説明

うつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物

【課題】うつ病又はうつ状態の予防又は治療に有効であって、且つ安全性が高く、継続摂取しても副作用の懸念がない油脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のうつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物は、炭素数8〜10の中鎖脂肪酸と炭素数12〜24の長鎖脂肪酸とをトリグリセリドの形態で含有し、上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸との合計中、上記長鎖脂肪酸の占める割合が25〜90質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物に関し、詳細には、トリグリセリドの形態の中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを有効成分とするうつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
うつ病は、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠症等を特徴とする精神疾患である。警察庁のまとめによると、2007年の国内自殺者数は、10年連続で3万人を超え、その原因・動機としてうつ病が最も多く、その対策が急がれている。
【0003】
うつ病に対しては、抗うつ薬の有効性が臨床的に実証されている。一般に、抗うつ薬は、必ずしも即効性があるとはいえず、また、効果も明確に現れるものではないため、継続的な服用を必要とする。しかしながら、抗うつ薬は、副作用があるため、継続的に服用する場合には、薬効と副作用とのバランスを考慮する必要がある。そのため、継続的に服用しても副作用の懸念がない抗うつ薬の開発が所望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/070701号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安全性が高く、継続的に摂取しても副作用の懸念がない、うつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、ある特定の比率の中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とをトリグリセリドの形態で含有する油脂組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
これまで、中鎖脂肪酸トリグリセリドについては、加齢に伴う認知障害により引き起こされる注意力、集中力の低下等を予防、遅延等できることが知られている(特許文献1参照)が、うつ病に対して効果があるという報告はされておらず、まして、トリグリセリドの形態の中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とが、うつ病に対して有効であるという報告はない。
【0008】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)炭素数8〜10の中鎖脂肪酸と炭素数12〜24の長鎖脂肪酸とをトリグリセリドの形態で含有し、上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸との合計中、上記長鎖脂肪酸の占める割合が25〜90質量%であるうつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物。
【0010】
(2)上記中鎖脂肪酸が炭素数8及び/又は10の飽和脂肪酸であり、且つ上記長鎖脂肪酸が炭素数16〜24の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸である(1)に記載の油脂組成物。
【0011】
(3)ストレス誘発性のうつ病又はうつ状態の予防又は治療に用いられる(1)又は(2)に記載の油脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油脂組成物は、うつ病又はうつ状態に対して、その発症の抑制、症状の改善等の効果を有するので、うつ病又はうつ状態の予防又は治療に用いることができる。また、本発明の油脂組成物は、トリグリセリドの形態の中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを有効成分として含むので、安全性が高く、副作用の懸念がないため、安心して継続的に摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】強制水泳試験における無動時間の測定結果(強制水泳によるストレス負荷と同時にMLCT,LCT摂取)を示す図である。
【図2】慢性マイルドストレス負荷のスケジュールを示す図である。
【図3】強制水泳試験における無動時間の測定結果(慢性マイルドストレス負荷と同時にMLCT,LCT摂取)を示す図である。
【図4】高架式十字迷路試験におけるクローズドアームへの進入回数(強制水泳によるストレス負荷後と同時にMLCT摂取)を示す図である。
【図5】中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸の至適量の検討結果を示す図である。
【図6】尾懸垂試験における無動時間の測定結果(慢性マイルドストレス負荷後のMLCT摂取)を示す図である。
【図7】MLCT投与による脳海馬p44/42MAPK活性化能の検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
本発明のうつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物は、炭素数8〜10の中鎖脂肪酸と炭素数12〜24の長鎖脂肪酸とをトリグリセリドの形態で含有し、上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸との合計中、上記長鎖脂肪酸の占める割合が25〜90質量%であることを特徴とする。
【0016】
本発明の油脂組成物は、うつ病又はうつ状態の予防又は治療用として用いるものである。なお、本発明において、うつ病とは、例えば、アメリカの精神医学会が定めた、精神障害の診断と統計の手引き(DSM)の診断基準に基づき、医師が診断したうつ病を意味する。また、本発明において、うつ状態とは、例えば、心理的なストレス、季節や生体リズム等の身体内部の変調、自律神経失調症・パニック障害等の疾患の症状等により引き起こされる、意欲の低下、思考力の低下、集中力の低下、気力の低下、倦怠感、脱力感、空虚感、健忘等の症状を呈した状態を意味する。そして、本発明において、予防とは、例えば、発症の抑制、遅延等を意味し、治療とは、例えば、進行の遅延、症状の緩和、軽減、改善、治癒等を意味する。
【0017】
本発明の油脂組成物は、炭素数8〜10の中鎖脂肪酸と炭素数12〜24の長鎖脂肪酸とをトリグリセリドの形態で含有することを特徴とする。含有形態としては、上記中鎖脂肪酸のみを構成脂肪酸とするトリグリセリド(以下、MCTという。)と上記長鎖脂肪酸のみを構成脂肪酸とするトリグリセリド(以下、LCTという。)との双方を含有する形態、上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸とを構成脂肪酸とするトリグリセリド(以下、M・LCTという。)を含有する形態、MCTとLCTとM・LCTとを含有する形態、MCTとM・LCTとを含有する形態、及びLCTとM・LCTとを含有する形態が挙げられる。なお、本発明では、トリグリセリド全体として中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを含有するものを総称して、中長鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MLCTという。)ということとし、1分子のトリグリセリド中に中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを混在して含むM・LCTとは区別する。本発明は、LCTのみを含有する油脂組成物では、うつ病又はうつ状態に対する予防又は治療効果を示さないにもかかわらず、LCTの占める割合の多いMLCTを含有する油脂組成物ほど、うつ病又はうつ状態に対する予防又は治療効果を示すことを初めて見出した点に意義がある。
【0018】
本発明において、中鎖脂肪酸は炭素数8〜10の脂肪酸である。入手が容易で、低価格であるという観点から、炭素数8の飽和脂肪酸であるカプリル酸や炭素数10の飽和脂肪酸であるカプリン酸が好ましい。また、長鎖脂肪酸は炭素数12〜24の脂肪酸であり、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の長鎖飽和脂肪酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸等の長鎖不飽和脂肪酸が挙げられる。本発明の油脂組成物では、中鎖脂肪酸が炭素数8及び/又は10の飽和脂肪酸であり、且つ上記長鎖脂肪酸が炭素数16〜24の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸であることが好ましく、中鎖脂肪酸が炭素数8及び/又は10の飽和脂肪酸であり、且つ上記長鎖脂肪酸が炭素数16〜24の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸であることがより好ましい。
【0019】
本発明の油脂組成物では、上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸とをトリグリセリドの形態で含有するが、このトリグリセリドは、同じ種類の脂肪酸を構成脂肪酸とする単酸基トリグリセリドであっても、異なる種類の脂肪酸を構成脂肪酸とする混酸基トリグリセリドであってもよい。混酸基トリグリセリドの場合、各々の脂肪酸のグリセリンへの結合位置は、特に限定されない。
【0020】
トリグリセリドの製造方法は、特に限定されず、既知の方法を用いることができる。例えば、炭素数8の中鎖脂肪酸と炭素数10の中鎖脂肪酸とを構成脂肪酸とするMCTは、ヤシ油やパーム核油由来の炭素数8の中鎖脂肪酸及び炭素数10の中鎖脂肪酸と、グリセリンとのエステル化反応により得ることができる。エステル化反応の方法は、特に限定されず、例えば、加圧下で無触媒且つ無溶剤にて反応させる方法、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を用いて反応させる化学的エステル交換法及び触媒としてリパーゼを用いて反応させる酵素的エステル交換法が挙げられる。化学的エステル交換は、例えば、常法に従って、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.1〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間撹拌することにより反応させることができる。エステル交換反応終了後は、水にて触媒を洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施せばよい。酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%添加した後、40〜80℃で0.5〜48時間撹拌することにより反応させることができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末又は固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施せばよい。なお、エステル交換反応は、位置特異的なエステル交換反応であっても、ランダムエステル交換反応であってよく、特に限定されない。
【0021】
なお、LCTは、搾油原料を単に搾油し、精製した大豆油、菜種油、コーン油、米油、ゴマ油、綿実油、ひまわり油、紅花油、亜麻仁油、シソ油、オリーブ油等から得ることができる。更に、上記LCTの2種類以上のエステル交換反応により得てもよい。MLCTは、上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、上記MCTと上記LCTとのエステル交換反応、及び上記MCTと上記LCTとの混合により得ることができる。
【0022】
本発明の油脂組成物では、上記長鎖脂肪酸の占める割合が、上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸との合計中、25〜90質量%であることを必要とし、27〜90質量%であることが好ましく、29〜90質量%であることがより好ましく、80〜90質量%であることが更により好ましく、85〜88質量%であることが最も好ましい。上記範囲であれば、うつ病又はうつ状態(以下、うつ状態等という。)の発症抑制、症状改善等に効果を発揮する。なお、トリグリセリドの形態で含まれる中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸との合計中、長鎖脂肪酸の占める割合を確認する方法としては、例えば、トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とをメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーにより分析する方法が挙げられる。
【0023】
トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸との割合を調整する方法としては、例えば、中鎖脂肪酸からなるトリグリセリドのMCTと、長鎖脂肪酸からなるトリグリセリドのLCTとを製造した後、所望の割合になるように混合する方法、予め所望の割合の中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを準備し、これらでグリセリンをエステル化する方法、所望の割合の中鎖脂肪酸からなるトリグリセリドのMCTと、同じく所望の割合の長鎖脂肪酸からなるトリグリセリドのLCTとを予め準備し、これらを混合し、エステル交換させる方法等が挙げられる。
【0024】
本発明の油脂組成物では、本発明の効果を損なわない範囲において、保存安定性をより向上させたり、ハンドリング性をより向上させたりするために、公知の乳化剤、抗酸化剤、色素、香料等を添加することができる。具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ10、オリザノール、ジグリセリド、シリコーン、トコフェロール、レシチン、植物ステロール、植物ステロールエステル等が挙げられる。
【0025】
本発明の油脂組成物は、うつ病に罹患する又はうつ状態を呈するヒトを含む動物に対して、有効に作用する。特に、ストレスにより誘発されるうつ状態等に対して、予防又は治療効果を発揮する。本発明の油脂組成物に含まれるトリグリセリド及びその構成脂肪酸である中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とは、天然に広く存在するものであり、食用となる天然物にも含まれていることから、その安全性は非常に高い。したがって、本発明の油脂組成物は、例えば、医薬品(動物用を含む)、食品、飼料等として好適に用いることができる。
【0026】
本発明の油脂組成物を医薬品として用いる場合、投与経路としては、経口投与が好ましい。トリグリセリドは、その大部分が腸管(小腸)の粘膜を通して体内に吸収されるからである。経口投与に適する製剤としては、例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等が挙げられる。有効成分であるトリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸と、薬理上及び製剤上許容しうる添加物とを含む医薬組成物の形態の製剤とすることが好ましい。薬理上及び製剤上許容しうる添加物としては、例えば、ブドウ糖、乳糖、結晶セルロース、デンプン等の賦形剤、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、色素、希釈剤等が挙げられ、通常、製剤分野において常用され、且つ本発明の油脂組成物と反応しない物質が用いられる。
【0027】
本発明の油脂組成物は、安全性が非常に高く、既存のうつ病の予防又は治療薬のような副作用もないので、既存薬と組み合わせて用いることにより、該既存薬の用量を下げて、これらが有する副作用を低減することができる。他の薬との組み合わせは、配合剤のように同一の医薬組成物中に含むものであってもよいし、別々の医薬組成物中に含むものであってもよい。
【0028】
本発明の油脂組成物の投与量は、患者の症状、予防又は治療、年齢、体重、投与方法、投与期間等の諸条件に応じて、適宜選択可能である。例えば、ヒト(成人60kg)の治療を目的とする場合には、有効量は、通常、230〜1230mg/kg/日であり、この量を1回又は数回に分けて投与すればよい。
【0029】
本発明の油脂組成物は、ソフトカプセルに充填・加工することにより、栄養補助食品として摂取することができる。また、本発明の油脂組成物は、そのままで、又は粉末油脂、液状乳化油脂等に加工することにより、直接摂取したり、これらを更に一般食品に利用し、加工することにより、間接的に摂取したりすることもできる。
【0030】
本発明の油脂組成物を利用できる一般食品としては、油脂を使用した加工食品であれば、特に限定されず、例えば、パン、ケーキ、クッキー、ビスケット、ケーキ、チョコレート、グミ、ホイップクリーム、アイスクリーム等のパン・菓子類、果汁飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク等の飲料類、スープ類、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン等の調味加工食品、炒め油、フライ油、各種インスタント食品、流動食、嚥下食等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0032】
<製造例1>試験食1の製造方法
MLCT(商品名:ヘルシーリセッタ,日清オイリオグループ(株)製,中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸との合計中、長鎖脂肪酸の占める割合:87%,脂肪酸の含有形態:M・LCT+MCT+LCT)を、飼料中の油脂成分として7質量部配合することにより、MLCTを7質量%含有する試験食1を得た。飼料の組成を表1に示す。
【0033】
<製造例2>試験食2の製造方法
LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ(株)製)を、飼料中の油脂成分として7質量部配合することにより、LCTを7質量%含有する試験食2を得た。飼料の組成を表1に示す。
【0034】
<製造例3>試験食3の製造方法
MCT(商品名:ODO,日清オイリオグループ(株)製)と、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ(株)製)とを、飼料中の油脂成分としてそれぞれ1質量部、6質量部配合することにより、MCTと、LCTとをそれぞれ1質量%、6質量%含有する試験食3を得た。飼料の組成を表1に示す。なお、この試験食3における中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸との合計中、長鎖脂肪酸の占める割合は86%である。
【0035】
<製造例4>試験食4の製造方法
MCT(商品名:ODO,日清オイリオグループ(株)製)と、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ(株)製)とを、飼料中の油脂成分としてそれぞれ5質量部、2質量部配合することにより、MCTと、LCTとをそれぞれ5質量%、2質量%含有する試験食4を得た。飼料の組成を表1に示す。なお、この試験食4における中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸との合計中、長鎖脂肪酸の占める割合は29%である。
【0036】
【表1】

【0037】
<試験例1>うつ状態に対する予防効果の検討(1)
マウスに対して、強制水泳によるストレス負荷と同時に、MLCT含有飼料を摂食させることにより、本発明の油脂組成物のうつ病又はうつ状態に対する予防効果を検討した。
【0038】
[強制水泳によるストレス負荷試験]
強制水泳によるストレス負荷試験(FST:Forced Swim Test)は、Porsolt R.D.らにより開発された方法(Eur.J.Pharmacol.,47,379−391(1978))に基づいて行った。この試験は、うつ病の動物モデル実験として繁用されているものの1つである。この試験では、マウス等の動物を逃避不可能なスペース中で強制的に泳がせて、無動状態にさせる。すなわち、当初、この環境から逃れようと必死に泳いでいたマウスは、逃避できないというストレスから無力感に陥り、次第に無動状態になる。この無動状態は、逃避行動を放棄した1種の絶望状態であると考えられており、ヒトのうつ病と類似性があるといわれている。そして、実際、多くの抗うつ薬が、この強制水泳により惹起される無動状態の時間(以下、無動時間という。)を短縮させることが報告されている。これは、強制水泳時の無動時間が、うつ状態の程度の指標となることを意味している。そこで、本試験では、強制水泳時の無動時間を、予防効果を評価する上での指標とした。
【0039】
試験には、6週齢のddY系雄性マウス(日本SLC,体重28〜30g)を用いた。マウスを飼育ケージに入れ、室温22±4℃、相対湿度55±15%、12時間サイクルで明暗の切り換えを行う飼育室にて飼育した。水及び飼料は自由摂取とした。試験は、MLCT含有飼料を摂取させる「試験食1摂取群(実施例1)」及びLCT含有飼料を摂取させる「試験食2摂取群(比較例1)」の2群にて行った。群分けは、試験開始前における各群のマウスの平均体重が均一となるように行った。なお、試験は1群11匹にて行い、マウスには、ストレス負荷と同時に飼料を摂食させた。
【0040】
強制水泳によるストレス負荷は、以下の方法にて行った。すなわち、5Lのポリビーカー(内径:27cm,高さ:27cm)に水(24〜26℃)を18cmの高さ(水の総量:4L)まで入れ、その中でマウスを1日1回6分間泳がせることを14日間連続して行った。そして、試験開始1日目、試験開始7日目及び試験開始14日目に、上記6分間の強制水泳時間のうち、残り時間4分間に認められた無動時間(秒)をストップウォッチにより測定した。なお、マウスが水に浮かんで静止している状態を無動時間と判定した。そして、それぞれの無動時間の平均値を求め、試験開始1日目の無動時間の平均値を100としたときの相対値(%)を算出した。
【0041】
なお、測定結果は、各群の上記相対値±標準誤差で示した。群間の有意差は、Student’s t検定により行った(有意水準:5%)。
【0042】
結果を図1に示す。本試験では、無動時間の相対値が高ければ高いほど、うつ状態が強いとみなす。MLCT含有飼料を摂取させた試験食1摂取群(実施例1)の無動時間の相対値は、LCT含有飼料を摂取させた試験食2摂取群(比較例1)と比較して、有意に低い値を示した。
【0043】
<試験例2>うつ状態に対する予防効果の検討(2)
慢性マイルドストレス負荷と同時に、マウスに対してMLCT含有飼料を摂食させることにより、本発明の油脂組成物のうつ病又はうつ状態に対する予防効果を検討した。なお、本試験では、強制水泳時の無動時間を、予防効果を評価する上での指標とした。
【0044】
[慢性マイルドストレス負荷試験]
試験には、6週齢のddY系雄性マウス(日本SLC,体重28〜30g)を用いた。マウスを飼育ケージに入れ、室温22±4℃、相対湿度55±15%、12時間サイクルで明暗の切り換えを行う飼育室にて飼育した。水及び飼料は自由摂取とした。試験は、ストレス負荷を行いながら、MLCT含有飼料を摂取させる「ストレス負荷有り、試験食1摂取群(実施例2)」、ストレス負荷を行いながら、LCT含有飼料を摂取させる「ストレス負荷有り、試験食2摂取群(比較例2)」、ストレス負荷を行わないで、MLCT含有飼料を摂取させる「ストレス負荷無し、試験食1摂取群(参考例1)」、及びストレス負荷を行わないで、LCT含有飼料を摂取させる「ストレス負荷無し、試験食2摂取群(参考例2)」の4群にて行った。群分けは、試験開始前における各群のマウスの平均体重が均一となるように行った。なお、1群5匹にて試験を行い、マウスには、ストレス負荷と同時に飼料を摂食させた。
【0045】
慢性マイルドストレス負荷は、以下の方法にて行った。まず、試験開始1日目は、15分間の強制水泳を行った。強制水泳では、5Lのポリビーカー(内径:27cm,高さ:27cm)に水(24〜26℃)を18cmの高さ(水の総量:4L)まで入れ、その中でマウスを15分間泳がせた。その後、1日間は通常のケージで飼育して休ませた。次いで、傾斜ケージ(傾斜角:20°)で2日間飼育し、その後1日間は通常のケージで飼育して休ませた。次いで、200mLの水で濡らした汚物ケージで1日間飼育し、その後1日間は通常のケージで飼育して休ませた。次いで、180rpmで回転する回転ケージで1日間飼育し、その後1日間は通常のケージで飼育して休ませた。この3種類のケージを用いた1週間に亘るストレスの負荷を1クールとして、これを3クール(3週間)に亘り行った。スケジュールを図2に示す。
【0046】
そして、予防効果を評価するために、試験開始24日目のマウスに対して強制水泳によるストレス負荷試験を行った。なお、強制水泳によるストレス負荷試験は、上記と同様の方法にて行った。すなわち、5Lのポリビーカー(内径:27cm,高さ:27cm)に水(24〜26℃)を18cmの高さ(水の総量:4L)まで入れ、その中でマウスを6分間泳がせ、残り時間4分間に認められた無動時間(秒)をストップウォッチにより測定し、平均値を求めた。MLCT含有飼料を摂取させた「ストレス負荷有り、試験食1摂取群(実施例2)」については、MLCT含有飼料を摂取させた「ストレス負荷無し、試験食1摂取群(参考例1)」の無動時間の平均値を100としたときの相対値(%)を算出し、LCT含有飼料を摂取させた「ストレス負荷有り、試験食2摂取群(比較例2)」については、LCT含有飼料を摂取させた「ストレス負荷無し、試験食2摂取群(参考例2)」の無動時間の平均値を100としたときの相対値(%)を算出した。
【0047】
なお、測定結果は、各群の上記相対値±標準誤差で示した。群間の有意差は、Student’s t検定により行った(有意水準:5%)。
【0048】
結果を図3に示す。本試験では、無動時間の相対値が高ければ高いほど、うつ状態が強いとみなす。試験開始24日目には、MLCT含有飼料を摂取させた試験食1摂取群(実施例2)の無動時間の相対値は、LCT含有飼料を摂取させた試験食2摂取群(比較例2)と比較して、有意に低い値を示した。このことから、MLCTの摂取は、上記の連続した強制水泳試験による慢性ストレスだけでなく、他の試験による慢性ストレスに起因するうつ状態に対しても効果を示すことが明らかとなった。
【0049】
<試験例3>うつ状態に対する予防効果の検討(3)
強制水泳によるストレス負荷と同時に、マウスに対してMLCT含有飼料を摂食させることにより、本発明の油脂組成物のうつ病又はうつ状態に対する予防効果を検討した。なお、本検討では、強制水泳時の無動時間の代わりに、高架式十字迷路試験におけるクローズドアームへの進入回数を、予防効果を評価する上での指標とすることにより、上記検討(1)及び(2)における本発明の油脂組成物による無動時間の短縮が活動量の増加によるものか否かの確認を行った。
【0050】
[強制水泳によるストレス負荷試験]
試験には、6週齢のddY系雄性マウス(日本SLC,体重28〜30g)を用いた。マウスを飼育ケージに入れ、室温22±4℃、相対湿度55±15%、12時間サイクルで明暗の切り換えを行う飼育室にて飼育した。水及び飼料は自由摂取とした。試験は、MLCT含有飼料を摂取させる「試験食1摂取群(実施例3)」、LCT含有飼料を摂取させる「試験食2摂取群(比較例3)」、及び市販飼料(商品名:ラボMRストック,日本農産工業(株)製)を摂取させる「通常食摂取群(参考例3)」の3群にて行った。群分けは、試験開始前における各群のマウスの平均体重が均一となるように行った。なお、「試験食1摂取群(実施例3)」及び「試験食2摂取群(比較例3)」は1群15匹、「通常食摂取群(参考例3)」は1群25匹にて試験を行い、マウスには、ストレス負荷と同時に飼料を摂食させた。
【0051】
強制水泳によるストレス負荷は、上記と同様に、Porsolt R.D.らにより開発された方法に基づいて行った。すなわち、5Lのポリビーカー(内径:27cm,高さ:27cm)に水(24〜26℃)を18cmの高さ(水の総量:4L)まで入れ、その中でマウスを1日1回6分間泳がせ、これを14日間連続して行った。
【0052】
[高架式十字迷路試験]
そして、試験開始15日目のマウスに対して高架式十字迷路試験を行った。高架式十字迷路試験は、Reeves P.G.らにより開発された方法(J.Nutr.,123(11),1923−1931(1993))に従った。この試験は、抗不安薬のスクリーニング法として繁用されている方法の1つである。マウスは、明るい環境にいると不安を感じるため、明路を避けようとする。しかしながら、マウスには、探索したいという葛藤も同時に生じる。そのため、探索意欲の強いマウスの場合には、探索行動が増加し、明路であるオープンアームと暗路であるクローズドアームとの間を行き来する回数が増える。本検討では、このクローズドアームへの進入回数を活動量の指標とし、その回数が多いほど活動量が高いと判断した。
【0053】
なお、高架式十字迷路試験は、以下の方法にて行った。アームの長さ66cm、幅6cm、高さ62cmの高架式十字迷路試験装置を用い、マウスを頭がクローズドアームの方向に向くように、迷路中央部(オープンアームとクローズドアームとの交差部)におき、5分間の行動を観察し、クローズドアームへの進入回数を測定し、平均値を求めた。
【0054】
なお、測定結果は、各群の上記進入回数の平均値±標準誤差で示した。群間の有意差は、一元配置分散分析を用い、有意水準を5%として検定を行った。
【0055】
結果を図4に示す。MLCT含有飼料を摂取させた試験食1摂取群(実施例3)の活動量と、通常食摂取群(参考例3)の活動量との間には有意差はなく、MLCTによる活動量の増加は認められなかった。したがって、MLCTによる無動時間の短縮は、活動量が増加したことによるものではないことが明らかとなった。
【0056】
<試験例4>うつ状態に対する予防効果の検討(4)
マウスに対して、強制水泳によるストレス負荷と同時に、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸の配合量の異なる飼料を摂食させることにより、うつ病又はうつ状態に対する予防効果における中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸の至適量の検討を行った。また、MCT及びLCTを配合したMLCT含有飼料と、M・LCT、MCT及びLCTを配合したMLCT含有飼料とを摂食させることにより、うつ病又はうつ状態に対する予防効果におけるトリグリセリドの摂取形態の検討を行った。なお、本試験では、強制水泳時の無動時間を、予防効果を評価する上での指標とした。
【0057】
[強制水泳によるストレス負荷試験]
試験には、6週齢のddY系雄性マウス(日本SLC,体重28〜30g)を用いた。マウスを飼育ケージに入れ、室温22±4℃、相対湿度55±15%、12時間サイクルで明暗の切り換えを行う飼育室にて飼育した。水及び飼料は自由摂取とした。試験は、M・LCT、MCT及びLCTを含有するMLCT含有飼料を摂取させる「試験食1摂取群(実施例4)」、LCT含有飼料を摂取させる「試験食2摂取群(比較例4)」、MCT(5質量%)及びLCT(2質量%)を含有するMLCT含有飼料を摂取させる「試験食3摂取群(実施例5)」そして、MCT(1質量%)及びLCT(6質量%)を含有するMLCT含有飼料を摂取させる「試験食4摂取群(実施例6)」の4群にて行った。群分けは、試験開始前における各群のマウスの平均体重が均一となるように行った。なお、1群5匹にて試験を行い、マウスには、ストレス負荷と同時に飼料を摂食させた。
【0058】
強制水泳によるストレス負荷は、上記と同様に、Porsolt R.D.らにより開発された方法に基づいて行った。すなわち、5Lのポリビーカー(内径:27cm,高さ:27cm)に水(24〜26℃)を18cmの高さ(水の総量:4L)まで入れ、その中でマウスを1日1回6分間泳がせ、これを20日間連続して行った。試験開始1日目及び試験開始20日目に、上記6分間の強制水泳時間のうち、残り時間4分間に認められた無動時間(秒)をストップウォッチにより測定し、平均値を求めた。そして、それぞれの無動時間の平均値を求め、試験開始1日目の無動時間の平均値を100としたときの相対値(%)を算出した。
【0059】
なお、測定結果は、各群の上記相対値±標準誤差で示した。群間の有意差は、一元配置分散分析を用い、有意水準を5%として検定を行った。
【0060】
結果を図5に示す。M・LCT、MCT及びLCTを配合したMLCT含有飼料を摂取させた試験食1摂取群(実施例4)、並びにMCT(1質量%)及びLCT(6質量%)を含有するMLCT含有飼料を摂取させた試験食4摂取群(実施例6)の無動時間の相対値は、LCT含有飼料を摂取させた試験食2摂取群(比較例4)と比較して、有意に低い値を示した。MCT(5質量%)及びLCT(2質量%)を含有するMLCT含有飼料を摂取させた試験食3摂取群(実施例5)の無動時間の相対値については、LCT含有飼料を摂取させた試験食2摂取群(比較例4)と比較して、有意な差は認められないものの、低値を示す傾向が認められた。これらの群間では、平均値の差が大きいことから、もう少しサンプル数を増やすことにより、有意な差が認められるものと考えられる。
【0061】
また、LCT含有飼料を摂取させた試験食2摂取群(比較例4)では、無動時間が長くなるにもかかわらず、MCT(5質量%)及びLCT(2質量%)を含有するMLCT含有飼料を摂取させた試験食3摂取群(実施例5)と、MCT(1質量%)及びLCT(6質量%)を含有するMLCT含有飼料を摂取させた試験食4摂取群(実施例6)とでは、LCTをより多く含有する試験食4摂取群(実施例6)の方が、無動時間が短くなる傾向が認められた。このことから、トリグリセリドを構成する長鎖脂肪酸には至適量があることが示唆された(図5)。
【0062】
更に、M・LCT、MCT及びLCTを含有するMLCT含有飼料を摂取させた試験食1摂取群(実施例4)と、MCT(1質量%)及びLCT(6質量%)を含有するMLCT含有飼料を摂取させた試験食4摂取群(実施例6)とでは、無動時間に有意な差が認められなかったことから、うつ状態の予防には、トリグリセリドの摂取形態は影響を与えないことが明らかとなった(図5)。
【0063】
<試験例5>うつ状態に対する治療効果の検討(1)
慢性マイルドストレス負荷後に、マウスに対してMLCT含有飼料を摂食させることにより、本発明の油脂組成物のうつ病又はうつ状態に対する治療効果の検討を行った。
【0064】
[慢性マイルドストレス負荷試験]
試験には、6週齢のddY系雄性マウス(日本SLC,体重28〜30g)を用いた。マウスを飼育ケージに入れ、室温22±4℃、相対湿度55±15%、12時間サイクルで明暗の切り換えを行う飼育室にて飼育した。水及び飼料は自由摂取とした。慢性マイルドストレス負荷試験を行う最初の24日間は、通常食として市販の飼料(商品名:ラボMRストック,日本農産工業(株)製)を摂食させ、上記負荷試験終了後に、試験食を16日間摂食させた。試験は、ストレス負荷を行った後に、MLCT含有飼料を摂取させる「試験食1摂取群(実施例7)」、ストレス負荷を行った後に、LCT含有飼料を摂取させる「試験食2摂取群(比較例5)」、ストレス負荷を行った後に、市販の飼料を摂取させる「通常食摂取群(参考例4)」、及びストレス負荷を行わないで市販の飼料を摂取させる「通常食摂取群(参考例5)」の4群にて行った。群分けは、試験開始前における各群のマウスの平均体重が均一となるように行った。なお、1群5匹にて試験を行った。
【0065】
慢性マイルドストレス負荷は、以下の方法にて行った。まず、試験開始1日目は、15分間の強制水泳を行った。強制水泳では、5Lのポリビーカー(内径:27cm,高さ:27cm)に水(24〜26℃)を18cmの高さ(水の総量:4L)まで入れ、その中でマウスを15分間泳がせた。その後、1日間は通常のケージで飼育して休ませた。次いで、傾斜ケージ(傾斜角:20°)で2日間飼育し、その後1日間は通常のケージで飼育して休ませた。次いで、200mLの水で濡らした汚物ケージで1日間飼育し、その後1日間は通常のケージで飼育して休ませた。次いで、180rpmで回転する回転ケージで1日間飼育し、その後1日間は通常のケージで飼育して休ませた。この3種類のケージを用いた1週間に亘るストレスの負荷を1クールとして、これを3クール(3週間)に亘り行った。
【0066】
[尾懸垂試験]
そして、治療効果を評価するために、慢性マイルドストレス負荷後、試験食摂食開始0日目、9日目、及び16日目のマウスに対して尾懸垂試験を行った。尾懸垂試験も、上記の強制水泳試験と同様に、うつ病の動物モデル実験として繁用されている方法の1つであり、マウスの尻尾を固定し、逆さ吊りという逃避できないストレスを負荷することで、無動状態を惹起させる。そこで、本検討では、尾懸垂時の無動時間を、MLCTの効果を評価する上での指標とした。なお、尾懸垂試験は、以下の方法にて行った。まず、金属製の固定棒を、実験用スタンドを用い、地面と平行に高さ35cmの所にクランメルで固定した。次に、逆さ吊り状態がお互いに見えないよう紙で仕切りを作り、固定棒に留めたマウス尾懸垂用クリップ(山下技研製)を用いてマウスの尾を固定し、マウスを6分間ぶら下げた。その6分間に認められた無動時間(秒)、すなわち、マウスがぶら下がったまま、静止している時間をストップウォッチにより測定し、平均値を求めた。
【0067】
なお、測定結果は、各群の上記無動時間の平均値±標準誤差で示した。群間の有意差は、一元配置分散分析を用い、有意水準を5%として検定を行った。
【0068】
結果を図6に示す。ストレス負荷を行った後に、MLCT含有飼料を摂取させた試験食1摂取群(実施例7)では、摂食9日目において、既に通常食摂取群(参考例5)との間に有意な差がなく、ストレスの無い状態に近づく傾向が認められた。このことから、MLCTの摂取によれば、すでに発症したうつ状態に対して、症状の軽減、改善等が可能であることが示唆された。
【0069】
以上のうつ状態に対する予防及び治療効果の試験結果から明らかなように、本発明の油脂組成物は、動物試験において優れた抗うつ作用を示すので、うつ病又はうつ状態の予防又は治療用として有用である。
【0070】
<試験例6>MLCTの脳海馬p44/42MAPK活性化能の検討
近年、未治療のうつ病患者の血清の脳由来神経栄養因子(BDNF)が、健常者と比較して少ないことが報告された(Huang T.L.et al.,J.Psychiatr.Res.,42(7),521−525(2008))。また、抑うつ症状と、マウスの海馬におけるp44/42分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)のリン酸化レベルとが、負の相関を示すことが知られている(Behavioural Brain Research, 175, 233−240(2006))。MAPKは、BDNFの主要な細胞内シグナル伝達経路を担っており、リン酸化をうけて活性化される。これは、MAPKのリン酸化レベルが抑うつの一指標となることを示唆している。そこで、MLCT投与マウスにおける脳海馬p44/42MAPKのリン酸化レベルを測定することにより、MLCTが抗うつ効果を有していることを確認することにした。
【0071】
<製造例5>試験用乳化物1の製造方法
65℃加温下で、乳化剤を生理食塩水に溶解後、超音波にて混合し、試験用乳化物1を得た。
【0072】
<製造例6>試験用乳化物2の製造方法
65℃加温下で、乳化剤を生理食塩水に溶解後、超音波にて混合し、これに、MLCT(商品名:ヘルシーリセッタ,日清オイリオグループ(株)製,中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸との合計中、長鎖脂肪酸の占める割合:87%,脂肪酸の含有形態:M・LCT+MCT+LCT)を1.2質量%配合し、更に超音波にて乳化し、試験用乳化物2を得た。
【0073】
<製造例7>試験用乳化物3の製造方法
65℃加温下で、乳化剤を生理食塩水に溶解後、超音波にて混合し、これに、MLCT(商品名:ヘルシーリセッタ,日清オイリオグループ(株)製,中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸との合計中、長鎖脂肪酸の占める割合:87%,脂肪酸の含有形態:M・LCT+MCT+LCT)を6質量%配合し、更に超音波にて乳化し、試験用乳化物3を得た。
【0074】
<製造例8>試験用乳化物4の製造方法
65℃加温下で、乳化剤を生理食塩水に溶解後、超音波にて混合し、これに、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ(株)製)を1.2質量%配合し、更に超音波にて乳化し、試験用乳化物4を得た。
【0075】
<製造例9>試験用乳化物5の製造方法
65℃加温下で、乳化剤を生理食塩水に溶解後、超音波にて混合し、これに、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ(株)製)を6質量%配合し、更に超音波にて乳化し、試験用乳化物5を得た。
【0076】
試験には、7週齢のddY系雄性マウス(日本SLC,体重31〜33g)を用いた。群分けは、各群のマウスの平均体重が均一となるように行った。なお、1群3匹にて試験を行った。上記方法により製造した試験用乳化物1〜5をマウスに経口投与し、3時間後に断頭して脳海馬を摘出した。脳海馬のp44/42MAPKのリン酸化レベルは、ウエスタンブロッティング法により測定した。ブロッティング装置には、ATTO社製のホライズブロットを用い、電流2mA/cm、電圧100V、泳動時間60分の条件にて測定した。脳海馬は、ホモジナイザーを用いて19倍量のRIPAバッファー中でホモジナイズした。ホモジネートは、16.1k×gで10分間遠心分離し、その上清を用いた。これを用いて、10%のポリアクリルアミドゲルで電気泳動(SDS−PAGE)を行った。ニトロセルロース膜に転写後、転写メンブランをブロッキング液(5%スキムミルクを含むTBS)に1時間浸した。その後、抗ウサギp44/42MAPK抗体(Cell Signaling社製)又はphospho−p44/42MAPK抗体(Cell Signaling社製)で、4℃にて一昼夜インキュベートした。メンブランは、その後、0.1%Tween20を含むTBS(TBS−T)で3回洗浄した後、アルカリホスファターゼ標識したヤギ抗ウサギIgG抗体で、1時間インキュベートし、TBS−Tで洗浄後、BCIP−NBT溶液(Dig3緩衝液)にて、発色させて、p44/42MAPKタンパクを検出した。なお、各試料溶液のタンパク質含量は、ビシンコニン酸(BCA)試薬を用いたキットにより測定し、5μgのタンパク質を含む抽出溶液に、4倍濃度の電気泳動用サンプル緩衝液を1/3量、及び2−メルカプトエタノールを1/10量加え、95℃にて5分間加熱処理した後、電気泳動を行った。
【0077】
次に、発色させて得られたバンドの濃淡をスキャナー(ES−2200,EPSON社製)で取り込んだ後、画像解析ソフト(ImageJ,Wayne Rasband,アメリカ国立衛生研究所(NIH)開発,http://rsb.info.nih.gov/ij/)にて処理し、数値を得た。そして、試験用乳化物1〜5の各投与群のリン酸化/非リン酸化の数値をそれぞれ求めた後、試験用乳化物1の投与群のリン酸化/非リン酸化の数値の平均値を求めた。次いで、上記試験用乳化物1の投与群のリン酸化/非リン酸化の数値の平均値を100としたときの、上記試験用乳化物1〜5の各投与群のリン酸化/非リン酸化の数値の相対値(%)を算出し、投与群ごとに平均値を求めた。これらの相対値の平均値を各投与群のp44/42MAPKのリン酸化レベルとし、比較を行った。
【0078】
[統計処理]
測定結果は、各群の上記相対値±標準誤差で示した。群間の有意差は、一元配置分散分析を用い、有意水準を5%として検定した。
【0079】
結果を図7に示す。p44/42MAPKのうち、神経細胞の増殖に関与するp42 MAPK(ERK2)のリン酸化レベルが、MLCT含有乳化物の投与により濃度依存的に上昇を示した。これに対して、LCT含有乳化物では、このような傾向は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜10の中鎖脂肪酸と炭素数12〜24の長鎖脂肪酸とをトリグリセリドの形態で含有し、
前記中鎖脂肪酸と前記長鎖脂肪酸との合計中、前記長鎖脂肪酸の占める割合が25〜90質量%であるうつ病又はうつ状態の予防又は治療用油脂組成物。
【請求項2】
前記中鎖脂肪酸が炭素数8及び/又は10の飽和脂肪酸であり、且つ前記長鎖脂肪酸が炭素数16〜24の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸である請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
ストレス誘発性のうつ病又はうつ状態の予防又は治療に用いられる請求項1又は2に記載の油脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−136948(P2011−136948A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297988(P2009−297988)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】