説明

β−シアノエステル基を含有する有機ケイ素化合物の製造方法

本発明は、β−シアノエステル基を含有する有機ケイ素化合物の製造方法に関する。特に、白金−ビニルシロキサン触媒存在下で、不飽和基含有β−シアノエステル含有化合物を、ヒドロアルコキシシランを用いてヒドロシリル化させることを特徴とするβ−シアノエステル基を含有する有機ケイ素化合物の製造方法に関する。本発明に係る製造方法は反応の開始及び反応の進行が安定で、副産物の生成が少なく、高収率でβ−シアノエステル構造含有有機ケイ素化合物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−シアノエステル基を含有する有機ケイ素化合物の製造方法に関する。特に、白金−ビニルシロキサン(vinyl siloxane)触媒存在下で、不飽和基含有β−シアノエステル含有化合物を、ヒドロアルコキシシランを用いてヒドロシリル化させることを特徴とするβ−シアノエステル基を含有する有機ケイ素化合物の製造方法に関する。本発明に係る製造方法は反応の開始及び反応の進行が安定で、副産物の生成が少なく、しかも高収率でβ−シアノエステル構造含有有機ケイ素化合物を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ケイ素化合物の製造方法は、水素化ケイ素を含有する化合物を触媒の存在下で、不飽和有機化合物と反応させることであり、一般的に、上記反応をヒドロシリル化反応という。上記ヒドロシリル化反応は、普通に不飽和基含有有機化合物に、ヒドロアルコキシシラン(Hydro alkoxy silane)を順次に投入する方法が使用される。特許文献1、2、及び3は、上記ヒドロシリル化反応のための触媒として塩化白金酸触媒(HPtCl6HO)を開示している。しかし、ヒドロシリル化反応で、塩化白金酸触媒を使用する場合、初期反応時、反応熱がかなり発生して除熱することが難しく、バッチ反応時、各反応が一定に進行されないという問題点があった。また、収率を向上させるために反応温度を上げた場合、副産物の生成が多くなるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本特開昭63−250390号
【特許文献2】日本特開昭63−313793号
【特許文献3】日本特開平11−323132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためのものである。本発明の目的は、不飽和基含有有機化合物とヒドロアルコキシシランとを用いるヒドロシリル化反応で有機ケイ素化合物を製造する方法であって、触媒として白金−ビニルシロキサンを用いて、最終目的物質の収率が高く、反応の除熱が容易であり、副産物生成を抑制しうる有機ケイ素化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、白金−ビニルシロキサン(vinyl siloxane)錯体の存在下で、下記一般式(1)で示される化合物を下記一般式(2)で示される化合物と反応させて、下記一般式(3)で示される化合物を製造する方法:
【化1】

【化2】

【化3】

【0006】
式中、
は水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、
XはNR、酸素原子又は硫黄原子を表し(ここで、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基を表し、
pは1〜8の整数であり、
nは1〜3の整数であり、及び qは3〜10の整数である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明に係る製造方法をより詳しく説明する。
【0008】
本発明に係る製造方法において、出発物質は、下記一般式(1)で示されるβ−シアノエステル含有化合物である。下記一般式(1)の化合物は、末端に二重結合を有し、上記二重結合の末端炭素原子が一般式(2)の化合物のケイ素原子と結合して目的物質を製造する。
【化1】

【0009】
式中、
は水素又は炭素数1〜3のアルキル基、好ましくは水素又はメチル基、より好ましくは水素を表し;
XはNR(ここで、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)、酸素原子又は硫黄原子、好ましくはNR(ここで、Rはメチル基を表す。)又は酸素原子、より好ましくは酸素原子を表し;及び
pは1〜8の整数、好ましくは1又は2、より好ましくは1を表す。
本発明に係る製造方法において、反応物質は、下記一般式(2)で示されるヒドロアルコキシシラン化合物である。
【化2】

【0010】
式中、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、好ましくはそれぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し;及び
nは1〜3の整数、好ましくは2又は3を表す。
上記一般式(2)の好ましい化合物は、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、又はジメチルメトキシシランなどを含んでいてもよいが、これらに制限されるものではない。
【0011】
本発明に係る製造方法において、最終目的物質は、下記一般式(3)で表示されるヒドロアルコキシシラン化合物である。
【化3】

【0012】
式中、
、R、R、X及びRはそれぞれ上記一般式(1)及び(2)の定義と同義であり、
qは3〜10の整数、好ましくは3又は4、より好ましくは3である。
上記一般式(3)の化合物は、特に下記一般式(4)又は(5)で示される化合物が好ましい。
【化4】

【化5】

【0013】
上記一般式(3)の化合物は、例えば、有機樹脂と無機フィラーと間の親和性を高めるか、又はマトリックス樹脂からなるコーティング層と基材と間の接着性を向上させる様々な用途に使用することができる。上記一般式(3)の化合物は、特にアクリル系樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、又は熱可塑性樹脂組成物などのシランカップリング剤として使用するのに適している。
【0014】
本発明に係る上記一般式(1)と(2)の化合物を反応させて、一般式(3)の化合物を製造する方法において、本発明は、ヒドロシリル化反応の触媒として白金−ビニルシロキサン錯体を使用することを特徴とする。
【0015】
上記白金−ビニルシロキサン錯体の配位子としてのビニルシロキサンは、特に制限されないが、環状構造、非環状構造及びこれらの混合物から選択され、ビニル基を有するケイ素原子が2〜4個であることが好ましい。好ましいビニルシロキサンは、ジビニルジシロキサン、ジビニルトリシロキサン、ジビニルテトラシロキサン、テトラビニルシクロテトラシロキサン、又は1,3−ジビニル−1,1,3,3,−テトラメチルシロキサンを含むが、これらに制限されない。本発明の目的を考慮する時、1,3−ジビニル−1,1,3,3,−テトラメチルシロキサンがより好ましい。
【0016】
また、上記白金−ビニルシロキサン錯体において、ケイ素原子に結合したビニル基が白金に配位する数には特に制限はないが、ジビニルシロキサン2分子を白金1原子に作用させた錯体を使用することが好ましい。
【0017】
一方、上記白金−ビニルシロキサン錯体において、白金の原子価は0価であるが好ましいが、2価又は4価であってもよい。上記白金−シロキサン錯体は、反応溶液中に溶解又は分散させて使用するか、又は活性炭、シリカゲル、又はアルミナなどの無機担体に担持させて使用してもよい。
【0018】
本発明に係る製造方法において、反応条件は下記により具体化される。
【0019】
本発明において、一般式(1)の化合物に対する一般式(2)の化合物の反応率は、経済性及び副産物発生の抑制などを考慮する時、1:0.8〜1.2モルが好ましく、1:0.9〜1.1モルがより好ましい。
【0020】
また、白金−シロキサン錯体の使用量は、一般式(1)の化合物1モルに対して、10−6〜10−3モルが好ましく、より好ましくは3×10−6〜100× 10−6モルである。触媒使用量があまり少ない場合、反応の進行速度が非常に遅くなり、反対に、あまり多い場合には、経済的に不利であるか、又は副産物の生成が多くなる。
【0021】
さらに、本発明の製造方法において、好ましい反応温度は60〜100℃であり、70〜90℃がより好ましい。反応温度があまり低い場合、収率が大きく低下され、反応温度があまり高い場合、副産物の生成が大きく増加する。本発明において、反応圧力は常圧又は高圧を使用することができるが、特に制限されない。
【0022】
一方、本発明で反応原料の導入には、特に大きくは制限されないが、シリル化反応が発熱反応であるので、一般式(1)の不飽和基含有β−シアノエステル及び白金−ビニルシロキサン触媒の存在下で、一般式(2)のヒドロキシアルキルシランを適切な速度で滴下させることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る製造方法において、特に反応溶媒を必要としないが、その目的に合うようにトルエン又はキシレンなどの芳香族系溶媒、ヘキサン又はヘプタンなどの脂肪族系溶媒などの様々な溶媒を使用することができる。
【0024】
反応系は、水分の混入を避けるために窒素やアルゴン等の不活性ガスに置換され、反応中にも同じ種類のガスでシールドされていることが好ましい。また、反応系への水分混入を防止するために、原料である一般式(1)の不飽和基含有β−シアノエステル化合物は水分が低いものを使用することが好ましく、水分を脱水して使用すればさらに好ましい。この場合、各種脱水剤の使用又は溶剤を用いた共沸脱水などの各種の脱水方法が選択され得る。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するためだけであり、本発明の範囲が下記実施例に制限されるものではない。
【0026】
実施例1
窒素置換を十分に行った1Lのガラス製4つ口フラスコ反応器に、滴下装置、コンデンサー及び温度計を取り付けた後、水分が除去されたアリルシアノアセテート127g(1mol)及び白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(3%溶液)0.25g(10×10−6モル白金原子)を投入し、温度を72℃に保持した。滴下装置を介してトリメトキシシラン122g(1mol)を投入すると直に反応系の温度は77℃まで上昇した。トリメトキシシランの投入速度を調節して反応系温度が80℃を越えないようにし、3時間投入を完了した。トリメトキシシラン投入完了後にも、反応系の温度が72℃に下降されるまで、継続反応を持続させた。反応終了後、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定時、アリルシアノアセテートは完全に消費されていたことが分かり、最終物であるβ−シアノアセトプロピルトリメトキシシランの収率は約80%であった。
【0027】
上記製造されたシアノアセトキシプロピルトリメトキシシランは、無色の液体であり、NMR分析結果は次ぎの通りである。
【0028】
HNMR(CDCl,300MHz):0.70(t,2H),1.83(p,2H),3.50(s,2H),3.61(s,9H),4.22(t,2H)
13CNMR(CDCl,300MHz):4.6,21.4,24.0,49.9,67.9,113.3,163.1
【0029】
実施例2
窒素置換を十分に行った1Lのガラス製4つ口フラスコ反応器に、滴下装置、コンデンサー及び温度計を取り付けた後、水分が除去されたアリルシアノアセテート127g(1mol)及び白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(3%溶液)0.18g(7×10−6モル白金原子)を投入し、温度を72℃に保持した。滴下装置を介してトリメトキシシラン122g(1mol)を投入すると直に反応系の温度は75℃まで上昇した。トリメトキシシランの投入速度を調節して反応系の温度が80℃を越えないようにし、3時間投入を完了した。トリメトキシシラン投入完了後にも、反応系の温度が72℃に下降されるまで継続反応を持続させた。反応終了後、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定時、アリルシアノアセテートは完全に消費されていたことが分かり、最終物であるβ−シアノアセトプロピルトリメトキシシランの収率は約87%であった。
【0030】
比較例1
窒素置換を十分に行った1Lのガラス製4つ口フラスコ反応器に、滴下装置、コンデンサー及び温度計を取り付けた後、水分が除去されたアリルシアノアセテート127g(1mol)及び塩化白金酸(HPtCl)イソプロパノール溶液0.2g(10×10−6モル白金原子)を投入し、温度を72℃に保持した。滴下装置を介してトリメトキシシラン122g(1mol)を投入した。投入中に、反応系の温度は継続して72℃に保持されたが、突然に発熱が発生して反応系の温度が約90℃まで上昇した。トリメトキシシラン投入完了後にも、反応系温度が72℃に下降されるまで、継続反応を持続させた。反応終了後、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定時、アリルシアノアセテートは相当量残留しており、正確な成分が分からない副産物の生成も相当量確認されおり、最終物であるβ−シアノアセトプロピルトリメトキシシランの収率は約13%であった。
【0031】
比較例2
窒素置換を十分に行った1Lのガラス製4つ口フラスコ反応器に、滴下装置、コンデンサー及び温度計を取り付けた後、水分が除去されたアリルシアノアセテート127g(1mol)及び塩化白金酸(HPtCl)イソプロパノール溶液10g(500×10−6モル白金原子)を投入し、温度を40℃に保持した。滴下装置を介してトリメトキシシラン122g(1mol)を投入すると直に反応系の温度は55℃に上昇した。トリメトキシシラン投入を中止し、反応系の温度を40℃まで下げた後、反応系温度が50℃を越えないように調節し、5時間投入した。反応終了後、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定時、アリルシアノアセテートは相当量残留しておち、正確な成分が分からない副産物の生成も相当量確認され、最終物であるβ−シアノアセトプロピルトリメトキシシランの収率は約35%であった。
【0032】
比較例3
反応温度を100〜110℃に保持する以外は、実施例1と同じ操作を行った。反応が進むにつれて、反応系粘度は次第に増加する現象を示した。ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定時、アリルシアノアセテートは完全に消費されていたことが分かり、最終部であるβ−シアノアセトプロピルトリメトキシの収率は約20%であり、成分が分からない副産物が生成された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法によると、反応の開始及び反応の進行が安定で、副産物の生成が少なく、しかも高収率でβ−シアノエステル構造含有有機ケイ素化合物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金−ビニルシロキサン(vinyl siloxane)錯体の存在下で、下記一般式(1)で示される化合物を下記一般式(2)で示される化合物と反応させて、下記一般式(3)で示される化合物を製造する方法:
【化1】

【化2】

【化3】

式中、
は水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、
XはNR、酸素原子又は硫黄原子を表し(ここで、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基を表し、
pは1〜8の整数であり、
nは1〜3の整数であり、及び
qは3〜10の整数である。
【請求項2】
は水素又はメチル基を表し、
XはNR又は酸素原子を表し(ここで、Rはメチル基を表す。)、
及びRはそれぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、
pは1又は2であり、nは2又は3であり、qは3又は4であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
は水素を表し、
Xは酸素原子を表し、
及びRはそれぞれ独立して、メチル基又はエチル基を表し、
pは1であり、nは2又は3であり、qは3であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(2)の化合物がトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、又はジメチルメトキシシランであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(3)の化合物が下記一般式(4)又は(5)で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【化4】

【化5】

【請求項6】
ビニルシロキサンは環状構造、非環状構造及びこれらの混合物から選択され、ビニル基を有するケイ素原子が2〜4個であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
ビニルシロキサンは、ジビニルジシロキサン、ジビニルトリシロキサン、ジビニルテトラシロキサン、テトラビニルシクロテトラシロキサン、又は1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルシロキサンを含むことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
一般式(1)の化合物に対する一般式(2)の化合物の反応率は、1:0.8〜1.2モルであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
白金−シロキサン錯体の使用量は、一般式(1)の化合物1モルに対して、10−6〜10−3モルであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
反応温度が60〜100℃であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
一般式(1)の化合物及び白金−ビニルシロキサン錯体の存在下で、一般式(2)の化合物を滴下させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。

【公表番号】特表2010−511695(P2010−511695A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540140(P2009−540140)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006182
【国際公開番号】WO2008/069515
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】