説明

β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体

本発明は、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを大腸に送達するための、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する組成物を提供する。本発明の組成物は、経口投与した場合でも胃や腸にて溶解されずに大腸へ送達され、大腸内細菌叢によって分解され、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを遊離する。この遊離されたβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーは有用な生理活性を有し、大腸における炎症性疾患や大腸癌等の予防及び治療効果等の種々の効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸において吸収され、生理活性を示すβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸モノマーもしくはそのオリゴマーを、経口投与もしくは経口投与に類する手段によって投与し、これを大腸まで送達させる方法に関する。本発明はまたβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸モノマーもしくはそのオリゴマーを経口投与もしくはそれに類する手段によって投与し、これを大腸に送達させるための組成物に関する。
【0002】
本発明はさらに、新規動物用飼料組成物に関する。
【0003】
本発明はさらに、生理機能の維持や向上、炎症性腸疾患の治療及び予防、さらに大腸癌の治療及び予防等に有用な医薬組成物および機能性食品を提供する。
【0004】
本発明はさらに、薬効成分を大腸まで送達させ、大腸で放出させるための皮膜組成物に関する。
【背景技術】
【0005】
近年の研究により、短〜中鎖脂肪酸の動物に対する生理作用が解明されつつある。短鎖脂肪酸は大腸において以下の生理作用を示すことが知られている。また中鎖脂肪酸については下記6の生理作用を示すことが知られている。
【0006】
1.腸管上皮細胞増殖促進
2.腸管運動およびイオン輸送(水やイオンの吸収)の活発化
3.大腸粘膜の血流増加
4.大腸の粘液分泌増加
5.内分泌の調節(インスリン分泌促進、異化作用ホルモンの分泌抑制)
6.膵外分泌(消化液)の分泌促進
7.大腸内細菌への影響(乳酸発酵菌の増殖刺激、大腸菌の増殖抑制)
8.細胞の分化促進やアポトーシス誘導
【0007】
短鎖脂肪酸は経口投与すると、胃や腸でほぼ全量が吸収されてしまい、大腸まで到達しない。従って、従来の研究においては、大腸に短鎖脂肪酸を送達する方法として、各種の難消化性澱粉や水溶性食物繊維の経口投与や、短鎖脂肪酸の浣腸などの方法が採用されている。難消化性澱粉や水溶性食物繊維は胃や小腸で消化されずに大腸まで到達し、大腸において大腸内細菌の発酵を容易に受けて一部が短鎖脂肪酸に代謝される。
【0008】
近年、短鎖脂肪酸の抗炎症作用、癌細胞に対する増殖抑制や分化促進、アポトーシス誘導などの作用が解明されるにつれ、各種の病気の予防や治療への短鎖脂肪酸の応用が数多く試みられたり、その可能性が示唆されたりしている。例えば、炎症性腸疾患、下痢、大腸ガンなどへの短鎖脂肪酸の作用が非特許文献1〜3に記載されている。
【0009】
短鎖脂肪酸の有する抗炎症作用により、短鎖脂肪酸が炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病、回腸嚢炎、虚血性大腸炎、空置結腸炎、放射線直腸炎など)の治療に有効であるとの報告がある。また、短鎖脂肪酸は癌細胞のアポトーシスを誘導することから、その作用により大腸癌の治療に使用可能であるとの報告もある。(非特許文献4〜7)
【0010】
炎症性潰瘍性の中でも、潰瘍性大腸炎やクローン病は、原因不明の糜爛や潰瘍を形成する難治癒性疾患であり、活動期と緩解期とが繰り返す疾患である。活動期の炎症を抑制して緩解期に導き、緩解期をできるだけ長く維持することを目的に、薬物療法が行われている。浣腸や水溶性食物繊維の摂取などの方法により短鎖脂肪酸を大腸へ投与することによる、かかる疾患の予防、治療の報告が数多くある(非特許文献8〜11)。
【0011】
またその他類似した症状の炎症性の疾患として、空置結腸炎、回腸嚢炎、虚血性大腸炎やそのほか放射線治療や赤痢菌などの細菌感染による大腸炎などに対して、水溶性食物繊維の摂取や浣腸・注腸などによる短鎖脂肪酸の治療効果が報告されている(非特許文献12〜15)。
【0012】
これらの疾患を短鎖脂肪酸により治療する場合、かかる疾患において併発する下痢もまた改善されることが報告されている。この作用は短鎖脂肪酸の水分などの吸収促進効果に起因すると指摘されている。下痢については難消化性澱粉や水溶性食物繊維の経口投与、または短鎖脂肪酸の注腸により、急性下痢(コレラ性および非コレラ性)や持続性下痢(非病原性、ロトウイルス、コレラ菌、サルモネラ菌、毒素原性大腸菌などによる感染性)に効果があったという報告もある(非特許文献16〜19)。
【0013】
一方、短鎖脂肪酸の大腸の運動を促進する働きを応用して、難消化性澱粉や水溶性食物繊維に便通の改善、便秘の治療に効果があることが報告されている(非特許文献20〜22)。
【0014】
下痢型、便秘型、混合型過敏性腸症候群の患者に水溶性食物繊維を摂取させたところ、いずれの型の患者においても症状の改善が認められたことが報告されている。一方、腸内発酵を受けにくく短鎖脂肪酸の生成量が少ない非水溶性食物繊維は効果がなかったことが報告されている(非特許文献23および24)。
【0015】
難消化性澱粉の摂取が血中の中性脂肪やリン脂質、コレステロールなどを低下させる効果が知られており(非特許文献25および26)、難消化性澱粉が大腸で分解、吸収され、大腸から小腸に刺激が伝わり小腸から循環系への脂質の放出が抑制される機構が提案されている(非特許文献27)。
【0016】
さらに、短鎖脂肪酸の癌細胞に対する増殖抑制や、分化促進、アポトーシス誘導などの作用が解明されており、かかる作用の大腸ガン(結腸ガン、直腸ガン)の予防や治療への応用が多く試みられている。現在までに、各種の食物繊維の摂取による大腸ガンのリスク軽減、予防に関して多くの報告がある。また、短鎖脂肪酸の生成量とガンの抑制効果の相関が指摘されており、係る作用における短鎖脂肪酸の関与が示唆される(非特許文献28および29)。さらに、短鎖脂肪酸の注腸投与によるガン化の予防効果についても報告がある(非特許文献30)。
【0017】
正常な上皮細胞から腺腫を経て癌腫に至るそれぞれの段階において、短鎖脂肪酸は正常細胞には増殖促進、腺腫にはアポトーシス誘導、癌腫には増殖抑制やアポトーシス誘導さらにヒストンの過アセチル化の促進などの作用を有することが知られており、またそれらの機構が解明されつつある。
【0018】
この細胞の増殖抑制には短鎖脂肪酸が直接あるいは短鎖脂肪酸からアセチル−CoA合成までの経路に生じる代謝物が関与していると推測されている(非特許文献31)。また、短鎖脂肪酸のアポトーシス誘導には、短鎖脂肪酸のミトコンドリア内のβ−酸化による代謝が関与しているという報告もある(非特許文献32〜34)。
【0019】
短鎖脂肪酸は細胞内ミトコンドリア中における代謝作用にてβ−酸化されβ−ヒドロキシ脂肪酸に変換されることが知られている。一方、潰瘍性大腸炎の活動期の患者は短鎖脂肪酸の代謝が低下しており、短鎖脂肪酸のβ−酸化を阻害する硫化水素の濃度が便中で高いと指摘されている。また、短鎖脂肪酸と共にβ−酸化阻害剤をラットに投与すると短鎖脂肪酸の潰瘍性大腸炎への効果が阻害されたという報告がある(非特許文献10)。
【0020】
短鎖脂肪酸のアポトーシス誘導や細胞分化促進作用を応用して、乳癌や前立腺癌の抗癌剤、白血病の治療薬として使う目的で、分解生成物が酪酸を生じる5−フルオロウラシルや、短鎖脂肪酸のグリセリンや糖などとのエステル誘導体も数多く検討されている。しかし、かかる医薬組成物はいずれも短鎖脂肪酸の血中濃度を高めることを目的としたものである(非特許文献35)。
【0021】
上述の通り、短鎖脂肪酸を大腸において作用させようとする場合、各種難消化性澱粉や水溶性植物繊維の経口投与や、短鎖脂肪酸の浣腸による注腸投与などによっている。
しかしながら、かかる手段によっても投与した難消化性糖質の必ずしも全量が短鎖脂肪酸へと変換されるわけではない。即ち、炭酸ガス等に代謝されたり菌体成分として利用されたり、また乳酸やコハク酸などの他の有機酸も合わせて生産されるなどの理由から短鎖脂肪酸の生産効率は元来低い。さらに難消化性糖質の発酵速度は摂取形態や食品中での存在形態により大きく影響され、発酵速度が高まると他の有機酸の生産が多くなるなど、他の有機酸と短鎖脂肪酸の生成比率は大きく変動する。乳酸が多く生産あるいは蓄積されると下痢を起こすなど、他の生成物による悪影響が現れる場合もある。
【0022】
一方、短鎖脂肪酸を浣腸などの注腸による方法にて直接大腸へ投与することも考えられるが、かかる手段では断続的な投与しかできない。また、送達されない部位があるなど、大腸全体に供給することは困難である。また、注腸投与した短鎖脂肪酸を大腸内で有効濃度に長時間保つことは難しい。
【0023】
短〜中鎖脂肪酸を制御して大腸に送達させるための実用的な方法は現在まで開発されていない。
【0024】
ヒドロキシ脂肪酸重合体としては、最初にβ−ヒドロキシ酪酸重合体がLemoigneらによって発見された後、物質としての構造が明らかにされ、微生物におけるエネルギー貯蔵体であり微生物の栄養源やエネルギー源であることが解明された。次いでWallenらによってβ−ヒドロキシ酪酸とβ−ヒドロキシ吉草酸との共重合体が自然界の菌体より発見されたことが契機となり、多くの研究がなされている(非特許文献36)。そして、微生物は多種のヒドロキシ脂肪酸重合体を産生することが明らかにされた。ヒドロキシ脂肪酸重合体は熱可塑性であり生分解性プラスチックとしての利用が検討されている。
【0025】
ヒドロキシ脂肪酸重合体をエネルギー貯蔵体として微生物以外に応用した例については、次のような報告がある。特許文献1はヒドロキシ脂肪酸重合体の0.1〜10μmの粒子のエマルジョンが食感の類似から脂肪やクリームの代替として用いられることについて開示するが、体内における吸収やその代謝エネルギーについての言及は無い。
【0026】
特許文献2はポリヒドロキシアルカノエートを含む、動物飼料組成物を開示する。特許文献2は、ポリヒドロキシアルカノエート(ヒドロキシ脂肪酸重合体)が動物飼料の代謝可能なエネルギー含量を増強させるとして摂取させた際のエネルギーに着目しているが、その体内における分解機構や分解率についての言及はない。多くの微生物がヒドロキシ脂肪酸重合体の分解酵素をもつことは知られているが(非特許文献37)、動物がヒドロキシ脂肪酸重合体の分解酵素を産生するという報告は見つからない。
【0027】
特許文献3はポリヒドロキシカルボン酸を経口投与して、腸管内のpHを下げることを目的とした、経口摂取用ポリヒドロキシカルボン酸を開示する。特許文献3には種々の作用を記載しているが、全てpHの低下から予測される作用である。ここでは、α−ヒドロキシカルボン酸、特に乳酸が好ましいと記載されており、実施例でもポリ乳酸を用いている。β−ヒドロキシ短〜中鎖カルボン酸についての言及はない。
【0028】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体の大腸内細菌による分解や生理作用には同じく言及していないが、実際に係る重合体を動物に摂取させた研究がある(非特許文献38〜41)。非特許文献38は、微生物蛋白を動物の蛋白質源として利用するための検討を行ったものであるが、用いられた微生物がβ−ヒドロキシ酪酸重合体を副生することからその影響の有無が調べられている。ブタに摂取されたβ−ヒドロキシ酪酸重合体の内、約65%が糞中から回収され、肝臓や腎臓、筋肉等の器官中にこの重合体残渣は見つからなかったことから、残りの約35%は腸内で代謝されたと推測されている。
【0029】
非特許文献39はβ−ヒドロキシ酪酸−β−ヒドロキシ吉草酸共重合体を代謝エネルギーとして利用する研究である。この共重合体はブタ体内ではほとんど分解されなかったが、水酸化ナトリウムを用いて加水分解して水溶化した場合にこの水溶化物が代謝されたという結果が報告されている。またこの共重合体の粒子の大きさや結晶状態が分解に影響するのではないかと推測している。
【0030】
非特許文献40および41はヒツジにおいて、β−ヒドロキシ酪酸−β−ヒドロキシ吉草酸共重合体はほとんど分解されないが、粒子径を小さくしたり水酸化ナトリウムで前もって加水分解すると代謝されたと報告している。しかしながらかかる共重合体の生理作用については言及していない。
【0031】
以上のようにβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体をエネルギー源として動物に用いることについては従来技術で試みられているが、エネルギー源として利用される以外に何らかの生理活性を有するか否かについては従来技術では何ら言及されていない。
【0032】
薬効成分を大腸に送達する方法としては、特定のpHにおいて溶解するメタアクリル酸コポリマーや、またキトサンや芳香族アゾ基含有ポリマーなど大腸内細菌によって分解される高分子重合体などを用いて薬効成分を皮膜で包み込んだ、単層や多層被覆物、カプセルなど様々の形態の組成物が提案されている(特許文献4〜7)。しかしながら、かかる皮膜は小腸で崩壊したり大腸で崩壊せずに排泄されたりするといった問題がある。また、皮膜形成のためのポリマーが残留の少ない揮発性有機溶媒への溶解性が悪く、製造工程に問題がある場合もある。
【0033】
一方、ポリヒドロキシ酪酸などを、その生体適合性の良さを応用したドラッグデリバリーシステム用のマトリックスとして、インプラントやマイクロスフェア(ナノスフェア、マイクロカプセルなどを含む)に応用する報告が多くされている(例えば非特許文献42)。
【0034】
経口または経腸的に、免疫調整剤をマクロファージに取り込ませるマイクロスフェアのマトリックスにポリヒドロキシ酪酸を用いることが提案されている(特許文献8)。特許文献8が開示するのはマクロファージが貪食できるよう粒子の分布範囲を1〜15μmとしたマイクロスフエアである。しかし、以上の用例に大腸内細菌が分解する性質を利用した大腸に汎用的に薬剤を送達する方法およびそのための素材としての使用への言及はない。
【0035】
【非特許文献1】Aliment.Pharmacol.Ther.,12,499−507(1998)
【非特許文献2】Biosci.Microflora,21,35−42(2002)
【非特許文献3】Curr.Pharm.Des.,9,347−358(2003)
【非特許文献4】N.Engl.J.Med.,320,23−28(1989)
【非特許文献5】Altern.Med.Rev.,8,247−283(2003)
【非特許文献6】Aliment.Pharmacol.Ther.,17,307−320(2003)
【非特許文献7】Aliment.Pharmacol.Ther.,15,1253−1262(2001)
【非特許文献8】Int.J.Colorectal Dis.,14,201−211(1999)
【非特許文献9】JPEN,J.Parenter.Enteral Nutr.,23,S70−S73(1999)
【非特許文献10】J.Gastroenterol.Hepato.,14,880−888(1999)
【非特許文献11】Eur.J.Nutr.,39,164−171(2000)
【非特許文献12】Dis.Colon.Rectum,45,621−627(2002)
【非特許文献13】J.Gastroenterol.,31,302−303(1996)
【非特許文献14】Lancet,356(9237),1232−1235(2000)
【非特許文献15】J.Infect.Dis.,179,390−397(1999)
【非特許文献16】Gastroenterology,112,A2(1997)
【非特許文献17】Gut,34,1215−1218(1993)
【非特許文献18】Gastroenterology,121,554−560(2001)
【非特許文献19】N.Eng.J.Med.,342,308−313(2000)
【非特許文献20】Biosci.Biotechnol.Biochem.,62,1788−1790(1998)
【非特許文献21】Nutr.Res.,20,1725−1733(2000)
【非特許文献22】J.Am.Coll.Nutr.,20,44−49(2001)
【非特許文献23】Dig.Dis.Sci.,47,1697−1704(2002)
【非特許文献24】Aliment.Pharmacol.Ther.,19,245−251(2004)
【非特許文献25】Lipids,30,163−167(1995)
【非特許文献26】Am.J.Clin.Nutr.,73,456S−458S(2001)
【非特許文献27】J.Nutr.,133,2180−2183(2003)
【非特許文献28】Gut,34,386−391(1993)
【非特許文献29】Gut,48,53−61(2001)
【非特許文献30】Gastroenterology,110,1727−1734(1996)
【非特許文献31】Eur.J.Biochem.,267,6435−6442(2000)
【非特許文献32】Cancer Res.,59,6005−6009(1999)
【非特許文献33】Cancer Res.,54,3288−3294(1994)
【非特許文献34】J.Biol.Chem.,266,19120−19126(1991)
【非特許文献35】Life Sci.,63,1739−1760(1998)
【非特許文献36】Microbiol.Rev.,54,450−472(1990)
【非特許文献37】Biotechnol.Bioeng.,49,1−14(1996)
【非特許文献38】Z.Tierphysiol.Tierenahrg.u.Futtermittelkde.,38,81−93(1977)
【非特許文献39】Ann.Zootech.,48,163−171(1999)
【非特許文献40】J.Anim.Phys.Anim.Nutr.,81,31−40(1999)
【非特許文献41】J.Anim.Phys.Anim.Nutr.,81,41−50(1999)
【非特許文献42】J.Microencapsulation,9,73−87(1992)
【特許文献1】国際公開WO92/09211パンフレット
【特許文献2】国際公開WO99/34687パンフレット
【特許文献3】特開平11−92552号公報
【特許文献4】国際公開WO83/00435号パンフレット
【特許文献5】特開平6−179618号公報
【特許文献6】特開平10−324642号公報
【特許文献7】米国特許第4663308号公報
【特許文献8】特開2000−143538号公報 なお、各文献は引用により本願に含まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
本発明は生理活性作用を有するβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを大腸に送達するための組成物を提供することを目的とする。
【0037】
本発明はさらに、経口投与もしくは経口投与に類する投与方法によってこのβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを大腸まで到達させることができる送達方法を提供することを目的とする。
【0038】
本発明はまた、新規動物用飼料組成物を提供することを目的とする。
【0039】
本発明はまた、大腸における炎症性疾患や癌の治療、腸機能の維持及び改善等に有用な組成物を提供することを目的とする。
【0040】
本発明はさらに、経口投与もしくは経口投与に類する投与方法によって有用物質を大腸へ到達させるための大腸溶解性皮膜組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明者らはβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を経口摂取した場合、胃や小腸で全量が分解されることなく大腸まで届き、大腸において大腸内細菌によって分解されることを見出した。さらにこの大腸内細菌による分解生成物であるβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸モノマーまたはオリゴマーは、従来知られている短〜中鎖脂肪酸と同様の生理作用を含む種々の生理作用を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0042】
即ち本発明は、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを大腸に送達するための、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する組成物を提供する。
【0043】
本発明はまた、ヒトを含む動物にβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を投与することによる、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを動物の大腸に送達させる方法を提供する。
【0044】
本発明はさらに、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを大腸に送達させるための組成物の製造のための、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体の使用を提供する。
【0045】
短〜中鎖脂肪酸のβ−ヒドロキシ化物を重縮合して得られる重合体は、胃や小腸で全量が分解されることなく、その大部分が大腸まで送達される。大腸まで送達された重合体は大腸内細菌叢に含まれる細菌によって分解され、水溶性のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸モノマーまたはオリゴマーとなり、大腸から吸収されて生理作用を発揮する。
【0046】
本発明において、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸とは炭素原子数3〜12の飽和脂肪酸を意味する。好ましくは、β−ヒドロキシ酪酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、β−ヒドロキシ吉草酸、β−ヒドロキシカプロン酸、β−ヒドロキシカプリル酸およびβ−ヒドロキシカプリン酸が例示される。
【0047】
本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体としては、これらモノマーの単独重合体であっても、2以上の短〜中鎖脂肪酸の共重合体であってもよい。特にβ−ヒドロキシ酪酸の単独重合体またはβ−ヒドロキシ酪酸とその他の1以上のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸との共重合体が好適に用いられる。共重合体としてはβ−ヒドロキシ酪酸とβ−ヒドロキシ吉草酸の共重合体が特に好適に用いられる。
【0048】
本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体には、β−ヒドロキシ脂肪酸またはそのオリゴマーの生理作用を妨げない限り、他のモノマー単位を含んでいてもよい。
【0049】
本発明の組成物において、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体は、水不溶性であればその重合度は特に限定的ではない。重合体が水溶性であれば、経口投与されるとそのままの形で、あるいは胃や小腸における酸、アルカリ条件下で加水分解された形で大腸へ到達する前に吸収される。
【0050】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体においては、重合度がほぼ10以上となると水不溶性となる。従って例えばβ−ヒドロキシ酪酸重合体であれば重量平均分子量が1000以上のものが好適に用いられる。重合体分子量の上限としては特に限定的ではなく、重合体として製造できるものであればいずれも本発明に用いることができる。例えば。微生物により重量平均分子量20,000,000以上のβ−ヒドロキシ酪酸重合体を得たという報告がある(Appl.Microbiol.Biotechnol.,47,140−143(1997)、本文献は引用により本出願に含まれる)。本発明で用いられるβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体として、好ましくは重合体の重合度20〜100,000、より好ましくは重合度20〜20,000のものが例示される。
【0051】
本出願において、「β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸のオリゴマー」とは、特に断らない限り水溶性のオリゴマーを意味するものとする。好適には重合度が10未満、特に6未満、より好ましくは重合度が3以下のものが例示される。
【0052】
本発明の組成物は、種々の疾患の予防あるいは治療に有用である。かかる疾患には、大腸癌、例えば結腸癌及び直腸癌、炎症性腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎、クローン病、回腸嚢症、空置大腸炎、放射線大腸炎および虚血性大腸炎などが例示される。
更に本願発明の組成物は、下痢(赤痢、コレラに付随する下痢を含む)や便秘また過敏性腸症候群の予防および治療等にも好適に用いられる。
【0053】
本発明の組成物は、経口投与あるいはこれに類する投与により血中の中性脂肪を低減させる効果を有することから、高脂血症の予防および治療にも適用できる。
【0054】
また本発明の組成物は、空腹などの飢餓時にエネルギーとして脂肪の動員を促進する効果を有する。この効果により、本発明の組成物は脂肪を減らすことによる体重の減量や家畜の肉質改善などに応用できる。
【0055】
更に本発明の組成物を投与することにより、ストレスが緩和される。また本発明の組成物は、非常に安全性が高く、長期間服用しても問題が生じない。
【0056】
別の態様において本発明は、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーもしくはこれらの生理的に許容される誘導体を大腸に送達され得る態様で含有する組成物を提供する。ここで、「生理的に許容される誘導体」としてはβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーの許容される塩や、生理的に加水分解される誘導体、例えばエステルおよびアミド、さらに水酸基がリン酸化された化合物が挙げられる。
【0057】
塩としては、無機イオンまたは有機塩基との塩であればよい。無機イオンとして、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムや亜鉛、鉄、マンガンなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属、遷移金属のカチオンが挙げられる。有機塩基として、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等や、アルギニン、リシン、オルニチン等の塩基性アミノ酸などが挙げられる。
【0058】
エステルとしては、例えばメチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル等のアルキルエステル、例えばヒドロキシエチルエステル等のヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられる。また、単糖やオリゴ糖などの糖類、グリコール、グリセロール、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールなどのポリオール化合物とのエステルも好適に用いられる。
さらに、ヌクレオチドなどのリン酸化合物とのリン酸エステルも好適に用いられる。
【0059】
アミドとしては、例えばジエチルアミド等のアルキルアミドや、オリゴペプチドとのアミドなどが挙げられる。
【0060】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸やそのオリゴマーは上記の通り胃や腸で吸収されてしまうが、下記のごとき大腸溶解性の製剤、あるいは従来知られている大腸溶解性の製剤として投与する等、投与方法を適宜選択することにより、大腸におけるその作用を発揮させることが可能である。本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーもしくはこれらの生理的に許容される誘導体を、大腸へ到達され得る形で含有する組成物は、上記本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する組成物と同様の作用を有する。
【0061】
さらに別の態様において、本発明はβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する、大腸溶解性皮膜組成物を提供する。本発明の皮膜組成物として用いられるβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体としては、上記のものが同様に好適に用いられる。
【0062】
本出願において「大腸溶解性皮膜組成物」とは、該皮膜組成物にて有用物質を被覆することによって、経口投与もしくは経口投与に類する投与方法によって投与された場合に、胃や腸で溶解されず、大腸において有用物質を放出しうる製剤を提供することのできる、組成物を意味する。
【0063】
本出願において「経口投与もしくは経口投与に類する投与方法」とは、経口投与に加えて経鼻チューブ投与および胃内投与や大腸内への直接注腸等の消化管内投与を含む投与方法を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
本発明において「動物」とはヒトを含む哺乳動物のみならず、魚類、鳥類等の脊椎動物を含む。
脊椎動物の大腸内には、多くの種類の細菌が数多く生息して細菌叢を形成しており、その細菌は、胃や小腸で消化されなかった食物を発酵によって短鎖脂肪酸等に変え、脊椎動物はそれを吸収してエネルギーや栄養素として利用していることが知られている。(J.Exp.Zool.Suppl.,3,55−60(1989);Physiol.Rev.,78,393−427(1998))。大腸内の細菌叢については人や豚、羊などの哺乳類のみならず、鶏やアヒルなどの鳥類、鯉などの魚類についての研究も多くなされ、脊椎動物は全般に大腸内細菌叢を有することが解明されている(Physiol.Res.,47,259−263(1998);Comp.Biochem.Physiol.A:Mol.Integr.Physiol.,131,657−668(2002);Comp.Biochem.Physiol.A:Mol.Integr.Physiol.,132,333−340(2002);Appl.Environ.Microbiol.,68,1374−1380(2002)、これらの文献は引用により本願に含まれる)。従って、本発明の組成物は脊椎動物に有効であり、特に哺乳類、鳥類、魚類に有用である。
【0065】
本発明において大腸とは、盲腸、結腸、直腸で構成される消化器官を意味する。動物種によって消化器管の未分化、未発達により小腸と大腸の区別が明確でない場合、細菌叢があり発酵を行っている腸の部位を意味する。
【0066】
本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体は、公知のいかなる方法を用いて調製してもよい。例えば、原料となるβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸モノマーを脱水重縮合する常套のポリエステル合成方法により得ることができる。
【0067】
また、微生物あるいは高等生物により産生されるβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を用いてもよい。
【0068】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を産生する多くの細菌が知られている(Microbiol.Rev.,54,450−472(1990)およびBiotechnol.Bioeng.,49,1−14(1996)、これらの文献は引用により本願に含まれる)。かかる細菌により産生されるものも好適に用いられる。細菌により産生されたβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体は、菌体から分離して用いても、菌体と共に用いてもよい。細菌は一般に蛋白質の含有率が高く、本発明の組成物を飼料や機能性食品として採用する場合には、蛋白源としても有用である。
【0069】
公知の微生物の中でもラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)はβ−ヒドロキシ酪酸重合体を大量に生産することが知られている。特にラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)は、過去に微生物蛋白として検討されたが、菌体自体の成分に占める蛋白質含有率が高く、また、従来成長促進のために添加されているセリンやグリシン等のアミノ酸含有率も多い。したがって、β−ヒドロキシ酪酸重合体などを提供するためのみならず、蛋白源としても有効性が高く、飼料や食品へ配合する場合には特に好ましい。
【0070】
また、ヒドロキシ脂肪酸重合体を元来生産しない微生物や植物に遺伝子組換えの技術を用いてヒドロキシ脂肪酸重合体を生産可能とする技術が開発されている(J.Bacteriol.,170,4431−4436、5837−5847(1988)およびScience,256,520−523(1992)、これらの文献は引用により本願に含まれる)。本発明において用いるβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体としては、かかる遺伝子組換技術により得られる微生物や植物が産生する重合体を用いてもよい。重合体は微生物や植物から単離して用いても、あるいは該重合体を含有する微生物や植物自体を用いてもよい。
【0071】
本発明の一態様において、微生物がセレン、コバルト、マンガン、亜鉛および銅からなる群から選択される1種以上の微量成分を含有する。微生物へかかる成分を含有させるには、適当な塩の形態とした所望の微量成分を配合した培地を用いて微生物を培養すればよい。微生物の培養条件および培養に用いられる培地は周知であり、使用する微生物に応じて適宜選択すればよい。
【0072】
本発明において、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体は、経口投与、経鼻チューブ投与および大腸内への直接注腸等の方法により投与される。経口投与がより容易で実用上好ましい。β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体は動物の体内においては、大腸内細菌によって分解される。従って経口投与した場合でも小腸で消化吸収されてエネルギー源となるのではなく、大腸まで重合体として送達して、大腸において分解され、利用される。
【0073】
本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体重合体の分解によって生成する水溶性のモノマーもしくはオリゴマーは、大腸より吸収されて生理作用を示す。
本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体の投与によって、従来から短〜中鎖脂肪酸の作用として知られていた下痢/軟便の抑制、糞便水分率の低下、成長促進、尿中への窒素排出割合の低下などの効果のほかに、新たに、飲水量と排尿量の減少、便臭の軽減、排便回数の増加、ストレス緩和、胃や大腸の滞留物量の減少、小腸・大腸・腎臓などの重さの減少、窒素蓄積効率の増加および窒素排出率の減少などの種々の活性が発揮されることを観察した。
【0074】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体が大腸内細菌によって分解され、短〜中鎖脂肪酸の作用として知られた以外に、新たに多くの作用を示すことは、本発明者らが今回初めて発見した。
別の態様において、本発明はβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸のモノマーまたはそのオリゴマーもしくはこれらの生理的に許容される誘導体を大腸に送達され得る態様で含有する組成物を提供するが、かかる組成物の投与によってβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸のモノマーまたはそのオリゴマーが大腸に送達され、上記と同様の活性が発揮される。
【0075】
本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する組成物、およびβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸のモノマーまたはそのオリゴマーもしくはこれらの生理的に許容される誘導体を、大腸に送達され得る態様で含有する組成物は、脊椎動物全般に適用することができる。本発明の組成物は、大腸の働きを活発化することに関連する種々の用途に用いることができる。
【0076】
従来より短鎖脂肪酸によって大腸内細菌の増殖および代謝活性が促進され、血中尿素が大腸へ移動し、糞中細菌内へ窒素の取込が増え、糞中窒素排泄が増加し、尿中窒素排泄が減少することが知られている(J.Nutr.,125,1010−1016(1995)、本文献は引用により本願に含まれる)が、本発明の組成物を投与された動物においても糞中窒素排泄率が増加し尿中窒素排泄率が減少する作用が認められた。本発明の組成物は腎不全または慢性腎疾患、あるいは肝疾患において、これら臓器への負担を軽減する。
【0077】
本発明の組成物の分解生成物であるβ−ヒドロキシ脂肪酸のモノマーおよびオリゴマーが、癌化細胞の増殖抑制作用を有することが見いだされた。このことは、本発明の組成物を投与することによって、β−ヒドロキシ短鎖脂肪酸のモノマーまたはオリゴマーを大腸に送達することで、分解生成物のβ−ヒドロキシ脂肪酸やオリゴマーが短鎖脂肪酸と同様な作用が発現することを示す。本発明の大腸ガンの予防や治療への有用性が説明できる。
【0078】
したがって、本発明のβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する組成物、およびβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸のモノマーまたはそのオリゴマーもしくはこれらの生理的に許容される誘導体を、大腸に送達され得る態様で含有する組成物は哺乳動物や鳥類、魚類などを飼育乃至養殖する際の飼料や飲料等へ配合しても、あるいはかかる飼料や飲料等へ配合するための添加物として提供されてもよい。即ち本発明の組成物は、家畜、家禽、養殖魚および愛玩動物などの健康状態の維持、改善、成長の向上さらに糞尿の臭気や処理の改善を目的とした飼料および飼料添加剤として好適に用いられる。
【0079】
本発明の組成物はまた、健康状態の維持管理や疾病予防を目的とする機能性食品としても好適に用いられる。本出願において「機能性食品」とは、サプリメント、経腸栄養剤、成分栄養剤、医療食および術後食あるいはこれらへの添加剤等を含むものとする。また、機能性食品はヒトのみならず愛玩動物や家畜等のヒト以外の動物のためのものも含むものとする。また本発明の組成物は、便秘、下痢予防または治療用医薬組成物として、さらに上記本発明の組成物の種々の作用により改善され得る疾患を予防または治療するための医薬組成物として好適に用いられる。
【0080】
したがって、本発明の組成物が特定の疾患の治療を目的とするヒトを含む動物用医薬組成物として提供される場合、あるいはヒトを含む動物に対して、特定の疾患の予防や総合的な健康状態を維持乃至向上させるための機能性食品もしくは食品や飼料への添加物として提供される場合も本発明の範囲に含まれる。
【0081】
本発明の組成物がヒトを含む動物用医薬組成物乃至は機能性食品として提供される場合、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、舌下剤、トローチ、咀嚼可能錠剤、懸濁液等、経口投与により投与されるあるいは経口により摂取されるいかなる形態であってもよい。これらの投与製剤は、常套法により調製することができる。また本発明の組成物は、食品や飲料等へ配合して経口摂取に供してもよい。
【0082】
本発明の組成物へ、医薬上許容される適当な添加剤を含有させてもよい。添加剤としては特に限定されず賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、潤滑剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、芳香剤、着色剤など、製剤学に関する一般書籍に記載されているものから必要に応じて適宜選択すればよい。
【0083】
さらに本発明の組成物には、本発明の目的に反しない限り、別種の薬効成分を適宜含有させることができる。
【0084】
本発明の組成物を飼料として調製する場合、飼料の組成としては特に限定的ではなく、目的とする対象に応じて従来知られている飼料にβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体または、大腸へ送達され得る態様としたβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸のモノマーまたはそのオリゴマー、あるいはこれらの生理的に許容される誘導体を適宜配合すればよい。本発明の飼料組成物には、本発明の目的に反しない限り、別の生理活性物質を配合してもよい。
また、飼料へ配合して動物に投与させるための飼料添加剤として調製してもよい。
【0085】
本発明に用いられる重合体が微生物によって産生されるものである場合には、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する微生物ごと配合してもよい。微生物ごと配合する場合、微生物自体も蛋白源として有効に利用される。また、微生物によりβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を産生させると共に微生物中へ常套の方法により必須微量元素を含有させ、微生物ごと配合すれば、蛋白源としてのみならず、微量金属元素源としても有効に利用される。
【0086】
本発明においてβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸モノマーもしくはそのオリゴマーあるいはこれらの生理的に許容される誘導体の使用量としては特に規定はなく、投与対象の種別、体重、性別、健康状態、投与目的等によって適宜決定されるべきである。およその目安としては、1mg〜500mg/kg体重である。1回で与えても良いし複数回に分けて与えることもできる。あるいは飼料、飲料や食品に0.01〜5重量%配合して与えてもよい。目的に応じて増減してもよい。
【0087】
本発明はさらに、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含む、大腸溶解性被膜組成物を提供する。皮膜組成物としては、従来から医薬品製剤において用いられる、マイクロスフェア用マトリックス素材、錠剤や顆粒剤・丸薬・カプセル剤などの固形製剤に対する皮膜形成用素材、および薬剤組成物を包埋するシート状製剤用シート素材、カプセル用素材等が例示される。
【0088】
本発明の大腸溶解性皮膜組成物としては、モノマー成分がβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸のみからなる重合体であってもよいし、本発明の目的に反しない限り、別のモノマー成分が含有されていてもよい。また、従来より製剤において添加されることが知られているその他の添加剤、例えば凝集防止剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤などが含有されていてもよい。好ましいβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体、およびβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体の調製方法は、上記に準ずる。
【0089】
本発明の皮膜組成物によって、大腸に送達させるべき有用成分を被覆する。本発明の皮膜組成物による有用成分の被覆は従来から知られた方法のいずれを用いて行ってもよく、例えばパンコーティング法、流動層コーティング法等により有用成分の固形製剤やカプセル製剤を被覆しても、押出し成型などの常法に従って作成されるフィルムにより有用成分を被覆してもよい。本発明の皮膜組成物を用いて有用成分を内包するカプセルとする場合には、押出し成型によって作成したシートを真空・圧空成型などや、鋳型への溶液塗布・乾燥法などの常法を用いて製造すればよい。マイクロスフェアは常法の液中乾燥法や噴霧乾燥法によって容易に得ることができる。
【0090】
本発明の大腸溶解性皮膜組成物を用いて得られる皮膜等のマトリックスは、当業者によく知られた方法によって、所望の厚さに調整でき、投与の目的や有用物質に応じて厚さを設定できる。
【0091】
本発明の皮膜組成物に包含させる有用物質としては特に限定的でなく、大腸に送達させることを目的とするいずれの物質であってもよい。例えば、これに限られることはないが消化器系からの酵素によって失活したり、また大腸から効率よく吸収されるインシュリンのような生理作用を有する蛋白・ペプタイド製剤や、大腸の各種疾患の治療薬を用いることが可能である。
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0092】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体の調製
参考例1: 下記に示す培地30Lにラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)の前培養物を接種して、30℃、アンモニア水を用いてpH6.8に制御しながら通気、攪拌下で、消費されたグルコースを適宜補給しながら増殖させた。所定の菌体濃度に達したら、アンモニア水を水酸化ナトリウム溶液に変えて重合体の蓄積を開始させた。グルコースの補給を継続して通算3日間培養してβ−ヒドロキシ酪酸重合体を含む菌体を得た。遠心機で集菌後、プロテアーゼ処理ついで過酸化水素水処理を行って重合体を単離、回収し、更に水洗後乾燥した。
【0093】
培地組成:
グルコース 20g/L
硫酸アンモニウム 8g/L
硫酸マグネシウム7水和物 0.5g/L
硫酸カリウム 1.5g/L
1規定リン酸 20ml
微量ミネラル液 50ml
組成:塩化カルシウム2水和物 2.6g/L
硫酸第1鉄7水和物 0.6g/L
硫酸銅5水和物 20mg/L
塩化マンガン4水和物 90mg/L
硫酸亜鉛7水和物 100mg/L
【0094】
得られた重合体をNMRで分析し、β−ヒドロキシ酪酸重合体であることを確認した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定で重量平均分子量839,000(ポリスチレン換算)の重合体の粉末が58.8g/L培地の収量で得られた。
【0095】
参考例2:参考例1で使用した培地2,000Lに対し、重合体蓄積時の補給炭素源としてグルコース(9割)とプロピオン酸(1割)を用いる以外は参考例1と同様にして(β−ヒドロキシ酪酸−β−ヒドロキシ吉草酸)共重合体の粉末を得た。得られた共重合体中、β−ヒドロキシ吉草酸単位は5.4モル%であった(NMR測定結果)。また重合体の重量平均分子量は737,000(GPC測定結果)であり、収量は49.8g/L培地であった。
【0096】
参考例3:参考例1の発酵時間を短くして、β−ヒドロキシ酪酸重合体(NMR確認。重量平均分子量:869,000(GPC測定結果))を23.6重量%含有する菌体を得た(菌体乾燥収量=105.4g/L培地)。得られた菌体の栄養素分析結果を表1に示す。表1から明らかなように、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する微生物は、蛋白源としての有用性も兼ね備えている。
【0097】
【表1】

【実施例2】
【0098】
大腸内細菌による分解試験
ブタの盲腸に取り付けた付けたカニューレから採取し、Pipes緩衝液(pH6.5)で5倍に希釈後ガーゼでろ過した盲腸内液を用いた。この盲腸内液50mlに、被検試料を0.5g添加した。嫌気雰囲気下(窒素80%,炭酸ガス20%)37℃で24時間培養した。その後、イオンクロマトグラフィーで分析した。
被検試料として参考例1で得たβ−ヒドロキシ酪酸重合体の粉末および参考例3で得たβ−ヒドロキシ酪酸重合体を含有する乾燥菌体(ラルストニア・ユートロファ)を用いた。
【0099】
イオンクロマトグラフィーによると、両者とも通常盲腸内にある有機酸以外に新しくβ−ヒドロキシ酪酸重合体の分解物に起因する大きなピークが観察され、β−ヒドロキシ酪酸のリン酸エステルと推定された。リン酸は盲腸内液由来と考えられる。更に24時間培養を継続して分析すると、オリゴマーと推測される大きなピークが2本新たに観察された。
分解生成物のピーク面積から換算した濃度からβ−ヒドロキシ酪酸重合体の分解率は参考例1の粉末が約30%、参考例3の乾燥菌体で約50%と推定された。これはβ−ヒドロキシ酪酸重合体の粒子径の差による表面積の差に起因すると考える。
【実施例3】
【0100】
胃・小腸のバイパス性試験
参考例1で得たβ−ヒドロキシ酪酸の単独重合体、および、参考例2で得たβ−ヒドロキシ酪酸とβ−ヒドロキシ吉草酸の共重合体について、市販のアミラーゼ、ペプシン、トリプシン、リパーゼ、による分解性を調べた。
それぞれ100mg付近で秤量し、以下の胃や小腸のpH環境を模した酵素水溶液(0.1重量%濃度)50ml中に投入し、37℃で所定時間(胃を想定:6時間、小腸を想定:10時間)振とう後にろ過回収した。
いずれの場合も96%以上の回収率で重合体が得られ、操作誤差範囲内で分解は認められなかった。本試験により、本発明の組成物が胃や小腸の酸・アルカリ性環境や消化酵素によってはほとんど分解されないことを確認した。
【0101】
使用した酵素水溶液は以下の通りである。
ペプシン:胃液類似液(塩酸水溶液pH=1.5)
アミラーゼ:胃液類似液(塩酸水溶液pH=5.5、塩化カルシウム0.03重量%)
トリプシン:腸液類似液(炭酸水素ナトリウム水溶液pH=8.0)
リパーゼ:腸液類似液(炭酸水素ナトリウム水溶液pH=7.5、塩化カルシウム0.03重量%)
【実施例4】
【0102】
ラットを用いた2週間の飼育試験
使用ラット:Wistar系雄性ラット6週齢(n=5)
基本飼料:市販固形飼料(ラボMRストック 日本農産工業(株)製 日本国:神奈川)自由摂取
被検飼料:基本飼料に参考例1で得たβ−ヒドロキシ酪酸重合体の粉末を5重量%添加 自由摂取
給水:自由摂取
【0103】
飼育:各ラットは代謝ケージで個別に飼い、3日間の馴化後、試験群には被検飼料を対照群には基本飼料を2週間自由摂取させた。毎朝定時に餌、飲水を新しくし、それらの残存量から1日の摂取量を計算した。最後の1週間は1日分の糞を同じく回収し秤量後、半分を乾燥して水分率の測定等に用いた。残りをアンモニア濃度等の分析に供した。飼育最終日、ラットを屠殺、解剖し定法に従って各臓器の秤量および盲腸内容物の分析等を行った。
【0104】
80℃48時間乾燥した糞便を粉砕し約1gを分取秤量した後、1,2−ジクロロエタンを用い加熱還流下で抽出し、3倍容のn−ヘキサンを加えてβ−ヒドロキシ酪酸重合体の沈殿を回収・秤量した。糞中に含まれるβ−ヒドロキシ酪酸の残存量から大腸内の分解率を計算した。
その結果、糞中の重合体の含有率は平均で7.9乾燥重量%であり、大腸内の分解率に換算すると試験群平均で39.3%(標準偏差=6.2%)であった。
【0105】
本実施例の結果、次のような効果が確認された。
飼料要求率の向上(+14%)、飲水量の減少(−10%)、糞の水分率の低下(−15%)およびこれに伴う湿潤重さの減少、糞中の総アンモニア量の減少(−14%)、盲腸内pH上昇、胃内容物の減少(−61%)、臓器の重さ減少(小腸:−19%、腎臓:−4%)において統計的有意差(p<0.05)が観察された(表2)。
【0106】
また統計的な傾向(p<0.1)として、増体重の増加(+19%)、盲腸内容物重さの減少(−24%)、結腸の重さ減少(−11%)なども認められた(表2)。
以上のような、消化管内の摂取物の滞留が減少し、一部の臓器の重量が減少することは、実際の飼料効率は測定値よりも良く筋肉等の増加を示唆するものである。
【0107】
また、盲腸内容物の所定量を70重量%過塩素酸で前処理し、そのろ液をイオンクロマトグラフィーにより分析して、盲腸内有機酸を定量した。対照群と試験群において有機酸の種類や量に有意差はなかった。試験群においても、前述のin vitroの大腸内細菌による分解試験で観察された重合体分解生成物のピークは観察されなかったが、試験群では多くの生理作用が観察されたことから、重合体分解生成物であるβ−ヒドロキシ脂肪酸モノマーおよびオリゴマーは速やかに吸収されたものと推測する。
【0108】
さらに嗅覚や視覚により認識された差異としては、試験群の方が、糞便の臭気は刺激が少なかった。また、大腸等内臓器官の血行色が鮮明であった。
【0109】
【表2】

【0110】
上記のごとくβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を飼料に配合することにより、飼料効率や糞便への作用のみならず消化器官や腎臓など他の器官にまで及ぶ作用が観察された。
【実施例5】
【0111】
離乳後のブタを用いた1ヶ月の豚房飼育試験
豚房飼育におけるブタの成長および糞便量・臭気への本発明の効果を調べた。
ブタ:3元交雑種離乳期子豚24頭使用。
群分け:1週間の馴化期間後、体重に配慮して試験群、対照群に群分けした。
飼育条件:各群を3グループ(各グループ雄2頭,雌2頭合計4頭)に分けて、グループ毎に1つの豚房にいれ不断給餌により飼育した。
試験期間:肥育前期のうち4週間
基礎飼料:離乳期ブタ用市販飼料(コロミールGS(抗菌剤未含有)日本配合飼料(株)製 日本国:神奈川)
被検飼料:基礎飼料に参考例2で得た(ヒドロキシ酪酸−ヒドロキシ吉草酸)共重合体5重量%添加
給水:自由摂取
【0112】
測定項目:体重(個体:1週間毎)、飼料摂取量(グループ:1週間分合計量を測定)、水摂取量(グループ:毎日)、糞量(グループ:毎日)を測定した。さらに、糞便の肉眼観察と個別の肛門観察を行い、糞便臭気を測定した。
【0113】
糞便臭気の測定としては1週間毎に糞便中のアンモニア、揮発性脂肪酸、硫化水素、全メルカプタン類を測定した。グループ毎に1日分の糞便を採取してポリバケツに入れ蓋を開けたまま1日放置後、分取1kgをトレイに広げて100Lのポリ袋に入れ無臭空気を充満して封をした。1時間後にガス検知管を用いてヘッドスペース中の濃度を測定した。
【0114】
<豚房飼育の結果>
体重増加・飼料要求率:
ブタは当初の体重10kg前後から25kg前後に成長した。離乳後の成長の速い時期に当たり、統計的には差は無かったが、飼料要求率は試験群の方が数%良い値であった(表3)。なお、実施例4で観察されたように、ブタにおいても試験群は摂取飼料の胃腸内滞留分が少ない可能性がある。このことは試験群において、筋肉等の実質の増加量が多く、有意な飼料要求率の差となる可能性を示唆する。次の実施例6で得られた窒素の蓄積率が試験群のほうが高い傾向であったという結果は、これを支持するものである。
【0115】
【表3】

【0116】
軟便・下痢抑制の効果:
飼育期間を通して、正常な糞をしたブタは、対照群が12頭中2頭のみであったのに対し、試験群は12頭中8頭と下痢・軟便の抑制効果が有意に認められた(p<0.05)。
【0117】
排泄物からの臭気:
対照群の排泄物の方が刺激の強い臭気であった。各臭気成分の測定の結果次のように、試験群において、揮発性脂肪酸が約25%、硫化水素及び全メルカプタン類は40%以上濃度が減少し(表4)、排泄物からの臭気が軽減する傾向や有意差が認められた。
【0118】
【表4】

【実施例6】
【0119】
ブタの代謝ケージにおける飼育
実施例5の終了後、体重がそろうように雄を4頭ずつ選別して代謝ケージに移した。3日間そのままの餌で不断給餌を続けて馴化を行い、ブタの糞量・尿量、窒素代謝への効果を検討した。
飼料:実施例2で用いた飼料
試験期間:5日間
測定項目:体重(試験前後)、飼料摂取量、水摂取量、糞便量(1時間毎個別採取。冷蔵保存後1日分を秤量。半量を乾燥処理、残り半量は凍結保存。)、尿量(1時間毎個別採取。冷蔵保存後1日分を秤量。硫酸酸性下、冷蔵保存。)
分析項目:糞便中の本被検物質量・水分率・窒素排泄量(ケルダール法で分析)、尿中の窒素排泄量(ケルダール法で分析)
【0120】
<代謝ケージ内飼育の結果>
実施例1と同様にして回収した糞便中の共重合体を定量した。
その結果、試験群の糞中の重合体の含有率は平均で26.3乾燥重量%、大腸内での分解率に換算すると平均で52.2%(標準偏差=3.4%)と分解が確認された。
【0121】
観察された身体的作用:表5
対照群の飼料摂取量が有意に減少したのが観察された。直前の豚房飼育の終盤の1日当りの摂取量は約1.4kgだったが、対照群では、2割以上摂取量が減少した日が起きた(平均1.75日)。試験群ではこのような現象はなく、摂取量は減らなかった。対照群のこの減少は、代謝ケージの狭い空間で飼育するストレスが原因と推定される。それに対し試験群は減らず、本発明の効果としてストレス緩和の作用が認められた。
【0122】
排便回数は、対照群平均25回に比して試験群は平均32.5回と有意に多く(+30%)観察された。即ち、腸管運動が活発化して、便通が良くなる効果が観察された。
【0123】
排尿回数はともに40回程度で有意差はなかったが、尿量は対照群の平均4,452gに対し試験群が平均3,946gと少ない傾向(−11%)を観察した。さらに、糞水分も対照群の69.4%に対し、試験群では62.6%と有意に低かった(−10%)。
以上のように排便回数の増加や尿量の減少など、本発明の効果に関する新しい知見が得られた。
【0124】
【表5】

【0125】
窒素収支への作用:
ケルダール法によって分析した糞尿中の窒素量、および飼料乾物率(89.5%)、飼料のCP値(26.0%)と窒素量への換算係数(6.25)を用いた窒素出納を表6にまとめた。
【0126】
窒素摂取量や糞尿中への窒素排出量に有意差はなかった。しかし窒素蓄積量は、対照群の172.0gに対し、試験群は189.6gと多い傾向が認められた。体内蓄積率は試験群のほうが高いことが示唆されるので、確認のため、百分率で整理しなおした結果を表7に示す。その結果、試験群は窒素の体内蓄積が増えて排出が減り、しかも尿中に排出される割合が減る(糞中に排出される割合が増える)という傾向が認められた。即ち、本発明の組成物によって、飼料要求率の向上や筋肉増加の効果のみならず、糞に比べて含有窒素成分の処理が困難な尿の処理コストの低減が期待される。
【0127】
【表6】

【0128】
【表7】

【実施例7】
【0129】
炎症予防作用
使用ラット:Wistar系雄性ラット8週齢
飼料:自由摂取(表1)
給水:自由摂取
【表8】

使用したβ−ヒドロキシ酪酸重合体は参考例1のものである。
【0130】
飼育:市販固形飼料(ラボMRストック 日本農産工業(株)日本国:神奈川)で3日間施設馴致後試験群と対照群の2群に分け、それぞれの飼料を2週間摂取させた。
次いで、Gastroenterology,98,694−702(1990)(引用により本願に含まれる)に記載の方法に準じ、上記対照群と試験群の飼料を、それぞれの飼料からコーンスターチを617g/kgまで減量し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を3重量%添加した大腸炎誘発飼料に交換してさらに飼育を続けた。
【0131】
初めて血便が認められた日を記録し、その翌日に屠殺して固体毎に剖検を行った。血便が観察されなかった固体は14日目までDSS添加飼料を摂取させ15日目に解剖して各臓器の重さを測定すると共に各臓器を肉眼で観察した。また、大腸の組織切片を作製し、光学顕微鏡にて大腸組織を観察した。大腸の炎症の病理組織学的検査としては4段階評価(0:正常、1:点在、2:広範囲、3:全体的)、出血の状況は3段階評価(0:正常、1:局所的、2:全体的)を行った。
【0132】
DSS投与前の飼料摂取量や増体重に試験群と対照群の間に有意差はなかった。またDSS投与中、対照群が生存した期間中の飼料摂取量や増体重において有意差はなかった。表9に結果をまとめた。DSS含有飼料へ交換した後、対照群では5日目から7日目までに全8頭に血便が始まった。試験群は1頭が7日目から始まったが、試験終了の14日目でも7頭中4頭には観察されなかった。このように血便に関しては7日目以降で有意差が現れた。炎症に関しては、DSS投与でもっとも強く炎症が生じる大腸下部(直腸部)において、有意にびらん(糜爛)および出血の抑制が観察され、予防効果が確認された。
【0133】
【表9】

【実施例8】
【0134】
炎症治療試験
使用ラット:Wistar系雄性ラット8週齢(n=8、全16頭)
飼料:自由摂取
給水:自由摂取
飼育:市販固形飼料(MF オリエンタル酵母工業(株)製 日本国:東京)を与え3日間施設馴致後、更に表8の対照群飼料を4日間与え、粉末飼料に馴致させた。次いで飼料を、対照群飼料のコーンスターチを617g/kgまで減量し、DSSを3重量%となるように添加したものに代えてDSS腸炎を誘発させた。
【0135】
血便が2日連続して確認された日に対照・試験群に分け、表8に記載のそれぞれの飼料を7日間摂取させた。その後全頭屠殺して解剖して各臓器の重さを測定すると共に各臓器を肉眼で観察した。また、大腸の組織切片を作製し、光学顕微鏡にて大腸組織を観察した。大腸の炎症の病理組織学的検査は実施例7の予防試験と同様に行った。
結果、盲腸部以外の大腸において糜爛の存在に有意差はなかった。しかし盲腸部では、対照群は8頭中5頭に糜爛が観察されたのに対し試験群では8頭中1頭しか観察されず、治療効果が示唆された(p<0.1)。
【実施例9】
【0136】
高コレステロール飼料
使用ラット:Suprague−Dawley系雄性ラット 6週齡(n=8)
飼料:自由摂取(対照群には基礎飼料(表10)を、試験群には基礎飼料に参考例1で得たヒドロキシ酪酸重合体を5重量%添加したものを給餌した。)
給水:自由摂取
【表10】

【0137】
飼育:市販固形飼料(ラボMRストック 日本農産工業(株) 日本国:神奈川)で4日間施設馴致後、基礎飼料で3日間時間制限給餌(1日2回:9〜10時/21〜22時)に馴化させた。その後群分けし、飼料成分の摂取量に差が生じないよう、試験群の平均摂取量の95重量%の量を対照群に給餌するペアーフィード方式で、各群に飼料を2週間摂取させた。2週間後の最後の給餌(21〜22時)後、絶食させ、翌日の13時半から腹部大動脈から採血し、血中の総コレステロールや中性脂肪および遊離脂肪酸について測定した。なお、試験期間中において飼料摂取量および体重増加に有意差はなかった。結果を表11に示す。
【0138】
【表11】

血清中の中性脂肪の減少(約39%)および遊離脂肪酸の増加(約20%)が観察された。即ち、体脂肪が分解される脂肪の動員が、空腹時に促進されたことが観察された。なお、飼料摂取量および体重増加に有意さはなかった。
【0139】
また、上記と同様に飼育し(n=5)、2週間目の朝(9時〜10時)に給餌してその日の13時半から同様に採血し、中性脂肪および遊離脂肪酸について測定した。なお、飼料摂取量および体重増加に有意差はなかった。結果を表12に示す。中性脂肪および遊離脂肪酸のいずれにおいても有意差は観察されなかった。
【表12】

【実施例10】
【0140】
癌細胞に対するβ−ヒドロキシ酪酸の作用:
結腸腫瘍由来株化細胞HT−29を、牛胎仔血清を10%含むMcCoy’s5A培地(ペニシリン50U/ml、ストレプトマイシン50μg/ml、HEPES10mM含有)へ、7,500個/well(n=6)となるように播種し(96穴マイクロプレート使用)、95%空気/5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で24時間前培養した。次いで、陽性対照として分化・アポトーシス作用を有することが知られている酪酸、本発明の分解物モデルとしてR(−)−β−ヒドロキシ酪酸およびS(+)−β−ヒドロキシ酪酸それぞれのナトリウム塩、さらにR(−)−β−ヒドロキシ酪酸2量体(Eur.J.Biochem.,118,177−182(1981)、本文献は引用により本明細書に含まれる)に従いR(−)−β−ヒドロキシ酪酸のオリゴマーを作製し、カラムクロマトグラフィーにより2量体を精製した。)を濃度を変えて添加し、培養を72時間継続した。MTT法で吸光度を測定して細胞数を比較した。結果を表13に示す。
【0141】
【表13】

【0142】
表13に示す結果より、β−ヒドロキシ酪酸及びそのオリゴマーを添加した群では、酪酸添加群と同様に細胞数が少なかった。即ち、βヒドロキシ酪酸およびそのオリゴマーには細胞増殖抑制作用がある。
【実施例11】
【0143】
皮膜組成物
流動層コーティング装置(フロイント産業(株)製 日本国:東京)を用い、顆粒状(大きさ約0.5mm)の食用色素赤色102号(ダイワ化成(株)製 日本国:埼玉)に、参考例2で得た共重合体の塩化メチレン溶液(2w/v%)を1時間噴霧して被覆した。得られた被覆物は、被覆率40重量%、計算皮膜厚さ約30μmであった。なお、被覆率は食用色素重量に対するコーティング剤重量の比率を示す。
【0144】
実施例3で使用した各胃液類似液および腸液類似液を37℃とし、ここへ被覆した色素を投入し、ゆっくり攪拌しながら、経時的に目視観察により色素溶出の有無を調べた。
また、実施例2で使用したブタの盲腸内液(Pipes緩衝液(pH6.5)で5倍希釈)を37℃とし、嫌気性雰囲気下にて、被覆した色素を投入し、ゆっくり攪拌しながら、経時的に目視観察により色素溶出の有無を調べた。
【0145】
胃液類似液には6時間、腸液類似液では10時間置いたが、色素の放出は認められなかった。一方、盲腸内液を用いた場合には、4時間半後に色素の溶出が観察された。即ち、本実施例の皮膜は胃および小腸条件下では溶けず、大腸内細菌叢によって溶解されるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを大腸に送達するための、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する組成物。
【請求項2】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸が、β−ヒドロキシ酪酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、β−ヒドロキシ吉草酸、β−ヒドロキシカプロン酸、β−ヒドロキシカプリル酸、β−ヒドロキシカプリン酸およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸の単独重合体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸共重合体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
β−ヒドロキシ酪酸の単独重合体もしくは共重合体である、請求項1〜4いずれかに記載の組成物。
【請求項6】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体が水不溶性である、請求項1〜5いずれかに記載の組成物。
【請求項7】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体の重量平均分子量が1,000〜20,000,000である、請求項1〜6いずれかに記載の組成物。
【請求項8】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体が微生物により産生されたものである、請求項1〜7いずれかに記載の組成物。
【請求項9】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する微生物を含有する、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
微生物が、セレン、コバルト、マンガン、亜鉛および銅からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項9記載の組成物。
【請求項11】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体が植物により産生されたものである、請求項1〜7いずれかに記載の組成物。
【請求項12】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含有する植物を含有する、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
動物飼料、または動物飼料添加物である、請求項1〜12いずれかに記載の組成物。
【請求項14】
機能性食品である、請求項1〜12いずれかに記載の組成物。
【請求項15】
ヒトを含む動物用医薬組成物である、請求項1〜12いずれかに記載の組成物。
【請求項16】
炎症性腸疾患の予防および/または治療のために用いられる、請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項17】
過敏性腸症候群の予防および/または治療に用いられる請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項18】
ストレスの緩和に用いられる請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項19】
脂肪の動員を促進するために用いられる請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項20】
大腸癌の予防および/または治療に用いられる、請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項21】
便通を正常に保つために用いられる、請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項22】
下痢の予防および/または治療に用いられる、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
便秘の予防および/または治療に用いられる、請求項21記載の組成物。
【請求項24】
高脂血症の予防および/または治療のために用いられる、請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項25】
尿中窒素排出率の軽減のために用いられる、請求項13〜15いずれかに記載の組成物。
【請求項26】
ヒトを含む動物にβ−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を経口摂取させることにより、β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーを該動物の大腸に送達させる方法。
【請求項27】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸重合体を含む、大腸溶解性皮膜組成物。
【請求項28】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸が、β−ヒドロキシ酪酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、β−ヒドロキシ吉草酸、β−ヒドロキシカプロン酸、β−ヒドロキシカプリル酸、β−ヒドロキシカプリン酸およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸の単独重合体である、請求項27または28記載の組成物。
【請求項30】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸共重合体である、請求項27または28記載の組成物。
【請求項31】
任意の有用物質を請求項27〜30いずれかに記載の組成物で被覆してなる、大腸溶解性皮膜組成物。
【請求項32】
β−ヒドロキシ短〜中鎖脂肪酸またはそのオリゴマーもしくはこれらの生理的に許容される誘導体を、大腸に送達され得る態様で含有する組成物。
【請求項33】
ヒトを含む動物用医薬組成物である、請求項32記載の組成物。
【請求項34】
動物飼料、または動物飼料添加物である、請求項32記載の組成物。
【請求項35】
機能性食品である、請求項32記載の組成物。
【請求項36】
炎症性腸疾患、過敏性腸疾患、大腸癌、高脂血症、下痢および便秘の予防または治療、ストレス緩和、脂肪の動員の促進および尿中窒素排出率の軽減からなる群から選択される用途に用いられる、請求項32〜35いずれかに記載の組成物。
【請求項37】
大腸癌の予防または治療のためのものである、請求項36記載の組成物。

【国際公開番号】WO2005/021013
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513522(P2005−513522)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012638
【国際出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(503317223)有限会社アーザス (3)
【Fターム(参考)】