発明のコロイド懸濁液中の全油成分の含量は、約1重量%〜約20重量%の範囲内であってもよい。特定の態様において、油成分の総濃度は、約2%〜約10%、または約3%〜約5%の範囲内である。特定の態様において、油成分の総濃度は、約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、12重量%、15重量%、17重量%、もしくは20重量%であるか、または最大限でも約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、12重量%、15重量%、17重量%、もしくは20重量%である。特定の態様において、コロイド懸濁液は、被験体に投与された場合に高リポタンパク血症(hyperlipodemia)を生じない量で油を含む。
【0064】
特定の態様において、コロイド懸濁液中の植物油対MCT油の比率は、重量で約5:1〜約1:5の範囲内である。特定の態様において、植物油対MCT油の比率は、約2:1〜約1:2の範囲内である。特定の態様において、植物油対MCT油の比率は、約5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、または1:5である。
【0065】
本発明において言及される非グリセリドは、主としてコレステロールおよびその誘導体である。
【0066】
特定の態様において、本発明の製剤の油成分は、ダイズ油およびコレステロールを含む。
【0067】
特定の態様において、本発明のコロイド分散物中のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログもしくは塩)対油成分(例えば、トリグリセリドまたはコレステロール)の比率は、約5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、または1:5である。
【0068】
「リン脂質」とは、2つの脂肪酸および1つのリン酸イオンを有するグリセロールのトリエステルをいう。本発明において有用である例示的なリン脂質には、約4〜約22個の炭素原子、およびより一般的には、約10〜約18個の炭素原子、ならびに異なる飽和の程度を有する、ホスファチジルコリン、レシチン(リン酸化ジアシルグリセリドのコリンエステルの混合物)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸が含まれるがこれらに限定されない。薬物送達組成物のリン脂質成分は、単一のリン脂質またはいくつかのリン脂質の混合物のいずれかであり得る。リン脂質は、選択された投与の経路のため許容されるべきである。
【0069】
本発明において有用であるリン脂質は、天然起源であり得る。天然に存在するリン脂質には、ダイズレシチン、卵レシチン、水素化ダイズレシチン、水素化卵レシチン、スフィンゴシン、ガングリオシド、およびフィトスフィンゴシン、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0070】
天然に存在するレシチンは、一般にはホスファチジルコリンと呼ばれる、リン酸のコリンエステルに連結された、ステアリン酸、パルミチン酸、およびオレイン酸のジグリセリドの混合物であり、卵およびダイズのような種々の供給源から得ることができる。ダイズレシチンおよび卵レシチン(これらの化合物の水素化バージョンを含む)は、安全性の長い履歴を有し、組み合わされた乳化および可溶化の特性を有し、大部分の合成界面活性剤よりも迅速に無害な物質に分解される傾向がある。市販のダイズリン脂質は、Central Soyaにより市場に出され販売されているCentrophaseおよびCentrolex製品、Phospholipid GmbH, GermanyからのPhospholipon、Lipoid GmbH, GermanyによるLipoid、ならびにDegussaによるEPIKURONである。
【0071】
水素化レシチンは、制御されたレシチンの水素化の生成物である。これもまた、本発明において使用されてもよい。
【0072】
米国薬局方(USP)に従うと、レシチンは、種々の量のトリグリセリド、脂肪酸、および炭水化物のような他の物質と合わせた、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンおよびホスファチジルイノシトールから主としてなる、アセトン不溶性リン脂質の複合混合物を説明する一般名である。
【0073】
薬学的には、レシチンは、主として、分散剤、乳化剤、および安定化剤として使用され、筋肉内および静脈内注射液、非経口栄養製剤および局所用製品に含められる。レシチンはまた、吸入、IMおよびIV注射、経口カプセル、懸濁液および錠剤、直腸用、局所的、および膣用調製物における使用のためのFDA不活性成分ガイドに列挙されている。
【0074】
リン脂質はまた合成することができ、一般的な合成リン脂質は以下に列挙される:
ジアシルグリセロール
1,2-ジラウロイル-sn-グリセロール(DLG)
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール(DMG)
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロール(DPG)
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロール(DSG)
【0075】
ホスファチジン酸
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸、ナトリウム塩(DMPA,Na)
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸、ナトリウム塩(DPPA,Na)
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸、ナトリウム塩(DSPA,Na)
【0076】
ホスホコリン
1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)
【0077】
ホスホエタノールアミン
1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DLPE)
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)
【0078】
ホスホグリセロール
1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール、ナトリウム塩(DLPG)
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール、ナトリウム塩(DMPG)
1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-sn-1-グリセロール、アンモニウム塩(DMP-sn-1-G,NH4)
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール、ナトリウム塩(DPPG,Na)
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール、ナトリウム塩(DSPG,Na)
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-sn-1-グリセロール、ナトリウム塩(DSP-sn-1G,Na)
【0079】
ホスホセリン
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン、ナトリウム塩(DPPS,Na)
【0080】
混合鎖リン脂質
1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)
1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール、ナトリウム塩(POPC,Na)
1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール、アンモニウム塩(POPG,NH4)
【0081】
リゾリン脂質
1-パルミトイル-2-リゾ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(P-リゾ-PC)
1-ステアロイル-2-リゾ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(S-リゾ-PC)
【0082】
ペグ化リン脂質
N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール2000)-MPEG-2000-DPPE
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、ナトリウム塩
N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール5000)-MPEG-5000-DSPE
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、ナトリウム塩
N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール5000)-MPEG-5000-DPPE
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、ナトリウム塩
N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール750)-MPEG-750-DSPE
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、ナトリウム塩
N-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール2000)-MPEG-2000-DSPE
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、ナトリウム塩
【0083】
本発明のコロイド懸濁液または乾燥固体中の、重量によるリン脂質の量は、約0.5%〜約10%の範囲内であってもよい。特定の態様において、重量によるリン脂質の量は、約1%〜約5%、または約2%〜約3%の範囲内であってもよい。特定の態様において、リン脂質の量は、約0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%または10%である。
【0084】
特定の態様において、本発明のコロイド分散物中のα-コハク酸トコフェリル対リン脂質の比率は、約5:1〜約1:5(w/w)である。特定の態様において、この比率は、約5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、または1:5である。
【0085】
「コロイド分散物」とは、任意の性質(例えば、固体、液体または気体)のコロイドサイズの粒子が異なる組成(または状態)の連続相に分散される系をいう。
【0086】
「コロイド」という用語は、媒体中に分散した分子または高分子(polymolecular)粒子が、少なくとも、1つの方向で、およそ1nmから1mmまでの間の大きさを有すること、または所定の系において、そのオーダーの距離で不連続が見い出されることを意味する、細分の状態をいう(1972, 31 , 605, IUPAC Compendium of Chemical Terminology, 2nd Edition, 1997)。
【0087】
特定の態様において、本発明のコロイド分散物は、エマルジョン、すなわち、水性媒体中に分散した水不混和性液体のコロイド分散物である(「水中油型コロイド分散物」)。水不混和性液体は、α-コハク酸トコフェリルおよび任意に別の治療剤および/または他の水不溶性成分を含む油滴の形態であり、その直径は、一般的に、約0.1から約3.0ミクロンの間である。エマルジョンは、典型的には、分散相および連続相が一致した屈折率でない限り、光学的に不透明である。このような系は、限られた安定性を有し、一般的には、適用または関連する参照系によって規定され、これは、油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分の添加によって増強される可能性がある。
【0088】
特定の他の態様において、本発明のコロイド分散物は、水性媒体中の懸濁液である(「水中固体型コロイド分散物」)。本発明の懸濁液は、α-コハク酸トコフェリルおよび任意に別の治療剤および/またはその直径が一般的に0.1から3.0ミクロンの間である小さな粒子の型である他の水不溶性成分を含む水不溶性固相のコロイド分散物である。懸濁液は、典型的には、分散相および連続相が一致した屈折率でない限り、光学的に不透明である。このような系は、限られた安定性を有し、一般的には、適用または関連する参照系によって規定され、これは、油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分の添加によって増強される可能性がある。
【0089】
特定の他の態様において、本発明のコロイド分散物は、固体連続相中の油滴の分散物(固体中油型コロイド分散物)である。油滴は、α-コハク酸トコフェリルおよび任意に別の治療剤および/または他の水不溶性成分を含む。連続相は、主として凍結防止剤を含む固体マトリックスである。このコロイド分散物は、水中油型コロイド分散物を凍結乾燥または噴霧乾燥することによって形成されてもよい。このような固体中油系は、一般的には、連続相からの水の除去に起因して、水中油コロイド分散物と比較して、増強された安定性を有する。
【0090】
特定の他の態様において、本発明のコロイド分散物は、固体連続相中の固体粒子の分散物(「固体中固体型コロイド分散物」)である。固体粒子は、α-コハク酸トコフェリルおよび任意に別の治療剤および/または他の水不溶性成分を含む。連続相は、主として凍結防止剤を含む固体マトリックスである。このコロイド分散物は、固体中固体型コロイド分散物を凍結乾燥または噴霧乾燥することによって形成されてもよい。このような固体中固体系は、一般的には、連続相からの水の除去に起因して、水中固体コロイド分散物と比較して、増強された安定性を有する。
【0091】
「水性媒体」または「水相」とは、薬学的に許容される添加物、例えば、酸性化剤、アルカリ化剤、緩衝剤、キレート剤、錯化剤および可溶化剤、抗酸化剤および抗微生物性保存剤、懸濁剤、および/または粘性調整剤、張度調整剤、凍結防止剤、および他の生体適合性物質または治療剤を含むことができる水含有液体をいう。特定の態様において、このような添加剤は、コロイド分散物を安定化すること、または本発明の製剤を生体適合性にすることを補助する。
【0092】
水相は、一般的に、約300mOsmの重量オスモル濃度を有し、これは、塩化カリウムまたは塩化ナトリウム、トレハロース、スクロース、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、アルブミン、アミノ酸およびこれらの混合物を含んでもよい。特定の態様において、少なくとも250mOsmの張度が、粘度もまた増加させる薬剤、例えば、ソルビトールまたはスクロースを用いて達成される。
【0093】
本発明において使用される「抗酸化剤」とは、注射用製品中で使用することが安全である、主として金属イオンキレート剤および/または還元剤をいう。金属イオンキレート剤は、金属イオンに結合することによって、抗酸化剤として働き、それによって、α-コハク酸トコフェリルの酸化反応に対する金属イオンの触媒効果を減少する。本発明において有用である金属キレート剤は、EDTA、グリシンおよびクエン酸、またはこれらの塩を含んでもよい。
【0094】
特定の態様において、本発明のコロイド分散物中のエデト酸二ナトリウムの濃度は、約0.0001%〜約1% w/vであり得る。特定の態様において、この濃度は、約0.001%〜約0.1% w/v、または約0.001%〜約0.005% w/vである。
【0095】
還元剤は、α-コハク酸トコフェリルと競合して酸化剤と反応することにより、または酸化型のα-コハク酸トコフェリルをもともとの還元型のα-コハク酸トコフェリルに転換して戻すことによって、それらの抗酸化効果を示す。本発明において有用である還元剤には、アスコルビン酸またはその塩、アスコルビルパルミテート、メタ重亜硫酸ナトリウム、没食子酸プロピル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、トコフェロール、アミノ酸またはその塩、クエン酸またはその塩、還元糖、およびこれらの混合物が含まれるがこれらに限定されない。
【0096】
本発明の「凍結防止剤」とは、分散性のかつサブミクロンのサイズの液滴を維持すること、または水性の周囲中の粒子を維持することによって、凍結または凍結乾燥の間に、水中油または水中固体のコロイド分散物を保護する、安全かつ生体適合性の薬剤をいう。本発明の凍結防止剤はまた、固体中油または固体中固体のコロイド分散物の連続相の主要な成分として機能する。本発明のための有用である凍結防止剤には、単糖、二糖、多糖、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、ポリオール、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、セルロースおよびセルロース誘導体、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、塩化ナトリウム、ポリビニルピロリドン、およびこれらの混合物が含まれるがこれらに限定されない。例えば、特定の態様において、凍結防止剤は、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクトース、フルクトース、キシロース、スクロース、トレハロース、マンノース、マルトース、デキストロース、デキストラン(dexstrane)、またはこれらの混合物である。特定の態様において、凍結防止剤は、スクロース、スクロースおよびマンニトールの組み合わせ、またはスクロースおよびトレハロースの組み合わせである。特定の態様において、本発明の製剤は、アカシアを含まない。
【0097】
特定の態様において、本発明の固体中油または固体中固体の製剤中の凍結防止剤の濃度は、約30重量%〜70重量%であってもよい。特定の態様において、スクロースの濃度は、約40重量%〜60重量%であってもよい。
【0098】
本発明の水中油または水中固体のコロイド分散物中の凍結防止剤の濃度は、約1%〜約30% w/vであってもよい。特定の態様において、この濃度は、約3%〜約15% w/v、または約5%〜約10% w/vである。
【0099】
「生体適合性」とは、許容される様式で、すなわち、過度の毒性または生理学的もしくは薬学的効果を伴うことなく、生きている生物の中でまたはそれに対して、機能を発揮する能力をいう。
【0100】
特定の態様において、本発明の組成物は、化学的かつ物理的の両方で安定である。組成物は、組成物中の約20%未満のα-コハク酸トコフェリルが、所定の期間の間(例えば、1ヶ月)に適切な条件下での保存後に化学的に分解する場合に「化学的に安定」である。特定の態様において、組成物中の無傷のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の濃度は、少なくとも1、2、3、4、5、6、9、12、15、18、または24ヶ月の間、適切な保存条件下で(例えば、-20℃、2〜8℃、または室温で)、約5%、10%、15%または20%未満減少する。
【0101】
α-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の化学分解は、主として、コハク酸エステル結合の加水分解およびトコフェロール部分の酸化を含む。コハク酸エステル結合の加水分解は、コハク酸およびトコフェロールの形成を引き起こし、これらの各々は、癌に対して効力がなく、かつ速い酸化を受ける傾向がある。α-コハク酸トコフェリルの加水分解の速度は、pH依存性である。凍結乾燥、噴霧乾燥、または他の乾燥手段による連続相中の水の除去は、加水分解性の分解を本質的に停止する。
【0102】
α-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)の別の分解経路は酸化である。トコフェロールは、大気中の酸素によってゆっくりと酸化され、鉄塩および銀塩のような金属イオンによって迅速に酸化される。酸化産物には、トコフェロキシド、トコフェリルキノンおよびトコフェリルヒドロキノン、またはこれらの二量体および三量体が含まれる。α-コハク酸トコフェリルのようなトコフェロールエステルは、遊離のトコフェロールよりも酸化に対してより安定である。酸化は、抗酸化剤の使用によって防止されてもよく、または減少されてもよい。
【0103】
組成物(例えば、コロイド懸濁液または乾燥固体)は、適切な条件下で、所定の期間の間(例えば、1ヶ月)、100%を超えるその平均粒度の増加、または相分離、クリーミング、もしくは粒子の凝集の証拠を伴うことなく保存可能な場合に、「物理的に安定」である。特定の態様において、本発明の組成物の粒子の平均サイズは、少なくとも1、2、3、4、5、6、9、12、15、18、または24ヶ月の間、適切な保存条件下で(例えば、-20℃、2〜8℃、または室温で)、約10%、20%、25%、30%、40%、50%、75%、または100%より多く増加しない。
【0104】
特定の態様において、α-コハク酸トコフェリルのコロイド分散物組成物は、少なくとも6ヶ月の間、室温で、無傷のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)を90%以上保持可能であり、直径が5ミクロンより大きな凝集物を実質的に含まない。特定の態様において、α-コハク酸トコフェリルのコロイド分散物組成物は、少なくとも6ヶ月の間、室温で、無傷のα-コハク酸トコフェリル(またはそのアナログまたは塩)を92%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上保持可能であり、直径が2ミクロンより大きな凝集物を実質的に含まない。
【0105】
他に注記しない限り、薬学的組成物は、薬学的組成物が所定の期間の間、化学的と物理的の両方で安定である場合に、「安定」である。
【0106】
「室温」とは、約20℃〜約25℃の範囲の温度をいう。
【0107】
「治療剤」とは、哺乳動物(ヒトを含む)に対して治療効果を有する天然または合成の任意の化合物をいう。治療剤には抗癌剤が含まれ、同じ製剤中でα-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩に加えて使用されてもよい。
【0108】
「化学療法剤」または「抗癌剤」とは、1種または複数の型の癌(例えば、乳癌、卵巣癌、および肺癌)に対して有効である、任意の天然または合成の分子をいう。特定の態様において、化学療法剤は、わずかにもしくは完全に親油性(すなわち、水不溶性)であるか、または親油性であるように修飾することができる。化学療法剤には、細胞毒性である分子(抗癌剤)、免疫系を刺激する分子(免疫促進剤)、および血管形成を調節または阻害する分子が含まれる。
【0109】
化学療法剤には、アルキル化剤、代謝拮抗物質、タキサン、細胞毒性剤、細胞保護剤アジュバント、LHRHアナログ、白金製剤、抗エストロゲン、抗アンドロゲン、ホルモン、アロマターゼ阻害剤、細胞周期制御剤、アポトーシス剤、トポイソメラーゼ阻害剤、血管形成阻害剤、免疫療法剤、モノクローナル抗体、レチノイド、キナーゼ阻害剤、およびシグナル伝達阻害剤が含まれるがこれらに限定されない。
【0110】
特定の態様において、化学療法剤は、パクリタキセル、ドセタキセル、およびタキソイド、タキシンまたはタキサンと集合的に呼ばれる関連分子から選択される。
【0111】
特定の態様において、化学療法剤は、ポドフィロトキシンおよびそれらの誘導体およびアナログから選択される。
【0112】
特定の態様において、本発明において有用である化学療法剤は、カンプトテシンである。
【0113】
特定の他の態様において、本発明において有用である化学療法剤は、親油性アントラサイクリンである。
【0114】
特定の他の態様において、本発明において有用である化学療法剤は、親油性であるか、または当業者に周知である分子化学合成修飾、例えば、コンビナトリアルケミストリーおよび分子モデリングによって親油性にすることができる化合物である。このような化学療法剤には以下が含まれる:アモナフィド、イルディン(Illudin)S、6-ヒドロキシメチルアシルフルベン、ビューロスタチン(Bryostatin) 1、26-スクシニルビューロスタチン 1、パルミトイルリゾキシン(Palmitoyl Rhizoxin)、DUP 941、マイトマイシンB、マイトマイシンC、ペンクロメディン(Penclomedine)、インターフェロンα2b、血管形成阻害剤化合物(例えば、シスプラチン疎水性複合体、例えば、塩化白金を伴う2-ヒドラジノ-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール、および塩化白金を伴う5-ヒドラジノ-3,4-ジヒドロ-2H-ピロール)、ビタミンAおよびその誘導体。
【0115】
本発明において有用である他の化学療法剤には以下が含まれる:1,3-ビス(2-クロロエチル)-1-ニトロソウレア(「カルムスチン」または「BCNU」)、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン(「アドリアマイシン」)、エピルビシン、アクラルビシン、ビスサントレン(Bisantrene)(ビス(2-イミダゾレン-2-イルヒドラゾン)-9,10-アントラセンジカルボキシアルデヒド、ミトキサントロン、メトトレキセート、エダトレキセート、ムラミルトリペプチド、ムラミルジペプチド、リポ多糖、9-b-d-アラビノフェアラノシルアデニン(「ビダラビン」)およびその2-フルオロ誘導体、ゲムシタビン、レスベラトロール、レチノイン酸およびレチノール、カロテノイド、およびタモキシフェン。
【0116】
本発明において有用である他の化学療法剤には以下が含まれる:デカルバジン、ロニダミン、ピロキサントロン、アントラピラゾール、エトポシド、カンプトテシン、9-アミノカンプトテシン、9-ニトロカンプトテシン、カンプトテシン-11(「イリノテカン」)、トポテカン、ブレオマイシン、ビンカアルカロイドおよびそれらのアナログ[ビンクリスチン、ビノレルビン、ビンデシン、ビントリポール、ビンキサルチン、アンシタビン]、6-アミノクリセン、およびビノレルビン。
【0117】
本発明において有用である他の化学療法剤は、タキソール、エレウテロビン、サルコジクチン、ジスコデルモリドおよびエポチオロンの模倣物である。
【0118】
特定の態様において、本発明の薬学的組成物中のα-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩以外の抗癌剤の存在は、相加的または相乗的な抗癌活性を生じる。特定の他の態様において、本発明の薬学的組成物中のα-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩の濃度は、α-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩が、薬学的組成物の抗癌活性に有意に寄与しないように、比較的低い(例えば、約3重量%、2重量%、または1重量%未満)。しかし、このような態様において、α-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩は、別の抗癌剤(例えば、ドセタキセルまたはパクリタキセル)を含む組成物(例えば、水中油エマルジョン、水中固体懸濁液、固体中油分散物、および固体中固体分散物)を安定化し、従って、このような組成物中の他の抗癌剤のより高い負荷、およびこのような組成物のより高い抗癌活性を可能にする。特定の態様において、本発明は、約1重量%〜約20重量%(例えば、約5%〜約15%)のα-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩;約1重量%〜約20重量%(例えば、3%〜5%)の油成分;および任意に、約6から約8の間のpHを有する水性媒体中の0.005重量%〜0.1重量%のエデト酸ナトリウム塩;および任意に、浸透圧調節剤を含むコロイド分散物を提供し;ここでこのコロイド分散物は、約200nm未満(例えば、約150nm未満)の平均粒子直径を有する。
【0119】
例示的な本発明のコロイド分散物は、約5重量%〜約15重量%のα-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩;約3重量%〜約5重量%の油成分;および任意に、約6から約8の間のpHを有する水性媒体中の0.005重量%〜0.1重量%のエデト酸ナトリウム塩;および任意に、浸透圧調節剤を含んでもよく;ここでこのコロイド分散物は、約150nm未満の平均粒子直径を有する。
【0120】
特定の態様において、本発明は、約1重量%〜約30重量%(例えば、約5%〜約15%)のα-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩;約1重量%〜約20重量%(例えば、3%〜5%)の油成分;約10重量%〜約80重量%の凍結防止剤(例えば、スクロース);および任意に、0.005重量%〜約1重量%のエデト酸ナトリウム塩を含む乾燥固体であり;ここでこの乾燥固体は、水性媒体と混合する際に、約200nm未満(例えば、約150nm未満)の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する。
【0121】
例示的な本発明の乾燥固体は、約5重量%〜約15重量%のα-コハク酸トコフェリルまたはそのアナログまたは塩;約3重量%〜約5重量%の油成分;約10重量%〜約80重量%のスクロース;および任意に、0.005重量%〜約1重量%のエデト酸ナトリウム塩を含んでもよく;ここでこの乾燥固体は、水性媒体と混合する際に、約150nm未満の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する。
【0122】
特定の態様において、本発明は、約1〜15重量%(例えば、約11.6%)のα-コハク酸トコフェリル、約15〜35重量%(例えば、28.3%)のレシチン、約1〜5重量%(例えば、3.9%)のコレステロール、および約30〜60重量%(例えば、56.2%)の凍結防止剤(例えば、スクロース)を含む乾燥固体を提供し;ここでこの乾燥固体は、水性媒体と混合する際に、約200nm未満の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する。
【0123】
本発明の乾燥固体の例は、約11.6重量%のα-コハク酸トコフェリル、約28.3重量%の卵レシチン、約3.9重量%のコレステロール、および約56.2重量%のスクロースを含み;ここでこの乾燥固体は、水性媒体と混合する際に、約200nm未満の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する。
【0124】
特定の態様において、本発明は、約1〜5重量%(例えば、約3.6%)のα-コハク酸トコフェリル、約6〜10重量%(例えば、8.8%)のレシチン(例えば、卵レシチン)、約0.5〜2重量%(例えば、1.2%)のコレステロール、および約10〜20重量%(例えば、約17.5%)の凍結防止剤(例えば、スクロース)を含む水中固体コロイド分散物を提供し;ここでこのコロイド分散物は、約200nm未満の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有する。
【0125】
本発明の水中固体コロイド分散物の例は、約3.6重量%のα-コハク酸トコフェリル、約8.8重量%の卵レシチン、約1.2重量%のコレステロール、および約17.5重量%のスクロースを含んでもよく;ここでこのコロイド分散物は、約200nm未満の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有する。
【0126】
特定の態様において、本発明は、約1〜15重量%(例えば、約11.5%)のα-コハク酸トコフェリル、約15〜30重量%(例えば、27.8%)のレシチン(例えば、卵レシチン)、約1〜5重量%(例えば、3.8%)のコレステロール、約30〜60重量%(例えば、約55.3%)のスクロース、および0.5〜2重量%(例えば、約1.6%)のパクリタキセルまたはドセタキセルを含む乾燥固体を提供し;ここでこの乾燥固体は、水性媒体と混合する際に、約200nm未満の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する。
【0127】
本発明の乾燥固体の例は、約11.5重量%のα-コハク酸トコフェリル、約27.8重量%の卵レシチン、約3.8重量%のコレステロール、約55.3重量%のスクロース、および約1.6重量%のパクリタキセルまたはドセタキセルを含んでもよく;ここでこの乾燥固体は、水性媒体と混合する際に、約200nm未満の平均粒子直径、および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する。
【0128】
本発明の薬学的組成物は、典型的には、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩および任意の別の抗癌剤との組み合わせ;油成分、リン脂質、抗酸化剤、任意に凍結防止剤、および水からなる群より選択される少なくとも1つの成分とを混合する工程;pHを5〜8に調整する工程;ホモジナイズして、約1000nm未満の平均粒子/液滴直径を有する均一なコロイド分散物を形成する工程(例えば、高剪断混合、高圧押し出し、または微小流動化を含む、機械的均質化方法を介して);滅菌フィルターを通過させる工程;および任意に、凍結乾燥または噴霧乾燥法によってコロイド分散物を乾燥させる工程によって形成される。
【0129】
関連する局面において、本発明は、そのような治療を必要とする被験体に、本発明のコロイド分散物を投与する工程を含む、癌を治療する方法を提供する。コロイド分散物は、静脈内、経口、筋肉内、皮膚、および皮下の経路を介して、動物またはヒトに投与されてもよい。投与の他の経路には以下が含まれるがこれらに限定されない:腹内、動脈内、関節内、嚢内、頸管内、頭蓋内、管内、硬膜内、病巣内、小室内、腰椎内、壁内、眼内、手術中、頭頂内、腹腔内、胸膜内、肺内、脊髄内、胸腔内、気管内、中耳内、子宮内、および脳室内。本発明のコロイド分散液はまた、親油性化合物の肺送達のために当技術分野において公知である、適切なエアゾール噴霧剤を使用して噴霧してもよい。
【0130】
本発明の一般的原理は、以下の非限定的な実施例の参照によって、より完全に理解することができる。
【0131】
実施例
実施例1
5%α-コハク酸トコフェリル分散物を、Cancel Lett. 192: 19-24, 2003に記載される条件に従って、以下の組成で調製した:
α-コハク酸トコフェリル 5% w/w
十分な脱イオン水
pHを7.0に調整するためのNaOH
【0132】
プロセスは以下の工程を含んだ:
(1)α-コハク酸トコフェリル(Spectrum ChemicalsによるビタミンEコハク酸、製品番号V1176)を4.25mg秤量する、
(2)脱イオン水56gを加える、
(3)攪拌しながら、1N NaOH溶液を使用してpHを7.1に調整する、
(4)さらに脱イオン水を加え、α-コハク酸トコフェリルを5% w/wの最終濃度にする、そして
(5)Ultra-Turrax高剪断ミキサーを使用して激しい機械的攪拌を適用し、白色、不透明かつ均質な分散物を得る。
【0133】
平均粒子直径を、レーザー光散乱スペクトロメータ(Particle Sizing Systems, Santa Barbara, CAによるLLS, Model 370)を使用して235nmで測定した。この分散物は、気密性ガラス容器中で、2週間、5℃の冷蔵庫の中で保持した。カード様沈殿およびガラス壁に付着したゲル様の被膜などの顕著な凝集が分散中に観察された。
【0134】
従って、Cancer Lett. 192: 19-24, 2003に従うα-コハク酸トコフェリル組成物は、物理的に不安定であり、ヒトへの使用のための注射用製品としては適していないことが結論付けられる。
【0135】
実施例2
5%α-コハク酸トコフェリル分散物を以下の組成に従って調製した:
α-コハク酸トコフェリル 5% w/w
ダイズ油 4% w/w
中鎖トリグリセリド 4% w/w
十分な脱イオン水
pHを7.0に調整するためのNaOH
【0136】
プロセスは以下の工程を含んだ:
(1)実施例1と同じ手順を使用して、α-コハク酸トコフェリル分散物を調製する、
(2)α-コハク酸トコフェリル分散物に、ダイズ油および中鎖トリグリセリドを加える、そして
(3)Mini Beadbeater (BioSpec)を使用する激しい攪拌によって混合し、白色、不透明かつ均質な分散物を得る。
【0137】
平均液滴直径を、レーザー光散乱スペクトロメータ(Particle Sizing Systems, Santa Barbara, CAによるModel 370)を使用して105nmで測定した。この分散物は、気密性ガラス容器中で、2週間、5℃の冷蔵庫の中で保持した。分解または凝集の徴候は観察されなかった。
【0138】
従って、油成分(ダイズ油および中鎖脂肪酸)を含む本発明に従って調製したα-コハク酸トコフェリル組成物は、Cancer Lett. 192: 19-24, 2003に従って実施例1において記載したα-コハク酸トコフェリル分散物よりも安定であることが結論付けられる。
【0139】
実施例3
5%α-コハク酸トコフェリル分散物を以下の組成に従って調製した:
α-コハク酸トコフェリル 5% w/w
ダイズ油 2.5% w/w
ダイズレシチン(LIPOID S-100) 2.5% w/w
十分な脱イオン水
pHを7.0に調整するためのNaOH
【0140】
プロセスは以下の工程を含んだ:
(1)実施例1と同じ手順を使用して、α-コハク酸トコフェリル分散物を調製する、
(2)α-コハク酸トコフェリル分散物に、ダイズ油およびダイズレシチンを加える、そして
(3)Mini Beadbeater (BioSpec)を使用する激しい攪拌によって混合し、白色、不透明かつ均質な分散物を得る。
【0141】
平均液滴直径を、レーザー光散乱スペクトロメータ(Particle Sizing Systems, Santa Barbara, CAによるLLS, Model 370)を使用して213nmで測定した。この分散物は、気密性ガラス容器中で、2週間、5℃の冷蔵庫の中で保持した。分解または凝集の徴候は観察されなかった。
【0142】
従って、油成分(ダイズ油)およびリン脂質(ダイズレシチン)を含む本発明に従うα-コハク酸トコフェリル組成物は、Cancer Lett. 192: 19-24, 2003に従って実施例1において記載したα-コハク酸トコフェリル分散物よりも、物理的かつ化学的に安定であることが結論付けられる。
【0143】
実施例4
実施例1、2、および3において調製した分散物を、不溶性抗癌剤、すなわち、パクリタキセルを運ぶそれらの能力について比較した。
【0144】
本研究は以下のように実施した:
(1)各分散物(1000mg)に0.5mgのパクリタキセル(SiChuan KangYi Corp, China)を加える;
(2)Mini Beadbeater (BioSpec)を使用する激しい攪拌によって混合し、白色、不透明かつ均質な分散物を得、次いで、分散物を室温で16時間回転させる、
(3)0.2ミクロンサイズのシリンジフィルターを通して各分散物を濾過する、そして
(4)濾液を希釈し、濾液中のパクリタキセル濃度についてHPLC分析を実施する。
【0145】
結果
製剤 パクリタキセル濃度(mg/mL)
実施例1の分散物 0.19
実施例2の分散物 0.39
実施例3の分散物 0.26
【0146】
従って、本発明に従うα-コハク酸トコフェリル組成物、すなわち、油成分(実施例2)または油成分とリン脂質の両方(実施例3)を有する組成物は、良好な安定性を保持しながら、Cancer Lett. 192: 19-24, 2003に従って実施例1において記載したα-コハク酸トコフェリル分散物よりも、有意により多くの不溶性抗癌薬物パクリタキセルを運ぶことができることが結論付けられる。
【0147】
実施例5
本発明に従う別のα-コハク酸トコフェリル分散物を、3.6%α-コハク酸トコフェリル、および任意に不溶性抗癌薬物パクリタキセルを含むように、以下の組成に従って調製した:
α-コハク酸トコフェリル 3.6% w/w
パクリタキセル 0.5% w/w(任意)
卵レシチン(LIPOID E80) 8.8% w/w
コレステロール 1.2% w/w
スクロース 17.5% w/w
十分な脱イオン水
pHを7.0に調整するためのNaOH/HCl
【0148】
油相の調製は以下のように実施した:
(1)卵レシチンおよびコレステロール、ならびに任意にパクリタキセルまたはドセタキセルを、すべて1つの容器中で秤量する、
(2)十分な無水エタノールを加えて、すべての固体を溶解し、透明な黄色溶液を得る、そして
(3)回転真空乾燥を適用し、エタノールを完全に除去して、半固体油相を得る。
【0149】
α-コハク酸トコフェリルコロイド分散物の調製は以下のように実施した:
(1)油相、スクロース、およびα-コハク酸トコフェリルを、すべて1つの容器中で秤量する、
(2)Ultra-Turrax高剪断ミキサーを5分間使用して激しい機械的攪拌を適用し、粗コロイド分散物を得る、
(3)18000psi圧力で6回作動するマイクロフルイダイザー(Microfluidics, MAによるModel 110F)を通して粗コロイド分散物を通過させ、半透明のわずかに黄色のコロイド分散物を得る、そして
(4)0.2μmメンブレンフィルターを通して、微小流動化した分散物を濾過する。
【0150】
平均コロイド分散物液滴直径を、レーザー光散乱スペクトロメータ(Particle Sizing Systems, Santa Barbara, CAによるModel 370)を使用して120〜130nmで測定した。
【0151】
凍結乾燥による、α-コハク酸トコフェリルの固体中固体分散物の調製を以下のように実施した:
(1)濾過したコロイド分散物を、各々2mLのガラスバイアル中に0.9mlで満たし、Virtis Advantage Freeze-drierを使用して凍結乾燥し、均一な白色塊(固体中固体分散物)を形成した、そして
(2)この固体中固体分散物に脱イオン水を加え、穏やかに混合して、半透明のわずかに黄色の分散物(水中固体分散物)を得る。
【0152】
再構成したα-コハク酸トコフェリル分散物の平均液滴直径を、レーザー光散乱スペクトロメータ(Particle Sizing Systems, Santa Barbara, CAによるModel 370)を使用して120〜130nmで測定した。α-コハク酸トコフェリル固体中固体分散物を、気密性ガラス容器中で、4週間、5℃の冷蔵庫の中で保持した。分解または凝集の徴候は観察されなかった。
【0153】
従って、本発明に従う固体中固体α-コハク酸トコフェリルコロイド分散物は、任意に不溶性抗癌薬物パクリタキセルとともに調製可能であることが結論付けられる。本実施例において調製した組成物は安定である。
【0154】
実施例6
溶血試験
2種のα-コハク酸トコフェリル分散物を、以下の組成を含むように、本発明に従って調製した:
α-コハク酸トコフェリル 5% w/w
卵レシチン(LIPOID E80) 5% w/w
十分な脱イオン水
pHを7.0に調整するためのNaOH/HCl
【0155】
α-コハク酸トコフェリル 5% w/w
ダイズ油 2.5% w/w
卵レシチン(LIPOID E-80) 2.5 w/w
十分な脱イオン水
pHを7.0に調整するためのNaOH/HCl
【0156】
両方の分散物を、ウサギ血液を使用して溶血について試験した。ウサギ赤血球細胞(2%)を通常の生理食塩水に懸濁し、以下のような試験項目とともに混合した。

【0157】
試験管を37℃に保ち、溶血(上清が赤くなる場合)について観察した。試験管7は溶血を示した。α-コハク酸トコフェリル分散物はいずれも、2時間で溶血の徴候を示さなかった。本発明に従うα-コハク酸トコフェリル分散物は溶血性ではなく、注射のために適切であることが結論付けられる。
【0158】
前述より、本発明の特定の態様が例証の目的のために本明細書で説明されてきたが、種々の改変が、本明細書の精神および範囲を逸脱することなくなされ得ることが理解される。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲による場合以外は限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩;油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分;ならびに水を含み;直径が200nm未満の平均粒度を有するコロイド分散物であり、該α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも6ヶ月の間安定であり、ならびに該α-コハク酸トコフェリルが下記の化学構造:

を有し、ここで、R1はCH3、R2はCH3、R3はCH3、およびRは-OOC-(CH2)2-COOHである、薬学的組成物。
【請求項2】
α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩;油成分、リン脂質、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの成分;ならびに凍結防止剤を含み;乾燥固体であり、該α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が室温で少なくとも6ヶ月の間安定であり、ならびに該乾燥固体が、水の添加に際して、直径が200nm未満の平均粒度を有するコロイド分散物を形成する、薬学的組成物。
【請求項3】
α-コハク酸トコフェロール、そのアナログまたは塩が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、およびアゼライン酸からなる群より選択される短鎖ジカルボン酸、または短鎖ジカルボン酸の塩のα-トコフェリルヘミエステルである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
さらに抗癌剤を含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項5】
油成分が、長鎖(C14〜C22)、中鎖(C8〜12)もしくは短鎖(C4〜C6)脂肪酸のトリグリセリド、ジグリセリド、もしくはモノグリセリド、またはこれらの混合物である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項6】
油成分が、ダイズ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ココナッツ油、ベニバナ油、綿実油、ラッカセイ油、オリーブ油、ナタネ油、ヤシ油、コレステロール、およびこれらの混合物からなる群より選択される天然に存在する植物油または動物性脂肪である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項7】
リン脂質が天然に存在するリン脂質または合成リン脂質である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項8】
天然に存在するリン脂質が、ダイズレシチン、卵レシチン、水素化ダイズレシチン、水素化卵レシチン、スフィンゴシン、ガングリオシド、フィトスフィンゴシン(phytosphingosine)、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
合成リン脂質が、ジアシルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスホコリン、ホスホエタノールアミン、ホスホグリセロール、ホスホセリン、混合鎖リン脂質、リゾリン脂質、ペグ化リン脂質、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
抗酸化剤がエデト酸(EDTA)またはその塩、アスコルビン酸またはその塩、アスコルビルパルミテート、メタ重亜硫酸ナトリウムまたはその塩、没食子酸プロピル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、トコフェロール、還元糖、アミノ酸またはその塩、クエン酸またはその塩、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1または2記載の組成物。
【請求項11】
コロイド分散物が、高剪断混合、高圧押し出し、または微小流動化によって調製される、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
乾燥固体が、請求項1記載の組成物の真空乾燥、噴霧乾燥、または凍結乾燥によって調製される、請求項2記載の組成物。
【請求項13】
凍結防止剤が、単糖、二糖、多糖、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、ポリオール、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、セルロースおよびセルロース誘導体、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、ポリビニルピロリドン、塩化ナトリウム、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項14】
コロイド分散物が、約1重量%〜約20重量%のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩;約1重量%〜約20重量%の油成分;および任意に約6から約8の間のpHを有する水性媒体中の0.005重量%〜0.1重量%のエデト酸ナトリウム塩;および任意に浸透圧調節剤を含み;ここで該コロイド分散物が約200nm未満の平均粒子直径を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
乾燥固体が、約1重量%〜約30重量%のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩;約1重量%〜約20重量%の油成分;約10重量%〜約80重量%の凍結防止剤;および任意に約0.005重量%〜約1重量%のエデト酸ナトリウム塩を含み;ここで該乾燥固体が、水性媒体との混合の際に、約200nm未満の平均粒子直径および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する、請求項2記載の組成物。
【請求項16】
抗癌剤が、アルキル化剤、代謝拮抗物質、タキサン、細胞毒性剤、細胞保護剤アジュバント、LHRHアナログ、白金製剤、抗エストロゲン、抗アンドロゲン、ホルモン、アロマターゼ阻害剤、細胞周期制御剤、アポトーシス剤、トポイソメラーゼ阻害剤、血管形成阻害剤、免疫療法剤、モノクローナル抗体、レチノイド、キナーゼ阻害剤、およびシグナル伝達阻害剤からなる群より選択される、請求項4記載の組成物。
【請求項17】
抗癌剤がパクリタキセルまたはドセタキセルである、請求項4記載の組成物。
【請求項18】
抗癌剤と組み合わせた、α-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩が、相加的または相乗的な抗癌活性を生じる、請求項4記載の組成物。
【請求項19】
無傷のα-コハク酸トコフェリル、そのアナログまたは塩の損失が、室温での6ヶ月の保存の間に約15%を超えない、請求項1または2記載の組成物。
【請求項20】
平均粒度が、室温での6ヶ月の保存の間に約50%を超えて増加しない、請求項1記載の組成物。
【請求項21】
乾燥固体が、約1〜15重量%のα-コハク酸トコフェリル、約15〜35重量%のレシチン、約1〜5重量%のコレステロール、および約30〜60重量%の凍結防止剤を含み;該乾燥固体が、水性媒体との混合の際に、約200nm未満の平均粒子直径および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する、請求項2記載の組成物。
【請求項22】
コロイド分散物が水中固体分散物であり、約1〜5重量%のα-コハク酸トコフェリル、約6〜10重量%のレシチン、約0.5〜2重量%のコレステロール、および約10〜20重量%の凍結防止剤を含み;該コロイド分散物が、約200nm未満の平均粒子直径および約6から約8の間のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項23】
乾燥固体が、約1〜15重量%のα-コハク酸トコフェリル、約15〜35重量%のレシチン、約1〜5重量%のコレステロール、および約30〜60重量%の凍結防止剤および0.5〜2重量%のパクリタキセルまたはドセタキセルを含み;該乾燥固体が、水性媒体との混合の際に、約200nm未満の平均粒子直径および約6から約8の間のpHを有するコロイド分散物を形成する、請求項2記載の組成物。
【請求項24】
コロイド分散物が水中油エマルジョンまたは水中固体懸濁液である、請求項1記載の組成物。
【請求項25】
乾燥固体が固体中油分散物または固体中固体分散物である、請求項2記載の組成物。
【請求項26】
その必要がある哺乳動物に、請求項1または2記載の組成物の薬学的有効量を投与する工程を含む、感受性の新生物を治療する方法。
【請求項27】
投与が、静脈内、腹内、動脈内、関節内、嚢内、頸管内、頭蓋内、管内、硬膜内、病巣内、小室内、腰椎内、壁内、眼内、手術中、頭頂内、腹腔内、胸膜内、肺内、脊髄内、胸腔内、気管内、中耳内、子宮内、および脳室内の投与からなる群より選択される注射経路による、請求項26記載の方法。
【請求項28】
哺乳動物がヒトである、請求項26記載の方法。
【請求項29】
感受性の新生物が、白血病、肉腫、癌腫、および骨髄腫からなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項30】
請求項1または2記載の組成物が、その必要がある哺乳動物に静脈内投与される、請求項26記載の方法。。

【公表番号】特表2008−508302(P2008−508302A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523807(P2007−523807)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/026783
【国際公開番号】WO2006/015120
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(506200290)エスディー ファーマシューティカルズ インコーポレイティッド (5)
【Fターム(参考)】