説明

β型サイアロンの製造方法

【課題】β型サイアロンの蛍光体としての短波長化や狭帯域化を行った場合でも、高い発光効率を実現できるβ型サイアロンの製造方法を提供する。
【解決手段】原料粉末を焼成する焼成工程を有し、一般式:Si6−zAl8−z:Euで表されるβ型サイアロンの製造方法であって、原料粉末が、Al含有量0.3〜1.2質量%、O含有量0.15〜1質量%、O/Alモル比0.9〜1.3、Si含有量58〜60質量%、N含有量37〜40質量%、N/Siモル比1.25〜1.45及びEu含有量0.3〜0.7質量%を有し、焼成工程が、原料粉末を窒化雰囲気中1850〜2050℃の温度範囲で焼成する焼成工程であり、製造されるβ型サイアロンが、CIExy色度座標で0.280≦x≦0.340、0.630≦y≦0.675を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光ダイオードチップ又は紫外発光ダイオードチップを用いた白色発光ダイオード等の発光装置に利用可能なβ型サイアロンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、第一の加熱工程で生成したβ型サイアロンを、第二の加熱工程を経て酸処理することにより、結晶性を向上させて高輝度化している。
【0003】
特許文献2では、β型サイアロンの酸素の固溶量を低減させることによってβ型サイアロンの蛍光スペクトルの短波長化や狭域化ができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/062781号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/066733号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】久保和明他著、「NBS標準蛍光体の量子効率の測定」、照明学会誌、平成11年、第83巻、第2号、p87−p93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のEu固溶β型サイアロンは、蛍光スペクトルの短波長化及び狭帯域化を行った場合、発光効率が著しく低くなり、同じ条件で繰り返し製造しても発光特性の再現性に乏しかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、β型サイアロンの蛍光体としての短波長化や狭帯域化を行った場合でも、高い発光効率を実現できるβ型サイアロンの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、Euを固溶するβ型サイアロンを短波長化及び狭帯域化させる際に、原料粉末の組成、平均粒径、光学特性等の特性とβ型サイアロンの蛍光体としての特性との関係を解析し、原料粉末を特定の範囲に制御することによって高い発光効率を有し、短波長化や狭帯域化させたβ型サイアロンを製造するものである。
【0009】
すなわち、本発明は、原料粉末を焼成する焼成工程を有し、一般式:Si6−zAl8−z:Euで表されるβ型サイアロンの製造方法であって、原料粉末を、Al含有量0.3〜1.2質量%、O含有量0.15〜1質量%、O/Alモル比0.9〜1.3、Si含有量58〜60質量%、N含有量37〜40質量%、N/Siモル比1.25〜1.45及びEu含有量0.3〜0.7質量%とし、焼成工程において、原料粉末を窒化雰囲気中1850〜2050℃の温度範囲で焼成するものであり、製造されるβ型サイアロンが、CIExy色度座標で0.280≦x≦0.340、0.630≦y≦0.675を示すβ型サイアロンの製造方法である。
【0010】
本発明にあっては、原料粉末の一部又は全部がβ型サイアロンである。当該β型サイアロンの455nmの励起波長に対する光吸収率は40%以上であるのが好ましく、原料粉末の粒度は、D50で1μm以上12μm以下、D90で20μm以下であるのが好ましい。
【0011】
原料粉末の電子スピン共鳴スペクトルの計測における25℃でのg=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、好ましくは9.0×1017個/g以下である。
【0012】
焼成工程後にアニール工程を有し、このアニール工程は、真空中1200℃以上1550℃以下の温度範囲で熱処理するアニール工程、又は、窒素分圧10kPa以下の窒素以外のガスを主成分とした不活性雰囲気中1300℃以上1600℃以下の温度で熱処理するアニール工程の一方又は双方であるのが好ましい。
【0013】
焼成工程の後、又は、アニール工程後に酸処理工程を設けることができる。この酸処理工程では、好ましくは、β型サイアロンを65℃以上のHFとHNOを含有させた水溶液に含浸させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、β型サイアロンの蛍光体としての短波長化や狭帯域化を行った場合でも、高い発光効率をよく実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、原料粉末を焼成する焼成工程を有し、一般式:Si6−zAl8−z:Euで表されるβ型サイアロン(以下、単に「β型サイアロン」と呼ぶ)の製造方法であって、原料粉末が、Al含有量0.3〜1.2質量%、O含有量0.15〜1質量%、O/Alモル比0.9〜1.3、Si含有量58〜60質量%、N含有量37〜40質量%、N/Siモル比1.25〜1.45及びEu含有量0.3〜0.7質量%を有し、焼成工程において、原料粉末を窒化雰囲気中1850〜2050℃の温度範囲で焼成し、製造されるβ型サイアロンが、CIExy色度座標で0.280≦x≦0.340、0.630≦y≦0.675を示すβ型サイアロンの製造方法である。
【0016】
本発明の原料粉末は、Al含有量が0.3〜1.2質量%、O含有量が0.15〜1質量%、O/Alモル比が0.9〜1.3、Si含有量が58〜60質量%、N含有量が37〜40質量%、N/Siモル比が1.25〜1.45及びEu含有量が0.3〜0.7質量%となるように調整する。
【0017】
原料粉末のAlの含有量は0.3〜1.2質量%である。原料粉末のAlの含有量は、少ないとβ型サイアロンの発光効率の低下の傾向にあり、多いと短波長化や狭帯域化がなされない傾向にあるためである。
【0018】
原料粉末のOの含有量は0.15〜1質量%である。これは、少ないと焼成時の粒成長が十分に起きず、結晶欠陥が増加し、β型サイアロンの発光効率が低下し、短波長化や狭帯域化が十分できなくなる。酸素の含有量が多すぎると、焼成時の粒成長においてアスペクト比が大きく、短径が細い形態の蛍光体粒子が生成して吸収率が低下すると共に、発光中心であるEuの励起光から蛍光への変換能力が低下し、β型サイアロンの発光効率が低くなるためである。原料粉末のO/Alモル比は、0.9〜1.30である。
【0019】
原料粉末のSiの含有量は58〜60質量%である。これは、少ないと焼成工程中の重量が減少し歩留りが低下する傾向にあり、多いとホスト結晶の透明性が損なわれ、内部量子効率が低下して発光効率が低くなるためである。
【0020】
原料粉末のNの含有量は37〜40質量%である。N/Siモル比は、1.25〜1.45である。N/Siモル比が、高くても低くても、化学量論比に近いβ型サイアロンが形成できないため、十分な発光効率が得られない。
【0021】
原料粉末のEuの含有量は、0.3〜0.7重量%である。Euの含有量が少ないと励起光を十分に緑色光に変換することができず、発光効率が低下する。逆に、Euの含有量が多い場合には、固溶できない過剰のEu原子が粒子間に析出し、励起光や蛍光を一部吸収して発光効率が低下する。
【0022】
原料粉末は、β型サイアロンを構成する元素を含む金属又は化合物の粉末を、熱処理工程により組成の調整と結晶性の改善を行った後に、粉砕処理によって粒度を調整する等の方法により作製できる。
【0023】
本発明のβ型サイアロンの製造方法における焼成工程では、原料粉末を窒化雰囲気中において1850〜2050℃の温度範囲で焼成する。
【0024】
前記焼成工程で得られたβ型サイアロンは蛍光特性を示し、CIExy色度座標で0.280≦x≦0.340、0.630≦y≦0.675の蛍光特性が得られる。
焼成工程では、原料粉末を、少なくともこの原料粉末と当接する表面部分が窒化ホウ素でなる坩堝等の容器内に充填し、窒素雰囲気中で1850〜2050℃の温度範囲で焼成する。これにより、粒成長が生じて粒子の粗大化と、さらなる結晶性の改善が生じる。その結果、Euが効率的に蛍光発光を示すことから、発光効率が向上し、かつ、短波長化及び狭帯域化させたβ型サイアロンが合成される。
【0025】
原料粉末の一部又は全部をβ型サイアロンとしてもよい。この場合、β型サイアロンの455nmの励起波長に対する光吸収率が40%以上であることが好ましい。原料粉末の一部又は全部をβ型サイアロンとする場合、このβ型サイアロンはある程度の蛍光体特性を示すことが望まれる。原料粉末としては、β型サイアロンを構成する元素を含む金属又は化合物の粉末を、熱処理工程を行うことでβ型サイアロンとして作製する。
【0026】
原料粉末の粒度は、D50で1μm以上12μm以下、D90で20μm以下であるのが好ましい。ここで、D50、D90は、それぞれ体積基準の積算分率における50%粒径、90%粒径である。D50の粒径があまりに小さいと焼成時の粒成長が急速に起き、結晶欠陥が増加してβ型サイアロンを用いた蛍光体の発光効率が低下するので好ましくない。逆に、D50の粒径が大きいと十分な粒成長が起こらず、焼成したβ型サイアロンの発光効率が向上しないので好ましくない。D90の粒径が大きい場合には、焼成したβ型サイアロン中に製品として使用できない粗大粒子が多くなり、歩留りが低下するので好ましくない。
【0027】
本発明の原料粉末は、従来の手法に比較的して粒度が大きいため、焼成過程において粒成長に関与しない粒子の存在比率が高くなる。また、原料粉末自体の結晶性が悪いと、焼成によって合成されるβ型サイアロンの結晶性も悪くなり、ホスト結晶の透明性と蛍光特性が低下する。このため、本発明のβ型サイアロンの製造方法においては、原料粉末の結晶性が良好であることが求められる。原料粉末の結晶性を向上させるためには上記したように、原料粉末の一部又は全部をβ型サイアロンとしてよい。
【0028】
原料粉末の電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance、ESRと略記する。)スペクトルの計測における25℃でのg=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、9.0×1017個/g(グラム)以下であるのが好ましい。原料粉末のスピン密度が高いと焼成されるホスト結晶自体において蛍光を発生しないで光吸収が大きくなる。
【0029】
焼成工程後にアニール工程を設けてもよい。このアニール工程では、真空中1200℃以上1550℃以下の温度範囲で熱処理するか、或いは、窒素分圧10kPa以下の窒素ガス以外のガスを主成分とした不活性雰囲気中1300℃以上1600℃以下の温度で熱処理してもよい。アニール工程は二段階で行ってもよい。真空中の熱処理工程の前後で不活性雰囲気中の熱処理を行ってもよい。
【0030】
焼成工程後又はアニール工程後に酸処理する工程を有していてもよい。酸処理工程は、β型サイアロンを65℃以上のHFとHNOを含有させた水溶液に含浸させる工程であるのが好ましい。例えば、HFとHNOとからなる水溶液中において65℃以上の温度で酸処理を行う。酸処理によって焼成工程やアニール工程で生じるβ型サイアロン結晶相以外の非晶質やSi等の結晶からなる不純物が除去され、さらに発光効率が改善される。
【0031】
次に、本発明の実施例について、表1を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
本発明に係る実施例1のβ型サイアロンの製造方法では、原料粉末中のAl量から計算したz値が0.1となる原料粉末を焼成する焼成工程を有し、一般式:Si6−zAl8−z:Euで表されるβ型サイアロンを製造する。実施例1に係る原料粉末は、Al含有量が0.50質量%、O含有量が0.91質量%、O/Alモル比が1.15、Si含有量が59.1質量%、N含有量が38.8質量%、N/Siモル比が1.32、及びEu含有量が0.50質量%となるように調整した。焼成工程では、原料粉末を窒化ホウ素製容器(電気化学工業社製「N−1」グレード)に充填し、0.9MPa加圧窒化雰囲気中2000℃の温度で10時間焼成し、CIExy色度座標で0.280≦x≦0.340、0.630≦y≦0.675を示すβ型サイアロンを合成した。
【0033】
原料粉末のD50は6.0μm、D90は16.6μmであった。D50、D90の測定は、レーザー回折散乱法で行った。
【0034】
実施例1の原料粉末の電子スピン共鳴スペクトルの計測における25℃でのg=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、6.5×1017個/gであった。この測定は次のように行った。
実施例1の蛍光体合成用の原料粉末50mgをESR用の試料管に入れ、25℃でESR測定を行った。測定には、日本電子株式会社製のESR測定装置(JES−FE2XG型)を使用した。測定条件は、以下の通りであった。
磁場掃引範囲:3200〜3400gauss(320〜340mT)
磁場変調:100kHz、5gauss
照射マイクロ波:周波数9.25GHz、出力10mW
掃引時間:240秒
データポイント数:2056ポイント
標準試料:MgOにMn2+を熱拡散させたものを実施例1の試料と同時に測定した。
【0035】
ESRスペクトルは、電磁波の吸収スペクトルの凹凸を鋭敏に観測するため、通常、一次微分曲線として観測される。その吸収強度がスピン数に比例するので、ESRスペクトルを2回積分して微分曲線を積分曲線に直し、標準試料との面積比から定量した。
【0036】
標準試料のスピン数は、スピン数が既知である1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル((CNNC(NO、以下、DPPHという。)の1.0×10−5mol/Lベンゼン溶液0.5mL(3.0×1015spins)についてESR測定を行い、標準試料とDPPH溶液のピーク面積比から求めた。
【0037】
上記焼成工程で得られた焼結物は、緩く凝集した塊状であり、清浄なゴム手袋を着用して人手で軽くほぐすことができた。こうして、軽度の解砕を行った後、目開き45μmの篩を通してβ型サイアロンの焼結粉末を製造した。
【0038】
製造した焼結粉末に対して、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行い、結晶相の同定を行った結果、結晶相としてβ型サイアロンと第二相として2θ=33〜38°付近に複数の微小な回折線が観察された。第二相の中で最も高い回折線強度はβ型サイアロンの(101)面の回折線強度に対して、1%以下であった。
円筒型窒化ホウ素製容器に上記の焼結粉末を充填し、大気圧のAr雰囲気中、1450℃で8時間の加熱処理を行った。得られた粉末は、焼結に伴う収縮はなく、加熱前とほとんど同じ性状であり、目開き45μmの篩を全て通過した。XRD測定の結果、微量のSiが検出された。この粉末を50%フッ化水素酸と70%硝酸の1:1混酸中、70℃の温度で処理した。その後、水洗及び乾燥して実施例1のβ型サイアロン粉末を得た。再びXRD測定を行った結果、β型サイアロン以外の回折ピークは検出されなかった。
【0039】
表1に実施例と比較例に係るβ型サイアロンの製造方法における条件と、その製造方法によって製造されたβ型サイアロンの評価結果を示す。
【表1】

【0040】
実施例1の製造方法で用いた原料粉末の455nmの励起波長に対する光吸収率は、50.9%であった。光吸収率の測定は、瞬間マルチ測光システム(大塚電子社製、MCPD−7000)で行った。
【0041】
実施例1の製造方法で製造されたβ型サイアロンにおける発光ピーク強度は、196%であった。発光特性の測定にあっては、分光蛍光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、F4500)を用いて、蛍光スペクトルの測定を行った。455nmの青色光を励起光とした場合における蛍光スペクトルのピーク波長の高さを測定し、同条件にて測定したYAG:Ce:蛍光体(化成オプト社製、P46−Y3)から測定したピーク波長の高さに対する相対値を発光ピーク強度として求めた。励起光には、分光したキセノンランプ光源を使用した。
【0042】
実施例1の製造方法で製造されたβ型サイアロンの蛍光スペクトルのCIE色度xは、0.336、CIE色度yは0.637であった。蛍光スペクトルは、瞬間マルチ測光システム(大塚電子社製、MCPD−7000)を使用し、積分球を用いて455nmの励起に対する蛍光を集光した全光束の蛍光スペクトル測定で求めた(非特許文献1参照)。
【実施例2】
【0043】
実施例2の原料粉末は、原料粉末中のAl量から計算したz値が0.1であり、Eu含有量、Al含有量、O含有量、Si含有量、N含有量は、それぞれ0.56、0.91、0.52、58.8、39.1質量%であり、O/Alモル比は、0.96、N/Siモル比は1.33であった。
【0044】
実施例1と同じ方法で原料粉末の粒度及び結晶性の評価を行った。原料粉末の粒度は、D50が6.2μm、D90が14.2μmであった。原料粉末のESR測定において、g=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、2.1×1017個/gであった。原料粉末における455nmの励起波長に対する光吸収率は、58.0%であった。
【0045】
上記原料粉末を用いて、実施例1と同じ条件にてβ型サイアロンを製造した。
次に、実施例1と同様の方法で蛍光体の評価を行った。実施例2のβ型サイアロンの発光ピーク強度は201%であり、CIE色度は、x=0.332、y=0.640であった。
【実施例3】
【0046】
実施例3の原料粉末は、原料粉末中のAl量から計算したz値が0.08であり、Eu含有量、Al含有量、O含有量、Si含有量、N含有量を測定した結果、それぞれ0.55、0.76、0.47、58.7、39.4質量%であり、O/Alモル比は、1.04、N/Siモル比は1.35であった。
【0047】
実施例1と同じ方法で原料粉末の粒度及び結晶性の評価を行った。原料粉末の粒度は、D50が6.0μm、D90が15.1μmであった。原料粉末のESR測定において、g=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、2.0×1017個/gであった。原料粉末の455nmの励起波長に対する光吸収率は、48.7%であった。
【0048】
上記原料粉末を用いて、実施例1と同じ条件にてβ型サイアロンを製造した。
次に、実施例1と同じ方法で、蛍光体の評価を行った。
実施例3のβ型サイアロンを用いた蛍光体の発光ピーク強度は195%であり、CIE色度は、x=0.327、y=0.645であった。
【実施例4】
【0049】
実施例4の原料粉末は、原料粉末中のAl量から計算したz値が0.06であり、Eu含有量、Al含有量、O含有量、Si含有量、N含有量を測定した結果、それぞれ0.41、0.59、0.43、59.1、39.3質量%であり、O/Alモル比は、1.23、N/Siモル比は1.33であった。
【0050】
実施例1と同じ方法で原料粉末の粒度及び結晶性の評価を行った。原料粉末の粒度は、D50が5.1μm、D90が16.3μmであった。原料粉末のESR測定において、g=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、2.4×1017個/gであった。原料粉末において、455nmの励起波長に対する光吸収率は、45.2%であった。
【0051】
上記原料粉末を用いて、実施例1と同じ条件にてβ型サイアロンを製造した。
次に、実施例1と同じ方法で蛍光体としての評価を行った。実施例4のβ型サイアロンの発光ピーク強度は183%であり、CIE色度は、x=0.319、y=0.650であった。
【0052】
次に、比較例について説明する。
(比較例1)
比較例1の原料粉末は、α型窒化ケイ素粉末(宇部興産社製、E10グレード、O含有量1.17質量%)、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、Fグレード、O含有量0.84質量%)、酸化アルミニウム粉末(大明化学社製、TM−DAR」、グレード)、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業社製、RUグレード)の混合粉を用いた。原料粉末中のAl量から計算したz値が0.25であり、酸化ユーロピウム粉末を0.29モル%となるように、窒化ケイ素粉末95.50質量%、窒化アルミニウム粉末3.32質量%、酸化アルミニウム粉末0.39質量%及び酸化ユーロピウム粉末0.79質量%を配合し、これらの原料粉末を混合し、実施例1とは異なる粒度となるようにしてβ型サイアロン合成用の原料粉末とした。これら以外の条件は、実施例1と同じ条件で比較例1のβ型サイアロンを作製した。
【0053】
比較例1の原料粉末のEu含有量、Al含有量、O含有量、Si含有量、N含有量を測定した結果、それぞれ0.68、2.39、1.44、57.4、37.9質量%であり、O/Alモル比は、1.32、N/Siモル比は1.32であった。
【0054】
原料粉末の粒度及び結晶性の評価を行った。原料粉末の粒度は、D50が0.65μm、D90が2.0μmであった。原料粉末のESR測定において、g=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、2.6×1018個/gとなった。455nmの励起波長に対する光吸収率は、22.6%であった。
【0055】
次に、実施例1と同じ方法で、蛍光体としての評価を行った。
比較例1のβ型サイアロンの発光ピーク強度は206%であり、CIE色度は、x=0.356、y=0.623であった。これにより、比較例1のβ型サイアロンは、発光強度は高いものの、原料粉末のAlとOの含有量が高いことから、CIE色度xの値が大きく、CIE色度yの値が小さいものであった。従って、比較例1のβ型サイアロンは、実施例1〜4のβ型サイアロンと比較して、蛍光波長の短波長化や狭帯域化が実現できなかった。
【0056】
(比較例2)
比較例2の原料粉末は、原料粉中のAl量から計算したz値が0.1、酸化ユーロピウム粉末が0.29モル%となるように、窒化ケイ素粉末97.8質量%、窒化アルミニウム粉末1.5質量%、酸化ユーロピウム粉末0.77質量%を配合して、実施例1とは異なる粒度となるようにして蛍光体合成用の原料粉末とした。これら以外の条件は、実施例1と同じ条件で、比較例2のβ型サイアロンを作製した。
【0057】
原料粉末のEu含有量、Al含有量、O含有量、Si含有量、N含有量を測定した結果、それぞれ0.70、0.95、1.27、58.5、38.5質量%であり、O/Alモル比は、2.25、N/Siモル比は1.32であった。
【0058】
比較例2の原料粉末の粒度及び結晶性の評価を行った。比較例2の原料粉末の粒度は、D50が0.62μm、D90が1.9μmであった。比較例2の原料粉末のESR測定において、g=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度は、2.5×1018個/gとなった。比較例2の原料粉末では455nmの励起波長に対する光吸収率は、23.5%であった。
【0059】
次に、実施例1と同じ方法で蛍光体としての評価を行った。比較例2のβ型サイアロンの発光ピーク強度は73%であり、CIE色度は、x=0.308、y=0.649であった。
【0060】
比較例2のβ型サイアロンは、原料粉末のAl含有量が低いことから、色度xの値が低く、色度yの値が高く、つまり、短波長化や狭帯域化されている。β型サイアロンのAlとOのモル比率は、1対1であることが結晶の電荷バランス上必要である。短波長化や狭帯域化を行うために、実施例1〜4ではO量とAl量を低減させてz値を小さくしている。しかしながら、比較例2のβ型サイアロンは、窒化ケイ素粉末と窒化アルミニウム粉末の不純物酸素と酸化ユーロピウムに含まれる酸素により、原料粉末中のAlに対するOのモル比率が、1よりも著しく大きな2.25であることから、発光効率が低下した。さらに、原料粉末の平均粒径が小さく、結晶欠陥が大きいことから、発光ピーク強度は著しく低い値となった。
【0061】
実施例1〜4のβ型サイアロンは、何れも発光強度が高くなった。実施例1〜4のβ型サイアロンの発光は、CIExy色度において、0.319<x<0.336、0.637<y<0.650であり、短波長化と狭帯域化が図られていることが分かった。
【0062】
本発明の実施例1乃至10のβ型サイアロンは、350〜500nmの波長の光を発する紫外LED又は青色LEDを励起光として、強度の高い緑色を発光させることができる。このため、上述の実験例の蛍光体に加えて他色発光する別の蛍光体を組み合わせて用いることで、発光特性の良好な白色LEDを実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のβ型サイアロンを用いた蛍光体は、紫外から青色光の幅広い波長で励起され、高発光効率で短波長化や狭帯域化された緑色発光を示すことから、青色光又は紫外光を光源とする白色LEDの蛍光体として好適に使用できるものであり、液晶ディスプレイパネルのバックライト用の色再現域が広範囲な白色LEDなどに好適に使用できる。
【0064】
さらに、本発明のβ型サイアロンを用いた蛍光体は、高温での輝度低下が少なく、また耐熱性や耐湿性に優れることから、上記の照明器具や画像表示装置分野に適用すれば、使用環境温度の変化に対する輝度及び発光色の変化が小さく、長期間の安定性にも優れた特性を発揮できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を焼成する焼成工程を有し、一般式:Si6−zAl8−z:Euで表されるβ型サイアロンの製造方法であって、
前記原料粉末が、Al含有量0.3〜1.2質量%、O含有量0.15〜1質量%、O/Alモル比0.9〜1.3、Si含有量58〜60質量%、N含有量37〜40質量%、N/Siモル比1.25〜1.45、及びEu含有量0.3〜0.7質量%を有し、
前記焼成工程が、前記原料粉末を窒化雰囲気中1850〜2050℃の温度範囲で焼成する焼成工程であり、
製造されるβ型サイアロンが、CIExy色度座標で0.280≦x≦0.340、0.630≦y≦0.675を示すβ型サイアロンの製造方法。
【請求項2】
前記原料粉末の一部又は全部がβ型サイアロンであり、当該β型サイアロンの455nmの励起波長に対する光吸収率が40%以上である請求項1に記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項3】
前記原料粉末の粒度が、D50で1μm以上12μm以下、D90で20μm以下である請求項1又は2に記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項4】
前記原料粉末の電子スピン共鳴スペクトルの計測における25℃でのg=2.00±0.02の吸収に対応するスピン密度が、9.0×1017個/g以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程後にアニール工程を有し、該アニール工程が、真空中1200℃以上1550℃以下の温度範囲で熱処理するアニール工程、又は、窒素分圧10kPa以下の窒素以外のガスを主成分とした不活性雰囲気中1300℃以上1600℃以下の温度範囲で熱処理するアニール工程の一方又は双方である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のβ型サイアロンの製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程の後又は前記アニール工程の後に酸処理工程を設け、該酸処理工程において、前記β型サイアロンを65℃以上のHFとHNOを含有させた水溶液に含浸させる請求項1乃至5のいずれか一項に記載のβ型サイアロンの製造方法。

【公開番号】特開2012−57071(P2012−57071A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202512(P2010−202512)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】