「CEST」用途のための、磁気共鳴シフト試薬と交換性プロトンを含有する基質との付加物
鉄(II)(高スピン配置)、鉄(III)、コバルト(II)、ロジウム(II)、銅(II)、ニッケル(II)、セリウム(III)、プラセオジム(III)、ネオジム(III)、ジスプロシウム(III)、エルビウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、ツリウム(III)、イッテルビウム(III)及びユーロピウム(III)から選択される金属を含有する常磁性キレート(SR)に結合した、可動プロトンを含有する基質(SH)を含む常磁性CEST剤を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和移動を使用して画像コントラストを創り出す磁気共鳴画像診断(MRI)法に有用な常磁性付加物に関する。
【0002】
発明の背景
組織中への可動プロトンの照射によるMRI画像におけるコントラストの生成はUS5,050,609ですでに報告されている。水と引き換えに少なくとも1個の可動プロトンを含有する外来性コントラスト剤(当初CEDST剤と呼ばれ、今はCEST剤と呼ばれている)の使用がWO00/66180に開示されている。この文献は、常磁性錯体をCEST剤として使用する可能性を明示的には述べていない。好ましい化合物は、反磁性分子、たとえば糖、アミノ酸、複素環式化合物、ヌクレオシド、イミダゾール類及び誘導体、グアニジンなどである。
【0003】
この同じ文献はまた、磁気的に不等な2組の可動プロトンを有するコントラスト剤を投与することによってpH、温度及び代謝産物濃度をインビトロ及びインビボ測定する方法を特許請求している。2種のプールの選択的照射及び比率計測法の適用が、移動効果を造影剤の濃度から独立して計測することを可能にする。飽和移動は、CEST剤の可動プロトンがバルク水と融合しない、すなわち、2組の可動プロトンの共鳴周波数の間の距離が交換速度よりも大きくなければならないことを暗示する。そのうえ、移動の程度は、CEST剤のプロトンの交換速度と正比例し、それは、2個の交換シグナルの共鳴周波数の距離の増大が飽和移動の効率を高めることを意味する。したがって、CEST常磁性コントラスト剤の使用は、診断対象のパラメータ、たとえばpH、温度、代謝産物濃度などに敏感であることができる飽和移動(US5,050,609で例示されている反磁性化合物の飽和移動よりも良好)を有する可動プロトンをもつ常磁性錯体の使用を特許請求するWO02/43775で考慮されている。
【0004】
しかし、バルク水と引き換えにプロトンを有する基質(US5,050,609で例示されているものに類似するタイプを含む)と、バルク水からの共鳴周波数の距離を増すことができる常磁性錯体とによって形成される非共有結合性付加物により構成されるCEST剤系を使用する可能性は、上述の文書でも文献でも考慮されていない。この手法により、常磁性剤は、交換性プロトンを含有する化合物の性質に対するそのシフト試薬(SR)特性に基づいて選択される。
【0005】
発明の詳細な説明
本発明は、飽和移動を観察するために照射されなければならない可動プロトンの化学シフトが、基質と、鉄(II)(高スピン配置)、鉄(III)、コバルト(II)、ロジウム(II)、銅(II)、ニッケル(II)、セリウム(III)、プラセオジム(III)、ネオジム(III)、ジスプロシウム(III)、エルビウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、ツリウム(III)、イッテルビウム(III)及びユーロピウム(III)から選択される金属を含有する常磁性キレート化合物との相互作用の結果として適切に「シフト」されている、常磁性CEST剤の調製及び使用に関する。可動プロトンは、反磁性又は常磁性基質に属することができるが、後者の場合、それらの化学シフトは、常磁性種との非共有結合性相互作用によって影響を受けるものとする。
【0006】
したがって、本発明の第一の態様は、反磁性基質と可逆的に相互作用する常磁性キレート化合物(SR単位)に静電気的相互作用又は共有結合によって結合した、可動プロトン(SH単位)を含有する反磁性基質によって構成される常磁性CEST剤に関する。
【0007】
本発明はまた、先に定義したCEST剤を適切な賦形剤と混合した状態で含有する診断組成物に関する。
【0008】
可動プロトンを有する分子としては、US5,050,609及びWO00/66180にすでに記載されているすべての分子、特に好ましくは直鎖状及び大環式ポリアミン、たとえばシクレン(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン)、ポリアミノ酸、たとえばポリアルギニン、タンパク質、たとえばヒト血清アルブミン、多糖類、ポリシクロデキストリン、合成ポリマー(ポリアミドアミン、ペルアミド化ポリアミノ酸及びアミド基を含むデンドリマー)を使用することができる。シクレン、ポリアルギニン及びアルブミンが特に好ましい。
【0009】
また、交換可能なプロトンは、SH基質との相互作用ののち、付加物[(SR)(SH)]の性質によってバルク水シグナルから「シフト」され、それと適切な交換状態になる水分子に属することができる。このカテゴリーのSH物質としては、多糖系、特に、水分子及びSR単位をトラップすることができる超分子凝集体を形成する系がある。この概念のさらなる拡張は、SR及び水分子が同じ区画にトラップされ、同時に、水分子(化学シフトがSR単位によって影響される)がバルク水と適切な交換状態にある系を含む。この区画化を得るために使用することができる系の非限定的なリストは、リポソーム、ナノ及びミクロ小胞系、タンパク質キャビティ及びセルを含む。
【0010】
本発明の付加物は、可動プロトンを有する分子を常磁性キレート化合物と共に、基質とSR単位との間の親和力に依存する適切なモル比で単に混合することによって調製することができる。
【0011】
【化2】
【0012】
この親和力は、熱力学的会合定数(KA)の値によって表すことができ、この値が10よりも大きくなければならない。そして、クロマトグラフィー技術及び/又は凍結乾燥、沈殿、蒸発などによって付加物を単離し、精製することができる。
【0013】
本発明の第一の実施態様によると、SR単位は、可動プロトンを含有する基質分子部分を認識して可動プロトンの化学シフトに有意に影響することができる化学特性を有する。たとえば、[LnDOTP]4-(Lnはランタニドである)と、好ましい基質であるシクレン、ポリアルギニン及びHSAとの付加物の場合、相互作用は静電気的結合によって起こる。
【0014】
基質とSR単位との間の静電気的相互作用に関する他の例は、[LnDOTP]4-が反磁性分子、たとえばCo(III)サルコファジン、Co(III)(エチレンジアミン)3及びアグマチンの可動プロトンの化学シフト値に影響することができる場合の例である。
【0015】
基質−SR単位の認識はまた、疎水性相互作用(たとえばポリシクロデキストリンの場合)又は混合相互作用(たとえばタンパク質の場合)を介して起こることができる。
【0016】
あるいはまた、SR単位は、高い生体適合性を有するポリマー系、たとえばヒドロゲル又は架橋タンパク質中にトラップされて、これらの系中に存在する低速交換性水分子に対してその効果を発揮することができる。
【0017】
他の対象の系は、区画化の効果の結果として、交換可能なプロトンのプール間の区別が生ずる系である。
【0018】
本発明のこの実施態様によると、SR単位及びSH基質は、水(SR単位及び基質とは違って)を区画の内外で自由に交換することができる適切な生体適合性系、たとえばリポソーム、ナノ粒子、マイクロエマルション及びタンパク質キャビティ(たとえばアポフェリチン)中で区画化することができる。このように、SR単位の効果はまた、区画中の基質の可動プロトンの相互作用を要することなくそれらの共鳴周波数に影響することができる磁化性の簡単な変化によって、発揮させることができ、基質の可動プロトンの照射周波数をほぼ一定にする利点を有する。
【0019】
区画の内と外との間での水交換の速度が非常に遅い系の中でSH−SR剤が区画化され、かつ単位を含む区画中の水の量がMR画像中でそれを観察するのに十分である場合、SRの局所濃度の増大及び可動プロトンを含む基質の増大によって飽和移動の効果を相当に増すことができる。
【0020】
あるいはまた、バルク水シグナルの共鳴だけに影響するためのシフト剤を選択することもできる。この効果は、いずれにしても、水と基質との間で共鳴周波数の距離を増し、それにより、基質の可動プロトンの照射を可能にするであろう。CESTに関連しないこの種の例がOttingら(J. Am. Chem. Soc., 1991, 113, 4363)によって報告されている。Ottingらは、Co(II)を使用してバルク水シグナルを「シフト」させ、それにより、シフト剤が侵入することができないタンパク質BPTIの部位にトラップされた水分子の観察を可能にしている。
【0021】
また、SR単位とSR単位とを共有結合によって共役化して、二つの単位の同じ生体分布をインビボで保証することもできる。この場合、SR単位の効果は、SH単位のプロトンに対して分子内的には発揮されないが、自己同定/自己凝集の機構を介して、分子間的に発揮される。
【0022】
このカテゴリーの好ましい化合物は以下の化合物である。
【0023】
【化3】
【0024】
この化合物では、分子間自己同定が、1個の分子の負荷電SR単位と別の分子の正ポリアルギニン鎖との間で起こる。HIV−1ウイルスのペプチド断片48〜60を連想させる構造モチーフ(Arg)8について、細胞によって認識され、内在化される能力が知られているという事実によってこの化合物における側鎖上のアルギニン残基の数の選択は、一部には決定される(Suzuki et al., J. Biol. Chem., 2002, 277, 2437)。
【0025】
この化合物は、以下の合成式にしたがって調製することができる。
【0026】
【化4】
【0027】
提案されている診断用途の場合、本発明の薬剤は、非経口投与に適した適切な組成物として処方される。
【0028】
本発明の診断組成物は、診断対象の化学−物理的パラメータ、たとえばヒト又は動物の組織又は身体中の温度、pH、代謝産物濃度、O2及びCO2分圧ならびに酵素活性をCEST法によって測定するために使用することができる。このために、好ましい診断組成物は、磁気的に異なる2組の可動プロトンを含有するべきであり、好ましくはそれらの移動効果が対象の化学−物理的パラメータに対して異なるべきである。このようにして、比率計測法(WO00/66180にすでに記載)を使用することにより、診断組成物の局所濃度から独立して診断パラメータを測定することが可能である。
【0029】
もう一つの好ましい実施態様は、そのような系を使用して内皮透過性に関する情報を得る可能性に関する。このために、従来の診断剤(すなわち、水プロトンのT1又はT2に基づく診断剤)(Min-Ying S. et al, Magn. Res. Med. 1998, 39, 259-269)は現在、DCE−MRI(DCE=ダイナミックコントラスト増強)技術とともに使用されている。方法は、異なる大きさの診断剤(そのままで、又はHSAのような高分子と相互作用させた後)を投与して毛細血管の透過性を評価することを含む。毛管透過性の定量的評価は、異なる診断剤の連続的な使用を要する動力学的実験で実施される。しかし、CEST法を使用すると、診断系のシグナルの選択的照射によってコントラストを「刺激」することができるため、各SR単位(又は各SH単位)の血管外遊出を評価することができる。これに基づき、基質SHの可動プロトンのシグナルを異なるふうにシフトすることが可能な(たとえば常磁性金属を変えることによって)異なるサイズのSR単位を使用することができる。内皮を通過する種の同定して、1回の投与後、動力学的実験を実施することが可能となる。
【0030】
あるいはまた、同じSR単位を使用し、相互作用する基質のサイズ及びタイプを調整して、可動プロトンの共鳴周波数を変化させることにより、同じ目的を達成することもできる。選択された系(リポソーム、ナノスフェアなど)に含まれる溶液の適切な配合によって内皮を通過する診断剤を容易に同定することが可能な、異なる大きさの区画化された系を使用することにより、同様な結果を得ることができる。
【0031】
組成物は、好ましくは、本発明の付加物を、約0.001〜1.0Mのモル濃度で、適切な賦形剤と混合した状態で含む。
【0032】
本発明の組成物は、好適には、血管内経路(たとえば静脈内、動脈内、心室内経路)で投与することもできるし、鞘内、腹腔内、リンパ内、腔内、経口又は経腸経路で投与することもできる。
【0033】
好ましい形態は、すぐに使用できるか、使用直前に無菌溶剤で再構成される凍結乾燥物の形態にある無菌水溶液又は懸濁液である。具体的な診断要件に依存して、投与量は、体重1kgあたり0.01〜0.5mmolの範囲で異なることができる。
【0034】
以下の実施例で本発明をさらに詳細に記載する。
【0035】
実施例1
ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH6、5、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図1)は、水に対するppm単位で表した照射周波数に対するバルク水のNMRシグナルの強さを示す。
【0036】
水から2ppm及び4ppmのあたりで二つのCESTピークが観察され、グアニジンプロトンの照射及びポリマーのアミド主鎖それぞれによって生じる飽和移動を示す。
【0037】
実施例2
ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図2)は、pHの上昇によって生じるポリマープロトンの交換速度の増大がバルク水シグナルとのそれらの融合に通じることを実証する。
【0038】
実施例3
[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図3)は、基質の共鳴周波数に対するSR単位の影響を示す。
【0039】
実施例4
[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図4)は、溶液のpHを高めることにより、バルク水から5〜10ppmの間隔での照射によってSR単位の効果がグアニジンプロトンの飽和移動の計測を可能にすることを実証する。
【0040】
実施例5
[DyDOTP]4-3.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.25mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図5)は、グアニジン可動プロトンの共鳴に対するDy(III)イオンの影響がYb(III)イオンの使用の場合とで反対の数学的符号を有することを示す。
【0041】
実施例6
[TmDOTP]4-1.2mM及び2.4mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図6)は、30〜40ppm間隔(SR2.4mM)で照射を実施することができるこの錯体の、グアニジン可動プロトンの共鳴周波数に対する顕著な影響を示す。
【0042】
実施例7
ポリアルギニン(DP227)の6.25μM溶液、pH7.2、312K、7.05T、水から8400Hzの照射周波数、照射時間4秒での、[TmDOTP]4の濃度に対する飽和移動(ST%)の依存性
この図は、約40μMのSR単位濃度で5%のST効果を計測するために使用することができるこの系の相当な感度を示す。
【0043】
実施例8
ポリアルギニン(DP270)の0.11mM及び[TmDOTP]4-2mMの溶液、312K、7.05T、水から6000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、飽和移動(ST%)のpH依存性
効果は、主にグアニジンプロトンの交換速度の低下のせいで、酸性pHで相当に低下する。
【0044】
実施例9
ヒト血清アルブミン(HSA)と[TmDOTP]4-との相互作用(312K、pH7.4)
図8は、HSA1mMのみの溶液の場合(□)及び[TmDOTP]4-を3mM量で添加した場合(■)の、1.3ppmと10ppmとの間のNMRスペクトルの周波数を照射することによって計測した飽和移動を示す。Argタンパク質残基のグアニジンプロトンの照射に起因して、最大移動が観察される周波数が約2ppmシフトしている。
【0045】
実施例10
[TmDOTP]4-とCo(en)33+との相互作用
図10は、[TmDOTP]4-及びCo(en)33+の1:1溶液の場合の、298K、pH5.7、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、CEST効果(ST%)の濃度依存性を示す。これらの実験条件下、0.1mMのSR単位濃度で5%のCEST効果が得られた。生理的温度及びpHでは、第一級アミンプロトンの高い交換速度のせいで最大効果はわずか9%である。
【0046】
実施例11
[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用
図11は、[TmDOTP]4-の4mM溶液の場合の、312K、pH6、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、シクレンと[TmDOTP]4-との濃度比に対するCEST効果(ST%)の依存性を示す。約3〜4:1の基質/SR単位濃度比の場合に最大効果を観察することができる。より低い基質濃度では、効果は、主として照射されるプロトンの数の少なさのせいで低下するが、より高い濃度では、主としてシクレンの遊離画分の増大のせいで低下し、その後、可動プロトンシグナルが反磁性区域にシフトする。
【0047】
実施例12
[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用
図12は、[シクレン]/[TmDOTP]4-濃度比を3:1に維持しながら312K、pH6、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、CEST効果(ST%)の[TmDOTP]4-濃度依存性を示す。
【0048】
図は、約60μMのSR単位濃度で5%のST効果を計測するために使用することができるこの系の相当な感度を示す。
【0049】
実施例13
[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用
図13は、シクレン(12mM)及び[TmDOTP]4-(4mM)の3:1溶液の場合の、312K、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、CEST効果(ST%)のpH依存性を示す。
【0050】
移動効果は、アミンプロトン交換速度のpH依存性を反映する。換言するならば、遅すぎる場合には低下し(pH<5)、速すぎる場合には融合状態に近づく(pH>7)。
【0051】
実施例14
図14のヒストグラムは、SR単位[TmDOTP]4-と相互作用する一連の基質に関して、312K、pH7.4、7.05T、照射時間4秒でのST%値を比較したものである。[TmDOTP]4-の濃度はすべての場合で4mMであるが、基質の濃度は、先に評価した最適濃度比にしたがって異なる。Triaza=1,4,7−トリアザシクロノナン10:1;Hexaaza=1,4,7,10,13,16−ヘキサアザシクロオクタデカン2:1;シクレン3:1;シクラム2:1及びポリアルギニン0.055:1
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH6、5、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図3】図3は、[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図4】図4は、[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図5】図5は、[DyDOTP]4-3.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.25mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図6】図6は、[TmDOTP]4-1.2mM及び2.4mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、ポリアルギニン(DP227)の6.25μM溶液、pH7.2、312K、7.05T、水から8400Hzの照射周波数、照射時間4秒での、[TmDOTP]4の濃度に対する飽和移動(ST%)の依存性を示す図である。
【図8】図8は、ポリアルギニン(DP270)の0.11mM及び[TmDOTP]4-2mMの溶液、312K、7.05T、水から6000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、飽和移動(ST%)のpH依存性を示す図である。
【図9】図9は、ヒト血清アルブミン(HSA)と[TmDOTP]4-との相互作用(312K、pH7.4)を示す図である。
【図10】図10は、[TmDOTP]4-とCo(en)33+との相互作用を示す図である。
【図11】図11は、[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用を示す図である。
【図12】図12は、[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用を示す図である。
【図13】図13は、[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用を示す図である。
【図14】図14は、SR単位[TmDOTP]4-と相互作用する一連の基質に関する、312K、pH7.4、7.05T、照射時間4秒でのST%値の比較を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和移動を使用して画像コントラストを創り出す磁気共鳴画像診断(MRI)法に有用な常磁性付加物に関する。
【0002】
発明の背景
組織中への可動プロトンの照射によるMRI画像におけるコントラストの生成はUS5,050,609ですでに報告されている。水と引き換えに少なくとも1個の可動プロトンを含有する外来性コントラスト剤(当初CEDST剤と呼ばれ、今はCEST剤と呼ばれている)の使用がWO00/66180に開示されている。この文献は、常磁性錯体をCEST剤として使用する可能性を明示的には述べていない。好ましい化合物は、反磁性分子、たとえば糖、アミノ酸、複素環式化合物、ヌクレオシド、イミダゾール類及び誘導体、グアニジンなどである。
【0003】
この同じ文献はまた、磁気的に不等な2組の可動プロトンを有するコントラスト剤を投与することによってpH、温度及び代謝産物濃度をインビトロ及びインビボ測定する方法を特許請求している。2種のプールの選択的照射及び比率計測法の適用が、移動効果を造影剤の濃度から独立して計測することを可能にする。飽和移動は、CEST剤の可動プロトンがバルク水と融合しない、すなわち、2組の可動プロトンの共鳴周波数の間の距離が交換速度よりも大きくなければならないことを暗示する。そのうえ、移動の程度は、CEST剤のプロトンの交換速度と正比例し、それは、2個の交換シグナルの共鳴周波数の距離の増大が飽和移動の効率を高めることを意味する。したがって、CEST常磁性コントラスト剤の使用は、診断対象のパラメータ、たとえばpH、温度、代謝産物濃度などに敏感であることができる飽和移動(US5,050,609で例示されている反磁性化合物の飽和移動よりも良好)を有する可動プロトンをもつ常磁性錯体の使用を特許請求するWO02/43775で考慮されている。
【0004】
しかし、バルク水と引き換えにプロトンを有する基質(US5,050,609で例示されているものに類似するタイプを含む)と、バルク水からの共鳴周波数の距離を増すことができる常磁性錯体とによって形成される非共有結合性付加物により構成されるCEST剤系を使用する可能性は、上述の文書でも文献でも考慮されていない。この手法により、常磁性剤は、交換性プロトンを含有する化合物の性質に対するそのシフト試薬(SR)特性に基づいて選択される。
【0005】
発明の詳細な説明
本発明は、飽和移動を観察するために照射されなければならない可動プロトンの化学シフトが、基質と、鉄(II)(高スピン配置)、鉄(III)、コバルト(II)、ロジウム(II)、銅(II)、ニッケル(II)、セリウム(III)、プラセオジム(III)、ネオジム(III)、ジスプロシウム(III)、エルビウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、ツリウム(III)、イッテルビウム(III)及びユーロピウム(III)から選択される金属を含有する常磁性キレート化合物との相互作用の結果として適切に「シフト」されている、常磁性CEST剤の調製及び使用に関する。可動プロトンは、反磁性又は常磁性基質に属することができるが、後者の場合、それらの化学シフトは、常磁性種との非共有結合性相互作用によって影響を受けるものとする。
【0006】
したがって、本発明の第一の態様は、反磁性基質と可逆的に相互作用する常磁性キレート化合物(SR単位)に静電気的相互作用又は共有結合によって結合した、可動プロトン(SH単位)を含有する反磁性基質によって構成される常磁性CEST剤に関する。
【0007】
本発明はまた、先に定義したCEST剤を適切な賦形剤と混合した状態で含有する診断組成物に関する。
【0008】
可動プロトンを有する分子としては、US5,050,609及びWO00/66180にすでに記載されているすべての分子、特に好ましくは直鎖状及び大環式ポリアミン、たとえばシクレン(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン)、ポリアミノ酸、たとえばポリアルギニン、タンパク質、たとえばヒト血清アルブミン、多糖類、ポリシクロデキストリン、合成ポリマー(ポリアミドアミン、ペルアミド化ポリアミノ酸及びアミド基を含むデンドリマー)を使用することができる。シクレン、ポリアルギニン及びアルブミンが特に好ましい。
【0009】
また、交換可能なプロトンは、SH基質との相互作用ののち、付加物[(SR)(SH)]の性質によってバルク水シグナルから「シフト」され、それと適切な交換状態になる水分子に属することができる。このカテゴリーのSH物質としては、多糖系、特に、水分子及びSR単位をトラップすることができる超分子凝集体を形成する系がある。この概念のさらなる拡張は、SR及び水分子が同じ区画にトラップされ、同時に、水分子(化学シフトがSR単位によって影響される)がバルク水と適切な交換状態にある系を含む。この区画化を得るために使用することができる系の非限定的なリストは、リポソーム、ナノ及びミクロ小胞系、タンパク質キャビティ及びセルを含む。
【0010】
本発明の付加物は、可動プロトンを有する分子を常磁性キレート化合物と共に、基質とSR単位との間の親和力に依存する適切なモル比で単に混合することによって調製することができる。
【0011】
【化2】
【0012】
この親和力は、熱力学的会合定数(KA)の値によって表すことができ、この値が10よりも大きくなければならない。そして、クロマトグラフィー技術及び/又は凍結乾燥、沈殿、蒸発などによって付加物を単離し、精製することができる。
【0013】
本発明の第一の実施態様によると、SR単位は、可動プロトンを含有する基質分子部分を認識して可動プロトンの化学シフトに有意に影響することができる化学特性を有する。たとえば、[LnDOTP]4-(Lnはランタニドである)と、好ましい基質であるシクレン、ポリアルギニン及びHSAとの付加物の場合、相互作用は静電気的結合によって起こる。
【0014】
基質とSR単位との間の静電気的相互作用に関する他の例は、[LnDOTP]4-が反磁性分子、たとえばCo(III)サルコファジン、Co(III)(エチレンジアミン)3及びアグマチンの可動プロトンの化学シフト値に影響することができる場合の例である。
【0015】
基質−SR単位の認識はまた、疎水性相互作用(たとえばポリシクロデキストリンの場合)又は混合相互作用(たとえばタンパク質の場合)を介して起こることができる。
【0016】
あるいはまた、SR単位は、高い生体適合性を有するポリマー系、たとえばヒドロゲル又は架橋タンパク質中にトラップされて、これらの系中に存在する低速交換性水分子に対してその効果を発揮することができる。
【0017】
他の対象の系は、区画化の効果の結果として、交換可能なプロトンのプール間の区別が生ずる系である。
【0018】
本発明のこの実施態様によると、SR単位及びSH基質は、水(SR単位及び基質とは違って)を区画の内外で自由に交換することができる適切な生体適合性系、たとえばリポソーム、ナノ粒子、マイクロエマルション及びタンパク質キャビティ(たとえばアポフェリチン)中で区画化することができる。このように、SR単位の効果はまた、区画中の基質の可動プロトンの相互作用を要することなくそれらの共鳴周波数に影響することができる磁化性の簡単な変化によって、発揮させることができ、基質の可動プロトンの照射周波数をほぼ一定にする利点を有する。
【0019】
区画の内と外との間での水交換の速度が非常に遅い系の中でSH−SR剤が区画化され、かつ単位を含む区画中の水の量がMR画像中でそれを観察するのに十分である場合、SRの局所濃度の増大及び可動プロトンを含む基質の増大によって飽和移動の効果を相当に増すことができる。
【0020】
あるいはまた、バルク水シグナルの共鳴だけに影響するためのシフト剤を選択することもできる。この効果は、いずれにしても、水と基質との間で共鳴周波数の距離を増し、それにより、基質の可動プロトンの照射を可能にするであろう。CESTに関連しないこの種の例がOttingら(J. Am. Chem. Soc., 1991, 113, 4363)によって報告されている。Ottingらは、Co(II)を使用してバルク水シグナルを「シフト」させ、それにより、シフト剤が侵入することができないタンパク質BPTIの部位にトラップされた水分子の観察を可能にしている。
【0021】
また、SR単位とSR単位とを共有結合によって共役化して、二つの単位の同じ生体分布をインビボで保証することもできる。この場合、SR単位の効果は、SH単位のプロトンに対して分子内的には発揮されないが、自己同定/自己凝集の機構を介して、分子間的に発揮される。
【0022】
このカテゴリーの好ましい化合物は以下の化合物である。
【0023】
【化3】
【0024】
この化合物では、分子間自己同定が、1個の分子の負荷電SR単位と別の分子の正ポリアルギニン鎖との間で起こる。HIV−1ウイルスのペプチド断片48〜60を連想させる構造モチーフ(Arg)8について、細胞によって認識され、内在化される能力が知られているという事実によってこの化合物における側鎖上のアルギニン残基の数の選択は、一部には決定される(Suzuki et al., J. Biol. Chem., 2002, 277, 2437)。
【0025】
この化合物は、以下の合成式にしたがって調製することができる。
【0026】
【化4】
【0027】
提案されている診断用途の場合、本発明の薬剤は、非経口投与に適した適切な組成物として処方される。
【0028】
本発明の診断組成物は、診断対象の化学−物理的パラメータ、たとえばヒト又は動物の組織又は身体中の温度、pH、代謝産物濃度、O2及びCO2分圧ならびに酵素活性をCEST法によって測定するために使用することができる。このために、好ましい診断組成物は、磁気的に異なる2組の可動プロトンを含有するべきであり、好ましくはそれらの移動効果が対象の化学−物理的パラメータに対して異なるべきである。このようにして、比率計測法(WO00/66180にすでに記載)を使用することにより、診断組成物の局所濃度から独立して診断パラメータを測定することが可能である。
【0029】
もう一つの好ましい実施態様は、そのような系を使用して内皮透過性に関する情報を得る可能性に関する。このために、従来の診断剤(すなわち、水プロトンのT1又はT2に基づく診断剤)(Min-Ying S. et al, Magn. Res. Med. 1998, 39, 259-269)は現在、DCE−MRI(DCE=ダイナミックコントラスト増強)技術とともに使用されている。方法は、異なる大きさの診断剤(そのままで、又はHSAのような高分子と相互作用させた後)を投与して毛細血管の透過性を評価することを含む。毛管透過性の定量的評価は、異なる診断剤の連続的な使用を要する動力学的実験で実施される。しかし、CEST法を使用すると、診断系のシグナルの選択的照射によってコントラストを「刺激」することができるため、各SR単位(又は各SH単位)の血管外遊出を評価することができる。これに基づき、基質SHの可動プロトンのシグナルを異なるふうにシフトすることが可能な(たとえば常磁性金属を変えることによって)異なるサイズのSR単位を使用することができる。内皮を通過する種の同定して、1回の投与後、動力学的実験を実施することが可能となる。
【0030】
あるいはまた、同じSR単位を使用し、相互作用する基質のサイズ及びタイプを調整して、可動プロトンの共鳴周波数を変化させることにより、同じ目的を達成することもできる。選択された系(リポソーム、ナノスフェアなど)に含まれる溶液の適切な配合によって内皮を通過する診断剤を容易に同定することが可能な、異なる大きさの区画化された系を使用することにより、同様な結果を得ることができる。
【0031】
組成物は、好ましくは、本発明の付加物を、約0.001〜1.0Mのモル濃度で、適切な賦形剤と混合した状態で含む。
【0032】
本発明の組成物は、好適には、血管内経路(たとえば静脈内、動脈内、心室内経路)で投与することもできるし、鞘内、腹腔内、リンパ内、腔内、経口又は経腸経路で投与することもできる。
【0033】
好ましい形態は、すぐに使用できるか、使用直前に無菌溶剤で再構成される凍結乾燥物の形態にある無菌水溶液又は懸濁液である。具体的な診断要件に依存して、投与量は、体重1kgあたり0.01〜0.5mmolの範囲で異なることができる。
【0034】
以下の実施例で本発明をさらに詳細に記載する。
【0035】
実施例1
ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH6、5、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図1)は、水に対するppm単位で表した照射周波数に対するバルク水のNMRシグナルの強さを示す。
【0036】
水から2ppm及び4ppmのあたりで二つのCESTピークが観察され、グアニジンプロトンの照射及びポリマーのアミド主鎖それぞれによって生じる飽和移動を示す。
【0037】
実施例2
ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図2)は、pHの上昇によって生じるポリマープロトンの交換速度の増大がバルク水シグナルとのそれらの融合に通じることを実証する。
【0038】
実施例3
[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図3)は、基質の共鳴周波数に対するSR単位の影響を示す。
【0039】
実施例4
[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図4)は、溶液のpHを高めることにより、バルク水から5〜10ppmの間隔での照射によってSR単位の効果がグアニジンプロトンの飽和移動の計測を可能にすることを実証する。
【0040】
実施例5
[DyDOTP]4-3.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.25mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図5)は、グアニジン可動プロトンの共鳴に対するDy(III)イオンの影響がYb(III)イオンの使用の場合とで反対の数学的符号を有することを示す。
【0041】
実施例6
[TmDOTP]4-1.2mM及び2.4mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトル
スペクトル(図6)は、30〜40ppm間隔(SR2.4mM)で照射を実施することができるこの錯体の、グアニジン可動プロトンの共鳴周波数に対する顕著な影響を示す。
【0042】
実施例7
ポリアルギニン(DP227)の6.25μM溶液、pH7.2、312K、7.05T、水から8400Hzの照射周波数、照射時間4秒での、[TmDOTP]4の濃度に対する飽和移動(ST%)の依存性
この図は、約40μMのSR単位濃度で5%のST効果を計測するために使用することができるこの系の相当な感度を示す。
【0043】
実施例8
ポリアルギニン(DP270)の0.11mM及び[TmDOTP]4-2mMの溶液、312K、7.05T、水から6000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、飽和移動(ST%)のpH依存性
効果は、主にグアニジンプロトンの交換速度の低下のせいで、酸性pHで相当に低下する。
【0044】
実施例9
ヒト血清アルブミン(HSA)と[TmDOTP]4-との相互作用(312K、pH7.4)
図8は、HSA1mMのみの溶液の場合(□)及び[TmDOTP]4-を3mM量で添加した場合(■)の、1.3ppmと10ppmとの間のNMRスペクトルの周波数を照射することによって計測した飽和移動を示す。Argタンパク質残基のグアニジンプロトンの照射に起因して、最大移動が観察される周波数が約2ppmシフトしている。
【0045】
実施例10
[TmDOTP]4-とCo(en)33+との相互作用
図10は、[TmDOTP]4-及びCo(en)33+の1:1溶液の場合の、298K、pH5.7、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、CEST効果(ST%)の濃度依存性を示す。これらの実験条件下、0.1mMのSR単位濃度で5%のCEST効果が得られた。生理的温度及びpHでは、第一級アミンプロトンの高い交換速度のせいで最大効果はわずか9%である。
【0046】
実施例11
[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用
図11は、[TmDOTP]4-の4mM溶液の場合の、312K、pH6、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、シクレンと[TmDOTP]4-との濃度比に対するCEST効果(ST%)の依存性を示す。約3〜4:1の基質/SR単位濃度比の場合に最大効果を観察することができる。より低い基質濃度では、効果は、主として照射されるプロトンの数の少なさのせいで低下するが、より高い濃度では、主としてシクレンの遊離画分の増大のせいで低下し、その後、可動プロトンシグナルが反磁性区域にシフトする。
【0047】
実施例12
[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用
図12は、[シクレン]/[TmDOTP]4-濃度比を3:1に維持しながら312K、pH6、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、CEST効果(ST%)の[TmDOTP]4-濃度依存性を示す。
【0048】
図は、約60μMのSR単位濃度で5%のST効果を計測するために使用することができるこの系の相当な感度を示す。
【0049】
実施例13
[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用
図13は、シクレン(12mM)及び[TmDOTP]4-(4mM)の3:1溶液の場合の、312K、7.05T、水から21,000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、CEST効果(ST%)のpH依存性を示す。
【0050】
移動効果は、アミンプロトン交換速度のpH依存性を反映する。換言するならば、遅すぎる場合には低下し(pH<5)、速すぎる場合には融合状態に近づく(pH>7)。
【0051】
実施例14
図14のヒストグラムは、SR単位[TmDOTP]4-と相互作用する一連の基質に関して、312K、pH7.4、7.05T、照射時間4秒でのST%値を比較したものである。[TmDOTP]4-の濃度はすべての場合で4mMであるが、基質の濃度は、先に評価した最適濃度比にしたがって異なる。Triaza=1,4,7−トリアザシクロノナン10:1;Hexaaza=1,4,7,10,13,16−ヘキサアザシクロオクタデカン2:1;シクレン3:1;シクラム2:1及びポリアルギニン0.055:1
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH6、5、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、ポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間10秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図3】図3は、[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図4】図4は、[YbDOTP]4-2.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.5mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図5】図5は、[DyDOTP]4-3.5mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.25mM溶液、pH6.5、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図6】図6は、[TmDOTP]4-1.2mM及び2.4mMの存在下におけるポリアルギニン(DP227)の0.1mM溶液、pH7.2、312K、7.05T、照射時間4秒でのCESTスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、ポリアルギニン(DP227)の6.25μM溶液、pH7.2、312K、7.05T、水から8400Hzの照射周波数、照射時間4秒での、[TmDOTP]4の濃度に対する飽和移動(ST%)の依存性を示す図である。
【図8】図8は、ポリアルギニン(DP270)の0.11mM及び[TmDOTP]4-2mMの溶液、312K、7.05T、水から6000Hzの照射周波数、照射時間4秒での、飽和移動(ST%)のpH依存性を示す図である。
【図9】図9は、ヒト血清アルブミン(HSA)と[TmDOTP]4-との相互作用(312K、pH7.4)を示す図である。
【図10】図10は、[TmDOTP]4-とCo(en)33+との相互作用を示す図である。
【図11】図11は、[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用を示す図である。
【図12】図12は、[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用を示す図である。
【図13】図13は、[TmDOTP]4-とシクレンとの相互作用を示す図である。
【図14】図14は、SR単位[TmDOTP]4-と相互作用する一連の基質に関する、312K、pH7.4、7.05T、照射時間4秒でのST%値の比較を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄(II)(高スピン配置)、鉄(III)、コバルト(II)、ロジウム(II)、銅(II)、ニッケル(II)、セリウム(III)、プラセオジム(III)、ネオジム(III)、ジスプロシウム(III)、エルビウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、ツリウム(III)、イッテルビウム(III)及びユーロピウム(III)から選択される金属を含有する常磁性キレート(SR)に結合した、可動プロトンを含有する基質(SH)を含む、常磁性CEST剤。
【請求項2】
前記SH基質が反磁性であり、直鎖状及び環式ポリアミン、ポリアミノ酸、タンパク質、多糖類、ポリアミドアミン、ペルアミド化ポリアミノ酸、アミド基を含むデンドリマー、ポリシクロデキストリン、多糖類及びアルギネートから選択される、請求項1記載の剤。
【請求項3】
前記基質が、ポリアルギニン、アルブミン及びシクレンから選択される、請求項2記載の剤。
【請求項4】
前記常磁性キレートが、[LnDOTP]4-である、請求項1〜3のいずれか1項記載の剤。
【請求項5】
リポソーム、ナノ粒子、マイクロエマルション及びタンパク質キャビティから選択される生体適合性系の中で区画化されている、請求項1〜4のいずれか1項記載の剤。
【請求項6】
基質と前記キレートとの間の結合が静電気的であり、SR−基質会合の見かけ熱力学的定数(KA)が10よりも大きい、請求項1〜5のいずれか1項記載の剤。
【請求項7】
SHがSRと共有結合している、請求項1〜5のいずれか1項記載の剤。
【請求項8】
式:
【化1】
で示される、請求項7記載の剤。
【請求項9】
請求項1〜8記載の剤を適切な賦形剤と混合した状態で含有する診断組成物。
【請求項1】
鉄(II)(高スピン配置)、鉄(III)、コバルト(II)、ロジウム(II)、銅(II)、ニッケル(II)、セリウム(III)、プラセオジム(III)、ネオジム(III)、ジスプロシウム(III)、エルビウム(III)、テルビウム(III)、ホルミウム(III)、ツリウム(III)、イッテルビウム(III)及びユーロピウム(III)から選択される金属を含有する常磁性キレート(SR)に結合した、可動プロトンを含有する基質(SH)を含む、常磁性CEST剤。
【請求項2】
前記SH基質が反磁性であり、直鎖状及び環式ポリアミン、ポリアミノ酸、タンパク質、多糖類、ポリアミドアミン、ペルアミド化ポリアミノ酸、アミド基を含むデンドリマー、ポリシクロデキストリン、多糖類及びアルギネートから選択される、請求項1記載の剤。
【請求項3】
前記基質が、ポリアルギニン、アルブミン及びシクレンから選択される、請求項2記載の剤。
【請求項4】
前記常磁性キレートが、[LnDOTP]4-である、請求項1〜3のいずれか1項記載の剤。
【請求項5】
リポソーム、ナノ粒子、マイクロエマルション及びタンパク質キャビティから選択される生体適合性系の中で区画化されている、請求項1〜4のいずれか1項記載の剤。
【請求項6】
基質と前記キレートとの間の結合が静電気的であり、SR−基質会合の見かけ熱力学的定数(KA)が10よりも大きい、請求項1〜5のいずれか1項記載の剤。
【請求項7】
SHがSRと共有結合している、請求項1〜5のいずれか1項記載の剤。
【請求項8】
式:
【化1】
で示される、請求項7記載の剤。
【請求項9】
請求項1〜8記載の剤を適切な賦形剤と混合した状態で含有する診断組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2006−522761(P2006−522761A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505027(P2006−505027)
【出願日】平成16年4月6日(2004.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003684
【国際公開番号】WO2004/089424
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(501094409)
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.p.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月6日(2004.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003684
【国際公開番号】WO2004/089424
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(501094409)
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.p.A.
【Fターム(参考)】
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