説明

β−アミロイドペプチドに特異的な新しい抗体及び診断薬又は薬剤としてのそれらの使用

本発明は、Aβ8-xペプチド(xは11〜42である)のN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-40もAβ1-42も認識せず、Aβ8-xペプチドに関して、モノクローナル抗体とペプチドAβ8-xとの間の免疫学的複合体により決定されるような高い親和性を示すモノクローナル抗体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-アミロイドペプチドに特異的な新しい抗体及び診断薬又は薬剤としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドーシスとは、アミロイド線維の存在を特徴とする哺乳動物における病変状態のことをいう。アミロイドは、多様であるが特定のタンパク質沈着の群のことをいう包括的な用語である。全てのアミロイド沈着は、共通の形態的特性、特定の色素(例えばコンゴレッド)での染色を示し、染色後、偏光により特徴的な赤−緑の複屈折の外観を有する。異なるアミロイドは、沈着中に存在するタンパク質の種類によっても特徴付けられる。例えば、スクラピー、ウシ海綿状脳症、クロイツフェルト−ヤコブ病のような神経変性疾患は、中枢神経系でのプリオンタンパク質のプロテアーゼ耐性型(AScr又はPrP-27とよばれる)の出現及び蓄積により特徴付けられる。同様に、別の神経変性疾患であるアルツハイマー病は、老人斑及び神経原線維濃縮体を特徴とする。この場合、斑及び血管のアミロイドは、線維状β-アミロイドタンパク質の沈着により形成される。
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、老人性認知症の最も一般的な型であり、全ての認知症の症例の40〜60%の原因であると考えられている。ADの発病率は年齢とともに増加し、65歳を超える10人のうち1人、そして85歳を超える2人のうち1人に影響する。全体として、疾患の天然の病歴は、壊滅的な記憶喪失、行動及び性格の甚大な変化並びに著しく損傷された認識能力を最終的にもたらす不可逆性で進行性の脳障害を特徴とすることができる。これらの欠陥は、根本的な脳細胞死及びそれらの間の伝達の破壊に関する。AD患者に対する施設及び補助介護を提供しなければならない保健システムの多額の経費の観点から、ADが社会及び国の経済に与える影響は甚大である。
【0004】
2つの主要な型の組織学的損傷が、ニューロン喪失を伴ってADの脳で観察されている(Felician及びSandson (1999)、アルツハイマー病の神経生物学及び薬物療法(The neurobiology and pharmacotherapy of Alzheimer's disease.) J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci. 11: 19〜31):
(i)細胞内レベルにおいて、AD患者におけるニューロンの細胞骨格は、進行的に破壊され、対らせん状細繊維(PHF)で構成される神経原繊維濃縮体(NFT)に置き換えられる;
(ii)細胞外レベルにおいて、アミロイド斑は、線維状β-アミロイド(Aβ)の沈着により形成される。
【0005】
Aβは、老人斑の主要成分である。Aβは、それぞれ40 (Aβ1-40)及び42 (Aβ1-42)個のアミノ酸からなる2つのサイズが主に見出され、他のサイズが少量見出される小さいペプチドである。Aβは、完全に明らかではないが既知の神経栄養性機能を有する大きい膜貫通タンパク質である(Seoら, (2001), APP分泌及びAβ又はCT(105)誘発毒性に対するニコチンの影響(Effects of nicotine on APP secretion and Abeta- or CT(105)-induced toxicity.) Biol. Psychiatry 49: 240〜247) APPのタンパク質分解切断により変形されることが知られている(Saido, (2000),アミロイド-β-ペプチドの分解:アルツハイマーの病因、予防及び治療への鍵(Degradation of amyloid-β peptide: a key to Alzheimer pathogenesis, prevention and therapy.) Neurosci. News 3: 52〜62)。APPは、2つの主な経路、すなわち主要な非アミロイド形成性経路と、Aβを最終生成物として生成する2番目に主要なアミロイド形成性経路とにより切断され得る。
【0006】
APPの異化作用の主な経路は、β-アミロイドペプチド領域の中心近くのAPP中の単一の部位でのα-セクレターゼによる切断による(Eschら (1990), アミロイドベータペプチドの、その前駆体の構成性プロセシングの間の切断(Cleavage of amyloid beta peptide during constitutive processing of its precursor.) Science 248: 1122〜1124; Sisodia (1992), 膜結合プロテアーゼによるベータ-アミロイド前駆体タンパク質の切断(Beta-amyloid precursor protein cleavage by a membrane-bound protease.) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6075〜6079)。この経路により生じる生成物は、APPの大きいN-末端領域(APPsα)と、膜結合性C-末端フラグメント(C83)であり、これはその後、γ-セクレターゼにより加水分解されて、ほぼ知られていない小さいp3ペプチドを生成する。これは、非アミロイド形成性経路である。なぜなら、切断部位はAβ配列のほぼ真ん中にあり、Aβ形成の可能性がないからである。2番目のAPPプロセシング経路は、β-及びγ-セクレターゼによるAPPのN-及びC-末端切断である(図1)。これらの2つのタンパク質分解ステップにより得られる分子は、APPの中央フラグメントであるAβ40及びAβ42であり、Aβ40が、形成されたAβ全てのうちでより豊富である(Conde, (2002), アルツハイマー病の治療のための標的としてのβ-アミロイドペプチド(β-amyloid peptide as a target for treatment of Alzheimer's disease.) Expert Opin. Ther. Patents 12: 503〜512)。β-セクレターゼは、β-アミロイドペプチドのアミノ末端で切断し、最初に発生し、その後に、ペプチドのカルボキシ末端を放出するγ-セクレターゼが続く。このことは、β-セクレターゼ切断により生成されるC-末端フラグメントが細胞において直ちに出現するが、単一C-末端γ切断に相当するAPPフラグメントはそうではないという知見に基づく(Haassら, (1992), アミロイドベータペプチドは、通常代謝の間に培養細胞により生成される(Amyloid beta-peptide is produced by cultured cells during normal metabolism.) Nature 359: 322〜325; Seubertら, (1992), 生物学的流体からの可溶性アルツハイマーベータペプチドの単離及び定量(Isolation and quantification of soluble Alzheimer's beta-peptide from biological fluids.) Nature 359: 325〜327)。
【0007】
実質性斑沈着に関与するアミロイドペプチドは、トランスジェニックマウスモデルにおいて観察される斑沈着とは異なる(Sergeant,N.ら, (2003) ワクチン接種アプローチのための新しい標的としての前臨床アルツハイマー病における短形ベータアミロイドペプチド種(Truncated beta-amyloid peptide species in pre-clinical Alzheimer's disease as new targets for the vaccination approach.) Journal of Neurochemistry 85: 1581〜1591; Kalback,W.ら, (2002) APPトランスジェニックマウスTg2576は、アルツハイマー病老人斑において沈着する化学改変され不溶性のペプチドとは異なるAベータペプチドを蓄積する(APP transgenic mice Tg2576 accumulate Abeta peptides that are distinct from the chemically modified and insoluble peptides deposited in Alzheimer's disease senile plaques.) Biochemistry 41: 922〜928; Rufenacht,P.ら(2005) 質量分析と組み合わせたレーザ解剖顕微鏡によるアルツハイマー斑におけるAβペプチドの定量(Quantification of the Aβ peptide in Alzheimer's plaques by laser dissection microscopy combined with mass spectrometry.) J Mass Spectrom 40: 193〜201)。
【0008】
特に、Aβ42のN-短縮形(N-truncated forms)は、セクレターゼにより作製された全長サイズのAβよりもかなり豊富にある。さらに、モデル系並びにCSF及び血漿のような循環流体中において、検出されるさらなるAβペプチドの数が増加している(Lewczuk,P.ら(2004), 表面増強レーザ脱離/イオン化飛行型時間質量分析でプロファイリングされた脳脊髄液中のアミロイドベータペプチド:アルツハイマー病における新規なバイオマーカーの証明(Amyloid beta peptides in cerebrospinal fluid as profiled with surface enhanced laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry: evidence of novel biomarkers in Alzheimer's disease.) Biol. Psychiatry. Mar. 1. ; 55, 524〜530; Lewczuk,P.ら(2004), 血漿中のアミロイドベータペプチドの電気泳動による分離(Electrophoretic separation of amyloid beta peptides in plasma. Electrophoresis.) 25, 3336〜3343; Lewczuk,P.ら(2003), アルツハイマー病における脳脊髄液中のアミロイド-ベータ(Aベータ)ペプチドパターン:新規なカルボキシ末端伸長Aβペプチドの証明(The amyloid-beta (Abeta) peptide pattern in cerebrospinal fluid in Alzheimer's disease: evidence of a novel carboxyterminally elongated Aβ peptide.) Rapid Commun. Mass Spectrom.; 17, 1291〜1296; Wiltfang,J.ら(2002), アルツハイマー病及び慢性神経炎症の患者における、1-40/42に加えてカルボキシ末端で短縮されたAβペプチド1-37/38/39の高度に保存された疾患特異的なパターン(Highly conserved and disease-specific patterns of carboxyterminally truncated Aβ peptides 1-37/38/39 in addition to 1-40/42 in Alzheimer's disease and in patients with chronic neuroinflammation.) J. Neurochem. 81, 481〜496; Qi-Takahara,Y.ら(2005), アミロイドベータタンパク質のより長い形:ガンマ-セクレターゼによる膜内切断の機構についての関連(Longer forms of amyloid beta protein: implications for the mechanism of intramembrane cleavage by gamma-secretase.) J Neurosci 25, 436〜445; Funamoto,S.ら(2004), ベータ-アミロイド前駆体タンパク質の短縮形カルボキシ末端フラグメントは、アミロイドベータタンパク質40及び42にプロセシングされる(Truncated carboxyl-terminal fragments of beta-amyloid precursor protein are processed to amyloid beta-proteins 40 and 42.) Biochemistry 43, 13532〜13540, Sato,T.ら(2003), アミロイドベータ-タンパク質42とベータ-アミロイド前駆体タンパク質のC-末端フラグメントガンマ49-99との可能性のある連結(Potential link between amyloid beta-protein 42 and C-terminal fragment gamma 49-99 of beta-amyloid precursor protein.) J Biol. Chem. 278, 24294〜24301)。
【0009】
β-アミロイドペプチドに指向された抗体を用いるアルツハイマーの免疫療法が、アルツハイマー病を治療するための可能性のある新しい方法である(Schenkら, (2000), ベータ-ペプチド免疫化:アルツハイマー病の可能性のある新しい治療(beta-peptide immunization: a possible new treatment for Alzheimer disease.) Arch Neurol 57: 934〜936; Hockら, (2003), アルツハイマー病におけるベータアミロイド緩速認識低下に対する抗体(Antibodies against beta-amyloid slow cognitive decline in Alzheimer's disease.) Neuron 38: 547〜554)。
【0010】
しかし、β-アミロイドは、正常な組織及び生物学的流体の正常な構成成分であるので、最初の臨床試験は重篤な副作用により中止された(Orgogozoら(2003), Aベータ42免疫化の後のAD患者のサブセットにおける亜急性髄膜脳炎(Subacute meningoencephalitis in a subset of patients with AD after Abeta 42 immunization.) Neurology 61: 46〜54)。
【0011】
Sergeantら(Sergeantら, (2003), ワクチン接種アプローチのための新しい標的としての前臨床アルツハイマー病における短縮形ベータアミロイドペプチド種Journal of Neurochemistry 85: 1581〜1591)は、早期のアミロイド沈着の全てのAβ種の60%が、アミノ短縮Aβ種であることを示している。
【0012】
国際出願WO 2004/029630は、Aβ11-xペプチドを特異的に認識し、Aβ1-xペプチド(xは40又は42)を認識しないモノクローナル抗体を開示している。
免疫化に用いられるペプチドは、βセクレターゼ_11切断部位(βセクレターゼはAPPタンパク質をGlu11にて切断する)の最初の5〜7ヒトアミノ酸である。にもかかわらず、Aβ11-xペプチドは、アミロイド沈着の非常に早期段階で観察されるAβペプチドではない(Sergeantら, ワクチン接種アプローチのための新しい標的としての前臨床アルツハイマー病における短形ベータアミロイドペプチド種Journal of Neurochemistry 85, 1581〜1591 (2003)。さらに、Aβ11-xは、βセクレターゼの切断により生成されるので、病理的な種ではなく、Aβ42のN-短縮形は、全長Aβ42及びAβ11-x種よりもかなり豊富である。
【0013】
国際出願WO 2004/013172は、短縮形ベータ-アミロイドペプチド種Aβm-n (mは1〜10であり、nはm+3〜m+15である)に対して指向されたポリクローナル抗体に関する。免疫化のために用いられたペプチドは、Aβ5-12、Aβ6-13、Aβ8-15、Aβ9-16である。にもかかわらず、この出願の抗体は、中程度の親和性を有するポリクローナルである。
【0014】
Murayama K. S.ら(Murayama K. S.ら(2007), カスパーゼにより切断されたアミロイド前駆体タンパク質から生成されたアミノ短縮β-アミロイドAβ5-40/42に特異的な新規モノクローナル抗体(A novel monoclonal antibody specific for the amino-truncated β-amyloid Aβ5-40/42 produced from caspase-cleaved amyloid precursor protein), 161: 244〜249)は、ペプチドAβ5-12での免疫化により得られ、Aβ5-40を特異的に認識し、Aβ1-40を認識しないモノクローナル抗体を開示している。
【0015】
この文献には、他に2つの抗体が記載されている:
17-24に特異的なマウスモノクローナル抗体4G8;
15-30に特異的なウサギポリクローナル抗体Ab-1。
しかし、これら2つの抗体は特異的でなく、Aβ5-40及びAβ1-40を認識する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明のある目的は、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-x (xは40又は42である)を認識せず、β-アミロイド沈着の早期段階のペプチドを特異的に認識できる抗体を提供することである。
本発明のさらなる目的は、AβのN-短縮ペプチドに対する免疫応答を生じるのに有用であり、よって、アルツハイマー病の予防又は治療に有用な合成ペプチドを提供することである。
【0017】
本発明は、また、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合する抗体を得るための製造方法にも関する。
本発明は、さらに、哺乳動物におけるアミロイド負荷を測定する方法にも関する。
本発明のさらなる目的は、Aβの形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病に対する感受性を哺乳動物において決定するか、β-アミロイドの形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病を発症する危険性を哺乳動物において決定するか、哺乳動物におけるβ-アミロイド沈着の浄化をスクリーニングするか、又は哺乳動物におけるβ-アミロイド負荷のレベルを予測するための方法を提供する。
【0018】
本発明は、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的な抗体を含むか、又はN-短縮Aβペプチドの遊離のN-末端を模倣する遊離のN-末端を有する合成ペプチドを含み、アルツハイマー病の予防又は治療を意図する薬剤又はワクチンの製造に有用な治療用又はワクチン組成物にも関する。
本発明は、アルツハイマー病の予防又は治療を意図する薬剤又はワクチンの製造のための抗体の使用にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
よって、本発明は、Aβ8-xペプチド(xは11〜42である)のN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-40もAβ1-42も認識しない抗体に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
用語「抗体」は、Aβ8-xに特異的なポリクローナル又はモノクローナルのことをいうのに用いられ、Aβ8-xに特異的なモノクローナルを模倣するフラグメント又は分子、特にエピトープ結合フラグメントも含む。フラグメント又は分子は、組換えDNA技術により又は酵素学的若しくは化学的方法によりモノクローナルから導くことができ、抗原フラグメントについてモノクローナルと比較して同様の結合特性を示すことができる。
「ポリクローナル抗体」により、異なるB細胞株に由来する抗体を意味する。
「モノクローナル抗体」により、1種類のみの細胞、ハイブリドーマ細胞からの抗体を意味する。
「ハイブリドーマ」細胞により、抗体を連続的に生成する細胞融合体、すなわち、哺乳動物細胞と融合させた、無限に複製できる腫瘍細胞を意味する。
【0021】
本発明の抗体は、上記の全長抗体と、そのエピトープ結合フラグメントとの両方を含む。本明細書で用いる場合、「抗体フラグメント」とは、「エピトープ結合フラグメント」と通常はよばれる全長抗体により認識されるエピトープに結合する能力を保持する、抗体の任意の部分を含む。抗体フラグメントの例は、限定されないが、Fab、Fab'及びF(ab')2、Fd、単鎖Fvs (scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド連結Fvs (dsFv)及びVL又はVH領域を含むフラグメントを含む。単鎖抗体を含むエピトープ結合フラグメントは、可変領域のみ又は以下の:ヒンジ領域、CH1、CH2及びCH3ドメインの全体若しくは一部分との組み合わせを含み得る。
【0022】
このようなフラグメントは、一方若しくは両方のFabフラグメント、又はF(ab')2フラグメントを有し得る。さらに、フラグメントは、以下の免疫グロブリンのクラス:IgG、IgM、IgA、IgD又はIgE及びそのサブクラスのいずれか1つのメンバーであるか、或いは該メンバーの組み合わせであり得る。
Fab及びF(ab')2フラグメントは、パパイン(Fabフラグメント)又はペプシン(F(ab')2フラグメント)のような酵素を用いるタンパク質分解切断により作製できる。
【0023】
「単鎖FV」(「scFv」)フラグメントは、抗体軽鎖可変領域(VL)の少なくとも1つのフラグメントに連結された抗体重鎖可変領域(VH)の少なくとも1つのフラグメントを含むエピトープ結合フラグメントである。リンカーは、単鎖抗体フラグメントが由来する抗体全体の標的分子結合特異性を維持するように、VL及びVH領域が一旦連結されるとそれらの正しい3次元折り畳みが生じることを確実にするように選択された短いフレキシブルペプチドであり得る。VL又はVH配列のカルボキシ末端は、相補性(complementary) VL又はVH配列のアミノ酸末端にリンカーにより共有結合されていてよい。
【0024】
本発明の単鎖抗体フラグメントは、本明細書に記載される抗体全体の可変領域又は相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つを有するアミノ酸配列を含むが、これらの抗体の定常ドメインのいくらか又は全てを失っている。これらの定常ドメインは、抗原結合に必要ではないが、抗体全体の構造の主要部分を構成する。単鎖抗体フラグメントは、よって、定常ドメインの一部分又は全てを含む抗体の使用に伴う問題のいくらかを克服できるだろう。例えば、単鎖抗体フラグメントは、生物学的分子と重鎖定常領域との間の望ましくない相互作用、又はその他の望ましくは生物学的活性がない傾向にある。さらに、単鎖抗体フラグメントは、抗体全体よりもかなり小さく、よって、抗体全体よりも大きい毛細管透過性を有することができ、単鎖抗体フラグメントが局在化され、標的抗原結合部位により効率的に結合することを可能にする。また、抗体フラグメントは、原核細胞において比較的大規模で生産でき、その生産を促進できる。さらに、比較的小さいサイズの単鎖抗体フラグメントは、抗体全体よりも受容者において免疫応答を引き起こす可能性が低い。
【0025】
単鎖抗体フラグメントは、分子クローニング、抗体ファージディスプレイライブラリー又は当業者に公知の同様の方法により作製できる。これらのタンパク質は、例えば、真核細胞又は細菌を含む原核細胞において生産できる。本発明のエピトープ結合フラグメントは、当該技術において知られる種々のファージディスプレイ法を用いて作製することもできる。ファージディスプレイ法において、機能的抗体ドメインは、それらをコードするポリヌクレオチド配列を有するファージ粒子の表面上に提示される。特に、このようなファージを用いて、レパートリー又はコンビナトリアル抗体ライブラリー(例えばヒト又はマウス)から発現されるエピトープ結合ドメインを提示できる。興味対象の抗原に結合するエピトープ結合ドメインを発現するファージは、抗原を用いて、例えば固体表面又はビーズと結合したか若しくは捕捉された標識抗原を用いて選択又は同定できる。これらの方法で用いられるファージは、典型的には、ファージ遺伝子III又は遺伝子VIIIタンパク質のいずれかと組換えにより融合したFab、Fv又はジスルフィド安定化Fv抗体ドメインを有するファージから発現されるfd及びM13結合ドメインを含む繊維状ファージである。
【0026】
本発明のエピトープ結合フラグメントを作製するために用い得るファージディスプレイ法の例は、Brinkmanら, 1995, J. Immunol. Methods, 182: 41〜50; Amesら, 1995, J. Immunol. Methods, 184: 177〜186; Kettleboroughら, 1994, Eur. J. Immunol., 24: 952〜958; Persicら, 1997, Gene, 187: 9〜18; Burtonら, 1994, Advances in Immunology, 57: 191〜280; WO/1992/001047; WO 90/02809; WO 91/10737; WO 92/01047; WO 92/18619; WO 93/11236; WO 95/15982; WO 95/20401;並びに米国特許第5,698,426号;第5,223,409号;第5,403,484号;第5,580,717号;第5,427,908号;第5,750,753号;第5,821,047号;第5,571,698号;第5,427,908号;第5,516,637号;第5,780,225号;第5,658,727号;第5,733,743号及び第5,969,108号に開示されるものを含む。これらのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
ファージ選択の後に、フラグメントをコードするファージの領域を単離し、これを用いて、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母及び細菌を含む選択された宿主における、例えば以下の詳細に記載するような組換えDNA技術を用いる発現によりエピトープ結合フラグメントを作製できる。例えば、Fab、Fab'及びF(ab')2フラグメントを組換えにより生成する方法は、WO 92/22324; Mullinaxら, 1992, BioTechniques, 12(6): 864〜869; Sawaiら, 1995, AJRI, 34: 26〜34;及びBetterら, 1988, Science, 240:1041〜1043に開示されるような当該技術において知られる方法を用いて、用いることができる。これらの文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。単鎖Fv及び抗体を生成するために用い得る方法の例は、米国特許第4,946,778号及び第5,258,498号; Hustonら, 1991, Methods in Enzymology, 203: 46〜88; Shuら, 1993, PNAS, 90: 7995〜7999; Skerraら, 1988, Science, 240:1038〜1040に記載されるものを含む。
【0028】
本出願に具体的に開示される抗体の機能的等価物も本発明の範囲内に含まれる。用語「機能的等価物」とは、相同配列を有する抗体、キメラ抗体、人工抗体及び改変抗体を含み、例えば、それぞれの機能的等価物は、上記で定義されるAβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合するその能力により定義される。当業者は、「抗体フラグメント」と呼ばれる分子の群と、「機能的等価物」と呼ばれる群とで重複があることを理解するだろう。機能的等価物を作製する方法は、当業者に知られており、例えば、それぞれの全体が参照により組み込まれるWO 93/21319、EP 239,400; WO 89/09622; EP 338,745;及びEP 332,424に開示される。
【0029】
人工抗体は、それぞれ抗原結合能力を有するscFvフラグメント、二重特異性抗体(diabodies)、三重特異性抗体(triabodies)、四重特異性抗体(tetrabodies)及びmruを含む(Winter, G.及びMilstein, C., 1991, Nature, 349: 293〜299; Hudson, P.J., 1999, Current Opinion in Immunology, 11: 548〜557による概説を参照)。単鎖Fvフラグメント(scFv)において、抗体のVH及びVLドメインは、フレキシブルペプチドにより連結される。典型的には、このリンカーペプチドは、約15アミノ酸長である。リンカーがより小さい、例えば5アミノ酸である場合、二価のscFv二量体である二重特異性抗体が形成される。リンカーが3アミノ酸残基未満に減った場合、三量体及び四量体の構造が形成され、これらは三重特異性抗体及び四重特異性抗体と呼ばれる。抗体の最小結合単位は、CDRであり、典型的には、別個に用いることができる充分な特異的認識及び結合を有する重鎖のCDR2である。このようなフラグメントは、分子認識単位(molecular recognition unit)又はmruとよばれる。このようないくつかのmruを短いリンカーペプチドで一緒に連結して、単一mruよりも高い親和力を有する人工結合タンパク質を形成できる。
【0030】
本出願の機能的等価物は、改変抗体、例えば抗体に任意の種類の分子を共有結合させることにより改変された抗体も含む。例えば、改変抗体は、例えばグリコシル化、アセチル化、PEG化、リン酸化、アミド化、既知の保護/遮蔽基による誘導体化、タンパク質分解切断、細胞リガンド若しくはその他のタンパク質への結合により改変された抗体を含む。共有結合は、抗体が抗イディオタイプ応答を生じることを妨げない。これらの改変は、限定されないが、特異的な化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成を含む既知の方法により行うことができる。さらに、改変抗体は、1つ又は複数の通常でないアミノ酸を含み得る。
【0031】
機能的等価物は、異なるフレームワーク内の異なる鎖上の異なるCDRを交換することにより作製できる。よって、例えば、抗体の異なるクラスが、異なる重鎖の置換により、CDRのある組について可能であり、それにより、例えばIgG1-4、IgM、IgA1-2、IgD、IgEの抗体のタイプ及びアイソタイプを作製できる。同様に、本発明の範囲内の人工抗体は、CDRのある組を完全に合成されたフレームワーク内に埋め込むことにより作製できる。
【0032】
機能的等価物は、当該技術において知られる広範囲の方法を用いて、特定の組のCDRに接する可変及び/又は定常領域配列内の変異、欠失及び/又は挿入により容易に作製できる。
【0033】
8-xペプチドのN-末端領域に特異的な抗体は、イムノアッセイにより検出できる。本明細書で用いる場合、「イムノアッセイ」とは、抗原(すなわちAβ8-xペプチドのN-末端領域)に特異的に結合する抗体を用いるアッセイである。イムノアッセイは、よって、抗体へのタンパク質の特異的結合の検出により特徴付けられる。
【0034】
「特異的に結合する」、「特異的認識」、「特異的に認識する」、「・・・と特異的に反応する」、又は「・・・と免疫反応を特異的に形成する」との表現は、上記の抗体による、Aβ8-xペプチドのN-末端領域への結合反応のことをいい、これは、他のタンパク質及び/又は他の生体物質の不均質な集団の存在下での試験される試料中のAβ8-xペプチドのN-末端領域の存在の決定因子である。特異性は、ルミネックス(Luminex)アッセイにより決定できる。このアッセイを用いて、本発明の抗体は、Aβ8-xペプチドに対して高い特異性を示し、すなわち、抗体を用いて得られる平均蛍光強度(MFI)が、Aβ6-13ペプチドのような非特異的ペプチドに対するよりも、Aβ8-xペプチドに対してより高く、例えばAβ8-15ペプチドに対してTeiA1.1を用いてMFI = 1822であり、Aβ6-13ペプチドに対しては24だけである(実施例3及び表3を参照)。
【0035】
免疫学的方法は、限定されないが、流体又はゲル沈殿反応、免疫拡散(一重又は二重)、凝集アッセイ、免疫電気泳動、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、リポソームイムノアッセイ(Monroeら, 1986)、補体結合アッセイ、免疫放射線アッセイ、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイ又はイムノPCRを含む。種々のイムノアッセイの概要は、Wild D. (2001)(Wild D. (2001), The Immunoassay Handbook 第2版Nature Pr., London, UK)及びGhindilisら(2002) (Ghindilis A.L., Pavlov A.R., Atanassov P.B. (編) (2002) Immunoassay Methods and Protocols. Humana Press, Totowa, NJ, US)に示される。
【0036】
よって、示されたイムノアッセイ条件下において、記載される抗体は、本発明のAβ8-xペプチドのN-末端領域に優先的に結合するが、他のタンパク質又はタンパク質アイソフォームへの結合は、著しい量では生じない。
特に、記載される抗体は、Aβ1-42ペプチドに結合せず、よって、治療目的で用いたときに、Aβ1-42ペプチドに対する抗体を用いて観察される重篤な副作用を示さない(実施例5を参照)。
【0037】
このような応答は、免疫原の投与により誘発される能動的応答、又は抗体若しくは感作T細胞の投与により誘発される受動的応答であり得る。細胞性免疫応答は、クラスI又はクラスII MHC分子を伴ってポリペプチドエピトープを活性化された抗原特異的CD4 Tヘルパー細胞及び/又はCD8+細胞傷害性T細胞に提示することにより惹起される。応答は、単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状細胞、小膠細胞、好酸球又は先天免疫の成分の活性化も含み得る。
【0038】
「免疫原性剤」又は「免疫原」は、受容哺乳動物へアジュバントと任意に組み合わせて投与することにより、それ自体に対する免疫応答を誘発できる。
【0039】
好ましい実施形態において、上記の抗体は、Aβ8-xペプチドの遊離のN-末端への高い特異性を示す。
「遊離のN-末端」との表現は、遮蔽されていないN-末端、すなわちNH2末端を有するアミノ酸のことをいう。
【0040】
本発明の抗体は、高い特異性を有するポリクローナル、又は高い特異性を有するモノクローナルであり得る。
【0041】
別の好ましい実施形態において、上記の抗体は、Aβ8-xペプチドについて高い親和性を示す。
用語「親和性」とは、Aβ8-xペプチドのN-末端領域への抗体の結合の強度、すなわち、抗体がAβ8-xペプチドのN-末端領域にどれほど堅く結合するかということである。
【0042】
本発明の抗体は、高い親和性を有するポリクローナル又は高い親和性を有するモノクローナルであり得る。
8-xペプチドのN-末端領域への本発明のモノクローナル抗体の親和性は、ブリッジングアッセイ試験により決定される(実施例3を参照)。1未満のOD値は、低い親和性を示し、1を超えると標的に対するモノクローナルの高い親和性を示す。
【0043】
別の有利な実施形態において、本発明の抗体は、高い特異性及び高い親和性を有するポリクローナル、又は高い特異性及び高い親和性を有するモノクローナルであり得る。
より好ましい実施形態において、抗体は、脳におけるAβ8-xペプチドの実質性アミロイド沈着を特異的に標的にし、血管性アミロイド沈着とは相互作用しない。
【0044】
免疫応答の誘発は、免疫原が投与されて、免疫原に対して反応性の抗体又はT細胞が誘発されるときに、「能動的」である。免疫応答の誘発は、N-末端短縮Aβ8-xペプチドにそれ自体が結合する抗体が哺乳動物に投与されるときに、「受動的」である。
【0045】
受動免疫化の副作用の1つは、微小出血が頻繁であることである。微小出血数のこのような増加は、注入された抗体が血管壁内で凝集Aβペプチドに固定されることにより説明できるだろう(実施例5を参照)。
よって、実質性アミロイド沈着を特異的に標的にし、血管性アミロイド沈着を標的にしない本発明の抗体は、Aβ1-42ペプチドに対する抗体を用いて観察される重篤な副作用を示さないだろう(実施例5を参照)。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明は、xが15〜42である抗体、特にモノクローナル抗体に関する。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明は、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、可変領域が、それぞれ軽鎖及び重鎖に相当する以下のアミノ酸配列の対の1つを含むモノクローナル抗体に関する。
灰色の領域は、軽鎖(CDR-Lx)又は重鎖(CDR-Hx)の相補性決定領域に相当する。
【0048】
【化1】

【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
本明細書で用いる場合、「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子のフラグメントにより実質的にコードされる1つ又は複数のポリペプチドからなるタンパク質のことをいう。
好ましい実施形態において、上記で定義される抗体の可変領域の軽鎖及び重鎖のCDRは、以下のアミノ酸配列の1つを含む:
【0052】
【化4】

【0053】
【化5】

【0054】
【化6】

【0055】
本発明のCDRは、完全に同一のものだけでなく、Aβ8-xペプチドに対する特異性が維持される限りは変異体も含む。つまり、1つ又は複数のアミノ酸残基が改変されたCDRアミノ酸配列も、CDR配列として用いることができる。CDR変異体のアミノ酸配列中の改変アミノ酸残基は、CDR全体の好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下である。
よって、記載されるCDR又は相同配列の少なくとも1つを含む任意の抗体、フラグメント、分子又はリガンドを用いることができる。
【0056】
CDRは、エピトープ認識及び抗体結合について最も重要である。しかし、CDRを含む残基を、抗体がその同族エピトープを認識しそれに結合する能力に干渉することなく、変更させることができる。例えば、エピトープ認識に影響しないが、エピトープに対する抗体の結合親和性を増大させる変更を行うことができる。
【0057】
1次抗体配列の知見に基づいて抗体配列中の種々の位置での1つ又は複数のアミノ酸の変更の導入が、結合及び発現レベルのようなその特性に対して与える影響を調べたいくつかの研究がある(Yang, W. P.ら, 1995, J. Mol. Biol., 254 : 392〜403; Rader, C.ら, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95 : 8910〜8915; Vaughan, T. J.ら, 1998, Nature Biotechnology, 16 : 535〜539)。
これらの研究(いわゆる親和性成熟法)では、CDR1、CDR2、CDR3又はフレームワーク領域内の重鎖及び軽鎖の遺伝子の配列を、オリゴヌクレオチド媒介部位特異的突然変異誘発、カセット突然変異誘発、誤りの多いPCR、DNAシャッフリング又は大腸菌(E. coli)のミューテータ株のような方法を用いて変更することにより、1次抗体の等価物を作製している(Vaughan, T. J.ら, 1998, Nature Biotechnology, 16: 535〜539; Adey, N. B.ら, 1996, 第16章, pp. 277〜291, "Phage Display of Peptides and Proteins", Kay, B. K.ら編, Academic Press)。1次抗体の配列を変更するこれらの方法は、2次抗体の親和性の改善をもたらした(Gram, H.ら, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89 : 3576〜3580; Boder, E. T.ら, 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97: 10701〜10705; Davies, J.及びRiechmann, L., 1996, Immunotechnolgy, 2: 169〜179; Thompson, J.ら, 1996, J. Mol. Biol., 256: 77〜88; Short, M. K.ら, 2002, J. Biol. Chem., 277: 16365〜16370; Furukawa, K.ら, 2001, J. Biol. Chem., 276: 27622〜27628)。
【0058】
抗体の1つ又は複数のアミノ酸残基を変更させるのと同様の指向されたストラテジーにより、本発明に記載される抗体配列を用いて、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に対する親和性の改善を含む改善された機能を有する、上記で定義されるAβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合する抗体を開発できる。
【0059】
好ましいアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を低減させ、(2) 酸化に対する感受性を低減させ、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を変更させ、(4)このようなアナログの物理化学的若しくは機能的特性を与えるか又は改変するものである。アナログは、天然のペプチド配列以外の配列の種々の突然変異タンパク質を含み得る。例えば、単独又は複数のアミノ酸置換(好ましくは保存的アミノ酸置換)を、天然の配列中で行うことができる(好ましくは、分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチドの部分において)。保存的アミノ酸置換は、親の配列の構造的特徴を実質的に変更しない(例えば、置き換えるアミノ酸は、親の配列内に生じるヘリックスを破壊する傾向にないか、又は親の配列を特徴付ける他の種類の2次構造を破壊する傾向にない)。当該技術において認識されるポリペプチドの2次及び3次構造の例は、Proteins, Structures and Molecular Principles (Creighton編, W. H. Freeman and Company, New York (1984)); Introduction to Protein Structure (C. Branden及びJ. Tooze編, Garland Publishing, New York, N. Y. (1991));並びにThorntonら, 1991, Nature, 354: 105に記載され、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
改善された抗体は、動物の免疫化、ハイブリドーマ形成及び特定の特徴を有する抗体の選択の標準的な技術により作製された、改善された特徴を有する抗体も含む。
【0061】
改善された抗体を生成するために特に工学的に作製された細胞株を用いることもできる。特に、これらの株は、グリコシル化経路の調節が変更されており、ほとんどフコース化されていないか又は全くフコースを有さない抗体が得られる。このような細胞株及びそれらを工学的に作製する方法は、例えば、Shinkawaら(2003, J. Biol. Chem. 278(5): 3466〜3473)、Ferraraら(2006, J. Biol. Chem. 281(8): 5032〜5036; 2006, Biotechnol. Bioeng. 93(5): 851〜61)、EP 1331266、EP 1498490、EP 1498491、EP 1676910、EP 1792987、及びWO 99/54342に開示されている。
【0062】
別の好ましい実施形態において、本発明は、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、放射線核種、フラワー(fluor)、酵素標識、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤及びハプテンからなる群より選択される化合物で標識された抗体に関する。
【0063】
アッセイにおいて用いられる特定の標識又は検出可能な基は、それがアッセイにおいて用いられる抗体の特異的結合を著しく干渉しない限りは、通常、本発明の重要な観点ではない。検出可能な基は、検出可能な物理的又は化学的特性を有する任意の物質であり得る。このような検出可能な標識は、イムノアッセイの分野においてよく開発されており、一般的に、このような方法において有用なほとんど全ての標識を、本発明の方法に用いることができる。
【0064】
よって、標識は、分光分析、光化学、生化学、免疫化学、電気、光学、放射線学、又は化学的な手段により検出できる任意の組成である。本発明において有用な標識は、限定されないが、磁性ビーズ(例えばDynabeadsTM)、蛍光色素(例えばフルオレセインイソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミン)、放射性標識(例えば3H、125I、35S、14C又は32P)、酵素(例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びELISAで通常用いられるその他のもの)、及び金コロイド、着色ガラス又はプラスチック(例えばポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズのような比色標識を含む。
【0065】
標識は、当該技術において公知の方法に従うアッセイの所望の成分に直接又は間接的に結合させることができる。上記のように、広範囲の標識を用いることができ、標識の選択は、必要とされる感度、化合物とのコンジュゲート形成の容易さ、安定性の要件、利用可能な装置及び廃棄の規定に依存する。非放射活性標識は、しばしば、間接的な手段により結合させる。
【0066】
一般的に、リガンド分子(例えばビオチン)を、抗体に共有結合させる。次いで、リガンドは、抗リガンド(例えばストレプトアビジン)分子に結合し、これは、本来検出可能であるか、又はシグナル系、例えば検出可能な酵素、蛍光化合物若しくは化学発光化合物に共有結合する。いくつかのリガンドと抗リガンドを用いることができる。例えばビオチン、チロキシン及びコルチゾールのようにリガンドが天然の抗リガンドを有する場合、これは、標識された天然に存在する抗リガンドと組み合わせて用いることができる。或いは、ハプテン化合物又は抗原性化合物を抗体と組み合わせて用いることができる。
【0067】
抗体は、例えば、酵素又はフルオロフォアとのコンジュゲート形成により、シグナル発生化合物と直接コンジュゲートさせることもできる。標識として興味深い酵素は、主に、ヒドロラーゼ、特にホスファターゼ、エステラーゼ及びグリコシダーゼ、又はオキシドレダクターゼ、例えばペルオキシダーゼである。
【0068】
蛍光化合物は、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロンなどを含む。化学発光化合物は、ルシフェリン及び2,3-ジヒドロフタラジンジオン、例えばルミノールを含む。その他の標識又はシグナル発生系の概要は、米国特許第4,391,904号で見出される。
【0069】
標識を検出する手段は、当該技術において公知である。つまり、例えば、標識が放射活性標識である場合、検出のための手段は、シンチレーションカウンタ又はオートラジオグラフィにおけるような写真フィルムを含む。標識が蛍光標識である場合、これは、フルオロフォアを適切な波長の光で励起し、得られる蛍光を検出することにより検出できる。蛍光は、視覚的に、写真フィルムにより、電荷結合素子(CCD)又はフォトマルチプライヤのような電子検出機の使用により検出できる。
【0070】
同様に、酵素標識は、酵素の適切な基質を提供し、得られた反応生成物を検出することにより検出できる。最後に、単純な比色標識は、標識に伴う色を観察することにより単純に検出できる。
【0071】
好ましい実施形態において、モノクローナル抗体は、ヒト化抗体である。
「ヒト化抗体」により、マウス抗体からの最小限のマウス部分がヒト抗体に移植された、遺伝子工学的に作製された抗体を意味する。一般的に、ヒト化抗体は、5〜10%がマウスで、90〜95%がヒトである。
ヒト化抗体は、マウス及びキメラ抗体を用いたときに見られるHAMA (マウス抗体に対するヒト抗体)及びHACA (キメラ抗体に対するヒト抗体)応答に対抗し、これらに対するヒト免疫系の応答が最小限であるか又はないという利点を有する。
【0072】
別の態様によると、本発明は、上記で定義されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関し、すなわち、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-40もAβ1-42も、特に、上記で定義されるアミノ酸配列の対の1つを含む可変領域を認識せず、高い特異性を示すものに関する。
【0073】
好ましい実施形態において、上記で定義されるハイブリドーマは、2007年8月23日に、
BCCM / LMBP Plasmid Collection
Department of Molecular Biology
Ghent University
'Fiers-Schell-Van Montagu' building
Technologiepark 927
B-9052 Gent - Zwijnaarde
BELGIUM
に、以下の受領番号で寄託されている:
TeiA 1.6又は2.6F4C2 (IGH521) --> LMBP 6594CB
TeiA 1.7又は2.8A3F8 (IGH522) --> LMBP 6595CB
TeiA 1.8又は1.3B12H3 (IGH523) --> LMBP 6596CB
TeiA 2b.6又は2.13E5E4 (IGH524) --> LMBP 6597CB
TeiA 1.1又は3.46B10E7 (IGH 525) --> LMBP 6598CB
【0074】
別の態様によると、本発明は、アミロイド沈着を減らし、モノクローナル抗体を単離するのに効果的である、抗体産生を上昇させる免疫応答を生じるペプチド調製物である。
「ペプチド調製物」により、N-短縮Aβペプチドの遊離のN-末端を模倣する遊離のN-末端を有する短い合成ペプチドを意味する。
【0075】
用いられるペプチドは、次のとおりである:Aβ8-x模倣ペプチド:SGYGVHHGC-KLH
(ここで、KLHは、システインにジスルフィド結合により結合するキーホールリンペットヘモシアニンである)。Aβに相当する配列に下線を付し、グリシンであるスペーサアミノ酸がそのあとに続く。Aβ8-xは、IGP-2119 (PG127) 表2に類似している。
【0076】
ペプチド調製物は、リン酸緩衝生理食塩水中で混合され、腹腔内注射のためにフロイントアジュバントに加えられる(図2)。24週間後に、免疫応答をTAPIRにより分析し(図3)、アミロイド負荷に対する効果を、ウェスタンブロッティングにより測定する(図4)。
【0077】
別の態様によると、本発明は、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-42を認識せず(xは11〜42、特に15〜42である)、高い特異性を示す上記の抗体の調製方法であって、適切な動物をAβ8-xペプチド及びTヘルパーエピトープ、特にTヘルパーエピトープと融合させたAβ8-xペプチド、又はAβ8-x分岐ペプチド(branched peptide)、特にAβ8-15ペプチドを用いて免疫にする工程を含む方法に関する。
【0078】
「Tヘルパーエピトープと融合させたAβ8-xペプチド」の表現は、KLHに結合するための末端システインを含む、Livingstonら(2002)によるTヘルパーエピトープとAβ8-xペプチドとの連結のことをいう。
「Aβ8-x分岐ペプチド」の表現は、KLHに結合するための末端システインを含むペプチドスペーサと連結されたAβ8-xペプチドのことをいう。
【0079】
上記で定義される抗体を作製することは、当業者に自明でなかった。なぜなら、以下の通常の方法、すなわち、5つのペプチド(Aβ1-8、Aβ5-13、Aβ6-14、Aβ8-15及びAβ9-17)を用いる免疫化によっては、特異的抗体を分泌するハイブリドーマを単離できず、よって、Aβ8-xペプチドとTヘルパーエピトープ、特にTヘルパーエピトープと融合させたAβ8-xペプチドを用いて免疫化するか、又はAβ8-x分岐ペプチドを用いて免疫化することが必要であったからである。
【0080】
好ましい実施形態において、本発明は、Aβ8-15ペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-42を認識せず、Aβ8-15ペプチドに対して、ウェスタンブロットにより測定されるような高い親和性を示す、上記で定義される抗体を作製する方法に関する。
「ウェスタンブロット」とは、組織ホモジネート又は抽出物のサンプル中の特定のタンパク質を検出する方法である。
【0081】
別の態様によると、本発明は、上記で定義される方法により得られるような、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合する抗体に関する。
【0082】
別の態様によると、本発明は、以下の工程を含む、哺乳動物におけるインビトロのアミロイド負荷を測定する方法に関する:
(i) 上記で定義される抗体を用いて、哺乳動物の体液中のN-末端短縮Aβ8-xのレベルを定量する工程と、
(ii) 上記の哺乳動物の抗体のレベルを、対照哺乳動物で得られたものと比較する工程と、
(iii) N-末端短縮Aβ8-xレベルが対照哺乳動物において測定されたレベルに対して変更されている、特に対照哺乳動物において測定されたレベルより高いとの条件で、工程(ii)から、上記の哺乳動物が、神経疾患に罹患しているかを導き出す工程。
【0083】
本発明において調査される哺乳動物は、非ヒト哺乳動物、例えば(限定されないが)、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、サル、ウサギ、ノウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ヘラジカ、シカ又はトラであり得る。好ましい実施形態において、哺乳動物は霊長類である。
好ましい実施形態において、上記の方法の哺乳動物は、ヒトであり、より好ましくは哺乳動物はヒトの成人である。
【0084】
別の好ましい実施形態において、本発明は、Aβ8-42に対する上記の抗体の特異性及び感度が、60%より高い、好ましくは約60〜約100%、より好ましくは80%を超える、上記で定義される方法に関する。
用語「感度」は、方法が検出できるAβ8-42ペプチドの検出の程度のことをいう(Neurobiology of aging, 第19巻、第2号、p109〜116, 1998: 「ADの分子及び生化学的マーカー」に関するワーキンググループの合意報告(Consensus report of the working group on: "Molecular and biochemical markers of AD)を参照)。このワーキンググループは、ADの診断キットについての基準を設定し、感度及び特異性が>80%であるべきであると述べている。
【0085】
別の好ましい実施形態において、上記で定義される方法の上記の体液は、脳脊髄液(CSF)又は血液である。
「脳脊髄液」又は「CSF」の用語は、脳脊髄液全体又は当業者に公知のその画分の派生物を含むことを意図する。つまり、脳脊髄液サンプルは、脳脊髄液の種々の分画された形態を含むことができるか、又は保存もしくは特定のアッセイにおける処理を容易にするために加えられた種々の希釈液を含み得る。このような希釈液は当業者に公知であり、種々のバッファー、防腐剤などを含む。
【0086】
別の態様によると、本発明は、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病に対する感受性を哺乳動物において決定するため、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病を発症する危険性を哺乳動物において決定するため、哺乳動物におけるβ-アミロイド沈着の浄化をスクリーニングするため、又は哺乳動物におけるβ-アミロイド負荷のレベルを予測するための方法であって、該方法は、以下の工程を含む:
(i) 哺乳動物において、上記で定義される抗体を用いて、ペプチドAβ8-xの量を決定する工程と、
(ii) 工程(i)で決定された量を、対照哺乳動物におけるAβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的な抗体の量と比較する工程と、
(iii) 工程(ii)の比較から、哺乳動物が、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病に感受性であるか、哺乳動物が、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病を発症する危険性を有するか、哺乳動物におけるβ-アミロイド沈着が浄化されたか、又は哺乳動物におけるβ-アミロイドがどのレベルであるかを結論付ける工程。
【0087】
例えば試験された哺乳動物の脳におけるN-末端短縮Aβ8-xのレベルの増加は、哺乳動物が、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患に感受性であるか又はそれを発症する危険性があることを示し得る。これは、哺乳動物におけるAβ沈着が浄化されていないことも示し得る。
【0088】
ワクチン接種又は治療の後のある体液中のN-末端短縮Aβ8-xのレベルの増加は、Aβ負荷のレベルを示す(DeMattosら, 2002)。N-末端APP可溶性フラグメントは、ある体液中で主に見出される。これらのN-末端APP可溶性フラグメントの存在は、N-末端短縮Aβ変異体の形成をもたらし、よって、哺乳動物によるβ-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患への感受性の増加又はそれを発症する危険性の増加をもたらすAPPの異常な切断を示す。
【0089】
好ましい実施形態において、上記で定義される方法を用いるAβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的な抗体の量は、上記の哺乳動物から得られる組織サンプルについて決定される。
「組織」により、脳組織を意味する。
【0090】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1種のバッファーと、少なくとも1種の検出化合物、上記で定義される少なくとも1つのN-短縮Aβ8-x特異的抗体とを含むキットに関する。
好ましい実施形態において、上記のキットは、上記で定義される抗体に結合する、好ましくは標識された2次抗体をさらに含む。
【0091】
例えば、抗体は、それらが固定化される固体基体に直接結合できる。これらの固定化抗体は、次いで、サンプル中の本発明のN-末端短縮Aβ8-xペプチドを捕捉し、これが次いで、2次抗体により検出される。
【0092】
別の態様において、本発明は、活性成分としての上記で定義される抗体、又はN-短縮Aβペプチドの遊離のN-末端を模倣する遊離のN-末端を有する合成ペプチドを、医薬的に許容され得るビヒクルと組み合わせて含む治療用組成物に関する。
【0093】
個体に投与されるか又は送達される抗体の量は、個体の脳におけるβアミロイドのレベルを著しく低減させるのに充分であるべきである。適切な量は、種々のパラメータ(例えば用いられる特定の抗体、個体の体重及び内因性βアミロイドのレベル)に依存し、その場その場で決定される。
投与の用量及び頻度も、処置が予防用又は治療用であるかに基づいて変動し得る。
好ましい実施形態において、上記で定義される治療用組成物は、1 mg/kg/日〜200 mgの抗体の投与量を個体に投与するのに適切である。
【0094】
処置に適する患者は、疾患の危険性があるが症状を示していない個体、及び症状を現在示している患者を含む。アルツハイマー病の場合、長期間生存していれば実質的にだれでも、アルツハイマー病に罹患する危険性がある。よって、本発明の抗体は、対象の患者の危険性の評価を行わずに、大部分の集団に予防のために投与できる。本発明の抗体は、アルツハイマー病の既知の遺伝的な危険性を有する個体に特に有用である。このような個体は、この疾患を経験した親類を有する者、及びその個体の危険性を遺伝子又は生化学的マーカーの分析により測定した者を含む。
【0095】
本発明による抗体の個体への投与は、静脈内投与により行うことができる。
脳へ送達する別の様式は、本発明による抗体を、個体の脳へ直接注入することによる。
【0096】
別の態様によると、本発明は、活性成分としての上記で定義される抗体、そのフラグメント若しくは誘導体、又はN-短縮Aβペプチドの遊離のN-末端を模倣する遊離のN-末端を有する合成ペプチドを、医薬的に許容され得るビヒクルと組み合わせて含むワクチン組成物に関する。
【0097】
好ましい実施形態において、上記で定義されるワクチン組成物は、1 mg/kg/日〜200 mg /kg/日の抗体の投与量を個体に投与するために適切である。
本発明のワクチン又は治療用組成物は、本発明の特定のN-末端短縮Aβ8-xペプチドに対する免疫応答を誘発する。
【0098】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの上記で定義される抗体の、アルツハイマー病の予防又は治療を意図する薬剤又はワクチンの製造のための使用にも関する。
本明細書で用いる場合、「疾患を予防する」との用語は、疾患の開始の阻害若しくは逆行、疾患の初期の徴候(すなわち、Aβ変異体の形成及び/又は凝集)の阻害若しくは逆行、疾患の臨床上の症状の発現の阻害を意味する。
本明細書で用いる場合、「疾患を治療する」との用語は、疾患を実質的に阻害すること、疾患の進行を実質的に遅延させるか若しくは逆行させること、疾患の臨床上の症状を実質的に緩和すること、又は疾患の臨床上の症状の発現を実質的に妨げることを含む。
【0099】
別の態様によると、本発明は、少なくとも1つの上記で定義される抗体の、βアミロイド負荷の浄化を意図する薬剤又はワクチンの製造のための使用に関する。
用語「βアミロイド負荷の浄化」とは、βアミロイド負荷が脳組織から除去されることを意味する。Aβペプチドに対するワクチン接種を用いてAD患者の脳のアミロイド沈着を浄化することは、治療の前途を開く新しいアプローチである(Schenkら, 2001, アルツハイマー病のためのベータ-アミロイドを用いる免疫療法:新しい領域(Immunotherapy with beta-amyloid for Alzheimer's disease: a new frontier.) DNA Cell Biol. 20: 679〜681)。
【0100】
別の態様によると、本発明は、上記の組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物におけるβ-アミロイド負荷を浄化する方法に関する。
【0101】
別の態様によると、本発明は、上記で定義されるペプチド組成物の、アルツハイマー病に罹患したか又はそれを発症する可能性がある哺乳動物における免疫応答を誘発するための使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、APP770の部分アミノ酸配列を表し、示されるα-、β-及びγ-セクレターゼ切断部位を有するAβのアミノ酸配列を示す。
【図2】図2A及び2Bは、ペプチド調製物の腹腔内注射のスケジュール(2A)と、それぞれの出血について測定された抗体力価(2B)を表す。x軸:血清希釈y軸:光学密度
【図3】図3A〜3Dは、二重トランスジェニックAPPxPS1マウスの脳組織におけるアミロイド沈着を検出するか又はしないための免疫化マウス血清の使用を表す。 3A及び3B:非応答性マウスの血清(倍率:それぞれ×25及び×100)、 3C及び3D:Trunc8免疫化マウス血清(倍率:それぞれ×25及び×100)。
【図4】図4A及び4Bは、免疫化されたマウス及び対照マウスにおけるウェスタンブロッティングにより測定されたAβ負荷(4A)及び対照条件(PBS)に対するAβ-42負荷のパーセンテージで表された免疫化の効率を示すヒストグラムを表す。
【図5】図5は、軽鎖及び重鎖のプライマーの位置の概略図である。
【図6】図6は、ヒトアルツハイマー脳のギ酸抽出物及び「全長」合成Aβペプチドの混合物の2Dゲル分析を表す(Aβ2-42、Aβ3-42、Aβ4-42、Aβ5-42、Aβ7-42、Aβ8-42、Aβ9-42 (21F12 (Aβ1-42)と等価な7G12を用いてSergeantら(2003)に記載されるようにして得たイムノブロット、TeiA 1.1、TeiA 1.8及びTeiA 2b.6)。
【図7】図7は、4D7A3 (42-C-末端特異的抗体)並びにTeiA 2b.6、TeiA1.8、TeiA1.7及びTeiA1.6の免疫捕捉抗体を表す。
【図8】図8A及び8Bは、実質性アミロイドに対するモノクローナル抗体TeiA1.6の特異性を表す。8A:従来のAβ抗体6E10を用いる、実質性(矢印)及び血管性のアミロイド沈着(矢じり)の両方の標識。8B:8-短縮Aβ(TeiA1.6)を用いる実質性(矢印)アミロイド沈着のみの標識であって、近傍の脳切片における血管周囲の沈着(矢じり)は標識されない。
【図9】図9A〜9Jは、第47番の7ヶ月齢のマウスへの4G8抗体(市販のモノクローナル抗体)の頭蓋内注射(右海馬)の結果を表す。 9A、9D及び9G:注射位置に対する脳の切片の位置。 9B、9E及び9H:「明示(revealing)」抗体6E10を用いて検出されたアミロイドペプチド沈着を示す対応する脳の切片の免疫組織学的画像。9C、9F及び9I:それぞれの脳半球における異なる脳の小区域において、画像9B、9E及び9Hからそれぞれ計算されたアミロイドペプチドの負荷 (Hipp:海馬、Cx1:皮質領域1(背側)、Cx2:皮質領域2 (側方)、Cx3:皮質領域3(側方-腹側)、Th:視床)。比:染色された面積/その領域の合計面積。 L:左、R:右(注射された)。 9J:脳切片Hのみにおける免疫化学による、それぞれの脳半球の海馬台(subiculum)において計算されたアミロイドペプチドの負荷。
【図10】図10A〜10Jは、第17番の7ヶ月齢のマウスへのTeiA1.6抗体の頭蓋内注射(右海馬)を表す。 10A、10D及び10G:注射位置に対する脳の切片の位置。 10B、10E及び10H:「明示」抗体4G8を用いて検出されたアミロイドペプチド沈着を示す対応する脳の切片の免疫組織学的画像。 10C、10F及び10I:それぞれの脳半球における異なる脳の小区域において、画像10B、10E及び10Hからそれぞれ計算されたアミロイドペプチドの負荷 (Hipp:海馬、Cx1:皮質領域1(背側)、Cx2:皮質領域2 (側方)、Cx3:皮質領域3(側方-腹側)、Th:視床)。比:染色された面積/その領域の合計面積。 L:左、R:右。 10J:脳切片B及びEのみにおける免疫化学による、それぞれの脳半球の海馬台において計算されたアミロイドペプチドの負荷。
【図11】図11は、TeiA1.6モノクローナル抗体を頭蓋内注射(右海馬)した後の、異なる脳の小区域(Hipp:海馬、Cx1:皮質領域1(背側)、Cx2:皮質領域2 (側方)、Cx3:皮質領域3(側方-腹側)、Th:視床)における注射されたもの(TeiA1.6抗体)と注射されていないもの(対照)とのアミロイド負荷の比を表す。これは、それぞれについて定量された3つの脳切片を有する4匹の動物についての比の平均値である(データは、平均+/- SEMを表す)。
【図12】図12A〜12Jは、第58番の7ヶ月齢のマウスへのTeiA1.8抗体の頭蓋内注射(右海馬)を表す。 12A、12D及び12G:注射位置に対する脳の切片の位置。 12B、12E及び12H:「明示」抗体4G8を用いて検出されたアミロイドペプチド沈着を示す対応する脳の切片の免疫組織学的画像。 12C、12F及び12I:それぞれの脳半球における異なる脳の小区域において、画像12B、12E及び12Hからそれぞれ計算されたアミロイドペプチドの負荷 (Hipp:海馬、Cx1:皮質領域1(背側)、Cx2:皮質領域2 (側方)、Cx3:皮質領域3(側方-腹側)、Th:視床)。比:染色された面積/その領域の合計面積。 L:左、R:右。 12J:脳切片Hのみにおける免疫化学による、それぞれの脳半球の海馬台において計算されたアミロイドペプチドの負荷。
【図13】図13は、TeiA1.6モノクローナル抗体を頭蓋内注射(右海馬)した後の、異なる脳の小区域(Hipp:海馬、Cx1:皮質領域1(背側)、Cx2:皮質領域2 (側方)、Cx3:皮質領域3(側方-腹側)、Th:視床)における注射されたもの(TeiA1.8抗体)と注射されていないもの(対照)とのアミロイド負荷の比を表す。これは、それぞれについて定量された3つの脳切片を有する4匹の動物についての比の平均値である(データは、平均+/- SEMを表す)。
【実施例】
【0103】
実施例1:N-trunc 8ペプチド調製物での二重トランスジェニックマウスの免疫化と、脳アミロイド負荷に対する結果
二重APPスウェーデンロンドン×プレセニリン1 (Swedish London x Presenilin 1)トランスジェニックマウス(Blanchardら, 2003 Exp Neurology 184:247; WO0120977)に、3週間ごとに、50μgのN-Trunc 8ペプチドを注射した(図2A)。免疫化の全期間は21週間であった。陰性及び陽性の対照として、一連のマウスに、それぞれ、リン酸緩衝生理食塩水又は凝集Aβ1-42ペプチドを注射した。抗体の力価は、Trunc 8ペプチドに対する直接ELISAにより決定した(図2B)。
【0104】
免疫化マウスの5回目の出血からの血清を用いて、組織アミロイド斑免疫反応性(TAPIR)を行った(Christoph Hock, Roger M. Nitsch, Clinical Observations with AN-1792 Using TAPIR Analyses Neurodegenerative Diseases 2005;2:273〜276) (図3)。非応答性マウスからの血清を、陰性対照として用いた。アミロイド沈着は、Trunc-8ペプチドを用いて免疫化したマウスからの血清を用いて検出した。
【0105】
Aβ負荷に対する免疫化の結果は、Aβペプチドのギ酸抽出物及び以前に記載されるようなウェスタンブロッティングによる検出を用いて調べた(Casasら, 2004) (図4A)。Aβ-42の合計量を測定し、対照条件(PBS)と比較し、対照条件(100%)に対するパーセンテージとして表した。ヒストグラムは、それぞれの実験条件についての定量値を表す(図4B)。
【0106】
実施例2:ハイブリドーマIGH524、IGH525、IGH521、IGH522、IGH523からのモノクローナル抗体可変領域の特徴決定
DNA配列分析の結果を、適切なオープンリーディングフレームをアミノ酸配列に翻訳し、コンセンサス抗体重鎖及び軽鎖フレームワーク領域と整列させることにより評価した。
【0107】
データ解析
生の配列データ(DNAクロマトグラム)を、Sequencing Analysis Software v5.2 (Applied Biosystems)及びKB basecaller v1.2 (Applied Biosystem)を用いて作製し、Sequencher 4.1.2を用いて解釈及び編集した。一般的に、二本鎖配列決定の結果を組み立て、コンセンサス配列をInnogenetics Lotus Notes Custom Sequencing Service Request (CSSR)データベースにつなぎ、割り当てられたCSSRプロジェクト番号で保存した。
【0108】
結果
RNA単離、RT-PCR、クローニング及び寄託
表1は、それぞれのハイブリドーマ/MAbについてのRNA抽出に用いた細胞の起源と供給源とを示し、それぞれの重鎖又は軽鎖抗体について、具体的なクローン可能なPCRフラグメントをうまくもたらしたプライマーの対応する組み合わせを示す。
【0109】
配列分析
それぞれの可変領域について、DNA配列解析及びその後のアラインメントにより、それぞれのハイブリドーマ/MAbについての可能性のあるコンセンサスが明らかになった。相補性決定領域(CDR)は、全てのクローンについて同一であり、1つの可変領域を特定する。
【0110】
得られた最終のコンセンサス配列の概要及び整列を、添付1に示す。理論的に予測されるCDRループを示す(コンセンサス配列の規則に基づく)。
コンセンサス配列中で印を付した相補性決定領域(CDR)が、Kabatの定義(Reczkoら, 1995)からの公共で利用可能な規則又はモデリングのための公共で利用可能な解析ツール(Honeggerら 2001)の組に基づいて割り当てられた。CDRは、調査のため/非公式的な使用のみのために印をつける。
【0111】
IGH524, TeiA 2b.6
ハイブリドーマIGH524から単離されたMAb TeiA 2b.6 (2.13E5E4)の重鎖及び軽鎖について得られた結果は、わずかなあいまいさ及び/又は主にフレームワーク領域での違いがあるだけで、明確であった。完全な可変領域を決定し、両方の成熟抗体鎖のN-末端(CDR1の最大部分を含む)は、精製抗体のN-末端アミノ酸配列決定により確認した。
【0112】
IGH521 (TeiA 1.6)、IGH522 (TeiA 1.7)、IGH523 (TeiA 1.8)、IGH525 (TeiA 1.1)
MAb TeiA 1.6 (2.6F4C2, IGH521)、TeiA 1.7 (2.8A3F8, IGH522)、TeiA 1.8 (1.3B12H3, IGH523)及びTeiA 1.1 (3.46B10E7, IGH525)の全ての重鎖及び軽鎖についての結果も明確であった。クローニングされたPCR産物の8つの配列を整列させ、同一配列が少ないほうから3番目までの配列が、コンセンサス配列を導く。完全可変領域を、ハイブリドーマIGH524から得られた配列とのアラインメントにより決定した。
【0113】
【表1−1】

【0114】
【表1−2】

【0115】
【化7】

【0116】
【化8】

【0117】
【化9】

【0118】
実施例3:N-短縮8-特異的Aβ抗体及びクローニングの間の(制限された)特徴決定
15匹のBalb-Cマウスに、5つの短い合成Aβペプチド(マウスあたりKLH-結合ペプチド50μg)を注射した。1匹のマウスは、未詳の理由により死亡した。ペプチドは、それぞれAβ1-8、Aβ5-13、Aβ6-14、Aβ8-15及びAβ9-17の最初の8つのN-末端残基に相当する(表2を参照)。ペプチドは、KLHと結合するためのC-末端残基も含有していた。5回の注射の後に、血清の力価を、ペプチド混合物の「コーティングアッセイ」で測定した。ペプチドを、ストレプトアビジン-ビオチン標識ペプチド複合体として(ペプチド(IGP-2258、表2を参照)又はBSA (ウシ血清アルブミン)-ペプチド複合体として(PG-Nr表2を参照)被覆し、HRPと結合した抗マウス抗体(Jacksonヤギ抗マウスHRP、Cat No 115-035-071)を検出に用いた。力価は低かったが(示さず)、最初のマウスを屠殺し、融合を行った。特異的抗体を分泌するハイブリドーマは単離されなかった。
【0119】
よって、マウスの組に、「改変ペプチド」をブースター注射した。3匹のマウスに、元のペプチド混合物を注射し、2匹のマウスに、IGP-2119 KLH-結合ペプチドをさらに注射した(表2を参照)。
8-15に相当するペプチドは、5つの混合物のうち、より免疫原性であり、3つのさらなるペプチドを、よって、合成した。1つはTヘルパーエピトープ(PGPGP (Livingstonら, 2002);IGP-2406 (表2)及びKLHと結合するためのC-末端システイン残基と融合したAβ1-8に相当する。他のペプチドは、別のTヘルパーエピトープ(DGDGD (McMillanら, 1983);IGP-2258 (表2)も含んでいた。最後に、結合のためのC-末端システインを含有する分岐ペプチドも合成した(IGP-2407 (表2)。
【0120】
各回に2匹のマウスを、新しく合成したペプチドで免疫化した。Aβ8-15ペプチドは、E1粒子にも結合させ(WO 2004/013172)、最後の2匹のマウスのブースター注射のために用いた。力価を、再び、「コーティングアッセイ」によりモニターした(結果は示さず)。Aβ8-15に対する力価は、Tヘルパーペプチド及び分岐ペプチドでブースター注射されたマウスにおいて実際に向上し、全ての3匹の生存マウスを融合のために用いることを決定した。分岐ペプチドでブースター注射されたマウスの1匹は死亡した。
【0121】
【表2】

【0122】
両方のマウスの脾臓を調製し、SP2/0細胞に融合させた。播種した後に、66枚のプレート(±3000クローン)をスクリーニングした。サブクローニングの間に、限定された数(24個)のクローンを、ビオチン標識ペプチドIGP-2258及びIGP-2259をブリッジングアッセイ及びルミネックスアッセイにおいて用いて特徴決定した。ブリッジングアッセイにおいて、BSA結合ペプチドIGP-128、PG127 (表3を参照)を用いて、抗体の1つの結合部位を捕捉し、ビオチン標識ペプチドを用いて、いわゆるブリッジングアッセイにおいて捕捉された抗体を検出した。このアッセイは、抗体の親和性について示唆を与える。高親和性抗体は、より低い親和性の抗体よりも高いシグナルを与える。実際に、抗体の「2つのクラス」が同定された。
【0123】
抗体の特異性を決定するために、Aβ8-15と比較して2アミノ酸N-末端側にシフトしたAβ6-13ペプチドを用いた。これらのペプチドのビオチン標識したバージョンを、これをアビジンルミネックスビーズに効率よく捕捉させるために用いる。洗浄の後に、抗体は、抗マウスフィコエリスリン抗体により明示された。表3に示す結果は、平均蛍光強度(MFI)として表される生データである。10未満の値は、バックグラウンドより低いことを意味するので、「低親和性」で試験された全ての抗体について(ブリッジングアッセイOD<1)、非特異的ペプチド(IGP-2259)に対する反応は観察されなかった。
【0124】
「高親和性抗体」について、非特異的ペプチドに対して低いシグナルが測定可能であったが、抗体間で少しの差があった。抗体の「高親和性」クラスからは、1つがIgG2bサブタイプで2つがIgG1である3つの抗体をサブクローニングのために選択し、「低親和性」抗体からは、2つのIgG1抗体を選択して、完全な特徴決定するために5つの抗体を選択した。
【0125】
【表3】

【0126】
実施例4:N-短縮8特異的(TeiA)抗体の特徴決定
これらのTeiA抗体の、Aβに対する特異性をさらに実証するために、2つのアプローチを用いた:(1) ヒトアルツハイマー脳のギ酸抽出物の2Dゲル解析、及び(2) SELDIアプローチ(Merchantら, 2000)で用いた、N-末端が異なる「全長」合成Aβペプチドの混合物(Anaspec)。
これらのアプローチの結果を、図6及び7に示す。脳組織サンプリング及び2D解析は、Sergeantら(2003)に実質的に記載されるようにして行った。
【0127】
42ペプチドの位置を明示するために、新しい42-C-末端特異的抗体7G12H1を用いた(Sergeantら(2003)に記載される21F12と等価)。種々のスポットを質量分析法を用いて特徴決定して、図6に示す種々のN-短縮型に対応させた。
【0128】
実施例5:mAb TeiA1.6 (AβN-trunc8)は、実質性アミロイド沈着に特異的であり、血管性アミロイド沈着を認識しない
受動免疫化の副作用の1つは、微小出血が頻繁であることである。微小出血数のこのような増加は、注射された抗体が血管壁内で凝集Aβペプチドに固定化されることにより説明されるだろう(Parisら, 2000; Pfeiferら, 抗Aβ受動免疫療法後の脳出血(Cerebral Hemorrhage After Passive Anti-Aβ Immunotherapy), Science 15 November 2002; Vol. 298. no. 5597, p. 1379)。つまり、短縮Aβ種も元来の標的である。なぜなら、これらはアミロイド脈管障害においては主に見出されないからである。図8A及び8Bに示すように、近傍のヒトAD脳切片上では、通常のAβ抗体が実質性及び血管性の両方のアミロイド沈着を標識する(A、それぞれ矢印及び矢じり、6E10抗体)。
短縮8抗体(B、ここではTeiA1.6)を用いて、実質性アミロイド沈着だけが標識されるが(B、矢印)、血管性アミロイド沈着は標識されない(B、矢じり)。
【0129】
まとめると、これらのデータは、アミノ8-短縮Aβ抗体が、実質性アミロイド沈着を特異的に標的にし、他の抗Aベータ免疫アプローチを用いて観察される血管周囲の影響(出血、脳症)の原因であると示唆されている血管性アミロイド沈着と相互作用しないことを示す。
【0130】
実施例6:トランスジェニックマウスにおけるN-短縮8特異的(TeiA)抗体の頭蓋内投与は、アミロイド斑負荷の減少を導く
TeiA抗体の治療効率を示すために、これらを、脳にアミロイド斑を有するトランスジェニックマウスの海馬に注入し、投与の7日後に、大脳のアミロイドペプチド斑負荷を、免疫組織化学により定量した。簡単に、定位条件下で、1又は2μgの抗体を、ThyAPPSLxPS1M146Lマウス(Blanchardら, 2003 Exp Neurology 184:247; WO0120977)の右海馬に注射した(片側注射)。注射した抗体は、2つの市販の通常のAβ抗体(4G8及び6E10)、並びにTeiA抗体TeiA 1.1、1.6、1.8及び2b6であった。
【0131】
注射の7日後に、動物を安楽死させ、脳を免疫組織化学のために処理した。脳の後固定(postfixation)の後に、40μmの冠状凍結切片作製を行い、400μm離れた切片を、ビオチン標識4G8抗Aベータを「明示」抗体として用いて染色して、脳に存在するアミロイド負荷を評価した。4G8抗体を脳に注射した場合、用いた明示抗体は、エピトープのマスキングを防ぐためにビオチン標識6E10であった。ビオチン標識抗体は、標準的なアビジン-ペルオキシダーゼ検出キット(Vectastain (登録商標) ABCキット、Vector Laboratories)を用いて検出した。
【0132】
それぞれの脳の切片において、アミロイドペプチド負荷を、それぞれの脳半球(注射したもの及びしていないもの)において、5つの異なる脳の小区域[海馬、皮質領域1 (背側)、皮質領域2 (側方)、皮質領域3 (側方-腹側)及び視床]内で計算した。Olympusスキャナシステムで画像を取得した後に、Mercator ExploraNovaシステムを用いて半自動的に定量を行った。それぞれの動物について、注射点に関して非常によく似た位置にある3つの脳切片を定量した:1つは注射点の隣であり、1つは注射点の頭側(rostral)及び1つは尾側(caudal)であった。以前に記載されたように(Wilcockら, 2003, J Neurosci 23:3745; Oddoら, 2004, Neuron 43:321)、4G8注射は、注射されていない脳半球と比較して、注射された脳半球でのアミロイドペプチド沈着の著しい減少を導く(図9)。この効果は、抗体のこの局所的な注射により予期されるように、脳切片間で変動可能であった。TeiA1.6抗体も、注射された側における脳アミロイドの著しい減少を導き、これは、このシリーズの実験において、皮質領域3で、より著しかった(図10)。4匹のマウスの分析(7ヶ月齢)は、著しい減少を示した(図11)。
【0133】
同様に、TeiA1.8は、注射された側における脳アミロイドの著しい低下を導き、これは、このシリーズの実験において、皮質領域2で、より著しかった(図12)。4匹のマウスの分析(7ヶ月齢)は、著しい減少を示した(図13)。
【0134】
これらのデータは、TeiA抗体1.6及び1.8が、短期間の投与の後であっても脳アミロイド負荷を低減し、従来の抗Aβ抗体によく匹敵したことを示す。動物が投与の時期にアミロイドの著しい沈着を既に示したことに注目することが興味深く、よって、TeiA抗体の単に予防的な可能性よりむしろ治療的な可能性を示唆する。
よって、TeiA抗体は、アルツハイマー病患者におけるアミロイド負荷に対して良好な治療効果を提供できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8-xペプチド(xは11〜42である)のN-末端領域に特異的に結合し、かつAβ1-40もAβ1-42も認識しない抗体。
【請求項2】
8-xペプチドの遊離のN-末端に高い特異性を示す請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
8-xペプチドと高い親和性を示す請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
脳のAβ8-xペプチドの実質性アミロイド沈着を特異的に標的にし、血管性アミロイド沈着と相互作用しない請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
xが15〜42である、特にモノクローナル抗体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
可変領域が、軽鎖及び重鎖にそれぞれ相当する以下のアミノ酸配列の対の1つ:
【化1】

【化2】

【化3】

を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
可変領域の軽鎖及び重鎖のCDRが、以下のアミノ酸配列の1つ:
【化4】

【化5】

【化6】

を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項8】
放射線核種、フラワー、酵素標識、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤及びハプテンからなる群より選択される化合物で標識されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
ヒト化抗体である請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項11】
2007年8月23日に、BCCM / LMBP Plasmid Collectionに、以下の受託番号:
TeiA 1.6又は2.6F4C2 (IGH521) --> LMBP 6594CB
TeiA 1.7又は2.8A3F8 (IGH522) --> LMBP 6595CB
TeiA 1.8又は1.3B12H3 (IGH523) --> LMBP 6596CB
TeiA 2b.6又は2.13E5E4 (IGH524) --> LMBP 6597CB
TeiA 1.1又は3.46B10E7 (IGH 525) --> LMBP 6598CB
で寄託された請求項10に記載のハイブリドーマ。
【請求項12】
アミロイド沈着を減少させ、抗体を単離するのに有効な抗体産生を上昇させる免疫応答を生じ:
Aβ8-x模倣ペプチド:SGYGVHHGC-KLH
からなるペプチド調製物。
【請求項13】
8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-42を認識せず(xは11〜42、特に15〜42である)、高い特異性を示す請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体の調製方法であって、適切な動物をAβ8-xペプチド及びTヘルパーエピトープ、特にTヘルパーエピトープと融合させたAβ8-xペプチド、又はAβ8-x分岐ペプチド、特にAβ8-15ペプチドを用いて免疫化する工程を含む方法。
【請求項14】
前記抗体が、Aβ8-15ペプチドのN-末端領域に特異的に結合し、Aβ1-42を認識せず、Aβ8-15ペプチドに対して、ウェスタンブロットにより測定されるような高い親和性を示す請求項13に記載の抗体の調製方法。
【請求項15】
請求項13又は14で定義される方法により得られるような、Aβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的に結合する抗体。
【請求項16】
(i) 請求項1〜9又は15のいずれか1項に記載の抗体を用いて、哺乳動物の体液中のN-末端短縮Aβ8-xのレベルを定量する工程と、
(ii) 前記哺乳動物の抗体のレベルを、対照哺乳動物で得られたものと比較する工程と、
(iii) バイオマーカーレベルが対照哺乳動物において測定されたレベルに対して変更されている、特に対照哺乳動物において測定されたレベルより高いとの条件で、工程(ii)から、前記哺乳動物が、神経疾患に罹患しているかを導き出す工程と
を含む、哺乳動物におけるインビトロのアミロイド負荷を測定する方法。
【請求項17】
前記哺乳動物がヒトである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
8-42に対する前記抗体の特異性及び感度が、63%より高く、好ましくは約63〜約100%、より好ましくは約75%〜85%、より好ましくは85%〜100%である請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記体液が、脳脊髄液(CSF)又は血液である請求項16〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
(i) 哺乳動物において、請求項1〜9又は15のいずれか1項に記載の抗体を用いて、ペプチドAβ8-xの量を決定する工程と、
(ii) 工程(i)で決定された量を、対照哺乳動物におけるAβ8-xペプチドのN-末端領域に特異的な抗体の量と比較する工程と、
(iii) 工程(ii)の比較から、哺乳動物が、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病に感受性であるか、哺乳動物が、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病を発症する危険を有するか、哺乳動物におけるβ-アミロイド沈着が浄化されたか、又は哺乳動物におけるβ-アミロイドがどのレベルであるかを結論付ける工程と
を含む、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病に対する感受性を哺乳動物において決定するため、β-アミロイド形成及び/又は凝集を伴う疾患、例えばアルツハイマー病を発症する危険性を哺乳動物において決定するため、哺乳動物におけるβ-アミロイド沈着の浄化をスクリーニングするため、又は哺乳動物におけるβ-アミロイド負荷のレベルを予測するための方法。
【請求項21】
8-xペプチドのN-末端領域に特異的な抗体の量が、前記哺乳動物から得られる組織サンプルについて決定される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1種のバッファーと、少なくとも1種の検出化合物、請求項1〜9又は15のいずれか1項で定義される少なくとも1つのN-短縮Aβ8-x特異的抗体とを含むキット。
【請求項23】
請求項1〜9又は15のいずれか1項に記載の抗体に結合する好ましくは標識された2次抗体をさらに含む請求項22に記載のキット。
【請求項24】
活性成分としての請求項1〜9又は15のいずれか1項に記載の抗体、又はN-短縮Aβペプチドの遊離のN-末端を模倣する遊離のN-末端を有する合成ペプチドを、医薬的に許容され得るビヒクルと組み合わせて含む治療用組成物。
【請求項25】
1 mg/kg/日〜200 mg/kg/日の抗体の投与量を個体に投与するのに適切である請求項24に記載の治療用組成物。
【請求項26】
活性成分としての請求項1〜9又は15のいずれか1項に記載の抗体、そのフラグメント若しくは誘導体、又はN-短縮Aβペプチドの遊離のN-末端を模倣する遊離のN-末端を有する合成ペプチドを、医薬的に許容され得るビヒクルと組み合わせて含むワクチン組成物。
【請求項27】
1 mg/kg/日〜200 mg /kg/日の抗体の投与量を個体に投与するために適切である請求項26に記載のワクチン組成物。
【請求項28】
請求項1〜9又は15のいずれか1項に記載の少なくとも1つの抗体の、アルツハイマー病の予防又は治療を意図する薬剤又はワクチンの製造のための使用。
【請求項29】
請求項1〜9又は15のいずれか1項に記載の少なくとも1つの抗体の、βアミロイド負荷の浄化を意図する薬剤又はワクチンの製造のための使用。
【請求項30】
請求項24〜27のいずれか1項に記載の組成物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物におけるβ-アミロイド負荷を浄化する方法。
【請求項31】
請求項24〜26のいずれか1項に記載の治療用組成物又はワクチン組成物の、アルツハイマー病に罹患したか又はそれを発症する可能性がある哺乳動物における免疫応答を誘発するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−502139(P2011−502139A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531496(P2010−531496)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064432
【国際公開番号】WO2009/056490
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510119865)イノジェネティクス エヌヴイ (1)
【氏名又は名称原語表記】INNOGENETICS NV
【住所又は居所原語表記】Industriepark Zwijnaarde 7, Box 4, B−9052 GENT−ZWIJNAARDE, BELGIUM
【出願人】(500488225)アンスティテュ ナシオナル ド ラ サント エ ド ラ ルシュルシェ メディカル(アンセルム) (26)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE(INSERM)
【住所又は居所原語表記】101,rue de Tolbiac,F−75654 Paris Cedex 13 France
【出願人】(399050909)サノフィ−アベンティス (225)
【Fターム(参考)】