説明

β−Si3N4ナノワイヤー及びその製造方法、並びにこれを用いた樹脂組成物

【課題】アスペクト比が高いSiのβ型のナノワイヤーの提供、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】直径40nm以上、1000nm以下であり、アスペクト比が50以上、5000以下であることを特徴とする、β−Siナノワイヤー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導ゴム、高熱伝導ポリマー等、各種用途に用いることが可能なβ−Siナノワイヤー及びその製造方法、さらにはこれを用いた不織布、樹脂組成物、樹脂成型体等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマーの熱伝導性を改善するために、高熱伝導性を有するセラミックスをフィラーとして混合すること等が行なわれている。このような高熱伝導性セラミックスフィラーとして、例えば等軸状AlN粒子や平板状BN等が用いられている。しかしながら、熱伝導率1W/mKのポリマーに熱伝導率が200W/mKのAlN粒子を50体積%混合した場合に、従来の混合法では、5W/mKの熱伝導率しか得られないことが報告されている。これは、ポリマー中ではAlN粒子同士の接触熱抵抗が大きいことから、フィラー間の熱伝導が阻害されるためと考えられている。
【0003】
そこで、フィラー間の接触熱抵抗を減少させる方法として、例えばアスペクト比の高い一次元構造が有効であり、特に熱伝導パスが長いワイヤー状粒子が高熱伝導化に有効であることが報告されている。ただし、直径が大きなワイヤー状粒子をポリマー中に混合した場合には、ポリマーとの混合が難しく、不均一な組織となる傾向があるため、樹脂成形体の強度が低下しやすいという課題があった。
【0004】
このようなワイヤー状のセラミックスとしては、例えばAlN、BN、Si等のナノワイヤーが知られている。中でもAlN及びBNの熱伝導率が、Siの熱伝導率より高いこと等から、AlN及びBNのナノワイヤーが一般的に使用されている。しかしながら、AlNは耐水性が十分でないという課題があり、BNは、c軸方向の熱伝導率が300W/mKであるのに対し、a軸方向はわずか2W/mKしかないという課題があった。
【0005】
これに対し、Siは、化学安定性に優れており、さらに熱伝導率もc軸方向が200W/mKであるのに対し、a軸方向は80W/mKであり、熱伝導異方性が少ないという利点がある。
【0006】
なお、Siには、α型とβ型とがあり、β型がより熱伝導性が高い結晶構造を有するが、従来報告されているSiワイヤーは、ほとんどが熱伝導性の低いα型であった。α−Siワイヤーは、例えば、シリカ源、カーボン、及び触媒金属の混合物を窒素雰囲気中で加熱することにより得られる(例えば非特許文献1及び非特許文献2等参照)。
【0007】
ここで、Siは、1450℃以上の高温において、α型からβ型への相転位を起こすことが知られている。しかしながら、相転位は、特許文献1等に記載されているように、焼結助剤(例えばYやAl)の共存下で生じ、焼結助剤を共存させない場合には、分解反応が生じてβ−Siが得られなかった(特許文献2参照)。また、焼結助剤を用いて、α型からβ型へ転移させた場合には、粒子状(等軸粒子)となるため、アスペクト比の高いβ−Siナノワイヤーを得ることができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−277166号公報
【特許文献2】特開平11−130543号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B,2006,vol.110,pp.14546−14549
【非特許文献2】Mater.Lett.2006,vol.60,pp.330−333
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来のSiナノワイヤーの製造方法では、焼結剤なしにβ−Siナノワイヤーが得られなかった。また、焼結剤等を用いてβ−Siナノワイヤーが得られたとしても、ワイヤー状とすることは困難であった。
本発明は、アスペクト比が高く、ポリマー中での分散性が良好なβ−Siナノワイヤー、及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、シリカ源、カーボン、及びコバルト触媒及び/または鉄触媒を含む混合物を、特定の分圧の還元性雰囲気下で特定の温度域で加熱することにより、効率よくアスペクト比が高いβ−Siワイヤーが得られることを見出し本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
(1)直径40nm以上、1000nm以下であり、アスペクト比が50以上、5000以下であることを特徴とする、β−Siナノワイヤー。
(2)上記(1)記載のβ−Siナノワイヤーを50重量%以上含むことを特徴とする、β−Siナノワイヤー組成物。
【0013】
(3)直径40nm以上、1000nm以下であり、アスペクト比が50以上、5000以下であるβ−Siナノワイヤーの製造方法であって、シリカ源とカーボンと、コバルト触媒及び/または鉄触媒との混合物を調製する工程と、前記混合物を還元性雰囲気の分圧が0.1MPa以上において1100℃以上2000℃以下の範囲で加熱する工程とを含むことを特徴とする、β−Siナノワイヤーの製造方法。
(4)上記コバルト触媒及び/または鉄触媒が、コバルト及び/または鉄の金属塩であることを特徴とする、(3)記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
(5)1100℃以上、1300℃以下で加熱し、保持する工程を含むことを特徴とする、上記(3)または(4)に記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
(6)1450℃以上、1800℃以下で加熱し、保持する工程を含むことを特徴とする、上記(3)〜(5)のいずれかに記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
(7)1800℃より高く、且つ2000℃以下の温度で加熱し、保持する工程を含むことを特徴とする、上記(3)〜(6)のいずれかに記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
(8)前記還元性雰囲気が窒素雰囲気であることを特徴とする、上記(3)〜(7)のいずれかに記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
【0014】
(9)上記(1)に記載のβ−Siナノワイヤーを含むことを特徴とする、β−Siナノワイヤー不織布。
(10)上記(9)に記載の不織布に硬化性樹脂を含浸させて得られることを特徴とする、樹脂成形体。
(11)上記(1)に記載のβ−Siナノワイヤーと樹脂とを含むことを特徴とする、β−Siナノワイヤー樹脂組成物。
(12)上記(11)記載のβ−Siナノワイヤー樹脂組成物を用いたことを特徴とする、樹脂成形体。
(13)熱伝導率が2.0W/mK以上であることを特徴とする、上記(10)または(12)に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明のβ−Siは、直径が小さく、かつアスペクト比が高いことから、高分子材料用の高熱伝導フィラーとして用いた場合に、接触熱抵抗が低く、高熱伝導化を実現することができる。また、本発明の製造方法によれば、特定の金属触媒を用いさらに特定の分圧の還元性雰囲気下で特定の温度域で加熱する工程を行なうことから、α−Siからβ−Siへの相転移を容易に行なうことができ、上記β−Siナノワイヤーが効率よく得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のβ−SiナノワイヤーのSEM写真である。
【図2】本発明のβ−SiナノワイヤーのXRD測定の結果である。
【図3】本発明のβ−Siナノワイヤー不織布の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
【0018】
1.β−Siナノワイヤー
本発明のβ−Siナノワイヤーは、β−Siからなるナノワイヤーであって、直径が40nm以上、1000nm以下であり、アスペクト比が50以上、5000以下であることを特徴とする。本発明のβ−Siナノワイヤーは、従来のSiナノワイヤーと比較して、アスペクト比が非常に高く、高分子材料用の熱伝導フィラーとして用いた場合に、高熱伝導化が可能である。また、直径が上記範囲内とされていることから、上記熱伝導フィラーとして用いた場合に、高分子材料中での分散性を良好なものとすることができ、熱伝導フィラーを用いた樹脂成形体等の強度を高いものとすることができる。
【0019】
上記直径は、より好ましくは50nm以上であり、さらに好ましくは100nm以上である。また、より好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。上記ナノワイヤーの直径は走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡により測定される。
また上記アスペクト比は、より好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは2000以上である。またより好ましくは4500以下であり、より好ましくは4000以下である。上記アスペクト比とは、本発明のナノワイヤーの短径と長径との比である。ナノワイヤーは通常円柱状となるため、アスペクト比は、ナノワイヤーの直径と長さとの比となる。
【0020】
(β−Siナノワイヤーの製造方法)
本発明のβ−Siナノワイヤーは、上述のアスペクト比を得るため、SiOナノワイヤーを合成してからα−Siナノワイヤーとし、さらにβ−Siナノワイヤーへ相転位させて得ることが好ましい。また、還元性雰囲気の分圧を0.1MPa以上とすることによりシリカ源とカーボンとコバルト触媒および/または鉄触媒(以下、単に金属触媒ということがある)との混合物から直接β−Siナノワイヤーを合成することもできる。
SiOナノワイヤーを合成してからβ−Siワイヤーを得る場合、例えば下記の(1)〜(3)の工程を含む製造方法、より好ましくは(1)〜(4)の工程を含む製造方法により製造することができる。
(1)シリカ源とカーボンとコバルト触媒および/または鉄触媒との混合物を調製する工程。
(2)前記混合物を還元性雰囲気下において1100℃以上1300℃以下の温度範囲で加熱、保持する工程。
(3)引き続き還元性雰囲気下において1450℃以上1800℃以下に加熱・保持する工程。
更に、結晶性の向上や、結晶内の酸素含有量低減のために下記(4)の工程を行なうことが好ましい。
(4)還元性雰囲気下において1800℃より高く、且つ2000℃以下の温度に加熱・保持する工程。
上記(1)〜(4)の工程を含む製造方法によれば、1100℃以上1300℃以下に加熱し、この温度を保持する工程によって、アスペクト比の高いSiOワイヤーが得られる。また引き続き、還元性雰囲気下において、1450℃以上1800℃以下に加熱し、保持する工程により、SiOナノワイヤーからα−Siナノワイヤーが生成され、その後、α−Siナノワイヤーから相転位が生じ、最終的にβ−Siナノワイヤーが得られる。さらに、結晶性を高くし、酸素などの不純物を低減させるために、還元性雰囲気において1800℃より高く、且つ2000℃以下に加熱する(4)の工程を追加することで、より熱伝導性に優れた材料とすることが可能である。
【0021】
また、上記(1)の工程と、この混合物を還元性雰囲気の分圧が0.1MPa以上で、1100℃以上2000℃以下の範囲で加熱する工程とを行なう場合には、直接β−Siナノワイヤーが得られる。この方法においては、上記(2)及び(3)、(4)の全ての工程を行わない場合であってもβ−Siナノワイヤーが得られ、たとえば上記(2)または(3)、(4)のいずれか一つの工程のみ、あるいは(2)、(3)、及び(4)の工程とは異なる温度で加熱・保持する工程を行うこと等によっても、β−Siナノワイヤーが得られる。
なお、本発明のβ−Siナノワイヤーの製造方法は、上記の方法に限定されるものではない。以下、各工程について説明する。
【0022】
・(1)の工程
上述の(1)の工程では、シリカ源とカーボンとコバルト触媒および/または鉄触媒との混合物を調製する。
混合物に用いられるシリカ源としては、シリカ(SiO)を主成分とするものであれば特に限定されないが、ヒュームドシリカ、シリカゾル、コロイダルシリカなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
シリカ源の形状は特に限定はされないが、粒子状であることが好ましく、平均粒径は特に限定されないが通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下である。また通常0.005μm以上、好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上である。シリカ源の平均粒径を上記範囲内とすることにより、上述した直径及びアスペクト比を有するβ−Siナノワイヤーが得られやすくなる。上記平均粒径は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡により測定される値である。
【0023】
また、シリカ源の粒子のBET比表面積は、特に限定されないが、通常5m/g以上であり、好ましくは、10m/g以上、より好ましくは15m/g以上である。BET比表面積を下限値以上とすることにより、カーボンとの接触面積が大きくなり、効率よく反応を行なうことができる。
【0024】
また、混合物に用いられるカーボンとしては、カーボンを主成分とするものであれば特に限定されるものではないが、カーボンブラックが好ましく用いられる。またカーボンは粒子状であることが好ましい。カーボン粒子の平均粒径は特に限定はされないが、通常1nm以上であり、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。また、通常1μm以下、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0025】
上記カーボンの使用量に対するシリカ源の使用量は特に限定されないが、用いるカーボンを炭素原子として換算した際のカーボンの使用量1モルに対して、用いるシリカ源をSiOとして換算した際、通常0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上、さらに好ましくは0.95モル以上である。また通常1.2モル以下、好ましくは1.1モル以下、さらに好ましくは1.05モル以下である。
【0026】
コバルト触媒としては、反応系中で、コバルトが生成し、溶媒に可溶なものであればその種類に特に制限はなく、例えば硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化コバルト等のコバルト塩が通常用いられる。これらは1種単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。上記の中でも陰イオン分解の面から硝酸コバルト、酢酸コバルトが好ましく、より好ましくは硝酸コバルトである。
鉄触媒としては、反応系中で、鉄が生成し、溶媒に可溶なものであれば、その種類に特に制限はなく、例えば硝酸鉄、塩化鉄等の鉄塩が通常用いられる。これらは1種単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。上記の中でも陰イオン分解の面から硝酸鉄、が好ましい。
また、上記コバルト触媒と鉄触媒は単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
コバルト触媒及び/または鉄触媒の使用量としては、特に限定はされないが、用いたシリカ源をSiOとして換算したときの使用量から理論的に生成するβ−Siの体積に対して、0.5体積%以上のコバルト及び/または鉄が生成する量であることが好ましく、より好ましくは0.7体積%以上、さらに好ましくは1.0体積%以上である。また2体積%以下のコバルト及び/または鉄が生成する量が好ましく、より好ましくは1.5体積%以下、さらに好ましくは1.2体積%以下である。上記量とすることにより、効率よく反応を行なうことが可能となる。
なお、コバルト触媒及び/または鉄触媒を2種以上用いる場合には、これらの合計量が上記範囲とされることが好ましい。
【0028】
上記シリカ源、カーボン、及び金属触媒の混合は、乾式で行なってもよく、また例えば溶媒等を用いて湿式で行なってもよい。また、混合方法については、公知の技術を利用することができる。なお、全ての材料について同時に混合処理を行なってもよく、また複数回にわけて混合処理を行なってもよい。好ましくは凍結乾燥法を用い、シリカ源、カーボン、金属触媒が凝集することなく、微細な粒子同士が均一に混合された混合粉末が望ましい。微細な粒子が均一に混合された粉末では凝集した不均一な粉末に比べ、ナノワイヤーの収率が増す。
【0029】
本発明においては特に、水溶媒に、シリカ源、カーボン、及び金属触媒としてコバルト塩または鉄塩を投入し、金属塩を完全に溶解させた後に超音波ホモジナイザーで攪拌して混合することが好ましい。これにより、上記各材料が均一に混合された混合物が得られる。なお、湿式法で混合処理を行なった場合には、混合後、凍結乾燥、減圧乾燥、スプレードライ等の各種方法により、上記溶媒を除去することが好ましい。
【0030】
また、上記混合物中には、シリカ源、カーボン、及びコバルト触媒および/または鉄触媒以外にも、必要に応じて適宜他の材料を混合してもよい。他の材料としては、例えばB、MgO、Y、Yb等が挙げられる。
【0031】
・(2)の工程
続いて、上述の混合物を還元性雰囲気下において1100℃以上1300℃以下に加熱・保持する工程を行なう。
熱処理雰囲気としては、シリカの酸化還元に対して還元性である雰囲気であればよく、例えば窒素ガス、アンモニアガス、水素ガス等のガスを1種、または2種以上を含む雰囲気とすることができる。なお還元性雰囲気中には、通常、窒素ガスが含まれる。
本発明においては特に、還元性雰囲気が窒素ガスを含んでいることが好ましく、窒素ガスを50体積%以上含んでいることが好ましく、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上である。
【0032】
またさらに、本工程における加熱、保持の際の還元性雰囲気の分圧は常圧以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.3MPa以上である。また通常1.0MPa以下、好ましくは0.9MPa以下、より好ましくは0.8MPa以下である。上記下限値以上とすることにより、加熱、保持の工程を設けなくてもシリカ源、カーボン、コバルト触媒および/または鉄触媒の混合物からβ−Siナノワイヤーを合成することができ、上限値以下とすることにより、工業的な生産が容易になるという利点がある。
【0033】
(2)の工程における加熱、保持時の温度は1100℃以上であり、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1230℃以上である。また1300℃以下が好ましく、より好ましくは1280℃以下、より好ましくは1270℃以下である。上記温度範囲とすることにより、(2)の工程において効率よくSiOナノワイヤーを生成可能となる。
【0034】
また、上記の保持時間としては、1時間以上が好ましく、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは5時間以上である。また100時間以下が好ましく、より好ましくは50時間以下、さらに好ましくは20時間以下である。下限値以上とすることにより、(2)の工程においてSiOナノワイヤーの生成を十分に行なうことができ、また上限値以下とすることにより、効率よく反応を行なうことができる。
【0035】
・(3)の工程
上述の(2)の工程後、引き続いて上述の混合物をさらに、還元性雰囲気下で1450℃以上1800℃以下の温度範囲に加熱・保持する工程を行なう。
本工程は通常、(2)の工程を行なった還元性雰囲気と同様の還元性雰囲気下で行なうことができるが、適宜、還元性雰囲気中のガス組成を変更してもよい。本工程においても、還元性雰囲気中に、通常、窒素ガスが含まれる。
【0036】
また特に、還元性雰囲気が窒素ガスを含んでいることが好ましく、窒素ガスを50体積%以上含んでいることが好ましく、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上である。
【0037】
またさらに、本工程における加熱の際の窒素分圧は0.1MPa以上とすることが好ましく、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上である。また通常1.0MPa以下である。一般的に、α−Siナノワイヤーを焼結助剤なしに1450℃以上1800℃以下の温度で保持した場合、1450℃以上ではSiとカーボン部品から発生するカーボンガスとの反応によりSiCが生成し、α型からβ型へ相転位させることは困難である。本発明においては、窒素ガスの分圧を上記下限値以上とすることにより、焼結剤を用いることなく、α−Siナノワイヤーをβ−Siナノワイヤーへと相転位させることができる。また、上限値以下とすることにより、工業的な生産が容易になるという利点もある。
【0038】
(3)の工程における加熱、保持時の温度は、通常1450℃以上であり、好ましくは1500℃以上、より好ましくは1600℃以上である。また通常1800℃以下であり、好ましくは1750℃以下、より好ましくは1700℃以下である。上記温度範囲とすることにより、効率よくα−Siナノワイヤーを生成し、さらにはα型からβ型へと相転位させることができる。
【0039】
また、前記温度範囲での保持時間としては、通常1時間以上であり、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上である。また100時間以下が好ましく、より好ましくは50時間以下、さらに好ましくは20時間以下である。下限値以上とすることにより、β−Siナノワイヤーの生成を十分効率的に行なうことができる。
【0040】
・(4)の工程
上述の(3)の工程後、引き続いて上述の混合物をさらに、還元性雰囲気下で1800℃より高く、且つ2000℃以下の温度範囲に加熱・保持する工程を行ってもよい。
本工程は通常、(3)の工程を行なった還元性雰囲気と同様の還元性雰囲気下で行なうことができるが、適宜、還元性雰囲気中のガス組成を変更してもよい。本工程においても、還元性雰囲気中に、通常、窒素ガスが含まれる。
【0041】
また特に、還元性雰囲気が窒素ガスを含んでいることが好ましく、窒素ガスを50体積%以上含んでいることが好ましく、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上である。
【0042】
さらに、本工程における加熱の際の窒素分圧は特に限定されるものではないが、通常0.1MPa以上とすることが好ましく、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上である。また通常1.0MPa以下である。
【0043】
(4)の工程における加熱、保持時の温度は、特に限定されるものではないが通常1800℃より高く、好ましくは1850℃以上、より好ましくは1900℃以上である。また通常2000℃以下であり、好ましくは1950℃以下である。上記温度範囲とすることにより、効率よく高い結晶性と溶存酸素量が低減されたナノワイヤーとすることができる。
【0044】
また、前記温度範囲での保持時間としては特に限定されるものではないが、通常1時間以上であり、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上である。また通常50時間以下であり、好ましくは30時間以下、より好ましくは20時間以下である。前記下限値以上とすることにより、ナノワイヤーの高結晶化、不純物低減を十分効率的に行なうことができる。
【0045】
・その他の工程
上述のβ−Siナノワイヤーの製造方法においては、上述した(1)〜(4)の工程の前後、または間に任意の工程を有していてもよい。
また、上述したように、還元性雰囲気の分圧を0.1MPa以上とすることによりシリカ源とカーボンとコバルト触媒および/または鉄触媒(以下、単に金属触媒ということがある)との混合物から直接β−Siナノワイヤーを合成する場合には、(1)の工程を行なった後、混合物を還元性雰囲気の分圧が0.1MPa以上において、1100℃以上2000℃以下の範囲で加熱する工程を行なう。
【0046】
この際の還元性雰囲気や、好ましい窒素分圧等については、上記(2)、(3)または(4)の工程で説明したものと同様とすることができる。
また、加熱温度については、上記範囲内であれば、一定の温度で一定時間保持してもよく、また段階的もしくは連続的に温度を変化させてもよい。
また加熱温度における保持時間については適宜選択される。
【0047】
(β−Siナノワイヤー組成物)
本発明は、上述のβ−Siナノワイヤーを用いた組成物として、β−Siナノワイヤーを通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%、特に好ましくは90重量%以上含有するβ−Siナノワイヤー組成物も提供する。
該β−Siナノワイヤー組成物に含まれる他の成分としては、例えばα−Siナノワイヤー、SiOナノワイヤー、β−Si粒子、α−Si粒子等が挙げられる。
本発明のβ−Siナノワイヤー組成物の用途としては、例えば、ポリマー、ゴム、グリスなどの高熱伝導フィラー、機械的特性の強化剤、耐熱性フィラー等が挙げられる。
【0048】
2.β−Siナノワイヤー不織布
本発明のβ−Siナノワイヤー不織布(以下、単に「本発明の不織布」ともいう。)は、上述のβ−Siナノワイヤーを含むことを特徴とし、上述のβ−Siナノワイヤーを用いて形成された不織布である。
【0049】
本発明の不織布は、放熱基板の基材や、放熱部材の基材等として用いることができ、また上述のβ−Siワイヤーを用いて形成されていることから、1000℃以上の温度にも耐熱性を有しており、この特性を利用して、耐熱布等としても用いられる。また、科学的に安定であるため、フィルターとしても応用可能である。耐熱性に優れているため、フィルターに着いた汚れは、燃焼して除去することも可能である。
本発明の不織布の膜厚は、不織布の用途等に応じて適宜選択されるが、通常100μm以上であり、好ましくは500μm以上、より好ましくは1000μm以上である。また通常30mm以下、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下である。本発明の不織布は単層であっても、2層以上の不織布を積層したものでもよい。
【0050】
本発明の不織布は、β−Siナノワイヤーにバインダを混合して製造したものであってもよいが、バインダーを無添加で製造したものとすることも可能である。
本発明の不織布は、公知の技術を利用して製造できる。例えば、β−Siナノワイヤーを溶媒中に均一に懸濁し、これを金網等ですくいシート状にする湿式製造法や、β−Siナノワイヤーを空気中に飛散させた後、金網に集めてカード状にするエアーレイド法等が挙げられる。
不織布を湿式製造法により製造する際には、β−Siナノワイヤーの分散性を改良するために界面活性剤や、β−Siナノワイヤーのからみを向上させるための添加剤を用いても良い。
【0051】
本発明においては、特に湿式製造法で製造することが、製造効率等の面から好ましい。湿式製造法では、通常、溶媒として水を用い、水中にβ−Siナノワイヤーを分散させて懸濁液とする。この際のβ−Siナノワイヤーの濃度は、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、さらには2重量%以上である。また、β−Siナノワイヤーの濃度は、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。下限値以下である場合には、製造効率が低下する可能性がある。また上限値以上である場合には、均一な膜厚で不織布を生成することが困難となる場合がある。
【0052】
湿式製造法においては、β−Siナノワイヤーの懸濁液をろ過後、水分を除去することにより、本発明の不織布が得られる。ろ過には、金属製の網、もしくはろ布等が用いられ、ろ布としては、例えば有機ポリマーからなる不織布、織物、多孔膜等が挙げられる。有機ポリマーとしてはポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ナイロン等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。これらは単独であっても、混合物であってもよい。
具体的には孔径が0.1μm〜5μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm〜5μmの、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン又はナイロンの織物等が挙げられる。
【0053】
また、上記ろ過後の水分の除去方法は特に制限されず、公知の技術を利用して行なうことができる。
【0054】
(不織布を用いた樹脂成形体)
本発明においては、上述の本発明の不織布に硬化性樹脂を含浸させて樹脂成形体としてもよい。該樹脂成形体は、本発明の不織布を基体として含むことから、熱伝導性に優れた樹脂成形体とすることができる。樹脂成形体の用途としては、例えばハイブリッド自動車や電気自動車の駆動部用の高放熱基板、コンピューターのCPU冷却用の高熱伝導シート、ディスプレイ画面の放熱部材等、種々の家電製品や自動車用部材等、様々な用途に用いることができる。
【0055】
不織布を用いた樹脂成形体の熱伝導率は2.0W/mK以上であることが好ましく、5.0W/mK以上がより好ましく、さらに好ましくは10W/mK以上である。下限値以上とすることにより、高い放熱性を活かし、樹脂成形体を種々の分野に用いることが可能となる。上記熱伝導率は、周期加熱の距離変化法により測定される。またSiナノワイヤーの配向性を利用して、熱伝導に方向性を持たせることも可能である。つまり不織布の厚み方向よりも面方向に熱伝導が高い放熱材料の作製が可能であり、ヒートスプレッダーとして応用が期待できる。
【0056】
本発明の不織布に含浸させる樹脂としては、含浸後、硬化させることが可能な硬化性樹脂であれば特に制限はなく、例えば熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等いずれも用いることができる。これらは1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。上記の中でも熱硬化性樹脂が好ましく、具体的には、エポキシ樹脂、イミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。上記の中でもエポキシ樹脂、イミド樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、特に好ましくはエポキシ樹脂、イミド樹脂である。
また、樹脂の種類に応じて、適宜重合開始剤や溶剤、微粒状充填材、可塑剤、滑材、離型剤、酸化防止剤、硬化剤、熱および光安定剤、難燃剤、粘度調整剤などをその性能を損なわない範囲において適宜混合して用いることもでき、上記樹脂及びこれらを含む樹脂溶液に本発明の不織布を含浸させて樹脂成形体を得てもよい。
【0057】
本発明の不織布を用いた樹脂成形体の製造方法としては、上記樹脂を溶融、または溶解等させることにより液状とし、この樹脂もしくは樹脂溶液中に本発明の不織布を含浸させた後、例えば金型等により所望の形状とし、硬化させることにより得られる。樹脂の硬化方法は、樹脂の種類に応じて適宜選択される。
【0058】
3.樹脂組成物
本発明は、上述のβ−Siナノワイヤー及び樹脂を含有する樹脂組成物も提供する。
樹脂成形体に用いられる樹脂としては、樹脂組成物の用途等に応じて適宜選択され、上述の不織布を用いた樹脂成形体の項で説明した硬化性樹脂の他、熱可塑性樹脂、ゴム、グリス等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマーおよびこれらの誘導体などが挙げられる。樹脂組成物を作製するに当たっては、通常の混練機などで、本発明のβ−Siと樹脂を混合する方法、溶媒を用いて樹脂とβ−Siとを湿式混合し、溶媒を留去する方法などによって得られる。
また、樹脂組成物中には、上記樹脂の種類に応じて、適宜重合開始剤や溶剤、微粒状充填材、可塑剤、滑材、離型剤、酸化防止剤、硬化剤、熱および光安定剤、難燃剤、粘度調整剤などをその性能を損なわない範囲において適宜添加剤を含有していてもよい。
【0059】
樹脂組成物中におけるβ−Siナノワイヤーの含有量としては、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上とすることができる。
また通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。下限値以上とすることにより、樹脂成形体とした際に、熱伝導性を良好なものとすることができる。
【0060】
(樹脂組成物を用いた樹脂成形体)
上述の樹脂組成物を用いて、樹脂成形体としてもよい。該樹脂成形体中には、β−Siナノワイヤーを含むことから、熱伝導性に優れた樹脂成形体とすることができる。樹脂成形体の作製方法としては、熱可塑性樹脂との組成物の場合、樹脂組成物を射出成形、押し出し成形など一般的な成形方法によって行うことができる。また、熱硬化性樹脂との組成物の場合、樹脂組成物をプレス成形、トランスファー成形、押し出し成形などの一般的な成形方法によって行うことができる。尚、プレス成形、トランスファー成形などの場合には、成形時に圧力をかけながら成形することとなるが、成形圧力は常圧以上であれば特に制限はなく、通常300MPa以下の圧力が用いられる。好ましくは100MPa以下、より好ましくは50MPa以下である。300MPa以上の圧力で成形した場合、アスペクト比の高いナノワイヤーが破壊され、熱伝導パスが十分に取れずに熱伝導率が改善しないなどの可能性がある。
樹脂成形体の用途としては、例えばハイブリッド自動車や電気自動車の駆動部用の高放熱基板、コンピューターのCPU冷却用の高熱伝導シート、ディスプレイ画面の放熱部材等、種々の家電製品や自動車用部材等、様々な用途に用いることができる。
【0061】
樹脂成形体の熱伝導率は2.0W/mK以上であることが好ましく、3.0W/mK以上がより好ましく、5.0W/mK以上がより好ましく、さらに好ましくは10W/mK以上である。下限値以上とすることにより、高い放熱性を活かし、樹脂成形体を種々の分野に用いることが可能となる。上記熱伝導率は、上述した方法により測定される。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に詳説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
・樹脂成形体の強度の測定方法
三点曲げ試験による。
試験片:樹脂成形体を1.5×3×15mmに加工し、引っ張り面を0.5μmの
ダイアモンドスラリーで研磨したものを使用した。
測定機器:島津製作所製 AG−10TC型万能試験機
試験条件:スパン10mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分
測定温度:25℃
・樹脂成形体の硬度の測定方法
ビッカース硬度試験による。
試験片:上記三点曲げ試験用サンプルと同じ。
測定温度:25℃
測定機器:アカシ社製AVK−M型ビッカース硬度
保持時間:15秒
荷重49Nのビッカース圧子を打ち込むことにより圧痕を導入し、対角線の長さ
から導き出した。
(実施例1)
シリカ(アドマテックス株式会社製、商品名:アドマファインSO−E1)及びカーボン(三菱化学株式会社製カーボンブラック、商品名:#2600B)をモル比で1:1になるように加えた。次いで、理論上生成する窒化ケイ素(Si)の1体積%のコバルトが生成するように硝酸コバルトを加え、硝酸コバルトが溶解し、各原料が均一になるのに十分な量の水溶媒を用い超音波ホモジナイザー(IKA社製、商品名:U−200S Control)で撹拌した。
その後、凍結乾燥を行い、混合物を得た。
【0063】
上記で得られた混合物を、電気炉(富士電波株式会社製、多目的高温炉ハイマルチ10000)内で窒素雰囲気(窒素加圧0.7Mpa)中で、1250℃にて5時間加熱、保持した。
さらに、該混合物を窒素雰囲気(窒素加圧0.7Mpa)中で1600℃にて10時間熱処理を行った。
得られたナノワイヤーについて、透過型電子顕微鏡による電子線回折解析、走査型電子顕微鏡(SEM)による形状観察、X線回折(XRD)による結晶相の同定を行い、β−Siナノワイヤーであることを確認した。得られたβ−SiナノワイヤーのSEM写真を図1に示す。また、得られたβ−SiナノワイヤーのXRD測定結果を図2に示す。また本実施例で得られたβ−Siナノワイヤーの不織布の写真を図3に示す。
【0064】
(実施例2)
本例は実施例1で得られたβ−Siナノワイヤーを基材樹脂としてエポキシ樹脂を用いて樹脂組成物を作製する例である。
基材樹脂としてエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製 JER828)100重量部と硬化剤(酸無水物系硬化剤、ジャパンエポキシレジン株式会社製 JER YH300)80重量部、硬化促進剤(2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール)2重量部との混合物を準備した。次に、基材樹脂45体積%と、実施例1で得られたβ−Siナノワイヤー55体積%とを乳鉢にて混合して樹脂組成物を得た。
得られた粉末をペレッターに入れて100kg/cmで加圧成形した後、さらに200MPaで圧縮成形を行った。その後、成形物を120℃、保持時間1時間の条件で硬化させた。得られた複合材料をスキャンニング・レーザー加熱AC法により熱拡散率を測定し、アルキメデス法、示査走査熱量計(DSC)により得られた複合材料の密度、比熱の値を用いて熱伝導率を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
実施例2でβ−Siナノワイヤーの混合量を60体積%とした以外は同様に複合材料を作製し、実施例2と同様の測定を行なった。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例4)
実施例1で作製したβ−Siナノワイヤーを更に窒素加圧0.7MPa雰囲気下、1850℃、10時間熱処理したフィラーを用い、β−Siナノワイヤーの混合量を60体積%として樹脂組成物を作製した。この樹脂組成物を29MPaの加圧下、120℃で1時間熱硬化させて樹脂成形体を得、実施例2と同様の測定を行った。結果を表1に示す。また得られた樹脂成形体については、上記の方法により強度と硬度を測定した。三点曲げ試験による強度は115MPaであった。また硬度は0.82GPaであった。
【0067】
(実施例5)
実施例1で作製したβ−Siナノワイヤーを更に窒素加圧0.7MPa雰囲気下、1950℃、10時間熱処理したフィラーを用い、β−Siナノワイヤーの混合量を60体積%として樹脂組成物を作製した。この樹脂組成物を29MPaの加圧下、120℃で1時間熱硬化させて樹脂成形体を得、実施例2と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
実施例2でβ−Siナノワイヤーを、粉末状α−Si(宇部興産製SN−E10)、混合量を60体積%とした以外は同様に複合材料を作製し、実施例2と同様の測定を行なった。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のβ−Siナノワイヤーは、直径が小さいことから分散性が良好であり、かつアスペクト比が非常に高いことから、熱伝導性に非常に優れたものである。したがって、該β−Siを用いた樹脂成形体は熱伝導性に優れたものとすることができ、例えばハイブリッド自動車や電気自動車の駆動部用の高放熱基板、コンピューターのCPU冷却用の高熱伝導シート、ディスプレイ画面の放熱部材等、種々の家電製品や自動車用部材等、様々な用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径40nm以上、1000nm以下であり、アスペクト比が50以上、5000以下である
ことを特徴とする、β−Siナノワイヤー。
【請求項2】
請求項1記載のβ−Siナノワイヤーを50重量%以上含む
ことを特徴とする、β−Siナノワイヤー組成物。
【請求項3】
直径40nm以上、1000nm以下であり、アスペクト比が50以上、5000以下であるβ−Siナノワイヤーの製造方法であって、
シリカ源とカーボンと、コバルト触媒及び/または鉄触媒との混合物を調製する工程と、
前記混合物を還元性雰囲気の分圧が0.1MPa以上において1100℃以上2000℃以下の範囲で加熱する工程とを含む
ことを特徴とする、β−Siナノワイヤーの製造方法。
【請求項4】
前記コバルト触媒及び/または鉄触媒が、コバルト及び/または鉄の金属塩である
ことを特徴とする、請求項3記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
1100℃以上、1300℃以下で加熱し、保持する工程を含む
ことを特徴とする、請求項3または4記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
【請求項6】
1450℃以上、1800℃以下で加熱し、保持する工程を含む
ことを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
【請求項7】
1800℃より高く、且つ2000℃以下で加熱し、保持する工程を含む
ことを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
【請求項8】
前記還元性雰囲気が窒素雰囲気である
ことを特徴とする、請求項3〜7のいずれか1項に記載のβ−Siナノワイヤーの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のβ−Siナノワイヤーを含む
ことを特徴とする、β−Siナノワイヤー不織布。
【請求項10】
請求項9に記載の不織布に硬化性樹脂を含浸させて得られる
ことを特徴とする、樹脂成形体。
【請求項11】
請求項1に記載のβ−Siナノワイヤーと樹脂とを含む
ことを特徴とする、β−Siナノワイヤー樹脂組成物。
【請求項12】
請求項11記載のβ−Siナノワイヤー樹脂組成物を用いた
ことを特徴とする、樹脂成形体。
【請求項13】
熱伝導率が2.0W/mK以上である
ことを特徴とする、請求項10または12に記載の樹脂成形体。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−79729(P2011−79729A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64220(P2010−64220)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「超ハイブリッド材料技術開発(ナノレベル構造制御による相反機能材料技術開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】