説明

β−アミロイドペプチドに対するヒト化抗体

本発明は、AbetaのC−末端部分に選択的に結合する、ヒト化された、または完全ヒト型の、単離した抗体を開示する。本発明の抗体は、Abetaのオリゴマー化を阻止することができる。さらに、(i)抗体を標識し;(ii)有効量の該抗体を対象に鼻内投与または全身投与し;(iii)対象の身体部分における標識抗体の濃度および/または存在を検出する工程を含む診断法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体技術の分野、より具体的にはベータ−アミロイドペプチドに対するヒト化抗体の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は加齢性神経変性障害であり、2006年には2660万人に罹患した。予報では、2050年までに罹患率が4倍になり、その時点までに世界中で85人に1人がこの疾患を伴う状態で生活するであろうと推定されている(Brookmeyer et al. (2007))。ADは進行性の認知欠損、たとえば記憶喪失および精神能力衰退として現われる。
【0003】
ADの病因の中心は、脳におけるベータ−アミロイドペプチド(Abeta)の蓄積である。Abetaはアミロイド前駆体タンパク質(APP)の開裂産物であり、これがアミロイド形成経路において、まずβ-セクレターゼにより、次いでγ-セクレターゼにより、順に開裂する。生成したAbetaフラグメントは種々のサイズのものであるが、アミノ酸40個のペプチド(Abeta40)が最も多量に存在する種であり、アミノ酸42個のペプチド、いわゆるAbeta42が最も有害な種であると考えられている。Abetaは脳の細胞外空間に蓄積する可能性があり、そこに多段階プロセスで凝集して神経毒性オリゴマーを形成し、最終的に他の物質と一緒にアミロイド斑を生成し、これがアルツハイマー病の典型的な特徴である。
【0004】
アルツハイマー病の治療に有望な臨床免疫学的方法は受動免疫化であり、この方法ではAbetaを脳から除去するためにAbetaに対する抗体を対象に投与する。抗Abeta抗体によるAbetaクリアランスに関して3つの異なる機序が提唱されており、これらは相互排他的ではない:(1)フィブリル状Abetaをより毒性の低い形態に触媒変換する(Bard et al. (2000); Bacskai et al. (2001); Frenkel et al. (2000));(2)Abeta沈着物をオプソニン化して、ミクログリア食作用へ誘導する(Bard et al. (2000); Bacskai et al. (2002); Frenkel et al. (2000);および(3)脳から循環へのAbeta流出を促進する(DeMattos et al. (2001))、いわゆる末梢シンク(peripheral sink)仮説。
【0005】
チューリッヒ大学のMohajera et al. (2004)およびGaugler et al. (2005)はAbetaに対するマウス抗体を作製し、モノクローナルネズミ抗Abeta抗体の生物活性をインビボで調べた。
【0006】
しかし、ネズミモノクローナル抗体はヒトに投与した場合にしばしば免疫原性を生じる。誘発された抗グロブリン応答は、ネズミ抗体の臨床有用性を制限する(Miller et al. (1983); Schroff et al. (1985))。
【0007】
したがって、Abeta関連障害、特にアルツハイマー病の治療および/または診断のための新規な非免疫原性である有効抗体が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Brookmeyer R, Johnson E, Ziegler-Graham K, Arrighi HM (2007): Forecasting the global burden of Alzheimer’s disease. Alzheimer's & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association (Vol. 3 (3))
【非特許文献2】Bard, F., Cannon, C., Barbour, R., Burke, R.L., Games, D., Grajeda, H., Guido, T., Hu, K., Huang, J., Johnson-Wood, K., Khan, K., Kholodenko, D., Lee, M., Lieberburg, I., Motter, R., Nguyen, M., Soriano, F., Vasquez, N., Weiss, K., Welch, B., Seubert, P., Schenk, D. and Yednock, T. (2000): Peripherally administered antibodies against amyloid beta-peptide enter the central nervous system and reduce pathology in a mouse model of Alzheimer disease. Nat. Med. 6, 916-919
【非特許文献3】Bacskai, B.J., Kajdasz, S.T., Christie, R.H., Carter, C., Games, D., Seubert, P., Schenk, D. and Hyman, B.T. (2001): Imaging of amyloid-beta deposits in brains of living mice permits direct observation of clearance of plaques with immunotherapy. Nat. Med. 7, 369-372
【非特許文献4】Frenkel, D., Katz, O. and Solomon, B. (2000): Immunization against Alzheimer’s beta-amyloid plaques via EFRH phage administration. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 11455-11459
【非特許文献5】Bacskai, B.J., Kajdasz, S.T., McLellan, M.E., Games, D., Seubert, P., Schenk, D. and Hyman, B.T. (2002): Non-Fcmediated mechanisms are involved in clearance of amyloid-beta in vivo by immunotherapy. J. Neurosci. 22, 7873-7878
【非特許文献6】DeMattos, R.B., Bales, K.R., Cummins, D.J., Dodart, J.C., Paul, S.M. and Holtzman, D.M. (2001): Peripheral anti-Abeta antibody alters CNS and plasma Abeta clearance and decreases brain Abeta burden in a mouse model of Alzheimer’s disease. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 8850-8855
【非特許文献7】Mohajeri, M.H., Gaugler, M., Martinez, J., Tracy, J., Li, H., Crameri, A., Kuehnle, K., Wollmer, Am.A. and Nitsch, R.M. (2004): Assessment of the bioactivity of Antibodies against beta-amyloid peptide in vitro and in vivo. Neurodegenerative dis. 1, pp. 160-167
【非特許文献8】Gaugler, M., Tracy, J., Kuhnle, K., Crameri, A., Nitsch, R.M. and Mohajeri, M.H. (2005): Modulation of Alzheimer’s pathology by cerebro-ventricular grafting of hybridoma cells expressing antibodies against Abeta in vivo. FEBS Letters 579, pp. 753-756
【非特許文献9】Miller, R. et al. (1983): Monoclonal antibody therapeutic trials in seven patients with T-cell lymphoma. Blood 62:988-995
【非特許文献10】Schroff, R. et al. (1985): Human anti-murine immunoglobulin responses in patients receiving monoclonal antibody therapy. Cancer Research 45:879-885
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の一般的な目的は、Abetaに、特にAbetaのC−末端部分に特異的に結合し、かつヒトの免疫系が十分に耐容する抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1観点において、本発明は、AbetaのC−末端領域、特にアミノ酸30〜40の間(SEQ.ID.No.26)に選択的に結合する、ヒト化された、または完全ヒト型の、単離した抗体を提供する。この抗体は、Abeta42およびAbeta40の両方に対して高い親和性を示し、さらに、アミロイド前駆体タンパク質(APP)をインビボで実質的に認識しない。
【0011】
いわゆるヒト化抗体の利点は、それらがヒトの免疫系の応答を誘発する能力が一般的には最小限であるかまたは無く、したがってヒトに適用した際に免疫原性が低いかまたは無いとみなしうることである。したがって、ネズミ抗体と異なってヒト化抗体は療法目的および臨床適用に適切である。
【0012】
用語”ヒト化”は、異種抗体の免疫原性を低下させる十分に確立された技術を表わす。ヒト化抗体は、ヒト以外の構造が可能な限り少なく存在するように遺伝子工学的に操作される。1方法は、異種抗体の相補性決定領域(CDR)をヒトのアクセプター枠組み構造の可変軽鎖VLおよび可変重鎖VHにグラフトさせることに基づく。他の方法では、異種抗体の枠組み構造をヒトの枠組み構造に向けて変異させる。両方の場合とも、抗原結合部分の機能性の維持が必須である。その目的のために、親配列および種々の仮説的なヒト化生成物の三次元モデルを、たとえば当業者に周知の分子モデリングのためのコンピュータープログラムを用いて分析する。この分析により−特に−抗原結合に直接または間接的に関与すると思われる枠組み構造残基を同定することができる。しばしば、抗原結合には少数のドナー枠組み構造残基が重要である;それらが抗原と直接接触するか、またはそれらが特定のCDRのコンホメーションに影響を及ぼすからである(Davies et al (1990); Chothia et al (1987))。したがって、既に存在しない場合には、対応するアクセプター枠組み構造残基を、抗原結合のために重要であると同定されたこれらのドナー枠組み構造残基に向けて変異させることが望ましい。ヒト化抗体は、ヒトの生殖系列レパートリーにもインビボでみられず、ドナーCDR中またはさらにドナー枠組み構造中にもみられない残基を含むこともできる。
【0013】
抗体のヒト化の程度は、ヒト化抗体の作製に使用したヒトライブラリーから入手できる元のヒトアクセプター枠組み構造に対する、ヒト化抗体の枠組み構造の配列同一性のパーセントを計算することにより示すことができる。好ましくは、本発明の抗体は、入手できるヒトライブラリーの枠組み構造に対して少なくとも60%の同一性、より好ましくは(下記の順に)少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、最も好ましくは95%、またはさらには100%の同一性をもつ枠組み構造を含む。本発明の概念において、用語”相補性決定領域”または”CDR”は、Kabat et al. (1991)が定義したように抗体の抗原結合ループからなる相補性決定領域を表わす。本発明のCDRおよび枠組み構造残基は、Kabatの定義(Kabat et al. (1987)に従って決定される。
【0014】
本明細書中で用いる用語”抗体”は、全長抗体、たとえばモノクローナル抗体、およびそのいずれかの抗原結合フラグメントまたは一本鎖であって選択した抗原に対して十分な結合能をもつものを表わす。本発明に含まれる抗原結合フラグメントの例には、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント;単一ドメインまたはdAbフラグメント、単離した相補性決定領域(CDR);場合により合成リンカーによって連結していてもよい2以上の単離したCDRの組合わせ、および一本鎖可変フラグメント(scFv)が含まれる。”全長抗体”にはキメラ抗体が含まれ、それらにおいては、ある由来の抗原結合性可変ドメインが異なる由来の定常ドメインに結合している;たとえば、ネズミ抗体の可変ドメインFvがヒト抗体の定常ドメインFcに結合している。
【0015】
前記に挙げた抗体フラグメントは当業者に既知の常法を用いて得られ、それらのフラグメントは無傷抗体と同じ方法で有用性がスクリーニングされる。
本発明において、CDRはモノクローナルマウス抗体22C4に由来する(Mohajeri et al. (2002), J. Biol. Chem. 277, pp. 33012-33017、およびNeurodegenerative Dis. 1 (2004), pp. 160-167)。このネズミ抗体はAbetaのC−末端部分、より具体的にはアミノ酸30〜40内のエピトープ(SEQ.ID.No.26)に対するものである。
【0016】
好ましい態様において、抗体は、Abeta、特にAbeta40および/またはAbeta42のターゲットに結合することによりそれらのオリゴマー化を阻止する。
本発明は、SEQ ID:No.1、SEQ ID:No.2、SEQ ID:No.3、SEQ ID:No.4、SEQ ID:No.5およびSEQ ID:No.6からなる群の配列に対して少なくとも80%の同一性をもつ1以上の相補性決定領域(CDR)配列を含む抗体を提供する。
【0017】
既に述べたように、本発明のCDR、すなわちSEQ ID:No.1、SEQ ID:No.2、SEQ ID:No.3、SEQ ID:No.4、SEQ ID:No.5およびSEQ ID:No.6を適切なアクセプター枠組み構造中にグラフトさせることができる。用語”枠組み構造”は、より多様性のあるCDR領域間に存在する、抗体可変部の当技術分野で認識されている部分を表わす。そのような枠組み構造領域は、一般に枠組み構造1〜4(FR1、FR2、FR3、およびFR4)と呼ばれ、三次元空間で抗体の重鎖および軽鎖可変部中にある3つのCDRを保持するための足場を提供し、これによりCDRは抗原結合表面を形成することができる。適切なアクセプター枠組み構造は、好ましくは当技術分野で周知の免疫グロブリン由来の抗原結合ポリペプチドの枠組み構造であり、下記のものが含まれるが、これらに限定されない:VhHドメイン、V-NARドメイン、Vhドメイン、Fab、scFv、ビス-scFv、ラクダ(Camel)IG、IfNAR、IgG、Fab2、Fab3、ミニボディー(minibody)、ディアボディー類(diabodies)、トリアボディー類(triabodies)およびテトラボディー類(tetrabodies)(参照:Holliger, P. and Hudson, P. (2005), Nat. Biotechnol. 23(9), pp. 1126-1136)。枠組み構造配列は、ヒトのコンセンサス配列であってもよい。
【0018】
抗体は、IgM、IgG、IgD、IgAおよびIgEならびにイソ型を含めたいずれかのクラスの免疫グロブリンから選択され、1より多いクラスまたはイソ型の配列を含むことができる。
【0019】
好ましくは、抗体は、入手できるヒトライブラリーの枠組み構造に対して少なくとも60%の同一性、より好ましくは(下記の順に)少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、最も好ましくは95%、またはさらには100%の同一性をもつ枠組み構造を含む。
【0020】
CDRをヒトの枠組み構造にグラフトさせることができ、得られる抗体はヒト以外のCDRおよびヒトまたは本質的にヒトの枠組み構造を含むので、本発明の抗体は組換え分子である。あるいは、抗体をヒト以外の抗体から誘導し、その枠組み構造をヒト抗体に向けて変異させる。両方の別形態が”入手できるヒトライブラリー”という用語に含まれる。
【0021】
本発明の1態様において、抗体はscFv抗体である。scFvは、短いリンカーペプチド、たとえば配列GGGGSの1〜4回反復を含むリンカー、好ましくは(GGGGS)ペプチド(SEQ ID No.25)、またはAlfthan et al. (1995) Protein Eng. 8:725-731に開示されたリンカーにより連結されたVLおよびVHドメインを含む全長scFvであってもよく、あるいは単に選択した抗原に対して十分な結合能をもつVLまたはVHドメインであってもよい。VLとVHの連結は、VL−リンカー−VHまたはVH−リンカー−VLのいずれの配向であってもよい。
【0022】
1態様において、scFvの枠組み構造は還元性環境で安定かつ可溶性である。これらの特性はWO01/48017に開示されるいわゆる品質管理システムにより確認できる。それらの抗体の安定性は、好ましくは特に安定なラムダグラフトの安定性の少なくとも半分程度良好であり、より好ましくは少なくともラムダグラフトと同程度に良好であり、最も好ましくはラムダグラフトより良好である。Woern et al. (2000)は、ラムダグラフトの変性の開始がほぼ2.0M GdnHClであると記載している。品質管理システムにおいて良好な性能を示すscFvは酸化条件下でも安定かつ可溶性であることが示された。好ましい態様において、Atha and Ingham (1981)の方法に従って測定した本発明の抗体の溶解度は、少なくとも5mg/ml、より好ましくは少なくとも10mg/ml、最も好ましくは少なくとも20mg/mlである。
【0023】
他の好ましい態様において、抗体は、SEQ ID.No.7、SEQ ID.No.8、SEQ ID.No.10、SEQ ID.No.11、SEQ ID.No.12、SEQ ID.No.13、SEQ ID.No.14、SEQ ID.No.15およびSEQ ID.No.16からなる群の配列に含まれる枠組み構造配列と同一であるか、またはそれから誘導される、可変軽鎖フラグメント(V)枠組み構造を含む。誘導配列の場合、その配列は、SEQ ID.No.7、SEQ ID.No.8、SEQ ID.No.10、SEQ ID.No.11、SEQ ID.No.12、SEQ ID.No.13、SEQ ID.No.14、SEQ ID.No.15およびSEQ ID.No.16からなる群の配列に対して少なくとも60%の同一性、より好ましくは(下記の順に)少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、最も好ましくは95%、またはさらに100%の同一性を示す。
【0024】
他の好ましい態様において、抗体は、SEQ ID.No.17、SEQ ID.No.18、SEQ ID.No.20、SEQ ID.No.21、SEQ ID.No.22およびSEQ ID.No.23からなる群の配列に含まれる枠組み構造配列と同一であるか、またはそれから誘導される、可変重鎖フラグメント(V)枠組み構造を含む。誘導配列の場合、その配列は、SEQ ID.No.17、SEQ ID.No.18、SEQ ID.No.20、SEQ ID.No.21、SEQ ID.No.22およびSEQ ID.No.23からなる群の配列に対して少なくとも60%の同一性、より好ましくは(下記の順に)少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、最も好ましくは95%、またはさらに100%の同一性を示す。
【0025】
配列SEQ ID.No.8、SEQ ID.No.10、SEQ ID.No.11、SEQ ID.No.12、SEQ ID.No.13、SEQ ID.No.14、SEQ ID.No.15、SEQ ID.No.16、SEQ ID.No.20、SEQ ID.No.21、SEQ ID.No.22およびSEQ ID.No.23は、WO03/097697に開示されている。これらの枠組み構造配列はヒト免疫グロブリン起源に由来し、還元性条件下でのそれらの溶解度および安定性の特性はWO01/48017に開示されるいわゆる品質管理システムで証明された。
【0026】
より好ましくは、抗体はSEQ ID.No.7のVHフラグメントおよびSEQ ID.No.17のVL配列を含む。
最も好ましくは、抗体はSeq.ID.No.24に対して少なくとも60%同一、より好ましくは少なくとも75%、80%、90%、95%同一である配列をもつ。最も好ましい態様において、本発明の抗体の構造はSeq.ID.No.24により定められる。この抗体においては、SEQ ID.No.7とSEQ ID.No.17が(GGGGS)リンカーにより連結されている。得られたscFv抗体をESBA212と命名した。
【0027】
AbetaのC−末端部分への選択的な結合能力を維持した状態で、本明細書に開示する配列とアミノ酸配列が異なるように本発明の配列を変更しうることは、当業者に理解されるであろう。したがって、ヒト化抗体の枠組み構造もCDR領域も、ドナーCDRまたはアクセプター枠組み構造と厳密に一致する必要はない。それらにおける変更は、1以上のヌクレオチドの置換、付加または欠失を、標準的な技術、たとえば部位特異的変異誘発およびPCR仲介変異誘発により抗体のヌクレオチド配列に導入することによって形成できる。そのような変異は、種々の目的で、たとえば抗体の結合性、溶解度または安定性の特性を改善するために導入することができる。本発明の抗体は、1以上の非必須アミノ酸残基における保存的アミノ酸置換を含むこともできる。他の態様においては、コード配列全体または一部に、たとえば飽和変異誘発によって変異をランダムに導入し、得られる変異体をそれらが目的ターゲットを結合する能力についてスクリーニングすることができる。
【0028】
2配列間の同一性パーセントは、2配列の最適アラインメントを得るために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮した、それらの配列が共有する同一位置の数の関数である。2配列間の配列の比較および同一性パーセントの判定は、数学的アルゴリズムを用いて達成でき、これは当業者に周知である。本明細書中で述べる同一性は、インターネットでアクセスしうるBLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tools;参照:Altschul, S.F., Gish, W., Miller, W., Myers, E.W. & Lipman, D.J. (1990) "Basic local alignment search tool." J. Mol. Biol. 215:403-410)を用いて判定されるものである。BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム、スコア=50、言語長さ=3を用いて、アミノ酸配列を本発明のタンパク質分子と比較することにより実施できる。比較のためのギャップ付きアラインメントを得るために、Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402に記載されるGapped BLASTを利用できる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(たとえばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを使用できる。
【0029】
本発明のタンパク質配列を、さらに”質問配列”として用いて公開データベースと対比した検索を実施して、たとえば関連配列を同定することができる。そのような検索は、前記のXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実施できる。
【0030】
本発明に含まれるヒト化された、または完全ヒト型の抗体は下記の特性を示す:
(i)AbetaのC−末端に結合し、したがってAbeta40およびAbeta42の両方に、高くかつ実質的に等しい親和性で結合する;
(ii)オリゴマー形およびモノマー形のAbetaに対して高い親和性を示す;
(iii)アミロイド前駆体タンパク質(APP)をインビボで実質的に認識しない;
(iv)少なくとも5mg/ml、好ましくは少なくとも10mg/ml、より好ましくは少なくとも20mg/mlの溶解度を有する;ならびに
(v)ヒトに適用した際に低い免疫原性を示すか、または免疫原性を示さない。
【0031】
さらに、本発明の抗体は好ましくは下記の特性のうち少なくとも1つ、より好ましくは1より多く、最も好ましくはすべてを示す:
(vi)ミクログリアによるフィブリル状Abetaの取込みを仲介する;
(vi)ベータ−アミロイド斑を結合する;
(vii)脳のベータ−アミロイド斑を除去し、および/または脳におけるアミロイド斑の形成を阻止する;
(viii)発作により生じる、Abeta毒性、および毒性促進事象に関連するニューロンの易損性(vulnerability)を軽減する;
(ix)血液脳関門を越える;ならびに/あるいは
(x)正常な行動を実質的に回復させる;
(xi)脳のベータ−アミロイドフィブリルを除去し、および/または脳におけるアミロイドフィブリルの形成を阻止する。
【0032】
本発明の抗体は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)をインビボで実質的に認識しない。好ましくは、Abetaに対する結合親和性は、APPに対する結合親和性と比較した場合、少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、よりさらに好ましくは少なくとも10倍、特に好ましくは少なくとも50倍、最も好ましくは少なくとも100倍高い。
【0033】
したがって、本発明の抗体を対象に投与した際、APPは結合に対してAbetaと競合せず、この抗体は未開裂APPの生物学的性質を妨害しない。この特徴は、たとえば中枢神経系における異常なAbeta蓄積および/または沈着に関連する神経障害の診断目的および/または医療処置のために特に興味深い。
【0034】
本明細書中で用いる用語”神経障害”には下記のものが含まれる−ただし、これらに限定されない−アルツハイマー病、軽度認知障害、失語症、前頭側頭認知症、レーヴィ小体疾患、パーキンソン病、ピック病、ビンスワンゲル病、脳アミロイド血管障害、ダウン症候群、多発梗塞性認知症、ハンチントン病、クロイツフェルト-ヤコブ病、エイズ認知症合併症、うつ病、不安障害、恐怖症、ベル麻痺、てんかん、脳炎、多発性硬化症;神経筋障害、神経腫瘍障害、脳腫瘍、神経血管障害;卒中を含む、神経免疫障害、神経耳科疾患、神経外傷:脊髄損傷を含む、疼痛:神経障害性疼痛を含む、小児神経障害および神経精神障害、睡眠障害、トゥーレット症状群、軽度認知損傷、血管性認知症、多発梗塞性認知症、嚢胞性線維症、ゴーシェ病その他の運動障害、緑内障、ならびに中枢神経系(CNS)の疾患全般。より好ましくは、本発明の抗体はアルツハイマー病、卒中、神経外傷および緑内障の治療、予防、進行遅延または診断に用いられる。
【0035】
他の観点においては、本発明の抗体を化学的に修飾する。化学修飾により、抗体の特性、たとえば安定性、溶解度、抗原結合特異性または親和性、インビボ半減期、細胞毒性、および組織透過能を変化させることができる。化学修飾は当業者に周知である。本発明の抗体の好ましい化学修飾はPEG化である。
【0036】
1態様においては、抗体を療法薬、たとえば毒素または化学療法用化合物にコンジュゲートさせる。抗体を放射性同位体、たとえば−これらに限定されない−212Bi、125I、131I、90Y、67Cu、212Bi、212At、211Pb、47Sc、109Pdおよび188Reに、たとえば免疫療法のためにコンジュゲートさせることができる。
【0037】
さらに他の態様においては、本発明の抗体を標識に連結させることができる。その標識は抗体の比色検出を可能にすることができる。あるいは、抗体を放射性標識する。最も好ましくは、放射性標識は64Cuである。
【0038】
本発明の他の目的は、本明細書に開示する抗体を含む診断用ツールまたは科学的ツールを提供することである。
本発明の抗体は、アミロイド症もしくはアルツハイマー病について対象を診断もしくはスクリーニングする際に、またはアミロイド症もしくはアルツハイマー病の発症に対する対象のリスクを判定する際に使用できる。
【0039】
さらに他の態様において、本発明にはさらに、有効量の本発明の抗体を対象、好ましくは哺乳動物に投与する段階を含む診断法が含まれる。この方法にはさらに、標識を検出する段階が含まれる。
【0040】
さらに他の態様において、本発明には、本明細書に記載する抗体を含むイムノアッセイが含まれ、その際、アッセイはインビボまたはインビトロのいずれのイムノアッセイであってもよい。抗体を、液相で、または固相に結合させて使用できる。そのようなイムノアッセイの例には、ラジオイムノアッセイ(RIA)、フローサイトメトリー、ウェスタンブロットおよびマイクロアレイが含まれる。
【0041】
さらに、本発明には本明細書に開示する抗体を含む検査キットが含まれる。
好ましい態様において、本発明の抗体はミクログリアによるフィブリル状Abetaの取込みを仲介し、これによりインビボでのAbetaレベルを低下させる。
【0042】
さらに他の好ましい態様において、本発明の抗体は、アルツハイマー病を伴う対象において有効量を投与すると認知行動を改善し、未成熟ニューロン数を減少させる。
さらに本発明には、中枢神経系におけるAbetaの異常な蓄積および/または沈着を特徴とする神経障害またはアミロイド症、特にアルツハイマー病を治療、予防および/または進行遅延するための、本明細書に開示する抗体を含む医薬組成物が含まれる。
【0043】
さらに他の態様において、本発明は、前記の神経障害、好ましくはアルツハイマー病の治療、予防および/または進行遅延のための、ならびに/あるいはアルツハイマー病に対する受動免疫化のための医薬組成物を製造する方法であって、本明細書に開示する抗体を少なくとも1種類の適切な医薬用キャリヤーと組み合わせる工程を含む方法を提供する。
【0044】
好ましくは、本明細書に開示する医薬組成物は、対象の脳におけるAbeta蓄積の影響を阻止および/または軽減する。
本発明の抗体は、医薬的に許容できるキャリヤーと組み合わせて、または1種類以上の他の有効薬剤と組み合わせて投与することができる。有効薬剤は、有機低分子および/または抗Abeta抗体であってもよい。
【0045】
本明細書に開示する抗体および/または医薬組成物は、種々の方法で、たとえば静脈内、腹腔内、鼻内、皮下、筋肉内、局所または皮内、頭蓋内、クモ膜下に髄液中へ投与することができる。好ましい適用の種類は、(この順に)鼻内、皮下、静脈内、クモ膜下に髄液中へ、および頭蓋内への投与である。
【0046】
一般的に用いられる製剤は当業者に既知である。たとえばエアゾール製剤、たとえば鼻スプレー製剤には、保存剤および等張化剤を含む有効薬剤の精製水溶液その他の溶液が含まれる。そのような製剤は、好ましくは鼻粘膜に適合するpHおよび等張状態に調整される。
【0047】
さらに、他の薬剤の同時投与または逐次投与が望ましい。好ましくは、本発明の抗体はアルツハイマー病の症例において正常な行動および/または認知特性を回復させるのに十分な量で存在する。
【0048】
さらに他の態様において、本発明は、前記に述べた神経疾患の治療、予防および/または進行遅延のための方法であって、その必要がある対象に有効量の本発明の抗体を投与する段階を含む方法を提供する。
【0049】
本発明の他の目的は、哺乳動物の受動免疫化のための方法であって、本明細書に開示する抗体を哺乳動物に投与する段階を含む方法を提供することである。好ましくは、受動免疫化は抗Abeta免疫療法の範囲内で実施される。
【0050】
他の態様において、本発明は、本発明に含まれるアミノ酸配列をコードする配列を含む、単離した核酸配列を特徴とする。そのような核酸配列は、DNAまたはRNAのいずれであってもよく、一本鎖または二本鎖のいずれであってもよい。
【0051】
さらに本発明は、本発明のポリペプチド、最も好ましくは抗体をコードするDNA配列を含む、クローニングベクターまたは発現ベクターを提供する。
さらに、本明細書に開示するアミノ酸配列をコードする配列を含むベクターおよび/または核酸配列を宿した、適切な宿主細胞が提供される。これは原核細胞または真核細胞、特に大腸菌(E.coli)、酵母、植物、昆虫または哺乳動物の細胞であってもよい。
【0052】
本発明の抗体は、組換え分子生物学の分野における日常的な技術を用いて作製できる。ポリペプチドの配列が分かれば、当業者はそれらのポリペプチドをコードする対応するcDNAを遺伝子合成により作製できる。
【0053】
他の態様においては、本発明の抗体を製造する方法であって、該抗体をコードするDNAで形質転換した宿主細胞を該抗体の合成が可能な条件下で培養し、そしてその分子を培養物から回収することを含む方法が提供される。好ましくは、この方法は、大腸菌封入体から、または用いたscFv構築体がポリペプチドをペリプラズムへ向かわせるシグナル配列を含む場合には大腸菌ペリプラズムから精製したscFv抗体を提供する。抗体をリフォールディングさせて機能性分子にするための復元工程を含むことが必要な場合がある。
【0054】
さらに他の態様において、本発明は、その必要がある対象に療法有効量の本明細書に記載するポリヌクレオチド、ベクターまたは宿主細胞を投与する段階を含む処置方法を提供する。
【0055】
第2観点において、本発明は、下記の段階を含む診断法を提供する:
(i)抗体を標識し;
(ii)有効量の該抗体を対象に鼻内投与または全身投与し;そして
(iii)対象の身体部分における標識抗体の濃度および/または存在を検出する。
【0056】
抗体は、Abetaのアミノ酸30〜40内に形成されているエピトープに対する本発明のヒト化抗体、好ましくは一本鎖抗体(scFv)である。好ましい態様においては、抗体を陽電子放射性同位体、最も好ましくは64Cuで標識する。
【0057】
本明細書中で用いる用語”有効量”は、目的とする効果、たとえば検出可能な信号に達するかまたは少なくとも部分的に達するのに十分な量を表わす。この用途に有効な量は、標識の検出強度、対象の体重、および検査すべき領域の広さに依存するであろう。
【0058】
好ましくは、対象は哺乳動物である;より好ましくは、対象はヒトである。
身体部分の三次元画像を作成する医療用イメージング技術である陽電子放射断層撮影法(PET)は、陽電子放射による放射線の検出に基づく。一般に、生体分子を放射性標識する;たとえばそれに放射性トレーサー同位体を取り込ませる。この標識した生体分子を一般に血液循環中への注入により対象に投与すると、放射性標識した生体分子は目的とする組織に濃縮される。次いで対象をイメージングスキャナーに入れ、これにより陽電子の放射を検出する。
【0059】
1態様においては、64Cu標識抗体を対象に投与し、そして対象をイメージングスキャナーに入れて陽電子放射を検出することにより段階iii)を実施する。
したがって本発明には、本発明の64Cu標識抗体を対象に投与する段階を含む、PETイメージングのための方法が含まれる。
【0060】
本発明の配列は下記のものである:
【0061】
【化1】

【0062】
【化2】

【0063】
【化3】

【0064】
【化4】

【0065】
別途定義しない限り、本明細書中で用いるすべての技術用語および科学用語は本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解しているものと同じ意味をもつ。本明細書に記載するものと類似または均等な方法および材料を本発明の実施または試験に使用できるが、適切な方法および材料を以下に記載する。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が支配するであろう。さらに、それらの材料、方法および例は例示のためのものにすぎず、限定のためのものではない。
【0066】
種々の態様、好ましい形態および範囲を任意に組み合わせうると理解される。さらに、具体的態様によっては、選択した定義、態様または範囲が適用されない場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
以下の詳細な本発明の記述を考慮すると、本発明がより良く理解され、前記に述べたもの以外の目的が明らかになるであろう。そのような記述には添付の図面を参照する。
【図1】図1は、ESBA212の軽鎖可変部と、22C4由来のAbeta特異的CDRをグラフトさせたESBATechの枠組み構造2.3のVLとの配列比較を示す。
【図2】図2は、ESBA212の重鎖可変部VHと、ESBATechの枠組み構造2.3のVHとの配列比較を示す。
【図3】図3は、ESBA212のVHと、マウス22C4抗体由来の原VHとの配列アラインメントを示す。
【図4】図4は、ESBA212、22C4および枠組み構造のVHの配列アラインメントを示す。
【図5】図5は、ADマウスモデルにおける斑をESBA212によりエクスビボ標識した結果を示す。パラフィン切片または凍結切片(未固定および固定後)のいずれかを用いた。図5A:マウスモデルSwePS1、パラフィン切片;図5B:マウスモデルSwePS1、凍結切片;図5C:マウスモデルSweArc、パラフィン切片;図5D:マウスモデルSweArc、凍結切片。
【図6】図6は、ヒトAD脳における斑をESBA212によりエクスビボ標識した結果を示す。パラフィン切片または凍結切片(未固定および固定後)のいずれかを用いた。図6A:パラフィン切片;図6B:凍結、アセトン固定;図6C:凍結、非処理;図6D:凍結;アセトン固定、クエン酸緩衝液中で10分間煮沸。
【図7】図7は、SwePS1マウスの脳切片におけるアミロイド斑をESBA212(図7A)およびチオフラビンS(図7B)によりエクスビボ染色した結果を示す。
【図8】図8は、FITC標識したAbeta42モノマーに結合したESBA212のサイズ排除クロマトグラフィーの結果を示し(図8A)、図8Bには、枠組み構造FW2.3を、FITC標識したAbeta42モノマーと共にインキュベートした対照を示す。
【図9】図9は、抗原としてトランスジェニックSwePS1マウスの脳ホモジェネート(図9A;列1:ESBA212、列2:6E10)およびADDL(図9B;列1:Fw2.3、列2:ESBA212、列3:6E10)を用いた2つのAbeta42イムノブロットを示す。ESBA212は主にモノマーを認識し、トリマーをより弱く認識する。
【図10】図10は、ELISAによるESBA212の親和性の測定を示す(図10A:Abeta40に対して;親和定数:6.26nM;および図10B:Abeta42に対して;親和定数:6.31nM)。
【図11】図11は、ESBA212の質量分析を示す。
【図12】図12は、FT-IRスペクトルを表わし、25〜95℃の範囲の種々の温度におけるESBA212のアンフォールディングのパーセントを示す。
【図13】図13は、マウス脳ホモジェネートの存在下(列1)または不存在下(列2)でインキュベートしたESBA212の安定性を示すウェスタンブロットである。
【図14】図14は、チオフラビンTアッセイの結果であり、ESBA212がAbeta42のオリゴマー化をインビトロで阻害することを示す。
【図15】図15は、静脈内または腹腔内への1回注射後の経時ESBA212平均血清濃度を示す。
【図16】図16は、鼻内(図16A)または静脈内(図16B)投与後の結合ESBA212の検出を示す。ESBA212は、選択した投与経路に関係なく脳内のアミロイド斑に結合する。
【図17】図17は、鼻内投与後(図17A)およびチオフラビンS染色後(図17A)のSwePS1マウスの脳における結合ESBA212の検出を示し、ESBA212がアミロイド斑に結合することが確認される。
【図18】図18は、ESBA212(図18AおよびC)と比較した64Cu-ESBA212(図18BおよびD)によるアミロイド斑のエクスビボ標識である。図18AおよびBはパラフィン切片を示し、一方、図18CおよびDは凍結切片を示す。
【図19】図19は、鼻内投与の24時間および48時間後のマウス(SwePS1)脳切片に結合したESBA212およびCu-ESBA212の検出を示す。図19A:24時間後のESBA212;図19B:48時間後のESBA212;図19C:24時間後のCu-ESBA212;および図19D:48時間後のCu-ESBA212。
【図20】図20は、静脈内ESBA212注射後の腎臓におけるESBA212の検出を示す。
【図21】図21は、図16Aと同様なさらに他の鼻内投与であり、200μgのESBA212で鼻内処理した後に1時間潅流した動物の固定SwePS1マウス脳切片におけるAβ染色を示す; 図21A:抗His抗体で染色; 図21B:6E10で染色した対照; 図21C:抗ウサギCy3で染色した陰性対照; 図21D:22c4 IgGで染色した対照。
【図22】図22は、PBS、22c4 IgGおよびESBA212で3カ月間処理したAPPswe/PS1ΔE9マウスにおける脳のAβ40および42のレベルを示す。図22A:可溶性画分(TBS);図22B:不溶性画分(GuHCl);図22C:膜結合画分(TBS−Triton)。
【図23】図23は、処理したAPPswe/PS1ΔE9マウスのパラフィン切片を6E10で染色し、ImageJソフトウェアにより評価したものを示す;図23A:斑の数;図23B:斑の面積。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0068】
実施例1:ESBA212の作製
一本鎖抗体ESBA212の抗原結合部位はネズミ抗体22C4から得られたものであり、チューリッヒ大学により同定された。Abeta特異的マウスIgG抗体22C4はマウスをAbeta30−42で免疫化することにより形成され、したがってAbetaのC−末端に対するものである。VLおよびVHドメインのクローニングはRT-PCRにより、Burmester and Plueckthun (2001)に従って実施された。要約すると、そのmRNAは抗体22C4を産生するハイブリドーマ細胞から得られた。Burmester and Plueckthunが記載したプライマーを用いるRT-PCRを実施して、VLおよびVHドメインを増幅させた。これら2ドメインをSOE-PCR(splicing by overlap extension;オーバーラップ延長によるスプライシング)により組み立てた。次いでこの増幅した一本鎖可変部フラグメント(scFv)をSfiIにより消化し、適切な発現ベクター中へクローニングし、配列決定した。こうして、Abeta42に対するそれの特異性を維持したマウスscFvフラグメントが得られた。このscFvをヒト化して、一本鎖抗体ESBA212を得た(配列比較については図1〜4を参照。図1および2は、ESBA212と、22C4由来のAbeta特異的CDRがグラフトした枠組み構造2.3とのアラインメントを示す)。
【0069】
ESBA212をコードするプラスミドを適切な大腸菌菌株(たとえばBL21)に導入し、封入体として発現させた。封入体のリフォールディング、およびそれに続くゲル濾過による精製により、機能性一本鎖抗体が得られた。
【0070】
実施例2:組織切片上のアミロイド斑への結合
scFv ESBA212がAbetaを認識しうるかを試験するために、アミロイド斑を含む脳組織のエクスビボ免疫染色を実施した。このために、ヒトAPPを発現してAbeta斑を形成する種々のトランスジェニックマウス(SweArc、SwePS1)からの脳組織切片、およびヒトのアルツハイマー病患者からの脳切片を用いた。
【0071】
ESBA212は、用いたアルツハイマー病マウスモデルに関係なく、マウスからの凍結切片およびパラフィン切片の両方において、アミロイド斑と反応した(図5)。ESBA212は、固定したヒトのアルツハイマー病組織上の斑をも染色した(図6A)。特に血管の周囲では、アミロイド血管障害として知られる強い染色が見られた。アミロイド血管障害は、大脳皮質および軟膜の小血管および中間サイズの血管におけるベータ−アミロイドの沈着を表わす。しかし、ESBA212はヒトの凍結切片上のアミロイド斑には、未固定(図6B)または固定後(図6C、D)いずれの切片においても結合しない。
【0072】
ヒトとげっ歯類の切片間のこれらの異なる結果は、トランスジェニックマウスはヒトAPPを過剰発現するので種々の斑種の量がヒトと比較して異なるという可能性において説明できる。Guentert et al. (2006)は、トランスジェニックマウスモデルとヒトADの脳における散在斑間に超微細構造上の差があると記載している。マウスの脳では、種々のサイズの緻密な斑が大部分を占める。ヒトAD患者の皮質および海馬では、このタイプの斑は10%に生じるにすぎず、これに対し有芯斑が優位を占める(約90%)(Guentert et al., 2006)。観察されたこれらの相異のため、トランスジェニックマウスの脳ではC−末端に到達できるが、AD患者の脳では到達できない可能性がある。ヒトの脳組織の固定は、そうしなければ埋め込まれていたC−末端エピトープを露出させてESBA212が到達できるように、アミロイド斑のコンホメーションを変化させた可能性がある。
【0073】
図7は、SwePS1の脳切片上のアミロイド斑へのESBA212の特異的結合を、アミロイドタンパク質沈着物に特異的に結合する標準的な蛍光色素であるチオフラビンSのパターンと一致するESBA212染色パターンとして示す。
【0074】
実施例3:Abeta42モノマーへの結合
ESBA212がFITC標識Abeta42に結合することをサイズ排除クロマトグラフィーにより示すことができた。ESBA212をFITC−Abeta42と共にインキュベートし、カラムに装填した。ESBA212およびFITC−Abeta42は、ESBA212に対するピークおよびFITC−Abeta42に対するピークとして厳密に重なって一緒に溶出し(図8A)、ESBA212単独と比較して5kDaのサイズシフトをも示し(データを示していない)、したがって、結合したFITC−Abeta42(5kDa)であることを表わす。しかし、ESBA212と同じ枠組み構造領域を含むけれどもAbeta特異的CDRを含まない枠組み構造FW2.3と共にFITC−Abeta42をインキュベートした場合、scFvに対するピークおよびFITC−Abeta42に対する第2のピークという2つの明瞭に識別されるピークが見られた(図8B)。
【0075】
実施例4:異なるAbeta42コンホメーションへの結合
ESBA212の特異性をさらに解明するために、Abeta42イムノブロットを実施した。このために、SwePS1マウスの脳ホモジェネートおよびインビトロ作製したADDL(amyloid beta-derived diffusible ligand;アミロイドベータ由来の拡散性リガンド類;Kleinによるプロトコル)をSDSゲル上で分離し、メンブレンに移した。ESBA212および6E10(対照としてのAbeta特異的IgG)を用いてAbetaを検出した。対照抗体6E10は、Abeta42モノマー、ベータ片(beta-stubs)、トリマー、および全長APPをも認識した。しかし、ESBA212は主にAbeta42を認識した(図9)。
【0076】
実施例5:インビトロでの親和性の解明
Abeta40およびAbeta42をそれぞれ抗原として用いるELISAにおいてESBA212の結合特性を調べた。96ウェルプレートを希釈用緩衝液(PBS/0.01% BSA/0.2% Tween-20)中5ug/mlのニュートラアビジン(neutravidin)でコーティングし、4℃で一夜インキュベートした。次いでプレートをTBS/0.005% Tween-20で3回洗浄した。ビオチニル化したAbeta40またはAbeta42(希釈用緩衝液中1ug/ml)を各ウェルに添加し、プレートを室温で15分間インキュベートした。プレートを前記に従って洗浄し、非特異的結合部位を希釈用緩衝液の添加により遮断した。プレートをさらに1.5時間、室温で振とうしながらインキュベートした。洗浄後、0〜500nMに調製したESBA212希釈液を三重試験法でウェルに添加し、室温(RT)で1時間振とうしながらインキュベートした。プレートを洗浄し、ESBA212を精製ウサギポリクローナル抗ESBA212抗体(希釈用緩衝液中1:10000)により室温で1時間検出した。洗浄後、先に結合したウサギ抗体を検出するために西洋わさびペルオキシダーゼ標識した抗ウサギIgG(希釈用緩衝液中1:4000)を用い、基質としてPODを用いた。1M HClの添加により反応を停止し、450nmにおける吸光度を読み取った。
【0077】
測定したESBA212の曲線からEC50を計算することができた。ESBA212について、EC50はAbeta40およびAbeta42のいずれに対しても1〜15nMの範囲であると判定された(図10)。
【0078】
実施例6:質量測定
ESBA212の正確な質量をエレクトロスプレー質量分析により測定した。そのために、ESBA212を精製し、50%アセトニトリル/0.2%ギ酸(pH2)中で測定した。MaxEnt1ソフトウェアを用いて質量スペクトル(中性質量)をデコンボリューションした。
【0079】
ESBA212の質量は26517Daと判定された(図11)。
実施例7:PEG沈降による溶解度測定
ESBA212の見掛け溶解度をポリエチレングリコール3000(PEG3000)の存在下でAtha and Ingham (1981)の方法に従って測定した。ESBA212(20mg/ml)を、種々の濃度のPEG3000(30〜50%)を含有する等体積の緩衝液と共にインキュベートして、最終タンパク質濃度10mg/mlおよび最終PEG濃度15〜25%にした。室温で30分間のインキュベーション後、試料を遠心分離し、280nmにおける吸光度から上清中のタンパク質濃度を測定した。PEG濃度を、上清中で測定したタンパク質濃度の対数に対してプロットすることにより、見掛け溶解度を計算した。溶解度は0%PEGに外挿することにより判定された。
【0080】
ESBA212の溶解度は約20mg/mlと判定された。
実施例8:熱安定性の測定
ESBA212の熱安定性は、温度を25℃から95℃まで上昇させるのに伴うフーリエ変換−赤外(FT−IR)スペクトルをBruker Tensor 27分光計で測定することにより判定された。スペクトルを測定する前に、ESBA212を各温度で1〜2分間放置して平衡化させた。
【0081】
ESBA212(タンパク質のアンフォールディング50%)の融解温度は62.8℃と判定された。ただし、ESBA212のアンフォールディングは既に約40℃で開始する(図12)。
【0082】
実施例9:インビトロでのAbeta凝集の阻止
ESBA212がAbeta42のオリゴマー化の形成を阻止できるかを調べた。そのために、チオフラビンTアッセイを溶液中で実施した。チオフラビンTは凝集したAbetaフィブリルと速やかに会合して、遊離色素の445nmと異なり482nmでの発光を増強させる。モノマーまたはダイマー状のペプチドは反応しないので、この変化は凝集状態のAbetaに依存する(LeVine III, 1993)。
【0083】
2.5μMのAbeta42を、2.27μMのESBA212と共に、またはESBA212なしに、チオフラビンTおよび500mMのNaClの存在下でインキュベートした。図14に明らかに見られるように、482nmで測定した蛍光が増大しないので、ESBA212の存在はAbetaのオリゴマー化をインビトロで3時間以上、明らかに阻止する。これに対し、ESBA212を溶液に添加しない場合はより高い値の蛍光が測定され、これはAbeta凝集物の形成の指標となる。
【0084】
実施例10:薬物動態のインビボ解明
ESBA212の薬物動態を判定するために、APP−トランスジェニックマウスおよび非トランスジェニック同腹仔をESBA212の静脈内または腹腔内1回注射により処理した。注射後の予め定めた時点で血液を眼窩後方において採取し、血清中のESBA212の量を定量ELISAにより測定し、データをPK−Summitソフトウェアにより分析した。
【0085】
動物:薬物動態実験のために、Prof. Dr. R. Nitsch (チューリッヒ大学)が作製したアルツハイマー病マウスモデルを用いた。これらのマウス(PrP−APP Sw/Arc 10+)は、SwedishおよびArctic両方の変異を含むヒトAPP695を、単一構築体中でプリオンタンパク質プロモーターの制御下に過剰発現する(Knobloch et al, 2006)。これらのマウスをC57BL/6およびDBA/2のハイブリッドバックグラウンドで繁殖させて、健康および繁殖上の問題が発生するのを防いだ。この系統の特徴は下記の点である:i)認知機能障害に関連する初期細胞内Abeta沈着物を6カ月齢から形成する;ii)斑の形成が7カ月齢から開始し、その後数カ月間にわたって著しく増大する。このベータ−アミロイド斑の発生は、重篤な脳アミロイド血管障害(CAA)と一致する(Knobloch et al. 2006)。
【0086】
薬物動態試験に用いたマウスは6カ月齢であった。
実験方法:ESBA212の静脈内または腹腔内注射後、薬物動態パラメーターを判定した。静脈内処理の場合、APP−トランスジェニックマウスおよび非トランスジェニック同腹仔を用いた。2匹の動物7グループに、PBS(pH6.5)中15mg/kgのESBA212を1回、静脈内注射した。予め定めた時点で(10および30分、1、2、4、8、12および24時間目)、各時点につき4つの試料を採取する方法で眼窩後方において血液を採取した(例外:10分および24時間目には2つの試料のみ)。血清中のESBA212濃度を定量ELISAにより測定した。
【0087】
ESBA212の腹腔内適用の場合、APP−トランスジェニックマウスのみを用いた。2匹の動物7グループに、PBS(pH6.5)中20mg/kgのESBA212を1回、腹腔内注射した。静脈内処理について前記に述べたと同様に血液試料を採集した。
【0088】
結果:ESBA212の静脈内注射後、全身薬物動態は2相クリアランスに従った。注射すると、明瞭な分布期(α−排出、0〜1時間)および終末排出期(β−排出、8〜12時間)が見られた(図15)。トランスジェニックマウスと非トランスジェニックマウスの間で、それぞれα−排出半減期(0.26時間−対−0.23時間)および終末半減期(8.79時間−対−7.11時間)に有意差はなかった(表1)。計算した他の薬物動態値もトランスジェニックマウスと非トランスジェニックマウスにおいて同等であった。しかし、観察された分布容量(Vd)はかなり高い(77.69および76.72ml)。これは、ESBA212がきわめて良好かつ速やかに組織内へ透過することを示唆すると思われる。これに対し、ESBA212を腹腔内適用した場合は薬物動態に差が見られた。注射後、1時間目にピークESBA212血清濃度を伴う明瞭な吸収期を検出できた。次いで、分布半減期は静脈内適用後より約5倍長かった;これは、腹腔内経路で注射した場合は貯留作用が生じることの指標になると思われる。しかし、計算した終末半減期は、静脈内注射より腹腔内注射後の方がわずかに短かかった。生体内におけるESBA212の平均滞留時間(MRT)においても明瞭な差が検出され、これはscFvを静脈内ではなく腹腔内に注射した場合は約3倍長かった。静脈内注射経路と腹腔内注射経路の間でAUC(曲線下面積)、分布容量(Vd)およびクリアランス(CL)において観察された差は、腹腔内処理した動物にはより多量のESBA212を投与した(15mg/kgではなく20mg/kg)という事実により説明できる。20mg/kgについて得られた数値に基づいて15mg/kgの腹腔内投与量についての薬物動態パラメーターを計算すると、下記のパラメーターが得られた:吸収、分布および排出の半減期ならびにMRTにおいては変化がない。ただし、その際、AUC(79.124ug−h/ml)、Vd(67.52ml)およびCL(7.84ml/h)は静脈内注射後に得られた数値と同等であった。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例11:インビボでの斑の標識
静脈内または鼻内に適用した場合にESBA212がアミロイド斑に結合しうるかを調べた。
【0091】
そのために、トランスジェニックSwePS1マウスを24時間毎に3回、210μgのESBA212で静脈内または鼻内のいずれかの適用経路により処理した。初回適用の72時間後に動物にPBSを潅流し、脳をESBA212の存在について分析した。ESBA212は、scFvの静脈内または鼻内の両方の適用後に脳のアミロイド斑に結合した(図16)。チオフラビンS染色により、ESBA212が実際にアミロイド斑に結合したことが確認された。ESBA212で鼻内処理したSwePS1マウスの連続脳切片は、ESBA212とチオフラビンSについて同じ染色パターンを示した(図17)。
【0092】
実施例12:64Cu標識ESBA212についてのPETイメージング
ESBA212の64Cu標識:ESBA212を、同位体に結合するCPTAキレーター(4個のN原子を含む約200Daの大環状化合物)に結合させた(64Cuの半減期は12.7時間である)。このキレーターをESBA212内のリジン残基に結合させた。この結合は緩和なので、必ずしもすべてのリジンが標識されたわけではない。各ESBA212分子に平均2個のCPTA分子が結合したことが質量測定により示された。
【0093】
実施例13:64Cu-ESBA212による斑のエクスビボ標識
64Cu-ESBA212がなおアミロイド斑に結合しうるかを判定するために、固定または非固定SwePS1マウス脳切片について免疫組織化学的染色を行なった。64Cu-ESBA212は固定および非固定脳切片上のアミロイド斑になお結合し得たので、64Cu標識はESBA212の結合特性を変化させなかった(図18)。
【0094】
実施例14:64Cu-ESBA212による斑のインビボ標識
トランスジェニックSwePS1マウスを用いて、非放射性標識Cu-ESBA212の結合特性をインビボで調べた。マウスに210ugのESBA212または100ugのCu-ESBA212のいずれかを鼻内適用した。適用の24または48時間後に動物を屠殺し、脳をアミロイド斑へのESBA212およびCu-ESBA212の結合についてそれぞれ分析した。
【0095】
図19に見られるように、適用の24および48時間後にESBA212を検出できた。Cu標識ESBA212についても同じ結果が見られた。したがって、Cu-ESBA212の結合特性は、エクスビボ標識について既に証明されたように、インビボでESBA212と比較して変化しなかった。
【0096】
実施例15:腎臓による排出
ESBA212の排出経路について何らかの情報を得るために、scFvをマウスに静脈内注射した。動物をその短時間後に屠殺し、腎臓を免疫組織化学的方法で分析した。
【0097】
ESBA212は腎臓において初期尿中へ濾過され、近位尿細管において再吸収され、ここでリゾソーム経路により分解される可能性が最も高い(図20)。
実施例16:インビボでの斑の標識
実施例11で実施した試験と同様なさらに他の試験を鼻内投与により行なった。
【0098】
トランスジェニックSwePS1マウスを200μgのESBA212で鼻内処理した。鼻内処理後1時間、動物を潅流した。下記のように、固定したSwePS1マウス脳切片のAβ染色を行ない、記録した:
抗His抗体で染色(図21A);
6E10で染色した対照(図21B);
抗ウサギCy3で染色した陰性対照(図21C);
22c4 IgGで染色した対照(図21D)。
【0099】
実施例17:
APPswe/PS1ΔE9マウスを、3カ月間、PBS、22c4 IgGでそれぞれ週1回、ESBA212で週2回、処理した。処理が終了した時点でマウスを潅流し、脳を摘出し、2部分に分けた。一方の部分をホモジナイズし、数個の抽出物を調製し、脳Aβ40および42のレベルを市販のELISAテスト(The Genetics Company)により測定した。Aβ40および42のレベルは可溶性画分(TBS)中で上昇し、不溶性画分(GuHCl)中で低下することが認められた。膜結合画分(TBS−Triton)中では、Aβ40レベルは変化しないのに対し、Aβ42レベルは上昇した(図22を参照)。これは、不溶性画分から可溶性画分へのAβ再分布を指摘する。
【0100】
他方の部分を組織検査に用いた。処理したAPPswe/PS1ΔE9マウスのパラフィン切片を6E10で染色した。斑の数および面積をImageJソフトウェアにより評価した。
【0101】
この実験により、ESBA212で処理した動物は有意のアミロイド斑の数の減少およびサイズの縮小を示すことが明らかになった(図23を参照)。これは、ESBA212がAβフィブリルに結合した後にそれらをモノマーまたは低オリゴマーに分解し、これが平衡を可溶性Aβプールの方へ移行させるという考えをさらに支持する。
【0102】
以上に示した結果は、ESBA212が静脈内および鼻内適用後にトランスジェニックマウスの脳に進入し、皮質および海馬のAbeta斑に結合するという所見を支持する。さらに、scFvで鼻内処理したAPPswe/PS1ΔE9マウスは、皮質のアミロイド斑の数の減少および平均サイズの縮小、ならびに脳抽出物の不溶性画分におけるAβ42レベルの低下を示した。
【0103】
現在好ましい本発明の態様を提示および記載したが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲に記載の範囲内において他の多様な態様および実施が可能であることを明確に理解すべきである。
【0104】
参考文献
【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
AbetaのC−末端部分に選択的に結合する、ヒト化された、または完全ヒト型の、単離した抗体。
【請求項2】
Abetaのオリゴマー化を阻止する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
抗体が、SEQ ID:No.1、SEQ ID:No.2、SEQ ID:No.3、SEQ ID:No.4、SEQ ID:No.5およびSEQ ID:No.6からなる群の配列に対して少なくとも80%の同一性をもつ1以上の配列を含むことを特徴とする、特に請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
抗体が、入手できるヒトライブラリーの枠組み構造に対して少なくとも60%の同一性をもつ枠組み構造を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
枠組み構造が、入手できるヒトライブラリーの枠組み構造に対して少なくとも60%の同一性をもつ可変軽鎖フラグメントおよび/または可変重鎖フラグメントを含む、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
抗体が一本鎖抗体(scFv)である、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
抗体が、SEQ ID.No.7、SEQ ID.No.8、SEQ ID.No.10、SEQ ID.No.11、SEQ ID.No.12、SEQ ID.No.13、SEQ ID.No.14、SEQ ID.No.15およびSEQ ID.No.16からなる群の配列に対して少なくとも60%の同一性をもつ可変軽鎖フラグメント(V)配列を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項8】
抗体が、SEQ ID.No.17、SEQ ID.No.18、SEQ ID.No.20、SEQ ID.No.21、SEQ ID.No.22およびSEQ ID.No.23からなる群の配列に対して少なくとも60%の類似性をもつ可変重鎖フラグメント(V)配列を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
SEQ ID.No.7およびSEQ ID.No.17を含む、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項10】
SEQ ID.No.24を有する、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項11】
化学的に修飾された、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項12】
療法薬に連結した、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項13】
標識、特に64Cuに連結した、請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項14】
下記の特性を示す、前記請求項のいずれか1項に記載の抗体:
(i)Abeta40およびAbeta42の両方に、高くかつ実質的に等しい親和性で結合する;
(ii)オリゴマー形およびモノマー形のAbetaに対して高い親和性を示す;
(iii)アミロイド前駆体タンパク質(APP)をインビボで実質的に認識しない;
(iv)少なくとも5mg/ml、好ましくは少なくとも10mg/ml、より好ましくは少なくとも20mg/mlの溶解度を有する;ならびに
(v)ヒトに適用した際に低い免疫原性を示すか、または免疫原性を示さない。
【請求項15】
さらに、下記の特性のうち少なくとも1つ、好ましくは1より多く、最も好ましくはすべてを示す、請求項14に記載の抗体:
(vi)ミクログリアによるフィブリル状Abetaの取込みを仲介する;
(vi)ベータ−アミロイド斑を結合する;
(vii)脳のベータ−アミロイド斑を除去し、および/または脳におけるアミロイド斑の形成を阻止する;
(viii)発作により生じる、Abeta毒性、および毒性促進事象に関連するニューロンの易損性を低下させる;
(ix)血液脳関門を越える;ならびに/あるいは
(x)正常な行動を実質的に回復させる;
(xi)脳のベータ−アミロイドフィブリルを除去し、および/または脳におけるアミロイドフィブリルの形成を阻止する。
【請求項16】
請求項13に記載の抗体を投与する段階を含む診断法。
【請求項17】
アミロイド症もしくはアルツハイマー病についての対象の診断もしくはスクリーニングまたはアミロイド症もしくはアルツハイマー病の発症についての対象のリスクの判定における、請求項13に記載の抗体の使用。
【請求項18】
PETイメージングである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体を含む、診断用ツールまたは科学的ツール。
【請求項20】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体を含む検査キット。
【請求項21】
神経障害、特にアルツハイマー病の治療、予防および/または進行遅延のための、ならびに/あるいはアルツハイマー病に対する受動免疫化のための医薬組成物であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗体を含む組成物。
【請求項22】
神経障害、好ましくはアルツハイマー病の治療、予防および/または進行遅延のための、ならびに/あるいはアルツハイマー病に対する受動免疫化のための医薬組成物を製造する方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗体を少なくとも1種類の適切な医薬用キャリヤーと組み合わせる工程を含む方法。
【請求項23】
哺乳動物の受動免疫化のための方法であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗体を哺乳動物に投与する段階を含む方法。
【請求項24】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の抗体をコードする核酸配列。
【請求項25】
請求項24に記載の配列を含むベクター。
【請求項26】
請求項24に記載の配列または請求項25に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項27】
下記の工程を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体を製造する方法:
(i)請求項24に記載の宿主細胞を該抗体の合成が可能な条件下で培養し;
(ii)該抗体を培養物から回収する。
【請求項28】
下記の段階を含む診断法:
(i)抗体を標識し;
(ii)有効量の該抗体を対象に鼻内投与または全身投与し;そして
(iii)対象の身体部分における標識抗体の濃度および/または存在を検出する。
【請求項29】
抗体を64Cuで標識する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
抗体が請求項1〜13のいずれか1項に記載のものである、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
抗体が一本鎖抗体である、請求項28〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
対象がPETイメージングを受ける、請求項28〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
神経障害を処置する方法であって、その必要がある対象に療法有効量の請求項1〜13のいずれか1項に記載の抗体を投与する段階を含む方法。
【請求項34】
その必要がある対象に療法有効量の請求項22に記載のポリヌクレオチド、請求項23に記載のベクター、または請求項24に記載の宿主細胞を投与する段階を含む処置方法。
【請求項35】
請求項13に記載の64Cu標識抗体を対象に投与する段階を含む、PETイメージングのための方法。
【請求項36】
神経障害、特にアルツハイマー病の治療、予防および/または進行遅延のための、ならびに/あるいはアルツハイマー病に対する受動免疫化のための医薬組成物であって、請求項1〜12のいずれか1項に記載の抗体を含み、鼻内皮下または静脈内投与に適切な組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図19D】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図21C】
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【図21D】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2010−538620(P2010−538620A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524329(P2010−524329)
【出願日】平成20年9月15日(2008.9.15)
【国際出願番号】PCT/CH2008/000382
【国際公開番号】WO2009/033309
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(509322199)デリネックス・セラピューティクス・アーゲー (1)
【出願人】(507324681)ユニバーシティ・オブ・チューリッヒ (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF ZURICH
【Fターム(参考)】