説明

β線量測定方法及びβ線量測定装置

【課題】核種に関係なくβ線量を確実に計測することである。
【解決手段】β線検出器2からの出力信号に基づいてβ線量を測定するβ線量測定方法であって、前記出力信号により整形されたパルス信号を波高値に応じて弁別して計数し、前記波高値とその計数値とを掛け合わせて得られた値を積算し、その積算値に基づいてβ線量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β線量測定方法及びβ線量測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
β線検出器は、特許文献1に示すように、β線が入射するとシンチレーション光(蛍光)を発するプラスチックシンチレータと、そのシンチレーション光を吸収して異なる波長のシンチレーション光に変換する波長変換ファイバと、その波長変換ファイバによって伝播した光を捉える光電子増倍管と、を備えている。
【0003】
ここで、従来のβ線量の測定方法について図4を参照して説明する。
【0004】
β線(β放射線)がプラスチックシンチレータに入射すると(ステップSb1)、β線のエネルギが青色のシンチレーション光(波長430nm)に変換される(ステップSb2)。当該シンチレーション光は、波長変換ファイバの側面から波長変換ファイバ内に入射する(ステップSb3)。そうすると、そのシンチレーション光は、異なる波長の光に変換される。この光がファイバ内を全反射して光電子増倍管に伝達される(ステップSb4)。受光した光電子増倍管は、光電効果により電流を出力する(ステップSb5)。そして、電流電圧変換を行い、波高分析器により、この電圧を波高値に比例したチャンネルに割り当てて、順次カウントする(ステップSb6)。各チャンネル毎にβ線数をカウントして、スペクトル表示する(ステップSb7)。
【0005】
このように、従来のβ線測定方法は、β検出器に入射するβ線の線量を計数して、その計数値によりβ線量を把握することが一般的である(参考 JIS Z4504(放射性表面汚染の測定方法))。
【0006】
しかしながら、β線は、ゼロエネルギから核種に固有の最大エネルギまで連続的にエネルギスペクトルが分布する特性を持つ。これにより、β線が微少になれば、入力であるβ線のエネルギとノイズとの分離が極めて難しい。その結果、正確なβ線量を測定することができないという問題がある。
【0007】
また、従来のβ線測定方法においては、核種毎にそのβ線量を測定しており、β線検出器により得られたパルス信号を波高分析器により、一定の大きさ以上を持ったパルスのみをパルスカウンタにより計数する。これにより、ノイズを除去し、特定の核種からのパルス信号を選択的に計数するようにしている。
【0008】
しかしながら、上述したように、β線のエネルギは、連続的なスペクトル特性を持つため、特定の核種からのパルス信号を選択的に計数することが出来ない。そして、従来、このような計数を確実に行うために種々の手法が考えられている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平9−159769号公報
【特許文献2】特開平9−33660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような中、本願発明者は、β線検出器へ入射するβ線のエネルギと検出エネルギとの間に特性相関があることを確認し、核種間で直線性が得られることを発見した。
【0010】
そこで本発明は、上記発見に基づいて、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、核種に関係なくβ線量を確実に計測することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係るβ線量測定方法は、β線検出器からの出力信号に基づいてβ線量を測定するβ線量測定方法であって、前記出力信号より整形されたパルス信号を波高値に応じて弁別して計数し、前記波高値と前記波高値の計数値とを掛け合わせて得られた値を積算し、その積算値に基づいてβ線量を測定することを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、β線の核種に関係なく入力エネルギに比例した出力を得ることができるので、核種に関係なくβ線量を測定することができる。また、核種による補正相関を考慮する必要も無い。
【0013】
β線検出器からのパルス信号を波高値に応じて弁別して計数するためにマルチチャンネルアナライザを用いることが望ましい。
【0014】
また、前記積算値が、Σ(Ci×mi)(i=1,2,3,…、ここで、kは環境温度により定まる定数、Cはチャンネル数、mは各チャンネルにおける計数値を示す。)であることが挙げられる。
【0015】
上記方法を好適に実現するためのβ線量測定装置は、β線が入射すると蛍光を発し、その蛍光を電気信号に変換して出力するβ線検出器と、前記β線検出器からの電気信号をパルス信号に波形整形する波形整形回路と、前記波形整形回路からのパルス信号を波高値に応じて弁別して計数する波高分析器と、前記波高分析器により得られた各波高値毎の計数値とその波高値とを掛け合わせる掛け算器と、当該掛け算器により得られた掛け算値を各波高値毎に足し合わせる加算器と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、β線の核種に関係なく入力エネルギに比例した出力を得ることができるので、核種に関係なくβ線量を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図1はβ線量測定装置の模式的構成図である。図2はβ線量測定方法を示すフローチャートである。
【0018】
<装置構成>
本実施形態に係るβ線量測定装置1は、図1に示すように、β線が入射すると蛍光を発し、その蛍光を電気信号に変換して出力するβ線検出器2と、前記β線検出器2からの電気信号の時間応答を整形する波形整形回路32と、前記波形整形回路32からのパルス信号を波高値に応じて弁別して計数する波高分析器4と、前記波高分析器4により得られた各波高値毎の計数値とその波高値とを掛け合わせる掛け算器5と、当該掛け算器5により得られた掛け算値を各波高値毎に足し合わせる加算器6と、を具備する。
【0019】
以下、各部2〜5について説明する。
【0020】
β線検出器2は、放射線入射面を備えたプラスチックシンチレータ21と、当該プラスチックシンチレータ21の放射線入射面反対側に備えた複数本の波長変換ファイバ22と、波長変換ファイバ22を透過した蛍光を波長変換ファイバ22側に反射させる反射板23と、前記波長変換ファイバ22により伝播された蛍光を電気信号に変換する光電子増倍管24と、を備えている。
【0021】
プラスチックシンチレータ21は、β線が入射すると蛍光(シンチレーション光)を発し、β線のエネルギを蛍光に変換するものである。その一方の面に、β線などの放射線が入射する放射線入射面を有し、他方の面に、蛍光を射出する光射出面を有している。
【0022】
波長変換ファイバ22は、光射出面に隣接又は密着させて配置されており、プラスチックシンチレータ21の幅方向の距離に対応した所定本数分だけ平面状に並べてある。波長変換ファイバ22は、プラスチックシンチレータ21で生じた蛍光(シンチレーション光)が入射すると異なる波長の蛍光を発生し、その蛍光をファイバ軸方向に伝達する。
【0023】
光電子増倍管24は、波長変換ファイバ22の端部に接続され、波長変換ファイバ22から伝達された蛍光を電気信号に変換して、信号処理部3に出力するものである。
【0024】
信号処理部3は、前記光電子増倍管24からの出力信号を受信して、当該出力信号を増幅する増幅回路31と、増幅された出力信号をβ線のエネルギに応じた(比例した)波高値を有するパルス波形状の信号(パルス信号)に波形整形して、その信号を波高分析器4に出力する波形整形回路32を有している。
【0025】
なお、波形整形回路32と波高分析器4との間には、波形整形回路32により得られたパルス信号をデジタル信号に変換するA/D変換器(図示しない)が設けられている。
【0026】
波高分析器4は、波形整形回路32によって波形整形されたパルス信号を、その波高値に応じて弁別し、所定時間(例えば100秒間)、波高値毎にそれぞれ計数して、その結果得られた波高分析値(波高値とその波高値の計数値との組み合わせを示すデータ)を掛け算器5に出力する。
【0027】
本実施形態の波高分析器4は、マルチチャンネルアナライザ(マルチチャンネル波高分析器)である。マルチチャンネルアナライザ4は、入力されたパルス信号の波高を識別し、対応するチャンネルに割り当てて順次カウントする。
【0028】
掛け算器5は、波高分析器4から波高分析値を取得して、各波高値における計数値とその波高値とを掛け算するものである。
【0029】
加算器6は、前記掛け算器5により算出された各波高値における掛け算値をそれぞれ足し合わせるものである。本実施形態では、各チャンネルにおける掛け算値を積算する。また、加算器6は、その積算値において、波高値をチャンネル値によって正規化する。そして、その積算結果をエネルギ積算値として出力部7に送信する。
【0030】
次に、本実施形態に係るβ線量測定方法について、図2を参照して説明する。
【0031】
β線検出器2にβ線が入射すると、光電子増倍管24から信号処理部3に電気信号が出力される。そして、信号処理部3の波形整形回路32は、β線の入射エネルギに比例した波高値を有するパルス信号を生成する(ステップSa1)。
【0032】
波形整形回路32により生成されたパルス信号の波高値をMとすると、波高分析器4は、Mを波高値の大きさに応じてnチャンネルに割り当てて、その波高値の大きさM毎に弁別する(ステップSa2)。
【0033】
そして、波高分析器4が各M毎にその数をカウントする。その計数値をmとする(ステップSa3)。
【0034】
そして、波高分析器4は、得られた各波高値の大きさMとその波高値Mの計数値mとの組み合わせを示す波高分析値を掛け算器5に出力する。
【0035】
掛け算器5は、取得した波高分析値に基づいて、波高値M×計数値m(以下、M×m値(i=1,2,3,…)という。)を算出して、加算器6に出力する(ステップSa4)。
【0036】
加算器6は、掛け算器5から取得したM×m値を全てのチャンネルにおいて足し合わせる。これにより、積算値(Σ(M×m))が算出される(ステップSa5)。
【0037】
その結果得られた積算値(Σ(M×m))に環境温度により定まる定数kを掛け合わせて、k×Σ(M×m)(i=1,2,3,…)を得る(ステップSa6)。
【0038】
次に、所定の波高値Mをチャンネル値(C)として正規化すれば、MをC値に置き換えて(ステップSa7)、以下の式に示すように、β線の入力エネルギyとの比例関係が成立する。
【0039】
y=k×Σ(C×m) (i=1,2,3,…)
【0040】
すなわち、β線の入力エネルギに比例した出力(エネルギ積算値)を得ることができる。なお、上記ステップSa6とステップSa7とは順番が逆であっても良い。
【0041】
次に、本実施形態のβ線量測定装置1を用いて、高温環境下及び低温環境下での出力yを確認した結果を図3に示す。
【0042】
入力としては、99Tc、60Co、113Sn各標準線源でのエネルギを入射する。なお、標準線源は、単位時間当たりに放射されるβ線の数が決められたものである。
【0043】
このとき、上記で求めたΣ(Ci×mi)は、
【0044】
Σ(Ci×mi)=K×{(線源の公称放射線量)×(評価用核種のエネルギ)}・・・(式1)
【0045】
という関係がある。なお、Kは比例定数である。
【0046】
ここで、評価用核種エネルギは、広範なエネルギレベルに広がっており、評価用核種の平均的なエネルギは、その最大エネルギの1/3であることがわかっている。したがって、上記(式1)の評価用核種エネルギは、評価用核種(標準線源)の最大エネルギの1/3を用いれば良い。
【0047】
縦軸を「Σ(Ci×mi)」、横軸を「(線源の公称放射線量)×(評価用核種のエネルギ)」として、β線検出器2の評価計測特性を図3に示す。
【0048】
このようにして図3に示される、入出力関係を、装置の使用環境の変化(温度変動等)に対して把握することで、安定性の良い設計条件を見出すための評価方法として活用することができる。
【0049】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係るβ線量測定装置1によれば、β線の核種に関係なく入力エネルギに比例した出力を得ることができるので、核種に関係なくβ線量を測定することができる。また、核種による補正相関を考慮する必要も無い。さらに、入力エネルギに比例した出力を得ることができるので、計数値による出力よりも、核種の違いによる出力の直線性を良くすることができる。その結果、β線検出器2の検出効率や温度安定性などの評価を行うことができる。
【0050】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0051】
例えば、前記実施形態では、プラスチックシンチレータ21を用いたものであったが、その他のβ線検出用のシンチレータを用いても良い。
【0052】
また、前記実施形態では、チャンネル数(C)で正規化しているが、正規化せずに、y’=k×Σ(M×m)(i=1,2,3,…)としてβ線の入力エネルギy’を算出して出力するようにしても良い。
【0053】
さらに、掛け算器5は、M×m値を算出するものでなく、チャンネル値Cとその計数値mとの掛け算をするものであっても良い。
【0054】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態に係るβ線量測定装置の模式的構成図。
【図2】同実施形態におけるβ線検出器を用いたβ線量測定方法をフローチャート。
【図3】同実施形態におけるβ線量測定装置の評価計測特性を示す図。
【図4】従来のβ線量測定方法を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0056】
1・・・・β線量測定装置
2・・・・β線検出器
3・・・・信号処理部
32・・・波形整形回路
4・・・・波高分析器(マルチチャンネルアナライザ)
5・・・・掛け算器
6・・・・加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β線検出器からの出力信号に基づいてβ線量を測定するβ線量測定方法であって、
前記出力信号より整形されたパルス信号を波高値に応じて弁別して計数し、前記波高値とその計数値とを掛け合わせて得られた値を積算し、その積算値に基づいてβ線量を測定するβ線量測定方法。
【請求項2】
マルチチャンネルアナライザを用いて前記β線検出器からのパルス信号を波高値に応じて弁別して計数する請求項1記載のβ線量測定方法。
【請求項3】
前記積算値が、
Σ(Ci×mi)(i=1,2,3,…、ここで、Cはチャンネル数、mは各チャンネルにおける計数値を示す。)である請求項2記載のβ線量測定方法。
【請求項4】
β線が入射すると蛍光を発し、その蛍光を電気信号に変換して出力するβ線検出器と、
前記β線検出器からの電気信号をパルス信号に波形整形する波形整形回路と、
前記波形整形回路からのパルス信号を波高値に応じて弁別して計数する波高分析器と、
前記波高分析器により得られた各波高値毎の計数値とその波高値とを掛け合わせる掛け算器と、
当該掛け算器により得られた掛け算値を各波高値毎に足し合わせる加算器と、を具備するβ線量検出装置。
【請求項5】
前記波高分析器が、マルチチャンネルアナライザである請求項4記載のβ線量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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