説明

うつ病を治療する方法

本発明は、セロトニン作動性又はノルアドレナリン作動性再取り込みトランスポーター、及びモノアミン受容体活性の組合せを示す薬学的作用物質により、うつ病、又はうつ病関連障害を治療する方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2009年4月30日に出願された米国仮出願第61/174,084号に基づく優先権を主張するものであり、該仮出願の開示の全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
ビロキサジン(Emovit(登録商標)、Vivalan(登録商標)、Vivarint(登録商標)、Vicilan(登録商標))は、ノルエピネフリンの再取り込みを阻害する二環式の抗うつモルホリン誘導体である。ビロキサジンは2つの異性体によるラセミ化合物であり、S(−)異性体はR(+)異性体の5倍の薬理活性を有する。ビロキサジン塩酸塩は、臨床的うつ病の治療に対してイタリア、ベルギー、アメリカ、イングランド、アイルランド、ドイツ、ポルトガル、スペイン、旧ユーゴスラビア、フランス、スロバキアにおいて認可されている。
【0003】
ビロキサジンの原理となる薬理と考えられているものは、セロトニン再取り込み阻害剤での非常に弱い活性(17.3μm)を伴うノルアドレナリン作動性再取り込みトランスポーターの阻害(155nM)である(非特許文献1)。成人における用量は、1日当たり150mgから800mgまで変わる。しかしながら、三環系抗うつ薬とは異なり、ビロキサジンには顕著な抗ムスカリン性、心毒性又は鎮静性がない。ビロキサジンの副作用としては、嘔気、嘔吐、不眠、食欲喪失、赤血球沈降の増大、EKG及びEEGの異常、心窩部痛、下痢、便秘、めまい、起立性低血圧、下肢浮腫、構音障害、振戦、精神運動性激越、精神錯乱、抗利尿ホルモンの異常分泌、トランスアミナーゼの増大、発作、並びに性欲の増大が挙げられる(非特許文献2)。
【0004】
本発明は、副作用の発生率及び重篤度を最小限に抑えつつ臨床応答を高める、ビロキサジンを用いてうつ病を治療する方法を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tatsumi et al [1997] Eur J Pharmacol 340 (2-3): 249-58
【非特許文献2】Chebili S, Abaoub A, Mezouane B, Le Goff JF (1998). "Antidepressants and sexual stimulation: the correlation" L'Encephale 24 (3): 180-4.
【発明の概要】
【0006】
本発明は、(1)セロトニン又はノルアドレナリンの作動性再取り込みトランスポーターを阻害する既知の活性を有する活性な作用物質の1つ又は組合せを選択すること、(2)選択された作用物質(複数も可)に対して受容体のスクリーニングアッセイを行うことであって、うつ病を抑制することが知られている、又はその反対の活性がうつ病と関連する(例えば、化合物が受容体拮抗薬であると確定される場合、及びその受容体の刺激(受容体活性化作用(agonism))がうつ病の発症又は悪化と関連する場合)、少なくとも1つのドーパミン作動性受容体、セロトニン作動性受容体又はGABA作動性受容体に対する活性を特定する、受容体のスクリーニングアッセイを行うこと、(3)上記活性が作動性か、又は拮抗性かを確定すること、(4)スクリーニングされた活性な作用物質の中から最も多様な型のうつ病関連受容体を標的とするものを少なくとも1つ選択すること、並びに(5)選択された活性な作用物質(複数も可)の総投与量を最適化することを含む、うつ病及び/又は類似の障害を治療する化合物を同定する方法を提供する。
【0007】
セロトニン又はノルアドレナリンの作動性再取り込みを阻害する作用物質におけるモノアミンの作動薬/拮抗薬の活性の特定は、それにより2つ以上の治療標的(例えば、5HT7及びノルアドレナリン作動性再取り込みトランスポーターの両方)を有する薬剤の選択が可能となるため重要である。これは、丸薬の飲用を減らすことにより患者のコンプライアンスが向上するため、複数の目的を達成するために複数の治療方法を組み合わせるよりも優れている。またそれにより、種々の受容体活性がそれらの効果において相加的又はさらには相乗的であり得るので、用量の低減をもたらすことも可能である。
【0008】
脳内に限定的に分布する特定の種類の受容体を標的とする分子の使用も、副作用の可能性を限定するという点において潜在的に有益である。この制限された一連の神経経路は、所望の活性に関与しない系における「オフターゲット」効果を有する可能性がより低い。
【0009】
1つの実施の形態では、本発明は、セロトニン又はノルアドレナリンの作動性再取り込み活性及び5−HT7拮抗活性の両方を示す薬学的作用物質によりうつ病及びうつ病関連障害(気分障害、例えば双極性障害、又はうつ病が、線維筋痛症を含むがこれに限定されない合併症候群(comorbid syndrome)であり得る障害を含むがこれらに限定されない)を治療する方法を含む。
【0010】
別の実施の形態では、本発明は、セロトニン又はノルアドレナリンの作動性再取り込み活性及び5−HT7拮抗活性の組合せを示す薬学的作用物質によりうつ病及びうつ病関連障害を治療する方法であって、該薬学的作用物質の総投与量がセロトニン又はノルアドレナリンの作動性再取り込み活性のみを前提として予測される投与量より小さい、うつ病及びうつ病関連障害を治療する方法を提供する。
【0011】
本発明のさらに別の実施の形態では、薬学的作用物質はビロキサジンである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ヒト5−HT7受容体において化合物SPN−809Vを用いて得られた競合曲線を示す図である。
【図2】ヒト5HT7受容体における化合物SPN−809Vの作動薬効果を示す図である。
【図3】ヒト5HT7受容体における化合物SPN−809Vの拮抗薬効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
他に特に指定のない限り、「a」又は「an」は「1以上(one or more)」を意味する。
【0014】
ビロキサジンがノルアドレナリン作動性再取り込みを阻害することにより薬学的活性を発揮するという、当該技術分野において十分に裏付けられた従来の理解があるものの、本発明は、ビロキサジンが5−HT7(セロトニン)受容体における特異的な拮抗薬活性も有するという予期せぬ発見に基づくものである。理論にとらわれるものでも、また理論に拘束されるものでもないが、本発明はこの発見を利用するものと考えられる。1つの実施形態では、例えば、本発明は、治療効果があると現在考えられている用量より実質的に少ない用量のビロキサジンを使用して、うつ病を治療する方法を提供する。重要なことには、より少ない1日量のビロキサジンにより、ビロキサジンを使用するうつ病の治療と一般的に関連する有害作用があったとしても、その頻度及び重篤度の低下をもたらすことができる。
【0015】
好ましい一実施形態では、本発明は、現行の最小有効用量である2.14mg/kgより少なくとも10%少ない総1日量でビロキサジンを投与することにより、ヒト被験体におけるうつ病、又はうつ病関連障害を治療する方法を提供する。他の実施形態では、用量は、現行の最小有効用量より15%少ない、25%少ない、35%少ない、及び50%少ない。小児集団(6歳〜17歳)及び成人集団に対する1.1mg/kg/日〜9.7mg/kg/日、又はおよそ20mg〜800mgの投与量範囲も与えられる。
【0016】
本発明によれば、ビロキサジンを、100mg/日〜600mg/日の量で投与することができる。別の実施形態では、ビロキサジンの1日量は、150mg/日〜400mg/日である。本発明のさらなる実施形態では、ビロキサジンを、最大300mg/日の量で投与する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、有害作用プロファイルの改善を特徴とするビロキサジンを用いてうつ病、又はうつ病関連障害を治療する方法を包含する。本発明の方法により低減する有害作用としては、嘔気、嘔吐、不眠、食欲喪失、赤血球沈降の増大、EKG及びEEGの異常、心窩部痛、下痢、便秘、めまい、起立性低血圧、下肢浮腫、構音障害、振戦、精神運動性激越、精神錯乱、抗利尿ホルモンの異常分泌、トランスアミナーゼの増大、発作、並びに性欲の増大が挙げられるがこれらに限定されない。したがって、本発明の方法は、これらの列挙された副作用のうち1つ、2つ、6つ又はそれ以上を伴わない、又は伴うとしても従来のビロキサジン治療よりはるかに低頻度でこれらを伴う、うつ病の治療方法を提供する。本発明のより低用量での治療の有効性及び有害作用プロファイルは、無作為プラセボ対照試験において評価される。
【実施例】
【0018】
5−HT受容体に対するビロキサジンの活性
異種競合アッセイを、5−HT受容体に対するビロキサジンの相対的な親和性を求めるために行った。簡潔に述べると、組換え5−HT7受容体を、CHO細胞株において発現させた。その後受容体を、飽和量であることが知られている濃度のトリチウム標識した受容体特異的リガンドで飽和させた。そのうえで、10μMのビロキサジンを非特異的リガンドの存在下で細胞に添加して、インキュベートした。このようにして、置換(すなわち阻害率(%))がより大きいことが、所定の受容体におけるビロキサジンの結合強度がより大きいことの指標となるように、ビロキサジンを受容体特異的リガンドと「競合」させる。「特異的結合」とは、本明細書では、過剰量のビロキサジンの存在下、及び非存在下における受容体に対するリガンドの結合の差異を表す。アッセイの条件及び結果を表1に要約する。
【0019】
【表1】

【0020】
5−HT7受容体に対するビロキサジンの親和性について、IC50(すなわち、対照の特異的結合を50%阻害することができるビロキサジンの濃度)を求めることによりさらなる特徴付けを行った。この実験のために、リガンド遮断アッセイに関して或る範囲のビロキサジン濃度を選択した。ヒル式の曲線フィッティングを使用する競合曲線の非線形回帰分析を使用してIC50を求めた。チェンプルソフ式を使用して阻害定数Kiを算出した。Kiは、放射性リガンド、又は他の競合因子の非存在下において、平衡状態で結合部位の半分に結合する競合リガンド(ビロキサジン)の濃度と定義する。親和性アッセイの結果を、表2及び表3に並びに図1に要約する。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
次に、結合の性質(すなわち作動薬か又は拮抗薬か)を求めた。簡潔に述べると、5HT7受容体に対する作動薬効果、すなわちcAMPの生成、又は5HT7作動薬(セロトニン)により刺激した際の、作動薬効果の遮断を検証するアッセイを設計した。これも、相対的な作動薬対拮抗薬の結合のKiを求めるために或る範囲の濃度を用いて行った。EC50値(最大値の半分の特異的応答をもたらす濃度)及びIC50値(対照の特異的作動薬応答に関して最大値の半分の阻害を引き起こす濃度)を、反復測定の平均値を用いて作成した濃度応答曲線の非線形回帰分析によりヒル式の曲線フィッティングを使用して求めた。拮抗薬に関する見かけの解離定数Kbを、修正チェンプルソフ式を使用して算出した。
【0024】
スクリーニングの条件を表4に示す。機能アッセイの結果を図2(作動薬アッセイ)、及び図3(拮抗薬アッセイ)に示す。作動薬アッセイによっては測定可能な応答は示されなかった(図2)。拮抗薬アッセイにより弱い応答がもたらされ、IC50は3.0×10−5M超であった。
【0025】
【表4】

【0026】
以下の参考文献を含む本明細書において引用された刊行物、特許出願及び特許の全てが、その全体が参照により本明細書に援用される。
1. Vanhoenacker P, Haegeman G, Leysen JE. 5-HT7 receptors: current knowledge and future prospects. Trends Pharmacol Sci 2000;21(2):70-7.
2. Lucchelli A, Santagostino-Barbone MG, D'Agostino G, Masoero E, Tonini M. The interaction of antidepressant drugs with enteric 5-HT7 receptors. Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2000;362(3):284-9.
3. Hedlund PB, Huitron-Resendiz S, Henriksen SJ, Sutcliffe JG. 5-HT7 receptor inhibition and inactivation induce antidepressant like behavior and sleep pattern. Biol Psychiatry 2005;58 (10):831-7.
上記記載は特定の好ましい実施形態を示すものであるが、本発明はそれに限定されないことが理解されるだろう。開示された実施形態に対して様々な修正を行うことができること、及びかかる修正が本発明の範囲内であることが意図されることを当業者は想到するだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるうつ病又はうつ病関連障害を治療する方法であって、約1.95mg/kg/日未満の用量のビロキサジンを該患者に投与することを含み、該治療が約1.95mg/kg/日より大きい用量のビロキサジンの有害作用の頻度又は重篤度を低下させる、うつ病又はうつ病関連障害を治療する方法。
【請求項2】
うつ病又はうつ病関連障害を治療する方法であって、
a.セロトニン又はノルアドレナリン作動性再取り込みトランスポーターを阻害する既知の活性を有する活性な作用物質を複数選択すること、
b.であって、うつ病を抑制することが知られている、又は反対の活性がうつ病と関連する、少なくとも1つのドーパミン作動性受容体、セロトニン作動性受容体又はGABA作動性受容体に対する活性を特定するためにこれらの前記作用物質に対して受容体のスクリーニングアッセイを行うこと、
c.前記活性が本来的に作動性か、又は拮抗性かを確定すること、
d.工程b)及び工程c)の結果により、スクリーニングされた前記活性な作用物質の中から最も多様な型のうつ病関連受容体を標的とするものを少なくとも1つ選択すること、
e.工程b)〜工程d)の結果を考慮して、前記活性な作用物質(複数も可)の総投与量を最適化すること
を含む、うつ病又はうつ病関連障害を治療する方法。
【請求項3】
セロトニン又はノルアドレナリンの作動性再取り込み阻害及び5−HT7拮抗活性の組合せを示す薬学的作用物質により、うつ病及び/又はうつ病関連障害を治療する方法であって、該薬学的作用物質の総投与量がノルアドレナリン作動性再取り込みトランスポーター活性のみに基づいて予測される投与量未満である、うつ病及び/又はうつ病関連障害を治療する方法。
【請求項4】
前記薬学的作用物質がビロキサジンである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記薬学的作用物質を20mg/日〜800mg/日の用量範囲で投与する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記薬学的作用物質を1.1mg/kg/日〜9.7mg/kg/日の用量範囲で投与する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記薬学的作用物質の用量が、2.14mg/kgより15%少ない、25%少ない、35%少ない、又は50%少ない、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
ビロキサジン投与と関連した副作用の低減が存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
約10mg未満のビロキサジンと薬学的担体とを含む、患者におけるうつ病又はうつ病性障害を治療する薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−525426(P2012−525426A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508732(P2012−508732)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/032974
【国際公開番号】WO2010/127120
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(506339316)スパーナス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】