説明

α相およびβ相を有する2相タイプのチタニウム合金の汚染を検出する方法

本発明は、α相およびβ相を有する2相タイプのチタニウム合金を検査する方法に関する。方法は、
a)合金から作られた部分の試料を切断するステップと、
b)試料のエッジ(50)の近傍に位置する試料の切断面の領域(4)を調製するステップであって、領域(4)が観察されることができるようにするために、エッジ(50)が部分の外面(1)と共通であるステップと、
c)5000倍よりも大きな倍率で領域(4)のα相を観察するステップと、
d)試料のエッジ(50)に隣接する第1のゾーン(11)のα相に粒状性があるかないかを決定するステップと、
e)隣接するゾーン(11)のα相に粒状性がないことが認められるが、隣接するゾーン(11)の外側のα相に粒状性(22)がある場合、合金が気体で汚染されたと結論付けるステップと
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α相およびβ相を有する2相タイプのチタニウム合金を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α相はチタニウム(Ti)の大部分の合金に存在する相の1つであり、Ti原子の最密六方結晶格子に相当する。
【0003】
α相を含むチタニウム合金は、接触する他の化学元素により容易に汚染される。たとえば、チタニウム合金は気体(酸素、窒素、水素、ハロゲンなど)により汚染される。反応速度論の理由から、そのような汚染は通常、物質が500℃近く以上の温度にさらされたときに目に見える。そのような汚染は、チタニウム合金が自分の露出された表面から脆化させられることにつながり、そのことがチタニウム合金の機械的特性の劣化につながる。
【0004】
それは、チタニウム合金が製造中に受けさせられる熱処理が、真空中で、すなわちチタニウム合金の表面が汚染されないほど十分に少ない気体に露出されて行われるためである。
【0005】
そのような予防措置にもかかわらず、合金の表面汚染は発生し得る。したがって、汚染の有無を検証することがきわめて重要である。現在、表面汚染を検出するためにいくつかの技法が使用されている。
【0006】
第1の検出技法が、合金を化学的に分析することを含む。知られている方法では、その化学的分析はマイクロプローブを用いて行われる。その技法は煩雑であり、あまり信頼性がなく、定性的である(その技法は汚染の広がりの程度を示さない)。
【0007】
第2の技法が機械的試験である。例として、知られている方法では、合金から作られたノッチ付き引張試験片が破壊に至るまで試験される。その技法は煩雑であり、信頼性がなく、定性的である。代わりに、知られている方法では、合金の薄板を使用することが可能であり、その板は、亀裂が出現するまで折りたたまれる。その技法は定性的でしかない。
【0008】
第3の技法が、チタニウム合金の微細構造を検査することを含む。その知られている技法のステップが図5に図式的に示されている。合金から作られた部分の試料は、切り口2の表面が部分の外面1につながるように切断される(ステップa))。次に、切り口2の表面の領域4が磨かれ、前記領域4は試料のエッジ50の近傍に位置し、エッジ50は部分の外面1と共通であり、その後、以下が、すなわち第1の化学試薬、および次に第2の化学試薬が前記領域4に続けて適用される(ステップb))。試薬を使用するこれらの化学エッチングが合金の微細構造を明らかにするのに役立つ。次に、試料のエッジは、その中に白いマージン10の有無を検出するために光学顕微鏡で観察される(ステップc))。
【0009】
図6は、光学顕微鏡による500倍の倍率での顕微鏡写真であり、酸素で汚染されたTA6Zr4DEチタニウム合金の断片の切断面を示す。白いマージン10の存在が試料のエッジ50に沿って見られることができる。そのような白いマージン10は、合金が合金の表面から気体により汚染されたしるしであることが知られている。汚染の深さはこの白いマージン10の幅により示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
金属組織検査のその技法は、比較的不正確のままであることがある。白いマージンと、隣接するより濃い灰色の部分との間のコントラストを視覚的に評価することだけに基づく方法では、変化する粒径と汚染検出の両方が、白いマージンの厚さの正確な測定が行われるのを妨げ、その結果、技法は、汚染の広がりを正確に知ることを常に可能にするわけではない。
【0011】
さらに、その技法は、ある種のチタニウム合金、たとえばTA5CD4に適用できない。したがって、図2は、酸素で汚染されたTA5CD4チタニウム合金の切断面を示す、光学顕微鏡による顕微鏡写真であり、試料のエッジ50に沿って白いマージンがまったく見られることができない。
【0012】
本発明は、それらの欠点を改善しようとする。
【0013】
本発明は、チタニウム合金が外来の気体の化学元素により汚染されたかどうかを決定することを可能にする方法を提供しようとし、その方法は、α相およびβ相を有する2相タイプのすべてのチタニウム合金に適用可能であり、汚染がより正確に測定されることができるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、方法が、
a)前記合金から作られた部分の試料を切断するステップと、
b)試料のエッジの近傍に配置される試料の切断面の領域を調製するステップであって、領域が観察されることができるようにするために、エッジが部分の外面と共通であるステップと、
c)5000倍より大きな倍率で領域のα相を観察するステップと、
d)試料のエッジと隣接する第1のゾーンのα相に粒状性があるかないかを決定するステップと、
e)隣接するゾーンのα相に粒状性がないことが認められるが、隣接するゾーンの外側のα相に粒状性がある場合、合金が気体で汚染されたと結論付けるステップと
を含むということにより達成される。
【0015】
これらの準備によって、α相およびβ相を有する2相タイプのチタニウム合金が、外来の気体の化学元素によりチタニウム合金に関係なく汚染されたかどうかを確実に決定することが可能である。さらに、このように、粒状性のないゾーンと粒状性のあるゾーンの間の境界がよく画定されるので、観察が行われるより大きな倍率が汚染を正確に測定することを可能にする。
【0016】
有利なことに、チタニウム合金試料の領域の調製は、前記領域を磨くこと、および次に単一試薬で領域を化学的にエッチングすることを含む。
【0017】
したがって、チタニウム合金試料の表面を調製するために、2つの試薬を使用することはもはや必要ない。したがって、試料の検査は、より簡単に、より信頼できるようにされる。
【0018】
本発明は、限定しない例によって示される一実装形態の以下の詳細な説明を読むことでよく理解されることができ、本発明の有利な点がよりよく明らかになる。説明は添付図面に言及する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の方法のステップの図である。
【図2】酸素で汚染されたTA5CD4チタニウム合金の切断面を示す、光学顕微鏡による顕微鏡写真である。
【図3】より大きい倍率での、図2のTA5CD4チタニウム合金の切断面の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真である。
【図4】図3に示される微細構造の図である。
【図5】チタニウム合金の微細構造を検査する従来技術の方法のステップの図である。
【図6】500倍の倍率で示される、酸素で汚染されたTA6Zr4DEチタニウム合金の切断面の光学顕微鏡による顕微鏡写真である。
【図7】より大きな倍率での、図6のTA6Zr4DEチタニウム合金の切断面の走査型電子顕微鏡による顕微鏡写真である。
【図8】図7に示される微細構造の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
これまで、α相およびβ相を有する2相タイプのチタニウム合金から作られた部分を観察するとき、前記部分の表面と共通な試料のエッジに沿って白いマージンがまったく見られることができない場合、部分は汚染されなかったと結論付けられた。したがって、部分の機械的性能が要求を満たさないと認められた場合、不十分な性能が、たとえば製造欠陥の結果、不十分な表面状態の結果、加工硬化の結果、または不十分な動作条件の結果であると結論付けられた。それらの事象のどれもが、不十分な機械的性能を説明し得る。
【0021】
本発明者らは、α相およびβ相を有する2相タイプのさまざまなチタニウム合金の多数の試料を収集し、自明でない方法で、本発明者らは、気体元素により表面で汚染された合金の白いマージンを観察するために十分な約500倍の通常の倍率よりもはるかに大きな倍率で試料を観察しようと考えた。したがって、5000倍以上の倍率を使用して、本発明者らは、予期せずに、α相の一定のゾーンが粒状性を提示しないが、α相の他のゾーンが粒状性を実際に提示することを観察した。
【0022】
図1は、粒状性を観察することができるようにする本発明の方法のステップの図である。
【0023】
まず、α相およびβ相を有する2相タイプのチタニウム合金から作られた部分の試料が、切り口2の表面が部分の外面1につながるように切断される(ステップa)。
【0024】
その後、切り口2の表面の領域4が調製され、前記領域4は試料のエッジ50の近傍に位置し(ステップb)、このエッジ50は部分の外面1と共通である。この調製の目的は領域4が観察されることができるようにすることである。
【0025】
たとえば、この調製は、領域4を磨き、次に、単一試薬で領域4を化学的にエッチングすることを含む。2つの試薬を連続して、異なる期間に使用する必要がある従来技術の方法と異なり、本発明の方法では、単一試薬を使用することができる。このことが方法を簡略化し、不十分な調製のどんな危険性も減少させる。
【0026】
たとえば、研磨は鏡面研磨である。
【0027】
たとえば、試薬は、0.5%のフッ化水素酸HFの水溶液である。この試薬は、15秒から30秒までの範囲にある期間、試料の表面に適用される。
【0028】
代わりに、2つ以上の試薬を使用することができる。
【0029】
その後、領域のα相は少なくとも5000倍の倍率で観察される(ステップc)。
【0030】
これらの観察は、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)を使用して行われる。
【0031】
代わりに、これらの観察は、5000倍を超えてまで拡大することができる何らかの他の顕微鏡を使用して行われてもよい。それにもかかわらず、これらの観察は、現在の光学顕微鏡の最大倍率が約1000倍であるので、現在の光学顕微鏡を使って行われることができない。
【0032】
例として、使用される倍率は10,000倍よりも大きい。
【0033】
次に、試料のエッジと隣接するゾーン11のα相に粒状性があるかないかが決定される(ステップd)。
【0034】
その後、前記隣接するゾーン11のα相に粒状性がないことが認められるが、前記隣接するゾーン11の外側のα相に粒状性22がある場合、合金は気体により汚染されたと結論付けられる(ステップe)。
【0035】
したがって、酸素で汚染されたTA6Zr4DEチタニウム合金試料の切断面の5000倍の倍率でのSEM顕微鏡写真である図7に示されるように(また、その試料の光学顕微鏡の顕微鏡写真が図6に示される)、試料のエッジ50に隣接する第1のゾーン11では、α相Aは粒状性を含まないが、エッジ50からさらに離れた第2のゾーン20では、α相Aの中に粒状性22が確かに存在することが分かる。
【0036】
したがって、本発明者らは、隣接する第1のゾーン11で、図6で観察された白いマージン10に対応する粒状性がないことを観察した。
【0037】
図8は、図7で観察された構造を示す図である。
【0038】
試料のエッジに隣接するゾーン11のα相に粒状性22がないことが、気体による前記試料の(前記隣接するゾーン11の)汚染と相関させられる仮説を確認するために、本発明者らは、汚染されていないが表面改質(たとえば加工硬化、研磨)を受けさせられたTA6Zr4DEチタニウム合金のエッジを観察した。本発明者らはこれらの合金の1つから作られた部分のエッジ50に隣接するゾーン11のα相に粒状性22が存在することを見い出し、それにより上記の仮説を実証した。
【0039】
有利なことに、本発明の方法は、TA5CD4チタニウム合金が表面で汚染されたか、されなかったかを決定することができるようにするが、その情報は、従来技術の観察方法を使用して入手することができない。そうして、図3は、図2に光学顕微鏡の顕微鏡写真が同様に示されるTA5CD4チタニウム合金の切断面の5000倍の倍率でのSEB顕微鏡写真である。試料のエッジ50に隣接する第1のゾーン11では、α相Aには粒状性がないが、エッジ50からさらに離れた第2のゾーン20(すなわち隣接するゾーン11の外側にあるゾーン)では、α相Aの中に粒状性22が存在することが分かる。
【0040】
図4は、図3で観察された構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α相およびβ相を有する2相タイプのチタニウム合金を検査する方法であって、
a)前記合金から作られた部分の試料を切断するステップと、
b)前記試料のエッジ(50)の近傍に位置する前記試料の切断面の領域(4)を調製するステップであって、前記領域(4)が観察されることができるようするために、前記エッジ(50)が部分の外面(1)と共通であるステップと、
c)前記領域(4)のα相を5000倍よりも大きな倍率で観察するステップと、
d)試料の前記エッジ(50)に隣接する第1のゾーン(11)のα相に粒状性があるかないかを決定するステップと、
e)前記隣接するゾーン(11)のα相に粒状性がないことが認められるが、前記隣接するゾーン(11)の外側のα相に粒状性(22)がある場合、前記合金が気体で汚染されたと結論付けるステップと
を含むことを特徴とする、チタニウム合金を検査する方法。
【請求項2】
ステップc)での前記観察が走査型電子顕微鏡で行われることを特徴とする、請求項1に記載のチタニウム合金を検査する方法。
【請求項3】
ステップb)での前記領域(4)の調製が、前記領域(4)を磨き、次に、少なくとも1つの試薬で前記領域(4)を化学的にエッチングするステップを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のチタニウム合金を検査する方法。
【請求項4】
前記化学エッチングが単一試薬を使用して行われることを特徴とする、請求項3に記載のチタニウム合金を検査する方法。
【請求項5】
前記試薬が、0.5%のフッ化水素酸HFの水溶液であることを特徴とする、請求項4に記載のチタニウム合金を検査する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−503330(P2013−503330A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526094(P2012−526094)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051583
【国際公開番号】WO2011/023874
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】