説明

う蝕治療用殺菌水及びその生成方法並びに生成装置

【課題】脱灰と殺菌力の両方を満たすpHで、なおかつバイオフィルム内に棲息するミュータンスレンサ球菌やラクトバチラス菌といったう蝕病原菌を確実に死滅させる。
【解決手段】本発明に係る殺菌水の生成装置1は、原液2を貯留する原液タンク3と、該原液タンクに連通接続されたストロークポンプ4と、該ストロークポンプに連通接続された電解槽5と、該電解槽に連通接続された吐出管6と、希釈水7が貯留された希釈水タンク8と、該希釈水タンク内の水位を計測する水位計測手段としての水位センサ9とを備えるとともに、吐出管6の先端が希釈水タンク8に貯留された希釈水7の水位以下となるように、吐出管6の先端位置に対する希釈水タンク8の設置位置を相対的に位置決めしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてミュータンスレンサ球菌を殺菌するう蝕治療用殺菌水及びその生成方法並びに生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、主としてミュータンスレンサ球菌を原因菌とした細菌感染症であり、主として乳幼児期に母親の唾液を介して感染すると考えられている。
【0003】
ミュータンスレンサ球菌(mutans streptococci)は現在7菌種に分類されており、ヒトの口腔からは、主としてストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans, Streptococcus mutans)とストレプトコッカス・ソブリナス(S. sobrinus, Streptococcus sobrinus) の2菌種が検出される。
【0004】
う蝕は、ミュータンスレンサ球菌がショ糖(スクロース)を発酵させて乳酸等の有機酸を生成し、かかる有機酸が歯のエナメル質を溶かすことによって歯の脱灰が進行する疾患であるが、ミュータンスレンサ球菌は、ショ糖を基質として粘着不溶性のグルカンを合成し、該グルカンの粘着性によって歯の表面上で病原性バイオフィルムを形成する。
【0005】
そして、いったんバイオフィルムが形成された後は、ミュータンスレンサ球菌は、バイオフィルムによって抗生剤や殺菌剤からの攻撃を免れながら、該バイオフィルム内で棲息し続けるとともに、バイオフィルムによる有機酸の希釈拡散防止作用と相俟って、歯の脱灰を促進させやすい。
【0006】
歯面上に形成される病原性バイオフィルムは、歯科分野では歯垢(デンタルプラーク)としてよく知られているものであり、日常的なブラッシングでその形成を防止することはある程度可能であるが、唾液中のカルシウムやリン酸が沈着して石灰化が進み、歯石へと変化すると、もはや日常のブラッシングによって除去することは困難となる。
【0007】
かかる場合には、PMTCと呼ばれる歯面清掃処理を行って歯垢あるいは歯石を物理的に除去するとともに、3DSという除菌方法で歯の除菌を行う。
【0008】
3DSは、患者それぞれの歯列に合ったトレーを用いて歯面に薬剤を塗布することにより、ミュータンスレンサ球菌を殺菌することができるものであり、PMTCとの併用によるう蝕の治療方法として期待されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−183706
【特許文献2】特開平10−87462
【特許文献3】特開2001−327975
【特許文献4】特開平6−292892
【特許文献5】特開平10−314746
【特許文献6】特開昭63−286148
【特許文献7】特開平5−76550
【特許文献8】特開平4−994785
【特許文献9】特開平7−313982
【特許文献10】特開平8−19782
【特許文献11】特開平8−108182
【特許文献12】特開2006−68354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、3DSによる除菌は、トレイ作成のために患者一人一人の歯型をとる必要があるのみならず、除菌に使う薬剤の関係上、除菌操作一回あたり、5分程度の時間を要するとともに、除菌操作自体を何度か繰り返さねばならず、治療側及び患者側とも時間的負担が大きく、治療の手順も煩雑でコストもかかるという問題を生じていた。
【0011】
一方、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCL、次亜塩素酸ソーダ)の殺菌性については従来から広く知られているが、実際に殺菌力を持つのは、加水分解で生成される次亜塩素酸(HCLO)であるところ、かかる次亜塩素酸は、高いpHではほとんど水溶液中に存在し得ず、代わりに殺菌力の弱い次亜塩素酸イオン(CLO)に形態を変化させてしまうとともに、そもそも高いpHでは刺激性が高く人体組織を腐蝕させるおそれがあるため、口腔内で使用することはできない。さりとてpHを下げ過ぎれば、猛毒の塩素ガスが発生する。
【0012】
そのため、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCL)は、予め酸を添加してpHを下げた上、手の消毒、果実・野菜の消毒、食品の製造ラインの殺菌消毒、浴室等の消毒、プール水の消毒、漂白剤、下水処理後の排水の消毒等にとどまっているのが現状である。
【0013】
また、次亜塩素酸ナトリウムと塩酸を希釈混合反応させ、pHを5.5から6.5の弱酸性にした弱酸性水が市販されているが、用途としては概ね上述した範囲内であって、歯科分野での使用を前提としたものではなく、ましてう蝕治療としては何ら安全性や効能について実証されていない。
【0014】
ここで、特許文献1には、口腔内に含んで使用する次亜塩素酸殺菌水が開示されており、実施例として塩化ナトリウム溶液に塩酸を添加して電気分解し、pHが6.5、残留塩素濃度が50ppmの殺菌水を生成できる旨、記載されている。また、特許文献2には、次亜塩素酸の濃度が5〜55ppmである口腔洗浄水が開示されている。
【0015】
しかしながら、かかる殺菌水や洗浄水では、バイオフィルムで守られたミュータンスレンサ球菌を死滅させることなど到底できないことが本出願人の臨床試験で明らかになった。加えて、特許文献1における特許請求の範囲には、pHの範囲が3〜8となっているが、少なくともpH3〜pH5程度の範囲では、脱灰のおそれが強く、口腔内に使用することはできない。
【0016】
また、特許文献3には、塩化ナトリウム(NaCL)、酢酸及び水を原液とし、かかる原液を電気分解することによって次亜塩素酸イオン(CLO)を生成し、これを歯科用水道水として用いる点が開示されているが、次亜塩素酸イオン(CLO)は、上述したように次亜塩素酸(HCLO)より殺菌力が小さいばかりか、高いpHで存在し得る次亜塩素酸イオン(CLO)を使用することは、人体組織への影響が大きすぎる。
【0017】
また、特許文献4には、塩化ナトリウム(NaCL)、無機酸及び水を原液とし、かかる原液を電気分解して活性酸素を生成する点や活性酸素とともに生成される次亜塩素酸によって、調理環境衛生用、手洗い用、食品材料用、おしぼり用の殺菌水をはじめ、食品加工流通分野などの種々の分野で利用可能であるとの記載があるものの、ミュータンスレンサ球菌に対する作用効果については何らの記載もなく、そもそも歯科分野への適用について何ら言及されていない。
【0018】
また、特許文献5には、特許文献6〜9で解決されていない課題、すなわち口腔洗浄水として使用する場合のpHに関する課題を解決すべく、あらたな原液組成が開示されており、かかる原液を電気分解することで30ppm程度の次亜塩素酸(HCLO)からなる殺菌水を生成することができる点が開示されているとともに(表2,図3)、う蝕予防にも使用できるとの開示もなされてはいるが(段落番号28)、実際に試験された菌体にはミュータンスレンサ球菌は含まれておらず、効能が明らかでないばかりか、上述したと同様、かかる殺菌水ではミュータンスレンサ球菌を死滅させることなど到底不可能である。
【0019】
また、特許文献10,11は、口腔内での使用を前提としておらず、ミュータンスレンサ球菌はもとより、そもそもデンタルプラークを死滅させる効能があるかどうかさえ不明である。
【0020】
また、従来における殺菌水の生成方法では、塩酸や酢酸を添加せねばならず、pH管理が難しくなるとともに、当初から水に含まれている成分とも相まって、次亜塩素酸(HCLO)以外にさまざまな物質、特に味覚や嗅覚を刺激する物質が生成される原因となり、口腔内で使用する際にはおのずと限度があった。
【0021】
例えば、特許文献12には、従来公知の口腔殺菌液では、実際の口腔内での使用時において、口腔粘膜の炎症、刺激等の問題があり、日常的な使用に耐えられないと記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、脱灰と殺菌力の両方を満たすpHで、なおかつバイオフィルム内に棲息するミュータンスレンサ球菌やラクトバチラス菌といったう蝕病原菌を確実に死滅させることが可能なう蝕治療用殺菌水及びその生成方法並びに生成装置を提供することを目的とする。
【0023】
また、本発明は、pH管理が容易でなおかつ味覚や嗅覚を刺激する物質を生成することのない殺菌水の生成方法及び生成装置を提供することを目的とする。
【0024】
上記目的を達成するため、本発明に係るう蝕治療用殺菌水は請求項1に記載したように、次亜塩素酸(HCLO)を含む殺菌水において、
【0025】
前記次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜600ppm、pHを5.6〜7とするとともに、う蝕病原菌の殺菌を用途としたものである。
【0026】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水は、前記201〜600ppmに代えて400〜600ppmとしたものである。
【0027】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水は、前記5.6〜7に代えて6.3〜6.7としたものである。
【0028】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水は、前記5.6〜7に代えて5.6〜6.3としたものである。
【0029】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成方法は請求項5に記載したように、水に塩化ナトリウム及び酸を添加してなる原液を電気分解して得られる1次生成水を希釈することにより、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成方法であって、前記殺菌水に含まれる次亜塩素酸の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウム及び前記酸の添加量を含む原液組成条件、電気分解条件及び希釈条件を設定し、前記原液組成条件に従って原液を作製した後、前記電気分解条件に従って前記原液を電気分解し、しかる後、電気分解で生成された1次生成水を前記希釈条件に従って希釈する工程からなり、前記希釈工程において、1次生成水を所定の吐出管を介して希釈水に注入するとともに、注入の際、前記吐出管の先端位置が希釈水の水位以下となるようにするものである。
【0030】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成方法は請求項6に記載したように、水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムのみを添加して原液とし、該原液を電気分解して1次生成水とし、該1次生成水を希釈することにより、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成方法であって、前記殺菌水に含まれる次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を含む原液組成条件、電気分解条件及び希釈条件を設定し、前記原液組成条件に従って原液を作製した後、前記電気分解条件に従って前記原液を電気分解し、しかる後、電気分解で生成された1次生成水を前記希釈条件に従って希釈する工程からなり、前記希釈工程において、1次生成水を所定の吐出管を介して希釈水に注入するとともに、注入の際、前記吐出管の先端位置が希釈水の水位以下となるようにするものである。
【0031】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成方法は請求項7に記載したように、純水を所定期間大気中に放置し、その放置水に塩化ナトリウムのみを添加して原液とし、該原液を電気分解して1次生成水とし、該1次生成水を希釈することにより、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成方法であって、前記殺菌水に含まれる次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を含む原液組成条件、電気分解条件及び希釈条件を設定し、前記原液組成条件に従って原液を作製した後、前記電気分解条件に従って前記原液を電気分解し、しかる後、電気分解で生成された1次生成水を前記希釈条件に従って希釈する工程からなり、前記希釈工程において、1次生成水を所定の吐出管を介して希釈水に注入するとともに、注入の際、前記吐出管の先端位置が希釈水の水位以下となるようにするものである。
【0032】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成方法は、前記201〜600ppmに代えて400〜600ppmとするものである。
【0033】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成方法は、前記5.6〜7に代えて6.3〜6.7とするものである。
【0034】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成方法は、前記5.6〜7に代えて5.6〜6.3とするものである。
【0035】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置は請求項11に記載したように、電解槽中の原液を電気分解して次亜塩素酸(HCLO)を含む殺菌水を生成する装置において、
【0036】
前記原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続された電解槽と、該電解槽に連通接続された吐出管と、希釈水が貯留された希釈水タンクとを備えるとともに、前記吐出管の先端が前記希釈水タンクに貯留された希釈水の水位以下となるように前記吐出管の先端位置に対する前記希釈水タンクの設置位置を相対的に位置決めしてなり、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成するものである。
【0037】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置は請求項12に記載したように、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成装置であって、水を逆浸透膜に通して得られた通過水に塩化ナトリウムのみが添加されてなる原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続され前記原液を電気分解して1次生成水を生成する電解槽と、該電解槽に連通接続された吐出管を介して吐出される前記1次生成水を希釈して殺菌水とする希釈水が予め貯留され前記吐出管の先端が前記希釈水の水位以下となるように前記吐出管を相対的に位置決めしてなる希釈水タンクとを備えるとともに、前記殺菌水内の前記次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を定め、前記電解槽の動作条件を定め又は希釈条件を定めたものである。
【0038】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置は請求項13に記載したように、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成装置であって、純水を所定期間大気中に放置して得られた放置水に塩化ナトリウムのみが添加されてなる原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続され前記原液を電気分解して1次生成水を生成する電解槽と、該電解槽に連通接続された吐出管を介して吐出される前記1次生成水を希釈して殺菌水とする希釈水が予め貯留され前記吐出管の先端が前記希釈水の水位以下となるように前記吐出管を相対的に位置決めしてなる希釈水タンクとを備えるとともに、前記殺菌水内の前記次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を定め、前記電解槽の動作条件を定め又は希釈条件を定めたものである。
【0039】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置は、前記201〜600ppmに代えて400〜600ppmとしたものである。
【0040】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置は、前記5.6〜7に代えて6.3〜6.7としたものである。
【0041】
また、本発明に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置は、前記5.6〜7に代えて5.6〜6.3としたものである。
【0042】
(殺菌水に係る発明)
【0043】
う蝕病原菌は、う蝕に関与する口腔内細菌を指すものとし、具体的にはミュータンスレンサ球菌及びラクトバチラス菌(Lactobacilli)を含む。また、ミュータンスレンサ球菌のうち、ヒトの口腔内で検出されるのは、主としてストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans, Streptococcus mutans)とストレプトコッカス・ソブリナス(S. sobrinus, Streptococcus sobrinus) の2菌種である。
【0044】
本出願人は、蒸散機能のある波長2.94μmのレーザーを発生するEr:YAGレーザーを用いたレーザー治療や抗生剤投与による治療を行いながら、このようなう蝕病原菌を死滅させることがいかに困難であるかを知り、従来から知られている次亜塩素酸(HCLO)の殺菌力を利用することができないかに着眼して研究を積み重ねた。
【0045】
しかし、既に述べたようにう蝕病原菌は、歯の表面に形成されたバイオフィルム内に棲息するため、次亜塩素酸(HCLO)を含む公知の殺菌水を含嗽(がんそう)したところで、口腔内の有機物を酸化するにとどまり、殺菌力が保持された状態でバイオフィルム内に送り込むことなど到底不可能であることがわかった。
【0046】
また、バイオフィルムを物理的に破壊しながら公知の殺菌水を注入したとしても、その殺菌力は、周囲の有機物を酸化することでほとんど消費されてしまい、バイオフィルム内に棲息しているう蝕病原菌を死滅させることはやはり不可能であることもわかった。
【0047】
そこで、本出願人は、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を200ppm程度まで上げれば、酸化力が徐々に低下したとしても、バイオフィルム内のう蝕病原菌を死滅させることができるのではないかと考え、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を上げることに研究開発の視点を移した。
【0048】
しかしながら、200ppmを越える高濃度の歯科用次亜塩素酸水は、本出願時において全く明らかにされていない。
【0049】
すなわち、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を計測するには、例えば「残留塩素試験紙アクアチェック」なる商品名でオルガノ株式会社が販売している残留塩素計があるが、測定範囲は、0、0.1、0.5、1.0(mg/L)となっており、1ppm以上の場合、濃度計測不能である。同様に、「デジタル残留塩素計HI 95シリーズ」は0.00〜5.00mg/L、「ポケット残留塩素計(ハック社製)」は0.02〜2.00mg/L、「ポータブル残留塩素計OR-52」は0.05〜2.00mg/L、「ポータブル水質計WA-1」は 0.05〜2.00mg/Lとなっており、5ppm以上は測定不能である。また、株式会社堀場アドバンスドテクノから「残留塩素計CR-200」の商品名で販売されているものは測定範囲が 0〜2.0mg/L、有限会社エムケー・サイエンティフィックから「残留塩素計C-201(完全防水型)」の商品名で販売されているものは0.01〜6.0mg/Lであり、測定上限値は、ほとんどが5〜6ppmとなっている。
【0050】
ちなみに、株式会社テックジャムから「残留塩素測定器 RC-7Z 」の商品名で販売されているものは、測定範囲が10〜200mg/L、株式会社イワキから「高濃度用残塩計(ドレンタイプ) CL-50H」の商品名で販売されているものは20〜200mg/L、AQUALYTIC(ドイツ製)の商品名で株式会社東興化学研究所から販売されている「DPD錠剤法 デジタル残留塩素濃度計」は高濃度有効塩素の測定範囲が0〜200mg/Lであるが、それでも200ppmが測定上限値である。
【0051】
一方、バイエルメディカル株式会社からは、高濃度測定試験紙として「日産アクアチェックHC」の商品名で試験紙が販売されており、「遊離残留塩素濃度として0,50,100,200,400,600mg/Lの高範囲な測定域」を持つ旨、説明がなされているが(http://www.aquachek.net/aq_08b06.html、2005年12月14日インターネット検索)、「本法は高濃度の次亜塩素酸ナトリウム(強アルカリ性)(中略)の測定を考慮し、pHについて影響の少ないクロモーゲンを用いている。」(同上)という説明からもわかるように、次亜塩素酸ナトリウム(強アルカリ性)の濃度を計測することを前提としたものであって、高濃度の次亜塩素酸(HCLO)について計測ニーズがあることを裏付けるものではない。
【0052】
同様に、津元理化産業株式会社から「簡易水質検査キット シンプルパック 残留塩素300 ClO300」の商品名で販売されている計測機器や、遠藤科学株式会社から「パックテストWAK−ClO(C)」の商品名で販売されている計測機器を用いて、それぞれ50〜300mg/L、5〜10000 mg/Lの濃度範囲で残留塩素を計測できる旨の記載があるが(http://www.tsumoto-rika.co.jp, http://www.endokagaku.co.jp、2005年12月16日検索)、これらの計測機器はいずれも、次亜塩素酸ナトリウム(強アルカリ性)の濃度を計測することを前提としたものであって、高濃度の次亜塩素酸(HCLO)について計測ニーズがあることを裏付けるものではない。
【0053】
このように、濃度が200ppmを越える次亜塩素酸(HCLO)を計測するニーズは、本出願の時点で計測機器分野には存在せず、ゆえに200ppmを越える次亜塩素酸水は未だ公知の物質ではないと推定できる。
【0054】
加えて、バイオフィルム内に棲息するう蝕病原菌を死滅させることを用途とした次亜塩素酸水は、従来技術において全く開示されていないことは上述した通りである。
【0055】
本発明に係る殺菌水において、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を高くしなければならない理由は以下の通りである。
【0056】
(a)う蝕病原菌も他の細菌と同様、浮遊状態で存在する割合よりもバイオフィルムを形成してその内部に棲息している割合が圧倒的に大きく、かかるバイオフィルム内のう蝕病原菌を死滅させるには、口腔内の有機物や他の菌体を酸化してもなお十分な殺菌力を保持していることが要求される。
【0057】
(b)長時間、例えば60秒以上かけて殺菌を行うことは、数十万の細菌を体内(血管内)に送り込んで菌血症を招き全身疾患を誘発する懸念があるため、30秒以内、できれば10秒以内に死滅させなければならない。
【0058】
(c)バイオフィルムには300〜400種の細菌が一定の均衡を維持しながら寄生的に繁殖して細菌叢(そう)を形成しているが、これがなんらかの原因で他の菌と置換されたり、少数の菌が異常に増えたりすると、菌交代現象とよばれる細菌叢の変化が生じる。すなわち、一部のう蝕病原菌が殺菌されずに生き残ると、菌交代現象が発生し、残った細菌が急激に増殖する。このような事態を防止するためには、バイオフィルムに棲息する細菌を全て死滅させなければならない。
【0059】
本発明に係る殺菌水は、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜600ppm、pHを5.6〜7とするとともに、う蝕病原菌の殺菌を用途とするものであり、使用時においては、例えば炭酸水素ナトリウムの微粉末と水とを圧縮空気で歯の表面に吹き付ける歯面清掃方法で歯の表面に形成されているバイオフィルムを物理的に除去し、その後、上記殺菌水を口腔内に含んで数秒〜数十秒間、含嗽する。
【0060】
このようにすると、上記殺菌水は、口腔内に存在する有機物や他の菌体の酸化によって殺菌力を徐々に失いつつも、バイオフィルム内のう蝕病原菌を短時間に殺菌できるだけの酸化力を保持しているため、歯牙表面に棲息しているう蝕病原菌や、歯面清掃によって口腔内に飛散したう蝕病原菌を確実に死滅させることができる。もちろん、その際、歯の脱灰についても未然に防止される。
【0061】
ここで、歯面清掃を行う際、水に代えて上記殺菌水を用いてもよいし、超音波スケーラーを用いて事前に歯石を除去するのであれば、その際にも上記殺菌水を用いることができる。
【0062】
ちなみに、201ppm以上としたのは、200ppm以下の濃度では上記(a)〜(c)を達成することが困難だからであり、600ppm以下としたのは、600ppmを上回る濃度は上記(a)〜(c)を達成するためには不必要な濃度だからである。
【0063】
ここで、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を300〜600ppmにした場合、歯牙表面に棲息し又は歯面清掃によって口腔内に飛散したう蝕病原菌を30秒程度以内に完全殺菌することができる。また、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を400〜600ppmにした場合には10秒程度以内に完全殺菌することができる。
【0064】
なお、塩酸や酢酸を添加する方法で本発明に係る殺菌水を生成する場合、生成時に同時に生じる刺激物質が臭いや味となって患者に刺激を与えるため、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を500ppm以下とし、さらに400ppm以下とするのが望ましい。
【0065】
(殺菌水の生成方法及び生成装置に係る発明)
【0066】
本発明に係る殺菌水を生成するにあたり、殺菌水を口腔内に注入する以上、歯が脱灰しないpHを維持することは絶対条件となるところ、永久歯のエナメル質はpH5.5で、象牙質はpH6.2で脱灰し、乳歯はpH6.2で脱灰するため、pH範囲は、pH5.6以上に限定される。また、エナメル質で被覆されずに象牙質が露出している場合を想定すれば、pH範囲は、pH6.3以上に限定される。
【0067】
一方、塩素は、pH環境によって、塩素ガス、次亜塩素酸(HCLO)、次亜塩素酸イオン(CLO-)とその形態を変化させる化学物質であるとともに、塩素ガスに毒性があることは広く知られているところであり、濃度調整のために希釈を行うと、pHが変動して塩素の形態も変化する。
【0068】
具体的には、塩素を次亜塩素酸(HCLO)の形態で水溶液中に十分な割合で含有させるためには、目安としてpH2.2〜pH7(有効塩素存在百分率において次亜塩素酸(HCLO)が約80%以上)、望ましくはpH2.8〜pH6.7(有効塩素存在百分率において次亜塩素酸(HCLO)が約90%以上)であることが必要となる。
【0069】
したがって、高濃度の次亜塩素酸水を殺菌水として生成するにあたっては、殺菌水のpHが5.6以上7以下(6.3以上7以下)、望ましくは5.6以上6.7以下(6.3以上6.7以下)という非常に厳しい範囲内におさまるように希釈しなければならないとともに、希釈後の殺菌水は当然ながら所望の高濃度になっていなければならない。換言すれば、希釈後のpHを精度よく管理しつつ、希釈による次亜塩素酸(HCLO)の濃度変動をも同時に考慮しなければならないというきわめて困難な課題が生じた。
【0070】
翻って、塩化ナトリウム(NaCL)、酸及び水を原液とし、かかる原液を単に電気分解する公知の手法は、手の消毒、果実・野菜の消毒、食品の製造ラインの殺菌消毒、浴室等の消毒、プール水の消毒、漂白剤、下水処理後の排水の消毒等が用途であるため、厳密なpH管理は必要ではない。むしろ、pHは、衛生上、問題のない範囲、例えば4〜6程度でかまわないから、大量の殺菌水を必要とする。
【0071】
そのため、上述した公知の手法では、電気分解の際、電解槽内を強酸性側(例えばpH1程度)にpH調整するとともに、電解槽に接続された吐出管に送水管を合流させることで、電解槽から出てきた強酸性水を103〜105倍程度に希釈し、数十ppmの次亜塩素酸水を大量に得ていた。
【0072】
かかる方法では、生成された次亜塩素酸水のpHは上述した4〜6の範囲に入っているとはいえ、大量希釈であるため、目標値通りのpHで次亜塩素酸水を生成することなど精度上、到底不可能であり、何より次亜塩素酸の濃度が数十ppmと当然ながら低くなる。
【0073】
このように、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜600ppm、pHを5.6〜7あるいは6.3〜7とした殺菌水の生成方法は、従来技術において全く明らかにされていない。
【0074】
これに加えて、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7あるいはpHが6.3〜7となるように殺菌水を生成するには、本質的に困難な理由がある。
【0075】
すなわち、高濃度の次亜塩素酸水を生成する以上、当然ながら希釈倍率を下げる必要があるが、希釈倍率が小さい場合、希釈水のポンプによる送水速度(送水量)が小さくなって脈流が発生し、均質な次亜塩素酸水の生成が困難となる。
【0076】
従来においては、pHが1程度の強酸性水を配管内で大量希釈していたため、塩素ガスが生成されるリスクは少ないとともに、塩素ガスが一時的に生成揮散したとしても、配管内ゆえ、外部への漏洩を懸念する必要がなかったが、少量希釈でしかもポンプを使えないとなると、配管内での希釈ができなくなり、万一、電気分解時のトラブル、すなわち、過電流が流れたり原液組成が設計通りのものでなかったりすることに起因してpHが酸性側にシフトし塩素ガスが発生するトラブルが発生した場合、何らかの安全策を講じておく必要も生じる。
【0077】
さりとて希釈そのものをしない、すなわち上述した条件の次亜塩素酸水を電気分解で直接生成することは、原液組成や電解槽の動作条件の設定がきわめて難しく、かつ安定性や精度の面で現実性に欠ける。
【0078】
そこで、本出願人は、濃度とpHに関する厳しい要求を満たしつつ、均質にかつ安全に生成可能な殺菌水の生成方法に関し、以下のようにあらたな知見を得た。
【0079】
すなわち、本発明に係る殺菌水の生成方法においては、水に塩化ナトリウム及び酸を添加してなる原液を電気分解して得られる1次生成水を希釈して殺菌水を生成するにあたり、まず、殺菌水に含まれる次亜塩素酸の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7あるいは6.3〜7となるように、塩化ナトリウムや酸の添加量といった原液に関するパラメータ(以下、原液組成条件)、電圧値や電流値といった電気分解に関するパラメータ(以下、電気分解条件)及び希釈倍率や希釈水の種類といった希釈に関するパラメータ(以下、希釈条件)を設定する。
【0080】
酸は、pH調整剤として機能するため、塩酸、酢酸など任意の酸を用いることができる。
【0081】
また、原液の構成要素である水は、井戸水、水道水などを使用することが可能であり、あえて純水を使用する必要はない。但し、電解槽の電極損傷や電極反応の低下を未然に防止するためには、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどを含まない純水を使用した方がよいことは言うまでもない。
【0082】
なお、希釈水についても同様であり、井戸水、水道水、純水等を使用することができる。なお、希釈水は、生成された殺菌水のpHが上述した範囲になるよう、pHを適宜設定する。
【0083】
設定された原液組成条件に従って原液を作製した後、これを原液タンクに貯留する。
【0084】
次に、電気分解条件に従って原液を電解槽に入れ、該原液を電気分解する。
【0085】
次に、電解槽内で生成された1次生成水を、該電解槽に連通接続された吐出管を介して、予め希釈水タンクに貯留された希釈水内に注入する。
【0086】
ここで、希釈水タンクは、吐出管の先端位置が希釈水タンクの中に貯留された希釈水の水位以下となるように、その設置位置を相対的に位置決めしてある。
【0087】
そのため、1次生成水を吐出管を介して希釈水内に注入するようにすれば、空気と非接触の状態で注入されることとなる。
【0088】
このようにすれば、万一、原液の配合比率や電解槽の動作条件が設計値と異なり、それが原因で塩素ガスが発生したとしても、該塩素ガスは、pH環境が中性に近い希釈水の中でその形態が次亜塩素酸(HCLO)に変化するとともに、塩素ガスとして気中に揮散する懸念もなくなる。
【0089】
また、希釈水は、希釈条件で設定された希釈倍率で1次生成水が希釈されるように予めこれを計量してから希釈水タンクに貯留しておき、希釈倍率に対応する量の1次生成水が希釈水タンクに注入されたならば、該注入作業を終了する。
【0090】
このように、吐出管の先端が希釈水タンクの中に貯留された希釈水の水位以下となるように位置決めしておくとともに、希釈条件で設定された希釈倍率で1次生成水が希釈されるように予め希釈水を計量して希釈水タンクに貯留するようにしたので、設計通りの濃度及びpHの次亜塩素酸水を安全かつ均質に生成することが可能となる。
【0091】
希釈倍率は、次亜塩素酸(HCLO)の必要濃度に応じて決めればよい。例えば、濃度が400ppmの次亜塩素酸水が必要なのであれば、1次生成水中の次亜塩素酸(HCLO)の濃度が4000ppmとなるように、原液組成条件及び電気分解条件を適宜設定するとともに、希釈倍率を10とすればよい。
【0092】
(殺菌水及びその生成方法に係る発明〜塩酸や酢酸の不添加〜)
【0093】
上述した殺菌水の生成方法によって、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7あるいは6.3〜7の殺菌水を作ることができるとともに、かかる殺菌水によれば、歯牙表面に棲息しあるいは歯面清掃によって口腔内に飛散したう蝕病原菌を数秒〜30秒程度の短時間で死滅させることができる。
【0094】
しかしながら、かかる殺菌水の生成方法にあたっては、原液に塩酸や酢酸を添加する必要があるため、pH管理が難しくなるとともに、当初から水に含まれている成分とも相まって、次亜塩素酸(HCLO)以外にさまざまな物質、特に味覚や嗅覚を刺激する刺激物質が生成され、患者に不快感を与える。
【0095】
そのため、上述した生成方法で生成された殺菌水を口腔内で使用するにあたっては、500ppm、できれば400ppmを上限とするのが望ましい。
【0096】
かかる濃度であっても、歯牙表面に棲息しあるいは歯面清掃によって口腔内に飛散したう蝕病原菌を10秒〜30秒程度の短時間で殺菌することはできるが、臭いや味に関する患者の不快感をもっと軽減できないか、あるいはpH管理を含めた殺菌水生成プロセスをもっと簡素化できないかという点に着目して本出願人がさらなる研究を重ねた結果、画期的な殺菌水の製法開発に成功した。かかる殺菌水の生成方法によれば、次亜塩素酸水の生成に必須と考えられていた塩酸や酢酸の添加が不要になるとともに、それに伴って刺激物質の生成も未然に防止されることとなり、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を600ppmに高めても、臭いや味に関して患者に不快感を与えずに済む。
【0097】
請求項6及び請求項7に係る殺菌水の生成方法においては、請求項5に係る発明と概ね同様の手順で原液組成条件、電気分解条件及び希釈条件を設定するが、請求項6に係る発明では、水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムのみを添加して原液を作製し、請求項7に係る発明では純水を所定期間大気中に放置し、その放置水に塩化ナトリウムのみを添加して原液を作製するものであり、塩酸、酢酸等の酸は一切添加しない。また、原液組成条件は、塩化ナトリウムの添加量が主たるパラメータとなる。
【0098】
逆浸透膜は、孔の大きさが百万分の1mmオーダーであるため、それより一回り小さな水分子は通すが、それ以上大きな分子は、通さないようになっているとともに、イオンを電気的に排除する機能もあるため、ナトリウムイオンなど百万分の1mmよりも小さな物質であっても、他のイオンと同様、ほぼ完全に除去される。
【0099】
このような逆浸透膜は、当初、海水淡水化の手段として研究が始まったが、今では、半導体洗浄等工業用の純水や超純水の製造等に広く用いられている。
【0100】
しかし、このような高い浄水機能を持つ逆浸透膜でも、気体の通過を阻止することは難しく、水に溶存している酸素や二酸化炭素などの気体は、逆浸透膜を通過する。
【0101】
それゆえ、pH要求が厳しいプロセスにおいては、逆浸透にかける前に予め脱気を行って溶存気体を除去することも少なくない。また、生成されたばかりの純水には、大気中の二酸化炭素が短時間にかつ容易に溶け込む。
【0102】
本出願人は、このような逆浸透膜や純水に関する性質を逆に利用できないかという点に着眼し、水道水を逆浸透膜にかけて純水を作製し、実験を繰り返した。
【0103】
その結果、水道水のpHは、約6〜8と全国的にかなりのばらつきがあるにもかかわらず、逆浸透膜を通過した水のpHは概ね5〜6を示した。
【0104】
これは、ミネラル分をはじめとしたさまざまな物質が水道水に含まれているため、水道水自体のpHはばらつくものの、pHに寄与するイオンは、逆浸透膜でほぼ完全に除去され、二酸化炭素によるpH寄与だけが顕在化したことが理由であると考えられる。
【0105】
この性質を利用すれば、塩酸や酢酸といった酸を添加せずとも、高濃度の次亜塩素酸(HCLO)を含む殺菌水を生成することができるのではないかと、本出願人はさらに研究を進めた結果、上述した発明をなすに至ったものである。
【0106】
すなわち、逆浸透膜を通過した水や、純水を一定期間大気中に放置した水のpHは大気中の二酸化炭素に依存し、塩酸や酢酸といった酸をわざわざ添加せずとも、弱酸性の原液をpHが概ね確定した状態でかつ安全に得ることが可能となり、しかもpH値が既知であることにより、電気分解条件や希釈条件の設定も容易に行うことができる。
【0107】
そして何より、水道水や井戸水に含まれる溶存物質が逆浸透膜で予め除去され、又は純水であるがゆえに当初から除去されており、かつ塩酸や酢酸が全く添加されていないため、無味無臭の殺菌水を生成することが可能となり、その結果、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が500ppm〜600ppmであっても、患者に何ら不快感を与えることなく、かつ歯牙表面に棲息しあるいは歯面清掃によって口腔内に飛散したう蝕病原菌を数秒〜30秒程度の短時間で完全殺菌することができるという画期的な作用効果を奏する。
【0108】
なお、電気分解以降の殺菌水の生成手順については請求項5に係る発明と同様であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0109】
以下、本発明に係るう蝕治療用殺菌水及びその生成方法並びに生成装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0110】
(第1実施形態)
【0111】
本実施形態に係る殺菌水は、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜400ppm、望ましくは300〜400ppm、さらに望ましくは400ppm程度、pHを6.3〜6.7とするとともに、う蝕病原菌であるミュータンスレンサ球菌の殺菌を用途とするものである。
【0112】
ここで、201ppm以上としたのは、バイオフィルム内に棲息しているミュータンスレンサ球菌を殺菌するだけの酸化力を保持させるのみならず、ミュータンスレンサ球菌を30秒程度以内(400ppmの場合は10秒程度以内)に完全殺菌するためであり、400ppm以下としたのは、口腔内に与える刺激を緩和するためである。
【0113】
本実施形態に係る殺菌水でう蝕の治療を行うには、必要に応じて超音波スケーラー等を用いたスケーリングで歯面上に形成された歯石を予め除去した後、例えば、炭酸水素ナトリウムの微粉末と水とを圧縮空気で歯の表面に吹き付ける歯面清掃方法で歯の表面に形成されているバイオフィルムを物理的に除去し、次いで、上記殺菌水を口腔内に含んで数十秒間、含嗽する。
【0114】
このようにすると、本実施形態に係る殺菌水は、口腔内の有機物や他の菌体の酸化によって殺菌力を徐々に失いつつも、歯牙表面に棲息しあるいは歯面清掃によって口腔内に飛散したミュータンスレンサ球菌を殺菌するだけの酸化力を保持し、ミュータンスレンサ球菌を短時間に死滅させることができる。もちろん、その際、歯の脱灰についても未然に防止することができる。
【0115】
加えて、本実施形態に係る殺菌水によれば、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜400ppm、望ましくは300〜400ppm、さらに望ましくは400ppm程度に調整してあるので、歯の表面に残存する歯垢や歯石の内部あるいは歯の表層といった部位においてバイオフィルム内に棲息しているミュータンスレンサ球菌を10秒〜30秒以内(500ppm近傍の濃度では瞬間的)に完全殺菌することができる。
【0116】
なお、吹付けや超音波スケーラーを用いた歯面清掃を行う際、水に代えて上記殺菌水を用いてもよい。
【0117】
次に、本実施形態に係る殺菌水の生成装置を図1に示す。
【0118】
同図でわかるように、本実施形態に係る殺菌水の生成装置1は、原液2を貯留する原液タンク3と、該原液タンクに連通接続されたストロークポンプ4と、該ストロークポンプに連通接続された電解槽5と、該電解槽に連通接続された吐出管6と、希釈水7が貯留された希釈水タンク8と、該希釈水タンク内の水位を計測する水位計測手段としての水位センサ9とを備えるとともに、吐出管6の先端が希釈水タンク8に貯留された希釈水7の水位以下となるように、吐出管6の先端位置に対する希釈水タンク8の設置位置を相対的に位置決めしてある。
【0119】
原液2は、例えば塩化ナトリウム(NaCL)、塩酸(HCL)及び水から構成することができるが、塩酸に代えて、pH調整剤として機能する他の酸、例えば酢酸を用いてもよい。
【0120】
電解槽5は、例えば葵エンジニアリング株式会社が「エピオスエコ」の商品名で販売している電解中性水生成装置で使用されている電解槽を使用することができる。
【0121】
水位センサ9は、例えば超音波センサや電極式センサ等から適宜選択すればよい。
【0122】
希釈水7は、井戸水、水道水、純水その他任意の水を使用することができるが、生成される殺菌水のpHが上述した範囲になるようにpHを適宜選択する。
【0123】
本実施形態に係る生成装置1はさらに、1次生成水が希釈水タンク8内において希釈水7で希釈されてなる2次生成水10に注水側が連通された脱気モジュール11を備えており、該脱気モジュールは、真空ポンプ12による減圧によって2次生成水10の溶存酸素を除去するようになっているとともに、2次生成水10から溶存酸素が除去された3次生成水を殺菌水13として貯留する3次生成水タンク14を備えている。
【0124】
脱気モジュール11は、例えば大日本インキ化学工業株式会社から販売されている中空糸膜脱気モジュールを使用することができる。特に、脱気膜にポリテトラフルオロエチレン中空糸を使用した、接液部全てがフッ素樹脂の薬液用脱気モジュールが望ましい。
【0125】
なお、生成装置1に用いるチューブ類あるいは必要に応じて適宜設ける電磁弁は、高濃度の次亜塩素酸(HCLO)による酸化で劣化のおそれがあるため、フッ素で形成するのが望ましい。
【0126】
本実施形態に係る殺菌水の生成装置1を用いて上述の殺菌水13を生成するには、まず、2次生成水の次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜400ppm、望ましくは300〜400ppm、さらに望ましくは400ppm程度、pHが6.3〜6.7となるように、原液2の組成、その配合比率、電気分解時の動作条件(例えば電圧値や電流値)及び希釈条件(希釈倍率や希釈水のpH)を定めるとともに、配合された原液2を原液タンク3に貯留する。
【0127】
次に、原液2をストロークポンプ4で電解槽5に送りつつ、定められた動作条件で電解槽5を動作させ、原液2を電気分解する。
【0128】
次に、電解槽5内で生成された1次生成水を、該電解槽に連通接続された吐出管6を介して、予め希釈水タンク8に貯留された希釈水7内に注入する。
【0129】
ここで、希釈水タンク8は、吐出管6の先端位置が希釈水タンク8の中に貯留された希釈水7の水位以下となるように、その設置位置を相対的に位置決めしてある。
【0130】
そのため、1次生成水は、空気(外気)と接触することなく、吐出管6を介して希釈水7内に注入される。また、1次生成水は、予め計量された希釈水7に注入されるいわばバッチ方式で注入されることになるため、従来のような配管内混合とは異なり、1次生成水は、希釈水7に均質に混合される。
【0131】
希釈水7の水量は、1次生成水が上記希釈倍率で希釈されるように予め計量しておき、水位センサ9で得られる計測水位上昇値が上記希釈倍率に相当する目標水位上昇値に一致したとき、吐出管6を介した1次生成水の注入を終了する。
【0132】
次に、2次生成水10を脱気モジュール11に通すことにより、溶存ガス、特に溶存酸素が除去された3次生成水を生成し、これを殺菌水13として3次生成水タンク14に貯留する。
【0133】
以上説明したように、本実施形態に係る殺菌水の生成装置1によれば、吐出管6の先端位置が希釈水タンク8の中に貯留された希釈水7の水位以下となるように、希釈水タンク8の設置位置を相対的に位置決めしたので、1次生成水は、空気(外気)と非接触の状態で希釈水7内に注入されることとなり、かくして、原液2の配合比率や電解槽5の動作条件が設計値と異なり、それが原因で塩素ガスが発生したとしても、該塩素ガスは、pH環境が中性に近い希釈水7の中でその形態が次亜塩素酸(HCLO)に変化するとともに、塩素ガスとして気中に揮散する懸念もなくなる。
【0134】
また、電解槽5内で生成された1次生成水は、予め計量された希釈水7内にバッチ方式で注入されるため、従来のような配管内混合とは違って均質な混合が可能となり、2次生成水10のpH及びそれに含まれる次亜塩素酸(HCLO)の濃度を設計値通りに合わせることが可能となる。
【0135】
また、本実施形態に係る殺菌水の生成方法及び生成装置1によれば、2次生成水10から溶存ガスを除去して3次生成水13を生成し、これを殺菌水としたので、口腔内での発泡現象を防止し、ミュータンスレンサ球菌を体内(血管内)に送り込むという事態を未然に防止することが可能となる。
【0136】
本実施形態では、2次生成水10中の溶存ガスを脱気モジュール11を用いて除去するようにしたが、2次生成水10中の溶存ガスの濃度が低いために発泡現象が起きる懸念がないのであれば、溶存ガスを除去する工程を省略してもかまわない。かかる場合には、2次生成水10がすなわち殺菌水となる。
【0137】
図2は、溶存ガスの除去工程を省略する際に用いる生成装置1aを示した図であり、脱気モジュール11、真空ポンプ12及び3次生成水タンク14を生成装置1から省略してある。
【0138】
また、本実施形態では、pHが6.3〜6.7あるいは6.3〜7となるように殺菌水を生成する例を説明したが、pHが5.6〜6.3となるように殺菌水を生成する場合についても全く同様の手順で行うことができる。
【0139】
また、本実施形態では、水位計測手段として水位センサ9を用いたが、これに代えて、例えば希釈水タンク8に予め目盛りを付しておき、この目盛りを水位計測手段として水位を計測するようにしてもかまわない。
【0140】
また、本実施形態では、原液2を電解槽5に送る移送手段としてストロークポンプ4を用いたが、かかる移送手段としてどのようなポンプを用いるかは任意であり、例えば、ストローク長やストローク数を調節して吐出量を制御可能な定量ポンプを採用することが可能である。
【0141】
なお、かかる定量ポンプは、吐出量が制御可能であるため、希釈水タンク内の水位を間接的に計測することが可能であり、水位計測手段として機能させることができる。
【0142】
一方、水位計測手段は、本発明に係る殺菌水の生成装置において必須構成要素ではなく任意の構成要素である。すなわち、殺菌水1バッチ分に対応する量の原液2と希釈水7とを、それぞれ原液タンク3と希釈水タンク8に予め貯留するのであれば、水位計測手段を省略することが可能であり、殺菌水1バッチ分よりも多い量、例えば数バッチ分に対応する量の原液2を原液タンク3に予め貯留しておくのであれば、殺菌水1バッチ分に対応する原液2の量をそのつど計量するための水位計測手段が必要となる。
【0143】
また、本実施形態では、説明の便宜上、殺菌の対象となる細菌をミュータンスレンサ球菌としたが、う蝕病原菌としてこれ以外にもラクトバチラス菌が含まれることは言うまでもない。
【0144】
(第2実施形態)
【0145】
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0146】
本実施形態に係る殺菌水は、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜600ppm、望ましくは300〜600ppm、さらに望ましくは400〜600ppm、pHを6.3〜6.7とするとともに、ミュータンスレンサ球菌の殺菌を用途とするものである。
【0147】
ここで、201ppm以上(300ppm以上、又は400ppm以上)としたのは、バイオフィルム内に棲息しているミュータンスレンサ球菌を殺菌するだけの酸化力を保持させるのみならず、ミュータンスレンサ球菌を30秒程度以内(300ppmの場合は20秒程度以内、400ppmの場合は10秒程度以内、500ppmの場合は数秒程度以内)に完全殺菌するためである。また、600ppm以下としたのは、ミュータンスレンサ球菌を殺菌するのにそれ以上の濃度にする必要がないからである。
【0148】
本実施形態に係る殺菌水でう蝕の治療を行うには、第1実施形態と同様、必要に応じて超音波スケーラー等を用いたスケーリングで歯面上に形成された歯石を予め除去した後、例えば、炭酸水素ナトリウムの微粉末と水とを圧縮空気で歯の表面に吹き付ける歯面清掃方法で歯の表面に形成されているバイオフィルムを物理的に除去し、次いで、上記殺菌水を口腔内に含んで数十秒間、含嗽する。
【0149】
このようにすると、本実施形態に係る殺菌水は、口腔内の有機物や他の菌体の酸化によって殺菌力を徐々に失いつつも、歯牙表面に棲息しあるいは歯面清掃によって口腔内に飛散したミュータンスレンサ球菌を殺菌するだけの酸化力を保持し、ミュータンスレンサ球菌を短時間に死滅させることができる。もちろん、その際、歯の脱灰についても未然に防止することができる。
【0150】
加えて、本実施形態に係る殺菌水によれば、次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜600ppm、望ましくは300〜600ppm、さらに望ましくは400〜600ppmに調整してあるので、歯の表面に残存する歯垢や歯石の内部あるいは歯の表層といった部位においてバイオフィルム内に棲息しているミュータンスレンサ球菌を30秒程度以内(300ppmの場合は20秒程度以内、400ppmの場合は10秒程度以内、500ppm近傍の濃度では数秒以内)に完全殺菌することができる。
【0151】
なお、吹付けや超音波スケーラーを用いた歯面清掃を行う際、水に代えて上記殺菌水を用いてもよい。
【0152】
次に、本実施形態に係る殺菌水の生成装置を図3に示す。
【0153】
同図でわかるように、本実施形態に係る殺菌水の生成装置21は、原液22を貯留する原液タンク3と、該原液タンクに連通接続されたストロークポンプ4と、該ストロークポンプに連通接続された電解槽5と、該電解槽に連通接続された吐出管6と、希釈水27が貯留された希釈水タンク8とを備えるとともに、吐出管6の先端が希釈水タンク8に貯留された希釈水27の水位以下となるように、吐出管6の先端位置に対する希釈水タンク8の設置位置を相対的に位置決めしてある。
【0154】
原液22は、水道水を逆浸透膜に通して得られた通過水に塩化ナトリウム(NaCL)のみが添加されてなり、塩酸や酢酸などの酸は添加されていない。
【0155】
電解槽5は、例えば葵エンジニアリング株式会社が「エピオスエコ」の商品名で販売している電解中性水生成装置で使用されている電解槽を使用することができる。
【0156】
希釈水27は、井戸水、水道水、純水その他任意の水を使用することができるが、生成される殺菌水のpHが上述した範囲になるようにpHを適宜選択する。
【0157】
本実施形態に係る生成装置21はさらに、1次生成水が希釈水タンク8内において希釈水27で希釈されてなる2次生成水30に注水側が連通された脱気モジュール11を備えており、該脱気モジュールは、真空ポンプ12による減圧によって2次生成水30の溶存酸素を除去するようになっているとともに、2次生成水30から溶存酸素が除去された3次生成水を殺菌水33として貯留する3次生成水タンク14を備えている。
【0158】
なお、生成装置21に用いるチューブ類あるいは必要に応じて適宜設ける電磁弁は、高濃度の次亜塩素酸(HCLO)による酸化で劣化のおそれがあるため、フッ素で形成するのが望ましい。
【0159】
本実施形態に係る殺菌水の生成装置21を用いて上述の殺菌水33を生成するには、まず、水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムのみを添加して原液22を作製する。
【0160】
逆浸透膜を備えた浄水器は、いくつかのメーカーから市販されているので、それらから適宜選択して採用すればよい。
【0161】
水は、どのような性状のものでもよいが、逆浸透膜やそれを使った浄水器の負担を軽減し、あるいは捨て水の量をなるべく少なくするという意味では、ある程度浄化された水が望ましいし、より安全に殺菌水を生成するという意味では、pHが中性に近い水を使用するのが望ましい。例えば、地下水、水道水又は市販されているミネラルウォータ(市販水)を使用することができる。
【0162】
このような水を逆浸透膜に通せば、通過水のpHは概ね5〜6となる。
【0163】
これは、ミネラル分をはじめとしたさまざまな物質が水に含まれていたとしても、pHに寄与するイオンは、逆浸透膜でほぼ完全に除去され、溶存気体である二酸化炭素だけが通過し、大気中から溶け込んでくる二酸化炭素とも相まって、次式、
【0164】
CO →H +HCO
【0165】
のように解離するからである。
【0166】
次に、逆浸透膜を通過した水に塩化トリウムを添加して原液22とし、これを殺菌水1バッチ分に相当する量だけ計量し原液タンク3に貯留するとともに、同じく殺菌水1バッチ分に相当する量の希釈水27を希釈水タンク8に貯留しておく。殺菌水1バッチ分に相当する希釈水27の量は、希釈倍率や希釈水のpHに応じて適宜定めればよい。
【0167】
次に、原液22をストロークポンプ4で電解槽5に送り、定められた動作条件で電解槽5を動作させ、原液22を電気分解する。
【0168】
ここで、原液組成条件である塩化ナトリウムの添加量や電気分解時の動作条件(例えば電圧値や電流値)は、電気分解によって生成される1次生成水が希釈された後、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、望ましくは300〜600ppm、さらに望ましくは400〜600ppm、pHが6.3〜6.7の2次生成水が生成されるように適宜設定しておく。
【0169】
次に、電解槽5内で生成された1次生成水を、該電解槽に連通接続された吐出管6を介して、予め希釈水タンク8に貯留された希釈水27内に注入する。
【0170】
ここで、希釈水タンク8は、吐出管6の先端位置が希釈水タンク8の中に貯留された希釈水27の水位以下となるように、その設置位置を相対的に位置決めしてある。
【0171】
そのため、1次生成水は、空気(外気)と接触することなく、吐出管6を介して希釈水27内に注入される。また、1次生成水は、予め計量された希釈水27に注入されるいわばバッチ方式で注入されることになるため、従来のような配管内混合とは異なり、1次生成水は、希釈水27に均質に混合される。
【0172】
次に、2次生成水30を脱気モジュール11に通すことにより、溶存ガス、特に溶存酸素が除去された3次生成水を生成し、これを殺菌水33として3次生成水タンク14に貯留する。
【0173】
以上説明したように、本実施形態に係る殺菌水の生成方法及び生成装置21によれば、逆浸透膜を通過した水のpHは、大気中の二酸化炭素に依存し、概ね5〜6となる。
【0174】
したがって、塩酸や酢酸といった酸をわざわざ添加せずとも、弱酸性の原液をpHが確定した状態でかつ安全に得ることが可能となり、しかもpH値が既知であることにより、電気分解条件や希釈条件の設定も容易に行うことができる。
【0175】
そして何より、水道水や井戸水に含まれる溶存物質が逆浸透膜で予め除去されており、かつ塩酸や酢酸が全く添加されていないため、無味無臭の殺菌水を生成することが可能となり、その結果、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が500ppm〜600ppmであっても、患者に何ら不快感を与えることなく、かつ数秒〜30秒程度という短時間でミュータンスレンサ球菌を完全殺菌することができるという画期的な作用効果を奏する。
【0176】
また、本実施形態に係る殺菌水の生成装置21によれば、吐出管6の先端位置が希釈水タンク8の中に貯留された希釈水27の水位以下となるように、希釈水タンク8の設置位置を相対的に位置決めしたので、1次生成水は、空気(外気)と非接触の状態で希釈水27内に注入されることとなり、かくして、原液22の配合比率や電解槽5の動作条件が設計値と異なり、それが原因で塩素ガスが発生したとしても、該塩素ガスは、pH環境が中性に近い希釈水27の中でその形態が次亜塩素酸(HCLO)に変化するとともに、塩素ガスとして気中に揮散する懸念もなくなる。
【0177】
また、電解槽5内で生成された1次生成水は、予め計量された希釈水27内にバッチ方式で注入されるため、従来のような配管内混合とは違って均質な混合が可能となり、2次生成水30のpH及びそれに含まれる次亜塩素酸(HCLO)の濃度を設計値通りに合わせることが可能となる。
【0178】
また、本実施形態に係る殺菌水の生成方法及び生成装置21によれば、2次生成水30から溶存ガスを除去して3次生成水33を生成し、これを殺菌水としたので、口腔内での発泡現象を防止し、ミュータンスレンサ球菌を体内(血管内)に送り込むという事態を未然に防止することが可能となる。
【0179】
本実施形態では、水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムのみを添加して原液を作製するようにしたが、これに代えて、純水を所定期間大気中に放置し、その放置水に塩化ナトリウムのみを添加して原液を作製するようにしてもかまわない。
【0180】
かかる構成においても、大気中の二酸化炭素によって原液のpHが定まることに変わりはない。また、生成方法や生成装置についても上述した実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0181】
また、本実施形態では、2次生成水30中の溶存ガスを脱気モジュール11を用いて除去するようにしたが、2次生成水30中の溶存ガスの濃度が低いために発泡現象が起きる懸念がないのであれば、溶存ガスを除去する工程を省略してもかまわない。かかる場合には、2次生成水30がすなわち殺菌水となる。
【0182】
図4は、溶存ガスの除去工程を省略する際に用いる生成装置21aを示した図であり、脱気モジュール11、真空ポンプ12及び3次生成水タンク14を生成装置21から省略してある。
【0183】
また、本実施形態では、pHが6.3〜6.7あるいは6.3〜7となるように殺菌水を生成する例を説明したが、pHが5.6〜6.3となるように殺菌水を生成する場合についても全く同様の手順で行うことができる。
【0184】
また、本実施形態では、殺菌水1バッチ分に対応する量の原液22と希釈水27とを計量し、それぞれを原液タンク3と希釈水タンク8に予め貯留するようにしたが、これに代えて、殺菌水1バッチ分よりも多い量、例えば数バッチ分に対応する量の原液22を原液タンク3に予め貯留しておくのであれば、殺菌水1バッチ分に対応する原液22の量をそのつど計量するための水位計測手段が必要となる。
【0185】
なお、水位計測手段については第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0186】
また、本実施形態では、説明の便宜上、殺菌の対象となる細菌をミュータンスレンサ球菌としたが、う蝕病原菌としてこれ以外にもラクトバチラス菌が含まれることは言うまでもない。
【実施例1】
【0187】
(殺菌水の生成に関する実験)
【0188】
まず、逆浸透膜を備えた浄水器に水道水を注水し、次いで、逆浸透膜を通過した水に塩化ナトリウム(NaCL)を添加して原液を作製した。
【0189】
次に、電解槽で原液を電気分解して1次生成水とし、該1次生成水を水道水で希釈した。
【0190】
電解槽は、葵エンジニアリング株式会社が「エピオスエコ」の商品名で販売している電解中性水生成装置の電解槽を用いた。
【0191】
また、希釈にあたっては、電解槽に連通接続してある吐出管をその先端が希釈水タンクに貯留された希釈水の水位以下となるように、吐出管と希釈水タンクとの相対位置を位置決めした。
【0192】
以上のプロセスで電気分解及び希釈を行ったところ、pH6.3〜6.7の範囲内で500ppmの殺菌水を生成することができた。なお、殺菌水中における次亜塩素酸(HCLO)の濃度を測定するにあたっては、200ppmを越える濃度測定が可能な計器や試験紙あるいは試薬がなかったため、二倍希釈を二度繰り返すことで計測した。
【0193】
また、500ppmの殺菌水の作用効果を確認するためのコントロール(標準試薬)として、同様な手順で40ppmの殺菌水も併せて作製した。
【実施例2】
【0194】
(殺菌水を用いた臨床試験)
【0195】
超音波スケーラー等を用いたスケーリングで歯面上に形成された歯石を予め除去した後、炭酸水素ナトリウムの微粉末と水とを圧縮空気で歯の表面に吹き付ける歯面清掃方法で歯の表面に形成されているバイオフィルムを物理的に除去し、次いで、上記殺菌水を口腔内に含んで数十秒間、含嗽する臨床試験を行った。
【0196】
殺菌水を口腔内に注入して溶菌処理を行った後、唾液を採取して該唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)及びラクトバチラス(Lactobacilli)の菌体数(唾液1ml中当たり)を調べた。試験は、株式会社モリタから販売されている「シーエーティー21ファスト」(短時間う蝕活動性試験)を用いた。
【0197】
20分培養後(37゜C)と24時間培養後(37゜C)の2ケースを行い、菌体数を調べたところ、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が40ppmである場合においては、20分培養後では102〜103(安全域〜注意域)、24時間培養後では105〜106(危険域)であった。
【0198】
それに対し、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が500ppmである場合においては、20分培養後及び24時間培養後のいずれの場合も、100〜102(安全域)であった。
【0199】
これらの試験結果から、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が40ppm程度では、う蝕原因菌を十分に殺菌することができないことがわかった。特に、歯面清掃によってバイオフィルムを物理的に除去したとしても、次亜塩素酸(HCLO)の濃度が40ppmの殺菌水では、う蝕病原菌を殺菌できていない。
【0200】
これは、歯面清掃を行ったとしても、う蝕病原菌がわずかなりともバイオフィルムに覆われているからであって、厳密には浮遊状態ではないからであると思われる。
【0201】
それに対し、500ppmの場合には、う蝕病原菌をほぼ完全に殺菌できることがわかった。これは、十分に高い濃度であれば、上述した状態であっても、う蝕病原菌を殺菌することが可能であることを示唆するものである。
【0202】
加えて、口腔内には、歯面、舌、頬粘膜、喉頭などの部位に、ストレプトコッカス・サングイス、ストレプトコッカス・サリバリウス、ストレプトコッカス・ミティス、ナイセリアといった様々な常在菌が棲息しているとともに、唾液、歯肉溝滲出液、血液等には多くの有機物が含まれているため、その点からも、従来公知の数十ppm程度の殺菌水では、口腔内のう蝕病原菌を殺菌することは不可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】第1実施形態に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置を示した概略図。
【図2】変形例に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置を示した概略図。
【図3】第2実施形態に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置を示した概略図。
【図4】変形例に係るう蝕治療用殺菌水の生成装置を示した概略図。
【符号の説明】
【0204】
1,21 う蝕治療用殺菌水の生成装置
2,22 原液
3 原液タンク
5 電解槽
6 吐出管
7,27 希釈水
8 希釈水タンク
9 水位センサ
11 脱気モジュール
14 3次生成水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸(HCLO)を含む殺菌水において、
前記次亜塩素酸(HCLO)の濃度を201〜600ppm、pHを5.6〜7とするとともに、う蝕病原菌の殺菌を用途としたことを特徴とする殺菌水。
【請求項2】
前記201〜600ppmに代えて400〜600ppmとした請求項1記載の殺菌水。
【請求項3】
前記5.6〜7に代えて6.3〜6.7とした請求項1又は請求項2記載の殺菌水。
【請求項4】
前記5.6〜7に代えて5.6〜6.3とした請求項1又は請求項2記載の殺菌水。
【請求項5】
水に塩化ナトリウム及び酸を添加してなる原液を電気分解して得られる1次生成水を希釈することにより、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成方法であって、前記殺菌水に含まれる次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウム及び前記酸の添加量を含む原液組成条件、電気分解条件及び希釈条件を設定し、前記原液組成条件に従って原液を作製した後、前記電気分解条件に従って前記原液を電気分解し、しかる後、電気分解で生成された1次生成水を前記希釈条件に従って希釈する工程からなり、前記希釈工程において、1次生成水を所定の吐出管を介して希釈水に注入するとともに、注入の際、前記吐出管の先端位置が希釈水の水位以下となるようにすることを特徴とする殺菌水の生成方法。
【請求項6】
水を逆浸透膜に通し、その通過水に塩化ナトリウムのみを添加して原液とし、該原液を電気分解して1次生成水とし、該1次生成水を希釈することにより、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成方法であって、前記殺菌水に含まれる次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を含む原液組成条件、電気分解条件及び希釈条件を設定し、前記原液組成条件に従って原液を作製した後、前記電気分解条件に従って前記原液を電気分解し、しかる後、電気分解で生成された1次生成水を前記希釈条件に従って希釈する工程からなり、前記希釈工程において、1次生成水を所定の吐出管を介して希釈水に注入するとともに、注入の際、前記吐出管の先端位置が希釈水の水位以下となるようにすることを特徴とする殺菌水の生成方法。
【請求項7】
純水を所定期間大気中に放置し、その放置水に塩化ナトリウムのみを添加して原液とし、該原液を電気分解して1次生成水とし、該1次生成水を希釈することにより、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成方法であって、前記殺菌水に含まれる次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を含む原液組成条件、電気分解条件及び希釈条件を設定し、前記原液組成条件に従って原液を作製した後、前記電気分解条件に従って前記原液を電気分解し、しかる後、電気分解で生成された1次生成水を前記希釈条件に従って希釈する工程からなり、前記希釈工程において、1次生成水を所定の吐出管を介して希釈水に注入するとともに、注入の際、前記吐出管の先端位置が希釈水の水位以下となるようにすることを特徴とする殺菌水の生成方法。
【請求項8】
前記201〜600ppmに代えて400〜600ppmとする請求項5乃至請求項7のいずれか一記載の殺菌水の生成方法。
【請求項9】
前記5.6〜7に代えて6.3〜6.7とする請求項5乃至請求項7のいずれか一記載の殺菌水の生成方法。
【請求項10】
前記5.6〜7に代えて5.6〜6.3とする請求項5乃至請求項7のいずれか一記載の殺菌水の生成方法。
【請求項11】
電解槽中の原液を電気分解して次亜塩素酸(HCLO)を含む殺菌水を生成する装置において、
前記原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続された電解槽と、該電解槽に連通接続された吐出管と、希釈水が貯留された希釈水タンクとを備えるとともに、前記吐出管の先端が前記希釈水タンクに貯留された希釈水の水位以下となるように前記吐出管の先端位置に対する前記希釈水タンクの設置位置を相対的に位置決めしてなり、う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成することを特徴とする殺菌水の生成装置。
【請求項12】
う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成装置であって、水を逆浸透膜に通して得られた通過水に塩化ナトリウムのみが添加されてなる原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続され前記原液を電気分解して1次生成水を生成する電解槽と、該電解槽に連通接続された吐出管を介して吐出される前記1次生成水を希釈して殺菌水とする希釈水が予め貯留され前記吐出管の先端が前記希釈水の水位以下となるように前記吐出管を相対的に位置決めしてなる希釈水タンクとを備えるとともに、前記殺菌水内の前記次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を定め、前記電解槽の動作条件を定め又は希釈条件を定めたことを特徴とする殺菌水の生成装置。
【請求項13】
う蝕病原菌の殺菌を用途とした殺菌水を生成する殺菌水の生成装置であって、純水を所定期間大気中に放置して得られた放置水に塩化ナトリウムのみが添加されてなる原液を貯留する原液タンクと、該原液タンクに連通接続され前記原液を電気分解して1次生成水を生成する電解槽と、該電解槽に連通接続された吐出管を介して吐出される前記1次生成水を希釈して殺菌水とする希釈水が予め貯留され前記吐出管の先端が前記希釈水の水位以下となるように前記吐出管を相対的に位置決めしてなる希釈水タンクとを備えるとともに、前記殺菌水内の前記次亜塩素酸(HCLO)の濃度が201〜600ppm、pHが5.6〜7となるように、前記塩化ナトリウムの添加量を定め、前記電解槽の動作条件を定め又は希釈条件を定めたことを特徴とする殺菌水の生成装置。
【請求項14】
前記201〜600ppmに代えて400〜600ppmとした請求項12又は請求項13記載の殺菌水の生成装置。
【請求項15】
前記5.6〜7に代えて6.3〜6.7とした請求項12又は請求項13記載の殺菌水の生成装置。
【請求項16】
前記5.6〜7に代えて5.6〜6.3とした請求項12又は請求項13記載の殺菌水の生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−280272(P2008−280272A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124527(P2007−124527)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(504339239)野口歯科医学研究所株式会社 (3)
【Fターム(参考)】